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第262回 蠕動運動を促し、炎症を防ぐ腸神経の圧感知タンパク質を発見

蠕動運動を促し、炎症を防ぐ腸神経の圧感知タンパク質を発見加圧や運動に応じて腸の運動を調節し、病的な腸の炎症を鎮める神経のタンパク質が同定されました1)。平滑筋の息が合った収縮と弛緩、すなわち蠕動運動によって食物が腸を下っていきます。神経細胞が腸の蠕動を支えることは100年以上も前から知られていますが、いったいどうやってそうするのかはよくわかっていませんでした2)。免疫細胞のイオンチャネルPIEZO1が呼吸で加わる力を感知する役割を担い、肺での炎症を誘発することが先立つ研究で示されています3)。PIEZO1が胃腸の蠕動にも寄与するかもしれないとハーバード大学の免疫学の助教授Ruaidhri Jackson氏らは想定し、マウスやヒトの腸の神経を調べてみました。すると、PIEZO1を生成する遺伝子の活発な発現が認められました。神経伝達物質のアセチルコリンを放出して腸の筋肉の収縮を誘発する興奮性神経でPIEZO1は盛んに発現していました。正常なマウスの腸は加わる圧が高まるほど収縮します。一方、PIEZO1遺伝子を欠くマウスの腸組織は圧が加わっても収縮できず、PIEZO1が加圧センサーとして腸の動きを助けることが判明しました。マウスのPIEZO1発現細胞を活性化したところ、腸内の小さなガラス玉が通常のマウスに比べて2倍早く排出されました。一方、腸のPIEZO1発現神経を薬品で働かないようにすると消化がよりゆっくりになりました。すなわちPIEZO1発現神経は腸の内容物の排出を早める働きを担うようです。揺れや他の臓器との接触によって腸に圧を加えうる運動が排便を促すことが随分前から知られています。その作用にもPIEZO1が関わっているらしく、PIEZO1遺伝子を有するマウスは回し車を10分も走れば排便しましたが、PIEZO1が損なわれると運動に応じた腸の運動亢進が認められませんでした。炎症性腸疾患(IBD)も炎症刺激により腸の運動を高めることが知られています。IBDマウスでもPIEZO1は排便を促す働きを担うようであり、PIEZO1が働かないようにすると排便が遅くなりました。しかしPIEZO1を失って生じる影響は排便の遅れだけではなく、先立つ研究で免疫細胞のPIEZO1欠損が肺炎症を減らしたのとはいわば真反対の副作用をもたらしました。すなわち腸神経のPIEZO1欠損は意外にもIBD症状の悪化を招きました。PIEZO1欠損マウスはPIEZO1が正常なマウスに比べてより痩せ、腸粘液やその生成細胞を失っていきました。腸神経PIEZO1欠損マウスでの炎症悪化は、平滑筋の活性を促すのみならず抗炎症作用も担うアセチルコリンが乏しくなることに起因するようです。IBDが引き起こす炎症でPIEZO1が活動することで腸神経は炎症を鎮めるアセチルコリンをどうやら盛んに作れるようになり、同時にIBDの特徴である腸運動の亢進ももたらすのだろうとJackson氏は予想しています2)。今回の成果は腸神経のPIEZO1の活性調節でIBDが治療できるようになる可能性を示唆しています。また、便秘や下痢などの腸運動が絡む病気の治療の開発にも役立ちそうです。ただし、PIEZO1は諸刃の剣で、場所柄で一利一害あるようです。腸神経のPIEZO1欠損がIBD悪化を招きうることを示した今回の結果とは対照的に、免疫系のマクロファージのPIEZO1を省くことはIBDの進行をむしろ防ぎうることが最近の別の研究で示されています4)。その結果は上述した肺での免疫細胞のPIEZO1の働きと一致します。PIEZO1狙いの治療はその存在場所によって働きが異なりうることを念頭において取り組む必要があるのでしょう。 参考 1) Xie Z, et al. Cell. 2025 Mar 20. [Epub ahead of print] 2) Study Identifies Gut Sensor That Propels Intestines To Move / Harvard Medical School 3) Solis AG, et al. Nature. 2019;573:69-74. 4) Wang T, et al. Cell Mol Gastroenterol Hepatol. 2025:101495.

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統合失調症に対する抗精神病薬の投与量と治療中止との関係〜メタ解析

 統合失調症治療における抗精神病薬の有効性を得るためには、服薬アドヒアランスを保つことが不可欠であり、中止率が高い場合には、有効性が損なわれる。そのため、抗精神病薬の投与量と中止率との関係を理解することは重要である。ドイツ・ミュンヘン工科大学のJing Tian氏らは、この関連性を評価し、アドヒアランスの最大化、中止リスクを最小限に抑える抗精神病薬の投与量を明らかにするため、システマティクレビューおよびメタ解析を実施した。European Neuropsychopharmacology誌2025年5月号の報告。 統合失調症および関連疾患の急性増悪期患者を対象に20種類の抗精神病薬を評価した固定用量RCTを複数の電子データベースよりシステマティックに検索した。頻度論的フレームワークで1ステージ用量反応メタ解析を用い、用量反応関係を分析した。関連性をモデル化するため、制限付き3次スプラインを用いた。主要アウトカムは、すべての理由による治療中止とし、副次的アウトカムに効果不十分および副作用による治療中止を含めた。 主な結果は以下のとおり。・136研究(4万4,126例)を分析した結果、抗精神病薬のさまざまな用量反応関係が明らかとなった。・主要アウトカムであるすべての原因による治療中止については、amisulpride、cariprazine、オランザピン、クエチアピンは、用量反応曲線がU字型を示し、最適な投与閾値が示され、投与量を増やすことで副作用による中止率が上昇する可能性が認められた。・アリピプラゾール、アセナピン、ブレクスピプラゾール、クロザピン、パリペリドン、リスペリドンは、用量反応曲線がプラトーを示し、特定の投与量を超えた増量によるメリットの追加は認められなかった。・ハロペリドール、iloperidone、lumateperone、ルラシドン、sertindole、ziprasidoneは、研究された投与量の範囲内で用量反応曲線がプラトーに達しなかった。・効果不十分による治療中止の曲線は、すべての原因による治療中止の曲線と類似していた。・副作用による治療中止の曲線の多くは、高用量に関連する副作用の急激な増加を示した。 著者らは「投与量と治療中止との関連は、抗精神病薬により異なり、用量反応曲線は、U字型、単調型、双曲型がみられた。今後の研究により、疾患および副作用関連の有害事象による治療中止を、個別に評価する必要がある」としている。

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乳がん患者と医師の間に治験情報に関する認識ギャップ/ケアネット・イシュラン共同調査

 ケアネットとイシュランが共同で実施した、乳がん患者(134人)と乳がん治療に携わる乳腺外科医(62人)を対象にした「治験に関する意識調査(インターネット調査)」の結果、患者側は医師からの治験の提案を期待している一方で、医師は日本国内の治験情報を十分に入手できていないと認識していることが明らかになった。患者の約6割が自身の主治医が国内の治験情報をよく知っていると思うと回答したのに対し、治験情報をよく知っていると回答した医師は1割未満にとどまった。【調査概要】患者調査調査期間:2025年1月31日〜2月8日調査対象:イシュランメルマガ会員の乳がん患者回答数:134人医師調査調査期間:2025年1月22日〜1月28日調査対象:ケアネット会員医師(200床以上の医療機関に所属している乳腺外科医)回答数:62人 主な結果は以下のとおり。患者調査・治験とは何か知っているかを聞いた質問に対し、約74%が知っていると回答した(「よく知っている」が9.0%、「少し知っている」が64.9%)。・「治験への参加経験」について聞いた質問では、「実際に治験に参加したことがある」が3.7%、「実際に参加しようとしたが、条件が合わずできなかった」が6.0%、「参加を検討するために、医療者に相談したことはある」が2.2%、「参加を考えたが、医療者に相談したことはない」が9.7%であった。・「日本で行われている乳がんの治験に関する情報」について、自身の主治医がどの程度知っていると思うか聞いた質問では、約63%が主治医はよく知っていると思うと回答した(「ほぼすべて知っていると思う」が37.3%、「3/4くらいは知っていると思う」が25.4%)。・「治験情報を主治医経由で知った場合の治験への参加意向」を聞いた質問では、約78%が検討すると回答した(「必ず検討する」が30.6%、「まあ検討する」が47.8%)。・日本で行われている治験に関する情報へのニーズについて聞いた質問では、約81%が情報が欲しいと回答した(「ぜひ欲しい」が46.3%、「まあ欲しい」が34.3%)。医師調査・治験への参加経験を聞いた質問では、「治験責任医師として参加したことがある」が11.3%、「治験分担医師として参加したことがある」が61.3%、「協力施設として患者リクルーティングを行ったことがある」が29.0%であった。・「日本で行われている乳がんの治験に関する情報」について、どの程度知っているか聞いた質問では、よく知っていると回答した医師は約5%にとどまった(「ほぼすべて知っている」が0%、「3/4くらいは知っている」が4.8%)。一方で、「ほぼ知らない」と答えた医師が41.9%と最も多かった。・自身が診療している患者の病状に合いそうな治験が行われていることを知った場合、患者に提案するかを聞いた質問では、約84%が提案すると回答した(「必ず提案をする」が17.7%、「まあ提案をする」が66.1%)。・日本で行われている治験情報についてどの程度知りたいと思うか聞いた質問では、「全国の治験情報が知りたい」という回答が62.9%と最も多く、「自分の都道府県の治験情報は知りたい」が22.6%と続いた。・(治験実施施設が自身の所属施設とは別の場合を前提として)患者から治験参加について相談があった場合にどのように対応するか聞いた質問では、約90%が前向きに対応すると回答した(「必ず前向きに対応する」が43.5%、「まあ前向きに対応する」が46.8%)。

