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アリピプラゾール長時間作用型注射剤で治療された患者の臨床経過

 抗精神病薬の長時間作用型注射剤(LAI)は、統合失調症および関連疾患患者の治療を維持し、アドヒアランスを確保するうえで、効果的な治療オプションである。アリピプラゾールLAIは、治療アドヒアランスを改善し、再発を軽減することが可能な非定型抗精神病薬である。スペイン・Health Centre Los AngelesのJuan Carlos Garcia Alvarez氏らは、6ヵ月間のアリピプラゾールLAI治療による、精神症状や社会機能の改善、副作用の軽減、抗精神病薬併用の減少に対する効果について、評価を行った。International Journal of Psychiatry in Clinical Practice誌オンライン版2020年1月14日号の報告。 アリピプラゾールLAIを開始または切り替えを行った統合失調症スペクトラム障害患者53例を対象に、多施設共同プロスペクティブ研究を実施した。アリピプラゾールLAIの評価には、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)、Udvalg for Kliniske Undersogelser scale for side effects、機能の全体的評価尺度(GAF)、臨床全般印象度-統合失調症(CGI-SCH)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・アリピプラゾールLAI治療は、PANSSのすべてのドメインを有意に改善した(p<0.05)。・6ヵ月間のアリピプラゾールLAI治療後、有害事象の重症度に有意な改善が認められた(p<0.05)。・ベースラインから6ヵ月目までの機能評価スコアに、有意な差が認められた(p=0.0002)。・アリピプラゾールLAI治療により、重症患者の割合が減少した(CGI-SCH)。・6ヵ月の治療後、プロラクチン濃度は、正常化された(43.0→14.7ng/mL)。・6ヵ月間のアリピプラゾールLAI治療後、精神病薬の併用は有意に減少した。 著者らは「6ヵ月間のアリピプラゾールLAI治療は、代謝プロファイルに影響を与えることなく、臨床症状を改善し、抗精神病薬の併用も減少させた。この研究結果は、アリピプラゾールの有効性、安全性に関するこれまでのデータを裏付けている。アリピプラゾールLAIは、統合失調症スペクトラム障害患者における治療アドヒアランスの最適化に役立つ可能性がある」としている。

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PCI対CABG:どちらが優れている?(解説:上田恭敬氏)-1187

 2008年から2015年の間に1,201症例の血行再建が必要なLMT症例を登録し、PCIとCABGのいずれが優れているかを検討した多施設無作為化比較非劣性試験(NOBLE試験)の5年フォローアップの結果が報告された。主要エンドポイントであるMACCEは全死亡、心筋梗塞、再血行再建術、脳卒中の複合エンドポイントである。 カプラン・マイヤー解析による5年MACCEは、PCI群で28%、CABG群で19%となり、非劣性の要件を満たさず、CABGの優位性(p=0.0002)が示された結果となった。エンドポイントの構成成分を見ると、全死亡と脳卒中に有意な群間差はないものの、心筋梗塞がPCI群で8%、CABG群で3%(HR:2.99、95%CI:1.66~5.39、p=0.0002)、再血行再建術がPCI群で17%、CABG群で10%(HR:1.73、95%CI:1.25~2.40、p=0.0009)といずれもCABG群で少ない結果であった。 この結果を解釈する際には、PCIのデバイスや技術の進歩によってPCI群の成績改善がどれだけ達成されているかという問題と、MACCEにつながる全身的なリスクコントロールがどれだけ達成されているかという問題を考える必要がある。 前者については、本試験ではアンギオガイドのPCIが行われているが、ULTIMATE試験の結果によれば、IVUSを適切に使用することで、再狭窄などのイベントが3分の1程度にまで低下する可能性があることが示されている。また、本試験では一部で第1世代のDESが使用されており、最新のDESを使用すれば、PCI群の成績はさらに向上することが期待される。 後者については、動脈硬化の進行によってプラーク破裂が生じて冠動脈が閉塞しても、閉塞部位よりも末梢にバイパス血管がつながれていれば心筋梗塞には至らないため、CABGには心筋梗塞の予防効果があるといえる。同様に、CABGには再血行再建術を予防する効果もあるが、動脈硬化の進行を十分に抑制できる薬物療法を実施できれば、この点におけるCABGのメリットは小さくなる。 また、本来、PCIは繰り返す施行が必要となる代わりに、CABGのような大きな侵襲を伴わないことがメリットであるので、主要エンドポイントに再血行再建術を入れるべきではないとの考えもあるだろう。 上述の2つの問題点を考えると、本試験は多少時代遅れの試験といえるだろうが、そのことについては本論文のDiscussionにおいて議論されていない。さらに、PCIの優位性を示すためには、厳格な薬物療法が重要であることを、もっと認識すべきではないだろうか。将来、真のOptimal medical therapyとOptimal PCIが実施された条件下で、PCIとCABGの比較試験が行われることを期待する。

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思わず納得な“あるある”川柳、ありますか?【医師のつぶやき川柳】

医師には、医師にしかわからない喜びや苦悩がありますよね? ちまたではサラリー◯ン川柳などが人気を博していますが、それとは違う思いがきっとあるはずです。そんな気持ちを全国の先生と共有していただきたく、医師のつぶやき川柳を募集しました。今回のお題は『病棟・診察室あるある』、厳正なる選考の結果、選ばれた10句をご紹介します。★アンケート概要アンケート名:『医師の皆さまから“診察室・病棟あるある”川柳を募集します』実施日:2019年12月25日~2020年1月17日調査方法:インターネット対象:CareNet.com会員医師応募総句数:441句

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転移TN乳がん1次治療、PTXにcapivasertib追加でPFSとOS延長(PAKT)/JCO

 トリプルネガティブ乳がん(TNBC)においてはPI3K/AKTシグナル伝達経路の活性化が頻繁にみられる。TNBCの1次治療でパクリタキセル(PTX)にAKT阻害薬capivasertibを追加したときの有効性と安全性を評価した二重盲検プラセボ対照無作為化第II相試験(PAKT試験)で、capivasertib追加で無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)が著明に延長し、とくにPIK3CA/AKT1/PTEN変異TNBCではより顕著であったことを英国・クイーンメアリー大学のPeter Schmid氏らが報告した。Journal of Clinical Oncology誌2020年2月10日号に掲載。 本試験の対象は未治療の転移を有するTNBCの女性140例。1サイクル28日間でPTX 90mg/m2(1、8、15日目)+capivasertib(400mg、1日2回)またはPTX+プラセボ(2~5、9~12、16~19日)に無作為に1対1に割り付け、病勢進行または許容できない毒性発現まで投与した。主要評価項目はPFS、副次評価項目はOSのほか、PIK3CA/AKT1/PTEN変異によるサブグループでのPFSおよびOS、腫瘍縮小効果、安全性であった。 主な結果は以下のとおり。・PFS中央値は、capivasertib+PTXが5.9ヵ月、プラセボ+PTXが4.2ヵ月であった(ハザード比[HR]:0.74、95%信頼区間[CI]:0.50〜1.08、片側p=0.06、事前に定義された有意水準は片側p=0.10)。・OS中央値は、capivasertib+PTXが19.1ヵ月、プラセボ+PTXが12.6ヵ月であった(HR:0.61、95%CI:0.37〜0.99、両側p=0.04)。・PIK3CA/AKT1/PTEN変異患者(28例)のPFS中央値は、capivasertib+PTXが9.3ヵ月、プラセボ+PTXが3.7ヵ月であった(HR:0.30、95%CI:0.11〜0.79、両側p=0.01)。・Grade3以上の主な有害事象は、下痢(capivasertib+PTX vs.プラセボ+PTX:13% vs.1%)、感染症(4% vs.1%)、好中球減少症(3% vs.3%)、発疹(4% vs.0%)、疲労(4% vs.0%)であった。

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HER2陽性転移乳がんに対するカペシタビン+トラスツズマブに対するtucatinibの上乗せ(HER2CLIMB試験):無増悪生存期間においてプラセボと比較して有意に良好(7.8ヵ月vs.5.6ヵ月)(解説:下村 昭彦 氏)-1185

