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COVID-19の入院リスク、RAAS阻害薬 vs.他の降圧薬/Lancet

 スペイン・University Hospital Principe de AsturiasのFrancisco J de Abajo氏らは、マドリード市内の7つの病院で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者の調査「MED-ACE2-COVID19研究」を行い、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)阻害薬は他の降圧薬に比べ、致死的な患者や集中治療室(ICU)入室を含む入院を要する患者を増加させていないことを明らかにした。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年5月14日号に掲載された。RAAS阻害薬が、COVID-19を重症化する可能性が懸念されているが、疫学的なエビデンスは示されていなかった。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、そのスパイクタンパク質の受容体としてアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を利用して細胞内に侵入し、複製する。RAAS阻害薬はACE2の発現を増加させるとする動物実験の報告があり、COVID-19の重症化を招く可能性が示唆されている。一方で、アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)は、アンジオテンシンIIによる肺損傷を抑制する可能性があるため、予防手段または治療薬としての使用を提唱する研究者もいる。また、RAAS阻害薬は、高血圧や心不全、糖尿病の腎合併症などに広く使用されており、中止すると有害な影響をもたらす可能性があるため、学会や医薬品規制当局は、確実なエビデンスが得られるまでは中止しないよう勧告している。他の降圧薬と入院リスクを比較する症例集団研究 研究グループは、COVID-19患者において、RAAS阻害薬と他の降圧薬による入院リスクを比較する目的で、薬剤疫学的な症例集団研究を実施した(スペイン・Instituto de Salud Carlos IIIの助成による)。 2020年3月1日~24日の期間に、マドリード市内の7つの病院から、PCR検査でCOVID-19と確定診断され、入院を要すると判定された18歳以上の患者を連続的に抽出し、症例群とした。対照群として、スペインの医療データベースであるBase de datos para la Investigacion Farmacoepidemiologica en Atencion Primaria(BIFAP)から、症例群と年齢、性別、地域(マドリード市)、インデックス入院の月日をマッチさせて、1例につき10例の患者を無作為に抽出した。 RAAS阻害薬には、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、ARB、アルドステロン拮抗薬、レニン阻害薬が含まれた(単剤、他剤との併用)。他の降圧薬は、カルシウム拮抗薬、利尿薬、β遮断薬、α遮断薬であった(単剤、RAAS阻害薬以外の他剤との併用)。 症例群と対照群の電子カルテから、インデックス入院日の前月までの併存疾患と処方薬に関する情報を収集した。主要アウトカムは、COVID-19患者の入院とした。重症度にかかわらず、入院リスクに影響はない 症例群1,139例と、マッチさせた対照群1万1,390例のデータを収集した。年齢(両群とも、平均年齢69.1[SD 15.4]歳)と性別(両群とも、女性39.0%)はマッチしていたが、心血管疾患(虚血性心疾患、脳血管障害、心不全、心房細動、血栓塞栓性疾患)の既往(オッズ比[OR]:1.98、95%信頼区間[CI]:1.62~2.41)と、心血管リスク因子(高血圧、脂質異常症、糖尿病、慢性腎不全)(1.46、1.23~1.73)を有する患者の割合が、対照群に比べ症例群で有意に高かった。 RAAS阻害薬の使用者では、他の降圧薬の使用者と比較して、入院を要するCOVID-19のリスクに有意な差は認められなかった(補正後OR:0.94、95%CI:0.77~1.15)。また、ACE阻害薬(0.80、0.64~1.00)およびARB(1.10、0.88~1.37)のいずれでも、他の降圧薬に比べ、入院を要するCOVID-19の有意な増加はみられなかった。これらの薬剤は、単剤および他剤との併用でも、入院リスクに有意な影響はなかった。 性別、年齢別(<70歳vs.≧70歳)、高血圧の有無、心血管疾患の既往、心血管リスク因子に関しては、他の降圧薬と比較して、RAAS阻害薬の使用による入院を要するCOVID-19のリスクに有意な交互作用は確認されなかった。一方、RAAS阻害薬を使用している糖尿病患者では、入院を要するCOVID-19患者が少なかった(補正後OR:0.53、95%CI:0.34~0.80、交互作用検定のp=0.004)。 COVID-19の重症度を最重症(死亡、ICU入室)と、低重症(最重症以外のすべての入院患者)に分けた。いずれの重症度でも、RAAS阻害薬、ACE阻害薬、ARBは、他の降圧薬と比較して、入院を要するCOVID-19のリスクに有意な差はなかった。 これらの結果を踏まえて著者は、「RAAS阻害薬は安全であり、COVID-19の重症化を予防する目的で投与を中止すべきではない」と指摘している。

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出生前母体ステロイド治療、子供の精神・行動障害が増加/JAMA

 出産前の母親への副腎皮質ステロイド治療によって、子供の精神障害および行動障害が増加することが、フィンランド・ヘルシンキ大学のKatri Raikkonen氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2020年5月19日号に掲載された。1週間以内に早産が予測される妊娠期間34週以内の妊婦に対しては、胎児の成熟の促進を目的とする出生前の副腎皮質ステロイド治療が標準治療とされる。近年、妊娠期間34週以降への適応拡大が議論されているが、長期アウトカムのデータは限られ、とくに治療を受けた母親の子供の神経発達に関するデータは少ないという。母体ステロイド治療が子供の精神・行動障害へ及ぼす影響を評価 研究グループは、出生前母体ステロイド治療が、子供の精神および行動の障害に及ぼす影響を評価し、正期産(妊娠期間≧37週0日)と早産(妊娠期間<37週0日)における子供への影響の違いを評価する目的で、人口ベースの後ろ向きコホート研究を行った(フィンランド・アカデミーなどの助成による)。 フィンランドにおいて、単胎で生児出生し、少なくとも1年間生存したすべての子供の全国登録(Medical Birth Register)のデータを用いた。対象は、2006年1月1日~2017年12月31日の期間に生まれた子供であった。母親が出生前母体ステロイド治療を受けた群と受けなかった群を比較した。 主要アウトカムは、公的な専門医療機関で診断された小児期の精神・行動障害とした。母体ステロイド治療曝露群の子供は精神・行動障害のリスクが高い 67万97人の子供が解析に含まれた。母体ステロイド治療曝露小児は1万4,868人(2.22%、女児46.1%)で、このうち正期産6,730人(45.27%)、早産8,138人(54.74%)であった。また、母体ステロイド治療非曝露小児は65万5,229人(97.78%、女児48.9%)であり、正期産63万4,757人(96.88%)、早産2万472人(3.12%)だった。追跡期間中央値は5.8年(IQR:3.1~8.7)。 全体では、母体ステロイド治療曝露群の子供は非曝露群の子供に比べ、精神・行動障害のリスクが高かった(発生率:曝露群12.01% vs.非曝露群6.45%、絶対群間差:5.56%[95%信頼区間[CI]:5.04~6.19]、p<0.001、補正後ハザード比[HR]:1.33[95%CI:1.26~1.41]、p<0.001)。 また、正期産の小児に限定した解析では、曝露群は非曝露群に比べ、精神・行動障害のリスクが高かった(8.89% vs.6.31%、絶対群間差:2.58%[95%CI:1.92~3.29]、p<0.001、HR:1.47[95%CI:1.36~1.69]、p<0.001)。一方、早産の小児では、精神・行動障害の発生率は曝露群で高かったが、HRには有意な差は認められなかった(14.59% vs.10.71%、3.38%[2.95~4.87]、p<0.001、1.00[0.92~1.09]、p=0.97)。 初回診断時の年齢中央値は、曝露群が非曝露群よりも1.4歳若年だった。 過期産(妊娠期間≧42週0日)の小児(3万958人、4.6%)を除外した解析では、全体(11.96% vs.6.41%、絶対群間差:5.55%[95%CI:5.03~6.10]、p<0.001、HR:1.29[95%CI:1.22~1.37]、p<0.001)および正期産(8.72% vs.6.27%、2.46%[1.80~3.17]、p<0.001、1.44[1.33~1.57]、p<0.001)のいずれにおいても、曝露群は非曝露群に比べ、精神・行動障害のリスクが高かった。 著者は、「これらの知見は、出生前母体ステロイド治療に関する意思決定において、情報提供の一助となる可能性がある」としている。■関連サイトDr.水谷の妊娠・授乳中の処方コンサルト

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ICI有害事象、正しく理解し・正しく恐れ・正しく対処しよう【そこからですか!?のがん免疫講座】第5回

