サイト内検索|page:19

検索結果 合計:2797件 表示位置:361 - 380

361.

第11回 コロナ感染で“脳の老化”が2年分進む?

「コロナ感染で2年分“脳の老化”が進む」――そんなことを示唆する研究報告がありました。今回はその研究の詳細をご紹介していきます。見えない敵が進行させる脳の老化今回取り上げる研究は、英国の大規模なデータ「UK Biobank」から、コロナに感染した626例と、年齢・性別・人種などを厳密にマッチングしたコロナに感染していない626例の計1,252例を対象にしています1)。その方たちからパンデミックの前後で採取した血液を比較しました。注目したのはアルツハイマー病に関連する「バイオマーカー」です。この研究で用いられた検査では、脳内に溜まるアミロイドβの前駆物質である「Aβ42」と「Aβ40」、そして「pTau-181」という値を測定しています。COVID-19感染がこれらの値にどう影響するかを調べたのです。簡単に補足をしておくと、Aβ42とAβ40は、どちらもタンパク質を切り出した産物なのですが、このAβ42とAβ40の比が小さいほど、すなわち後者の比率が多いほど、脳でタンパク質の異常な沈着が進んでいる(すなわち、アルツハイマー病で起こる変化が脳で起こっている)と解釈できることがわかっています。また、pTau-181は神経細胞内でタウ蛋白が過剰にリン酸化されたもので、こちらもアルツハイマー病の初期から上昇することが知られています。血液が教える認知機能への警告サイン本研究では、感染後にこのAβ42とAβ40の比率が平均で2.0%低下し、年齢による変化でいえば約4年分に相当することを明らかにしました。さらに、入院を要した重症例では非入院例の2倍以上(5.5%)の低下を示していました。加えて、pTau-181の増加も同様に見られており、とくに高齢者や高血圧がある方など、脳のダメージを受けるリスクの高い人ほど、感染後のpTau-181増加やAβ42とAβ40の比率の減少が顕著でした。こうした変化は、実際の認知機能にも現れています。UK Biobankの認知テストから算出された「全般的認知能力スコア」は、感染していない人と比べコロナ感染者で平均1.99%低下しており、これは年齢による低下に換算すると、約2年分に相当していました。また、自己申告による「全体的な健康状態」の評価も感染者で2.39%悪化していました。こうした研究結果は、コロナ感染とアルツハイマー病の因果関係を保証するものではありませんが、帯状疱疹ワクチンの認知症予防に関する最近の研究などとともに、「感染症が認知症を近づけ、ワクチンがそれを遠ざける」という仮説をさらに強固にするものだと思います。私たちにできること私たちが知っておくべき重要な点は、たとえ軽症や中等症のCOVID-19であっても、こうした「目に見えにくい脳の老化プロセス」が加速するリスクがある点、そしてそれが重症なほど、より認知症が近づくかもしれないという点です。それを防ぐのは、ワクチンの定期接種やマスク着用、こまめな手洗いといった感染症予防です。それが感染予防だけでなく、認知症予防にもつながる可能性があるのです。これを読んでいる多くの人にとって、認知症は「将来のことで現実味がない」かもしれません。しかし、「脳の健康」は日々のパフォーマンスの要でしょう。私たちにできることは、パンデミック後も持続可能なセルフケア・感染予防を1つでも多く取り入れ習慣にしていくことです。 1) Duff EP, et al. Plasma proteomic evidence for increased β-amyloid pathology after SARS-CoV-2 infection. Nat Med. 2025;31:797-806.

362.

β遮断薬やスタチンなど、頻用薬がパーキンソン病発症を抑制?

 痛みや高血圧、糖尿病、脂質異常症の治療薬として、アスピリン、イブプロフェン、スタチン系薬剤、β遮断薬などを使用している人では、パーキンソン病(PD)の発症が遅くなる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。特に、PDの症状が現れる以前からβ遮断薬を使用していた人では、使用していなかった人に比べてPDの発症年齢(age at onset;AAO)が平均で10年遅かったという。米シダーズ・サイナイ医療センターで神経学副部長兼運動障害部門長を務めるMichele Tagliati氏らによるこの研究結果は、「Journal of Neurology」に3月6日掲載された。 PDは進行性の運動障害であり、ドパミンという神経伝達物質を作る脳の神経細胞が減ることで発症する。主な症状は、静止時の手足の震え(静止時振戦)、筋強剛、バランス障害(姿勢反射障害)、動作緩慢などである。 この研究では、PD患者の初診時の医療記録を後ろ向きにレビューし、降圧薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、スタチン系薬剤、糖尿病治療薬、β2刺激薬による治療歴、喫煙歴、およびPDの家族歴とPDのAAOとの関連を検討した。対象は、2010年10月から2021年12月の間にシダーズ・サイナイ医療センターで初めて診察を受けた1,201人(初診時の平均年齢69.8歳、男性63.5%、PDの平均AAO 63.7歳)の患者とした。 アテノロールやビスプロロールなどのβ遮断薬使用者のうち、PDの発症前からβ遮断薬を使用していた人でのAAOは72.3歳であったのに対し、β遮断薬非使用者でのAAOは62.7歳であり、発症前からのβ遮断薬使用者ではAAOが平均9.6年有意に遅いことが明らかになった。同様に、その他の薬剤でもPDの発症前からの使用者ではAAOが、スタチン系薬剤で平均9.3年、NSAIDsで平均8.6年、カルシウムチャネル拮抗薬で平均8.4年、ACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)で平均6.9年、利尿薬で平均7.2年、β刺激薬で平均5.3年、糖尿病治療薬で平均5.2年遅かった。一方で、喫煙者やPDの家族歴を持つ人は、PDの症状が早く現れる傾向があることも示された。例えば、喫煙者は非喫煙者に比べてAAOが平均4.8年早かった。 Tagliati氏は、「われわれが検討した薬剤には、炎症抑制効果などの共通する特徴があり、それによりPDに対する効果も説明できる可能性がある」とシダーズ・サイナイのニュースリリースで話している。 さらにTagliati氏は、「さらなる研究で患者をより長期にわたり観察する必要はあるが、今回の研究結果は、対象とした薬剤が細胞のストレス反応や脳の炎症を抑制することで、PDの発症遅延に重要な役割を果たしている可能性が示唆された」と述べている。

363.

日常的なデジタル機器の使用は高齢者の脳の健康を守る?

