サイト内検索|page:242

検索結果 合計:11844件 表示位置:4821 - 4840

4821.

大腸がんの術後補助化学療法、CAPOX療法3ヵ月投与の意義(IDEA)/Lancet Oncol

 StageIII大腸がん患者を対象とした術後補助化学療法について、無作為化第III相試験6件を前向きに統合解析した結果が報告された。フランス・ソルボンヌ大学のThierry Andre氏らInternational Duration Evaluation of Adjuvant Therapy(IDEA)collaborationによる検討で、全生存(OS)期間に関して、3ヵ月投与の6ヵ月投与に対する非劣性は示されなかったが、最終解析の結果、5年OSの絶対差は0.4%であった。結果を踏まえて著者は、「StageIII大腸がんに対する術後補助化学療法では、臨床的にほとんどの患者において3ヵ月間のCAPOX療法が支持される」と述べたうえで、「この結論は、投与期間の短縮による毒性や医療費の軽減によってさらに強固なものとなる」とまとめている。Lancet Oncology誌2020年12月号掲載の報告。CAPOX療法の5年OS率は3ヵ月投与群82.1%、6ヵ月投与群81.2% IDEAは、12ヵ国で実施された「CALGB/SWOG 80702」「IDEA France」「SCOT」「ACHIEVE」「TOSCA」および「HORG」の、6つの無作為化第III相試験を前向きに統合解析したものである。2007年6月20日~2015年12月31日までの間に18歳以上のStageIII大腸がん患者が登録され、FOLFOX療法(フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン)2週ごと、もしくはCAPOX療法(カペシタビン、オキサリプラチン)3週ごとの術後補助化学療法を、3ヵ月または6ヵ月投与する群に無作為に割り付けられた。FOLFOX療法かCAPOX療法かは主治医の判断で選択された。 大腸がん術後補助化学療法の主要評価項目はDFS(再発、2次性大腸がんまたは死亡いずれかのイベント発生までの期間)であり、OS(すべての原因による死亡までの期間)は事前に設定された副次評価項目であった。OSの非劣性マージンはハザード比(HR)1.11で、片側false discovery rate調整(FDRadj)p値<0.025の場合に非劣性とした。 大腸がん患者を対象とした術後補助化学療法について、無作為化第III相試験6件を前向きに統合解析した主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値72.3ヵ月において、1万2,835例中2,584例が死亡した。・5,064例(39.5%)がCAPOX療法、7,771例(60.5%)がFOLFOX療法を受けた。・5年OS率は、3ヵ月投与群82.4%、6ヵ月投与群82.8%であった(HR:1.02、95%CI:0 .95~1.11、非劣性FDRadjのp=0.058)。・レジメン別の5年OS率は、CAPOX療法で3ヵ月投与群82.1%、6ヵ月投与群81.2%であり(HR:0.96、95%CI:0.85~1.08、非劣性FDRadjのp=0.033)、FOLFOX療法ではそれぞれ82.6%、83.8%であった(HR:1.07、95%CI:0.97~1.18、p=0.34)。・最新のDFSの解析結果は、以前の結果を裏付けるものであった(HR:1.08、95%CI:1.02~1.15、非劣性FDRadjのp=0.25)。・新たな有害事象は報告されなかった。

4822.

慢性硬膜下血腫にデキサメタゾンは有益か/NEJM

 症候性慢性硬膜下血腫の成人患者において、デキサメタゾンによる治療はプラセボと比較して、6ヵ月後の良好なアウトカムには結び付かず有害事象も多かった。ただし、被験者のほとんどが入院中に血腫除去術を受けており、再手術に関する評価についてはデキサメタゾン群で少ないことが示された。英国・ケンブリッジ大学のPeter J. Hutchinson氏らが、英国の23施設で実施した無作為化試験「Dexamethasone for Adult Patients with a Symptomatic Chronic Subdural Haematoma trial:Dex-CSDH試験」の結果を報告した。慢性硬膜下血腫は、とくに高齢者に多い神経疾患・障害である。慢性硬膜下血腫患者のアウトカムに対するデキサメタゾンの有効性は、これまで十分な検討がなされていなかった。NEJM誌オンライン版2020年12月16日号掲載の報告。2週間のデキサメタゾン漸減投与vs.プラセボ、6ヵ月後の修正Rankinスコアで比較 研究グループは、18歳以上の慢性硬膜下血腫患者を、デキサメタゾン群またはプラセボ群のいずれかに1対1の割合で無作為に割り付け、2週間経口投与した。デキサメタゾン群では、1~3日目に8mg、4~6日目に6mg、7~9日目に4mg、10~12日目に2mgをそれぞれ1日2回、13~14日目に2mgを1日1回経口投与し、経口投与ができない場合は経鼻胃管内投与した。 外科的血腫除去術は、主治医の判断により実施された。 主要評価項目は無作為化後6ヵ月時の修正Rankinスケール(mRS)スコア(0~6、0:症状なし、6:死亡)で、0~3をアウトカム良好と定義し、修正intention-to-treat解析を行った。アウトカム良好の達成割合に差はなし、デキサメタゾン群で再手術率は低下 2015年8月~2019年11月の期間に、748例が無作為化され治療を開始した(デキサメタゾン群375例、プラセボ群373例)。患者の平均年齢は74歳で、94%が入院中に血腫除去術を受けた。入院時のmRSスコアが1~3の患者の割合は、両群とも60%であった。 同意撤回または追跡調査から脱落した患者を除外した修正intention-to-treat解析の結果、解析対象680例において、mRSスコア0~3のアウトカム良好の患者の割合は、デキサメタゾン群83.9%(286/341例)、プラセボ群90.3%(306/339例)であった(群間差:-6.4ポイント、95%信頼区間[CI]:-11.4~-1.4、p=0.01)。データが入手できた患者において、血腫再発に対する再手術は、デキサメタゾン群で349例中6例(1.7%)、プラセボ群で350例中25例(7.1%)に実施された。有害事象は、デキサメタゾン群のほうがプラセボ群と比較してより多く発生した(10.9% vs.3.2%、オッズ比:3.4、95%CI:1.81~6.85)。 なお、著者は、ほとんどの患者が入院中に血腫除去術を受けていること、6ヵ月時点での追跡調査脱落率は9%であること、デキサメタゾンの副作用の特性、また患者や医療者が割り付けを認識していた可能性があることなどを研究の限界として挙げている。

4823.

レジデント3年目、相互評価システムと後輩の育成・指導で自らも成長【臨床留学通信 from NY】第15回

第15回:レジデント3年目、相互評価システムと後輩の育成・指導で自らも成長米国内科レジデントは、1年目のインターンを終えると、2~3年目はレジデントとして、インターンを監督する役目となります。当院(Mount Sinai Beth Israel)のレジデントの場合、2~3人のインターンおよびその担当患者を把握する必要があり、最大20人の患者をカバーします。日本と違い、かなり患者の出入りが激しい米国の病院なので、ひと口に20といってもなかなかの忙しさです。たとえば、朝の採血結果などを確認し、昼過ぎに退院可能と判断すれば、その日の夕方から夜にも退院させる判断・行動のスピード感は日本とはかけ離れており、在院日数の短さを心掛ける米国らしい一面と言えるでしょう。相互評価で保たれるほど良い緊張感とスタッフの質的レベル米国のレジデントとインターンは互いに評価し合う関係性です。レジデントはアテンディング(指導医)およびインターンからの評価を受け、逆に双方に対する評価も行います。評価は概ね匿名で行われ、アテンディングからのフィードバックには署名があります。ただ、評価はWeb baseなので、逆にインターンからレジデントに対し辛辣なコメントをもらうケースもあります。相互評価なので、業務の上では皆、ある程度niceに接するように心掛けており、無用に怒鳴ったり、人物的に評判がよくなかったりするアテンディングは辞めさせられることもあります。また、働かない研修医は容赦なくプログラムをクビになったり、進級ができなかったりすることもあり、そうしたよい意味での緊張感あるためか、メンバーはおおむね一定以上レベルが担保されています。さらに、アテンディングによる評価をもとにプログラムディレクターがフェローシップへの推薦状を作成するため、こちらも気が抜けません (一連のプロセスが終わった今は、もう気が抜けてしまいましたが)。日本では経験しなかった良いシステムとして、2週間ごとのローテーション後のフィードバックを1:1の対面で行うことが挙げられます(推奨されているのに加え、面談によってweb baseの評価が上がるというメリットあり)。レジデントとしては、インターンや学生がこの先どうすれば成長するのか考えるのは勉強になりますし、英語でうまく助言するのもなかなか難しいです。米国の医学部は4年制ですが、4年目はsub-I (sub-intern)と呼ばれ、実質的にインターンと同レベルの仕事を求められます。つまり、学生といえども一定の権限を与えられ、オーダー、カルテ作成が要求されます。医学部3年目もオーダーする権限こそありませんが、インターンの下に配属され、カルテ作成が要求されます。そんな彼らのオーダーも、レジデントがすべて監督し、サインする必要があるのですが、学生たちのカルテチェックやフィードバックもレジデントとしての大事な役割で、私はそこから米国医学教育の根本を垣間見ることができましたし、日本の医学生とは求められているレベルが違うと実感した点でもあります。Column画像を拡大する夏よりApply中でした循環器フェローのマッチングですが、Montefiore medical center/Albert Einstein affiliated hospitalにマッチすることができました。今年はCOVID-19の影響もあってマッチングは想像以上に厳しいもので、同僚で循環器科志望だったレジデント(4人)はいずもアンマッチでした (例年ならば、当院では循環器科のアンマッチはあり得ません)。米国では、循環器医になりたい人たちの熾烈な競争がベースとしてあります。今回経験した自身のマッチングについては、また改めて本連載でお伝えします。

4824.

brigatinib、日本人ALK陽性NSCLCでも有望(J -ALTA)/JTO

 日本人を対象とした、ALK陽性非小細胞肺がん(NSCLC)に対するbrigatinibの有効性と安全性を検討した第II相無作為化試験「J-ALTA試験」の結果が、がん研有明病院の西尾 誠人氏らにより論文発表された。多施設共同、単群非盲検による検討で、アレクチニブ難治性の日本人患者において、臨床的に意義のある有効性が示されたという。brigatinibは臨床的関連があるALK遺伝子変異に対して強力かつ幅広い活性を有するよう設計された次世代ALK-TKIであり、米国では本年承認された。Journal of Thoracic Oncology誌オンライン版2020年11月25日号掲載の報告。 J-ALTA試験は、ALK-TKI難治性または未治療の20歳以上、StageIII B/C/IVのALK陽性NSCLC日本人患者を対象とし、まず(1)安全性を評価する導入試験(Safety Lead-in)、続いて(2)アレクチニブ既治療(単独またはクリゾチニブ既治療も含む)(メインコホート)とその他のALK-TKI既治療(探索コホート)の2コホートを対象とした難治性コホート拡大試験(Refractory Expansion)、および(3)未治療コホート拡大試験(TKI-Naive Expansion)が行われた。(3)の試験は進行中であり、今回は、(1)+(2)のALK-TKI難治性コホート試験の結果が報告された。 安全性導入試験は9例を対象とし、brigatinibを当初7日間は90mg/日、その後は180mg/日で1サイクル(28日間)投与し忍容性を評価した。難治性コホート拡大試験は、アレクチニブ既治療のメインコホート47例、その他ALT-TKI既治療の探索コホート16例を対象とし、brigatinibを180mg/日(導入期の7日間は90mg/日)投与した。 主要評価項目は、独立判定委員会(IRC)の評価による客観的奏効率(ORR)であった。 主な結果は以下のとおり。・2018年1月29日~2019年4月12日に72例が登録された。・2020年1月22日時点の解析において、72例のうち22例(31%)でbrigatinibの投与が継続され、アレクチニブ難治性の47例では14例でbrigatinibが継続投与されていた。・アレクチニブ難治性集団における、IRC評価の確定ORRは34%、奏効期間中央値は11.8ヵ月、病勢コントロール率は79%、IRC評価の無増悪生存期間は7.3ヵ月であった。・ベースラインで測定可能な脳病変を有していた8例のうち2例で、頭蓋内の部分的奏効が確認された。・brigatinibの抗腫瘍効果が、G1202R、I1171N、V1180L、L1196Mの2次的変異(secondary mutations)を有する患者で示された。・日本人患者における安全性プロファイルは既報のものと一致していた。

4825.

筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する多剤併用試験の意義(解説:森本悟氏)-1331

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動ニューロン障害による筋萎縮、筋力低下、嚥下障害、呼吸不全等を特徴とする神経難病であり、有効な治療法はほとんど存在しない。 しかし今回、ALSの有効な治療薬として、フェニル酪酸ナトリウム(sodium phenylbutyrate)-taurursodiol合剤が報告された(Paganoni S, et al. N Engl J Med. 2020.383:919-930. )。 フェニル酪酸ナトリウムは、本邦では尿素サイクル異常症治療薬として使用されている。この薬剤は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤としても働き、低分子シャペロンである熱ショックタンパク質(HSP)を増加させる。それにより、ALSの病態として重要なタンパク質(TDP-43)の異常蓄積を防ぎ、小胞体ストレスによる神経毒性を低減する。一方、taurursodiol(ウルソデオキシコール酸[ウルソジオール]のタウリン抱合体)は漢方薬の原料である熊胆の成分であり、小胞体ストレスを軽減するとともに、ミトコンドリアにおけるBax蛋白の膜移行を阻害し、細胞死を防ぐ働きがある。 従来の数多くの基礎研究により、小胞体ストレス、ミトコンドリア機能不全、あるいは小胞体-ミトコンドリア接触部(MAM)の破綻などがALSにおける重要な病態であるということが提唱されてきたが、今回の臨床試験の報告により、これらの仮説が証明された。さらに本治験患者を長期観察した続報として、ALSにおける運動機能改善のみならず、投薬患者はプラセボ群と比較して6.5ヵ月長い生存期間中央値(無作為化後最大35ヵ月間のフォローアップ)を認めた(Paganoni S, et al. Muscle Nerve. 2021;63:31-39.)。 これまで、脳血管障害や結核治療のように複数の薬剤を併用することで、“multi-target”および“synergistic effect”も含めて有効性を高められる可能性が言われてきたが、今回の報告は、ALSに対する“多剤併用試験”の先駆的な成功例である。 一方で、最近の話題として、ALSを含む多くの神経変性疾患に対する治療開発戦略において、“iPS細胞創薬”が台頭してきている(Okano H, et al. Trends Pharmacol Sci. 2020;41:99-109. )。このコンセプトにより、これまでの動物モデルでは成しえなかった“孤発性疾患モデル”が現実的なものとなり、神経変性疾患の大部分を占める孤発性患者を直接的なターゲットとした創薬が可能となりつつある。 近年、ALSに対する創薬(研究)の報告が相次いでおり、一刻も早くALSが克服されることを切に願ってやまない。

4826.

COVID-19パンデミック中の霜焼け症状、病態生理が明らかに

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下で報告が相次いだ「凍瘡様病変」の病態生理が明らかにされた。フランス・コートダジュール大学のThomas Hubiche氏らによる連続患者40例の前向きケースシリーズ研究の結果、ウイルス誘発型のtype I interferonopathyの症状を呈していることが示唆されたという。JAMA Dermatology誌オンライン版2020年11月25日号掲載の報告。 COVID-19パンデミック下で凍瘡様病変を呈した患者コホートに関する、体系的、臨床的、組織学的および生物学的評価は、フランスのニース大学病院COVID-19学際的診療グループによって行われた。 対象患者は、皮膚生検、血管評価、生物学的解析、インターフェロンアルファ(IFN-α)の刺激と検出、および重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)と血清学的解析などの一般および皮膚科学的検査を受け評価された。 主な結果は以下のとおり。・全体で、凍瘡様病変を呈した連続患者40例が評価に含まれた。・患者の大半は若者で、年齢中央値は22歳(範囲:12~67歳)、男性19例、女性21例であった。臨床所見は、主に爪先での凍瘡様病変で、再現性が高かった。・水疱性および壊死性への病変進行が11例で観察され、肢端紫藍症または足趾の冷えは19例(47.5%)報告された。・COVID-19症例に適合する基準が、発症前6週間以内に11例(27.5%)で認められた。・リアルタイムPCR(rt-PCR)検査の結果は、全症例で陰性であった。・全体では12例(30%)で、SARS-CoV-2の血清学的評価が陽性であった。また、24例(60.0%)でDダイマー値の上昇が認められた。・クリオグロブリン血症およびパルボウイルスB19の血清学的評価は、検査をしたすべての患者で陰性だった。・特徴的だった主な組織学的所見は、細静脈壁の肥厚と周皮細胞過形成を伴うリンパ球性炎症および血管損傷であった。・凍瘡様病変を呈する患者集団は、軽度~重度の急性COVID-19患者と比較して、in vitroでの刺激後にIFN-α産生の有意な増加が観察された。

4827.

AZ社の新型コロナワクチン4試験統合中間解析で安全性・有効性確認/Lancet

 ChAdOx1 nCoV-19ワクチン(AZD1222)は、英国・オックスフォード大学で開発された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン。同大学のMerryn Voysey氏らは、このワクチンに関する進行中の4つの臨床試験の第1回目の統合中間解析を行い、安全性プロファイルは容認可能なものであり、COVID-19に対し有効であることを確認した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年12月8日号に掲載された。AZD1222は、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2の細胞表面の構造蛋白である糖蛋白抗原(スパイク蛋白:nCoV-19)遺伝子を含む、チンパンジー由来の増殖能を欠失させたアデノウイルスベクター(ChAdOx1)から成る。2020年4月23日、英国で第I/II相試験(COV001)が開始され、その後、英国(COV002、第II/III相)、ブラジル(COV003、第III相)、南アフリカ共和国(COV005、第I/II相)で無作為化対照比較試験が進められている。2回接種の安全性・有効性を評価 今回の中間解析には、進行中の4つの盲検化無作為化対照比較試験のデータが含まれ、AZD1222の安全性と有効性の評価が行われた(英国研究技術革新機構[UKRI]、AstraZenecaなどの助成による)。 COV001試験の対象は年齢18~55歳の健康ボランティアであり、COV002試験ではSARS-CoV-2への曝露の可能性が高い職種も含まれた。COV003試験は、医療従事者などのウイルス曝露リスクの高い職種の登録に重点を置き、18歳以上の安定期の併存疾患を有する集団も含まれた。COV005試験にはHIV感染者も登録されたが、今回の解析には含まれず、年齢18~65歳の健康成人が対象とされた。 被験者は、ChAdOx1 nCoV-19ワクチンを接種する群または対照群(髄膜炎菌A、C、W、Y結合型ワクチン[MenACWY]または生理食塩水)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。ChAdOx1 nCoV-19群は、5×1010(標準用量)のウイルス粒子を含むワクチンを2回接種され(SD/SDコホート)、英国の試験(COV001、COV002)の一部では、1回目に低用量、2回目には標準用量のワクチンが接種された(LD/SDコホート)。 主要アウトカムは、ウイルス学的に確定された症候性COVID-19とし、2回目の接種から14日以降にスワブが核酸増幅検査(NAAT)で陽性であることと、1つ以上の特定の症状(37.8℃以上の発熱、咳、息切れ、臭覚障害/味覚障害)がみられることと定義された。ワクチンの有効性は、年齢で補正した頑健ポアソン回帰モデルによる相対リスクの値を1から引いた値として算出した。データカットオフ日は2020年11月4日。ワクチン有効性:全体70.4%、SD/SD群62.1%、LD/SD群90.0% 2020年4月23日~11月4日までの期間に2万3,848例が登録され、有効性の主要中間解析には1万1,636例(英国のCOV002試験:7,548例[SD/SDコホート4,807例、LD/SDコホート2,741例]、ブラジルのCOV003試験:4,088例[すべてSD/SDコホート])が含まれた。 全体(SD/SD+LD/SDコホート)では、主要アウトカムの発生はChAdOx1 nCoV-19群0.5%(30/5,807例)、対照群1.7%(101/5,829例)であり、ワクチンの有効性は70.4%(95.8%信頼区間[CI]:54.8~80.6)であった。 2回とも標準用量を接種したSD/SDコホートでは、主要アウトカムの発生はChAdOx1 nCoV-19群0.6%(27/4,440例)、対照群1.6%(71/4,455例)であり、ワクチンの有効性は62.1%(95%CI:41.0~75.7)であった。また、初回は低用量で2回目は標準用量のLD/SDコホートでは、主要アウトカムの発生はそれぞれ0.2%(3/1,367例)および2.2%(30/1,374例)であり、ワクチンの有効性は90.0%(67.4~97.0)であった(p interaction=0.010)。 初回接種後21日目以降に、COVID-19による入院が10例認められ、いずれも対照群であった。このうち2例は重症COVID-19に分類され、死亡が1例含まれた。安全性の追跡調査は7万4,341例月(中央値3.4ヵ月、IQR:1.3~4.8)で行われ、重症有害事象は168例で175件発現し、ChAdOx1 nCoV-19群が84件、対照群は91件であった。ワクチン関連の可能性もあると判定された重症有害事象は3件で、ChAdOx1 nCoV-19群、対照群、割り付けがマスクされた群それぞれ1件ずつだった。 著者は、「免疫が広く行き渡るまでは、COVID-19の管理には身体的距離(physical distancing)を取ることと新たな治療法が必要である。この間に、有効なワクチンが重症化のリスクがある集団に使用されれば、世界的流行に大きな影響を及ぼす可能性がある。ウイルスベクターワクチンChAdOx1 nCoV-19は有効であり、現在の世界的流行において疾患管理に寄与する可能性があることが、初めて示された」としている。

4828.