はじめに今までは、主に免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の効果に焦点を当てて解説してきましたが、今回は少し趣を変えて有害事象、とくにICI特有の免疫関連有害事象に焦点を当て、それがどのようなメカニズムで起きるのかを話題にしたいと思います。抗がん剤の有害事象のいろいろ抗がん剤の有害事象といえば、やはり悪心・嘔吐、脱毛、血球減少などをイメージするかと思います。これらはいずれも、細胞傷害性抗がん剤といって、シスプラチンなどの従来の抗がん剤でよく出現した有害事象です。がん細胞だけでなく、さまざまな正常細胞を傷害してしまい、傷害を受けやすい細胞がダメージを受けて有害事象につながります。とくに血球減少はそれに伴う感染症で命にも関わるので、皆さん非常に気を使っているかと思います。その後、ゲフィチニブなどの分子標的薬が登場して、標的に応じた特有の有害事象が出現するようになりました。たとえば、ゲフィチニブは上皮成長因子受容体(EGFR)を阻害しますので、上皮が傷害される結果起きる有害事象の報告が多くなります。皮膚であれば皮疹、腸管上皮であれば下痢、といったような感じです。血管新生阻害薬であれば血管内皮細胞増殖因子(VEGF)という分子を阻害するため、特有の高血圧など血管に関わる有害事象が起きやすくなります。では、あらためてICIについて考えてみましょう。ICIは免疫、とくにT細胞を活性化させる薬剤ですので当然といえば当然ですが、免疫に関連した特有の有害事象を起こします。前回までに免疫が自己を攻撃すると「自己免疫性疾患」になる、という話をしましたが、まさに「自己免疫性疾患」のような有害事象が出現し、それらをまとめて免疫関連有害事象と呼んでいます。ICIにより活性化したT細胞はさまざまな臓器を攻撃し、臓器によって非常に多彩な有害事象が報告されています1)。たとえば、甲状腺を攻撃すれば甲状腺機能異常、肺を攻撃すれば肺臓炎、消化管を攻撃すれば腸炎、膵臓のインスリン産生細胞を攻撃すれば糖尿病、といった具合です1)。従来の抗がん剤治療ではあまり見ない有害事象が多く、まれながら命に関わるものも報告されています。適切に対処するためには、まれでも「起きうる」と認識することが重要です。有害事象が発生するメカニズム「ICIが免疫を活性化するから有害事象が発生する」だけでは、本稿は終了になってしまいますので、もう少し詳しく説明したいと思います。自己抗原に反応して攻撃するT細胞は発生の過程で選択を受けるので、われわれの身体の中にはあまり残っていないはずです。しかし、一部は除去されずに残っているものがあるとされ、そういったT細胞が自己を攻撃すると「自己免疫性疾患」になってしまいます。こうしたT細胞が自己を攻撃しないようにするシステムがわれわれの身体には元々備わっており、そのシステムが正常に働いていれば問題は起きません。そして、そのシステムの1つが、免疫チェックポイント分子なのです。PD-1やCTLA-4も決してがん細胞を攻撃するT細胞“だけ”を抑制している分子ではなく、むしろ、本来こうした「自己を攻撃しないために備わっている分子」なのです。したがって、ICIの使用によってがん細胞を攻撃するT細胞だけでなく、自己を攻撃するT細胞も活性化されることで、自己免疫性疾患のような有害事象が出てしまうのです(図1)。画像を拡大する免疫関連有害事象を「正しく」恐れる前回、「抗原には階層性がある」という話をしました。「強い免疫応答を起こせる抗原はがんのネオ抗原で、自己抗原は強い免疫応答を起こさない」はずでしたね(図2)。画像を拡大する実は、弱い抗原によって活性化されたT細胞であれば、ステロイドなどのT細胞を抑制する薬剤によって比較的抑えられやすく、逆に強い抗原によって活性化されたT細胞は、ステロイドでは抑えにくい、という実験結果があります(図3)2)。画像を拡大する実はこのことはICIにとって非常に都合がよいことです。「(強い免疫応答を起こさない抗原である)自己抗原を認識するT細胞の活性化はステロイドによって抑制されやすい」、すなわち、「(自己を攻撃するT細胞の活性化によって起きる)免疫関連有害事象はステロイドなどの適切な治療によって抑えることができる」からです(図3)。逆に、「(強い免疫応答を起こす)ネオ抗原を認識するT細胞の活性化にステロイドはあまり影響を与えない」、つまりは「ステロイドは効果にあまり影響しない」といえます(図3)。大規模な臨床で証明された確定的なものではなく、あくまで可能性での話になりますが、以上のことから、ステロイドはICIの効果にあまり影響を与えることなく、免疫関連有害事象を抑えられるかもしれません(図3)2)。実際、有害事象にはステロイド使用などの適切な対処で対応できる場合が多く、有害事象でステロイドを使用したうえでICI投与を中止しても、薬剤の効果が続いたケースも報告されています。効果と関係があるってホント?個々の患者でICIによる免疫の活性化度合いは異なります。ここでまた抗原の階層性の話になりますが、強い免疫応答を起こすネオ抗原を認識するT細胞だけを運よくICIが活性化できれば、効果だけが出て、免疫関連有害事象は起きません(図4:A)。一方、弱い免疫応答を起こす自己抗原を認識するT細胞まで活性化させる反応がICIで起きた場合を想定してください。もちろん、自己を攻撃する免疫関連有害事象は起きますが、それほど強い免疫の活性化であれば、強い反応を起こすネオ抗原を認識するT細胞も活性化しているはずなので、効果も出るはずです(図4:B)。こういった患者さんが一定割合で存在するため、効果と有害事象はある程度の相関性があるはずです3)。画像を拡大するもちろん、ICIで免疫応答がまったく起きない人には有害事象も効果も出ません(図4:C)。では、有害事象だけが出て効果がない人では何が起きているのか?と疑問も湧くかと思いますが、1つの理由を抗原の観点で論じるならば、どんなに免疫を活性化させても、元のがん細胞にネオ抗原のような標的になるがん抗原が少ない場合にはやはり無効なのだろう、と思われます(図4:D)。それだけがん抗原は重要な要素なのです。免疫関連有害事象を正しく理解し・正しく恐れ・正しく対処すれば、ICIは効果がある患者さんにとっては大きなメリットのある薬剤です。当初の連載予定回数をオーバーしてしまいましたが、次回は追加で細胞療法の話をしたいと思います。1)Michot JM, et al. Eur J Cancer. 2016;54:139-148.2)Tokunaga A, et al. J Exp Med. 2019;216:2701-2713.3)Haratani K, et al. JAMA Oncol. 2018;4:374-378.

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TN乳がん1次治療へのipatasertib+PTXのOS結果(LOTUS)/ESMO BC2020

 手術不能な局所進行または転移を有するトリプルネガティブ乳がん(TNBC)の1次治療において、経口AKT阻害薬ipatasertibをパクリタキセル(PTX)に併用することにより、全生存期間(OS)が延長する可能性が、二重盲検プラセボ対照無作為化第II相試験であるLOTUS試験の最終解析で示された。シンガポール・National Cancer Centre SingaporeのRebecca Dent氏が、欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer Virtual Meeting 2020、2020年5月23~24日)で報告した。なお、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)については、すでに有意に延長することが報告されている。・対象:測定可能病変のある、治癒切除が不可能な局所進行または転移を有する未治療のTNBCで、6ヵ月以上化学療法を受けておらず、ECOG PSが0または1の患者・試験群:PTX 80mg/m2(Day1、8、15)+ipatasertib 400mg(Day1~21)を1サイクル28日で進行(PD)または許容できない毒性発現まで投与(ipatasertib群)62例・対照群:PTX 80mg/m2(Day1、8、15)+プラセボ(Day1~21)(プラセボ群)62例・評価項目:[主要評価項目]ITT集団およびPTEN-low患者におけるPFS[副次評価項目]OS、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)(ITT集団、PTEN-low患者、PI3K/AKT経路活性化患者)、PI3K/AKT経路活性化患者におけるPFS、安全性 主な結果は以下のとおり。・最終データカットオフは2019年9月3日で、それまでに全患者が主にPDで治療中止となった。・ITT集団におけるOS中央値は、ipatasertib群25.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:18.6~28.6)、プラセボ群16.9ヵ月(95%CI:14.6~24.6)で、層別ハザード比(HR)が0.80(95%CI:0.50~1.28)とipatasertib群で良好であった。1年OSはipatasertib群83%、プラセボ群68%であった。・PTEN-low患者(48例)におけるOS中央値は、ipatasertib群23.1ヵ月(95%CI:18.3~28.6)、プラセボ群15.8ヵ月(95%CI:9.0~29.1)で、非層別HRが0.83(95%CI:0.42~1.64)であった。1年OSはipatasertib群79%、プラセボ群64%であった。・PIK3CA/AKT1/PTEN変異患者(42例)におけるOS中央値は、ipatasertib群25.8ヵ月(95%CI:18.6~35.2)、プラセボ群22.1ヵ月(95%CI:8.7~NE)で、非層別HRが1.13(95%CI:0.52~2.47)であった。1年OSはipatasertib群88%、プラセボ群63%であった。・サブグループ解析では、50歳未満のOS中央値がipatasertib群35.2ヵ月、プラセボ群15.1ヵ月で、HRが0.41(95%CI:0.20~0.85)と有意にipatasertib群が延長していた。・Grade 3以上の有害事象(AE)の発現率は、ipatasertib群56%、プラセボ群45%であった。また、ipatasertib群においてAE関連の中止は4例(7%)、中断は22例(36%)、減量は13例(21%)であった。 現在、無作為化第III相試験であるIPATunity130試験が日本も参加して行われている。

