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去勢抵抗性前立腺がん、タラゾパリブ+エンザルタミドがOS改善(TALAPRO-2)/Lancet

 転移のある去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)患者において、タラゾパリブ+エンザルタミドの併用療法はエンザルタミド単独療法と比較して、全生存期間(OS)を有意に改善し、この併用療法が標準的な1次治療の選択肢として支持されることが示された。米国・ユタ大学のNeeraj Agarwal氏らが第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「TALAPRO-2試験」の最終解析結果を報告した。本試験の主要解析では、相同組換え修復(HRR)遺伝子変異の有無を問わないmCRPC患者において、タラゾパリブ+エンザルタミド併用療法が、画像上の無増悪生存期間(rPFS)を有意に改善したことが示されていた。OSは、同解析時点ではデータが未成熟であった。本稿では、事前に規定されたOSの最終解析結果、rPFSの最新の記述的分析結果およびHRR遺伝子変異未選択コホートにおける安全性が報告された。Lancet誌オンライン版2025年7月16日号掲載の報告。タラゾパリブ+エンザルタミドvs.エンザルタミド+プラセボ TALAPRO-2試験は、北米、欧州、イスラエル、南米、南アフリカ、アジア太平洋地域の26ヵ国にある200施設(病院、がんセンター、医療センター)で無作為化された遺伝子変異未選択コホートの患者を対象とした。 18歳以上(日本は20歳以上)、無症候性または軽度症候性のmCRPCで、アンドロゲン除去療法を継続中かつCRPCに対する延命目的の全身療法歴のない患者を、mCRPCの1次治療として、タラゾパリブ0.5mg+エンザルタミド160mgまたはエンザルタミド+プラセボを1日1回経口投与する群に無作為に1対1で割り付けた。HRR遺伝子変異の状態(欠損vs.非欠損または不明)、去勢感受性に対する治療歴(ありvs.なし)で層別化した。 試験の資金提供者、患者および試験担当医師は、タラゾパリブまたはプラセボ投与については盲検化され、エンザルタミド投与は盲検化されなかった。 主要評価項目は、盲検下独立中央判定によるrPFSであり、重要な副次評価項目はOS(無作為化から全死因死亡までの期間)であった(OSの最終解析時点のα閾値は0.022[両側])。いずれもITT集団で評価した。 OSの追跡調査は、計画された最終解析まで継続が予定されていた。安全性は、試験薬を少なくとも1回投与された患者を対象に評価された。OS中央値、タラゾパリブ群45.8ヵ月、対照群37.0ヵ月 2019年1月7日~2020年9月17日に、993例が適格性について評価を受け、そのうち188例(19%)が除外され、805例(81%)が無作為化された(タラゾパリブ+エンザルタミド群402例[タラゾパリブ群]、エンザルタミド+プラセボ群403例[対照群])。 追跡期間中央値52.5ヵ月(四分位範囲:48.6~56.0)の時点で、OSはタラゾパリブ群が対照群と比べて有意に改善した(ハザード比[HR]:0.80、95%信頼区間[CI]:0.66~0.96、p=0.016)。OS中央値は、タラゾパリブ群45.8ヵ月(95%CI:39.4~50.8)、対照群37.0ヵ月(34.1~40.4)であった。 OSは、HRR欠損患者(169例)ではタラゾパリブ群が対照群よりも改善が大きかったが(HR:0.55[95%CI:0.36~0.83]、p=0.0035)、HRR非欠損患者(636例)でその程度は低かった(HR:0.88[0.71~1.08]、p=0.22)。 rPFSもタラゾパリブ群が優れており(HR:0.67[95%CI:0.55~0.81]、p<0.0001)、rPFS中央値はタラゾパリブ群33.1ヵ月、対照群19.5ヵ月であった。 タラゾパリブの安全性プロファイルは既知のものと一貫しており、タラゾパリブ群で多くみられたGrade3以上の有害事象は、貧血(195例[49%]vs.18例[4%])、好中球減少症(77例[19%]vs.6例[1%])であった。

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ダイエット飲料より水の方が血糖・体重管理に有利

 体重を減らして血糖コントロールを良好にしたいなら、ダイエット飲料ではなく、水を飲むべきかもしれない。米国糖尿病学会学術集会(ADA2025、6月20~23日、シカゴ)で発表された小規模な研究の結果であり、水を飲むように割り当てられた女性はダイエット飲料を飲むように割り当てられた女性よりも、体重が大きく減り、糖尿病が寛解した患者も多かったという。主任研究者であり、糖尿病治療サポートツールなどを手掛けるD2Type Health社のCEOであるHamid Farshchi氏は、「われわれの研究結果は、ダイエット飲料は体重や血糖値の管理に悪影響を及ぼさないとする、これまでの米国での一般的な考え方に疑問を投げかけるものだ」と述べている。 米疾病対策センター(CDC)によると、米国人の約5人に1人が毎日ダイエット飲料を飲んでいるという。ダイエット飲料はカロリーについてはほぼゼロだが、本研究の発表者らは、健康への影響という点ではゼロとは言えない可能性があることを、研究の背景として指摘している。例えば、2023年7月に「Diabetes Care」誌に掲載された研究によると、人工甘味料を多く摂取している人は2型糖尿病を発症する可能性の高いことが明らかにされている。その論文の著者らは、人工甘味料が糖や脂質の代謝を妨げたり、腸内細菌叢を変化させたり、食欲を刺激したりする可能性があると推測していた。 今回報告された研究の対象は、過体重で2型糖尿病の女性81人。その半数は週に5回、昼食後に水を飲む群、残りの半数は水ではなくダイエット飲料を飲む群に割り当てられ、6カ月間の減量プログラムと、その後1年間の体重維持プログラムに参加した。 介入終了時点で、水を飲んだ群の女性は体重が6.82±2.73kg減少していたのに対して、ダイエット飲料を飲んだ群の女性の減量幅は4.85±2.07kgと有意に少なかった(P<0.001)。さらに、水を飲んだ群の女性の90%が糖尿病の寛解を達成したのに対し、ダイエット飲料を飲んだ群でのその割合は45%にとどまっていた(P<0.0001)。また、インスリン抵抗性や中性脂肪などの検査値も、水を飲んだ群では有意に改善していた。 Farshchi氏は、「水を飲むように割り当てられた女性の大半が、糖尿病の寛解を達成した。この結果は、血糖値と体重を効果的に管理しようとする場合、甘味飲料の代わりにダイエット飲料を飲むのではなく、水を摂取することの重要性を浮き彫りにしている。わずかな行動変化であっても、長期的には健康状態に大きな差を生む可能性がある」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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ふくらはぎが細くなったら筋量減少のサインかも?

