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DES留置のACS、短期DAPT後にチカグレロル単剤で予後改善/JAMA

 薬剤溶出ステント(DES)留置術を受けた急性冠症候群(ACS)患者では、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を3ヵ月間施行後にチカグレロル単剤療法に切り替えるアプローチは、12ヵ月間のチカグレロルベースのDAPTと比較して、1年後の大出血と心血管イベントの複合アウトカムの発生をわずかに低減し、統計学的に有意な改善が得られることが、韓国・延世大学校医科大学のByeong-Keuk Kim氏ら「TICO試験」の研究グループによって示された。研究の成果は、JAMA誌2020年6月16日号に掲載された。経皮的冠動脈インターベンション(PCI)としてDES留置術を受けたACS患者では、アスピリン+P2Y12阻害薬による短期DAPT施行後にアスピリンを中止することで、出血リスクが軽減するとされる。一方、新世代DES留置術を受けたACS患者において、アスピリン中止後のチカグレロル単剤療法に関する検討は、これまで行われていなかったという。韓国の38施設が参加した無作為化試験 研究グループは、DES留置後のACS患者における、3ヵ月間のDAPT施行後のチカグレロル単剤への切り替えは、12ヵ月間のチカグレロルベースのDAPTと比較して、純臨床有害事象(net adverse clinical event:NACE)を低減するかを検証する目的で、多施設共同非盲検無作為化試験を実施した(韓国・心血管研究センターなどの助成による)。 対象は、2015年8月~2018年10月の期間に、韓国の38施設でDES(超薄型生体吸収性ポリマーシロリムス溶出性ステント)留置術を受けたACS患者(ST上昇型心筋梗塞、非ST上昇型心筋梗塞、不安定狭心症)であった。 被験者は、3ヵ月間のDAPT(アスピリン+チカグレロル)施行後に、アスピリンを中止してチカグレロル(90mg、1日2回)単剤に移行する群、またはアスピリンを中止せずにチカグレロルベースのDAPTを12ヵ月間継続する群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは1年後のNACEの発生とした。NACEは、大出血と主要心脳血管有害事象(MACCE:死亡、心筋梗塞、ステント血栓症、脳卒中、標的血管再血行再建術)の複合と定義された。大出血の発生は有意に低下、MACCEには差がない 3,056例(平均年齢61歳、女性628例[20%]、ST上昇型心筋梗塞36%、糖尿病27%)が登録され、2,978例(97.4%)が試験を完遂した。チカグレロル単剤群に1,527例、12ヵ月チカグレロルベースDAPT群には1,529例が割り付けられた。 主要アウトカムは、チカグレロル単剤群で59例(3.9%)に発生し、12ヵ月DAPT群の89例(5.9%)と比較して、その差は小さいものの統計学的に有意であった(絶対群間差:-1.98%、95%信頼区間[CI]:-3.50~-0.45、ハザード比[HR]:0.66、95%CI:0.48~0.92、p=0.01)。 事前に規定された10項目の副次アウトカムのうち、8項目には有意な差はみられなかった。TIMI出血基準による大出血(1.7% vs.3.0%、HR:0.56、95%CI:0.34~0.91、p=0.02)および大出血または小出血(3.6% vs.5.5%、0.64、0.45~0.90、p=0.01)の発生は、チカグレロル単剤群で良好であったが、MACCE(2.3% vs.3.4%、0.69、0.45~1.06、p=0.09)およびその5つの構成要素の個々の発生には差がなかった。 著者は、「これらの知見を解釈する際には、イベント発生率が予想よりも低かった点などを考慮する必要がある」としている。

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血液による大腸がん術後再発リスク評価、医師主導治験開始/国立がん研究センター

 リキッドバイオプシーと遺伝子パネル検査を活用し、“見えないがん(術後微小残存病変)”を対象とした、大腸がんの新たな術後再発リスク評価手法の確立を目指す、世界最大規模の医師主導国際共同臨床試験が開始された。国立がん研究センターによる新プロジェクト「CIRCULATE-Japan」の一環として実施されるもので、同プロジェクトでは産学連携全国がんゲノムスクリーニング事業「SCRUM-Japan」の基盤を活用し、切除可能大腸がんにおける、遺伝子異常・臨床情報を大規模データベース化していく。 現在、大腸がんの術後再発リスク評価は術後の病理組織検査によるがんの術後ステージによって推定され、術後補助化学療法が行われる。しかし、ステージに基づく再発リスク推定だけでは、本来必要がない症例にも再発リスクの高い症例と同じ治療が実施され、末梢神経障害が後遺症として残るなど、副作用が発現する場合がある。 「CIRCULATE-Japan」では、5月8日より、根治的外科治療可能の結腸・直腸がんを対象としたレジストリ研究(GALAXY試験)の登録を開始。国内外約150施設(台湾1施設を含む)が参加している。 同試験では、根治的外科治療を予定しているステージ2期から4期を含む大腸がん患者約2,500名を対象に、術後2年間、リキッドバイオプシーを用いた再発のモニタリング検査(Signatera検査:米国・Natera社が開発中の、血液を用いた微小残存腫瘍検出専用の遺伝子パネル検査)を実施。手術で取り出した腫瘍組織を用いた全エクソーム解析の結果をもとに、患者さんごとにオリジナルの遺伝子パネルを作製する。その後、術後1ヵ月時点から定期的に血液を採取し、オリジナル遺伝子パネルを用いて、血液中のがん遺伝子異常の有無を調べる。 さらに、術後1ヵ月時点でがん遺伝子の異常が検出されないステージ2期から3期の患者さん1,240名を対象に、従来の標準的治療である術後補助化学療法群と経過観察群とを比較する第III相試験(VEGA試験)も同時に登録を開始している。 これらの研究を通してリキッドバイオプシーによる再発リスク評価精度とその臨床的有用性が示されれば、術後補助化学療法の効果がより期待される患者さんのみを選別することが可能となり、不要な治療を避けることで副作用や後遺症を軽減することができる。また、本検査は身体に負担の少ない採血で繰り返し測定可能となるため、がんの再発をより早期に発見できることが期待される。「CIRCULATE-Japan」では、今後他がん種への展開も予定している。

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イサツキシマブ、再発・難治の骨髄腫に国内承認/サノフィ

 サノフィは、2020年6月29日、イサツキシマブ(商品名:サークリサ)が「再発又は難治性の多発性骨髄腫」の効能又は効果で製造販売承認を取得したと発表。  CD38は多発性骨髄腫細胞に幅広くかつ高発現しており、イサツキシマブは、多発性骨髄腫細胞のCD38受容体にある特異的なエピトープを標的とする新規のモノクローナル抗体製剤である。 今回の承認は、イサツキシマブをポマリドミド・デキサメタゾン併用療法に追加する無作為化第III相試験(ICARIA-MM試験)のデータに基づいており、この試験では、イサツキシマブ併用群において無増悪生存期間の統計学的に有意な改善が認められた。本国際共同治験には、日本も参加している。

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エイズ患者の結核治療:始めに検査?始めから治療?(解説:岡慎一氏)-1248

 エイズ患者に対する結核治療というのは、いまだに根が深い問題が残っている。とくに、結核が蔓延しているアジアやアフリカでは、結核はエイズ患者の死亡原因のトップにくる。 免疫不全の進行したエイズ患者の場合、大きく2つの問題がある。1つは、結核の症状が非典型的となり診断が難しいこと。もう1つは、HIVの治療で免疫が回復すると、免疫再構築症候群(IRIS)と呼ばれる激しい炎症反応が起こり、IRISで死亡することもあるのである。 少し前までは、エイズ患者の結核治療は、IRIS予防のために一定期間結核治療を先行させるか、HIV治療とほぼ同時に結核治療を開始するかということが議論になっていた。現在、多くのRandomized Controlled Trial(RCT)の結果から結核治療を先行させるのではなく、HIV治療とほぼ同時に結核治療を開始することが推奨されている。 さて、今回の研究である。今回は、エイズ患者において結核の検査をしてから結核治療を開始するか、検査なしで全例結核の治療を開始するかをRCTで振り分けている。実に現場に即したpracticalな研究である。結果、検査なし全例治療群の死亡率19.4/100 person-year(PY)に対し検査治療群20.3/100 PYと予後は同じであった。しかし、当たり前であるが、全例結核治療群では、重篤な副作用が多かった。研究グループからは、どちらを推奨するかは述べられていない。今回の研究における死亡率は、予想以上に低かったと述べられている。治療をしても死亡率は20/100 PY。結核は、エイズ患者にとっていまだ恐ろしい合併症である。

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すべての診療科に関わる!タバコ問題を自分事にするために知っておきたいこと(1)【新型タバコの基礎知識】第20回