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心血管疾患、発症率や死亡率に性差/Lancet

 心血管疾患の治療は、1次予防に関しては男性より女性で多く行われており、2次予防については反対の傾向がみられたものの、心血管疾患の既往の有無にかかわらず男性より女性のほうが、一貫してアウトカムは良好であることが観察された。カナダ・マックマスター大学のMarjan Walli-Attaei氏らが、27ヵ国の35~70歳、20万2,072人が参加した大規模前向きコホート研究「Prospective Urban Rural Epidemiological(PURE)研究」の解析結果を報告した。主に高所得国の研究では、男性と比較して女性は心血管疾患に対するケアをあまり受けておらず死亡リスクが高い可能性があることが報告されているが、リスク因子、1次あるいは2次予防の服薬、心血管疾患の発症、死亡を系統的に報告している研究はほとんどなかった。Lancet誌オンライン版2020年5月20日号掲載の報告。PURE研究の約20万人について解析 研究チームらは、アジア、アフリカ、欧州、南米、北米および中東の6地域27ヵ国(高所得国、中所得国および低所得国を含む)1,030地域の都市部および地方に在住の35~70歳の男女を対象に、社会人口統計学的特性、リスク因子、使用薬剤、心臓の検査と治療に関する情報を収集し解析した。 3期にわたって参加者が登録され(第1期17ヵ国15万7,705人、第2期4ヵ国1万785人、第3期4ヵ国9,321人および南米で進行中のコホート2万4,261人)、解析対象は2005年1月6日~2019年5月6日に登録された計20万2,072人となった。このうち、第1期および第2期に登録された16万8,490人について、心血管疾患の発症および死亡を追跡調査した。 20万2,072人のうち、女性は11万9,799人、男性は8万2,273人で、平均年齢(±SD)はそれぞれ50.8±9.9歳および51.7±10歳、追跡期間中央値は全体で9.5年(四分位範囲:8.5~10.9)であった。男女差は中低所得国で顕著 心血管疾患リスクは、2つの異なるリスクスコア(INTERHEARTおよびFramingham)を用いた場合でも、女性が男性より低かった。健康的な生活習慣や有効な薬物治療などの1次予防は、男性より女性で高頻度に行われていた。 心血管疾患の発症率(/1,000人年)は、女性4.1(95%信頼区間[CI]:4.0~4.2)、男性6.4(6.2~6.6)で(補正ハザード比[aHR]:0.75、95%CI:0.72~0.79)、全死亡率は女性4.5(95%CI:4.4~4.7)、男性7.4(7.2~7.7)であり(aHR:0.62、95%CI:0.60~0.65)、いずれも女性が低値であった。 2次予防治療、心臓検査、冠動脈血行再建は、各国すべてのグループの冠動脈疾患を有する参加者について、女性のほうが男性より頻度が低かった。女性は男性に比べて心血管疾患イベントの再発リスクが低く(再発率/1,000人年は女性20.0[95%CI:18.2~21.7]、男性27.7[25.6~29.8]、aHR:0.73[95%CI:0.64~0.83])、新規心血管疾患イベント後の30日死亡率も低かった(女性22% vs.男性28%、p<0.0001)。 治療とアウトカムにおける女性と男性の違いは、心血管疾患既往の有無にかかわらず、高所得国ではわずかであったが中低所得国では顕著であった。

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1分間英語スピーチ【Dr. 中島の 新・徒然草】(325)

三百二十五の段 1分間英語スピーチネットで見たある有名人。毎日テーマを決めて、英語で1分間スピーチの練習をしているのだとか。たいしたもんだ、と感心した私は、自分でもやってみることにしました。英検でもそのような形式のスピーキング試験があるそうだし。中島「1分間英語スピーチをするから、何かテーマを出してくれ」女房「そんなんできへん」中島「そう言わずに、何か出してくれよ」女房「ええー!」いきなりテーマを出してくれ、と言われても、普通は困りますよね。女房「パン屋」中島「はあ、パン屋ってか?」女房「……」中島「地球温暖化とか死刑制度の是非とか、そういうのではないわけ?」女房「……」中島「パン屋って、それショボ過ぎるがな」女房「大事じゃん、パン屋って」中島「そこまで言うんやったら、ひとつパン屋で頑張ってみよか」と、頑張ったのですが、何も出てきません。パン屋について英語で1分間語れと言われても、厳し過ぎる!日本語でも難しい。皆さんもやってみてください。その日も次の日も色々考えてみました。で、ようやく考えた1分間スピーチ。故郷の神戸は、パン屋とケーキ屋だらけ転校生に指摘されるまで気付かなかった港町の風習なのか、日本でありながら毎日の朝食はパンだったなるほど大阪に来たら、パン屋は少ない幸い、今住んでいる近所にはパン屋が幾つかあるベストは何とかいうフランス語の難しい名前覚えられないので我々は「親父パン」と呼んでいる親父の作るパン・ド・ミーが最高でも、イギリスパンは他店のほうがうまいというわけで幸せなパン屋ライフを送っている確かにパン屋は生活のインフラだと思うこれを英語に直してみると……In my hometown of Kobe, there are many bakeries and cake shops. I didn't notice this until it was pointed out by a transfer student. Perhaps it was a custom of the port town, that everyday breakfast would be bread, even in Japan. Indeed, there are fewer shops in Osaka. Fortunately, I found several bakeries in my neighborhood. The best shop has a complicated French name to pronounce. My wife and I call it "Dad's Bread" because we can't remember the exact name. The pain de mie from that shop is my favorite. However, white bread is better at other stores. Thanks to Dad's Bread, I can enjoy eating delicious bread. I think bakeries are essential to our way of life.こんな感じかな、正しいかは知らんけど。これを読み上げてみると56秒です。ちょうど良い長さですね。というわけで、1分間英語スピーチ作成。これからもやれる範囲でやってみようと思います。最後に1句パン屋でも スピーチネタに なったぞな

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再発・難治慢性リンパ性白血病における、acalabrutinibの第III相試験(ASCEND)/JCO

 BTK阻害薬であるacalabrutinibの、再発/難治(R/R)慢性リンパ性白血病(CLL)を対象とした多施設無作為化非盲検第III相ASCEND試験の結果が、Jouranal of Clinial Oncology誌2020年5月27日号オンライン版で発表された。・患者:18歳以上のR/R CLL・試験薬:acalabrutinib PDまで・対照薬:治験実施医が選択した治療(iderasilib+リツキシマブ[I-R]またはベンダムスチン+リツキシマブ[B-R])・評価項目:[主要評価項目]独立レビュー委員会(IRC)評価によるITT集団の無増悪生存期間(PFS)[副次評価項目]IRC評価の全体効率、全生存率、安全性など 主な結果は以下のとおり。・310例の患者が無作為にacalabrutinib単剤療法(15例)または治験実施医が選択した治療(155例:I-R 119例、 B-R 36例)に割り付けられた。・前治療の中央値は2回であった。・追跡期間中央値16.1ヵ月のPFS中央値は、治験実施医が選択した治療群では16.5ヵ月、acalabrutinibでは未達成で、acalabrutinib群で有意に長かった(HR:0.31、95%CI:0.20〜0.49、P

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アトピー児のタクロリムス、がんリスク増大のエビデンスなし

 アトピー性皮膚炎(AD)児におけるタクロリムス外用薬の使用は安全なのか。長期安全性を前向きに検討した「APPLES試験」から、米国・ノースウェスタン大学のAmy S. Paller氏らによる、タクロリムス外用薬を6週間以上使用したAD児におけるその後10年間のがん罹患率のデータが示された。観察されたがん罹患率は、年齢・性別等を適合した一般集団で予想された割合の範囲内のものであり、著者は「タクロリムス外用薬がAD児の長期がんリスクを増大するとの仮定を支持するエビデンスは見いだされなかった」と報告している。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2020年4月1日号掲載の報告。 APPLES(A Prospective Pediatric Longitudinal Evaluation to Assess the Long-Term Safety of Tacrolimus Ointment for the Treatment of Atopic Dermatitis)試験では、AD児におけるリンパ腫およびその他のがん発生の調査が行われた。対象は、16歳以前にタクロリムス外用薬の使用を開始し6週間以上使用したAD児で、同意を得て試験に登録された。がん既往児も適格とし、試験期間中、治療に関する制約はなく、APPLES試験を介して治療が提供されることはなかった。なお、患児の登録後のタクロリムス曝露は定量化されなかった。 研究グループは、同データから、タクロリムス外用薬を6週間以上使用したAD児における10年間の悪性腫瘍発生率を定量化する検討を行った。 がんイベントの標準化発生率比(SIR)を、性別・年齢・人種で適合した対照データ(全国がんレジストリから収集)と比較分析した。 主な結果は以下のとおり。・試験登録は2005年5月に開始され、2012年8月までに9ヵ国(オーストリア、カナダ、フランス、ドイツ、アイルランド、オランダ、ポーランド、英国、米国)の314施設で8,071例が登録された。試験は、がん発生率に大きな変化がみられないことから、FDAが早期に終了することを承認。データの収集は2019年1月31日に終了となった。・解析に包含されたのは、適格条件を満たした7,954例。登録時の平均年齢は7.1歳(中央値6.0歳)、登録のピークは3歳時であった。AD発症の平均年齢は2.3±SD 3.5歳、タクロリムスの初回曝露の平均(中央値)年齢は5.7(4.7)歳、使用から試験登録までの平均期間は1.8±SD 2.2年であった。登録前の推定平均曝露量は885±SD 1,963gであった。・7,954例のうち、7例が死亡、1,454例(18.3%)が同意を得られず、また4,368例(54.9%)が10年時点でコンタクトが取れなかったなどフォローアップが完了せず、試験を完了したのは2,125例(26.7%)であった。・4万4,629人年において、観察されたがんの発生は6例であった。1例は皮膚腫瘍(スピッツ母斑)で、その他5例は慢性骨髄性白血病、胞巣型横紋筋肉腫、虫垂カルチノイド腫瘍、脊髄腫瘍、悪性傍神経節腫であった。・SIRは1.01(95%信頼区間[CI]:0.37~2.20)であった。・リンパ腫の報告例はなかった。

