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明らかな原因が見当たらない脳梗塞である塞栓源不明脳塞栓症(Embolic Stroke of Undetermined Source:ESUS)に対する、ダビガトランの再発予防効果を検証する国際共同臨床試験RE-SPECT ESUS試験が発表された。さらに日本脳卒中学会2019で、RE-SPECT ESUS日本人サブグループ解析も発表され、この分野は大変注目されている。ESUSを巡る経緯 脳梗塞は世界各国の死因の上位を占める重篤な疾患である。とくに日本を含めた東アジアでの罹患率が高く、わが国の死因順位第4位が脳血管疾患である。脳梗塞の最も重要な問題点は、脳梗塞後遺症のため介護が必要となる可能性が高いことであり、超高齢社会を迎えるわが国の最重要疾患と位置付けられる。 脳卒中の4分の3は脳梗塞であり、内訳はラクナ梗塞が25%、アテローム血栓性脳梗塞が25%、心原性脳塞栓症が20%であり、そのほか動脈解離、血管炎など特定の原因による脳梗塞が5%に認められる。一方、原因疾患の明らかでない脳梗塞が全体の25%程度あり、潜因性脳卒中(Cryptogenic Stroke)と呼ばれてきたが、2014年Hart氏らは潜因性脳卒中のうちの原因不明な塞栓性梗塞をESUSと称することを提唱した。 ESUSに対する有効な薬物治療法は現在確立していないが、2006年に発表されたアスピリンとワルファリンで比較したWARSS試験のESUSに関するサブ解析で、有効性に差がなく、ワルファリンに重大な出血性合併症が多かった結果から、アスピリンが推奨されてきた。近年の研究から、ESUSの原因として最も頻度が高く重要と考えられるのが潜在性発作性心房細動であることから、心原性脳血栓塞栓症予防に用いられる直接トロンビン阻害薬や第Xa因子阻害薬などの直接経口抗凝固薬が有効かもしれないとの仮説が立てられ、検証されることとなった。RE-SPECT ESUS試験の結果 ESUS患者の多施設共同無作為化二重盲検試験で、ダビガトラン150mgまたは110mgの1日2回投与と、アスピリン100mgの1日1回投与とを比較。主要転帰は脳梗塞の再発、主要安全性転帰は大出血。564施設で5,390例が登録され、ダビガトラン群(ダビ群:2,695例)とアスピリン群(ASA群:2,695例)に無作為に割り付けられた。中央値19ヵ月の追跡期間中に、脳梗塞の再発はダビ群177例(6.6%、4.1%/年)とASA群207例(7.7%、4.8%/年)に発生し、ダビガトランのアスピリンに対する優越性は示せなかった(HR:0.85、95%CI:0.69~1.03、p=0.10)。また大出血は、ダビ群77例(1.7%/年)とASA群64例(1.4%/年)に発生し、ダビ群とASA群は同等であった(HR:1.19、95%CI:0.85~1.66)。RE-SPECT ESUS試験の意義 本試験は、一見すると失敗と思える。しかし、昨年発表されたリバーロキサバンのNAVIGATE ESUSでは、脳梗塞の再発予防についてはダビガトランと同様にリバーロキサバンでも優越性は認められなかったが(リバーロキサバン群(リバ群)172例:5.1%/年、ASA群160例:4.8%/年、HR:1.07、95%CI:0.87-1.33、p=0.52)、大出血発症率はダビガトランと異なりリバ群のほうがASA群より有意に高かった(リバ群62例:1.8%/年、ASA群23例:0.7%/年、HR:2.72、95%CI:1.68-4.39、p<0.001)。 ダビガトランとリバーロキサバンの大出血発症率の違いは、両薬剤の性質で理解できるが、なぜ両剤ともアスピリンに対してESUSの再発予防で優越性を示せなかったのか? その一因がRE-SPECT ESUSの日本人サブグループ解析で明らかとなった。 RE-SPECT ESUSには、わが国からは594例(11%)が登録されている。この日本人データを解析したものが日本人サブグループ解析である。解析の結果、脳梗塞の再発はダビ群294例中20例(4.3%/年)とASA群300例中38例(8.3%/年)に発生し、試験全体の解析結果と異なり、ダビ群で有意に低い結果であった(HR:0.55、95%CI:0.32~0.94)。一方、大出血はダビ群294例中10例(2.5%/年)、ASA群300例中15例(3.8%/年)で同等という全体の解析と一貫した結果であった(HR:0.73、95%CI:0.32~1.62)。 試験全体で有意差のない大規模試験において、n数を約10分の1にして有意差が出ることは通常期待できないものであるが、なぜ日本人サブグループ解析で有効性が証明されたのか? この要因として、日本人という均一性と、わが国の脳卒中治療に携わる医師がESUSの定義をかなり厳密に考える国民性にある。ESUSは、頭部CTまたはMRI、12誘導心電図、経胸壁心エコー、心電図モニター(24時間以上)、頭蓋内外動脈の画像検査などを用いて、(1)ラクナ梗塞でない病巣の検出、(2)虚血病巣を灌流する頭蓋内外の血管に50%以上の狭窄性病変がない、(3)高リスク塞栓源心疾患がない、(4)脳梗塞を来す他の特異的な疾患(血管炎、動脈解離など)がない、の4項目すべてに該当する場合をESUSと定義する。したがって、ESUSが基本的には原因疾患が明らかな脳梗塞を除外する必要性のある診断である以上、種々のモダリティーを用いて除外診断を丁寧に行い、いかに登録患者を純化したのかにかかっている。これらの検査をきちんと行ってESUSと診断できた患者だけを登録する国民性は、世界に誇れるものである。最後に これまでの大規模試験でも、世界全体の結果と日本人だけを集めた結果とが大きく異なっていることは多々あった。これには、人種差、日本人集団という均一性だけでなく、試験医師の国民性も影響することを知るべきである。RE-SPECT ESUS試験から、ESUSと診断した患者に対するダビガトラン投与は、今後わが国でのESUSの標準治療となる。ダビガトランのESUS適応拡大に導く朗報であり、早急な適応拡大を望む。