 骨格筋量の減少は中年期から始まり、加齢とともに進行する。筋量の低下は、高齢者における転倒やさまざまな疾患の発症リスクにつながるため、早期の発見と予防が重要である。今回、ふくらはぎ周囲長の変化で筋量の変化を簡易評価できるとする研究結果が報告された。年齢や肥満の有無にかかわらず、ふくらはぎ周囲長の変化は筋量の変化と正の相関を示したという。研究は公益財団法人明治安田厚生事業団体力医学研究所の川上諒子氏、早稲田大学スポーツ科学学術院の谷澤薫平氏らによるもので、詳細は「Clinical Nutrition ESPEN」に5月28日掲載された。 ふくらはぎ周囲長は高齢者の栄養状態や骨格筋量の簡便な指標とされているが、その変化と筋量変化との関連を直接検討した縦断研究は存在しない。そこで著者らは、日本人成人を対象に、2回のコホート研究のデータを用いて両者の関連を検証する縦断研究を行った。 解析対象は、2015年3月から2024年9月の間に計2回のWASEDA’S Health Studyに参加した40~87歳の日本人成人227名(男性149名、女性78名)とした。ふくらはぎ周囲長は立位で左右それぞれ2回ずつ計測し、その平均値を解析に用いた。また専用機器(二重エネルギーX線吸収測定法)を用いて両腕両脚の筋量(四肢筋量)を測定し、ふくらはぎ周囲長の変化と筋量の変化の関係を解析した。ふくらはぎ周囲長の変化と四肢筋量の変化との相関を評価するため、ピアソンの相関係数を算出した。さらに、年齢および肥満の影響を評価するため、対象者を年齢(中年〔60歳未満〕と高齢〔60歳以上〕)および体脂肪率(非肥満と肥満)で二分し、サブグループ解析を行った。 解析対象の平均年齢は男性が55±10歳、女性が51±7歳で、平均追跡期間は8.0±0.4年だった。ベースラインから追跡期間終了までのふくらはぎ周囲長と四肢筋量の平均変化量は、それぞれ-0.1±1.2cmと-0.7±1.0kgだった。ふくらはぎ周囲長と四肢筋量の変化量は男性および女性の両方で正の相関を示した(それぞれ相関係数r=0.71)。主要解析と同様に、年齢および肥満に基づくサブグループ解析においても、ふくらはぎ周囲長と四肢筋量との間に正の相関が示された(中年、高齢、非肥満、および肥満成人でそれぞれr=0.70、0.67、0.69、および0.72)。 本研究について著者らは、「本研究は、ふくらはぎ周囲長の変化と筋量変化の関連を世界で初めて縦断的に示した研究である。年齢や肥満の有無にかかわらず、ふくらはぎ周囲長の変化と四肢筋量の変化には正の相関が確認された。ふくらはぎ周囲長のモニタリングにより、誰でも簡便に筋量の減少に気づける可能性が示唆され、サルコペニアの早期発見・予防につながる。筋量や筋力の低下はQOLの低下を招くが、年齢を問わず改善は可能であり、本研究は健康寿命の延伸に大きく貢献する知見となるだろう」と述べている。 本研究の限界については、解析対象が早稲田大学の卒業生とその配偶者に限られており、人口全体を代表していない可能性があること、サブグループ解析においては対象数が少なかったことなどを挙げている。

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妊婦の有害転帰、心血管の健康と社会的孤立が複合的に影響か

 有害な妊娠転帰(APO)は妊婦の約20%に発生し、その発生率は年々増加傾向にある。今回、妊娠中の心血管健康(CVH)はAPOに影響を及ぼす、とする研究結果が報告された。研究は東北大学大学院医学系研究科の大瀬戸恒志氏、石黒真美氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に5月29日掲載された。 APOは、妊娠中や分娩中、または産褥期に起こる好ましくない事象や合併症のことを指す。APOの病態は心血管疾患(CVD)との類似性が指摘されており、将来のCVD発症を予測することから「妊娠はストレステスト」とも表現される。そのため、CVDに対する予防策がAPOの発症予防にも有効かどうかの注目が高まっている。2022年、米国心臓協会はCVHを評価するための指標「Life’s Essential 8(LE8)」を提案した。LE8はCVDの予防のため、危険因子を管理し、人々の健康向上に寄与すると期待される。しかし、LE8を使用した包括的なCVH評価が出生前のケアで有益かどうかは依然として不明である。また、CVHの低さは抑うつ症状や社会的孤立と関連することが報告されている。しかし、これまでの研究では、精神的健康や社会的決定要因がCVHとAPOとの関係にどのような影響を与えるかは十分に検討されていない。このような背景から、著者らは日本人妊婦を対象に、LE8を用いて評価したCVHがAPOに及ぼす影響を評価する前向きコホート研究を実施した。さらに、心理的ストレス、社会的孤立、および収入における影響が加わることで生じる変化についても検討した。 本研究では、東北メディカル・メガバンク計画三世代コホート調査に参加した妊婦1万4,930人のデータを解析した。妊娠中のCVHの状態はLE8の8つの項目(食習慣・身体活動・喫煙・睡眠・Body mass index・血清脂質・血糖・血圧)を用いて評価した。APOは、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、早産、在胎不当過小児を含む複合アウトカムと定義した。 研究参加者のCVHを評価した結果、「高」が2,891人(19.4%)、「中等度」が1万1,498人(77.0%)、「低」が541人(3.6%)だった。そのうちAPOを発症した妊婦は、CVHが「高」、「中等度」、「低」の妊婦でそれぞれ、380人(13.1%)、1,772人(15.4%)、162人(29.9%)含まれた。「高」CVHを基準としたロバスト誤差分散を用いたポアソン回帰分析では、「中等度」CVH(相対リスク〔RR〕1.15、95%信頼区間〔CI〕1.03~1.28)および「低」CVH(RR 2.14、95%CI1.78~2.58)がAPOと関連していた(P<0.001〔傾向検定〕)。 心理的ストレス、社会的孤立、収入のサブグループ解析では、社会的孤立を報告した参加者においては、CVHレベルの低さがAPOとより強く関連することが示されたが、相互作用は統計的に有意ではなかった(P=0.247)。「低」CVHの妊婦のうち、社会的孤立を報告していた妊婦では、報告しなかった妊婦よりも出産時のAPOの有病率が高かった(36.4% vs. 27.4%)。この傾向は「高」CVHの妊婦では認められなかった(13.6% vs. 13.1%)。 本研究について著者らは、「今回の研究では、CVHレベルの低さとAPOの有病率の間に正の関連が認められた。また、社会的孤立を感じている妊婦では、そうでない妊婦と比較して、CVHレベルの低さとAPOとの関連が顕著であることが示された。これらの結果は、LE8がAPOのリスク評価に有用である可能性を示唆するとともに、社会的孤立を感じている低CVHの妊婦に対する支援策の必要性を示している」と述べている。 本研究は先行研究の約5倍の症例数が含まれているが、限界点として、CVH計測のタイミングが参加者間で異なっていたこと、妊娠経過が妊娠中の行動に影響を与えていた可能性があることなどを挙げている。

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周術期の予防的抗菌薬、選択基準は?【Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー】第8回

Q8 周術期の予防的抗菌薬、選択基準は?周術期の予防的抗菌薬について教えてください。 術創と離れた場所から耐性菌が検出されている患者、たとえば「膀胱留置カテーテルからMRSAが分離されているが、尿路感染ではなく、頸部の手術を予定している」ような場合に、予防的抗菌薬はセファゾリン系以外に抗MRSA薬を選択すべきでしょうか?

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発作性上室頻拍(PSVT)を理解しよう(1)【モダトレ~ドリルで心電図と不整脈の薬を理解~】第6回

発作性上室頻拍(PSVT)を理解しよう(1)Question心電図波形(1)~(4)は、次の選択肢のなかでどの頻脈性不整脈の可能性があるでしょうか?選択肢:心房頻拍、心房粗動、房室回帰性頻拍(AVRT)、房室結節回帰性頻拍(AVNRT)画像を拡大する

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第273回  国立大学病院、42病院中29病院が赤字と発表、文科省「今後の医学教育の在り方」検討会と厚労省「特定機能病院あり方検討会」の取りまとめから見えてくる大学病院“統廃合”の現実味(前編)

