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第23回 免許証サイズ、5ドル15分のCOVID-19検査を米国が許可して早速大量購入~入館許可証の役割を担う?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査の進歩は目覚ましく、免許証ほどの大きさで他に装置不要の持ち運び自由なカード型抗原検査BinaxNOW COVID-19 Ag Card(以下BinaxNOW COVID-19)を米国FDAが先週水曜日26日に認可しました1)。メーカーのAbbott(アボット)社は、15分足らずで結果が判明して費用わずか1コイン(5ドル)程の同検査を9月には数千万個、10月からは毎月5,000万個を出荷する予定です。安かろう悪かろうというわけではなく、COVID-19が疑われる症状が生じてから7日以内の患者を医療従事者がBinaxNOW COVID-19で検査した試験での検出感度は97.1%、特異度は98.5%でした。鼻ぬぐい液のウイルス抗原を検出するBinaxNOW COVID-19は医師や看護師をはじめとして保健室の先生・薬剤師・企業の医療担当の専門家などの医療の心得のある人が必要に応じてそれぞれの持ち場で使うことができます。それら医療従事者による検査を受けた人はAbbott社が提供するNAVICAというアプリを使ってその結果をスマートフォン等のiPhone/Android携帯機器にQRコードと共に以下の写真のように表示し、検査結果の提示を求める施設へ入る時に非感染証明証として提示することができます。感染を示す陽性結果の場合には隔離して受診することを求めるメッセージが表示されます。検査証明は一定期間が過ぎると失効します。米国政府もぞっこん?米国政府はBinaxNOW COVID-19を相当有望視して高く買っているらしく、FDA認可の翌日27日に1億5,000回分を7億6,000万ドルで買う契約をAbbott社と交わしました。調達分は学校に配備したり必要に応じて供給される予定です2)。検査結果を入室許可証とする取り組みを大学が開始NAVICAが表示するような陰性検査結果を入館許可証として使って感染者との接触を未然に防いで流行を食い止めつつ日常を取り戻そうとする取り組みは米国ですでに実行に移されています。6万人が通う米国・イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校では、今学期週に2回の頻度で生徒や職員全員がCOVID-19の唾液検査を受け、構内の建物に入ることができるのは感染していないことを示す陰性結果を提示した人のみとしています3-5)。数時間以内に判明する検査結果は携帯電話にすぐに通知され、感染を示す陽性であれば10日間の隔離が必要となります。感染者と密に接した人の追跡もなされます。陽性の人は無料の食事や十分な支援と手当てを得て隔離期間を罪悪感なく安心して過ごすことができるようになっています。毎日2万人を検査するために同大学は獣医科施設を専用に模様替えしました。検査体制準備の予算は600万ドル、1回10ドルの検査の今学期の総費用は最大で1,000万ドルになる見込みです5)。今のところ検査は非常によく受け入れられていると同大学の化学者Martin Burke氏は科学ニュースThe Scientistに話しています5)。Burke氏は同校で使われている唾液検査の開発に携わりました。検査は果たして有効なのか?イリノイ大学のようにとにかくくまなく検査して感染者を早期発見して感染者にはしばらく待機してもらう取り組みが流行阻止の一翼を担いうることを裏付ける結果が米国メイン州でのキャンプ場で得られています。徹底的な検査に加えて感染食い止め対策も怠らなかった甲斐あり、そのキャンプ場が6月中旬から8月中旬の4回で迎えた宿泊小児やスタッフ合わせて1,022人の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染者数はわずか3人のみでした6-8)。キャンプする小児と世話係は全員が到着前に検査を受け、陽性だった4人は自宅隔離10日間の後にキャンプに参加しました。キャンプ場へ到着してからすぐに検査は再度実施され、参加者は5~44人のグループに分かれて44~62日間のキャンプ生活を送りました。グループは家族のようなもので、別のグループの人と接する場合にはマスクを着用し、距離を保つことが求められました7)。キャンプ場へ到着後の再検査で世話係2人と小児1人の合計3人が陽性となり、陰性となるまで隔離されました。3人の所属グループの30人はしばらく隔離状態でキャンプ活動を続け、隔離中の検査で陽性は1人もおらず、陽性となった3人から他の参加者への感染は結局生じませんでした。参考1)Abbott's Fast, $5, 15-Minute, Easy-to-Use COVID-19 Antigen Test Receives FDA Emergency Use Authorization; Mobile App Displays Test Results to Help Our Return to Daily Life; Ramping Production to 50 Million Tests a Month 2)Trump Administration Will Deploy 150 Million Rapid Tests in 20203)Media advisory: On-campus COVID-19 testing available for faculty members, staff, students.4)COVID-19 briefing: Homegrown models inform university's safety measuresAUG5)U of Illinois Returns to School with 20,000 Saliva Tests Per Day/TheScientist6)Preventing and Mitigating SARS-CoV-2 Transmission - Four Overnight Camps, Maine, June-August 2020. MMWR. August 26, 20207)How four summer camps in Maine prevented COVID-19 outbreaks8)COVID-19 testing helps sleep-away summer camps to avoid outbreaks/Nature

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第21回 大統領選のダシにされたCOVID-19血漿療法、日本でも似たようなことが!?

まだ、治療薬もワクチンも決定打がない新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。そんな最中、米国食品医薬品局(FDA)は8月23日、COVID-19から回復した患者の新型コロナウイルスの中和抗体を含む血漿を用いた回復期血漿療法に対し、緊急使用許可を発行した。FDAによる緊急使用許可は抗ウイルス薬レムデシビルに次いで2例目だ。この緊急時使用許可の直後の会見でドナルド・トランプ米大統領は「信じられないほどの成功率」「死亡率を35%低下させることが証明されている」「この恐ろしい病気と戦う非常に効果的な方法であるとわかった」などと絶賛。同席したFDAのステファン・ハーン長官もこの死亡率35%低下を強調。しかし、この死亡率低下の根拠データが不明確との批判を受け、ハーン長官自身が謝罪に追い込まれる事態となった。さてこの1件、そもそも発端となっているのはメイヨークリニック、ミシガン州立大学、ワシントン大学セントルイス医学大学院が主導する「National COVID-19 Convalescent Plasma Expanded Access Program」により行われた臨床研究である。この結果は今のところプレプリントで入手可能である。そもそもこの試験は単群のオープンラベルという設定である。ここで明らかになっている主な結果を箇条書きすると以下のようになる。診断7日後の死亡率は、診断3日以内の治療開始群で8.7%、診断4日目以降の治療開始群で11.9% (p<0.001)。診断30日後の死亡率は、診断3日以内の治療開始群で21.6%、診断4日目以降の治療開始群で26.7% (p<0.0001)。診断7日後の死亡率は、IgG高力価 (>18.45 S/Co)血漿投与群で8.9%、IgG中力価(4.62~18.45 S/Co)血漿投与群で11.6%、IgG低力価 (<4.62 S/Co) 血漿投与群で13.7%と、高力価投与群と低力価投与群で有意差を認めた(p=0.048)。低力価血漿投与群に対する高力価血漿投与群の相対リスク比は診断7日後の死亡率で0.65 、診断30日後の死亡率で0.77 だった。これらを総合すると、トランプ大統領が言うところの死亡率35%低下は、最後の診断7日後の高力価血漿投与群での相対リスク比を指していると思われる。もっとも最初に触れたようにこの臨床研究は単群のオープンラベルであって、対照群すらない中では確たることは言えない。その点ではトランプ大統領もハーン長官も明らかなミスリードをしている。そして各社の報道では、11月に予定されている米大統領選での再選を意識しているトランプ大統領による実績稼ぎの勇み足発言との観測が少なくない。とはいえ、COVID-19により全世界的に社会活動が停滞している現在、治療薬・ワクチンの登場に対する期待は高まる中で、今回の一件は軽率の一言で片づけて良いレベルとは言えないだろう。そして少なくともトランプ大統領周辺では大統領への適切なブレーキ機能が存在していないことを意味している。大統領選のダシにされた血漿療法、日本は他人ごと?もっとも日本国内もこの件を対岸の酔っぱらいの躓きとして指をさして笑えるほどの状況にはない。5月には安倍 晋三首相自身が、COVID-19に対する臨床研究が進行中だった新型インフルエンザ治療薬ファビピラビル(商品名:アビガン)について、その結果も明らかになっていない段階で、「既に3,000例近い投与が行われ、臨床試験が着実に進んでいます。こうしたデータも踏まえながら、有効性が確認されれば、医師の処方の下、使えるよう薬事承認をしていきたい。今月(5月)中の承認を目指したいと考えています」と前のめりな発言をし、後のこの試験でアビガンの有効性を示せない結果になったことは記憶に新しい。もっと最近の事例で言えば、大阪府の吉村 洋文知事が8月4日、新型コロナウイルス陽性の軽症患者41例に対し、ポビドンヨードを含むうがい薬で1日4回のうがいを実施したところ、唾液中のウイルスの陽性頻度が低下したとする大阪府立病院機構・大阪はびきの医療センターによる研究結果を発表。これがきっかけで各地のドラッグストアの店頭からポビドンヨードを含むうがい薬が一斉に底をついた。これについては過去にこの結果とは相反する臨床研究などがあったことに加え、医療現場にも混乱が及んだことから批判が殺到。吉村知事自身が「予防効果があるということは一切ないし、そういうことも言ってない」と釈明するに至っている。もっとも吉村知事はその後も「感染拡大の一つの武器になる、という強い思いを持っています」とやや負け惜しみ的な発言を続けている。ちなみに今年2月から始動し、7月3日付で廃止された政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の関係者は以前、私にこんなことを言っていたことがある。「吉村大阪府知事や鈴木北海道知事など新型コロナ対策で目立っている若手地方首長に対する総理の嫉妬は相当なもの。会議内で少しでもこうした地方首長を評価するかのような発言が出ると、途端に機嫌が悪くなる」今回の血漿療法やこれまでの経緯を鑑みると、新型コロナウイルス対策をめぐる政治家の「リーダーシップ」もどきの行動とは、所詮は自己顕示欲の一端、いわゆるスタンドプレーに過ぎないのかと改めて落胆する。新型コロナウイルス対策でがっかりな対応を見せた政治家は日米以外にもいる。もはや新型コロナウイルスが炙り出した「世界びっくり人間コンテスト」と割り切ってこの状況を楽しむ以外方法はないのかもしれない。

