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急性期脳梗塞、再灌流後のtenecteplase動注は有益か/JAMA

 主幹動脈閉塞を伴う急性期脳梗塞を発症し、最終健常確認時刻から24時間以内に血管内血栓除去術(EVT)を受け、ほぼ完全または完全な再灌流を達成した患者において、補助的なtenecteplase動脈内投与(動注)は、90日時点の障害なしの患者の割合を有意に増加させなかった。中国・重慶医科大学附属第二医院のJiacheng Huang氏らPOST-TNK Investigatorsが無作為化試験「POST-TNK試験」の結果を報告した。JAMA誌オンライン版2025年1月13日号掲載の報告。90日時点の障害なしを評価 POST-TNK試験は、医師主導の無作為化非盲検アウトカム評価盲検化試験で、中国の34病院で行われた。被験者は、近位頭蓋内主幹動脈閉塞による急性期脳梗塞を発症し、最終健常確認時刻から24時間以内にEVTを受け、EVT後のexpanded Thrombolysis in Cerebral Infarction(eTICI)スコアが2c~3、静脈内血栓溶解療法を受けていない患者とし、補助的なtenecteplase動注の有効性と安全性を評価した。 被験者の募集は2022年10月26日~2024年3月1日に行われ、最終フォローアップは2024年6月3日であった。 適格患者540例を、tenecteplase 0.0625mg/kgの動注を受ける群(tenecteplase動注群、269例)、または動脈内血栓溶解療法による治療を受けない群(対照群、271例)に無作為に割り付けた。 有効性の主要アウトカムは、90日時点の障害なしとし、修正Rankinスケールスコア(範囲:0[症状なし]~6[死亡])0/1と定義した。安全性の主要アウトカムは、90日時点の死亡、48時間以内の症候性頭蓋内出血とした。対照群と比較し主要アウトカムに有意差なし、症候性頭蓋内出血の発現率が高率 試験を完了したのは539例(99.8%)であった(年齢中央値69歳、女性221例[40.9%])。 90日時点の修正Rankinスケールスコア0/1の患者の割合は、tenecteplase動注群49.1%(132/269例)、対照群44.1%(119/270例)であった(補正後リスク比:1.15、95%信頼区間[CI]:0.97~1.36、p=0.11)。 90日死亡率は、tenecteplase動注群16.0%(43/269例)、対照群19.3%(52/270例)であった(補正後ハザード比:0.75、95%CI:0.50~1.13、p=0.16)。48時間以内の症候性頭蓋内出血の発現率は、それぞれ6.3%(17/268例)と4.4%(12/271例)であった(補正後リスク比:1.43、0.68~2.99、p=0.35)。

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米アルツハイマー病協会が新たな診療ガイドラインを作成

 アルツハイマー病(AD)の専門家グループが、新たに包括的な診療ガイドラインを作成し、家庭医や脳専門医がADおよびAD関連疾患(ADRD)を最も効果的に検出する方法を提示した。この新ガイドラインは、「Alzheimer’s & Dementia」に12月23日掲載された。 このガイドラインでは、次に挙げる3つの一般的な基準に従い脳の健康状態を評価することを推奨している。それは、1)患者の全体的な認知障害のレベル、2)記憶、推論、言語、気分などに関わる特定の症状の有無、3)症状を引き起こしている可能性のある脳疾患の有無。 本ガイドラインの筆頭著者である、米アルツハイマー病協会および米ハーバード大学医学大学院神経学分野のAlireza Atri氏は、「これらの診断領域は、ADをはじめとする認知症に関する新たな研究成果が得られるたびに、新しい検査方法をガイドラインに組み込むことができるよう、意図的に広く定義されている」と話す。また同氏は、「本ガイドラインは、米国初の学際的なガイドラインとして広範な臨床状況で利用できるように設計されており、高品質で個別化された診断プロセスを体系的にまとめた包括的な基盤を提供する。このプロセスには特定の検査が組み込まれており、分野の進展に応じて更新することが可能だ」と説明する。さらに、「新しいツールやバイオマーカーが十分に検証され、実臨床で使用されるようになれば、本ガイドラインも、細部で部分的な修正が必要になるだろう」と付け加えている。 ADをはじめとする認知症の研究は着実に進展しているが、認知機能低下の診断に関する現在のガイドラインは20年以上も前に作られたものだと専門家は指摘する。さらに、これらのガイドラインは神経学や認知症の専門医を対象としたものであり、脳の健康に不安のある患者を診察する家庭医に対する指針は示されていなかった。こうした現状を踏まえて、アルツハイマー病協会は今回のガイドライン作成に当たり、脳の健康の評価プロセスを刷新するために、プライマリケア医や専門医など、複数の医療分野の専門家から成るワーキンググループを招集した。 新ガイドラインの上席著者でアルツハイマー病協会の最高科学責任者であるMaria Carrillo氏は、「新ガイドラインは、記憶に関する訴えを評価する際の指針を医師に提供する重要なものだ。記憶の問題の根底にはさまざまな原因が関与している可能性がある。そのため、そのような訴えの評価は、ADを早期かつ正確に診断するための出発点となる。さらに、このガイドラインは、記憶障害の一因となる可能性のある他の根本的な原因に関する情報を臨床医に提供する」とアルツハイマー病協会のニュースリリースの中で述べている。 脳の健康状態の総合的な評価には、次のようなことが含まれている。・記憶力と思考力のテスト・年齢、認知症の家族歴、高血圧、喫煙などのリスク因子の評価・認知機能の低下を反映している可能性のある日常生活の症状の評価・MRIまたはCTによる脳の検査、およびその他の臨床検査 ワーキンググループによれば、新しい検査やスキャンは、開発され次第、このフレームワークに追加される可能性があるという。本ガイドラインの共著者である米マサチューセッツ総合病院前頭側頭葉疾患ユニットのBradford Dickerson氏は、「このガイドラインは、従来のガイドラインの範囲を拡大し、診断プロセス全体にわたる推奨事項を臨床医に提供する」と述べる。同氏はまた、「われわれは医療専門家に対して、認知症評価の目標についての自分の考えが患者と一致しているかを確認することから始めることを推奨している。そのためには通常、プロセスの具体的な手順について患者に説明し、理解を得るための話し合いが必要になる。その後、症状や検査に関する情報の取得に必要な手順を概説し、患者に合わせたさまざまな診断テストを行い、診断開示プロセスに関するベストプラクティスをまとめると良い」と話している。

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タバコを1本吸うごとに寿命が22分縮む?

 紙巻きタバコ(以下、タバコ)を1本吸うごとに寿命が最大22分短縮する可能性のあることが、英国の喫煙者の死亡率データに基づく研究で明らかにされた。この結果は、1日に20本入りのタバコを1箱吸うと、寿命が7時間近く縮む可能性があることを示唆している。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のアルコール・タバコ研究グループのSarah Jackson氏らによるこの研究結果は、「Addiction」に12月29日掲載された。Jackson氏は、「喫煙者が失う時間は、大切な人々と健康な状態で過ごすことができるはずの時間だ」と述べている。 2000年に報告された研究では、1991年まで40年にわたって男性の死亡率を追跡したBritish Doctors Studyのデータ(1日当たりの喫煙本数は15.8本と推定)を基に、タバコを1本吸うごとに寿命が平均11分短縮することが推定されていた。現時点では、British Doctors Studyの2001年までの50年間の追跡データと、女性の死亡率を2011年まで追跡したMillion Women Studyのデータが利用可能である。これらの研究では、喫煙をやめなかった場合、男性では約10年、女性では約11年寿命が短縮することが推定されているという。今回、Jackson氏らは、1996年の女性の1日当たりの喫煙本数(平均13.6本)を考慮してタバコを1本吸うごとに失われる寿命を算出した。その結果、男女全体では20分、男性では17分、女性では22分と推定された。 また、喫煙の有害な影響は累積的であり、禁煙を早期に始めて喫煙本数を減らせば減らすほど寿命は長くなることも示された。例えば、1日10本のタバコを吸う人が2025年1月1日に禁煙を始めると、1月8日までに1日分、2月20日までに1週間分、8月5日までに1カ月分、年末までに50日分の寿命を守ることができることになるという。なお、過去の研究から、喫煙者は通常、不良な健康状態で過ごす年数と同じ年数の寿命を失うことが示唆されている。つまり、喫煙が主に影響を与えるのは健康な中年期ということだ。この知見に基づくと、60歳の喫煙者の健康状態は、非喫煙者の70歳の健康状態に相当することになると研究グループは述べている。 Jackson氏は、「これらの結果は、20代か30代前半までの早い時期に禁煙した人の平均寿命は、喫煙未経験者と同等に近付く傾向があることを示している。しかし、年齢を重ねるにつれて、禁煙しても取り戻せないほど少しずつ寿命が失われていく。禁煙時の年齢に関係なく、禁煙することで喫煙を続けた場合よりも平均寿命は確実に長くなる」と述べている。その上で同氏は、「禁煙は間違いなく、健康のためにできる最善のことだ」と強調している。 喫煙率は1960年代から減少しているが、米疾病対策センター(CDC)によると、喫煙は依然として米国における予防可能な死因の第1位であり、毎年48万人以上の米国人が喫煙により命を落としている。喫煙は寿命に影響を及ぼすだけでなく、免疫系にも悪影響を及ぼす。2024年に「Nature」に掲載された研究では、喫煙は免疫反応を弱め、感染症、がん、自己免疫疾患に対する脆弱性を高めることが示されている。このNature誌掲載論文の責任著者の1人でパスツール研究所(フランス)トランスレーショナル免疫学部門長のDarragh Duffy氏は、「良い知らせとしては、喫煙によりリセットが始まることだ。禁煙する最適な時期は今なのだ」と話している。

