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認知症患者の身体的健康の改善に対する介入~メタレビュー

 ベルギー・University Psychiatric Center KU LeuvenのDavy Vancampfort氏らは、認知症患者の身体的健康を対象とした、薬理学的および非薬理学的介入についてのメタ解析を行った。Journal of the American Medical Directors Association誌オンライン版2020年2月18日号の報告。 検証済みの評価尺度で認知症と診断された患者を対象とした、システマティックレビューとメタ解析を実施した。2019年10月21日までの文献を、主要なデータベースより検索し、エフェクトサイズ(標準平均差[SMD]、Hedges g、リスク比[RR])の比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・検索の結果、メタ解析4件を含む3,773件がのうち、分析対象31件(1万54例)が抽出された。・メタ解析は、十分に高品質であったが、研究件数はあまり多くなかった。・栄養補助食品のみで、体重増加が認められた(SMD:0.53、95%CI:0.38~0.68、中程度の効果、12件、748例)。・アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は、体重減少リスクの増加との関連が認められた(RR:2.1、95%CI:1.5~3.0、9件、7,010例)。・疼痛治療は、感覚刺激に対する中程度の効果が認められたが(SMD:-0.58、95%CI:-0.99~-0.17、6件、199例)、身体活動にはわずかな影響しか認められなかった(SMD:-0.24、95%CI:-1.06~0.59、2件、75例)。・心理社会的介入は、グループ介入では中程度の効果が認められたが(SMD:-0.55、95%CI:-1.02~-0.09、6件、157例)、個人介入での影響はわずかであった(SMD:-0.27、95%CI:-1.06~0.53、2件、55例)。 著者らは「認知症患者は、高頻度に身体的併存疾患を有するが、この状態を予防および治療するための薬理学的および非薬理学的介入に関する現在のエビデンスは、まだ初期段階であり、さまざまな身体的健康に焦点を当てた大規模な試験が必要とされている」としている。

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人工骨頭置換術、セメントレスは再置換のリスクが高い/JAMA

 大腿骨近位部骨折患者の人工骨頭置換術では、非セメント固定はセメント固定に比べ、無菌性再置換のリスクが高く、この差の主な原因は非セメント固定で人工関節周囲骨折の頻度が高いためであることが、米国・カイザーパーマネンテ(Hawaii Permanente Medical Group)のKanu Okike氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌2020年3月17日号に掲載された。合意形成に基づくガイドラインや系統的レビューにより、転位型大腿骨頸部骨折の人工骨頭置換術では、セメント固定は非セメント固定よりも有効性が高いとされる。一方、これらの推奨は米国以外で実施された研究に基づくことを考慮すると、これらの知見が米国の経験を反映するかは不確実だという。60歳以上を対象とする米国の後ろ向きコホート研究 本研究は、米国の大規模な統合保健システムのデータを用いた後ろ向きコホート研究である。 対象は、年齢60歳以上、2009年1月1日~2017年12月31日の期間に、米国の大規模HMOカイザーパーマネンテの36の関連病院で、大腿骨近位部骨折の治療として人工骨頭置換術を受けた患者であった。 被験者は、人工骨頭置換術において、セメントを用いて大腿骨ステムの固定を行う群(セメント固定群)、または多孔質加工インプラントへの骨増殖によって大腿骨ステムの固定を行う群(非セメント固定群)に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは無菌性再置換とし、感染以外の原因で既存のインプラントを置換するために、初回手術後に行われた再手術と定義された。副次アウトカムは、死亡(院内、退院後、全体)、90日の時点での内科的合併症(肺炎、急性心筋梗塞、深部静脈血栓症、肺塞栓症など)・救急診療部(ED)受診・予定外の再入院であった。1年後の再置換率、非セメント固定で1.7%高い 1万2,491例が対象となった。このうち、6,449例(51.6%)がセメント固定、6,042例(48.4%)は非セメント固定を受けていた。セメント固定例の割合の推移は経時的にほぼ一定していた。手術は36施設の481人の外科医によって行われた。  ベースラインの全体の年齢中央値は83歳、69.3%が女性で、75.8%は米国麻酔科学会(ASA)分類の3(重篤な全身性疾患)以上であった。粗1年死亡率は20.9%(2,613/12,491例)で、追跡期間中央値は3.8年(範囲:1~9)だった。 潜在的な交絡因子を調整した多変量回帰分析では、手術後1年時の無菌性再置換の累積発生率は非セメント固定群が3.0%と、セメント固定群の1.3%に比べ有意に高率であった(絶対差:1.7%、95%信頼区間[CI]:1.1~2.2、ハザード比[HR]:1.77、95%CI:1.43~2.19、p<0.001)。事後解析では、この差は主に1年後の人工関節周囲骨折(非セメント固定群1.6% vs.セメント固定群0.2%)の頻度の差によるものだった。 事前に規定された6項目の副次アウトカムは、いずれも両群間に有意な差を認めなかった(全死亡:非セメント固定群20.0% vs.セメント固定群22.8%[HR:0.95、95%CI:0.90~1.01、p=0.08]、院内死亡:1.7% vs.2.0%[0.94、0.73~1.21、p=0.61]、退院後死亡:19.4% vs.21.8%[0.96、0.90~1.01、p=0.11]、内科的合併症:14.6% vs.15.9%、[0.93、0.83~1.03、p=0.16]、ED受診:20.9% vs.20.0%[1.05、0.96~1.15、p=0.29]、再入院:19.8% vs.19.1%[1.04、0.94~1.14、p=0.45])。 著者は、「これらの知見により、米国の外科医は、禁忌がない場合、転位型大腿骨頸部骨折の人工骨頭置換術ではセメント固定を考慮すべきと示唆される」としている。

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禁煙をし続けるために本当に必要なこと(1)【新型タバコの基礎知識】第17回

第17回 禁煙をし続けるために本当に必要なこと(1)Key Points禁煙とは、新型タバコも含めてタバコをすべて止め続けること依存症から脱出するために必要なスキルは、「知る」ということタバコ産業は意図的にタバコの依存性を高めてきた「タバコ会社による搾取がいかにひどいか」を「知る」ことで、より簡単に「タバコを止め続ける」ことができるようになるまずは、新型タバコ時代の禁煙の定義とは何か、明確にしておきたいと思います。作家マーク・トウェインが「禁煙は簡単だ。私はこれまで何千回も禁煙した」と語った、というのは有名な笑い話ですが、ここで語られたマーク・トウェインの禁煙は、私の考える禁煙ではありません。「禁煙とは、新型タバコも含めてタバコをすべて止め続けること」だと考えています。タバコを一本でも吸ってしまうとニコチン依存症の脳内回路が回りだし、容易に喫煙を再開してしまうため、「禁煙し続けてもらう」のは大変なことです。新型タバコ時代になり、禁煙の定義すら難しくさせられてしまっています。「禁煙できました!アイコスにしました」という患者の声を多く聞くようになりました。残念ながら、これも禁煙とは言えません。禁煙し続けてもらうために、禁煙とは何かも含めて、医療者からうまく情報提供しつつ、禁煙支援・禁煙指導を継続的に繰り返し実施していく必要があります。禁煙し続けてもらうために必要なスキルとは何か。人に言われていったん止めることができたとしても、長く止め続けることは難しいものです。禁煙は続けてもらわなければ、禁煙とは言えません。ニコチン依存だけでなく、アルコール依存や違法薬物依存等さまざまな依存症から脱出するために必要なスキルは、「知る」ということです。自分から知ろうとするということが、回り道のようで、止め続けるための近道となります。図1は、現在までの50年間に、タバコ会社がどのようにタバコを変えてきたのか、代表的な9つの手法を示したものです。長年にわたるタバコ問題研究者の取り組みや、タバコ病訴訟などで公開されたタバコ会社の内部文書*1等の分析から、明らかにされた驚くべき事実です。*1:Truth Tobacco Industry Documentsのウェブサイトでは1400万件におよぶタバコ会社の内部文書が公開されている。また、British American Tobacco Documents Archiveのウェブサイトでは600万ページ分のブリティッシュ・アメリカン・タバコ社の内部文書が公開されている。画像を拡大するタバコ産業は、意図的にタバコへの依存性を高めてきたということが分かっています。タバコに含まれるニコチン自体を増やしてニコチン依存症になりやすくしたことに加えて、さらにアンモニアなどの添加物によりニコチンが脳に届けられやすくなるようにしました。メンソールや香料を加えることで、煙でむせないように、のどがイガイガしにくいように、そしてより女性や子ども、今までタバコを吸ったことがない人が吸いやすくなるようにしてきました。フィルターの横に穴をあけて空気を取り込めるようにすることで煙をより深く吸い込みやすいように、ニコチンが直接届くようにもしてきました。50年前のタバコと比べて、現在のタバコは、吸いはじめた人をより早くニコチン依存症にすることができ、女性や子どもからも受けがよくなったというわけです。日本ですでにブレークしてしまった加熱式タバコは、タバコを改造してきたタバコ会社が製造・販売しているタバコ商品です。実は、加熱式タバコは、タバコがずっと改変されてきたという歴史のなかの1ページに相当します。タバコ会社はもうずっと前から、タバコの害が明らかになってからも、意図的に積極的な広告宣伝、販売促進活動そしてロビー活動を行ってきました。そのため、タバコのことを悪く言いにくい空気が作られてきたのです。タバコ会社が意図的に何十年もかけて、情報操作してきた影響が積み重なって、人々のタバコ問題に対する認識が形作られています。タバコ会社は、タバコを吸うのは文化であって、タバコを吸う権利がある、他人にとやかく言われるようなことでない、と人々が思うように仕向けてきたのです。従来から、タバコ産業は知識人や専門家を広告塔として活用してきました。図2は1931年に米国で使われたタバコ広告ですが、医師がタバコを勧めています。現在の日本でも、いまだに医師などの専門職が広告や宣伝、販売促進活動に活用されています。現在では、タバコの害がはっきりと実証されているわけですから、タバコを勧めるような態度をとる医師や知識人の罪は非常に重いといえるでしょう。画像を拡大するタバコ産業はずっと社会的に不利な状況の若者をターゲットにしてきました。タバコ産業の内部文書の分析から、先進国において、社会経済的に恵まれない状況の若者を主要なターゲットとしていることが分かっているのです。先進国だけでなく発展途上国も含むすべての国において、タバコ産業によるタバコ広告は、喫煙を女性の解放のシンボルとして印象付けることによって、とくに低学歴で社会経済的に不利な若い女性を喫煙させるように仕向けてきました*2。*2:David A, Esson K, Perucic A, Fitzpatrick C. Tobacco use: equity and social determinants. In Blas E, Kurup A (eds): Equity, social determinants and public health programmes. Geneva, Switzerland: World Health Organization 2010; 199-217.学歴というのは、人の社会経済状況を表すとされる代表的な要因です。もちろん例外もありますが、一般に学歴と所得などさまざまな社会的要因は相関しています。学歴別に喫煙率をみると、図3のように中卒や高卒の者における喫煙率が高く、大卒や大学院卒の者における喫煙率が低くなっていると分かります。この関連は、世界中の先進国で観察されています。人は誰でもまわりにいる人から影響を受けます。学校や職場の仲間がタバコを吸っていたら、タバコを吸いやすくなってしまうのです。タバコ会社は意図的に喫煙者の多い組織や集団をターゲットにして囲い込もうとしてきました。画像を拡大するいかにタバコを魅力的にみせて、若者や女性、まだ吸ってない人に吸わせるか? どうやって喫煙者をより強固なニコチン依存にして、やめられないようにするか? どうすればタバコの害が軽視されるようになるか? タバコ産業はずっと注力してきたのです。また、意図的に愛煙家というような言葉を使って、タバコを吸う人と吸わない人を分断して対立させるようにも仕向けてきた経緯があります。それにのってはいけないのです。タバコ会社がこれまでやってきたこと、すなわち「タバコ会社による搾取がいかにひどいか」を「知る」ことで、より簡単に「タバコを止め続ける」ことができるようになると考えます。第18回は、「禁煙をし続けるために本当に必要なこと(2)」です。