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前立腺がん、診断後の肥満は死亡リスクと関連/JCO

 前立腺がん診断後の肥満は、死亡リスクと関連するのか。これまで明らかにされていなかったが、米国・エモリー大学のAlyssa N. Troeschel氏らは大規模コホート研究の結果、限局性前立腺がんなど転移の伴わない前立腺がんの生存者では、診断後の肥満(BMI値30以上)は心血管疾患関連死(CVDM)および全死因死亡の発生頻度が高く、前立腺がん特異的死亡(PCSM)も高まる可能性があることを明らかにした。結果を踏まえて著者は、「診断後の体重増加は、すべての原因および前立腺がんの結果として、より高い死亡率と関連している可能性がある」と述べている。Journal of Clinical Oncology誌2020年6月20日号掲載の報告。 研究グループは、米国の「がん予防研究II栄養コホート(Cancer Prevention Study II Nutrition Cohort)」の参加者のうち、1992~2013年の間に転移を伴わない前立腺がんと診断された男性を対象に、2016年12月までの死亡について調査。同がん生存者の診断後のBMIおよび体重変化と、PCSM、CVDMおよび全死因死亡との関連を解析した。 体重は約2年ごとの追跡調査で自己申告してもらい、診断後のBMIは診断後1~6年以内に完了した1回目の調査で得たデータを用いた。また、診断後の体重の変化は、診断後1回目と2回目の調査時の体重の差とした。  主な結果は以下のとおり。・診断後BMI値の変化に関する解析対象は8,330例で、このうち全死因死亡は3,855例であった(PCSM:500例、CVDM:1,155例)。・Cox比例ハザードモデルによる解析の結果、健康体重(BMI値18.5以上25.0未満)群と比べて診断後の肥満群(BMI値30以上)のPCSMに関するハザード比(HR)は1.28(95%信頼区間[CI]:0.96~1.67)、CVDMのHRは1.24(95%CI:1.03~1.49)、全死因死亡のHRは1.23(95%CI:1.11~1.35)であった。・診断後体重増に関する解析対象は6,942例で、このうち全死因死亡は2,973例であった(PCSM:375例、CVDM:881例)。・診断後体重安定(増減3%未満)群と比べて同体重増加(5%超増加)群は、PCSM(HR:1.65、95%CI:1.21~2.25)および全死因死亡(HR:1.27、95%CI:1.12~1.45)のリスクが高かった。CVDMとの関連は認められなかった。

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エンパグリフロジン、2型DM合併問わずHFrEFに有効/ベーリンガーインゲルハイムとイーライリリー・アンド・カンパニー

 ドイツ・ベーリンガーインゲルハイムと米国・イーライリリー・アンド・カンパニーは、エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)を2型糖尿病合併の有無を問わない左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者に使用した“EMPEROR-Reduced試験”で、主要評価項目が達成されたと発表した。 心不全は、欧米の入院の主たる原因であり、アジアの患者数も増加している。世界中に6,000万人の患者がいると推定され、人口の高齢化が進むにつれ患者数が増加すると予測されている。今回の試験対象となったHFrEFは、心筋が効果的に収縮せず、正常に機能している心臓と比較し、身体に送り出される血液が少なくなる状態。呼吸困難や疲労感などの心不全に関連した症状は、生活の質(QOL)に影響する。3,730例を対象に心血管死、心不全による入院を評価 EMPEROR試験は、慢性心不全の患者を対象にしたエンパグリフロジンのアウトカム試験で、現在心不全の標準治療を受けている2型糖尿病合併または非合併の左室駆出率が保持された慢性心不全(HFpEF)患者またはHFrEF患者を対象に行われている。 試験では、エンパグリフロジンの1日1回投与による治療をプラセボと比較検討する“EMPEROR-Reduced試験”と“EMPEROR-Preserved試験”が行われている。 今回報告されたEMPEROR-Reduced試験では、HFrEF患者の判定心血管死または判定HHF(心不全による入院)の最初の事象までの時間を主要評価項目に、3,730例を対象に行われた(EMPEROR-Preserved試験は、HFpEF患者での判定心血管死または判定HHFの最初の事象までの時間を主要評価に、約5,900例を対象に実施中)。 報告された内容では、標準治療にエンパグリフロジン10mgを上乗せすることで、心血管死または心不全による入院のリスクがプラセボに比べ有意に低下し、主要評価項目を達成した。また、本試験における安全性プロファイルは、エンパグリフロジンのこれまでの安全性プロファイルと同様だった。本試験の詳細は、2020年8月29日の欧州心臓病学会(ESC)で発表される予定。 同社では、EMPEROR-Reduced試験の結果を受けて「エンパグリフロジンが心不全のアウトカムを改善することが示された。今後も心不全患者の生命予後を改善するか引き続き研究する」と抱負を寄せている。エンパグリフロジンの概要 エンパグリフロジンは、1日1回経口投与のSGLT2阻害薬であり、心血管死のリスク減少に関するデータが複数の国の添付文書に記載された初めての2型糖尿病治療薬。血糖値が高い2型糖尿病患者にエンパグリフロジンを投与し、SGLT2を阻害することで、過剰な糖を尿中に排出させ、さらに塩分(ナトリウム)を体外に排出、循環血漿量を低下させる。エンパグリフロジンによる体内の糖・塩分・水の代謝変化が、心血管死の減少に寄与する可能性が示唆されている(EMPA-REGOUTCOME試験)。なお、本剤はわが国では、効能・効果は2型糖尿病であり、心血管イベントおよび腎臓病のリスク減少に関連する効能・効果、慢性心不全の適応は取得していない。

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第20回 風邪コロナウイルスがSARS-CoV-2免疫を授けうる? / キャンプ場で小児にCOVID-19が大流行

風邪コロナウイルス反応T細胞がSARS-CoV-2も認識する?新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染していないのにSARS-CoV-2に反応するCD4+ T細胞が少なくとも5人に1人、多ければ2人に1人に備わっていると示唆されています。SARS-CoV-2が流行する前に25人から採取した血液検体を調べた新たなScience誌報告でもこれまでの幾つかの研究と同様にSARS-CoV-2反応T細胞が見つかり、SARS-CoV-2の142の領域(抗原決定基)がT細胞への反応と関連しました1,2)。そして、これまでにない新たな発見として、SARS-CoV-2に反応するT細胞が風邪を引き起こす馴染みのコロナウイルス(風邪コロナウイルス)4種のSARS-CoV-2に似た抗原決定基にも同様に反応しうることが示されました。この結果は、SARS-CoV-2流行前から馴染みのコロナウイルスに曝露したことでSARS-CoV-2にも反応しうるT細胞が備わったという考えを支持しています3)。また、感染前から備わるSARS-CoV-2への免疫反応はT細胞だけではなさそうです。先月23日にmedRxivに発表された報告によると、英国で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が本格的に流行する前の2018~2020年初めに非感染者262人から採取した血液検体のうち15検体(6%)にはSARS-CoV-2に反応する抗体が認められました4)。さらに特筆すべきことに小児でのその割合はとくに高く、1~16歳の小児48人のうち少なくとも21人(44%)はSARS-CoV-2スパイクタンパク質に反応するIgG抗体を有していました。小児は一般的に他のコロナウイルスとの接触がより多く、それが小児にIgG抗体が多い理由かもしれません。そのようなSARS-CoV-2反応抗体は小児におけるCOVID-19感染者の多くがかなり軽症で済むことの理由の一つかもしれないと著者の1人Rupert Beale氏はツイートしています5)。ただし、SARS-CoV-2への幾ばくかの免疫で感染を絶対に防げるという保証はありませんし、悪くすると正反対の効果、免疫反応を乱して手に負えない炎症やウイルスの蹂躙を招く恐れがあります。たまたま備わったSARS-CoV-2反応T細胞はとくに高齢者にとっては有害になる恐れがあるとシンガポールの免疫学者Nina Le Bert氏は言っています3)。Le Bert氏もCOVID-19へのT細胞反応を調べている研究者の一人です。キャンプ場で小児にCOVID-19が大流行小児はSARS-CoV-2感染しても多くが軽症で済み、それに感染し難いことが示唆されている一方で、米国ジョージア州のキャンプ場で6月に発生した小児のCOVID-19大流行はどの年齢の小児も感染と無縁ではないことを改めて示しました6)。そのキャンプ場では、キャンプする小児(6~19歳、中央値12歳)の受け入れの準備のためにまずは世話係(年齢14~59歳、中央値17歳)が6月17日にキャンプ場に集まり、キャンプはその週末21日から始まりました。キャンプ場のCOVID-19食い止め対策は完全ではなく、世話係は綿製マスク着用が義務でしたがキャンプする小児のマスク着用は必須とせず、ドアや窓を開けて建物内の換気を促すこともしませんでした。6月23日に10代の世話係の1人が前の晩に寒気を覚えてキャンプ場を去り、検査の結果24日にSARS-CoV-2感染が確認されました。キャンプ場は24日から滞在者を帰宅させはじめ、27日に閉鎖しました。キャンプには世話係251人とキャンプ参加小児346人合わせて597人が集い、検査結果が判明した344人(内訳は未報告)のうち260人(76%)が陽性でした。マスクが必須ではない環境で大勢が集まって同じ部屋で寝て、勢いよく歌ったり声援したりを繰り返したことが恐らく感染を広まらせたようであり、集いの場では相手との距離を保ってマスクを絶えず装着する必要があると著者は言っています。参考1)Selective and cross-reactive SARS-CoV-2 T cell epitopes in unexposed humans. Science 04 Aug 20202)Exposure to common cold coronaviruses can teach the immune system to recognize SARS-CoV-2 / Eurekalert 3)Does the Common Cold Protect You from COVID-19? / TheScientist4)Pre-existing and de novo humoral immunity to SARS-CoV-2 in humans. bioRxiv. July 23, 20205)Rupert Beale氏ツイッター 6)SARS-CoV-2 Transmission and Infection Among Attendees of an Overnight Camp - Georgia, June 2020. MMWR. Early Release / July 31, 2020

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第18回 待望のプラセボ対照無作為化試験でCOVID-19にインターフェロンが有効