第20回 すべての診療科に関わる!タバコ問題を自分事にするために知っておきたいこと(1)Key Points新型タバコ問題に行く前の段階で、いかに社会はタバコ産業によって歪められているかについて知っておくことがとても重要歴史上、タバコ会社による“安全なタバコ”の開発は一度も成功していないタバコ会社の歴史を知ることで新型タバコ問題がみえてくる残念ながらタバコ問題を客観的に捉え、自分事にできている人は少ないのが現状です。われわれが生まれる前から認識が歪められてしまっていて、そのこと自体に気付くことが難しいからかもしれません。それは医師も例外ではありません。新型タバコ問題に行く前の段階で、いかに社会はタバコ産業によって歪められているかについて知っておくことがとても重要です。新型タバコ問題についてきちんと理解するために、知っておかなければならないことは、人々とタバコとタバコ会社の歴史です。歴史上、タバコ会社による“安全なタバコ”の開発は一度も成功していません。しかし、タバコ会社は、新しいタバコ製品が従来からのタバコ製品よりもより安全ではないかと誤解させることには、何度も成功してきています。その最新の事例が加熱式タバコだと言えるでしょう。人々とタバコとタバコ会社の歴史を知ることで新型タバコ問題がみえてきます。今回は、タバコについてのよくある疑問と一緒に、歴史をみていこうと思います。よく聞かれるのが、「タバコを禁止してくれたら禁煙するのに、なぜ禁止してくれないのか?」というものです。そもそも、なぜ、いまだにタバコは合法であり続けているのでしょうか? 今でもタバコが合法だからこそ、新しいタバコが市場に出てきたとも言えます。紙巻タバコは20世紀前半にかけての産業技術開発により大量生産が可能となり、まず高所得国を中心に普及しました。1900年以前において、タバコは広く普及しておらず、大衆文化ではありませんでした。タバコが国民・住民の文化であるというイメージは、近年にタバコ産業によって意図的に創出されたものです。普及前や普及直後には、タバコによる健康被害は当然分かっていませんでした*1。タバコ産業による巧みなマーケティング戦略により、タバコは20世紀に急激に普及しました。*1:ただし、タバコが普及した当初からタバコの健康被害を懸念する者もいた。そのはるか昔にも、タバコの健康被害は指摘されていた。たとえば、1712年に貝原益軒が著した「養生訓」には「煙草は性毒あり」「煙をふくみて眩ひ倒るゝ事あり」「病をなす事あり」「習へばくせになり、むさぼりて後には止めがたし」などと書かれている。タバコの害を懸念していた状況というのは、現在の新型タバコをめぐる状況と同じだとも言えそうだ。その後、タバコの害に関する研究が進み、1950年前後になってようやく喫煙による健康被害が報告されはじめました。この時になってはじめてタバコには害があると公に分かったわけですが、すでにタバコは広く普及してしまっていました。タバコ利権はすでに巨大なものとなっていたのです。その利権があまりに大きかったがゆえにタバコを擁護する勢力が強大で、すぐにタバコを禁止することができなかったと言えるでしょう。タバコには明らかに害があるとされたにも関わらず、です。今でもタバコが合法であり続けているのには、さらなる理由があります。タバコの害が明らかになったその時、世界のタバコ会社の幹部による会議が開かれました。そこで、タバコ会社は、「できるだけ人々がタバコの害に気付かず、吸い続けてくれるようにマーケティング戦略を駆使して、人々をだましていこう」との方針を決めたのです。タバコの害が報告されて以降も、世の中には、タバコの害を認識していない人がまだ多くいました。タバコの害を認識していない医師をつかまえてきて、タバコは良いものだ! と訴える広告に使ったのです(図)。画像を拡大するタバコ会社がお金を出して、「ストレスが体に悪い」*2、「タバコはストレスを減らす」というストーリーが作られてきたということが、タバコ会社の内部文書等の分析から明らかにされています。タバコはまったくストレスを減らさず、むしろ、ニコチン欠乏によるストレスを増やすと分かっています。ストレスが悪い、というストーリーは、タバコ以外にも悪いものを作りたかったタバコ産業の意図に完全に沿ったものとして作られました。その結果として、ストレスといえば悪いもの、とのイメージができてしまっていますが、これは誤ったイメージです*3。*2:実は、この「ストレスが体に悪い」というストーリーは、動物実験の結果から導かれたものだ。その動物実験では、ストレスとして、お腹に針を刺すと健康が害される、というような実験がされていた。お腹に針を刺すというのはストレスというよりは傷害事件になるレベルの出来事である。それであれば、健康を害してもなんらおかしくはない。そんな実験結果をもとにして、「ストレスは悪い!」というイメージだけが作られてしまったのである。*3:精神科医の中沢正夫氏は「ストレスは悪玉なのではない…ストレスを1つ1つ乗り越えることが、『人間』の発達なのである。ストレスは元来、避けるべき対象ではなく、乗り越えるべき対象なのである。一切のストレスを回避すれば、それは楽であろうが、その人は成長もまたあきらめることになるのである」と書いている。出典:中沢正夫著、ストレス善玉論、情報センター出版局、1987年ストレスはまったくないよりも適度にあった方がよい、過度でない適度なストレスはむしろやる気につながる、といった認識に対して反対される方は少ないのではないでしょうか。タバコ産業が意図的にストレスは悪いという極端なイメージを植え付けてきたために、われわれの認識は大きく歪められてしまっているのです。さて、タバコ問題の歴史に話をもどします。1964年、タバコ問題にとって非常に重要な報告がなされました。米国公衆衛生総監による最初のタバコの有害性に関する報告書が公開されたのです。1950 年代に喫煙と肺がんとの関連を示す研究が相次いで発表されたことを背景にして、喫煙と健康に関する包括的評価が実施され、男性において喫煙と肺がん、喫煙と喉頭がんとの間に因果関係がある*4と結論付けました。この報告の影響もあり、欧米の高所得国では喫煙率が減少傾向となり、日本でも1960年代をピークに喫煙率は減少に転じました。*4:「因果関係がある」とは単に関連しているということではなく、時間的前後関係として先に「喫煙」したことによって後に「肺がん」に罹患したり、肺がんを原因として死亡したりすることが増えるということを指す。1990年代、米国では各地でタバコ病に関する集団訴訟が起こり、タバコ会社が販売するタバコのために人々が病気になり、社会的損失が大きいとして、タバコ会社は追い詰められました。その結果、1998年にMaster Settlement Agreement というタバコ病訴訟の和解があり、米国のタバコ会社はその後25年間をかけて42 兆円にのぼる賠償金(和解金)を米国政府に支払うこととなったのです。その賠償金を使い、米国では多額の費用を要するテレビCM 等の脱タバコ・メディアキャンペーンが積極的に展開されてきています。こういった影響もあり、米国をはじめとした先進国では喫煙率は減少してきました。しかし、タバコ会社が世界中にマーケットを広げていったため、中低所得国にもタバコが普及しました。東南アジアなどの国では以前はほとんどタバコを吸う人はいなかったにもかかわらず、近年急激にタバコが普及してしまっています。タバコ産業は世界のタバコマーケットを維持するために莫大な予算をマーテティング活動に投じているのです。そして、地球人口の増加や中国などの経済新興国におけるタバコ消費量の増大も影響し、実は世界のタバコ消費量は増え続けています1)。1964年にタバコの害が明確に証明されてから50年以上がたっていますが、世界のタバコ消費量はその当時に比べて減るどころか、増えています。タバコ問題は決して過去の問題ではないのです。タバコ会社は、中低所得国では昔の日本や欧米で使われたような古典的なマーケティング戦略を駆使してタバコを売り込んでいます。一方で、日本や欧米のように喫煙率が低下傾向にある先進国におけるタバコ会社の戦略は基本的に一貫しています。「喫煙率が低下していくとしても、少しでも低下するスピードを遅くする。そのために、あらゆる手段を駆使して、タバコ対策を阻害し、少しでも多くの人にタバコを始めてもらい、吸い続けてもらうように仕向ける」という戦略です。2010年に神奈川県で受動喫煙防止条例が制定されました。日本で初めての受動喫煙防止条例です。この時、タバコ会社からの妨害工作がすさまじく、神奈川県は住民世論調査をまるまるやり直す事態となりました。はじめの調査では、タバコ会社による組織的動員によって不自然な反対票の急増が確認されたのでした。調査をやり直した結果、8割近くの県民が条例に賛成していると分かり、この世論が条例成立の後ろ盾となりました。もし、不自然な票の動きに気付いていなければ、日本で最初の受動喫煙防止条例は成立していなかったかもしれません。この辺りの事情はその当時の神奈川県知事であった松沢成文氏の著書『JT、財務省、たばこ利権』2)に詳しく書かれています。第21回は、「すべての診療科に関わる!タバコ問題を自分事にするために知っておきたいこと(2)(最終回)」です。1)Eriksen M, et al. The Tobacco Atlas, Fifth Edition: Revised, Expanded, and Updated. Atlanta, USA: American Cancer Society,2015.2)松沢成文 著. JT、財務省、たばこ利権 ~日本最後の巨大利権の闇~. ワニブックス;2013.

