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体がだるくて横になりたい【漢方カンファレンス2】第5回

体がだるくて横になりたい以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう) 【今回の症例】 30代男性 主訴 全身倦怠感、頭痛、めまい、微熱 既往 特記事項なし 生活歴 医療従事者、喫煙なし、機会飲酒 病歴 X年8月に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患。咽頭痛や38℃台の発熱があったが、合併症はなく2日後には解熱した。 その後、全身倦怠感、頭痛、ふらふらとするめまいが出現、夕方になると37℃台の微熱がでる日が続いた。疲労感が強く仕事に支障が出るようになり、休息をとったり、欠勤したりしないと体が動かない。 総合診療科で精査を受けたが明らかな異常なし。11月に漢方治療目的に受診。 現症 身長174cm、体重78.5kg。体温37.2℃、血圧110/60mmHg、脈拍56回/分 整 経過 初診時 「???(A)」エキス+「???(B)」エキス3包 分3で治療を開始。 2週後 少し動けるようになった。まだ仕事を休むことがある。 寒くなって体が冷えるようになった。 ブシ末エキス1.5g 分3を併用。 1ヵ月後 めまいや頭痛が改善した。まだ体が冷える。 「???(B)」を「???(C)」エキスに変更した。(解答は本ページ下部をチェック!) 2ヵ月後 冷えと全身倦怠感が軽くなった。 5ヵ月後 普通に働けるようになり、残業もできるようになった。 問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 体の冷えを自覚しますか? 体のどの部位が冷えますか? 横になりたいほどの倦怠感はありませんか? 感染してから寒がりになって体が冷えるようになりました。 いつも厚着をしています。 体全体が冷えます。 きつくていつも横になりたいです。 微熱はどのくらいですか? いつ出ますか? 熱っぽさはありますか? 37℃前半です。 夕方に出ることが多いです。 体熱感はありません。 熱が出る前はぞくぞくと体が冷えます。 入浴では長くお湯に浸かるのが好きですか? 入浴で温まると体は楽になりますか? 冷房は苦手ですか? 入浴時間は長いです。 温まると少し楽になるのですが、入浴後はすぐに体が冷えてしまいます。 冷房は嫌いです。 のどは渇きますか? 飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか? のどは渇きません。 温かい物を飲んでいます。 <飲水・食事> 1日どれくらい飲み物を摂っていますか? 食欲はありますか? 味覚はありますか? 1日1Lくらいです。 食欲はあります。 味覚は異常ないです。 <汗・排尿・排便> 汗はよくかくほうですか? 尿は1日何回出ますか? 夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか? 便秘や下痢はありませんか? 汗はあまりかきません。 尿は4〜5回/日です。 布団に入ってからはトイレに行きません。 下痢気味で1日2〜3回です。 便の臭いは強いですか? 弱いですか? 嘔気はありませんか? 便の臭いは強くありません。 嘔気はありません。 <ほかの随伴症状> 頭痛やめまいはどのような感じですか? 雨や低気圧で悪化しませんか? 頭痛は頭全体が重い感じがします。 歩くとふらふらとめまいがします。 雨が降ると頭痛やめまいはひどい気がしますが、天気がよくても頭痛はあります。 全身倦怠感はとくにいつが悪いですか? とくにきついときはいつですか? 横になると楽になりますか? 日中きついですが朝がとくにぐったりします。 仕事をしたり、動いたりすると悪化します。 仕事もきつくて休みがちです。 よく眠れますか? 中途覚醒や悪夢はありませんか? 眠れますが熟睡感はありません。 中途覚醒や悪夢はありません。 咳や痰はありませんか? 昼食後に眠くなりませんか? のどのつまりはありませんか? 抜け毛が多いですか? 集中力がなかったりしませんか? 皮膚は乾燥しますか? 咳や痰はなくなりました。 昼食後は眠くなります。休みの日はほぼ1日中寝ています。 のどのつまりはありません。 抜け毛が多いです。 集中できずに、頭が働かない感じがあります。 皮膚は乾燥します。 意欲の低下や不安はありませんか? 体がきつくてやる気が出ません。 このまま治らないのではと不安です。 【診察】診察室でも厚手の上着を羽織っている。脈診では沈で反発力の非常に弱い脈。また、舌は暗赤色、湿潤した薄い白苔、舌下静脈の怒張あり。腹診では腹力はやや充実、両側胸脇苦満(きょうきょうくまん)、心下痞鞕(しんかひこう)、腹直筋緊張、両臍傍の圧痛を認めた。下肢の触診では冷感あり。カンファレンス 今回は30代男性のCOVID-19罹患後症状の症例です。 頻度は高くないものの、コロナ感染後にいわゆる後遺症といわれるような全身倦怠感を中心としたさまざまな症状が持続する方がいます。現代医学的にも確立された治療法がないので漢方という選択肢があるのはよいですね。 漢方治療でもCOVID-19罹患後症状は症状が多彩でまだ確立された治療があるとはいえませんが、こんなときこそ漢方診療のポイントに沿った治療が大事です。今回の症例は、全身倦怠感以外にも、頭痛、めまい、微熱、集中力の低下と症状がたくさんあります。 どこから手をつけるべきか悩ましいですね。全身倦怠感、めまい、頭痛ということで気虚や水毒が目立つ気がします。 漢方診療のポイントに沿って全体像を捉えていくことが大事だよ。 わかりました。では漢方診療のポイント(1)病態の陰陽ですが、本症例は37℃台前半の熱があることから陽証で、さらに夕方に熱が出るという病歴から少陽病の往来寒熱(おうらいかんねつ)が考えられます。 よく覚えていますね。胸脇苦満もありますし、少陽病の往来寒熱と合致しますね。 体温をそのまま熱ととってはいけないよ。漢方では体温計で測定した温度でなく、あくまで患者の自覚的な熱や冷えを重視するんだ。陰証で発熱するときに用いる漢方薬があるよ。覚えているかい? えっと、少陰病の麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)です。寒が主体の陰証の風邪に用いるのでした。 そのとおり。発熱はあってもゾクゾクと冷えて倦怠感が強いことが特徴でしたね。 ほかには?? …わかりません。 同じく少陰病の真武湯(しんぶとう)、さらに四逆湯(しぎゃくとう)でも発熱がみられることがあるんだ。陰証の最後のステージである厥陰病では「陰極まって陽」のように強い冷えがあるにもかかわらず、逆に発熱があったり、顔が赤かったりすることがあり、それを裏寒外熱(りかんがいねつ)とよぶよ。だから、一見すると陽証にみえることもあるんだ。 厥陰病でも発熱がみられることがあるのですね。アイスクリームの天ぷらのような状態ですね。 裏寒外熱がある場合は通脈四逆湯(つうみゃくしぎゃくとう)が典型だけど、真武湯や四逆湯の適応例でも発熱する場合があるとされているよ。これらは、真の熱ではなく、見せかけの熱といった意味で虚熱(きょねつ)というよ。 患者の自覚的な熱感や冷えのほかに鑑別する方法はありますか? 入浴や飲み物などの寒熱刺激に対する情報や四肢の触診などの所見も大事だけど、最終的には脈の浮沈や反発力が頼りになるね。陰証の場合の脈は沈・弱が特徴だからね。 もう一度、本症例の漢方診療のポイント(1)陰陽の判断からみていきましょう。 微熱がありますが体熱感がなく、感染後から寒がりで体が冷えるようになった、厚着、入浴時間は長い、入浴後にすぐに体が冷えるなどから陰証が揃っていますね。それに脈も沈ですから少陽病とは考えにくいですね。 そうだね。入浴で温まってもすぐに冷える、下肢の触診でも冷感があり、冷えの程度が強そうだね。六病位はどうだろう? 横になりたいほどの倦怠感からは少陰病が示唆されます。本症例の微熱を裏寒外熱とすれば、厥陰病の可能性もありますか? そうですね。脈の力が非常に弱いので厥陰病で四逆湯の適応も考えられます。ですからこの症例は少陰病〜厥陰病、虚証でよいでしょう。 