低用量アスピリン、早産と周産期死亡を抑制/Lancet

低~中間所得国の未経産妊婦では、妊娠早期(6週0日~13週6日)に低用量アスピリンを投与することで、妊娠37週未満と34週未満の早産および胎児の周産期死亡の発生が改善されることが、米国・Christiana CareのMatthew K. Hoffman氏らが行った二重盲検プラセボ対照無作為化試験「ASPIRIN試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2020年1月25日号に掲載された。低~中間所得国では、早産は新生児死亡の原因として頻度が高い状態が続き、その負担は過度に大きいという。低用量アスピリンの妊娠高血圧腎症の予防に関するメタ解析により、とくに妊娠16週未満の時期に投与を開始すると早産の発生が低下する可能性が示唆されている。
6つの低~中間所得国の無作為化試験
本研究は、6ヵ国(インド、コンゴ、グアテマラ、ケニア、パキスタン、ザンビア)の7施設が参加し、2016年3月23日~2018年6月30日の期間に患者登録が行われた(米国Eunice Kennedy Shriver国立小児保健発達研究所[NICHD]の助成による)。対象は、18~40歳(コンゴ、ケニア、ザンビアは倫理審査委員会の許可があれば≧14歳の未成年者を含めた)の未経産の単胎妊娠女性であった。
被験者は、妊娠6週0日~13週6日の期間に、低用量アスピリン(81mg/日)またはプラセボの錠剤を投与される群に無作為に割り付けられた。妊娠36週7日または分娩まで、研究者、医療従事者、患者には治療割り付け情報がマスクされた。
主要アウトカムは、早産(妊娠≧20週0日~<37週0日の分娩数)の発生とした。
早産11%、34週未満の早産25%、周産期死亡14%のリスク低減
1万1,976例(低用量アスピリン群5,990例、プラセボ群5,986例)の妊婦が登録され、1万1,544例(5,780例、5,764例)が主要アウトカムの解析に含まれた。>29歳は全体の2.2%であり、ベースラインの患者背景や国別の患者の割合は両群でほぼ同様であった。アドヒアランス(服薬順守率90%以上の患者の割合)は、低用量アスピリン群85.3%、プラセボ群84.4%であり、両群とも高かった。妊娠37週未満の早産の割合は、低用量アスピリン群が11.6%(668/5,780例)と、プラセボ群の13.1%(754/5,764例)に比べ有意に低かった(リスク比[RR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.81~0.98、p=0.012)。
胎児の副次アウトカムのうち、周産期死亡(周産期[妊娠20週~産後7日以内]の死亡、1,000出産当たりの死亡数:45.7件vs.53.6件、RR:0.86、95%CI:0.73~1.00、p=0.048)、胎児消失(fetal loss、妊娠16~20週の死産と妊娠20週~産後7日以内の周産期死亡、1,000妊娠当たりの死亡数:52.1件vs.60.8件、0.86、0.74~1.00、p=0.039)、妊娠34週未満の早産(3.3% vs.4.0%、0.75、0.61~0.93、p=0.039)の割合は、いずれも低用量アスピリン群で有意に良好であった。
また、母親の副次アウトカムでは、高血圧性疾患(妊娠高血圧腎症、子癇、妊娠高血圧)を有する妊娠34週未満の早産(0.1% vs.0.4%、0.38、0.17~0.85、p=0.015)が、低用量アスピリン群で有意に良好だった。その他の副次アウトカムの発生は両群間で類似していた。
1つ以上の重篤な有害事象を発症した患者の割合(低用量アスピリン群14.0% vs.プラセボ群14.4%、p=0.568)には、両群間で差は認められなかった。母親の出血性合併症(分娩前の出血[0.6% vs.0.6%、p=0.815]、分娩後の出血[0.8% vs.0.7%、p=0.481]、上部消化管出血[0.1% vs.<0.1%、p=0.216])や、貧血(0.4% vs.0.4%、p=0.893)の発生にも差はみられなかった。また、母親の死亡(0.2% vs.0.2%、p=0.514)および新生児の生後28日以内の死亡(2.7% vs.3.2%、p=0.138)の頻度にも差はなかった。
著者は、「これらの知見は、既報のメタ解析の結果と一致する。今回の試験はサンプルサイズが大きいため、さまざまな低~中間所得国の多様な女性集団で、利益を明確に示すことができた」とし、「アスピリンは低コストで忍容性も高く、われわれのレジメンは世界のさまざまな臨床現場で容易かつ安全に導入が可能と示唆される」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)
関連記事

出生児の有害アウトカム、不妊治療が原因か?/Lancet
ジャーナル四天王(2019/01/28)

short DAPT vs.standard DAPTの新展開:黄昏るのはアスピリン?クロピドグレル?(解説:中野明彦氏)-1170
CLEAR!ジャーナル四天王(2020/01/22)

アスピリン、日本人の女性糖尿病患者で認知症リスク42%減
医療一般 日本発エビデンス(2019/12/06)
[ 最新ニュース ]

ICUでのビタミンC投与は敗血症に有効か/NEJM(2022/06/29)

高齢または中等度リスクAS患者のTAVIとSAVRの比較(解説:上妻謙氏)(2022/06/29)

熱ショックタンパク90阻害薬pimitespib 、GISTに承認/大鵬(2022/06/29)

転移のある去勢抵抗性前立腺がんに対するPSMA標的治療薬ルテチウム-177はPFSを延長(TheraP)/ASCO 2022(2022/06/29)

思春期ADHDにおける物質使用障害の性差(2022/06/29)

感染2年後も55%がlong COVID~武漢の縦断コホート研究(2022/06/29)

転移を有する無症状の結腸がんに対する化学療法前の原発巣切除の効果/ASCO2022(2022/06/29)

麻痺を伴う謎に満ちた小児の疾患、原因特定へ前進(2022/06/29)

IDH2変異の再発・難治AMLに対するenasidenibの効果(IDHENTIFY)/ASCO2022(2022/06/29)
[ あわせて読みたい ]
希少疾病・難治性疾患特集 2020(2020/02/03)
化療スタンダードレジメン(2014/01/07)
産婦人科医ユミの頼られる「女性のミカタ」 (2014/10/08)
化療スタンダードレジメン:卵巣がん(2014/06/17)
化療スタンダードレジメン:卵巣がん(2014/06/03)
化療スタンダードレジメン:卵巣がん(2014/05/14)
「m」の字走査法で出来る!乳腺超音波手技大原則(2012/12/01)
ASCO2012〔現地レポート〕(2012/07/25)
主任教授 森田峰人先生「産科婦人科最先端治療は患者個々への対応が決め手」(2010/07/15)
専門家はこう見る
低用量アスピリンの投与で低・中所得国における早産率が有意に低下―日本でも大規模周産期センターでは一考の価値あり(解説:前田裕斗氏)-1198
コメンテーター : 前田 裕斗( まえだ ゆうと ) 氏
東京医科歯科大学 医歯学総合研究科 国際健康推進医学分野