中国武漢での非無作為化試験1)や香港での無作為化試験2)等で示唆されていたインターフェロン1型(1型IFN)の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療効果が小規模ながら待望のプラセボ対照無作為化試験で裏付けられました3,4)。先週月曜日(20日)の速報によると、英国のバイオテクノロジー企業Synairgen社の1型IFN(インターフェロンβ)吸入薬SNG001を使用したCOVID-19入院患者が重体になる割合はプラセボに比べて79%低く、回復した患者の割合はプラセボを2倍以上上回りました。わずか100人ほどの試験は小規模過ぎて決定的な結果とはいい難いと用心する向きもありますが、SNG001は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)食い止めに大いに貢献する吸入薬となりうると試験を率いた英国・サウサンプトン大学の呼吸器科医Tom Wilkinson教授は言っています5)。Synairgen社を率いるCEO・Richard Marsden氏にとっても試験結果は朗報であり、COVID-19入院患者が酸素投与から人工呼吸へと悪化するのをSNG001が大幅に減らしたことを喜びました。投資家も試験結果を歓迎し、Synairgen社の株価は試験発表前には36ポンドだったのが一時は236ポンドへと実に6倍以上上昇しました。この記事を書いている時点でも200ポンド近くを保っています。Synairgen社は入院以外でのSNG001使用も視野に入れており、COVID-19発症から3日までの患者に自宅でSNG001を吸入してもらう初期治療の試験をサウサンプトン大学と協力してすでに英国で始めています6)。米国では1型IFNではなく3型IFN(Peginterferon Lambda-1a)を感染初期の患者に皮下注射する試験がスタンフォード大学によって実施されています7)。インターフェロンは感染の初期治療のみならず予防効果もあるかもしれません。中国・湖北省の病院での試験の結果、インターフェロンを毎日4回点鼻投与した医療従事者2,415人全員がその投与の間(28日間)COVID-19を発症せずに済みました8)。インターフェロンはウイルスの細胞侵入に対してすぐさま強烈な攻撃を仕掛ける引き金の役割を担います。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はどうやらインターフェロンを抑制して複製し、組織を傷める炎症をはびこらせます4,9)。ただしSARS-CoV-2がインターフェロン活性を促すという報告10)や1型IFN反応が重度COVID-19の炎症悪化の首謀因子らしいとする報告11)もあり、インターフェロンは場合によっては逆にCOVID-19に加担する恐れがあります。米国立衛生研究所(NIH)のガイドライン12)では、重度や瀕死のCOVID-19患者へのインターフェロンは臨床試験以外では使うべきでないとされています。2003年に流行したSARS-CoV-2近縁種SARS-CoVや中東で依然として蔓延するMERS-CoVに感染したマウスへのインターフェロン早期投与の効果も確認されており13,14)、どの抗ウイルス薬も感染初期か場合によっては感染前に投与すべきと考えるのが普通だとNIHの研究者Ludmila Prokunina-Olsson氏は言っています15)。参考1)Zhou Q, et al. Front Immunol. 2020 May 15;11:1061.2)Hung IF, et al. Lancet. 2020 May 30;395:1695-1704.3)Synairgen announces positive results from trial of SNG001 in hospitalised COVID-19 patients / GlobeNewswire 4)Can boosting interferons, the body’s frontline virus fighters, beat COVID-19? / Science 5)Inhaled drug prevents COVID-19 patients getting worse in Southampton trial 6)People with early COVID-19 symptoms sought for at home treatment trial 7)OVID-Lambda試験(Clinical Trials.gov)8)An experimental trial of recombinant human interferon alpha nasal drops to prevent coronavirus disease 2019 in medical staff in an epidemic area. medRxiv. May 07, 2020 9)Hadjadj J, et al. Science. 2020 Jul 13:eabc6027.10)Zhuo Zhou, et al. Version 2. Cell Host Microbe. 2020 Jun 10;27(6):883-890.11)Lee JS, et al. Sci Immunol. 2020 Jul 10;5:eabd1554.12)Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Treatment Guidelines,NIH 13)Channappanavar R, et al. Version 2. Cell Host Microbe. 2016 Feb 10;19:181-93. 14)Channappanavar R, et al. J Clin Invest. 2019 Jul 29;129:3625-3639.15)Seeking an Early COVID-19 Drug, Researchers Look to Interferons / TheScientist

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第16回 COVID-19食い止めにT細胞が貢献?/ジャーナル購読の莫大な費用をソフトウェア解析で節約

COVID-19食い止めにT細胞が貢献か?抗体検査のみでは感染者数過小評価の恐れ新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)への抗体は検出されずともT細胞は検出される場合があり、抗体検査だけではその感染(COVID-19)者数を少なく見積もってしまう恐れがあります1)。また、SARS-CoV-2への曝露があっても軽症か発症しないケースではT細胞が貢献しているかもしれません2)。フランスの7家族を調べた試験の結果1)、SARS-CoV-2感染者と密に接したその家族8人のうち6人からはSARS-CoV-2へのT細胞が検出されましたが抗体は見つかりませんでした。スウェーデンの約200例を調べた試験では無症状か軽症のSARS-CoV-2感染者のほとんどから強いメモリーT細胞反応が検出され、それらのT細胞反応獲得者に抗体反応が欠如していることは稀ではありませんでした3)。SARS-CoV-2に曝露か感染すれば抗体がどうあれ重度COVID-19を防げるようになる可能性があるようです。また、メモリーT細胞反応は抗体反応より2倍多く認められ、抗体検査頼りだとSARS-CoV-2に対抗する免疫がどれだけ広まっているかを少なく見積もってしまうようです。SARS-CoV-2へのT細胞反応は風邪症状を引き起こす別のコロナウイルスへの感染によって備わるらしいことも示されています4)。目下のCOVID-19流行からだいぶ前の2015~18年に採取されて保管されていた血液検体を調べたところ約半数にSARS-CoV-2を認識するヘルパーT細胞が備わっていました。風邪を引き起こす4つのヒトコロナウイルスのいずれかに感染したことでSARS-CoV-2も認識しうるT細胞が発生したのだろうとLa Jolla Instituteの研究チームは考えています。そのチームはCOVID-19から回復した10人の全員からSARS-CoV-2スパイクタンパク質を認識するヘルパーT細胞が検出されたことも併せて報告しています。また、スパイクタンパク質以外のタンパク質に反応するヘルパーT細胞も検出されました。現在開発中のワクチンのほとんどはスパイクタンパク質への免疫反応を誘発することを目指しています。しかしもっと欲張った方が良さそうです。他のタンパク質に反応するヘルパーT細胞が今回確認されたことから察するに、それらのタンパク質へも免疫系を駆り立てるワクチンはいっそう有効かもしれません。1つのタンパク質だけにぞっこんにならない方が良いと米国ノースカロライナ大学の分子微生物学者Rachel Graham氏はScience誌に話しています5)。ジャーナル購読の莫大な費用をソフトウェア解析で節約可能に?今年2020年4月にニューヨーク州立大学(SUNY)はオランダの巨大出版会社Elsevier(エルゼビア)との値が張る一括購読契約を打ち切り、248雑誌の購読を中心とするこじんまりとした契約に切り替えました6)。SUNYはその絞り込みで年間購読料を500~700万ドルも減らせる見込みです。Science誌のニュースによるとUnsubというソフトウェアがその絞り込みを手伝いました7)。SUNYがそれまで年間およそ900万ドルを払っていた2,200ものElsevier発行雑誌の10分の1ほどの248雑誌を年間200万ドル払って購読すればSUNYの64施設の研究者は今後5年間に読むであろうElsevier出版論文の約7割を制限なく入手できるとUnsubは推定しました。UnsubはSUNYのそれぞれの図書館の雑誌利用データを解析し、SUNYの施設や学生がすでに無料で利用できるネット上の論文を考慮してそう推定しました。SUNYは支払いを続ける必要がある雑誌を独自に見繕い、その一覧はUnsubが打ち出した一覧と一致していました。Unsubは一大技術であり、おかげで大学の図書館がもはや大金を注ぎ込まずとも機能を保ってやっていけると分かったとSUNY図書館の運営戦略リーダーMark McBride氏は言っています。Unsubは2017年に誕生したUnpaywallというツールを発展させて去年2019年11月に発売されました。Unsubの前身のUnpaywallはネットから無料の論文を探し出し、合法的に支払いを回避して目当ての論文を読めるようにするものです。Unpaywallの欠点を解消して出来上がったUnsubの年間使用料は1,000ドルであり、Unsubを販売する学術支援企業Impactstoryの設立者の1人・Jason Priem氏によるとすでに300の図書館がUnsub使用を決めています。SUNYが踏み切ったような巨額契約打ち切りがこの夏には増え、図書館は交渉力を取り戻すことになるだろうとPriem氏は言っています。SUNYが新たな契約の下で手に入れうる論文のうちおよそ30%はオープンアクセスなのですでに無料で読むことができ、25%はSUNYが何年か契約を続けたことで入手可能です。新たな契約の下で入手不可能な論文はどうするかというと、SUNYのそれぞれの施設ごとに必要な雑誌を個別購読したり他の図書館から一時的な閲覧権を購入して読めるようにします。また、論文の単品購入もあります。それらの追加出費を含めても新たな契約は余りある節約をもたらすと前述のMcBride氏は言っています。顧客の好みがどうあれ高品質な出版物をお値打ち価格で公平にいらつかせず提供することに変わりはないとElsevierの広報担当者はScience誌に話しており、Unsubが台頭したところで同社は特に何か手を打つつもりはないようです。ところでUnsubと似た目的の1figrというソフトがあったのですが、その販売会社1Scienceとその親会社Science-MetrixがElsevierに取得された後に残念ながら姿を消しました。参考1)Intrafamilial Exposure to SARS-CoV-2 Induces Cellular Immune Response without Seroconversion. medRxiv. June 22, 20202)Scientists focus on how immune system T cells fight coronavirus in absence of antibodies / Reuters 3)Robust T cell immunity in convalescent individuals with asymptomatic or mild COVID-19. bioRxiv. June 29, 2020 4)Grifoni A, et al. Cell. 2020 Jun 25. [Epub ahead of print]5)T cells found in COVID-19 patients ‘bode well’ for long-term immunity / Science 6)State University of New York Steps Away From the “Big Deal” with Elsevier 7)This tool is saving universities millions of dollars in journal subscriptions / Science

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重症大動脈弁狭窄症の弁置換術、Portico弁vs.既存弁/Lancet

