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1.

感染症は認知症リスク上昇と関連しているのか

 感染症が認知症リスクに及ぼす影響については、生物学的加齢の加速による影響との比較において、どの程度なのかは明らかではない。中国・北京大学のRuoxi Ding氏らは、感染症と認知症の関連性を評価し、生物学的加齢の加速が感染症と認知症リスクの関係を修飾するかどうかを検討した。Brain, Behavior, and Immunity誌2026年10月号の報告。 2006~10年の英国バイオバンク・コホートデータより抽出された37~73歳の参加者33万9,463例を対象とし、プロスペクティブ研究を実施した。入院治療を受けた感染症と認知症の既往は、医療記録統計およびスコットランド疾病記録との連結によって特定した。入院治療を受けた感染症と認知症発症リスクとの関連性を評価するために、Cox回帰モデルを用いた。表現型年齢は、米国国民健康栄養調査(NHANES)IIIのデータを用いて開発された検証済みの死亡リスクアルゴリズムから算出した。感染症と認知症(すべての原因による認知症、若年性認知症、血管性認知症、アルツハイマー病)との関連性を評価するため、Cox比例ハザードモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・13.51年のフォローアップ期間中に、5,638例の認知症の新規発症が確認された。・入院治療を受けた感染症は、認知症リスクの増加と有意な関連が認められた(ハザード比[HR]:2.39、95%信頼区間[CI]:2.25~2.53)。・病原体の種類、臨床的重症度分類、解剖学的部位にかかわらず、一貫したパターンが認められ、ほとんどの感染症が若年性認知症リスクの増加と有意に関連していた。・この影響は、APOEε4保有者と非保有者の両方において、また認知症のサブタイプや社会人口統計学的グループ間でも一貫して認められた。・表現型年齢と感染症の相互作用は、認知症リスクと有意な関連を示した(HR:1.20、95% CI:1.06~1.37)。このことは、表現型年齢加速状態によって判断される生物学的に高齢な人ほど、感染症関連入院と認知症発症との関連が強いことを示している。 著者らは「感染症は、アルツハイマー病、血管性認知症、若年性認知症を含むすべての認知症リスクの増加と関連しており、表現型年齢加速は感染症と認知症の関連性をさらに強めている。APOEε4保有状態は、感染症と認知症の年齢層別関係および表現型年齢加速の調整効果の両方を修飾すると考えられる。今回の研究結果は、認知症予防のための潜在的な戦略として、感染予防と抗老化介入の重要性を強調するとともに、戦略設計の際には、APOEε4遺伝子保有状況と年齢層別化を考慮する必要があることを示唆している」としている。

2.

再発性多発性硬化症、リツキシマブvs. ocrelizumab/NEJM

 疾患活動性が認められる再発性多発性硬化症(MS)患者において、疾患活動性の抑制(治療開始後6~24ヵ月のMRIにおける評価)に関して、リツキシマブのocrelizumabに対する非劣性が示され、重篤な有害事象の発現頻度は同程度であった。ノルウェー・Haukeland University HospitalのOivind Torkildsen氏らOVERLORD-MS Investigatorsが、第III相無作為化二重盲検多施設共同非劣性試験「OVERLORD-MS試験」の結果を報告した。再発性MSに抗CD20モノクローナル抗体は有効だが、これまで直接比較のエビデンスは観察研究のデータに限られていた。NEJM誌2026年7月2日号掲載の報告。6~24ヵ月のMRIで新規病変/病変拡大が非検出の患者の割合で評価 OVERLORD-MS試験は、年齢18~60歳で、直近12ヵ月に再発性MSの再発を診断され、炎症性の疾患活動性の症状(直近12ヵ月に1回以上の臨床的再発、またはMRI上で認められた1つ以上の新規病変/病変拡大で定義)を示し、EDSSスコア0~4.0(スコア範囲:0~10、高スコアほど障害の程度が大きいことを示す)であった患者を対象とした。 研究グループは、被験者をリツキシマブまたはocrelizumabの投与を受ける群に3対2の割合で無作為に割り付け、6ヵ月ごとに24ヵ月間治療した。 主要エンドポイントは、治療開始後6~24ヵ月のT2強調MRIにおける新規病変または病変拡大が認められなかったこととした。非劣性の定義は、リスク群間差(リツキシマブ-ocrelizumab)の95%信頼区間(CI)下限が-10%ポイント以上とした。副次エンドポイントには、有効性および安全性などが含まれた。リツキシマブ群92.2%、ocrelizumab群94.8%で非劣性を確認 2020年11月~2022年11月に218例が無作為化され、216例が治療を受けた(リツキシマブ群132例、ocrelizumab群84例)。 治療開始後6~24ヵ月にT2強調MRIにおける新規病変/病変拡大が認められなかった患者の推定割合は、リツキシマブ群92.2%、ocrelizumab群94.8%であった。リスク群間差は-2.6%ポイント(95%CI:-9.4~4.3)であり、事前に規定した非劣性基準を満たした。 再発率、障害アウトカム、および認知機能プロファイルは、両群間で同様であった。 感染症は、リツキシマブ群(82%)でocrelizumab群(69%)より多く認められたが、重篤な有害事象の発現頻度は同程度であった(それぞれ8%と7%)。

3.

レトロなビデオゲームが脳卒中後の上肢の機能を改善か

 脳卒中患者の上肢(腕、手)の機能回復に、1990年代スタイルのレトロなゲームが役立つ可能性があるようだ。スクリーン上のヘリコプターを操縦して動くターゲットを攻撃するなどのタスクを行うビデオゲームを通して脳卒中患者の筋肉を再訓練することで、脳卒中後に見られる筋の同時収縮パターンが減少し、上肢機能が改善する可能性が示された。米ノースウェスタン大学神経学・神経科学教授のMarc Slutzky氏らによるこの研究の詳細は、「Neurorehabilitation and Neural Repair」に6月8日掲載された。 脳卒中により脳がダメージを受けると、脳からの運動シグナルが乱れて筋肉の協調性が低下し、異常な同時収縮が起きるようになる。そのため、上腕二頭筋が誤ったタイミングで収縮してしまい、肘をまっすぐ伸ばした状態で腕を前方へ伸ばすことが難しくなるという。 今回報告されたビデオゲームは、この異常な同時収縮を減らすことを目的に開発された、神経リハビリテーション用筋電インターフェース(myoelectric interface for neurorehabilitation;MINT)を用いたシステムである。MINTシステムでは、機能障害がある側の腕に装着した小型デバイスが、筋肉を動かす際の電気的活動を筋電図(EMG)として測定する。プレイヤー(脳卒中患者)が動かすカーソルは、このデバイスにより測定されたEMGを基に制御される。例えば、上腕二頭筋はカーソルを右に、三角筋はカーソルを上に動かす。一方、これらの筋肉が同時に収縮すると、カーソルは斜めに動く。この仕組みにより、異常な同時収縮が見られる筋群について、それぞれの筋肉を個別に活動させる訓練が行われる。 今回の研究では、脳卒中患者を、MINTシステムで2筋または3筋を個別にコントロールする訓練を行うMINT群と、1種類の筋肉のみを使用する対照群にランダムに割り付け、MINTシステムの実行可能性と有効性を検討した。MINT群は、1日90分、週6日間の訓練を、2〜3週間おきに訓練する筋肉を切り替えながら行った。 その結果、3筋をコントロールする訓練を行ったMINT群でのみ、脳卒中後の上肢機能の評価尺度であるWMFT(ウルフ・モーター・ファンクション・テスト)が6週間で約6.8秒有意に改善した。そのほかの群では、有意な改善は認められなかった。MINT群全体では4.1秒の改善が認められた。さらに、プロトコル通りに介入を受けた参加者を対象に解析すると、3筋制御群では対照群と比較して、WMFTが7.5秒有意に改善していた。また、筋の同時収縮の低下と上肢の運動機能の改善との間に有意な関連が認められた。 Slutzky氏は、「われわれは今回、従来とは異なるアプローチで研究を実施した。脳卒中患者の上肢の障害に対する直接的な治療を行い、特定の動作ができるようになるかどうかだけでなく、上肢機能そのものがどの程度改善するのかを測定した。その結果、われわれの訓練が実際に患者に改善をもたらしたことが分かった」と言う。 しかも、参加者たちはゲームを楽しんでいたという。ある参加者はアンケートで、「体験全体が楽しく、有益だった」と回答していた。また、「間違いなくこのゲームから身体的にも精神的にも良い影響を受けた」と回答した参加者もいた。 研究グループは現在、このゲームに用いるウェアラブルデバイスのワイヤレス化を進めるとともに、ゲームをより魅力的にするための改良に取り組んでいる。また、このアプローチを脳卒中患者の下肢の機能回復にも応用できるかどうかを検証する計画もあるという。

4.

