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1.

スタチンとARBの併用で認知症リスクは低下するのか

 高血圧と脂質異常症は、認知症の修正可能な危険因子であり、スタチンと降圧薬の併用は保護的な効果をもたらす可能性がある。しかし、特定の薬剤の組み合わせに関するエビデンスは依然として限られている。オーストラリア・タスマニア大学のEyayaw Ashete Belachew氏らは、アンジオテンシンII(Ang-II)産生を増加させる降圧薬(Ang-II産生促進薬)とスタチンの併用と、Ang-II産生を減少させる降圧薬(Ang-II産生抑制薬)とスタチンの併用を、認知症リスクとの関連について比較検討した。International Journal of Geriatric Psychiatry誌2026年8月号の報告。 オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の大規模な地域住民コホートである45 and Up Studyのデータを用いて、プロスペクティブに検討を行った。対象は、高血圧および脂質異常症を有し、スタチンと降圧薬を併用している45歳以上の患者であった。対象患者を、スタチンとAng-II産生促進薬(アンジオテンシンII受容体拮抗薬[ARB]、サイアザイド系利尿薬、ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬[DHP-CCB])の併用群と、スタチンとAng-II産生抑制薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬[ACEI]、β遮断薬[BB]、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬[非DHP-CCB])の併用群に分類した。薬剤への曝露は、服薬期間割合(PDC、80%以上)に基づき判定した。1対1の傾向スコアマッチングを用いて、両群のベースライン特性をマッチングさせた。食事、身体活動、併存疾患、併用薬で調整したハザード比(HR)を推定するため、Cox比例ハザードモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・マッチングを行った3万4,610例(各群1万7,305例、平均年齢65.8±8.8歳、平均フォローアップ期間12.4±5.1年)を対象とした解析において、スタチンとAng-II産生促進薬の併用群は、スタチンとAng-II産生抑制薬の併用群と比較し、認知症リスクの12%低下(HR:0.88、95%信頼区間[CI]:0.79~0.98)および全死亡リスクの13%低下(HR:0.87、95%CI:0.82~0.93)との関連が認められた。・ロスバスタチンまたはアトルバスタチンとAng-II産生促進薬の併用は、シンバスタチンとAng-II産生促進薬の併用と比較し、より大きな有益性を示した(各々、HR:0.43[95%CI:0.36~0.50]、HR:0.74[95%CI:0.64~0.84])。・これらの効果は男女ともに一貫して認められた。しかし、保護的な関連は65~74歳の年齢層でのみ観察された。また、ARBを含む併用療法は、ACEIを含む併用療法と比較し、より優れた有益性を示した。・死亡を競合リスクとして考慮したモデルを含む感度分析においても、これらの結果は頑健であった。 著者らは「スタチンとAng-II産生促進薬の併用は、認知症リスクの低下と関連していた。とくに、ロスバスタチンまたはアトルバスタチンとARBの併用で、より大きな有益性が確認された。このことは、認知機能への有益性が治療選択の判断材料となりうることを示唆している。今後は、ランダム化比較試験によってこれらの知見を検証し、その根底にあるメカニズムを解明する必要がある」としている。

2.

湿布と間違えた!何の中毒?【中毒診療の初期対応】第11回

<今回の症例>年齢・性別89歳・女性患者情報アルツハイマー型認知症および高血圧にて、精神科クリニックで1日あたりリバスチグミン貼付薬18mgおよびアムロジピン5mgを処方されていた。救急搬送2日前に腰痛を訴えたため、長女と整形外科クリニックを受診しケトプロフェンテープ40mg 10袋(7枚入り)、およびアセトアミノフェンが600mg分2(28日分)で処方されていた。搬送当日の16時頃、長女が買い物から帰宅すると、意識が朦朧とし嘔吐を繰り返していたため、救急要請された。初診時(17時)は気道開通、呼吸数20回/分、SpO2 96%(室内気)、血圧166/94mmHg、心拍数128bpm、意識レベルJCS20、瞳孔左右1.5mm同大、対光反射±、体温36.6℃であった。傾眠状態で、嘔吐を繰り返し、発汗著明、便失禁を認めた。腹部の聴診では腸蠕動音の亢進を認めた。検査値・画像所見末梢血では、WBC 12.40×103/mm3、Hb 12.8g/dL、Ht 36.6%、Plt 124×103/mm3、生化学検査では、TP 7.3g/dL、AST(GOT)16IU/L、ALT(GPT)14IU/L、LDH 146IU/L、CPK 68IU/L、AMY 242IU/L、Glu 124mg/dL、BUN 11mg/dL、Cr 0.7mg/dL、Na 140mEq/L、K 4.0mEq/L、Cl 102mEq/L、血清コリンエステラーゼ(ChE)52IU/L、動脈血ガス(室内気)では、pH 7.382、PaCO2 40.2Torr、PaO2 78.3Torr、HCO3- 22.4mmol/L、BE -1.2mmol/L、乳酸値2.0mmol/Lであった。頭部CTでは中等度の脳萎縮を認めた。心電図では洞性頻脈を認めた。<問題1><解答・解説はこちら>1. リバスチグミン臨床症状および血清ChE値の低下によりリバスチグミン中毒を疑って全身検索したところ、腰部にリバスチグミン貼付薬18mgが計12枚貼られていた。直ちにすべてを除去し、輸液療法のみで経過観察した。翌日の9時には気道開通、呼吸数14回/分、SpO2 96%(室内気)、血圧146/82mmHg、心拍数72bpm、意識レベルJCS 0、瞳孔左右3.5mm同大、対光反射+、体温36.2℃となり、下痢、嘔吐、発汗も消失した。薬は長女が管理していたが、長女の留守中に腰痛がひどくなり、リバスチグミン貼付薬を見つけて、誤って大量に貼付したと推測された。長女に薬の管理を徹底するように促して第3病日に軽快退院となった。神経終末より遊離したアセチルコリン(ACh)はアセチルコリンエステラーゼ(AChE)によってコリンと酢酸に分解される。リバスチグミンなどのカーバメートはAChEの活性部位を構成しているセリンの水酸基にカルバミル基を結合させてカルバモイル化することによってAChEを失活させる。ただし、この反応は可逆的で、しばらくすると自然に加水分解されて、カルバミル基がとれて脱カルバモイル化されるので、アセチルコリンエステラーゼの活性は、数分から長くても6時間で自然回復する。AChEが失活すると、自律神経系、神経・筋接合部、中枢神経系の神経終末でAChが蓄積してムスカリン性およびニコチン性ACh受容体が過剰刺激されて、ムスカリン様症状、ニコチン様症状、および中枢神経症状が生じる。これらは急性コリン作動性症候群(Acute cholinergic syndrome)と呼ばれている(図1)。(図1)急性コリン作動性症候群画像を拡大するただし、非可逆的にAChEを失活させる有機リンに比べて、重症度は低く、症状の持続時間は短い。また、カーバメートはAChEのみならずChEの活性も低下させるが、血清ChE値は有機リンのように著明に低下せず、低下または正常範囲である(表1)。(表1)有機リン中毒とカーバメート中毒画像を拡大する解毒薬・拮抗薬として、アトロピン硫酸塩がある。これはムスカリン受容体拮抗薬であるので、ムスカリン様症状にのみ有効である。気管支分泌物の増加や気管支攣縮による喘鳴を認めれば重症度に応じてアトロピン硫酸塩2~4mg(小児では0.05~0.10mg/kg)をボーラスで静注する。その後は気管支分泌物量や喘鳴が改善するまで15分ごとに繰り返し投与する。有機リン中毒に比べて、カーバメート中毒に要するアトロピンの総投与量は少ない(表1)。なお、第4回で取り上げた有機リンのうち、基本構造P=S結合のあるものは、肝臓で代謝されてP=O結合となりAChEと反応するため、毒性の発現は遅延する。しかし、カーバメートは代謝産物ではなく、そのものがAChE阻害作用を持つので毒性の発現は速い。本症例では、縮瞳、下痢、嘔吐、発汗、腸蠕動音亢進といったムスカリン様症状、頻脈、高血圧といったニコチン様症状、傾眠といった中枢神経症状を認めた。一方で、気管支分泌物の増加や気管支攣縮による喘鳴はみられなかったため、アトロピン硫酸塩を使用せずに輸液療法のみで経過観察し、翌日には中毒症状は消失した。リバスチグミン中毒の過去の症例報告でも、頻脈および高血圧といったニコチン様症状はよく見られている。 1) 上條 吉人編. 臨床中毒学 第2版. 医学書院. 2023.

3.

アルツハイマー病と強く関連したのは、高血圧より低血圧?