「しまりがなく、細い茹でうどんが水にふやけたような」軟弱無力な脈は四逆湯の診断に重要だね。当科の回診でもこの脈が四逆湯の適応だ! と強調して必ず研修に来た先生に触れてもらっているよ。 本症例の虚実ですが、脈は弱ですが、腹力は中等度より充実と一致していません。どう考えたらよいでしょうか? 脈のほうが変化が早く、現在の状態を表しているといえるので、脈の所見を重視したほうがよいだろうね。それも軟弱無力な典型的な四逆湯の脈だからね。 漢方診療のポイント(3)気血水の異常はどうでしょうか? 全身倦怠感、昼食後の眠気は気虚です。頭痛やめまいがありますが、雨天と関連があるので水毒です。 気虚と水毒がありますね。下痢や尿の回数が4〜5回と少ないのも水毒です。ほかはどうでしょうか? 抜け毛が多い、皮膚の乾燥は血虚です。 頭が働かない感じで集中できないというのも血虚を示唆するよ。血虚は皮膚、筋肉、髪だけの問題ではないからね! COVID-19罹患後症状のブレインフォグは血虚や腎虚と考えるとよい印象があるね。 覚えておきます。とくに朝調子が悪い、やる気が起きないというのは気鬱でしょうか。 そうだね。これだけきつそうだと気鬱もあるよね。ほかにはどうだろう? 舌下静脈の怒張、臍傍圧痛は瘀血です。今回の症例は気血水の異常もたくさんありますね。 なかなか手強い症例ですね。また精査で明らかな異常はなく、30代と働き盛りなのにこれだけきつがっているのは非常につらい倦怠感で煩躁(はんそう)と考えてよさそうですね。 ハンソウ? どこかで聞いたような? 非常に苦しがっている状態を煩躁というのでしたね。煩躁といえば、考えられる処方は? …。 陽証だと大青竜湯(だいせいりゅうとう)、陰証だと呉茱萸湯(ごしゅゆとう)、茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)が代表でした。インフルエンザの症例で、麻黄湯(まおうとう)のように無汗、多関節痛に加えて、非常に苦しがっている場合に大青竜湯、頭痛で非常に苦しがっている場合に呉茱萸湯、冷えて非常につらい倦怠感を訴える場合に茯苓四逆湯が適応になるのでした。 ここはキモだから覚えておかないといけないね。その他エキス剤にはないけど、小青竜加石膏湯(しょうせいりゅうかせっこうとう)、乾姜附子湯(かんきょうぶしとう)、桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)などが煩躁に適応する処方だよ。 本症例をまとめます。 【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?厚着、寒がり、体が冷える、下肢の冷感、横になりたいほどの倦怠感、脈:沈→陰証(少陰病〜厥陰病)×微熱、往来寒熱、胸脇苦満→脈や冷えから少陽病ではなさそう(2)虚実はどうか脈:非常に弱い、腹:やや充実→虚証(脈を優先)(3)気血水の異常を考える全身倦怠感、食後の眠気→気虚意欲の低下、朝調子が悪い→気鬱頭痛、めまい、雨天に悪化→水毒抜け毛、皮膚の乾燥、集中力の低下→血虚舌下静脈の怒張、臍傍圧痛→瘀血(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む非常につらい倦怠感、脈が軟弱無力解答・解説【解答】本症例は、茯苓四逆湯の方意でA:真武湯+B:人参湯(にんじんとう)で治療開始しました。また経過中に人参湯からC:附子理中湯(ぶしりちゅうとう)に変更しました。【解説】四逆湯は少陰病〜厥陰病に用いられる漢方薬で附子(ぶし)、乾姜(かんきょう)、甘草(かんぞう)で構成されます。四逆湯を現代医学で例えると、敗血症性ショックで低体温をきたした症例に保温しながら急速補液とノルアドレナリンで昇圧するイメージです。動物実験で出血性ショックモデルに対して茯苓四逆湯を投与すると心拍出量の増加と体温保持作用を示したという研究1)や四逆湯類がエンドトキシンショックに対して、血圧上昇、好中球数の上昇の抑制などによりショック予防効果を示したとする報告2)があります。現代は四逆湯を重篤な急性疾患に用いることはまれですが、慢性疾患で冷えや全身倦怠感がともに高度な場合に活用します。通脈四逆湯も四逆湯と同じく附子、乾姜、甘草で構成されますが、乾姜の比率が多くなります。乾姜はとくに消化・呼吸に関連する臓器を温めて賦活する作用が主体で、通脈四逆湯は体の中心を温めて元気をつけていくような漢方薬です。茯苓四逆湯は四逆湯に補気作用のある茯苓(ぶくりょう)と人参(にんじん)を加えたものです。茯苓四逆湯や通脈四逆湯はエキス製剤にはありませんが、茯苓四逆湯は人参湯エキスと真武湯エキスで代用できます。今回のポイント「少陰病・厥陰病」の解説陰証は寒が主体の病態で、少陰病になってくると寒が強く全身に及び、陰証のまっただ中になります。新陳代謝が低下して体力が衰えていることが特徴です。そのため少陰病は、生体の闘病反応が乏しく実証(じっしょう)であることはなく虚証(きょしょう)のみになります。脈も沈んで反発力が弱くなります。疲れやすくてすぐに横になりたがることが多く、「横になるところがあれば横になりたいですか?」「座るところがあったら座りたいですか?」と問診して、少陰病でないか確認します。さらに陰証の最後のステージである厥陰病に進行すると、冷えと全身倦怠感の程度が一段と強くなり、「極度の虚寒」、「極虚(きょくきょ)」といわれます。脈は沈んで、反発力が非常に弱い軟弱無力な脈で、「しまりがなく、細い茹でうどんが水にふやけたような、緊張感のない脈」とたとえられます。厥陰病は急性感染症ではショック状態に陥ったような危篤状態ですが、慢性疾患では冷えと倦怠感がどちらも強度で極度に疲弊した状態を厥陰病と捉えて治療します。また厥陰病では「陰極まって陽」のように強い冷えがあるにもかかわらず、逆に発熱があったり、顔が赤かったりすることがあります(裏寒外熱)。そのため一見すると陽証にみえることもあります。少陰病や厥陰病の治療では、代表的な熱薬である附子(トリカブトの根を加熱処理して弱毒化したもの)を含む漢方薬を用いて治療します。少陰病では真武湯や麻黄附子細辛湯が代表です。さらに進行すると附子とともに乾姜(生姜を蒸して乾燥させたもの)を用いて強力に体を温める治療を行います。附子、乾姜、甘草の3つの生薬から構成される漢方薬は四逆湯が基本となり、茯苓四逆湯や通脈四逆湯を用いて治療します。今回の鑑別処方附子と乾姜はそれぞれ温める力の強い熱薬といわれる生薬です。それぞれ温める部位や作用に違いがあって附子は先天の気を貯蔵する腎とかかわりが強く、そのほかに関節痛などに対する鎮痛作用があります。乾姜は消化や呼吸にかかわる消化管や肺を温める作用があります。また温め方にも違いがあり、附子はバーナーで炙ったり、電子レンジで温めたりするような急速に体全体を温めるイメージですが、乾姜は炭火でコトコトじっくり内臓を温めるイメージです。表に附子や乾姜が含まれる代表的な漢方薬を示しました。乾姜を含む漢方薬の場合、漢方薬が合っている場合は乾姜の辛みを感じずに甘く感じることがあります。逆に乾姜を含む漢方薬を必要としない症例では、辛くて飲みづらいと訴えます。人参湯には乾姜が含まれ、さらに附子を加えると附子理中湯になります。同様に大建中湯(だいけんちゅうとう)や苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)も冷えが強ければ附子を加えて治療します。四逆湯は附子と乾姜を両方とも含みます。本症例のように茯苓四逆湯は人参湯エキスと真武湯エキスを併用するとエキス製剤で代用が可能です。通脈四逆湯には乾姜が多く含まれています。ちょっと苦しいですが、エキス剤のなかで比較的乾姜の量の多い苓姜朮甘湯にブシ末を併用することで代用することもあります。また実際の附子の漸増の方法として、慎重に行う場合、(1)最も気温が低下する朝1包(0.5g)増量、(2)朝夕に1包ずつ増量(1.0g)、(3)毎食後3包 分3に増量(1.5g)と順を追ってするとよいでしょう。慣れてくれば本症例のように、常用量のブシ末を一度に3包(1.5g)分3で増量することも可能です。参考文献1)木多秀彰 ほか. 日東医誌. 1995;46:251-256.2)Zhang H, et al. 和漢医薬雑誌. 1999;16:148-154.