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SNSの投稿は患者さんも見ている【もったいない患者対応】第22回

SNSの投稿は患者さんも見ているSNSを日常的に利用する医療者は多いでしょう。とくに、FacebookやX(旧Twitter)で個人アカウントをもち、他の医療者らと交流したり、一般向けに情報発信したりしている人は多いと思います。しかし、不特定多数の人が読むことのできるSNSで医療者として投稿するときは、かなりの慎重さが求められます。私はXで10万人を超える方にフォローしていただき、アクティブに情報発信を行っていますが、他の医療者の投稿を見ていて一種の危うさを感じることが少なくありません。個人情報への配慮はできている?まず気になるのは、個人情報への配慮が十分でない投稿です。たとえば、「今日の手術は〇〇だった」「今日の外来で診た患者さんは〇〇だった」というような、話題になっている患者さんが特定される恐れのある投稿は非常に危険です。匿名アカウントであっても、内容によっては「自分のことかもしれない」と思う患者さんがいるかもしれません。もし、その人のことでなかったとしても、「本人が見たら『自分のことかもしれない』と感じるような投稿を医療者がしている」という事実自体、医療不信につながる恐れがあります。「今日」といった限定的な日時を書かないのはもちろんのこと、具体的な事実の記載も避けなければなりません。一般の方が見て不信に思わない?SNSに投稿する際は「医療者が見ればなんの悪意も感じないが、一般の方が見れば不信感を抱く可能性がある」類の投稿になっていないかどうか、注意が必要です。たとえばよく見るのが、「点滴がなかなか入らず、何度も失敗してしまった」「手術が大変で、いつもより2時間も余分にかかってしまった」といった投稿です。医療者にとってみれば、患者さんの血管が細いことなどが原因で、輸液ラインの挿入に難渋することは日常茶飯事でしょう。手術も、何度も行っていれば「もっとうまくやれたかもしれない」と自省的に振り返る機会はあります。しかし、一般の方にこうした理解を求めることはできません。「うまくいかなかった」という投稿を見れば、そういう“不幸な目”にあった患者さんのことを考え、医療者に対して「けしからん」という怒りを募らせるかもしれません。これは、医療への不信感を助長する可能性があり、きわめて危険なことです。医療者にとっての日常は、非医療者にとっては非日常です。SNSに仕事のことを投稿する際は、常にこの点への注意が必要なのです。上手に活用して快適なSNSライフをむろん、SNSは情報発信において非常に有用なツールです。医療者から発信された情報のおかげで救われる患者さんはたくさんいます。私のほか、数万人のフォロワーを抱える医療者たちは多くいますし、熱心に運用すれば多くの人の役に立つことができるのも事実です。気持ちよくSNSを利用するためにも、ここに書いたような細かな配慮を忘れないことが大切です。

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若い女性への再発予防の指導方法について 実際どう指導していますか?【とことん極める!腎盂腎炎】第11回

若い女性への再発予防の指導方法について 実際どう指導していますか?Teaching pointリスク因子を評価し適切な再発予防指導(飲水励行や排泄後の清拭など)までできるようになるはじめに女性は解剖学的に尿路感染症を起こしやすく、約3人に1人は24歳までに尿路感染症を少なくとも1回は経験する1)。尿路感染の既往をもつ女性のうち30〜44%が再発し、0.3〜7.6回/年生じるという報告もあり、生活の質(QOL)にかかわる重要な問題である2)。再発防止は本人のQOL維持、繰り返す抗菌薬曝露による耐性菌発生の予防の観点からも重要である。若い女性への尿路感染症の再発予防の生活指導方法について紹介する。1.若い女性の再発性尿路感染症のリスク因子閉経前の女性のリスク因子として、(1)性的活動の活発であること、(2)殺精子剤の使用、(3)新たな(1年以内の)性的パートナー、(4)尿路感染症の既往のある母親、(5)小児尿路感染症の既往がある。しかし、遺伝的な素因よりも性交や殺精子剤のリスクのほうが大きいとされ、行動への介入は予防可能なリスクとなる3)。2.再発予防への日常生活への指導防御機構とリスク因子を踏まえ予防的な介入を考えていく。本項では介入として日常生活への指導をまとめる(薬剤、サプリメントによる予防は第13回で紹介する)。日常生活への指導の有効性を裏づけるエビデンスは限られるが、介入によるリスクの低さから薬物などによる介入前に実践することが推奨されている。飲水量の増加は単施設であるがRCTで有効性が示されている4)。水分摂取量が少ない(1.5L/日未満)、再発性膀胱炎(3回以上繰り返す)を来たした成人女性において通常量の飲水に加えて、1.5L/日の追加飲水の介入を行ったところ非介入群と比較して、膀胱炎の発症が1年あたり1.5回減少した(1.7回[95%信頼区間[CI]:1.5~1.8]vs. 3.2回[95%CI:3.0~3.4])。筆者はさらに飲水行動について詳しく問診するようにしている。飲水量が少なかった場合、「なぜ飲水量が少ないか」を聞くとさらに背景に迫れることがある。気軽に排泄に行きづらい職場環境(例:コンビニ店員でトイレに行くタイミングがないなど)が背景にあり飲水を控えているというケースも経験する。その場合は、職場環境改善への働きかけなどに協力してあげることも大切となる。また、性交や殺精子剤は尿路感染症のリスク因子であり、性交を減らすことや殺精子剤を含む避妊具を避けることを、本人やパートナーとカウンセリングを行うこともリスクを減らすと期待される。その他、明確な関連は示されていない個別での相談や効果を評価する指導内容も含め表にまとめた4,5)。小児期から繰り返している場合や腎結石、尿路閉塞、間質性膀胱炎、尿路上皮がんが疑われるような場合は泌尿器科受診を勧めることも忘れてはならない。表 若年女性の単純性尿路感染症の再発を予防するための日常生活への指導画像を拡大する再発性の膀胱炎の最終手段として抗菌薬投与が選択されることもあるが、耐性菌のリスクの観点からも導入しやすい日常生活への指導からしっかりと介入していくことは大切である。生活へのアプローチは一人ひとりの事情もあるので、本人の生活について丁寧に聴取し生活に合わせた指導内容を一緒に考えていくことはプライマリ・ケア医の重要な役割である。1)Foxman B. Dis Mon. 2003;49:53-70.2)Gupta K, Trautner BW. BMJ 2013;346:f3140.3)Hooton TM, et al. N Engl J Med 1996;335:468-474.4)Hooton TM, et al. JAMA Intern Med 2018;178:1509-1515.5)Hooton TM. N Engl J Med 2012;366:1028-1037.

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眼科外来診療―クリニックでの対応と紹介のタイミング―

診断のピットフォールや紹介のタイミングをわかりやすく「眼科」66巻11号(2024年11月臨時増刊号)どこから読んでもすぐに役立つ、気軽な眼科の専門誌です。本年の臨時増刊号は「眼科外来診療―クリニックでの対応と紹介のタイミング―」と題し、日常臨床の場で診断や治療を進めていく際のポイントと、ある一線を越えた場合や初診時すでに一線を越えている病態に対し、より高度で適切な医療を提供するために紹介するタイミングに焦点を当て、専門家の先生方にご執筆をいただきました。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する眼科外来診療―クリニックでの対応と紹介のタイミング―定価9,350円(税込)判型B5判頁数368頁発行2024年11月編集後藤 浩/飯田 知弘/雑賀司 珠也/門之園 一明/石川 均/根岸 一乃/福地 健郎ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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第247回 どこか似ているフジテレビと女子医大、大学に約1億1,700万円の損害を与えた背任の疑いで女子医大元理事長逮捕、特定機能病院の再承認も遠のいた病床利用50%の医科大学に未来はあるか?

