日本語でわかる最新の海外医学論文|page:84

認知症リスクを高める修正可能な因子、2つが追加

 新たな研究により、認知症発症のリスクを高める修正可能なリスク因子のリストに、視力喪失と高コレステロールの2つが加えられた。研究グループは、いずれの因子も予防が可能であるとし、その具体的な方法もアドバイスしている。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のGill Livingston氏らが中心となって、認知症の予防や介入、ケアに関する最新の研究や取り組みを取りまとめた、今回で3報目となるこの報告書は、「Dementia prevention, intervention, and care 2024」として、「The Lancet」に7月31日掲載された。

子宮移植、成功率は70%で全例生児出産/JAMA

 子宮移植は技術的に可能であり、移植子宮生着後の生児出産率は高かった。米国・ベイラー大学医療センターのGiuliano Testa氏らが、「Dallas Uterus Transplant Study:DUETS試験」の結果を報告した。有害事象は一般的で、医学的および外科的リスクはドナーだけでなくレシピエントにも影響を及ぼしたが、現在までのところ出生児に先天異常や発育遅延は発生していないという。絶対的子宮性不妊症は500人に1人の割合で発生し、生殖医療における障壁となっているが、子宮移植により妊娠・出産できる可能性が示されている。JAMA誌オンライン版2024年8月15日号掲載の報告。  研究グループは、2016年9月14日~2019年8月23日に子宮移植を行った。レシピエントの適格基準は、絶対的子宮性不妊症で、少なくとも1つの卵巣は機能しており、体外受精を受ける意思があり、医学的・心理学的基準を満たした20~40歳の女性であった。ドナーは、25~65歳で少なくとも1回の正期産の出産経験があり、医学的・心理学的合併症がないこととした。

ドナー心臓の低温酸素化灌流で心臓移植は改善するか/Lancet

 心臓移植において、ドナー心臓の持続的低温酸素化機械灌流(hypothermic oxygenated machine perfusion:HOPE)は単純冷却保存(static cold storage:SCS)と比較して、主要エンドポイントに有意差はなかったものの、1次エンドポイントのイベントリスクを44%減少させ、移植後合併症が減少するとともに原発性移植片機能不全(primary graft dysfunction:PGD)の低減に有益であることが示唆された。ベルギー・University Hospitals LeuvenのFilip Rega氏らNIHP2019 investigatorsが、欧州8ヵ国(ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、英国、スペイン、オーストリア、スウェーデン)の移植センター15施設で実施した国際共同無作為化非盲検比較試験「NIHP2019試験」の結果を報告した。SCSは、ドナー心臓保存のゴールドスタンダードであるが、虚血、嫌気的代謝、臓器損傷を伴い、患者の合併症と死亡につながっていた。著者は、「HOPEによるドナー心臓の保存は、移植片保存に関連する既存の課題と、ドナーおよび心移植レシピエントにおける複雑性の増大に対処するもので、今後の研究によりHOPEの有益性がさらに明らかになるであろう」とまとめている。Lancet誌2024年8月17日号掲載の報告。

ニルマトレルビル・リトナビルの曝露後予防効果が示唆された―統計学的問題について(解説:谷明博氏)

本研究は実薬群(ニルマトレルビル・リトナビル群)の約30%以上の予防効果が示されているにもかかわらず、統計学的有意差が得られなかった研究である。臨床的に有意であるのと、統計学的に有意であるのとは別物であるということを認識しないと、この研究を正しく評価できなくなるので注意が必要だ。この研究はイベント数が小さいために、検出力の低い試験であり、有意差が得られにくい試験であった。検出力はエントリー症例の大小ではなく、イベント数の大小で決まるものである。たとえ1万例がエントリーしていても、イベント数が数例では統計学的に有意差を得ることはできない。本研究のイベント数はいずれも20例前後ときわめて小さく、これで統計学的に有意差が得られなかったからといって、「臨床的に役に立たない」とまでは言えないのではないか。

