日本語でわかる最新の海外医学論文|page:231

重症血小板減少症のCVC関連出血、輸血で予防可能か/NEJM

 重症血小板減少症の患者においては、中心静脈カテーテル(CVC)留置に関連する出血を防ぐための予防的な血小板輸血の必要性に疑問が提起されている。オランダ・アムステルダム大学医療センターのFloor L.F. van Baarle氏らは「PACER試験」においてこの問題を検証し、超音波ガイド下CVCの留置前に予防的な血小板輸血を行わない非輸血戦略は、行った場合と比較して、Grade2~4のカテーテル関連出血の発生は非劣性マージンを満たさず、出血イベントが多いことを示した。研究の詳細は、NEJM誌2023年5月25日号に掲載された。

中等~重症心不全の血行動態モニタリング、QOL改善・入院減/Lancet

 遠隔血行動態モニタリングは、現行のガイドラインに準拠した治療を受けた中等度~重度の心不全患者において、QOLの実質的な改善をもたらし、心不全による入院を減少させることが、オランダ・エラスムスMC大学医療センターのJasper J. Brugts氏らが実施した「MONITOR-HF試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年5月20日号で報告された。  MONITOR-HF試験は、オランダの25の施設が参加した非盲検無作為化試験であり、2019年4月~2022年1月の期間に患者の登録が行われた(オランダ保健省などの助成を受けた)。  駆出率を問わず、NYHA心機能分類クラスIIIの慢性心不全で、心不全による入院歴がある患者が、標準治療に加え血行動態モニタリング(CardioMEMS-HFシステム、Abbott Laboratories)を行う群、または標準治療のみを受ける群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。

日本における睡眠薬の使用パターン~レセプトデータ分析

 不眠症の最適な治療法に関するコンセンサスは、限られている。近年、オレキシン受容体拮抗薬の導入により、利用可能な治療選択肢が増加してきたが、日本における睡眠薬使用パターンを包括的に評価した報告は、行われていなかった。MSDの奥田 尚紀氏らは、日本の不眠症治療における睡眠薬のリアルワールドでの使用パターンを調査するため、レセプトデータベースの分析を行った。その結果、日本における睡眠薬の新規使用患者および長期使用患者では、明確な使用パターンおよび傾向が認められた。著者らは、睡眠薬のリスクとベネフィットに関するエビデンスを蓄積し、不眠症に対する治療選択肢をさらに理解することは、リアルワールドにおいて睡眠薬を使用する医師にとって有益であろうとしている。BMC Psychiatry誌2023年4月20日号の報告。

「日本版CDC」2025年度創設へ、参議院で可決

 今後の感染症流行に備え、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合し、新たに「国立健康危機管理研究機構」を設立するための法律が、5月31日の参議院本会議で可決、成立した。米国疾病管理予防センター(CDC)をモデルとして、2025年度に国立健康危機管理研究機構が創設される予定。感染症その他の疾患に関し、調査研究、医療の提供、人材の養成等を行うとともに、国民の生命および健康に重大な影響を与える恐れがある感染症の発生および蔓延時において、疫学調査から臨床研究までを総合的に実施し科学的知見を提供できる体制の強化を図る。

大腸がんを予防するコーヒーの摂取量は?~アンブレラレビュー

 1日5杯以上のコーヒー摂取により、大腸がんのリスクが有意に低減することが、米国・Cleveland Clinic FloridaのSameh Hany Emile氏らのアンブレラレビューによって明らかになった。Techniques in Coloproctology誌オンライン版2023年5月2日掲載の報告。  コーヒーの摂取によって、全死亡リスクおよび心疾患、脳血管疾患、呼吸器疾患による死亡リスクの低減が報告されている。また、大腸がんや一部のがん種を予防する可能性も示唆されている。しかし、コーヒー摂取が大腸がんのリスク低減と関連するエビデンスは十分ではない。

ウパダシチニブ、中等~重症クローン病に有効/NEJM

 中等症~重症のクローン病患者において、ウパダシチニブによる寛解導入療法および維持療法はプラセボと比較し優れることが、43ヵ国277施設で実施された第III相臨床開発プログラム(2件の寛解導入療法試験「U-EXCEL試験」「U-EXCEED試験」と1件の維持療法試験「U-ENDURE試験」)の結果で示された。米国・Mayo Clinic College of Medicine and ScienceのEdward V. Loftus氏らが報告した。ウパダシチニブは経口JAK阻害薬で、潰瘍性大腸炎、関節リウマチ、関節症性乾癬、アトピー性皮膚炎および強直性脊椎炎に対して承認されており、クローン病治療薬としても開発中であった。NEJM誌2023年5月25日号掲載の報告。