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統合失調症の陽性症状に対する薬物療法と心理療法の比較~メタ解析

 統合失調症に対する薬物療法と心理療法の2つの治療戦略の効果について意義のある比較が可能か確認するため、ドイツ・ミュンヘン工科大学のIrene Bighelli氏らが、患者および研究の特性を調査した。Schizophrenia Bulletin誌2020年4月10日号の報告。 陽性症状を有する統合失調症患者を対象とした抗精神病薬治療と心理療法に関する最近の2つのメタ解析に含まれるすべてのランダム化比較試験を、EMBASE、MEDLINE、PsycINFO、Cochrane Library、ClinicalTrials.govより検索した。薬物療法と心理療法の違いを分析するために、Wilcoxon-Mann-Whitney検定およびカイ二乗検定を用いた。 主な結果は以下のとおり。・メタ解析には、抗精神病薬治療の研究80件(1万8,271例)と心理療法の研究53件(4,068例)が含まれた。・心理療法の研究には、以下の特徴が認められた。 ●重症度の低い患者の多さ(p<0.0001) ●罹病期間の短さ(p=0.021) ●持続期間の長さ(p<0.0001) ●抗精神病薬併用介入の実施(p<0.0001) ●アウトカム評価の盲検化を含む一部でのバイアスリスクの高さ(p<0.0001) ●公的資金の出資頻度の高さ(p<0.0001)・抗精神病薬治療の研究には、以下の特徴が認められた。 ●サンプルサイズの大きさ(p<0.0001) ●研究センターの規模が大きい(p<0.0001) ●男性患者の多さ(p=0.0001) ●入院患者の多さ(p<0.0001) ●高齢な患者の多さ(p=0.031) ●診断運用基準のより頻繁な使用(p=0.006) ●製薬会社の支援・両研究ともに、利益相反の差は認められなかった(p=0.24)。 著者らは「研究間の主な違いは、心理療法ではバイアスリスクが高く、薬物療法ではより重篤な患者が含まれていたことだった。そのため、ネットワークメタ解析を検討する前に、患者および研究の特性を注意深く考慮する必要がある。精神薬理学者と心理療法士は、競合するのではなく、患者の利益のために治療の最適化を目指すべきである」としている。

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持続性AF へのコンタクトフォース感知型カテーテルアブレーション【Dr.河田pick up】

 発作性AFに対するカテーテルアブレーション治療の安全性および有効性が確立されている一方で、持続性AFに関するデータは限られている。そのため、持続性AFに対しFDAが承認しているカテーテルはない。米国でも実際には、何年も前から持続性AFに対し、コンタクトフォースカテーテルアブレーションが使われているが、いわゆるオフレーベルの使用である。 この研究は、米国・Massachusetts General HospitalのMoussa Mansour氏ら研究グループが、持続性AFに対する多孔性先端コンタクトフォース感知型カテーテル安全性および有効性を評価するために実施した。なお本研究では、CARTO3およびサーモクールスマートタッチSFカテーテル(Biosense Webster、カリフォルニア州アーバイン)が使用された。JACC誌オンライン版2020年5月8日号に掲載。 米国・カナダの27施設、381例の持続性AF患者で実施されたPRECEPT研究 本研究は前向き多施設非無作為化研究(PRECEPT研究)で、米国とカナダの27施設で実施された。記録された症候性の持続性AFで、1種類以上の抗不整脈薬(Class IまたはIII)が無効もしくは忍容できない患者381例が試験に組み込まれた。それぞれの患者の治療には肺静脈隔離(PVI)および施設内で認められた肺静脈以外のターゲットへのアブレーションが含まれた。治療の成績を最適化するためにアブレーション後3ヵ月の投薬調節期間(0~3ヵ月)、そしてそれに続く3ヵ月の治療強化期間(3~6ヵ月)が含まれている。不整脈の再発は、月ごとに厳格にモニタリングされ、症状に応じて電話転送型のモニター、心電図、ホルター心電図によりアブレーション後15ヵ月間フォローされた。成功率はPVI群61.7%、PVI+肺静脈外のアブレーション群80.4% 81例中、348例がカテーテルを用いたアブレーションを受けた。主要有害事象の発生は全体の3.8%に認められ、13例で14のイベントが発生した(心タンポナーデ:5[1.5%]、脳卒中:1[0.3%]、TIA:1[0.3%]、横隔膜麻痺:1[0.3%]、肺水腫:1[0.3%]、心外膜炎:2[0.6%]、穿刺部位の合併症:3[0.9%])。カプランマイヤー生存曲線分析による15ヵ月時点での主要治療成功率は、PVIのみの群が61.7%、PVIと肺静脈外のアブレーションを加えた群が80.4%だった。 本研究の結果は、持続性AFに対するコンタクトフォース感知型の技術を用いたアブレーションが安全で有効であることを証明した。主な合併症は想定範囲内であり、これまでに報告された発作性AFのアブレーションと類似した結果であった。 また本研究により、前向き、多施設研究においてスマートタッチを用いたカテーテルの安全性が示された。ただし、本研究は異なるアブレーションの戦略(PVIのみおよびPVIに加えた基質アブレーション)を比較するための試験ではなく、患者の約半数で肺静脈以外のアブレーションも行われていた。また、15ヵ月後においてPVI群が61.7%、PVI+肺静脈外のアブレーション群が80.4%という成功率は、実臨床に近いものと考えられるが、15ヵ月という観察期間は短く、治療戦略に基づくアブレーションの成績を評価するには、さらなる観察が必要であると考えらえる。(Oregon Heart and Vascular Institute  河田 宏)■関連コンテンツ循環器内科 米国臨床留学記

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イソ吉草酸血症〔IVA:isovaleric aciduria〕