 本試験は、経口チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)であるtucatinibのカペシタビン+トラスツズマブへの上乗せを検討した二重盲検第III相比較試験である。主要評価項目は最初に登録された480例における独立中央判定委員会による無増悪生存期間(PFS)で、RECIST v1.1を用いて評価された。PFS中央値は7.8ヵ月vs.5.6ヵ月(ハザード比:0.54、95%CI:0.42~0.71、p<0.001)でありtucatinib群で有意に良好であった。副次評価項目である全登録症例におけるOS中央値は21.9ヵ月vs.17.4ヵ月(ハザード比:0.66、95%CI:0.5~0.88、p=0.005)であり、こちらもtucatinib群で有意に良好であった。 OSの延長を認めたことから、学会発表の場でも非常にインパクトが大きく、同日NEJM誌へ論文掲載された。同日に発表されたT-DXdとも対象が重なっており、今後の臨床での使用については議論が活発になるであろう。異なった試験間で単純な比較をすることはできないが、T-DXdのPFS中央値が16.4ヵ月であることを考えると、T-DXdが好んで使われる可能性は高いだろう。 現在、HER2陽性転移乳がんに対して使うことのできるTKIとしてラパチニブがあるが、本剤が承認された際にはTKIとしてはtucatinibが優先的に使われるであろう。その理由としては、(1)現在標準治療の1つであるカペシタビン+トラスツズマブへの上乗せ効果を証明した試験であること、(2)本試験の対象がトラスツズマブ、ペルツズマブおよびトラスツズマブ エムタンシンによる治療歴を対象としており現在の実臨床に即していること、である。 残念なことに、この試験には日本からは参加できておらず、現時点でtucatinibが国内で承認される見込みは低い。米国食品医薬品安全局への申請は進められており、Breakthrough Therapyに指定されている。

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境界性パーソナリティ障害とADHDの関係に対する環境の影響

 近年の研究において、小児期の注意欠如多動症(ADHD)から成人期の境界性パーソナリティ障害(BPD)への移行が示唆されている。一般的な遺伝的影響が知られているが、生涯を通じてある疾患から別の疾患へ移行する可能性に対する環境要因の影響に関するエビデンスは、ほとんどない。スペイン・Hospital Universitary Vall d'HebronのNatalia Calvo氏らは、ADHD児におけるBPD発症リスク因子として、小児期のトラウマの影響を検証するため、既存のエビデンスのレビューを行った。Borderline Personality Disorder and Emotion Dysregulation誌2020年1月6日号の報告。 文献検索には、PubMed、Science Direct、PsychInfoを用いた。疫学および臨床サンプルよりBPDとADHDとの関係および小児期のトラウマの影響に関する研究を選択した。 主な結果は以下のとおり。・検索条件に一致した研究は、4件のみであった。・すべての研究は、小児期のトラウマをレトロスペクティブに分析しており、ADHDの有無にかかわらず、BPD成人患者を最も頻繁に検討していた。・分析されたエビデンスは、小児期のトラウマ数と臨床的重症度の高さとの関連を示唆していた。・分析された研究のうち3件では、感情的および性的なトラウマを経験したADHD児において、成人期のBPD発症リスクの増加が認められた。 著者らは「ADHD児におけるトラウマイベント、とくに感情的なトラウマの経験は、成人期のBPD発症リスクの増加と関連する可能性が示唆された。しかし、このことをリスク因子と見なすには、縦断的研究のような、より多くの研究が必要とされる。これらの研究から得られたエビデンスは、両疾患に関連する機能障害を軽減するための早期介入プログラムを開発するうえで役立つかもしれない」としている。

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トラスツズマブ エムタンシン既治療のHER2陽性転移乳がんに対するtrastuzumab deruxtecan(DESTINY-Breast01):単アームの第II相試験で奏効率は60.9%(解説:下村 昭彦 氏)-1184

 本試験は、トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)既治療のHER2陽性乳がんにおけるtrastuzumab deruxtecan(DS-8201a, T-DXd)の有効性を検討した単アーム第II相試験である。主要評価項目である独立中央判定委員会による奏効率(objective response rate:ORR)は60.9%と非常に高い効果を示した。病勢制御率(disease control rate:DCR)は97.3%、6ヵ月以上の臨床的有用率(clinical benefit rate:CBR)は76.1%であった。 ご存じのように、2018年のASCOで第I相試験の拡大コホートの結果が発表され、HER2陽性乳がんにおいて奏効率が54.5%、病勢制御率が93.9%と非常に高い効果が報告され、治療効果が期待されていた薬剤の1つである。T-DXdは抗HER2抗体であるトラスツズマブにトポイソメラーゼ阻害剤であるexatecanの誘導体を結合した新しい抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate:ADC)製剤である。1抗体当たりおよそ8分子の殺細胞性薬剤が結合しており、高比率に結合されている。 HER2陽性転移乳がんの標準治療は、1次治療でペルツズマブ+トラスツズマブ+タキサン療法、2次治療でT-DM1が行われていることが多い。3次治療以降はトラスツズマブ+化学療法もしくはラパチニブ+化学療法などが行われることが多く、治療効果は限定的であった。こういった日本を含む世界の現状から、T-DXdは非常に期待されている薬剤であり、2019年12月には米国食品医薬品安全局による承認を受けている。国内でもすでに承認申請が行われており、早期の承認が待たれている。また、T-DXdは国内企業が開発しており、学会発表や論文の筆頭・共著に国内の研究者が多数参加していることが特徴である。 一方で注意も必要である。Grade3以上の有害事象は50%以上の症例で確認されている。血液毒性や悪心嘔吐が頻度の高い有害事象であるが、13.6%で薬剤性肺障害が報告されている(Grade3は1例のみ)。薬剤の特性として肺障害が起きやすいことは指摘されていたが、実際に投与された症例でも薬剤性肺障害の頻度が高いことが示されている。治療関連死のリスクもあるため、今後実臨床下で使用する際には十分薬物療法の経験を積んだ専門医が治療に関わる必要があるだろう。 現在、T-DM1後の症例を対象として抗HER2薬+化学療法と直接比較を行う第III相試験、T-DM1との直接比較を行う第III相試験が行われており、目を離せない薬剤である。