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ワインによる各脂質レベルへの影響~メタ解析

 ワイン摂取が脂質プロファイルに及ぼす影響について、これまで脂質をトリグリセライド、総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、フィブリノゲンに分けてメタ解析を行った研究はなかった。今回、スペイン・University of Castilla-La ManchaのMaribel Luceron-Lucas-Torres氏らが系統的レビューとメタ解析を実施した結果、赤ワインによるLDLコレステロール減少効果が示された。The Journal of Nutrition, Health and Aging誌2025年6月号に掲載。 本研究では、MEDLINE(PubMed)、Scopus、Cochrane、Web of Scienceのデータベースを調べ、系統的レビューとメタ解析を行った。ランダム効果モデルを使用して、各脂質パラメータのプールされた標準化効果量(ES)推定値と95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・系統的レビューに33件の研究が含まれ、29件がメタ解析に含まれた。・赤ワインの影響に関してプールされたESは、前後比較研究において赤ワインのLDLコレステロールに対する影響のみが有意であった(-0.29、95%CI:-0.54~-0.05)。・白ワインの影響に関してプールされたESは、前後比較研究および臨床研究において、ワインの各パラメータへの影響について有意な結果は示されなかった。 本研究から、赤ワイン摂取はLDLコレステロールを減少させる効果があり、総コレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライド、フィブリノゲンには影響がないことが明らかになった。また、介入期間がトリグリセライドと総コレステロール値に影響することが明らかになり、介入期間が長いほどこれら2つのパラメータに効果的であることが示された。

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女性の体型は膣内の微生物叢で変わるか/北里大

 腸内の微生物叢がさまざまな疾患などに関連することが、近年の研究で判明している。では、女性の膣内の微生物叢は、健康な女性では、その体型に関連するのであろうか。この課題に対し、北里大学薬学部の伊藤 雅洋氏らの研究グループは、日本人の健康な女性24人の膣液を採取、分析し、菌種を特定するとともにBMIが生菌総数および膣内pHに影響を及ぼすことを明らかにした。この結果は、Frontiers in Cellular and Infection Microbiology誌2025年2月4日号に公開された。膣内微生物叢は大きく4種類に分類できる 研究グループは、健康な女性の膣内微生物叢に影響を及ぼす宿主因子を同定することを目的に、日本人成人女性24人の膣液を採取し、分析を行った。膣液のpHは携帯型pHメーターを用いて測定し、膣液からDNAを抽出。V3~V4領域の16SリボソームRNA遺伝子配列を解析し、細菌種を同定した。さらに、膣液を4種類の選択寒天培地プレートで培養し、増殖したコロニー中の優勢な菌種をコロニーポリメラーゼ連鎖反応で同定するとともにコロニーを集計した。 主な結果は以下のとおり。・膣内細菌叢は、優勢な細菌集団の特徴に基づいてラクトバチルス・クリスパタス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバチルス・イナース(Lactobacillus iners)、ラクトバチルス・ガッセリ(Lactobacillus gasseri)、および多様性グループの4つのカテゴリーに分類された。・優勢菌種は各検査法で一貫していたが、腟内生菌数は個人間で大きく異なった。・BMIは生菌総数および膣内pHに有意な影響を及ぼしたが、年齢は膣内pHのみに影響を及ぼした。 研究グループでは、この結果から「健康な日本人女性の膣マイクロバイオームが非常に多様であるだけでなく、膣内の生菌はBMIや年齢などの宿主因子の影響を受けている」と示唆している。

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非小細胞肺がん、肺がんコンパクトパネルのリアルワールドデータ/Anticancer Res

 非小細胞肺がん(NSCLC)の分子プロファイリングに基づく個別化治療戦略は、NSCLC患者の予後を改善するために不可欠である。肺がんコンパクトパネル(LCCP)は、組織および細胞診検体からNSCLCの遺伝子変異を検出するマルチフレックスコンパニオン診断キットである。しかし、その実臨床における成績について大規模な検証がなされていなかった。そのようななか、近畿中央呼吸器センターの谷口 善彦氏が日本でのリアルワールドデータをAnticancer Research誌2025年4月号で発表した。 同研究は、2023年4月~2024年7月に同施設でNSCLCと診断されLCCPを用いた症例の組織型、遺伝的異常、アレル頻度、PD-L1発現レベルを収集し後方視的に分析した。 主な結果は以下のとおり。・317例を評価した結果、154件(48.6%)が遺伝的異常を示した。・最も多く発見された変異は、EGFRの主要変異で63例であった。・腺がんでは、126例(70%)が遺伝的異常を示した。・15例で複数の共遺伝子異常が同定された。・13例が低アレル頻度(2.5%未満)を示していた。・EGFRエクソン19del陽性症例の30件で特定された9変異のうち3変異は、他のコンパニオン診断法では検出できないものであった。 LCCPは腫瘍含量が低い(5%以下)症例でも遺伝子異常を検出する能力を示すことから、EGFRエクソン19delの希少変異や複数の共変異を同定できる能力がある。これらの結果は、LCCPがNSCLCの個別化治療戦略を改善する可能性を示すとしている。

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DES留置術前の石灰化病変処置、オービタルアテレクトミーは予後を改善するか/Lancet