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第280回 ターミナルケア・ビジネスの危うさ露呈、「医心館」で発覚した「実態ない診療報酬請求」、調査結果の解釈はシロなのかグレーなのか?(前編)

アンビス運営のホスピス型住宅で起きていたと報道された診療報酬の不正請求について特別調査委員会が報告書を公表こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末はいろいろなことがありました。石破 茂首相が突然、退陣表明をしました。各紙報道を読む限り、どうやら参院選大敗の責任をとったのではなく、自民党内の権力闘争に敗れた結果ということのようです。自民党は相変わらず国民の生活そっちのけで、旧態依然とした党内抗争を続けています。そのこと自体が参院選の敗北含めた国民離れを招いていることに気付いていないのでしょうか。謎です。ロサンゼルス・ドジャースの山本 由伸投手が、ノーヒット・ノーランを最後のワンアウトで逃したのも残念な結果でした。なぜ山本投手はあそこでカットボールを投げたのでしょう(この日結構投げていたので狙われた可能性も) 。素人考えですが、スプリットを低めに落としておけば楽に三振を取れたような気もします。こちらも謎です。さて、2025年8月8日、アンビスホールディングス(東京都中央区、代表取締役CEO柴原 慶一)は、同社子会社運営のホスピス型住宅で診療報酬の不正請求があったとの報道に関し、特別調査委員会の報告書を公表しました。報告書は「通知に係る法的認識の不十分さや記録の不整備」により、診療報酬請求の要件を満たしていなかった事案があったとする一方で、「多額の診療報酬を受けるために架空の事実をねつ造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない」と結論付けました。この報告書によって、「不正請求はなかった」と一件落着したように見えますが、なかなかどうして、その後も不正行為の存在を報じる報道もあり、問題の収束にはまだ時間がかかりそうです。「医心館」併設の訪問看護ステーションで不正に診療報酬を請求していた疑いがあると共同通信が報道アンビスホールディングスの子会社のアンビス(東京都中央区)は、末期がん患者や難病患者向けのホスピス型住宅「医心館」を全国で運営しています。同社は名古屋大学出身の医師、柴原 慶一氏が2013年に設立。末期がんや難病の人を最期まで看取る施設が少ないことから急成長し、8月末日現在、全国で約130ヵ所を展開するまでになっています。ホスピス型住宅は、施設のカテゴリーとしては「住宅型有料老人ホーム」に位置付けられます。住宅型とは、施設内のスタッフではなく、外部(といっても、併設の訪問看護ステーション、訪問介護事業所を使うケースが大半ですが)スタッフによって看護・介護を提供します。今年3月、共同通信がこの「医心館」において併設する訪問看護ステーションで不正に診療報酬を請求した疑いがある、と報じたことをきっかけに、医心館のケア内容に注目が集まることになりました。訪問看護だけでなく訪問介護についても不正があったようだとの続報も「【独自】ホスピス最大手で不正か 全国120ヵ所『医心館』」と題された3月23日付の共同通信の記事は次のように書いています。「『医心館』のうち複数のホームで、併設の訪問看護ステーションが入居者への訪問について実際とは異なる記録を作り、不正に診療報酬を請求していたとみられることが23日、内部文書や複数の元社員の証言で分かった。元社員らは、必要ないのに訪問して過剰に報酬を請求する行為も常態化していたと指摘している」。さらに、「末期がんなどの患者への訪問看護では、必要があれば1日3回まで診療報酬を請求でき、複数人での訪問には加算が付く。訪問時間は原則、30分以上と定められている。関東のそれぞれ別の地域で働いていた複数の看護師によると、医心館では併設のステーションの看護師らが入居者の居室を巡回。いずれも『必要性に関係なく全員、最初から1日3回訪問と決まっていた』と証言した。『実際には大半が数分間の訪問だったが『30分』と記録していた』『1人で訪問した場合でも複数人での訪問として、報酬を請求していた』などと口をそろえた」と具体的な請求方法について元職員の証言をベースに報じました。さらに共同通信は4月27日、「医心館、訪問介護でも不正請求か ホスピス最大手、会社ぐるみ疑い」と題するニュースを発信、「『医心館』を巡り、訪問介護でも不正・過剰な介護報酬を請求していたとみられることが27日、複数の現・元社員の証言で分かった。共同通信が入手した社内のオンライン会議の動画では、会社ぐるみで不正を行っていた疑いも判明した」と報じ、「医心館では看護・介護とも入居者への訪問予定表が1日ごとに作成される。『予定表通りに実施した』として記録を作り、報酬を請求していたが、実際には予定通り訪問しないことが多かった」などという元職員の証言を紹介しています。「批判を受けるに値する」としつつも「多額の診療報酬を受けるために架空の事実をねつ造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない」と報告書こうした不正請求疑惑に対し、アンビスホールディングスは、3月27日に社外の弁護士や会計士で構成された特別調査委員会を設置、報道内容に関わる事実関係として、(1)1日3回の訪問看護を設定する必要性の有無、(2)短時間訪問の実態、(3)複数名での訪問看護を設定する必要性および複数名訪問看護の実態、(4)(1)~(3)の検討結果等を踏まえたアンビスによる診療報酬請求の当否、(5)類似事案の有無、について調査を進めてきました。8月8日に公表された調査の結果では、「本件通知(厚労省通知)に定める訪問看護時間に比して明らかに短時間であると認められる事例や、複数名訪問の同行者を欠いたと認められる事例が存した。また、勤怠記録と訪問看護記録の齟齬並びに確定時期の異常値に照らせば、訪問実態に疑義を呈さざるを得ない事例も存した」として、さまざまな記録の不備、営利優先の発想が認められること、訪問看護におけるルートの設定及び人員配置の問題性、法令遵守の意識の低さ、業務遂行を確保する組織体制が不十分であったこと、社内におけるコミュニケーションの不足など、さまざまな問題点を指摘、「批判を受けるに値する」としつつも「多額の診療報酬を受けるために架空の事実をねつ造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない」としました。厚労省通知に定める「訪問看護」の実態を欠く事案は診療報酬額で約5,300万円に相当調査の結果、明らかに短時間の訪問と見なされた訪問看護記録は6万5,227件で、そこから複数名の訪問看護を要すると判断される記録を除く9,990件は、通知に定める「訪問看護」の実態を欠く事案であると判定、診療報酬額で約5,300万円に相当するとしました。加えて、訪問看護記録上は複数名訪問となっていたが実態が認められなかったと判定したのは1,352件(約359万円)でした。この他、調査の過程で、本社コンプライアンス部の運営指導対策の一環として、タイムカードの写しが書き換えられていたことも判明しています。職員の勤怠記録と訪問看護記録の食い違いがあった訪問看護または訪問介護業務について、ほかの資料などからも、サービス提供の実態があったと確認できなかった事案が970件(約514万円)あったとしました。 特別調査委員会は、正確な記録を残していなかった、通知との適合性確認を十分行わないなど法令順守の意識が低かった、現場任せの運用で適切な訪問看護業務を遂行するための組織体制が整備されていなかった、などの点が訪問実態に疑義のある事案が発生した原因になったと分析。再発防止策として、正確な記録作成の徹底、適正な訪問ルートの作成とそれに見合った人員配置、内部統制の再構築などを提言しています。アンビスホールディングスは「影響額は僅少なもの」と発表調査報告書を受けた後、8月8日にアンビスホールディングスは「特別調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」を公表、「本件調査での影響額としては63 百万円あまり(調査対象期間売上総額の0.05%程度)と僅少なもの」と報告、この金額について「訪問看護記録を検証した場合に、看護実態を示す記載が不十分であると認定されたものであり、看護実態がないと認定されたものではございません」とするとともに、「訪問看護における医療行為が実態のあるものと特別調査委員会により判断されたものと認識」「看護実態について根拠資料の記載が不十分であると認定されたケースは、記録の登録ミス及び記載不足などによる形式的なエラーがその大部分を占めるものと認識」など、意図的な不正請求はなかった点を強調しています。そして、訪問看護の提供実態の根拠となる資料の記載が不十分であるとの指摘には、「調査報告書の指摘を真摯に受け止め、改善に努める」「組織構造の変更・人員配置の適正化で記録の不備が起きにくい体制を構築するとともに、少額ではあるものの誤謬が発生したことに対し、より一層ミスが起きにくい組織体制を実現するよう取り組んでいく」としました。気になった報告書の内容とアンビスの解釈のズレ特別調査委員会の報告書は、端的に言えば”上場企業にもかかわらず、運営体制はグダグダでひどすぎる”という内容でした。「批判を受けるに値する」という厳しい指摘もありました。しかし当のアンビスホールディングスは「訪問看護には実態があった。不正請求はなかったと判断された」と少々ズレた受け止め方をしています。加えて、業績に対する影響の話とはいえ「6,300万円は売上総額の0.05%程度で僅少」という捉え方にも違和感を覚えます。株主対策として「僅少」と言いたいのかもしれませんが、診療報酬には税金も入っており、単なる企業の売上とは意味合いが異なります。普通、医療機関が6,300万円も不正請求をしたら、保険医療機関取り消しとなるでしょう。ズレ、違和感は、マスコミの報道でも感じました。共同通信や全国紙の多くが「実態のない診療報酬の請求額が6,300万円あった」ことにフォーカスしていた一方で、「結果はシロ」「共同通信社に対する訴訟も求める声も高まっている」と、真逆ともとれる報道をするメディアもありました。一体、どちらの解釈が正しいのでしょうか?(この項続く)

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末梢静脈穿刺における「超音波ガイド法」vs.「ランドマーク法」【論文から学ぶ看護の新常識】第30回