東京女子医大よりお粗末だと感じたフジテレビの中居氏問題への対応こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。タレント、中居 正広氏の女性とのトラブルにフジテレビ編成局の幹部社員が関与していたと報道を受けて、同社の港浩一社長が1月17日に記者会見を行いました。しかし、その会見内容や会見方法を巡ってさまざまな批判が巻き起こっています。まずその会見方法ですが、参加者はフジテレビ記者クラブの加盟社に限り、それ以外は参加できませんでした(この問題を報道してきた週刊誌記者などは入れず)。さらにNHKや在京キー局は質問できないオブザーバー参加で、動画撮影も禁じられました。報道に携わるテレビ局であることを考えると、まさに信じられない対応と言えます。今後、フジテレビ報道局の記者たちはさまざまな取材先で「おたくには取材させない」「カメラはダメね」と言われ続けることでしょう。さらに驚いたのは、港社長の、「第三者の視点を入れて改めて調査を行う必要性を認識しましたので、今後、第三者の弁護士を中心とする調査委員会を立ち上げることとしました」の発言です。各紙報道によれば、「第三者」という言葉を使ってはいるものの、この調査委員会が日本弁護士連合会のガイドラインに沿った第三者委員会になるかどうかは未定とのことです。元理事長が先週逮捕された東京女子医大ですら、第三者委員会を立ち上げています。同窓会組織から勤務実態のない元職員に給与が不正に支払われていたとされる問題などを調べるために設置されたこの第三者委員会は、当時の岩本 絹子理事長の問題行動を徹底的に調べ上げ、約250ページにも及ぶ調査報告書をまとめて昨年8月に公表、調査した委員(弁護士)による記者会見も開かれました。この調査報告書は至誠会の不適切な資金支出を指摘するだけでなく、学校法人の不適切な資金支出もつまびらかにし、さらに寄付金を重視する推薦入試や大学の人事のあり方の問題点も指摘しました。そして、それらの根本原因として、同大が岩本元理事長に権限が集中する「一強体制」で「ガバナンス機能が封鎖された」と厳しく糾弾しました。この第三者委員会の報告書公表後、岩本元理事長は同大理事会において自身を除く全会一致で理事長職を解任されています。フジテレビが日弁連のガイドラインに沿った第三者委員会を設置しないとなれば、問題解決への意欲がないと世間から見られ、ますます窮地に陥るでしょう。実際、トヨタ自動車や日本生命などのスポンサーもCMを差し止め始め、1月21日の段階でその数は50社を超えました。今年春の番組改編に向け、テレビ局はスポンサー獲得のための営業活動のピークにありますが、こちらも相当苦戦することでしょう。まさに「危急存亡の秋」と言えます。計約1億1,700万円相当の損害を与えた背任容疑で東京女子医大元理事長逮捕ということで、同じく危急存亡の秋を迎えている東京女子医大です。この連載で何度も取り上げてきた東京女子医大ですが、警視庁は1月13日、同大の岩本元理事長(78)を背任容疑で逮捕しました。1月14日付の朝日新聞などの報道によれば、逮捕容疑は2018年7月~2020年2月、同大の新校舎棟の2件の建設工事を巡り、建築会社社長で1級建築士の60代男性と同大経営統括部元幹部の50代女性と共謀の上、男性に対し、給与とは別に実態がない「建築アドバイザー」としての業務報酬名目で計21回にわたって大学に不当に支払わせるなどして、計約1億1,700万円相当の損害を与えた、というものです。こうした金銭の流れは岩本元理事長が指示し、男性名義の口座に報酬が支払われていたとのことです。警視庁は岩本元理事長以外の2人についても立件する方針とのことです。東京女子医大の岩本元理事長長が関わる不正に捜査のメスが入ったのは去年3月でした(「第207回 残された道はいよいよ身売りか廃校・学生募集停止か? ガバナンス崩壊、経営難の東京女子医大に警視庁が家宅捜索」参照)。2019年以降、理事長を務めてきた岩本元理事長による不正な支出が疑われるとして、大学関係者が刑事告発を行い、告発状を受理した警視庁が3月、大学本部や岩本元理事長の自宅などを一斉に捜索したのです。それから約10ヵ月、やっと逮捕に至ったわけです。1月13日付のNHKは、「警視庁の幹部は『元理事長への現金の還流は、口座を通しておらず、証拠の欠片を拾い集めるパズルのような難しい捜査だった』と話しています」と報じています。岩本元理事長に還流された現金は総額約8,700万円に上る逮捕容疑の金銭の還流やその他の岩本元理事長の経営手法については、本連載の「第226回 東京女子医大 第三者委員会報告書を読む(前編)『金銭に対する強い執着心』のワンマン理事長、『いずれ辞任するが、今ではない』と最後に抗うも解任」、「第227回 同(後編)『“マイクロマネジメント”』と評された岩本氏が招いた『どん底のどん底』より深い“底”」でも詳しく書きました。この報告書には、今回の容疑となった岩本元理事長が金銭面で同大に与えた損害のほかに、卒業生の教員への採用・昇格に寄付金を要請したり推薦入試での寄付金受け取りを指示したりしていたことや、PICU運用停止に代表される「教育・研究と病院・臨床に対する理解・関心の薄さ」、「異論を敵視し排除する姿勢と行動」、「人的資本を破壊し組織の持続可能性を危機に晒す財務施策」など、医科大学トップとしてあるまじき、さまざまな所業が赤裸々に書かれています。そんな中、捜査当局は刑事責任が問える新校舎棟の建設工事を巡る金銭の動きに焦点を絞って捜査を進めてきたわけです。1月16日付の日本経済新聞などの報道によれば、岩本元理事長は建築士の男性に報酬を受け取るため専用の口座をつくらせ、男性が入金された報酬から自身が支払う税金を差し引いた上で、3分の1を男性が受け取り、残りの3分の2を元理事長に還流させていた疑いがあり、その金額は計約3,700万円に上るとしています。さらに別の工事に関しても、大学支出分から現金約5,000万円を受領した疑いがあり、これらを合計すると岩本元理事長に還流された現金は総額約8,700万円に上るとのことです。なお、1月21日付の日本経済新聞は、警視庁が昨年岩本容疑者の自宅など関係先を背任容疑で捜索した際、岩本元理事長の関係者が住む東京都港区のマンションの一室から、「金塊2キロ(約3,000万円相当)とスーツケースに入った現金約1億5,000万円」が発見され、さらに「元理事長宅の納戸からも現金と金塊が出てきた。(中略)これらの関係先から総額で現金約2億円と金塊計10キロ超(2億円相当)を押収した」と書いています。岩本元理事長体制下で噴出した事件の数々それにしても、東京女子医大も地に落ちたものです。岩本元理事長体制下の東京女子医大については、本連載でも何度も取り上げて来ました。2020年7月には「第15回 凋落の東京女子医大、吸収合併も現実味?」で同大が「コロナ禍による経営悪化を理由に夏季一時金を支給しない」と労組に回答し、看護師の退職希望が法人全体の2割にあたる400人を超えたニュースを、同年10月には「第28回 コロナで変わる私大医学部の学費事情、2022年以降に激変の予感」で、同大が2021度から学費を6年間で計1,200万円値上げして私立医大で2番目に高くなったニュースを取り上げました。さらに、同じく2020年10月には「第30回 東京女子医大麻酔科医6人書類送検、特定機能病院の再承認にも影響か」で、東京女子医大病院で2014年2月、鎮静剤プロポフォールの投与を受けた男児(当時2歳)が死亡した事故について、警視庁が当時の集中治療室(ICU)の実質的な責任者だった同大元准教授ら男性麻酔科医6人を業務上過失致死容疑で東京地検に書類送検したニュースを取り上げました。同病院はこの事故で2015年に特定機能病院の承認を取り消されています。外来患者数激減、病床稼働率もわずか50%岩本元理事長体制下で、経営状況も悪化の一途です。東京女子医大の令和5年度事業報告書(速報版)によれば、稼ぎ頭であるはずの本院、東京女子医科大学病院(1,190床)の1日外来患者数は、令和3年度が2,862人、令和4年度が2,705人、令和5年度が2,538人と減少傾向でした。そして何よりも衝撃的なのが病床稼働率です。令和3年度が61.7%(1,193床)、令和4年度が53.2% (1,193床)、令和5年度が50.7%(1,190床)と、もはや半分しか病床が稼働していないのです。紹介も含めて患者が来ないことに加え、看護師をはじめとする職員不足で病棟を開けたくても開けられない、という事情もあると考えられます。今回の元理事長逮捕や大学人事や推薦入試での不正によって、特定機能病院の再承認はさらに遠のき、加えて私学助成金(私立大学等経常費補助金)も大幅に減額される可能性もあります(令和5年度で総額20億円)。仮にそうなれば大学経営に対するダメージは計り知れません。日本大学や東京女子医大などで起こった相次ぐ不祥事を受け、改正私立学校法が今年4月に施行されます。理事会とそのトップの理事長へのチェック強化が図られ、理事と評議員の兼務も認められなくなります。不正のあった理事の解任請求権や、監事の選任・解任権限が、理事会の諮問機関にあたる評議員会に与えられることにもなります。しかし、東京女子医大にとっては後の祭りと言えそうです。ワンマン理事長の暴走を許し、ガバナンスをまったく効かせてこなかった理事会の責任は極めて重いと言えるでしょう。河田町同郷のフジテレビと女子医大、経営権が移る可能性も東京女子医大は1970〜90年代には、日本の大学病院としては最先端の経営を行っていました。心研をはじめ、消化器病・脳神経・腎臓病の各センターなど、臓器別のセンター方式をどこよりも早く導入、それぞれにスター教授を配して、臨床だけではなく、研究でも最先端を走っていました。以前にも書いたことですが、1980~90年代にかけ、私はよく新宿区河田町にある東京女子医大病院に取材に通っていました。「東京女子医大、強さの研究」という特集記事を担当したこともあります。当時、東京女子医大の隣にはお台場に移転する前のフジテレビ本社がありました。フジテレビも「オレたちひょうきん族」のヒットなどで、視聴率で在京キー局のトップを走っていたと記憶しています。あれから40年近くが経ち、どちらも昔日の面影はなく、東京女子医大は元理事長逮捕、フジテレビは冒頭に書いたような報道機関の役割を自ら放棄する体たらくです。おそらくこちらも社長交代(あるいはもっと上も)まで行くでしょう。時代の変化に対応できず、旧態依然の経営を続け、ガバナンス不全のままの組織はあっという間に淘汰されてしまいます。5年先、いや3年先には、東京女子医大もフジテレビも経営権は今とはまったく違うところに移っているかもしれません。