 アルツハイマー病(AD)と関連する心血管疾患(CVD)のサブタイプが特定され、最も強く一貫した関連が見られたのは低血圧であったという研究結果が、「Journal of the American Heart Association(JAHA)」6月16日号に掲載された。 米ミシガン工科大学のAili Toyli氏らは、UKバイオバンク(対象者50万2,133人)とAll of Us研究プログラム(対象者28万7,011人)という2つの大規模なバイオバンクにおいて、ADと11種類のCVDサブタイプとの関連を検討した。 解析の結果、両コホートにおいて、ほとんどのCVDサブタイプがADと有意に関連していた。最も強く一貫した関連が見られたのは低血圧であったが、低血圧はAD研究において比較的検討が進んでいないCVDサブタイプである。ADと高血圧、ADと脳梗塞との強い関連も一貫して認められた。一方、急性心筋梗塞とADとの間には有意な関連は見られなかった。遺伝学的解析では、特にAPOE、MAPT、心筋構造および血管機能に影響を及ぼす遺伝子の近傍領域において、AD関連形質とCVD関連形質との間に共通の遺伝子座が見られた。 Toyli氏は、「高血圧と比べ、低血圧は全体的に注目されておらず、そのためデータや研究上の関心も少ないと考えられる。ADとCVDとの関連の背後にある可能性のある生物学的機序を理解するためには、詳細な研究が必要である。両者を結びつける特定の経路が明らかになれば、ADが発症する前に介入し、そのつながりを断つことができる可能性がある」と述べている。

4.

日本人片頭痛患者の特徴と治療パターンが判明~OVERCOME研究

 片頭痛が個人の生活に及ぼす負担は、その人の背景と関連している。しかし、日本においては、年齢、性別、就労状況、収入、家族の介護といった要因と患者報告アウトカム(PRO)や片頭痛の治療パターンとの関連に関するエビデンスは限られている。大分・おおば脳神経外科・頭痛クリニックの大場 さとみ氏らは、日本における片頭痛の疫学・治療・ケアに関する観察研究であるOVERCOME(Japan)第2回研究のデータを用い、人口統計学的サブグループごとの片頭痛による負担および治療薬の使用状況について解析を行った。Pain and Therapy誌オンライン版2026年7月14日号の報告。 研究参加者は、自身の人口統計学的・臨床的特性に加え、Headache Impact Test-6(HIT-6)、片頭痛障害評価尺度(MIDAS)、Migraine-Specific Quality of Life Questionnaire version 2.1(MSQ v2.1)、片頭痛発作間欠期負担スケール(MIBS-4)、Impact of Migraine on Partners and Adolescent Children ScaleといったPRO尺度への自己報告を行った。また、片頭痛に対するOTC薬および処方薬の使用状況、頭痛に関連する費用についても報告した。性別、就労状況、月経関連片頭痛の有無および頻度、個人および世帯の年間収入、年齢、高齢者の介護状況の各項目について、記述統計を報告した。 主な結果は以下のとおり。・女性、無職、月経関連片頭痛、個人または世帯収入の低さ、高齢者の介護を行っていることは、片頭痛による負担を増大させ、処方薬の使用に影響を及ぼす傾向がみられた。・具体的には、男性は女性と比較し、トリプタン製剤(11.7%vs.8.7%)、予防薬(18.3%vs.11.2%)の使用率が高い傾向が認められた。・また、無職の女性ではMIDASグレードIVの割合が最も高く(14.1%)、月経関連片頭痛を有する女性は、そうでない女性と比較し、MIBS-4で重度の負担と判定される割合が高い傾向が認められた(36.3%vs.27.8%)。・さらに、家族の介護を行っている患者は、行っていない患者と比較し、MIBS-4で重度の負担と判定される割合(39.2%vs.26.0%)や処方薬の使用率が高い傾向が認められた。・性別は、就労状況や収入のサブグループ内においても、片頭痛による負担や治療パターンに影響を及ぼしていることが示唆された。 著者らは「これらのデータは、特定の社会人口統計学的グループにおいて、片頭痛による負担がより大きく、効果的な治療やケアへのアクセスが制限されている可能性があることを示唆している。本研究の結果が、医療従事者や社会全体での片頭痛患者の特定、臨床ケアにおける潜在的な格差の解消に役立つことが期待される」と結論付けている。

5.

【GET!ザ・トレンド】難治性てんかん診療の最前線(後編)

開頭のジレンマを打開する新たなアプローチ血管内にカテーテルやガイドワイヤーを通す技術は1950年代から脳神経外科の日常診療で行われており、その先端から脳波を記録するアイデアは昔からありました。しかし、安定した記録などの技術的課題からなかなか実現には至っていませんでした。近年、技術が進化し、筑波大学の松丸氏らのグループが開発した「EP-01(未承認品)」という脳血管内電極の医師主導治験は患者登録まで完了しました。この治験は難治性てんかんの術前検査の一環として、頸静脈から頭蓋内の静脈洞に電極を留置して脳波を記録できるかを確認するために実施されました。世界でも血管内ステント電極を用いたブレイン・マシン・インタフェース(BMI)の研究が発表されるなど、多くの人が脳血管内電極の可能性に注目しています。血管内に機器を入れる点では侵襲的ですが、頭蓋骨に穴を開ける開頭や穿頭の手技と比較すれば、はるかに低侵襲といえます。患者の負担が大幅に軽減されることが期待されています。図 脳血管内電極EP-01(未承認品)画像を拡大する検査や専門施設への紹介をためらわせる「壁」を下げる「脳の血管からのアプローチ(脳血管内電極)」という新しい技術が実際の診療に導入されれば、臨床現場や患者の未来はどう変わるのでしょうか? 非常に明確なのは、検査や専門施設への紹介をためらわせる「壁」が劇的に下がるということです。難治性てんかんの手術を検討する際、片側に明確な異常があり焦点がはっきりしているケースでは、頭蓋内電極検査をスキップして手術に進めます。しかし、両側から異常脳波が出ているケースやMRIで異常が見つからないケースなど、どうしても頭蓋内に電極を入れて精査すべき患者も多くいます。もし血管からのアプローチによって検査の侵襲が低くなれば、開頭への恐怖感やリスクを避けてきた患者にとって、これは間違いなく大きなメリットになります。そして重要なのは、その恩恵が患者や家族だけでなく、「主治医である医師」にも及ぶという点です。てんかんは患者数が多く、主治医が専門医とは限らないのが実情です。非専門医が、大きな身体的負担を強いる検査を勧めることには葛藤が伴います。しかし、負担の少ない脳血管内電極が普及すれば、主治医が外科治療を行う専門施設へ患者を紹介する際の「心理的なバリア」も大きく下がるはずです。実用化に向けた課題この脳血管内電極が今すぐすべての患者に使えるわけではなく、実用化に向けてクリアすべき課題も存在します。治験段階では、1本のガイドワイヤーの先に電極が1個だけついたものを、片側に最大3本(両側で最大6本)留置して検査を行いました。具体的には、海綿静脈洞や横静脈洞といった頭蓋内の静脈です。前述の医師主導治験の主な対象患者は「側頭葉てんかんの患者」でした。側頭葉てんかんの場合、脳の奥深くの内側構造が焦点になっていることが多いため、海綿静脈洞に置いた電極でそこをピンポイントでチェックするのが主目的でした。そのため、現在の留置方法や電極数では、側頭葉以外のさまざまな脳領域まで細かく同定することは残念ながらまだできません。したがって、今後の大きな課題の1つ目は、記録できる電極数を増やし「空間解像度」を少しでも高めていくことです。より多くのポイントから同時に細かく脳波を記録できるようになれば、この技術の意義はさらに高まります。 2つ目は、大脳皮質の静脈など「より脳に近い細い静脈へのアプローチ」です。事前の動物実験や慎重な臨床研究が不可欠ですが、皮質静脈の枝を遡り、多様な焦点に対して多点に留置できるようになれば、診断能力の飛躍的な向上を意味します。BMIと「治療可能な認知症」へのブレークスルー脳血管内電極という技術が確立された暁には、てんかん治療の枠を越え、他の医療分野にも大きなブレークスルーをもたらすと考えられており、非常に楽しみな領域です。まず1つ目の可能性は、BMIやBCIへの応用です。すでに注目を集めていますが、脳血管内電極は脳の活動を記録するだけでなく、将来的には脳へ刺激を送ることも可能になるでしょう。脳とコンピュータをつなぐきわめて負担の少ないインターフェースとして、大きなポテンシャルを秘めています。そして2つ目が、最近注目を集めている「てんかんと認知症(アルツハイマー病)の関わり」における活用です。昔からアルツハイマー病はてんかんの合併率が高いと言われてきました。数年前、「卵円孔電極」という特殊なテクニックを使ってアルツハイマー病患者の脳波を調べたところ、通常の頭皮脳波では検出できない「てんかん性の異常波や発作活動」が検出されたという興味深い報告がありました。これは、認知症と診断されている人の中に、側頭葉てんかんが原因で認知機能を落としている患者が一部いるということです。そうした患者は、適切な抗発作薬を使用することで認知機能が改善する、つまり「治療可能な認知症」である可能性を示しています。こうした患者を見つけ出して治療につなぐことができれば大きな希望となりますが、そのためだけに「開頭や穿頭して電極を入れるか? 」と問われれば、身体的負担が大きすぎます。そのときに大きな威力を発揮するのが脳血管内電極です。頭蓋骨を開けず、血管からアプローチして深部の異常波をキャッチできるこの技術なら、認知症の患者に対してもより安全に検査を行えるようになるはずです。臨床医の皆さまへ てんかんの診断や治療は日々進歩しており、検査や治療へ進むためのハードルは着実に下がりつつあります。数十年前は「開頭切除」しかなかった外科治療も、現在ではより身体的負担の少ない低侵襲な電気刺激療法など、多様な選択肢が広がっています。日々お忙しい中で専門外の知識をアップデートし続けることは容易ではないかもしれませんが、医療は絶えず進歩しています。この記事をきっかけに最新治療に関心を持っていただき、患者が新たな治療へと踏み出す「最初のハードル」を共に下げていただければと切に願っております。また現在、日本からの新しい医療技術の発信が減少し、円安などの経済的要因も相まって、海外の最新技術を国内に導入することさえ困難になりつつある危機的な現状があります。だからこそ、日本独自の技術をしっかりと開発し、世界へ発信していくことがこれまでに増して重要です。今回ご紹介した日本初の画期的なアプローチである「脳血管内電極」が実用化されれば、てんかん診療、ひいては世界の医療を大きく変える可能性を秘めています。次世代の希望となるこの新たな挑戦を、ぜひ温かい目で見守っていただければ幸いです。>>前編に戻る

6.