 外科的人工弁置換術ではリスクが高く、臨床的に経カテーテル大動脈弁置換術が適応の重症大動脈弁狭窄症患者の治療において、弁輪内自己拡張型Portico弁(Abbott製)は市販の弁輪内バルーン拡張型弁または弁輪上自己拡張型弁と比較して、安全性および有効性の複合エンドポイントはそれぞれ非劣性であるが、30日時の死亡や重度血管合併症の頻度が高い傾向がみられることが、米国・シダーズ・サイナイ医療センターのRaj R. Makkar氏らが行ったPORTICO IDE試験で示された。この結果には、試験期間の前半における新規デバイスへの習熟度が関連している可能性があるという。Portico経カテーテル大動脈弁システムは、ウシ心膜組織の弁尖を有する自己拡張型経カテーテル心臓弁で、植込み部位での完全なリシース(弁を送達カテーテルに戻す)とリポジション(弁の再留置)が可能であるため、留置の正確性が改善されるという。Lancet誌オンライン版2020年6月25日号掲載の報告。市販の弁に対する非劣性を検証する無作為試験 本研究は、外科的人工弁置換術ではリスクが高く、臨床的に経カテーテル大動脈弁置換術が適応の重症大動脈弁狭窄症患者において、Portico弁と市販(FDA承認済み)の経カテーテル心臓弁システムの安全性と有効性を前向きに比較する無作為化対照比較非劣性試験である(Abbottの助成による)。 対象は、年齢21歳以上、NYHA心機能分類クラスII以上で、各施設の集学的ハートチームによって、外科的人工弁置換術では術後の死亡や重篤な合併症のリスクが高い、またはきわめて高いと判定された重症大動脈弁狭窄症患者であった。 被験者は、第1世代のPortico弁とその送達システム、または既存の市販弁(弁輪内バルーン拡張型のEdwards-SAPIEN、SAPIEN XT、SAPIEN 3弁[Edwards LifeSciences製]、または弁輪上自己拡張型のCoreValve、Evolut R、Evolut PRO弁[Medtronic製])を用いた経カテーテル大動脈弁置換術を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 安全性の主要エンドポイントは、30日以内の全死因死亡、後遺障害を伴う脳卒中、輸血を要する重篤な出血、透析を要する急性腎障害、重度血管合併症の複合とした。また、有効性の主要エンドポイントは、1年以内の全死因死亡または後遺障害を伴う脳卒中であった。最長2年までの臨床アウトカムなどの評価も行った。非劣性マージンは、安全性の主要エンドポイントが8.5%、有効性の主要エンドポイントは8.0%だった。次世代Portico弁の臨床試験が進行中 登録の中断を挟み、2014年5月30日~9月12日と、2015年8月21日~2017年10月10日の期間に、米国とオーストラリアの52施設で750例が登録され、Portico弁群に381例、市販弁群には369例が割り付けられた。全体の平均年齢は83(SD 7)歳、女性が395例(52.7%)であった。 30日時の安全性の主要エンドポイント(intention to treat[ITT]解析)の発生率は、Portico弁群が52例(13.8%)と、市販弁群の35例(9.6%)より高く、非劣性の基準を満たしたが、優越性は認められなかった(群間差:4.2%、95%信頼区間[CI]:-0.4~8.8[信頼区間上限値:8.1]、非劣性のp=0.034、優越性のp=0.071)。30日時の全死因死亡(3.5% vs.1.9%)、後遺障害を伴う脳卒中(1.6% vs.1.1%)、重篤な出血(5.9% vs.3.8%)、急性腎障害(1.1% vs.0.8%)、重度血管合併症(9.6% vs.6.3%)は、Portico弁群で高い傾向がみられたが、有意な差はなかった。 1年時の有効性の主要エンドポイント(ITT解析)の発生は、Portico弁群が55例(14.8%)、市販弁群は48例(13.4%)であり、Portico弁群は非劣性の基準を満たしたが、優越性は示されなかった(群間差:1.5%、95%CI:-3.6~6.5[信頼区間上限値:5.7]、非劣性のp=0.0058、優越性のp=0.503)。 2年時の全死因死亡(Portico弁群80例[22.3%]vs.市販弁群70例[20.2%]、p=0.40)および後遺障害を伴う脳卒中(10例[3.1%]vs.16例[5.0%]、p=0.23)の発生率は、両群で類似していた。また、事後解析では、Portico弁群の2年死亡率は、SAPIEN 3弁より高く(18例[22.7%]vs.30例[15.6%]、p=0.03)、Evolut RやEvolut PRO弁と類似していた(28例[26.1%]、p=0.54)。 1年時の中等度以上の弁周囲逆流(21例[7.8%]vs.4例[1.5%]、群間差:6.3%、95%CI:3.0~10.3[信頼区間上限値:9.2%]、非劣性のp=0.571、優越性のp=0.0005)や、30日時の恒久的ペースメーカー植込み術(88例[27.7%]vs.35例[11.6%]、16.1%、10.0~22.2、p<0.001)の発生率は、Portico弁群で高かった。 著者は、「今回の試験では、第1世代Portico弁と送達システムの、他の市販の人工弁を超える利点は示されなかった。一方、第1世代Portico弁と新たなFlexNav送達システムの単群試験では、安全性アウトカムの向上が確認されており、現在、次世代Portico弁と送達システムの臨床試験が進められている」としている。

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高齢患者のポリファーマシー、電子的支援ツールで改善/BMJ

 多剤併用(ポリファーマシー)は高齢者で一般的にみられ、不適切な薬剤が含まれることや、潜在的な害を伴うことが多いとされる。ドイツ・Witten/Herdecke UniversityのAnja Rieckert氏らは、多剤併用高齢患者における潜在的不適切薬剤処方(potentially inappropriate prescribing)を改善するための電子的意思決定支援ツールを新たに開発し、その有効性を実臨床で評価した。結果は、このツールにより、予定外の入院と24ヵ月以内の死亡について決定的な効果は確認されなかったものの、患者アウトカムに悪い影響を及ぼすことなく薬剤数の削減が達成されたという。BMJ誌2020年6月18日号掲載の報告。4ヵ国の総合診療医が参加した実践的クラスター無作為化試験 研究グループは、PRIMA-eDS(polypharmacy in chronic diseases: reduction of inappropriate medication and adverse drug events in older populations by electronic decision support)と呼ばれる電子的意思決定支援ツール(https://www.prima-eds.eu)を開発し、その使用が不適切な多剤併用の減少につながり患者関連エンドポイントの改善をもたらすかを評価する目的で、実践的なクラスター無作為化対照比較試験を行った(第7次欧州連合研究開発枠組計画の助成による)。 このツールは、個々の患者データと最新の最良エビデンスに基づく包括的な薬剤レビューを自動的に生成し、医師が減薬(deprescribing)を行う際に、それを支援するものである。 2013年5月~2015年9月の期間に、4ヵ国(オーストリア、ドイツ、イタリア、英国)の5つの研究センターで、試験に参加する総合診療医(診療所)の募集が行われた(グループ診療の場合、参加は1人の医師に限定)。 参加医師は、複数の慢性疾患を有し、8剤以上の薬剤(他の医師が処方した薬剤や非処方箋医薬品を含む)を定期的に使用している75歳以上の患者を11人登録するよう求められた。 患者登録とベースラインデータの収集が終了後、参加医師は電子的支援ツールを用いて診療を行う群(介入群)または通常治療を行う群(対照群)に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、予定外の入院または24ヵ月以内の死亡の複合とした。主な副次アウトカムは、薬剤数の削減であった。ITT解析で差はなし、PP解析では有意差あり 2015年1月~10月の期間に、359の診療所で3,904例が登録された。介入群に181の診療所と1,953例が、対照群には178の診療所と1,951例が割り付けられた。ベースラインの全体の患者の平均年齢は81.5(SD 4.4)歳、女性が2,240例(57.4%)で、平均使用薬剤数は10.5(2.4)剤、平均診断名数は9.5(4.9)件であった。 主要アウトカムは、介入群が871例(44.6%)、対照群は944例(48.4%)で発生した。追跡不能例(介入群126例[6.5%]、対照群111例[5.7%])をアウトカム達成例に含めたintention-to-treat解析では、両群間に有意な差は認められなかった(介入群997/1,953例[51.0%]vs.対照群1,055/1,951例[54.1%]、オッズ比[OR]:0.88、95%信頼区間[CI]:0.73~1.07、p=0.19)。欠測値の多重代入法またはCox回帰による感度分析でも、この知見を支持する結果が得られた(ハザード比[HR]:0.93、95%CI:0.82~1.05、p=0.24)。 一方、受診患者に限定したper-protocol解析では、主要アウトカムは介入群で有意に良好であった(OR:0.82、95%CI:0.68~0.98、p=0.03)。 また、最終受診時の薬剤数は、介入群で有意に少なかった(発生率比:0.95、95%CI:0.94~0.97、p<0.001)。ベースラインからの総薬剤数の変化を用いた感度分析では、これを支持する結果が得られた(平均変化量について介入群:-0.42 vs.対照群0.06、補正平均群間差:-0.45、95%CI:-0.63~-0.26、p<0.001)。 死亡(介入群19.5% vs.対照群18.8%、p=0.96)、予定外の初回入院(48.4% vs.50.7%、p=0.36)、予定外入院の期間(7.89日vs.8.47日、p=0.79)、1回以上の骨折(3.0% vs.2.3%、p=0.17)などには、両群間に有意な差はみられなかった。 著者は、「これは、電子的意思決定支援ツールのより広範な導入、できれば電子カルテ内に統合した形での導入を支持する十分な強度を持つエビデンスと考える」としている。

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第15回 COVID-19でも顕在化か、ワクチン不信/血液脳関門の定説を覆す結果!?

COVID-19ワクチン接種予定の米国人はわずか2人に1人~ワクチン信用の底上げが必要1月20日に米国で初めて新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染(COVID-19)が確認されるやいなや、反ワクチン活動家はすぐに腰を上げ、そんなウイルスは実在せず、ワクチンで稼ぐためのでっちあげだとのツイッターを投稿しはじめました1)。それから半年近くが過ぎ、世界の科学者たちはCOVID-19ワクチン開発に勤しみ、反ワクチン活動家からの大量の誤った情報は増加の一途を辿っています。そういった情報に惑わされることなく、COVID-19ワクチンを受け入れてもらうための土壌作りを今からはじめる必要があると健康情報の専門家は言っています。実際、今のままだと米国でのCOVID-19ワクチンの普及はあまり期待できそうにありません。最近の調査でCOVID-19ワクチンが使えるようになったら接種すると答えたのはわずかに2人に1人(49%)のみでした。5人に1人(20%)は接種しないと答え、約3~4人に1人(31%)は決めかねていると答えました。そのような調査結果を背景にして、アメリカ疾病管理センター(CDC)はワクチンの信用底上げに取り組むことを計画しています。ワクチン不信は米国に限った問題ではなく、世界の健康機関もワクチンに反対する人々を翻意させるためのあの手この手の取り組みをしています。世界保健機関(WHO)もそれを承知であり、2019年にはワクチン拒否を最も心配な10の公衆衛生問題の1つに数えています。ワクチン不信を取り除くためには、反ワクチン活動家も使うツイッター等のソーシャルメディアを駆使したデジタル世界での取り組みも必要でしょうが、電話でのワクチン接種案内等の血の通った地道な働きかけがより有効かもしれないとノースカロライナ大学の行動科学者Noel Brewer氏はScienceに話しています。また、公衆衛生機関はさまざまな人の輪のリーダーと話して意思疎通をはかり、ワクチンを医療機関に来てもらって接種するのではなく職場や店舗に自ら出向いていって接種することも検討すべきだろうとジョンズホプキンス大学の医学人類学者Monica Schoch-Spana氏は言っています。定説に反し、老化するほど血液脳関門はタンパク質を通し難くなる~若い脳ほど取り込みが旺盛血液脳関門(BBB)は老化につれてより通過しやすくなるとこれまで考えられていましたが、どうやらそうとも限らないようで、若い健康なマウスの脳は血液中のタンパク質を思ったより多く受け入れており、老化は脳に入る血漿タンパク質をむしろ減らすと分かりました2,3)。今回の研究では、マウスの生来の血漿中タンパク質一揃いに印を付けてその行き先を追跡しました。その結果、若いマウスの脳にはこれまでの想定以上の量の血漿タンパク質が移行しました。それらのタンパク質は神経回路とおそらく相互作用しており、全身のタンパク質の有り様は行動や情緒などの神経機能を変化させるようです。今回のような生来のタンパク質ではない、作り物の標識分子を用いたかつての実験では、老化につれてBBBは通過しやすくなることが示されていましたが、生来のタンパク質の動向を追った今回の研究では逆に老化マウスの脳は血漿タンパク質を受け入れ難くなっていました。老化した脳にタンパク質が入り難いことに寄与するBBB経細胞輸送の変化も、今回の研究では把握されています。血液中のタンパク質がBBBの内皮細胞を横断して脳に入る経路は、目当てのタンパク質を取り込む受容体が携わる経細胞輸送が若い頃には優勢ですが、老化すると受容体の媒介がめっきり減って受容体を介さないやみくもな経細胞輸送が優勢になります。ゆえに老化すると脳に入り込むタンパク質はより雑多になり、老化した脳は目当てのタンパク質を若い頃のようにはおそらく受け取れなくなります。過去の作り物の分子を用いた実験ではおそらくやみくもな経細胞輸送のみが測定されていたため、若い脳への血漿タンパク質移行量が過少になっていたようです。若い脳で優勢と今回の研究で判明した受容体媒介経細胞輸送は脳への治療薬投与に利用されています。たとえば米国サンフランシスコ拠点のバイオテック企業Denali Therapeutics社はBBBのトランスフェリン受容体に運ばれて脳に届く薬DNL310を開発しており、ハンター症候群小児対象の第1/2相試験(NCT04251026)が間もなく始まる予定です4)。ALPLというタンパク質を阻害するとトランスフェリン受容体を介した経細胞輸送が向上しうることが今回の研究で判明しており、ALPL阻害剤とDNL310の併用は一層効果的かもしれません。また、ALPLは老齢マウスの脳ほど発現が多く、ALPL阻害は高齢者脳へのトランスフェリン受容体を介した治療薬運搬にとりわけ役立ちそうです。参考1)Just 50% of Americans plan to get a COVID-19 vaccine. Here’s how to win over the rest / Science 2)Unexpected amount of blood-borne protein enters the young brain / Nature3)Andrew C Yang,et al. Nature.2020 Jul 1. [Epub ahead of print]4) Denali Therapeutics Announces Publication of Two New Papers Describing Its Blood-Brain Barrier Delivery Technology in Science Translational Medicine / GlobeNewswire