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ファンコニ貧血〔FA:Fanconi Anemia〕

1 疾患概要■ 概念・定義ファンコニ貧血(Fanconi Anemia:FA)は、染色体の不安定性を背景に、(1)進行性汎血球減少、(2)骨髄異形性症候群や白血病への移行、(3)身体奇形、(4)固型がんの合併を特徴とする遺伝病である。わが国の年間発生数は5〜10例で、出生100万人あたり5人前後である。臨床像としては、1)汎血球減少、2)皮膚の色素沈着、3)身体奇形、4)低身長、5)性腺機能不全を伴うが、その表現型は多様で、汎血球減少のみで、その他の臨床症状がみられないことや、汎血球減少が先行することなく、骨髄異形性症候群や白血病あるいは固型がんを初発症状とすることもある。それゆえ、臨床像のみで本疾患を確定診断するのは困難である。小児や青年期に発症した再生不良性貧血患者に対しては、全例に染色体脆弱試験を行い、FAを除外する必要がある。また、若年者において、頭頸部や食道、婦人科領域での扁平上皮がんや肝がんの発生がみられた場合や、骨髄異形性症候群や白血病の治療経過中に過度の薬剤や放射線に対する毒性がみられた場合にも、本疾患を疑い染色体脆弱試験を行う必要がある。 ■ 病因、病態FAは遺伝的に多様な疾患であり、現在までに、22の責任遺伝子が同定されている。わが国ではFANCA変異が全体の60%を占め、FANCG変異の25%がそれに続き、その他の変異は数%以下にすぎない。FANCD1、FANCJ、FANCNはそれぞれ家族性乳がん遺伝子のBRCA2、BRIP1、PALB2と同一であり、ヘテロ接合体はFAを発症しないが、家族性乳がん発症のリスクを持つ。遺伝形式は、FANCB、FANCRを除いて、常染色体劣勢遺伝形式を示す。FA蛋白質は、他のDNA損傷応答蛋白質と相互作用し、DNA二重鎖架橋を修復し、ゲノムの安定化を図っている。しかし、DNA修復障害と骨髄不全発症との関係は解明されていない。■ 臨床症状、合併症、予後FAの臨床像は、多様で種々の合併奇形を伴うが、まったく身体奇形がみられない場合も25%ほど存在する。色黒の肌、カフェオーレ斑のような皮膚の色素沈着、低身長、上肢の母指低形成、多指症などが最もよくみられる合併奇形である。国際ファンコニ貧血登録の調査によると10歳までに80%、40歳までに90%の患者は、再生不良性貧血を発症する。悪性腫瘍の合併も年齢とともに増加し、30歳までに20%、40歳までに30%の患者が骨髄異形性症候群や白血病に罹患する。同様に、40歳までに30%の患者は、頭頸部や食道、婦人科領域の扁平上皮がんなどの固型がんを発症する。発症10年、15年後の生存率は、それぞれ、85%、63%であった。わが国の小児血液・がん学会の統計では、移植を受けなかった30例の診断後10年生存率は63%であった。造血幹細胞移植を受けた患者は、非移植群と比較して、発がんのリスクが有意に高く、移植前治療としての放射線の照射歴や慢性GVHDの発症がリスク因子であった。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)FAを疑った場合には、図のように末梢血リンパ球を用いてマイトマイシンC(MMC)やジエポキシブタン(DEB)などのDNA架橋剤を添加した染色体断裂試験を行う。わが国においては検査会社でも実施可能である。また、FANCD2産物に対する抗体を用い、ウェスタンブロット法でモノユビキチン化を確認する方法もスクリーニング法として優れており、国内では名古屋大学小児科で実施している。上記のスクリーニング法では、リンパ球でリバージョンを起こした細胞が増殖している(体細胞モザイク)ために偽陰性例や判定困難例が生ずる。このときには100個あたりの染色体断裂総数だけでなく、染色体断裂数ごとの細胞数のヒストグラムが有用である。この場合の診断には、皮膚線維芽細胞を用いた染色体脆弱試験が必要となる。図 ファンコニ貧血を疑った場合の診断スキーム画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)FAには、免疫抑制療法の効果は期待できないが、蛋白同化ホルモンは、約半数の患者において有効である。しかし、男性化や肝障害などの副作用があり、造血幹細胞移植の成績の悪化を招くという報告もある。わが国で使用可能な蛋白同化ホルモン製剤としては、酢酸メテノロン(商品名:プリモボラン)のみである。現時点では、FAの患者にとって、造血幹細胞移植のみが唯一治癒の期待できる治療法である。通常の移植前処置で使用される放射線照射や大量シクロホスファミドの投与では移植関連毒性が強いので、従来は少量のシクロホスファミドと局所放射線照射の併用が標準的な前治療法として用いられてきた。しかし、非血縁者間骨髄移植や臍帯血移植は、拒絶や急性移植片対宿主病(GVHD)の頻度が高く、十分な治療成績は得られていなかった。しかし、最近になって、フルダラビンを含む前治療法が開発され、その予後は著明に改善がみられている。 最近、わが国から報告されたFAに対するHLA一致同胞あるいは代替ドナーからの移植成績は、2年全生存率がそれぞれ100%、96%に達している。4 今後の展望フルダラビンを含む前治療による造血幹細胞移植の開発により、造血能の回復は得られるようになったが、扁平上皮がんを中心とした2次がんのリスクが増大している。すでに、海外では遺伝子治療が実施されており、今後の発展が期待されている。5 主たる診療科小児科、血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター ファンコニ貧血(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)厚生労働科学研究費補助金 特発性造血障害に関する調査研究班(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2020年02月10日

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低用量アスピリン、早産と周産期死亡を抑制/Lancet

 低~中間所得国の未経産妊婦では、妊娠早期(6週0日~13週6日)に低用量アスピリンを投与することで、妊娠37週未満と34週未満の早産および胎児の周産期死亡の発生が改善されることが、米国・Christiana CareのMatthew K. Hoffman氏らが行った二重盲検プラセボ対照無作為化試験「ASPIRIN試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2020年1月25日号に掲載された。低~中間所得国では、早産は新生児死亡の原因として頻度が高い状態が続き、その負担は過度に大きいという。低用量アスピリンの妊娠高血圧腎症の予防に関するメタ解析により、とくに妊娠16週未満の時期に投与を開始すると早産の発生が低下する可能性が示唆されている。6つの低~中間所得国の無作為化試験 本研究は、6ヵ国(インド、コンゴ、グアテマラ、ケニア、パキスタン、ザンビア)の7施設が参加し、2016年3月23日~2018年6月30日の期間に患者登録が行われた(米国Eunice Kennedy Shriver国立小児保健発達研究所[NICHD]の助成による)。 対象は、18~40歳(コンゴ、ケニア、ザンビアは倫理審査委員会の許可があれば≧14歳の未成年者を含めた)の未経産の単胎妊娠女性であった。 被験者は、妊娠6週0日~13週6日の期間に、低用量アスピリン(81mg/日)またはプラセボの錠剤を投与される群に無作為に割り付けられた。妊娠36週7日または分娩まで、研究者、医療従事者、患者には治療割り付け情報がマスクされた。 主要アウトカムは、早産(妊娠≧20週0日~<37週0日の分娩数)の発生とした。早産11%、34週未満の早産25%、周産期死亡14%のリスク低減 1万1,976例(低用量アスピリン群5,990例、プラセボ群5,986例)の妊婦が登録され、1万1,544例(5,780例、5,764例)が主要アウトカムの解析に含まれた。>29歳は全体の2.2%であり、ベースラインの患者背景や国別の患者の割合は両群でほぼ同様であった。アドヒアランス(服薬順守率90%以上の患者の割合)は、低用量アスピリン群85.3%、プラセボ群84.4%であり、両群とも高かった。 妊娠37週未満の早産の割合は、低用量アスピリン群が11.6%(668/5,780例)と、プラセボ群の13.1%(754/5,764例)に比べ有意に低かった(リスク比[RR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.81~0.98、p=0.012)。 胎児の副次アウトカムのうち、周産期死亡(周産期[妊娠20週~産後7日以内]の死亡、1,000出産当たりの死亡数:45.7件vs.53.6件、RR:0.86、95%CI:0.73~1.00、p=0.048)、胎児消失(fetal loss、妊娠16~20週の死産と妊娠20週~産後7日以内の周産期死亡、1,000妊娠当たりの死亡数:52.1件vs.60.8件、0.86、0.74~1.00、p=0.039)、妊娠34週未満の早産(3.3% vs.4.0%、0.75、0.61~0.93、p=0.039)の割合は、いずれも低用量アスピリン群で有意に良好であった。 また、母親の副次アウトカムでは、高血圧性疾患(妊娠高血圧腎症、子癇、妊娠高血圧)を有する妊娠34週未満の早産(0.1% vs.0.4%、0.38、0.17~0.85、p=0.015)が、低用量アスピリン群で有意に良好だった。その他の副次アウトカムの発生は両群間で類似していた。 1つ以上の重篤な有害事象を発症した患者の割合(低用量アスピリン群14.0% vs.プラセボ群14.4%、p=0.568)には、両群間で差は認められなかった。母親の出血性合併症(分娩前の出血[0.6% vs.0.6%、p=0.815]、分娩後の出血[0.8% vs.0.7%、p=0.481]、上部消化管出血[0.1% vs.<0.1%、p=0.216])や、貧血(0.4% vs.0.4%、p=0.893)の発生にも差はみられなかった。また、母親の死亡(0.2% vs.0.2%、p=0.514)および新生児の生後28日以内の死亡(2.7% vs.3.2%、p=0.138)の頻度にも差はなかった。 著者は、「これらの知見は、既報のメタ解析の結果と一致する。今回の試験はサンプルサイズが大きいため、さまざまな低~中間所得国の多様な女性集団で、利益を明確に示すことができた」とし、「アスピリンは低コストで忍容性も高く、われわれのレジメンは世界のさまざまな臨床現場で容易かつ安全に導入が可能と示唆される」と指摘している。