認知症のない期間、高血圧・糖尿病・喫煙の3因子で13年短縮

 高血圧、糖尿病、喫煙といった血管リスク因子は認知症や早期死亡に関連することが知られているが、これらが重複した際、認知症を発症せずに過ごせる期間(認知症のない生存期間)がどれほど短縮するのかは明らかでなかった。中国・清華大学のJiaqi Hu氏らの研究グループは、米国の大規模な動脈硬化リスクコミュニティ研究の解析から、中年期における血管リスク因子の蓄積が認知症のない生存期間を最大12.6年短縮させることを明らかにした。Neurology Open Access誌2026年9月号に掲載。 本研究では、米国4地域で実施された「Atherosclerosis Risk in Communities(ARIC)研究」の参加者のうち、55歳時点で認知症がない1万2,409例(平均年齢56.2歳、女性56.0%)を対象に前向きコホート研究を行った。ベースライン時(1990~92年)における3つの主要な血管リスク因子(糖尿病、高血圧、現喫煙)の保有数(0~3個)を評価し、2022年まで継続的に追跡調査した。追跡期間中央値26.3年における認知症発症および認知症のない死亡について、競合リスクを考慮した制限付き平均生存期間(RMST)解析を用いて、55歳から95歳までの期間における「認知症のない生存期間」を推定した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中に3,008例が認知症を発症し、5,238例が認知症を発症せずに死亡した。・血管リスク因子が0個の群と比較して、3個の群では認知症の発症リスクが2.69倍(ハザード比[HR]:2.69、95%信頼区間[CI]:1.94~3.73)、認知症のない死亡リスクが5.61倍(HR:5.61、95%CI:4.67~6.74)と有意に上昇した。・55歳から95歳までの認知症のない生存期間は、血管リスク因子が0個の群で平均30.1年(95%CI:29.9~30.4)であったのに対し、1個で26.3年、2個で21.0年、3個の群では17.5年(95%CI:16.3~18.7)とリスク因子の増加に伴い段階的に短縮した(最大12.6年の短縮)。・認知症のない生存期間には性別や人種による差も観察され、リスク因子3個の群では女性(18.1年)が男性(16.6年)より長く、白人(19.6年)に比べて黒人(16.0年)で短かった。 著者らは、中年期の血管リスク管理によって認知症のない生存期間を最大12.6年延ばせる可能性があると指摘している。血管リスクが認知症発症と早期死亡の双方に及ぼす影響を「年数」という指標で提示することは、心血管と脳の健康を共に維持する予防戦略において、患者の動機付けに役立つアプローチになると結論付けている。

7.

閉塞性睡眠時無呼吸、記憶力低下・認知症リスクと関連

 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は、本人の記憶機能低下や認知症リスクと関連する可能性が示された。モナシュ大学(オーストラリア)のGabriel Abdelmessih氏らは、2,795人の40~70歳の成人を対象とする研究を行い、OSAと、記憶力低下や認知症リスクとの関連性を調査した。その詳細がアルツハイマー病協会発行の「Alzheimer's & Dementia」に6月29日付で掲載された。 研究の結果、OSAを有する参加者は、OSAがない参加者と比べて記憶機能が低下していた。特に、治療を受けていないOSA患者では記憶成績の低下が認められた一方、治療を受けているOSA患者ではOSAがない人との間に有意な差は認められなかった。また、OSAを有する参加者では、認知症リスクを評価するCAIDEスコアも高かった。 OSAは睡眠中に気道が狭くなることで、いびきや呼吸障害を引き起こす病気である。この疾患が認知機能や認知症リスクと関連する可能性は、これまでにも指摘されていた。OSAは脳への酸素の供給を阻害し、睡眠サイクルを乱すことで、脳機能に影響を与える可能性があるためだ。しかし、OSA患者は肥満、高血圧、高コレステロール血症など、認知症のほかのリスク因子を併せ持っていることが多いため、OSA自体が認知機能や記憶力にどの程度影響を及ぼしているのかを把握することが困難であった。 今回の研究では、それらのリスク因子を考慮に入れることで、その疑問の答えに近づいた。年齢、性別、教育歴、OSA治療の影響を調整した解析では、OSAは記憶成績の低下と関連していた。一方、血管・生活習慣などの認知症リスク因子を含む修正版CAIDEリスクスコアを追加調整すると、OSAと記憶機能との関連は有意ではなくなった。また、OSAを有する参加者では、OSAがない参加者と比べてCAIDEリスクスコアが高かった。 研究者らはまた、アルツハイマー病のリスクを高めることが知られている遺伝子であるAPOE ε4アレルを考慮した検討も行った。その結果、OSAのみを有する人、またはOSAとAPOE ε4の両方を有する人では、OSAもAPOE ε4も持たない人と比べてCAIDEスコアが高かった。一方、APOE ε4のみを有する人では、有意な差は認められなかった。 論文の筆頭著者であるAbdelmessih氏は、「OSAはよくある病気で、治療可能であるにもかかわらず、診断されていない患者も少なくない。また、認知症のリスクとの関連はあまり考慮されていない。われわれの研究結果は、中年期にOSAを発見して適切に治療・管理することが、脳の長期的な健康を支える重要な機会となる可能性を示唆している」と述べている。なお、OSAは睡眠検査によって診断され、治療には、減量や生活習慣の改善のほか、持続陽圧呼吸療法(CPAP)やマウスピースなどが用いられる。

8.

認知症リスクが下がる2つの運動~日本の前向き研究

 運動は認知症予防に効果があると考えられているが、運動の種類によって認知症リスクとの関連が異なるかどうかは不明である。今回、日本体育大学/筑波大学の永田 康喜氏らが実施した、地域在住高齢者を対象とした前向き観察研究の結果、筋力トレーニング(筋トレ)やゲートボールが、運動していない群と比較して認知症発症リスクが有意に低いことが示された。Geriatrics & Gerontology International誌2026年8月号に掲載。 本研究では、日本の地域在住高齢者5,074人を対象に、2013年6月(プレベースライン)および2017年8月(ベースライン)に郵送調査を実施し、2021年7月まで最長4年間追跡した。認知症の判定は厚生労働省の全国標準化尺度を使用した。17種類の運動への参加状況を調べ、参加者が150人以上存在した5種類の運動(体操、ウォーキング、ゲートボール、ゴルフ、筋トレ)について、非運動群と比較した認知症発症のハザード比(HR)をRobust分散推定量を用いた多変量調整Cox比例ハザードモデルで算出・解析した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間(中央値:4.0年)の間に、5,074人中430人(8.5%)が認知症を発症した。・筋トレ(調整後HR:0.26、95%信頼区間[CI]:0.08~0.81)、ゲートボール(調整後HR:0.68、95%CI:0.46~0.99)では、非運動群と比べ有意な認知症発症リスクの低下が認められた。・体操、ウォーキング、ゴルフでは、有意なリスク低下は認められなかった。 本結果から、著者らは「ゲートボールや筋トレへの取り組みは、高齢者における認知症予防に有用である可能性が示唆される」と結論している。

9.