参院選、与党惨敗で社会保障政策が大混迷の時代へこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。参議院選挙で自民、公明の与党は非改選を合わせても参院全体の過半数(125議席)を割り込む大敗を喫し、衆院に続き参院でも少数与党となりました。野党各党が公約に掲げた消費税減税や歳出拡大が実現する可能性が強まり、財政健全化はこれまで以上に遠のきそうです。仮に消費税減税が行われれば、医療をはじめとする社会保障への影響は甚大です。石破 茂首相は20日夜のNHK番組で消費税について「社会保障がこれから先、ますます重要になってくる。それを支える貴重な財源である」と強調したとのことですが、消費税減税の圧力に耐えることができるかどうか……。社会保障でもう1点気になるのは「子ども・子育て支援金」です。少子化対策の財源で、2026年度から医療保険料に上乗せして徴収が始まります。岸田 文雄前首相時代、2023年末に閣議決定された「こども未来戦略」に基づく政策で、2028年度時点で年3.6兆円が少子化対策に割かれる予定です。そのうち支援金で1.0兆円を賄われる計画ですが、政府は、一部高齢者の窓口負担の見直しなどで保険料の上昇を抑えることで実質的な負担増にはならないと説いてきました。その「子ども・子育て支援金」について、立憲民主党、国民民主党などが廃止を訴えています。仮に廃止となればこの部分でも財源が足りなくなり、社会保障費の圧縮は夢のまた夢となってしまいます。この他、本連載の「第270回 「骨太の方針2025」の注目ポイント(後編) 『OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し』に強い反対の声上がるも、『セルフメディケーション=危険』と医療者が決めつけること自体パターナリズムでは?」などで度々書いてきた、自民党・公明党・日本維新の会の「3党合意」に盛り込まれたOTC類似薬の見直しや病床削減についても、与党惨敗で今後の展開(厳格に進めるのか、当面はゆるゆるでお茶を濁すのか)が読めません。2026年度診療報酬改定を含めた来年度予算編成や、今後の医療政策の行方を注視したいと思います。全国42国立大学病院、経常損益の合計額は過去最大の285億円のマイナスさて、昨今、ありとあらゆる種類の病院の経営が苦しいという報道ばかりですが、日本の高度医療を牽引してきた国立大学病院もその例に漏れません。国立大学病院長会議は7月9日、全国にある国立大病院の2024年度の決算(速報値)を発表しました。それによると、全国42国立大学病院のうち、減価償却などの費用を含む2024年度経常損益では29病院が赤字となったことがわかりました。42大学の経常損益の合計額は過去最大の285億円のマイナスとなりました。収益面では対前年度比547億円の増収を確保したものの、費用は対前年度比772億円増加となり、経常損益は前年度実績のマイナス60億円から大幅に悪化しました。日経メディカルなどの報道によれば、記者会見で大鳥 精司会長(千葉大学医学部附属病院長)はいわゆる「増収減益」傾向となっている理由について、「23年度途中のコロナ補助金の廃止、働き方改革対応による人件費増加、急激な物価高騰の影響」を挙げたとのことです。2018年度と比べると、2024年度は医薬品費が45%増、診療材料費が28%増だったほか、水道光熱費が39%増、委託費が34%増、人件費が16%増など、コストが増えていました。大鳥会長はまた、国立大学病院は人件費負担が増えているものの、ほかの病院と比べて医師の給与水準が低いことを紹介。国立大学病院で働く教授クラスの2023年度の年間給与(給与+賞与)は国立独立行政法人病院群の医師と比べて596万円低く、医員クラスでは736万円低かったとしました。その一方で国立大学病院は、医療費率(医薬品費+給食用材料費+診療材料費・医療消耗器具備品費を医業収益で割って算出)が42%とほかの医療機関に比べて高い(医療機関全体の医療費率は22.1%)点も指摘、高度治療に必要な医薬品と治療材料の高額化が経営に深刻な影響を及ぼしている、としました。以上を踏まえ、大鳥会長は「赤字病院が大半を占め、とくに大きいところではマイナス60億円以上と非常に危機的な状況だ。国立病院であってもこのまま支援がなければ間違いなく潰れる」と述べ、補正予算での措置や診療報酬上の手当てを強く求めたとのことです。病床稼働率増、手術件数増、人間ドック事業開始など涙ぐましい経営努力の赤字国立大学病院こうした厳しい状況下の国立大学病院の経営戦略を、日経メディカルは「大学病院クライシス 再生の一手」と題するPDF版記事(週刊日経メディカル2025年7月11日号)で特集しています。同記事によれば、国立大学病院の中で最も赤字額が大きかった東京科学大学病院は、「病床稼働率を90%まで高め、在院日数を短縮することで入院患者の単価を上げ、年間9億9,000万円の増益につなげ」るとともに、カテーテルアブレーションの治療枠を増やす、手術室を増設して手術件数を増やすなどの対策を取っているとしています。また、同じく赤字に直面する筑波大学附属病院は、算定漏れの加算を見直したり、やはり病床稼働率を90%まで上げたり、医療機器の更新頻度の見直し、清掃委託費の見直しなどを行っているとしています。このほか、千葉大学医学部附属病院が新しい収益源として2026年度を目標に人間ドック事業を計画していることや、2024年度に赤字転落した東北大学病院は手術枠を増やすことで収入増を目指していることなどが紹介されています。文科省「大学病院改革ガイドライン」で大学病院に「改革プラン」の策定を求める国立大学病院の経営が苦しいのはわかりますが、個々の病院が位置する地域の実情や医療需要などをさておいて、全体として苦しいので「診療報酬で手当てしてくれ」と国立大学病院長会議が要望するのは少々乱暴に思えます。そして、個々の国立大学病院が、病床稼働率の向上や、手術件数の増加など、大学病院に限らずどこの病院でも取り組んでいる当たり前の手段(人間ドックなどはどちらかと言えば古典的な手段)、いわば“正攻法”でしか攻めようがないのももどかしいところです。文部科学省は2024年3月に「大学病院改革ガイドライン」を策定、国立・私立ともに今後9年間に取り組む「改革プラン」の策定を各大学に求めました。2024年4月スタートの医師の働き方改革を受けたもので、 運営改革、教育・研究改革、診療改革、財務・経営改革の4つの視点で大学病院改革プランを策定するよう求め、各大学病院は2024年6月までにプランを策定済みです。ちなみに、公立病院の経営危機が叫ばれ始めた2007年12月、総務省は「公立病院改革ガイドライン」を策定、全国の公立病院に経営改善を求めましたが、その後も経営悪化を止められず、ガイドラインも度々の改訂を迫られ現在に至っています。「大学病院改革ガイドライン」もその例に倣ったものと思われますが、「大学病院の自主性・自律性」を重んじている点や、進捗状況の確認が4年目の2027年度となっている点など、まだまだ甘さが残る内容です。「全ての大学病院が一様に同じ役割・機能を同程度持ち続けることは難しいといった指摘がある」と文科省検討会というわけで、しっかりと改革プランを策定しているはずなのに、改革どころか「増収減益」傾向から脱することができない国立大学病院の状況は、働き方改革と昨今の物価高のダメージが想定外の大きさだったことが影響しているのでしょう(あと、コロナ補助金で一時的に経営がよくなり、少々浮かれた面もあったかもしれません)。こうした状況で病床稼働率、手術件数の増加を目指すのはいいですが、ますます医師が研究離れをせざるを得なくなるのではないでしょうか?また、今後は人口減と共に患者減も続くのですから、病床稼働率、手術件数の増加でいつまでも対応できるとは思えません。そんな中、文科省は7月14日、「今後の医学教育の在り方に関する検討会」による「第三次取りまとめ」を公表しました。取りまとめでは、現在、大学病院が抱える課題として、危機的な経営状況にある点や、すべての大学病院が教育・研究・診療に最大限取り組むことには限界がある点、地域医療構想の推進に向けて組織的かつ主体的な取り組みが求められる点などを挙げています。そして、「様々な環境の変化によって、全ての大学病院が一様に同じ役割・機能を同程度持ち続けることは難しいといった指摘がある」と、なかなか微妙な表現で、大学病院の未来についても言及しています。時期を同じくして厚労省では「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」が開かれており、こちらもまもなく取りまとめが公表される予定です。これらからうっすらと見えてくるのは、公立病院改革でも強力に推進されてきた病院の“統廃合”です。(この項続く)

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敗血症性ショックは指で評価!末梢灌流の評価が臓器障害を減らす【論文から学ぶ看護の新常識】第24回