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混合性の双極性うつ病の小児・青年に対するルラシドンの有用性

 混合性(亜症候性躁病)の双極性うつ病の小児および青年の治療に対するルラシドンの有効性と安全性について、米国・スタンフォード大学のManpreet K. Singh氏らが、事後分析により評価を行った。Journal of Child and Adolescent Psychopharmacology誌オンライン版2020年5月8日号の報告。 DSM-Vで双極I型うつ病と診断された10~17歳の患者を対象に、6週間のランダム化二重盲検試験を実施した。対象患者は、ルラシドン20~80mg(フレキシブルドーズ)またはプラセボを1日1回投与する群にランダムに割り付けられた。混合性(亜症候性躁病)は、ベースライン時のヤング躁病評価尺度(YMRS)5以上と定義した。評価項目は、ベースラインから6週目までのChildren's Depression Rating Scale-Revised(CDRS-R)スコア(主要評価項目)および臨床全般印象度-双極性障害 重症度(CGI-BP-S)スコアとし、反復測定分析による混合モデルを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時に亜症候性躁病が認められた患者の割合は、54.2%であった。・ルラシドン治療は、亜症候性躁病の有無にかかわらず、6週間後のCDRS-Rスコアを有意に減少させた。 ●亜症候性躁病あり:ルラシドン(-21.5)vs.プラセボ(-15.9)、p<0.01、エフェクトサイズd=0.43 ●亜症候性躁病なし:ルラシドン(-20.5)vs.プラセボ(-14.9)、p<0.01、d=0.44・ルラシドン治療は、亜症候性躁病の有無にかかわらず、6週間後のCGI-BP-Sスコアを有意に減少させた。 ●亜症候性躁病あり:ルラシドン(-1.6)vs.プラセボ(-1.1)、p<0.001、d=0.51 ●亜症候性躁病なし:ルラシドン(-1.3)vs.プラセボ(-1.0)、p=0.05、d=0.31・治療中に認められた軽躁病および躁病の発生率は、ルラシドンとプラセボで同等であった。 ●亜症候性躁病あり:ルラシドン(8.2%)vs.プラセボ(9.0%) ●亜症候性躁病なし:ルラシドン(1.3%)vs.プラセボ(3.7%) 著者らは「ルラシドンは、混合性の双極性うつ病の小児・青年の治療に有効であり、治療に伴う躁病リスクを含む安全性プロファイルは、プラセボとの差が認められなかった」としている。

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第14回 ヒト胚のCRISPR遺伝子編集はいらぬ大異変を誘発しうる

1年半ほど前の2018年11月、世界初となる“遺伝子編集ベビー”が誕生したというニュースが世間を騒がせました。HIVに感染し難くすることを意図したCRISPR遺伝子編集を経た胚が、双子として出産まで至ったことを中国の研究者He Jiankui氏が香港の遺伝子編集学会で発表し、物議を醸したのです1)。ロシアの科学者Denis Rebrikov氏は、世界の科学者の反対をよそにJiankui氏の後に続いてCRISPR遺伝子編集胚を女性に移植すること計画しています2)。ただしロシアの保健省は時期尚早との見解を表明していて、計画の実行は容易ではなさそうです。ロシア保健省の見解はおそらく正しく、ヒト胚のCRISPR遺伝子編集が下手をすると染色体まるごと1本を失うほど大規模な、いらぬ異変を招きうることが最近立て続けに発表された研究3報で示されました3)。3つの研究チームはいずれもたった1つの遺伝子の編集を試みたのですが、結果的にその目当ての一帯がDNAの大欠損や入れ替え等を被りました。英国・ロンドンのFrancis Crick Instituteの生物学者Kathy Niakan氏等は胚の発達や多能性に必要なPOU5F1遺伝子を変異させるCRISPR-Cas9編集を18の胚細胞に施しました。その結果、4つ(22%)の胚のPOU5F1遺伝子一帯に、広範囲に及ぶ欠損や増幅が生じました4)。ニューヨーク市・コロンビア大学の幹細胞学者Dieter Egli氏等による2つ目の試験では、胚細胞の6番染色体のEYS遺伝子失明変異をCRISPR-Cas9編集で正すことが試みられました。その結果、23の胚の約半分が6番染色体の大規模欠損を呈し、極端な場合には染色体がまるごと欠如していました5)。3つ目の研究はオレゴン州ポートランドのOregon Health & Science Universityの生殖生物学者Shoukhrat Mitalipov氏のチームによるもので、心臓病を引き起こすMYBPC3遺伝子変異をCRISPR-Cas9編集で正すことを試みたところ、その変異を含む染色体領域にやはり大規模な異変が生じました6)。上記3つの報告はいずれも研究目的であり、女性への移植を見越して実施されたわけではありません。使われた胚はいずれも研究で使われた後に尽き果てています。CRISPRで切断されたゲノムに生体がどう対処するのかは、実はほとんど分かっていないことを今回の3報告は浮き彫りにしました3)。CRISPR編集で生じた新たなDNA切断面はあっさり元通りになるとは限らず、でたらめな修復のせいでDNA損壊に至ることもあるのです。体内へゲノム編集成分を直接投与する試験7)がすでに始まっていますが、CRISPR標的部位一帯の大規模な異変についてこれまで以上に慎重を期す必要があるとカリフォルニア大学バークレー校の遺伝学者にしてCRISPR研究者でもあるFyodor Urnov氏は言っています。また、胚の編集には絶対取り掛かってはいけないとUrnov氏は警告しています8)。参考1)CRISPR Scientists Slam Methods Used on Gene-Edited Babies / TheScientist 2)Russian ‘CRISPR-baby’ scientist has started editing genes in human eggs with goal of altering deaf gene / Nature 3)CRISPR gene editing in human embryos wreaks chromosomal mayhem / Nature 4)Frequent loss-of-heterozygosity in CRISPR-Cas9-edited early human embryos. biorxiv. June 05, 20205)Reading frame restoration at the EYS locus, and allele-specific chromosome removal after Cas9 cleavage in human embryos. bioRxiv. June 18, 20206)FREQUENT GENE CONVERSION IN HUMAN EMBRYOS INDUCED BY DOUBLE STRAND BREAKS. bioRxiv. June 20, 20207)Allergan and Editas Medicine Announce Dosing of First Patient in Landmark Phase 1/2 Clinical Trial of CRISPR Medicine AGN-151587 (EDIT-101) for the Treatment of LCA10 8)CRISPR Gene Editing Prompts Chaos in DNA of Human Embryos / TheScientist

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ASCO2020レポート 消化器がん(上部消化管)