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左心室中隔ペーシングは両心室ペーシングと比べ有用か【Dr.河田pick up】

 心臓再同期療法(CRT)が導入されて20年以上経過したが、心室収縮能が改善しないノンレスポンダーは3割以上にもなり、CRTに代わるペーシングが試みられている。この論文では、オランダ・マーストリヒト大学のSalden氏ら研究グループが、大動脈経由による左心室中隔ペーシングの有効性を検討している。Journal of the American College of Cardiology誌2020年2月号に掲載。 CRTは、多くの場合、両心室ペーシングによって行われる。一方、左心室心内膜側から心室中隔への経動脈的なペーシングリード留置は以前から試みられており、左心室中隔ペーシングと呼ばれる。本研究で著者らは、左心室中隔ペーシングと両心室ペーシングについて、電気生理学的変化および血行動態への影響を比較した。CRT実施の27例を4群に分け、ペーシングの有効性を検討 本研究では、CRTの植込みを受けた患者27例について、一時的な左心室中隔ペーシングのみ、もしくは左心室中隔ペーシングと右心室ペーシングの組み合わせ、両心室ペーシング、ヒス束ペーシングの4群に分け、各々を検討した。電気生理学的変化は心電図(QRS幅)、3次元ベクトル心電図(QRS面積)、および多極体表面マッピング(心室活動時間の標準偏差、standard deviation of activation times [SDAT])によって評価した。血行動態の変化は、左室圧の増加率の最高値(LVdP/dtmax)によって評価した。左心室中隔ペーシングはQRS面積や活動時間を短縮 ベースラインと比較して、左室中隔ペーシング群では、QRS面積の減少(to 73± 22μVs)とSDATの減少(to 26±7ms)が両心室ペーシング群 (to 93±26μVsおよび31±7ms、ともにp<0.05) や左心室中隔+右室ペーシング群(to 108±37μVs、p<0.05および29±8ms、p=0.05)よりも大きかった。LVdP/dtmaxの増加に関しては、左心室中隔ペーシング群は両心室ペーシング群と同様であり(それぞれ17±10% vs.17±9%)、左心室中隔+右室ペーシング群よりも大きかった(11±9%、p<0.05)。LVdP/dtmaxとSDATについては、左心室の基部、中間部、心尖部で有意な違いは認められなかった。16例のサブグループでは、QRS面積、SDATとLVdP/dtmaxについて、左心室中隔ペーシング群およびヒス束ペーシング群で比較した。 左心室中隔ペーシングは、短期間の血行動態を改善し、両心室ペーシングと同程度の電気的再同期が得られた。また、ヒス束ペーシングと比べても同等の改善が得られる可能性を示した。この結果から著者らは、左心室中隔ペーシングが両心室ペーシングの有用な代替法となりうるとしている。 長期的な心室機能への効果に対しては、今後さらなる検討が必要だと考えられる。経動脈的なペーシングリードは、左室内血栓を起こす可能性があるため、実用的ではなかった。しかしながら、心室内に埋め込むことが可能なリードレスペースメーカーも開発されており、今後の臨床への応用が期待される。■関連コンテンツ循環器内科 米国臨床留学記

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COVID-19、家族内感染まで3~8日/Lancet

 シンガポールでは、2020年2月、新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019、COVID-19)の3つの小規模感染者集団(cluster)―中国からの団体旅行、社内会議、教会―が特定された。同国保健省のRachael Pung氏らの研究チームは、これらの集団の疫学的および臨床的な調査の結果を、Lancet誌オンライン版2020年3月16日号で報告した。COVID-19の36例中17例でSARS-CoV-2陽性 研究チームは、COVID-19と確定診断された患者との面談および入院診療記録を用いて疫学および臨床データを収集した。同時に、実地調査を行い、原因ウイルスである重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)への接触機会や、可能性のある伝播経路を追跡した。 2020年2月15日現在、36例のCOVID-19患者が確認され、検疫で425人の濃厚接触者が見つかっている。患者は、3つの小規模感染者集団(A群[中国からの団体旅行者と小売店店員]11例、B群[社内会議出席者]20例、C群[教会訪問者]5例)と関連していた。36例のうち17例がSARS-CoV-2陽性で、2例(いずれもC群)が症状発現の14日前に中国へ旅行していた。A群の2例とB群の17例は、居住または旅行先の国の保健当局によって報告された。潜伏期間中央値4日、家族内2次感染までの間隔3~8日 感染伝播データの解析では、個々の小規模感染者集団内の初発患者は確実には特定できなかったが、A群では2件の小売店の店員と観光案内人が、2例のCOVID-19患者が見つかった中国広西チワン族自治区からの団体旅行者と接触していた(2020年1月22または23日)。C群では、5例の行動が重複したのは2020年1月19日のみで、この日に全員が同じ教会を訪れており、ここで曝露した可能性が最も高い。 B群では、報告された行動の詳細から、国際的な企業の会議中に感染した可能性が最も高いと推測された。この会議は、2020年1月20~22日に開催され、19ヵ国の支社から少なくとも111人が参加した。中国本土からの参加者17人が含まれ、このうち少なくとも1人は武漢市から来訪していた。結果として、直近の中国への渡航歴のない6人がSARS-CoV-2陽性となった。また、会議のプログラムには、事業発表会や研修会のほか、小分科会形式の討論、食事付きの歓迎会、チーム育成のためのゲーム、市内バス見学などが含まれた。 家族内感染者集団を除くと、19例から推定感染時期と発症日の情報が得られた。潜伏期間中央値は4日(IQR:3~6)であった。家族内の3次感染の可能性(初発患者ではない患者からの感染)を考慮しなければ、家族内の初発患者から2次感染患者までの発症間隔は3~8日だった。また、未知の1例の初発患者が個々の感染者集団で感染爆発の種をまいたと仮定すると、感染の31%が1人の患者(B群の53歳、男性、英国人)と関連し、32例では前方感染はないことがわかった。発熱と咳が高頻度、症状は早期消退するも検査陽性で入院長期化 SARS-CoV-2陽性の17例(年齢中央値40歳[IQR:36~51]、女性59%)では、発熱(15例、88%)と咳(14例、82%)が最も頻度の高い症状であった。咽頭痛は8例(47%)に認めた。母親から感染した生後6ヵ月の男児(A群)は、入院後に最初のスパイク状の発熱が発現するまで無症状だった。胸部X線画像上の肺陰影は入院時に8例(53%)にみられ、入院中にさらに4例で発現した。入院中にリンパ球減少(<1.1×109/L)が6例、血小板減少(<150×109/L)が4例に認められた。症状発現から入院までの期間中央値は4日(IQR:3~9)だった。 ほとんどの患者は合併症がなく、症状は数日で消退した。鼻咽頭スワブを用いたPCR検査でSARS-CoV-2陽性が持続したため、入院が長期化した(入院期間中央値6日、範囲:3~9)。鼻プロングによる酸素供給を要する患者が1例、挿管と集中治療を要する急性呼吸窮迫症を呈する患者が2例みられ、4例がロピナビル・リトナビルによる実験的治療を受けた。2020年3月7日現在、3つの小規模感染者集団に死亡例はない。軽症例を含む患者との濃厚接触者で、積極的症例探索を これらの知見を踏まえ、著者は、「SARS-CoV-2は市中感染の可能性があり、武漢市の封鎖や旅行制限の前に、中国からの旅行者が多かった国では、COVID-19の国内小規模感染者集団が存在すると推測される」と考察し、「各国は、一般的な肺炎やインフルエンザ様疾患の患者、および体調が優れない中国からの旅行者との接触者を監視することで、COVID-19の国内小規模感染者集団の検出と封じ込めの強化に重点的に取り組む必要がある。感染者集団を封じ込め、感染拡大を防ぐには、軽症例との接触を含め、患者との濃厚接触者において積極的症例探索(active case-finding)を行うことが重要である」と述べている。

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免疫チェックポイント阻害薬はこうやって効いている【そこからですか!?のがん免疫講座】第3回

はじめに前回は、「がん免疫にはT細胞が最も重要だ」という話をしました。とくにT細胞が抗原提示細胞やがん抗原と出合って活性化し、その活性化したT細胞がまたがん細胞と出合って攻撃するという、T細胞活性化の7つのステップを説明しました。画像を拡大する今回はこの中で、「免疫チェックポイント阻害薬(ICI)」がどうやって効果を発揮しているのか」について解説します。T細胞が抗原と出合うときに活性化がコントロールされる前回説明した7つのステップの中に、「T細胞が抗原と出合う」ステップが2つあります。途中の抗原提示細胞と出合うステップと、最終的ながん細胞と出合うステップですね。この出合うステップにおいてT細胞は相手の細胞と接触します。この接触面は「免疫シナプス」と呼ばれており、実はここでT細胞はさまざまなコントロールを受けています。T細胞には「T細胞受容体(TCR)」というものがあり、これを用いて相手の細胞の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)に乗った抗原を認識し、相手の細胞と接触して先ほど出てきた免疫シナプスを形成します。ちょっと信じ難いことに、このTCRには10の18乗通りといわれるくらいの無数のレパートリーがあり、その一つひとつを「T細胞クローン」と呼んでいます。T細胞クローンにこれだけ無数のレパートリーがある理由は、「さまざまな抗原を認識する」ためです。そうでないと、外からやってくる無数の細菌やウイルスなどの抗原に対応できません。しかし、「がん抗原を含む特定の抗原を認識できるTCRを持つT細胞クローン」というのは、無数のレパートリー中のごく一部です。決してすべてではありません(図2)。つまり、すべてのT細胞クローンががん抗原を認識してがん細胞を攻撃するわけではなく、一部のクローンのみが認識して攻撃しています。このような仕組みによって、「さまざまな抗原に対応でき」、かつ「すべてのT細胞クローンが活性化するわけではない」というコントロール機構が備わっています。画像を拡大するそして、ヒトの身体というのは本当に慎重で、免疫が暴走しないような、さらなるコントロール機構を持っています。実は、TCRで抗原を認識した際、TCRからT細胞に活性化刺激が入りますが、実はT細胞に入る刺激が1つだけの場合はT細胞が活性化できないようになっています。必ず「共刺激」が必要です。刺激が1つではだめで、もう1つ一緒に刺激するものが必要、というところから共刺激と呼んでいる、という非常にシンプルなネーミングです。この共刺激の代表例に、「CD28」という分子があります。抗原提示細胞などに出ているCD80やCD86という分子とT細胞上に出ているこのCD28が免疫シナプスの接触面で結合することでT細胞に活性化刺激が“もう1つ”入ります(図3)。つまりTCRがMHCに乗ったがん抗原を認識して入るTCRからの活性化刺激と、CD28を代表とする共刺激の2つがそろってT細胞は活性化するのです(図3)。画像を拡大するところが、このCD28はなかなか強烈な共刺激でして、過去に「CD28刺激を治療に応用できないか?」という発想で治験がなされたそうですが、使用直後から強烈な炎症が起きて治験は中止になってしまったそうです1)。免疫チェックポイント分子と抗CTLA-4抗体や抗PD-1/PD-L1抗体の作用機序CD28刺激の例からもわかるように、免疫の暴走は恐ろしいことになります。ですので、われわれの身体はさらなる「コントロール機構」を備えています。本当に慎重なのですね…。とくに、免疫シナプスでT細胞をコントロールするCD28のような分子をほかにも多く持っており、それらをまとめて「免疫チェックポイント分子」と呼んでいます(図4)2)。画像を拡大する「免疫チェックポイント分子はCTLA-4やPD-1だけだ」と思われている方がいるかもしれませんが、実は判明しているだけでたくさんあることが図4からおわかりいただけると思います。T細胞の活性化を促す自動車のアクセルのような免疫チェックポイント分子もあれば、抑制するブレーキのような免疫チェックポイント分子もあります(図4)。臨床応用されている抗CTLA-4抗体や抗PD-1/PD-L1抗体は、いずれもブレーキ役の免疫チェックポイント分子を標的にしています。つまり、CTLA-4やPD-1/PD-L1という分子は、本来われわれの身体に備わっているT細胞が暴走しないよう抑制しているブレーキであり、抗CTLA-4抗体や抗PD-1/PD-L1抗体はこのブレーキを外してT細胞を活性化し、活性化したT細胞ががん細胞を攻撃している、というわけです。ただし、これらの薬剤はちょっとずつ作用機序が異なっています。CTLA-4という分子は主にT細胞が抗原提示細胞と出合うステップで働くブレーキだといわれています。T細胞の活性化にCD28の共刺激が必要、ということを紹介しましたが、このCTLA-4という分子はCD28の結合相手であるCD80/CD86と非常に強く結合し、本来CD28が結合する分子を強奪してしまいます。結果としてCD80/CD86と結合できなくなったCD28からの共刺激が入らず、T細胞が抑制されてしまいます(図5のA)。画像を拡大する一方でPD-1はPD-L1/L2と結合することで、抗原を認識した際に入るTCRからの活性化刺激を抑えています。ただし、最近はCD28からの共刺激も抑えているという報告もあるなど、少しややこしい議論もありますが(図5のB)、主にT細胞ががん細胞と出合うステップで働いているとされています。したがって、抗CTLA-4抗体は抗原提示細胞と出合うステップでのT細胞の活性化抗PD-1/PD-L1抗体は最終的にがん細胞と出合うステップでのT細胞の活性化をそれぞれ促し、活性化したT細胞ががん細胞を攻撃して効果を発揮しています。「がん免疫編集」に話を戻して第1回にお話しした「がん免疫編集」を覚えているでしょうか?3)この「がん免疫編集」に免疫チェックポイント分子、ICIを当てはめて考えてみたいと思います。第1回では、臨床的な「がん」の状態は、がん細胞が免疫系から逃れている「逃避相」にある、と紹介しました。ぴんときた方もおられるかもしれませんが、がん細胞は逃避機構の1つとしてこのCTLA-4やPD-1/PD-L1という免疫チェックポイント分子を上手に利用して、免疫系から逃れています。そしてこれらを阻害するICIは、この逃避機構を壊して「がん免疫編集」で言うところの、がん細胞と免疫系とが平衡状態にある「平衡相」、そしてもしかしたらがん細胞が排除される「排除相」にまで逆戻しをしている、ということで話をまとめることができます。細かい話はまだいろいろありますが、これ以上は深入りせず、次回はがん免疫療法の効果予測バイオマーカーの話をしながら、がん免疫の理解を深めていきたいと思います。1)Suntharalingam G, et al. N Engl J Med. 2006;355:1018-1028.2)Pardoll DM. Nat Rev Cancer. 2012;12:252-264.3)Schreiber RD, et al. Science. 2011;331:1565-1570.

