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現在、コレステロールに問題のある人は、コレステロールへの治療薬開始後、定期的にコレステロール値を測定され、その値をもとに治療が調整されているでしょう。あるいは、糖尿病でも同様、血糖値を見ながら、良くなった、悪くなったと議論されています。血液マーカーが拓く新時代こんなことが、アルツハイマー病の世界でもできるようになるかもしれない。今回は、そんなニュースをお届けします。アルツハイマー病は、脳内にアミロイドβが蓄積して神経のシナプスを障害したり、タウ蛋白の過剰リン酸化によって神経に変化を引き起こしたりすることが、病気の成り立ちに大きく関わっていると考えられています。そうした背景から、現在アルツハイマー病の診断に当たっては、脳脊髄液の採取やPET検査によるアミロイドβの検出が主流になりつつあります。しかし、「アミロイドβがあっても認知症を発症しない」患者も一定数いることから、その立ち位置について議論があることもまた事実です。もしアミロイドβの存在証明が認知症を上手に予測できないのであれば、臨床的な意義は十分高いとはいえません。しかし、最近注目の“p-tau217“検査は、なんと発症の20年以上前から異常を検出できる優れた感度を持つというのです1)。さらに、驚くことにPET検査と同等かそれ以上の精度を示し2)、現状でも約200ドルで受けられるようになってきているということです。加えて、認知機能や認知症の重症度ともよく相関することが報告されています。つまり、ただの数値遊びではなく、臨床的な意義の高い値ではないかと期待されているのです。ペニーさんの劇的ビフォー&アフターCNNのニュースによれば3)、フロリダ州で行われた研究「BioRAND」に参加した61歳のペニーさんは、血圧管理、植物ベースの地中海式ダイエット、週数回の有酸素運動とレジスタンストレーニング、ヨガによるストレス緩和、睡眠管理、体重管理に加え、ビタミンやサプリメントの個別最適化を含む包括的な介入プログラムを実践しました。その結果、体重は約14kg減少し、筋肉量が増加。1年後の血液検査で、p-tau217が43%減少し、実際に言葉の取り出し能力や日々の体調も大きく向上しました。研究チームは「30代以降は定期的に検査を行い、異常があれば生活指導や薬物介入を行う──まさに脳のコレステロール検査のようなモデルだ」と提案しています。実用化への期待と慎重な視点ただし、現状では確固としてこのようなモデルを推奨できるものではなく、限界も数多く残されています。プラットフォーム間の検査精度のばらつき、80歳以上での有用性低下、病気が進んで自然経過でp-tau217が低下するケースも見られるなど、汎用する前に解決すべき課題も多く、「過度な期待は禁物」との慎重な見解も示されています。また、発症後に認知機能を著しく改善するような治療は知られていないことから、より早期に検出された患者さんの心理的サポートや倫理的側面など、検査ばかりが先走りしない仕組みづくりも重要です。とはいえ、血液検査でアルツハイマー病の発症予測や進行度合いを行うことができたり、一般の生活改善が血液マーカーに反映されることで、コレステロール値のような管理が可能になったりする未来を予見させる、アルツハイマー病予防の新たな可能性を提示するニュースであったともいえるでしょう。さらに、臨床的意義が確立されれば、新薬開発にも大きく貢献するものとなるはずです。今後、大規模な臨床研究・導入を経て、アルツハイマー病の世界を劇的に変えるような進歩につながることを期待したいですね。 1) Teunissen CE, et al. Alzheimers Dement. 2025;21:e14397. 2) Therriault J, et al. JAMA Neurol. 2023;80:188-199. 3) LaMotte S. ‘Amazing’ reduction in Alzheimer’s risk verified by blood markers, study says. CNN. 2025 April 7.