CHDイベント予測の改善、CACスコアvs.多遺伝子リスクスコア/JAMA

 冠動脈疾患(CHD)のリスク予測において、冠動脈石灰化(CAC)スコアは多遺伝子リスクスコアより判別力が優れており、従来リスク因子に追加した場合、CACスコアはCHDリスクの判別と再分類を大きく改善したが、多遺伝子リスクスコアは改善しなかった。米国・ノースウェスタン大学のSadiya S. Khan氏らが、米国とオランダの2つのコホート研究の結果を報告した。CACスコアと多遺伝子リスクスコアは、CHDリスクを特定するための新規マーカーとしてそれぞれ個別に提案されているが、同一コホートでこれらのマーカーを直接比較した研究はこれまでなかった。JAMA誌2023年5月23・30日号掲載の報告。

手術不能の胃がん・食道胃接合部がんに対する第1次選択療法の変革(解説:上村直実氏)

従来の標準化学療法+免疫チェックポイント阻害薬(PD-L1阻害薬)ニポルマブの併用療法がHER2陰性の進行胃がんと食道胃接合部がんに対する1次治療の有用性が2021年にLancet誌にて報告され、現在では保険収載されて医療現場で実際に使用されている。さらに、FOLFOX療法など従来の化学療法にPD-L1阻害薬のみでなく、さまざまな分子標的薬の上乗せ効果が注目されている。今回、HER2陰性かつタイトジャンクション分子の一部で胃粘膜上皮層のバリア機能や極性の調整に関与しているCLDN18.2陽性の切除不能な進行胃がんと食道胃接合部がんに対してCLDN18.2を標的としたモノクローナル抗体であるzolbetuximabをmFOLFOX6に追加した際の上乗せ効果を示した研究結果が2023年4月のLancet誌に報告された。この研究は日本を含む20ヵ国215施設が参画した国際共同RCTであり、論文の筆頭著者は日本の研究者である。

境界性パーソナリティ障害に有効な治療は~リアルワールドデータより

 境界性パーソナリティ障害(BPD)患者の多くは精神薬理学的治療を受けているが、BPDに関する臨床ガイドラインには、薬物療法の役割についてのコンセンサスはない。東フィンランド大学のJohannes Lieslehto氏らは、BPDに対する薬物療法の有効性について比較検討を行った。その結果、注意欠如多動症(ADHD)の治療薬が、BPD患者の精神科再入院、すべての原因による入院または死亡のリスク低下と関連していることが示唆された。Acta Psychiatrica Scandinavica誌オンライン版2023年4月24日号の報告。

デュアルチャンバー型リードレスペースメーカー、安全性を確認/NEJM

 オランダ・アムステルダム大学医療センターのReinoud E. Knops氏ら「Aveir DR i2i試験」グループは、デュアルチャンバー型リードレスペースメーカーシステムが安全性の主要エンドポイントを達成し、移植後3ヵ月間、適切な心房ペーシングと確実な房室同期が得られたことを報告した。シングルチャンバー型リードレスペースメーカーでは心房ペーシングや確実な房室同期が得られないが、右心房と右心室にそれぞれデバイスを経皮的に植え込むデュアルチャンバー型リードレスペースメーカーシステムは、より幅広い適応症の治療選択肢となることが期待されていた。NEJM誌オンライン版2023年5月20日号掲載の報告。

せっけん手洗いで、低中所得国の急性呼吸器感染症が減少/Lancet

 低中所得国において、せっけんによる手洗い励行の介入は急性呼吸器感染症(ARI)を減少可能であることが示された。英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のIan Ross氏らが、システマティックレビューとメタ解析の結果を報告した。ARIは、世界的に罹患および死亡の主な原因で、ARIによる死亡の83%は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック以前の低中所得国で発生していたという。結果を踏まえて著者は、「低中所得国においてせっけんによる手洗いはARIによる大負荷を防ぐのに役立つと考えられる」とまとめている。Lancet誌2023年5月20日号掲載の報告。