末梢静脈穿刺における「超音波ガイド法」vs.「ランドマーク法」超音波ガイド法の有用性は患者の穿刺困難度によって大きく異なり、困難例には有用な一方で、容易例には逆効果となり得ることが、多田 昌史氏らの研究により示されている。The Cochrane Database of Systematic reviews誌2022年12月12日号掲載のこの報告を紹介する。成人患者の末梢静脈穿刺における超音波ガイド法とランドマーク法との比較研究チームは、成人患者への末梢静脈カニューレ挿入時における超音波ガイド法の有用性を、ランドマーク法(触診と視診だけを頼りに血管を探す標準的な方法)と比較評価することを目的に、システマティックレビューとメタアナリシスを行った。主要評価項目は、初回穿刺成功率、カニューレ挿入の全体的成功率、および疼痛とした。副次評価項目は、初回穿刺の処置時間、カニューレ挿入全体の処置時間、試行回数、患者満足度、および合併症とした。主な結果は以下の通り。合計2267例の参加者を対象とした16の研究(うちランダム化比較試験[RCT]14件、準RCT2件)が分析対象となった。穿刺が「困難」な患者の場合:超音波ガイド下では、初回穿刺の成功率が1.5倍に上昇し(リスク比[RR]:1.50、95%信頼区間[CI]:1.15~1.95)、穿刺の試行回数も減少した(平均差[MD]:−0.33、95%CI:−0.64~−0.02)。カニューレ挿入の全体的成功率(RR:1.40、95%CI:1.10~1.77)、および患者満足度(標準化平均差[SMD]0.49、95%CI:0.07~0.92)も向上した。一方で、初回穿刺の手技時間は119.9秒延長した(95%CI:88.6~151.1)。穿刺の困難度が「中等度」の患者の場合:超音波ガイドは、初回穿刺の成功率が1.14倍(RR:1.14、95%CI:1.02~1.27)に上昇したが、手技時間も95.2秒延長した(95%CI:72.8~117.6)。穿刺が「容易」な患者の場合:超音波ガイド下では、初回穿刺の成功率が11%低下し(リスク比:0.89、95%CI:0.85~0.94)、疼痛が有意に増加した(MD:0.60、95%CI:0.17~1.03)。また、初回穿刺の手技時間も94.8秒延長した(95%CI:81.2~108.5)。超音波ガイドは、穿刺が困難な患者では利益をもたらす可能性があるが、穿刺が容易な患者においては初回成功率の低下や疼痛の増加により利益をもたらさない可能性がある。今回は、多くの看護師が直面する「困難な末梢静脈確保(Difficult IntraVenous Access:DIVA)」という課題に対し、超音波ガイド下末梢静脈カテーテル挿入の有用性を評価した、システマティックレビューをご紹介します。看護師が主体となってエコーを用いる機会は増えているように感じます。その効果を最大化させるための参考になると思いますので、ぜひ活用してみてください。ポイント1:DIVAが予測される、または既に複数回穿刺に失敗している患者さんには、超音波ガイド下穿刺を積極的に検討研究結果では、DIVA患者に対する超音波ガイド法の有効性が明確に示されました。視触診で血管が見えない・触れない場合や、過去に複数回の穿刺失敗歴がある患者さんには、積極的に超音波の使用を検討すべきです。これにより、患者さんの苦痛軽減と効率的な血管確保に繋がります。ポイント2:容易に血管が見つかる患者さんには、従来のランドマーク法を優先研究結果から、穿刺が容易な患者さんへの超音波ガイド法は逆効果であることが示されています。実際に手技時間が延長するだけでなく、初回穿刺の失敗率も上昇、痛みも増加しています。全例に超音波を適用すると、機器の準備や管理、スタッフの重複などから業務負担が増加するかと思います。あくまでも超音波の使用が適切か判断して使用することが望ましいでしょう。ポイント3:技術の習得が不可欠超音波ガイド下穿刺の効果を最大限に引き出すには、看護師の技術習得が不可欠です。定期的なトレーニングや経験を積み、熟練度を維持・向上させることが重要です。また超音波ガイド下で挿入が可能なスタッフを少しずつ増やして行きましょう。この研究結果から、末梢静脈確保における超音波の適切な活用が、看護ケアの質を向上させる有力な手段であることが示されました。適切な患者選定と、看護師の皆さんのスキルアップが、より安全で効率的な血管確保に繋がります。論文はこちらTada M, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2022;12(12): CD013434.

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日本女性、出産意欲の向上に関連する要素は?/神奈川県立保健福祉大学

 少子化が進む日本では、合計特殊出生率が2024年に1.15と過去最低を記録し、社会保障制度や労働力維持への影響が深刻化している。女性の就労率は上昇しているものの、長時間労働や不十分な育児支援のため、キャリアと出産・育児の両立は依然として課題である。こうした中、東京・丸の内エリアの企業に勤務する女性を対象に、キャリア志向と妊娠意欲の関連を明らかにする大規模調査が行われ、その結果がBMC Women’s Health誌2025年9月2日号に掲載された。 本研究は「働く女性の健康スコア」プロジェクトとして産学連携で実施され、三菱地所、ファムメディコの協力のもと、神奈川県立保健福祉大学教授の吉田 穂波氏らが中心となって行った。2022年9月13~10月11日に14社に勤務する19~65歳の女性社員を対象にオンライン調査を行い、3,425人が回答した。妊娠意欲の分析対象は40歳未満の1,621人とした。調査内容には年齢、婚姻状況、妊娠希望の有無に加え、月経症状や婦人科受診歴、生活習慣、勤務形態、職場環境、キャリア意識などの情報が含まれた。 主な結果は以下のとおり。・妊娠希望は、現在子供がいるかどうかにかかわらず、「将来子供を持つこと、またはさらに子供を持つことを希望する人」と定義された。40歳未満の妊娠希望群1,108例(将来妊娠を希望:922例、すでに子供がおり、さらに妊娠を希望:186例)と妊娠希望なし群513例が解析対象となった。・妊娠希望群は妊娠希望なし群と比較して、若く、既婚で、自身の健康管理に積極的である傾向が強かった。また、身体的健康への自信があり、睡眠の質も良好な傾向があった。・月経困難症の重症度、月経前症候群、健康リテラシー全般に関しては、両群間に有意差は認められなかった。・妊娠希望群は、正社員・フルタイム労働者であること、事務職ではなく営業職に就いていること、キャリアアップへの意欲が高い傾向があった。・職場環境要因(仕事へのエンゲージメントや、女性特有の症状に対する男性同僚の理解など)については、両群間に有意差は認められなかった。 研究者らは「調査の結果、妊娠意欲と関連していたのは、職業の安定性、職種、キャリア志向、健康管理への積極性であった。自身のキャリアの将来性に自信を持つ女性は、子供を持つことにも前向きになる可能性が示された。一方、日本では女性管理職比率が13%と主要国に比べ低水準であり、長時間労働や男性の育児休業取得率の低さ(2023年時点で17.1%)が依然として障壁となっている。昇進の継続性や雇用安定性を保障し、家庭形成とキャリアを両立可能にする制度設計が、出生率回復に寄与する可能性がある」とした。

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双極症に対する気分安定薬使用が認知機能に及ぼす影響〜メタ解析

 気分安定薬は、双極症に一般的に用いられる薬剤である。中国・四川大学のChang Qi氏らは、双極症患者に対する気分安定薬の使用が認知機能に及ぼす影響を評価するため、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2025年7月26日号の報告。 PubMed、Web of Science、Embase、Cochrane library、PsycInfoのデータベースよりシステマティックに検索した。データ抽出はPRISMAガイドラインに従い、品質評価はCochrane Handbookに準拠し、実施した。メタ解析には、RevMan 5.4ソフトウェアを用いた。 主な結果は以下のとおり。・RCT9件、双極症患者570例をメタ解析に含めた。・思春期の双極症患者における気分安定薬治療は、感情処理の正確性(標準化平均差[SMD]:-1.18、95%信頼区間[CI]:-1.69〜-0.67、p<0.00001)、反応時間延長(SMD:-0.39、95%CI:-0.73〜-0.05、p=0.02)に対し、有意な影響が認められた。・気分安定薬治療は、青年期の双極症における注意力(SMD:0.21、95%CI:-0.16〜0.58、p=0.27)および作業記憶(SMD:-0.09、95%CI:-2.19〜2.00、p=0.93)、成人期の双極症における全般的認知機能(SMD:0.48、95%CI:-0.49〜1.45、p=0.33)に対し、有意な影響を及ぼさなかった。・リチウム治療は、青年期の双極症における注意力(SMD:0.21、95%CI:-0.16〜0.58、p=0.27)、成人期の双極症における全般的認知機能(SMD:0.43、95%CI:-0.50〜1.35、p=0.37)に対し、有意な影響を及ぼさなかった。 著者らは「気分安定薬治療は、青年期の認知機能全般および特定の認知機能に悪影響を及ぼすことなく、感情処理の正確性を向上させ、反応時間を延長させる可能性が示唆された。これらの知見を裏付けるためにも、さらなる研究が求められる」としている。