 一般に、スマートフォンやタブレットなどのデジタル機器の使い過ぎは、脳に悪影響を及ぼすと考えられている。しかし実際には、その逆の可能性があるようだ。少なくともテクノロジー革命の始まりを経験した世代におけるデジタル機器の日常的な使用は、認知機能障害のリスクを58%低下させる可能性のあることが明らかになった。これは血圧低下や運動、脳トレのゲームによるリスクの低下度に匹敵するという。米テキサス大学オースティン校コンプリヘンシブ・メモリー・センターのJared Benge氏と米ベイラー大学心理学・神経科学分野のMichael Scullin氏によるこの研究結果は、「Nature Human Behaviour」に4月14日掲載された。 Benge氏らは今回、合計で約41万1,430人(試験開始時の平均年齢68.7歳、女性53.5%)が参加した57件の先行研究のデータを統合して解析した。同氏らは、「デジタルテクノロジーとの関わりを持った最初の世代である『デジタル先駆者』が、認知症のリスクが出てくる年齢に差し掛かっている」と指摘する。 例えば、1945年生まれの人は、請求書の支払いに小切手や現金を使い、調べ物には百科事典や図書館のカード目録を利用し、初めての場所を訪れる際には紙の地図に頼り、郵便局を通じた手書きの手紙のやり取りに数日を要していた。「こうした人たちが今や80代を迎えつつあり、クレジットカードによるネットショッピング、検索エンジンを使った情報入手、自動リマインダー付きのデジタルカレンダーによるスケジュール管理、車やスマートフォンに搭載されたGPSによるナビゲーション、メールやビデオ通話を通じた世界中の人との即座のコミュニケーションが当たり前の時代に生きている」と研究グループは述べている。 研究データを統合して解析した結果、日常的にデジタル機器を使用している人では認知機能低下のリスクが58%低く(オッズ比0.42、95%信頼区間0.35〜0.52)、認知機能低下のペースが26%緩やかなことが明らかになった(同0.74、0.66〜0.84)。研究グループによると、過去の研究では、認知症のリスクは、血圧を低下させることで13%、日常的な身体活動で35%、高い教育レベルで47〜62%、脳トレのゲームなど脳に刺激を与える余暇活動で31%低下する可能性のあることが示唆されているという。Benge氏らは、「一般的かつ自然な形でのデジタルテクノロジーの使用の結果として、『brain drain(デジタル機器を使い過ぎることで生じる脳の疲弊)』や『デジタル認知症』に至ることを示す、信頼できるエビデンスはなかった」と結論付けている。 研究グループは、デジタルテクノロジーが認知機能の低下をより緩徐にする理由として、次の3点を挙げている。1)デジタル機器が、思考力や問題解決スキルの強化を促している可能性、2)デジタルテクノロジーが、認知症予防に役立つとされる社会的なつながりを強化する、3)加齢に伴い脳が衰え始めても、デジタル機器が「デジタルの足場」となって日常生活を支え、より長く自立した生活を送るための助けとなる可能性。 ただし研究グループは、「高齢者の脳にとってテクノロジーが『常に良い』、あるいは『常に悪い』といった単純な答えは存在しない」と指摘。例えば、スクリーンタイムの増加とともに座位時間も増加すれば脳の健康に悪影響が及ぶ可能性や、ソーシャルメディアを通じて高齢者が誤った情報にさらされる可能性も考えられるとしている。 また、今回の解析結果は、あくまでも成人期にコンピューターやインターネット、スマートフォンといったデジタル機器に初めて触れた「デジタル先駆者」の中高年層を対象とした研究から得られたものである。そのため研究グループは、「子どもの頃からデジタルテクノロジーに触れてきた世代にもこの結果が当てはまるかどうか、また今後、一般的なデジタルテクノロジーのあり方が変化しても同じ結果が得られるかどうかについては不明」としている。

364.

次々と承認される抗アミロイド抗体、有効性に違いはあるか?

 近年、アルツハイマー病に対する抗アミロイド抗体の承認が加速している。しかし、抗アミロイド抗体の臨床的意義やリスク/ベネフィットプロファイルは、依然として明らかになっていない。他の治療法ではなく、抗アミロイド抗体を選択する根拠を確立するためにも、アルツハイマー病の異質性および抗アミロイド抗体の長期臨床データの不足は、課題である。スペイン・University of Castilla-La ManchaのDanko Jeremic氏らは、抗アミロイド抗体の有効性および安全性を評価し、比較するため、従来のペアワイズメタ解析ならびに第II相および第III相臨床試験の結果を用いたベイジアンネットワークメタ解析を実施した。また、本研究の目的を達成するため、研究者や臨床医が疾患進行や有害事象のベースラインリスクに関するさまざまな事前選択や仮定を組み込み、これらの治療法の相対的および絶対的なリスク/ベネフィットをリアルタイムに評価できる無料のWebアプリケーションAlzMeta.app 2.0を開発した。Journal of Medical Internet Research誌2025年4月7日号の報告。 PRISMA-NMAおよびGRADEガイドラインに従い、エビデンスの報告および確実性を評価した。2024年9月30日までに公表された臨床試験報告書は、PubMed、Google Scholar、臨床試験データベース(ClinicalTrials.govを含む)より検索した。孤発性アルツハイマー病患者数が20例未満、修正Jadadスコアが3未満の研究は分析から除外した。バイアスリスクの評価には、RoB-2ツールを用いた。相対リスク/ベネフィットは、リスク比および標準化平均差を算出し、すべてのアウトカムにおける信頼区間、信用区間、予測区間を算出した。有意な結果を得るため、介入効果は頻度主義およびベイズ主義の枠組みで順位付けし、その臨床的意義は、1,000人当たりの絶対リスク、広範な対照群に対する治療必要数(NNT)により評価した。 主な結果は以下のとおり。・2万1,236例を対象とした7つの治療法(バイアスリスクが低い、または多少の懸念のある研究26件)のうち、ドナネマブは、認知機能および機能的指標において最も高い評価を受けた。この評価は、aducanumabおよびレカネマブの約2倍の効果を示し、認知機能および機能の全般的な臨床的認知症尺度(CDR)ボックス合計スコアにおいて他の治療法よりも有意に有益であることが示唆された(NNT=10、95%信頼区間[CI]:8〜16)。・脳浮腫および微小出血については、ドナネマブ(NNT=8、95%CI:5~16)、aducanumab(NNT=10、95%CI: 6~17)、レカネマブ(NNT=14、95%CI:7~31)において臨床的に関連する脳浮腫リスクが認められ、ベネフィットを上回る可能性も示され、とくに注意が必要であることが明らかとなった。 著者らは「抗アミロイド抗体の中では、ドナネマブが最も有効であり、安全性プロファイルはaducanumabやレカネマブと同様であることが示された。しかし、より安全性の高い治療選択肢の必要性も浮き彫りとなった。これは、対象試験において頻繁な脳浮腫および微小出血による盲検化の解除ならびにCOVID-19パンデミックの影響により、潜在的なバイアスが生じている可能性がある」と結論付けている。

365.

レカネマブの有効性・安全性、アジア人の特徴は?~Clarity AD試験

 アルツハイマー病(AD)は高齢者における主要な健康問題の1つであり、アジア地域においては、急速な高齢化によりADの有病率が上昇すると予想されている。早期AD治療薬であるレカネマブ(商品名:レケンビ)は、複数の臨床試験において忍容性が良好であると示されているものの、アミロイド関連画像異常(ARIA)およびインフュージョンリアクション(IRR)の発現率が高いことが懸念されている1,2)。シンガポール国立大学のChristopher Chen氏らは、Clarity AD試験で無作為に割り付けられた1,795例のうち、アジア地域に居住する294例についてサブグループ解析を行った。The Journal of Prevention of Alzheimer's Disease誌2025年5月号掲載の報告。 Clarity AD試験は、早期AD患者を対象としてレカネマブの有効性や安全性を評価した試験である。多施設共同二重盲検プラセボ対照並行群間試験(コア試験)終了後、非盲検長期継続投与試験(OLE)も実施された。対象患者は、レカネマブ10mg/kg投与群と、プラセボ群に1:1で無作為に割り付けられ、隔週で18ヵ月間投与された。 主な結果は以下のとおり。・アジア地域集団における人口統計学的および疾患関連のベースライン特性は、平均体重が低いこと、ADによる軽度認知障害およびCDR-GS=0.5の割合がわずかに高いことを除き、全体集団と類似していた。・アジア地域集団におけるレカネマブの有効性は、主要評価項目、副次評価項目ともに全体集団と同様の傾向を示した。主要評価項目:CDR-SB(調整平均差:-0.349[95%信頼区間[CI]:-0.773~-0.076]、24%の進行抑制率)副次評価項目:アミロイドPET測定による脳内アミロイド蓄積(調整平均差:-72.2[95% CI:-84.1~-60.4])、ADAS-Cog14(調整平均差:-1.37[95%CI:-2.89~0.14])、ADCOMS(調整平均差:-0.05[95%CI:-0.10~-0.00])、ADCS-MCI-ADL(調整平均差:1.31[95%CI:-0.47~3.09])・有害事象の全体的な発現率は、プラセボ群とレカネマブ投与群で類似していた。有害事象のほとんどは軽度~中等度であり、主に、ARIA-H(脳出血)、ARIA-E(脳浮腫)、IRRであった。・アジア地域集団において、ARIA-E、IRR発現率はプラセボ群と比較しレカネマブ投与群で高く(ARIA-E:1.4%vs.6.2%、IRR:1.4%vs.12.3%)、全体集団と同様の傾向を示した。一方、ARIA-H発現率は、プラセボ群と比較しレカネマブ投与群で低かった(16.2%vs.14.4%)。・レカネマブ投与群において、ARIA-H、ARIA-E、IRR発現率は全体集団と比較しアジア地域集団で低かった(ARIA-H:17.3%vs.14.4%、ARIA-E:12.6%vs.6.2%、IRR:26.4%vs.12.3%)。 著者らは、「このアジア地域集団において、レカネマブの全体的な有効性、バイオマーカーの変化、安全性プロファイルは全体集団と一致しており、ベネフィット・リスクプロファイルは良好で、リスク管理も容易だった。アジア地域集団では、レカネマブ投与によるARIAおよびIRRの発現率は全体集団よりも低かったことが示された」と結論付けている。

366.