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乳がん診断後の手術遅延、サブタイプ別の死亡リスクへの影響

 乳がん診断後の手術遅延による乳がん特異的死亡率(BCSM)への影響はサブタイプにより異なり、ホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陰性(HER2-)患者でBCSMリスクの最も顕著な増加がみられたことが明らかになった。これまで、手術の遅れが死亡リスク増加と関連することが報告されていたが、サブタイプによる違いがあるかどうかは明らかになっていなかった。米国・Stephenson Cancer CenterのMacall Leslie Salewon氏らが実施した後ろ向きコホート研究の結果が、Breast Cancer Research誌2024年12月30日号に掲載された。 研究グループは、米国国立がん研究所(NCI)のSurveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)データベースを用いて、2010~17年に初回治療として手術を受けた局所乳がん患者において、手術の延期が生存率に与える影響がサブタイプ(HR+/HER2-、HR-/HER2-、およびHER2+)によって異なるかどうかを評価した。手術までの時間(TTS)は、診断のための生検日から手術日までの日数として定義され、TTS=30日を対照とした。BCSMは、サブタイプ別にそれぞれFine-Gray回帰モデルを使用してTTSに応じて評価され、TTSに影響を与える人口統計学的・臨床的変数、治療変数が傾向スコアによる逆数重み付け法を用いて調整された。 主な結果は以下のとおり。・調整後のBCSMリスクは、すべてのサブタイプにおいてTTSの増加とともに増加したが、その関連パターンと範囲は異なっていた。・HR+/HER2-患者において、TTSに関連するBCSMリスクは最も顕著な増加を示した。BCSMリスクはTTS=42日以降にほぼ指数関数的に増加し、調整後の部分分布ハザード比(sHR)は、TTS=60日で1.21(95%信頼区間[CI]:1.06~1.37)、TTS=90日で1.79(95%CI:1.40~2.29)、TTS=120日で2.83(95%CI:1.76~4.55)であった。・HER2+患者では、sHRはほぼ直線的な増加を示し、TTS=60日で1.34(95%CI:1.02〜1.76)、TTS=90日で1.78(95%CI:0.92〜3.44)、TTS=120日で2.29(95%CI:0.63〜8.31)であった。・HR-/HER2-患者では、sHRはほぼ直線的な増加を示したものの推定値に有意差はみられなかった。

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日本における片頭痛診療の現状、今求められることとは

 日本では、片頭痛を治療する医療機関および医師の専門分野における実際の治療パターンに関する調査は十分に行われていない。慶應義塾大学の滝沢 翼氏らは、日本の片頭痛患者の実際の臨床診療および治療パターンを医療機関や医師の専門分野別に評価するため、レトロスペクティブコホート研究を実施した。PLoS One誌2024年12月19日号の報告。 2018年1月〜2023年6月のJMDC Incより匿名化された片頭痛患者のレセプトデータを収集した。片頭痛を治療する医療機関および医師の専門分野別に患者の特性や治療パターンを評価した。 主な内容は以下のとおり。・対象は、片頭痛患者23万1,156例(平均年齢:38.8±11.8歳、女性の割合:65.3%)。・クリニックで初回処方を受けた患者は81.8%、画像検査を行った患者は42.5%、初回診断時に一般内科を受診した患者は44.4%、脳神経外科を受診した患者は25.9%。・画像検査の実施率は、専門医のいるクリニックで59.4%、専門医のいる病院で59.1%、専門医のいない病院で32.9%、専門医のいないクリニックで26.9%。・全体として、急性期治療を受けた患者は95.6%、予防治療を受けた患者は21.8%。・専門医のいる施設といない施設を比較すると、専門医のいる施設ではトリプタンの処方頻度が高く(67.9% vs.44.9%)、アセトアミノフェンおよびNSAIDsの処方頻度が低かった(52.4% vs.69.2%)。・予防治療の頻度は、専門医がいる施設(27.4%)のほうがいない施設(15.7%)より高く、医療機関の種類を問わず年々増加していた。 著者らは「日本の片頭痛患者のうち、初回診断時に専門医のいる施設を受診した患者は半数のみであり、専門医は非専門医よりも、片頭痛特有の薬剤および予防薬を使用する傾向が高かった」とし「片頭痛患者に対し専門医受診の必要性を広め、専門医と非専門医の医療連携を強化することが求められる」と結論付けている。

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COPDの3剤配合薬、定量噴霧吸入器vs.ドライパウダー吸入器/BMJ

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の3剤配合吸入薬による治療において、ブデソニド/グリコピロニウム/ホルモテロール(定量噴霧吸入器、1日2回)はフルチカゾン/ウメクリジニウム/ビランテロール(ドライパウダー吸入器、1日1回)と比較して、中等度または重度のCOPD初回増悪の発生率が高く、肺炎による初回入院の発生率は同程度であることが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のWilliam B. Feldman氏らの検討で示された。研究の詳細は、BMJ誌2024年12月30日号に掲載された。傾向スコアマッチング法を用いた米国のコホート研究 研究グループは、COPD患者における2つの3剤配合吸入薬の有効性と安全性の比較を目的にコホート研究を行った(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]の助成を受けた)。 解析には、米国の診療報酬データベースを用いた。対象は、年齢40歳以上で、COPDと診断され、2021年1月1日~2023年9月30日にブデソニド/グリコピロニウム/ホルモテロール(曝露群)またはフルチカゾン/ウメクリジニウム/ビランテロール(対照群)による治療を新規に開始した患者であった。 傾向スコアを用いてマッチさせた集団を比較した。主要アウトカムは治療期間中の中等度または重度のCOPD初回増悪(有効性)と、肺炎による初回入院(安全性)とした。曝露群で主要アウトカムが高率 各群2万388例の集団を解析の対象とした。曝露群は平均年齢70.8(SD 8.9)歳、55.5%が女性であり、対照群は70.8(SD 9.0)歳、55.7%が女性であった。 1,000人年当たりの中等度または重度のCOPD初回増悪の発生件数は、対照群が482.8件であったのに対し、曝露群は535.7件と高い値を示した(ハザード比[HR]:1.09[95%信頼区間[CI]:1.04~1.14]、365日時のリスク差:2.6%[95%CI:0.8~4.4]、有害必要数[NNH]:38)。 一方、1,000人年当たりの肺炎による初回入院の発生件数は、対照群が103.9件、曝露群は106.0件であり、両群間に差を認めなかった(HR:1.00[95%CI:0.91~1.10]、365日時のリスク差:0.4%[95%CI:-0.6~1.3])。中等度、重度の増悪とも曝露群で高値 主要アウトカムの構成要素のうち、中等度のCOPD初回増悪の1,000人年当たりの発生件数は、対照群451.1件、曝露群489.6件(HR:1.07[95%CI:1.02~1.12]、365日時のリスク差:1.9%[95%CI:0.1~3.6]、NNH:54)、重度のCOPD初回増悪はそれぞれ41.9件および54.4件(1.29[1.12~1.48]、1.0[0.1~1.9]、97)であり、いずれも曝露群のほうが高い値を示した。 著者は、「定量噴霧吸入器の気候への影響を考慮すると、COPD患者ではフルチカゾン/ウメクリジニウム/ビランテロールの処方をさらに促進するための検討が進む可能性がある」としている。