第39回 より感染しやすい新型コロナウイルス変異株が英国で急増/ 重症COVID-19への幹細胞治療の試験結果が判明

より感染しやすい新型コロナウイルス変異株が英国で急増英国ケント州やロンドンでの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)の増加を受けて同国の保健行政組織Public Health England(PHE)がいっそうの注意を傾けて調べたところ新たなSARS-CoV-2変異体が急速に広まっていることが判明し、VUI - 202012/01と名付けられたその変異体の感染例1,108人が先週13日までに確認されました1)。その1週間後のこの週末19日の記者会見でBoris Johnson(ボリス・ジョンソン)英国首相はロンドンやイングランド南部/東部でのCOVID-19急増は13日発表の新たな変異株のせいらしいとの見解を示しました2)。変異株感染は重病や死に至りやすいという謂われはいまのところないが、他のSARS-CoV-2感染よりも次から次にどうやら感染しやすいらしいと示唆されています。PHEが他と協力しての調査は進行中ですが、いまのところ重症度、抗体反応、ワクチン効果へのVUI - 202012/01の影響は示唆されていません3)。今年2月の遅くに南欧で見つかって今や世界で最も幅を利かせる先着のSARS-CoV-2変異株4)がスパイクタンパク質に614Gという変異を有するのに似て新参のVUI - 202012/01もスパイクタンパク質にN501Yという変異を有します。世界を席巻しているその614G変異ウイルスもVUI - 202012/01と同様に感染を広めやすいらしいことがNatureに最近発表された培養実験やハムスター実験で裏付けられています5)。その実験で614G変異ウイルスは培養気道上皮細胞や気道を模す3次元組織でより増えて居座ることができ、より感染力が高いと示唆されました。続いて614G変異株をハムスターに感染させたところ鼻の拭い液や気管で盛んに増えており、その結果は614G変異ウイルスが上気道により集まるという感染者所見に見合うものであり、どうやらより感染しやすいことを示唆しています。目下のCOVID-19予防ワクチンは614G変異ウイルスに先立つウイルス(614Dウイルス)を起源としており、614Dウイルス感染で生じる抗体が614G変異ウイルスも中和できるならワクチンは614G変異ウイルスにも通用しそうです。そこで研究者は614Dウイルスを感染させたハムスターの血清が614G変異ウイルスの細胞感染を防げるかどうかを調べました5)。その結果、血清は幸いにも614G変異ウイルスの細胞侵入や複製を防ぐ中和活性を発揮し、614G変異は目下のCOVID-19ワクチンの守備範囲にあると示唆されました4,5)。 英国で広まる新たな変異株VUI - 202012/01のCOVID-19ワクチン等の効果への影響はいまのところ示唆されていませんが、確実な答えを得る研究が進行中であると英国の最高医学責任者(CMO)・Chris Whitty氏は14日の声明で述べています6)。COVID-19の幹細胞治療remestemcel-Lの試験は残念な結果になった本連載の第6回で紹介した急性呼吸窮迫症候群(ARDS)合併COVID-19患者へのMesoblast社の間葉系幹細胞(MSC)薬remestemcel-L(レメステムセル-L)の第III相試験が途中解析され、残念ながら主要評価項目・30日間の死亡減少の達成は不可能と判断されました7)。すでに組み入れ済みの233人全員の計画に沿った検討が済むまで試験は続けられ、追跡期間最終の60日時点での人工呼吸器なしでの生存日数・生存率・集中治療日数・入院期間・心臓/神経/肺損傷の結果が後に判明します。先月の終わりにノバルティス社はCOVID-19やその他の病気に伴うARDS へのremestemcel-Lの用途の権利を得る合意を発表しています。同社は残りの試験結果をMesoblast社と共に解析し、有意義な情報を見つけ出してremestemcel-Lの今後の開発方針に役立てることを目指します。参考1)PHE investigating a novel strain of COVID-19/GOV.UK2)Prime Minister's statement on coronavirus (COVID-19): 19 December 2020 /GOV.UK 3)COVID-19 (SARS-CoV-2): information about the new virus variant/GOV.UK4)Baric RS. N Engl J Med. 2020 Dec 16. [Epub ahead of print] 5)Plante JA,et al . Nature. 2020 Oct 26.[Epub ahead of print]6)Statement from Chief Medical Officer, Professor Chris Whitty about new strain of Covid-19/GOV.UK7)Mesoblast Update on COVID-19 ARDS Trial/ Mesoblast

4829.

慢性リンパ性白血病におけるBTK阻害剤 アカラブルチニブの心血管系有害事象

 アストラゼネカは第62回米国血液学会で、慢性リンパ性白血病(CLL)に対するブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害剤アカラブルチニブ単剤療法を受けた患者762例の心血管安全性データの統合解析において、アカラブルチニブで投与中止に至る心血管系の有害事象(AE)の発現率が1%未満であったと発表した。 この解析は、第III相のELEVATE-TN試験とASCEND試験、第II相の15-H-0016試験、そして第I/II相ACE-CL-001試験の4つの臨床試験が対象となり、アカラブルチニブ単剤療法を受けた未治療、または再発/難治性 CLLの患者が含まれている。観察期間中央値 25.9ヵ月時点で、129例(17%)の患者に心血管系のAEが認められ、7例(0.9%)の患者が心血管系のAEのために治療を中止した。 アカラブルチニブの投与期間中央値は 24.9カ月で、患者の2%以上に発現した心血管系のAEには、心房細動(4%)、心房細動/粗動(5%)、動悸(3%)、頻脈(2%)などがあり、心房細動の発現率は一般的な未治療CLL患者の集団と同程度(6%)であった。 グレード3以上の心血管系のAEは、37例(4%)に認められ、そのうち25%は治療開始から6カ月以内に報告された。その内訳は、心房細動(1.3%)、完全房室(AV)ブロック(0.3%)、急性冠症候群(0.1%)、心房粗動(0.1%)、第二度AVブロック(0.1%)、心室細動(0.1%)などであった。2例は心血管系のAEのため、死亡した(うっ血性心不全、心臓発作が各1例)。 全体として、心血管系のAEが認められた患者の91%、認められなかった患者の79%が、アカラブルチニブ投与前に1つ以上の心血管疾患リスク因子を有していた。心血管系のAEを発現した患者における、患者さんの20%以上が有していた心血管疾患リスク因子は、高血圧(67%)、高脂血症(29%)および不整脈(22%)だった。 Jennifer Brown氏(Dana-Farberがん研究所)は、CLL患者に対するBTK阻害剤による治療では、心血管系の合併症が治療中止の理由となることが多いことに言及したうえで、「アカラブルチニブ投与に伴う心血管系のAEリスクは、未治療のCLL患者の一般集団と同程度であったことが示唆されており、医師にとってアカラブルチニブを処方するうえで重要なデータである」と述べている。 アストラゼネカは、前治療歴のある高リスクCLL患者を対象に、アカラブルチニブとイブルチニブを比較評価する第III相のELEVATE-RR試験など、CLLを対象とした追加試験を検討している。

4830.