敗血症性ショックは指で評価!末梢灌流の評価が臓器障害を減らす敗血症性ショックにおいて、今や重要な指標の1つとなっている「末梢灌流」。その臨床的有用性が注目されたきっかけは、Glenn Hernandez氏らが6年前に行った研究だった。今回は、JAMA誌2019年2月19日号掲載のこの報告を紹介する。末梢灌流状態と血清乳酸値を標的とした蘇生戦略が、敗血症性ショック患者の28日死亡率に与える影響:The ANDROMEDA-SHOCKランダム化比較臨床試験研究チームは、成人の敗血症性ショック時の末梢灌流を標的とした蘇生が、血清乳酸値を標的とする蘇生と比較して、28日死亡率を低下させるかどうかを検証することを目的に、多施設共同、非盲検ランダム化比較臨床試験を実施した。2017年3月から2018年3月にかけて南米5カ国28施設で行われ、最終追跡調査は2018年6月12日に完了した。対象は、敗血症性ショックと診断され、ICUに入室した成人患者424名。8時間の介入期間中に、毛細血管再充満時間(CRT)の正常化を目標とする群(末梢灌流群、212名)と、乳酸値を2時間あたり20%以上の割合で低下または正常化させることを目標とする群(乳酸値群、212名)に無作為に割り付けた。主要評価項目は、28日時点での全死因死亡率とした。副次評価項目は、90日時点での死亡、ランダム化後72時間時点での臓器機能不全(SOFAスコアによる評価)、28日以内の人工呼吸器非装着日数、腎代替療法非実施日数、昇圧薬非使用日数、集中治療室滞在期間および入院期間とした。主な結果は以下の通り。28日目までに、末梢灌流群では74名(34.9%)、乳酸値群では92名(43.4%)が死亡した。ハザード比:0.75(95%信頼区間[CI]:0.55~1.02)、p=0.06、リスク差:−8.5%(95%CI:−18.2%~1.2%)。末梢灌流を標的とした蘇生は、72時間後の臓器障害がより少ないことに関連していた。平均SOFAスコア:5.6 vs.6.6(SD:4.3 vs.4.7)、平均差:−1.00(95%CI:−1.97~−0.02)、p=0.045。末梢灌流群では、最初の8時間以内に投与された蘇生輸液の量がより少なかった。平均差:−408mL(95%CI:−705~−110)、p=0.01。その他の6つの副次評価項目に有意な差はなかった。敗血症性ショック患者において、毛細血管再充満時間の正常化を目標とした蘇生戦略は、血清乳酸値の正常化を目標とした戦略と比較して、28日時点での全死因死亡率を統計的に有意に低下させなかった。院内で誰もが遭遇しうる重篤な敗血症性ショック。その早期治療は極めて重要です。今回ご紹介する2019年発表の論文は、蘇生目標を「毛細血管再充満時間(CRT)の正常化」と「血中乳酸値の正常化」のどちらにおくべきかを比較した、重要な国際ランダム化比較試験です。結果として、主要評価項目である28日死亡率には統計的な有意な差は認めなかったものの、CRTを目標とした群では、72時間時点での臓器障害が有意に少なく、さらに蘇生初期の輸液量も少なかったという、興味深い結果でした。すなわち、特別な検査機器なしにベッドサイドで即座に判断できるCRTが、敗血症性ショック治療における重要な評価指針となる可能性が示されたのです。この研究におけるCRTの測定法は、右手人差し指の指先の腹(指紋側)をスライドガラスで10秒間圧迫し、色が戻るまでに3秒を超えた場合を異常と定義しています。日本で一般的に行われる「爪床を5秒以上圧迫し、色が戻るまでに2秒を超えると異常」とは異なる点には、ご注意を!本論文は2019年と少し古いですが、CRTの臨床的有用性を示唆した画期的な研究です。現在、さらに大規模な後続研究「The ANDROMEDA-SHOCK-2」が進行中であり、その結果が待たれます!論文はこちらHernandez G, et al. JAMA. 2019;321(7):654-664.

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重症アナフィラキシー、最もリスクの高い食品は?

 食物誘発性アナフィラキシーの症例 2,600 件以上を調査した研究において、喘息の病歴がある場合やピーナッツが誘因となった場合、アナフィラキシーの重症度がより高くなると予測されることが判明したという。ルーベ病院センター(フランス)のGuillaume Pouessel氏らによる本研究結果は、Clinical and Experimental Allergy誌2025年7月号に掲載された。 研究者らは、「フランス語圏アレルギー警戒ネットワーク(Allergy-Vigilance Network)」で2002~21年に記録された食物アナフィラキシー症例を後ろ向きに解析し、Ring-Messmer分類による致命的な症例(Grade4)と重篤な症例(Grade3)と比較し、重症度が高いことに関連するリスク要因を特定した。 主な結果は以下のとおり。・報告された2,621件の食物アナフィラキシー症例のうち、重症と判断された731件(Grade3:687件[94%]、Grade4:44件[6%])に死亡19件を加えた750件を解析対象とした。・全体の56.1%が成人(平均年齢28.3歳)、53.7%が男性だった。・重症例全体で頻度の高い誘因は、ピーナッツ(13.9%)、小麦(9.4%)、カシューナッツ(5.8%)、エビ(5.4%)、牛乳(4.8%)だった。・Grade4のアナフィラキシー症例は、成人よりも小児(18歳未満)に多く発生した(18例対26例)。・Grade4の症例はGrade3の症例と比較して、原因食物に対するアレルギー歴あり(71.1%vs.42.1%)、喘息診断あり(59.5%対30.4%)、原因食物がピーナッツ(34.1%対12.6%)である割合が高かった。・Grade4のアナフィラキシーを予測する因子は、喘息診断あり(オッズ比[OR]:3.41、95%信頼区間[CI]:1.56~7.44)、原因食物がピーナッツ(OR:3.46、95%CI:1.28~9.34)であった。 著者らは「本データは、重症食物アナフィラキシーのリスク因子、とくに喘息の既往歴と原因食物としてのピーナッツを特定した。これらの患者には、経口免疫療法や生物学的製剤などの個別化された管理戦略が必要となるだろう」としている。

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ER+/HER2-進行乳がんへのimlunestrant、日本人サブグループ解析結果(EMBER-3)/日本乳学会

 アロマターゼ阻害薬単剤またはCDK4/6阻害薬との併用による治療中もしくは治療後に病勢進行が認められた、ESR1変異陽性のエストロゲン受容体(ER)陽性HER2陰性(ER+/HER2-)進行乳がん患者において、経口選択的ER分解薬(SERD)imlunestrant単剤療法が、標準内分泌療法と比較して無増悪生存期間(PFS)を有意に延長したことが第III相EMBER-3試験の結果として報告されている。今回、同試験の日本人サブグループ解析結果を、千葉県がんセンターの中村 力也氏が第33回日本乳学会学術総会で発表した。・対象:アロマターゼ阻害薬±CDK4/6阻害薬による治療中もしくは治療後(12ヵ月以内)に病勢進行が認められたER+/HER2-進行乳がん患者・試験群(imlunestrant群):imlunestrant単剤療法(1日1回400mg)・試験群(imlunestrant+アベマシクリブ群):imlunestrant(1日1回400mg)+アベマシクリブ(1日2回150mg)・対照群(標準内分泌療法群):治験医師がエキセメスタンまたはフルベストラントから選択・評価項目:[主要評価項目]治験医師評価によるPFS(ESR1変異陽性患者および全患者におけるimlunestrant群vs.標準内分泌療法群、全患者におけるimlunestrant+アベマシクリブ群vs.imlunestrant群)[重要な副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、安全性など・データカットオフ:2024年6月24日 主な結果は以下のとおり。・79例が1:1:1の割合で無作為化され、imlunestrant群に31例、imlunestrant+アベマシクリブ群に24例、標準内分泌療法群に24例が割り付けられた。・ベースラインの患者特性は3群でバランスがとれており、おおむねグローバルの全体集団と同様であったが、ESR1変異陽性患者の割合は若干低かった(imlunestrant群35%vs.imlunestrant+アベマシクリブ群17%vs.標準内分泌療法群25%)。また、CDK4/6阻害薬による治療歴を有する患者がグローバルでは6割程度だったのに対し、日本人集団では19%vs.29%vs.17%と少ない傾向であった。・ESR1変異陽性患者における治験医師評価によるPFS中央値は、imlunestrant群11.1ヵ月vs.標準内分泌療法群7.0ヵ月(ハザード比[HR]:0.26、95%信頼区間[CI]:0.05~1.31)であった。・全患者における治験医師評価によるPFS中央値は、imlunestrant群11.1ヵ月vs.標準内分泌療法群7.6ヵ月(HR:1.22、95%CI:0.59~2.50)、imlunestrant+アベマシクリブ群11.2ヵ月vs.imlunestrant群11.1ヵ月(HR:0.75、95%CI:0.34~1.66)であった。・測定可能病変を有する患者におけるORRは、全患者ではimlunestrant群13%(3/23例)vs.標準内分泌療法群5%(1/19例)、imlunestrant+アベマシクリブ群17%(3/18例)vs.imlunestrant群15%(3/20例)、ESR1変異陽性患者ではimlunestrant群29%(2/7例)vs.標準内分泌療法群0%(NA)であった。・Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)の発現率は、imlunestrant群10%vs.imlunestrant+アベマシクリブ群61%vs.標準内分泌療法群13%であり、グローバルと比較してimlunestrant+アベマシクリブ群での発現が多い傾向がみられた。同群における有害事象による減量・治療中止も日本人集団で多く(それぞれ61%、17%)、主に下痢やALT上昇によるものであった。・Grade3以上のTRAEでimlunestrant+アベマシクリブ群で多くみられたのは、ALT上昇(22%)、皮疹、白血球減少、好中球減少(いずれも13%)、下痢、AST上昇(いずれも9%)などであった。 中村氏は、ESR1変異陽性のER+/HER2-進行乳がんに対するimlunestrant単剤療法はグローバルと同様に日本人集団でもPFSの改善が確認されたとし、良好な安全性プロファイルを示したとまとめている。なお、OS解析は進行中である。ESR1変異の有無を問わない全患者に対するimlunestrant単剤療法と比較したimlunestrant+アベマシクリブ併用療法についても、グローバルと同様にPFSの数値的な改善がみられたとし、安全性はこれまでのアベマシクリブ+内分泌療法併用でみられたプロファイルと同様で、imlunestrant併用による追加の毒性は示されていないとしている。