第68回 ゴールを守るか、頭を守るか。W杯でも活躍するサッカー選手の「その後」が教えてくれること

サッカーワールドカップがアメリカで開幕し、こちらニューヨークでも街のあちこちで歓声が上がっています。選手たちの華麗なプレーに見とれながら、医師という立場からはこんなことにも気が向いてしまいます。ピッチの上で輝いた選手たちは、その後の人生を健康に過ごせているのだろうか。実は近年、この問いに真正面から答えようとした大規模な研究が複数発表され、少し意外な、そして考えさせられる結果が明らかになっています。まず朗報から。選手はむしろ「長生き」だったまず、最初にお伝えしたいのは、明るいニュースです。英国スコットランドの元プロサッカー選手7,676人を、年齢や社会的背景をそろえた一般の人2万3,028人と比べた研究では、選手たちは70歳になるまでの死亡率がむしろ低い、という結果が出ています1)。とくに「虚血性心疾患」で亡くなるリスクは2割ほど低く、肺がんによる死亡に至っては約半分でした。若い頃から体を鍛え、走り続けてきた人生が、心臓や血管を守ってくれたのでしょう。運動が健康に良いという、私たちがよく知る事実はここでも裏付けられたわけです。ところが、認知症などの脳の病気に目を向けると、風向きが変わります。同じ研究で、神経変性疾患が主な死因となった人の割合は、一般の人が0.5%だったのに対し、元選手では1.7%。統計的に調整すると、そのリスクはおよそ3.5倍に上りました。病気の種類ごとに見ると差はさらにはっきりし、アルツハイマー病では約5倍、パーキンソン病でも約2倍でした。認知症の治療薬が処方される頻度も、元選手では約5倍多かったのです。長生きした先で、脳という別の臓器が思わぬ代償を払っていた。そう読み取れる結果でした。興味深いのは「守備位置による差」ではなぜ、脳にだけこうした影響が出るのでしょうか。ここで多くの方が「なるほど」と膝を打つのが、続いて発表された研究です。同じ選手たちをポジションごとに分けて調べたところ、神経変性疾患のリスクはポジションによってはっきり異なっていました2)。最もリスクが高かったのはディフェンダーで一般の人の約5倍、ミッドフィルダーが約4.6倍と続き、フォワードは約2.8倍でした。一方で、ゴールキーパーはわずか約1.8倍にとどまり、統計的には一般の人と差があるとは言い切れないレベルだったのです。この違いを説明する最有力の候補が「ヘディング」です。ボールを頭で受ける回数は、フィールドを走り回る選手ほど多く、ゴールキーパーではごくまれです。実際、プロとしての現役期間が15年を超える選手では、リスクが約5倍まで高まっていました。つまり、頭部への衝撃を繰り返し受けた「量」がカギを握っている可能性があるのです。ボールを頭で受けるか、それとも手でキャッチするか。その差が、何十年も先の脳の健康につながっているのかもしれません。私たちがここから学べること誤解しないでいただきたいのは、これは「サッカーは危険だからやめましょう」という話では決してない、ということです。運動がもたらす心臓や血管への恩恵は本物ですし、これらはあくまでトップレベルで長年プレーした選手を対象にした観察研究で、原因を確定できたわけでもありません。それでも、こうしたエビデンスを考えると、選手たちの繰り返す頭部への衝撃を減らす工夫(たとえば育成年代でのヘディング制限など)には、十分な意味がありそうです。1)Mackay DF, et al. Neurodegenerative disease mortality among former professional soccer players. N Engl J Med. 2019;381:1801-1808.2)Russell ER, et al. Association of field position and career length with risk of neurodegenerative disease in male former professional soccer players. JAMA Neurol. 2021;78:1057-1063.

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日本人片頭痛患者に対する3年間の抗CGRP抗体継続治療、その有用性は

 抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)抗体については、治療期間が24ヵ月を超える長期的な実臨床のデータが乏しく、とくに治療継続率や目標達成後の計画的中止に関するデータは不足している。昭和医科大学の笠井 英世氏らは、実臨床における3年間にわたる抗CGRP抗体の有効性および安全性を評価するため、単施設レトロスペクティブ研究を実施した。Frontiers in Neurology誌2026年5月13日号の報告。 対象は、2021年5月~2022年6月にガルカネズマブまたはフレマネズマブ(月1回/四半期ごと)の投与を開始した15歳以上の連続患者であった。具体的には、国際頭痛分類第3版(ICHD-3)の基準に基づき、発作性片頭痛(EM:1ヵ月当たりの頭痛日数15日未満)、高頻度発作性片頭痛(HFEM:1ヵ月当たりの頭痛日数8~14日)、慢性片頭痛(CM:1ヵ月当たりの頭痛日数15日以上)の患者を含めた。評価項目には、1ヵ月当たりの片頭痛日数(MMD)、片頭痛評価尺度(MIDAS)、頭痛影響テスト(HIT-6)、視覚アナログ尺度(VAS)が含まれ、これらをベースライン時および1、3、6、12、36ヵ月時点で評価した。奏効率(50%以上、75%以上、100%)および治療継続/中止の理由は、事前に規定された解析および感度分析を用いて要約した。主なサブグループ解析は、事前に規定し、EM群とHFEM+CM群に分けて解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時、50例が解析対象に含まれた(平均年齢:42.5歳、女性の割合:88%)。・3年間治療を継続した患者は、50例中28例(56%)であった。・治療を継続した患者群では、36ヵ月時点でのMMDが12.0±5.4から5.6±5.4に減少し、MIDAS、HIT-6、VASスコアも同様の改善が認められた(各々、p<0.01)。・奏効率は持続していた(36ヵ月時点で50%以上:55.6%、75%以上:29.6%、100%:11.1%)。・治療中止は、目標達成後の治療完了によるものが24%であり、有害事象による中止は認められなかった。 著者らは、「3年間にわたり、抗CGRP抗体は日常診療において持続的な予防効果と良好な忍容性を示し、治療継続、計画的中止、治療レジメン選択に関する個別化された意思決定を支援した」としている。

6.

トマトに認知機能改善効果は期待できるのか?

 トマトは、血液脳関門を通過して抗酸化作用と抗炎症作用を発揮するカロテノイドであるリコピンの主要な供給源である。しかし、健康成人におけるトマト摂取が認知機能に及ぼす影響は、依然として不明であった。スペイン・バルセロナ大学のRicardo Lopez-Solis氏らは、濃縮トマトペーストが認知機能に及ぼす影響を評価し、脳由来神経栄養因子(BDNF)や脳機能結合などの潜在的なメカニズムを検討した。Antioxidants誌2026年5月19日号の報告。 40~55歳の健康成人47人を対象に、ランダム化2期クロスオーバー試験を実施した。対象者は、3ヵ月間の濃縮トマトペースト(体重1kg当たり0.5g/日)摂取と3ヵ月間のリコピン制限食摂取を、1ヵ月間のウォッシュアウト期間を挟んでランダムな順序で実施するよう割り付けられた。認知機能は、検証済みの神経心理学的検査(d2-R、顔・名前連想記憶検査、修正ウィスコンシンカード分類テスト)用いて評価した。加えて、血漿リコピンおよびBDNF濃度、安静時機能的磁気共鳴画像法(fMRI)による評価も行われた。 主な結果は以下のとおり。・42人が研究を完了した。・トマト摂取は、選択的注意(集中力:+7.2ポイント、処理速度:+8.3ポイント)および連想記憶(顔・名前照合:+0.8ポイント)を改善した。・血漿BDNF濃度は、トマト摂取によりボーダーラインの増加を示した(平均差:15.2ng/mL)。・安静時fMRIでは、脳ネットワークの変化(前頭頭頂ネットワークおよび聴覚ネットワークの接続性の低下)が認められた。これは、対照期間における背側注意ネットワークの接続性の低下とは対照的であった。 著者らは「これらの結果は、トマト摂取が健康な中年成人の認知機能をサポートし、脳の接続性を調節する可能性を示唆するものである」としている。

7.