真性多血症治療薬ロペグインターフェロン発売/ファーマエッセンシアジャパン

 ファーマエッセンシアジャパンは、抗悪性腫瘍剤/真性多血症治療薬のロペグインターフェロン アルファ-2b(商品名:ベスレミ)の皮下注250µgシリンジと500µgシリンジを6月1日に発売した(薬価収載は5月24日)。適応は真性多血症で既存治療が効果不十分または不適当な場合に限るとされている。  真性多血症(PV)は、骨髄増殖性腫瘍の一種で、骨髄の造血幹細胞の異常により、赤血球が過剰に産生される血液の希少疾病。PVは、遺伝子変異によって発症すると推定され、ほぼすべてのPV患者で造血幹細胞中のヤヌスキナーゼ2(JAK2)遺伝子に主に「JAK2 V617F」と称される変異が生じ、著しい赤血球の増加を来たす。

抗菌薬の長期使用で肺がんリスクが増加

 近年の研究で、抗菌薬によるマイクロバイオーム異常および腸と肺の相互作用が肺がん発症の引き金になる可能性が指摘されている。今回、韓国・ソウル国立大学のMinseo Kim氏らが抗菌薬の長期使用と肺がんリスクの関連を調べたところ、抗菌薬の累積使用日数および種類の数が肺がんリスク増加と関連することが示された。Journal of Infection and Public Health誌2023年7月号に掲載。

抗うつ薬、非定型抗精神病薬、ベンゾジアゼピン使用の世界的な傾向~64ヵ国横断的分析

 米国・ピッツバーグ大学のOrges Alabaku氏らは、高所得国、中所得国、低所得国における抗うつ薬、非定型抗精神病薬、ベンゾジアゼピン(BZD)使用の世界的な傾向を調査した。その結果、高所得国は中・低所得国と比較し向精神薬の治療利用率が高いことを報告した。PLOS ONE誌2023年4月26日号の報告。  IQVIAのMIDASデータベースを用いて、2014年7月~2019年12月までの国別横断的時系列分析を行った。人口で調整された使用率は、人口規模ごとに、薬剤クラス別の薬剤標準単位数で算出した。高所得国、中所得国、低所得国の分類には、国連の「2020年世界経済状況・予測」を用いた。薬剤クラス別の使用率の変化は、2014年7月~2019年7月の期間で算出した。経済状況を予測変数として用い、各国の薬剤クラス別の使用率について、ベースラインからの変化の予測可能性を評価するため線形回帰分析を実施した。

小児喘息の罹患率や症状、居住環境が影響/JAMA

 米国都市部の貧困地域に居住する子供たちにおける、不釣り合いに高い喘息罹患率には、構造的人種主義が関与しているとされる。米国・ジョンズ・ホプキンズ大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のCraig Evan Pollack氏らは、MAP研究において、住宅券(housing voucher)と低貧困地域への移住支援を提供する住宅移動プログラムへの参加が、小児の喘息罹患率や症状日数の低下をもたらすことを示した。研究の成果は、JAMA誌2023年5月16日号で報告された。  MAP研究は、2016~20年に家族がBaltimore Regional Housing Partnership(BRHP)の住宅移動プログラムに参加した、持続型喘息を有する5~17歳の小児123例を対象とする前向きコホート研究である(米国国立環境健康科学研究所[NIEHS]の助成を受けた)。

データベース解析はランダム化比較試験に取って代われないだろう(解説:折笠秀樹氏)

リアルワールドのデータベース解析が注目されています。保険レセプト等のデータを使って、治療法を比較する試みです。本研究では、薬剤に関する32件のランダム化比較試験(RCT)とレセプトデータベース解析を比較したところ、結果はほぼ一致していたのです(相関係数0.82)。データベース解析ではRCTのデザインを再現しましたが、懸念される点がたくさんあります。まず適格基準です。RCTでは適格基準が厳密なのはご承知のとおりです。そのため、単純に非リウマチ性心房細動といっても、適格条件を満たす患者さんが意外にいないことを経験されたと思います。病名は保険病名のため、診断基準を満たしていないケースも多々あります。エンドポイントはどうでしょうか。心房細動では臨床的に重要な出血事象をエンドポイントにすることが多いですが、RCTでは厳密な判定基準を設けています。保険レセプトデータでその確認はほぼ不可能でしょう。消化管出血ひとつとっても、内視鏡をしていれば消化管出血だとは単純に断定できません。重大な血圧低下にしても、血圧値がわからなければ判定不能でしょう。死亡にしても、医療行為の記録から確定することは並大抵ではないでしょう。

COVID-19の転帰に、レニン・アンジオテンシン系が重要な役割を果たしているのか?―(解説:石上友章氏)