1 疾患概要■ 概念・定義イソ吉草酸血症(isovaleric aciduria:IVA)は、ミトコンドリアマトリックスに存在するロイシンの中間代謝過程におけるイソバレリルCoA脱水素酵素(IVDH)の障害によって生じる有機酸代謝異常症であり、常染色体劣性の遺伝性疾患である。■ 疫学わが国における罹患頻度は約65万出生に1人と推定されている。非常にまれだと思われていたが、新生児マススクリーニング(タンデムマススクリーニング)が開始されてから無症状の患児や母体が見つかっている。欧米では新生児スクリーニングで診断された患者の約2/3でc.932C>T(p.A282V)変異を認めており、この変異とのホモ接合体もしくは複合へテロ接合体を持つ場合、無症候性が多い。■ 病因遺伝性疾患であり原因遺伝子はIVD(isovaleryl-CoA dehydrogenase)であり、15q14-15にコードされている。この変異によってIVDH活性が低下することに起因する。IVDHはイソバレリルCoAから3-メチルクロトニルCoAが生成する反応を触媒している。この代謝経路は、飢餓やストレスによりエネルギー需要が高まるとロイシン異化によりクエン酸回路へアセチルCoAを供給してエネルギー産生を行うが、本症ではIVDH活性が低下しているためイソ吉草酸などの急激な蓄積とエネルギー産生低下を来し、尿素サイクル機能不全による高アンモニア血症や骨髄抑制を伴う代謝性アシドーシスを引き起こす。■ 症状1)特有の臭い急性期に「足が蒸れた」とか「汗臭い」と表現される強烈な体臭がある。2)呼吸障害急性期に見られ多呼吸や努力性呼吸、無呼吸を呈する。3)中枢神経症状意識障害、無呼吸、筋緊張低下、けいれんなどで発症する。急性期以降、もしくは慢性進行性に発達遅滞を認めることがある。4)消化器症状、食癖哺乳不良や嘔吐を急性期に呈することは多い。また、しばしば高タンパク食品を嫌う傾向がある。5)骨髄抑制汎血球減少、好中球減少、血小板減少がしばしばみられる。6)その他急性膵炎や不整脈の報告がある。■ 分類臨床病型は主に3つ(発症前型、急性発症型、慢性進行型)に分かれる。1)発症前型新生児マススクリーニングや、家族内に発症者がいる場合の家族検索などで発見される無症状例を指す。発作の重症度はさまざまである。2)急性発症型出生後、通常2週間以内に嘔吐や哺乳不良、意識障害、けいれん、低体温などで発症し、代謝性アシドーシス、ケトーシス、高アンモニア血症、低血糖、高乳酸血症などの検査異常を呈する。有症状例の約3/4を占めたとする報告がある。また、生後1年以内に感染やタンパクの過剰摂取などを契機に発症する症例もある。3)慢性進行型発達遅滞や体重増加不良を契機に診断される症例を指す。経過中に急性発症型の症状を呈することもある。■ 予後新生児・乳児の高アンモニア血症、代謝性アシドーシスをうまく予防・治療できればその後の神経学的予後は良好である。本症発症の女性の出産例も知られている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 一般検査急性発症時にはアニオンギャップの開大する代謝性アシドーシス、高アンモニア血症、高血糖、低血糖、低カルシウム血症を認める。高アンモニア血症の程度で他の有機酸血症や尿素サイクル異常症と区別をすることはできない。汎血球減少、好中球減少、血小板減少もしばしば見られる。高アンモニア血症は、細胞内のアセチル-CoAの減少によりN-アセチルグルタミン酸合成酵素活性が阻害され、尿素サイクルを障害するためと考えられている。■ 血中アシルカルニチン分析(タンデムマス法)イソバレリルカルニチン(C5)の上昇が特徴的である。■ 尿中有機酸分析イソバレリルグリシン、3-ヒドロキシイソ吉草酸の著明な排泄増加が見られる。■ 酵素活性末梢血リンパ球や皮膚線維芽細胞などを用いた酵素活性測定による診断が可能であるが、国内で実際に施行できる施設はほぼない。■ 遺伝子解析原因遺伝子のIVDの解析を行う。日本人患者8例のIVD解析では15アレルに点変異、1アレルにスプライス変異が同定されているが、同一変異はない。欧米におけるp.A282Vのような高頻度変異は報告されていない。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 急性期の治療診断を行いつつ、下記の治療を進め代謝クライシスを脱する。1)状態の安定化(1)気管挿管を含めた呼吸管理、(2)血液浄化療法を見据えた静脈ルート確保、(3)血圧の維持(昇圧剤の使用)、(4)生食などボリュームの確保2)タンパク摂取の中止最初の24時間はすべてのタンパク摂取を中止する。24~48時間以内にタンパク摂取を開始。3)異化亢進の抑制十分なカロリーを投与する(80kcal/kg/日)。糖利用を進めるためにインスリンを使用することもある。脂肪製剤の投与も行う(2.0g/kg/日まで可)。4)L-カルニチンの投与有機酸の排泄を図る。100mg/kgをボーラスで投与後、維持量として100~200mg/kg/日で投与。5)グリシンの投与イソ吉草酸とグリシン抱合させ、排泄を促す。150~250mg/kg/日分3。6)高アンモニア血症の治療迷わずカルグルミン酸(商品名:カーバグル)の投与を開始する(100mg/kgを初回投与し、その後100~250mg/kg/日で維持。経口、分2-4)。フェニル酪酸Naや安息香酸Naを100~250mg/kg/日で使用しても良い。7)代謝性アシドーシスの補正炭酸水素ナトリウム(同:メイロン)で行い、改善しない場合は血液浄化療法も行う。8)血液浄化療法上記治療を数時間行っても代謝性アシドーシスや高アンモニア血症が改善しない場合は躊躇なく行う。■ 未発症期・慢性期の治療ロイシンを制限することでイソバレリルCoAの蓄積を防ぐことを目的とするが、食事制限の効果は不定である。1)自然タンパクの制限:1.0~2.0g/kg/日程度にする。2)L-カルニチン内服:100~200mg/kg/日分3で投与。3)グリシンの投与:150~250mg/kg/日分3で投与。4)シック・デイの対応:感染症などの際に早めに医療機関を受診させ、ブドウ糖などの投与を行い異化の亢進を抑制させる。本疾患は急性期に適切な診断・治療がなされれば、比較的予後は良好であり思春期以降に代謝クライシスを起こすことは非常にまれである。急性期を乗り切った後(または未発症期)に、本疾患児をフォローしていく際は、一般に精神運動発達の評価と成長の評価が中心となる。■ 成人期の課題1)食事療法一般に小児期よりはタンパク制限の必要性は低いと思われるが、十分なエビデンスがない。2)飲酒・運動体調悪化の誘因となり得るため、アルコール摂取や過度な運動は避けた方が良い。3)妊娠・出産ほとんどエビデンスがない。今後の症例の積み重ねが必要である。4)医療費の問題カルニチンの内服は続けていく必要がある。2015年から指定難病の対象疾患となり、公的助成を受けられるようになった。4 今後の展望本症はタンデムマススクリーニングの対象疾患に入っている。一例一例を確実に積み重ねることにより、今後わが国での臨床型や重症度と遺伝子型などの関連が明らかになってくると思われる。5 主たる診療科代謝科、新生児科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本先天代謝異常学会ホームページ(新生児マススクリーニング診療ガイドラインは有用)公開履歴初回2020年05月26日

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第9回 今や54人に1人、自閉症の増加はおそらく環境要因によるものではない

スウェーデンの多数の双子を調べた新たな試験1,2)の結果、自閉症のほとんどは生来の遺伝情報に起因しているようであり、自閉症への生来の遺伝情報と環境の関与のほどは数十年変わっておらず、自閉症の増加はおそらく環境要因によるものではないと示唆されました。今回の試験では、1982~2008年に生まれた双子22,678組と、1992~2008年に生まれた双子15,280組が調べられました。その結果、それらの2群のうち前者では約24%、後者では約30%を占める一卵性双生児のどちらもが自閉症である割合は一卵性双生児ではない双子に比べて一貫して高く、およそ93%の自閉症と61~73%の自閉症特徴は生来の遺伝情報に起因すると示唆されました。今回の結果は5ヵ国の小児200万人超を解析した最近の試験報告3,4)とほぼ一致しています。昨年9月にJAMA Psychiatry誌に掲載されたその試験では、自閉症の80%ほどが遺伝情報に起因すると推定されました。自閉症の生じやすさへの親譲りの遺伝情報の寄与は、出産時の親の年齢と子の自閉症の関連の研究などで示唆されています。東京大学のWalid Yassin氏らが昨年報告した自閉症成人39人とそうでない男性37人の死後脳解析では、生まれた時の父親の年齢がより高齢な男性には、自閉症と関連する脳白質異常がより認められました5,6)。また、今年初めにCell Stem Cell誌に掲載された研究では自閉症の特徴の一つである脳肥大に寄与するらしい神経前駆細胞(NPC)過剰増殖とDNA損傷の関連が示されています7,8)。その翌月2月のNature Neuroscience誌掲載の報告では、神経の軸索を覆って絶縁し、脳内の高速の信号伝達を可能にしている脂質の鞘・ミエリンの形成に携わる細胞・オリゴデンドロサイト(OL)成熟不良と自閉症の関連が示唆されました9,10)。自閉症はここ数年で増加しています。この3月に発表された米国疾病管理予防センター(CDC)の推定では、米国の2016年の8歳児の54人に1人が自閉症であり、2014年のその割合(59人に1人)に比べて10%ほど上昇しています11)。同時に発表された4歳児の統計結果によるとより幼くして自閉症が見つかることが多くなっていることが伺われ、その傾向が続けば8歳児の自閉症有病率はおそらく今後更に上昇します。小児の自閉症が増えていることは自閉症の成人により目を向ける必要があることも示唆しています。米国でおそらく毎年75,000人ほど増えている自閉症の成人の社会参画に取り組まなければならないと、ジョージア州アトランタ市のEmory Autism Centerの長Catherine Rice氏は言っています。Rice氏は屈指の自閉症ニュースサイトSpectrumに続けてこう言っています。「ほとんどの地域には自閉症の人の数々の苦労にあまねく対処する取り組みがない。社会の一翼を担う自閉症成人が健やかに過ごせるようにする手立てが必要だ」また、上述したような研究が進めば、自閉症の負担そのものを解消する手立てもやがて見つかるでしょう。たとえばOL成熟不良と自閉症の関連が示されたことを受け、次はミエリン形成異常を示す人工脳を使ってミエリン形成を増やす化合物探しが期待できます9)。小児の自閉症が早期診断され、治療で症状が治まるようになることを同研究の著者らは望んでいます。参考1)Environmental Factors Don’t Explain Rise in Autism Prevalence / TheScientist2)Taylor MJ, et al. JAMA Psychiatry. 2020 May 6. [Epub ahead of print]3)Bai D, et al. JAMA Psychiatry. JAMA Psychiatry. 2019 Jul 17;76:1035-1043.4)Majority of autism risk resides in genes, multinational study suggests / Spectrum5)Paternal Age Linked to Brain Abnormalities Associated with Autism / TheScientist6)Yassin W, et al. Psychiatry Clin Neurosci. 2019 Oct;73(10):649-659.7)DNA Damage Linked to Brain Overgrowth in Autism / TheScientist8)Wang M, et al. Cell Stem Cell. 2020 Feb 6;26:221-233.e6.9)Phan BN, et al. Nat Neurosci. 2020 Mar;23:375-385.10)Inadequate Myelination of Neurons Tied to Autism: Study / TheScientist11)New U.S. data show similar autism prevalence among racial groups / Spectrum