無意識に使う「けいれん」【脳がととのう 神経内科学講座】第3回

<今回のモヤっとPoint>けいれんの守備範囲はとても広いけいれん≠てんかんはじめに臨床現場では「けいれんでした、てんかんでしょうか?」というフレーズをしばしば見聞きします。もちろん、けいれんを引き起こす代表疾患にてんかん(epilepsy)がありますが、けいれんしたからといって、てんかんとは限りません。けいれんは症候名であり、てんかんはその原因疾患の一つに過ぎないのです。また、そもそも「けいれん」とはどのような状況をさしているのでしょうか? 実は、けいれんは非常に幅のある用語なので、もしかすると各々のイメージするそれとはちょっとずつズレがあるかもしれません。まさにコミュニケーションエラーになりやすい曖昧な用語といえます。ちなみに筆者のようなてんかん専門医が「けいれん」と表現するときは、主に典型的な強直間代発作をイメージする時が多いのですが、これはみなさんと共通しているでしょうか? もし、ズレを感じているようであればここで整理しておきましょう。けいれんとはけいれんとは、自分の意思とは関係なく、筋肉が勝手に激しく収縮する症状のことです。つまり症候名です。ガクガクと激しい筋収縮を繰り返す症候を「けいれん」と表現します。そして、このけいれんが大脳皮質の過剰興奮によって発生しているものがいわゆる「けいれん発作」であり、英語表記ではconvulsionやconvulsive seizureと呼びます。ERに搬送されてくる「痙攣重積」の正式な用語としては、痙攣性てんかん重積状態(convulsive status epilepticus:CSE)です。ちなみに、明らかなけいれんを伴わないてんかん重積状態を非痙攣性てんかん重積状態(NCSE)と呼びます。一方で、同じ「けいれん」という症状でも、そのoriginが大脳皮質ではなく、末梢の神経や筋肉に由来して発生することもあり、その場合にはcramp(クランプ)やspasm(スパズム)などと表現します。Crampは有痛性筋痙攣などをさします。これらは中枢神経由来ではないので、不随意運動の範疇として捉えます。Spasmも日本語では「けいれん」なのですが、眼瞼攣縮(blepharospasm)や顔面痙攣(facial spasm)など、より限局的に発生しているときに用いることが多いです。ややこしいのですが、眼瞼攣縮は眼輪筋の不随意収縮により過剰な瞬目や閉瞼をきたす局所性ジストニアで、中枢由来の症候として理解されています。一方、同じ「目の周囲のピクつき」として訴えられることがあるものに「眼瞼ミオキミア(eyelid myokymia)」がありますが、それは下眼瞼にみられる細かく波打つような筋収縮が特徴で、末梢由来の現象です。「けいれん」と「痙攣」、どっちを使うべき?ところで、「けいれん」と「痙攣」、どちらの表記が正しいのでしょうか?答えとしては、どちらも間違いではありません。日本神経学会の用語集には漢字表記で示されています。一方で、日本てんかん学会の用語集はひらがな表記を採用しています。これは、ひらがなのほうがてんかんのある患者に対して伝わりやすく、また歴史的な偏見や漢字の硬さから伝わるイメージを避けるという文脈があります。よって、文脈や状況に応じて使い分けるとよいと思います。けいれん=てんかんではないまず前提として、けいれん≠てんかんです。そもそも、前述のように痙攣とは激しく収縮を繰り返す状態をさす症候名であって、対する「てんかん」は病名になります。具体的には、大脳皮質の過剰興奮により引き起こされる発作を慢性に再発性に繰り返す病態がてんかんです。よって、(発作そのものは急性に出現しますが)あくまでも、てんかんは発作を繰り返す『脳の慢性疾患』なのです。ただし、この大脳皮質の過剰興奮はてんかん以外でも引き起こされます。たとえば、脳出血など脳卒中による脳血管障害、あるいは髄膜炎などの中枢神経系感染症などでの急性病態に随伴して生じる急性症候性発作があります。急性期での一過性の発作なので、慢性に発作を繰り返すてんかんとは根本的に異なります。例えるなら、喘息発作(喘鳴)は咳喘息や薬剤性などの病態で一時的に出現しえますが、喘鳴があれば気管支喘息と診断しないのと同じです。真のけいれんとは国際抗てんかん連盟(ILAE)の発作型分類には「けいれん」という用語はありません。一般臨床で用いること自体は仕方ないとしても、けいれんの意味が曖昧であるため正式な発作用語としては採用されていないのです。では、けいれんに該当するような発作型分類には何があるかというと、強直発作(tonic seizure)間代発作(clonic seizure)ミオクロニー発作(myoclonic seizure)強直間代発作(tonic-clonic seizure)などです。そして、いわゆる大発作はこのうちの強直間代発作をさします。筋が急性に持続的に収縮して体が硬く突っ張るような状態になるものが強直発作です。ガクガクと激しく動くのではなく、一定時間、力が入りっぱなしになるのが特徴です。これに対して、間代発作は、筋の収縮と弛緩が繰り返されるもので、そこには一定のリズムがあり、ガクガクと反復する発作です。(図)けいれんミミック:心因性非てんかん発作とはけいれん発作のミミックに心因性非てんかん発作(Psychogenic nonepileptic seizure:PNES)という心因性の発作があります。PNESとは「てんかん発作に似た突発性の発作症状を示すものの、てんかん性機序では説明できない病態」です。けいれん様の激しい運動症状を呈するため、真のてんかん発作と誤認して対応してしまうこともまれではありません。両者の特徴の違いを表に記載していますが、専門医でも判断に迷うことはしばしばあります。(表)てんかん発作とPNESの違い画像を拡大する一番の鑑別ポイントは持続時間だと考えましょう。ダラダラと長続きするような発作はPNESの可能性が高いです。また、前述のように真の強直間代発作の間代発作ではリズムがありますが、PNESではリズムがなく、非同期性である点がポイントです。発作を目の当たりにした際には、手足の動きのリズムや同期性に着目してみてください。なお、PNESはてんかんの有無とは独立して存在しうるので、てんかんが除外されたからといってPNESとはなりませんし、真のてんかん発作にPNESが合併することもある点には留意しましょう。ところで、PNESという名称については再検討されつつあるんです。PNESという用語は広く用いられてきましたが、「psychogenic」や「non」という表現によって「器質的異常がなければ心因性である」という二元論的な理解につながるおそれや、患者へのネガティブな印象を与えるなど、用語に対する限界が指摘されてきました。そこで近年ではFDS(functional/dissociative seizures)として捉えるようになっており、日本語では「機能性発作」あるいは「解離性発作」などと表現できそうです。とくに、脳神経内科領域ではfunctional neurological disorder(FND、機能性神経障害)の概念が近年では市民権を得ており、FDSもその枠組みとして今後は理解されていくのではないかと思います。今回のスッキリ「けいれん」は診断名ではなく症候名、てんかんとも限らない「けいれん」は脳由来か末梢由来か表現を使い分ける1)日本てんかん学会編. てんかん学用語辞典 改定第2版. 診断と治療社. 2017.2)Hingray C, et al. Epilepsia. 2025;66:4162-4182.

8.

筆記動作が認知機能低下の手がかりに?

 筆記動作が、脳の老化の進行を示す手がかりになるかもしれない。新たな研究で、筆記に要する時間やストローク数などの時間的・運動学的特徴が、特に認知負荷の高い書き取り課題において、認知機能の程度と関連することが示された。研究グループは、筆跡解析が高齢者の認知機能低下を早期発見するための低コストの検査になり得るとの見方を示している。エヴォラ大学(ポルトガル)スポーツ健康学部のAna Rita Matias氏らによるこの研究結果は、「Frontiers in Human Neuroscience」に5月20日掲載された。 この研究では、介護施設で暮らす62〜92歳の成人58人を対象に、ストローク数や所要時間などの筆記の運動学的特徴から認知機能障害の有無を見分けられるのかが検討された。参加者のうち38人は、すでに認知機能障害と診断されていた。筆跡の運動学的特徴は複数の課題により評価された。まず、制限時間内に点を打ったり線を引いたりする課題により、ペン操作能力が評価された。さらに、デジタルペンとタブレットを用いて、文章を書き写す課題や、読み上げられた文章を書き取る課題を実施し、筆記速度やペン操作の特徴が解析された。 その結果、線や点を書く単純な課題や文章を書き写す課題では、認知機能障害の有無による有意な差は認められなかった。一方、読み上げられた文章を書き取る課題では、認知機能障害の有無により明確な差が認められ、認知機能障害のある高齢者では、書き始めるまでに時間がかかり、文字の縦方向の大きさが不安定で、筆記に要する時間も長い傾向が認められた。研究グループによると、読み上げられた文章の書き取りでは、脳が、音声を聞き取る、言語を処理する、聞き取った言葉を文字に変換する、手の動きを制御するといった複数の作業を同時に行う必要があるため、これらの機能が低下すると、筆記動作にも乱れが生じるという。 Matias氏は、「書くという行為は、単なる運動活動ではなく、脳の状態を映し出す窓である」と述べている。さらに同氏は、「認知機能障害のある高齢者では、筆記動作のタイミングや構成に特徴的なパターンが見られた。認知負荷の高い課題では、認知機能の低下が、時間の経過の中で筆記動作がどれだけ効率的かつ一貫して組織化されているかに現れることが示された」とニュースリリースで説明している。 こうした知見を踏まえ、Matias氏は、単純な筆記課題と低コストのデジタル機器の活用が、将来的には診療所などの日常的な医療現場で認知機能低下のモニタリングに役立つ可能性があるとしている。

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帯状疱疹、感染部位も認知症リスクに影響する可能性/日本皮膚科学会