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高齢患者の抗菌薬使用は認知機能に影響するか

 高齢患者の抗菌薬の使用は認知機能の低下とは関連しないことが、新たな研究で明らかにされた。論文の上席著者である米ハーバード大学医学大学院のAndrew Chan氏は、「高齢患者は抗菌薬を処方されることが多く、また、認知機能低下のリスクも高いことを考えると、これらの薬の使用について安心感を与える研究結果だ」と述べている。この研究の詳細は、「Neurology」に12月18日掲載された。 研究グループは、人間の腸内には何兆個もの微生物が存在し、その中には認知機能を高めるものもあれば低下させるものもあると説明する。また、過去の研究では、抗菌薬を使用すると、腸内細菌叢のバランスが崩れる可能性のあることが示されているという。Chan氏は、「腸内細菌叢は、全体的な健康の維持だけでなく、おそらくは認知機能の維持にも重要とされている。そのため、抗菌薬が脳に長期的な悪影響を及ぼす可能性が懸念されている」と話す。 今回の研究でChan氏らは、低用量アスピリンの毎日の使用が健康に与える影響を検証する臨床試験のデータを用いて、抗菌薬の使用と認知機能との関連を検討した。対象は、最初の2年間の追跡期間中に認知症を発症しなかった70歳以上の健康なオーストラリア人高齢者1万3,571人(平均年齢75.0歳、女性54.3%)。Anatomical Therapeutic Chemical(ATC)コードを基に、対象者の追跡期間中における抗菌薬の使用を特定したところ、約63%が2年間に少なくとも1回は抗菌薬を使用していた。 2年間の追跡調査終了後、対象者は中央値で4.7年間追跡された。その間に、461人が認知症を発症し、2,576人が認知機能障害はあるが認知症ではない状態を指すCIND(cognitive impairment, no dementia)と診断されていた。社会人口統計学的特徴やライフスタイル因子、認知症の家族歴、試験開始時の認知機能、認知機能に影響を与えることが知られている薬剤の使用を考慮して解析した結果、抗菌薬使用者では非使用者に比べて、認知症リスク(ハザード比1.03、95%信頼区間0.84〜1.25)やCINDリスク(同1.02、0.94〜1.11)の有意な上昇や認知機能スコアの有意な低下は認められなかった。また、抗菌薬の累積使用頻度、長期使用、特定の抗菌薬クラス(β-ラクタム系、テトラサイクリン系、サルファ剤など)や、リスク因子に基づき分類されたサブグループにおいても、抗菌薬の使用と認知機能との間に有意な関連は認められなかった。 このような結果が示されたとはいえ、Chan氏および付随論評の著者である米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のWenjie Cai氏とAlden Gross氏は、「さらなる研究で、抗菌薬の使用と認知機能低下との間に関連性はないことを確かめる必要がある」と述べている。Chan氏は、今回の研究の限界点として、対象者の追跡期間が短期間であった点を挙げ、より長期間の研究を実施して、抗菌薬の使用が長期的に脳の健康に悪影響を及ぼさないことを確認する必要があるとしている。 また、Cai氏らは、「この研究は処方箋の記録に依存しているため、対象者の実際の抗菌薬の使用状況を正確に追跡することはできなかった」ことを別の限界点として挙げている。その上で同氏らは、今後の研究では、抗菌薬の正確な投与量と使用期間を記録し、潜在的な用量反応関係を調査すること、また、異なるクラスの抗菌薬とその相互作用が認知機能に与える影響を調査することの必要性を強調している。

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コーヒーやお茶の摂取は頭頸部がんのリスクを下げる?

 朝の1杯のコーヒーや午後のお茶には、あるタイプのがんを予防する効果があるようだ。コーヒーやお茶の摂取は頭頸部がんのリスク低下と関連していることが、新たな研究で明らかになった。論文の上席著者である米ユタ大学医学部の疫学者Yuan-Chin Amy Lee氏によると、「カフェイン抜きのコーヒーでも、ある程度のプラスの影響があった」という。この研究の詳細は、「Cancer」に12月23日掲載された。 頭頸部がんとは、口腔、咽頭(上咽頭、中咽頭、下咽頭)、甲状腺など、目と脳を除く首から上の全て領域に発生するがんのこと。頭頸部がんは、患者数が世界で7番目に多いがんであり、2020年だけで新規患者数は約74万5,000人、死亡者数は36万4,000人に上るという。この研究でLee氏らは、14件の症例対象研究のデータを統合してコーヒーやお茶の摂取と頭頸部がんとの関連を検討した。解析対象者は、頭頸部がん患者9,548人と対照1万5,783人であった。 その結果、カフェイン入りのコーヒーを1日に4杯超飲む人ではコーヒーを飲まない人に比べて、頭頸部がん、口腔がん、および中咽頭がんのリスクが低下しており、オッズ比(OR)はそれぞれ、0.83、0.70、0.78であった。また、カフェイン入りコーヒーを1日に3~4杯飲む人では、下咽頭がんのリスク低下が認められた(OR 0.59)。口腔がんのリスクは、カフェイン抜きのコーヒーを飲む人や1日に飲むコーヒーの量が0~1杯未満の人でも低下しており(同0.75、0.66)、リスク低下に寄与しているのはカフェインだけではないことが示唆された。研究グループは、「これまでの研究で、コーヒーを飲むとがんを促進する生物学的活動が抑制されることが分かっている」と述べている。 一方、お茶を飲む人では、下咽頭がんのリスク低下が認められた(同0.71)。1日に0~1杯未満のお茶を飲む人では、頭頸部がん(同0.91)および下咽頭がん(同0.73)のリスクが低下していたが、1日に1杯超のお茶を飲む人では、逆に喉頭がんのリスクが増加していた(同1.38)。研究グループは、このリスク増加は、お茶を飲むことで胃酸の逆流が促進されることに起因する可能性があるとの見方を示している。胃酸逆流は喉頭がんのリスク増加と関連付けられている。 Lee氏は、「コーヒーやお茶を飲む習慣は、多種多様である。今回の研究結果は、コーヒーやお茶の摂取ががんリスクの軽減にどのような影響を与えるかについて、より多くのデータとさらなる研究が必要であることを裏付けるものだ」と述べている。

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自己主導型のCBTはアトピー性皮膚炎の症状軽減に有効

 アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis;AD)は、強いかゆみや皮疹、乾燥肌を特徴とする炎症性皮膚疾患である。AD患者では、皮膚をかく行為が不安や抑うつなどのメンタルヘルス問題と関連していることが示唆されている。こうした中、オンラインで患者自身が行う認知行動療法(cognitive behavioral therapy;CBT)が、医師主導で行うCBTと同程度にADの症状を軽減する可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のDorian Kern氏らによるこの研究結果は、「JAMA Dermatology」に12月18日掲載された。 Kern氏は同研究所のニュースリリースの中で、「オンラインで患者自身が行うCBT(自己主導型CBT)は、医療リソースの消費を抑えながら患者の症状を軽減し、生活の質(QOL)を向上させる効果的な選択肢であることが明らかになった」と述べている。 CBTは、心身の問題に対する考え方や行動のパターンを変えることでストレスを軽減し、QOLを向上させる心理療法の一種であり、ADの症状改善にも有効とされている。過去の研究では、医師主導型CBTがADの症状軽減に有効であることが示されている。 今回の試験では、非劣性試験のデザインに基づき、自己主導型CBTの有効性と、従来の医師主導型CBTの有効性が比較された。対象とされた168人のAD患者(女性84.5%、平均年齢39歳)は、12週間にわたり自己主導型CBTを行う群(86人)と医師主導型CBTを受ける群(82人)にランダムに割り付けられた。自己主導型CBT群は、オンラインプログラムを利用して、マインドフルネスやかゆみへの適切な対処法(保湿剤やローションの使用など)を学び、自分で湿疹関連の治療を行った。主要評価項目は、自己報告によるPatient-Oriented Eczema Measure(POEM)スコアのベースラインから介入後およびその12週後の変化量とし、自己主導型CBT群と医師主導型CBT群のスコアの差が3点以内であれば、効果は同等と見なした。POEMは7つの質問で過去1週間の症状の強さを評価するツールである。 最終的に151人(90.0%)の対象者が介入後の評価を受けた。介入後のPOEMスコアの変化量は、自己主導型CBT群で4.60点、医師主導型CBT群で4.20点であった。両群間の変化量の平均差は0.36点であり、自己主導型CBTと医師主導型CBTの効果は統計学的に同程度であることが示された。深刻な有害事象は報告されなかった。医師主導型のCBTでは、治療ガイダンスに平均36.0分、評価に平均14.0分かかっていたのに対し、自己主導型のCBTでは評価に平均15.8分かかっていた。 こうした結果を受けて研究グループは、「自己主導型CBTは、特にトークセラピーに興味がない人にとって、利用しやすい効果的な湿疹管理法となる可能性がある」と述べている。Kern氏は「これは、AD患者だけでなく、皮膚科や慢性疾患の他の分野にとっても重要な進歩だ」と述べている。