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ASCO2020レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介2020 ASCO Virtual Scientific ProgramCOVID-19の影響で初のバーチャル開催となったASCO2020。オープニングセッションでは2019~20年のプレジデントであるDr. Howard A. “Skip” Burris IIIは冒頭のあいさつで、本会の約1年前に“Unite & Conquer: Accelerating Progress Together”というテーマを掲げた際には現在の世の中の在り方を想像だにしていなかったが、われわれの働き方、社交の仕方にとどまらず、ものの見方まで変えてしまったパンデミック状況下で、このテーマが新たな意味を持つことになったと述べています。確かに地域・人種・民族・性別・職種の多様性を超えて団結し進歩を加速することの必要性は、COVID-19という喫緊の課題を前により明確になりました。「われわれは今年の年次総会では同じ部屋にいませんが、これまで以上に団結しています」という言葉が印象的でした。さて、Scientific Programの中から注目の演題をピックアップして紹介するこのレポート、前立腺がん領域では新規ホルモン治療薬の臨床試験結果とPSMA-PET関連の報告が、尿路上皮がんと腎細胞がんでは免疫チェックポイント治療の話題が中心となっています。経口LHRHアンタゴニストは進行前立腺がんに対する抗アンドロゲン療法を変えるか経口LHRHアンタゴニストの安全性・有効性を検証したHERO試験(NCT03085095)の結果が口演発表で報告されました(Abstract#5602)。従来の進行性前立腺がんにおけるアンドロゲン除去療法(ADT)では、LHRHアゴニストあるいはアンタゴニストの注射が中心でしたが、1ヵ月から6ヵ月ごとの注射が必要になる点や、アゴニスト製剤の場合にはLHサージが起こる点などの問題点がありました。国際第III相HERO試験では初の経口GnRH受容体アンタゴニスト製剤であるレルゴリクスの安全性・有効性を、従来臨床で用いられている酢酸リュープロライド注射製剤と比較しました。本試験では去勢感受性進行性前立腺がん患者934例を2:1の比率で経口レルゴリクス(120mg/日)あるいは酢酸リュープロライド皮下注射(3ヵ月ごとに11.25あるいは22.5mg)に無作為割付を行いました。主要評価項目である血清テストステロン(T)値の去勢レベル(<50ng/dL)への抑制(29日目時点)とその維持(48週間)は、レルゴリクス群では96.7%(95%CI:94.9~97.9%)で、酢酸リュープロライド群の88.8%(84.6~91.8%)と比較して、非劣性・優位性ともに統計学的に証明されました。副次的評価項目として、4日目の去勢達成率も56対0%でレルゴリクス群が優れており、治療中断後のT回復を検討した184例の検討では、治療中止90日後のTレベルの中央値は、270.76対12.26ng/dLとレルゴリクス群が有意に優れていました。さらに、心血管イベントの発生率もレルゴリクス群において低いという結果が示されました(2.9対6.2%)。そのほかの点では、安全性と忍容性のプロファイルはほぼ同等でした。著者らは、酢酸リュープロライド皮下注射と比較してレルゴリクスは、素早く(4日目までに去勢達成率)より確実に(48週間にわたる去勢域維持)血清Tを抑制し、中止後はより早期にT回復をもたらし、心血管イベントを50%減少するなどの優位性を示し、今後進行性前立腺がん患者に対するADTにおいて新しい標準治療になる可能性があると結論付けています。なおレルゴリクスは本邦でも「子宮筋腫に基づく諸症状(過多月経、下腹痛、腰痛、貧血)の改善」を適応としてすでに承認を受けています(用量は40mg/日)。本試験の結果はASCO2020における発表に合わせてNEJM誌(Shore ND, et al. N Engl J Med. 2020;382:2187-2196.)に発表されました。PSMA関連診断/治療モダリティは前立腺がんマネージメントのGame Changerとして期待PSMA関連では、3演題が口演発表に採択され、その注目度の高さがあらためて浮き彫りになったかたちです。診断関連では、根治治療後の生化学的再発(BCR)を来した前立腺がん患者の病巣部位確定における18F-DCFPyL(PyL)を用いたPSMA-PET/CT検査の有用性を検証した前向き第III相CONDOR試験(NCT03739684)の結果が紹介されました(Abstract#5501)。根治的治療後にPSAが上昇(PSA中央値0.8ng/mL[範囲:0.2~98.4])し、CT、MRI、骨シンチグラフィーなどの標準的な画像検査では病巣がはっきりしなかった208例の前立腺がん患者がエントリーされ、PyL-PET/CTの所見を3人の評価者によって検討した結果、病巣が認められた患者の割合は69.3%(142/208例)でした。主要評価項目である病巣部位特定率は84.8%~87.0%で、63.9%の患者でPyL-PET/CTの所見を基に治療方針が変更されました。重篤な有害事象が認められたのは1例(過敏症)のみで、最も頻度が高かった有害事象は頭痛(4例)でした。PyL-PET/CTは、BCR患者において従来の画像検査では描出できない病巣の特定と、それに基づく治療方針決定に有用であると結論付けられています。また、診断関連ではもう1演題、前立腺全摘除術+骨盤内リンパ節郭清を受ける中〜高リスクの限局性前立腺がんの患者を前向きにエントリーし、術前の68Ga-PSMA-11 PETのリンパ節転移の診断精度を郭清リンパ節の病理所見(pN診断)を参照標準として評価した研究の結果が公表されました(Abstract#5502)。その結果、68Ga-PSMA-11 PETの感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率(95%CI)はそれぞれ、0.40(0.34~0.46)、0.95(0.92~0.97)、0.75(0.70~0.80)、0.81(0.76~0.85)だったとのことです。治療関連では、PSMAを発現する腫瘍に治療用β線を照射する放射性標識された小分子LuPSMAの安全性と治療効果を検証したランダム化第II相TheraP試験(NCT03392428)の結果も報告されました(Abstract#5500)。本試験ではドセタキセル不応性転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)を対象とし、まず68Ga-PSMA-11および18F-FDG PET/CTを施行しました。両検査の結果、(1)PSMA強陽性の病変があること、(2)FDG陽性かつPSMA陰性の病変がないこと、という2つの条件を満たした患者をLuPSMA(6週ごと×最大6サイクル)あるいはカバジタキセル(20mg/m2/3週×10サイクル)による治療に無作為に割り付けました。主要評価項目は、PSAの50%以上の低下(PSA50-RR)で、副次的有効性エンドポイントには、PSA無増悪生存期間(PSA-PFS)および全生存期間(OS)が含まれていました。1次スクリーニングを受けた291例のうち200例がエントリー基準を満たし、LuPSMA群(n=99)あるいはカバジタキセル群(n=101)に割り付けられました。追跡期間の中央値は11.3ヵ月でした。PSA50-RRは、LuPSMA群のほうがカバジタキセル群よりも良好でした(65/99[66%、95%CI:56~75]vs.37/101[37%、95%CI:27~46]、p<0.001)。PSA-PFSにおいてもLuPSMAは有意に良好な結果を示しました(HR:0.63、95%CI:0.45~0.88、p=0.007)。OSデータは規定のイベント数に達していないため今回は示されていません。安全性に関して、Grade3〜4の有害事象(AE)発生率は、LuPSMA群で32%(31/98)に対し、カバジタキセル群では49%(42/85)でした。毒性による治療中止は、LuPSMA群で1%(1/98)、カバジタキセル群で4%(3/85)に認められました。治療に関連した死亡はありませんでした。著者らは上記要件を満たすmCRPC患者において、LuPSMAはカバジタキセルに比べてより治療活性が高く、AEが少ない治療法であると結論付けています。nmCRPC 3試験はだんご3兄弟かそれとも…前立腺がん領域ではこれ以外に、非転移性去勢抵抗性前立腺がん(nmCRPC)を対象とした新規アンドロゲン受容体(AR)シグナル阻害薬治療のOSアウトカムに関する報告がありました。ARAMIS試験(NCT02200614, Abstract#5514)、PROSPER試験(NCT02003924, Abstract#5515)、SPARTAN試験(NCT01946204, Abstract#5516)はそれぞれPSA倍化時間(PSA-DT)<10ヵ月のnmCRPC患者を対象に、それぞれダロルタミド、エンザルタミド、アパルタミドを投与する実薬群とプラセボ(PBO)群に2:1の比で割り付け、無転移生存(MFS)を主要評価項目としてその効果を検証するデザインで、すでにいずれの試験もMFSの延長を報告しています(ARAMIS試験 HR:0.41、95%CI:0.34~0.50、p<0.001 Fizazi K, et al. N Engl J Med. 2019;380:1235-1246.)(PROSPER試験 HR:0.29、95%CI:0.24~0.35、p<0.001 Hussain M, et al. N Engl J Med. 2018;378:2465-2674.)(SPARTAN試験 HR:0.28、95%CI:0.23~0.35、p<0.001 Smith MR, et al. N Engl J Med. 2018;378:1408-1418.)。今回発表されたOSに関する成績もMFSと同様、3試験ともほぼ同等と言ってよい結果でした(ARAMIS試験 未到達 対 未到達、HR:0.69、p=0.003)(PROSPER試験 67.0対56.3ヵ月、HR:0.73、p=0.0011)(SPARTAN試験 73.9対59.9ヵ月、HR:0.784、p=0.0161)。SPARTAN試験は2次治療後のデータ(2nd PFS)を報告しているという点で後続治療も考慮した、実臨床における治療選択に有用な情報を提供しているといえますが、ARAMIS試験はダロルタミドの有害事象(AE)プロファイルとしてPBO群とまったく遜色ない成績を報告しており、腫瘍学的転帰に関する成績がほぼ同等な3薬剤の選択に当たってはダロルタミドに有利なデータであると考えられます。切除不能/転移性尿路上皮がん:免疫チェックポイント阻害薬はこう使え!?尿路上皮がん(UC)では免疫チェックポイント阻害薬を従来の全身治療のさまざまなセッティングで用いる試みが報告され、今後の標準治療を考えるうえで大きな影響を与える可能性を感じさせる内容でした。なかでもLate-breaking abstractとしてプレナリーでJAVELIN Bladder 100試験(NCT02603432)の中間解析結果が報告され、大きな注目を集めました(Abstract#LBA1)。この無作為化第III相試験ではプラチナベースの1次化学療法(4~6コースのG-CDDPあるいはG-CBDCA)によって奏効(CR/PR)または安定(SD)を示した進行UC患者を、抗PD-L1抗体製剤であるアベルマブによる維持療法(10mg/kg IV 2週間ごと)+支持療法(BSC)とBSCのみのいずれかに割り付けました(n=350 vs.350)。その結果、主要評価項目であるOSはアベルマブ+BSC群で有意に良好でした(21.4 対 14.3ヵ月、HR:0.69、95%CI:0.56~0.86、片側p=0.0005)。サブグループ解析ではアベルマブ+BSC群の優位性に関して一様な傾向が示されました。副次的評価項目であるPFSも有意に良好でした(HR:0.62、95%CI:0.52~0.75、p<0.001)。Grade3以上のAEはアベルマブ+BSC群の47.4%、BSC群の25.2%で認められたと報告されています。現在のプラチナ適格・進行UCに対する標準治療は、1次治療がプラチナベースの化学療法、2次治療でペムブロリズマブという流れですが、本治験の結果に伴ってアベルマブが承認されると、1次治療がCR/PR/SDだった場合に維持療法としてアベルマブを投与するのか、いったんoff-treatmentとして再燃時にペムブロリズマブを投与する方針とするのか、選択を迫られることになります。今回公表されたデータによれば、JAVELIN Bladder 100試験のBSC群では進行時に2次治療を受けた患者は75.3%(PD-L1/PD-1阻害薬治療は52.9%)だったとのことです。一部患者において進行時に状態の悪化によって2次治療が受けられなかった結果なのか、あるいは本来実施可能であった適切な2次治療が施されなかった結果なのかによって、大きく解釈が変わる可能性があります。いずれにしても、ほかの切除不能/転移性尿路上皮がんに対する1次治療に関する治験で、免疫チェックポイント阻害薬単独あるいは免疫チェックポイント阻害薬+化学療法の併用レジメンが軒並み苦戦している現状で、本試験の結果は大きなインパクトがあり、1次治療からの治療シークエンスが大きく影響を受けることは間違いないと考えられます。周術期補助療法としての免疫チェックポイント阻害薬と効果予測バイオマーカーUCに関する口演発表では膀胱全摘除術後の術後補助療法としてのアテゾリズマブの効果を検証したIMvigor010試験(NCT02450331)の結果が公表されました(Abstract#5000)。本試験では膀胱全摘標本を用いた病理学的病期が、(1)ypT2-4aまたはypN+(ネオアジュバント化学療法を受けた患者の場合)もしくは(2)pT3-4aまたはpN+(ネオアジュバント化学療法を受けなかった患者の場合)と診断された患者を対象に、アテゾリズマブ(1,200mg IV 3週間ごと)あるいは経過観察の2群に1:1の無作為割付を行い、無再発生存(DFS)を主要評価項目としました。今回はDFSの最終解析とOSの中間解析の結果が示されましたが、いずれもアテゾリズマブ群の優位性を示すことができませんでした(DFS 19.4対16.6ヵ月、95%CI:15.9~24.8対11.2~24.8ヵ月、HR:0.89、95%CI:0.74~1.08、p=0.2466、OS 未到達 対 未到達、HR:0.85、95%CI:0.66~1.09、p=0.1951)。転移性UCを対象としたIMvigor130試験(Doctors' Picks 2020年5月20日もご参照ください)と比較して、AEによる治療中断率が高かったことが原因として示唆されています。今後このセッティングでの免疫チェックポイント阻害薬の位置付けがどうなるかについては不透明なままとなっています。周術期補助療法としての免疫チェックポイント阻害薬の話題としては、無作為第II相DUTRENEO試験(NCT03472274)の結果がClinical Science Symposiumで報告されています(Abstract#5012)。本試験では、シスプラチン適格の筋層浸潤性膀胱がん(MIBC,、cT2-T4a、N≦1、M0)と診断された患者を、まず腫瘍の炎症誘発性IFN-γシグネチャー(腫瘍免疫スコア、TIS)を基準に「ホット」あるいは「コールド」に分類しました。このTISは以前にPD-1経路阻害薬の効果を予測すると報告されています(Ayers M, et al. J Clin Invest. 2017;127:2930-2940.)。「ホット」と診断された患者は術前補助療法としてPD-L1阻害薬デュルバルマブ1,500mg+CTLA-4阻害薬tremelimumab 75mg×3サイクル(DU+TRE群)あるいはシスプラチンベースの化学療法(G-CDDPまたはdd-MVAC、標準CT群)に無作為割り付けされ、「コールド」と診断された患者は全例が化学療法に割り付けられました。合計61例がエントリーされ、「ホット」と診断された患者のうち22例が標準CTを、23例がDU+TREを受け、それぞれ36.4%(n=8)、34.8%(n=8)が主要評価項目であるpCRを達成しました(オッズ比:0.923、95%CI:0.26~3.24)。一方「コールド」と診断され標準CTを受けた16例の患者のうち68.8%(n=11)がpCRを達成しました。DU+TREの組み合わせは、MIBCに対する術前補助療法における効果的および安全なオプションであることが示されましたが、炎症誘発性IFN-γシグネチャーによる層別化では免疫チェックポイント阻害薬治療と標準化学療法のどちらから利益を得る可能性が高いかを予測することはできませんでした。免疫チェックポイント阻害薬治療の効果予測バイオマーカー研究としては、無作為第III相IMvigor130試験(NCT02807636)の患者における腫瘍の変異頻度(TMB)、PD-L1発現、Tエフェクター遺伝子発現(GE)および線維芽細胞TGF-β応答シグネチャー(F-TBRS)のバイオマーカーとしての有用性が報告されています(Abstract#5011)。これらのバイオマーカーは既報(Mariathasan S, et al. Nature. 2018;554:544-548.)によりアテゾリズマブ単独治療の効果予測因子として見いだされたものです。IMvigor130試験では転移性UC患者の1次治療としてアテゾリズマブ+プラチナベースの化学療法(PBC)、アテゾリズマブ単独、またはPBC単独に1:1:1で無作為割り付けされ、主要評価項目としてPFSとOSを検証しました(Doctors' Picks 2020年5月20日もご参照ください)。上記項目は本試験における探索的バイオマーカー分析の対象とされていました。全1,200例の組み入れ患者のうち851例でバイオマーカー解析が可能でした。PD-L1高発現(IC2/3)はアテゾリズマブ単独 対 PBCにおけるアテゾリズマブ群の良好なOSを予測し、さらにPD-L1高発現(IC2/3)と高TMB(>10変異/Mb)を組み合わせることによって、予測能が上昇しました。APOBEC関連変異は、アテゾリズマブ含有レジメンによるOSの改善と関連していました。このように、免疫チェックポイント阻害薬が進行性UCに対する1次治療あるいはMIBCに対する術前補助療法における治療オプションに入ってくるにつれて、治療効果予測に有用なバイオマーカーの重要性も高まってくることが予想されます。検体採取から検査を経て治療開始に至るまでの時間をいかに短縮できるかという点も、今後重要な課題となってくると思われます。腎細胞がん:免疫チェックポイント阻害薬+TKIの中長期予後腎細胞がん(RCC)領域は前立腺がん・尿路上皮がんに比べると今年はややおとなしい印象でしたが、その中で、KEYNOTE-426試験(NCT02853331)の追加フォローアップのデータが口演セッションで発表されたので取り上げたいと思います(Abstract#5001)。この試験では861例の進行性淡明細胞型RCC(cc-RCC)に対する1次治療としてのペムブロリズマブ+アキシチニブとスニチニブを、OSとPFSを主要評価項目として比較しました。今回、中央値27.0ヵ月(範囲:0.1~38.4ヵ月)のフォローアップで、ペムブロリズマブ+アキシチニブ群のOS(HR:0.68、95%CI:0.55~0.85、p<0.001、24ヵ月OS 74% vs.66%)およびPFS(HR:0.71、95%CI:0.60~0.84、p<0.001、24ヵ月PFS 38% vs.27%)の延長効果が示されました。これらのベネフィットはIMDCリスク分類やPD-L1発現にかかわらず認められたということです。追加解析の結果、ペムブロリズマブ+アキシチニブ群においては腫瘍縮小率がOSと相関していたことも示されました。また、RCC領域でも免疫チェックポイント阻害薬の治療効果予測因子に関する探索的研究の結果が散見されました(Abstracts#5009, 5010)。おわりに総じて、前立腺がんでは新規ARシグナル阻害薬のより早期ステップでの使用とPSMA関連核医学検査/治療(いわゆるTheranostics)の話題が、UCとRCCでは免疫チェックポイント阻害薬のさまざまなセッティングにおける有効性・安全性と治療効果予測のためのバイオマーカー探索が中心となった年であったと考えられます。来年になるとAntibody-conjugated drug(ACD)も登場し、各腫瘍いよいよ「役者」が出そろってくることになり、治療効果予測のバイオマーカー探索、さらにはバイオマーカーベースの治療方針を決める前向き試験等が登場することを期待しています。