 近年、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の罹患が認知症の発症リスクを上昇させる可能性や、帯状疱疹ワクチンの接種がそのリスクを低減させる可能性を示す研究が相次いで報告されている。下畑 享良氏(岐阜大学)らは、「VZVの罹患は認知症の危険因子か?」という臨床疑問を検討することを目的に、21論文を対象としてスコーピングレビューを実施1)。このレビューからみえてきたVZV罹患と認知症発症の関連や、ワクチンが及ぼす影響などについて、最新の研究結果も踏まえて下畑氏が第125回日本皮膚科学会総会で講演した。システマティックレビューではVZV罹患との関連を肯定・否定する報告が混在 下畑氏はまず、スコーピングレビューの対象論文に含まれた3編のシステマティックレビュー/メタ解析の結果について解説した。 1つ目の論文(対象9研究)では、VZV罹患は認知症発症のリスク因子であり、ハザード比(HR)は1.11であることが示された。さらに、VZV罹患後に抗ウイルス薬を使用した場合、発症リスクはHR:0.84となり、16%のリスク抑制効果が認められた。 2つ目の論文(対象6研究)は、帯状疱疹ワクチン接種歴が認知症発症率に与える影響を検討したものであり、ワクチン接種歴は認知症のオッズ低下と関連し、統合オッズ比は0.76であった。 一方、3つ目の論文(対象9研究)では、全体としてVZV罹患と認知症発症に関連は認められず(HR:0.99、p=0.89)、アルツハイマー病のバイオマーカー(アミロイドβなど)との関連性も確認されなかった。しかし、「眼部帯状疱疹」の罹患に関しては認知症と強く関連する(HR:6.26)ことが示されており、感染部位によるリスクの違いが注目される。 ただし、これらの研究はいずれも無作為化比較試験ではなく前向き試験は1つのみであることから、現状のエビデンスには限界があることも示されている。個々の検討から背景因子を探る システマティックレビュー/メタ解析以外の研究についてみると、VZV罹患と認知症発症率について検討した研究は12研究存在した。うちVZV罹患が認知症発症率を増加させるとしたのは6研究、増加させないとしたのは3研究、またVZV罹患が認知症発症率を低下させるとしたものも3研究存在した。下畑氏は、この背景にワクチンの公的補助の有無がある可能性を指摘し、VZV罹患が認知症の危険因子とはならなかった研究の実施国は公的補助があり、ワクチン接種率の高い国が多く、対象者の抗ウイルス薬の処方率が高い傾向があったことを指摘した。 ワクチン接種歴と認知症発症率について検討した6研究では、接種したワクチンの種類によらず、いずれも、VZVワクチン接種歴が認知症または認知機能障害の少なさと関連することを示した。 帯状疱疹発症後の抗ウイルス薬使用と認知症発症率の関係については、検討した4研究のうち3研究で、抗ウイルス薬の使用は認知症発症率を低下させると報告している。 VZVの感染部位に注目した研究では、VZV罹患後1年以内の認知症発症率は全体では増加しなかったが、脳神経感染がある場合にはHR:1.83、中枢神経感染ではHR:6.83というデータが報告されている。また、別の研究でも、皮膚に限局した感染者と比較して、眼部感染、中枢神経感染、複雑性感染者の場合ではいずれも認知症発症リスクが有意に上昇してHR:1.28~1.44と報告されている。一方で、1つの研究では、眼部感染でも認知症発症率の増加を認めなかった。基礎研究でみえてきたメカニズムとは VZV感染はどのようなメカニズムで認知機能に影響を及ぼすのだろうか。VZV罹患に伴う認知症発症の病態について検討した研究は3つあり、単純ヘルペスウイルス(HSV)やVZVに感染した患者の脳脊髄液を調べると、VZV感染が潜伏HSV-1の再活性化を誘発し、アルツハイマー病様変化や神経炎症につながる可能性を示す仮説が提唱されている。さらに、リン酸化タウやミクログリアの活性化マーカーであるTREM2の上昇など、ウイルス感染を契機として脳内にアルツハイマー病に似た変化が惹起されることが示されている。 VZV罹患によるHSV-1再活性化が認知症発症の原因である可能性を検討した研究では、VZV単独の感染ではアミロイドβやリン酸化タウの蓄積は生じないが、あらかじめHSVに感染させて抗ウイルス薬で静止化させた後にVZV感染させると、HSV-1が再活性化し、結果としてアミロイドβやタウの蓄積が確認されるという。現在、VZV感染が潜伏しているHSV-1の再活性化を誘発し、それがアルツハイマー病様変化やミクログリアの活性化をもたらして認知症につながるという仮説が有力視されている。 また、水痘に罹患しやすい遺伝的要因(7つのSNP)を持つ人は認知症リスクが上昇するという報告もあり、遺伝的背景とウイルス感染の複雑な交絡も示唆される。帯状疱疹ワクチンによる認知症リスクの低減効果:最新の大規模コホート研究 ワクチンの認知症予防効果に関する大規模な疫学データが、相次いで発表されている。生年月日によるワクチン制度の適用の違いを利用し、カナダで行われた自然実験研究では、生ワクチン接種による認知症発症の減少効果が確認された2)。また、米国で約33万人を対象とした組換えワクチンの大規模コホート研究では、未接種群と比較して2回接種群で認知症発症ハザードが51%低く、強い関連が示された3)。 これらの報告を総合すると、複数回のワクチン接種で最大の効果が得られること、効果は年齢や人種間で一貫しているものの、女性においてより強い効果が得られる傾向がみられるという。一方で、生ワクチンの効果は時間の経過とともに減弱する可能性も指摘されている。VZVは皮膚症状だけでなく神経症状の有無にも着目を 下畑氏は講演の結びとして、「VZVは皮膚だけで完結するウイルスではなく、皮膚に現れた神経感染症と捉えてもよいのかもしれない。高齢者や免疫不全者、反復例においては、皮疹や疼痛だけでなく、頭痛、髄膜刺激徴候、片麻痺、構音障害、ふらつきといった神経症状の有無にも注意を払い、これらを認めた場合はぜひ脳神経内科へコンサルトしていただきたい」とした。 帯状疱疹ワクチンの接種による認知症発症リスクの低減については、今後のさらなる臨床研究とエビデンスの蓄積が期待される。

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第325回 カタコトのアルツハイマー病女性がサイロシビンで会話を取り戻す

支えなしで移動できず、発する言葉といえばカタコトになってしまった重度のアルツハイマー病の高齢女性が、サイロシビン投与で自発的に会話をし始め、1人でキビキビと歩けるようになりました1,2)。アルツハイマー病が進行すると自発性、意思疎通、自制、運動能力、社交性が失われ、多大な心労や介護負担を強いるようになります。進行アルツハイマー病の目下の治療といえばせいぜい支持療法で、身体機能を目に見えて回復させることはおよそ不可能とみなされています。いわゆる幻覚キノコ(magic mushroom)の生理活性成分のサイロシビン(psilocybin)は、セロトニン5-HT2A受容体活性化を介して脳の広範な活動の起伏を大きく変えます。サイロシビンは安静時の神経活動を調整し、神経回路の分断を減らし、神経の機能的連結性を大掛かりに変えることがヒトの神経活動を可視化した試験で示されています。また、サイロシビンのようなセロトニン作動性サイケデリック成分は、樹状突起伸長やシナプス再編成などの可塑性を促すようです3)。サイロシビンの臨床研究の中心はもっぱら精神疾患で、最近になって軽度認知障害や初期アルツハイマー病患者のうつ病や不安に目が向けられるようになっています。一方、進行した認知症を対象とする臨床研究は非常に限られています。そのような中、ブラジルのホリスティック医療機関Ankh Cross AssociationのMarcus Lago氏らは、83歳の進行したアルツハイマー病の女性に、彼女の息子の同意を得てサイロシビンを投与することを試みました。投与されたのはシロシビンを含むミナミシビレタケ(Psilocybe cubensis)の一種のEnigma株です。最初に5g、1ヵ月の間をおいて次に3gが経口投与されました。最初の投与後に女性はどうやら熱を帯びて汗を多くかき、眠気を強くし、長く深い眠りにつきました。目覚ましい効果は投与からおよそ19時間後に表れます。女性は何年も会話といえばカタコト(monosyllabic)で自発的にヒトと接することがめっきり減っていましたが、思い出や想いのほどなどを4時間ほど自発的に話し始めたのです。また、いつも尿失禁していたのがサイロシビン服用後には膀胱の制御が改善して尿を自制できるようになりました。それに、服を1人で着るようになり、自発的に会話に加わり、移動するのに支えが必要だったのが介助なしでよりキビキビと移動できるようになりました。最初の投与から1ヵ月後にも尿の自制は保たれており、体の不自由さの改善も維持されていました。3gの追加投与後には言語表現がより豊かになり、表情模倣が改善し、ユーモアを発し、一層機敏に移動できるようになりました。アルツハイマー病の原因はまだはっきりとしていませんが、脳の神経回路の1つが別の回路を抑制して脳の機能を損なわせることを一端とするようです。サイロシビンなどのサイケデリック成分はそのような抑制が起きないようにする働きがあるのかもしれません2)。女性に投与されたサイロシビンの用量がだいぶ多かったこと、記されている経過といえば最初の投与から1ヵ月後までのみでより長期の観察を明記していないこと、体調の改善の持続のほどが不明であることなどを懸念する専門家がいる一方で、サイロシビンの可能性に期待の目も向けられています。目を見張るような症例報告であり、ほんの1例から多くの結論を引き出すことには用心しないといけませんが、どうやら臨床試験でのさらなる検討の価値があるとハーバード大学の研究者は今回の結果を評しています2)。進行したアルツハイマー病患者の体の不自由さはおよそ回復不能とみなされています。しかし進行アルツハイマー病でも体の自由が効くようにする底力(residual functional capacity)はどうやら残っており、脳の広範囲な伝達をサイロシビンで調整することで引き出せるのかもしれません1)。参考1)Lago M, et al. Front Neurosci. 2026;20:1813281.2)Woman with Alzheimer's starts conversing again after taking psilocybin / NewScientist3)Vann Jones SA, et al. Front Synaptic Neurosci. 2020;12:34.