第48回 学び直し!やさしい冠動脈の話【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第48回:学び直し!やさしい冠動脈の話2020年という年は、全世界が新型コロナウイルスに翻弄され続けた一年でしたね。ところで、ボクも含め、多くの循環器医にとって、“コロナ…検査”と言えば、抗原でもPCR検査でもなく、「冠動脈造影」のことだと思います。コロナリー・アンジオ、いわゆるCAG(coronary angiography)ね。循環器分野では、ごくごく基本的な検査のうちの一つです。皆さんは冠動脈について、どこまで理解してますか? “ドキ心”のメインは心電図の解説ですが、今回は循環器分野での「コロナ…検査」の話をしてみようと思います。“冠動脈の基礎のキソ”心臓が活動するのに必要な酸素や栄養を供給する冠動脈、英語でcoronary arteryといいますよね。そう、「コロナリー」です。「“corona”の語源的には心臓血管もウイルスも同じなんだよ」という話、耳にタコができるほど聞きました(笑)。たしかに、3本の血管が王冠(crown)に絡まるツタのように見えなくもありません。しかし、昔の人のイメージ力ってすごいな。そうくるか、ってレベルですよね? 今回のテーマは、“クイズ形式で冠動脈について楽しく基本を学びましょう”で、以前からご意見として頂戴していたものに答えるレクチャーです。冠動脈に関しては.実際、個々人でかなりバリエーションがあり、厳密な話は少し難しいと思います。また、読者のすべてが循環器の専門医ではないことを踏まえ、あまり微や細を論じることなく、あくまで“学び直し”として、大事な点に絞って解説していこうと思います。では、はじまり~。【問題1】冠動脈はどこから出ますか?解答はこちら右冠動脈:右冠尖、左(主)冠動脈:左冠尖解説はこちら最初は冠動脈の“はじまり”を問う問題からはじめましょう。循環器の医師が“カスプ”と呼ぶ構造物について理解しましょう。“冠動脈の起始部の原則”大動脈の根元(基部)は、若干膨らんでいて、ボク自身は3つのスズランの花のようなイメージを持っています。このスズランはカップ(cup)にも例えられ、間に“s”を足して「冠尖」([coronary]cusp)と呼ばれます。そして、3つのスズラン・カスプの部分を「バルサルバ洞」(Sinus of Valsalva)といい、冠動脈の出どころはここになります。具体的なCT画像を供覧しましょう(図1)。(図1)左右冠尖と冠動脈の起始部[冠動脈CT画像より]画像を拡大する(図1)Aの最も前方にある「右冠尖」(RCC)からは右冠動脈(RCA)が、その左の「左冠尖」(LCC)から左冠動脈(LCA)が出るというのが一般的です。右左そのままでしょ。左の血管は2本に分かれる前の部分であり、「左(主)冠動脈」ないし「左冠動脈主幹部」と呼ばれています1)。(図1)Bの3つの冠尖のうち、唯一、血管が出て行かないのが“ノンコロ”とか言われる「無冠尖」(noncoronary cusp)です。ここが最も後方に位置するわけです。図でも何も出ていませんよね?1):わが国では「LMT:left main trunk」という表現のほうが市民権を得ているように思いますが、海外ではLMCA(left main coronary artery)という言い方をよく見かける気がしてます。【問題2】冠動脈は何本あるか?解答はこちら2本(ないし3本)解説はこちら問題の答えに関しては2本ですかね。あるいは、3本だと答える人もいるかもしれませんが、どちらも正解だと思います。ボクは患者さんに「心臓には血管が3本あってね…」と説明することにしてますが、左も元々は1本ずつですから、ここは「2本」と思ってください。“冠動脈の基本的な本数”右冠動脈は「Cの字」の本幹部分を1本と捉えてください。実際は、最後にそこからヒゲのようなチョロが出ます。フランス語とかにありますよね、「Ç」っていう字。あんなイメージ(笑)。“セディーユ”とかっていうんですよね、たしか。左(主)冠動脈は左冠尖から出て、はじめは1本ですが、ほどなく左前下行枝と左回旋枝の2本に分かれて「逆Yの字」を形成するケースが普通です2)。正味は2本で構成されると考えられ、もちろんそれぞれ枝も出します。たとえば、冠尖からだいぶ上の(上行)大動脈から出たり、右冠動脈のくせに左冠尖から出たり…その逆なんていう起始異常はここでは放っておきましょう。まずはスタンダードを知ることが大事ですから。2):時に最初から2本別個に出て、主幹部がない人もいます。“ダブルバレル”(double barrel)とか、俗称ですが“豚鼻”なんて呼ぶ人もいるなぁ…たしかにそう見えます(笑)【問題3】「右冠動脈」「左冠動脈」以外の“第3の”冠動脈はあるか?解答はこちらときどき「ある」解説はこちら「あれ? コロナリーは、右と左に少なくとも最初は1本ずつ言ったじゃんか」そう思うのは最もで、実際、多くはその血管だけだと思います。でも、皆さん“第3の”冠動脈があるって人、時々いるの知っていますか? この“3番目”の称号は、最も有名なものとしては、左冠動脈に当てられ“クマデ(熊手)”のように、Y字に2本に分岐する左冠動脈のちょうど間を抜くように走る血管を持つ人がいます(図2)。20%、実に5人に1人と、まぁ多いワケ。日本だと“ハイラテ”(high lateral branch)「HL」と呼ばれる血管を指すことが多いです。ほかに、「Ramus Intermedius」なんていう名称の血管も、これと同一だと思われます(しかしここまで来ると覚えづらいですね)。そのほか、右冠動脈にもあるそうです。つまり、仮に右冠尖を内側から覗いたら、穴が2つかそれ以上あいているというケースです。ややマニアックですが、最初に分岐する円錐枝(conus branch)が右冠動脈と独立して冠尖から出るケースが2~3割ほどあるそうです(図2)。ただ、個人的には小さい血管なので、これを“第3の”(または2本目の右冠動脈)というのは抵抗があります。(図2)“第3の”冠動脈?画像を拡大するさらに、右室枝が右冠尖から直接出ることがあります。しかも複数枝が出たりもしたら、もはや「3」では済みませんね。ただ、こんな特殊な例を覚えておく必要はないでしょう。【問題4】右冠動脈は、(A:三尖・僧帽)弁を“巻く”ように(B:   )溝[右房と右室の間]を下方[尾側]に向かって“Cの字”を描くように走行する。最下面に至り、心室中隔面にきた時点で2本に分かれる。基本的な灌流域は、刺激伝導系、(C:右室・左室)および左室 (D:   )壁と考えておくと良い。解答はこちらA:三尖、B:右房室間、C:右室、D:下解説はこちら冠動脈の走行を理解するには、血管用に作られた溝について理解することが大事です。直交する道路で地理的な場所をとらえる“京都”的な考えであり、個人的には好きな思考法です(笑)。“冠動脈を理解するための2平面と溝”血管の話をしてるのに、なぜ溝(salcus)の話を持ち出すのって?…そう思いますよね。まあまあ、聞いてください。心臓を栄養するのが冠動脈の役割ですが、外側というか表面を走りつつ随所で枝を出します。腎臓や肝臓との違いは何でしょう? 直接中に入り込むのではなく、表面を伝って各所に外側から血液を提供する点です。このユニークな構造って…たしか、心臓と脳だけなんですってね。まず、冠動脈がどういう風に走っているのかを理解するのには大事な“平面”があります。これをおさえましょう。一つは心室中隔で、右室と左室とを分けている壁(面)、そして、もう一つは房室弁が乗っている平面です。房室弁とは、心「房」と心「室」をつなぎ目の「弁」ということで、ご存じ、三尖弁と僧帽弁があります。まぁ、言ってみたら“中隔面”と“房室面”ですかね(図3)。(図3)直交2平面を意識した右冠動脈の走行画像を拡大する実は、これらの面の一番外側(表層)に溝(ミゾ)3)があり、ここを冠動脈が走ります。3):個人的には“排水溝”のようなイメージ“右冠動脈の起始部の原則”このミゾを理解した上で、右冠動脈から考えていきましょう。右冠動脈は、右側の房室面のミゾ、正式には「右房室間溝」を“反時計回り”に走行します。三尖弁の周りをグルーッと大外に回って時計の“6時方向”(心臓の真裏)まで来れば“Cの字”完成です。道すがら、何本かの枝を出しますが、基本的に覚えておくべき重要なものは「右室」への枝になります。人によっては複数本ありますが、最低1本は鋭縁枝「AM:Acute Marginal branch」として知られます。三尖弁を回ってCの字の最終点、位置的には心室中隔一番後ろまで来ると、そのままの勢いで左室の裏側に回り込む枝(房室結節[または後側壁]枝)と“中隔面”の後ろ側のミゾ、すなわち「後室間溝」を走る枝(後下行枝)「PD」の2本に分岐するパターンが標準的だと思います。いいですか? “Cの字から2分岐”―これが右冠動脈のパターンです。房室結節(または後側壁)枝や後下行枝の灌流域は、反対の「左房室間溝」を走ってくる左回旋枝との“力関係”で決まります。右冠動脈と左回旋枝は互いに拮抗するのだと考えましょう。後室間溝を走り、左室の「下壁」へ血流を提供するのが後下行枝ですが、この部分は8~9割は右冠動脈が担うことが知られています。この枝は、心室中隔に突き刺さる枝を出し、後方3分の1を潅流する、なんて習いましたよね?4)4):前側の大半(目安:3分の2)は左前下行枝が担当する一方、房室結節や左室「側壁」や「後壁」と呼ばれるゾーンに侵入してゆく房室結節(または後側壁)枝は左回旋枝と“半分こ”か、むしろそちらに主導権を渡すことが多いようです。残りの細かい枝振りは循環器専門医でなければ不要ですが、一応載せておきましょう。【右冠動脈】(RCA:right coronary artery)*円錐枝(conus):右室流出路洞結節枝(sinus node):洞結節右室枝(RV):右室鋭縁枝(acute marginal)5):右室(自由壁)後下行枝(posterior discending):心室中隔(後1/3)房室結節枝/後側壁枝(AV nodal/posterolateral):房室結節ほか(側壁、後壁)*:「branch」は省略。以下同様5):循環器医が“アキュート・マージン”と呼んだりする。横隔膜を“なめる”ように沿って走り、右室の一部(側壁)を栄養する円錐枝については、専門家以外は暗記(意識すら)する必要はないと思いますが、最初の枝で肺動脈へとつながる右室の“ヤカンの注ぎ口”にあたる部分(右室流出路)を担当します。ほかに心房や、もっと大切なものとして、洞結節や房室結節にも血流を供給しているんですね。後二者とも回旋枝を経由した流れもあると思いますが、この2点は右冠動脈の影響が強いことが多く、右冠動脈閉塞時に徐脈性不整脈が起きやすいのにも納得でしょうか。右室枝は文字通り、そして鋭縁枝も右室に血流を供給します。標準的な右冠動脈造影をお示しします(図4)。(図4)右冠動脈造影画像を拡大するあまり煩雑にならないよう、“覚えなくて良い”と言った枝は(あえて)ラベルしていません。大筋でとらえると、房室弁に対峙するAでは頭に三尖弁を思い浮かべてたしかにCの字に回って最後に2分岐していますし、Bが心室中隔に向かい合う面で櫛(クシ)状の後下行枝がキレイに見えますね。【問題5】左冠動脈前下行枝は、(A:  )溝(右室と左室の間)を心尖部に向かって下っていく。途中、前方の(B:   )を栄養する何本かの中隔枝、および左室(C:   )壁などを灌流する対角枝を各々何本か出す。非常に発達している場合、心尖部から後室間溝に回り込み、左室(D:   )壁まで支配するケースも見られる。解答はこちらA:前室間溝、B:心室中隔、C:前、D:下解説はこちら左冠動脈のうち、左前下行枝から扱いましょう。これは、“3人戦隊!コロナ・レンジャー”ではセンターの赤色のヒーローです(笑)。もっとも大事な冠動脈のとも言えるこの血管の走行は非常にシンプルで理解しやすいです。“左前下行枝は冠動脈のエース”では、次に左冠動脈脈のうち前下行枝について話します。先ほども言ったように、左の冠動脈も最初は一本で、ちょっとして2本に分かれると考えましょう。そのうちの一本、冠動脈のエースと言えば、そう、左前下行枝です。循環器医は“エルエーディ”(LAD)とか略称で呼んだりしてますが、その血管はどういう走行、枝ぶりをしているのでしょうか。左前下行枝は、冠動脈のエースにふさわしく、ここが根元でやられると心臓の約半分がダメージを受けると言われています。非常に大事な血管です。ここでも、(心室)“中隔面”と“房室面”を意識しましょう(図5)。(図5)直交2平面を意識した左前下行枝の走行画像を拡大する左前下行枝は心臓のど真ん中、右と左の心室を分ける前側のミゾ、正確には「前室間溝」をレールとして使います。つまり、心室中隔の一番上、ダムで言う“天端”(マニア以外知らないかも…)を心尖方向に向かって下り落ちます。途中で出す枝の系統は大きく分けたら2通りあり、一つは心室中隔にグサッと突き刺さる「中隔枝」で、ここが右冠動脈の後下行枝を迎え撃つ前側3分の2くらいに血流を供給することになります。右冠動脈の後下行枝のちょうど反対側を走るので、これもクシのように見えるのが特徴です。左前下行枝の本幹以外のもう一系統はと言えば、対角枝(Dx)です。複数あったら(おおむね)出た順にD1、D2、D3…と表記し、“ダイアゴナル・ブランチ”なんて言いますかね。この枝は、左室の前面、つまり「前壁」を中心に、全例ではないものの(左)側方である「側壁」ゾーンを担当することもあります。画的に見ても、理解できると思います。さらに、とてつもなく大きな左前下行枝の話もしておきましょう。レールの終端である心尖部から後室間溝まで回り込むという例があり、その場合は左室「下壁」までを栄養してしまう“欲張り”ぶりを発揮することがあります。これはおさえておきましょう。“wrapped(あるいはwraps around)-LAD”というようです。ラップで“包み込む”感じね(笑)。以上、“エース”左前下行枝の走行は比較的シンプルで、灌流域に関してもバリエーションが比較的小さいと思います。【左前下行枝】(LAD:left anterior discending artery)中隔枝(septal):心室中隔(前2/3)対角枝(diagonal):左室前壁ほか(側壁)本幹:心尖ほか(下壁)【問題6】左回旋枝は、(A:三尖・僧帽)弁を“巻く”ように(B:  )溝(左房と左室の間)を走行し、右冠動脈の走行と対称的なイメージで良い。左室(C:   )壁および(D:   )壁が主な灌流域である。解答はこちらA:僧帽、B:左房室間、C:側・後、D:側・後解説はこちら最後に残った左回旋枝の走行を考えましょう。これも前述のミゾを理解していれば,走る場所はだいたいわかりますね?それを言葉で表現しただけの問題です。“左回旋枝は残りモノ担当”では、もう一本の左回旋枝のほうはどうでしょうか? これは通称“エルシーエックス”(LCX)、ないし“シーエックス”(Cx)という風に呼ばれます。基本的な理解としては、また例の溝の絵で、左回旋枝は、右冠動脈と反対側の「左房室間溝」を通って僧帽弁の周りを走ります。つまり、力士の“まわし”で例えますと、“右まわし”がRCA、“左まわし”がLCX、そしてLADは真ん中の“ふんどし”ないし“さがり”のような部分が守備範囲となるわけです。ボクの言ってる意味、わかります?そして、基本的に左回旋枝は、左室「側壁」、そして「後壁」に血流を送ることになります。これも左側方から後方に向かうイメージをつけておけばいいでしょう。左前下行枝と右冠動脈が担当する場所“以外”という、すき間産業的な印象を抱いてしまうのは、ボクだけでしょうか。主な枝は“オーエム”(OM:Obtuse Marginal)と呼ばれる鈍縁枝、そして右冠動脈にも似たような名前がありましたが、後側壁枝を出すと考えましょう。前者は主に「側壁」、後者は文字通り「側壁」+「後壁」ゾーンを流れると考えて良いと思います。まとめて“marginal branches”と呼んでしまえば、左側後方に向かうイメージそのものです。左回旋枝に関しても、枝振りをまとめておきましょう。【左回旋枝】(LCX:left circumflex artery)鈍縁枝(obtuse marginal)後側壁枝:側壁(・後壁)後下行枝(PD):下壁(左優位の場合)左冠動脈造影も標準的な画像を二方向で示しておきます(図6)。(図6)左冠動脈造影画像を拡大する図6の中隔面と平行なAでは、ジェットコースター的なLADの走行や中隔枝の様子がわかりやすいです。一方の房室面に対峙するBの断面は、前側壁に流れる対角枝と僧帽弁を巻き、ほとんど同じゾーンに枝を出す回旋枝の様子もわかってもらえると思います。このように考えると、冠動脈造影も別に難しいことはないわけです。“さいごに”今回は冠動脈の基本中のキホンを一緒に学びましたね。この知識が何に生かせるのかを述べて今回のレクチャーを終わろうと思います。それは次のまとめの図と関連します。(図7)冠動脈と心電図誘導[まとめ]画像を拡大する心電図の世界では“誘導”は“目”と言い換えるのでしたよね。この表は、「ST上昇」や「異常Q波」がどの誘導にあったら、「~壁梗塞」でどこの血管がつまっているという対応を示しています。今日学んだ知識を習得していれば、V2~V4誘導あるいはV1誘導を含めた「前壁(中隔)梗塞」の場合、閉塞した血管は左前下行枝かなぁと思えるでしょう。一緒にII、III、aVFにも「ST上昇」があったら、ドデカいLADなんだろうなぁ…なんて予想ができるはず。ほかに、「下壁梗塞」は単独なら概ね右冠動脈ですし、そのほか「側壁」や「後壁」が組み合わさっても、左回旋枝とのどちらかだろうなぁと予想ができると思います(現実的には心電図だけでの両者の厳密な鑑別は難しい) 。実際には、複数の血管の“力関係”が拮抗するゾーンもあるため、画一的かつ確実な予想は容易ではありません。もちろん、これはあくまでも“目安”です。心筋梗塞の患者さんに対峙したとき、心電図を使って詰まっている血管を当てる“ゲーム”が本題ではなく、その何倍、いや何十倍、やるべき大事な事がありますので、現実ではDr.ヒロはあまり“予想屋”はしないと心に決めています。以上、基本といいながら、冠動脈に関してまあまあちゃんとした知識をつけるレクチャーになったのではないでしょうか。年末年始を利用して復習してみてくださいね。本年もご愛読ありがとうございました。2021年からはペースは不定期となりますが、有用な情報が提供できれば嬉しいです。Young PM. AJR Am J Roentgenol. 2011:197;816-826.Villa AD, et al. World J Radiol. 2016:8;537-555.【古都のこと~延暦寺:文殊楼】前回に引き続き、今回も比叡山延暦寺の話をしましょう。今回ご紹介するのは「文殊楼」(もんじゅろう)で、国の重要文化財です。延暦寺発祥の地である東塔(とうどう)にあり…というか、根本中堂を出てすぐの長くてキツイ石段を登ったところにあります。ここは868年(貞観8年)、慈覚大師円仁が「常坐三昧院」として創建したもので*1、比叡山の総門(いわゆる正門)です。1668年(寛文8年)に焼亡した直後に再建されたものが現在のもので、唐様がちりばめられる中に和様も忘れない折衷様式となっています。楼上には文殊菩薩がまつられ、今では合格祈願スポットとしても有名です。谷崎潤一郎の小説*2にも登場するというのは知らなかったなぁ。“忍者屋敷”を思わせる階段を登るには手の力が相当いります。内部はもとより、全体的な佇まいも素敵。ぜひ、皆さんにも訪れて欲しい個人的お気に入りスポットです。*1:唐留学時代に修行した五台山の文殊菩薩堂に倣ったとされる。*2:『二人の稚児』。幼い頃から比叡山に預けられた千手丸と瑠璃光丸の兄弟が登場する。世間が恋しくなり脱走した兄は、残った弟も誘い出そうとするが、弟は御仏の恵みを受けるべく山に留まると返答する。手紙を届けた使者が崇高な瑠璃光丸を待ち続けた場所が文殊楼であった。