アレクチニブ、ALK陽性非小細胞肺がんの術後補助療法に承認/中外

 中外製薬は2024年8月28日、ALK阻害薬アレクチニブ(商品名:アレセンサ)について、「ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌における術後補助療法」に対する適応追加承認を取得したと発表。  今回の承認はIB期(腫瘍径4cm以上)~IIIA期(UICC/AJCC 第7版)のALK陽性完全切除非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象に実施されたグローバル第III相臨床試験であるALINA試験の成績に基づいている。同試験において、アレクチニブはプラチナベースの化学療法と比較して、対象患者の再発または死亡リスクを76%低下させた。

高身長とがんリスク~東アジア人での関連

 身長とがんリスクの関連が示唆されているが、ほとんどの研究は欧米人を対象としておりアジア人を対象とした研究は少ない。今回、中国・Fudan UniversityのYougen Wu氏らが中国人の前向きコホートで解析したところ、高身長ががん全体、肺がん、食道がん、乳がん、子宮頸がんのリスクと有意に関連していた。さらに、中国・日本・韓国のデータを用いたメンデルランダム化解析により、高身長が肺がんおよび胃がんのリスク因子である可能性が示唆された。Cancer Epidemiology誌2024年10月号に掲載。

アートやクラフトの制作は心の健康に良い影響を与える

 絵画や彫刻、陶芸のような創造的・創作的な趣味は、心の健康を維持するという点では仕事と同等以上の効果を持つ可能性のあることが、英国の新たな研究で明らかになった。論文の筆頭著者である英アングリア・ラスキン大学のHelen Keyes氏は、「クラフト制作やアーティスティックな活動は、人々の人生に対する価値観を予測する上で有意に影響することが示された」と述べている。この研究の詳細は、「Frontiers in Public Health」に8月16日掲載された。  この研究では、英国のデジタル・文化・メディア・スポーツ省が毎年実施している調査「Taking Part Survey」への2019〜2020年の参加者7,182人のデータが解析された。調査参加者は年齢、性別、居住地の郵便番号(重複剥奪指標〔IMD〕を調べるため)、健康状態、雇用状況などのほか、過去12カ月間に絵画やドローイング、彫刻、写真撮影、刺繍、パソコンでの音楽やアートの制作、陶芸などのアートやクラフトの制作(creating arts and crafting;CAC)を行ったか否かを尋ねられていた。また、4つの質問で構成された評価尺度により主観的なウェルビーイング(人生に対する満足度・価値観、幸福感、不安)、1項目の質問により孤独感の評価が行われていた。

新クラスの抗菌薬、「人喰いバクテリア」にも有効か

 新たな抗菌性化合物により、マウスに感染した化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)を効果的に除去できることを示した研究成果が報告された。S. pyogenesは「人喰いバクテリア(劇症型溶血性レンサ球菌感染症)」の主な原因菌であり、この細菌による感染症により毎年50万人が死亡している。研究グループは、「この化合物は、薬剤耐性菌との闘いにおいて貴重な存在となり得る、新規クラスの抗菌薬の第1号となる可能性がある」と述べている。米セントルイス・ワシントン大学医学部分子微生物学分野のScott Hultgren氏らによるこの研究結果は、「Science Advances」に8月2日掲載された。

限界に近いトレーニングは筋肥大に有効?

 ウェイトリフティングをする人の間で人気のあるトレーニングは、「training to failure(失敗するまでトレーニングする)」、つまり、エクササイズでそれ以上おもり(ウェイト)を持ち上げられなくなるまでレップ(動作の反復の1回が1レップ)を繰り返す方法である。このトレーニング方法は、筋肉を大きくするのには役立つが、筋力の増強にとっては限界までやるかやらないかは関係しない可能性のあることが新たな研究で明らかになった。米フロリダ・アトランティック大学(FAU)生体医科学部(Charles E. Schmidt College of Biomedical Sciences)のMichael Zourdos氏らによるこの研究の詳細は、「Sports Medicine」に7月6日掲載された。