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グルコサミンがアルツハイマー病の進行を加速させる可能性

 アルツハイマー病(AD)では広範な代謝異常が観察されるものの、どの代謝経路が病態進行を直接駆動しているのか、その分子メカニズムは十分に解明されていない。米国・フロリダ大学のTara R. Hawkinson氏らの研究グループは、ヒト死後脳およびADマウスを用いた解析から、脳内における過剰糖鎖付加(ハイパーグリコシル化)が病態進行の直接的な駆動因子(ドライバー)であることを突き止めた。さらに、電子カルテデータベースの解析から、関節の健康のためのサプリメントとして広く普及するグルコサミンの使用が、ADの進行加速や死亡リスク上昇に関連している可能性が示唆された。Nature Metabolism誌オンライン版2026年6月9日号に掲載。 本研究では、ヒトAD死後脳サンプルの解析およびADマウスモデルを用いた糖鎖代謝の追跡実験を行った。また、糖鎖生合成経路の阻害による影響を評価した。臨床データの検証としては、電子カルテデータベースから抽出したAD関連認知症患者2万4,481例(うちグルコサミン使用者1,896例)および軽度認知障害(MCI)患者4万1,884例(同2,750例)を対象に、追跡期間中央値1,835日における生存率やAD関連認知症への移行率を後ろ向きに解析した。 主な結果は以下のとおり。・ヒトAD患者の脳内(とくに灰白質)では、病期(Braakステージ)の進行に伴ってN-結合型糖鎖が有意に蓄積していた。・ADマウスにおいて、糖鎖生合成の阻害は社会的記憶を有意に改善させた一方で、グルコサミンの投与は脳内の糖鎖蓄積を加速させ、記憶障害を著しく悪化させた。なお、健康な野生型マウスではこの悪化は認められなかった。・電子カルテ解析の結果、グルコサミンを1年以上使用したAD関連認知症患者では、非使用者と比較して全死因死亡リスクが25%有意に上昇した(p=0.0023)。・MCI患者において、グルコサミン使用者ではAD関連認知症への移行率(疾患進行リスク)が25%有意に上昇した(p<0.001)。 著者らは、脳内の過剰糖鎖付加がADの病態を進行させる能動的なリスク因子であると指摘している。糖鎖生合成経路が新たな治療ターゲットとなる可能性を示唆する一方で、認知症リスクを抱える患者がグルコサミン使用によって病態を悪化させる潜在的リスクが懸念され、今後は厳密な臨床試験による検証が必要であると結論付けている。

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アイトラッキング式認知機能評価プログラム「ミレボ」の実臨床における有用性評価

 認知症の早期発見やスクリーニングにおいて、多忙な日常診療のなかで効率的かつ客観的に実施できる評価ツールの開発が望まれている。2025年、アイトラッキング技術を用いた神経心理検査用プログラム「ミレボ」が、初の保険適用を有する認知症領域のプログラム医療機器(SaMD)として日本国内で承認された。川崎医科大学高齢者医療センターの和田 健二氏らは、同センターのもの忘れ外来を受診した患者を対象に、ミレボと従来の標準的な神経心理検査であるミニメンタルステート検査(MMSE)および改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)のスコアとの関連性および認知症診断精度を評価するため、本研究を実施した。Neurology and Clinical Neuroscience誌2026年5月号の報告。 対象は、2025年7月1日〜10月30日に同センターのもの忘れ外来を初めて受診した患者96例。このうち、重度の認知機能低下により神経心理検査自体が不可能であった2例および姿勢維持が困難でアイトラッキングのキャリブレーション(視線調整)が不成功に終わった2例を除く92例(95%以上)がミレボによる評価を完了した。対象者にはミレボに加え、MMSEおよびHDS-Rを併せて実施した。相関関係は、スピアマンの順位相関係数を用いて解析、評価した。 対象者を認知機能正常群、軽度認知障害(MCI)群、認知症群の3群に分類し、分散分析を用いて群間差を検証した。また、認知症群と非認知症群(認知機能正常群およびMCI群)を識別するための診断精度および最適なカットオフ値を、それぞれROC曲線およびAUC分析により算出した。 主な結果は以下のとおり。・ミレボによる検査は、約3分という短い所要時間、最小限の事前トレーニングのみで実施可能であり、対象患者の95.8%(92/96例)が検査を完遂し、高い実行可能性が示された。・全解析対象者(92例)における相関分析では、ミレボのスコアは、MMSEスコア(r=0.603)およびHDS-Rスコア(r=0.587)の両方と統計学的に有意な正の相関を示した(いずれもp<0.01)。・認知症群、MCI群、認知機能正常群の3群間において、ミレボの合計スコアにはそれぞれ有意差が認められ、病期に応じた識別能を有していることが確認された。・非認知症群と認知症群を識別するためのROC解析では、ミレボの良好な診断精度が認められ(AUC:0.830、95%信頼区間[CI]:0.745〜0.914)、その識別能はMMSE(AUC:0.872、95%CI:0.800〜0.945)やHDS-R(AUC:0.888、95%CI:0.814〜0.961)と同等であった。・認知症識別におけるミレボの最適なカットオフ値は41.3、感度は75.0%、特異度は80.8%であった。 著者らは「ミレボは、日常の臨床現場において認知症のスクリーニングツールとして実現可能かつ効果的であり、従来の標準的な神経心理検査と同等の診断性能が認められた。ただし、ミレボのスコアは、超高齢者では従来の評価尺度よりも低くなる可能性があるため、慎重に解釈する必要がある」と結論付けている。

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prasinezumabはパーキンソン病の運動症状悪化の抑制に有効か?(解説:内山真一郎氏)

 prasinezumabはPASADENA試験により、未治療やMAO-B阻害薬の治療を受けている初期のパーキンソン病患者において運動症状の進行を遅くする効果を有する可能性が示されている。PADOVA試験は、安定的な維持療法を受けている、より幅広いパーキンソン病患者においてprasinezumabの有効性と安全性を検討した第II相試験であった。 1次評価項目は運動症状がMDS-UPDRS Part III off-medication scoreで5点以上増加するまでの時間であったが、1次エンドポイントはprasinezumab群とプラセボ群で有意差はなかったものの、運動症状の進行はprasinezumab群で遅くなる傾向が認められた(ハザード比:0.84、95%信頼区間:0.69~1.01、p=0.066)。サブグループ解析では、L-ドーパ投与例では両群の差は有意であり、MAO-B阻害薬投与例では有意ではなかった。また、付随研究として行われたMRIの解析により、prasinezumab群ではプラセボ群と比べて黒質の変性と基底核の鉄沈着が少なかったことが示された。これらの結果を併せて考えると、凝集したαシヌクレインのC末端を標的とした治療は期待できそうであり、第III相試験(PARAISO)の結果が注目される。

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認知症の疾患概念を考え直す(解説:岡村毅氏)