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抗がん剤の末梢神経障害、凍結手袋の効果は?/Ann Oncol

 凍結手袋(frozen gloves)は、抗がん剤治療に伴う手足などの末梢神経障害の予防に有用なのか。オランダ・Maxima Medical Center Eindhoven and VeldhovenのA.J.M. Beijers氏らは、化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)に対する凍結手袋の予防効果を検討した無作為化試験を行い、凍結手袋を着用した患者と非着用患者でEORTC QLQ-CIPN20スコアに差はみられなかったものの、着用により手の神経障害症状が軽減され、QOLの改善が示されたと報告した。ただし著者は、「今回の試験では着用群の3分の1が治療終了前に試験を中止しており、その点で留意が必要である」と述べ、「今後の研究では、CIPN予防について四肢低体温法に力を注ぐべきであろう」とまとめている。Annals of Oncology誌2020年1月号掲載の報告。 抗がん剤治療中に凍結手袋を着用する群と着用しない群に無作為に割り付け 研究グループは、患者のQOLに影響を及ぼすCIPNを予防するため、化学療法中の凍結手袋着用の有効性および安全性を検討した。2013年2月~2016年5月に腫瘍内科でオキサリプラチン、ドセタキセルまたはパクリタキセルによる治療を開始するがん患者を、治療中に凍結手袋を両手に着用する(FG)群と着用しない(対照)群に無作為に割り付けた。 CIPNおよびQOLは、ベースライン(t0)、3サイクル後(t1)、化学療法終了時(t2)および化学療法終了6ヵ月後(t3)の4時点で、EORTC QLQ-CIPN20およびQLQ-C30を用いた患者の自己報告に基づき評価した。  抗がん剤の末梢神経障害に対する凍結手袋の予防効果を検討した主な結果は以下のとおり。・各群90例、計180例が登録された。ほとんどが大腸がんまたは乳がんの治療を受けた。・FG群において、31例(34%)は主に不快感のため試験を中止した。・intention-to-treat解析では、FG群と対照群との間でEORTC QLQ-CIPN20スコアに重要な差は示されなかったが、FG群は対照群と比較して、指/手のチクチク感(β=-10.20、95%信頼区間[CI]:-3.94~-3.14、p=0.005)、手の力の低下による瓶やボトルを開ける際の問題(β=-6.97、95%CI:-13.53~-0.40、p=0.04)が減少した。・per-protocol解析でも同様の結果で、指/手のうずくような痛みや灼熱感(β=-4.37、95%CI:-7.90~-0.83、p=0.02)および手のけいれん(β=-3.76、95%CI:-7.38~-0.14、p=0.04)が減少した。・t1での指/手のチクチク感の差異は、臨床的に関連していた。・FG群は対照群よりQOL(β=4.79、95%CI:0.37~9.22、p=0.03)および身体機能(β=5.66、95%CI:1.59~9.73、p=0.007)が良好であった。・用量減量による差異は観察されなかった。

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COVID-19、182ヵ国の対応・管理能力は/Lancet

 COVID-19のアウトブレークを踏まえ、公衆衛生上のリスクとイベントに対する既存の健康安全保障能力を評価する目的で182ヵ国の国際保健規則(IHR)年次報告を解析した結果を、スイス・世界保健機関(WHO)のNirmal Kandel氏らが報告した。世界各国のアウトブレークに対する予防、検知および対応の能力は大きく異なっているが、半数の国は高い運用即応性を備えており、COVID-19を含む衛生緊急事態に対して、効果的に対応できることが示唆されたという。IHRで強調されているように、感染症のアウトブレークなど公衆衛生上のリスクを管理するためには、事象を予防、検知し、対応する公衆衛生対策が不可欠である。解析を踏まえて著者は、「COVID-19に関する国家の即応能力を十分理解するには、地域リスク評価からの知見が必要である。また、アウトブレークの制御に対するグローバルな即応を強化するには、単一ではなく複数国家での能力構築(capacity building)と協力(collaboration)が必要である」とまとめている。Lancet誌オンライン版2020年3月18日号掲載の報告。182ヵ国の2018年国際保健規則年次報告などを解析 研究グループは、182ヵ国のIHR年次報告と各国の年次報告関連データを用い、(1)予防(prevent)、(2)検知(detect)、(3)対応(respond)、(4)管理(enabling function:資源と調整能力)、(5)運用準備(operational readiness)の5項目の能力について、2018年のデータを解析し、各国を5段階(レベル1:最低~レベル5:最高)で評価した。 WHOが定める6地域レベルでのデータも同様に解析した。約半数が公衆衛生上の緊急事態に対する運用準備能力あり 予防能力あるいは対応能力がレベル1または2は、それぞれ52ヵ国(28%)および60ヵ国(33%)で、その多くは低~低中所得国であった。一方、予防能力あるいは対応能力がレベル4または5は、それぞれ81ヵ国(45%)および78ヵ国(43%)で、これらの国々は運用準備が整っていることが示唆された。 138ヵ国(76%)では、他の項目と比較して検知のスコアが高かった。44ヵ国(24%)は、感染症アウトブレークなどを含む公衆衛生上のリスクと事象に対する有効な管理能力がなく(レベル1が7ヵ国[4%]、レベル2が37ヵ国[20%])、102ヵ国(56%)は管理能力がレベル4または5であった。 32ヵ国(18%)は、運用即応性が低く(レベル1が2ヵ国[1%]、レベル2が30ヵ国[17%])、104ヵ国(57%)は新興感染症のアウトブレークに対する予防、検知および管理の運用準備ができていた(レベル4が66ヵ国[36%]、レベル5が38ヵ国[21%])。

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ようやく開けた米国への道、生じた迷いと葛藤【臨床留学通信 from NY】第8回

第8回:ようやく開けた米国への道、生じた迷いと葛藤さて、前回までにお話ししたとおり、臨床の合間を縫って地道に勉強を続け、2011年3月にECFMG certificateを取得しました。そうなれば、次は意気揚々と米国のResidencyのMatchingに参加するのが通常です。ところが私は、その段階に及んで「そもそもなぜ留学したいのか?」という根本的な動機がわからなくなり、その後数年にわたって右往左往することになりました。2011年6月に栃木県の足利赤十字病院に赴任し、カテーテル治療の勉強を開始したところでもありました。せっかくやり始めたのに、米国でResidentから、しかも内科からやることに、当時はメリットを感じられませんでした。それよりも、カテーテル治療医としてトレーニングポジションで留学をすることのほうが圧倒的に魅力的でした。そのような心持ちだったため、ResidencyのMatchingに参加することもなく、一方で、同年9月に東京海上日動メディカルサービス主催のN programと呼ばれる臨床留学の国内選考会に参加するも、1次選考会で惨敗という結果でした。ひとえに、志望動機がはっきりしないこと、圧倒的な英語力の欠如が要因でありました。選考基準にはTOEFL試験が使用されていて、ボーダーラインは120点満点中100点でしたが、当時の私の英語力は80点程度で、USMLE Step CSに合格したとはいえ、会話力、リスニング力は全くの力不足を痛感しました。さらに、カテーテル治療のポジションにスッと入り込めるほどアメリカは甘くはなく、国際学会に参加する度に著名な先生の名刺をいただいてはポジションを交渉するということを繰り返していましたが、なかなか難しいのが実情でした。当時、日本では行われていなかったMitral Clipという経皮的僧帽弁形成術を直接見ようとバージニア大学まで赴き、直接ポジションの交渉も行いましたが、それもやはり難しかったです。一方、大学の先輩方は欧州のカテーテル治療の留学を盛んに行っている時期で、目標となる人はたくさんいましたが、学会でお会いした欧州の先生方と交渉したもののなかなかうまくいきませんでした。以前と異なり、パリでのテロ事件勃発以降、国の治安等の問題から無給ではなかなか雇いづらく、多くの場合funding sourceが問題となりました。そのため、例えば今いる病院から給料をもらい続けられるならば採用してもいい、といった具合でした。実際には、それも難しく、企業からのサポートもなく、Grantを取れるほどの実績もないため、非常に難しい道のりでした。今への道しるべになった2人の恩師とりあえず留学したい、ということで始めたUSMLEへの挑戦。苦労してようやく資格を取ったのに、何がしたいのかわからず模索する日々、ただひたすら循環器内科医、カテーテル治療医としての業務に追われる月日が続きました。しかし一方で、その後につながる幸運な出会いもこの時期にありました。そのうちの1人が香坂 俊先生で、香坂先生の指導の下で臨床研究を始めることになったのです。臨床研究は本来日々の業務の合間にやるものだとも教わりました。もう1人は、足利赤十字病院の沼澤 洋平先生で、症例報告や臨床研究は学会発表で終わらせてはならず、論文にして広く世間に発表することで初めて役に立つことになるとも教わりました。実際、形になった論文で学位を取ることができました。日々の業務を丁寧にこなす中で自然と湧き出たClinical questionを解決すべく、過去の文献を検索し、さらにデータベースを用いて実際に統計的に証明するというClinical researchは、非常に自分に合っている気がしました。かつての自分は、有名な医学雑誌を毎週読んでいれば十分と思っていましたが、Clinical researchをすることで、さらに詳しく調べようとすることから知識が深まり、患者さんへの治療にもフィードバックされている手応えがありました。また、論文は留学に際して初対面の人に対して名刺代わりになると教わったこともあり、臨床だけでなく、研究、論文作成にも力を入れるようになりました。足利赤十字病院に赴任して数年経過し、可能な専門医を取得したり、学位を取得したりしているうちに、気付けば2017年になっていました。Column画像を拡大するCOVID19は米国、ニューヨークでも流行ってきており1)、私の働いている病院でも、全体として待機的手術、外来をすべて閉鎖し、全医療資源 (とくに術後ICUや人工呼吸器)をCOVID19対策に注入しようとしています。われわれ内科レジデントはまさに渦中の最中、最前線で働かなければならず、若年者があっという間にARDSになってしまう症例も経験することから、少なからず身の恐怖を感じます。また、COVID19は留学にも影響を与えているようです。3月19日現在、VISAの申請を大使館が受け付けていない状況であり2)、米国全体として渡航禁止の状況であることから、迂闊に帰国できません。1人でも犠牲者が少なく済み、一刻も早く事態が収束することを願います。1)https://public.flourish.studio/visualisation/1438279/?fbclid=IwAR1kZP36l-xPyGXGYeuDIsXuHd4-nWeFb4w7e1qwTj8CLz7J3X8OPAL5nnY2)https://www.ustraveldocs.com/jp_jp/index.html?firstTime=No