コロナ禍は収束に向かいつつある。とはいえ、人類がCOVID-19を制圧したとは、とうてい言い難い。SARS-COVID19に意思があるわけではないが、無限に思える遺伝子変異の末に、人類との共存を選択したかに思えてしまう。しかし、いついかなる時に強い感染性のままに、より毒性の高い変異を獲得して、再び人類に闘いを挑むことがないとは言えない。つかの間の休息のような日々が、永遠に続くわけではない。SARS-COVID19は、細胞表面に存在するACE2とSpike Proteinが結合することによって、肺胞上皮細胞や心筋細胞に侵入し感染を成立させるとともに、ACE2の活性を阻害する。ACE2はAngiotensin IIをAngiotensin 1-7へ変換させる酵素であり、Angiotensin 1-7にはanti-Angiotensin II作用があるとされている。

統合失調症患者におけるLAI抗精神病薬の導入成功パターンは

 統合失調症の再発予防に長時間作用型注射剤(LAI)抗精神病薬による治療は効果的であるが、いまだ十分に利用されているとはいえない。米国・ザッカーヒルサイド病院のJohn M. Kane氏らは、米国の民間保険加入患者を含む大規模データセットを用いて、統合失調症診断後のLAI抗精神病薬治療の成功パターンを特定するため、本検討を行った。その結果、主に民間保険加入患者である本データセットでは、初期段階でのLAI抗精神病薬の使用率は非常に低かったが、正常に同薬剤が導入された患者の多くは、最初の導入で90日以上の治療を達成していた。しかし、初期段階でLAI抗精神病薬が使用された場合でも、多くの患者は過去に経口抗精神病薬治療を受けており、統合失調症の初回治療としてLAI抗精神病薬はいまだ一般的ではないことが示された。The Journal of Clinical Psychiatry誌2023年4月19日号の報告。  ICD-9またはICD-10基準で新たに統合失調症と診断された18~40歳の患者のうち、第2世代のLAI抗精神病薬の導入成功(90日以上の使用と定義)、1つ以上の第2世代の経口抗精神病薬使用のデータを、2012~19年のIBM MarketScan CommercialおよびMedicare Supplementalのデータベースより特定した。アウトカムは、記述的に測定した。 主な結果は以下のとおり。 ・適格基準を満たした患者は、新規に統合失調症と診断された患者4万1,391例のうち、LAI抗精神病薬を1回以上使用した患者1,836例(4%)、1回以上の第2世代経口抗精神病薬治療後にLAI抗精神病薬の導入に成功した患者202例(1%未満)。 ・診断から最初のLAI抗精神病薬開始までの期間(中央値)は289.5日(範囲:0~2,171日)、LAI抗精神病薬開始から導入成功までの期間は90.0日(同:90~1,061日)、導入成功後のLAI抗精神病薬中止までの期間は166.5日(同:91~799日)であった。 ・LAI抗精神病薬開始前、2つ以上の経口抗精神病薬による治療を行っていた患者は58%であった。 ・LAI抗精神病薬の導入が成功した患者の86%は、最初のLAI抗精神病薬で達成が得られていた。

学校でのコロナ感染対策、マスクの効果が明らかに

 本邦では、2023年5月8日に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染症法上の分類が5類に引き下げられ、文部科学省は、5類移行後の学校でのマスクの着用や検温報告を原則不要とする方針を、各教育委員会に通知している。しかし、スイスの中学校で実施された研究において、マスク着用の義務化はウイルス感染に重要な役割を果たすとされるエアロゾルの濃度を低下させ、SARS-CoV-2感染リスクを大幅に低減させたことが報告された。本研究結果は、スイス・ベルン大学のNicolas Banholzer氏らによってPLOS Medicine誌2023年5月18日号で報告された。

女性の尋常性ざ瘡、スピロノラクトンが有効/BMJ

 尋常性ざ瘡の女性患者の治療において、カリウム保持性利尿薬スピロノラクトンはプラセボと比較して、12週時の尋常性ざ瘡特異的QoL(Acne-QoL)の症状スコアが良好で、24週時にはさらなる改善が認められ、標準的な経口抗菌薬の代替治療として有用な可能性があることが、英国・サウサンプトン大学のMiriam Santer氏らが実施した「SAFA試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2023年5月16日号に掲載された。  SAFAは、イングランドおよびウェールズの10施設で実施された実践的な二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2019年6月~2021年8月の期間に参加者の募集が行われた(英国国立健康研究所[NIHR]の助成を受けた)。