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高齢者への不眠症治療、BZD使用で睡眠の質が低下

 高齢者の不眠症治療は、ベンゾジアゼピン系薬剤(BZD)およびベンゾジアゼピン受容体作動薬(BZRA)の頻繁な使用と関連しており、慢性的な使用により睡眠調節や認知機能に悪影響を及ぼすことが報告されている。しかし、高齢者の記憶において、きわめて重要であるNREM低周波波動(SO)および紡錘波に対するBZD/BZRAの影響については、ほとんどわかっていない。カナダ・Concordia UniversityのLoic Barbaux氏らは、BZD/BZRAの慢性的な使用が、睡眠メカニズム、脳波の相対的パワー、SOおよび紡錘波の特性、結合に及ぼす影響について調査した。Sleep誌オンライン版2025年6月17日号の報告。 高齢被験者101例(年齢:66.05±5.84歳、年齢範囲:55〜80歳、女性の割合:73%)を対象に、習慣化ポリソムノグラフィー(PSG)後2夜目のデータを解析し、睡眠良好群(28例)、不眠症群(26例)、BZD/BZRA慢性使用不眠症群(47例、ジアゼパム換算6.1±3.8mg/回、週3夜超)の3群に分類した。睡眠構造、脳波(EEG)相対スペクトル、関連する脳波活動について、SOおよび紡錘波、そしてそれらの時間的結合に焦点を当て、包括的に比較した。 主な結果は以下のとおり。・BZD/BZRA慢性使用不眠症群は、不眠症群および睡眠良好群と比較し、N3持続時間が短く、N1持続時間とスペクトル活動が高く、睡眠構造が乱れ、睡眠関連脳振動の同期性に変化が認められた。・探索的相互作用モデルでは、1回の使用量がより高用量での慢性的な使用が、睡眠の微小構造および脳波スペクトルのより顕著な乱れと相関していることが示唆された。 著者らは「BZD/BZRAの慢性的な使用は、睡眠の質の低下と関連していることが示唆された。このようなマクロレベル、微細構造レベルでの睡眠調節の変化は、高齢者におけるBZD/BZRAの使用と認知機能低下との関連性に影響を及ぼしている可能性がある」と結論付けている。

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血栓溶解療法後の早期tirofiban、脳梗塞の予後を改善/NEJM

 軽症~中等症の非心原性脳梗塞患者で、血栓回収療法が適応とならず、発症後4.5時間以内に静注血栓溶解療法を受けた患者において、その後1時間以内にプラセボを投与した群と比較して血小板糖蛋白IIb/IIIa受容体拮抗薬tirofiban投与群は、36時間以内の症候性頭蓋内出血のリスクがわずかに増加したものの、90日後の修正Rankinスケールで評価した機能的アウトカムが有意に改善されたことが、中国科学技術大学のChunrong Tao氏らASSET-IT Investigatorsが実施した「ASSET-IT試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年7月4日号で報告された。中国の第III相無作為化プラセボ対照比較試験 ASSET-IT試験は、脳梗塞における静注血栓溶解療法後の早期tirofiban投与の有効性と安全性の評価を目的とする第III相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2024年3月~9月に中国の38施設で参加者を登録した(Fundamental Research Funds for Central Universitiesの助成を受けた)。 年齢18歳以上、急性期非心原性脳梗塞と診断され、血栓回収療法が適応ではなく、NIHSSスコアが4~25点で、発症(または最終健常確認時刻)から4.5時間以内に静注血栓溶解療法(アルテプラーゼまたはtenecteplase)を受けた患者を対象とした。 これらの患者を、静注血栓溶解療法終了から1時間以内にtirofibanまたはプラセボを24時間で静注する群に無作為に割り付けた(静注血栓溶解療法終了から55分以内に無作為化を行い、無作為化から5分以内に投与を開始)。 有効性の主要アウトカムは、90日の時点での優れた機能的アウトカム(修正Rankinスケールスコアが0[まったく症状がない]または1[何らかの症状はあるが、日常的な活動はすべて行える]点と定義)の割合とした。安全性の主要アウトカムは、36時間以内の症候性頭蓋内出血(修正SITS-MOST基準で評価)および90日以内の死亡であった。90日以内の死亡に差はない 832例(年齢中央値69歳[四分位範囲[IQR]:59~76]、女性301例[36.2%]、NIHSSスコア中央値6点[IQR:5~9])を登録し、tirofiban群に414例、プラセボ群に418例を割り付けた。血栓溶解薬は、患者の75%でアルテプラーゼ、25%でtenecteplaseが使用された。 また、健常確認時刻から静注血栓溶解療法開始までの時間中央値は、tirofiban群155分(IQR:111~206)、プラセボ群170分(129~220)、静注血栓溶解療法終了から無作為化までの時間中央値は、それぞれ29分(12~47)および30分(13~47)だった。プラセボ群の1例が90日経過前に追跡調査から脱落した。 90日の時点で修正Rankinスケールスコア0/1点を達成した患者の割合は、プラセボ群が54.9%(229/417例)であったのに対し、tirofiban群は65.9%(273/414例)と有意に優れた(リスク比:1.20[95%信頼区間[CI]:1.07~1.34]、p=0.001)。 36時間以内の症候性頭蓋内出血は、tirofiban群で1.7%(7/414例)に発現し、プラセボ群では0%であった(リスク差:1.71[95%CI:0.45~2.97])。90日以内の死亡は、それぞれ4.1%(17/414例)および3.8%(16/417例)に認めた(リスク比:1.07[0.55~2.09])バーセルインデックス95~100点達成割合も良好 副次アウトカムである90日時の修正Rankinスケールスコア0~2(2点:軽度の障害[発症前の活動がすべて行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える])点の達成割合は、tirofiban群80.4%(333/414例)、プラセボ群72.7%(303/417例)であった(リスク比:1.11[95%CI:1.03~1.19])。 また、90日時のバーセルインデックス(0~100点)が95~100点(日常的な活動に支障を来す障害がない)の達成割合は、それぞれ77.1%(319/414例)および70.5%(294/417例)だった(リスク比:1.09[1.01~1.19])。 著者は、「本試験の知見は、プラセボに比べtirofibanは出血リスクを増加させる可能性があるものの、全般的な安全性プロファイルは血栓溶解療法を受ける患者で予想される範囲内であることを示唆する」「これらの結果の一般化可能性を制限する可能性のある要因として、(1)中国のみで実施された試験、(2)比較的軽症の脳卒中患者を登録、(3)心房細動の既往歴を有する患者を除外、(4)脳卒中の既往歴を有する患者の割合が高い、(5)適格例のかなりの数が試験への参加を拒否したため選択バイアスが生じた可能性がある点が挙げられる」としている。