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がん患者への早期緩和ケア、終末期の救急受診を減少

 がん患者を中心に、早期からの緩和ケア介入の重要性が示唆されているが、実際の患者アウトカムにはどのような影響があるのか。緩和ケア受診後の救急外来受診のタイミングと回数について調査した、韓国・ソウル大学病院で行われた単施設後ろ向きコホート研究の結果がJAMA Network Open誌2025年7月15日号に掲載された。 ソウル大学病院のYe Sul Jeung氏らは2018~22年に、ソウル大学病院で緩和ケア外来に紹介され、2023年6月25日までに転帰が確定した成人の進行がん患者3,560例(年齢中央値68歳、男性60.2%)を解析した。主要評価項目は全期間と終末期(死亡前30日内)の救急外来受診数だった。 主な結果は以下のとおり。・3,560例中、救急外来を受診したのは920例(25.8%)で延べ数は1,395件、終末期の救急外来受診は378例(10.6%)で延べ数は474件だった。・早期の緩和ケアの紹介は、終末期の救急外来受診の減少と関連した(紹介から死亡までの期間が1ヵ月延びるごとにオッズ比[OR]:0.84、95%信頼区間[CI]:0.80~0.89)。一方、早期に緩和ケアに紹介された患者は観察期間が延びることが影響し、全期間での救急外来受診数は増加した(OR:1.04、95%CI:1.02~1.06)。・救急外来の受診理由のうち、68.7%ががん関連症状だった。終末期は呼吸器症状(37.3%)、重症者(韓国式トリアージ・緊急度判定尺度[KTAS]に基づく)が多く(45.2%)、救急外来滞在時間中央値は11.6時間で、非終末期(20.0%、8.5時間)よりも重篤かつ長時間だった。・救急外来受診のリスク因子は、年齢が若い(65歳未満、全体OR:1.25、終末期は有意差なし)、首都圏在住(全体OR:2.92、終末期OR:3.29)、造血器腫瘍(全体OR:2.46、終末期OR:2.79)、紹介時にがん治療継続計画あり(両者ともOR:2.60)だった。・アドバンス・ケア・プランニング(ACP)文書を作成していた患者は、緩和ケア紹介前では1割に満たなかった。緩和紹介後の作成場所としては、緩和ケア外来での作成が最多だったが、救急外来での作成例も2割(救急外来受診690例中138例)存在した。 研究者らは「早期の緩和ケア紹介群は観察期間が長くなり、全期間の救急外来受診数は増えたものの、終末期の救急外来受診回数が減るという臨床的メリットが示された。これには症状マネジメント、ケア調整、ACPの段階的な実施が寄与していると考えられる。一方、若い患者や造血器腫瘍の患者は終末期を含む救急外来受診のリスクが高く、こうした患者には先制的な症状管理、在宅支援、緊急時の手順作成を手厚くするなどの対応が必要だろう」としている。

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小児心臓弁膜症、部分心臓移植は実現可能か/JAMA

 現在、弁形成術の適応とならない小児の心臓弁膜症の治療に使用されている、死亡ドナー由来の同種組織(ホモグラフト)のインプラントは成長能力や自己修復能力を持たないことから、これらの患者はインプラント交換のために何度も再手術を受けることになる。米国・デューク大学のDouglas M. Overbey氏らは、先天性心臓弁膜症患者における成長能力を有する心臓弁を用いた部分心臓移植(=生体弁置換術)の初期の結果を記述し、実行可能性、安全性、有効性を評価する症例集積研究を実施した。JAMA誌オンライン版2025年8月27日号掲載の報告。半月弁の移植を受けた19例 本研究では、2022年4月~2024年12月に米国内の小児心臓外科・移植センターで部分心臓移植を受けた最初の19例について解析した(Brett Boyer Foundationなどの助成を受けた)。 これらの患者は修復不可能な先天性心臓弁機能不全を有しており、ドナー心臓由来の半月弁(大動脈弁、肺動脈弁)を用いた部分心臓移植が行われた。維持免疫抑制療法としてタクロリムス単剤(トラフ値の目標値は4~8ng/mL)を投与した。 19例(男性10例[53%]、女性9例[47%])の移植時の年齢中央値は97日(範囲:2日~34年)、体重中央値は4.65kg(2.5~85.8)であった。追跡期間中央値は26.4週(範囲:11.3~153.6)。弁輪径、弁尖長が増加、狭窄や逆流は発生せず 最初の9例について移植弁の成長を調べた。移植されたすべての弁は良好に機能し、適切なzスコアに即した成長を示した。 弁輪径中央値は、大動脈弁で7mmから14mmへ、肺動脈弁で9mmから17mmへとそれぞれ増加した。肺動脈弁の弁輪径の増加は統計学的に有意であった(p=0.004)。同様に、弁尖長中央値も、大動脈弁で0.5mmから1mmへ、肺動脈弁で0.49mmから0.675mmへと増加した。肺動脈弁の弁尖長の増加は統計学的に有意だった(p=0.004)。 術後早期と追跡期間中の最新の心エコー検査所見を比較検討したところ、観察された肺動脈弁輪径の増加は、弁の拡張ではなく成長を反映するものと考えられた。全体として、退院時に、移植された大動脈弁または肺動脈弁に重大な狭窄や逆流が生じた患者はいなかった。免疫抑制薬関連の重大な合併症はない 術後1ヵ月に1例が再手術を要したが、移植弁との関連はなかった。1例で、B群溶血性レンサ球菌による呼吸器感染症が発生したが、抗菌薬治療で回復した。また、2例に腎障害が発現し、免疫抑制薬の用量調節を要したものの、免疫抑制薬に関連した重大な合併症は認めなかった。 著者は、「部分心臓移植は、弁置換術に成長可能な生体組織を提供し、これは現行の技術の重大な限界の克服につながる可能性がある」「この方法は万能な解決策ではなく、さらなる改良を要する発展段階にある有望な技術と認識することがきわめて重要である」「長期的な影響を完全に理解し、より広範な先天性心疾患への適用を進めるための研究が求められる」としている。

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「かぜ」への抗菌薬処方、原則算定不可へ/社会保険診療報酬支払基金

 社会保険診療報酬支払基金は8月29日付けの「支払基金における審査の一般的な取扱い(医科)において、一般に「風邪」と表現される「感冒」や「感冒性胃腸炎」などへの内服の抗生物質製剤・合成抗菌薬を処方した場合の算定は、“原則認められない”とする方針を示した。 支払基金・国保統一事例は以下のとおり。取扱い 次の傷病名に対する抗生物質製剤【内服薬】又は合成抗菌薬【内服薬】※の算定は、原則として認められない。※ペニシリン系、セフェム系、キノロン系、マクロライド系の内服薬で効能・効果に次の傷病名の記載がないものに限る。(後述参照)(1)感冒(2)小児のインフルエンザ(3)小児の気管支喘息(4)感冒性胃腸炎、感冒性腸炎(5)慢性上気道炎、慢性咽喉頭炎取扱いを作成した根拠等 抗生物質製剤は細菌または真菌に由来する抗菌薬、合成抗菌薬は化学的に合成された抗菌薬で、共に細菌感染症の治療において重要な医薬品である。 感冒やインフルエンザはウイルス性感染症、気管支喘息はアレルギーや環境要因に起因して気道の過敏や狭窄等をきたす疾患、また、慢性咽喉頭炎を含む慢性上気道炎は種々の原因で発生するが、細菌感染が原因となることは少ない疾患で、いずれも細菌感染症に該当しないことから、抗菌薬の臨床的有用性は低いと考えられる。 以上のことから、上記傷病名に対する抗生物質製剤【内服薬】又は合成抗菌薬【内服薬】の算定は、原則として認められないと判断した。<製品例>ペニシリン系アモキシシリン水和物(商品名:サワシリン、ワイドシリン ほか)アモキシシリン水和物・クラブラン酸カリウム(同:オーグメンチン、クラバモックス ほか)アンピシリン水和物(同:ビクシリン ほか)セフェム系セファレキシン(同:ケフレックス ほか)セフジニル(同:セフゾン ほか)セフカペンピボキシル塩酸塩水和物(同:フロモックス ほか)キノロン系レボフロキサシン水和物(同:クラビット ほか)シタフロキサシン水和物(同:グレースビット ほか)トスフロキサシントシル酸塩水和物(同:オゼックス ほか)メシル酸ガレノキサシン水和物(同:ジェニナック)ラスクフロキサシン塩酸塩(同:ラスビック)マクロライド系アジスロマイシン水和物(同:ジスロマック ほか)クラリスロマイシン(同:クラリス、クラリシッド ほか)エリスロマイシンステアリン酸塩(同:エリスロシン ほか)

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AIによる診療記録作成で医師のバーンアウトが減少

 診察室での医師と患者の会話を自動的に記録して解析し、診療記録を生成する技術をAmbient Documentation Technology(ADT)という。新たな研究で、ADTの使用は臨床医のバーンアウト(燃え尽き症候群)の減少やウェルビーイングの向上と関連していることが示された。米マス・ジェネラル・ブリガム(MGB)のRebecca Mishuris氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に8月21日掲載された。 この研究の背景情報によると、診療記録の負担は臨床医のバーンアウトの一因とされている。今回の研究でMishuris氏らは、ADTを試験的に導入しているマサチューセッツ州のMGBとジョージア州のエモリーヘルスケアにおけるADTの使用状況を調べ、ADTの使用が臨床医の記録業務負担の感じ方およびバーンアウトに与える影響を検討した。 ADTを用いる場合、臨床医は人工知能(AI)が作成したレポートを確認してから、電子医療記録(EHR)に入力する。MGBでは2023年7月に18人の医師によりADTプログラムの使用が開始され、1年後には使用者が800人以上にまで拡大した。2025年4月には全ての医療提供者がADTシステムを利用できるようになり、3,000人以上が日常的にツールを活用しているという。 対象は、ADTを42日以上使用し、使用前後の調査に回答したMGBの臨床医873人(65.6%は医師の経験が10年超、女性54.8%)とエモリーヘルスケアの臨床医557人(51.3%は医師の経験が10年超、女性55.5%)の計1,430人である。MGBの臨床医のうち265人が事前調査と42日後の事後調査、192人が事前調査と84日後の事後調査に回答した。一方、エモリーヘルスケアの臨床医は、62人が事前調査と84日後の事後調査に回答した。 MGBでは128人(48.5%)が50%以上の診察記録にADTを使用していると回答した。一方、エモリーヘルスケアでは27人(43.5%)がほとんどもしくは全ての診療記録にADTを使用していると回答した。また、ADTを人に勧めたいと思うかを0〜10点で評価するスコア(10点が最高)は、MGBでもエモリーヘルスケアでも中央値が8.0点と高く、ADTに対する満足度の高いことが示された。 さらに、MGBでのバーンアウト発生率は、ADT使用の42日後には使用前の50.6%(134/265人)から29.4%(78/265人)へ、使用の84日後には使用前の52.6%(101/192人)から30.7%(59/192)へといずれも有意に減少していた。一方、ウェルビーイングについては、エモリーヘルスケアにおいて、「ADTがウェルビーイングに良い影響を与える」と答えた割合が、使用前の1.6%(1/62人)から使用後には32.3%(20/62人)へと有意に増加していた。 調査に回答した臨床医の一人は、「ADTは非常に役立っている。患者やその家族とのコミュニケーションが確実に改善され、診療が楽になった」と回答した。また別の医師は、「患者との会話で、後で話の内容を忘れてしまう心配をせずに患者の目を見て話せるので、診療の喜びが確実に増加した。ツールが進化すれば、医師としての経験を根本的に変えることになると思う」と回答した。さらに、「AIが生成した文章をコピー&ペーストして編集するのは面倒だが、それはある意味、機械的にできる作業だ。何時間も経ってから一から文章を作るのは、もっと頭を使う作業になる。午後になると集中力が途切れ、忙しいときには記入すべきカルテが山積みになり、もはや記録する余裕すらなくなる。そのため、記録が半分完成しているのは本当に助かる」という回答も見られた。 研究グループは、AIが進化するにつれ、バーンアウトの発生率が経時的に改善するかどうかを継続的に追跡していく予定だと述べている。