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新型コロナ治療薬の有力候補、「siRNA」への期待

2019年末に中国湖北省武漢で最初の症例が確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界各地への感染が急速に拡大しており、世界保険機関(WHO)はパンデミック(世界的大流行)と認定した。国内でも医療機関や行政の関連機関により懸命な対策が進められている。コロナウイルスの種類コロナウイルスは、ヒトに日常的に感染するウイルスと動物から感染する重症肺炎ウイルスの2つのタイプに分類される。ヒトに日常的に感染するコロナウイルスはこれまで4種知られており、風邪の原因の10~15%を占めている。そして、ほとんどの子供はこれらのウイルスに6歳までに感染するとされている。一方で、重症肺炎ウイルスには、2002年末に中国広東省から広まった重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)および2012年にサウジアラビアで発見された中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、さらに2019年の新型コロナウイルス(SARS-CoV遺伝子と80%程度の類似性があることからSARS-CoV-2と命名された)が含まれる。COVID-19の臨床的特徴COVID-19は2020年3月22日現在、世界で30万人以上が感染し、さらに感染が拡大しているという驚異的な勢いで蔓延しており、致死率は2%程度とされている。感染者数はSARSやMERSに比べるとはるかに多いが、致死率はSARSで10%、MERSは34%であることからCOVID-19は最も低いといえる。SARSの感染源はキクガシラコウモリ、MERSはヒトコブラクダとされており、COVID-19の感染源はまだ不明であるが、SARSとよく似ていることからおそらくコウモリと考えられている。このように動物の種を超えて感染するコロナウイルスは重症化しやすい。COVID-19やSARSの感染経路は、患者と濃厚に接触することによる飛沫感染、ウイルスに汚染された環境にふれることによる接触感染が考えられているが、MERSは限定的であるとされている。新型コロナウイルスの実体コロナウイルスはプラス鎖一本鎖のRNAをゲノムとして持つウイルスで、感染すると上気道炎や肺炎などの呼吸器症状を引き起こす。コロナウイルスはそのRNAゲノムがエンベロープに包まれた構造を持ち、感染にはウイルス表面に存在する突起状のタンパク質(スパイクタンパク質)が必要である。スパイクタンパク質は感染細胞表面の受容体に結合することで、ウイルスが細胞内に取り込まれ感染するが、SARS-CoV-2の受容体はアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体であり、SARS-CoVの受容体と同じである。スパイクタンパク質は王冠(crown)に似ていることから、ギリシャ語にちなみコロナcoronaと名付けられた。COVID-19治療の現状通常1つの薬を開発するには10年以上の年月と300億円以上の費用が必要とされており、SARSやMERSなどのこれまでの重症肺炎コロナウイルス感染症に対する特異的な治療法はいまだになく、ワクチンや抗ウイルス薬も開発されていない。そのため、COVID-19に対しても現状では熱や咳などの症状を緩和するという対症療法が中心である。しかし、エイズウイルスであるHIV感染症やエボラ出血熱に対して有効性の認められた薬やインターフェロン療法がSARSやMERSに対しても有効であったことから、COVID-19での利用も検討されている。治療薬・ワクチンの開発動向現在、COVID-19に対する治療薬の開発は大手製薬会社を中心に世界的に精力的に進めれられている。ワクチンの開発も急速に進められているが、従来の組換えタンパク質や不活化ウイルスを抗原とするワクチンは製造用のウイルス株や組換え株を樹立するのに時間がかかるうえに、安定的に製造できる工程を確立するのにさらに時間がかかる。一方で、近年の次世代シークエンサー技術の進歩によりウイルスのゲノム情報が簡単に解読されるようになった。およそ3万塩基長のSARS-CoV-2の全ゲノム情報も、2020年1月中旬に中国の研究チームが公表した。そのため、ゲノム情報を利用した新たな治療法の開発も進められている。最も早く臨床試験が始まりそうなのが、米国アレルギー・感染症研究所とModerna社が開発しているメッセンジャーRNA(mRNA)をベースにしたワクチンである。遺伝子発現の流れにおいては、ゲノムDNAからmRNAが転写され、mRNAからタンパク質が翻訳される。タンパク質ではなく、ウイルス表面のスパイクタンパク質をつくるmRNAを細胞に接種するとスパイクタンパク質が産生され、それを抗原とする免疫が誘導される。mRNAは化学合成できるため、ゲノム情報が公開されてから治験薬を製造するまでにわずか40日程度であったとされている。さらに、国内ではDNAワクチンというスパイクタンパク質を発現するDNAを接種するという特徴ある開発研究も、大阪大学とバイオベンチャーのアンジェス、さらにタカラバイオが加わって行われている。しかし、このような抗体を利用する手法では、抗体依存性感染増強という、初感染よりも再感染のほうが重篤な影響を及ぼす危険性があることも指摘されており、大規模な臨床試験が必要とされる。そこで、抗体を利用せずにゲノム情報を利用した治療法として、近年、siRNA(small interfering RNA)によるRNA干渉(RNA interference, RNAi)法による核酸医薬品開発が進められている。siRNAとはsiRNAは21塩基程度の小さな二本鎖RNAであり、化学合成できる。siRNAはヒト細胞内でRISC(RNA-induced silencing complex)と呼ばれる複合体に取り込まれて一本鎖化し、その片方のRNA鎖と相補的な配列を持つRNAを切断する。コロナウイルスのようにRNAをゲノムとして持つウイルスに対しては、ゲノムから産生されたタンパク質を標的とするよりもゲノムRNAを標的にするほうがより直接的な効果が期待できる。実際、RNA干渉は植物・菌類・昆虫などではRNAウイルス感染から自身を守る生体防御機構として働く。siRNA核酸医薬品開発の最前線米国Alnylam Pharmaceuticals社が開発した世界で最初のsiRNA核酸医薬品はアミロイドニューロパチーの原因遺伝子を抑制するものであり、2018年に米国・欧州で承認され、2019年には日本でも承認された。Alnylam Pharmaceuticals社は、Vir Biotechnology社と共同で、すでにSARS-CoV-2に対する350種類以上のsiRNA候補を設計・合成しその有効性のスクリーニングを開始し、肺への送達システムも開発しているようである。また、筆者らのグループは、siRNAの配列選択法はきわめて重要であることを明らかにしており、内在の遺伝子発現にはほとんど影響を及ぼさず、感染したコロナウイルスのみを特異的に抑制するsiRNA配列を選択できる方法論を開発している。そのような方法を用いれば、たくさんのsiRNAをスクリーニングする最初のステップを回避でき、開発の時間をさらに短縮することができる。siRNA核酸医薬品への期待感染症は、過ぎてしまえば忘れられてしまう疾患である一方で、SARS-CoV-2のように、SARS-CoVの改変型ともいえるウイルスが再燃してパンデミックをひき起こす場合もある。そのため、どこまで開発に時間と費用を使えるか、すなわち、いかに効率よく感染症治療薬を開発できるかは全人類にとってきわめて重要な課題といえる。siRNA核酸医薬品は、ゲノム情報に基づいて比較的短時間で、かつ副作用を回避して特異性の高い医薬品を開発できる可能性があり、新しい時代の医薬品として大きな期待を寄せている。講師紹介

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COVID-19のCT所見、919例の系統的レビュー

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のCT画像の特徴についてさまざまな論文が公表されているが、まとまった文献レビューはまだない。今回、南カリフォルニア大学ケック医科大学のSana Salehi氏らが、PubMed、Embase(Elsevier)、Google Scholar、世界保健機関のデータベースから系統的に文献を検索、レビューし、その結果を報告した。American Journal of Roentgenology誌オンライン版2020年3月14日号に掲載。 主なレビュー結果は以下のとおり。・COVID-19の初期のCT画像では、すりガラス陰影(GGO)が両側肺野、多葉性に末梢または後部に分布し、主に下葉に見られた。・初期のCT画像で、GGOに浸潤影が重なった非定型の所見が少数の患者(主に高齢者)に見られた。・まれに中隔肥厚、気管支拡張症、胸膜肥厚、胸膜下病変が見られた(主に後期)。・胸水、心膜液、リンパ節腫脹、cavitation、CT Halo sign、気胸が疾患の進行とともにまれに見られることがある。・中期のCT画像では、GGOの数・大きさの増加、GGOの多巣性浸潤影への進行、中隔肥厚、crazy-paving pattern(すりガラス陰影内部に網状影を伴う所見)が見られ、症状発現後10日前後でCT所見が最も重症となった。・COVID-19患者がICUに移る最も多い原因は急性呼吸窮迫症候群であり、この患者集団の主な死因である。・臨床的改善に相当する画像所見は通常、発症後14日目以降に見られ、浸潤影が徐々に解消され、病変や関わる葉の数が減少する。

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薬剤耐性結核、ベダキリン+pretomanid+リネゾリドが有効/NEJM

