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『肺癌診療ガイドライン−悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む−2023年版』では、進行・再発非小細胞肺がん(NSCLC)の場合、8種類のドライバー遺伝子(EGFR、ALK、ROS1、BRAF、MET、KRAS、HER2)について、遺伝子検査を行うことが推奨されている。しかし、複数遺伝子に対するコンパニオン診断機能を有するマルチ遺伝子検査は、測定のための検体が多く必要であるため患者に負担がかかる、検査結果の返却に時間を要するといった課題が指摘されている。そのため、十分に普及していない可能性が考えられている。そこで、高濱 隆幸氏(近畿大学医学部)、阪本 智宏氏(鳥取大学医学部附属病院)、松原 太一氏(北九州市立医療センター)らを中心とした研究グループは、全国29施設のNSCLC患者1,479例を対象に、遺伝子検査の実施状況を調査するREVEAL(WJOG15421L)試験を実施した。その結果、86.1%の患者が遺伝子検査を受けていたが、マルチ遺伝子検査を受けた患者は47.7%にとどまっていたことが明らかになった。本研究結果は、阪本氏らによってJAMA Network Open誌12月15日号で報告された。 研究グループは、西日本がん研究機構(WJOG)登録の全国29施設で進行・再発NSCLCと診断された1,500例を登録し(登録期間:2020年7月1日〜2021年6月30日)、1,479例を後ろ向きに調査した。 主な結果は以下のとおり。・遺伝子検査が実施された患者の割合は86.1%(1,273例)であり、内訳は以下のとおりであった。 -単一遺伝子検査:57.3%(847例) -マルチ遺伝子検査:47.7%(705例) -単一およびマルチ遺伝子検査:18.9%(279例)・ドライバー遺伝子別の検査実施率は以下のとおりであった。 -EGFR:84.2%(1,245例) -ALK:78.8%(1,165例) -ROS1:72.8%(1,077例) -BRAF:54.3%(803例) -MET:54.4%(805例)・ドライバー遺伝子の検査陽性率は以下のとおりであった。 -EGFR:腺がん34.0%、扁平上皮がん3.7% -ALK:腺がん3.2%、扁平上皮がん1.6% -ROS1:腺がん2.1%、扁平上皮がん0.3% -BRAF:腺がん1.2%、扁平上皮がん0.8% -MET:腺がん1.6%、扁平上皮がん2.1%・追跡期間中央値10.3ヵ月時点において、ドライバー遺伝子検査結果および分子標的治療の有無別に全生存期間(OS)を検討した結果、OS中央値は以下のとおりであった。 -ドライバー遺伝子陽性+分子標的治療あり:24.3ヵ月 -ドライバー遺伝子陽性+分子標的治療なし:15.2ヵ月 -ドライバー遺伝子陰性または遺伝子検査なし:11.0ヵ月・多変量解析において、マルチ遺伝子検査が実施されないことの独立した予測因子として、PS 3または4(オッズ比:0.47、95%信頼区間:0.32~0.70、p<0.001)、合併症あり(同:0.54、0.44~0.67、p<0.001)、扁平上皮がん(同:0.70、0.56~0.87、p<0.001)の3つが同定された。 本研究結果について、研究グループは「本邦において、マルチ遺伝子検査が十分に実施されていない可能性が示された。希少なドライバー遺伝子変異の見逃しを避けるため、扁平上皮がんやPS不良の患者であっても、マルチ遺伝子検査の実施を検討すべきである」とまとめた。