1型ナルコレプシーの治療において、プラセボと比較して血液脳関門を通過する経口オレキシン2型受容体選択的作動薬oveporexton(TAK-861)は、覚醒、眠気、情動脱力発作の指標に関して、用量依存性に8週間にわたり臨床的に意義のある改善をもたらし、不眠や尿意切迫の頻度が高いものの肝毒性は認めないことが、フランス・Gui de Chauliac HospitalのYves Dauvilliers氏らが実施した「TAK-861-2001試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年5月15日号で報告された。
4つの用量を検討する第II相無作為化プラセボ対照比較試験
TAK-861-2001試験は、1型ナルコレプシーにおけるoveporextonの有効性と安全性の評価を目的とする第II相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2023年2~10月に米国、欧州、日本、オーストラリアで参加者の無作為化を行った(Takeda Development Center Americasの助成を受けた)。
年齢18~70歳で1型ナルコレプシーと診断された患者112例(平均年齢34歳、女性52%)を登録した。これらの患者を、oveporexton 0.5mg(1日2回)を投与する群(23例)、同2mg(1日2回)群(21例)、同2mg投与後に5mg投与(1日1回)群(23例)、同7mg投与後にプラセボ投与(1日1回)群(23例)、プラセボ(1日2回)群(22例)に無作為に割り付けた。
主要エンドポイントは、覚醒維持検査(MWT)で評価した平均睡眠潜時(入眠までに要した時間:範囲は0~40分、20分以上で正常)のベースラインから8週までの平均変化量であった。副次エンドポイントは、Epworth眠気尺度(ESS)の総スコア(範囲:0~24点、10点以下で正常)のベースラインから8週までの変化量、8週の時点における1週間の情動脱力発作の発生率、有害事象の発現などであった。
睡眠潜時とESS総スコアはすべての用量で有意差
MWTによる平均睡眠潜時のベースラインから8週までの平均変化量は、oveporexton 0.5mg×2回群が12.5分、同2mg×2回群が23.5分、同2mg+5mg群が25.4分、同7mg群が15.0分、プラセボ群は-1.2分であり、プラセボ群に比べoveporextonの4つの用量群はいずれも有意に良好であった(プラセボ群と比較した補正後p値はすべての用量で≦0.001)。
8週の時点におけるESS総スコアの平均変化量は、それぞれ-8.9点、-13.8点、-12.8点、-11.3点、-2.5点と、プラセボ群に比べ4つの用量群はいずれも有意に優れた(プラセボ群と比較した補正後p値はすべての用量で≦0.004)。
また、8週の時点での1週間の情動脱力発作の発生率は、それぞれ4.24件、3.14件、2.48件、5.89件、8.76件であり、2mg×2回群と2mg+5mg群で有意差を認めた(プラセボと比較した補正後p値は、2mg×2回群と2mg+5mg群で<0.05)。
不眠のほとんどは1週間以内に消失
oveporexton群では、70例(78%)に有害事象が発現した。oveporexton関連の有害事象のうち最も頻度が高かったのは、不眠(48%に発現、ほとんどが1週間以内に消失)、尿意切迫(33%)、頻尿(32%)であった。重度有害事象は7例に認めた。
重篤な有害事象として足関節果部骨折が1例(2mg+5mg群)で発現したが、試験薬との関連はなかった。有害事象による試験中止の報告はなく、自殺行動/自殺念慮、血圧や心拍数の顕著な変動も認めなかった。また、肝毒性は発現しなかった。
著者は、「この試験は他のナルコレプシー治療薬と有効性を比較するものではないが、oveporextonはMWTによる平均睡眠潜時を用量依存性に14~27分近く改善し、現在使用可能なナルコレプシー治療薬で観察されている2~12分の改善に比べ大幅に優れていた」としている。
(医学ライター 菅野 守)