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Dr.岡の感染症プラチナレクチャー 医療関連感染症編

第1回 医療関連感染症診療の原則と基本第2回 カテーテル関連血流感染症第3回 カテーテル関連尿路感染症第4回 院内肺炎第5回 手術部位感染第6回 クロストリジウム・ディフィシル感染症第7回 免疫不全と感染症第8回 発熱性好中球減少症第9回 細胞性免疫不全と呼吸器感染 あの医療者必携のベストセラー書籍「感染症プラチナマニュアル」のレクチャー版!岡秀昭氏による大人気番組「感染症プラチナレクチャー」の第2弾は医療関連感染症編です。医療関連感染症は、どの施設でも避けることのできない感染症であり、その対策にはすべての医療者が取り組まなくてはなりません。この番組では、医療関連感染症診療の原則と、その診断・治療・予防について臨床の現場で必要なポイントに絞って岡秀昭氏が解説していきます。2019年4月の診療報酬改定で、抗菌薬適正使用を推進するため、入院患者を対象とした「抗菌薬適正使用支援加算」が新設されています。その中心を担うAST(抗菌薬適正使用推進チーム)やICTはもちろん、その他の医療者の教育ツールとしてもご活用ください。さあ、ぜひ「感染症プラチナマニュアル2019」を片手に本番組をご覧ください。※書籍「感染症プラチナマニュアル」はメディカル・サイエンス・インターナショナルより刊行されています。該当書籍は以下でご確認ください。amazon購入リンクはこちら ↓【感染症プラチナマニュアル2019】第1回 医療関連感染症診療の原則と基本初回は、医療関連感染症診療の原則と基本について解説します。基本的に原則は市中感染症編と“いっしょ”です。この番組を見る前にDr.岡の感染症プラチナレクチャー市中感染症編 第1回「感染症診療の8大原則」をご覧いただくとより理解が深まります。ぜひご覧ください。入院患者の感染症は鑑別診断が限られるため、一つひとつ確認しながら進めていけば、診断は比較的容易です。まずは、その鑑別診断について、考えていきましょう。第2回 カテーテル関連血流感染症今回のテーマはカテーテル関連血流感染症(CRBSI:catheter related blood stream infection)です。重要なことは、医療関連感染のCRBSIは「カテーテル感染」ではなく、「血流感染」であるということです。そのことをしっかりと頭に入れておきましょう。番組では、CRBSIの定義、診断、治療そして予防について詳しく解説します。第3回 カテーテル関連尿路感染症今回のテーマはカテーテル関連尿路感染症(CAUTI:Catheter-associated Urinary Tract Infection)です。院内感染が疑われた患者さんに膿尿・細菌尿がみられたら尿路感染症と診断していませんか?とくに医療関連感染で起こる尿路感染症は、特異的な症状を呈さないことも多く、Dr.岡でさえ、悩みながら、自問しながら、診断する大変難しい感染症です。その感染症にどう立ち向かうか!明快なレクチャーでしっかりと確認してください。第4回 院内肺炎今回のテーマは院内肺炎(HAP:hospital-acquired pneumonia)です。医療関連感染である院内肺炎は診断が非常に難しく、また、死亡率が高く、予後の悪い疾患です。その中で、どのように診断をつけ、治療を行っていくのか、診断の指針と治療戦略を明快かつ、詳細に解説します。また、医療ケア関連肺炎(HCAP:Healthcare-associated pneumonia)に関するDr.岡の考えについてもご説明します。第5回 手術部位感染今回のテーマは手術部位感染(SSI:Surgical Site Infection)です。手術部位感染の診断は簡単でしょうか?確かに、手術創の感染であれば、見た目ですぐに感染を判断することができますが、実は「深い」感染はかなり診断が難しく、手術部位や手術の種類によって対応も異なります。もちろん、手術を行った科の医師が対応すべきことですが、基本的なことについて理解しておきましょう。第6回 クロストリジウム・ディフィシル感染症今回はクロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI:Clostridium Difficile Infection)です。院内発症の感染性腸炎はほとんどがCDIであり、それ以外だと非感染性(薬剤、経管栄養など)になります。CDIの診断と抗菌薬治療、そして感染予防について、明快にレクチャーします。とくに抗菌薬選択に関しては、アメリカのガイドラインだけに頼らない、岡秀昭先生の経験を基にした臨床での対応方法をお教えします。第7回 免疫不全と感染症免疫不全だからといって、ひとくくりにして、一律に広域抗菌薬を開始したり、やみくもにβ-Dグルカンやアスペルギルス抗原をリスクのない患者で測定するようなプラクティスをしていませんか?本当に重要なのは、まずは、どのような免疫不全かを判断すること。そのうえで、起こりうる病態、病原微生物を考えていきましょう。第8回 発熱性好中球減少症今回は発熱性好中球減少症(FN: Febrile Neutropenia)についてです。発熱性好中球減少症は診断名ではなく、好中球が減少しているときにおこる発熱の状態のことです。白血病やがんの化学療法中に起こることがほとんどです。FNは感染症エマージェンシーの疾患ですので、原因微生物や、臓器を特定できなくても、経験的治療を開始します。どの抗菌薬で治療を開始すべきか、またどのように診断をつけていくのか、治療効果の判断は?そして、また、その治療過程についてなど、岡秀昭先生の経験を交え、詳しく解説します。第9回 細胞性免疫不全と呼吸器感染最終回!今回は細胞性免疫不全者の呼吸器感染(肺炎)について、解説します。細胞性免疫不全者の呼吸器感染は、多様な微生物が原因となりうるため、安易に経験的治療を行わず、まずは微生物のターゲットを絞ることが重要となります。番組では、原因となる微生物の分類、そして、臨床像やCT画像で微生物を鑑別するポイントや、必要となる検査など、臨床で必要となる知識をぎゅっとまとめて、しっかりとお教えします。

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イノシシに肛門を突き破られた男性【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第156回

イノシシに肛門を突き破られた男性photoACより使用出会っちゃいけない野生動物の第1位は当然クマですが、日本の猟師がこぞって上位に挙げる動物の中にイノシシがいます。2019年12月に、東京都足立区でイノシシが出没したというニュースが流れたのは記憶に新しいところ。今日は、そんなイノシシに肛門を突き破られた症例を紹介します。去年の干支がイノシシだったんだから、去年この論文を紹介すればよかった、と後悔しているワタクシ。Okano I, et al.Penetrating Anorectal Injury Caused by a Wild Boar Attack: A Case Report.Wilderness Environ Med. 2018 Sep;29(3):375-379.理由はわかりませんが、野生のイノシシによる外傷は、医学論文の世界ではほとんど報告されていません1)。イノシシ外傷がコワイのは「キバ」です。イノシシには上顎と下顎にそれぞれ天に向かってそそり立つキバ(犬歯)があるのですが、とくに下顎のキバはかなり鋭利で、スパっと切れるのです(写真)。写真. 野生のイノシシの犬歯(黒:上顎犬歯、白:下顎犬歯)(文献1より引用)画像を拡大するオスはキバで攻撃してきますが、メスは咬みついてくるそうです。そのため、「イノシシに肛門を突き破られた」というタイトルを読んで、ああオスにやられたんだなと思った医師は、かなり獣医学通と言えるでしょう。この症例報告は、83歳の男性が野生のイノシシに襲われ病院に搬送されたというものです。来院時すでに出血性ショックの状態でした。大腿深動脈と坐骨神経を損傷しており、広範囲に皮膚軟部組織が挫滅しており、腸骨骨折、気胸まで合併していました。そして、もっともひどかったのは肛門直腸損傷だったそうです。ブスっとイカれたんでしょうな、ブスっと。ひどい損傷だったため、便流変更術が行われました。彼は回復までにデブリードマンを含め、複数回の手術を受けたそうです。創部は浅そうに見えても、かなり深いところまで軟部組織の損傷がみられることがイノシシ外傷の特徴とされています2)。イノシシなどの野生動物による外傷の場合、洗浄とデブリードマンだけでなく、破傷風の予防とガス壊疽への移行を予防する必要があります。みなさんもイノシシに出会ったら、キバにご注意を!1)Kose O, et al. Management of a wild boar wound: a case report. Wilderness Environ Med. 2011 Sep;22(3):242-5.2)進来塁ら. 多発イノシシ外傷の2例. 創傷. 2017;8(4):150-4.