 高度薬剤耐性結核症患者の治療において、ベダキリン+pretomanid+リネゾリド併用療法による26週間の治療は、治療終了から6ヵ月時のアウトカムが良好な患者の割合が90%と高く、有害事象は全般に管理可能であることが、南アフリカ共和国・ウィットウォータースランド大学のFrancesca Conradie氏らの検討(Nix-TB試験)で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年3月5日号に掲載された。高度薬剤耐性結核患者の治療選択肢は限られており、アウトカムは不良である。pretomanidは、最近、超多剤耐性(XDR)肺結核症(イソニアジド、リファンピシン、フルオロキノロン系抗菌薬、および1剤以上の注射薬[アミカシン、カプレオマイシン、カナマイシン]に抵抗性)または複雑型多剤耐性(MDR)肺結核症(イソニアジド、リファンピシンに抵抗性で、治療に反応しない、または副作用で治療が継続できない)の成人患者の治療において、ベダキリンおよびリネゾリドとの併用レジメンが、「限定的集団における抗菌薬および抗真菌薬の開発経路(Limited Population Pathway for Antibacterial and Antifungal Drugs)」の下で、米国食品医薬品局(FDA)の承認を得ている。経口3剤の有用性を評価する非盲検単群試験 本研究は、結核菌に対する殺菌活性を有し、既知の耐性がほとんどない3つの経口薬の併用の有用性を評価する非盲検単群試験であり、現在も南アフリカの3施設で追跡調査が継続されている(TB Allianceなどの助成による)。 対象は、XDR結核症、および治療が奏効しなかったか、副作用のために2次治療レジメンが中止されたMDR結核症の患者であった。 ベダキリンは、400mgを1日1回、2週間投与された後、200mgを週に3回、24週間投与された。pretomanidは200mgを1日1回、26週間投与され、リネゾリドは1,200mgを1日1回、最長26週間投与された(有害事象によって用量を調節した)。 主要エンドポイントは、不良なアウトカムの発生とし、細菌学的または臨床的な治療失敗、あるいは治療終了から6ヵ月までの追跡期間中の再発と定義した。6ヵ月時に、臨床症状が消失し、培養陰性で、不良なアウトカムに分類されなかった患者を良好なアウトカムとした。XDR例とMDR例で、有効性に差はない 2015年4月16日~2017年11月15日の期間に109例(XDR例71例、MDR例38例)が登録された。ベースラインの年齢中央値は35歳(範囲:17~60)、男性が52%、黒人が76%であった。HIV陽性例が51%で、胸部X線画像で空洞形成が84%にみられ、BMI中央値は19.7(12.4~41.1)であった。 intention-to-treat(ITT)解析では、治療終了から6ヵ月時に11例(10%)が不良なアウトカムを呈し、98例(90%、95%信頼区間[CI]:83~95)が良好なアウトカムであった。修正ITT解析およびper-protocol解析でも結果はほぼ同様であった。XDR例の良好なアウトカムの患者は63例(89%、79~95)、MDR例では35例(92%、79~98)だった。 不良なアウトカムの11例のうち、死亡が7例(6例は治療期間中に死亡、1例は追跡期間中に不明な原因により死亡)で、治療期間中の同意撤回が1例、追跡期間中の再発が2例、追跡不能が1例であった。 治療期間中に、全例で1つ以上の有害事象の発現または増悪が認められた。重篤な有害事象は19例(17%)にみられ、HIV陽性例と陰性例で頻度は類似していた。リネゾリドの毒性作用として予測された末梢神経障害が81%に、骨髄抑制は48%に発現し、頻度は高かったものの管理可能であったが、リネゾリドの減量または中断が多かった。 著者は、「XDRおよびMDRという治療困難な結核症で90%という高い治療成功率が達成された。これは薬剤感受性結核症における標準治療(イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、エタンブトール)の成績とほぼ同等である」としている。

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乳がん術前治療、BRCA1/2変異患者でpCR率高い/JAMA Oncol

 さまざまなサブタイプの乳がんに対する2つの術前治療レジメンの効果を比較した多施設前向き無作為化試験GeparOctoにおいて、ドイツ・ケルン大学病院のEsther Pohl-Rescigno氏らが遺伝子変異の有無別に2次解析したところ、BRCA1/2遺伝子変異のある患者で病理学的完全奏効(pCR)率が高いことが示された。JAMA oncology誌オンライン版2020年3月12日号に掲載。 GeparOctoは、intense dose-denseエピルビシン+パクリタキセル+シクロホスファミド(iddEPC)とweeklyパクリタキセル+非ペグ化リポソームドキソルビシン(PM)の2つの術前治療レジメンの効果を比較した無作為化試験で、2014年12月~2016年6月に実施された。PM群に割り付けられたトリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者にはカルボプラチンが追加された(PMCb)。本試験では2群間に差は認められなかった。今回、著者らはBRCA1/2および他の乳がん素因遺伝子の生殖細胞系列変異の有無による治療効果を検討した。 本研究は2017年8月~2018年12月に、GeparOctoの対象患者945例のうち914例におけるBRCA1/2遺伝子および16種の乳がん素因遺伝子の変異について、ケルンのCenter for Familial Breast and Ovarian Cancerで遺伝子解析を実施した。主要評価項目は、生殖細胞系列変異の有無別にみた術前治療後のpCR(ypT0 /is ypN0)を達成した患者の割合。 主な結果は以下のとおり。・914例の乳がん診断時の平均年齢は48歳(範囲:21~76歳)であった。・pCR率は、BRCA1/2遺伝子変異陽性患者(60.4%)が陰性患者(46.7%)より高かった(オッズ比[OR]:1.74、95%CI:1.13~2.68、p=0.01)。一方、BRCA1/2遺伝子以外の乳がん素因遺伝子の変異はpCR率と関連がみられなかった。・BRCA1/2遺伝子変異陽性のTNBC患者でpCR率が最も高かった。・TNBC患者において、BRCA1/2遺伝子変異陽性は、PMCb群(74.3% vs. 陰性47.0%、OR:3.26、95%CI:1.44~7.39、p=0.005)およびiddEPC群(64.7% vs. 陰性45.0%、OR:2.24、95%CI:1.04~4.84、p=0.04)の両群ともpCR率に関連していた。・BRCA1/2遺伝子変異陽性は、HR陽性ERBB2陰性乳がんにおける高いpCR率とも関連していた。

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高齢NSCLC患者におけるカルボプラチンとペメトレキセドの有用性(JCOG1210/WJOG7813L)/JAMA Oncol

 高齢者の進行非扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)の1stライン化学療法の中で、ドセタキセル単剤(DOC)は標準療法の1つである。一方、非高齢者の非扁平上皮NSCLCの1次治療としてはカルボプラチン+ペメトレキセドからペメトレキセドの維持療法(CBDCA/PEM)が、広く使われている。そのような中、進行非扁平上皮NSCLCの高齢患者に関して、CBDCA/PEM療法のドセタキセル単剤療法との非劣性を評価する多施設オープンラベル第III相試験が実施された。JAMA Oncology誌2020年3月12日オンライン版掲載の報告。・対象:化学療法未治療の75歳以上のStageIII/IVまたは再発非扁平上皮NSCLC・試験薬:カルボプラチン(AUC5)+ペメトレキセド(500mg/m2)3週ごと4サイクル→ペメトレキセド(500mg/m2)3週ごと病勢悪化まで(CBDCA/PEM群)・対照薬:ドセタキセル60mg/m2 3週ごと病勢悪化まで(ドセタキセル群)・評価項目:[主要評価項目]全生存期間(OS)[副次評価項目]無増悪生存期間(PFS)、奏効割合(ORR)、症状スコア、有害事象などCBDCA/PEM群の非劣性マージンは、OSハザード比(HR)の95%信頼区間(CI)の上限1.154に設定された。 主な結果は以下のとおり。・登録された433例の年齢中央値は78歳であった。・OS中央値は、ドセタキセル群(217例)15.5ヵ月、CBDCA/PEM群(216例)18.7ヵ月であった(HR:0.850、95%CI:0.684~1.056、非劣性p= 0.003)。・PFSもCBDCA/PEM群で長かった(HR:0.739、95%CI:0.609~0.896)。・Grade3/4の白血球減少および好中球減少症の発現率、発熱性好中球減症の発現率はCBDCA/PEM群で低かった(それぞれ28.0%対68.7%、46.3%対86.0%、4.2%対17.8%)・一方、Grade3/4の血小板減少症および貧血の発現率はCBDCA/PEM群で高かった(それぞれ25.7%対1.4%、29.4%対1.9%)・減量の頻度はCBDCA/PEMで少なかった。 カルボプラチン・ペメトレキセド併用とペメトレキセドの維持療法は、高齢の非扁平上皮NSCLCの1次治療においてドセタキセルとの非劣性が証明された。著者らは、同レジメンはこれらの患者集団への有効な選択肢であるとしている。

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COVID-19への抗HIV薬ロピナビル・リトナビル、RCTで有意差認めず/NEJM

 重症COVID-19入院成人患者において、抗HIV薬のロピナビル・リトナビルは標準治療よりも有効とはいえないとの見解を、中国・National Clinical Research Center for Respiratory DiseasesのBin Cao氏らが、199例を対象に行った非盲検無作為化比較試験の結果、示した。SARS-CoV-2による重症疾患の効果的な治療としての薬物療法はまだ判明していない。結果を踏まえて著者は、「重症患者においてさらなる試験を行い、効果的と思われる治療の確認・除外を行う必要がある」と述べている。NEJM誌オンライン版2020年3月18日号掲載の報告。標準治療に加えてロピナビル・リトナビルを1日2回14日間投与 研究グループは、検査でSARS-CoV-2感染が確認され、COVID-19による肺炎が胸部画像検査で認められ、循環空気呼吸時に動脈血酸素飽和度(SaO2)94%以下、または酸素分圧(PaO2)/吸入酸素濃度(FiO2)が300mmHg未満の18歳以上の患者を対象に試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方には標準治療に加えロピナビル・リトナビル(それぞれ400mgと100mg)を1日2回14日間投与し、もう一方の群には標準治療のみを行った。 主要エンドポイントは、臨床的改善までの期間で、7分位尺度で2ポイント以上の改善または退院のいずれか早いほうとした。臨床的改善までの期間、28日死亡率も、標準治療のみ群と比べて有意差なし 適格被験者199例が無作為化を受けた(ロピナビル・リトナビル群99例、標準治療群100例)。 臨床的改善までの期間について、ロピナビル・リトナビル群と標準治療群に有意差はなかった(臨床的改善に関するハザード比[HR]:1.24、95%信頼区間[CI]:0.90~1.72)。 28日死亡率も、ロピナビル・リトナビル群19.2%、標準治療群25.0%で有意差はなかった(群間差:-5.8ポイント、95%CI:-17.3~5.7)。また、さまざま時点でウイルスRNAが検出可能だった患者の割合も両群で同程度だった。 修正ITT解析では、ロピナビル・リトナビル群は標準治療群に比べ、臨床的改善までの期間中央値が1日短いことが観察された(HR:1.39、95%CI:1.00~1.91)。 ロピナビル・リトナビル群では消化管関連の有害事象発現頻度が高かったが、重篤な有害事象の発現頻度は標準治療群で高かった。ロピナビル・リトナビル群の13例(13.8%)が、有害事象のために早期に服用中止となった。

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抗体検査【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第4回