 薬剤溶出性ステント(DES)を用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行前の重度の冠動脈石灰化病変の切削において、バルーン血管形成術に基づくアプローチと比較して、アテローム切除アブレーション式血管形成術用カテーテル(Diamondback 360 Coronary Orbital Atherectomy System)によるオービタルアテレクトミーは、最小ステント面積を拡張せず、1年後の標的血管不全の発生率も減少しないことが、米国・Columbia University Medical Center/NewYork-Presbyterian HospitalのAjay J. Kirtane氏らECLIPSE Investigatorsが実施した「ECLIPSE試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌2025年4月12日号に掲載された。米国の無作為化試験 ECLIPSE試験は、DES留置術前の重度冠動脈石灰化病変の前処置としてのオービタルアテレクトミーとバルーン血管形成術の有効性の比較を目的とする非盲検無作為化試験であり、2017年3月~2023年4月に米国の104施設で参加者の無作為化を行った(Abbott Vascularの助成を受けた)。 年齢18歳以上、1つ以上の新たな冠動脈標的病変に対するPCIを受ける慢性または急性冠症候群で、血管造影または血管内画像により冠動脈に重度のカルシウム蓄積を認め、推定生存期間が1年以上の患者を対象とした。これらの患者を、DESによるPCI施行前に重度石灰化病変を切削するために、オービタルアテレクトミーまたはバルーン血管形成術を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは2つで、1年後の標的血管不全(心臓死、標的血管心筋梗塞、虚血による標的血管の血行再建術の複合)と、事前に規定されたコホートにおける手技を行った後の血管内光干渉断層撮影(OCT)で評価した最大石灰化部位の最小ステント面積とし、ITT解析を行った。1年後の標的血管不全:11.5%vs.10.0% 2,005例(2,492病変)を登録し、ステント留置術の前にオービタルアテレクトミーによる病変の前処置を行う群に1,008例(1,250病変)、バルーン血管形成術を行う群に997例(1,242病変)を割り付けた。全体の年齢中央値は70.0歳(四分位範囲:64.0~76.0)、541例(27.0%)が女性であり、881例(43.9%)が糖尿病、479例(23.9%)が慢性腎臓病(112例[5.6%]が血液透析中)であった。 コアラボラトリーで血管造影により重度のカルシウム蓄積が確認されたのは、オービタルアテレクトミー群で97.1%(1,088例/1,120病変)、バルーン血管形成術群で97.0%(1,068例/1,101病変)だった。また、血管内画像ガイド下PCIは、それぞれ62.2%(627例/1,008例)および62.1%(619例/997例)で行われた。 1年後までに、標的血管不全はオービタルアテレクトミー群で1,008例中113例(11.5%[95%信頼区間[CI]:9.7~13.7])、バルーン血管形成術群で997例中97例(10.0%[8.3~12.1])に発生し、両群間に有意な差を認めなかった(群間差:1.5%[96%CI:-1.4~4.4]、ハザード比[HR]:1.16[96%CI:0.87~1.54]、p=0.28)。 また、OCTコホート(オービタルアテレクトミー群276例[286病変]、バルーン血管形成術群279例[292病変])における最大石灰化部位の最小ステント面積は、オービタルアテレクトミー群が7.67(SD 2.27)mm2、バルーン血管形成術群は7.42(2.54)mm2であり、両群間に有意差はなかった(平均群間差:0.26[99%CI:-0.31~0.82]、p=0.078)。1年後のステント血栓症:1.1%vs.0.4% 1年以内に、心臓死はオービタルアテレクトミー群で39例(4.0%)、バルーン血管形成術群で26例(2.7%)に発生した(HR:1.49[95%CI:0.91~2.45]、p=0.12)。最初の30日間にオービタルアテレクトミー群で8例に心臓死が発生し、このうち2例がデバイス関連、2例がデバイス関連の可能性があると判定された。 また、1年以内の標的血管心筋梗塞は、オービタルアテレクトミー群で55例(5.6%)、バルーン血管形成術群で43例(4.4%)(HR:1.27[95%CI:0.85~1.89]、p=0.24)、虚血による標的血管の血行再建術はそれぞれ40例(4.2%)および41例(4.4%)(0.97[0.63~1.49]、p=0.88)で発現し、ステント血栓症(definiteまたはprobable)は11例(1.1%)および4例(0.4%)(2.74[0.87~8.59]、p=0.085)に認めた。 著者は、「これらのデータは、ステント留置術前の冠動脈石灰化病変の処置の多くにおいては、血管内画像ガイド下のバルーン血管形成術を優先するアプローチが支持されることを示すものである」としている。

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ボディイメージにまつわる問題は小児期に始まる

 体重に関する知覚は、わずか7歳という若い年齢で機能としてすでに形成されており、目にしたものの影響を受けて変化する可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。この研究の詳細は、「Journal of Experimental Child Psychology」に3月5日掲載された。 論文の上席著者である、英ダラム大学心理学教授のLynda Boothroyd氏は、「限られた範囲の体型しか紹介しない視覚メディアに注意する必要があることは、何年も前から明らかだった。なぜなら、それが大人の体型に対する知覚に影響を与えるからだ。今回の研究により、それが子どもにも当てはまることが判明した。非常にニュートラルなイメージであっても、同じような体型を繰り返し見ると、子どもはそれを基準に太い、細いと判断するようになる」と述べている。 メンタルヘルス財団によると、非現実的なボディイメージは否定的な自己評価を助長し、人々が「完璧」を目指す原因となり得る。これは、摂食障害や気分障害につながる可能性がある。 この研究でBoothroyd氏らは、2つの実験を通して、子どもがある刺激を繰り返し見ること(視覚の適応)が、その後、目にしたものに与える影響を調べるために2つの実験を行った。1つ目の実験は、11〜12歳(44人)、14〜15歳(59人)、および18〜25歳(78人)の男女(計181人)を対象に実施された。試験参加者に、プレテストとしてBMIが12〜32の女性の画像を21枚見せて、女性の体重を7段階の評価尺度(非常にやせている〜非常に太っている)で評価させた。次に、参加者を低体重群と高体重群の2群にランダムに割り付け、低体重群にはBMIが11.60〜13.84の女性の画像を20枚、高体重群にはBMIが30〜42の女性の画像を20枚見せて視覚を適応させた後、ポストテストとして再び最初に見た21枚の画像を、適応画像を交えながら提示し、体重を評価させた。 その結果、高体重群では、ポストテストで再評価する際に、最初の評価よりも体重を軽く評価する傾向が認められた。この傾向は特に、12歳の子どもにおいて顕著であった。一方で、低体重群ではプレテストとポストテストの評価に大きな変化は見られなかった。 2つ目の実験は、7〜11歳の子ども44人と学部生66人(計110人)を対象に実施された。実験の手順は基本的に1つ目の実験と同じだが、いくつかの点を簡略化した。具体的には、体重に対する評価を5段階に変更し、再評価時の画像の中には適応画像が含められなかった。その結果、実験1と同様、高体重群では、ポストテストでの再評価時に、プレテストでの評価よりも軽い体重で評価する傾向が示された。 これらの結果は、人々の体重に対する知覚が7歳という若さから進化していることを示していると研究グループは主張する。Boothroyd氏は、「研究者はしばしば、子どもの身体知覚やボディイメージは、大人と同じように作用すると考えている。われわれの研究では、その考え方は正しく、7歳の子どもでも、視覚的な刺激を受けて体重に対する知覚が変わることが示された」と述べている。 研究グループによると、これまでの研究で、メディアによる体型の表現により、西洋諸国の白人女性はあらゆる年齢層において、ナイジェリアの黒人女性や中国人女性と比べて、やせていなければならないことへのプレッシャーを強く感じていることが判明しているという。 研究グループは、「7歳以上の子どもは、成人と同様に、視覚の適応により体重に対する知覚が変わることが示された。この結果は、健康とウェルビーイングの文脈における体のサイズの(誤った)知覚についての理解だけでなく、身体知覚の発達についての広範な理解にも影響を与えるだろう」と述べている。