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COVID-19関連の超過死亡算出するオンラインツール開発/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行の医学的、社会的、経済的な影響は、総人口死亡率に未知の作用を及ぼしているといわれる。これまでの死亡率モデルは、高リスクの基礎疾患や、それらのより長期のベースライン(COVID-19流行以前)の死亡率は考慮されていないが、英国・University College LondonのAmitava Banerjee氏らは、さまざまな感染抑制レベルに基づくCOVID-19発生のシナリオと、基礎疾患の相対リスクに基づく死亡率の影響を考慮して、COVID-19の世界的流行から1年間の超過死亡者数を、年齢、性、基礎疾患別に推定するモデルを確立するとともに、これを算出するオンラインツールを開発し、プロトタイプを公開した(オンラインリスク計算機のプロトタイプ)。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年5月12日号に掲載された。電子健康記録データを用いて超過死亡を推定するコホート研究 研究グループは、英国のプライマリケアおよびセカンダリケアの電子健康記録(Health Data Research UKのCALIBER)にリンクされたデータを用いて人口ベースのコホート研究を行った(英国国立衛生研究所[NIHR]University College London病院バイオメディカル研究センターなどの助成による)。  1997~2017年の期間に、医療機関に登録された30歳以上の個人を対象に、Public Health Englandのガイドラインで定義された基礎疾患の有病率(2020年3月16日以降)を調査した。  COVID-19の世界的流行の相対的影響を、COVID-19流行前のバックグラウンド死亡率と比較した相対リスク(RR)とし、RRを1.5、2.0、3.0と仮定した場合に、完全抑制(0.001%)、部分抑制(1%)、軽減(10%)、何も対策をしない(80%)などの異なる感染率のシナリオで、COVID-19関連の超過死亡の簡略なモデルと計算ツールを開発し、各疾患の1年間の死亡率を推定した。 また、超過死亡を推算するためのオンライン公開用のプロトタイプのリスク計算機を開発した。超過死亡に直接・間接に及ぼす全体の影響の評価が必要 386万2,012人(女性195万7,935人[50.7%]、男性190万4,077人[49.3%])を対象とした。対象の20%以上が高リスクであり、そのうち13.7%が70歳以上の高齢者で、6.3%は1つ以上の基礎疾患を有する70歳以下の高齢者と推定された。 高リスク集団の1年死亡率は4.46%(95%信頼区間[CI]:4.41~4.51)と推定された。年齢と基礎疾患が複合的にバックグラウンドリスクに影響を及ぼし、疾患によって死亡率に顕著なばらつきが認められた。 英国の集団における完全抑制のシナリオでは、超過死亡者数(COVID-19流行前のベースラインの死亡との比較)は、RRが1.5の場合は2人、RRが2.0で4人、RRが3.0では7人と推定された。 また、軽減シナリオでは、RRが1.5の超過死亡者数は1万8,374人、2.0で3万6,749人、3.0では7万3,498人と推定された。何も対策をしないシナリオの超過死亡者数は、RRが1.5の場合は14万6,996人、2.0で29万3,991人、3.0では58万7,982人であった。 著者は、「これらの結果は、持続的で厳格な抑制対策とともに、基礎疾患があるため最もリスクが高い集団を対象に、さまざまな予防介入による継続的な取り組みを行う必要性を示唆する。各国は、COVID-19の世界的流行が超過死亡に直接・間接に及ぼす全体的な影響を評価する必要がある」と指摘している。

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循環器領域のプレシジョン・メディシンを目指して(解説:香坂俊氏)-1232

Precision Medicine(プレシジョン・メディシン)という言葉がある。個別化医療と訳されることがあるが、こちらは実はPersonalized Medicineのことであり、日本語では「精密医療」と訳されることが多い。Precision Medicineという言葉が一躍脚光を浴びるようになったのは、バラク・オバマが大統領であった時期である(遠い昔のように思われるが、2015年のことだ)。彼がその年の一般教書演説で「今後米国はPrecision Medicineの徹底を目指す」と宣言し、そしてそのために巨額の研究費を支出することが表明され、欧米の学会で取り上げられることが多くなった。この一般教書演説のときのPrecision Medicineのイメージとしては「遺伝子の情報に応じたオーダーメイド治療の実現」という側面が強い。古典的なEBMが大規模RCTの結果を「極力すべての人たちにあてはめる」ということをゴールにするとしていたとすると、Precision Medicineはさらにその先、遺伝子のタイプに応じて医療を使い分けるということをゴールにしていた(完全な個別化ではなく、遺伝子の情報によって集団をさらに小分けにするという感じ)。この医療のPrecision化はがん領域において進捗が著しく、がん患者のがん遺伝子を調べ、選択的な治療薬の投与を行うという手法で、乳がん、肺がんなどの領域で実績を上げている。一方で循環器領域では、正直いまひとつパッとしていなかったが、今回取り上げる「Genotype-Guided Strategy for P2Y12 Inhibitors(POPular Genetics試験)」が初めて抗血小板領域におけるPrecision化に道筋をつけた。この試験では、遺伝子型に応じて抗血小板薬を選択するプレシジョン群と従来通りの治療を行う群にSTEMI症例(Primary PCI実施例)をランダム化した。プレシジョン群ではCYP2C19機能喪失型アレル保有者であればプラスグレルかチカグレロル(強めの抗血小板薬)を投与し、非保有者には従来通りのクロピドグレル(普通の抗血小板薬)を投与したが、その結果として2群で塞栓系のイベントの発症率には変化がなく、プレシジョン群で出血イベントの発症率が低かった(12ヵ月のハザード比:0.78、95%CI:0.61~0.98、p=0.04)。このことは日本人のACS患者さんにとっても意義が深い。なぜならば、日本人ではとくにCYP2C19機能喪失型アレル保有者は多いとされているからである(約6人に1人)。それならばすべてのACS患者さんにプラスグレルなどの「強めの抗血小板薬」を投与すればよいかというと、東アジア人においてはこうした薬剤で出血する割合も高いとされており、そういうわけにもいかない(日本では減量されたプラスグレルが市販されているが、それでも最近の解析結果をみてみると出血する割合はクロピドグレルよりも高くなるようである:Shoji S, et al. JAMA Netw Open. 2020;3:e202004. あるいは Akita K, et al. Eur Heart J Cardiovasc Pharmacother.2019 Oct 8. [Epub ahead of print])。このように、徐々にではあるが、循環器領域においてもプレシジョン化が進みつつある。抗血小板薬や抗凝固薬の使用に関してとくに有望であるとされているが、ほかに希望が持たれている分野としてはスタチンの使用(遺伝子型に応じて副作用の発症頻度が異なる)、あるいは心不全に対するACEやARBの使用(性差が存在し、それも遺伝子型によるものではないかと推測されている)などが挙げられ、引き続き注目していきたい分野である。

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第15回 治療編(1)薬物療法・その2【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第15回 治療編(1)薬物療法・その2前回は、主として末梢性疼痛に用いられる薬物療法について解説しましたが、今回は、末梢性神経障害性疼痛への除痛適応を持つ、新薬ミロガバリンとプレガバリン、そして比較的副作用の少ない鎮痛薬ノイロトロピンについて説明しましょう。表に神経障害性疼痛の原因になりうる疾患を示しております。この中でも、末梢性神経障害性疼痛の代表症例として、糖尿病性末梢神経障害性疼痛、帯状疱疹後神経痛、椎間板ヘルニアによる慢性疼痛が挙げられます。画像を拡大する(1)ミロガバリン<作用機序>神経前シナプスの電位依存性カルシウムイオン(Ca2+)チャネルから流入したCa2+により神経が興奮して、サブスタンスP、グルタミン酸、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)など、いわゆる神経伝達物質が放出されます。このCa2+チャネルにはいくつかのサブユニットで構成されておりますが、ミロガバリンはそのうちのでもα2δサブユニットに結合することによりCa2+チャネルの活動が抑制されることでCa2+の流入が低下します。その効果により、神経伝達物質の放出が抑制されて痛みが緩和されると考えられています。<投与上の注意>1日2回投与が基準です。2.5mg、5mg、10mg、15mg錠がありますが、基本的には5mgX2で開始しますが、患者さんが少しきついと感じられた時には2.5mgX2で開始し、副作用あるいは疼痛緩和効果が見られなければ、1~2週間ごとに10mgX2、15mgX2と漸増し、最終的には1日30mgまで投与します。副作用としては、傾眠、浮動性めまい、体重増加などがあります。高齢者では転倒・骨折の恐れがあるので、細心の注意が必要です。また、自動車運転などの機械操作は回避する必要があります。(2)プレガバリン<作用機序>前述のミロガバリンと同様の作用機序、鎮痛効果を発揮します。<投与上の注意>ミロガバリンと同様ですが、中枢性神経障害に対する適応も有しています。元はカプセル剤でしたが、和製でOD錠になりましたので、疼痛時にはそのまま服用できるのが魅力です。25、75、150mgOD錠があり、1日4回まで、最高600mgまで処方できます。副作用もミロガバリンと同様で、眠気には注意が必要です。眠前に服用するとよく眠れるようです。(3)ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤(商品名:ノイロトロピン)<作用機序>ノイロトロピンは、ワクシニアウイルスを摂取した家兎の炎症性皮膚組織から抽出した300種類以上非蛋白性生体活性物質を含んでおり、単一での効果成分は不明です。作用機序としては、下行性疼痛抑制系の活性化が考えられております。その他、抗炎症作用、興奮性神経ペプチドの放出の抑制、交感神経作用抑制、血流改善、神経保護作用などが推測されています。<投与上の注意>副作用には発疹、掻痒、悪心、眠気などが認められていますが、その発現頻度や重症度は極端に低いため、高齢者や長期療養者に対しても使いやすいことが特徴です。1日4錠(1錠4単位)を朝夕2回に分けて経口投与します。注射薬では1日1回1管を静脈内、筋肉内または皮下に注射します。以上、痛み治療の第1段階における薬物を取り上げ、その作用機序、投与における注意点などを述べさせていただきました。痛みの患者さんに接しておられる読者の皆様に少しでもお役に立てれば幸いです。1)花岡一雄. ペインクリニック. 2013; 34: 1227-12372)花岡一雄. ペインクリニック. 2011; 143: 441-4443)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S168