【GET!ザ・トレンド】難治性てんかん診療の最前線(前編)

難治性てんかんがもたらす社会生活の壁薬物治療で発作を十分に抑えられない「難治性てんかん」の患者は、日本に約30万人存在するといわれています。こうした患者は、発作自体の苦痛や危険に加え、社会生活において主に以下の3つの深刻な困難に直面しています。1つ目は「運転の制限による生活への支障」です。自動車の運転には「意識障害や運動障害を伴う発作が2年以上ないこと」などの厳格な法的基準が設けられています。難治性てんかんの場合、この条件を満たすことが難しく、免許の取得や更新ができません。地方など車社会においては、これが通勤や日常生活に直結する非常に大きな壁となります。2つ目は「就労の困難さと経済的不安」です。ある病院の調査では、患者の約33%が未就労であり、その多くが「就労希望はあるものの支援を受けられていない」状態にあることがわかっています。発作のコントロールへの不安や、職場での理解不足といった精神的な困難さが、社会参加へのハードルを高くしています。3つ目は「セルフスティグマ(自己への偏見)による孤立」です。患者自身が「発作を見られるのは恥ずかしい」「他人に迷惑をかける」とネガティブに思い込み、病気を隠したり支援を求めることを自ら諦めたりしてしまいます。これが自己効力感や生活の質(QOL)の低下を招き、社会的な孤立を深める要因となっています。外科治療が持つ、人生を変える本当の意味社会的な困難を抱える難治性てんかんの患者にとって、外科治療は単なる症状緩和にとどまらず、「人生を根本から好転させる可能性」を秘めています。適切な外科治療を行えば、約7割の患者で発作の消失が期待できます。たとえば、発作の原因となっている脳の異常部位を取り除く「焦点切除術」などの根治術が成功すれば、長年制限されていた就労や自動車の運転への道が開けます。何よりも「いつ発作が起きるかわからないという恐怖」から解放される意味は大きいです。つまり外科治療とは、服薬量の減少による副作用の軽減や、何よりもこの恐怖からの解放をもたらし、患者が自立した生活を取り戻すためのきわめて重要なステップとなります。臨床現場で感じる「壁」や「ジレンマ」難治性てんかんの患者にとって外科治療は大きな希望ですが、臨床現場においては、手術に至るまでの過程にさまざまな「壁」や「ジレンマ」が存在します。最大の壁は、適切な時期に専門施設へ紹介されていないことです。適切な抗発作薬を2種類使用しても発作が抑制されない場合、薬剤抵抗性と判断されます。しかし実際には、医療者も患者も外科治療を最終手段と考えがちで、長年薬の変更が繰り返されるケースが少なくありません。評価が遅れれば、事故のリスクや認知機能の低下に加え、就学・就労機会の喪失など社会的孤立が深刻化し、手術で発作が止まったとしても失われた社会生活を取り戻せなくなる恐れがあります。また、「専門施設への紹介=すぐに手術が決定する」という誤解も壁です。専門施設は、多職種チームで詳細な検査と検討を行い、薬の見直しや手術を見送る結論を出すこともあります。「手術を迷うから行かない」のではなく、「まず評価を受け、どんな選択肢があるかを知る」場所なのです。外科治療は最後の手段ではなく、標準的な治療選択肢の1つであると社会全体で共有していく必要があります。さらに、手術の手前にある侵襲的なモニタリング(頭蓋内脳波検査)の壁も大きなジレンマでした。従来は頭蓋骨を大きく開ける検査が行われ、患者の身体的・精神的苦痛や紹介医の葛藤を生み、専門施設への紹介をためらわせる一因になっていました。しかし最近では、定位的頭蓋内脳波(SEEG)が国内でも普及しつつあります。これは小さな穴から脳深部に直接電極を留置する手法で、患者の負担や恐怖を大幅に軽減しつつ、安全・正確に焦点を同定できるようになっています。このように術前の壁を下げる着実な進歩が続く中、医療の最前線では、さらに身体的負担の少ない最新技術が進歩しています。後編では、新たな非侵襲的なアプローチに迫ります。>>後編に続く

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認知症サポート制度「チームオレンジ」のメリットとは?

 「チームオレンジ」とは、日本政府の認知症施策推進大綱で掲げられた、認知症に関する国家的な取り組みである。本取り組みは、認知症と共に生きる人やその家族と、研修を受けた地域ボランティア(オレンジサポーター)をつなぐものである。オレンジサポーターは、日常生活における実践的な支援を行うとともに、地域の支援ネットワークの構築を促進する。2023年までに本取り組みは、全国で約1,900のチーム、3万3,000人のサポーターを擁する規模に拡大したが、オレンジサポーターが自身の役割を通じてどのような有益性を感じているかについては、これまで十分に明らかにされていなかった。札幌医科大学の横山 和樹氏らは、札幌市におけるサポーターの実際の経験を通じて、チームオレンジがもたらす有益性について検討した。BMC Geriatrics誌オンライン版2026年7月16日号の報告。 札幌市内の8つの地域拠点から、目的的サンプリングによって選定された16人のオレンジサポーターを対象に質的内容分析を実施した。半構造化インタビューは、2024年12月~2025年3月に行われた。データの収集と分析は、データが十分に集まるまで継続した。 主な結果は以下のとおり。・2つの主要なテーマが特定された。・第1のテーマである「オレンジサポーターがチームオレンジで得た学び」は、次の4つのカテゴリーで構成されていた。(1)認知症と共に生きる人やその家族の「人としての尊厳」の尊重(2)多様なニーズの理解と支援(3)認知症と共に生きる人やその家族の強みの発見(4)協働を通じた地域社会へのインクルージョンの促進・第2のテーマである「オレンジサポーターが認識したチームオレンジの包括的な有益性」には、次の3つのカテゴリーが含まれていた。(1)日常生活における認知症への意識の高まり(2)相互依存的な貢献を通じたエンパワーメント(3)活動を通じた精神的なウェルビーイングの向上 著者らは「チームオレンジは、サポーターが認知症と共に生きる人と関わるための前向きな認識や実践的なスキルを養うと同時に、個人のエンパワーメントや精神的なウェルビーイングの向上を実感できる場として機能していると考えられる。日本独自の文化的背景に根差し、政策に基づいたモデルであるチームオレンジは、国際的な認知症にやさしい地域づくりの取り組みを発展させるうえで応用可能な知見を提供しており、高齢者におけるケア改善、社会参加の促進、社会的孤立に関連する健康リスクの低減といった点においても重要な示唆を含んでいる」と結論付けている。

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長期的な経済的逆境は認知機能低下や脳構造変化と関連か

 経済的逆境は、精神的なストレスを増大させるだけでなく、脳の老化と関連する可能性があるーーそんな研究結果が報告された。若年成人期から中年期にかけて慢性的に経済的困窮を抱えていたり世帯所得が低かった人は、53歳時点で実施された認知機能検査の成績が低い傾向にあることが示された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のJacques Wels氏らによるこの研究は、7月23日付で「Innovation in Aging」に掲載された。 持続的な経済的逆境が認知機能の加齢に伴う変化や脳の健康に長期的にどのような影響を及ぼすのかは、十分に明らかになっていない。そこでWels氏らは、英国の1946年出生コホート(2,759人)を対象に、26~53歳時の経済的逆境(世帯所得の低さ、経済的困窮)と、53歳時の認知機能、53歳から69歳までの認知機能の変化との関連を解析した。さらに、69~71歳時に脳MRI検査を受けた一部の参加者では、経済的逆境と高齢期の脳構造との関連も調べた。参加者には、26歳、43歳、53歳時点での世帯所得に加え、36歳、43歳、53歳時点で経済的困窮の有無について質問した。 その結果、世帯所得が低い状態や経済的困窮を経験することが多かった人では、53歳時点における情報処理速度や言語記憶の成績が低かった。これらの人では、53歳以降の言語記憶の低下速度は比較的緩やかだったが、これは53歳時点ですでに認知機能スコアが低かったことによるものと考えられた。さらに、MRI解析からは、持続的な低世帯所得は、脳の萎縮に伴い拡大することが知られている脳室容積の増大と関連することも示された。経済的逆境と脳構造の変化との関連は、男性、幼少期に社会経済的状況が不利だった人、アルツハイマー病の遺伝的リスク因子であるAPOE ε4保有者でより強く認められた。 研究グループは、本研究で対象としたコホートの世代では、男性が家計の担い手と見なされることが多かったため、経済的逆境の影響をより強く受けた可能性があると考察している。また、喫煙や飲酒などの健康に好ましくない生活習慣が多かったことも影響した可能性があるとしている。 Wels氏は、「認知機能の加齢による変化を検討したこれまでの研究の多くは、経済的逆境を単一時点でしか評価していない。本研究では、数十年にわたるデータを用いたことで、認知機能に大きな影響を及ぼすのは一時的な困難ではなく、長年にわたる経済的逆境の積み重ねであることが明らかになった」とニュースリリースで述べている。 一方、論文の上席著者であるUCL公衆衛生・実験医学部門教授のPraveetha Patalay氏は、「今回の結果は、経済的逆境に直面している人々を支援し、慢性的な貧困を減らすことが、将来的な認知機能低下や認知症リスクの低減につながる可能性を示唆している」との見解を示している。

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発熱と両側耳下腺の腫脹が主訴、疑うべき疾患は?【腕試し!内科専門医バーチャル模試】

発熱と両側耳下腺の腫脹が主訴、疑うべき疾患は?40歳の女性。2週間前からの発熱と両側耳下腺の腫脹を主訴に来院した。徐々に増悪する左顔面の違和感と閉眼困難も自覚している。既往歴なし。体温 38.0℃、血圧 120/74mmHg、SpO2 98%(room air)。身体診察で、両側耳下腺のびまん性腫脹と左末梢性顔面神経麻痺を認める。胸部X線で両側肺門リンパ節腫脹、血液検査で血清ACE高値、軽度の高カルシウム血症を認めた。