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肺切除後の肺瘻リスク、低侵襲開胸手術で軽減の可能性

 肺切除術は肺がん治療の要となるが、術後早期に肺瘻(空気漏れ)が生じることも少なくない。今回、手術アプローチの違いが肺瘻の発生率や転帰に影響する可能性があるとする研究結果が報告された。ILO1805試験の事後解析で、胸腔鏡手術(TS)の方が低侵襲開胸手術(MIOS)よりも肺瘻の発生率が有意に高く、その持続期間やドレーン留置期間も長くなる傾向が示されたという。研究は山形大学医学部附属病院第二外科の渡辺光氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に7月21日掲載された。 肺切除後の遷延性肺瘻は患者の5〜25%に発生し、膿胸や再手術、入院延長を招く代表的な合併症である。肺瘻のリスクを抑えるためには、術中の適切な空気漏れの修復が重要だが、TSでは視野が限られ、処置が難しい場合がある。一方、直接視野と胸腔鏡補助を組み合わせたハイブリッド胸腔鏡補助下手術(VATS)やMIOSは、空気漏れの修復を容易にする可能性がある。しかし、これらの手術アプローチと術後の肺瘻との関連は十分に検証されていない。ILO1805試験は国内21施設で実施された、肺切除後の肺瘻に対するドレーン管理法を検討する前向き観察研究であるが、手術アプローチや周術期管理に関する統一プロトコルは設けられていなかった。このような背景から著者らは、この試験の事後解析として、手術アプローチが術後転帰に及ぼす影響を検討した。 本解析には、ILO1805試験参加者2,187名のうち、皮膚切開8cm以下で解剖学的肺切除術を受けた1,168名が含まれた。患者は手術アプローチに基づき、TS群(皮膚切開5cm以下で肋骨開排なし)とMIOS群(皮膚切開5〜8cm)の2群に分類された。両群のバランスを調整するため2:1の傾向スコアマッチングを行い、最終的な解析対象はTS群284名、MIOS群142名となった。早期の術後肺瘻(E-AL)は術後0日または1日に発生した空気漏れと定義し、単変量および多変量のロジスティック回帰モデルにより、E-ALと有意に関連するリスク因子を特定した。 参加者の年齢中央値は71歳で、男性は683名(58.5%)含まれた。手術アプローチについては1022名(87.5%)がTS手術を受けていた。肺切除後のE-ALは290名(24.8%)に認められた。 E-ALのリスク因子を特定するために単変量ロジスティック回帰解析を行った結果、E-ALを認めた患者は、男性(P<0.001)、喫煙歴あり(P=0.007)、BMI<18.5 kg/m2(P=0.024)、FEV1.0%≦70%(P=0.013)、胸膜癒着あり(P<0.001)、TS(P=0.024)、およびフィブリンシーラント使用(P<0.001)である可能性が高かった。対応する多変量モデルでは、男性、BMI<18.5 kg/m2、TS、胸膜癒着、フィブリンシーラント使用がE-ALに関連する因子として同定された。 傾向スコアマッチング後の解析では、術後0日目のE-AL発生率はTS群でMIOS群より有意に高かった(33.8% vs. 16.9%、P<0.001)。この差は術後1日目でも認められた(28.2% vs. 16.2%、P=0.009)。術後の空気漏れの平均持続期間は、TS群よりMIOS群で有意に短かった(1.2±2.0日 vs. 0.6±1.7日、P=0.003)。ドレーン留置期間の平均も同様に、MIOS群で短かった(2.9±1.8日 vs. 2.4±1.9日、P=0.009)。 本研究について著者らは、「本研究は、MIOSアプローチが術中の空気漏れの修復においてより有効であり、結果として肺瘻のリスクを低下させる可能性を示唆している。ただし、E-ALの頻度低下が合併症の減少や入院期間の短縮といった臨床的な利点につながるかどうかは明らかではない。空気漏れの持続期間の差は小さいものの、E-ALを抑制することで、MIOSアプローチは術後の早期退院に寄与する可能性がある。これらの利点を検証するには、今後の前向き研究が必要である」と述べている。

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白血球増多【日常診療アップグレード】第38回

白血球増多問題52歳男性。健康診断で白血球数14,000/μLと、白血球数の増加を認めたため二次健診で受診した。昨年度の健診では白血球数12,000/μLであった。症状はない。ヘモグロビンと血小板数には異常を認めない。既往歴に脂質異常症があり、アトルバスタチンを内服中である。20歳から20本/日の喫煙歴がある。バイタルサインと身体所見は正常である。白血球増多は喫煙のためと判断した。

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9月9日 救急の日【今日は何の日?】

【9月9日 救急の日】〔由来〕暦の語呂合わせから救急業務および救急医療に対する国民の正しい理解と認識を深め、救急医療関係者の意識高揚を図ることを目的に1982(昭和57)年に厚生省(現厚生労働省)が制定。この日を含む1週間を「救急医療週間」として消防庁、厚生労働省、都道府県・市町村などの協力のもと、全国各地で各種行事を開催している。関連コンテンツ電話相談って困るんだけど…【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】重症熱中症には“Active Cooling”を!【救急診療の基礎知識】地震で多発するクラッシュ症候群、現場での初期対応は?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】救急診療部のHCVスクリーニング、最適な方法とは/JAMA救急外来におけるアルコール使用障害マネジメントの課題

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第283回 B型肝炎ウイルス(HBV)への免疫と糖尿病を生じ難くなることが関連