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出産後の抜け毛の量が育児中の不安に独立して関連

 出産後に抜け毛が多い女性は不安が強く、交絡因子を調整後にも独立した関連のあることが明らかになった。東京科学大学病院周産・女性診療科の廣瀬明日香氏らの研究によるもので、詳細は「The Journal of Obstetrics and Gynaecology Research」に10月27日掲載された。 個人差があるものの、出産後女性の多くが抜け毛を経験し、一部の女性は帽子やかつらを使用したり外出を控えたりすることがあって、メンタルヘルスに影響が生じる可能性も考えられる。産後の脱毛症の罹患率などの詳細は不明ながら、廣瀬氏らが以前行った調査では、育児中女性の91.8%が「抜け毛が増えた」と回答し、73.1%がそれに関連する不安やストレスを感じていることが明らかにされている。今回の研究では、その調査データをより詳しく解析し、産後脱毛と育児中のメンタルヘルスとの関連を検討した。 2021年6月~2022年4月に東京医科歯科大学病院(現在は東京科学大学病院)と東京都立大塚病院で出産した女性1,579人に対して、出産後10~18カ月時点にオンライン調査への回答協力を依頼。回答を得られた中から、多胎妊娠や出産以前に脱毛症の既往のあった女性を除外した331人を解析対象とした。なお、季節による脱毛量の変化を考慮し、回答依頼は8カ月の間隔をおいて2回実施された。 主な調査項目は、産後の脱毛量の質問(全くない/少し/かなり/非常に多いの四者択一)と、Whooleyの質問票、2項目の全般性不安障害質問票(GAD-2)、エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)、およびアテネ不眠尺度(AIS)によるメンタルヘルス状態の評価。解析対象者の主な特徴は、出産時年齢が34.5±4.5歳で、経産婦が27.2%、経腟分娩65.8%であり、脱毛量は「全くない」8.2%、「少し」30.8%、「かなり」46.5%、「非常に多い」14.5%だった。 メンタルヘルス状態については、Whooleyの質問票の「気分が落ち込む」に33.5%、「何をしても楽しくない」に22.4%、GAD-2の「緊張や不安、神経過敏を感じる」に28.7%、「心配をコントロールできない」に16.6%が「はい」と回答していた。EPDSは、総合スコアが30点満点中6.5点、不安とうつのサブスケールはそれぞれ9点満点中2.9点、3.7点であり、AISは24点満点中6.8点だった。また、脱毛が「全くない」と回答した人以外に脱毛関連の不安やストレスを質問したところ、「全くない」が26.9%、「少し」が47.2%、「かなり」が18.9%、「非常に強い」が7.0%だった。 脱毛量とメンタルヘルス関連指標との関係性を単変量解析で検討した結果、脱毛量が「非常に多い」群では「全くない」群に比べて、GAD-2の「緊張や不安、神経過敏を感じる」の該当者が有意に多かった(オッズ比〔OR〕4.47〔95%信頼区間1.34~14.93〕、P=0.01)。また有意水準未満ながら、脱毛量が「非常に多い」群はGAD-2の「心配をコントロールできない」(OR4.17〔同0.86~20.26〕、P=0.08)の該当者が多く、EPDSの評価に基づく不安が強い傾向が見られた(係数1.06〔-0.14~2.25〕、P=0.08)。 上記の解析で有意な関連の見られたGAD-2の「緊張や不安、神経過敏を感じる」を従属変数とし、出産時年齢、分娩方法、不妊治療、妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群、出生時体重、授乳状況、および脱毛量などを独立変数とするロジスティック回帰分析を行ったところ、脱毛量が「非常に多い」こと(調整オッズ比〔aOR〕4.86〔1.21~19.53〕、P=0.026)と、不眠症状(AISが1高いごとにaOR1.26〔1.17~1.35〕、P<0.001)が、それぞれ独立した正の関連因子として抽出された。なお、経産婦であることは、有意な保護的因子として示された(aOR0.53〔0.36~0.80〕、P=0.002)。 著者らは本研究を、「育児中の女性における産後の抜け毛とメンタルヘルスとの関連を示した初のエビデンスである」とした上で、「産後の脱毛量の多さは、GAD-2で評価した不安と独立した関連が認められる」と結論付けている。なお、脱毛を経験した女性がより積極的に回答した可能性があることによる選択バイアスの存在や、横断研究のため因果関係は不明といった限界点とともに、「産後の不安が強い女性ほど、脱毛量をより多く感じやすい可能性もある」との考察が加えられている。

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新しい認知症観と疫学(解説:岡村毅氏)

 「新しい認知症観」という言葉がキーワードになっている。昨年12月に閣議決定された「認知症施策推進基本計画」には、お役所とは思えない情熱的な表現がちりばめられている。―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ……「新しい認知症観」とは、認知症になったら何もできなくなるのではなく、認知症になってからも、一人一人が個人としてできること・やりたいことがあり、住み慣れた地域で仲間等とつながりながら、希望を持って自分らしく暮らし続けることができるという考え方…… 認知症の人を含めた国民一人一人が「新しい認知症観」に立ち……共生社会を創り上げていく…… 認知症の人が……最期まで自分らしく暮らせるよう……認知症の人の尊厳を保持できるようにすることが重要……―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― このような熱い思いで国の方針を考えている人がいることに胸が熱くなる。なぜ「新しい認知症観」かというと、認知症ほど、概念が変化しているものはないからだ。近年では「疾病ですらない」というやや極端な意見もある。 私の理解する歴史的変遷を簡単に述べよう。(1)昔の人は認知症になる前に死んでしまったので、多くの人にとって認知症は興味の対象ではなかった。(2)豊かな社会が到来し、認知症の人が増え始めた。人々はパニックになり、「痴呆」と呼び、酷い扱いを受けた。(3)これに対して「認知症は病気である、本人の落ち度でなったわけじゃない、病院で優しく保護しよう」という医学モデルの啓蒙が行われた。病院や施設での「保護」もまた排除であった。(4)認知症は病気であるならば、予防できるはずだ、根絶できるはずだという牧歌的な認知症観が日本でまったりと続いた。(5)スコットランドで認知症の当事者が声を上げ、本人なしに決めないでほしい、という主張が徐々に広まり、認知症国家戦略が世界各地で策定された。(6)日本でも多くの勇気ある当事者が声を上げた。彼らは一様に「自分は認知症と診断されたとき情報を集めたら、数年で何もわからなくなると書いてあって絶望した。しかしいろいろ工夫して楽しく生きているし、仲間と出会って、認知症と共に普通の生活を続けることもできるのだとわかった」と述べている。(7)アルツハイマー型認知症の神経病理学の研究が粛々と進み、プレクリニカル期に介入することで、進行を大幅に遅らせる時代がもうすぐ来そうだ。 認知症観の変革が速すぎて、専門家のはずの私もめまいがしそうだ。高齢化のトップランナーである日本ではなく、スコットランドで21世紀初頭に改革が起きた。しかし認知症基本法も成立し、日本の社会もものすごい勢いで変わっている。素直に政府を評価するべきだろう。 さて、熱く盛り上がったところで、この論文を読んでみよう。非常にがっかりする人も多いのではないか。65歳で診断された人の余命は、男性は5.7年、女性は8年である。85歳だと男性は2.2年、女性は4.5年である。またおよそ3.3年で施設に入所すると淡々と書いてある。これでは、日本の勇気ある当事者の皆さんが戦った、「認知症と診断されたら早期に何もできなくなる」というナラティブそのものではないか。 注意しなければならないのは、これは過去の縦断研究のシステマティックレビューであり、これが正しいとは限らないということだ(逆に間違っていると決めつけてもだめだ)。喜んだり悲しんだりするようなことではなく、過去の知見の集積がこうなっているということだ。 コロンブスがアメリカ大陸を「発見」する前にシステマティックレビュー的なことをしたら、おそらく「大西洋を西のほうに行くと滝がある」と書かれていることだろう。 たとえば、東京都健康長寿医療センターの高島平フィールドから出た論文では、地域の認知症の人のうち、病院で診断を受けていた人は半数以下であった。また、専門医であれば気が付いているはずだが、認知症と診断しても、その後ほとんど変わらない人もそれなりにいる。ただし、今後アミロイドペットなどにより、アルツハイマー型認知症の診断が正確にできるようになると、状況は変わるかもしれない。 予後は、認知症の人を支える社会の仕組みにも大いに影響を受けるだろう。国民皆保険、介護保険制度という世界で最も手厚い制度を擁するわが国で、診断後に数年で亡くなるということはありえない。実際にこのシステマティックレビューでもアジアのデータでは欧米より長生きだそうだ。 私は臨床医であり、同時にコミュニティで社会医学的研究をしている。両方知っている者として少し語らせてもらうならば、「医療から見える人はやはりニーズがあり、それなりの症状がある人が多く、いわば重たいケースが多い」「コミュニティには定義上は認知症になりそうだが楽しく生活している人もいて、こういう人は医療や研究には縁のない人生を歩みそうだから、現在の知見は重たい人に多少引っ張られているようには見える」と考えている。とはいえ、これはあくまで印象である。 認知症観は大きく変革している。疫学はどうしても過去にデザインされたものであり、過去にデータ測定されたものだ。遅れるのは仕方がないだろう。 臨床において大事なことは自分の頭で考えること、患者さんから学ぶこと、そして論文もしっかり読むことだ。いろいろと考えさせられる論文である。

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抗インフルエンザ薬は今いずこ?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第143回