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テレビ視聴の多さは脳萎縮と関連

 「テレビばかり見ていると脳がだめになる」という母親の小言は、あながち的外れではないようだ。新たな研究で、テレビを頻繁に視聴することは、複数の脳領域の体積の減少や白質高信号体積の増加と関連することが示された。一方、座位で仕事をすることは、白質高信号体積の減少や複数の脳領域の体積が大きいことと関連していた。白質高信号とは、脳小血管病などによる白質の変化を反映するMRI所見で、白質病変とも呼ばれている。米南カリフォルニア大学(USC)人類進化生物学プログラムのNatan Feter氏らによるこの研究結果は、7月10日付で「Alzheimer’s & Dementia: The Journal of the Alzheimer’s Association」に掲載された。 Feter氏は、「われわれはこれまで、人々に座りっぱなしの時間を減らすよう勧めてきた。しかし今回の結果から、専門家はその推奨を、座位時間だけでなく座っている間の活動内容にも広げる必要があると考えるかもしれない。座位中の活動の種類によって、脳の健康への影響が異なる可能性があるからだ」と述べている。 この研究では、心血管と脳の健康を長期間追跡している「Atherosclerosis Risk in Communities(ARIC)」研究に参加した1,712人(平均年齢53歳、女性57%)のデータを解析し、座位行動と脳構造との関連を検討した。座位行動として、余暇にテレビを見る頻度と座位で仕事を行う頻度を質問票により評価した。また、脳構造の指標として、前頭葉や後頭葉などの皮質領域、視床・尾状核・被殻・淡蒼球から成る皮質下領域に加え、アルツハイマー病(AD)で早期から変化が現れやすい領域(ADシグネチャー領域)、および白質高信号の体積をMRIで測定した。 年齢や性別、身体活動、BMI、糖尿病、喫煙、飲酒などの共変量を調整して解析した結果、テレビを「頻繁に見る」と回答した人は、「ほとんど/全く見ない」と回答した人と比べて、前頭葉、後頭葉、およびADシグネチャー領域の体積が小さいこと、ならびに白質高信号体積が大きいことと関連していた。一方、「いつも座位で仕事を行う」と回答した人では「座位で仕事をほとんど/全くしない」と答えた人と比べて、白質高信号体積が小さいこと、ならびに頭頂葉、後頭葉、および前頭葉の体積は有意に大きいことと関連していた。男女別に解析したところ、座位での仕事が多いことと前頭葉の皮質体積が大きいこととの関連は男性でのみ認められるなど、座位行動と脳構造の指標との関連には男女差が見られた。 研究グループは、「医師は、患者にもっと体を動かすことを勧めるだけでなく、テレビの視聴時間を減らすことについても助言すべきかもしれない。それ以上に望ましいのは、座位で過ごすのであれば、テレビ視聴の代わりに脳を刺激する活動を取り入れることだろう」と述べている。

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「震え」と「振るえ」、どっちを使う?【脳がととのう 神経内科学講座】第4回

<今回のモヤっとPoint>どんな「ふるえ」なら、パーキンソン病を疑うの?震えと振るえ、違いがあるの?はじめに日常診療では「ふるえていた」と報告を受けることがしばしばあります。あまり意識せずに使っているこの「ふるえ」という言葉ですが、医学的には何をさしているのでしょうか? 日本語として「ふるえ」は、国語辞典を引いてみると「ぶるぶると揺れ動くこと」や「身震いすること」といった意味を持っています。たとえば、寒さや恐怖、興奮などによって、自分の意思とは関係なく体の一部または全身が小刻みに揺れ動く現象をさすようですが、皆さんが臨床で使っている「ふるえ」もこれと同じでしょうか? 今回は、この用語の定義や臨床的な意義について整えていきましょう。「振るえ」と「震え」ふるえの漢字表記には「振るえ」と「震え」があります。脳神経内科医の視点で「振るえ」と聞けば、それは「振戦(tremor)」なのだろうと想起します。一方で、「震えていました」と聞けば、それはきっと「シバリングなのかな?」とか「ミオクローヌス」「もしかして痙攣発作?」などと脳裏に浮かびます。ちなみに、前者の振戦を呈する代表的な神経疾患にパーキンソン病があるのはご存じでしょう。もちろん、ふるえがあるからといって、パーキンソン病とは限りません。だからこそ、非専門医の先生にとってふるえの評価は悩みどころの一つではないでしょうか?臨床でのふるえ、まずは「振るえ」と「震え」でどう使い分けるか―このモヤモヤを解決してみましょう。そのためには、言葉の定義やどういった病態を想定しているのかを先に整理できるようになることが不可欠です。その観点では、振戦、ミオクローヌス、シバリングの3つを押さえておきましょう。振戦とは「リズム」と「反復」まず、臨床で大事なことは、ふるえ=すべて振戦ではないという点です。なぜなら、振戦には少なくとも次の3要素が必要だからです。【振戦の3要素】不随意involuntary本人の意図しない律動性rhythmic一定のリズムで(ある程度規則的で)振動性oscillation一定の軸を中心に反復するつまり、単に「体が勝手に動いている」とか「突然ピクっとなる」といった類の動きは、震えているように見えても振戦とは言いません。必要なのは一定のリズムであること、そしてそれが往復する運動として繰り返されていることです。この“リズムが一定”の例えとして、「貧乏ゆすり」が近いものとして挙げられます。一定のリズムで足や膝を揺らしていますよね。ほかのたとえでいえば、あの「高橋名人のボタン連打」のような動きも、一定のサイクルで繰り返される動きですね(ベテラン世代の先生なら共感!?)。逆にリズムが不規則なのは振戦ではありません。イメージとしては、雨が降り出した時に「雨粒が屋根や窓に当たる、パラ、パラパラッ、パ、パラパララ…」のようなものをさし、後述するミオクローヌスなどがこれに該当しえます。―Step1. 振戦かな? まずはリズムがあるかどうかというわけで、ふるえをみたら、まずは「振戦」らしさである「一定のリズム感」があるかどうかをチェックしましょう。不随意運動にはいろんな種類がありますが、非専門医の場合には振戦とミオクローヌスの判断が付けば十分だと思います(下図)。画像を拡大する―Step2. 振戦だと思ったら振戦にはたくさんの鑑別疾患があるのですが、コモンなものでは本態性振戦があり、そのほかには薬剤性、アルコール離脱、小脳性、機能性などもあります*1。よって、家族歴の確認、新規処方された薬剤、アルコール摂取歴などの臨床背景を確認することで、ある程度は振り分けることができます。臨床では、まずは服薬歴と飲酒歴を確認して、問題ないようなら次に、その振戦が静止時に出ているのか、動作時に出ているのかをチェックするとよいでしょう。*1甲状腺機能亢進症、低血糖、カフェイン、β刺激薬、薬剤関連(リチウム、バルプロ酸Na、SSRI/SNRI、ドパミン遮断薬)なども重要な鑑別材料―Step3. その振戦は本当に「静止時」ですか?そして、「振戦かな?」と診察中に感じた際には、静止時振戦かどうかを確認することがとても大事です。なぜなら真の静止時振戦は、パーキンソン病を疑う根拠になるからです*2。*2ただしパーキンソン病を考える前提として、寡動や無動が必須で、そこに静止時振戦または筋強剛を伴うことが重要ですでは、静止時の振戦とはどのようなものか、ポイントは以下の3つです。随意的に賦活されておらず重力に抗して保持されていない完全に支持された身体部位に生じる振戦なんだか、とても難しく感じたかもしれませんが、要は完全に脱力した無意識の状態であることが前提であり、「意図して筋肉を収縮させておらず、重力に抗した姿勢を保ってもいない身体部位に出る振戦」を静止時振戦と呼ぶのです。よく間違えやすいのが、「じっとしていてくださいね」と呼びかけて、安静を指示して確認する方法ですが、これだと完全に本人が静止しているかわかりません。なぜなら、じっとしていようと意識することで余計に力が入ってしまう人がいるからです。なお、注意を逸らしたときに振戦が消失したり、逆にリズムが変化したり、動きに変化があったり、奇妙な変動がある場合には、機能性振戦(心因性)も考えます。―Step4. 注意をそらすとよい本人が意識すればするほど力が入ることがあるため、振戦が「静止時」なのかを確認するには、本人に、ふるえのことを忘れてもらう必要があります。もちろん、「忘れてください」なんて野暮なことは言ってはいけません。その掛け声によりむしろ意識して振るえが止まらなくなったりします。要はほかのことに注意をそらせばよいわけで、「眼球運動」の神経診察がこれに該当します。「しっかり追ってくださいね」と指示しながらゆっくり指先を追視させます。そうすると、本人は手のことを忘れて真面目に追視をするのですが、この際に、無意識に本人の手先に振るえが出現していないかを検者は周辺視野で確認しましょう。このように無意識に、動かしていない身体の部位に出現する振戦を「静止時振戦」と呼びます*3。*3昔は「安静時振戦」とよく呼んでいましたが、現在は、静止時振戦が正しい神経学的な用語です。英語ではresting tremor<脳がととのう具体例>「じっとしていてもふるえているので、静止時振戦と考えます」「MMSEの検査で100から順に7を引く計算をさせているときに、右手がリズミカルにふるえていて、静止時振戦のようでした」不規則なふるえでは、リズムが一定ではない、つまりイレギュラーな不随意運動に該当するものに何があるかというと、代表的な不随意運動の1つとしてミオクローヌスがあります。これは、自分の意思と無関係に瞬発的な筋収縮が生じる症候をさします(第1回:無意識に使う「ピクつき」)*4。*4ミオクローヌスには陰性ミオクローヌスというのがあり、持続している筋活動が一瞬途切れることで生じるもので、後述するアステリクシスがそれに該当しますなおミオクローヌスが不規則に、かつ高頻度で出現していれば、あたかもブルブルと「震えている」ように見えることがあります。実際に「ふるえていました」と報告を受けて診に行くと「ミオクローヌスだった」ということも少なくありません。急性期診療であれば、代謝性脳症や薬剤性のミオクローヌス、蘇生後脳症の症例などで、頻発するミオクローヌスに遭遇することがあるので、文脈を意識すると病態を把握しやすいでしょう。続いて、「震え」という表現がしっくりくる病態には、シバリングやTMA(Transient myoclonic state with asterixis in elderly patients)などがあります。前者は時に振戦様に見えることがありますが、発熱、悪寒戦慄、低体温、敗血症、輸血・輸液反応、薬剤反応などの全身状態と関連して出現するので、臨床的な病歴やバイタルサインが重要でしょう。一方、後者は高齢者で急性に起こる「身震い様の不随意運動」で、内訳としてはミオクローヌスとアステリクシス(固定姿勢保持の障害)です。ベンゾジアゼピンの投与で反応性が良好になることが多いです。今回のスッキリ同じ「ふるえ」でも「振るえ」と「震え」はニュアンスが異なる違いの一つにリズムがあり、「振戦」は一定のリズム静止時振戦はパーキンソン病を疑うけれど、本当に静止時なのか確認が必要