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AIサポートにより前眼部疾患の診断精度が向上か

 AI活用が医療現場にもたらす効果についての研究が活発化している。そのような中、白内障や角膜疾患の診断用に設計されたディープラーニングモデル「CorneAI」のサポートにより、角膜炎などの前眼部疾患に対する眼科医の診断精度が向上したという研究結果が報告された。CorneAI自体の診断精度は86%だったが、そのサポートにより、眼科医の精度がCorneAIのベースを超えて向上したという。福島県立医科大学附属病院眼科学講座の前原紘基氏、筑波大学附属病院眼科の上野勇太氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に2月11日掲載された。 人工知能(AI)は画像診断(CT、MRI、病理画像など)と親和性が高く、研究開発が活発化している分野の一つだ。眼の画像診断は、様々な前眼部疾患の診断と管理に重要な役割を果たしている。研究グループは、前眼部のカラー写真5,270枚を教師データとして、AIベースの分類ツールであるCorneAIを開発した。教師データには、細隙灯顕微鏡で撮影された、正常、感染性浸潤、非感染性浸潤、瘢痕、沈着/ジストロフィー、水疱性角膜症、水晶体混濁、腫瘍性病変、緑内障発作の9つのカテゴリーの画像が含まれた。 CorneAIは、眼科医の診断精度の向上、潜在的な診断の提示などに活用できる可能性があるが、AIサポート診断における影響はまだ十分に検討されていなかった。本研究では、CorneAIのサポートにより、眼科医による前眼部疾患の診断の効率と精度が向上するという仮説を立て、CorneAIサポートの有無によるスマートフォン(スマホ)と細隙灯顕微鏡に基づく前眼部疾患の診断性能を評価することとした。 対象は、2022年1月から12月までに13施設で収集された前眼部疾患を有する807名で構成された。症例ごとに、スマホ、細隙灯顕微鏡でそれぞれ1枚の画像が収集された。この807名より無作為に選択された50名(100画像)を最終的な解析対象に含めた。 まず、40人の眼科医(専門医20名、研修医20名)にはConreAIを用いずに画像を9つのカテゴリーに分類してもらった。次に、2~4週間後に同じ画像をCorneAIのサポートの下、再度分類してもらった。その結果、眼科医による全体的な分類精度は79.2±7.9%から88.8±5.3%に大幅に向上した(t検定、P<0.001)。なお、CorneAI自体の画像の分類精度は86.0%だった。 画像別にみると、スマホ画像の精度は78.8±23.2%から85.8±22.8%へ、細隙灯顕微鏡画像では81.6±21.8%から89.2±14.8%へとそれぞれ向上していた(各P<0.001)。また、診断に要する時間においても、CorneAIのサポート下では専門医、研修医ともに短縮される傾向が認められた。 研究グループは、今回のCorneAIの検証結果について、「CorneAIのサポートを受けた眼科医で診断精度が向上し、その診断時間が短縮される可能性が示唆された。また、CorneAIは細隙灯顕微鏡画像で学習しているにも関わらず、スマホ画像でも診断精度を効果的に向上させることができた。CorneAIをスマホ画像で学習させればさらなる精度の向上が望めるかもしれない」と総括した。本研究の限界としては、参加した眼科医が大学病院に所属しており、一般病院やクリニックに勤務する眼科医とは区別されること、眼科医が最初の診断の結果を覚えている可能性を完全に否定できないことなどを挙げている。CorneAIの可能性を示す一方で、著者らは、「AIはあくまでも診断サポートツールであり、誤診をする可能性もある。AIが普及したとしても、医師は臨床経験を積み、専門知識を磨く努力を続ける必要がある」と強調した。

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第238回 新型コロナ定期接種、秋から自己負担増加、低所得者は無料継続へ/厚労省

<先週の動き> 1.新型コロナ定期接種、秋から自己負担増加、低所得者は無料継続へ/厚労省 2.長崎県の民間医療ヘリ事故で3人死亡、全国に再点検要請/厚労省 3.「患者だから仕方ない」に終焉を、医療現場における暴力・ハラスメント/看護協会 4.後発薬の供給不足、薬局の8割が「支障」改善はわずか6%/厚労省 5.最大7.2億円を無利子融資、物価高で医療・介護事業者支援へ/厚労省 6.47人の懲戒処分の報道発表なし、情報公開に疑問の声/国立病院機構 1.新型コロナ定期接種、秋から自己負担増加、低所得者は無料継続へ/厚労省厚生労働省は、65歳以上の高齢者や基礎疾患のある60~64歳を対象とした新型コロナウイルスワクチンの定期接種に対する国の助成(1回当たり8,300円)を、2025年度から終了する方針を決定し、都道府県に通知した。2024年度に始まった定期接種制度では、全額公費の「特例臨時接種」からの移行に伴う、急な自己負担増を避けるため、基金を活用した助成が行われていた。2025年度の定期接種は秋に開始予定だが、助成終了によって接種費用の自己負担額は増加するが、一部自治体は独自の補助を検討している。なお、低所得者に対しては無料接種を継続する方向で調整中。今後、定期接種の対象外となる人は、原則、全額自己負担での任意接種となる。新型コロナ対策における他の公費支援も、すでに2024年3月末で終了している。 参考 1) コロナワクチン定期接種 国助成取りやめへ 自己負担増の可能性(NHK) 2) 新型コロナワクチン助成終了へ 高齢者ら向け定期接種、低所得者無料は残す予定(産経新聞) 3) 厚労省、コロナワクチン助成終了へ 高齢者らの定期接種(日経新聞) 2.長崎県の民間医療ヘリ事故で3人死亡、全国に再点検要請/厚労省2025年4月6日、長崎県対馬市から福岡市の病院へ患者を搬送中の民間の医療搬送用ヘリコプターが壱岐島沖で墜落、転覆し、搭乗していた6人のうち、患者(86歳)と付き添いの家族(68歳)、男性医師(34歳)の3人が死亡した。機体は離陸から約17分後に着水した可能性があり、搭載されていたGPSは午後1時47分に発信を停止。救難信号を発信する航空機用救命無線機も作動が確認されず、国土交通省は信号を受信していなかった。機体は民間病院の福岡和白病院が運用し、佐賀県のエス・ジー・シー佐賀航空が委託運航していた。同社は過去にも複数の死亡事故を起こしており、運輸安全委員会が事故原因を調査している。この事故を受けて、厚生労働省は7日に全国のドクターヘリ運航会社および関係医療機関に対し、安全点検を求める通知を発出。操縦士による常時の気象確認や整備士による待機中の機体点検を義務付け、再点検や一時的な運航停止の検討も要請された。今回の事故で浮き彫りになったのは、離島における医療搬送の脆弱性である。対馬市など長崎県の離島では、高度医療を提供する三次救急施設が存在せず、ヘリ搬送が命綱となっている。2023年度の県内ドクターヘリ搬送実績(232件)のうち、離島由来は85件を占めていた。事故機は「ドクターヘリ」ではなく、柔軟な搬送を可能にする民間の医療用ヘリであり、全国には同様の運用機が4機存在する。こうした機体は、ドクターヘリ体制の補完的役割を果たすが、安全性の担保とコスト負担が課題とされる。事故を受け、福岡和白病院は当面のヘリ搬送を停止。関係者は再発防止と信頼回復を誓っており、安全性向上と離島医療の継続性が急務となっている。 参考 1) 厚労省 ドクターヘリ運航会社など安全点検通知 長崎の事故受け(NHK) 2) 医療ヘリ事故 離島医療「最後の砦」 救急搬送継続に危惧(毎日新聞) 3) 離島救急搬送の“命綱”不在で募る不安 壱岐沖事故の影響 長崎県ドクターヘリ、点検で運用を休止(長崎新聞) 4) 長崎ヘリ事故 病院の運航は無期限休止 学会「同型機の再点検を」(毎日新聞) 3.「患者だから仕方ない」に終焉を、医療現場における暴力・ハラスメント/看護協会先日、俳優の広末 涼子氏が交通事故後、搬送先の病院で看護師に対し暴力をふるったとして現行犯逮捕された事件や、大阪の訪問看護師に対する患者による暴行事件が報道され、これを契機に医療現場における患者・家族からの暴力やハラスメント、いわゆる「カスハラ(カスタマーハラスメント)」問題が注目されている。報道に対して、医療従事者からは「ようやく患者による暴力が報じられた」といった声が上がり、現場の切実な実態が明らかにされた。看護職に対するハラスメントは日常的であり、日本看護協会の調査では、身体的暴力を受けた非管理職スタッフ22%のうち93%が患者によるものだった。また、性的言動(77%)や精神的攻撃(40%)も多数報告されている。医療従事者が声を上げにくい背景には、患者の病状や精神状態への配慮、組織文化、認識の甘さがある。実際、暴力を受けても警察に通報されることはまれで、看護師による患者への暴力は報道されても、その逆はほとんど報じられていない。その一方で、医療現場における暴力・ハラスメントは、医療者の離職、精神疾患、地域医療の崩壊につながる深刻な問題となっている。厚生労働省も医療職の確保や職場環境改善の一環として、訪問看護師向けに防犯機器導入費の補助制度を開始するなど、対策を強化しており、東京都ではカスハラ防止条例が施行され、静岡県も同様の条例制定を検討している。こうした社会的動向を踏まえ、医療機関にはハラスメント対策マニュアル整備や研修の実施、ポスター掲示などによる啓発活動が求められている。患者側にいかなる事情があろうと、医療従事者に対する暴力やハラスメントは許されるものではなく、病院としても毅然とした対応と再発防止策の構築が求められる。「患者だから許される」という認識を改め、安心・安全な医療提供体制の確立が急務となっている。 参考 1) 2019年 病院および有床診療所における看護実態調査報告書(看護協会) 2) 訪問看護において「看護師等が暴力・ハラスメントを受ける」ケースが散見され、防犯機器の購入費用などを補助-厚労省(Gem Med) 3) 広末涼子逮捕の裏で噴出した医療従事者の「切実な訴え」長年耐え忍んだ患者からの暴力の実態(東洋経済) 4) 広末涼子さん逮捕、医療現場のカスハラに注がれる厳しい目「いかなる場合も許されない」離職の原因にも(弁護士ドットコム) 5) 広末涼子容疑者を逮捕 傷害容疑、看護師に暴行か-静岡県警(時事通信) 6) 訪問看護の20代女性を包丁で切り付け、殺人未遂容疑で86歳男を逮捕(産経新聞) 4.後発薬の供給不足、薬局の8割が「支障」改善はわずか6%/厚労省厚生労働省は、4月9日に開かれた中央社会保険医療協議会診療報酬改定結果検証部会で、ジェネリック医薬品(後発薬)の供給状況に関する最新調査結果を明らかにした。全国の薬局や医療機関を対象とした調査では、供給体制の逼迫が依然として深刻であることが浮き彫りとなった。保険薬局では84.1%が「支障を来している」と回答し、「供給が悪化した」との回答も43.1%に上った。病院では63.3%、診療所では53.4%が供給悪化を報告しており、医療現場全体に影響が広がっている。この背景には、2020年以降の後発薬メーカーによる品質不正や生産停止の影響がある。中小企業が多数品目を小規模ロットで製造する非効率な構造が、長年にわたり放置されており、現場では納品の遅延、処方変更などの業務負担が常態化している。実際に希望通りの納品がなされた薬局は1%未満に止まった。政府は、2024年度診療報酬改定で後発薬の使用促進を進めており、調剤割合90%以上の薬局は66.1%に達した。一方、供給が追いつかない現状に対し、医療機関からは安定供給体制の構築が最重要課題とされ、病院の90.8%、診療所の65.8%がそれを最も必要な対応として挙げている。厚労省はこうした状況を打開するため、品目統合や企業連携を後押しする基金の創設を盛り込んだ薬機法改正案を今国会に提出。出荷量と需要量の「見える化」による需給バランスの把握、電子処方箋データ活用による増産促進も目指す。一方、現場では医薬品供給状況を共有する民間データベースが活用され始めている。 参考 1) 後発医薬品の使用促進策の影響及び実施状況調査報告書[概要](厚労省) 2) 後発薬の供給「悪化した」病院の6割超 診療所は5割超(CB news) 3) 4年も続く「薬不足」、ジェネリック産業構造足かせ 品目統合や企業連携後押しに基金設立(産経新聞) 5.最大7.2億円を無利子融資、物価高で医療・介護事業者支援へ/厚労省厚生労働省は、物価高騰の影響で経営が悪化している医療機関や介護施設を対象に、無利子・無担保で最大7億2,000万円の優遇融資を行う支援策を発表した。融資は独立行政法人・福祉医療機構(WAM)を通じて実施され、4月8日から申請が受け付けられている。とくに病院に対する貸付上限額は、従来の500万円から大幅に引き上げられ、2年間無利子で、最大5年間は元本返済猶予となる。対象は前年同期比で収支が悪化し、職員の処遇改善加算を届け出ている施設で、2年以内の経営改善計画の提出が条件となっている。また、病床削減や地域医療構想に基づく再編に協力する場合は、さらに優遇される。介護老人保健施設などについても、無担保融資の上限が500万円から1億円に拡大される。この措置は、病院団体が「地域医療が崩壊寸前」と訴え、国に支援を求めたことが背景にある。調査によれば、2024年度に経常赤字を計上した病院は全体の61.2%に上り、経営状況は深刻だ。診療報酬などの公定価格では物価や人件費の高騰に対応しきれず、多くの医療機関がコスト増に苦しんでいる。WAMでは、2024年12月から優遇融資制度を実施しており、今回の拡充はコロナ禍以降で最大規模の支援となる。政府はこの制度を通じて、医療・介護現場の資金繰りを下支えし、事業継続を図る方針を示している。 参考 1) 物価高騰の影響を受けた施設等に対する経営資金又は長期運転資金のお知らせ(福祉医療機構) 2) 最大7.2億円の無利子融資=医療事業者へ物価高対策で-政府(時事通信) 3) 物価高対策の無担保融資、上限7億円超に拡充 病院向け(日経新聞) 4) 物価急騰によるコスト増等で「収支差額の減少」や「経常赤字」となっている医療機関や介護施設などに優遇融資を実施-福祉医療機構(Gem Med) 6.47人の懲戒処分の報道発表なし、情報公開に疑問の声/国立病院機構独立行政法人・国立病院機構(本部・東京)が2024年度に下した全国計47人の懲戒処分について、報道機関への発表を一切行わず、自機構のホームページに短期間掲載するに止めていたことが判明した。処分内容には懲戒解雇2件、停職22件を含む重大事案が含まれていたが、いずれの地域グループでも記者発表は行われなかった。たとえば東海北陸グループでは、職務上の立場を悪用して部下に性的関係を強要した理学療法士が懲戒解雇となり、鈴鹿病院では障害患者への虐待で看護師ら5人が停職や戒告処分を受けた。また、九州グループでは盗撮や勤務中の飲酒などにより看護師や医師が停職処分を受けていたが、いずれも報道発表されていない。処分はホームページ内の「情報公開」欄に約3週間のみ掲載されており、閲覧には複数の操作を要していた。かつては報道発表を行っていた地域も含め、2023年度以降は原則非公表方針に転換されており、報道基準も明確に定められていない。機構本部は「今後の対応を検討中」としているが、情報公開の不透明さと組織の説明責任の欠如に対し、専門家からは「信頼性を損なう」と懸念の声が上がっている。 参考 1) 国立病院機構が懲戒処分の47人を報道発表せず、ホームページのみ掲載…「公表のあり方について検討」と担当者(読売新聞) 2) 盗撮などの懲戒処分、国立病院機構九州グループが報道機関に発表せず…2023年7月~25年3月で17人(同) 3) 国立病院機構、悪質セクハラで1人懲戒解雇 東海北陸管内、2024年度の処分10件(中日新聞)