B型肝炎ウイルス(HBV)への免疫と糖尿病を生じ難くなることが関連B型肝炎ウイルス(HBV)ワクチンの糖尿病予防効果を示唆する台湾の研究者らの試験結果1)が、まもなく来週開催される欧州糖尿病学会(European Association for the Study of Diabetes:EASD)年次総会で報告されます2,3)。具体的には、HBVワクチンのおかげでHBVへの免疫が備わった人は、糖尿病全般を生じ難いことが示されました。高血糖が続いて心血管疾患、腎不全、失明などの深刻な事態を招く糖尿病の世界の患者数は昨年6億例弱を数え、このままなら2050年までに45%上昇して8億例を優に超える見込みです4)。当然ながら糖尿病治療の経済的な負担は甚大で、総医療費の12%を占めます。肝臓は体内の糖が一定に保たれるようにする糖恒常性維持の多くを担っています。空腹時にはグリコーゲン分解と糖新生により血糖値が下がりすぎないようにし、食後にはグリコーゲン合成によって余分な糖をグリコーゲンに変えて血糖値を抑えます。そのような糖恒常性をHBV感染が害するらしいことが先立つ研究で示唆されています。HBVのタンパク質の1つHBxが糖新生に携わる酵素の発現を増やして糖生成を促進し、糖を落ち着かせる働きを妨げるようです。HBV感染者はそうでない人に比べて糖尿病である割合が高いことを示す試験がいくつかありますし、約5年の追跡試験ではHBV感染と糖尿病を生じやすいことの関連が示されています5)。そういうことならワクチンなどでのHBV感染予防は糖尿病の予防でも一役担ってくれるかもしれません。実際、10年前の2015年に報告された試験では、HBVワクチン接種成功(HBsAb陽性、HBcAbとHBsAgが陰性)と糖尿病が生じ難くなることの関連が示されています6)。その糖尿病予防効果はワクチンがHBV感染を防いで糖代謝に差し障るHBV感染合併症(肝損傷や肝硬変)を減らしたおかげかもしれません。それゆえ、HBVワクチンの糖尿病予防効果がHBV感染予防効果と独立したものであるかどうかはわかっていません。その答えを見出すべく、台湾の台北医学大学のNhu-Quynh Phan氏らは、HBVに感染していない人の糖尿病発現がHBVへの免疫で減るかどうかをTriNetX社のデータベースを用いて検討しました。HBV感染を示す記録(HBsAgかHBcAbが陽性であることやHBVとすでに診断されていること)がなく、糖尿病でもなく、HBVへの免疫(HBV免疫)があるかどうかを調べるHBsAb検査の記録がある成人90万例弱の経過が検討されました。それら90万例弱のうち60万例弱(57万3,785例)はHBsAbが10mIU/mL以上(HBsAb陽性)を示していてHBV免疫を保有しており、残り30万例強(31万8,684例)はHBsAbが10mIU/mL未満(HBsAb陰性)でHBV免疫非保有でした。HBV感染者はすでに省かれているので、HBV免疫保有群はワクチン接種のおかげで免疫が備わり、HBV免疫非保有群はワクチン非接種かワクチンを接種したものの免疫が備わらなかったことを意味します。それら2群を比較したところ、HBV免疫保有群の糖尿病発現率は非保有群に比べて15%低くて済むことが示されました。さらにはHBV免疫がより高いほど糖尿病予防効果も高まることも示されました。HBsAbが100mIU/mL以上および1,000mIU/mL以上であることは、10mIU/mL未満に比べて糖尿病の発現率がそれぞれ19%と43%低いという結果が得られています。年齢、喫煙、糖尿病と関連する肥満や高血圧といった持病などを考慮して偏りが最小限になるようにして比較されましたが、あくまでも観察試験であり、考慮から漏れた交絡因子が結果に影響したかもしれません。たとえばワクチン接種をやり通す人は健康により気をつけていて、そもそも糖尿病になり難いより健康的な生活習慣をしているかもしれません。そのような振る舞いが結果に影響した恐れがあります。HBV免疫が糖尿病を防ぐ仕組みの解明も含めてさらなる試験や研究は必要ですが、HBVワクチンはB型肝炎と糖尿病の両方を防ぐ手立てとなりうるかもしれません。とくにアジア太平洋地域やアフリカなどのHBV感染と糖尿病のどちらもが蔓延している地域では手頃かつ手軽なそれらの予防手段となりうると著者は言っています1)。 参考 1) Phan NQ, et al. Diagnostics. 2025;15:1610. 2) Study suggests link between hepatitis B immunity and lower risk of developing diabetes / Eurekalert 3) Hepatitis B vaccine linked with a lower risk of developing diabetes / NewScientist 4) International Diabetes Federation / IDF Atlas 11th Edition 2025 5) Hong YS, et al. Sci Rep. 2017;7:4606. 6) Huang J, et al. PLoS One. 2015;10:e0139730.

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irAE治療中のNSAIDs多重リスク回避を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第68回

 今回は、免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象(irAE)の治療でステロイド投与中の高齢がん患者に対し、NSAIDsによる多重リスクを評価して段階的中止を提案した事例を紹介します。複数のリスクファクターが併存する患者では、アカデミック・ディテーリング資材を用いたエビデンスに基づくアプローチが効果的な処方調整につながります。患者情報93歳、男性基礎疾患肺がん(ニボルマブ投与歴あり)、急性心不全、狭心症、閉塞性動脈硬化症、脊柱管狭窄症ADL自立、息子・嫁と同居喫煙歴40本/日×40年(現在禁煙)介入前の経過2020年~肺がんに対してニボルマブ投与開始2025年3月irAEでプレドニゾロン40mg/日開始、その後前医指示で中止2025年6月3日irAE再燃でプレドニゾロン40mg/日再開処方内容1.プレドニゾロン錠5mg 8錠 分1 朝食後2.テルミサルタン錠40mg 1錠 分1 朝食後3.クロピドグレル錠75mg 1錠 分1 朝食後4.エソメプラゾールカプセル10mg 2カプセル 分1 朝食後5.フロセミド錠20mg 1錠 分1 朝食後6.スピロノラクトン錠25mg 1錠 分1 朝食後7.フェブキソスタット錠10mg 1錠 分1 朝食後8.リナクロチド錠0.25mg 2錠 分1 朝食前9.ジクトルテープ75mg 2枚 1日1回貼付本症例のポイント本症例は、93歳という超高齢で複数の基礎疾患を有するがん患者であり、irAE治療のステロイド投与とNSAIDsの併用が引き起こす可能性のある多重リスクに着目しました。患者は肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の副作用であるirAEに対して、プレドニゾロン40mg/日という高用量ステロイドの投与を受けていました。同時に疼痛管理としてNSAIDsであるジクトルテープ2枚を使用していました。一見すると症状は安定していましたが、薬剤師の視点で患者背景を詳細に評価したところ、見過ごされがちな重大なリスクが潜んでいることが判明しました。第1に胃腸障害リスクです。高用量ステロイドとNSAIDsの併用は消化性潰瘍の発生率を相乗的に増加させることが知られており、93歳という高齢に加え、既往歴も有する本患者ではとくにリスクが高い状況でした。第2に心血管リスクです。患者には急性心不全や狭心症の既往があり、さらに閉塞性動脈硬化症も併存していました。NSAIDsは心疾患患者において心血管イベントのリスクを増加させるため、この併用は極めて危険な状態といえました。第3の最も注意すべきは腎臓リスク、いわゆる「Triple whammy」の状況です。NSAIDs、ループ利尿薬(フロセミド)、ARB(テルミサルタン)の3剤併用は急性腎障害の発生率を著しく高めることが報告されており、高齢者ではとくに致命的な合併症につながる可能性がありました。これらの多重リスクは単独では見落とされがちですが、患者の全体像を包括的に評価することで初めて明らかになる重要な安全性の問題です。医師への提案と経過患者の多重リスクを評価し、服薬情報提供書を用いて医師に処方調整を提案しました。現状報告として、irAE治療でプレドニゾロン40mg/日投与中であり、ジクトルテープ2枚使用で疼痛は安定しているものの、複数のリスクファクターが併存していることを伝えました。懸念事項については、アカデミック・ディテーリング※資材を用いて消化性潰瘍リスク(ステロイドとNSAIDsの併用は潰瘍発生率を有意に増加)、心血管リスク(NSAIDsは既存心疾患患者で心血管イベントリスクを増加)、Triple whammyリスク(3剤併用による急性腎障害発生率の増加)について説明しました。※アカデミック・ディテーリング:コマーシャルベースではない、基礎科学と臨床のエビデンスを基に医薬品比較情報を能動的に発信する新たな医薬品情報提供アプローチ 。薬剤師の処方提案力を向上させ、処方の最適化を目指す。提案内容として段階的中止プロトコールを提示し、ジクトルテープ2枚から1枚に減量、2週間の疼痛評価期間を設定、疼痛悪化がないことを確認後に完全中止するという方針を説明しました。将来的な疼痛悪化時のオピオイド導入準備と疼痛モニタリング体制の強化についても提案しました。医師にはエビデンス資料の提示により多重リスクの危険性について理解が得られ、段階的中止プロトコールが採用となり、患者の安全性を優先した方針変更となりました。経過観察では1週間後にジクトルテープ1枚に減量しましたが疼痛悪化はなく、2週間後も疼痛コントロールが良好であることを確認し、3週間後にジクトルテープを完全中止しましたが疼痛の悪化はありませんでした。現在も疼痛コントロールは良好で、多重リスクからの回避を達成しています。参考文献1)日本消化器病学会編. 消化性潰瘍診療ガイドライン2020(改訂第3版). 南山堂;2020.2)Masclee GMC, et al. Gastroenterology. 2014;147:784-792.3)Lapi F, et al. BMJ. 2013;346:e8525.

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高齢者への不適切処方で全死亡リスク1.3倍、処方漏れで1.8倍

 高齢者に対する薬剤治療においては、ポリファーマシーや処方漏れなどの問題点が指摘されている。イスラエルの研究グループによる長期前向きコホート研究によると、高齢者の80%以上が不適切な処方を受けており、不適切な薬剤を処方された群では死亡リスクが上昇した一方で、必要な薬剤の処方漏れも死亡リスクの上昇と関連していたという。本研究の結果はJournal of the American Geriatrics Society誌オンライン版2025年8月11日号に掲載された。 研究者らは、イスラエルの縦断前向きコホート研究の第3回追跡調査(1999~2007年)で収集されたデータを使用し、地域に住む高齢者1,210例(平均年齢72.9歳、女性53%)を対象に、不適切処方と長期死亡率との関連性を評価した。不適切な処方には「不要あるいは有害になり得る薬剤の処方(Potentially Inappropriate Medications:PIM)」と「必要処方の省略(Prescribing Omissions:PPO)」が含まれており、それらの識別には米国の2023年版Beers基準と欧州のSTOPP/START基準(v3)が用いられた。死亡は診断コードで特定され、主要アウトカムは全死亡率と非がん死亡率だった。参加者は死亡または2022年3月まで追跡され、追跡期間の中央値は13年だった。 主な結果は以下のとおり。・参加者の81.2%が1件以上の不適切な処方を受けており、PIMはBeers基準で52.6%、STOPP基準で45.0%、PPOは59.3%だった。・PIMが2件以上の場合、Beers基準では全死亡リスクが1.3倍(HR:1.31、95%CI:1.04~1.69)、STOPP基準では1.25倍(HR:1.25、95%CI:1.00~1.55)増加した。PIMが2件以上の場合、非がん死亡リスクの増加とも関連した(両基準とも1.4倍)。・PPOが1件の場合、非がん死亡リスクは1.3倍になった。PPOが2件以上の場合、全死亡リスクは1.8倍、非がん死亡リスクは2倍となった。男性ではより強い関連性が認められた(相互作用p=0.012)。 著者らは「薬剤の過剰処方と必要な薬剤の不足の両方が、高齢者の死亡リスクを著しく増加させていた。これは定期的な薬剤処方見直しの必要性、性別に応じた薬剤ガイドラインの確立、処方問題の特定と是正のためのシステム改善の重要性を示している」としている。