アルツハイマー病の父親を持つ人はタウの蓄積リスクが高い?

 アルツハイマー病(AD)の父親を持つ人は、自身にもADに関連する脳の変化が生じる可能性があるようだ。新たな研究で、ADの父親を持つ人ではADの母親を持つ人に比べて、脳内でのタウと呼ばれるタンパク質の拡散がより広範囲であることが確認された。脳内のタウのもつれは進行したADの特徴の一つである。マギル大学(カナダ)のSylvia Villeneuve氏らによるこの研究の詳細は、「Neurology」に4月9日掲載された。 研究グループによると、過去の研究では、女性の性別や母親のAD歴がADリスクの上昇と関連することが示唆されているが、性別やADを発症した親の性別とADのバイオマーカーとの関連は明らかになっていない。 Villeneuve氏らの研究は、ADの家族歴があるものの試験開始時に本人の認知機能には問題のなかった243人(平均年齢68.3歳、女性69.4%)を対象に行われた。ADの家族歴があるとは、両親または父親か母親のいずれか、あるいは2人以上のきょうだいにADがある場合と定義した。試験参加者は、研究開始時にPETやMRIによる脳画像検査と認知機能検査を受けた。その後、242人が平均で6.72年にわたる追跡調査を受けた。 追跡期間中に71人が軽度認知障害(MCI)を発症していた。ADの父親を持つ人は、ADの母親を持つ人に比べて脳内のタウの拡散がより広範であり、脳内アミロイドβ(Aβ)とタウの関連が強い傾向が認められた。Villeneuve氏は、「われわれはADの母親を持つ人の方がより大きな脳の変化が見られるとの仮説を立てていたため、ADの父親を持つ人の方が、脳内のタウの拡散に対してより脆弱であることが示されたのは意外だった」と話す。 一方で、本研究では、女性は男性に比べて脳内のタウ蓄積量が多く、またAβとタウとの関連がより強いことも示された。この研究の付随論評の著者の1人で、ルンド大学(スウェーデン)臨床記憶研究ユニットのLyduine Collij氏は、「このことは、女性であることが、後期のタウ蓄積により強く関連していることを示唆している。これは、ADを発症した女性では、認知機能障害が始まってから認知機能が低下するペースがより速いことを示した先行研究の結果とも一致している」と指摘している。 Villeneuve氏は、「このような脆弱性について解明を進めることは、AD予防に向けた個別化介入の考案にも役立つ可能性がある」と述べている。

367.

脳卒中、認知症、老年期うつ病は17個のリスク因子を共有

 脳卒中、認知症、老年期うつ病は17個のリスク因子を共有しており、これらの因子のうちの一つでも改善すれば、3種類の疾患全てのリスクが低下する可能性のあることが、新たな研究で示唆された。米マサチューセッツ総合病院(MGH)脳ケアラボのSanjula Singh氏らによるこの研究結果は、「Journal of Neurology, Neurosurgery and Psychiatry」に4月3日掲載された。 研究グループによると、脳卒中の少なくとも60%、認知症の40%、老年期うつ病の35%は修正可能なリスク因子に起因しており、これらの疾患が共通の病態生理学的背景を持つため、リスク因子にも多くの重複が見られるという。 Singh氏らは、論文データベースから、修正可能なリスク因子が脳卒中、認知症、老年期うつ病の発症に及ぼす影響について検討したメタアナリシスを182件抽出。その中から最も関連性の高い59件のメタアナリシスのデータを用いて、これら3疾患の複合アウトカムに対するさまざまなリスク因子の影響の大きさを、障害調整生存年数(DALY)で重み付けして算出した。 その結果、脳卒中、認知症、老年期うつ病のうち2つ以上に共通する修正可能なリスク因子として、飲酒、血圧、BMI、空腹時血糖、総コレステロール、余暇の認知的活動(パズルなど)、抑うつ症状、食事、難聴、腎機能、痛み、身体活動、人生における目的、睡眠、喫煙、社会との関わり、ストレスの17個が特定された。 これらのリスク因子の中で、特に、高血圧と重度の腎臓病は、脳卒中、認知症、老年期うつ病の発症と疾病負担に最も大きな影響を与えていることが示された。一方で、身体活動や余暇の認知的活動は、これらの疾患のリスク低下と関連していた。ただし、研究グループは、「脳の疾患が進行するほど、運動や知的活動はできなくなる傾向があるため、この関連は、原因というより症状の現れなのかもしれない」との見方を示している。 論文の筆頭著者であるMGH脳ケアラボのJasper Senff氏は、「認知症、脳卒中、老年期うつ病は互いに関連し合っているため、いずれかを発症すると、将来的に別の疾患を発症するリスクが大幅に高まる」と話す。同氏はさらに、「これらの疾患は、互いにリスク因子を共有しているため、予防のための努力により複数の疾患の発症リスクを低下させることができ、それが結果的に加齢に伴う脳疾患の負担軽減につながる可能性がある」と述べている。 研究グループはこれらの結果を使って、脳の健康を守るための取り組みを測定するために開発した「脳ケアスコア」の精度を高める予定だとしている。論文の共著者の1人である、MGH神経学科長のJonathan Rosand氏は、「医療は複雑化する一方だが、今回の研究結果は、疾患の予防が非常に簡単であることを思い起こさせてくれる。なぜなら、最も一般的な疾患の多くが同じリスク因子を共有しているからだ」とMGHのニュースリリースで述べている。

368.

