台湾・台北で行われた「Taipei Global Consensus II」において、Helicobacter pylori(H. pylori)感染の検査・除菌による胃がん予防戦略に関する国際的な合意文書が公表された。日本を含む12ヵ国・地域(台湾、中国、香港、韓国、日本、タイ、シンガポール、マレーシア、ベトナム、ドイツ、フランス、オーストラリア、米国)の32人の専門家がGRADEシステムを用いてエビデンスを評価し、28のステートメントで80%以上の合意が得られた。この内容はGut誌オンライン版2025年9月5日号に掲載された。
主なステートメントの内容は以下のとおり。
H. pylori除菌は全年齢層で有効
H. pyloriは胃がんの主要因であり、除菌により全年齢層で胃がんリスクが減少することが確認された。とくに前がん病変(萎縮性胃炎・腸上皮化生など)が発症する前に除菌することで、最大のリスク低減効果が得られる。また、除菌は消化性潰瘍の治癒促進と再発予防、NSAIDs/アスピリン関連の潰瘍リスク低減にも有効である。
家族単位でのアプローチが重要
H. pyloriの感染経路は主に家庭内であり、家族全員を対象とした検査と治療が感染拡大防止と治療効果向上の両面で有効とされた。
推奨される検査と治療
[検査法]
尿素呼気検査、便中抗原測定法を推奨。陽性率が低い地域では血清抗体検査も容認されるが、非血清学的検査で確認が必要。
[治療法]
抗菌薬耐性率が高い地域では、ビスマス系4剤併用療法(PPIもしくはP-CAB+ビスマス製剤+テトラサイクリン系抗菌薬+ニトロイミダゾール系抗菌薬)が第1選択となる。P-CABを基本とするレジメンも選択肢となる(※日本における初回標準治療は、PPIもしくはPCAB+アモキシシリン+クラリスロマイシンの3剤併用療法)。
[除菌確認]
全例で再検査による除菌確認が強く推奨される。
[内視鏡検査]
胃がんリスクが高い、またはアラーム症状を有する感染者には内視鏡検査が推奨される。
[安全性と今後の課題]
除菌による逆流性食道炎と食道腺がんのリスク増加は認められなかった。一方で、長期的な腸内細菌叢・耐性菌への影響、抗菌薬使用増加による環境負荷などは今後の研究課題とされた。さらに
H. pyloriワクチン開発の必要性や、遺伝子研究に基づくリスク層別化戦略の確立も未解決の課題である。
結論
本コンセンサスは、
・成人の
H. pylori感染者全員に除菌を推奨
・胃がん予防に有効な戦略として臨床実装を推進
を結論とした。今後は最適な検査の時期、長期アウトカム評価、精密なリスク層別化の検証が求められる。
(ケアネット 杉崎 真名)