医師の自殺率は高い?男女で違いは?/BMJ

 オーストリア・ウィーン医科大学のClaudia Zimmermann氏らは、医師の自殺による死亡を一般集団と比較した研究について、システマティックレビューおよびメタ解析を行い、男性医師と女性医師の年齢調整自殺率比は時間の経過と共に減少したが、女性医師では高い水準のままであったことを報告した。著者は、「メタ解析に組み込まれた研究は主に欧州、米国、オーストラリア・ニュージーランドで行われたもので、これら以外の地域での研究が乏しいという限界はあるが、今回の結果は、とくに女性医師および高リスク群における、自殺による医師死亡の研究と予防について継続的な努力が求められることを示唆している」とまとめている。BMJ誌2024年8月21日号掲載の報告。

コロナ後遺症、6~11歳と12~17歳で症状は異なるか/JAMA

 米国・NYU Grossman School of MedicineのRachel S. Gross氏らは、RECOVER Pediatric Observational Cohort Study(RECOVER-Pediatrics)において、小児(6~11歳)と思春期児(12~17歳)の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後の罹患後症状(postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection:PASC)を特徴付ける研究指標を開発し、これらの年齢層で症状パターンは類似しているものの区別できることを示した。これまでPASC(またはlong COVID)に関する研究のほとんどは成人を対象としたもので、小児におけるPASCの病態についてはあまり知られていなかった。JAMA誌オンライン版2024年8月21日号掲載の報告。

マイナ保険証にまだ不安があると回答した人は約半数/アイスタット

 マイナンバーカード(マイナカード)の活用場面が日々拡大している。最近では、役所の窓口だけでなく、医療機関や薬局でも健康保険証とマイナカードが一体化された「マイナ保険証」の利用も増えている。とくにマイナ保険証では、所持者の同意があれば診療・薬剤情報が提供されることもあり、今後、全国のどこの医療機関であってもそれらを基に正確な診療ができ、医療費控除の簡便化できるなどのメリットが期待されている。その一方で、個人情報の流出や情報の悪用、デジタル機器の操作に慣れていない高齢者への対策など課題もある。  そこでアイスタットは、「マイナ保険証に関するアンケート」を8月に行った。

BPSDに対する第2世代抗精神病薬5剤の比較~ネットワークメタ解析

 認知症患者で頻繁にみられる認知症の行動・心理症状(BPSD)の治療において、第2世代抗精神病薬(SGA)がよく用いられるが、その相対的な有効性および忍容性は明らかになっていない。中国・四川大学のWenqi Lu氏らは、BPSDに対する5つのSGAの有効性、許容性、忍容性を比較するため、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。BMJ Mental Health誌2024年7月30日号の報告。  標準平均差(SMD)を用いて、連続アウトカムの固定効果をプールした。カテゴリ変数に対応したオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を算出した。有効性の定義は、標準化された尺度によるスコア改善とした。許容性は、すべての原因による脱落率とし、忍容性は、有害事象による中止率と定義した。相対的な治療順位は、SUCRAにより評価した。有害事象アウトカムには、死亡率、脳血管有害事象、転倒、過鎮静、錐体外路症状、排尿症状を含めた。

妊娠糖尿病は乳がんのリスクを高めない

 妊娠糖尿病は乳がんのリスクとは関連がないようだ。平均12年間追跡した結果、妊娠糖尿病を発症しなかった女性と比べ、乳がんの発症率に差は認められなかったという。デンマークのステノ糖尿病センターおよびオーデンセ大学病院のMaria Hornstrup Christensen氏らが、欧州糖尿病学会(EASD 2024、9月9~13日、スペイン・マドリード)で発表する。  妊娠糖尿病は妊娠中に生じる、糖尿病の診断基準を満たさない程度の高血糖であり、難産や巨大児出産などのリスクが上昇する。妊婦の約14%が妊娠糖尿病を発症するとされ、症例数は増加傾向にある。通常、出産後に糖代謝は正常化するが、その後に心血管代謝疾患リスクが上昇することが知られている。また妊娠糖尿病の発症にはインスリン抵抗性が関与していて、そのインスリン抵抗性は心血管代謝疾患のほかに、乳がんを含むいくつかのがんのリスクと関連する可能性が示唆されている。Christensen氏らの今回の研究では、それらの中で乳がんに焦点が当てられた。