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救急診療部のHCVスクリーニング、最適な方法とは/JAMA

 C型肝炎ウイルス(HCV)感染者の特定は公衆衛生上の優先課題であり、救急診療部(ED)は通常、他の医療施設を受診しないリスクの高い患者を多く受け入れるため、スクリーニングの重点領域となっている。しかし、EDにおけるHCVスクリーニングの最適な方法は明らかでないという。米国・Denver HealthのJason Haukoos氏らDETECT Hep C Screening Trial Investigatorsは「DETECT Hep C Screening試験」において、対象者選択的スクリーニング(targeted screening:TS)と比較して対象者非選択的スクリーニング(nontargeted screening:NTS)は、新規HCV患者の検出に優れるものの、診断から治療完了に至った患者は少数であることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年7月9日号に掲載された。米国の都市部ED施設の無作為化臨床試験 DETECT Hep C Screening試験は、EDにおけるHCVスクリーニングの有効性を評価し、TSよりもNTSが新規HCVを多く検出するという仮説の検証を目的とする実践的な無作為化臨床試験であり、2019年11月~2022年8月に、米国の都市部の3つの大規模ED施設(365日24時間体制)で参加者の無作為化を行った(米国国立薬物乱用研究所[NIDA]の助成を受けた)。 年齢18歳以上で、EDを受診し、臨床的に病態が安定しており、医療に関する同意能力がある患者を対象とした。過去にHCVの診断を受けている患者や、ED滞在時間が60分未満と予測される患者は除外した。 対象とした患者を、NTS(リスクを問わず全患者でHCV検査を行う)群またはTS(リスク評価に基づき高リスク例でHCV検査を行う)群に無作為に割り付けた。TSのリスク評価の基準は、1945~65年生まれ、注射薬物や経鼻薬物の使用、規制のない環境でのタトゥーやピアス、1992年以前の輸血または臓器移植であった。 主要アウトカムは新規のHCV診断であり、HCV抗体検査が陽性で、HCV RNAが検出され、過去にHCVの診断を受けていないことと定義した。副次アウトカムとして、HCV検査の提案・受諾・完了、12週の時点での持続的ウイルス陰性化(SVR12)、18ヵ月時における全死因死亡などを評価した。NTS群、検査の提案は3.1倍、完了は2.1倍 14万7,498例(年齢中央値41歳[四分位範囲:29~57]、男性51.5%、黒人42.3%、ヒスパニック系20.9%、白人32.2%)を登録し、NTS群に7万3,847例、TS群に7万3,651例を割り付けた。 NTS群では、6万5,693例(89.0%)がHCV検査を提案され、1万6,563例(22.4%)がこれを受諾し、9,867例(59.6%)が検査を完了した。このうち416例(4.2%)がHCV抗体検査陽性で、154例(1.6%[95%信頼区間[CI]:1.3~1.8])でHCV RNAが検出されてHCVの新規診断が確定した。 TS群では、高リスクと判定された2万3,400例(31.8%)のうち2万982例(89.7%)がHCV検査を提案され、7,116例(30.4%)が受諾し、4,640例(65.2%)が検査を完了した。このうち348例(7.5%)がHCV抗体検査陽性で、115例(2.5%[95%CI:2.1~3.0])でHCV RNAが検出されてHCVの新規診断が確定した。 したがって、HCV検査の提案の割合はNTS群がTS群の3.1倍(89.0%vs.28.5%、群間差:60.5%[95%CI:60.1~60.9]、p<0.001)で、受諾の割合はTS群で高く(25.2%vs.33.9%、8.7%[8.0~9.4]、p<0.001)、最終的に検査を完了した患者の割合はNTS群がTS群の2.1倍(13.4%vs.6.3%、7.1%[6.8~7.4]、p<0.001)だった。 主要アウトカムである新規HCV診断の割合は、TS群が0.16%(115/7万3,651例)であったのに対し、NTS群は0.21%(154/7万3,847例)と有意に優れた(群間差:0.05%[95%CI:0.01~0.1]、相対リスク:1.34[1.05~1.70]、p=0.02)。治療完了やSVR12達成は両群とも減少、1.5年死亡率に差はない 新規HCV診断例のうち、その後治療に結び付いた患者は両群とも少なく、NTS群で19.5%(30/154例)、TS群で24.3%(28/115例)であった。治療としては、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)を開始した患者がそれぞれ15.6%(24例)および17.4%(20例)で、DAAを完了した患者は12.3%(19例)および12.2%(14例)であった。 また、SVR12を達成した患者の割合は、NTS群9.1%(14例)、TS群9.6%(11例)で、18ヵ月時の全死因死亡率は、それぞれ5.2%(8例)および4.3%(5例)だった。 著者は、「SVR12に至った患者の数は、新規HCV診断数から大幅に減少しており、これはHCV治療の革新的モデルの開発が緊急に必要であることを強く示唆する」「米国における現在のHCVの流行は注射薬物の使用が主な要因で、この集団のHCV有病率は30%を超えると推定されるため、注射薬物使用者は対象者選択的な介入の重要な対象であり、治療障壁の理解や彼らのニーズに合ったアプローチの開発など新たな戦略が求められる」としている。

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AI支援で脳画像を用いた認知症タイプの診断精度が向上

 新たに開発されたAIツールが、患者が罹患している認知症タイプの特定に役立つ可能性のあることが明らかになった。この「StateViewer」と呼ばれるAIツールにより、認知症を含む9種類の神経変性疾患症例の89%において疾患を特定できたという。米メイヨー・クリニック神経学人工知能プログラムのディレクターであるDavid Jones氏らによるこの研究結果は、「Neurology」に6月27日掲載された。 研究グループによると、このツールは、患者が認知障害の一因となっている可能性のある病状を抱えている場合でも、医師が認知症を早期かつ正確に特定するのに役立つ可能性があるという。Jones氏は、「私のクリニックを訪れる全ての患者は、脳という複雑な器官によって形作られたそれぞれに異なる物語を抱えている。私を神経学へと導いたのはその複雑さであり、今もそれが、より明確な答えを求める私の原動力となっている」と話す。その上で同氏は、StateViewerは同氏の情熱の表れであり、「神経変性疾患のより早期の理解と適切な治療に加え、将来的にはこれらの疾患の経過を変えるための1歩につながる」と述べている。  Jones氏らが開発したStateViewerは、フルオロデオキシグルコース陽電子放出断層撮影(FDG-PET)画像を基に神経変性疾患の診断を支援する、AIを活用した臨床診断支援システムである。AIは、9種類の神経変性疾患のうちのいずれかの診断を受けたか、健常(異常なし)と判定されてから2.5年以内に撮影された3,671人(平均年齢68歳、女性49%)のFDG-PET画像で訓練・検証された。 StateViewerは患者のFDG-PET画像を読み込み、大規模データベースに登録されている認知症患者のPET画像と比較することで、特定の認知症タイプやその組み合わせに一致する脳のパターンを特定する。例えば、アルツハイマー病は、典型的には記憶と情報処理の領域に影響を及ぼす一方、レビー小体型認知症は、注意力や運動に関わる領域に影響を及ぼし、前頭側頭型認知症では言語や行動を司る領域に変化が見られるという。判定結果は、重要な脳の活動領域を色分けして可視化したブレインマップとして提示される。 StateViewerの性能を検証した結果、9種類の神経変性疾患を約89%の感度(0.89±0.03)で識別可能であり、ROC曲線下面積(AUC)は0.93±0.02と、優れた分類性能が示された。放射線科医がこのシステムを使ってFDG-PET画像を読影すると、現行の標準的な手順で読影した場合と比べて正しい診断を下す可能性が3.3倍高まった。 論文の筆頭著者でメイヨー・クリニックのデータ科学者であるLeland Barnard氏は、「このツールが医師にリアルタイムで正確な情報と支援を提供できることは、機械学習が臨床医学において果たし得る役割の大きさを明示している」と話している。 研究グループは、このツールの使用を拡大し、さまざまな臨床現場でその性能を検証することを計画している。