 アルツハイマー型認知症が「アミロイドの蓄積⇒タウの蓄積⇒神経変性⇒軽度認知障害の顕在化⇒認知症の顕在化」という一連の流れであることがわかってきた。 かつては「もの忘れで受診したときには、すでに遅いのである」「アミロイドやタウの病理は完成しているから介入できない」とされていた。しかし、脳画像検査や血液検査の進歩によって、本人にはもの忘れ等の自覚がない時期に、脳内の変化が検出できるようになってきている。 神経学者たちは、より早く見つけ、より早く介入しようとしているのである。本論文はまさにその最先端である。 60歳前後の認知症のない集団に、認知症関係の血液バイオマーカー検査をしたところ、バイオマーカーで陽性の人はかすかに認知機能が低下傾向にあった、というものである。血液検査で認知症の前駆期の人を見つけ、少しでも遅らせる治療を始めるという新しい時代に向かうものだ。 それは医学の進歩であり、素晴らしいことだが、私は別の視点から眺めてみたいと思う。 かつて認知症の病理的な検査ができなかった時代は、生活障害が起き、認知症を示唆する傍証(CTで海馬の萎縮が疑われるとか、徐々にもの忘れが進行している経過とか)があると認知症と診断されていた。しかし少なくともアルツハイマー型認知症では、冒頭に述べたような経過がわかってきて、さらに画像や血液検査で病理がわかってくると、病理学がアルツハイマー病を定義するようになる(2011年のNIA-AA基準から始まった)。 かつては生活障害がある人が対象だった。いまは脳内の変化がある人が対象になった。 今回の論文では一定程度の人が脳内の変化とともに生きていることがわかった。ただし彼らがどのような生活をしているか、あるいは困っているか困っていないのか、といったことはわかっていない。また彼らがこの後、認知症になっていくのかどうかもわかっていない。 何を言っているんだ、脳内が変化しているのだから、四の五の言わずに薬を投入しろ、と思う人もいるかもしれない。 だが、神経病理がわかってきたからといって、認知症という現象を、神経学に還元してしまってよいものだろうか。たとえば精神科医としては、認知機能がちょっと低下すると大騒ぎになり、生活が破綻する人もいれば、かなり低下しても平穏に暮らしている人もいる。たとえば自分の周りを完璧にコントロールしている、知的に高く、支配的な人は、認知機能がちょっと低下しただけで周囲との関係が破綻したり、自分がすべてをコントロールできないことに焦燥したりする。一方で、周囲をうまく使っている人、環境に適応する力の強い人、自分のことを大局的に見ている人(メタ認知の強い人)は、いくら認知機能が低下しても盤石だという人もいる。 血液バイオマーカーの進歩に水を差したくはないが、「あくまで神経学的に定義されたアルツハイマー病」が早期に発見されているのだという留保をつけたい。 神経病理学の進歩によって、私たちは「アルツハイマー病」を早期に発見できるようになった。しかし、それによってわかるのは脳内の変化であって、その人の生活ではない。認知症研究はこれから、「脳で何が起きているか」だけでなく、「その人がどのように生きているか」を同時に問いたい。 今後、血液バイオマーカーで見つかった人に投薬し、病理変化を遅らせる研究が数十年続くだろう。それは重要な研究である。しかし同時に、「早期に見つかった人」は何に困っているのか、あるいは困っていないのか、早期に見つかったことでどのような苦悩や希望を抱くのか、どのような支援を必要とするのかを明らかにする研究も必要だろう。認知症を脳内病理だけでなく、人が生きる現象として理解することが必要だ。 認知症とアルツハイマー病が今後枝分かれしていく可能性もあるだろう。前者は社会福祉、看護学、精神医学などが重視してきた対象であり、後者は神経学が主として対象としてきた領域である。ただ、同じ1人の人間に起きている現象であり、枝分かれが望ましいかどうかは難しい問題だ。

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日本の内科医と精神科医でアルツハイマー病に伴うアジテーションに対する治療方針が異なっている?

 認知症の行動・心理症状であるアジテーションは、日本ではいまだ十分に認識されていない。東京慈恵会医科大学の品川 俊一郎氏らは、日本におけるアルツハイマー病に伴うアジテーションに対する医師の認識と治療実践を明らかにするため、ウェブベースの横断調査を実施した。Scientific Reports誌オンライン版2026年5月7日号の報告。 調査対象は、神経内科、脳神経外科、精神科、または一般内科の医師で、調査パネルに登録し、参加に同意した医師。病院またはクリニックで勤務し、月10例以上のアルツハイマー病患者を診療していることを条件とした。調査は、2024年10月にウェブベースで実施した。 主な内容は以下のとおり。・回答医師数は529人。1ヵ月当たりに診察していた平均アルツハイマー病患者数は35.0例、そのうち8.4例(24%)がアルツハイマー病に伴うアジテーションを有していると回答した。・アジテーションという言葉から何を連想するかという質問に対し、医師が最も多く挙げたのは、神経精神症状評価尺度(NPI)の「興奮・攻撃性」項目に相当する日本語の「興奮性」であった(58.6%)。・一般内科では、24.2%の医師がアジテーションの概念を認識していなかった。・アルツハイマー病の新規治療薬として、最も多く選択されたのは抗認知症薬(91.7%)であった。・一方、精神科では抗精神病薬が最も多く選択され(95.8%)、他の診療科よりも副作用を重要な考慮事項として挙げる傾向が高かった。 著者らは「これらの結果は、アルツハイマー病に伴うアジテーションの認識と治療方法が診療科によって異なることを示唆しており、とくに抗精神病薬の処方において顕著であった。精神科医は、安全性に対する意識が高い一方、他の診療科、とくに一般内科では、アルツハイマー病に伴うアジテーションの認識が低いことがその傾向に表れていると考えられる」としている。

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パーキンソン病へのiPS細胞由来「ラグネプロセル」薬価収載、最適使用推進ガイドライン発出

 パーキンソン病に対する再生医療等製品「ラグネプロセル(商品名:アムシェプリ)」について、住友ファーマが日本における製造販売承認(条件及び期限付承認)を2026年3月6日に取得し、5月20日に薬価収載された。本品の使用に当たっては、厚生労働省より5月19日に「最適使用推進ガイドライン」が発出された。 ラグネプロセルは、世界初となる日本発のiPS細胞由来製品で、京都大学iPS細胞研究財団が提供するiPS細胞ストックを原材料とした、「非自己(他家)iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞」を有効成分とする再生医療等製品に分類される。本品の効能、効果又は性能として、レボドパ含有製剤を含む既存の薬物療法で十分な効果が得られないパーキンソン病患者の運動症状の改善とされている。本品は1回当たりの薬価が5,530万6,737円となるが、公的医療保険の対象となり、高額療養費制度や難病医療費助成制度も適用される。製造販売後のスケジュールと流通 ラグネプロセルは「条件及び期限付承認」の品目であり、製造販売後承認条件評価として製造販売後臨床試験(第IV相試験)および使用成績調査の実施が義務付けられている。住友ファーマの3月6日付のリリースによると、2026~29年頃までは、第IV相試験に参加する患者のみが移植対象となる。登録患者数は計35例(18歳以上65歳以下が30例、30例の移植完了後に65歳超が5例)を予定しており、実施施設は選定中の7施設となる見込みである。第IV相試験の終了後にあらためて申請を行い、本承認を取得した後に施設や対象患者の範囲が拡大される見込みとなっている。移植対象となる患者の選択基準 「最適使用推進ガイドライン」に定められた患者選択における主な適格基準は以下のとおり。・パーキンソン病と診断され、罹病期間が5年以上の者。・既存の薬物療法ではパーキンソン病の運動症状のコントロールが十分に得られていない者。・MDS-UPDRS Part III及び/又は症状日誌からオンとオフの状態を有する者。・オフ時のH&Y重症度分類が2度以上の者。・オン時のH&Y重症度分類が3度以下の者。・抗パーキンソン病薬休薬時(practically defined off)のレボドパ反応性が30%以上である者。 なお、臨床試験において70歳超の患者への移植経験がないことなどから、70歳超の患者への移植については有益性と危険性をより慎重に評価した上で判断することが求められている。ガイドラインに基づく施設要件 本品は定位脳手術による局所投与を行うため、以下の厳格な施設要件が規定されている。・対象施設:特定機能病院、大学附属病院(脳神経外科に係る診療科を有する場合に限る)、日本脳神経外科学会の基幹・連携施設、若しくは日本定位・機能神経外科学会の認定施設。・人員配置:適切な患者選択および術後管理が実施できる日本脳神経外科学会認定専門医、および日本神経学会認定神経内科専門医がそれぞれ1名以上配置されていること。また、随伴する免疫抑制療法(タクロリムス)に関連する有害事象発現時に適切に対応できる医師が配置されていること。・診療体制:重篤な不具合・副作用が発生した際に、24時間診療体制の下、当該施設または連携施設において当日中に入院管理および必要な検査結果が得られ、直ちに対応可能であること。・検査体制:自施設または連携施設で[18F]FDOPA PET検査の実施体制を有し、かつオフ時のMDS-UPDRSスコアを評価できること。有効性および安全性の評価 承認の根拠となった第II相試験の非盲検非対照国内試験(IACT16049-01試験)(有効性解析対象集団6例)における、移植後24ヵ月時の主な成績は以下のとおり。・有効性について、オフ時でのMDS-UPDRS Part III合計スコアのベースラインからの平均変化量は-9.5±13.8であり、6例中4例で著効(5点以上の改善)と判断された。また、6例全例で移植後12ヵ月および24ヵ月時点で被殻への細胞生着が確認された。・安全性について、本品の副作用発現割合は14.3%(1/7例)であった。タクロリムスの副作用発現割合は42.9%(3/7例)であり、2例以上に認められた副作用は軽度の腎機能障害(2例)であった。左右それぞれで3cm3を超える脳内の移植片の増大は全例で認められなかった。 ただし、本品はiPS細胞由来の製品であり、移植片の増大や腫瘍形成の理論的リスクを完全には否定できないため、投与後は定期的なMRI観察(移植翌日、12週、6ヵ月、12ヵ月、16ヵ月、18ヵ月、24ヵ月、その後は定期的に実施)を行うことが留意事項として挙げられている。【製品概要】商品名:アムシェプリ(18瓶1組)一般名:ラグネプロセル対象となる効能、効果又は性能:レボドパ含有製剤を含む既存の薬物療法で十分な効果が得られないパーキンソン病患者の運動症状の改善薬価:55,306,737円対象となる用法及び用量又は使用方法・本品の移植 通常、成人には、非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞として片側あたり5.4×106個を目標として、定位脳手術により、両側の被殻に移植する。頭蓋骨の小孔1箇所を通る3つの投与経路から、1投与経路あたり約1.8×106個を1〜2mm間隔で6〜9箇所に分けて移植する。注入速度は約0.1μL/秒とする。・本品に対する免疫反応の抑制を目的とした本品移植前後のタクロリムス水和物の投与方法 通常、初期にはタクロリムスとして1回0.03~0.15mg/kgを1日2回、移植日の朝から経口投与する。以後、目標血中トラフ濃度を5~10ng/mLとし、血中トラフ濃度をモニタリングしながら投与量を調節する。 拒絶反応が認められた場合は、目標血中トラフ濃度を10~20ng/mLとする。 投与開始後1年を目安に、以後12週間かけて漸減し投与を中止するが、必要に応じて投与期間を延長する。製造販売業者:住友ファーマ株式会社