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第14回 ヒト胚のCRISPR遺伝子編集はいらぬ大異変を誘発しうる

1年半ほど前の2018年11月、世界初となる“遺伝子編集ベビー”が誕生したというニュースが世間を騒がせました。HIVに感染し難くすることを意図したCRISPR遺伝子編集を経た胚が、双子として出産まで至ったことを中国の研究者He Jiankui氏が香港の遺伝子編集学会で発表し、物議を醸したのです1)。ロシアの科学者Denis Rebrikov氏は、世界の科学者の反対をよそにJiankui氏の後に続いてCRISPR遺伝子編集胚を女性に移植すること計画しています2)。ただしロシアの保健省は時期尚早との見解を表明していて、計画の実行は容易ではなさそうです。ロシア保健省の見解はおそらく正しく、ヒト胚のCRISPR遺伝子編集が下手をすると染色体まるごと1本を失うほど大規模な、いらぬ異変を招きうることが最近立て続けに発表された研究3報で示されました3)。3つの研究チームはいずれもたった1つの遺伝子の編集を試みたのですが、結果的にその目当ての一帯がDNAの大欠損や入れ替え等を被りました。英国・ロンドンのFrancis Crick Instituteの生物学者Kathy Niakan氏等は胚の発達や多能性に必要なPOU5F1遺伝子を変異させるCRISPR-Cas9編集を18の胚細胞に施しました。その結果、4つ(22%)の胚のPOU5F1遺伝子一帯に、広範囲に及ぶ欠損や増幅が生じました4)。ニューヨーク市・コロンビア大学の幹細胞学者Dieter Egli氏等による2つ目の試験では、胚細胞の6番染色体のEYS遺伝子失明変異をCRISPR-Cas9編集で正すことが試みられました。その結果、23の胚の約半分が6番染色体の大規模欠損を呈し、極端な場合には染色体がまるごと欠如していました5)。3つ目の研究はオレゴン州ポートランドのOregon Health & Science Universityの生殖生物学者Shoukhrat Mitalipov氏のチームによるもので、心臓病を引き起こすMYBPC3遺伝子変異をCRISPR-Cas9編集で正すことを試みたところ、その変異を含む染色体領域にやはり大規模な異変が生じました6)。上記3つの報告はいずれも研究目的であり、女性への移植を見越して実施されたわけではありません。使われた胚はいずれも研究で使われた後に尽き果てています。CRISPRで切断されたゲノムに生体がどう対処するのかは、実はほとんど分かっていないことを今回の3報告は浮き彫りにしました3)。CRISPR編集で生じた新たなDNA切断面はあっさり元通りになるとは限らず、でたらめな修復のせいでDNA損壊に至ることもあるのです。体内へゲノム編集成分を直接投与する試験7)がすでに始まっていますが、CRISPR標的部位一帯の大規模な異変についてこれまで以上に慎重を期す必要があるとカリフォルニア大学バークレー校の遺伝学者にしてCRISPR研究者でもあるFyodor Urnov氏は言っています。また、胚の編集には絶対取り掛かってはいけないとUrnov氏は警告しています8)。参考1)CRISPR Scientists Slam Methods Used on Gene-Edited Babies / TheScientist 2)Russian ‘CRISPR-baby’ scientist has started editing genes in human eggs with goal of altering deaf gene / Nature 3)CRISPR gene editing in human embryos wreaks chromosomal mayhem / Nature 4)Frequent loss-of-heterozygosity in CRISPR-Cas9-edited early human embryos. biorxiv. June 05, 20205)Reading frame restoration at the EYS locus, and allele-specific chromosome removal after Cas9 cleavage in human embryos. bioRxiv. June 18, 20206)FREQUENT GENE CONVERSION IN HUMAN EMBRYOS INDUCED BY DOUBLE STRAND BREAKS. bioRxiv. June 20, 20207)Allergan and Editas Medicine Announce Dosing of First Patient in Landmark Phase 1/2 Clinical Trial of CRISPR Medicine AGN-151587 (EDIT-101) for the Treatment of LCA10 8)CRISPR Gene Editing Prompts Chaos in DNA of Human Embryos / TheScientist

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PD-L1陽性胃がんの2次治療でのペムブロリズマブの追跡結果(KEYNOTE-061試験)/ASCO2020

 米・イエールがんセンターのCharles S. Fuchs氏は、PD-L1陽性進行胃がん・胃食道接合部がんの2次治療でのペムブロリズマブとパクリタキセルを比較する無作為化非盲検第III相試験KEYNOTE-061の結果を米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)で発表。追加の2年の追跡期間を加えてもペムブロリズマブはパクリタキセルに比べ無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)の有意な改善効果を示せなかったと報告した。・対象:フッ化ピリミジン+プラチナレジメンの1次治療で病勢進行となった進行胃・食道胃接合部腺がん592例試験薬:ペムブロリズマブ200mg 3週ごと(296例、PD-L1 がCPS≧1は196例)・対照薬:パクリタキセル80mg/m2(day1、8、15)4週ごと(296例、CPS≧1は199例)・評価項目:[主要評価項目] PD-L1(CPS)≧1のOS、PFS[副次評価項目]PD-L1(CPS)≧1の奏効率(ORR)、奏効持続期間(DoR)、全症例での安全性 主な結果は以下のとおり。・CPS≧1でのOS中央値はペムブロリズマブ群9.1ヵ月、パクリタキセル群8.3ヵ月(ハザード比[HR]:0.81、95%信頼区間[CI]:0.66~1.00)、CPS≧5では、それぞれ10.4ヵ月と8.3ヵ月(HR:0.72、95%CI:0.53~0.99)、CPS≧10では、それぞれ10.4ヵ月と8.0ヵ月であった(HR:0.69、95%CI:0.46~1.05)。・CPS≧1でのPFS中央値はペムブロリズマブ群1.5ヵ月、パクリタキセル群4.1ヵ月(HR:1.25、95%CI:1.02~1.54)、CPS≧5では、それぞれ1.6ヵ月と4.0ヵ月(HR:0.98、95%CI:0.71~1.34)、CPS≧10では、それぞれ2.7ヵ月と4.0ヵ月であった(HR:0.79、95%CI:0.51~1.21)。・CPS≧1でのORRはペムブロリズマブ群16.3%、パクリタキセル群13.6%、CPS≧5ではそれぞれ20.0%と14.3%、CPS≧10ではそれぞれ24.5%と9.1%であった。・CPS≧1でのDoR中央値はペムブロリズマブ群19.1ヵ月、パクリタキセル群5.2ヵ月、CPS≧5ではそれぞれ32.7ヵ月と4.8ヵ月、CPS≧10ではそれぞれ未到達と6.9ヵ月であった。・Grade3以上の治療関連有害事象発現率はペムブロリズマブ群が15.0%、パクリタキセル群が35.1%であった。 Fuchs氏は「OS、PFSともペムブロリズマブの優位性は示せなかったが、数値上、OS、ORRはペムブロリズマブ群のほうが高く、PD-L1陽性レベルが高くなるにつれてメリットが増えていくことがわかった」と述べた。