第241回 ナーシングホームが支える終末期ケアの実態と危うさ-医師が知っておくべき地域医療の変質

地域医療構想を揺るがすナーシングホームの隆盛と不正請求問題ナーシングホームに関連した不正請求の問題が相次いで明るみに出ています。2023年9月、パーキンソン病患者などを対象にした「PDハウス」を運営するサンウェルズ社に関する不正請求の疑惑が報じられたのを皮切りに、2024年3月には同業大手のアンビスホールディングスが、複数拠点において診療報酬の過剰・不正請求を行っていたとする報道が共同通信などよりなされました。これを受けて同社は外部弁護士を含む特別調査委員会を設置し、社内調査を進めています。ナーシングホームは、医療ニーズの高い高齢者や神経難病患者を受け入れる体制を整えた施設で、訪問看護ステーションを併設し、医療機関との連携が密なことから、急性期病院からの退院先として急速に普及しました。とくに独居高齢者や高齢世帯にとっては、低価格かつ、看取りまで可能な医療体制が整っているという点で歓迎されてきました。ナーシングホームの制度的盲点ナーシングホームの制度設計には大きな盲点があります。多くのナーシングホームは「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」という住まいの枠組みで整備されており、厚生労働省所管の医療施設とは異なり、夜間の看護体制などの人員配置基準が実質的に存在しません。さらに、訪問看護を医療保険で請求できる仕組みを悪用することで、高い利益率を叩き出している実態もあります。実際、サンウェルズ社の営業利益率は11.1%、アンビス社にいたっては24.9%と異常に高い利益率です。不正内容としては、難病指定の患者に対して訪問看護師が1日3回以上訪問することで7,200円の加算を受ける仕組みを利用し、実際には数分の滞在にも関わらず30分相当の看護行為をしたと偽り請求するケースが疑われています。こうした行為は制度上の「隙間」をついた不正であり、厚労省による是正が急がれます。ナーシングホームが急拡大する一方で、減少する病床ナーシングホームが急拡大する一方で、従来の慢性期病院や有床診療所は衰退傾向にあります。有床診療所の病床数は全国的に減少しており、これは看護人材の引き抜きや収益性の低下による影響が大きいと考えられます。さらに、ナーシングホームの普及は、高度急性期病院にも影響を与えています。従来であれば、がんの終末期患者は在宅療養を経て、緩和ケア病棟での看取りが行われる流れがありましたが、ナーシングホーム入居後はそのまま施設内で看取りまで完結するケースが増加しています。その結果、全国のがん拠点病院における緩和ケア病棟の入院患者数や死亡数は減少傾向にあります(※日本ホスピス緩和ケア協会の資料より)。ナーシングホームが果たしている役割自体は否定できません。実際、大手4社(サンウェルズ、アンビス、日本ホスピスHD、シーユーシー)の総定員は1.2万人を超えています。この他にも筆者が働く尾張西部医療圏では合計200床以上を有する独立系法人によるナーシングホームが6施設存在し、他にも複数の施設が地域の医療需要を一部担っています。しかし、これらは地域医療構想における病床数にはカウントされておらず、「住まい」としての扱いのまま、実質的には病院や有床診療所と同等の医療行為を担っているのが実態です。愛知県の病床整備計画では、尾張西部で457床の不足とされているものの、ナーシングホームが実質的にその代替を果たしているとすれば、むしろ「供給過剰」とも言えます。近い将来心配される病院の不採算今後、各都道府県が進める第8次地域医療構想において、基準病床数をもとに整備が進められますが、実態と乖離した病床数計画のままでは、地域の中小病院が経営不振に陥り、「病院倒産」が相次ぐ可能性も否めません。制度の「隙間」を突いて拡大してきたナーシングホームは、確かに患者や家族にとって新たな選択肢を提供してきましたが、その一方で、医療制度全体の持続性を脅かす構造的問題も孕んでいます。これからは、訪問看護ステーションの過剰請求に対する監視体制の強化や、医療・介護の適正な連携体制の整備が急務です。来年の診療報酬改定では、これらの問題への是正措置が期待されます。 参考 1) 老人ホームのサンウェルズ、ほぼ全施設で不正請求 調査委が報告書(毎日新聞) 2) 東証プライム上場サンウェルズが老人ホームほぼ全てで介護報酬不正請求!社長の「インサイダー取引」疑惑に発展か(ダイヤモンドオンライン) 3) 難病向け老人ホームで不正か 訪問看護、過剰請求指摘も(共同通信) 4) ホスピス最大手で不正か 全国120カ所「医心館」(同) 5) 老人ホーム紹介業者が病院側接待 倫理綱領や業務指針に違反か(同) 6) 「疑問を持ってはいけない会社」ホスピス住宅最大手で私が見たもの 「社会課題の解決」どころか地域医療が壊れる?(同) 7) 医心館、調査委員会を設置 診療報酬の不正請求報道で(同) 8) 高額請求の事業者に適正な指導監督を要望へ 訪問看護2団体 厚労省に(CB news) 9) 令和5年(2023年)有床診療所の現状調査(日医総研ワーキングペーパー No.479) 10) 第2回 有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会(厚労省)

369.

適量のアルコール摂取でもアミロイドβは蓄積する?

 WHOの声明によると、人間の健康に対する安全なアルコール摂取量は存在しないとされている。しかし、アルコール摂取とアルツハイマー病の病態との関連は、依然としてよくわかっていない。ギリシャ・Harokopio UniversityのArchontoula Drouka氏らは、アルコール摂取の頻度やパターンが神経変性バイオマーカーの予測と関連するかを明らかにするため、非認知症の中年成人コホートによる検討を行った。European Journal of Nutrition誌2025年4月1日号の報告。 対象は、ALBION試験より組み入れられた非認知症者195人。アルコール摂取頻度のサブグループ(非飲酒者、時々飲酒者、軽度〜中等度の飲酒者)、地中海食型アルコール食生活パターン順守のサブグループにおける脳脊髄液(CFS)中のアルツハイマー病バイオマーカー(タウ[Tau]、リン酸化タウ[P Tau]、アミロイドβ[Aβ])を評価するため、多変量ロジスティック回帰分析を実施した。分析では、非飲酒者を基準カテゴリーとして使用した。 主な結果は以下のとおり。・対象者は、66%が女性、平均年齢65±9.4歳、教育歴13.8±3.6年であった。・ロジスティック回帰分析では、軽度〜中等度の飲酒者(51人)は、非飲酒者(117人)と比較し、Aβ陽性率が高いことが明らかとなった(オッズ比:2.98[95%信頼区間:1.29〜6.90])。・地中海食型アルコール食生活パターン順守率の高い人は、非飲酒者と比較し、Aβ、Tau/Aβ42比、P Tau/Aβ42比の陽性率の有意な高さと関連が認められた。 著者らは「非認知症の中年成人では、軽度〜中等度のアルコール摂取であっても、非飲酒者と比較し、Aβ沈着率が高いことが明らかとなった。地中海食型アルコール食生活パターン順守率の高い(1週間を通じて食事と共に少量〜中程度の赤ワインを摂取する)人においては、Aβ、Tau/Aβ42比、P Tau/Aβ42比の陽性率が高かった。これらのことから、アルツハイマー病の前臨床段階であっても、飲酒マネジメントがアルツハイマー病のアウトカム改善に寄与する可能性がある」と結論付けている。

370.

NSAIDsの長期使用で認知症リスク12%低下

 新たな研究によると、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の長期使用は認知症リスクを12%低下させる関連性が認められたが、短期および中期使用では保護効果は認められなかったという。オランダ・エラスムスMC大学医療センターのIlse Vom Hofe氏らによる本研究の結果はJournal of the American Geriatrics Society誌オンライン版2025年3月4日号に掲載された。 研究者は、前向きの地域ベース研究であるロッテルダム研究から、ベースライン時に認知症のない1万1,745例を分析対象とした。NSAIDs使用データは薬局調剤記録から抽出され、参加者は非使用、短期使用(1ヵ月未満)、中期使用(1~24ヵ月)、長期使用(24ヵ月超)の4グループに分類され、定期的に認知症のスクリーニングを受けた。年齢、性別、生活習慣要因、合併症、併用薬などを調整因子として解析した。 主な結果は以下のとおり。・平均追跡期間14.5年の間に、1万1,745例(平均年齢66歳、女性60%)の参加者の18%が認知症と診断された。追跡期間終了時までに参加者の81%がNSAIDsを使用した。・NSAIDs使用は、長期使用者において認知症リスクの低下(ハザード比[HR]:0.88、95%信頼区間[CI] :0.84~0.91)と関連していたが、短期使用(HR:1.04、95%CI :1.02~1.07)と中期使用(HR:1.04、95%CI:1.02~1.06)では小さなリスク増加が観察された。・NSAIDsの累積用量は、認知症リスクの低下と関連しなかった。・非アミロイドβ(Aβ)低下作用型NSAIDsの長期使用における認知症リスク低下は、Aβ低下型NSAIDsよりも大きかった(HR:0.79対0.89)。・NSAIDsの長期使用による保護効果はAPOE4(対立遺伝子)を持たない参加者(HR:0.86)では観察されたが、有する参加者(HR:1.02)では観察されなかった。・NSAIDsの長期使用と発症リスクとの関連は、全原因認知症よりもアルツハイマー型認知症においてより顕著だった(HR:0.79)。 研究者らは「当研究は、抗炎症薬が認知症の進行に対する予防効果を有する可能性を示しており、その効果は累積用量ではなく、使用期間による可能性がある。しかし、副作用のリスクを考慮すると、認知症予防のために長期的なNSAIDs治療を推奨する根拠は不十分であり、さらなる研究が必要である」とした。

371.