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推奨通りの脂質低下療法で何万もの脳卒中や心筋梗塞を回避可能か

 スタチンなどの脂質低下薬の使用が推奨される米国の患者数と実際にそれを使用している患者数との間には大きなギャップがあり、毎年何万人もの人が、脂質低下薬を服用していれば発症せずに済んだ可能性のある心筋梗塞や脳卒中を発症していることが、新たな研究で明らかにされた。米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院疫学教授のCaleb Alexander氏らによるこの研究結果は、「Journal of General Internal Medicine」に6月30日掲載された。 Alexander氏らは、まず、米国国民健康栄養調査(NHANES)に2013年から2020年にかけて参加した40〜75歳までの米国成人4,980人のデータを解析した。このサンプルは、同じ年齢層の米国成人約1億3100万人を代表するように統計学的に重み付けされた。解析では、米国およびヨーロッパの脂質低下療法(LLT)に関する薬物治療ガイドラインが完全に実施された場合に、治療状況やアウトカムがどの程度改善されるかが予測された。解析は、米国心臓協会(AHA)/米国心臓病学会(ACC)ガイドライン(2018年米国ガイドライン)、欧州心臓病学会(ESC)/欧州動脈硬化学会(EAS)ガイドライン(2019年EUガイドライン)、LDLコレステロール(LDL-C)低下のための非スタチン療法の役割に関するACC専門家決定方針(2022年米国決定方針)の3種類に基づいて行われた。 研究参加者の心血管リスクは、2018年米国ガイドラインを用いて、以下の順序で評価された;1)アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の有無、2)重度の原発性高コレステロール血症(LDL-Cが190mg/dL以上)、3)糖尿病で、LDL-Cが70~189mg/dL、4)現在LLTを実施中、5)糖尿病およびASCVDを伴わず、LDL-Cが70~189mg/dL。最後の項目については、Pooled Cohort Equations(PCE)を用いて10年間のASCVD発症リスクを推定し、低リスク、ボーダーラインリスク、中リスク、高リスクに分類した。また、臨床的心血管疾患(冠動脈疾患、狭心症、心筋梗塞、脳卒中などの自己申告)の既往が確認された者は「二次予防コホート」、それ以外は「一次予防コホート」と定義された。2019年EUガイドラインおよび2022年米国決定方針についても、2018年米国ガイドラインと同様の手法で層別化とリスク分類を行った。 NHANESの一次予防コホートに該当する1億1630万人のうち、現在LLTを受けている患者は23%であった。これに対し、LLTの適応基準を満たす患者(以下、適応患者)の割合は、2018年米国ガイドラインで47%、2019年EUガイドラインでは87%、2022年米国決定方針では47%と推定され、実施率は推奨に基づく想定を大きく下回っていることが示された。薬剤別に見ると、スタチンでは適応患者(適応率100%)のうち66%が治療を受けていたのに対し、エゼチミブでは適応患者(適応率31~74%)の4%のみが使用など、全ての治療法において、実施率は適応患者数を大きく下回っていた。 また、2018年米国ガイドライン通りにLLTが実施されていれば回避できたと推定される1年当たりの心血管系の有害イベント数は、冠動脈疾患による死亡で3万9,196件、非致死的な心筋梗塞で9万6,330件、冠動脈血行再建術で8万7,559件、脳卒中で6万5,063件に上った。さらに、ガイドラインごとに推定値に差はあるが、スタチン適応の患者全てが同薬を使用すれば平均LDL-C値は急激に低下し、心筋梗塞や脳卒中のリスクは最大で27%低下する可能性や、LLTでこれらのアウトカムを予防すれば、米国の医療費を年間253億~317億ドル(1ドル146円換算で3兆6900億~4兆6300億円)節約できる可能性のあることも示唆された。 研究グループは、患者教育およびスクリーニング方法の改善により、必要な人が確実にスタチンを使用できる体制の構築が重要であると強調している。

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中絶禁止措置による出生率への影響は格差拡大につながる(解説:前田裕斗氏)

 本研究は2021年9月1日から2022年8月25日までの間に中絶禁止措置を導入した14州において、出生率がどの程度変化したか、またどのような層が影響を強く受けたかについて検討したものである。疫学的に精巧な手法を用いており、詳しい説明は省くがごく簡単に言えば、対象とならなかった州の出生率のデータなどを用いて、各サブグループごとの出生率をモデル予測し、実際の観測値との差を取ることで中絶禁止措置の出生率に対する効果を見ている。これは地域ごとの時間による出生率の変動を考慮するためだ。 結果は15~44歳の女性1,000人当たり1.01追加の出生が中絶禁止措置によりもたらされ、その影響は若年・未婚・高卒など、社会的に脆弱性の高い層でとりわけ大きかった。日本でこのような中絶禁止措置が採られることは考えにくいが、思考実験として、もし行われたらどうなるだろうか。おそらく、社会的格差の大きい米国ほどではないが、同様の結果が得られるはずだ。格差の拡大はもちろん、子どものマルトリートメントにもつながる可能性が高い。この措置は宗教的な面も多分にあるが、たとえ少子化対策としてでも実施すべきではないことを疫学的に精緻に示した素晴らしい研究である。

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MRがこの1年で3,000人減少、かつての花形の職業は今…【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第156回

皆さんの肌感では、MR(医薬情報担当者)の情報提供活動は増えていますか? 減っていますか? 年に1度のMRの状況について調査した結果がMR認定センターより発表されました。かつての花形の職業に大きな変化が生じています。MR認定センターは7月15日、4月に実施したMRの実態や教育研修に関する調査結果をまとめた25年度版MR白書を公表。24年度のMR数は前年度より3073人減の4万3646人に減り、23年度(同2963人減)に続いて3000人規模の減少となった。要因としては「MRを多数雇用してきた企業での早期希望退職の影響が大きかった」と分析する。MR数は13年度以降、減少傾向が続き、今回の下げ幅は20年度(3572人減)に次ぎ大きかった。調査に回答した199社のうち20%以上MR数を減らした会社は19社に上った。(2025年7月16日 RISFAX)MRはここ10年ほどで役割や働き方がもっとも大きく変化した職業の1つといえるかもしれません。医薬品に添付文書が封入されなくなり、医薬品情報の入手はインターネット経由が主流になりました。過度な接待が注目を浴びて規制が設けられたり、製品説明会のお弁当額に上限が設けられたりもして、医師と気軽に話せる機会が減りました。さらに、新型コロナウイルス感染症の流行時は医療機関に訪問規制が設けられ、とうとう医師に会うこともままならなくなるなど、さまざまな環境の変化がありました。それに伴い、製薬会社のMRの役割や業務が変化しています。私が薬剤師として社会に出たのはもう20年も前になりますが、その頃のMRは薬学部の学生だけでなく、ほかの学部からも就職希望が殺到する花形の職業でした。今は花形ではないというわけではないのですが、いかんせん新卒採用が減り続けています。昨年度のMR認定試験合格者数は1,137人で、5年前の2分の1、10年前の4分の1程度に減っています。「MR白書」では、MR認定センターが製薬会社約200社にアンケート調査を実施し、MRを取り巻く環境や業務の実情、その変遷が取りまとめられています。この調査は毎年実施されており、「2001年の開始以来、歴史的にも調査規模としても製薬業界全体のMRの実態を示す静態調査」とMR認定センター自らがうたっているように、「MRや医薬品情報提供の今」が垣間見えます。2025年度版MR白書では、以下のようなことが報告されています。昨年に比べ、MR数は3,073名(6.6%)減であった。1,000名以上の大きな会社での早期希望退職の影響があったと考えられる。新卒採用をした会社は34.3%であった。コントラクトMRは横ばい。経験者で即戦力となるMRの役割は大きい。薬剤師資格を有するMRは、MR数と同様に減少傾向が続き、過去最低となった。製薬会社のMRがいなくなることはないでしょうが、これらの結果を見るとこれから先もMRは減少傾向となることは間違いないように思います。医師への食事提供ルールが来春から厳格化されるなど、さらなる自主規制が進められていますが、個人的には、未承認薬の情報提供の規制など、新しい医薬品や既存の医薬品の未承認薬効の情報開示などに関しては、私は今の規制はちょっと厳しすぎるのではないかとも思っています。2026年度には、新しいMR認定試験が開始されます。インターネットによる情報提供が定着してきた今、MRが何を担う職業になるのか、医薬品情報を使用する薬剤師としては少し気になるところです。