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事例021 発熱患者等対応加算の漏れ【斬らレセプト シーズン4】

解説外来感染対策向上加算の届出を行っている診療所において、他病にて治療中の患者がインフルエンザ疑いなどの感染症疑いにて受診されているにもかかわらず、「発熱患者等対応加算」(以下「同加算」と略す)が算定されていない事例を複数見受けました。この事例にはパターンがあり、「外来感染対策向上加算」を算定した日の同月翌日以降に受診されている場合でした。A001 再診料注15「外来感染対策向上加算」は、初診料算定日を含み月1回のみの算定ができます。ただし書きに「(同加算は)発熱その他感染症を疑わせるような症状を呈する患者に対して適切な感染防止対策を講じたうえで再診を行った場合について月1回に限り点数を更に所定点数に加算する」と記載されています。計算担当者に話を聞くと、「外来感染対策向上加算の加算であるので別日には算定できません」と回答がありました。外来感染対策は算定上月1回であっても、すべての診療に継続して対策されています。したがって、同加算は同月内別日の診療であっても単独で算定できると解されています(疑義解釈その1 問4 2024.3.28)。このことを伝えて算定漏れの対策としました。また、別の診療所では、発熱患者を駐車中の自動車内にて診療を行っているのみでは算定できないと解されていましたが、この診療でも適切な感染対策は当然に行われています。駐車中の自動車内にて通常患者と分離している場合も算定要件に含まれることを伝えています。

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極論、「結婚してもしなくても幸せ」!?【アラサー女医の婚活カルテ】第12回