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全身療法が計画されている高齢者での高齢者機能評価の有用性(INTEGERATE試験)/ASCO2020

 オーストラリア・モナシュ大学Eastern Health Clinical SchoolのWee-Kheng Soo氏は、全身療法が計画されている高齢者での包括的な高齢者機能評価や老年医学専門家の介入の有無を比較する無作為化非盲検試験・INTEGERATE試験の結果を米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)で発表。老年医学的介入群ではQOLが有意に改善し、予期せぬ入院や有害事象による早期治療中止が減少すると報告した。・対象:固形がんあるいはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)で、3ヵ月以内に化学療法、分子標的薬治療、免疫チェックポイント阻害薬療法が予定されている70歳以上の高齢者154例・試験群:本人申告による質問票での回答と高齢者機能評価(CGA)を実施。栄養、身体機能などの改善に向けた標準的介入に加え、併存疾患のケアなど、アセスメントに基づく個別介入を実施(76例)・対照群:通常ケア(78例)・評価項目:[主要評価項目] ELFI(Elderly Functional Index)スコアによるQOL評価[副次評価項目]ヘルスケアサービスの利用状況、治療提供状況、機能、施設入所状況、気分、栄養状態、健康上の効用、生存状況 主な結果は以下のとおり。・追跡12週目でのELFIスコアは老年医学的介入群では71.4、通常ケア群で60.3(p=0.004)、追跡18週目でのELFIスコアはそれぞれ72.0と58.7(p=0.001)、追跡24週目ではそれぞれ73.1と64.6であった(p=0.037)。・QOL評価での社会的機能、疾患による苦しみ、将来への不安の項目は追跡24週間中、一貫して老年医学的介入群は通常ケア群を上回っていた。・老年医学的介入群では通常ケア群と比較して救急対応が39%減少、予期せぬ入院が41%減少、予期せぬ入院時の終日横臥状態が21%減少した。・有害事象による早期治療中止率は老年医学的介入群が32.9%、通常ケア群が53.2%であった(p=0.01)。  これらの結果から、Soo氏は「抗がん療法が予定されている70歳以上の高齢者では包括的な老年医学的アセスメントを受けるべきである」と述べた。

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マスクの再利用、消毒後のウイルス遮断効果は?

 これまでの研究では、N95マスクを再利用するさまざまな滅菌方法の評価試験やN95マスクとサージカルマスクの比較試験などが行われてきた。しかし、現時点でKN95マスクやサージカルマスクの滅菌後のろ過効率の影響を調べた研究は乏しい。米国・オクラホマ大学のChangjie Cai氏らはKN95マスクとサージカルマスクが再利用可能かどうかを明らかにするための研究を実施。 その結果、滅菌プロセスが各マスクのろ過効率に影響を与えることが示唆された。ただし、研究者らは試験時の制限(マスクメーカーの種類が少ない、各マスクと条件のサンプルサイズが小さい、評価した滅菌技術が2つしかないなど)や1回より多く滅菌した場合にマスク劣化の可能性もあるため、これらを踏まえたさらなる調査が必要としている。2020年6月15日JAMA Network Open誌のリサーチレターに報告した。 本研究は、2020年3月25日~4月7日に3種類のマスク(N95マスク[モデル1860:3M社]、KN95マスク[Civilian Antivirus:Qingdao Sophti Health Technology社]、サージカルマスク[モデル1541:Dukal社])のろ過効率について調査を行った。すべてのマスクは38°C、相対湿度100%のインキュベーターで12時間前処理された。滅菌処理にはプラズマ状態の過酸化水素(H2O2)と二酸化塩素(ClO2)を使用し、各マスクのろ過効率と減圧についての平均値±SDが算出された。 主な結果は以下のとおり。・ろ過効率と減圧による滅菌効果を調べた結果、各未処理マスクの平均ろ過効率±SDはN95マスク群が97.3±0.4%、KN95マスク群が96.7±1.0%、サージカルマスク群が95.1±1.6%だった。・H2O2滅菌後のろ過効率は、N95マスク群が96.6±1.0%、KN95マスク群が97.1±2.4%、サージカルマスク群が91.6±1.0%で、N95マスク群とKN95マスク群は95%以上のろ過効率を維持したが、サージカルマスク群の効率は低下した。・ClO2滅菌後のろ過効率は、N95マスク群が95.1±1.6%、KN95マスク群が76.2±2.7%、サージカルマスク群が77.9±3.4%だった。・H2O2滅菌では、各マスク群全体のろ過効率の影響はわずかであったが、一方でClO2滅菌では、KN95マスク群とサージカルマスク群のろ過効率が著しく低下した。 圧力変化はすべて許容範囲内だった。・エアロゾルのサイズごと(16.8~514nm)に、ろ過効率による滅菌効果を調べた結果、サイズ別濾過効率はすべての未処理マスクで95%以上だった。・約300nm(0.3μm)の粒子において、ClO2滅菌後のN95マスク群の平均ろ過効率±SDは86.2±6.8%に低下したが、全体的なろ過効率は約95%に保たれていた。ただし、KN95マスク群では40.8±5.9%に、サージカルマスク群では47.1±14.4%に低下した。

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COVID-19に関連する医師のメンタルヘルスやストレス

 COVID-19のアウトブレイクによる医師の不安やストレス、抑うつレベルへの影響について、トルコ・Istanbul Medeniyet UniversitesiのRumeysa Yeni Elbay氏らが調査を行った。Psychiatry Research誌オンライン版2020年5月27日号の報告。 COVID-19アウトブレイクにおける医療従事者の心理的反応と関連要因を評価するため、オンライン調査を実施した。調査内容は、社会人口統計学的データ、個別の労働条件に関する情報、Depression Anxiety and Stress Scale-21(DAS-21)のセクションで構成した。 主な結果は以下のとおり。・調査対象442人中、各症状が認められた人数は以下のとおりであった。 ●うつ症状:286人(64.7%) ●不安症状:224人(51.6%) ●ストレス:182人(41.2%)・スコアの高さと関連していた要因は、女性、若年、独身、実務経験の少なさ、最前線での診療であった。・一方、子供がいることは、各サブスケールスコアの低さと関連していた。・最前線での診療に当たっていた医師において、DAS-21合計スコアの上昇と関連する要因は以下のとおりであった。 ●毎週の労働時間の増加 ●ケアするCOVID-19患者数の増加 ●同僚や上司からのサポートレベルの低さ ●後方支援の低下 ●COVID-19関連タスクでの技量に対する不安 著者らは「本調査結果は、世界中の社会に多大な影響を与える災害と闘う中で、医師のメンタルヘルスを守るために注意すべき要因を強調するものである」としている。

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超速効型インスリン ルムジェブを発売/日本イーライリリー

 6月17日、日本イーライリリーは、超速効型インスリンアナログ製剤(遺伝子組換え)インスリンリスプロ(商品名:ルムジェブ注)の「同ミリオペン」、「同ミリオペンHD」、「同カート」「同100単位/mL」を「インスリン療法が適応となる糖尿病」を効能・効果として新発売した。 本剤は、より良い血糖コントロールの実現のために、健康な人のインスリン分泌により近いインスリン動態の再現を目指し開発された薬剤。 既存の超速効型インスリンアナログ製剤の有効成分に添加剤を加えることで、皮下からの吸収を速め、日本人1型糖尿病患者において従来の製剤と比べて最高濃度の50%に達する時間を13分、曝露持続時間を88分短縮し、速やかなインスリン作用発現および消失を実現した。 本剤は通常、食事開始時(食事前2分以内)に1回2~20単位を皮下注射する。そのため、患者が食事内容を確認した上で、「いただきます」のタイミングで投与することが容易となり、処方薬剤の変更によって患者の現在の生活リズムを大きく変える必要がない。また、必要な場合は食事開始後20分以内に投与することも可能。 同社では、「本剤は、健康な方のインスリン分泌により近いインスリン動態を持つ有望な新薬。食後の血糖値を目標範囲内に収めるための新たな選択肢」と期待を寄せている。ルムジェブ注の概要一般名:インスリンリスプロ(遺伝子組換え)商品名: ルムジェブ注ミリオペン ルムジェブ注ミリオペンHD ルムジェブ注カート ルムジェブ注100単位/mL効能・効果:インスリン療法が適応となる糖尿病用法・用量: 通常、成人では1回2~20単位を毎食事開始時に皮下注射するが、必要な場合は食事開始後の投与も可能。時に投与回数を増やしたり、持続型インスリン製剤と併用したりすることがある。投与量は、患者の症状および検査所見に応じ適宜増減するが、持続型インスリン製剤の投与量を含めた維持量としては通常1日4~100単位。(ルムジェブ注100単位/mLのみ)必要に応じ持続皮下注入ポンプを用いて投与する。薬価: ルムジェブ注ミリオペン(300単位1キット)1,400円 ルムジェブ注ミリオペンHD(300単位1キット)1,400円 ルムジェブ注カート(300単位1筒)1,175円 ルムジェブ注100単位/mL(100単位1mLバイアル)277円製造販売承認日:2020年3月25日薬価基準収載日:2020年5月20日発売日:2020年6月17日

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日医会長に中川俊男氏が初当選、新執行部体制へ

 任期満了に伴う日本医師会の会長選挙が6月27日行われ、副会長の中川 俊男氏(69歳)が、現職で5期目を目指す横倉 義武氏(75歳)を接戦の末おさえ、初めての当選を果たした。中川氏は、これまで日本医師会の常任理事2期、副会長を5期に渡って務めたほか、社保審や中医協の委員などを歴任。会長選には、初めての立候補だったが、14大都市医師会をはじめ多くの都道府県医師会会長の推薦を手堅く集め、17票の僅差ながら現職候補を破る結果となった。 日本医師会会長選挙は371人の代議員による投票で行われた。開票結果は以下の通り。・中川 俊男氏:191票(当選)・横倉 義武氏:174票その他、無効票:2票、白票:4票 副会長および常任理事は、以下の通り(立候補者数と定数が同一のため、いずれも信任投票)。【副会長】猪口 雄二氏、松原 謙二氏、今村 聡氏【常任理事】江澤 和彦氏、長島 公之氏、松本 吉郎氏、羽鳥 裕氏、城守 国斗氏、釜萢 敏氏、渡辺 弘司氏、神村 裕子氏、宮川 政昭氏、橋本 省氏 中川氏は、今回の選挙時において、新型コロナウイルス感染症対策として、専門組織の強化や日本版CDC創設への働きかけを行うことを提言。地域医療を支える医業経営基盤の安定化策としては、診療報酬の構造的問題の見直しおよびあるべき診療報酬体系の提言、日医内に医療機関経営支援のための組織創設、控除対象外消費税を巡る医療機関ごとの補填のバラツキ解消などを掲げていた。

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リンチ症候群の大腸がん予防にアスピリンが有効/Lancet

