日本を含む11ヵ国の大腸がん症例の全ゲノム解析によって発がん要因を検討した結果、日本人症例の50%に一部の腸内細菌から分泌されるコリバクチン毒素による変異シグネチャーが認められた。これらの変異シグネチャーは50歳未満の若年者において高頻度に認められ、高齢者と比較して3.3倍多かった。この報告は、国立がん研究センターを含む国際共同研究チームによるもので、Nature誌オンライン版2025年4月23日号に掲載された。
本研究は、世界のさまざまな地域におけるがんの全ゲノム解析を行うことで、人種や生活習慣の異なる地域でがんの発症頻度に差がある原因を解明し、地球規模で新たな予防戦略を進めることを目的としている。今回は、大腸がん症例の全ゲノム解析データから突然変異を検出し、複数の解析ツールを用いて変異シグネチャーを同定した。その後、地域ごと、臨床背景ごとに変異シグネチャーの分布に有意差があるかどうかを検討した。
主な結果は以下のとおり。
・大腸がんの発症頻度の異なる11ヵ国から981例のサンプルを収集した。内訳は、日本28例、ブラジル159例、ロシア147例、イラン111例、カナダ110例、タイ104例、ポーランド94例、セルビア83例、チェコ56例、アルゼンチン53例、コロンビア36例であった。日本人症例28例は、男性が18例、50歳以上が20例であった。
・国別の変異シグネチャーの比較では、腸内細菌由来のコリバクチン毒素による変異シグネチャー(SBS88またはID18)は日本人症例の50%で検出され、他の地域の平均と比較して2.6倍多かった。
・国別の大腸がん発症頻度は変異シグネチャーの量と正の相関を示し、11ヵ国で最も大腸がんの発症頻度が高い日本人症例において最もSBS88およびID18の量が多かった。
・SBS88およびID18は、若年者症例(50歳未満)のほうが高齢者症例(70歳以上)よりも3.3倍多く検出された。
・ドライバー変異と変異シグネチャーとの関連の検討では、大腸がんにおいて最も早期に起こるドライバー異常であるAPC変異の15.5%がSBS88またはID18のパターンと一致し、コリバクチン毒素によるDNA変異が大腸がんの発症早期から関与していることが示唆された。
・変異シグネチャーの有無とコリバクチン毒素産生菌の量には有意な相関は認められず、早期からの持続的な暴露が大腸がんの発症に関与している可能性が考えられた。
これらの結果より、研究グループは「本研究によって、大腸がんの遺伝子変異には地域や年齢による違いがあることが明らかになった。コリバクチン毒素産生菌への早期からの曝露が、若年発症大腸がんの増加に関与している可能性が示唆される」とまとめた。
(ケアネット 森)