黄斑部の厚さが術後せん妄リスクの評価に有効か

 「目は心の窓」と言われるが、目は術後せん妄リスクのある高齢患者を見つけるのにも役立つ可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。網膜の中心部にある黄斑部が厚い高齢者は、術後せん妄の発症リスクが約60%高いことが示されたという。同済大学(中国)医学部教授のYuan Shen氏らによるこの研究の詳細は、「General Psychiatry」に4月1日掲載された。Shen氏は、「本研究結果は、黄斑部の厚みを非侵襲的なマーカーとして、麻酔および手術後にせん妄を発症しやすい高齢者を特定できる可能性があることを示唆している」と話している。 米国医師会(AMA)によると、高齢患者の約26%が術後せん妄を発症する。米ミシガン州の内科医Amit Ghose氏は、2023年にAMAに発表された記事の中で、4時間に及ぶ心臓手術後に術後せん妄に襲われた自身の経験を振り返った。Ghose氏は、目を覚ましたときには頭が混乱しており、「私は、『なぜ私はランシングで患者の診察をしていないのだろう』と自問した」と回想する。同氏は、家族の質問に正しく答えることができず、オピオイド系鎮痛薬はせん妄状態を悪化させただけだった。症状が治まるまで数日かかったという。 研究グループは、術後せん妄を発症した患者は、入院期間が長くなり、退院後も自宅でのサポートが必要になる可能性が高いと説明する。また、認知機能低下や認知症のリスクも高まる。しかし残念ながら、術後せん妄のリスクがある人を特定するための簡便な検査は存在しない。ただ、過去の研究で、視力障害が術後せん妄の独立したリスク因子であることや、網膜の厚さが認知障害やアルツハイマー病のリスクと関連していることが示されている。網膜は目の奥にある細胞層で、角膜と水晶体を経由して入ってきた光を電気信号に変換し、視神経を通して脳に送る役割を果たしている。 今回、Shen氏らは、全身麻酔下で膝関節や股関節の置換手術、腎臓や前立腺の手術を受ける予定の65歳以上の患者169人(平均年齢71.15歳)を対象に、網膜の厚さと術後せん妄の発症リスクとの関係を検討した。手術の前に、光干渉断層撮影(OCT)により対象者の目の黄斑部の厚さと網膜神経線維層(RNFL)の厚さを測定した。また術後3日間は、せん妄のスクリーニングや診断に用いられるツールであるConfusion Assessment Method(CAM)とCAM-severity(CAM-S)を用いてせん妄の有無とその重症度の評価を行った。 手術後に40人(24%)がせん妄を発症した。術後せん妄を発症した患者では、発症しなかった患者に比べて黄斑部の厚さが有意に厚いことが明らかになった(厚さの平均値は283.35μm対273.84μm、P=0.013)。また、術前に右目黄斑部の厚さが厚いことは、術後せん妄の発症リスクの増加(調整オッズ比1.593、95%信頼区間〔CI〕1.093〜2.322、P=0.015)、およびせん妄の重症度の上昇(CAM-Sスコアの調整平均差0.256、95%CI 0.037〜0.476、P=0.022)と関連することも示された。 この研究では、黄斑部の厚みの増加と術後せん妄リスクとの間の直接的な因果関係を証明することはできない。それでも研究グループは、「本研究で得た知見は、より大規模な研究でさらに検討する価値があるほど強力であり、せん妄の術前検査につながる可能性がある」と述べている。 なお、米国老年医学会(AGS)によると、術後せん妄は予防可能だという。AGSは予防のための有効な手段として、毎日複数回歩かせること、時間と居場所を思い出させること、夜間に中断なく眠れるようにすること、水分補給を徹底させること、眼鏡や補聴器を持たせること、カテーテルの使用を避けることなどを挙げている。

372.

認知症の予防はお口の健康から(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)

患者さん用画 いわみせいじCopyright© 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.説明のポイント(医療スタッフ向け)診察室での会話患者最近、もの忘れが増えてきて…。それに、歯の調子も良くなくて…医師 それは心配ですね。実は、お口の健康も認知症と関連していますよ!患者 えっ、そうなんですか!?医師 はい。歯の本数が少ない人は、認知症になりやすいそうですよ。患者 えっ、どうしてですか?医師 歯の本数が減ると、ものをかむ筋肉(咀嚼筋)や歯(歯根膜)からの脳への刺激が減るそうです。画 いわみせいじそれに…(身振り手振りを加えながら)患者 それに?医師 生野菜などを摂らなくなり、ビタミンなどの栄養不足を招きます。ほかにも…。患者 まだ、あるんですか?医師 タバコを吸う人や糖尿病の人は歯周病で歯が抜けやすいですし、軽度認知障害(MCI)があると、歯磨きなどをきちんとしなくなり、歯周病や虫歯になるリスクが高くなります。患者 歯は大切にしないといけないんですね。一度、歯医者さんに診てもらいます(嬉しそうな顔)ポイントお口の健康と認知症との関連を説明した後に、対策を一緒に考えます。Copyright© 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.

373.

第9回 血液検査が切り拓く!新時代のアルツハイマー病早期発見法

現在、コレステロールに問題のある人は、コレステロールへの治療薬開始後、定期的にコレステロール値を測定され、その値をもとに治療が調整されているでしょう。あるいは、糖尿病でも同様、血糖値を見ながら、良くなった、悪くなったと議論されています。血液マーカーが拓く新時代こんなことが、アルツハイマー病の世界でもできるようになるかもしれない。今回は、そんなニュースをお届けします。アルツハイマー病は、脳内にアミロイドβが蓄積して神経のシナプスを障害したり、タウ蛋白の過剰リン酸化によって神経に変化を引き起こしたりすることが、病気の成り立ちに大きく関わっていると考えられています。そうした背景から、現在アルツハイマー病の診断に当たっては、脳脊髄液の採取やPET検査によるアミロイドβの検出が主流になりつつあります。しかし、「アミロイドβがあっても認知症を発症しない」患者も一定数いることから、その立ち位置について議論があることもまた事実です。もしアミロイドβの存在証明が認知症を上手に予測できないのであれば、臨床的な意義は十分高いとはいえません。しかし、最近注目の“p-tau217“検査は、なんと発症の20年以上前から異常を検出できる優れた感度を持つというのです1)。さらに、驚くことにPET検査と同等かそれ以上の精度を示し2)、現状でも約200ドルで受けられるようになってきているということです。加えて、認知機能や認知症の重症度ともよく相関することが報告されています。つまり、ただの数値遊びではなく、臨床的な意義の高い値ではないかと期待されているのです。ペニーさんの劇的ビフォー&アフターCNNのニュースによれば3)、フロリダ州で行われた研究「BioRAND」に参加した61歳のペニーさんは、血圧管理、植物ベースの地中海式ダイエット、週数回の有酸素運動とレジスタンストレーニング、ヨガによるストレス緩和、睡眠管理、体重管理に加え、ビタミンやサプリメントの個別最適化を含む包括的な介入プログラムを実践しました。その結果、体重は約14kg減少し、筋肉量が増加。1年後の血液検査で、p-tau217が43%減少し、実際に言葉の取り出し能力や日々の体調も大きく向上しました。研究チームは「30代以降は定期的に検査を行い、異常があれば生活指導や薬物介入を行う──まさに脳のコレステロール検査のようなモデルだ」と提案しています。実用化への期待と慎重な視点ただし、現状では確固としてこのようなモデルを推奨できるものではなく、限界も数多く残されています。プラットフォーム間の検査精度のばらつき、80歳以上での有用性低下、病気が進んで自然経過でp-tau217が低下するケースも見られるなど、汎用する前に解決すべき課題も多く、「過度な期待は禁物」との慎重な見解も示されています。また、発症後に認知機能を著しく改善するような治療は知られていないことから、より早期に検出された患者さんの心理的サポートや倫理的側面など、検査ばかりが先走りしない仕組みづくりも重要です。とはいえ、血液検査でアルツハイマー病の発症予測や進行度合いを行うことができたり、一般の生活改善が血液マーカーに反映されることで、コレステロール値のような管理が可能になったりする未来を予見させる、アルツハイマー病予防の新たな可能性を提示するニュースであったともいえるでしょう。さらに、臨床的意義が確立されれば、新薬開発にも大きく貢献するものとなるはずです。今後、大規模な臨床研究・導入を経て、アルツハイマー病の世界を劇的に変えるような進歩につながることを期待したいですね。 1) Teunissen CE, et al. Alzheimers Dement. 2025;21:e14397. 2) Therriault J, et al. JAMA Neurol. 2023;80:188-199. 3) LaMotte S. ‘Amazing’ reduction in Alzheimer’s risk verified by blood markers, study says. CNN. 2025 April 7.