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高齢者認知症の2割に「ADとDLB併存」、見極めのポイントは?【外来で役立つ!認知症Topics】第42回

新規個別指導での「痛いところを突く」一言新規開業した院長なら誰もがビクビクと気になるものに「新規指定の個別指導」がある。これは保険医療機関として新たに指定を受けた後、保険診療や診療報酬請求が適切に行われているか否かを確認するための指導だ。筆者の場合、長く印象に残る指導者の一言があった。「診療録の診断名に、アルツハイマー病(AD)疑いとレビー小体型認知症(DLB)疑いと2つあるけど、今でも鑑別できないんですか? 長年認知症の医療をやっているんでしょう?」当初「うーん?」と思ったが、「ああそうか、普通の内科医には、両者の微妙な関係は知られていないんだ」と気付いた。とはいえ、筆者も実は鑑別が難しいとわかったのは、てっきりADと思っていたケースに幻視や寝ぼけ、そしてパーキンソン症候などが加わって「ありゃ! DLBだったよ、見誤った」と内心忸怩の思いを抱く、といった体験を重ねた末のことである。このような経験は、認知症の臨床に携わってきた人であれば、ときにあるのではないだろうか。ADとDLBの「併存」は決して珍しくないこの両者の併存に関するレビューを読んだので、今回はその概要を紹介しよう。「α-シヌクレインシード増幅アッセイ」は、DLBやパーキンソン病(PD)の革新的な診断法として知られる。これを用いて診断した研究報告を、このレビューが総括している1)。疫学的には、認知機能障害のある高齢者の20~25%で、また障害のない高齢者でも8%に両者の共存が見られるとされる。症状では、両者が併存すると、単独の例に比べて認知機能低下の速度が速く、記憶のみならず、注意や遂行機能という前頭葉機能、さらに視空間機能や運動機能まで広範に悪化しやすいと述べている。「知れば知るほどわかってくる」多様な臨床スペクトラムもっとも、病理が併存する症例の臨床症状のスペクトラムは広い。経験的にも、典型的なADと典型的なDLBの混合したような形態になることもある。しかし、早期からの記憶障害、また言語や視空間の機能障害も目立つ「AD寄り」のケースもある。こうした症状は一般的なDLBやPDでは初期からあまり出ない。逆に「DLB寄り」ケースの症状としては、症状の変動、幻視、パーキンソニズム、レム睡眠行動障害などが比較的初期から見られる。画像を拡大するしかし注意すべきは、初期からこれらがすべてそろっていることはまれだということだ。よく診ると、「どれか1つか2つかをはらんでいるな」というレベルが多いと思う。DLBの最初の報告者である故・小阪 憲司先生がよく「知れば知るほどわかってくるDLB」とおっしゃっていたが、以上のような広いスペクトラムを指しておられたのだろう。3つの異常蛋白が絡み合うメカニズムと新たな治験さて、こうしたAD+DLBの症例に既存の抗アミロイドβ抗体薬を投与する治験が始まると聞いた。患者数の多さからいっても重要なのだが、病気のメカニズムに迫る視点からも興味深い。というのは、アミロイドβとタウ、α-シヌクレインと3つある異常蛋白のうち、「アミロイドβを叩けば、その分、症状の悪化が抑えられるのだろうか?」あるいは「3者が影響し合って相乗的な効果がもたらされるのだろうか?」という意味である。ADならアミロイドβとタウ、DLBではα-シヌクレインと、主要な異常蛋白は異なっても、共通する点はシナプス障害やネットワークレベルの異常である。ADではアミロイドβとタウの蓄積が進行するに伴ってシナプス機能の障害が拡大していくとされる。DLBではα-シヌクレインからなるレビー小体、レビー神経突起と、その前段階とされるオリゴマーが神経ネットワークを障害する。画像を拡大する既述したように、併存例では単独例よりも認知機能の低下速度が速いとされる。その背景について、病理学的観点からは、AD+DLB例ではアミロイドβ、タウ、α-シヌクレインが互いに影響し合って、シナプスレベルあるいは神経回路レベルでの障害が増幅するのではないかと言われている。連鎖する「ドミノ倒し」をどう防ぐかADの悪役アミロイドβだが、その生理的機能として、神経の成長と修復に欠かせない役割を果たしている。また、本来タウは軸索にあって物質輸送に重要な微小管の安定性を調節している。一方でDLBのα-シヌクレインは生理的に、神経終末において神経伝達物質の放出の制御に関わっていると考えられている。ところが、過剰なα-シヌクレインはGSK3βを介してタウのリン酸化を促進する。さらに神経終末の過剰なα-シヌクレインはexocytosis(開口放出)によってシナプス間隙に放出され、後シナプスに取り込まれる。するとドミノ倒しのように神経細胞への障害が連鎖していくと考えられている。今回の治験によって、こうした仮説の是非、新たな創薬の端緒や方向性などが見つかるのではないかと期待される。臨床での気付き:ADと思ってもDLBを頭の片隅に終わりに、このような合併例への気付きを述べる。とくに第一印象で「ADかな?」と思った例でも、DLBも頭の片隅に置くことが大切だろう。上記したような症状の特徴(幻視、パーキンソニズム、レム睡眠行動障害、症状の変動)がまずポイントになる。また脳画像では、PETやSPECTでの帯状回島兆候(cingulate island sign:CIS)が重要である。ADでは周囲と比較して、後部帯状回から楔前部・楔部の循環・代謝が低下しやすいが、DLBでは比較的保たれるため、それを反映するCIS値は鑑別上役立つ。さらに大脳MRIにおける脳幹背側の萎縮も大切だ。これら2つは、通常、読影レポートにも記載されている。 1) Baiardi S, et al. In vivo detection of Alzheimer's and Lewy body disease concurrence: Clinical implications and future perspectives. Alzheimers Dement. 2024;20: 5757–5770.