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抗アミロイドβ抗体薬、投与前のAPOE遺伝子検査考慮を追記/厚労省

 2026年8月17日、厚生労働省より添付文書の改訂指示が発出され、抗アミロイドβ抗体薬であるドナネマブおよびレカネマブの「警告」および「重要な基本的注意」の項に、アミロイド関連画像異常(ARIA)のリスク管理などを目的とした「投与開始前のAPOE遺伝子検査の実施考慮」などが追加された。 アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)および軽度認知症患者を対象とした臨床試験や国内外の症例データにおいて、「アポリポ蛋白E対立遺伝子4(APOEε4)ホモ接合型キャリアの患者でARIA(ARIA-浮腫/滲出液貯留[ARIA-E]およびARIA-脳微小出血・脳表ヘモジデリン沈着症・脳出血[ARIA-H])の発現割合、画像上の重症度、症候性ARIAの発現割合がより高い傾向」にあることが認められている。 そのため、製造販売後調査、国内副作用報告、承認時の臨床試験、海外添付文書、ガイドラインなどを調査し、専門委員の意見も聴取した結果、ApoEε4ホモ接合型キャリアで ARIA の発現割合が高い傾向が認められたこと、また、2026年7月にAPOE遺伝子検査が保険収載されたことから、本剤の投与開始前にAPOE遺伝子検査の実施を考慮し、リスクの高いホモ接合型キャリア等を把握した上で患者および家族・介護者に十分な情報提供と説明を行うとともに、適切なリスク管理体制を築くことが適切と判断された。 対象医薬品および改訂内容は以下のとおり。◯ドナネマブ(遺伝子組換え、商品名:ケサンラ)◯レカネマブ(遺伝子組換え、同:レケンビ)警告 「ApoE ε4ホモ接合型キャリアの患者でARIAの発現割合が高かったことから、本剤の投与開始前に、APOE遺伝子検査の実施を考慮すること」を追記。重要な基本的注意 「ARIAのリスク管理のために、原則として本剤の投与開始前に、APOE遺伝子検査の実施を考慮すること。考慮した結果、投与開始前に検査を実施しなかった場合においても、本剤投与中に必要と考える場合には検査の実施を検討すること。遺伝子検査にあたっては、承認された体外診断用医薬品を用い、最新のガイドライン等を参考にAPOE遺伝子検査の意義について患者及び家族・介護者に十分に説明し、同意を得ること」を追記。

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相続は「争族」か「争続」か?―患者の死後に問われる「意思能力」判定の4つのポイント【外来で役立つ!認知症Topics】第44回

高齢社会の進行に伴う認知症の人の増加とともに、相続に関わる診断書や意見書が必要になることが増えてきた。こうした場合に求められる最も大切なことは、本人に「意思能力」があるか否かを医学的根拠に基づいて判定することだ。「意思能力」とは法律用語で、自分の行う契約などの行為の意味や結果を正しく理解し、判断できる知的な能力を指す。つまり、自分が行う契約締結や遺言書作成などがどのような結果をもたらすかを、正しく認識・判断できる能力のことである。以下では、医師としてこうした判定を求められた場合を想定して述べる。筆者の経験では、そのようなケースは2つに大別される。被相続人(財産を譲る人)が「生存しているか」あるいは「すでに死亡しているか」である。前者の場合は、ご本人と直接面談したり認知機能テストを行ったりすればよいので、話は比較的スムーズだ。容易でないのは後者である。とくに、問題となっている時点(遺言書作成時など)の能力や状況に関するデータが乏しかったり、まったくなかったりする場合である。この「時点」とは、たいていは遺言書が作成された時期を指すが、書の内容が明らかになるのは本人が亡くなった後だからだ。本人が亡くなった後に意思能力の有無を判断する「4つの要素」 意思能力の有無は、医師の診断書に書かれた医学的判断と、行動や契約内容といった事実関係に基づく法律的判断の両面を総合的に考慮して、裁判所が判断する。実務上、具体的には以下の4つの要素が大切だとされる。1. 精神状態・認知機能の評価まず基本となるのが、医師の診察に基づく評価と、改訂長谷川式(HDSR)やミニメンタルステート(MMSE)などの定量的なデータである。実務において、この認知機能と深く関わってくるのが「成年後見制度」だ1)(2028年ごろには改正法が施行される予定である2,3))。現行制度では軽いほうから「補助」「保佐」「後見」の3段階がある。法曹界における意思能力の判断原則は、「補助=能力あり」「後見=能力なし」とスッキリしているが、中間の「保佐」は裁く裁判官にとっても判断が悩ましいようだ。筆者が保佐レベルと判断しても、裁判官の判断はケースバイケースだが、私見ながら「HDSRが20点以上は補助」「9点以下は後見」「その間(10~19点)が保佐」という暗黙の了解や通念があるようにも思える。なお、担当医による記載では、認知症の進行度、長期的な症状の変化などいわゆる現病歴からの判断や考察が中心になるが、幻覚・妄想やうつ症状の有無も裁判官にとって重要な判断材料となり得る。困るのは、認知機能に関するデータが乏しい場合だ。そんなときにまず想起すべきは、介護保険の主治医意見書や介護保険認定調査票といった「公文書」である。とくに後者は詳細で、金銭の扱いや契約に関わる能力も評価されている。それらがなければ、かかりつけ医の診療録や看護記録、デイサービスの連絡帳、さらには故人の日記や手帳、手紙なども有用な情報源となる。2. 当時の知的能力でわかる「契約・行為の難易度」だったか?意思能力は一律に決まるものではなく、「その行為の難易度」によっても左右される。今後施行予定の改正後見制度でも、まさにこの「行為の難易度に応じた判断力を有するか否か」が鍵となっている。たとえば、医師が「中等度の認知症」と考えたケースを例にとる。コンビニで買い物をするくらいなら問題なかろう。しかし、相続となると話は難しくなってくる。「不動産はすべて長男に、現金はすべて次男に、株券はすべて三男に譲る」という遺言書があったとする。もしそれらすべてが等価ならよいが、現実にはまずあり得ない。一見シンプルな分け方に見えても、子供の誰かが自分に有利になるように、知的能力が低下した被相続人を口説いた可能性も考えられるからだ。3. 当時の言動・状況のリアルな記録(動画・録音など)遺言書や高額な契約に関わる意思能力の有無が問われるケースでは、当時のリアルな記録(動画・録音など)が強力な証拠になり得る。筆者の自験例では、弁護士の立ち会いのもと、自分の言葉でしっかり意図を話している様子を動画と音声で記録し、それを証拠として提出して有効だったことがある。これに比べると証拠能力は劣るものの、写真・日記・メモ・家族の証言なども役立つ可能性がある。4. 契約内容の「合理性」「なぜその選択をしたのか?」という動機や背景の自然さも大切だ。判決文ではよく「合理的」という言葉が使われる。たとえば2人兄弟で、長男はこれまで親の世話をせずに、被相続人のお金を少なからず使った。対して次男は、夫婦でよく面倒をみて自分のことを支えてくれて、経済的依存もなかったとする。この状況で「次男への贈与を厚くする」という遺言なら「合理的」だろう。逆に、そのような長男であると判明しているにもかかわらず、「長男に厚く遺産を譲る」としていれば、不自然であり合理的とは思えない。 今回は、主に故人となった人の生前の意思能力の判定におけるポイントについて述べた。なお実際のケースによっては、HDSRやMMSEの得点と意思能力の判定結果が必ずしも一致せず、乖離することもあり得ることを付け加えておきたい。 1) 法務省. 成年後見制度・成年後見登録制度 2) 法務省. 「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について. 令和8年6月30日 3) 厚生労働省. 成年後見制度の見直し等について. 令和8年1月19日