はじめに2019年4月から、風疹対策として、特定年齢の男性を対象とした抗体検査とワクチンの提供サービスが始まった。しかし、実際にワクチン接種の効果を判定するために測定された抗体価の解釈は難しい。ここでは抗体価検査全般とその解釈について述べる。抗体検査について理解を深める前に以下の3点に注意しておきたい。(1)現在入手可能なワクチンは、抗体を産生することで疾患を予防するという機序が主ではあるが、実際に病原体に曝露した際には細胞性免疫をはじめとした他のさまざまな免疫学的機序も同時に作用することがわかっている。したがって、抗体価と発症/感染予防には必ずしも相関性がないことがある。(2)免疫の有無は、年齢、性別、主要組織適合抗原(major histocompatibility complex::MHC)などによっても左右される。(3)“免疫能”の定義をどこにおくか(侵襲性感染症/粘膜面における感染の予防、感染/発症の予防)によっても判定基準が変わってくる。以上を踏まえた上で読み進めていただきたい。抗体検査法一般的に用いられる方法としては次の5つがある。EIA法(Enzyme-Immuno-Assay:酵素免疫法)/ ELISA法(Enzyme-Linked Immuno Sorbent  Assay:酵素免疫定量法)HI法(Hemagglutination Inhibition test:血球凝集抑制反応)NT法(Neutralization Test:中和反応)CF法(Complement Fixation test:補体結合反応)PA法(Particle Agglutination test:ゼラチン粒子凝集法)このうちCF法は感度が低いため、疾患に対する免疫の有無を判断する検査法としては適さない。ワクチンの効果判定や病原体に対する防御能の測定にあたって最も有効とされているのはPRN法(plaque reduction neutralization)による中和抗体の測定である。しかし、中和抗体の測定は手技が煩雑で判定にも時間がかかるため、実際には様々な抗体の中から発症予防との相関があるとされるもので、検査室での測定に適したものが使用されることが多い。各疾患のカットオフ値について麻疹および風疹については、発症予防および感染予防に必要とされる抗体価が検査別にある程度示されている(表1)1)が、ムンプス、水痘については未確定である。表1 麻疹・風疹における抗体価基準1)画像を拡大する1)麻疹(Measles)麻疹に対する免疫の有無を判断するうえで最も信頼性が高い検査法はPRN法による中和抗体の測定であるが、前述のように多数の検体のスクリーニングには向いていない。WHOは中和抗体(PRN法)で120mIU/mL以上をカットオフとしている2)。これは中和抗体(PRN法)≧120mIU/mLであればアウトブレイク時にも発症例が見られなかったことによる。一方、わが国で用いられている環境感染学会の医療従事者に対するワクチンガイドライン3)ではIgG抗体(EIA法)で16以上を陽性基準としており、国際単位へ変換すると720mIU/mL(EIA価×45=国際単位(mIU/mL))となる。麻疹抗体120mIU/mLは発症予防レベルであるが、報告によっては120~500mIU/mLでも発症がみられたとするものもある4)。したがって曝露の機会やウイルス量が多い危険性のある医療従事者ではより高い抗体価を求めるものとなっている。2)風疹(Rubella)古くから用いられているのはHI法であり、8倍以上が陽性基準とされている。HI法と他の検査を用いた場合の読み替えに関しては、国立感染症研究所の公開している情報が有用である5)。1985年にNCCLS(National Committee on Clinical Laboratory Standards)は風疹IgG抗体>15IU/mLを、発症予防レベルに相当する値として免疫を有している指標とした。1992年に数値は10IU/mLに引き下げられたが、それ以降のカットオフの変更はなされていない。その後の疫学データなどから独自にカットオフを引き下げて対応している国もある6)。環境感染学会のガイドラインではIgG(EIA法:デンカ生研)≧8.0を十分な抗体価としているが、国際単位へ変換すると18.4IU/mL(EIA価×2.3=国際単位(IU/mL))となり、高めの設定となっていることがわかる。これは麻疹と同様に曝露の機会や多量のウイルス曝露が起こる危険性があるためである。ただし、HI法で8倍以上、EIA法で15IU/mL以上の抗体価を有している場合でも風疹に罹患したり、先天性風疹症候群を発症したりといった報告もある7)。風疹における感染予防に必要な抗体価として、国際的なコンセンサスを得た値は示されていない。3)ムンプス(Mumps)ムンプスに対する免疫の有無を正確に測定する方法は、現在のところはっきりとはわかっていない8)。中和法で2倍もしくは4倍の抗体価が発症予防に有効であったとする報告がみられる一方、2006年に米国の大学で起こったアウトブレイクの際にワクチン株および流行株に対する中和抗体(PRN法)、およびIgG抗体(EIA法)を測定したところ、発症者は非発症者に比べて抗体価が低い傾向にはあったが、その値はオーバーラップしており、明確なカットオフを見出すことはできなかった9)。環境感染学会ではEIA価で4.0以上を陽性としているが3)、その臨床的な意義は不明である。4)水痘(Varicella)WHOが規定する発症予防に十分な抗体価はFAMA(fluorescent antibody to membrane antigen)法で4倍以上もしくはgrycoprotein(gp)ELISA法で5U/mL以上である10)。FAMA法で4倍以上の抗体価を保有していた者のうち家庭内曝露で水痘を発症したのは 3%以下であった。gp ELISA法は一般的な検査方法ではなく、偽陽性が多いのが欠点である。わが国において両検査は一般的ではなく、代替案として、中和法で4倍以上を発症予防レベルと設定し、IAHA(immune adherence hemagglutination:免疫付着赤血球凝集)法で4倍以上、EIA法で4.0以上をそれぞれ十分な抗体価としているが3)、その臨床的な意義は不明である。その他の代表的なワクチン予防可能疾患を含めた発症予防レベルの抗体価示す(表2)11,12)。一般的に抗体価測定が可能な疾患としてA型肝炎、B型肝炎について述べる。表2 代表的なワクチン予防可能疾患の発症予防レベル抗体価11,12)画像を拡大するND:未確定* :侵襲性肺炎球菌感染症の発症予防5)A型肝炎(Hepatitis A)13,14)A型肝炎ウイルスに対して、有効な免疫力を有するとされる抗体価の基準値は明確には示されていない。測定法にもよるが、有効な抗体価は10~33mIU/mLとされており、VAQTA(商標名)やHAVARIX(商標名)といったワクチンの臨床試験における効果判定は抗体価10mIU/mL以上を陽性としている。実臨床の場ではワクチン接種前に要否を確認するための測定は行うが、ワクチン接種後の効果判定として通常は測定しない。6)B型肝炎(Hepatitis B)3回のワクチン接種完了後1~3ヵ月の時点でHBs抗体価測定を行う。HBs抗体≧10mIU/mLが1回でも確認できれば、その後抗体価が低下しても曝露時に十分な免疫応答が期待できることから、WHOは免疫正常者に対してワクチンの追加接種は不要としている15)。おわりにここまで述べてきたように、各ウイルスに対する抗体価の基準についてはわかっていないことが多い。これは感染防御に働くのが単一の機構のみではないことに起因する。国際基準とわが国の基準の違いも前述の通りである。麻疹、風疹、ムンプス、水痘に関しても、代替案としての抗体検査が独り歩きしてしまっているが、個人の感染防御という点において重要なのは、抗体価ではなく1歳以上における2回のワクチン接種歴である。接種記録がなければ抗体陽性であってもワクチン接種を検討するべきである。まれな事象として2回の接種歴があっても各疾患が発症したとする報告はあるが、追加のワクチン接種で抗体価を上昇させることで、そのような事象を減らすことができるかは現時点では明確な答えは出ていない。現在、環境感染学会ではガイドラインの改訂がすすめられており、2020年1月まで第3版のパブリックコメントが募集された。近日中に改訂版が公表される予定であり、基本的には1歳以上で2回の確実な接種歴を重視した形になると考えられる16)。抗体価の測定に頼るのではなく、小児期から確実に2回の接種率を上昇させることでコミュニティーからウイルスを根絶すること、そして個人および医療機関でその記録の保管を徹底することの方が重要である。1)庵原 俊. 小児感染免疫. 2011;24:89-95.2)The immunological basis for immunization series. Module 7: Measles Update 2009. World Health Organization, 2009. (Accessed 03/25, 2019)3)日本環境感染症学会ワクチンに関するガイドライン改訂委員会. 医療関係者のためのワクチンガイドライン 第2版. 日本環境感染学会誌. 2014;29:S1-S14.4)Lee MS, et al. J Med Virol. 2000;62:511-517.5)風疹抗体価の換算(読み替え)に関する検討. 改訂版(2019年2月改定). (Accessed 03/20, 2019)6)Charlton CL, et al. Hum Vaccin Immunother. 2016;12:903-906.7)The immunological basis for immunization series. Module 11: Rubella. World Health Organization, 2008.(Accessed 03/25, 2019)8)The immunological basis for immunization series. Module 16: Mumps. World Health Organization, 2010.(Accessed 03/25, 2019)9)Barskey AE, et al. J Infect Dis. 2011;204:1413-1422.10)The immunological basis for immunization series. Module 10: Varicella-zoster virus. World Health Organization, 2008.(Accessed 03/25, 2019)11)Plotkin SA,et al(eds). Plotkin's Vaccines(7th Edition). Elsevier. 2018:35-40.e4.12)Plotkin SA. Clin Vaccine Immunol. 2010;17:1055-1065.13)The immunological basis for immunization series. Module 18: Hepatitis A. World Health Organization, 2011. (Accessed 03/25, 2019)14)Plotkin SA, et al(eds). Plotkin's Vaccines (Seventh Edition).Elsevier.2018:319-341.e15.15)The immunological basis for immunization series. Module 22: Hepatitis B. World Health Organization, 2012.(Accessed 03/25,2019)16)医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版. 2020.講師紹介

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非扁平上皮NSCLC、ペムブロリズマブ+化学療法の1次治療第III相試験アップデート(KEYNOTE-189)/JCO

 転移を有する非扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)1次治療における、ペムブロリズマブ+化学療法の第III相KEYNOTE-189試験の結果が更新された。Journal of Clinical Oncology誌2020年3月9日号オンライン版掲載の報告。 同試験の対象は、再発・転移のある無治療のStageIV非扁平上皮NSCLC患者616例。登録患者は、ペムブロリズマブ(3週ごと最大35サイクル)+化学療法(カルボプラチンまたはシスプラチン+ペメトレキセドの3週ごと4サイクル後、ペメトレキセド3週ごと)群410例とプラセボ+化学療法(ペムブロリズマブ併用群と同一用法・用量)群206例に無作為に割り付けられた。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値は23.1ヵ月であった(2018年9月21日時点)。・全生存期間(OS)中央値は、ペムブロリズマブ+化学療法群22.0ヵ月、化学療法群10.7ヵ月で、ハザード比(HR)は0.56(95%CI:0.45〜0.70)であった。・PD-L1発現別のOS HRは、TPS≧50%では0.59、TPS1~49%では0.62、TPS<1%では0.52であった。・無増悪生存期間(PFS)は、ペムブロリズマブ+化学療法群9.0ヵ月、化学療法群4.9ヵ月で、HRは0.48(95%CI:0.40~0.58)であった。・PD-L1発現別のPFS HRは、TPS≧50%では0.36、TPS1~49%では0.51、TPS<1%では0.64であった。・Grade3〜5の有害事象の発現率は、ペムブロリズマブ+化学療法群では71.9%、化学療法群では66.8%であった。 筆者らは、転移を有する非扁平上皮NSCLC1次治療におけるペムブロリズマブと化学療法併用の生存ベネフィットはPD-L1発現レベル、肝臓/脳転移の有無にかかわらず確認されたとしている。