インフルエンザが猛威を振るうなか、患者の増加に伴って各所で抗インフル薬不足の悲鳴があがっています。そろそろピークは越えたかなという気もしてきましたが、薬不足はいつまで続くのでしょうか?厚生労働省医政局医薬産業振興・医療情報企画課は1月9日、抗インフルエンザウイルス薬の適正な使用と発注に関する協力依頼を都道府県宛に事務連絡した。インフルエンザ流行に伴い抗インフル薬の需要が急増していることから、過剰な発注を控えるよう求めた。(中略)とくに経口薬が供給不安に陥っており、吸入薬の利用が可能な5歳以上の患者に対しては吸入薬の処方も検討するように促した。(2025年1月10日付 RISFAX)インフルエンザは昨年11月ごろから全国的な流行シーズンに入りました。12月29日からの1週間に全国約5,000の定点医療機関で報告されたインフルエンザ患者数は1医療機関当たり64.39人となり、現行の統計開始の1999年以降で最多となりました。年明けには減りましたが、今後はB型の流行も懸念されています。このような中、厚生労働省は1月9日の事務連絡で、医療機関は必要量に見合う量のみを購入すること、吸入薬の利用が可能な5歳以上のインフルエンザ患者にはドライシロップではなく吸入薬の処方を検討することなどを求めています。しかし、タミフルやその後発医薬品が出荷停止や限定出荷となるだけでなく、イナビルやゾフルーザも限定出荷となるなど、薬不足は長引いています。以前、タミフルカプセルとタミフルドライシロップは長期保存試験の結果に基づいて使用期限が10年に延長され、在庫しやすくなり廃棄は減ったはずです。それでも供給が不足しているというのですから、本当に爆発的な感染拡大だったのでしょう。ここでも後発医薬品の供給不足が影響しており、やはり根本的な薬価などの対策が必要と思わざるを得ません。なお、厚生労働省によると、今年度の予定供給量は前年度を上回っていることや、メーカーや卸には在庫があることなどから、現時点では備蓄を開放する予定はないようです。患者さんのために抗インフルエンザ薬を入手してあげたいと思う気持ちは全国どこの薬局でも同じです。過剰な発注は控え、入手できたかどうかであまり一喜一憂せず、基本的な手洗い・うがいの励行、マスクの着用、周りに2次感染させない対策といった基本的なことを伝えていきたいと思います。

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口内炎がつらいです【非専門医のための緩和ケアTips】第92回

口内炎がつらいですがん診療の進展に伴い、診療所の先生が基幹病院に通院中の患者さんを診察する機会が増えてきたのでは、と思います。抗がん剤治療の副作用対策は大きく進歩しましたが、まだつらい症状を訴える患者さんが多い副作用の1つが「口内炎」です。今回の質問私の外来患者が抗がん剤治療のために基幹病院に通院しています。私の外来で診察する際に、口内炎に対する対応を相談されたのですが、あまり経験がなく良いアドバイスができませんでした…。口内炎に苦しむ患者さんの様子を見ると、こっちもつらくなりますよね。口内炎は抗がん剤治療や分子標的薬の副作用として頻繁に発症します。一般的な化学療法では発症率は10%程度ですが、頭頸部がんの化学放射線療法では、さらに高頻度で見られます。ご質問にある患者さんが「すでに口内炎を発症しているのか」は不明ですが、まずは「予防」について考えてみましょう。口内炎の予防には口腔ケアが非常に重要です。口腔内の衛生を保ち、湿潤環境を維持するため、定期的に水分を口に含むことを指導しましょう。また、義歯の調整が必要な場合やその他の専門的な歯科治療が必要な場合は、歯科受診を推奨します。これらの予防策は患者さんの協力が重要ですので、がん治療の開始前から取り組むようアドバイスすると良いでしょう。口内炎ができてしまった場合には、口内炎の発症のタイミングや治療内容から、「がん治療関連の口内炎」か「その他の原因によるものか」を判断します。口内炎で問題になる症状の多くは口腔内の痛みです。多くの方は物理的刺激による口内炎を経験しているでしょう。あの痛みがさらに広範にあることを想像すると、そのつらさが想像できるかと思います。口内炎に対する薬剤は、症状や患者さんの状態に応じて選択します。内服が困難な場合には、口腔用軟膏や口腔用液が有用です。痛みが強い場合には、がん疼痛治療に準じて薬剤を調整します。NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が効果を示すケースもあるため、腎機能障害や他の副作用に注意しつつ投与を検討することも1つの選択肢です。また、がん疼痛治療に用いられるオピオイドについても触れておきます。オピオイドは、口内炎の痛み緩和に一定の効果がありますが、通常、モルヒネ換算で60mg/日を超える投与が必要となることは少ない印象です。もしオピオイドの効果が乏しい場合には、カンジダなど感染症の合併として発症しているケースや、心理的要因(例:不安)が関与している可能性を考慮する必要があります。今回のTips今回のTipsがん治療に関連した口内炎、「予防」と「治療」の両方が大切です。

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酔っ払い? ン? 元酔っ払い?【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第2回