4831.

TN乳がん1次治療でのipatasertib+ PTX、PIK3CA/AKT1/PTEN変異を持つ患者でPFS改善せず(IPATunity130)/SABCS2020

 PIK3CA/AKT1/PTEN遺伝子変異を持つ、手術不能な局所進行または転移を有するトリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者の1次治療において、経口AKT阻害薬ipatasertibとパクリタキセル(PTX)の併用は、PTXのみと比較してPFSの改善がみられなかった。シンガポール・国立がんセンターのRebecca Dent氏が、第III相IPATunity130試験コホートAの結果をサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2020)で発表した。 同治療法については、第II相LOTUS試験において無増悪生存期間(PFS)の改善が報告され、なかでもPIK3CA/AKT1/PTEN遺伝子変異を有する患者でより顕著な効果が得られていた。・対象:PIK3CA/AKT1/PTEN遺伝子変異を持ち、測定可能病変のある、手術不能な局所進行または転移を有する、化学療法未治療([術前]術後化学療法終了から12ヵ月以上)のTNBC患者(ECOG PS:0/1、タキサン単剤療法への適格性あり)・試験群:PTX 80mg/m2(Day1、8、15)+ipatasertib 400mg(Day1~21)を1サイクル28日として投与(ipatasertib群)168例・対照群:PTX 80mg/m2(Day1、8、15)+プラセボ(Day1~21)(プラセボ群)87例・評価項目:[主要評価項目]治験責任医師評価によるPFS[主要副次評価項目]全生存期間(OS)[副次評価項目]奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、クリニカルベネフィット率(CBR)、安全性など・層別化因子:[術前]術後化学療法の有無、地域(アジア vs.欧州 vs.北米 vs.その他)、腫瘍の変異状態(PIK3CA/KT1 活性型変異 vs. PIK3CA/AKT1 活性型変異のないPTEN異常) 主な結果は以下のとおり。・2018年2月~2020年4月に計255例が登録され、ipatasertib群とプラセボ群に2:1の割合で無作為に割り付けられた。・ベースライン時の患者特性は、[術前]術後化学療法歴有がipatasertib群48% vs.プラセボ群55%、手術不能・局所進行がんが21% vs.13%。PD-L1陽性が29% vs.40%、PIK3CA /AKT1活性型変異を有する患者が両群とも51%で、両群間で有意な差がある項目はなかった。・追跡期間中央値8.3ヵ月において、主要評価項目のPFS中央値は、ipatasertib群7.4ヵ月(95%信頼区間[CI]:5.6~8.5) vs.プラセボ群6.1ヵ月(95%CI:5.5~9.0)であった(層別ハザード比[HR]:1.02、95%CI:0.71~1.45、log-rank検定のp=0.9237)。・ORRはipatasertib群39% vs.プラセボ群35%、CBRは47% vs.プラセボ群45%。・ipatasertib/プラセボによる治療期間中央値は5.9ヵ月 vs. 5.6ヵ月と差はみられず、PTX治療期間も両群で差はなかった。・安全性については、以前の報告と一致していた。 同試験ではOSのフォローアップが進行中のほか、ipatasertibによるベネフィットを受けうるバイオマーカーの探索が行われている。

4832.

治療抵抗性うつ病患者の平均余命調査

 うつ病は、死亡率の増加と関連しているが、治療抵抗性うつ病(TRD)の場合、平均余命にどの程度の影響があるかは不明である。デンマーク・オーフス大学のKathrine Bang Madsen氏らは、TRD患者の原因別超過死亡率および損失生存年数(Life Years Lost:LYL)の推定を行った。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2020年11月10日号の報告。 デンマーク国立処方箋レジストリより抽出した、2005~12年に初めて抗うつ薬を処方されたデンマーク生まれの18~69歳を対象とした。TRDの定義は、2年以内の2種類以上の異なる抗うつ薬の使用とした。死亡率の比(Mortality rate ratio:MRR)の推定には、初回処方時の年齢、暦年、併存疾患で調整した後、Cox回帰を用いた。平均余命の違いは、LYL法により推定した。 主な結果は以下のとおり。・初めて抗うつ薬治療を受けたうつ病患者15万4,513例のうち、8,294例(5.4%)がTRDであった。・103万2,245人年のフォローアップ期間中に、9,795例が死亡した。・TRDの男性(aMRR:1.34、95%CI:1.18~1.52)および女性(aMRR:1.39、95%CI:1.19~1.63)は、非TRD患者と比較し、死亡率が有意に高かった。・TRDの男性(1.21年、95%CI:0.36~2.44)および女性(1.24年、95%CI:0.35~2.34)は、すべてのうつ病患者よりも、平均余命が短かった。・過剰なLYLの大部分を自殺が占めており、TRDの男性では1.10年(95%CI:0.46~1.61)、女性では0.82年(95%CI:0.44~1.27)であった。・本研究の限界として、処方箋ベースでTRDを定義しているため、誤分類リスクが高まる可能性がある。 著者らは「いくつかの治療に対し適切な反応がみられないTRD患者では、早期死亡(とくに自殺)リスクが高まることが示唆された」としている。

4833.