レポーター紹介今年のASCOは史上初めてオンラインのみでの開催となった。もちろん大規模な移動や集会は、新型コロナウイルスの感染伝播のリスクとなるためであるが、この傾向は今後も続くと思われる。すでに9月にマドリードで開催予定であったESMO2020も、virtualで行われることが決定している。移動時間や、時差を気にせず自室のPCでプレゼンテーションを見ることができる一方、ポスター会場での海外の研究者との直接のやりとりや、世界中のオンコロジストが集まる、あの会場の雰囲気を味わえなくなるのは寂しいものである。さて、上部消化管がん領域から、5演題ほど紹介したいと思う。HER2陽性胃がんに対するDESTINY-Gastric01試験は、HER2陽性胃がんに新たな標準治療を提供し、ほぼ同日に臨床系で最も権威があるといわれているNew England Journal of Medicineに掲載される1)など、最も注目すべき発表となった。Trastuzumab deruxtecan (T-DXd; DS-8201) in patients with HER2-positive advanced gastric or gastroesophageal junction (GEJ) adenocarcinoma: A randomized, phase II, multicenter, open-label study (DESTINY-Gastric01).HER2陽性胃がん、接合部腺がんに対するT-DXdのランダム化第II相試験Shitara K et al.T-DXdは、トポイソメラーゼI阻害薬(deruxtecan)を抗HER2抗体に結合(conjugate)させたADC(antibody-drug conjugate)製剤であり、HER2を発現した細胞に結合し、内部に取り込まれたderuxtecanが細胞障害を来し、効果を発揮する。Phase I試験では、トラスツズマブに不応となった患者に対して、43.2%の奏効割合を示し、有効性が期待されていた薬剤である。日本の第一三共株式会社が開発した薬剤という意味でも注目される。DESTINY-Gastric01試験では、フッ化ピリミジンと、プラチナ製剤と、トラスツズマブを含む2レジメン以上の治療歴のあるHER2陽性(IHC3+、IHC2+/ISH+)胃がんを対象に、187名が日本と韓国より登録された。125名がT-DXd群、62名が医師選択治療群(PC群)に割り付けられた。全例トラスツズマブの投与歴があり、タキサン系薬剤の投与歴は、T-DXd群とPC群で、84%と89%、ラムシルマブ投与歴は75%と66%、免疫チェックポイント阻害薬の投与歴は、それぞれ35%と27%であった。主要評価項目は奏効割合で、T-DXd群で42.9%、PC群で12.5%と有意にT-DXd群で良好であった。無増悪生存期間中央値も、5.6ヵ月と3.5ヵ月(HR=0.47)、生存期間中央値も12.5ヵ月と8.4ヵ月(HR=0.59、p=0.0097)と有意にT-DXd群が良好であった。一方T-DXd群では、主に血液毒性が多く認められ、Grade3以上の好中球減少を51%認めたが、発熱性好中球減少は6名(4.8%)であり、治療関連死は両群に1名ずつ認められ、肺炎であった。注目すべき有害事象として、肺臓炎をT-DXd群にて9.6%に認めたが、多くはGrade2以下であった。T-DXdはすでに2020年4月に乳がんに対して適応承認を取得しているが、治療歴のあるHER2陽性胃がん患者に対しても、適応承認申請中であり、近いうちに実臨床にて使用可能になると思われる。HER2陽性の肺がんや、大腸がんに対しても有効性が示されており、アストラゼネカと第一三共が提携を結び、日本以外の地域においても、他がんや、HER2陽性胃がんへの1次治療への開発などが期待されている。FOLFIRI plus ramucirumab versus paclitaxel plus ramucirumab as second-line therapy for patients with advanced or metastatic gastroesophageal adenocarcinoma with or without prior docetaxel: Results from the phase II RAMIRIS Study of the AIO.胃がん2次治療における、FOLFIRI+ラムシルマブと、パクリタキセル+ラムシルマブのランダム化比較第II相試験Lorenzen S et al.RAINBOW試験の結果、胃がんの2次治療は、パクリタキセルとラムシルマブの併用療法が標準治療である。1次治療不応後だけでなく、術後補助化学療法中や終了後6ヵ月以内の再発の場合もフッ化ピリミジン不応と考えて、2次治療であるパクリタキセルとラムシルマブが投与される。しかし近年、術後のドセタキセル+S-1療法や、欧米では、術前後のFLOT療法など、周術期の化学療法でタキサン系薬剤が用いられる傾向にあり、術後早期再発にてタキサン系薬剤以外の薬剤とラムシルマブの併用療法の評価を行う必要が生じてきた。もともと欧州で胃がんの2次治療のひとつであるFOLFIRIにラムシルマブを併用した治療と、標準治療であるパクリタキセル+ラムシルマブを比較するRAMIRIS試験が計画された。フッ化ピリミジンとプラチナを含む化学療法から6ヵ月以内に進行が認められた胃がん患者を対象とし、ドセタキセルの使用については許容され、調整因子とされた。PTX+RAM群に38名、FOLFIRI+RAM群に72名が割り付けられ、約65%の患者がタキサン使用歴ありだった。奏効割合は、FOLFIRI+RAM群は22%、PTX+RAM群は11%、タキサン使用歴あり患者に絞ると、25%と8%と、FOLFIRI+RAM群で良好な傾向であった。生存期間中央値は、それぞれの群で、6.8ヵ月と7.6ヵ月、無増悪生存期間中央値は3.9ヵ月と3.6ヵ月、タキサン使用歴ありだと、7.5ヵ月と6.6ヵ月、4.6ヵ月と2.1ヵ月であった。現在第III相試験が進行中であり、とくにタキサン使用歴のある患者についてはFOLFIRI+RAMが標準治療になる可能性がある。日本ではCPT-11+RAMの結果も報告されており、FOLFIRIである必要があるのかなどいくつかの疑問もあり、今後の結果が注目される。Perioperative trastuzumab and pertuzumab in combination with FLOT versus FLOT alone for HER2-positive resectable esophagogastric adenocarcinoma: Final results of the PETRARCA multicenter randomized phase II trial of the AIO.切除可能HER2陽性胃がんに対して、周術期FLOT単独とFLOTとトラスツズマブとペルツズマブの併用療法を比較するランダム化第II相比較試験~PETRARCA試験最終解析Hofheinz RD et al.欧米では、切除可能胃がんの標準治療は術前術後のFLOT療法であるが、HER2陽性胃がんに対する周術期の分子標的治療薬の上乗せ効果については明らかではない。また、トラスツズマブとペルツズマブの併用については、乳がんでは上乗せ効果が示され、標準治療となっているが、胃がんの初回治療での化学療法とトラスツズマブに、ペルツズマブの上乗せ効果をみたJACOB試験では、ペルツズマブの上乗せは良好な傾向を示したものの、有意差を示さず、ネガティブな結果であった。PETRARCA試験ではFLOT単独群とFLOT+トラスツズマブ+ペルツズマブ(FLOT+TP)群にランダムに割り付けられ、主要評価項目は病理学的完全奏効(pCR)割合とされた。FLOT群に41名、FLOT+TP群に40名が割り付けられ、pCR割合は12%、35%とFLOT+TP群で有意に良好であった(p=0.02)。無病生存期間中央値はFLOT群で26ヵ月、FLOT+TP群で未達であった(HR=0.576、p=0.14)。生存期間中央値は両群で未達、HRは0.558、p=0.24と、観察期間は不十分ながら、FLOT+TP群で良好な傾向であった。術前術後化学療法での有害事象はFLOT+TP群でGrade3以上の下痢(5% vs.41%)、疲労(15% vs.23%)が多かったが、術後合併症は両群で差はなく、R0切除割合はFLOT群で90%、FLOT+TP群で93%、術後60日以内死亡も両群で1名ずつであった。本試験は、少ない症例数ながら、周術期でのHER2陽性胃がんに対する分子標的治療薬が有用な可能性を示した。ペルツズマブを併用することで、トラスツズマブの耐性機序のひとつであるHER3からのシグナルを抑え、短期的な有効性が上昇することを示した。JACOB試験で有意な差が出なかったのは、後治療などで効果が薄まったためと考えられるが、短期的な腫瘍縮小効果が差を生み出せる周術期でどうなのか、今後の検討が期待されるSintilimab in patients with advanced esophageal squamous cell carcinoma refractory to previous chemotherapy: A randomized, open-label phase II trial (ORIENT-2).治療歴のある食道扁平上皮がんに対するsintilimabのランダム化第II相試験ORIENT-2試験Xu J et al.近年食道扁平上皮がんに対して免疫チェックポイント阻害薬の有効性が報告されており、ATTRACTION-3試験では、2次治療において、バイオマーカーにかかわらずタキサン系薬剤と比較してニボルマブが有意に生存期間を延長し、日本・韓国・台湾において、ニボルマブが食道扁平上皮がん既治療例に対して適応承認を得ている。KEYNOTE-181試験では、ペムブロリズマブが、CPS(combined positive score)10以上の食道がんにおいて、化学療法群と比較して生存期間延長を示し、米国では、CPS10以上の食道扁平上皮がんに対して適応承認が得られている。また、中国で行われた第III相試験であるESCORT試験では、抗PD-1抗体であるcamrelizumabが既治療例の食道扁平上皮がんに対して、化学療法群と比較して生存期間の延長を示している。ORIENT-2試験は、既治療例食道扁平上皮がんに対する、抗PD-1抗体であるsintilimab群と、医師選択化学療法群を比較した、ランダム化第II相試験であり、180名が登録され、それぞれの群に95名割り付けられた。医師選択化学療法では72名がイリノテカンで、15名がパクリタキセルを投与された。中国では、初回化学療法において、タキサン系とプラチナ系薬剤が併用されることが多く、そのため2次治療としてイリノテカンが用いられることが多い。主要評価項目である生存期間は、中央値がsintilimab群で7.2ヵ月、化学療法群で6.2ヵ月(HR=0.70、p=0.03)と有意にsintilimab群にて延長を認めた。奏効割合も12.6%と6.3%と、sintilimab群で良好な結果であったが、無増悪生存期間中央値では、sintilimab群で1.6ヵ月、化学療法群で2.9ヵ月という結果であった。曲線はクロスしており、後半でsintilimab群が持ち直し、HRでは1.0と両群で差を認めなかった。PD-L1の発現や、そのほかのサブグループの有効性の発表はなかったが、NLR(neutrophil-to-lymphocyte ratio)3未満の集団は、3以上の集団に比べて、sintilimabの有効性が上昇することが示された。安全性に新たな知見はなかった。sintilimabも過去の報告と同様の効果を食道扁平上皮がんに対して示したが、このラインではすでに複数のチェックポイント阻害薬が承認されており、差別化をどのように行うかが今後の課題と思われる。すでに初回化学療法での併用効果や、化学放射線療法との併用、周術期での効果など、食道扁平上皮がんにおける免疫チェックポイント阻害薬は、新たな局面を迎えている。Final analysis of single-arm confirmatory study of definitive chemoradiotherapy including salvage treatment in patients with clinical stage II/III esophageal carcinoma: JCOG0909.病期II/III食道がんに対する、根治的化学放射線療法と救済治療を含む単アームの検証的試験~JCOG0909最終解析Ito Y et al.切除可能食道がんに対する治療は、術前治療に引き続く食道切除術であり、日本では術前化学療法、欧米では術前化学放射線療法が主に行われている。食道扁平上皮がんは放射線感受性が高く、化学放射線療法のみでがんが消失、完全反応(CR)となるケースも少なくない。CRとなる患者は、比較的大きな侵襲となる食道切除術を行わずに根治が得られる可能性を考え、欧米でも、化学放射線療法を行い、CRが得られた患者に対して、切除を行う群と、慎重観察を行い、がんの再発が認められたら切除に行く群のランダム化比較試験が行われたりしている。ただ、化学放射線療法後にどのような基準で手術に行くのか、タイミングはいつがよいのか、その時のリスクがどの程度なのか、まだよくわかっていない。JCOG0909は、まず放射線線量50.4Gyにて、根治的化学放射線療法を行い、CRあるいは、腫瘍の縮小が良好な場合は治療継続と経過観察、明らかな遺残あるいは再発を来した場合は救済手術あるいは救済内視鏡を行うことをプロトコール治療に組み込んだ単アームの試験である。線量を60Gyとしていた時代に行われたJCOG9906では、救済手術での治療関連死が10%以上認められ、放射線後に行う救済手術のむつかしさが浮き彫りになった。JCOG0909ではその経験を踏まえ、線量を抑える代わりに、5-FUの投与量を増やし、また頻回に評価することで、腫瘍が増大する前に救済手術を試みるような設定がなされた。94名の食道扁平上皮がん患者が登録され、病期IIA/IIB/IIIの内訳は、22/38/34と比較的II期が多かった。完全奏効割合は58.5%と既報と比較して同等かやや低い傾向であったが、これは早めに救済手術に持ち込む戦略であることや、5-FUの増量により食道炎が増加し、CRの判定が遅れたことなどが影響していると思われる。5年の経過フォロー後の結果として、5年生存割合は64.5%、5年無増悪生存割合は48.3%と、既報の化学放射線療法のJCOG9906試験の36.8%と25.6%と比して大幅に改善された。術前化学療法と手術療法の組み合わせと比較しても、JCOG9907試験のB群の55%、44%と、引けを取らない結果であった。27名の患者で救済手術が行われ、R0切除となった21名では、3年生存48.3%と長期生存が得られている。食道気管肺の瘻孔形成による周術期死亡が認められたが、救済手術はおおむね安全に実施されていた。5年食道温存生存割合は54.9%と高い値を示し、根治的化学放射線療法により、食道温存をしたまま長期生存が期待できることを示した。また、仮に遺残や再発した場合でも切除可能な段階であれば、救済手術を行うことで、約半数の患者が長期生存を達成できることが示された。現在免疫チェックポイント阻害薬と根治的化学放射線療法の併用療法の検討が開始されており、より高いCR割合が得られるようになれば、まず化学放射線療法を行い、CRになれば、食道温存したまま経過観察、遺残すれば、救済手術を行う、という治療戦略が一般的になる可能性も秘めている。前向き試験の中で、救済手術の安全性と有効性をしっかりと示した例は世界的にもなく、食道がんの臨床に影響を与える結果と思われた。一方で、比較対象となる術前治療と手術のエビデンスであるJCOG9907などと比較して、II期が占める割合が多いため、治療成績については考慮する必要がある、食道がんの専門病院で、経験のある腫瘍内科医と、外科医が治療した結果のため、どこまで一般化できるのか、などの指摘もあるが、今後につながる内容であった。文献1.Shitara K, et al. N Engl J Med. 2020 May 29. [Epub ahead of print]