アラサー内科医のこん野かつ美です☆本連載では、結婚相談所(以下、相談所)での筆者の婚活経験をお届けしています。前回は、多忙な医師にとって悩みの種となる“婚活と仕事の両立”のコツをご紹介しました。最終回となる今回は、婚活期間を振り返って、筆者なりのメンタルの保ち方や、“結婚”に対する考え方の変化について書きたいと思います。それではどうぞ。そもそも「結婚しなくても幸せになれる」「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私はあなたと結婚したいのです」これは、数年前にCMで流れた、かの有名な結婚情報誌『ゼクシィ』のキャッチコピーです。当時かなり話題になったので、記憶されている方も多いかもしれません。これは、本当に素晴らしいフレーズだと思います。そう、今は「結婚しなくても幸せになれる」時代なのです。婚活中、あるいはこれから婚活に臨もうとする皆さまには、ぜひこのフレーズを心に留めておいていただきたいです。「結婚=幸せ」だと思いながら婚活していると、まだ結婚していない自分のことを、あたかも“不幸な人間”であるかのように感じてしまう瞬間がありますよね。私にもありました。そんな“不足感”や“焦り”を原動力として動いていた時期は、なぜかいろいろな歯車がうまくかみ合わなくて、婚活も停滞しがちだったように思います。でも、結婚していないことが“不幸”なのかというと、冷静に考えてみれば、決してそんなことはありません。ここでひとつ、ご自分のことを客観的にみてください。医師としてキャリアを築いている自分。大学を卒業してから、少しずつ経験を積んで、患者さんやほかの医療スタッフ、後輩医師に頼られる機会が増えてきました。仕事は忙しいけれど、安定した収入があり、社会的にも信頼されている職業です。テレビドラマで見るような“キラキラ女医”のようにはいかず、当直明けにはすっぴん、髪の毛もボサボサな日もあるけれど、たまにパーッとおいしいものを食べに行くと、「またいっちょ頑張るか」という気分になれます。独身で一人暮らしなので、家にいるあいだは、ごろ寝して動画を見ながら寝落ちしちゃっても、誰からも文句を言われません。こうして書いてみると、そんなに悪くない……というか、こういう過ごし方も最高ですよね(上に書いたのは、独身時代の私そのままです。笑)。独身の今も“すでに幸せ”だけど、違うベクトルの“幸せ”も味わってみたいから、婚活してみる――。「結婚してもしなくても幸せ」というマインドで過ごしたことが、結果的に良い方向に作用したように思います。婚活中 メンタルの保ち方うまくいかないときは婚活から離れてみるそうは言っても、婚活中、どうしても気持ちが落ち込んでしまう場面もあると思います。私も失礼なお見合い相手に当たったり、オフの日に何件もアポイントを詰め込み過ぎたりすると、まるで休日まで外来をこなしているような気分になって疲弊することがありました。そんな時は、思いきって、婚活から完全に離れる時間を確保するようにしていました。好きなドラマを一気見したり、独りでふらっと遠出してみたり。そして、存分に心の栄養補給をしたうえで、再び婚活に臨むようにしていました。女友達に“先を越された”ときは?また、私の場合、同年代の女友達の結婚・出産報告に、先を越されたようで複雑な気持ちになってしまうこともありました。でも、そこで悶々としてメンタルをすり減らすよりも、どうせなら「次は私の番♪」「あやかっちゃえ」という方向に気持ちを切り替えたほうが、もうけものです。“脳は主語を理解できない”といわれます(医学的に正しいかどうかは知りませんが…)。「○○ちゃんが結婚! めでたい!」と、ハッピーな気分になると、脳みそが“自分のこと”だと勘違いしてくれて、結果的に良い結婚に結びつくことが、あるかもしれません。理想の結婚が“すでにかなった”態で過ごす幸せな結婚をした未来を想像して、“予祝(よしゅく)”をしてみるというのも、1つの方法です。これは、「あらかじめ祝福することで、そのことの実現を祈る」という考え方です(Wikipediaより)。私の母は常々、「かつ美が結婚したら、冠婚葬祭で使えるような上等の真珠をプレゼントするからね」と言ってくれていたので、“予祝”にかこつけて、一緒にデパートの宝飾店までパールネックレスを選びに行きました(図々しい?)。素敵なネックレスを買ってもらって間もなく、夫と出会い、トントン拍子で結婚が決まりました。“脳は時制を区別できない”ともいいます(これも医学的に正しいかどうかは知りませんが)。すでに結婚がかなった態で過ごしたことが、もしかすると、良い結婚を引き寄せてくれたのかもしれません。女性医師の強み いざというときには離婚だってできるそして最後に、声を大にして言いたいのは、結婚したからといって、自分の人生のすべてを配偶者に預けるわけではないということです。私の親世代だと、夫が外で働いて、妻が専業主婦として家事育児を引き受ける、という役割分担が比較的自然に行われており、その結果、経済力のない妻が家庭内で弱い立場に置かれたり、夫婦仲が冷めきっていても離婚に踏み切れなかったり…、という話をよく聞きます。でも、われわれ女性医師には、経済力があります。いざというときは、離婚したって……何なら、子供を数人引き連れて離婚したって、生きていけるのです。“婚活”の連載の結びとして適切かどうかわかりませんが、結婚は人生のゴールではなく、あくまでも通過点です。もちろん、夫婦がお互いに歩み寄るのは大前提ですが、万が一どうしても歩み寄れない事態が勃発した時には、自分の幸せのために“離婚”というカードを切ることもできる――いざというときにこの選択肢があると、精神衛生上とても良いですし、夫婦対等に心地よい関係を築けるように思います。幸いなことに、今のところうちの夫婦関係は良好で、こんなふうに思っていることは夫には内緒です(笑)。全12回、長きにわたる相談所婚活について書いてまいりました。私の経験が、読者の皆さまの参考になれば幸いです。それでは、いつかまたどこかで!

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整形外科の外傷処置 捻挫・打撲・脱臼・骨折

疾患診断の精度を上げ、患者満足度を高める「ニュースタンダード整形外科の臨床」第2巻整形外科の実臨床に真に役立つテキストシリーズの2冊目。本巻では、主に整形外科医が整形外科的救急外傷として扱う疾患として捻挫、靱帯損傷、肉離れ、打撲、骨挫傷、脱臼、骨折、末梢神経損傷、外傷に伴う合併症について取り上げた。治療については保存的治療を中心に、保存的治療か観血的治療かの選択の考え方についても解説。診断や評価法、リハビリテーションの動画を収載し、理解を深めるサイドノートを満載。整形外科医のみならず、プライマリケアをされる他科のジェネラリストの診療にも活用できる。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する整形外科の外傷処置 捻挫・打撲・脱臼・骨折定価12,100円(税込)判型B5判頁数468頁発行2025年4月専門編集・編集委員井尻 慎一郎(井尻整形外科)編集委員田中 栄(東京大学)松本 守雄(慶應義塾大学)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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うつ病やPTSDに対するブレクスピプラゾール+抗うつ薬併用療法〜前臨床試験のシステマティックレビュー

 ブレクスピプラゾールは、抗うつ薬と併用することで、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)、セロトニン、ドパミン神経伝達物質に対し相補的な作用を示し、さらに強力な効果を得られる可能性が示唆されている。米国・Otsuka Pharmaceutical Development & CommercializationのMalaak Brubaker氏らは、ブレクスピプラゾールと抗うつ薬の併用療法に関する前臨床試験からどのような情報が得られているかを明らかにするため、システマティックレビューを実施した。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2025年2月28日号の報告。 ブレクスピプラゾールと抗うつ薬併用療法の前臨床研究を検索するため、システマティック文献レビューを実施した。対象には、精神疾患に関連する行動テストを含めた。2011年1月〜2021年7月5日までに公表された研究を、Ovid MEDLINE、Ovid Embase、カンファレンス抄録より検索した。ブレクスピプラゾールと抗うつ薬併用療法による統計学的に有意な結果(p<0.05)を抽出した。 主な結果は以下のとおり。・スクリーニングされた296件のうち、7つの独自研究について記載された9件の論文が抽出された。・3つのうつ病モデル(慢性予測不能軽度ストレス、社会的敗北ストレス、リポ多糖誘発性うつ病)を含むげっ歯類モデルにおいて、ブレクスピプラゾールと選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)またはセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)の併用療法は、対照群と比較し、うつ病様行動(強制水泳試験、尾懸垂試験、ショ糖嗜好性試験)に対して一貫した有意なベネフィットを示した。しかし、ブレクスピプラゾールまたは抗うつ薬の単剤療法では、統計学的に有意なベネフィットは認められなかった。・心的外傷後ストレス障害(PTSD)の捕食動物嗅覚ストレスモデルにおいて、ブレクスピプラゾールとSSRI(エスシタロプラム)併用療法は、不安様行動(高架式十字迷路試験)および過覚醒(聴覚性驚愕反射)に対し、対照群/単独療法群よりも有意な効果を示した。しかし、ブレクスピプラゾールおよびエスシタロプラムの単独療法は、対照群と比較し、統計学的に有意な差は認められなかった。・PTSDの恐怖条件付けモデルにおいて、ブレクスピプラゾール単剤療法およびブレクスピプラゾールとエスシタロプラム併用療法のいずれにおいても、有意な改善が認められた。 著者らは「少数の研究ではあるものの、うつ病およびPTSDに対する前臨床試験において、ブレクスピプラゾールと抗うつ薬併用療法は、いずれかの単剤療法と比較し、有効性が高いことが報告されている。これらの前臨床試験の結果は、うつ病に対するブレクスピプラゾール補助療法およびPTSDに対するブレクスピプラゾールとセルトラリン併用療法の有効性に関するランダム化臨床試験の結果を支持しているものである」と結論付けている。