374.

帯状疱疹生ワクチン、認知症を予防か/JAMA

 米国・スタンフォード大学のMichael Pomirchy氏らは、オーストラリアにおける準実験的研究の結果、帯状疱疹(HZ)ワクチンの接種が認知症のリスクを低下させる可能性があることを示した。オーストラリアでは、全国的なワクチン接種プログラムにおいて2016年11月1日から70~79歳を対象に弱毒HZ生ワクチンの無料接種を開始。同時点で1936年11月2日以降に生まれた人(2016年11月1日時点で80歳未満)が対象で、それ以前に生まれた人(80歳になっていた人)は対象外であったことから、著者らは、年齢がわずかに異なるだけで健康状態や行動は類似していると想定される集団を比較する準実験的研究の利点を活用し、HZワクチン接種の適格基準日である1936年11月2日の前後に生まれた人について解析した。結果を踏まえて著者は、「先行研究であるウェールズでの知見を裏付ける結果であり、認知症に対するHZワクチン接種の潜在的利益には因果関係がある可能性が高いエビデンスを提供するものである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年4月23日号掲載の報告。誕生日で分かれたワクチン接種適格者と不適格者の、認知症新規診断率を比較 研究グループは、オーストラリアにおけるプライマリケアの電子カルテ情報を提供している医療情報会社「PenCS」のデータを用い、2016年11月1日時点で50歳以上で、1993年2月15日~2024年3月27日にプライマリケア65施設を受診した患者10万1,219例を対象に、認知症の新規診断とHZワクチン接種との関連について解析した。この65施設は、PenCSソフトウェアを使用しており、電子カルテのデータを研究に使用することに同意した施設である。 主要アウトカムは、追跡期間中(2016年11月1日~2024年3月27日)に新たに診断された認知症であった。回帰不連続(RD)デザインを用い、HZワクチン接種の生年月日適格基準である1936年11月2日以降に生まれた接種適格者と、それ以前に生まれた接種不適格者を比較した。RDデザインでは、閾値周辺の帯域に分析を制限することに加えて、閾値(1936年11月2日)に最も近い日に生まれた人に最も高い重みが割り当てられる。追跡期間7.4年間において、接種適格者で認知症診断確率が1.8%ポイント低い 10万1,219例のうち52.7%が女性で、2016年11月1日時点の平均年齢は62.6歳(SD 9.3)であった。このうち、主要解析の解析対象集団(平均二乗誤差の最適帯域である1936年11月2日の前後482週間に生まれた人)は1万8,402例で、54.3%が女性で、平均年齢は77歳(SD 4.7)であった。これら集団の接種適格者と不適格者で、ベースラインにおける過去の予防的医療の利用状況や慢性疾患既往歴に差はなかった。 追跡期間においてHZワクチン接種を受ける確率は、適格基準日後1週間に生まれた接種適格者では、基準日前の1週間に生まれた接種不適格者と比べて16.4%ポイント(95%信頼区間[CI]:13.2~19.5、p<0.001)高いと推定された。両集団は、HZワクチン接種確率を除けば、肥満、脂質異常症、高血圧、糖尿病、喫煙、降圧薬またはスタチンの使用や、HZワクチン以外のワクチン接種などの他の予防医療サービス利用の確率は類似していた。 追跡期間7.4年間に新たに認知症と診断される確率は、接種適格者では不適格者より1.8%ポイント(95%CI:0.4~3.3、p=0.01)低かった。接種適格性について、他の予防医療サービスを受ける確率や、認知症以外の慢性疾患の診断を受ける確率への影響はみられなかった。

375.

自宅でできる嗅覚テストが認知機能低下の検出に有効か

 認知症やアルツハイマー病の初期症状の有無を、自宅で実施可能な嗅覚テストにより判定できる可能性のあることが、新たな研究で示唆された。認知症やアルツハイマー病の前兆である軽度認知障害(MCI)を発症した高齢者は、認知機能が正常な人に比べてこの嗅覚テストのスコアが低いことが示されたという。米マサチューセッツ総合病院(MGH)の神経科医であるMark Albers氏らによる研究で、詳細は「Scientific Reports」に3月24日掲載された。 Albers氏は、「われわれの目標は、自宅で実施できる費用対効果の高い非侵襲的な検査を開発して検証し、アルツハイマー病の研究と治療を前進させる基盤を築くことだった」とMGHのニュースリリースで述べた。同氏は、「認知障害の早期発見は、アルツハイマー病のリスクを有する人を特定し、記憶障害の症状が始まる何年も前に介入するのに役立つ可能性がある」と付け加えている。 AROMHA脳健康テスト(ABHT)と呼ばれるこの嗅覚テストは、カードに貼られた香り付きのラベルのにおいを嗅ぐことで、嗅覚の知覚能力、嗅覚に関するエピソード記憶、および識別能力を測定する。被験者は、それぞれのカードのにおいを嗅ぎ、そのにおいの名前を4つの選択肢の中から選ぶ。その後には、被験者がその選択にどの程度自信があるのかを尋ねる質問が続く。 本研究では、認知機能が正常な127人、主観的認知障害(subjective cognitive complaints;SCC)を有する34人、およびMCIを有する19人にABHTを実施してもらった。試験参加者の母語は、英語またはスペイン語だった。認知機能が正常な人の一部はABHTを自分で実施した。残りの認知機能が正常な人とSCCまたはMCIを有する人は、リモートで監督を受けながら、もしくは研究アシスタントが同席する対面でABHTを実施した。 その結果、研究アシスタントの助けがあったかどうか、あるいは試験参加者が英語話者であるかスペイン語話者であるかにより、嗅覚テストのパフォーマンスに大きな違いは見られないことが示された。全体的には、嗅覚の知覚能力、エピソード記憶、および識別能力のスコアは年齢とともに低下していた。また、MCIを有する試験参加者では、認知機能が正常な人やSCCを有する人に比べて、年齢や性別、教育レベルに関係なく、嗅覚の知覚能力と識別能力の低いことが示された。 こうした結果を受けてAlbers氏は、「本研究結果は、この嗅覚テストを母語の異なる高齢者を対象にした臨床研究の場で神経変性疾患や臨床症状の発症を予測するために使用できることを示唆している」と述べている。 ただし、研究グループは、「この嗅覚テストをさらに検証し、認知症やアルツハイマー病の他の検査にどのように適合させることができるのかを調べるには、さらなる研究が必要だ」と指摘している。

376.

教育レベルの高い人は脳卒中後に認知機能が急激に低下する?