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双極性障害患者における抗精神病薬誘発性体重増加とアドヒアランス

 双極スペクトラム障害の若年患者における第2世代抗精神病薬(SGA)の服薬アドヒアランスへの障壁に関して、医師、患者、患者家族の視点、およびSGA関連の体重増加の治療に対する考え方について、米国・シンシナティ大学のChristina C. Klein氏らが調査を行った。Journal of Child and Adolescent Psychopharmacology誌オンライン版2020年5月19日号の報告。 18歳までに双極性障害と診断された225例およびその両親(128人)、これらの患者にSGAを処方した経験のある医師(54人)を対象に、SGA関連副作用、アドヒアランスへの障壁、体重マネジメント戦略の受け入れに関する調査を実施した。 主な結果は以下のとおり。・SGA関連副作用として体重増加を報告した割合は、患者45.6%、その両親38.9%、医師70.4%であった。・体重増加は、患者にとってアドヒアランスへの障壁の第1位(35.9%)であり、その両親にとって第4位(41.8%)であった。・患者(61.5%)は、その両親(20.1%)や医師(1.9%)よりも、SGA開始時に体重管理のための他剤併用を希望していた。・逆に、両親(54.9%)や医師(84.9%)は、10ポンド以上の体重増加を戻すことを目的とした次の薬剤を希望していたが、患者(61.1%)はあらゆる体重増加を元に戻すための他剤併用を希望していた。 著者らは「双極性障害の若年患者において、SGA関連の体重増加は、服薬アドヒアランスを低下させる可能性がある。多くの若年患者は、SGA治療開始時に体重増加に対する薬理学的介入を希望しているが、両親や医師はためらっていると考えられる」としている。

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第9回 今や54人に1人、自閉症の増加はおそらく環境要因によるものではない

スウェーデンの多数の双子を調べた新たな試験1,2)の結果、自閉症のほとんどは生来の遺伝情報に起因しているようであり、自閉症への生来の遺伝情報と環境の関与のほどは数十年変わっておらず、自閉症の増加はおそらく環境要因によるものではないと示唆されました。今回の試験では、1982~2008年に生まれた双子22,678組と、1992~2008年に生まれた双子15,280組が調べられました。その結果、それらの2群のうち前者では約24%、後者では約30%を占める一卵性双生児のどちらもが自閉症である割合は一卵性双生児ではない双子に比べて一貫して高く、およそ93%の自閉症と61~73%の自閉症特徴は生来の遺伝情報に起因すると示唆されました。今回の結果は5ヵ国の小児200万人超を解析した最近の試験報告3,4)とほぼ一致しています。昨年9月にJAMA Psychiatry誌に掲載されたその試験では、自閉症の80%ほどが遺伝情報に起因すると推定されました。自閉症の生じやすさへの親譲りの遺伝情報の寄与は、出産時の親の年齢と子の自閉症の関連の研究などで示唆されています。東京大学のWalid Yassin氏らが昨年報告した自閉症成人39人とそうでない男性37人の死後脳解析では、生まれた時の父親の年齢がより高齢な男性には、自閉症と関連する脳白質異常がより認められました5,6)。また、今年初めにCell Stem Cell誌に掲載された研究では自閉症の特徴の一つである脳肥大に寄与するらしい神経前駆細胞(NPC)過剰増殖とDNA損傷の関連が示されています7,8)。その翌月2月のNature Neuroscience誌掲載の報告では、神経の軸索を覆って絶縁し、脳内の高速の信号伝達を可能にしている脂質の鞘・ミエリンの形成に携わる細胞・オリゴデンドロサイト(OL)成熟不良と自閉症の関連が示唆されました9,10)。自閉症はここ数年で増加しています。この3月に発表された米国疾病管理予防センター(CDC)の推定では、米国の2016年の8歳児の54人に1人が自閉症であり、2014年のその割合(59人に1人)に比べて10%ほど上昇しています11)。同時に発表された4歳児の統計結果によるとより幼くして自閉症が見つかることが多くなっていることが伺われ、その傾向が続けば8歳児の自閉症有病率はおそらく今後更に上昇します。小児の自閉症が増えていることは自閉症の成人により目を向ける必要があることも示唆しています。米国でおそらく毎年75,000人ほど増えている自閉症の成人の社会参画に取り組まなければならないと、ジョージア州アトランタ市のEmory Autism Centerの長Catherine Rice氏は言っています。Rice氏は屈指の自閉症ニュースサイトSpectrumに続けてこう言っています。「ほとんどの地域には自閉症の人の数々の苦労にあまねく対処する取り組みがない。社会の一翼を担う自閉症成人が健やかに過ごせるようにする手立てが必要だ」また、上述したような研究が進めば、自閉症の負担そのものを解消する手立てもやがて見つかるでしょう。たとえばOL成熟不良と自閉症の関連が示されたことを受け、次はミエリン形成異常を示す人工脳を使ってミエリン形成を増やす化合物探しが期待できます9)。小児の自閉症が早期診断され、治療で症状が治まるようになることを同研究の著者らは望んでいます。参考1)Environmental Factors Don’t Explain Rise in Autism Prevalence / TheScientist2)Taylor MJ, et al. JAMA Psychiatry. 2020 May 6. [Epub ahead of print]3)Bai D, et al. JAMA Psychiatry. JAMA Psychiatry. 2019 Jul 17;76:1035-1043.4)Majority of autism risk resides in genes, multinational study suggests / Spectrum5)Paternal Age Linked to Brain Abnormalities Associated with Autism / TheScientist6)Yassin W, et al. Psychiatry Clin Neurosci. 2019 Oct;73(10):649-659.7)DNA Damage Linked to Brain Overgrowth in Autism / TheScientist8)Wang M, et al. Cell Stem Cell. 2020 Feb 6;26:221-233.e6.9)Phan BN, et al. Nat Neurosci. 2020 Mar;23:375-385.10)Inadequate Myelination of Neurons Tied to Autism: Study / TheScientist11)New U.S. data show similar autism prevalence among racial groups / Spectrum

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小児・青年に対する抗精神病薬使用と急性ジストニア

 小児および青年における抗精神病薬治療による急性ジストニアの発生率とそのリスク因子について、トルコ・Ankara Yildirim Beyazit UniversityのSelma Tural Hesapcioglu氏らが検討を行った。Journal of Child and Adolescent Psychopharmacology誌オンライン版2020年4月7日号の報告。 2015~17年に大学病院の小児および青年期精神科外来を受診し、抗精神病薬による治療を受け、2回以上のフォローアップを受けた患者を対象に、レトロスペクティブチャートレビューに基づくコホート研究を実施した。 主な結果は以下のとおり。・抗精神病薬治療を受けた4~19歳の患者は、441例であった。・抗精神病薬治療の理由は、以下のとおりであった。 ●行動障害(21.5%) ●注意欠如多動症(13.2%) ●知的障害を伴う過敏性と攻撃性(12.9%)・急性ジストニアは、30例(6.8%)で発生し、フォローアップ99.5±223.3日(中央値:34日)後に認められた。・急性ジストニアは、1つの抗精神病薬で治療された患者391例中11例(2.8%)、2つの抗精神病薬で治療された患者50例中19例(38.0%)で発生した(p<0.001)。・1つの抗精神病薬で治療された患者における急性ジストニア発症までの期間は、抗精神病薬治療開始後4.0±4.0日、抗精神病薬増量後2.7±2.4日であった。・2つの抗精神病薬で治療された患者における急性ジストニア発症までの期間は、2つ目の抗精神病薬を追加後3.0±2.3日、2つ目の抗精神病薬増量後1.6±0.8日であった。・1つの抗精神病薬で治療された患者における急性ジストニア発生率は、第1世代抗精神病薬(FGA)で10.5%、第2世代抗精神病薬(SGA)で2.2%であった(p=0.037)。・急性ジストニアの発生により、抗精神病薬を変更した患者は急性ジストニアの症例30例中12例(40.0%)であった。・急性ジストニアに関連する独立したリスク因子は、以下のとおりであった。 ●抗精神病薬の多剤併用(p<0.0001) ●入院治療(p=0.013) ●FGA使用(p=0.015) ●統合失調症の診断(p=0.039) ●双極性障害の診断(p<0.0001) 著者らは「小児および青年における急性ジストニアのリスクは、SGAや低力価FGAでは低く、中~高力価FGAでは高かった。急性ジストニアの発生には、積極的な抗精神病薬による治療が関連している可能性がある」としている。

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降圧薬の処方内容はCOVID-19予後に影響するか?(解説:冨山博史氏)-1231