 リンチ症候群は、大腸がんのリスクを増大させ、他の広範ながん、とくに子宮内膜がんと関連する。英国・ニューカッスル大学のJohn Burn氏ら「CAPP2試験」の研究グループは、リンチ症候群における大腸がんの予防において、アスピリンの2年投与はプラセボに比べ、その発症を有意に抑制することを確認した。研究の成果は、Lancet誌2020年6月13日号に掲載された。本試験では、2011年(平均フォローアップ期間55.7ヵ月[SD 31.4])の時点におけるアスピリンによる遺伝性大腸がんの予防効果を報告している。今回、予定されていた10年間のフォローアップを終了したことから、この高リスク集団における定期的なアスピリン服用の長期的な有効性のデータが報告された。アスピリン長期投与の予防効果を評価する無作為化試験 本研究は、欧州、オーストララシア、アフリカ、南北アメリカ大陸の43施設が参加した二重盲検無作為化試験であり、1999年1月~2005年3月の期間に患者登録が行われた(Cancer Research UKなどの助成による)。 対象は、年齢26歳以上、DNAミスマッチ修復遺伝子変異の保持者と証明された患者(遺伝子診断)、およびアムステルダム診断基準を満たし、治癒したリンチ症候群による新生物の既往歴があるが、腸管にはほとんど損傷がない患者家族に属する患者(臨床的診断)であった。 被験者は、アスピリン(600mg/日)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。2年間の介入が行われ、さらに2年間の継続が選択可能とされた。解析には、10~20年間、がんのアウトカムのモニタリングを受けたイングランド、フィンランド、ウェールズの参加者のデータを用いた。 主要評価項目は大腸がんの発生とし、intention to treat解析とper protocol解析を行った。大腸がんリスク35%低下、至適用量の非劣性試験が進行中 適格基準を満たしたリンチ症候群937例の平均年齢は45歳であった。このうち861例が無作為割り付けの対象となり、アスピリン群に427例、プラセボ群には434例が割り付けられた。 平均介入期間は25.2ヵ月(SD:13.4、範囲:0.8~74.4)であり、平均フォローアップ期間は118.4ヵ月(63.5、1.1~238.9)であった。この間に、アスピリン群は9%(40/427例)、プラセボ群は13%(58/434例)で大腸がんが発生した。 Cox比例ハザードモデルを用いたintention to treat解析では、アスピリン群はプラセボ群に比べ、大腸がんのリスクが有意に低かった(ハザード比[HR]:0.65、95%信頼区間[CI]:0.43~0.97、p=0.035)。リンチ症候群のがんスペクトルにおけるすべての原発がんを考慮して、負の二項回帰モデルで解析したところ、アスピリンの保護効果に関して同様のエビデンスが得られた(発生率比:0.58、95%CI:0.39~0.87、p=0.0085)。 また、2年間の介入を完了した509例(67イベント)のper protocol解析では、HRは0.56(95%CI:0.34~0.91、p=0.019)、発生率比は0.50(0.31~0.82、p=0.0057)であり、アスピリン群で発がんのリスクが低かった。 リンチ症候群関連の大腸がん以外のがんは、両群とも36例で発生した。intention to treat解析(HR:0.94、95%CI:0.59~1.50、p=0.81)およびper protocol解析(0.75、0.42~1.34、p=0.33)ともに、発がんのリスクに関して両群間に差は認められなかった。 これらを合わせたすべてのリンチ症候群関連がんの発生については、intention to treat解析(HR:0.76、95%CI:0.56~1.03、p=0.081)では有意な差はなかったが、per protocol解析(0.63、0.43~0.92、p=0.018)ではアスピリン群で発がんのリスクが有意に低下していた。 介入期間中の有害事象は、アスピリン群とプラセボ群で類似していた。また、介入期の完全なデータのある患者では、介入群間で服薬コンプライアンスに有意な差はみられなかった。 著者は、「リンチ症候群では、少なくとも2年間、毎日600mgのアスピリンを服用することで、将来の大腸がんのリスクが有意に減少するが、この効果は少なくとも4年間は明らかにならない点に留意する必要がある」とまとめ、「現在進行中のCaPP3試験は、用量の非劣性試験であり、がん予防と有害事象のバランスに関する至適な用量について、有益な情報をもたらすだろう」としている。

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BTK阻害薬acalabrutinib、CLL2つの試験で有用性/アストラゼネカ

 アストラゼネカは、2020年6月12日、第II相ACE-CL-001試験および第III相ASCEND試験の詳細データから、慢性リンパ性白血病(CLL)に対して、acalabrutinibが長期にわたる有効性および忍容性が示されたことを発表した。 これらの試験データは、2020年6月11日から14日にバーチャル形式で開催された第25回欧州血液学会(EHA)年次総会にて発表された。 単一群を対象としたACE-CL-001試験では、1次治療における単剤療法としてアカラブルチニブによる治療を受けたCLL患者の86%が、中央値4年以上の追跡期間において治療を継続していた。この試験の全奏効率は97%(完全奏効:7%、部分奏効:90%)で、遺伝子変異(17p欠失およびTP53突然変異)、免疫グロブリンH鎖遺伝子(IGHV)非変異、および複雑核型を含む高リスク患者のサブグループにおいては100%の全奏効率を示した。なお、安全性所見では新たな長期的問題は認められなかった。 加えてASCEND試験の最終データ解析では、試験対象となった再発性または難治性CLL患者のうち、18ヵ月時点で生存かつ病勢進行も認められなかった患者の割合が、アカラブルチニブ投与群では82%だったのに対し、リツキシマブとidelalisibまたはベンダムスチンの併用群では48%であった 。本試験は、中間データ解析時点において、独立判定委員会(IRC)の評価による無増悪生存期間の主要評価項目を、すでに 達成している。

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新型コロナウイルス感染症の重症化リスク解析について(解説:小林英夫氏)-1249

 新型コロナウイルス感染症はWHOによるICD-10(疾病及び関連保健問題の国際統計分類第10回改訂)ではCOVID-19とコードされ、その和訳は「コロナウイルス感染症2019」とする案、つまり「新型」が付記されない方向で厚労省にて現在審議中とのことである。 さて、日本と欧米や東アジア間ではCOVID-19への対応状況が異なるが、死亡者数・感染者数に明らかな差異が報告されている。その差異の理由はいかなるものかを解明していくことは今後の必須テーマで、京都大学の山中 伸弥教授はこの因子にファクターXと名付けている。現状では実態不明のファクターXであるが誰にでも予想できる要素として、人種別の遺伝的要素、ウイルス遺伝子変異、などは当然の候補となろう。そこで本論文では重症化、呼吸不全化のリスクについてゲノムワイド関連解析を行っている。その方向性は適正であろう。本論文の和訳は別途本サイトで掲載されるが、血液型によるリスク差に関する結果の一部だけを切り取ってマスメディアが過剰に喧伝しそうで気掛かりである。本論文はあくまでイタリアとスペインというラテン系民族が対象であり、日本人に該当するかどうかは未定である。もちろん、感染症に対して遺伝的素因・体質的素因が関与することは予想される事項であり、本邦でも罹患リスクや重症化リスクへのゲノム解析への取り組みに期待したい。 筆者はウイルス学や感染制御が本業ではないが、連日のようにCOVID-19関連論文が発表されるのを目にする。ただ、情報の迅速性を優先するためであったのだろうが、Lancet、NEJMといった一流ジャーナルにおいてさえ論文の掲載撤回というあまり経験のない事態も生じている。研究に迅速性が望まれている現状であるから、論文の解釈には常時以上の慎重さをもって読み込みたい。

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第13回 医療・介護従事者へのコロナ慰労金、8月下旬にも交付か

<先週の動き>1.医療・介護従事者へのコロナ慰労金、8月下旬にも交付か2.日本医師会会長選、横倉氏5選ならず中川俊男氏が選出3.死因究明の推進のため、新たに死因究明等推進本部が始動4.医療費の自己負担増、全世代型社会保障検討会議の中間報告では見送り5.人口減社会への対応を呼びかける答申、地方制度調査会が提出1.医療・介護従事者へのコロナ慰労金、8月下旬にも交付か第二次補正予算に組み込まれた「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金」について、医療・介護従事者とその事業者に対する慰労金の支払いスケジュールなどが明らかになった。厚生労働省は、16日に各都道府県への事務連絡を行っており、「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業(医療分)実施要綱」、「令和2年度新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療分)交付要綱」などに基づいて、7月17日までに追加交付申請を求めている。医療機関などに対する感染拡大防止の支援金と共に、8月下旬の交付を目指す。各医療機関の担当者は、医療保険、介護保険それぞれについて、新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業の交付要綱を確認する必要がある。なお、今回の慰労金は個人に対する交付であり、6月30日までの間に「10日以上」勤務した場合、雇用形態にかかわらず、申請時点で在職中でなくても給付対象となる。(参考)新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業(医療分)の追加交付申請等について(同)新型コロナで医療者に慰労金、誰がいくらもらえるの?(看護roo!)医療者ら向け慰労金の交付、「8月下旬ごろから」で調整 厚労省(MEDIFAXweb)2.日本医師会会長選、横倉氏5選ならず中川俊男氏が選出任期満了に伴う日本医師会会長選挙が、27日に文京区の日医会館で行われた。今回は、現職の横倉 義武会長と中川 俊男副会長の一騎打ちとなり、投票の結果、中川氏が191票、横倉氏が174票で、中川氏が初当選として会長に選出された。任期は2年。副会長は、立候補者数が定数と同一のため信任投票となり、猪口 雄二氏、松原 謙二氏、今村 聡氏が信任された。(参考)第147回日本医師会定例代議員会 選挙結果報告(日本医師会)3.死因究明の推進のため、新たに死因究明等推進本部が始動厚労省は26日、死因究明等推進本部を設置し、議事内容などを公表した。これは、2019年6月に衆議院本会議で可決・成立した「死因究明等推進基本法」の公布(本年4月1日)を受けたもの。加藤厚労大臣を本部長とする死因究明等推進本部では、来年の春ごろまでに議論を進め、死因究明等推進計画が閣議決定される見通し。(参考)第1回 死因究明等推進本部(厚労省)新たに始まる死因究明制度:死因究明等推進基本法について(新潟市医師会)死因究明等推進計画案、検討会設置し作成へ 厚労省、推進本部初会合の議事内容など公表(CBnewsマネジメント)4.医療費の自己負担増、全世代型社会保障検討会議の中間報告では見送り全世代型社会保障検討会議は、25日、感染症対策の視点も含めた持続可能な医療提供体制の整備を盛り込んだ「第2次中間報告」をまとめた。新型コロナウイルスの感染拡大に当たって、高市 早苗総務相から「公立病院が新型コロナ感染患者の受け入れで大きな役割を果たしていた」と意見が出され、地域医療構想の実現に当たってもこの視点を盛り込む必要性を求める意見が出た。75歳以上の医療費負担を原則1割から2割に引き上げる所得水準については結論を先送り、2020年末の最終報告で取りまとめることとした。また、新型コロナ感染拡大防止対策として、オンラインによる診療や面会など非接触サービスの提供を促進するため、医療機関や介護施設にタブレットやWi-Fiなどの導入支援の強化も打ち出されている。(参考)全世代型社会保障検討会議 第2次中間報告(案)(首相官邸)5.人口減社会への対応を呼びかける答申、地方制度調査会が提出26日、総務省の第32次地方制度調査会から、「2040年頃から逆算し顕在化する諸課題に対応するために必要な地方行政体制のあり方等に関する答申」が安倍総理大臣に提出された。地方制度調査会は、これまで2年間にわたって審議を行ってきた。高齢者人口がピークを迎える2040年頃までに顕在化するさまざまな課題に対応する観点から、必要な地方行政体制のあり方について、人口構造、インフラ・空間、技術・社会などに分けて整理を行っている。医療については、地域の医療提供体制の確保や、困難に直面している人に対する生活支援などの社会機能の維持が必要である。住民の安心できる暮らしや地域の経済活動を支えるために、自治体が判断を主体的に行い、新しい技術の活用や地域の自治体との連携、ほかの地方公共団体、国と協力して対応することが求められている。(参考)2040年頃から逆算し顕在化する諸課題に対応するために必要な地方行政体制のあり方等に関する答申(案)(総務省)