治療抵抗性うつ病に対するケタミン静注の有効性~メタ解析

 治療抵抗性うつ病(TRD)患者の治療において、ケタミンによる治療が期待されているが、いくつかの問題点は、いまだ不明である。カナダ・コンコルディア大学のWalter S. Marcantoni氏らは、TRD患者に対するケタミン静脈内投与が、うつ病スコア、臨床的寛解および奏効率に及ぼす影響を評価し、時間および頻度の両方における有効性について検討を行った。Journal of Affective Disorders誌2020年12月1日号の報告。 2019年1月4日までに、TRD患者に対する麻酔域下用量で用いたケタミン治療を評価した研究を5つの電子データベースより検索した。研究の選定、品質評価、データ抽出は、2人のレビュアーが独立して実施した。結果は、narrative synthesisで統合した。投与4時間後、24時間後、7日後のアウトカム測定値の標準化平均差およびオッズ比の調査が可能な場合には、変量効果モデルを用いてメタ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・35件の論文より28件の研究が抽出された。・ケタミンの強い効果は、単回投与4時間以内に認められ、24時間でピークに達した。・ケタミンの有効性は、投与7日後でも持続していたが、いくらかの低下は認められた。・複数回投与により、ケタミンの効果は増強、延長された。・TRD患者に対するケタミンの長期的な安全性および有効性は、データが不十分なため、調査されなかった。 著者らは「抑うつ症状の迅速なマネジメントに対し、ケタミン投与は支持された。TRD患者の短期治療においてケタミンは、有用であると考えられる。今後、ケタミン長期投与の有効性、耐性、安全性に関するより多くの臨床的および実験的データが求められる」としている。

4834.

HIV維持療法、長時間作用型注射剤2剤併用2ヵ月ごと投与は?/Lancet

 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染患者において、長時間作用型注射剤cabotegravirと長時間作用型注射剤リルピビリンの2剤併用の8週ごと投与は、4週ごと投与と比較し有効性および安全性プロファイルは類似していることが、米国・アラバマ大学バーミングハム校のEdgar T. Overton氏らの「ATLAS-2M試験」で明らかとなった。cabotegravir+リルピビリン2剤併用投与については、第II相試験で8週ごと投与と4週ごと投与の有用性が示唆され、第III相試験で4週ごと投与の経口抗レトロウイルス療法に対する非劣性が検証されたことから、8週ごと投与のさらなる評価が求められていた。結果を踏まえて著者は、「HIV-1感染患者の治療選択肢として、より簡便なcabotegravir+リルピビリンの2ヵ月ごと投与の使用は支持される」とまとめている。Lancet誌オンライン版2020年12月9日号掲載の報告。cabotegravir+リルピビリン8週ごと投与の有効性と安全性を、4週ごと投与と比較 ATLAS-2M試験は、HIV-1感染患者の維持療法としてcabotegravir+リルピビリン8週ごと投与(cabotegravir 600mg+リルピビリン900mg)の4週ごと投与(cabotegravir 400mg+リルピビリン600mg)に対する非劣性を検証する第IIIb相無作為化非盲検非劣性試験。現在、13ヵ国(オーストラリア、アルゼンチン、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、メキシコ、ロシア、南アフリカ、韓国、スペイン、スウェーデン、米国)で行われている。 対象は、初回または2回目の標準的な経口レジメンを、連続して最低6ヵ月以上受けており、ウイルス学的失敗のない18歳以上のHIV-1感染患者で、ATLAS試験からの参加者はATLAS-2M試験のスクリーニング時に血漿中HIV-1 RNAが50コピー/mL未満で52週間の比較試験期を完遂した患者とした。対象患者を、cabotegravir+リルピビリンの8週ごと投与群または4週ごと投与群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、48週時点のHIV-1 RNA≧50コピー/mLの患者の割合(非劣性マージンは4%)であった。48週時のHIV-1 RNA≧50コピー/mLの患者の割合は非劣性 2017年10月27日~2018年5月31日に1,149例がスクリーニングを受け、このうち1,045例が8週ごと投与群(522例)と4週ごと投与群(523例)に無作為化され治療を受けた。患者背景は、37%(391例)がATLAS試験のcabotegravir+リルピビリン4週ごと投与群から移行した患者であり、年齢中央値は42歳(四分位範囲:34~50)、女性(出生時の性別)は27%(280例)、白人は73%(763例)であった。 48週時点のHIV-1 RNA≧50コピー/mLの患者の割合は、8週ごと投与群2%、4週ごと投与群1%、補正群間差0.8(95%信頼区間[CI]:-0.6~2.2)で、8週ごと投与は4週ごと投与に対して非劣性であることが検証された。ウイルス学的失敗(2回の測定で連続してHIV-1 RNA≧200コピー/mL)は、8週ごと投与群8例(2%)、4週ごと投与群2例(<1%)で確認された。8週ごと投与群では8例中5例(63%)、ベースラインでリルピビリンに対する耐性変異ウイルスが検出された。 安全性プロファイルは両群で類似しており、1,045例中844例(81%)に有害事象(注射部位反応を除く)が発現した。治療に関連した死亡は確認されなかった。

4835.

ニボルマブ、胃がん1次治療に国内申請/小野薬品

 小野薬品工業株は、2020年12月10日、ニボルマブ(商品名:オプジーボ)について、治癒切除不能な進行・再発の胃がんに対する効能又は効果の追加に係る製造販売承認事項一部変更承認申請を新たに行ったと発表した。 今回のニボルマブ胃がん1次治療の承認申請は、以下の2つの臨床試験のデータに基づき行われた。・CheckMate-649試験(ONO-4538-44):日本、韓国および台湾を含む世界規模で小野薬品およびブリストル マイヤーズ スクイブが実施した多施設国際共同無作為化非盲検第III相臨床試験・ATTRACTION-4試験(ONO-4538-37):日本、韓国および台湾で実施した多施設共同無作為II/III相臨床試験

4836.

あなたには帰る家がある(前編)【なんで倦怠期になるの?】Part 2

なんで倦怠期になるの?倦怠期によるリスクは、不倫、母子密着、嫁姑問題であることが分かりました。それでは、なぜ倦怠期になるのでしょうか? ここから、その原因を大きく3つ挙げてみましょう。(1)不安的なコミュニケーションスタイル-愛着スタイル1つ目は、不安的なコミュニケーションスタイルです。コミュニケーションスタイルとは、発達心理学的に言うと、愛着スタイル(ストレンジ・シチュエーション法による)です。ここから、登場人物を3つの愛着スタイルに分類してみましょう。なお、ストレンジ・シチュエーション法とは、乳幼児を親との分離・再会や知らない人(ストレンジャー)との面会という新規な状況(ストレンジ・シチュエーション)にあえてさらして見られる反応を3つのタイプに分類する実験手法です。a. ガミガミ型-不安型真弓は、夫婦関係のストレスに対して過敏に反応し、秀明にたびたび激怒しています。太郎は、先回りして自分の言いなりになることを綾子にしつこく確認しています。このように、夫婦関係で強い側の真弓や太郎はガミガミ言っています。1つ目は、ガミガミ型です。愛着スタイルで言うと、不安型です。これは、乳幼児が、親との分離のあとに泣き出しますが、親と再会しても怒りから泣き止まない反応をすることです。この原因は、親の愛情が気まぐれで一貫していないことが示唆されています。真弓の父親が不倫をしていたことから、母親はその苦労で情緒不安定だったことが描かれています。ちなみに、臨床的には、反応性愛着障害脱抑制型(脱抑制型対人交流障害)につながります。この詳細については、関連記事1をご参照ください。b. ヘコヘコ型-回避型秀明は、激怒する真弓に、顔色を伺ったり、話を逸らしたり、急に作り笑いをして立ち去るなど、向き合おうとしません。綾子は、太郎のモラハラに、笑顔ですべて受け流しています。このように、夫婦関係で弱い側の秀明や真弓はヘコヘコしています。2つ目は、ヘコヘコ型です。愛着スタイルで言うと、回避型です。これは、乳幼児が、親との分離のあとに泣き出さず、親との再会でよそよそしい反応をすることです。この原因は、親の愛情が一貫して乏しいことが示唆されています。綾子の実家は、もともと綾子に対して冷たかったことが描かれています。なお、後半の綾子は、秀明に執拗に迫っていく点で一見不安型にも見えますが、秀明と同棲を始めると、それ以上の距離を縮めようとしなくなる点で、やはり回避型と言えます。ただし、回避型も、根っこの心理は不安です。不安を不安としてそのまま過剰表出するのが不安型であり、不安を抑制しているのが回避型とも言えます。ちなみに、臨床的には、反応性愛着障害抑制型につながります。この詳細については、関連記事2をご参照ください。c. どっしり型-安定型カレー屋の店主の圭介は、真弓の話も秀明の話も親身に聞き、暖かみがあります。離婚歴があるというのは意外ですが、不安型の真弓に思いを寄せていたことが判明した点で、世話焼きの性分(共依存)から前妻が依存的になりすぎて結婚生活がうまくいかなった可能性を想定できます。圭介は、相手をそのまま受け止め、体格と同じく、内面的にもどっしりしています。3つ目は、どっしり型です。愛着スタイルで言うと、安定型です。これは、乳幼児が、親との分離の後に泣き出しますが、親との再会で速やかに泣き止む反応をすることです。この原因は、親の愛情が一貫して注がれていることが示唆されています。以上から、どっしり型が安定したコミュニケーションスタイルであるのに対して、ガミガミ型とヘコヘコ型は不安定なコミュニケーションスタイルであることが分かります。これらの3つのコミュニケーションスタイルの組み合わせによる倦怠期のリスクを表1にまとめてみましょう。たとえば、夫婦の一方がどっしり型の場合は、たとえもう一方がヘコヘコ型やガミガミ型であったとしても、その包容力によって夫婦関係としては概ね安定することが分かります。ヘコヘコ型×ヘコヘコ型の組み合わせの夫婦関係は、夫婦げんかがあまり起きないので、表面的にはうまく行っているように見えます。ただし、お互いに距離が縮まらずに絆自体は深まっていないです。いわゆる仮面夫婦です。ちょうど、同棲していた時の秀明と綾子がそうでした。よって、子どもの不登校やリストラなどの夫婦関係以外のストレスによってリスクが顕在化します。ガミガミ型×ガミガミ型の夫婦関係は、お互いに攻撃し合って疲弊するので、早い段階でリスクが高まるでしょう。(2)男女の脳機能の違い-システム化と共感性2つ目は、男女の脳機能の違いです。太郎は、理屈っぽいです。秀明は、真弓とは話し合いができないから最初から話をしないと割り切る理屈があります。このように、男性は、原因と結果の因果関係である論理(システム)や結果そのものに重きを置く心理があります(システム化)。この心理の詳細については、関連記事3をご参照ください。一方、真弓は、感情に任せて言いたいことを言います。綾子は、感情に従って、しつこく秀明に迫ります。このように、女性は、感情や関係性(プロセス)に重きを置く心理があります(共感性)。この心理の詳細については、関連記事4をご参照ください。このような男女の脳の働きの違いから、男女はなかなか分かり合えないという現実があります。とくに、共感性のとても高い妻が、共感性のとても低い夫に対して、気持ちが通じないためにストレス状態になるのは、ギリシア神話の登場人物にちなんでカサンドラ症候群と呼ばれています。一方で、システム化がとても高い夫が、システム化のとても低い妻に対して、理屈が通じないためにストレス状態になることも同じようにあります。ただし、この状態にはまだとくに名前が付けられていません。よって、この記事では、「逆カサンドラ症候群」と名付けます。ちなみに、名付けがまだされていない理由としては、おそらく、このストレス状態にある多くの夫が、秀明のように理屈が通じないことを理屈で理解してあきらめているため、その不満を妻ほど表立って表出しないからでしょう。この点から、男性に多い不安定な愛着スタイルは回避型であるのに対して、女性に多い不安定な愛着スタイルは不安型であるとも言えるでしょう。(3)男女の社会的な役割の違い-ジェンダーギャップ3つ目は、男女の社会的な役割の違いです(ジェンダーギャップ)。これは、秀明や太郎が外で働き、真弓や綾子が家で家事や育児をしていることです(性別役割分業)。これには、さらに3つのポイントがあります。1つ目は、お互いに関心がなくなることです。たとえば、分業によって、必然的に夫婦が一緒に生活する時間が少なくなります。そして、お互いにやっていることの大変さが見えなくなり、ますます分かり合えなくなります。心理学的には、同じ格好をする、同じ行動をする、同じ考えをすると相手への親近感が高まることが分かっています(同調性)。逆に言えば、別々のことをしていれば、それだけ心が通じ合えなくなるというわけです。もはや夫はATM、妻は家事代行サービス兼ベビーシッターにそれぞれなり下がってしまいます。2つ目は、助け合いを避けるようになることです。たとえば、最初は分業がうまくいっていても、子どもができる(または増える)、夫がリストラされる、親の介護が必要になる、夫婦のどちらかが病気になるなど、結婚生活で状況が変わることはいくらでもありえます。この時、分業にとらわれていると「家事育児をちゃんとしない妻が悪い」「稼ぎがない夫が悪い」「先にルールを破ったあなたが悪い」という心理が働くからです。分業は、結婚生活を維持するための手段であるはずが、目的そのものになってしまい、逆に結婚生活を維持できなくなる危うさがあります。また、分業が長い期間続くことで、ますます夫は家事育児に抵抗を感じるようにもなるからです。これは、専業主婦を長らくやっている妻が再就職に抵抗を感じるのと同じです。3つ目は、上下関係ができやすくなることです。たとえば、「誰のおかげだ?」と言う太郎のセリフのように、稼いでいる側(夫)が稼いでいない側(妻)よりも、偉そうに振る舞い、夫婦の決定権を握ることです。そのわけは、稼いでいない側が経済的に自立していないことで離婚した場合に経済的に困難になるリスクを稼いでいる側が見透かし、その足元を見るようになるからです(モラルハザード)。こうして、「頼れる夫」「尽くす妻」というステレオタイプ、いゆわる「男尊女卑」が揺るぎないものになっていきます。もちろん、この逆パターンもあります。ワーキングママが専業主夫に対して「私が働いてんのよ」といびることです。かかあ天下型は、「頼れる夫」というあるべき形(ステレオタイプ)ではないことへの夫の葛藤があります。一方、亭主関白型は、「尽くす妻」というあるべき形(ステレオタイプ)が行きすぎていることへの妻の葛藤があります。さらには、この「頼れる夫」は、モラルハラスメントのリスクを高めます。これは、妻が言いなりになるため、夫がやりたい放題になることです。たとえば、家計が夫の管理下に置かれ、妻が自由に使えるお金の余裕がないことです。また、妻が家事育児の負担を一方的に強いられ、時間や労力の余裕がなくなることです。このリスクは、とくに、子どもが1人目、2人目、3人目と増えるごとに高まります。つまり、「頼れる夫」によって「尽くす妻」を強いられることです。これは、もはや奴隷と言えるでしょう。なお、モラルハラスメントの心理の詳細については、関連記事5をご参照ください。また、「尽くす妻」は、共依存のリスクを高めます。この心理の詳細については、関連記事6をご参照ください。とくに日本は、ジェンダーギャップ指数において世界121位(2019年)です。世界的にも、夫婦が、お互いに関心がなくなり、分業というルールにとらわれ、上下関係ができやすい文化であることがよく分かります。ひと言で言えば、夫婦の分業は夫婦の分断を招くと言えるでしょう。 ■関連記事1.グッドウィルハンティング【反応性愛着障害】2.八日目の蝉【なぜ人を好きになれないの?毒親だったから!?どうすれば良いの?(好きの心理)】3.「カイジ」と「アカギ」(前編)【ギャンブル依存症とギャンブル脳】4.マザーゲーム(前編)【ママ友付き合い、なんで息苦しいの?(「女心」の二面性)】Part 15.美女と野獣【実はモラハラしていた!? なぜされるの?どうすれば?(従う心理)】6.だめんず・うぉ~か~【共依存】1)夫婦という病:岡田尊司、河出書房文庫、20162)共感する女脳、システム化する男脳:サイモン・バロン=コーエン:、NHK出版、2005<< 前のページへ