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日本人高齢男性における飲酒と認知機能との関係

 大量の飲酒は、認知機能障害のリスク因子として知られているが、適度な飲酒においても同様の影響が認められるかどうかは、よくわかっていない。これまでの観察研究では、とくに高齢者において、中程度の飲酒による認知機能への潜在的なベネフィットが報告されているが、アジア人ではこの影響が実証されていなかった。滋賀医科大学のAli Tanweer Siddiquee氏らは、認知障害のない日本人高齢男性を対象に、飲酒レベルと認知機能との関連について調査を行った。Alcohol誌オンライン版2020年1月7日号の報告。 飲酒と認知機能との関連を調査するため、進行中のプロスペクティブ人口ベース研究である滋賀動脈硬化疫学研究(SESSA)の断面データを用いた。65歳以上の男性585人を対象に、週ごとのアルコール摂取量の情報を収集し、摂取量に応じて分類した。飲酒歴の分類は、元飲酒者、非常に軽度(14g/日未満)、軽度(14~23g/日)、中程度(24~46g/日)、重度(46g/日超)とした。認知機能の測定には、Cognitive Abilities Screening Instrument(CASI)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・年齢、教育、BMI、喫煙、運動、高血圧、糖尿病、脂質異常症で調整したロジスティック回帰モデルでは、全体および領域特有の認知機能のCASIに、飲酒歴の有無による、有意な差が認められなかった。・元飲酒者は、非飲酒者と比較し、全体の認知機能(多変量調整平均CASIスコア:88.26±2.58 vs.90.16±2.21)および抽象化、判断の領域(多変量調整平均CASIスコア:8.61±0.57 vs.9.48±0.46)において、CASIスコアが有意に低かった。 著者らは「日本人高齢男性では、飲酒と認知機能との間に、有益または不利益な影響は認められなかった。しかし、元飲酒者の認知機能が低いことから、飲酒を中止した要因を特定するための今後の調査が必要である」としている。

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新型コロナウイルス、ドイツで無症候性接触者からの感染症例/NEJM

 中国・武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症(2019-nCoV)を巡り、無症状の潜伏期間中に接触者へ感染を広げるケースが相次いで報告されている。ドイツ・ミュンヘン大学医療センターのCamilla Rothe氏ら研究グループが、ドイツ国内で報告された、直近に渡航歴のないビジネスマンが無症候の初発患者から感染したとみられる症例を報告した。NEJM誌2020年1月30日号オンライン版に掲載。 報告症例は、1月29日に2019-nCoV陽性反応が確認されたドイツ人男性(33歳)について。男性は20~21日、ミュンヘン郊外の会社でビジネスパートナーである中国人女性と会議に同席。24日に咽頭痛および悪寒、筋肉痛を自覚し、25日には39.1度の発熱があった。その後、26日夕方には症状が改善し始め、翌日には仕事に復帰できるまでに回復したという。 一方、女性は1月19~22日に上海から渡独。滞在中は感染の兆候や症状は見られなかったが、帰国便の機中で体調が悪くなったという。その後、26日に2019-nCoV陽性の検査結果が判明したため接触者の追跡調査が行われ、ドイツ人男性も調査対象となり、29日にRT-PCR法で2019-nCoV陽性反応が出た。男性の喀痰から得られたウイルス量は108コピー/mLと多かった。 また、28日にはドイツ人男性の同僚3人についても、検査の結果2019-nCoV陽性反応が確認された。3人のうち1人は中国人女性と接触しており、ほか2人は接触がなかった。男性と同僚3人はミュンヘンの医療機関に入院したが、いずれもこれまでに重い症状は見られないという。 著者らは、「本症例は、無症候性の初発患者の潜伏期間中に感染が広がったとみられ、2019-nCoVの伝播動態について改めて評価が必要だろう」と述べている。

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TAVRの大動脈弁置換術の5年転帰/NEJM

 手術リスクが中等度の重症大動脈弁狭窄症患者において、経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)と外科的大動脈弁置換術(SAVR)の5年後では、死亡または後遺障害を伴う脳卒中の発生率に有意差は確認されなかった。米国・シダーズ・サイナイ医療センターのRaj R. Makkar氏らが、無作為化試験「Placement of Aortic Transcatheter Valves(PARTNER)2コホートA試験」の結果を報告した。重症大動脈弁狭窄症で手術リスクが中等度の患者における、TAVR後の長期的な臨床転帰や生体弁機能については、SAVRと比較したデータが不足していた。NEJM誌オンライン版2020年1月29日号掲載の報告。中等度リスクの重症大動脈弁狭窄症患者約2,000例でTAVR vs.SAVR 研究グループは2011年12月~2013年11月の期間に、57施設において中等度の手術リスクがある重症の症候性大動脈弁狭窄症患者2,032例を登録した。予定された経大腿動脈アクセスまたは経胸腔アクセス(それぞれ76.3%と23.7%)で患者を層別化し、TAVR群またはSAVR群のいずれかに無作為に割り付け、臨床アウトカム、心エコーおよび健康状態の転帰について5年間追跡調査を行った。 主要評価項目は、全死亡または後遺障害を伴う脳卒中(修正Rankinスコア2点以上で、ベースライン時から脳卒中後30日/90日までに1点以上の上昇)とした。統計解析はintention-to-treat集団を対象とし、log-rank検定とKaplan-Meier法を用いた。TAVR群とSAVR群で死亡や後遺障害を伴う脳卒中の発生率に有意差なし 5年時において、全死亡または後遺障害を伴う脳卒中の発生率にTAVR群とSAVR群との間で有意差は確認されなかった(47.9% vs.43.4%、ハザード比[HR]:1.09、95%信頼区間[CI]:0.95~1.25、p=0.21)。 経大腿動脈アクセスのコホートでは同様の結果であったが(44.5% vs.42.0%、HR:1.02、95%CI:0.87~1.20)、死亡または後遺障害を伴う脳卒中の発生率は、経胸腔アクセスのコホートにおいてはTAVR群がSAVR群よりも高率であった(59.3% vs.48.3%、1.32、1.02~1.71)。 5年時点では、TAVR群がSAVR群と比較して、軽度以上の弁周囲大動脈弁逆流の割合が高値であった(33.3% vs.6.3%)。施術後の再入院率はTAVR群がSAVR群よりも高く(33.3% vs.25.2%)、大動脈弁の再介入率もTAVR群がSAVR群よりも高かった(3.2% vs.0.8%)。5年時点の健康状態の改善は、TAVR群とSAVR群で類似していた。 なお、本試験で使用された医療機器(SAPIEN XT)は、現在は臨床使用されていない。

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日本人統合失調症患者における長時間作用型抗精神病薬の使用と再入院率~全国データベース研究

 統合失調症患者に対する抗精神病薬の長時間作用型持効性注射剤(LAI)について、現在の処方状況および臨床結果を調査することは重要である。国立精神・神経医療研究センターの臼杵 理人氏らは、日本での統合失調症患者に対する抗精神病薬LAIについて、その処方割合と再入院率に関する調査を行った。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2019年12月25日号の報告。 日本のレセプト情報・特定健診等情報データベースを用いて、オープンデータセットを作成した。統合失調症の患者レコードを使用した。分析(1)において、2015年2月~2017年3月に精神科施設を受診した外来患者に対する抗精神病薬の処方割合を調査した。分析(2)においては、精神科施設を初回退院後90日以内に抗精神病薬LAIによる治療を受けた患者を対象に、退院後365日間の再入院率を調査した。 主な結果は以下のとおり。・抗精神病薬による治療を受けた統合失調症外来患者のうち、LAIの処方割合は3.5%であった。・再入院率は、統合失調症患者全体で41.0%、定型抗精神病薬LAIの単独療法を受ける患者で36.2%、非定型抗精神病薬LAIの単独療法を受ける患者で23.5%であった。 著者らは「日本での統合失調症治療において、抗精神病薬LAIは、まだ十分に普及していない。非定型抗精神病薬LAIは、定型抗精神病薬LAIと比較し再入院率が低かった。本結果は、今後の研究を行ううえで重要な基本情報となりうるが、集約データベースとデータベースの構造によって一般化可能性が制限されると考えられるため、解釈には注意が必要である」としている。