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日本における若年性アルツハイマー病の診断遅延の現状

 若年性アルツハイマー病の診断には、高齢発症アルツハイマー病と比較し、特有の課題がある。しかし、日本における診断に至るまでの経過については、これまで明らかになっていなかった。新潟大学の春日 健作氏らは、日本において若年性アルツハイマー病と高齢発症アルツハイマー病の症状から診断までの期間を比較して、診断までの期間に影響を及ぼす要因を調査した。BMC Neurology誌オンライン版2026年7月9日号の報告。 2011年4月~2023年3月に、日本国内の参加施設においてアルツハイマー型認知症の可能性が高い(probable AD dementia)、アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI due to AD)またはそれに準ずる診断を受けた18~79歳の患者を対象とした。発症年齢に基づき、65歳未満を若年性アルツハイマー病、65歳以上を高齢発症アルツハイマー病と定義した。対象となる若年性アルツハイマー病患者79例および高齢発症アルツハイマー病患者59例が登録された。 主な結果は以下のとおり。・主要エンドポイントである症状発現から診断までの期間の平均値は、若年性アルツハイマー病で138.3±91.0週、高齢発症アルツハイマー病で99.6±81.5週であった(p=0.011)。・症状発現から最初の医療機関受診までの期間は、若年性アルツハイマー病で89.0±74.2週、高齢発症アルツハイマー病で57.6±71.5週であった(p=0.024)。・最初の医療機関受診から診断までの期間については、両群間で差は認められなかった。 著者らは「日本において、若年性アルツハイマー病は高齢発症アルツハイマー病よりも診断に至るまでの期間が長いことが明らかとなった。症状、地域差、医療アクセスが、診断までの期間に影響を及ぼした可能性がある。したがって、非高齢者を含め、アルツハイマー病および早期受診の必要性に関する認識を高めることが重要である」と結論付けている。

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【GET!ザ・トレンド】チーム医療で心臓も家族も診る、ジストロフィン異常症の最前線(後編)

前編では、大規模コホートからみえた各臓器症状の「乖離」や、微小変異における重症化リスクのリアルをお伝えした。後編となる今回は、「なぜ特定の筋肉が選択的に障害されるのか」という分子メカニズムの深層に、われわれのベッカー型筋ジストロフィー(BMD)モデルマウス研究から得られた最新の知見を交えて迫りたい。さらに、血清CK値に代わる注目の次世代バイオマーカー「尿中タイチン」の可能性、そしてわれわれ医療コミュニティが今こそ認識を改めるべき、患者を支える家族を含めた「包括的な診療アプローチ」の重要性について解説する。3. 分子病態へのアプローチ:なぜ特定の筋肉が選択的に萎縮するのか?日常診療でBMDを診ていると、「なぜ全身の筋肉が一様ではなく、大腿四頭筋など特定の筋肉から選択的に萎縮・障害されるのか(=骨格筋内における障害の選択性)」という大きな疑問が浮かぶ。われわれの研究グループは、この臨床の問いに対し、異なるエクソン領域を欠失させた3種のBMDモデルマウス(exon 45-47欠失、exon 45-48欠失、exon 45-49欠失)を樹立し、その分子メカニズムの一端を解き明かした4)。幼少期から老年期まで時間を追ってこれら3種のマウスを解析した結果、いずれも「イン・フレーム欠失」でありながら、欠失部位の違いによって病態の重症度に「d45-49>d45-47>d45-48」という序列(進行速度の差)があることが実証された。このマウスで観察された進行速度の序列は、実際のヒトの臨床における「exon 45-49欠失(早期進行型)」、「exon 45-47欠失(時に重症化)」、「exon 45-48欠失(比較的軽症)」という表現型の傾向(重症度グラデーション)に矛盾しない。このグラデーションを生み出す背景には、筋組織の破綻へと至る、以下の一連の病態機序が存在すると考えられる。まず、遺伝子欠失によるジストロフィン結合部のミスマッチ(不安定化)の度合いに応じて、筋形質膜に存在する、血管拡張酵素である神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)の発現が低下する。この発現低下が、結果として筋線維の周囲を取り囲む毛細血管の減少(Capillary change)を招き、筋肉に慢性的な局所血流障害をもたらす。骨格筋傷害は、運動時の機械的ストレスのみならず、この血流障害も重なって引き起こされる。その複合的な病態機序を下図にまとめた。画像を拡大するこの虚血ストレスは重症度の高いd45-49やd45-47のモデルにおいてきわめて顕著であり、主要な好気的代謝を行う「タイプIIa筋線維(速筋)」の選択的な減少・減衰(Decay)と変性・萎縮を誘発していたのである。すなわち本研究は、遺伝子の欠失パターンの違いが毛細血管の維持・減少に関与し、重症度を決定づける要因の1つであることを科学的に裏付けた形だ。そして、この骨格筋の解析から得られた「毛細血管の減少と局所血流障害」という病態グラデーションは、骨格筋症状とは独立して心筋症が重症化していく臨床像を説明する重要なエビデンスにもなる。以前のインタビュー(『【GET!ザ・トレンド】 循環器内科医が救う、筋ジストロフィー患者の予後』)でも指摘したとおり、BMDは「原因不明の心筋症として治療される中で、ジストロフィン異常症という背景が見落とされやすい」という課題がある。24時間休むことなく拍動し、全身で最も高密度の毛細血管網(血流供給)を必要とする心筋は、この毛細血管の減少に伴う慢性的な虚血ストレスに対して、骨格筋よりも脆弱である。そのため、運動制限などによって見た目の骨格筋症状が「軽症」に保たれていても、血流障害が生じている心臓は耐えきれずに重症化すると考えられる。この知見は、未来のBMD治療において、従来の「筋細胞そのものの保護」だけでなく、遺伝子型に応じた「血管や局所血流をターゲットにした包括的なアプローチ(血管標的療法)」を組み合わせる多角的な戦略が、有効な一手になる可能性を示唆している(下図)。現在、根本的な治療法がないBMD患者に対し、こうした多角的なアプローチが次なる展開につながることを期待している。画像を拡大する4. 診断と評価のアップデート:CKに代わる「尿中タイチン」という次世代バイオマーカー骨格筋の保護薬の開発が進む中で、日常診療において病勢をどう評価するかという問題もアップデートが必要だ。長年使われてきた血清CK値は、患者の運動量によって激しく変動し、筋容量が減少した進行期にはむしろ低下してしまうため、筋疾患における正確な病勢の指標になりにくいという欠点があった。ここで臨床現場への導入が期待されるのが、筋構造タンパク質タイチンの代謝産物である。近年、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)において「尿中タイチン(タイチンN末端断片)」が高感度なバイオマーカーとして注目されているが、これがBMD患者123例の大規模コホートにおいても、臨床重症度を反映することが日本の共同研究チームによって示された5)。タイチンは心筋や骨格筋の収縮を支える巨大タンパク質であり、その崩壊に伴って尿中に排泄される断片量は、いわば筋崩壊の活動性(病勢)をリアルタイムに反映する指標となる。本研究により、尿中タイチン値は、BMD患者の歩行能力の維持状態や筋力低下、ならびに心筋傷害マーカーである高感度心筋トロポニンT(hs-cTnT)や心不全マーカーの数値と有意に相関し、迅速な対応が求められる心筋のダメージ総量を反映していることが明らかとなった。「採尿」という非侵襲的な検査で、心筋症の進行リスクや骨格筋の変性度をタイムリーに追えるメリットは、患者の負担を減らし、BMDの疾患マネジメントのあり方を大きく変える可能性を秘めている。ただし、日常診療へ組み込むためには、まだいくつかの課題が残されている。最大のハードルは、検査として一般に利用可能となるための「保険適用」だ。現状、尿中タイチンの測定は一部の高度専門医療・研究機関での研究や自費診療の枠組みを中心に行われており、ルーティン検査としてオーダーできるようになるには、もう一段階の制度的・技術的なブレイクスルーが必要とされている。5. 家族を診る:女性ジストロフィン変異保有者(患者の母親・姉妹)に潜む心筋症リスク新薬開発への期待が高まる裏で、われわれ医療コミュニティは「患者を支える家族」の健康リスクにも目を向ける必要がある。当センターを含む共同研究チームが行ったクロスセクショナル研究は、DMD/BMD患者の主介護者36人(平均55.7歳、その83.3%に当たる30人が母親)を対象に、介護負担度(Zarit介護負担尺度:ZBI)と身体症状を調査した6)。調査の結果、主介護者全体の平均ZBI合計スコアは20.9点であった。主介護者のうちキャリア(変異保有)確定は52.8%(19人)、未確定は38.9%(14人)だが、両者の負担感には明確な差がみられた。ZBIで「中程度の介護負担」の基準となる25点以上の割合は、未確定の介護者に比べ、キャリア確定者において有意に高かったのである(p=0.04)。以前のインタビュー(『【GET!ザ・トレンド】 循環器内科医が救う、筋ジストロフィー患者の予後』)でも触れたとおり、母親らは「わが子に遺伝させてしまった」という深い心理的葛藤に加え、患者が学習障害や発達障害などを伴うケースでは、そこから生じる社会的困難も一人で抱え込みがちだ。これら精神的・社会的負担に加え、今回の研究では、遺伝学的な確定状況にかかわらず、彼女たち自身の35人中19人がすでに何らかの骨格筋または心臓の症状を有し、25人中21人で血清CK値の上昇が確認された。つまり、彼女たち自身も「ジストロフィノパチーの身体的リスクの当事者」であるという看過できない現実が示されている。そのようなリスクを抱えながらも、自身の健康管理のために定期的な健康診断を受けているのは半数(50.0%)にとどまり、残る半数は健診の機会を持てていない。また、健診を受けている半数についても、一般的な健診メニューだけでは潜在する心筋症リスクの完全な把握や、健診項目に含まれないCK値の評価は難しく、確実なリスク管理には循環器内科などでの専門的なフォローアップが不可欠となる。主介護者である母親は、患者であるわが子の付き添いで通院していることが多いが、主治医(小児科や脳神経内科)の視線は患者本人に集中し、隣に座る母親のリスクは見落とされがちだ。われわれはこの認識を改め、家族に対しても適切な遺伝カウンセリングや循環器内科への受診を主体的に促す「家族をも視野に入れた包括的な診療アプローチ」を実践していく必要がある。DMD/BMDの診療は、女性変異保有者の心機能チェックまでをシームレスにつなぐ多職種連携を構築して初めて、真の実効性を持つと考える。結語:明日からの診療に活かしたいポイント前編の冒頭に記載のある、グローバル製薬企業における筋ジストロフィー事業買収に象徴されるように、この領域への関心は確実に高まっている。だからこそ、現場の医師には「BMDはDMDに比べて軽症」という言葉に惑わされない先見的かつ包括的なアプローチが求められる。循環器内科との他科連携:遺伝子型から予測される骨格筋や呼吸機能の予後にかかわらず、全例において循環器内科との緊密な連携による定期的な心機能評価を徹底し、必要に応じた早期の心保護薬による介入を進める。中枢神経症状への早期対応と専門機関への橋渡し:骨格筋症状が軽微であっても、発達遅滞や学習障害などの高次脳機能障害に注意を払い、小児科、脳神経内科、精神科、療育などの専門医療機関へ早期につなぐゲートキーパーとしての役割も担う必要がある。遺伝学的評価における微小変異の確認:代表的なエクソン欠失がない症例であっても、C末端側の微小変異を見逃さない遺伝学的評価の重要性を認識し、正確なリスク評価につなげていく。家族(母親・姉妹)への目配りと多職種による包括ケア:目の前の患者本人だけでなく、それを支える母親などの女性変異保有者の潜在的な心筋症・骨格筋リスクに注視する。認定遺伝カウンセラーやソーシャルワーカーらとも協働し、家族に対しても自ら循環器内科などへの受診勧奨や適切な遺伝カウンセリングを行う「チーム医療」を実践する。新たな治療の選択肢が現実味を帯びてくる今だからこそ、集積されたエビデンスをいち早く日常臨床に還元する姿勢が、われわれすべての医師に求められている。(聞き手:ケアネット 三浦 愛子)<<前編に戻る 参考 1) Servierプレスリリース(2026年6月1日公開) 2) Nakamura A, et al. Ann Clin Transl Neurol. 2023;10:2360-2372. 3) Nakamura A, et al. Neurol Genet. 2025;11:e200215. 4) Miyazaki D, et al. eLife. 2025;13:RP100665. 5) Awano H, et al. Clin Chim Acta. 2025;566:120053. 6) Ishizaki M, et al. Intern Med. 2024;63:365-372.