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ASCO2020レポート 肺がん

レポーター紹介2020年のASCO、とくに肺がん領域は、比較的おとなしいエビデンスの報告が主体であった昨年に比べ、新たな知見が数多く報告された。その中でも、JCOG1205/1206試験の釼持先生、NEJ026試験の前門戸先生、NivoCUP試験の谷崎先生など、日本人演者のOral presentationが数多く報告されたことは特筆に値する。肺がん全体では、ADAURA試験などの初めての報告、さらには、CheckMate 9LA、CTONG1104試験、CASPIAN試験、CheckMate227試験、KEYNOTE-189試験など重要な試験のフォローアップの報告に注目が集まった。今回はその中から、とくに注目すべき演題について概観したい。JCOG1205/1206試験JCOG肺がん外科グループ、肺がん内科グループのインターグループ試験として実施された、完全切除後の、肺の高悪性度神経内分泌腫瘍(HGNEC)を対象として、標準治療としてのシスプラチン+エトポシド、試験治療としてのシスプラチン+イリノテカンを比較する第III相試験の結果を、研究事務局の釼持先生が報告された。本試験では、完全切除後の肺HGNEC、病理病期StageI~IIIA、221例が1:1にランダム化され、無再発生存割合を主要評価項目として実施された。HGNECは小細胞肺がん、大細胞神経内分泌がんなどを含み、完全切除例は非常にまれである。当初全生存期間が主要評価項目とされていたが、想定よりも予後が良好であったことから無再発生存期間に変更されている。本試験は、残念ながら中間解析で主要評価項目である無再発生存期間での有効性を示すことができる可能性が低いことが判明し、無効中止とされ、現在は全生存期間のフォローアップを行っている。今回報告された無再発生存に関するデータでは、両群のハザード比が1.076、95%信頼区間0.666~1.738、3年の無再発生存割合が標準治療群で65.4%、試験治療群で69.0%という結果であり、無再発生存期間中央値は両群とも到達していない。全生存期間についても、結果が報告されているものの、両群で明らかな違いは認められなかった。有害事象に関しては、すでに知られているシスプラチン+エトポシド、シスプラチン+イリノテカンの毒性プロファイルが再現されていた。肺がんの中でも希少フラクションに該当する完全切除後のHGNECに対して、第III相試験が実施されたことは世界で初めての快挙であり、これまで観察研究や単群試験の結果に基づいて実施されてきたHGNECの術後療法に、明確なエビデンスが確立された重要な試験である。全生存期間についてのフォローアップは継続中であり、そちらの結果も注目されている。CASPIAN試験進展型小細胞肺がんを対象に、プラチナ+エトポシドを標準治療とし、デュルバルマブの追加、デュルバルマブ+tremelimumabの追加をそれぞれ評価する第III相試験がCASPIAN試験である。主要評価項目は全生存期間、副次評価項目に無増悪生存期間、奏効割合などが設定されている。すでにデュルバルマブの追加が、有意に生存を延長するという結果が報告されており、IMpower133試験の結果で承認されたアテゾリズマブに続き、近い将来デュルバルマブが進展型小細胞肺がんの初回治療において使用可能となる見込みである。今回の発表では、本試験のうち、デュルバルマブ+tremelimumabを使用する群に関する結果が示されている。主要評価項目の全生存期間において、ハザード比0.82、95%信頼区間0.66~1.00であり、これは事前に設定された有意水準をわずかに下回っており、デュルバルマブ+tremelimumabについては主要評価項目を達成できなかった。また、アップデートされたデュルバルマブを単独で追加する群も含めた3本の生存曲線の解析結果も示されており、免疫チェックポイント阻害剤の追加により全生存期間の利益が得られることは明確であったが、デュルバルマブに加えてtremelimumabまで追加することの意義は生存曲線から見ても明らかではなかった。今後、進展型小細胞肺がんの1次治療においても、複数の免疫チェックポイント阻害剤、具体的にはアテゾリズマブ、デュルバルマブの使い分けについての議論を行う必要がある。KEYNOTE-604試験進展型小細胞肺がんを対象として、標準治療としてのプラチナ+エトポシド療法に対して、ペムブロリズマブを追加することの意義を検証するために実施された第III相試験である。主要評価項目としては、無増悪生存期間、全生存期間がCo-primaryとして設定されており、無増悪生存期間にはα0.0048、全生存期間にはα0.0128がそれぞれ割り振られている。無増悪生存期間については、ハザード比0.75、95%信頼区間0.61~0.91であり、p値は0.0023と当初予定された有意水準を達成している。一方、全生存期間については、ハザード比が0.80、95%信頼区間0.64~0.98であり、p値は0.0164と一見すると有意であるように見えるものの、事前に設定された有意水準には到達しておらず、全生存期間については有効性を統計学的には示すことができなかった。この結果をどのように判断し、各国の規制当局がペムブロリズマブを承認するか否かは今後の情報を待ちたい。一方、無増悪生存、全生存の生存曲線を確認すると、いずれもIMpower133、CASPIANで示されたものと類似した形態を示しており、小細胞肺がんと非小細胞肺がんにおける免疫チェックポイント阻害剤の挙動の違いが明瞭に示される結果であり、興味深い。CTONG1104試験EGFR遺伝子変異陽性、完全切除後のN1-2非小細胞肺がん患者を対象に、ゲフィチニブを試験治療(24ヵ月)、シスプラチン+ビノレルビンを標準治療(4サイクル)として実施する第III相試験が、CTONG1104試験である。ADJUVANT試験とも呼ばれ、222例が登録されている。無病生存期間を主要評価項目とした本試験の結果は、すでに報告されている。今回アップデートされた無病生存期間の報告では、5年の無病生存割合が、ゲフィチニブ群で22.6%、シスプラチン+ビノレルビン群で23.2%であった。生存曲線を見ると、当初ゲフィチニブ群の無病生存が明らかに良い傾向であったが、最終的に生存曲線は重なり、ハザード比は0.56、95%信頼区間0.40~0.79という結果であった。今回報告された全生存期間については、生存曲線は当初ゲフィチニブ群がやや上回る傾向があったものの全体ではほぼ一致しており、ハザード比は0.92、95%信頼区間0.62~1.36という結果であった。5年生存割合は、ゲフィチニブ群で53.2%、シスプラチン+ビノレルビン群で51.2%であり、全生存期間においてゲフィチニブを術後療法として使用することの明確な意義は示されなかった。その背景として、シスプラチン+ビノレルビン群で再発した患者のうち、51.5%がゲフィチニブなどEGFR-TKIの治療を受けていることが指摘されている。ADAURA試験の結果が初めて報告される中、本試験の意義は大きい。とくに、無病生存期間でハザード比では明らかにゲフィチニブの有効性が示されながらも、5年無病生存割合ではシスプラチン+ビノレルビン群に追いつかれており、さらに、全生存期間でも両群に差がなかったことは注目すべき点である。これは、ゲフィチニブは無病生存期間を延長することにつながっているが、術後患者における根治率の向上には貢献していないあるいは、貢献していたとしても本試験の規模では検出できない程度のインパクトであることが示している。IV期非小細胞肺がんにおいてゲフィチニブに無増悪生存期間、全生存期間ともに勝利したオシメルチニブにより、異なる結果が得られるのか、ADAURA試験の結果とフォローアップデータに注目が集まる。ADAURA試験EGFR遺伝子変異陽性、完全切除後のStageIB、II、IIIA非小細胞肺がんを対象として、オシメルチニブを試験治療(36ヵ月)、プラセボと比較した第III相試験がADAURA試験である。プラチナ併用療法による標準的な術後療法を受けていない患者の登録も許容されており、両群とも約半数が術後療法を受けている。682例の患者が1:1で両群に割り付けられた、EGFR-TKIを用いた試験としては大規模な試験である。主要評価項目はII期、IIIA期の患者における無病生存割合、副次評価項目として全患者集団での無病生存期間、全生存期間などが設定されている。久しぶりにASCOのPlenaryで発表された本試験の無病生存期間は、ハザード比0.17、95%信頼区間0.12~0.23という驚異的な結果であり、36ヵ月時点でのオシメルチニブ群の無病生存割合が80%、プラセボ群の無病生存割合が28%という明らかな違いが示されている。IB期も含む全集団においても、オシメルチニブの無病生存割合は79%と変化しなかったが、プラセボ群では41%とIB期が入った分良好な結果が示されている。サブセット解析においても一様にハザード比の点推定値はオシメルチニブの有効性を示しており、IB期212例の結果もハザード比0.50、95%信頼区間0.25~0.96と、1をまたいでいないことは注目に値する。この点はステージ別の無病生存曲線でも詳細に示されており、最も大きな恩恵を得るのはIIIA期など、より進行した集団であった。幸いなことに、オシメルチニブ群において治療関連死が報告されていないことも重要である。全生存期間については、示された生存曲線は24ヵ月前後の部分でオシメルチニブ群がやや良好な傾向を示しており、ハザード比は0.40、95%信頼区間0.18~0.90と報告されているが、現時点でのイベントは全体で5%程度までしか到達しておらず、今後大きく変動しうる。本結果については、発表当初からASCOのVirtual meetingのコメント欄、さらにはSNSで多数の議論を呼んでおり、オシメルチニブを標準治療としてEGFR遺伝子変異陽性、完全切除後の集団における術後アジュバントに使用するべきという意見と、全生存期間の結果を待つべきとする意見がともに提示されている。前述のCTONG1104試験が222例の試験で、無病生存の生存曲線が最終的には重なり、全生存期間でも明らかな違いを示すことができなかったのに対し、ADAURA試験は700例弱の十分な検出力を持った試験である。この試験規模の違いにより、CTONG1104試験では示されなかった全生存期間でのベネフィットが、ADAURAで示されるのか、肺がんの専門家が固唾をのんで見守っている。NEJ026試験EGFR遺伝子変異陽性、根治放射線治療不能のIIIB期、IV期非小細胞肺がんを対象として、エルロチニブを標準治療に、エルロチニブ+ベバシズマブを評価した第III相試験がNEJ026試験である。同じレジメンを第II相試験で評価したJO25567試験は、無増悪生存期間で良好な結果を示したものの、当初予定されていなかった全生存期間の評価では、一部再同意の取得ができなかった患者のフォローアップができなかったなどの理由から、全生存に関しては満足できる評価が行われておらず、当初から全生存期間の評価を予定していたNEJ026試験の結果に注目が集まっていた。今回報告された全生存期間において、ハザード比は1.007、95%信頼区間0.681~1.490であり、生存曲線もほぼ重なっており、ベバシズマブを追加する明確な意義は示されなかった。サブグループ解析では、とくに無増悪生存期間の報告の際から注目されていた、EGFR遺伝子変異のタイプ別、具体的にはL858RとExon19delにおける効果の違いがOSで示されるのかが注目されたが、結果的にはいずれの変異でも全生存期間に明らかな違いは認められなかった。昨年初めて報告されたRELAY試験において、もう一つの血管新生阻害剤であるラムシルマブとエルロチニブの併用療法について、さらに大きなサンプルサイズでの検証が進められており、こちらの結果が今後の血管新生阻害剤とEGFR-TKI併用の評価を分ける重要な試験となる。さらに、血管新生阻害剤とオシメルチニブの併用療法についても、Phase III含めいくつもの試験が開始されており、TKIの違いにより異なる結果が得られうるのか、注目されている。CheckMate 9LA試験IV期あるいは再発のEGFR陰性、ALK陰性の非小細胞肺がんを対象として、初回治療におけるプラチナ併用療法とニボルマブ+イピリムマブの有効性を、標準治療としてのプラチナ併用療法と比較する第III相試験がCheckMate 9LA試験である。主要評価項目は全生存期間とされており、副次評価項目に無増悪生存期間などが設定されており、719例が登録され、全生存期間について最短でも12.7ヵ月のフォローアップがされた時点での結果が報告されている。ニボルマブ+イピリムマブのみでも化学療法に勝る結果がCheckMate227試験で報告されている中、プラチナ併用療法を2サイクル追加することにより、治療開始直後の生存曲線の落ち込み、すなわち、早期にPDとなり免疫チェックポイント阻害剤の恩恵を受けられない可能性がある患者集団を意識したレジメンとなっている。全生存期間における目標ハザード比0.75を、α0.05(両側)、検出力81%で検定し、全生存期間が統計学的に有意と示された場合はヒエラルキカルに無増悪生存期間、奏効割合の検定に進むという、ほかのニボルマブ+イピリムマブ関連の試験に比べるとシンプルな試験設定が採用されている。アップデートされた全生存期間では、生存曲線もきれいに分かれ、打ち切りを多数認めるものの、いわゆるTail plateauのような雰囲気が示されている。ハザード比は0.66、95%信頼区間0.55~0.80であり、12ヵ月時点での生存割合が試験治療群で63%、標準治療群で47%と全生存期間での試験治療の意義が確認された。この結果は、組織型、PD-L1の発現割合別のそれぞれのサブセットでもほぼ再現されており、とくにPD-L1陰性の集団においても、全生存期間での明確なベネフィットが示されている。ニボルマブ+イピリムマブということで、有害事象にも注目が集まり、やはり免疫関連有害事象の頻度は多いものの、ほかの免疫チェックポイント阻害剤と比較して根本的に異なる結果ではなかった。ただ、今回の報告では比較的有害事象に関する内容はシンプルであり、今後の追加報告に期待したい。また、別途報告されたCheckMate227試験の3年フォローアップ結果とも併せて、とくにPD-L1のサブセットによらない有効性という点でニボルマブ+イピリムマブの特性が示されている。今後本試験レジメン、ニボルマブ+イピリムマブが初回治療の選択肢として加わった場合の使い分けについて、今後さらに議論が続くものと思われる。KEYNOTE-189ポスター発表ではあるものの、KEYNOTE-189試験の“Final analysis”が報告されている。PD-L1発現レベルによらず、進行期、非扁平上皮非小細胞肺がんを対象として、プラチナ+ペメトレキセドに対して、ペムブロリズマブの上乗せを検証した第III相試験である。すでに試験内容については各所で報告されている。今回のアップデートでは、全生存期間についてフォローアップ期間が延長された結果が示されている。とくに注目されたのは、いわゆるTail plateauと呼ばれる、ペムブロリズマブにより長期の効果が得られる患者集団が存在することによる効果が、プラチナ+ペメトレキセドの上乗せによりさらに強化されるのか、それともペムブロリズマブ単剤と大きく異ならないのかという点であった。今回の発表において、PD-L1 50%以上の集団においては、生存曲線の後半が平坦になる雰囲気が出現しているものの、そのほかのサブセットではその気配はまだ認められていない。さらに、PD-L1 50%以上のサブセットにおいて、フォローアップ後半戦の生存割合、すなわちtailの高さに着目すると、ペムブロリズマブ単剤のKEYNOTE-024試験(全体集団)とはほぼ同等であり、KEYNOTE-042試験(PD-L1 50%以上のサブセット)よりは良い結果が得られている。試験に参加した患者集団が異なるため、試験間の比較は意味を持たないとはわかりつつも、KEYNOTE-189試験の長期フォローの結果は、とくにPD-L1高発現の患者において、免疫チェックポイント阻害剤にプラチナ併用療法を加える意義があるか否かについての議論で、注目され続けるものと考えられる。NivoCUP試験肺がんの話題から少し離れるものの、NivoCUP試験については本稿でも触れておきたい。本試験は、原発不明がんの患者を対象としたPhase II、医師主導治験であり、研究事務局の近畿大学の谷崎 潤子先生が報告されている。原発不明がんの精査のために、十分な組織診断、画像診断に加え、各診療科の診察を受けることが規定され、その結果をもって原発不明がんと診断された55例の患者が登録されている。無治療でも登録可能ではあるが、統計学的設定は既治療例を対象に組まれており、主要評価項目である奏効割合の期待値が20%、閾値が5%、α0.025(片側)、検出力80%で、38例の登録を目指し、実際は45例が登録された。この既治療45例での奏効割合は22.2%、95%信頼区間は11.2~37.1、CR 4.4%、PR 17.8%、SD 31.1%という結果であり、主要評価項目を達成している。同集団における無増悪生存期間は4.0ヵ月、全生存期間は15.9ヵ月であった。原発不明がんという治療選択肢が限定され、治療開発の対象となりにくい集団において、免疫チェックポイント阻害剤の有効性を示した試験の価値は高く、本試験の結果に基づき国内でニボルマブが原発不明がんにおいて保険診療で使用可能となることが期待される。企業の治療開発の対象となりにくい希少フラクションを対象として、患者に近い研究者が医師主導治験を実施し、Unmet needsを解消しようとする非常に良い事例である。さいごに残念ながら完全にVirtual開催となったASCOであるが、報告された知見には肺がんの日常診療を刷新させうる内容が含まれていた。Virtual meetingのシステムもおおむね安定しており、情報を得るという意味ではこの開催方法も一定の評価を受けるものと思われるが、発表者、また多数のエキスパートが一堂に会する中で、目の前で報告される新たなエビデンスについて議論する場として、Virtualな会議室はまだまだ不十分な点が多いと感じたことも確かであった。昨今の状況が一刻も早く解決され、会場に集えない方がVirtualで、また、会場に集える場合は現地で、同じように最新のエビデンスを体感できる時代が来ることを祈念している。