座位行動による健康への悪影響は運動で相殺可能

 毎日8時間以上、座ったまま過ごしている糖尿病の人でも、ガイドラインが推奨する身体活動量を満たしていれば、健康への悪影響を大きく抑制できることが報告された。米コロンビア大学メイルマン公衆衛生大学院のSandra Albrecht氏、Wen Dai氏による研究であり、詳細は「Diabetes Care」に7月19日掲載された。Albrecht氏は、「この研究結果は、オフィスワーカーやタクシードライバーなどの職業柄、長時間座り続ける必要のある人々に対して、習慣的な身体活動を推奨することの重要性を示している」と述べている。

歯の喪失は心血管疾患による死亡リスクと関連

 口腔の良好な健康は、心臓の良好な健康を意味するようだ。新たなシステマティックレビューとメタアナリシスにより、歯の喪失は心血管疾患(CVD)による死亡リスクと関連しており、失った歯の本数が多いほどそのリスクは高くなる可能性のあることが明らかになった。米ケース・ウェスタン・リザーブ大学歯学部教授のAnita Aminoshariae氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of Endodontics」に6月28日掲載された。  Aminoshariae氏は、「本研究結果は、歯の喪失が単なる歯の問題ではなく、CVDによる死亡の重大な予測因子であることを明確に示すものだ」と述べている。

ナロキソン併用で、オピオイド使用障害妊婦と新生児の転帰改善の可能性/JAMA

 米国では過去20年間に、一般市民におけるオピオイド使用障害の増加に伴い、妊婦での本疾患の発生も著明に増えているが、併用薬の周産期の安全性データが不十分であるためブプレノルフィンの単独投与が推奨されている。米国・ハーバード大学医学大学院のLoreen Straub氏らは、妊娠初期のブプレノルフィン単剤投与と比較してブプレノルフィンとナロキソンの併用投与は、新生児および母体の転帰が同程度か、場合によってはより良好であり、オピオイド使用障害の安全な治療選択肢であることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年8月12日号に掲載された。

うつ病や双極症、季節性と日光曝露は初回使用の診断や薬剤使用量に影響するのか

 うつ病や双極症の季節性は、ICD-10/11やDSM-Vにおいても認識されている。デンマーク・Mental Health Services Capital RegionのCarlo Volf氏らは、デンマーク国内におけるうつ病および双極症の診断や抗うつ薬の初回処方パターンに対する季節性の影響を評価した。Nordic Journal of Psychiatry誌オンライン版2024年7月24日号の報告。  デンマーク患者登録(Danish National Patient Registry)より、1999~2019年にうつ病または双極症と初めて診断された患者の日付と年を検索した。疾患の定義には、うつ病はICD-10 F32-F33、双極症はF30またはF31を用いた。1999~2021年の抗うつ薬処方(ATC分類:N06A)の初めての購入の日付と年は、1995年以降に薬局で調剤されたすべての処方薬に関する情報を含む処方登録(Danish National Prescription Registry)から収集した。2012~21年の日照時間に関するデータは、デンマーク気象研究所より入手した。

ワルファリン時代vs.DOAC時代、日本の実臨床でのVTE長期転帰

 静脈血栓塞栓症(VTE)に対し、実臨床で直接経口抗凝固薬(DOAC)が使用されるようになって以降、ワルファリン時代と比較した長期転帰には実際どのような変化があるのだろうか。京都大学の金田 和久氏らは、急性の症候性VTE患者を対象とした多施設共同観察研究COMMAND VTE Registryから、ワルファリン時代とDOAC時代のデータを比較し、結果をJournal of the American College of Cardiology誌2024年8月6日号に報告した。  本研究では、COMMAND VTE Registryから、ワルファリン時代(2010~14年)の連続3,027症例(29施設)を登録したレジストリ1と、DOAC時代(2015~20年)の連続5,197症例(31施設)を登録したレジストリ2のデータが用いられた。