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高血圧の定義改定で有病率増もCVアウトカム関連なし/JAMA

 米国心臓病学会/米国心臓協会(ACC/AHA)は高血圧治療ガイドラインを2017年に改訂し、高血圧症の定義を140/90mmHgから130/80mmHgに引き下げた。それにより、米国成人の孤立性拡張期高血圧症(IDH)の有病率は1.3%から6.5%に増加し、一方で新たな定義でIDHと診断された人と心血管アウトカムとの関連はないことが明らかになったという。アイルランド国立大学ゴールウェイ校のJohn W. McEvoy氏らが、2つの大規模コホートについて断面・縦断的解析を行った結果で、JAMA誌2020年1月28日号で発表した。「NHANES」と動脈硬化症リスク研究「ARIC」の被験者について解析 研究グループは、2013~16年の米国国民健康栄養調査「NHANES」について断面解析を、また1990~92年に開始し2017年まで追跡した地域における動脈硬化症リスク研究「ARIC」について縦断的解析を行い、2017 ACC/AHAと2003 JNC7の定義によるIDHの有病率および心血管アウトカムを比較した。 縦断的解析の結果について、外部の2コホート([1]NHANES・III[1988~94]とNHANES[1999~2014]、[2]CLUE[Give Us a Clue to Cancer and Heart Disease]IIコホート[ベースライン1989])で検証した。 IDHの定義は、2017 ACC/AHAでは収縮期血圧(SBP)<130mmHg、拡張期血圧(DBP)≧80mmHgであり、2003 JNC7ではそれぞれ<140mmHg、≧90mmHgだった。 主要アウトカムは、米国成人のIDH有病率、および2017 ACC/AHAガイドラインに基づきIDHに対する薬物療法を勧告された人の割合だった。また、ARIC試験については、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)、心不全、慢性腎臓病(CKD)の発症リスクも評価した。IDH有病率、JNC7定義で1.3%に対し2017 ACC/AHA定義では6.5% 解析に包含された被験者数は、NHANESコホートからは9,590例(ベースラインの平均年齢49.6[SD 17.6]歳)で、うち女性は5,016例(52.3%)であり、ARIC試験からは8,703例(同56.0[5.6]歳)で、うち女性は4,977例(57.2%)だった。 NHANESコホートにおけるIDH有病率は、JNC7定義では1.3%だったのに対し、2017 ACC/AHA定義では6.5%だった(絶対群間差:5.2%、95%信頼区間[CI]:4.7~5.7)。 2017 ACC/AHA定義で新たにIDHとされた被験者のうち、ガイドラインにより降圧治療の適応となった割合は0.6%(95%CI:0.5~0.6)だった。 ARIC試験の正常血圧値の被験者と比べて、2017 ACC/AHA定義によるIDHの被験者は、ASCVD(イベント数:1,386件)、心不全(同:1,396件)、CKD(同:2,433件)のいずれの発症リスクとの関連も認められなかった。それぞれのハザード比(追跡期間中央値25.2年における)は、ASCVDが1.06(95%CI:0.89~1.26)、心不全が0.91(0.76~1.09)、CKDが0.98(0.65~1.11)。 外部の2コホートにおいても、2017 ACC/AHA定義によるIDHと心血管死との関連は認められなかった。ハザード比は、NHANESではイベント数1,012件で1.17(95%CI:0.87~1.56)、CLUE IIでは1,497件で1.02(0.92~1.14)だった。

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3人に1人が臨床試験の結果を公表していなかった(解説:折笠秀樹氏)-1178

 臨床試験を実施しても結果を公表しないのは資源の無駄に当たるとともに、参加された被験者へも無責任ということで、2007年に米国FDAは法律(FDAAA)を取りまとめた。2017年には施行され、2018年1月から完全実施となった。その法律によると、臨床試験は終了後1年以内に登録サイトへ結果を公表しなければならない。米国で登録サイトというと、ほぼすべてが「ClinicalTrials.gov」に当たる。終了とは何かというと、最後の観察測定が取られた時点を指す。いわゆるLPO(Last Patient Out)から1年以内ということであり、データの固定時ではない。 2018年1月に本法律が完全実施されたため、2018年3月~2019年9月に「ClinicalTrials.gov」へ登録された全試験、4,209試験を調査対象とした。終了後1年以内の公表率は40.9%にすぎなかった。1年以降でも公表された割合は63.8%だった。せっかく臨床試験を実施しても、何も公表していないのが3分の1もあった。ヘルシンキ宣言によると、35条に事前登録、36条に結果の公表は研究者の責務と書かれている。これを守っていない研究者が3人に1人もいるという実態が明らかになった。 この法律に違反すると、1日遅れるごとに1万ドル(約100万円)、主宰者(スポンサー)から徴収することになっている。1ヵ月遅れたら3,000万円にもなる。これはFDAによる法律のため、実際には国の認可を求める製薬企業が対象と思われる。そのためか、製薬企業の遵守率(終了1年以内公表率)は高かった。政府主導では31.4%なのに、製薬企業では45~50%程度だった。大企業(ノバルティス、ギリアド、グラクソ・スミスクライン、ファイザー、ロシュ、アストラゼネカ)では、92~100%というほぼ完璧な遵守率だった。 多くの臨床試験を実施しているMD Anderson Cancer CenterやNational Cancer Instituteでも30%程度の遵守率だったが、Sloan Kettering Cancer Centerは91.7%、University of North Carolina at Chapel Hillは81.3%と高い施設もあった。それでも、最終的公表率でみると80%以上だった。また、臨床試験を数多く実施している主宰者では公表率は高く、あまり行っていないところでは低かった。 終了1年以内と最終的公表率の違いをみると、企業主導では50.3%が64.5%へ増えただけなのに、政府主導では31.4%が74.2%へ急増していた。企業主導ではFDAの法律を意識しており、終了1年以内の公表率が高かったのだろう。政府主導では1年以内は守っていないが、最終的には論文化など公表しておかないとグラント申請に影響するため、最終的な公表率は高かったと思われる。

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慢性炎症性皮膚疾患、帯状疱疹リスクと関連

 アトピー性皮膚炎や乾癬などの慢性炎症性皮膚疾患(CISD)と帯状疱疹の関連が示された。米国における横断研究の結果、帯状疱疹ワクチン接種が低年齢層で推奨されているにもかかわらず、多くのCISDで帯状疱疹による入院増大との関連が認められたという。米国・ノースウェスタン大学フェインバーグ医学院のRaj Chovatiya氏らが報告した。CISD患者は、帯状疱疹の潜在的リスク因子を有することが示されていたが、CISDの帯状疱疹リスクについては、ほとんど知られていなかった。今回の結果を踏まえて著者は、「さらなる研究を行い、CISDに特異的なワクチンガイドラインを確立する必要があるだろう」と述べている。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2020年1月17日号掲載の報告。 研究グループは、CISDと帯状疱疹の関連を明らかにする目的で、2002~12年の全米入院患者サンプル(Nationwide Inpatient Sample)のデータを用いて、米国の入院患者の代表コホート(小児と成人6,808万8,221例)について解析を行った。 年齢、性別、人種/民族、保険状況、世帯収入、および長期の全身性コルチコステロイド使用を含む多変量ロジスティック回帰モデルを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・帯状疱疹による入院と、アトピー性皮膚炎(補正後オッズ比[OR]:1.38、95%信頼区間[CI]:1.14~1.68)、乾癬(4.78、2.83~8.08)、天疱瘡(1.77、1.01~3.12)、類天疱瘡(1.77、1.01~3.12)、菌状息肉症(3.79、2.55~5.65)、皮膚筋炎(7.31、5.27~10.12)、全身性強皮症(1.92、1.47~2.53)、皮膚エリテマトーデス(1.94、1.10~3.44)、白斑(2.00、1.04~3.85)、サルコイドーシス(1.52、1.22~1.90)との関連が認められた。・扁平苔癬(補正前OR:3.01、95%CI:1.36~6.67)、セザリー症候群(12.14、5.20~28.31)、限局性強皮症(2.74、1.36~5.51)、壊疽性膿皮症(2.44、1.16~5.13)は、二変量モデルにおいてのみオッズ比の上昇が示された。・60歳未満および50歳未満の感度解析でも、類似の結果が示された。・CISDにおける帯状疱疹の予測因子は、「女性」「慢性症状がより少ない」「長期にわたるコルチコステロイドの全身使用」などであった。