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うつ病から双極性障害への転換に対する早期予測因子~コホート研究

 うつ病と双極性障害は、どちらも主要な気分障害であるが、治療戦略や予後が異なる。双極性障害患者では、初期でみられるうつ症状によりうつ病と診断されうることが、その後の治療結果に影響を及ぼす可能性がある。これまでの研究では、うつ病と診断された患者のうち、時間経過とともに双極性障害を発症する患者が少なくないと示唆されている。このような双極性障害は、治療抵抗性うつ病の一因となる可能性がある。台湾・国立中正大学のYa-Han Hu氏らは、人口ベースのコホート研究を実施し、10年間のフォローアップ期間中にうつ病から双極性障害へ診断が変更された患者の割合およびその危険因子について調査を行った。さらに、うつ病から双極性障害へ転換するリスク層別化モデルの開発を試みた。JMIR Medical Informatics誌2020年4月3日号の報告。 台湾全民健康保険研究データベースを用いて、2000年1月~2004年12月に新規でうつ病と診断された患者を対象に、レトロスペクティブコホート研究を実施した。すべてのうつ病患者を、次のいずれかの条件を満たすまでフォローアップした。(1)精神科医による双極性障害の診断、(2)死亡、(3)2013年12月まで。すべてのうつ病患者を、フォローアップ期間中の双極性障害への転換に従って、転換群または非転換群に振り分けた。うつ病から双極性障害へ転換するリスク層別化モデルを作成するため、最初の6ヵ月間の6つの変数(患者の特性、身体的合併症、精神医学的合併症、ヘルスケアの使用状況、疾患重症度、向精神薬の使用)を抽出し、決定木分析(classification and regression tree:CART法)を行った。 主な結果は以下のとおり。・対象は、うつ病患者2,820例。・フォローアップ期間中に双極性障害と診断された患者は536例(19.0%)であった。・CART法により双極性障害転換リスクの有意な予測因子は、以下の5つであった。 ●最初の6ヵ月間で使用された抗精神病薬の種類 ●最初の6ヵ月間で使用された抗うつ薬の種類 ●精神科外来通院の合計回数 ●受診1回当たりに使用されたベンゾジアゼピンの種類 ●気分安定薬の使用・双極性障害への転換に関し、このCART法によるリスクによって、高リスク群、中リスク群、低リスク群に分類可能であった。・高リスク群では、うつ病患者の61.5~100%は双極性障害と診断された。・低リスク群では、うつ病患者の6.4~14.3%のみが双極性障害と診断された。 著者らは「CART法により、双極性障害へ転換する5つの有意な予測因子が特定された。これらの予測因子を用いた単純なプロセスにより転換リスクの分類は可能であり、本モデルは双極性障害の早期診断のために日々の臨床診療に適用可能である」としている。

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第20回 シンプルに考えよう! 高K血症のマネジメント【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)Hi-Phy-Vi(History,Physical,Vital signs)をcheck!2)心電図を速やかにcheck!3)カルシウム製剤、GI療法で速やかに介入を!【症例】75歳男性。来院当日の起床時から嘔気を自覚した。自宅で様子をみていたが症状は改善せず、食事を摂ることもできないため、救急外来を独歩受診した。●受診時のバイタルサイン意識清明血圧98/75mmHg脈拍52回/分(整)呼吸22回/分SpO296%(RA)体温36.3℃瞳孔2.5/2.5mm +/+既往歴高血圧、慢性腎臓病高K血症の定義と重症度Kの値が5.5mEq/L以上の場合に高K血症と定義されます。重症度分類は表1の通りです。6.5mEq/L以上を中等症、7.5mEq/Lを重症とするものもありますが、迅速に対応する必要があるため、まずは表1のようにおさえておきましょう。駆血や溶血の影響で高くなることもありますが、再検しなければ真実はわかりませんので、K値が6mEq/Lを超えたらまずいと考え対応するとよいでしょう1,2,3)。表1 高K血症の重症度分類画像を拡大する高K血症の症状:いつ疑うのか?1)症状高K血症と聞いて、具体的な症状を思い浮かべることができるでしょうか? 筋力低下や麻痺、動悸などは典型的な症状といわれますが、救急搬送症例など比較的重症な症例では出会うものの、walk-in症例やクリニックなどでは、倦怠感や脱力、食思不振、感覚異常など、何ともいえない、不定愁訴的な症状を訴え、「え? この症状で?」という機会も多いものです4)。2)バイタルサイン高K血症に絶対的なバイタルサインの変化はありませんが、重篤なサインとして徐脈が挙げられます。徐脈である場合には鑑別に高K血症を挙げる癖をもっておくとよいでしょう。また、血圧が低めの場合にも脈拍に注目し、血圧が低いにもかかわらず脈まで遅い場合には積極的に疑うと良いでしょう。“ショック+徐脈”として表2は頭に入れ、そのようなバイタルサインであれば、特に(1)~(3)を意識して、まずは心電図を確認することが超重要です5)。表2 SHOCK+徐脈画像を拡大する3)基礎疾患腎機能が正常であれば、通常は余分なKは尿中に排泄されるため高K血症となることはまずありません。腎機能が悪い、もしくは悪い可能性のある患者さんをいかに見出すかがポイントとなり、そのような患者さんでは、常に高K血症の可能性を意識して対応することがポイントとなります。初診の患者さんに対して、既往症や治療中の病気を確認しても、なかなか「慢性腎臓病で治療中です」とは返答はありません。「腎臓が悪いと言われたことはありませんか?」と確認するとよいでしょう。4)内服薬ACE、ARB、抗アルドステロン薬(スピロノラクトン)など高K血症の原因となり得る薬剤を確認しましょう。前述の通り、原則として腎機能が正常であれば、Kを多く含むものを摂取しても高K血症にはなりませんが、腎機能障害さらには薬剤などの影響で、本来の機能に変化が認められる場合にはK値は上昇し得ます。表3の薬剤を内服していないか確認しましょう6,7)。表3 高K血症の原因となりうる薬剤画像を拡大する高K血症のアプローチ5)具体的には、上記のことを意識しながら以下のSTEPで対応します。STEP1バイタルサインをcheck!STEP2心電図をcheck!STEP3代謝性アシドーシスの有無をcheck!STEP4腎機能障害の有無をcheck!(急性or慢性、腎前性or腎性or腎後性)STEP5内服薬をcheckSTEP6偽性高K血症の可能性を忘れずに!詳細は割愛しますが、重要なことはまず疑うこと、そして重症度を見積もるためにも心電図は必ず早期に確認することです。再検結果がすぐに判明する状態であれば溶血の可能性も考慮し対応すればよいですが、再検が困難ないし時間がかかる場合には、患者背景と心電図結果から治療を介入しマネジメントするしかありません。治療高K血症に対する治療はいくつかありますが、どこでも施行可能で、まずやるべき治療は(1)カルシウム製剤(グルコン酸カルシウム)の投与、(2)グルコース・インスリン療法(GI療法)です。この2つは自身で必ずできるようになっておかなければなりません。(1)グルコン酸カルシウムKの数値は下げませんが、高K血症によって引き起こされかねない不整脈など心臓への影響に対して用います。緩徐に静注し、その後の心電図の変化をフォローします。(2)GI療法Kの大半は細胞内に存在します。ブドウ糖とセットでKは細胞内へ移行するため、GI療法を施行し、Kを一時的に細胞内へ押し込み時間を稼ぐのです。クリニックや救急外来においてある50%ブドウ糖は主に20mLのシリンジタイプだと思いますので、私は以下の通りに使用することが多いです。低血糖は避ける必要があるため、血糖値のフォローも忘れないようにしましょう。投与方法:50%ブドウ糖40mL+速効型インスリン8U(リスクが高い場合には4U)※リスクが高い場合:腎機能障害なし、糖尿病の既往なし、治療前の血糖値≦150mg/dL高K血症は早期に治療介入する必要がありますが、そのためには早期に疑う必要があります。また、数値とともに心電図変化が非常に大切です。症状やバイタルサイン、さらには基礎疾患や内服薬から疑い、速やかに初療を行えるようになりましょう。グルコン酸カルシウム、GI療法施行後は、患者背景(腎機能や内服薬)や利尿の有無によって、対応は異なります。以前から腎機能障害を指摘されている場合で尿が出ない、または代謝性アシドーシスを認める場合には、透析が必要になるでしょう。腎後性腎障害の影響であれば、尿道バルーンなどで閉塞を解除すれば、その後速やかに改善することが多いでしょう。初療を行いつつ、原因検索を行い対応する訳ですが、考えながら動かなければ対応が遅れてしまうのが高K血症です。どこでも出会う可能性があり、対応を整理しておきましょう。1)Clinical Practice Guidelines for management of acute hyperkalemia in adults. UK Renal association:2014.2)Long B, et al. J Emerg Med. 2018;55:192-205. 3)Pepin J, et al. Emerg Med Pract. 2012;14:1-17.4)Montford JR, et al. J Am Soc Nephrol. 2017; 28:3155-3165.5)坂本壮. 救急外来ただいま診断中. 中外医学社:2015.6)Ben Salem C,et al. Drug Saf. 2014;37:677-692.7)坂本壮、安藤裕貴. あなたも名医! 意識障害. 日本医事新報社. 2019.p.85-101.