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「よく転ぶようになった」と言う80歳女性、現処方6剤のうち見直すべきは?【高齢者処方のデザイン】第5回

【症例】患者80歳・女性80歳女性。10年前にうつ病と診断され、前医からアミトリプチリン50mg/日を継続投与されている。既往に高血圧、軽度認知機能低下、脂質異常症、変形性膝関節症、10年前からの便秘症があり、降圧にヒドロクロロチアジド(HCTZ)12.5mgとアムロジピン5mg、便秘に酸化マグネシウム 約1.0g/日、脂質異常症にアトルバスタチン10 mg、変形性膝関節症の疼痛時にアセトアミノフェン500mg 頓用が処方されている。家族に付き添われて来院し、「半年で2回転倒した」「口がいつも乾く」「便が出にくい」「立ちくらみがする」と訴える。本人は「最近忘れっぽい」と自覚するが、抑うつ症状は安定している。診察上、臥位血圧138/82に対し起立3分で108/64と起立性低血圧を認め、脈拍上昇は乏しい。eGFR 55、Na 138、K 3.9、ALT 21、補正Ca 9.2。MMSE 24/30。【Before:前医の処方箋】A)アミトリプチリン 25mg 1日2回 朝食後・就寝前B)ヒドロクロロチアジド 12.5mg 1日1回 朝食後C)アムロジピン 5mg 1日1回 朝食後D)酸化マグネシウム 330mg 1日3回 毎食後E)アトルバスタチン 10mg 1日1回 夕食後F)アセトアミノフェン 500mg 疼痛時頓用A)アミトリプチリン 25mg 1日2回 朝食後・就寝前B)ヒドロクロロチアジド 12.5mg 1日1回 朝食後C)アムロジピン 5mg 1日1回 朝食後D)酸化マグネシウム 330mg 1日3回 毎食後E)アトルバスタチン 10mg 1日1回 夕食後F)アセトアミノフェン 500mg 疼痛時頓用この6剤の中で、まず見直すべき薬はどれか? 1) 2023 American Geriatrics Society Beers Criteria Update Expert Panel. J Am Geriatr Soc. 2023;71:2052-2081. 2) Boustani M, et al. Aging Health. 2008;4:311-320. 3) Coupland C, et al. BMJ. 2011;343:d4551. 4) Mori H, et al. J Clin Biochem Nutr. 2019;65(1):76-81. 5) Musini VM, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014;2014:CD003824. 講師紹介

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健康的な脳の老化にはDHAが重要~EPAとの比較

 高齢者では脳萎縮が認知機能低下に先行することが多いため、脳構造の評価は神経保護の中間バイオマーカーとなる。近年、n-3系多価不飽和脂肪酸(PUFA)、とくにドコサヘキサエン酸(DHA)の血中濃度は、脳の構造的完全性との関連が示唆されている。しかし、魚の摂取量が多く、n-3系PUFA濃度がかなり高い日本人のデータは少なく、また、脳構造との関連でDHAとエイコサペンタエン酸(EPA)を比較した研究はほとんどない。今回、滋賀医科大学NCD疫学研究センターの近藤 慶子氏らが、高齢日本人女性においてEPA、DHA、EPA+DHAの血清濃度と脳容積の関連を検討したところ、DHAはEPAよりも灰白質容積との関連が強く、EPAとの関連は限定的なことがわかった。Journal of Nutrition誌オンライン版2026年7月25日号に掲載。 本研究は、滋賀県草津市在住の60~85歳の女性527人(平均年齢:74.2歳)を対象した横断研究である。EPAおよびDHAの血清濃度をガスクロマトグラフィー法により測定した。脳容積(全脳・灰白質・白質・海馬の容積)は、1.5テスラ磁気共鳴画像法を用いて評価した。共分散分析を行い、EPA、DHA、EPA+DHA濃度の四分位に基づいて調整した脳容積の平均値を比較した。共変量には年齢、全頭蓋内容積、BMI、教育年数、喫煙・飲酒状況、歩数、糖尿病、高血圧、スタチン使用を含めた。 主な結果は以下のとおり。・血清DHA濃度は灰白質容積と有意な正相関を示した(傾向のp=0.036)が、血清EPA濃度は相関が認められなかった。EPA+DHA濃度は灰白質容積と正相関の傾向を示した(傾向のp=0.085)。・EPA、DHA、EPA+DHAの血清濃度と、白質容積、全脳容積、海馬容積との間には有意な関連は認められなかった。 今回の結果から、著者らは「DHAが豊富な食事が健康的な脳の老化にとって重要であることが裏付けられた」と結論している。

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