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ドイツとポーランド【空手家心臓外科医、ドイツ武者修行の旅】第12回

以前このエッセイで書かせてもらいましたが、私が今住んでいるのはグライフスヴァルトと言って、ドイツの北西の隅っこにあたる街になります。こんな感じのところです(地図の青点)。実はポーランドまでの距離が近く、生活圏内となっています。たとえば、住んでるところからシュチェチン(ポーランド)まで約180km、車で2時間くらいです。ドイツでは、日曜日は飲食を除くほとんどのお店がお休みになるのですが、ポーランドではわりと開いている店が多いので、買い忘れがあったりしたらポーランドの街まで買い出しにいったりします。ただ、残念ながらユーロが使えないのでカードしか使えない買い物になりますが…。これはワルシャワです。街中でも森がたくさんあって、空がだだっ広かった印象です。ポーランド人は、ショパンが大の自慢で、コペルニクスがちょっと自慢。「キュリー夫人(現地では“マリクリ”って言うみたいです)はどう?」とポーランドの友人に聞いたのですが、「彼女はパリの人だから」とそっけない感じでした(実際、キュリー夫人のお墓はパリにあります)。見つけた元素に“ポロニウム”なんて名前を付けるくらい祖国愛が強かったのに…片思いだったみたいです。実はショパンもパリで亡くなって、遺体はパリにあります。しかし、「心臓だけでも祖国に帰してくれ」と本人の強い希望があったため、今もとある教会の柱に心臓だけ保管されています(写真の柱)。こういうところが、ポーランド人に愛されている秘訣なんだろうな~。話がそれてしまいましたが、そもそも国境があってないようなEUでは、国境を越えて生活圏が広がっていることは珍しくありません。とくに私のように、「国の端っこ」に住んでいるならなおさらです。ところが…ポーランドに入った途端に、ドイツ語が通じなくなります。いや、もちろん外国にいくわけですから、ある意味それは当然のことではあるのですが…。隣国なのになんで?国境に接している街なのですが、街に入った瞬間から、全然コミュニケーションが取れなくなります。道を通行人に尋ねても、看板を見ても、ドイツ語だけではどうにもならなくなってしまいます。さらにお店にいくと、「メニューくれ」くらいは理解してもらえるのですが、あとはさっぱりです。ポーランドと反対側のフランスとドイツの国境の街にいったときは、もう少しドイツ語で通じたのですが…。今回、新型コロナウイルス感染の拡大を受けて、ドイツとポーランド間の国境も閉鎖されました。それもかなり早い段階で。ちょっと好奇心で国境付近まで車でいってみたのですが、グラサンにサブマシンガンを持った警察? 軍隊? の人が立っていて、Uターンするように指示されました。とてもじゃないけど、写真が撮れるような雰囲気ではなかったです。ポーランドは歴史上のアレやコレやがあって、ちょっとドイツに対して複雑な思いがあるのはご存知の通りです。また、ロシアからも厳しい仕打ちを受けたこともあって、ロシアも嫌いらしいです。その結果、現在はわりと親米的な政策が行われているとのことです。ドイツでは店の数が少ない(少なくともうちの街にはない)スタバやケンタッキーなどのアメリカ発祥のファストフード店も、ポーランドにいけばあちらこちらで見かけることができます。ああ、早く国境閉鎖、解除されないかな…。

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