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術後肺合併症、有効な予防的介入とは/BMJ

 術後肺合併症(postoperative pulmonary complication:PPC)はよくみられる病態で、術後の合併症や死亡と関連する。英国・University College HospitalのPeter M. Odor氏らは、PPCに対する予防的介入戦略について検討し、術中の肺保護的換気や目標指向型血行動態療法の有効性を示唆する中等度の質のエビデンスはあるものの、質の高いエビデンスによって支持される介入法はないことを示した。研究の詳細は、BMJ誌2020年3月11日号に掲載された。PPCのリスクを低減するために、さまざまな介入が行われているが、実臨床での予防処置と、介入試験のアウトカムデータの不一致を示すエビデンスが報告されているという。周術期介入の効果をメタ解析で評価 研究グループは、非心臓手術を受けた成人患者において、PPCの発生を抑制する周術期介入の効果に関する最良のエビデンスを特定して評価し、これらのエビデンスを統合することを目的に、無作為化対照比較試験の系統的レビューとメタ解析を行った(研究助成は受けていない)。 1990年1月~2017年12月の期間に、医学データベース(Medline、Embase、CINHAL、CENTRAL)に登録された文献を検索した。対象は、非心臓手術の施行前、施行中または施行後に行われ、プロトコールで規定された短期的な医学的介入について検討した無作為化対照比較試験であった。解析には、PPCのアウトカムの臨床診断基準を有する試験を含め、手術手技、生理学的または生化学的なアウトカムに関する研究は除外した。 メタ解析では、リスク比(RR)とその95%信頼区間(CI)を算出した。エビデンスの質はGRADE法で要約した。主要アウトカムはPPCの発生とし、副次アウトカムには呼吸器感染症、無気肺、入院期間、死亡が含まれた。エビデンスの信頼性と結論性の評価を行うために試験逐次解析を行った。介入による有害な作用の検討は実施しなかった。7つの介入で、低~中等度の質のエビデンス 11のカテゴリーに分けられる34の介入戦略を検討した117件の試験(2万1,940例)が解析の対象となった。メタ解析には、介入が十分に同質でないため統合できない22件を除く95件の無作為化対照比較試験(1万8,062例)が含まれた。 PPCの発生を抑制する介入に関して、質の高いエビデンスは認められなかった。一方、以下の7つの介入が、PPC低減の可能性を示唆する低~中等度の質のエビデンスと信頼区間を示した。 術後回復能力強化(ERAS)経路(RR:0.35、95%CI:0.21~0.58、p<0.001、エビデンスの質:低)、予防的粘液溶解療法(0.40、0.23~0.67、p<0.001、低)、持続的気道陽圧(CPAP)による術後非侵襲的換気(0.49、0.24~0.99、p=0.05、低)、術中の肺保護的換気(0.52、0.30~0.88、p=0.001、中)、予防的呼吸器理学療法(0.55、0.32~0.93、p=0.02、低)、硬膜外鎮痛(0.77、0.65~0.92、p=0.003、低)、目標指向型血行動態療法(0.87、0.77~0.98、p=0.02、中)。 また、PPCの予防では、インセンティブスパイロメトリー(RR:1.06、95%CI:0.85~1.34、p=0.59)は有益でないことを示す中等度の質のエビデンスが得られた。試験逐次解析による調整で、4つの介入(予防的呼吸器理学療法、硬膜外鎮痛、ERAS経路、目標指向型血行動態療法)は、PPCの相対リスクの25%低減が明確に裏付けられた。ほかの介入については、これらの介入と同等の相対リスクの低減をもたらすことを、支持または支持しないデータは得られなかった。 データは少ないが、呼吸器感染症および無気肺には、CPAPによる術後非侵襲的換気(それぞれp=0.04、p=0.04)、粘液溶解療法(p=0.04、p=0.002)、呼吸器理学療法(p=0.002、p=0.01)、ERAS(p=0.05、p=0.04)の治療効果が示された。肺保護的換気も、これらの病態に有効であったが、呼吸器感染症では統計学的に有意ではなかった(p=0.09、p=0.05)。 1つの試験で、ERAS(p=0.01)と目標指向型血行動態療法(p=0.01)は入院期間を短縮した。また、きわめて限定的なデータではあるが、院内死亡率の抑制に有益な介入は1つもなかった。 著者は、「これらの介入の多くについて、有効性に関する結論的なエビデンスを得るには、バイアスのリスクが低い新たな試験が必要であることが示唆される」としている。

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上部尿路上皮がん、術後化学療法で無病生存率改善/Lancet

 局所進行上部尿路上皮がん(UTUC)患者の治療において、腎尿管全摘除術後のゲムシタビン+プラチナ製剤併用による術後補助化学療法は、これを行わない場合に比べ無病生存(DFS)率を改善することが、英国・ランカシャー州教育病院国民保健サービス(NHS)ファンデーショントラストのAlison Birtle氏らの検討「POUT試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年3月5日号に掲載された。UTUCはまれな疾患で、膀胱上皮がんに比べて各病期の予後が不良とされる。UTUC患者の治療では、根治的腎尿管全摘除術後の術後化学療法の有益性に関して、国際的な合意は得られていないという。術後化学療法の有用性を評価する無作為化試験 本研究は、英国の71施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、2012年6月~2017年11月の期間に患者登録が行われた(Cancer Research UKの助成による)。 対象は、年齢16歳以上、糸球体濾過量(GFR)≧30mL/分で、UTUCの根治的腎尿管全摘除術(画像上または肉眼的に異常と判定されたすべてのリンパ節の郭清を含む)を受け、術後のStageが筋層非浸潤性(pT2~pT4、N any)またはリンパ節転移陽性(pT any、N1~3)で、非転移性(M0)の病変を有し、組織学的に移行上皮がんが主の患者であった。 被験者は、サーベイランスを受ける群、または術後90日以内に、21日を1サイクルとする化学療法を4サイクル受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。化学療法は、シスプラチン(CDDP、70mg/m2)またはカルボプラチン(CBDCA、AUC 4.5または5)が第1日に、ゲムシタビン(GEM、1,000mg/m2)が第1日と第8日に静脈内投与された。 主要評価項目は、intention-to-treat(ITT)集団におけるDFS(割り付け時から初回の再発、転移、死亡までの期間)の割合とした。 本試験は、261例を登録した時点で、事前に規定された中間解析において有効性に関する早期終了の基準を満たしたため、患者登録が中止された。再発/死亡リスクが55%低減 71の参加施設中57施設から261例が登録された。化学療法群に132例、サーベイランス群には129例が割り付けられ、割り付け後にデータの使用への同意を撤回した化学療法群の1例を除く260例(ITT集団)が解析に含まれた。 ベースラインの全体の年齢中央値は68.5歳(IQR 62.0~74.1)、女性が32%含まれた。94%がpT2~pT3、91%がN0で、64%がGFR≧50mL/分であった。腫瘍部位は腎盂が35%、尿管が34%、両方が30%で、術式は開放手術が15%、腹腔鏡手術が82%、ロボット手術が2%であり、顕微鏡的切除断端陽性率は12%だった。フォローアップ期間中央値は30.3ヵ月(IQR:18.0~47.5)。 実際に化学療法を受けたのは126例で、割り付け後にGFRが低下したため76例中16例(21%)がCDDPからCBDCAに、割り付けから治療開始前にGFRが上昇したため50例中1例(2%)がCBDCAからCDDPに切り替えた。 DFS関連イベントの発生率は、化学療法群が27%(35/131例)と、サーベイランス群の47%(60/129例)と比較して有意に低く、相対リスクが55%改善された(ハザード比[HR]:0.45、95%信頼区間[CI]:0.30~0.68、log-rank検定のp=0.0001)。 3年DFS率は、化学療法群が71%(95%CI:61~78)、サーベイランス群は46%(36~56)であり、両群間の推定絶対差は25%(11~38)であった。DFS期間中央値は、化学療法群は未到達、サーベイランス群は29.8ヵ月だった。また、転移または死亡のリスクは、化学療法群で52%低下した(HR:0.48、95%CI:0.31~0.74、log-rank検定のp=0.0007)。 Grade3以上の急性治療関連有害事象は、化学療法群が44%(55/126例、GEM+CDDP 44%[31/71例]、GEM+CBDCA 44%[24/55例])、サーベイランス群は4%(5/129例)で認められた(p<0.0001)。化学療法群では、Grade3以上の好中球数の減少(36%)、血小板数の減少(10%)、悪心(6%)、発熱性好中球減少(6%)、嘔吐(6%)がサーベイランス群よりも多く、重篤な有害事象は32%にみられた。治療関連死の報告はなかった。 QOL(EORTC QLQ-C30、EQ-5D-5L)は、化学療法期間中とその直後(3ヵ月時、p=0.0028)は化学療法群で不良であったが、6ヵ月後にはこの差は解消した。 著者は、「プラチナ製剤ベースの化学療法は、UTUC患者の腎尿管全摘除術後の標準的な補助化学療法と考えられる」としている。