4837.

冬の健康管理は3つのキープ(3K)に注目

 2020年11月18日(水)に大塚製薬株式会社より発行された、冬の健康管理についての最新情報に関するニュースレターで、「距離」「衛生」「体内の水分」の3つのキープ(3K)が冬の健康管理の新習慣として重要であること、体内の水分はイオン飲料での補給が効果的であることなどが紹介された。 その中で、東京女子医科大学 呼吸器内科学教授の多賀谷 悦子氏は「線毛輸送機能を維持し、ウイルス感染を防ぐには水分補給が重要となる。乾燥しやすい冬に効率のよい水分補給として、水分保持率の高いイオン飲料が有用である」と述べている。 ウイルスの脅威に立ち向かうため、空気の乾燥、暖房機器使用により湿度が低下した冬の水分摂取は重要である。やみくもな水分摂取ではなく、イオン飲料による効率的な水分摂取で、3つのキープ(3K)を意識した冬の健康管理が浸透することを期待したい。知らず知らずの乾燥 生活するうえで快適な湿度は40~60%といわれているが、冬の湿度は約50%、最小湿度で10~20%まで低下する。空気中の水蒸気量が少なく乾燥しやすいうえに、暖房機器の使用はさらなる乾燥を引き起こす。密閉性の高い近年の住環境も乾燥に拍車を掛けており、乾燥がウイルス活動の活性化の要因の1つとされている。冬のカラダは水分不足 私たちのカラダは1日に約2.5Lの水分を失う。皮膚や粘膜、呼気から失われる不感蒸泄は1日約900mLといわれており、気温が低く乾燥した冬の環境では消失量が増加する。夏と比較して汗をかきにくく、水分摂取の機会も減ることから、冬でも脱水を引き起こす可能性がある。ウイルスからカラダを守る「線毛運動」 線毛には、鼻やノドから入るウイルスの体内への侵入を防ぐ最前線の防御機能があり、気道に侵入したウイルスは粘液で捕らえられ線毛によって運搬・排除される。線毛は乾燥に弱く、湿度が低い環境下では運動能力が低下するため、湿度の維持とカラダの水分量を保つことが重要とされる。イオン飲料による水分補給の効果 低湿度環境下において、鼻腔粘液線毛輸送機能に対するイオン飲料の効果を「サッカリンテスト」にて検討1)したところ、「何も摂らない」「ミネラルウォーターを摂取」「イオン飲料を摂取」の3条件の中で、イオン飲料の摂取が線毛輸送機能の低下を有意に抑えた。また、イオン飲料と水を摂取し2時間後の体内保持率を比較した結果2)でもイオン飲料のほうが高く、イオン飲料は体内の水分量、線毛輸送機能を維持するために重要であると示唆されている。今冬は「3つのキープ(3K)」に注目 冬は気温が低く乾燥しやすい季節であり、ウイルス感染が心配されるため、「3つのキープ(3K)」を意識した健康管理が必要であるとして、下記の対策を大塚製薬は推奨している。・対策(1):KEEP DISTANCE(距離を保とう)・対策(2):KEEP CLEAN(衛生を保とう)・対策(3):KEEP WATER(水分を保とう)まとめ 2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響により、私たちの日常は大きく変化した。引き続きウイルスによる脅威に曝されている環境下にあるため、ソーシャルディスタンス、手洗い・うがいに加えて、イオン飲料による小まめな水分摂取を意識して、ウイルスに負けない健康管理に取り組む必要がある。

4838.

なぜ・どうやって患者に禁煙をすすめるか?/日本肺癌学会

 11月に行われた第61回日本肺癌学会学術集会では、「禁煙を通して肺がん撲滅をめざす」と題したシンポジウムが行われ、この中で岡山済生会総合病院 がん化学療法センター長の川井 治之氏が「呼吸器内科医はなぜ・どうやって患者に禁煙をすすめているのか」と題した講演を行った。 冒頭に川井氏は、患者に禁煙を薦める理由として 1)喫煙は多くの呼吸器疾患の原因や悪化因子となる 2)がん治療への悪影響がある 3)がん治療後の2次(原発)がんの発生要因となる という基本事項を確認した。 1)について、今年に入って注目されたトピックスとして、COVID-19と喫煙の関係を紹介し、最新の研究を踏まえると「喫煙者は非喫煙者と比較して約2倍、新型コロナ感染症で重症化しやすい」1)というデータを共有した。 2)について、手術においては術後合併症発生率・術後死亡率・再手術の発生率がいずれも上がること、抗がん剤治療においてはイリノテカン・エルロチニブの全身曝露量を低下させ効果を減弱させる、シスプラチンの作用によるアポトーシスを阻害して耐性をもたらす、放射線治療においては治療効果の低下、治療関連毒性の増加など、各治療において広範囲に及ぶ悪影響があることを紹介した。さらに、小細胞肺がんの放射線化学療法中に喫煙を継続した場合、5年生存率が5%低下する2)、喫煙が肺がんの脳転移リスクを上昇させる3)といった研究結果も紹介した。 3)の喫煙関連の2次がんのリスク増については、喫煙者は治療後の肺がん発症リスクが6~24倍になること4)、2次がん発症のリスクが76%増加すること5)を指摘した。さらに診断時、3年以内に禁煙していた場合、現在の喫煙者と比較して死亡リスクが11%減少するというデータ6)を紹介し、喫煙の有害性、禁煙の有効性を改めて訴えた。相手に合わせて言葉を変え、あらゆる機会に介入 続けて、実際に診療にあたってどのように患者に禁煙をすすめるのかという点について、自身の実践を踏まえて紹介した。 初診時は、カルテのバイタルサイン欄に喫煙歴のチェック欄を設け、診療時に医療者が喫煙について触れる機会をつくる試みを紹介。この際、過去に喫煙歴のある患者は「(現在は)喫煙していない」と回答しがちなので、過去の喫煙歴も必ず聞くとよい、とアドバイスした。  「検診の胸部異常陰影で受診したが、CTでは異常がなかった」というケースの診療時では、「肺がんでなくてよかったですね。でもこのままタバコを吸っていると6人に1人は肺がんになります。良い機会ですから禁煙しませんか?」と伝え、40歳以下の患者であれば「喫煙者は寿命が10歳短くなりますが、今禁煙すれば寿命に対する影響をほぼなしにできますよ」と相手に響く言葉を添えたうえで禁煙外来につなぐことを紹介した。 さらに、非専門医が禁煙をすすめる際の手引きとして日本肺癌学会が翻訳・公開するNCCNガイドラインを推奨、自身のブログ・SNSを使った禁煙についての情報発信も紹介し、一般向けにわかりやすく禁煙の大切さを伝える重要性を訴えた。■参考1)Patanavanich R , et al. Nicotine & tobacco research. 2020 ;24:22;1653-1656.2)Videtic GMM, et al. J Clin Oncol. 2003;21:1544-9.3)Wu SY, et al. Int J Clin Exp Med. 2020;03:2174)The Health Consequences of Smoking—50 Years of Progress: A Report of the Surgeon General5)Tabuchi T, et al. Ann Oncol. 2013;24:2699-27046)Tabuchi T, et al. Int J Cancer. 2017;140:1789-1795.