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早期パーキンソン病へのprasinezumab、レボドパ併用で進行遅延の可能性/Lancet

 安定した対症療法を受けている早期段階のパーキンソン病患者の治療において、prasinezumab(αシヌクレイン凝集体のC末端に結合するヒト化モノクローナル抗体)を追加しても運動症状の進行の有意な遅延をもたらさないが、探索的解析の結果などから有望な疾患修飾治療となる可能性が示唆されることが、スイス・F. Hoffmann-La RocheのTania Nikolcheva氏らが実施した「PADOVA試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2026年5月30日号で報告された。9ヵ国の第IIb相無作為化プラセボ対照比較試験 PADOVA試験は、欧州と北米の9ヵ国110施設で実施した第IIb相二重盲検無作為化プラセボ対照比較優越性試験(F. Hoffmann-La Rocheの助成を受けた)。2021年5月~2023年3月に、年齢50~85歳、パーキンソン病の診断後3ヵ月~3年が経過し、Hoehn-Yahr重症度分類の1または2度で、レボドパまたはMAO-B阻害薬による対症療法(単剤)を3ヵ月以上受けている患者586例(平均年齢64.2[SD 7.3]歳、女性214例[37%])を登録した。 被験者を、対症療法に加え、prasinezumab(1,500mg、4週ごと)を静脈内投与する群(293例)またはプラセボ群(293例)に無作為に割り付け、76週間以上投与した。 主要エンドポイントは、確認された運動症状の進行イベントまでの期間(運動障害学会統一パーキンソン病評価尺度[MDS-UPDRS]パートIIIによる休薬時スコアの5点以上の上昇)とし、最大の解析対象集団で評価した。主要エンドポイントは達成されず、安全性/忍容性プロファイルは良好 550例(prasinezumab群277例、プラセボ群273例)が二重盲検下の治療を完了した。ベースラインで586例中435例(74%)がレボドパ、151例(26%)はMAO-B阻害薬の投与を受けていた。 主要エンドポイントは達成されなかった。主解析では、プラセボ群との比較において、prasinezumab群で運動症状の進行の遅延は認めなかった(ハザード比[HR]:0.84、95%信頼区間[CI]:0.69~1.01、p=0.066)。 また、prasinezumab群における確認された運動症状の進行までの期間中央値は61.1週間(95%CI:52.3~71.9)であったのに対し、プラセボ群は49.7週間(95%CI:40.1~58.1)であった。 一方、事前に規定された探索的解析では、レボドパによる対症療法を受けているサブグループにおいて、prasinezumab群で運動症状の進行の遅延がみられた(HR:0.79、95%CI:0.63~0.99、名目上のp=0.044)。 prasinezumab群の安全性および忍容性プロファイルは良好であった。最も頻度の高い有害事象(器官別大分類[SOC])は、感染症/寄生生物(prasinezumab群58%[169/292例]、プラセボ群54%[157/290例])だった。 1件以上の重篤な有害事象の発生率は両群で同程度であった(prasinezumab群12%[34/292例]、プラセボ群12%[34/290例])。prasinezumab群で2例が重篤な有害事象(急性心筋梗塞1例、心内膜炎1例)により投与中止に至り、このうち心内膜炎はprasinezumab関連と判定された。試験期間中に3例が死亡したが、いずれも試験薬とは関連がなかった(prasinezumab群1例[<1%]、プラセボ群2例[1%])。 著者は、「主要エンドポイントは達成されなかったものの、本試験のエビデンスからは、prasinezumabを効果的な対症療法と併用することで、早期パーキンソン病患者において進行を遅らせる可能性があることが示唆される」「第III相試験(PARAISO)におけるprasinezumabの継続的な検討が正当化される」としている。

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認知症やせん妄、痛みの評価が難しい場合は?【非専門医のための緩和ケアTips】第126回

認知症やせん妄、痛みの評価が難しい場合は?痛みとの付き合い方は人それぞれではありますが、緩和ケアを提供している立場としては、できるだけ苦痛を和らげてあげたいと思いますよね。そうした医療者にとって難しさを感じるのが「痛みを訴えない患者さん」です。今日の質問私が担当している患者さんですが、症状緩和を丁寧にしようと思っても、いつも「大丈夫です」って反応で困っています。画像所見などからは痛みがあると思うので心配しています。ご家族に尋ねても、「我慢強いので、あまりつらいとは言わないだろう」ということでした。こうした場合にできる工夫はありますか?「痛くないです」と言うのに、表情が硬い、動かない、呼吸が浅い……、そんな「言葉と態度がかみ合わない」患者に出会うことがあります。痛みは主観的症状であり、患者の訴えから考えることが基本ですが、さまざまな理由から痛みを言葉で伝えられない患者がいるのも事実です。今回は「痛みを訴えない患者」を診る際に、私がルーチンで検討していることを紹介します。まず、こうしたケースで一番多い要因は「認知症」でしょう。私も担当する患者の大半が高齢者なので、真っ先に可能性を考えるのが認知症です。認知症といっても中核症状である物忘れよりも、軽度の認知機能低下を起こしているケースが多くあります。医療者が「痛みはどうですか?」といった言葉を掛けても痛みの概念化が難しかったり、表現する語彙が少なくなって言葉に詰まり、それを取り繕っていたりするのです。こうした場合は、本人の言葉だけではなく、動作時の様子などから痛みを判断し、「もう少し痛み止めを増やしたほうがよさそうだと思いますが、調整してよいですか?」といったようにアプローチします。せん妄もよく経験する原因です。注意障害で医療者側の質問を理解できていなかったり、睡眠覚醒のリズムがずれて日中にいつも眠っていたりする状況です。さらに、夜間に混乱が見られ、夜勤の看護師に痛みを訴えることもあります。この場合、まずはせん妄の原因が可逆的なものか、不可逆的なものかを判断することが最初のアプローチです。看護師と連携を取り、「せん妄を見逃さない」ように気を付けます。せん妄が見逃されている状況は、意外と多いものです。とくに興奮などを伴わない低活動性せん妄の場合、「ぼーっとしているだけ」「活気がないだけ」という印象にとどまりがちです。痛みだけに目を奪われず、せん妄による意識状態の変化が生じていないかに注意を払いましょう。以上、私が取り組んでいる工夫についてお話ししました。皆さまの工夫もぜひ聞かせてください。今日のTips今日のTips認知症とせん妄、「痛みを訴えない」患者の原因にアプローチすることが大切。

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第324回 薬での体冷却で脳卒中後の脳損傷を減らせるかもしれない

神経遮断作用を担う2つの薬の組み合わせがサルの体温を下げて脳卒中後の脳損傷を減らし、ヒトに投与する試験段階に進んでいます1,2)。その2つは1950年代から体温を下げることが知られる3)抗精神病薬のクロルプロマジンと抗ヒスタミン薬のプロメタジンです。英語表記での頭文字をとってC+Pと呼ばれるその組み合わせが脳の活動と糖代謝を抑制して、いわば冬眠のような状態を作り出すことで脳卒中から神経を守る働きを担いうることが、2019年のラットでの検討で示されています4)。また、2022年に報告された研究では、C+Pがラットの体温を36℃未満に下げて脳梗塞病変を減らしました5)。動物での検討が進む一方で、ヒトにC+Pを経口投与した臨床試験結果が早くも2019年に報告されています。試験には急性虚血性脳卒中患者64例が参加し、およそ半数の34例にはプラセボ、30例には低用量のC+Pが投与されました。治療期間は2週間で、クロルプロマジンとプロメタジンの1日量はどちらも多くて50mgでした(25mgを1日2回)。残念ながら機能的アウトカムの改善はみられませんでしたが、幸いにも深刻な有害事象はありませんでした6)。同試験の著者に名を連ねる米国・ウェイン州立大学(Wayne State University)のYuchuan Ding氏を含むチームは、先立つ研究をなぞって小型動物のマウスでC+Pの効果を改めて検証し、続いて新たな試みとしてより大型の動物のサルでC+Pの効果を検討しました。C+Pはサルの深部体温をマウスでの検討と同様に下げ、グルコース代謝を抑え、脳卒中での脳の損傷を減らしました。脳損傷が減ったおかげかサルは腕を使って食べ物を引き寄せる動作がより素早く、C+Pは運動機能も改善したようです。サルの体温を安全に引き下げた無毒性量(no observed adverse event level:NOAEL)からヒトでも安全に効果を発揮しうるクロルプロマジンとプロメタジンの最大用量が100mgと推定され、その用量を含む4つの用量が2024年11月に始まった第I相試験7)で検討されました。試験には急性虚血性脳卒中患者32例が参加し、標準治療に加えて最高用量(100mg)のC+Pが静注された患者に限って体温がつかの間下がりました。脳損傷を減らす効果や神経/身体機能を改善する効果は認められませんでしたが、被験者数32例ばかりの本試験では効果の確証は叶わなかったと著者は言っています1)。試験でC+Pは12時間かけて点滴されました。深部体温を十分下げるには投与速度がゆっくり過ぎたのかもしれません2)。よって新たな試験ではより短時間かより高用量の投与で有意な体温低下を達成できるかどうかを調べる必要があります。1時間での急速点滴がより体を冷やして確かな効果を発揮するかどうかを調べる試験に研究者らは早速取り掛かっています2)。参考1)Xu S, et al. Sci Transl Med. 2026;18:eady7847.2)Chilling the body with drugs could limit brain damage from stroke / NewScientist3)BURN JH. Proc R Soc Med. 1954;47:617-621.4)Guan L, et al. Curr Neurovasc Res. 2019;16:232-240.5)Guan L, et al. Biomolecules. 2022;12:851.6)Zhu H, et al. J Neurosurg Sci. 2019;63:265-269.7)Study on Hibernation-like Therapy Based on Mechanical Thrombectomy(CHILL-1) / ClinicalTrials.gov

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