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第38回 高電位(差)の基準、いくつ知ってる?(後編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第38回:高電位(差)の基準、いくつ知ってる?(後編)「高電位(差)…」のタイトルにも関わらず、前回はQRS波の「高さ」よりも「向き」(電気軸)に注目した内容になってしまいました(笑)。前回と同じ症例を用いて、いよいよ“高すぎる”QRS波の考え方について解説します。謎の言葉“ライオン“や“エステ”などが登場しますが、読み進めると真相が明らかになるでしょう。では、さっそくDr.ヒロのレクチャーにご注目あれ!症例提示35歳、男性。腎移植後の急性拒絶反応のため、血液透析を再導入。その後、10年以上維持透析中。特別な自覚症状はなし。血圧150/90mmHg、脈拍82/分。Hb:11.9g/dL、BUN:67mg/dL、Cre:14.2mg/dL、K:4.8mEq/L。定期検査として施行された心電図を示す(図1)。(図1)定期検査の心電図[再掲]画像を拡大する【問題1】代表的な左室高電位の診断基準を念頭に置き、心電図(図1)がそれらに該当するか考察せよ。解答はこちら該当しない解説はこちら今回も前回と同じ、若年ながら維持透析がなされている男性の心電図を扱います。タイトル通り、今回のメインテーマは「QRS波高」について考えること。Dr.ヒロの系統的判読の語呂合わせでは、“クルッと”の“ル”で、R波“スパイク・チェック”の部分に該当します。「向き」「高さ」そして「幅」の3つを確認しましょう。「高さ」では、“高すぎる”と“低すぎる”の条件に該当しないかを確認するのが主なプロセスです。今回の例では“低すぎる”のほうは一見して考えにくく(細かな数値ではなく“常識”としてわかるセンスが欲しい)、主に“高すぎる”かどうかについて焦点を当てて見ていくことにします。“答えなき質問で負けん気に火がつく”心電図でQRS波高が“高すぎる”、すなわち「(左室)高電位」(increased QRS voltage)と診断するための基準ですが、果たして皆さんはいくつ言えるでしょうか? 2個?3個?それとも5個ですか? 基準に登場する細かな数値を必死で覚えようとするあまり、心電図が嫌いになるようでは本末転倒なので、最終的にはボク流のオススメな考え方に着地して安心してもらうつもりです。前フリとして、少ーしだけ昔話を。10年ほど前のことですが、今でも昨日のことのように思い出されるエピソードがあります。当時、ボクはピチピチ!?の大学院生でした。循環器レジデントも終え、臨床にもある程度手応えを感じ、心電図に関しても以前のような“劣等生”ではなくなっていた頃です。病棟だったか研究室だったかは忘れましたが、心電図や不整脈に詳しいX先生から試問を受けました。【X先生】「高電位の診断基準は? 10個は言えるわな。」【Dr.ヒロ】「えっ?10個ですか! V1のS波とV5のR波を足して35mmとか、V5かV6でしたっけ、20…いくつでしたかね…」【X先生】「V5が26mm、V6は20mmな*1。そいでほかは?」【Dr.ヒロ】「え? まだあるんですか…」【X先生】「あるよ。何言ってんのよ。肢誘導とかもあるだろ。先生は心電図のごくごく表面しか知らないな。あのなぁ、本当のプロになりたかったらな、こんなん10個は空で言えないと失格なんだよ!」そう言って、正解は教えないままその先生はボクの元を去りました。*1:今回紹介する基準とは若干違います。欧米の文献と日本人の違いなどもあるのでしょうか。前置きが長くなりましたが、こんな経緯があったためか、「高電位(差)」という言葉を聞くと、今でも無性にチャレンジスピリットが湧いてくるんです! ですから、今回のレクチャーはいつも以上に熱いです(笑)。早速はじめましょう。次のリスト(図2)を見てください。(図2)こんなに覚えられない!…「左室肥大」の診断基準画像を拡大するボクが事あるごとに参照しているガイドライン的文献1)からの引用です。タイトルは「左室肥大の診断基準」ですが、その大半が「左室高電位」の条件で占められていることがわかるでしょう。はじめに言っておきますが、これを必死で覚える必要はありません(誰も本気でしようと思わないでしょうが)。当然、項目一つ一つを解説することも、皆さんに覚えてもらうこともボクの本意ではありません。なので、この中の“定番商品”に値する有名な3つの診断基準パッケージから紹介していきます。“最も有名な『そこのライオン』基準”まずは“そこのライオン”から。「また!何言ってんの、この人?」って思った方、英字を見てください。ね、“そこの(Sokolow)ライオン(Lyon)でしょ(笑)。■Sokolow-Lyon基準2)■ “そこのライオン”(1)SV1+RV5(or V6) ≧ 35mm(2)RaVL ≧ 11mmこの基準は有名です。(1)は先ほどの会話にも登場していましたが、ボクが最初に覚えたもので、この和を「Sokolow-Lyon(S-L) index」と呼びます。『V1のS波(深さ)とV5のR波(高さ)を足して35mmね。心電図ってそうやって読むのか。なんか高尚だなぁ』、そんな風に感じた記憶があります。実際はV5でもV6でもいい(大きいほうを採用)のですが、V5が用いられることが多いかもしれません。このような“◯+△”型のクライテリアは、もとは「RI+SIII」2)に始まり、一般的に「左室パターン」(第17回)のQRS波形を呈する“イチエル・ゴロク”(I、aVL、V5、V6)のどれかと“その反対側”から構成されると考えると理解しやすいです。肢誘導界の円座標を頭に思い描けば、IIIは“Iの反対側”ですし、胸部誘導ではV5・V6の反対側と言ったらV1ですよね。この“反対側”では、左室のど真ん前に位置する”イチエル・ゴロク”(側壁誘導)でR波として表現される左室成分がS波として反映されているのだと考えれば良いのです。心電図(図1)で見てみましょう。「SV1」、「RV5」、そしてS-L indexが「R+S:3.88mV」と表示されています。これがそうです。「3.88mV」を長さに直せば「38.8mm」となるので、このSokolow-Lyon基準では「左室高電位」に該当します。“そこのライオンで気をつけること“Sokolow-Lyon基準の原典3)はなんと、70年前の論文です。それが今もなお生き続けていることは称賛すべきですが、S-L indexに関しては、いくつか問題点が指摘されています。何と言っても、対象の「年齢」や「性別」が考慮されていないという点です。25歳の男性も80歳の女性も同じ35mm(3.5mV)で判定するのです。冷静に考えると、これってオカシイですよね。健診の心電図や心エコーでの計測値だって、年齢・性別に応じた基準値が設けられています。今回の症例は若年ながら病気を有していますが、同年代の大半の男性はそうではなく、健康だと思います。「RV5(or RV6)」は左室の“パワー”(起電力)を反映するものですから、本人も心臓も元気みなぎる若年男性では、ピンッと立ったスパイクとなり、高率に基準(1)を満たしてしまうことが知られています。左室高電位は左室肥大の条件の一つです。その病的意義を考えると、若くて健康な男性に「左室肥大(疑い)」を頻発させてしまうこの基準は、あまり現実にそぐわないのかもしれません。同様なことが男女問わずアスリート(競技者)にも言われています*2。*2:普段、日本で診療しているとあまり意識されないかもしれませんが、「人種」も考慮すべき一因です。それを解決する一つの方法として、若い男性についてはカットオフを35mmではなく「50mm」にしたほうがいいという声があります4)。国内の心電計メーカーでも同様な点を踏まえて、年齢・性別に応じた高電位差の基準として、20~30歳前後の男性では50mm前後を自動診断の閾値として採用しているところがあるようです。ですから、今回の心電図(図1)では、左室高電位の基準に満たないというのがボクの見解になります。では、一方の(2)「RaVL≧11mV」ではどうでしょうか? 前回のレクチャーで述べましたが、今回のように「左脚前枝ブロック」(LAFB)の心電図では、「肢誘導が“縦に伸びる”」ことに注意する必要があるのでした。つまり、肢誘導のQRS波高が本来よりも“かさ増し”されている場合があるのです。そのため、IやaVLを含む高電位基準はそのままでは使えない可能性が高いです。そこで、LAFBでは、胸部誘導を用いるほう方がいいという意見5)はもっともかもしれません(あまり浸透していませんが)。もう一つは、“そこのライオン”基準をmodifyするやり方で、“2割増し”の「13mm」をカットオフにする考え方1)。ボク自身はこれがお気に入りです。今回の心電図では、RaVLは「11mm基準」にも該当しませんが、この点は知っておくと“物知り”だと思われること確実です。若かりし頃のボクは、基準(2)を覚えたのが嬉しくて、LAFBなのに「11mm」基準のまま“フェイク”の「左室高電位」を乱発していた日々が恥ずかしく思い出されます*3。読者の皆さんもご注意あれ。*3:投稿した論文でreviewerに指摘された記憶も…(笑)“こなれた男女は意外とふくよか?”2つ目のユニークな基準は、“こなれた男女、サイズは3L”です。正式にはCornell基準ですが、ここでもボク流を受容する大きな心を持ってくださいね(笑)。ニューヨークからの報告ですから、なんかオシャレ、いや~こなれてマス。■Cornell基準6)■ “こなれた男女、サイズは3L”(i)SV3+RaVL > 28mm(男性)(ii)SV3+RaVL > 20mm(女性)“男女”は性別ごとに基準が違いますよ、ということ。今回取り上げる中で唯一「性差」が考慮されている点は評価できるのですが、実際には驚くぐらい浸透していません(ボクもよく忘れます)。この基準を涼しい顔で言える人はタダモノではないはず! なお、女性に関しては「+2mm」して「22mm」のほうがいいという議論もあり、なおややこしいことになっています7)。(図1)の男性では、「SV3=17mm」、「RaVL=9mm」なので、一応セーフでしょうか。ちなみに、“サイズは3L”は「SV3+RaVL」を思い出しやすくするためにつけています。ただ、V3誘導がaVL誘導の“反対側”とはイメージしにくいため、個人的にはこうもしないと覚えられません…。“浪費エステはポイント制“紹介する3つ目はRomhiltとEstesの二氏らによる診断基準です。ボク流に言うと“浪費エステはポイント制”です。だんだん無理くり感が…。■Romhilt-Estesスコア8)■ “浪費エステ”(A)肢誘導:R波(or S波)≧ 20mm(B)SV1(or V2) ≧ 30mm(C)RV5(or V6) ≧ 30mmこの“浪費エステ”は「左室肥大」を診断するために開発されたスコアリングシステム(それが“ポイント制”とした意味です)で、そこからQRS波高に関連する部分を抜き出しています(残りの条件に関しては、次回述べる予定)。(A)~(C)いずれか一つを満たすときに「3点」とします*3。これまでと少し数値が異なる点がややこしいでしょうか。でも、これが一つの“完成品”なので文句は言えません。*3:最高13点。4点以上で「probable/likely」、5点以上で「definite/present/certainly」とされる。今回の心電図は(A)~(C)のいずれも該当しません。“最近の心電計と現実的な対応”さて、ここまでの話、いかがですか? 『とっても覚えられないよ(泣)』なんて方も少なくないと予想します。それでも、“そこのライオン”と“こなれた男女”そして“浪費エステ”の3つの診断基準で7個…。前述のX先生の要望には及びません。ただ、これだけでも多くの人にとって、長期間正しく暗記できるレベルを越えていると思います。やはり“記憶”に関してはコンピュータに任せましょう(Dr.ヒロでいう“カンニング法”)。最近の心電計の波形認識・診断システムには、たくさんの左室高電位基準が網羅されており、心電計が「高電位」と言ったら素直にそうなのかと認める姿勢も悪くないとボクは思います。心電図(図1)でも、「高電位(左室に対応する誘導)V1、V5」と表記されていますね。これは普段から最後に自動診断にも必ず目を通すクセをつけておくことで決して忘れません。ただ、先ほど述べた年齢・性別の影響や、S-L indexだけ満たして、ほかはすべて該当しない時に、それを「高電位」と診断するかどうかの最終判断が、われわれ“人間”の仕事です。もう一つ。ボクの教科書は、原則、数値の暗記にこだわらないスタンスなので、次のやり方を紹介しておきましょう9)。この手法、“(ブイ)シゴロ密集法”とでも名付けましょうか。“シゴロ”はV4、V5、V6のことで、このR波が3つとも空をつんざくほどの勢いで直上の誘導領域まで届いているときに「左室高電位」と診断する方法です。別症例の心電図(図3)を見てください。(図3)左室高電位はブイシゴロに注目!画像を拡大する赤太枠で囲った部分にご注目あれ! この心電図は閉塞性肥大型心筋症で通院中の80歳、女性のものです。たしかに“(ブイ)シゴロ密集法”陽性で、典型的なST-T変化も伴いますので、バリッバリの「左室肥大」が疑われます。この場合、今回述べた「左室高電位」基準をほぼすべて満たしますが、これを得意のエイヤッでV4~V6誘導だけの“見た目”で診断しちゃえというのがDr.ヒロ流。こうすることで細かな数値と決別することができるんです。この感覚で、もう一度心電図(図1)を見直してみましょう。するとV6誘導がおとなしめなので、その意味でも「該当しない」と言っていいのではないでしょうか。“おわりに”以上、話し出すとキリがないのですが、2回に分けて “高すぎる”QRS波形の考え方についてお送りしました。最後の最後で一言。私たちは普段「高電位」のことを“ハイ・ボル(テージ)”(high voltage)などと呼んでしまいがちですが、ボクの調べた限りでは“和製英語”のようです(間違ってたらゴメンナサイ)。「increased QRS voltage」というのが正しいそう。知らなかった方は気を付けてくださいね。次回は、“Romhilt-Estes”(浪費エステ)のスコアを用いて「左室肥大」について考えてみましょう。では! …とまぁ、とかく“欲張り”なDr.ヒロなのでした。Take-home MessageQRS波高が“高すぎる”の診断基準はたくさんあり、可能な範囲で代表的なものをおさえておこう。数値を覚えるのが苦手なら、“(ブイ)シゴロ密集法”がオススメかも!?1):Hancock EW, et al. Circulation. 2009 Feb 19.[Epub ahead of print]2):Gubner R, et al. Arch Intern Med.1943;72:196-209.3):Sokolow M, et al. Am Heart J. 1949;37:161-186.4):Macfarlane PW, et al. Adv Exp Med Biol.2018;1065:93-106.5):Bozzi G, et al. Adv Cardiol.1976;16:495–500.6):Casale PN, et al. Circulation. 1987;75:565-572.7):Dahlöf B, et al. Hypertension.1998;32:989-997.8):Romhilt DW, et al. Estes EH Jr. Am Heart J.1968;75:752-758.9):杉山裕章. 心電図のみかた、考え方[応用編]. 中外医学社;2014.p.125-149.【古都のこと~梅宮大社】京都の梅を語りましょう。『古都のこと』でも既にいくつか紹介していますが*1、今回は右京区梅津の梅宮大社(うめのみやたいしゃ)です。松尾大社からも徒歩で行ける距離にあります。元々は山城国にあり*2、平城京を経て嵯峨天皇の皇后であった橘嘉智子により平安時代前期に現在の場所に遷座されたとのこと。御祭神として酒解神(さかとけのかみ)を本殿に祀ります。文字通り“酒造の神様”ですね*3。訪れたのは、梅産祭(うめうめまつり)が休日に重なった日でしたが、新型コロナウイルスの影響で、恒例の梅ジュース・清酒の振る舞いも中止になっていました。参拝者も少なく、どんよりとした気分が立ちこめていましたが、境内および四季折々の花が美しい回遊式庭園のある神苑には、至る所で紅白梅が元気に花を咲かせていました。桜とは異なる種類の春の訪れ。来年こそは、この感動をより多くの方々と共有したいなぁと心の底から思いました。*1:北野天満宮を筆頭に、岡崎別院、随心院でも扱った。*2:綴喜(つづき)群井出町付近とされる。橘諸兄(もろえ)の母県犬養三千代(あがたいぬかいみちよ)が橘氏の氏神として創祀したと伝わる。三千代は藤原不比等の夫人となったため、藤原氏の摂政・関白の家筋が橘氏長者も代行し、春日神社(藤原氏の氏神)同様に梅宮大社にも崇敬を捧げた。*3:他に橘嘉智子が梅宮神に祈願し皇子(仁明天皇)を授かったことから、授子安産の神徳もあるとされる。本殿横の「またげ石」を跨ぐと子を授かると伝わる。

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