患者が作成に本格的に参画、『患者・市民のための膵がん診療ガイド』

提供元:ケアネット

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公開日:2023/07/27

 

 膵がんは年間の新規罹患者数4万4,500人(2022年予測)、20年間で約2倍と大きく増加しており、とくにアジア・日本での増加率が高い。がん種別にみた罹患者数は6位ながら死亡者数では4位、罹患者数と死亡者数の差が小さい、いわゆる「難治性がん」の代表とされる。

 現在、乳がん、胃がん、大腸がんなどで患者向けガイドラインが刊行・改訂されているが、2023年5月には膵がんの『患者・市民のための膵がん診療ガイド 2023年版』(編集:日本膵臓学会)が刊行された。改訂は2019年以来4年ぶり、本版は第4版となる。7月には作成委員長である奥坂 拓志氏(国立がん研究センター中央病院 肝胆膵内科 科長)と、患者代表として作成に参画した眞島 喜幸氏(NPO法人 パンキャンジャパン 理事長)を講師に招いたメディアセミナーが開催された。

 奥坂氏は「これまでの患者向けガイドラインは『医療者向けガイドラインを底本として、患者向けにわかりやすく解説し直す』という作成方法だった。2022年刊行の医療者向け『膵癌診療ガイドライン』と患者向けの本書は、双方の作成に患者・市民が参画しており、これまでとはまったく異なる方法で作成されたものだ」と解説。診療ガイドラインの評価・選定、作成支援を行うMinds(日本医療機能評価機構)は、ガイドライン作成への患者・市民参画を推奨しているが、日本では患者会活動が欧米ほど活発でないことなどが理由となって、本格的に患者・市民が作成に関わった診療ガイドラインはまだ数少ないという。

 続けて登壇した眞島氏は「今回のガイドライン作成にあたっては、パンキャンジャパンが膵がんの患者会にアンケートを行い、必要とする情報を聞いた。すると、医療者が重視するカテゴリーと、患者が必要だと考える情報に差異があることがわかった」と説明した。たとえば「手術に関連した合併症」のカテゴリーは医療者の評価が高い一方で患者の評価は低く、反対に「ゲノム医療」は医療者の評価が低い一方で患者の評価が高い、といった差が出た。「支持療法」など、両者が一致して重視したカテゴリーもあった。

 患者・市民4名で構成するガイドライングループで、アンケートの分析結果を踏まえた重み付けをしたうえで、医療者の評価と照らし合わせ、ガイドラインで取り上げるべきテーマを抽出していった。

 結果として、治療の流れや最新治療の解説のほか、精神面の不安や医療者とのコミュニケーションに対するアドバイス、医療費や仕事との両立など、患者目線のトピックスが多く盛り込まれた。さらに患者・市民グループが執筆したコラム、用語集、薬剤名一覧なども付いた、情報を盛り込みながらも読みやすい1冊となっている。

 奥坂氏は、医療者向けのメッセージとして「時間の限られた臨床の場では、患者さんへの説明やコミュニケーションが限定的になってしまうこともある。患者さん・ご家族に本書を薦めて理解の一助にしてもらうほか、診療に携わるほかの医療者にもぜひ推薦してほしい」とした。

(ケアネット 杉崎 真名)