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腎交感神経除神経術は心房細動アブレーション治療のオプションか?(解説:冨山博史氏)-1172

 本試験は、高血圧合併発作性心房細動症例に対して、発作性心房細動に対するカテーテルアブレーション単独治療と、アブレーション治療に腎交感神経除神経術を加えた併用治療のいずれが介入後の発作性心房細動再発抑制に有用であるかを検証したmulticenter、single-blind、randomized clinical trialである。 主評価項目は、介入後12ヵ月の心房性頻脈再発率と降圧度である。登録された302例中、283例にて試験が遂行された。12ヵ月後に心房性頻脈を認めない症例数は、アブレーション治療単独では148例中84例(56.5%)、アブレーション治療+腎交感神経除神経術併用では154例中111例(72.1%)であった(ハザード比0.57、p<0.01)。さらに降圧の度合いも併用群で有意に大きかった(両群の収縮期血圧降圧の差13mmHg)。 本試験の背景は、心房細動発症には血圧上昇や自律神経機能異常が関与し、腎交感神経除神経術は降圧および交感神経機能異常改善に有用なことである。1.本試験の臨床的意義 現在、アブレーション治療後の心房細動再発率は10~30%とされ、さらなる治療法の発展が望まれている。本研究は、心房細動アブレーション治療と腎交感神経除神経術の併用が術後心房性頻脈再発率改善に有用であることを示唆する。2.本試験の限界 2-1:高血圧のスクリーニングと血圧評価 本試験で高血圧合併の定義は、“収縮期血圧130mmHg以上、拡張期血圧80mmHg以上、またはその両方で、少なくとも1つの降圧薬を服用していた”と記載されている。しかし、変動する血圧の評価は慎重を要する。現在、腎交感神経除神経術の降圧効果を検証する臨床研究が多数実施されている。それらの研究では、血圧評価は血圧変動性や白衣現象の影響を除外するため24時間血圧測定などが実施されている。しかし、本研究では、こうした血圧評価方法が実施されておらず、介入前後の血圧評価が十分でない。 2-2:腎交感神経除神経の確実性 これまで実施された腎交感神経除神経術の降圧効果を検証する臨床研究では、除神経の確実性検証の必要性が指摘されていた。本試験において、腎交感神経除神経術後の腎交感神経電気刺激による昇圧反応を評価することより除神経の確実性が検証されたのは腎交感神経除神経術施行例全体の57%であった。 2-3:アブレーション治療後の心房性頻脈再発率 通常、アブレーション治療後の心房性頻脈の再発率は30%未満である。本研究では再発率が40%を越えており、その背景を確認する必要がある(アブレーション単独施行群で血圧コントロールが不十分であったことなど)。3.今後の方向性 3-1:併用療法は侵襲的で高額である。上述のごとく、本試験は血圧の評価および治療が十分でない症例が含まれていた可能性がある。今後、発作性心房細動合併高血圧症例において、アブレーション治療単独実施後に、高血圧専門医による家庭血圧や24時間血圧測定を用いた確実な血圧をコントロールが腎交感神経除神経術併用と同等に心房性頻脈の再発率を抑制するかを検証する必要がある。 3-2:上述のごとく、血圧だけでなく交感神経機能異常自体が心房細動発症に関連する。本試験の結果は、正常血圧例でもアブレーション治療と腎交感神経除神経術の併用が再発予防に有用である可能性がある。(2月6日 記事タイトルを変更いたしました)

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肺動脈性肺高血圧症〔PAH : pulmonary arterial hypertension〕