酔っ払い? ン? 元酔っ払い?Point外傷の病歴や、疑う所見を入念に確認すべし。時間経過で症状の改善が確認できるか?普段の飲酒後とは異なる腹部症状や、意識変容がないか?症例45歳男性。夜中の1時に歓楽街の路地裏で嘔吐を繰り返し、体動困難となっていたところを通行人に発見され救急搬送された。来院時は吐物まみれで臭いも酷かったが、本人は本日の飲酒は大した量でないという。頭部CTで頭部内病変がないことのみ確認し、外来の診察室で寝かせておくことにした。数時間後に様子を伺いに行くと嘔気・嘔吐が改善していないどころか頻呼吸、頻脈も認め、強い腹痛を訴えていた。慌てて施行した血液検査でアニオンギャップ開大のアシドーシスを認め、速やかにビタミンB1と糖の補充、補液を開始した。半年前に妻に捨てられてから自暴自棄となりアルコール漬けの日々を送っていたが、来院3日前から食欲不振があり、景気付けにと繁華街に繰り出したとのことだった。入院時のスクリーニングでCAGE 3点とアルコール依存症が疑われため、ベンゾジアゼピンの予防内服も開始し、本人に治療希望あったため精神科受診の手配もすすめられた。おさえておきたい基本のアプローチ酔っ払い患者だから、と門前払いしたり先入観をもったりするのは避け、むしろ普段より検査も多めにして、慎重に診察にあたり表1に挙げた疾患の可能性を評価しよう。表1 急性アルコール中毒を疑った際の鑑別疾患実際の診療現場では、患者は指示に応じないどころか悪態をつくなど、とても診察どころではない状況も多々あるが、モニター装着のうえ人目につく場所でこまめに様子を観察しよう。意識レベルの経時的な改善がなければ、ほかの原因を考慮すべきだ1)。図1にERでの対応の流れの一例を提示する。図1 ERでの対応の流れの一例画像を拡大する救急の原則はABCの確保にあり、泥酔患者に対してもまずは気道、呼吸、循環が安定していることを確認するようにしたい。外傷診療で生理学的異常、その後解剖学的異常を評価する流れに似ている。アルコール自体で呼吸抑制を来すには血中アルコール濃度(blood alcohol level:BAL)が400mg/dL以上とされ、めったに出くわさないが、吐物などによる窒息の危険は高く、気道確保の必要性について常に考慮しておく。友達が酔っぱらっていたら仰臥位に寝かさずに、昏睡体位をとろう。意識障害の対応の基本である血糖checkも忘れないようにする。糖尿病や肝硬変が背景になければアルコール自体による低血糖の発症は多くないのだが、小児ではその危険性が増すため2)、誤って口にしてしまった場合などではとくに注意したい。血糖補正の際は、ウェルニッケ脳症予防のために、ビタミンB1の同時投与も忘れずに。酔っ払いにルーチンに頭部CTをとっても1.9%しかひっかからない3)。したがって表2のように、外傷の病歴や、頭部外傷、頭蓋底骨折を疑う所見を認める際に頭部CTを施行するようにする。中毒患者では頸椎骨折の際に頸部痛や神経所見があてにならないケースがあるので、頸部もあわせてCTで評価してしまおう。表2 頭部CTを早期に施行すべき場合頭蓋底骨折を示唆する所見がある(raccoon's eye、バトル徴候、髄液漏、鼓膜出血)頭蓋骨骨折が触知できる大きな外力(転倒などではない)による外傷歴があり、意識変容を認めるBALで予測されるよりも意識状態が悪い意識レベルが著明に低下(GCS※≦13)しており、頭部外傷の病歴や懸念があるGCSが低下していく神経局在症状がある※GCS(Glasgow Coma Scale)落ちてはいけない・落ちたくないPitfallsBALはルーチンで測定しないアルコール中毒自体の診断にBALを測定する意義は限定的で、そもそも筆者の施設では測定ができない。GCSの低下をきたすのはBAL≧200mg/dLであったという前向き研究の結果があり4)、前述のように意識障害の鑑別としてアルコール以外の要因を考慮するきっかけにはなる。PointBAL測定は意識障害にほかの鑑別を要するときに直接の測定が困難な場合、浸透圧ギャップ(血清浸透圧-計算上の浸透圧:通常では体内に存在していない物質分の浸透圧が上昇しているため、ギャップが開大する)から算出が可能であり、とくにエタノール以外のアルコール属中毒の際に参考となる。くれぐれも飲酒運転を警察に密告するために用いてはならない。直接治療に関連のない行為を行い、その結果を本人の同意なく第三者に伝えることは守秘義務違反に抵触する。酔い覚ましに…だけの補液は推奨されない二日酔いの朝イチは3号液+ビタミン剤の点滴に限る…なんて先輩からアドバイスを受けたことがある者は少なからずいるだろうが、アルコールの代謝を担うアルコール脱水素酵素は少量のアルコールで飽和状態になってしまうため、摂取した量にかかわらず、体内では20〜30mg/dL/時程度の一定の速度でしかアルコールを代謝できない。Point補液は泥酔患者のER滞在時間を短縮しないアシドーシスや膵炎合併、脱水症など、それ以外に補液を施行すべき病態があれば別だが、泥酔患者でアルコールの代謝を早める目的のみで補液を施行することに効果はなく、ER滞在時間を短縮する結果とはならないことが報告されている5)。アルコール常習犯への対応は慎重に急性アルコール中毒にルーチンで血液検査を行う必要はないが、とくにアルコール依存患者や肝不全合併患者では、血液検査で肝機能や電解質(低マグネシウム血症や低カリウム血症)を確認する。合併症の1つであるアルコール性ケトアシドーシス(alcoholic ketoacidosis:AKA)は、アニオンギャップ開大のアシドーシス所見が決め手ではあるが、嘔吐による代謝性アルカローシス、頻呼吸による呼吸性アルカローシスを合併し、解釈が単純ではない場合がある。ここ数日経口摂取できていない、嘔気・嘔吐、腹痛があるなどの臨床症状から積極的に疑うようにしたい。AKAの治療は脱水の補正と糖分の補充であり、それ自体では致死的な病態とならない。経過でアシドーシスが改善してこないようなら表3の鑑別疾患も念頭に置きたい。なお、ケトン体の存在の確認に試験紙法による尿検査を使用しても、血中で増加しているβヒドロキシ酪酸は反応を示さないので注意されたい。表3 アルコール性ケトアシドーシス(AKA)の鑑別疾患糖尿病性ケトアシドーシス重症膵炎メタノール、エチレングリコール中毒特発性細菌性腹膜炎ワンポイントレッスンアルコール離脱症候群アルコール常用者で、飲酒から6時間以上間隔が空いた際に出現する交感神経賦活症状(発汗、頻脈など)、不眠、幻視、嘔気・嘔吐、手指振戦、強直間代性発作で鑑別に挙げる。診断基準はDSM-5で定められているので参照いただきたい。慢性的なアルコール飲酒は脳内のGABAA受容体の感受性低下とNMDA受容体の増加を起こしており、アルコール摂取の急激な中止により興奮系であるNMDA受容体が活性化して症状が出現する。図26)のような時間経過で振戦せん妄へと移行していくが、早期に治療介入することで予防できる。図2 アルコール離脱症候群の重症度と時間経過画像を拡大する軽症症状は見逃がされやすく、またけいれんは飲酒中断後早期から生じ得るため注意が必要だ。治療の基本はベンゾジアゼピン系で、アルコールと同様にGABAA受容体に作用させ興奮を抑制させる。けいれん発作中ならジアゼパム(商品名:セルシン、ホリゾン)5〜10mgの静注を行うが、ルート確保困難な際はこだわらず、ミダゾラム(同:ドルミカム)10mgの筋注・口腔内・鼻腔内投与を行う。内服投与の際には、より作用時間の長いジアゼパム(代謝産物まで抑制効果を有する)やクロルジアゼポキシドを選択すればよい。アルコールの嗜好歴がある患者が入院する際には、アルコール依存のスクリーニングに有用7)なCAGE質問スクリーニング(表4)8)を用いて離脱予防の適応を判断しよう。表4 CAGE質問スクリーニング画像を拡大するウェルニッケ・コルサコフ症候群、脚気心慢性のアルコール摂取状態ではアルコール代謝においてビタミンB1が消費されるようになり、まともな食事を摂らなくなることも合わさりビタミンB1欠乏症を生じる。このうち神経系異常を引き起こしたものがウェルニッケ・コルサコフ症候群(dry beriberi)、心血管系異常を引き起こしたものを脚気心(wet beriberi)で、両者のオーバーラップも起こり得る。ウェルニッケ脳症は急性で可逆的とされる脳症のため積極的に疑い治療介入をしたいところだが、古典的3徴とされる眼球運動障害(眼球麻痺・眼振)、意識変容、失調のすべてを満たすものは16%だったとの報告もあり9)、これにこだわると見逃しやすい。Caineらが報告した診断基準(表5)は感度85%、特異度100%と報告されており10)、ぜひとも押さえておきたい。ビタミンB1は水溶性で必要以上の量は腎排泄されるので、疑えば治療doseである高用量チアミンで治療開始してしまおう。表5 ウェルニッケ脳症診断基準勉強するための推奨文献Sturmann K, et al. Alcohol-Related Emergencies: A New Look At An Old Problem. Emergency Medicine Practice. 2001;3:1-23.Muncie HL, et al. Am Fam Physician. 2013;88:589-595.参考1)Nore AK, et al. Tidsskr Nor Laegeforen. 2001;121:1055-1058.2)Lamminpaa A. Eur J Pediatr. 1994;153:868-872.3)Godbout BJ, et al. Emerg Radiol. 2011;18:381-384.4)Galbraith S, et al. Br J Surg. 1976;63:128-130.5)Homma Y, et al. Am J Emerg Med. 2018;36:673-676.6)Kattimani S, Bharadwaj B. Ind Psychiatry J. 2013;22:100-108.7)Fiellin DA, et al. Arch Intern Med. 2000;160:1977-1989.8)Ewing JA. JAMA. 1984;252:1905-1907.9)Harper CG, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1986;49:341-345.10)Caine D, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1997;62:51-60.執筆

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第250回 エムポックス薬の日本承認に専門家が驚いている

エムポックス薬の日本承認に専門家が驚いているエムポックスに適応を有する抗ウイルス薬tecovirimatをこの年末に日本が承認したことに専門家が驚いています1)。というのも、昨年に結果が判明した無作為化試験2つ・PALM007試験とSTOMP試験のどちらでもエムポックス治療効果が認められなかったからです。東京の日本バイオテクノファーマが先月12月27日に日本でのtecovirimatの承認を手にしました2,3)。日本での商品名はテポックスで、適応にはエムポックスに加えて、痘そう、牛痘、痘そうワクチン合併症の治療を含みます。コンゴ民主共和国(Democratic Republic of the Congo)での無作為化試験であるPALM007試験の結果は昨夏2024年8月に発表され、クレードIのエムポックスの小児や成人の病変消失の比較で残念ながらtecovirimatはプラセボに勝てませんでした4)。PALM007試験で対象としたクレードIはコンゴ民主共和国やコンゴ共和国(Republic of the Congo)などの中央アフリカのいくつかの国で多く5)、感染の病状はより重く、西アフリカで広まるクレードIIに比べて死亡率が高いことが知られます(クレードIIの死亡率は約4%、クレードIは約11%6))。先月12月に結果が速報されたもう1つの無作為化試験であるSTOMP試験はクレードIIのエムポックス患者を対象とし、病変消失までの期間がtecovirimat群とプラセボ群でやはり差がありませんでした7)。ヒトへ安全に投与しうるが効果のほどはわかっていなかった2022年に、欧州連合(EU)と英国は男性と性交する男性(MSM)におけるエムポックス蔓延を受けてtecovirimatを承認しています。その承認時にEUは新たな試験結果が判明したらその扱いを見直すとしており、実際PALM007試験とSTOMP試験の結果を俎上に載せると欧州医薬品庁(EMA)の部門長Marco Cavaleri氏は言っています1)。また、ブラジル、スイス、アルゼンチンで進行中の試験結果も検討されます。そういう状況で日本がtecovirimatを承認したことはなんとも不可解だとCavaleri氏は話しています。エムポックスの疫学、ワクチン、治療、政策に関する論文8)を昨年11月に発表したメリーランド大学の薬理学者John Rizk氏は、承認の経緯が不可解なことが多いのは承知しているが、それでも日本のtecovirimat承認には驚愕した(shocker to me)と言っています。EUと同様に2022年にtecovirimatを承認した英国はというと、異例な事態の下で承認された薬すべてを毎年見直すことにしているとScienceに伝えています1)。米国FDAはエムポックスへのtecovirimat使用を承認していません。しかし、生物兵器として悪用される恐れがある痘そう(smallpox)への使用を日本と同様に承認しています。tecovirimatのエムポックスと痘そうに対する効果の仕組みは同じであり、痘そうへの同剤の承認も再考が必要かもしれません。生物兵器の襲来に備えた治療は必要だと思うが、tecovirimatに頼るのは気乗りしないとSTOMP試験リーダーTimothy Wilkin氏は言っています1)。参考1)In a ‘shocker’ decision, Japan approves mpox drug that failed in two efficacy trials / Science 2)新医薬品として承認された医薬品について / 厚生労働省3)テポックスカプセル 200mg(Tecovirimat)製造販売承認を取得 / 日本バイオテクノファーマ株式会社4)NIH Study Finds Tecovirimat Was Safe but Did Not Improve Mpox Resolution or Pain / NIH 5)Epidemiology of Human Mpox ‐ Worldwide, 2018-2021 / CDC 6)Bunge EM, et al. PLoS Negl Trop Dis. 2022;16:e0010141.7)The antiviral tecovirimat is safe but did not improve clade I mpox resolution in Democratic Republic of the Congo / NIH8)Rizk Y, et al. Drugs. 2025;85:1-9.

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