術後肺合併症、有効な予防的介入とは/BMJ

提供元:ケアネット

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公開日:2020/03/24

 

 術後肺合併症(postoperative pulmonary complication:PPC)はよくみられる病態で、術後の合併症や死亡と関連する。英国・University College HospitalのPeter M. Odor氏らは、PPCに対する予防的介入戦略について検討し、術中の肺保護的換気や目標指向型血行動態療法の有効性を示唆する中等度の質のエビデンスはあるものの、質の高いエビデンスによって支持される介入法はないことを示した。研究の詳細は、BMJ誌2020年3月11日号に掲載された。PPCのリスクを低減するために、さまざまな介入が行われているが、実臨床での予防処置と、介入試験のアウトカムデータの不一致を示すエビデンスが報告されているという。

周術期介入の効果をメタ解析で評価

 研究グループは、非心臓手術を受けた成人患者において、PPCの発生を抑制する周術期介入の効果に関する最良のエビデンスを特定して評価し、これらのエビデンスを統合することを目的に、無作為化対照比較試験の系統的レビューとメタ解析を行った(研究助成は受けていない)。

 1990年1月~2017年12月の期間に、医学データベース(Medline、Embase、CINHAL、CENTRAL)に登録された文献を検索した。対象は、非心臓手術の施行前、施行中または施行後に行われ、プロトコールで規定された短期的な医学的介入について検討した無作為化対照比較試験であった。解析には、PPCのアウトカムの臨床診断基準を有する試験を含め、手術手技、生理学的または生化学的なアウトカムに関する研究は除外した。

 メタ解析では、リスク比(RR)とその95%信頼区間(CI)を算出した。エビデンスの質はGRADE法で要約した。主要アウトカムはPPCの発生とし、副次アウトカムには呼吸器感染症、無気肺、入院期間、死亡が含まれた。エビデンスの信頼性と結論性の評価を行うために試験逐次解析を行った。介入による有害な作用の検討は実施しなかった。

7つの介入で、低~中等度の質のエビデンス

 11のカテゴリーに分けられる34の介入戦略を検討した117件の試験(2万1,940例)が解析の対象となった。メタ解析には、介入が十分に同質でないため統合できない22件を除く95件の無作為化対照比較試験(1万8,062例)が含まれた。

 PPCの発生を抑制する介入に関して、質の高いエビデンスは認められなかった。一方、以下の7つの介入が、PPC低減の可能性を示唆する低~中等度の質のエビデンスと信頼区間を示した。

 術後回復能力強化(ERAS)経路(RR:0.35、95%CI:0.21~0.58、p<0.001、エビデンスの質:低)、予防的粘液溶解療法(0.40、0.23~0.67、p<0.001、低)、持続的気道陽圧(CPAP)による術後非侵襲的換気(0.49、0.24~0.99、p=0.05、低)、術中の肺保護的換気(0.52、0.30~0.88、p=0.001、中)、予防的呼吸器理学療法(0.55、0.32~0.93、p=0.02、低)、硬膜外鎮痛(0.77、0.65~0.92、p=0.003、低)、目標指向型血行動態療法(0.87、0.77~0.98、p=0.02、中)。

 また、PPCの予防では、インセンティブスパイロメトリー(RR:1.06、95%CI:0.85~1.34、p=0.59)は有益でないことを示す中等度の質のエビデンスが得られた。試験逐次解析による調整で、4つの介入(予防的呼吸器理学療法、硬膜外鎮痛、ERAS経路、目標指向型血行動態療法)は、PPCの相対リスクの25%低減が明確に裏付けられた。ほかの介入については、これらの介入と同等の相対リスクの低減をもたらすことを、支持または支持しないデータは得られなかった。

 データは少ないが、呼吸器感染症および無気肺には、CPAPによる術後非侵襲的換気(それぞれp=0.04、p=0.04)、粘液溶解療法(p=0.04、p=0.002)、呼吸器理学療法(p=0.002、p=0.01)、ERAS(p=0.05、p=0.04)の治療効果が示された。肺保護的換気も、これらの病態に有効であったが、呼吸器感染症では統計学的に有意ではなかった(p=0.09、p=0.05)。

 1つの試験で、ERAS(p=0.01)と目標指向型血行動態療法(p=0.01)は入院期間を短縮した。また、きわめて限定的なデータではあるが、院内死亡率の抑制に有益な介入は1つもなかった。

 著者は、「これらの介入の多くについて、有効性に関する結論的なエビデンスを得るには、バイアスのリスクが低い新たな試験が必要であることが示唆される」としている。

(医学ライター 菅野 守)

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