 英語には、「The higher you fly, the harder you fall(高く飛べば飛ぶほど、落下も激しくなる)」という諺があるが、脳卒中後の後遺症についてもこれが当てはまる可能性があるようだ。大学以上の教育を受けた人は高校卒業(以下、高卒)未満の人に比べて、脳卒中後に実行機能の急激な低下に直面する可能性のあることが、新たな研究で示唆された。実行機能とは、目標を設定し、その達成に向けて計画を練り、問題に柔軟に対応しながら遂行する能力のことだ。米ミシガン大学医学部神経学教授のMellanie Springer氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に3月26日掲載された。 この研究では、1971年1月から2019年12月の間に実施された4つの研究のデータを統合して、脳卒中経験者における教育レベルと認知機能低下との関連が検討された。対象者の総計は2,019人(女性51.9%、白人61.4%)で、研究参加時に認知症のあった人は含まれておらず、追跡期間中に脳梗塞(1,876人)と出血性脳卒中(143人)を発症していた。教育レベルは、高卒未満が16.7%(339人)、高卒が30.4%(613人)、大学進学で学位未取得が24.0%(484人)、大学卒業(以下、大卒)以上が28.9%(583人)だった。認知機能は、全般的な認知機能、記憶力、実行機能の3つの側面が評価された。 その結果、脳卒中の発症直後では、大卒以上の人では高卒未満の人に比べて、全般的な認知機能のスコアが1.09点(95%信頼区間0.02〜2.17)、記憶力のスコアが0.99点(同0.02〜1.96)、実行機能のスコアが1.81点(同0.38〜3.24)高いことが明らかになった。しかし、脳卒中後の追跡期間においては、教育レベルの高い人では高卒未満の人に比べて、1年当たりの実行機能の低下速度が速かった。具体的には、大卒の人では毎年−0.44点(95%信頼区間−0.69〜−0.18)、大学進学で学位未取得の人では毎年−0.30点(同−0.57〜−0.03)の速さで低下していた。アルツハイマー病の遺伝的リスク因子であるAPOE-ε4アリルの保有は、教育レベルと脳卒中後の認知機能低下との関連に影響を与えていなかった。また、個人が経験した脳卒中の回数も、この関係に影響を与えていなかった。 研究グループは、教育レベルの高い人の方が脳卒中後の脳機能低下が遅いだろうと予想していた。しかし、本研究では予想に反して、教育レベルが高い人は、高卒未満の人に比べて脳卒中の発症直後では認知機能テストで良い成績を収めたものの、その後の数年にわたる追跡期間中に認知機能が急低下する傾向のあることが示された。このことを踏まえてSpringer氏は、「本研究結果は、高等教育を受けることで、脳卒中後に脳のダメージが重大な閾値に達するまではより高い認知能力を維持できる可能性があることを示唆している。しかし、閾値を超えると認知機能が教育レベルにより補われなくなり、急速に低下する可能性がある」と述べている。 論文の上席著者である、ミシガン大学内科・神経学教授のDeborah Levine氏は、「初発の脳卒中後の認知症は、脳卒中の再発よりも大きな脅威となる」とミシガン大学のニュースリリースの中で述べている。実際、脳卒中は認知症のリスクを50倍も高めるとされている。同氏は、「脳卒中後の認知機能低下や認知症を予防したり遅らせたりする治療法は、現時点では存在しない。この研究は、脳卒中後の認知機能低下の原因や、認知機能低下のリスクが高い患者についての理解を深め、仮説を立てるのに役立つだろう」と付言している。

377.

帯状疱疹ワクチンで認知症リスク20%低下/Nature

 帯状疱疹ワクチンは、痛みを伴う発疹の予防だけでなく、認知症の発症から高齢者を守る効果もあるようだ。新たな研究で、英国のウェールズで帯状疱疹ワクチンが利用可能になった際にワクチンを接種した高齢者は、接種しなかった高齢者に比べて認知症の発症リスクが20%低いことが示された。米スタンフォード大学医学部のPascal Geldsetzer氏らによるこの研究の詳細は、「Nature」に4月2日掲載された。 帯状疱疹は、水痘(水ぼうそう)の原因ウイルスでもある水痘・帯状疱疹ウイルスにより引き起こされる。このウイルスは、子どもの頃に水痘に罹患した人の神経細胞内に潜伏し、加齢や病気により免疫力が弱まると再び活性化する。帯状疱疹ワクチンは、高齢者の水痘・帯状疱疹ウイルスに対する免疫反応を高め、潜伏中のウイルスが体表に現れて帯状疱疹を引き起こすのを防ぐ働きがある。しかし、最近の研究では、特定のウイルス感染が認知症リスクを高める可能性が示唆されていることから、Geldsetzer氏らは、帯状疱疹ワクチンにも脳を保護する効果があるのではないかと考えた。 このことを検討するためにGeldsetzer氏らは、2013年9月1日に高齢者に対する帯状疱疹ワクチンの接種が開始されたウェールズに目を向けた。当時はワクチン(Zostavax)の供給量が限られていたため、このときの接種対象者は1933年9月2日以降に生まれた79歳の人に限定され、接種可能な期間も1年間に限られていた。開始時点で80歳以上だった人は、生涯にわたって接種対象外とされた。しかし、この規制が、ワクチンの影響を検証するランダム化比較試験の条件を自ずと生み出したと研究グループは指摘する。Geldsetzer氏らは、帯状疱疹ワクチン接種開始の直後に80歳に達した接種対象者(接種群)とワクチン接種直前に80歳に達した接種対象外の高齢者(1933年9月2日より前に生まれた人、対照群)を7年間追跡し、認知症の発症について比較した。 その結果、接種群では対照群に比べて、追跡期間中に新たに認知症の診断を受ける確率が3.5パーセントポイント低いことが示された。これは、接種群では対照群と比較して、認知症の相対的なリスクが20%低下したことに相当する。この効果は、教育レベルや糖尿病、心臓病、がんなどの慢性疾患など、認知症リスクに影響を与え得る因子を考慮した解析でも変わらず認められた。ワクチン接種のこのような保護効果は、男性よりも女性で顕著だった。さらに、イングランドとウェールズの合算人口を対象にした別のデータを使った検討でも同様の結果が確認された。 Geldsetzer氏は、「本研究で確認された兆候は非常に強力かつ明確な上に、持続的でもあった」と話す。ただし、なぜ帯状疱疹ワクチンが認知症を予防するのかは明らかになっていない。研究グループは、ワクチンが免疫システム全体を強化するか、あるいは特に水痘・帯状疱疹ウイルスが脳の健康に及ぼす未知の影響を防ぐことで、脳を保護する可能性があると推測している。 さらに、研究グループは、現時点では米国でのみ入手可能な最新のワクチンであるShingrixが、今回の研究で検討されたZostavaxと同様の認知症予防効果をもたらすのかどうかも不明だと話す。Zostavaxは弱毒化された水痘・帯状疱疹ウイルスを用いた生ワクチンであるのに対し、Shingrixはウイルスの特定のタンパク質のみを利用した遺伝子組み換え不活化ワクチンである。研究グループによると、Shingrixは水痘・帯状疱疹ウイルスに対してZostavaxより効果的だが、認知症リスクへの影響はZostavaxと異なる可能性があるという。 Geldsetzer氏は、本研究で得られた知見がきっかけとなって、Shingrixの認知症予防効果を検討する研究が実施されるようになることに期待を示している。同氏は、「少なくとも、今持っている資源の一部を使って帯状疱疹ワクチンと認知症との関連に関して研究を進めることで、治療と予防の面で画期的な進歩につながる可能性がある」と話している。

378.