4839.

第37回 「論文は査読前ですので…」、時代遅れ過ぎる閣僚たちのコメント

「Go To トラベル」、全国一斉停止へこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。私は今週末も自粛して、スポーツ観戦で過ごしました。楽しみにしていたのは、ゴルフの全米女子オープン、ではなく、アメリカンフットボールの大学日本一を決める甲子園ボウルです。12月13日に行われた甲子園ボウルは、関西学院大対日本大の対戦でした。ユニフォームの色から「青対赤」と呼ばれる伝統の一戦です。日大は2017年の悪質タックル問題で、18年度は公式戦出場停止、19年度は下位リーグ降格と厳しい状況が続きましたが、立命館大OBの橋詰 功監督の下、再び力を取り戻し、今年度1部リーグに復帰、甲子園ボウル出場を決めたのです。試合相手が悪質タックルを行った関学大であり、“被害者”であったクオーターバックの奥野 耕世選手も出場するということで、“因縁対決”と話題になりました。結果はランとパスを自在に使い分け6つのタッチダウンを奪った関学大が、42対24で日大を下しました。関学大の圧勝でしたが、あの日大が甲子園ボウルに戻ってきたことに感慨深いものがありました。日大フェニックスは1989年〜1991年、故・篠竹 幹夫監督の下、甲子園ボウルどころか、社会人チームと対戦し、日本一を決めるライスボウルで3連覇しています。フェニックス(不死鳥)のように、再び強い日大となって、社会人を倒す日がやってくることを願っています。さて、新型コロナウイルスの感染拡大が止まりません。政府はやっと重い腰を上げて、「Go To トラベル」を12月28日から全国一斉に一時停止することを決めました。すでに停止している北海道・札幌市と大阪市については延長、27日までは東京と愛知・名古屋市が新たに停止対象とされました。国の「経済優先」という強い意向はわかるのですが、そこにこだわるあまり、これまでなぜ「Go To トラベル」を継続したのか、一時停止の対象が一部の大都市だけだったのか、政府が国民に対して理論だった説明をしてこなかったことを、とてももどかしく感じます。それにしても、今から12日後の28日からの一斉停止で大丈夫なのでしょうか。とても心配です。「Go Toトラベル」利用者のほうが関連症状多い12月7日、「GoToトラベル」を利用した人は新型コロナへの感染リスクが高いとする調査結果を東京大学や大阪国際がんセンターなどの共同研究チームが発表、新聞やテレビなどの各メディアが報道し、話題となりました。しかし、こうした研究成果に対し、政府は正対した意見を言いません。印象的だったのは、閣僚たちの「査読前の論文ですので…」というちょっと“時代遅れ”のコメントです。この研究は、東京大学大学院医学系研究科の宮脇 敦士・助教、大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部の田淵 貴大・副部長らによるもので、12月4日付でプレプリント・サーバー「medRxiv (メッドアーカイヴ)」に「査読前原稿」(This article is a preprint and has not been peer-reviewed)の記載とともに公開されました1)。その概要は以下のようなものです。同研究チームは、15〜79歳を対象とした大規模なインターネット調査を2020年8月末〜9月末に実施。2カ月以内の「Go Toトラベル」の利用経験と、過去1カ月以内の新型コロナを示唆する「発熱」「咽頭痛」「咳」「頭痛」「嗅覚/味覚異常」の経験の割合との関連性の調査を行いました。その結果、性別・年齢・社会経済状態・健康状態などの影響を統計的に取り除いた上での数字は、発熱:利用者4.8% vs.非利用者3.7%、咽頭痛:20.0% vs.11.3%、咳:19.2% vs.11.2%、頭痛:29.4% vs.25.5%、嗅覚/味覚異常:2.6% vs.11.7%だった、とのことです。つまり、「Go Toトラベル」を利用したことがある人は、利用経験のない人に比べて、より多くの人が関連症状を認めていたことがわかったのです。研究チームは、「Go Toトラベル」の利用者は非利用者よりも新型コロナに感染するリスクが高いことを示す結果であり、「Go Toトラベル」が新型コロナ感染拡大に寄与している可能性があることが示唆された、としています。高齢者や基礎疾患のある人を外すのは有効ではない?さらに、「Go Toトラベル」利用者の有症率については、65歳以上の高齢者よりも65歳未満の非高齢者が顕著であったことや、基礎疾患の有無によって「Go Toトラベル」利用者の有症率は変わらないことも示唆されたとしています。こうした結果から、高齢者や基礎疾患のある人を「Go Toトラベル」の対象外とするこれまでの方法は、新型コロナの感染拡大防止にあまり有効ではない可能性がある、としています。なお、同研究は発症ではなく症状を聞いただけであることや、「Go Toトラベル」利用と症状の発生率との間の時系列的関係が不明であることなどから、研究として限界があることを踏まえつつも、「感染者数の抑制のためには、対象者の設定や利用のルールなどについて検討することが期待される」としています。「査読も終わっておらず評価のしようがない」この調査結果に対する関係閣僚たちのコメントを各紙の報道から拾ってみました。「エビデンスといえるものなのかどうなのか、ちょっと査読も終わっていないという話ですし。評価のしようがない」(田村 憲久厚生労働相)。「著者以外の専門家から科学的検討、査読を受ける前段階のもの。慎重な評価が必要」(西村 康稔経済再生担当相)「正式に査読前という話もありましたし。現時点では全くコメントする段階でない」(赤羽 一嘉国土交通相)。「著者自らも、研究方法の限界として、『Go Toトラベル』の利用が、直接的に新型コロナ症状の増加につながったという因果関係は断定できないと書いている。引き続き、専門家の意見を伺いながら事業を適切に運用していく」(加藤 勝信官房長官)。査読前、という点に“こだわる風”を装う閣僚が何人もいた点がとても興味深いです。査読前論文とは、そんなに価値が低いものなのでしょうか?拡大する「プレプリント・サーバー」論文が正式に公開されるまでには、査読と修正等を含め、長い時間と手間暇がかかります。そのため、査読の過程を経ないで素早く論文を公開できる「プレプリント・サーバー」という仕組みが、広がりを見せています。「medRxiv」もその1つです。プレプリント・サーバーは、1990年代から数学・物理学分野やIT分野を中心に利用され始めました。近年は、研究成果の共有といった意味合いから、生命科学や医学分野でも、研究者に広く使われるようになってきています。とくに、新型コロナウイルス感染症については、研究成果を論文発表まで読めないのでは、感染症対策を世界レベルで進めていく意味でもマイナスです。今回のコロナ禍で、医学分野のプレプリント・サーバー利用や注目度が今まで以上に進んだ、との見方もあります。ちなみに生命科学、医学分野では紹介した「medRxiv」(2019年開始)と「BioRxiv(バイオアーカイヴ)」(2013年開始)が代表的です。時代遅れでダサい対応もちろん査読前ですから、過誤や捏造が含まれている可能性はそれなりに高いと言えます。とは言え、「査読された論文だから大丈夫」とも言えない現実があります。世界的な研究者数の増大と論文数の増加で査読者の絶対数が不足しており、査読完了までの時間が非常に長くなっています。また、査読者による研究成果盗用などの不正、さらには権威ある論文誌の高額な掲載料などもかねてから問題視されています。そういったさまざまな理由から、多くの分野でプレプリント・サーバーの存在感が増してきているわけです。「査読前だから」という理由だけで「参考にならない」という考え方は、もはや古過ぎると言えるでしょう。これからは、いち早く発表された研究成果が、正しそうかどうかを自分たちで判断し、必要ならば参考にするという姿勢が、研究者のみならず、政策を担当する人間にも必要でしょう。「やるべきことをスピード感を持って、ちゅうちょなく実行に移す」(内閣発足1ヵ月後の菅総理の言葉)はずの政権が、単純に「査読前だから」を理由にしていたのは、ちょっと時代遅れでダサいですね。もっとも、12月11日のニコニコ生放送の番組「菅 義偉総理が国民の質問に答える生放送」の番組冒頭の菅総理の「みなさん、こんにちは。ガースーです」の挨拶も、相当時代遅れでダサかったと思いますが…。参考1)Association between Participation in Government Subsidy Program for Domestic Travel and Symptoms Indicative of COVID-19 Infection. medRxiv. December 05, 2020.

4840.

治療抵抗性うつ病発症リスクに関連する臨床的特徴と併存疾患

 うつ病患者の治療抵抗性うつ病(TRD)リスクを評価するため、臨床的特徴、初期の処方パターン、初期および生涯の併存疾患との関連について、台湾・国立台湾大学のShiau-Shian Huang氏らが調査を行った。BMC Psychiatry誌2020年11月17日号の報告。 うつ病入院患者3万1,422例を対象に、診断開始から10年以上のフォローアップを行った。TRDの定義は、2回以上の抗うつ薬治療レジメン変更または異なる2種類以上の抗うつ薬治療後の入院とした。人口統計学的共変量で調整した後、身体的および精神医学的併存疾患、精神疾患、処方パターンとTRDリスクとの関連を評価するため、多重ロジスティック回帰モデルを用いた。重要なTRD関連の臨床変数について、生存分析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・女性うつ病患者(21.24%)は男性(14.02%)よりも、TRDの割合が高かった。・TRD患者は、非TRD患者と比較し、初期の不安症が認められる割合が高かった(81.48% vs.58.96%、p<0.0001)。・人口寄与割合(population attributable fraction)が最も高かったのは、生涯不安症であった(42.87%)。・複数の精神医学的併存疾患を有する患者の70%は、フォローアップ期間中にTRDへ進展した。・Cox回帰分析により、機能性胃腸症がTRDリスクを有意に増加させることを特定した(aHR:1.19)。・うつ病初期における抗うつ薬、ベンゾジアゼピン薬、Z薬の高用量使用は、TRDリスク増加と関連が認められた(p<0.0001)。 著者らは「TRDリスクと関連するうつ病患者の併存疾患や多剤併用パターンは、注意深くモニタリングする必要がある」としている。

検索結果 合計:11844件 表示位置:4821 - 4840