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ポリープの家族歴、頻度・人数が多いほど大腸がんリスク増加

 近年の研究により、家族内での大腸ポリープ診断の頻度が大腸がんリスクと関連していることが示されている。ドイツ・ハイデルベルク大学のYuqing Hu氏らは親族におけるポリープ診断の頻度と、大腸がんの全体的なリスクおよび早期発症リスクとの関連性を評価するための大規模研究を行った。本試験の結果はGastroenterology誌オンライン版2025年1月10日号に掲載された。 研究者らは、スウェーデンの大規模な家族性がんデータセット(1964~2018年)の1,167万6,043例を対象とし、親族における大腸ポリープ診断の頻度と大腸がんリスクの関連を調査した。親族のポリープ診断歴を「1回のみ」と「複数回」に分けて解析を行った。大腸がんと診断、移住、死亡、または2018年末のいずれか早い時点まで追跡した。 主な結果は以下のとおり。・計1,167万6,043例が最長54年間追跡された。追跡期間中央値は31年、51%が男性だった。16万2,927例が大腸がんと診断された。・大腸腫瘍の家族歴のない人(14万2,234例)と比較した場合、一等親血縁者(FDR:自分と2分の1の遺伝子を共有している親族:親、子、兄弟姉妹)に1回のポリープの診断歴がある人(1万1,035例)の全大腸がんリスク(SIR:標準化発症比)は1.4倍(95%信頼区間[CI]:1.3~1.4)、早期大腸がんリスクも1.4倍(95%CI:1.3~1.5)だった。・1人のFDRに2回以上のポリープ診断歴がある場合、大腸がんリスクは有意に高くなった(全大腸がん1.8倍、早期大腸がん2.3倍)。1回診断されたFDRが2人以上いる場合も同様のリスク増が観察された(全大腸がん1.9倍、早期大腸がん2.2倍)。・ポリープの診断を2回以上受けたFDRが2人以上いる場合、全大腸がんリスクは2.4倍、早期大腸がんリスクは3.9倍になった。・FDRのポリープ診断時の年齢が若い場合、大腸がんリスクが高くなった。二等親血縁者(自分と遺伝的に25%の遺伝子を共有している親族:祖父母、孫、叔父叔母、甥姪など)におけるポリープ診断歴は、診断回数が2回以上の場合のみ、リスク増加が認められた。 研究者らは「家族歴に基づく大腸がん検診の戦略を策定する際、親族のポリープ診断頻度を考慮することが重要だ。とくに複数回のポリープ診断歴を持つFDRが複数いる場合はリスクが顕著に増加するため、より積極的な検診が推奨される」とした。

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HR+早期乳がんにおける年齢と内分泌療法の中断期間、再発リスクの関係/JCO

 ホルモン受容体陽性(HR+)早期乳がんにおいて、内分泌療法(ET)のアドヒアランス欠如は、若年患者の生存率の低さの潜在的な原因の1つと考えられるが、ETのアドヒアランス改善が生存にもたらすベネフィットは明確ではない。フランス・パリ・シテ大学のElise Dumas氏らによるフランスの全国コホート研究の結果、とくに34歳以下の患者において厳格なET継続戦略によって得られる生存ベネフィットが示され、ETのアドヒアランス改善のための個別化戦略の必要性が示唆された。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2025年3月5日号への報告。 本研究では、フランス国民健康データシステムからのデータとtarget trial emulationの手法を用いて、3つのET継続戦略(治療中断期間として30日、90日、または180日以下を許容)について、5年無病生存率(DFS)を観察された(自然な)ET継続群と比較した。 主な結果は以下のとおり。・計12万1,601例のHR+早期乳がん患者が解析に含まれ、うち29.8%が診断時に50歳未満であった。・若年患者は高齢患者よりも DFS が低く、ETを中断する可能性が高かった。・34歳以下の患者では、厳格な ET継続戦略(中断≦30日)により、観察されたET継続群と比較して 5 年 DFS 率が 74.5% から 78.8%に改善した(4.3%ポイント[95%信頼区間[CI]:2.6 ~7.2])。・≦90日および≦180日の中断を許容するET継続戦略では、34歳以下の患者における5年DFSベネフィットはそれぞれ1.3%ポイント(95%CI:0.2~3.7)および1.0%ポイント(95%CI:-0.2~3.4)であった。・対照的に、50歳以上の患者におけるET継続戦略によるDFSベネフィットは、その中断期間にかかわらず、観察されたET継続群と比較して1.9%ポイント以下であった。

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3枝病変へのFFRガイド下PCIは有効か/Lancet

 左冠動脈主幹部以外の冠動脈3枝病変を有する患者の治療では、冠動脈バイパス術(CABG)と比較してゾタロリムス溶出ステントを用いた冠血流予備量比(FFR)ガイド下経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は、5年間の追跡調査において、死亡、脳卒中、心筋梗塞の複合アウトカムの発生に関して有意差はみられないが、心筋梗塞と再血行再建術の頻度は高いことが、米国・スタンフォード大学のWilliam F. Fearon氏らが実施した「FAME 3試験」で示された。研究の成果はLancet誌オンライン版2025年3月30日号に掲載された。世界48施設の医師主導型無作為化試験 FAME 3試験は、左冠動脈主幹部以外の冠動脈3枝病変を有する患者において、ゾタロリムス溶出ステントを用いたFFRガイド下PCIとCABGの有効性と安全性を比較する医師主導型の無作為化試験であり、2014年8月~2019年11月に欧州、米国、カナダ、オーストラリア、アジアの48施設で参加者を募集した(MedtronicとAbbott Vascularの助成を受けた)。 年齢21歳以上、左冠動脈主幹部には臨床的に重大な狭窄がなく、冠動脈造影所見で3枝病変を認める患者を対象とし、心原性ショックや最近のST上昇型心筋梗塞、重度の左室機能障害(駆出率<30%)、CABGの既往歴がある患者は除外した。 主要エンドポイントは、ITT集団における死亡、脳卒中、心筋梗塞の複合の5年間の発生率とした。なお、1年後の解析では、FFRガイド下PCIはCABGに対して、死亡、脳卒中、心筋梗塞、再血行再建術の複合アウトカムに関して、事前に規定された非劣性の閾値を満たさなかった。死亡、脳卒中には差がない 1,500例を登録し、PCI群に757例、CABG群に743例を割り付けた。全体の登録時の年齢中央値は66歳(四分位範囲:59~71)、1,235例(82%)が男性で、428例(29%)は糖尿病、587例(39%)は非ST上昇型急性心筋梗塞であった。PCI群の724例(96%)とCABG群の696例(94%)が5年間の追跡期間を完了した。 5年の時点での死亡、脳卒中、心筋梗塞の複合の発生率は、PCI群が16%(119例)、CABG群は14%(101例)であり、両群間に有意な差を認めなかった(ハザード比[HR]:1.16[95%信頼区間[CI]:0.89~1.52]、p=0.27)。 主要エンドポイントの個々の項目については、死亡(PCI群7%vs.CABG群7%、HR:0.99[95%CI:0.67~1.46])と脳卒中(2%vs.3%、0.65[0.33~1.28])の発生率には両群間に差はなかったが、心筋梗塞(8%vs.5%、1.57[1.04~2.36])、再血行再建術(16%vs.8%、2.02[1.46~2.79])の発生率はPCI群で高かった。安全性のエンドポイントはCABG群で発生率が高い 一方、安全性のエンドポイントである出血、急性腎障害、心房細動/重大な不整脈、再入院の1年後の発生率は、いずれもPCI群に比べCABG群で有意に高かった。 著者は、「これらのデータは、この分野における先行研究の結果とは明らかに異なっており、医師と患者のより効果的な共同意思決定(shared decision making)の促進に資する可能性がある」としている。