1 疾患概要■ 概念・定義肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)の定義は長らく、安静時の平均肺動脈圧25mmHg以上が用いられてきたが、2018年にニースで開催された第6回肺高血圧症ワールドシンポジウムではPHの定義が平均肺動脈圧「25mmHg以上」から「20mmHg以上」へ変更するという提言がなされた。肺循環は低圧系であり健常者の平均肺動脈圧の上限が20mmHgであること、21~24mmHgの症例は20mmHg以下の症例と比較して、運動耐容能が低くかつ入院率や死亡率が上昇した報告などを根拠としている。また、PAHの定義には平均肺動脈圧20mmHg以上かつ肺動脈楔入圧15mmHg以下とともに「肺血管抵抗3Wood Units以上」が付加された。しかし、21~24mmHgの症例に対する治療薬の効果や安全性は改めて検証される必要があり、当面、実臨床では、PAHの血行動態上の定義として平均肺動脈圧25mmHg以上かつ肺動脈楔入圧15mmHg以下が採用される。■ 疫学特発性PAHは一般臨床では100万人に1~2人、二次性または合併症PAHを考慮しても100万人に15人ときわめてまれである。特発性は30代を中心に20~40代に多く発症する傾向があるが、最近の調査では高齢者の新規診断例の増加が指摘されている。小児は成人の約1/4の発症数で、1歳未満・4~7歳・12歳前後に発症のピークがある。男女比は小児では大差ないが、思春期以降の小児や成人では男性に比し女性が優位である。厚生労働省研究班の調査では、膠原病患者のうち混合性結合織病で7%、全身性エリテマトーデスで1.7%、強皮症で5%と比較的高頻度にPAHを発症する。■ 病因主な病変部位は前毛細血管の細小動脈である。1980年代までは血管の「過剰収縮ならびに弛緩低下の不均衡」説が病因と考えられてきたが、近年の分子細胞学的研究の進歩に伴い、炎症-変性-増殖を軸とした、内皮細胞機能障害を発端とした正常内皮細胞のアポトーシス亢進、異常平滑筋細胞のアポトーシス抵抗性獲得と無秩序な細胞増殖による「血管壁の肥厚性変化とリモデリング(再構築)」 説へと、原因論のパラダイムシフトが起こってきた1, 2)。遺伝学的には特発性/遺伝性の一部では、TGF-βシグナル伝達に関わるBMPR2、ALK1、ALK6、Endoglinや細胞内シグナルSMAD8の変異が家族例の50~70%、孤発例(特発性)の20~30%に発見される3,4)。常染色体優性遺伝の形式をとるが、浸透率は10~20%と低い。また、2012年にCaveolin1(CAV1)、2013年にカリウムチャネル遺伝子であるKCNK3、2013年に膝蓋骨形成不全(small patella syndrome)の原因遺伝子であるTBX4など、TGF-βシグナル伝達系とは直接関係がない遺伝子がPAH発症に関与していることが報告された5-7)。■ 症状PAHだけに特異的なものはない。初期は安静時の自覚症状に乏しく、労作時の息切れや呼吸困難、運動時の失神などが認められる。注意深い問診により診断の約2年前には何らかの症状が出現していることが多いが、てんかんや運動誘発性喘息、神経調節性失神などと誤診される例も少なくない。進行すると易疲労感、顔面や下腿の浮腫、胸痛、喀血などが出現する。■ 分類第6回肺高血圧症ワールドシンポジウムでは、PHの臨床分類については前回の1~5群は踏襲されたものの、若干の修正がなされた。主な疾患を以下に示す8)。1.肺動脈性肺高血圧症(PAH)1.1 特発性(idiopathic)1.2 遺伝性(heritable)1.3 薬物/毒物誘起性1.4 各種疾患に伴うPAH(associated with)1.4.1 結合組織病(connective tissue disease)1.4.2 HIV感染症1.4.3 門脈圧亢進症(portal hypertension)1.4.4 先天性心疾患(congenital heart disease)1.4.5 住血吸虫症1.5 カルシウム拮抗薬に長期反応を示すPAH1.6 肺静脈閉塞性疾患(pulmonary veno-occlusive disease:PVOD)/肺毛細血管腫症(pulmonary capillary hemangiomatosis:PCH)の明確な特徴を有するPAH1.7 新生児遷延性PH(persistent pulmonary hypertension of newborn)2.左心疾患によるPH3.呼吸器疾患および/または低酸素によるPH3.1 COPD3.2 間質性肺疾患4.慢性血栓塞栓性PH(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH)5.原因不明の複合的要因によるPH■ 予後1990年代まで平均生存期間は2年8ヵ月と予後不良であった。わが国では1999年より静注PGI2製剤エポプロステノールナトリウムが臨床使用され、また、異なる機序の経口肺血管拡張薬が相次いで開発され、併用療法が可能となった。以後は、この10年間で5年生存率は90%近くに劇的に改善してきている。一方、最大限の内科治療に抵抗を示す重症例には、肺移植の待機リストを照会することがある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)右心カテーテル検査による「肺動脈性のPH」の診断とともに、臨床分類における病型の確定、および他のPHを来す疾患の除外診断が必要である。ただし、呼吸器疾患 および/または 低酸素によるPH では呼吸器疾患 および/または 低酸素のみでは説明のできない高度のPHを呈する症例があり、この場合はPAHの合併と考えるべきである。2017年に改訂されたわが国の肺高血圧症治療ガイドラインに示された診断手順(図1)を参考にされたい9)。 画像を拡大する■ 主要症状および臨床所見1)労作時の息切れ2)易疲労感3)失神4)PHの存在を示唆する聴診所見(II音の肺動脈成分の亢進など)■ 診断のための検査所見1)右心カテーテル検査(1)肺動脈圧の上昇(安静時肺動脈平均圧で25mmHg以上、肺血管抵抗で3単位以上)(2)肺動脈楔入圧(左心房圧)は正常(15mmHg以下)2)肺血流シンチグラム区域性血流欠損なし(特発性または遺伝性PAHでは正常または斑状の血流欠損像を呈する)■ 参考とすべき検査所見1)心エコー検査にて、三尖弁収縮期圧較差40mmHg以上で、推定肺動脈圧の著明な上昇を認め、右室肥大所見を認めること2)胸部X線像で肺動脈本幹部の拡大、末梢肺血管陰影の細小化3)心電図で右室肥大所見3 治療 (治験中・研究中のものも含む)SC/ERS(2015年)のPH診断・治療ガイドラインを基本とし、日本人のエビデンスと経験に基づいて作成されたPAH治療指針を図2に示す9)。画像を拡大するこれはPAH患者にのみ適応するものであって、他のPHの臨床グループ(2~5群)に属する患者には適応できない。一般的処置・支持療法に加え、根幹を成すのは3系統の肺血管拡張薬である。すなわち、プロスタノイド(PGI2)、ホスホジエステラーゼ 5型阻害薬(PDE5-i)、エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)である。2015年にPAHに追加承認された、可溶性guanylate cyclase賦活薬リオシグアト(商品名:アデムパス)はPDE5-i とは異なり、NO非依存的にNO-cGMP経路を活性化し、肺血管拡張作用をもたらす利点がある。欧米では急性血管反応性が良好な反応群(responder)では、カルシウム拮抗薬が推奨されているが、わが国では、軽症例には経口PGI2誘導体べラプロスト(同:ケアロードLA、ベラサスLA)が選択される。セレキシパグ(同:ウプトラビ)はプロスタグランジン系の経口肺血管拡張薬として、2016年に承認申請されたPGI2受容体刺激薬である。3系統の肺血管拡張薬のいずれかを用いて治療を開始する。治療薬の選択には重症度に基づいた予後リスク因子(表1)を考慮し、リスク分類して治療戦略を立てることが推奨されている。重症度別(WHO機能分類)のPAH特異的治療薬に関する推奨とエビデンスレベルを表2に示す。従来は低リスク群では単剤療法、中等度リスク以上の群では複数の肺血管拡張薬を導入することが基本とされてきたが、肺動脈圧が高値を示す症例(平均肺動脈圧40mmHg以上)では、2剤、3剤の異なる作用機序をもつ治療薬の併用療法が広く行われている。併用療法には治療目標に到達するように逐次PAH治療薬を追加していく「逐次併用療法」と初期から複数の治療薬をほぼ同時に併用していく「初期併用療法」があるが、最近では後者が主流になっている。画像を拡大する画像を拡大する単剤治療を考慮すべき病態には下記のようなものがある。1)カルシウム拮抗薬のみで1年以上血行動態の改善が得られる、2)単剤治療で5年以上低リスク群を維持している、3)左室拡張障害による左心不全のリスク要因を有する高齢者(75歳以上)、4)肺静脈閉塞性疾患(PVOD)/肺毛細血管腫症(PCH)の特徴を有することが疑われる、5)門脈圧亢進症を伴う、6)先天性心疾患の治療が十分に施行されていない、などでは単剤から慎重に治療すべきと考えられる。経口併用療法で機能分類-III度から脱しない難治例は時期を逸さぬようPGI2持続静注療法を考慮する。右心不全ならびに左心還流血流低下が著しい最重症例では、体血管拡張による心拍出量増加・右心への還流静脈血流増加に対する肺血管拡張反応が弱く、かえって肺動脈圧上昇や右心不全増悪を来すことがあり、少量から開始し、急速な増量は避けるべきである。また、カテコラミン(ドブタミンやPDEIII阻害薬など)の併用が望まれ、体血圧低下や脈拍数増加、水分バランスにも留意する。エポプロステノール(同:フローラン、エポプロステノールACT)に加えて、2014年に皮下ならびに静脈内投与が可能なトレプロスチニル(同:トレプロスト注)が承認された。皮下投与は、注射部位の疼痛対策に課題を残すが、管理が簡便で有利な点も多い。エポプロステノールに比べ力価がやや劣るため、エポプロステノールからの切り替え時には用量調整が必要とされる。さらにPGI2吸入薬イロプロスト(ベンテイビス)、選択的PGI2受容体作動薬セレキシパグ(ウプトラビ)が承認され、治療薬の選択肢が増えた。抗腫瘍薬のソラフェニブ(multikinase inhibitor)、脳血管攣縮の治療薬であるファスジル(Rhoキナーゼ阻害薬)、乳がん治療薬であるアナストロゾール(アロマターゼ阻害薬)も効果が注目されている。4 今後の展望近年、肺血管疾患の研究は急速に成長をとげている。PHの発症リスクに関わる新たな遺伝的決定因子が発見され、PHの病因に関わる新規分子機構も明らかになりつつある。特に細胞の代謝、増殖、炎症、マイクロRNAの調節機能に関する研究が盛んで、これらが新規標的治療の開発につながることが期待される。また、遺伝学と表現型の関連性によって予後転帰の決定要因が明らかとなれば、効率的かつテーラーメイドな治療戦略につながる可能性がある。5 主たる診療科循環器内科、膠原病内科、呼吸器内科、胸部心臓血管外科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター/肺動脈性肺高血圧症(公費対象)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)グラクソ・スミスクライン肺高血圧症情報サイトPAH.jp(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂)(医療従事者向けのまとまった情報)2015 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension(European Respiratory Journal, 2015).(医療従事者向けのまとまった情報:英文のみ)患者会情報NPO法人 PAHの会(PAH患者と患者家族の会が運営している患者会)Pulmonary Hypertension Association(PAH患者と患者家族の会 日本語選択可能)1)Michelakis ED, et al. Circulation. 2008;18:1486-1495.2)Morrell NW, et al. J Am Coll Cardiol. 2009;54:S20-31.3)Fujiwara M, et al. Circ J. 2008;72:127-133.4)Shintani M, et al. J Med Genet. 2009;46:331-337.5)Austin ED, et al. Circ Cardiovasc Genet. 2012;5:336-343.6)Ma L, et al. N Engl J Med. 2013;369:351-361.7)Kerstjens-Frederikse WS, et al. J Med Genet. 2013;50:500-506.8)Simonneau G, et al. Eur Respir J. 2019;53. pil:1801913.9)日本循環器学会. 肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)公開履歴初回2013年07月18日更新2020年02月03日

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