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ハンセン病、低中所得国では家庭内接触者の検出介入が必須

 歴史的に最も古くから知られる感染症といわれるハンセン病は、今では治療法が確立し、最も感染力の弱い感染症ともいわれている。ブラジル・Fundacao Oswaldo CruzのCamila Silveira Silva Teixeira氏らは、ハンセン病の発生は世界的には減少傾向にあるが、低中所得国では依然として対策が必要な感染症であるとして、同国における新規症例の状況と家庭内感染の実態を、1億人規模の住民ベースのコホート研究から明らかにした。ハンセン病患者の家庭内接触者(とくに多菌型ハンセン病患者が家族にいる接触者、および高齢の接触者)は、ハンセン病のリスクが増大する可能性が示唆されたという。結果を踏まえて著者は「コンタクトスクリーニング(接触者の検出)といった保健衛生上の介入が、とくにそのような集団をターゲットとして必要と思われる」とまとめている。JAMA dermatology誌オンライン版2020年4月15日号掲載の報告。 研究グループは、ハンセン病と診断された患者の家庭内接触者における、ハンセン病の新たな症例検出率を推定し、関連するリスク因子を調べる検討を行った。 本研究は、100 Million Brazilian Cohortに登録された家族と全国ハンセン病レジストリをリンクした住民ベースコホート研究で、2007年1月1日~2014年12月31日に集められたデータを解析した。 ハンセン病と診断された患者の家庭内接触者を家族単位で、1人目のハンセン病罹患家族(プライマリ家族)が検出および登録された時期から2人目の罹患家族が検出されるかを、2014年12月31日まで追跡した。プライマリ家族の臨床的特性と、家庭内接触者の社会人口統計学的因子を踏まえて、2018年5月~12月にデータの解析を行った。 主要評価項目は、リスク集団である家庭内接触者10万(リスク人年)当たりの新たなハンセン病症例の推定検出率であった。また、2人目の罹患家族の発生と曝露リスク因子の関連を、州および世帯特有のランダム効果を考慮したマルチレベル混合効果ロジスティック回帰法を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・ハンセン病患者1万7,876例が検出され、その家庭内接触者4万2,725例(女性2万2,449例[52.5%]、平均年齢22.4歳[SD 18.5])を対象に検討が行われた。・家庭内接触者における新規症例の検出頻度は、10万リスク人年当たり636.3例(95%信頼区間[CI]:594.4~681.1)であった。15歳未満では、10万リスク人年当たり521.9例(95%CI:466.3~584.1)であった。・発症の関連オッズ比(OR)が高かった因子は、プライマリ家族が多菌型ハンセン病に罹患している場合であった(補正後OR:1.48、95%CI:1.17~1.88)。・家庭内接触者が50歳以上の場合、リスクの増大が認められた(補正後OR:3.11、95%CI:2.03~4.76)。・ハンセン病の検出と、非識字または就学前の教育レベルには、負の相関がみられた(補正後OR:0.59、95%CI:0.38~0.92)。・小児の家庭内接触者では、男児でリスクが高いことが認められた(補正後OR:1.70、95%CI:1.20~2.42)。

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SSRI治療抵抗性強迫症に対する抗精神病薬増強療法の比較

 強迫症(OCD)は、人口の2.5%に影響を及ぼす原因不明の慢性的な精神疾患である。強迫症に対する従来の治療は、適切な治療反応が認められている。また、一部の研究において、抗精神病薬、グルタミン酸作動薬、リチウム、buspironeなどの増強療法により、治療反応の改善が報告されている。イラン・Mashhad University of Medical SciencesのAli Talaei氏らは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)治療抵抗性OCD患者に対する抗精神病薬増強療法としてのアリピプラゾールおよびクエチアピンの有効性、安全性の評価を行った。Canadian Journal of Physiology and Pharmacology誌2020年4月号の報告。 OCD患者には、まずSSRIで12週間の治療を行った。12週間後のYale-Brown強迫尺度(Y-BOCS)スコアが16以上の場合、アリピプラゾール群またはクエチアピン群のいずれかにランダムに割り付け、さらに12週間の治療を行った。 主な結果は以下のとおり。・研究開始時点での、年齢、性別、教育、婚姻状況、Y-BOCSスコア、臨床全般印象度(CGI-S)スコアに両群間の有意な差は認められなかった(p>0.05)。・両群ともに、1ヵ月後の結果は、2、3、4ヵ月と比較し、有意な差が認められた(p<0.001)。 著者らは「アリピプラゾールおよびクエチアピンは、SSRI治療抵抗性OCD治療において効果的かつ忍容性の高い増強療法である可能性が示唆された。アリピプラゾールは、迅速な治療反応が得られる可能性があり、より効果的であると考えられる」としている。

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第8回 話して生じる飛沫は空中を8分間漂い、新たなCOVID-19感染の火種となりうる

はしか(麻疹)、インフルエンザウィルス、結核菌等の呼吸器ウイルスは咳やくしゃみで放たれた飛沫を介して感染を広げます。飛沫のもとである口腔液に大量に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が存在することが発症患者1)のみならず無症状の患者2)でも確認されており、おそらくSARS-CoV-2も飛沫に収まって浮遊できるでしょう。普通に話しても飛沫が生じることは、咳やくしゃみによる飛沫ほどは広く知られておらず、話したときに生じてしばらく浮遊しうる直径30μm未満の飛沫の意義はこれまで蚊帳の外に置かれていました。しかし米国NIH支部の国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所(NIDDK)の研究者らの試験結果によると、その認識は改める必要があるようです。先週水曜日にPNAS誌に掲載されたその報告によると、話したときに生じる飛沫は空中に8分間は浮遊し、新たなSARS-CoV-2感染の火種になるおそれがあるといいます3,4)。研究者は被験者に“stay healthy(健康でいよう)”というフレーズを25秒間繰り返し言ってもらい、そのときに発生する飛沫の浮遊(30cm落下)時間半減期を測定しました。その時間が8分間であり、話して生じた飛沫の直径はおよそ4 μm、口を出る前の乾燥前の粒子の直径は12μm以上と推定されました。この結果によると、1分間大声で話せば、ウイルスを含有する少なくとも1,000粒の飛沫が8分を超えて空中に留まり、その量はそれらを吸い込んだ誰かにCOVID-19を誘発しうるレベルだといいます。今回の研究を実施した研究チームは、話しているときの飛沫を撮影した結果を先月4月中旬にNEJM誌に報告しており5)、その試験では、布マスクをして話せば前方への飛沫の発散を抑えられることが示されています。アメリカ疾病管理センター(CDC)も推奨するマスク着用が、SARS-CoV-2の広がりを遅らせうる大事な役割を担うことを、前回のその報告と今回のPNAS報告は示していると、NIDDK広報担当者は米国の新聞USA TODAY紙に話しています6)。マスクの効果に関するこれまでの試験を集めて検討したPNAS誌投稿査読前報告7,8)の著者の見解はさらに揺るぎなく、公共の場でのマスク着用は、皆が守ればSARS-CoV-2の広まりを確実に防ぐ(Public mask wearing is most effective at stopping spread of the virus when compliance is high)と結論しています。参考1)Chan JF,et al. J Clin Microbiol. 2020 Apr 23;58.2)Wolfel R,et al. Nature. 2020 Apr 1. [Epub ahead of print]3)Droplets from Speech Can Float in Air for Eight Minutes: Study / TheScientist4)Stadnytskyi V,et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2020 May 13. [Epub ahead of print]5)Anfinrud P,et al. N Engl J Med. 2020 Apr 15. [Epub ahead of print]6)Simply talking in confined spaces may be enough to spread the coronavirus, researchers say / USAToday7)If 80% of Americans Wore Masks, COVID-19 Infections Would Plummet, New Study Says / VanityFair8)Face Masks Against COVID-19: An Evidence Review. Preprints. Version 2 : Received: 12 May 2020

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