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PCI後DAPT例の維持療法、クロピドグレルvs.アスピリン/Lancet

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後に標準的な期間の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を完了した、虚血性イベントの再発リスクが高い患者の維持療法において、アスピリン単剤療法と比較してクロピドグレル単剤療法は、3年時の主要有害心・脳血管イベント(MACCE)が少なく、なかでも心筋梗塞のリスクが有意に減少し、出血の発生率は両群で差がなく、上部消化管イベントのリスクはクロピドグレル群で低いことが、韓国・Sungkyunkwan University School of MedicineのKi Hong Choi氏らSMART-CHOICE 3 investigatorsが実施した「SMART-CHOICE 3試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年3月30日号で報告された。韓国の無作為化試験 SMART-CHOICE 3試験は、薬剤溶出ステントによるPCI後に標準的な期間のDAPTを完了した患者における、クロピドグレル単剤とアスピリン単剤の有効性と安全性の比較を目的とする非盲検無作為化試験であり、2020年8月~2023年7月に韓国の26施設で参加者の適格性を評価した(Dong-A STの助成を受けた)。 年齢19歳以上、PCI後に標準的な期間のDAPTを完了し、虚血性イベントの再発リスクが高い患者(心筋梗塞の既往歴がある、糖尿病で薬物療法を受けている、複雑な冠動脈病変を有する)を対象とした。被験者を、クロピドグレル(75mg、1日1回)またはアスピリン(100mg、1日1回)を経口投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、ITT集団におけるMACCE(全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合)の累積発生率とした。MACCEの推定3年発生率:4.4%vs.6.6% 5,506例を登録し、クロピドグレル群に2,752例、アスピリン群に2,754例を割り付けた。全体の年齢中央値は65.0歳(四分位範囲[IQR]:58.0~73.0)、1,002例(18.2%)が女性であった。2,247例(40.8%)が糖尿病(2,089例[37.9%]が糖尿病の薬物療法を受けていた)で、2,552例(46.3%)が急性心筋梗塞(1,330例[24.2%]が非ST上昇型、1,222例[22.2%]がST上昇型)でPCIを受けていた。PCI施行から無作為化までの期間中央値は17.5ヵ月(IQR:12.6~36.1)だった。 追跡期間中央値2.3年の時点で、MACCEはアスピリン群で128例に発生し、Kaplan-Meier法による推定3年発生率は6.6%(95%信頼区間[CI]:5.4~7.8)であったのに対し、クロピドグレル群では92例、4.4%(3.4~5.4)と有意に少なかった(ハザード比[HR]:0.71[95%CI:0.54~0.93]、p=0.013)。 MACCEの個々の項目(副次エンドポイント)の推定3年発生率は、全死因死亡がクロピドグレル群2.4%、アスピリン群4.0%(HR:0.71[95%CI:0.49~1.02])、心筋梗塞がそれぞれ1.0%および2.2%(0.54[0.33~0.90])、脳卒中が1.3%および1.3%(0.79[0.46~1.36])であった。大出血の発生率にも差はない 出血(BARC type 2、3または5)(クロピドグレル群3.0%vs.アスピリン群3.0%、HR:0.97[95%CI:0.67~1.42])、大出血(BARC type 3または5)(1.6%vs.1.3%、1.00[0.58~1.73])のリスクは両群で差はなかった。 上部消化管イベント(クロピドグレル群2.8%vs.アスピリン群4.9%、HR:0.65[0.47~0.90])および有害な臨床イベント(全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、大出血の複合)(5.4%vs.7.3%、0.78[0.61~0.99])はクロピドグレル群で少なく、血行再建術(4.2%vs.4.5%、0.94[0.69~1.27])の頻度は両群で同程度だった。 著者は、「これらの患者において、クロピドグレル単剤療法は、出血を増加させずに全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合リスクの低下をもたらしたことから、長期維持療法としてアスピリン単剤療法に代わる好ましい選択肢と考えられる」としている。

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バターを植物油に置き換えると死亡リスク17%減

 バターがあれば何でもおいしくなる、というのは料理人の格言だが、バターは健康には良くないことが新たな研究で示された。バターの摂取量が多い人は少ない人に比べて早期死亡リスクが高いが、オリーブ油のような植物性の油を主に使っている人は早期死亡リスクが低いことが明らかになったという。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のYu Zhang氏らによるこの研究結果は、「JAMA Internal Medicine」に3月6日掲載されると同時に、米国心臓協会(AHA)の生活習慣科学セッション(EPI/Lifestyle Scientific Sessions 2025、3月6~9日、米ニューオーリンズ)でも発表された。 この研究は、医療従事者を対象とした3つの長期研究で30年以上にわたって追跡調査された、22万1,054人の参加者の食事や健康状態に関するデータに基づいたものだ。参加者の中に、研究参加時にがん、心血管疾患(CVD)、糖尿病、神経変性疾患を有する人はいなかった。これらの研究では、4年ごとに食事内容に関する調査が実施されていた。調査では、バターの総摂取量として、バターとマーガリンをブレンドしたもの、バタースプレッド、家庭でのパン作りや揚げ物、炒め物などの料理に使われるバターの摂取量も調査された。植物油の摂取量は、揚げ物や炒め物、ソテー、パン作り、サラダのドレッシングに使った量に基づき推定された。 33年間の追跡期間中に5万932人が死亡していた。死因は主に、がん(1万2,241人)とCVD(1万1,240人)だった。バターまたは植物油の摂取量に応じて、参加者をそれぞれ4群に分類して解析した結果、バターの摂取量が最も多い群では、最も少ない群と比べて死亡リスクが15%高いことが示された(ハザード比1.15、95%信頼区間1.08〜1.22、P for trend<0.001)。一方、植物油の摂取量が最も多い群では、最も少ない群と比べて死亡リスクが16%低かった(同0.84、0.79〜0.90、P for trend<0.001)。さらに、毎日少量のバターを植物油に置き換えるだけでも死亡リスクが低下することが示された。具体的には、1日当たり10gのバターを植物油に置き換えることで、全死亡およびがんによる死亡のリスクがそれぞれ17%低下することが明らかになった(全死亡:同0.83、0.79〜0.86、P<0.001、がんによる死亡:同0.83、0.76〜0.90、P<0.001)。 Zhang氏は、「驚いたのは、その関連の強さだ。毎日の食事でバターを植物油に置き換えることで全死亡リスクが17%低下するというのは、健康に対してかなり大きな影響だと言える」とAHAのニュースリリースの中で述べている。 また、ブリガム・アンド・ウイメンズ病院栄養学助教のDaniel Wang氏は、「バターを大豆油やオリーブ油に置き換えるというシンプルな食事内容の変更が、長期的に大きな健康効果をもたらす可能性がある。このことを人々は考慮した方が良いかもしれない」とニュースリリースの中で述べている。 Zhang氏らによる研究の背景情報によると、バターと植物油にはいくつかの種類の脂肪酸が含まれており、それぞれが体に異なる影響を与えるという。例えば、バターにはコレステロールの上昇や動脈硬化との関連が指摘されている飽和脂肪酸が多く含まれている。飽和脂肪酸は、炎症の亢進やホルモン活性の変化にも関連しており、がんのリスクを高める可能性がある。一方、植物油にはコレステロールを下げ、細胞や脳の健康を維持し、炎症を抑え、特定のビタミンの吸収を助ける不飽和脂肪酸が多く含まれている。 また、米アーカンソー医科大学疫学助教のYong-Moon Mark Park氏らが執筆した付随論評では、バター好きの人は日頃から他にも健康を損なうような食事を選択している可能性があると指摘されている。Park氏は、「バターは不健康な食習慣との関連が指摘されることが多い。一方、植物油は地中海食や植物性食品を中心とした食事など、より健康的な食習慣との関係が示されることが多い。こうした食事には、栄養価の高い食品と健康的な脂肪が豊富に含まれており、これらが相乗的に作用して慢性疾患と早期死亡のリスクを低下させる」と述べている。

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