はじめに COVID-19発生から半年近くが過ぎようとしている。しかし、まだまだ収束そして終息にも時間を要する。COVID-19では肺炎に加え、脳心血管疾患、血栓症など生命に影響する重大な合併症を発生する。そうした合併症は、高齢者や脳心血管疾患・悪性疾患など基礎疾患を有する症例で多い。ゆえに、そうした症例における合併症発生予防に細心の注意を払う必要がある。中国では高血圧症例でCOVID-19症例の予後が不良であることが報告された1)。SARS-CoV-2ウイルスの細胞内侵入にはangiotensin converting enzyme 2(ACE2)が重要な役割を果たす。このため、renin-angiotensin系に影響する降圧薬ACE inhibitor(ACEi)やangiotensin II receptor blocker(ARB)がACE2発現に影響し、ウイルス侵入を増悪させることが懸念されていた。しかし、懸念はあくまで仮説であり、3月13日発表の欧州高血圧学会Position Statement of the ESC Council on Hypertension on ACE-Inhibitors and Angiotensin Receptor Blockersでは、同危険性の十分な根拠がないため両降圧薬のむやみな中止・変更は控えるように推奨された。今回の知見 2019年12月から2020年3月の期間で、欧州、北米、アジアで計169の病院にCOVID-19で入院した8,910例を対象とした多施設共同登録研究が実施された2)。#COVID-19の診断:咽頭ぬぐい液のPCR検査で感染を診断#解析方法:入院後転帰の院内死亡例と生存例で降圧薬処方内容を含む臨床背景を比較#結果とコメント:生存例(8,395例、平均年齢49歳)、院内死亡例(515例、平均年齢56歳)であり、院内死亡例は高齢で男性が有意に多かった。また、これまでの報告と同様、院内死亡例で冠動脈疾患、心不全、不整脈(心疾患の院内死亡のODDS比は約2倍)、糖尿病、脂質異常症、慢性閉塞性肺疾患(院内死亡のODDS比は約3倍)、現在喫煙の合併比率が有意に高かった(脳卒中に関しては評価されていない)。本検討では、高血圧合併頻度は生存例(2,216/8,395例:26.4%)と院内死亡例(130/515例:25.2%)で有意な差を示さなかった。これは上述の中国の報告1)と異なる結果である。そしてACEiおよびARBの処方率は、生存例{ACEi(754/8,395例:9%)、ARB(518/8,395例:6.2%)}、院内死亡例{ACEi(16/515例:3.1%)、ARB(38/515例:7.4%)}であり、ARB処方頻度は両群に差はなく、ACEiはむしろ生存例での処方頻度が高かった。 本試験は、短期間の登録研究であり、すでにCOVID-19の症例である。ゆえに、COVID-19がすでに診断されている症例では、感染に関連する病態増悪を懸念してACEi・ARBの他の降圧薬への変更は必要ないことが支持される。同様の結果はイタリアからも報告されている3)。今回の研究では、ACEiおよびARBのCOVID-19の易感染性については検証されていない。しかし、同イタリアの研究では両降圧薬が易感染性にも影響しない可能性を報告している3)。 中国と欧米では蔓延するSARS-CoV-2ウイルスの亜型が異なる。この差異が高血圧合併の感染性への影響に関連した可能性は否定できない。ゆえに、今後、武漢株での感染例においても高血圧合併の有無および降圧薬の予後への影響について検証する必要がある。追記:ACE2について SARS-CoV-2ウイルスは細胞表面の受容体ACE2を介して細胞内に取り込まれる。ACE2は、膜内存在性蛋白で気管支、肺、心臓、腎臓、消化器等の多くの組織に発現している。ACE2はACE(angiotensin Iからangiotensin IIへ変換する酵素)と構造が類似しているが、別の作用を有し、angiotensin IIからangiotensin-(1-7)への変換を行う。このangiotensin 1-7は降圧や心血管保護作用を有すると考えられている。

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第8回 話して生じる飛沫は空中を8分間漂い、新たなCOVID-19感染の火種となりうる

はしか(麻疹)、インフルエンザウィルス、結核菌等の呼吸器ウイルスは咳やくしゃみで放たれた飛沫を介して感染を広げます。飛沫のもとである口腔液に大量に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が存在することが発症患者1)のみならず無症状の患者2)でも確認されており、おそらくSARS-CoV-2も飛沫に収まって浮遊できるでしょう。普通に話しても飛沫が生じることは、咳やくしゃみによる飛沫ほどは広く知られておらず、話したときに生じてしばらく浮遊しうる直径30μm未満の飛沫の意義はこれまで蚊帳の外に置かれていました。しかし米国NIH支部の国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所(NIDDK)の研究者らの試験結果によると、その認識は改める必要があるようです。先週水曜日にPNAS誌に掲載されたその報告によると、話したときに生じる飛沫は空中に8分間は浮遊し、新たなSARS-CoV-2感染の火種になるおそれがあるといいます3,4)。研究者は被験者に“stay healthy(健康でいよう)”というフレーズを25秒間繰り返し言ってもらい、そのときに発生する飛沫の浮遊(30cm落下)時間半減期を測定しました。その時間が8分間であり、話して生じた飛沫の直径はおよそ4 μm、口を出る前の乾燥前の粒子の直径は12μm以上と推定されました。この結果によると、1分間大声で話せば、ウイルスを含有する少なくとも1,000粒の飛沫が8分を超えて空中に留まり、その量はそれらを吸い込んだ誰かにCOVID-19を誘発しうるレベルだといいます。今回の研究を実施した研究チームは、話しているときの飛沫を撮影した結果を先月4月中旬にNEJM誌に報告しており5)、その試験では、布マスクをして話せば前方への飛沫の発散を抑えられることが示されています。アメリカ疾病管理センター(CDC)も推奨するマスク着用が、SARS-CoV-2の広がりを遅らせうる大事な役割を担うことを、前回のその報告と今回のPNAS報告は示していると、NIDDK広報担当者は米国の新聞USA TODAY紙に話しています6)。マスクの効果に関するこれまでの試験を集めて検討したPNAS誌投稿査読前報告7,8)の著者の見解はさらに揺るぎなく、公共の場でのマスク着用は、皆が守ればSARS-CoV-2の広まりを確実に防ぐ(Public mask wearing is most effective at stopping spread of the virus when compliance is high)と結論しています。参考1)Chan JF,et al. J Clin Microbiol. 2020 Apr 23;58.2)Wolfel R,et al. Nature. 2020 Apr 1. [Epub ahead of print]3)Droplets from Speech Can Float in Air for Eight Minutes: Study / TheScientist4)Stadnytskyi V,et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2020 May 13. [Epub ahead of print]5)Anfinrud P,et al. N Engl J Med. 2020 Apr 15. [Epub ahead of print]6)Simply talking in confined spaces may be enough to spread the coronavirus, researchers say / USAToday7)If 80% of Americans Wore Masks, COVID-19 Infections Would Plummet, New Study Says / VanityFair8)Face Masks Against COVID-19: An Evidence Review. Preprints. Version 2 : Received: 12 May 2020

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第7回 COVID-19に立ち向かう医療従事者をBCGワクチンで守れるか? 国際試験が進行中

新生児の結核予防にほぼ100年も前から使われてきたワクチンがほかの感染症も防ぐという裏付けに触発され、フランスの微生物学者の名にちなんで名付けられたそのワクチン・カルメットゲラン桿菌(BCG)で、目下の新型コロナウイルス感染(COVID-19)流行を防ぐことができるのか、研究者が調べ始めています。BCGワクチンの成分は結核を引き起こす細菌の類縁菌・Mycobacterium bovisを弱毒化したものです。これまでに40億人以上に接種されており、世界で最も広く投与されているワクチンの一つとなっています1)。BCGは結核に対する特異的な効果のみならず、幅広く、多くの感染症に対し非特異的に防御する効果を免疫系に備わせる働きがあります2)。たとえば、新生児の死亡率が高いギニアビサウでの3試験のメタ解析の結果、低体重出生児へのBCG-Denmark(BCGワクチンの1つ)接種は生後28日間の死亡率の38%低下と関連し、その効果は主に肺炎や敗血症による死亡の減少によってもたらされました3)。12~17歳の若者が参加した南アフリカでの無作為化試験ではBCG-Denmark接種で上気道感染症発現率がプラセボ群に比べて73%(2.1% vs 7.9%)低下しました2,4)。オランダのMihai Netea氏等による試験では、ウイルスへの効果も示唆されています。健康な成人にBCG-Denmarkを接種してしばらくしてからあえて弱毒化黄熱病ウイルスを投与したところ、血中ウイルス量がプラセボ投与に比べて有意に減少しました5)。そのような試験や研究成果を背景にして、COVID-19への効果の緒を掴むべく、BCG接種義務国とそうでない国を比較した結果が報告されるようになっています。たとえば査読前報告掲載サイトmedRxivに今月初めに掲載された報告によると、BCG接種が義務であることは流行最初の30日間のCOVID-19症例数や死亡数の増加がより緩やかであることと関連しました6)。3月末にmedRxivに掲載された別の報告ではイタリア、米国、オランダ等のBCGワクチンが広まっていない国はワクチンが広く接種されている国に比べて流行の被害がより大きいことが示されています7)。ただしそれらの報告は因果関係を示すものではありません。また、個々のヒト単位の比較ではなく国と国の比較には結果を偏らせる多くの要因が存在し、それらをすべて差し引いて解析することは不可能です。BCGワクチンをかれこれ20年調べているデンマークの疫学者Christine Stabell Benn氏は、COVID-19に関するそれらの最近のBCGワクチンの検討データは裏付けの重みとしては最底辺の類のものだが、長年に渡って蓄積された裏付けによると、BCGワクチンのCOVID-19予防効果にかけてみるのは悪くないと科学ニュースThe Scientistに話しています。Benn氏はすでに動きだしており、COVID-19のリスクが最も高い人々、すなわちその対処にあたる医療従事者1,500人を募る試験を始めています。BCGで欠勤が減るかどうかやCOVID-19発現が減るかどうか等が調べられます。デンマークでは1980年代までBCGワクチンが使われており、学校でかつてBCGワクチン接種経験がある医療従事者も試験には混じるでしょう。Benn氏は過去にBCG接種経験がある人への更なる接種は接種経験がない人より有効だろうと想定しています。Benn氏と協力関係にある上述のNetea氏はオランダで同様の試験を開始しています。また、オーストラリア出身のメディア王マードック氏の母親Dame Elisabeth Murdoch(エリザベス マードック)氏の支援を受けて30年前の1986年に設立された同国の小児健康研究所Murdock Children’s Research Institute(MCRI)は、Netea氏も協力する国際試験BRACEを3月27日に始めています。医療従事者を対象としたそれらの試験結果は待ち遠しいですが、無作為化試験以外で先走ってCOVID-19予防にBCGを接種してはいけないと世界保健機関(WHO)は釘を刺しています。あまり当てにならない最近の査読前報告を高品質な裏付けと勘違いしてBCGに群がると、すでに不足気味となっているBCGワクチンがそれを必要としている乳幼児に行き渡らなくなる恐れがあります。実際、アフリカの一部では小児向けのワクチンが医療従事者に横流しされていると上述のBRACE試験を率いるNigel Curtis氏は聞いており、「軽はずみにワクチンを使い始めると幼い子にツケが回る。いまあるワクチンは赤ちゃんの結核を予防するものだ」とThe Scientistに話しています。試験外での不適切な使用を注意しつつCurtis氏が進めているBRACE試験を支援する動きは広がっており、最近になってその被験者数はゲイツ財団(Bill & Melinda Gates Foundation)からの1,000万ドル支援を受けて4,000人から1万人へと大幅に増えています。5月5日の発表によると、試験にはすでに医療従事者2,500人が組み入れられています8)。感染症に広く効きうるBCGワクチン等が病因狙い撃ちワクチン完成までの橋渡しの役割を担うことは、目下のCOVID-19流行や将来の感染流行への対処に大いに貢献するだろうとCurtis氏等はLancet誌に記しています2)。参考1)An Old TB Vaccine Finds New Life in Coronavirus Trials / TheScientist2)Curtis N,et al. Lancet. 2020 Apr 30.3)Biering-Sørensen S,et al. Clin Infect Dis. 2017 Oct 1;65:1183-1190. 4)Nemes E,et al. N Engl J Med. 2018 Jul 12;379:138-149.5)Arts RJW,et al. Cell Host Microbe. 2018 Jan 10;23:89-100.6)Mandated Bacillus Calmette-Guerin (BCG) vaccination predicts flattened curves for the spread of COVID-19. medRxiv. May 04, 20207)Correlation between universal BCG vaccination policy and reduced morbidity and mortality for COVID-19: an epidemiological study. medRxiv. March 28, 20208)10M grant enables MCRI’s BCG vaccine trial to expand internationally, enrol 10,000 healthcare workers / Murdoch Children’s Research Institute’s (MCRI)

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