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根性より水分!〜令和の夏を生き抜く医学的戦略〜【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第86回

地球温暖化を実感する毎日暑い!暑い!暑すぎです。もはや「暑い」では生ぬるく、「熱い」と書きたくなる今日このごろです。この原稿を執筆しているのが7月10日ですが、私が住む滋賀県草津市でも最高気温は連日35度を超える猛暑が続いています。私は幼少期を石川県金沢市で過ごしました。小学生のころ、絵日記を兼ねた夏休み帳に気温と天気を欠かさず記録していました。真面目な子供だったのです(エッヘン)。その頃の記憶をたどってみると、7月下旬に30度超えの日がしばらく続くのが真夏でした。それでも最高気温はせいぜい33度ほど。8月になると30度を超える日もありますが、最高気温が28~29度にとどまるのが普通でした。エアコンはありませんでしたが、庭に水でも撒けば快適に昼寝することができました。エアコンの必要性を感じないというか、エアコンなる装置の存在すら知らなかったのが正直なところです。もう四季ではない、五季だ!かつて日本には、春夏秋冬という美しい四季がありました。これは過去の思い出です。最近はどうも様子が変です。春は短く、秋はどこかに失踪しました。夏が巨大化して長居します。昨年、大手アパレル企業が年間の販売計画を「四季」ではなく、「五季」で考えると発表し話題になりました。日本の四季の区分は、春は3~5月、夏は6~8月、秋は9~11月、冬は12~2月という気象庁の定義があり、それぞれ3ヵ月間に等分されます。五季の提案は、春が3~4月(2ヵ月)、夏が5~7月(3ヵ月)、猛暑が8~9月(2ヵ月)、秋が10~11月(2ヵ月)、冬が12~2月(3ヵ月)です。独立した季節として猛暑を設けたのです。確かに今の夏は、猛獣のように暴れています。実は夏場に多い急性心血管疾患五季はアパレル業界の販売戦略上の提案ですが、気候変動は循環器領域の疾患の発生にも影響します。心筋梗塞などの心臓病は、一般には冬場に多くみられますが、実は夏場に発症する場合も多いことがわかってきました。猛暑下では、高齢者だけでなく50歳以下の若年者も突然発症する危険があります。夏場に発症する心臓病の多くは、暑さによる脱水症状が誘因です。猛暑が密かに牙をむくのは、熱中症だけではないのです。こういった気温などの環境要因と疾患の発症率の関係については多くの研究が報告されています。JAHA誌に2025年5月に掲載された「Temperature Exposure and Acute Cardiovascular Disease Risk in New York City(ニューヨーク市における気温曝露と急性心血管疾患リスク)」というタイトルの興味深い論文があります1)。これによると、最高気温・最低気温・平均気温が高いほど虚血性脳卒中の確率が高くなり、日中の気温差が小さいほど心筋梗塞の確率が高くなるそうです。地球温暖化に伴い、単に気温が上昇するだけでなく、気温差の減少も見込まれるので、心血管イベントの増加が懸念されるとしています。根性だけでは乗り切れない予防策を考えてみましょう。「水を飲む」──シンプルですが、それだけに侮れません。のどが渇く前に飲む。外で働く人も、屋内にいても、冷房に当たっていても油断禁物です。汗は気付かぬうちに蒸発していきます。とにかく、こまめに。のどが渇く前に飲む。トイレが近くなるのを気にしてはいけません。「トイレが近くなるから控えよう」は命取りです。むしろ「出る」ということは「うるおっている」という証です。出るものが出ているうちは、体もうるおっているのです。今や、夏の代名詞である甲子園も変わりつつあります。日本高校野球連盟によれば、選手の暑さ対策のため、今年の夏の大会から開会式を夕方午後4時から実施することを決めました。開会式の後は午後5時半から1試合、開幕試合のみを行います。試合を午前と夕方に分けて行う2部制を、大会1日目から6日目まで実施します。昭和の根性一本槍では、もはや命が持ちません。球児たちも、今ではまず水分補給と塩分チャージです。昭和生まれはどうも「我慢=美徳」という文化の中で育ってきました。「昔はエアコンなんかなくても平気だった」「水は飲まずに部活を乗り切った」、そんな武勇伝は今では語り草です。気候が変われば時代も変わるのです。令和の猛暑は、昭和の夏とは別物です。根性論だけでは倒れます。冷房を使うのは「甘え」ではありません。命を守る行動です。日傘も帽子も、身を守る武装つまり鎧(よろい)です。男性の日傘も、最近は「日陰を持ち歩くダンディ」として注目されつつあります(たぶん)。五季を乗りこなせ!私たちはいま、「四季に生きる」時代から、「五季を乗りこなす」時代へと移行しています。そしてこの第五の季節「猛暑」は、静かに血液を濃くし、心筋梗塞という形で命を奪う危険すら秘めているのです。だからこそ、今日の1杯の水、1回の涼み時間、ちょっとした休憩が、命を守る戦略になるのです。それは「甘え」ではなく「戦略」です。最後に一句。「水ひとつ 命を守る 猛暑かな」あなたのその一口が、心臓を守り、今年の夏を乗り切る小さな一歩になるかもしれません。どうか、「我慢」より「安全に」を合言葉に。根性論への皮肉の一句。「我慢する 美徳が死因 この猛暑」参考1)Krasnov H, et al. Temperature Exposure and Acute Cardiovascular Disease Risk in New York City: Case Time Series. J Am Heart Assoc. 2025;14:e039503.

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異物除去(1):異物の確認【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q145

異物除去(1):異物の確認Q145手などの表皮の皮内、皮下に異物を混入させて受診するケースがある。肉眼で異物を確認できることもあるが、既知の評価方法では、レントゲンやエコーで評価する場合もある。ほかにも異物を目視できるデバイスがあるだろうか。

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MASLDの目標体重は?【脂肪肝のミカタ】第7回

MASLDの目標体重は?Q. MASLD治療の現状と体重の目標設定は?代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)に対して、本邦で推奨されている治療は食事・運動両面からの体重減量が基本である。そのほか、提案されている治療として併存疾患(2型糖尿病、肥満症、脂質異常症)に対する治療が挙げられる。高度の肥満症では、減量手術も選択肢となる1-3)。減量目標として、本邦を含むアジアでの非肥満MASLD症例も多いことを踏まえ、2024年に欧州肝臓学会ガイドラインでは、BMIに応じた体重減量の基準が設定された。具体的には、BMI 25.0kg/m2以上の症例では従来通り、体重5%以上の減量で脂肪化が改善し、7%以上の減量で炎症や線維化が改善するとされた。BMI 25.0kg/m2未満では体重3~5%の減量が妥当とされた(図1)2)。(図1)MASLDの体重減量の目標画像を拡大する 1) Rinella ME, et al. Hepatology. 2023;77:1797-1835. 2) European Association for the Study of the Liver (EASL) ・ European Association for the Study of Diabetes (EASD) ・ European Association for the Study of Obesity (EASO). J Hepatol. 2024;81:492-542. 3) 日本消化器病学会・日本肝臓学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020. 南江堂

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