第264回 線維筋痛症女性の痛みが健康な腸内細菌の投与で緩和、生活の質も向上

線維筋痛症女性の痛みが健康な腸内細菌の投与で緩和、生活の質も向上腸内細菌入れ替えの線維筋痛症治療の効果が、イスラエルでの少人数の臨床試験で示されました1)。どこかを傷めていたり害していたりするわけでもないのに、体のほうぼうが痛くなる掴みどころのない慢性痛疾患である線維筋痛症の少なくともいくらかは、健康なヒトからの腸内細菌のお裾分けで改善するようです。線維筋痛症は多ければ25人に1人の割合で認められ、主に女性が被ります。線維筋痛症の根本原因や仕組みは不明瞭で、的を絞った効果的な治療手段はありません。線維筋痛症で生じる神経症状は痛みに限らず、疲労、睡眠障害、認知障害をもたらします。それに過敏性腸症候群(IBS)などの胃腸障害を生じることも多いです。腸内微生物が慢性痛のいくつかに携わりうることが示されるようになっており、IBSなどの腸疾患と関連する内臓痛への関与を示す結果がいくつも報告されています。線維筋痛症の痛みやその他の不調にも腸内微生物の異常が寄与しているのかもしれません。実際、線維筋痛症の女性の腸内微生物叢が健康なヒトと違っていることが最近の試験で示されています。そこでイスラエル工科大学(通称テクニオン)の痛み研究者Amir Minerbi氏らは、健康なヒトの腸内細菌を投与することで線維筋痛症の痛みや疲労が緩和しうるのではないかと考えました。まずMinerbi氏らは、線維筋痛症の女性とそうではない健康な女性の腸内微生物を無菌マウスに移植して様子をみました。すると、線維筋痛症の女性の腸内微生物を受け取ったマウスは、健康な女性の腸内微生物を受け取ったマウスに比べて機械刺激、熱刺激、冷刺激に対してより痛がり、自発痛の増加も示しました。続く実験で腸内細菌の入れ替えの効果が裏付けられました。最初に線維筋痛症の女性の微生物をマウスに投与して痛み過敏を完全に発現させます。その後に抗菌薬を投与して腸内微生物を一掃した後に健康な女性の微生物を移植したところ、細菌の組成が変化して痛み症状が緩和しました。一方、抗菌薬投与なしで健康な女性の微生物を投与した場合の細菌組成の変化は乏しく、痛みの緩和は認められませんでした。線維筋痛と関連する細菌を健康なヒトからの細菌と入れ替えることは、痛み過敏を解消する働きがあることをそれら結果は裏付けています。その裏付けを頼りに、細菌の入れ替えがヒトでも同様の効果があるかどうかが線維筋痛症の女性を募った試験で調べられました。試験には通常の治療のかいがなく、とても痛く、ひどく疲れていて症状が重くのしかかる重度の線維筋痛症の女性14例が参加しました。それら14例はまず抗菌薬と腸管洗浄で先住の腸内微生物を除去し、続いて健康な女性3人から集めた糞中微生物入りカプセルを2週間ごとに5回経口服用しました。最後の投与から1週間後の評価で14例のうち12例の痛みが有意に緩和していました。不安、うつ、睡眠、身体的な生活の質(physical quality-of-life)の改善も認められ、症状の負担がおおむね減少しました。投与後の患者の便検体を調べたところ、健康な女性の細菌と一致する特徴が示唆されました。健康な女性の微生物投与の前と後では糞中や血中のアミノ酸、脂質、短鎖脂肪酸の濃度に違いがありました。また、コルチゾンやプロゲスチンなどのホルモンのいくつかの血漿濃度が有意に低下する一方で、アンドロステロンなどのホルモンのいくつかの糞中濃度の上昇が認められました。「14例ばかりの試験結果を鵜呑みにすることはできないが、さらなる検討に値する有望な結果ではある」とMinerbi氏は言っています2)。 参考 1) Cai W, et al. Neuron. 2025 Apr 24. [Epub ahead of print] 2) Baffling chronic pain eases after doses of gut microbes / Nature

379.

食事中の飲酒量が多いと片頭痛発生率が低い

 アルコール摂取と片頭痛または重度の頭痛との関係は、これまでの文献において依然として議論の的となっている。アルコールは広く消費されている飲料であるため、アルコールと片頭痛または重度の頭痛との関連を明らかにすることは、患者のマネジメントに役立つと考えられる。中国・安徽医科大学のYi Tang氏らは、アルコール摂取と片頭痛または重度の頭痛との潜在的な関係を調査するため、本研究を実施した。Brain and Behavior誌2025年3月号の報告。 1999年3月〜2004年12月の米国国民健康栄養調査(NHANES)データベースのデータを用いて、閾値効果、平滑化曲線フィッティング、多変量ロジスティック回帰を網羅した分析を行い、アルコール摂取レベルと片頭痛または重度の頭痛との関係を評価した。サブグループ解析と相互作用テストにより、異なる層別集団間におけるこれらの関連の安定性を調査した。 主な結果は以下のとおり。・対象は、1万3,083例。・食事中のアルコール摂取量が増加すると、片頭痛または重度の頭痛のオッズ比が減少することが認められた。・これは、高齢者および男性のサブグループにおいて、より顕著であった。 著者らは「食事中のアルコール摂取量と片頭痛または重度の頭痛との間に、有意な負の相関が認められた」と結論付けている。

380.

新たな方法を用いた強力なMRIがてんかん病変を検出

 標準的な3T(静磁場強度が3テスラ)MRIの2倍以上の強さの磁場を発生させる7T MRIを用いることで、3T MRIでは検出できなかったてんかんの原因となる病変を検出できることが、新たな研究で明らかにされた。特に、パラレル送信システムを用いた7T MRI(pTx 7T MRI)は病変の描出に優れていたという。英ケンブリッジ大学生物医学画像分野教授のChristopher Rodgers氏らによるこの研究の詳細は、「Epilepsia」に3月20日掲載された。 MRIは、薬剤抵抗性てんかん患者の手術前評価において、脳の構造的病変の検出に重要な役割を果たしている。7Tてんかんタスクフォースの2021年のコンセンサスペーパーでは、薬剤抵抗性てんかん患者に対しては、7T MRIの使用が推奨されている。7T MRIは、従来の3T MRIよりも空間解像度と感度が優れており、3T MRIでは検出できないてんかんの構造的病変を検出できる。しかし、7T MRIには、側頭葉などの脳の重要な領域において信号ドロップアウト(信号が低下した領域が黒く映る)が発生するという欠点がある。 この欠点を補うためにRodgers氏らは、1つではなく8つの送信機を頭部周囲に配置するパラレル送信システムをMRIに実装した。その上で、3T MRIでは陰性または曖昧な結果しか得られなかった薬剤抵抗性てんかん患者31人を対象に、pTx 7T MRI画像と単一送信7T MRI(CP 7T MRI)画像を取得し、比較した。Rodgers氏は、「MRI装置は、かつては単一の無線送信機を使用していた。しかし、単一のWi-Fiルーターでは信号を受信しにくい領域が出てくるのと同様に、この方法ではMRI画像に関連組織を判別しにくい黒い点が残されがちだった」とケンブリッジ大学のニュースリリースで述べている。 その結果、7T MRIにより、9人(29%)において、これまで3T MRIでは確認できなかった病変が特定された。また、4人(13%)において、3T MRIで疑わしいとされていた病変が実際にてんかん発作の原因であることが、さらに4人(13%)においては、3T MRIで疑わしいとされていた病変が実際にはてんかん発作の原因ではないことが確認された。病変は、57%の症例でpTx 7T MRIにおいてCP 7T MRIよりも鮮明に可視化されていた。 7T MRIによる検査によりてんかん管理が変更された患者は18人(58%)に上った。うち9人では病変の除去手術が提案され、別の1人にはレーザー間質性熱療法が行われた。また3人では病変が極めて複雑であったため、手術が適応外とされた。さらに5人では、電極を使用して病変を正確に特定し、発作を管理する代替技術が提案された。 論文の上席著者であるケンブリッジ大学臨床神経科学分野のThomas Cope氏は、「抗てんかん薬が効かないてんかんは、患者の生活に大きな影響を及ぼし、自立や仕事の継続能力に影響を及ぼすことが多い」とニュースリリースの中で指摘する。さらに同氏は、「これらの患者の多くを治癒に導くことは可能だが、そのためには、脳のどこに発作の原因があるのかを正確に突き止めなければならない。7T MRIは、導入以来ここ数年でその有望性を示してきたが、今回のパラレル送信という新たな技術のおかげで、より多くのてんかん患者が人生を変える手術を受けられるようになるだろう」と述べている。

検索結果 合計:2797件 表示位置:361 - 380