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DPP-4阻害薬でコントロール不十分な2型糖尿病にイメグリミン追加が有効~FAMILIAR試験

 食事療法・運動療法・DPP-4阻害薬投与で血糖コントロール不十分な成人2型糖尿病患者に対して、イメグリミンの追加により24週までにHbA1c値が有意に低下したことが、多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化試験(FAMILIAR試験)の中間解析で示された。川崎医科大学の加来 浩平氏らがDiabetes, Obesity and Metabolism誌2025年6月号で報告した。 FAMILIAR試験は、国内21施設で実施中の二重盲検プラセボ対照無作為化試験で、2022年6月22日~2023年8月1日に、推奨される食事療法と運動療法およびDPP-4阻害薬単剤療法を順守しているにもかかわらず血糖コントロールが不十分な成人2型糖尿病患者を、イメグリミン群とプラセボ群に無作為に1:1に割り付けた。24週間の二重盲検期間ではイメグリミン1,000mgまたはプラセボを1日2回経口投与、その後の80週間の非盲検期間では全例にイメグリミン1,000mgを1日2回経口投与した。主要評価項目は、24週目におけるHbA1c値のベースラインからの変化であった。ここでは24週までの中間解析(データカットオフ:2023年12月28日)の結果が報告された。 主な結果は以下のとおり。・117例がイメグリミン群(58例、うち65歳以上が33例)とプラセボ群(54例、うち65歳以上が31例)に無作為に割り付けられた(除外5例)。・24週目のHbA1c値の最小二乗平均のベースラインからの変化は、イメグリミン群で-0.65%(標準誤差[SE]:0.11%)、プラセボ群で0.38%(SE:0.11%)で、群間差は-1.02%(95%信頼区間[CI]:-1.33~-0.72、p<0.001)であった。65歳未満ではイメグリミン群で-0.47%(SE:0.17%)、プラセボ群で0.32%(SE:0.18%)で、群間差は-0.79%(95%CI:-1.29~-0.29、p=0.003)、65歳以上ではイメグリミン群で-0.80%(SE:0.14%)、プラセボ群で0.42%(SE:0.14%)で、群間差は-1.22%(95%CI:-1.61~-0.82、p<0.001)であった。・イメグリミン群で1例に軽度の低血糖が発現したが、安全性プロファイルは良好であった。 今回の結果から著者らは、「イメグリミンは、65歳以上の高齢者を含む、DPP-4阻害薬で十分な血糖コントロールが得られない2型糖尿病患者に新たな治療選択肢となる可能性がある」としている。

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うつ病治療において有酸素運動と組み合わせるべき最適な治療は

 非薬理学的介入としての有酸素運動は、これまでのうつ病治療における有効な補助療法であるといわれている。しかし、有酸素運動による介入に関する包括的な評価は依然として不十分である。中国・海南師範大学のLei Chen氏らは、うつ病患者における有酸素運動と併用したさまざまな治療介入の有効性をシステマティックに評価するため、ネットワークメタ解析を実施した。Frontiers in Psychiatry誌2025年7月25日号の報告。 PICOSフレームワークに基づき、2024年6月までに公表されたランダム化比較試験(RCT)をPubMed、Web of Science、Cochrane Library、Embase、Scopus、CNKI、Wanfang、CBMより検索した。スクリーニングおよびデータ抽出は、独立して実施した。ネットワークメタ解析はStata 15.0およびR 4.4.1、バイアスリスクはCochrane Risk of Biasツール、エビデンスの質はCINeMAを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・RCT合計37件(うつ病患者3,362例)をメタ解析に含めた。・5つの有酸素運動との併用治療(電気痙攣療法[ECT]、反復経頭蓋磁気刺激療法[rTMS]、中国伝統医学[TCM]、選択的セロトニン再取り込み阻害薬[SSRI]治療、認知行動療法[CBT])を評価した。・累積順位曲線下面積(AUC)に基づく結果は、次のとおりであった。【ハミルトンうつ病評価尺度(HAMD)】ECT併用>rTMS併用>TCM併用>SSRI併用>CBT併用>理学療法>運動療法>CBT単独>TCM単独>対照療法【ベックうつ病評価尺度(BDI)】SSRI併用>ECT併用>CBT併用>運動療法>CBT単独>対照療法>理学療法【うつ性自己評価尺度(SDS)】TCM併用>CBT併用>対照療法>CBT単独 著者らは「現在のエビデンスでは、うつ病治療における有酸素運動介入の併用は、単独療法よりも優れていることが示唆されている。なかでも、SSRI併用による有酸素運動介入は、強いRCTエビデンスおよび高品質のエビデンスにより評価されており、最も推奨される併用療法であると考えられる。その他の併用療法については、今後の大規模かつ高品質の試験による検証が求められる」と結論付けている。

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心房細動と動脈硬化、MRIで異なる脳血管病変示す/ESC2025

 心房細動(AF)とアテローム性動脈硬化症(以下、動脈硬化)は、一般集団と比較して脳血管病変の発生率を高める。今回、AF患者は動脈硬化患者と比較して、非ラクナ型脳梗塞、多発脳梗塞、重度の脳室周囲白質病変の発生頻度が高いことが明らかになった。本研究結果はカナダ・マクマスター大学のTina Stegmann氏らが8月29日~9月1日にスペイン・マドリードで開催されたEuropean Society of Cardiology 2025(ESC2025、欧州心臓病学会)の心房細動のセッションで発表し、European Heart Journal誌オンライン版2025年8月29日号に同時掲載された。 本研究は、AF患者と動脈硬化患者の脳MRIによる血管性脳病変の有病率と分布を比較するため、スイスの心房細動コホート研究(Swiss-AF、AF患者を対象)とCOMPASS MIND研究(COMPASS MRIサブ解析、AFのない動脈硬化患者を対象)を実施。ベースライン時点の臨床データと標準化された脳MRIを使用して、ラクナ梗塞と非ラクナ型脳梗塞、脳室周囲および白質高信号(WMH)、微小出血(CMB)の発生率をグループ間で比較した。 主な結果は以下のとおり。・調査対象は3,508例(AF群:1,748例、動脈硬化群:1,760例)であった。・平均年齢±SDはAF群73±8歳、動脈硬化群71±6歳、女性比率はそれぞれ28%と23%であった。・AF群の90%は抗凝固療法が行われ、動脈硬化群の93%は抗血小板療法が行われていた。・AF群は動脈硬化群と比較し、非ラクナ型脳梗塞の発生率が高く(22%vs.10%、p<0.001)、一方で動脈硬化群ではラクナ梗塞の発生率が高かった(21%vs.26%、p=0.001)。・AF患者では脳室周囲白質病変の重症度が高く(49%vs.37%、p<0.001)、CMBは、動脈硬化群でより多く認められた(22%vs.29%、p<0.001)。・多変量解析では、AF群は動脈硬化群と比較して、非ラクナ型脳梗塞のオッズ比(OR)が高く(OR:2.28、95%信頼区間[CI]:1.86~2.81、p<0.001)、ラクナ梗塞では低かった(OR:0.66、95%CI:0.56~0.79、p<0.001)。また、重度の脳室周囲白質病変はOR1.42と高かった(95%CI:1.22~1.67、p<0.001)。 研究者らは「これらの知見は、心血管疾患患者での血管性脳病変の発症における疾患特異的なメカニズムを裏付けている」としている。

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肥満手術、SADI-SはRYGBを凌駕するか/Lancet

 2007年以来、Roux-en-Y胃バイパス術(RYGB)に代わる肥満治療として、スリーブ状胃切除術+単吻合十二指腸バイパス術(SADI-S)が提案されている。フランス・Hospices Civils de LyonのMaud Robert氏らSADISLEEVE Collaborative Groupは、2年のフォローアップの結果に基づき、肥満治療ではRYGBよりもSADI-Sの有効性が高いとの仮説を立て、これを検証する目的で多施設共同非盲検無作為化優越性試験「SADISLEEVE試験」を実施。術後2年の時点で、RYGB群と比較してSADI-S群は優れた体重減少効果を示し、安全性プロファイルは両群とも良好であったことを報告した。研究の詳細は、Lancet誌2025年8月23日号で報告された。超過体重減少率を比較 本研究では、2018年11月~2021年9月にフランスの22の肥満治療施設で参加者を募集して行われた(フランス保健省の助成を受けた)。 対象は、年齢18~65歳、BMI値40以上、またはBMI値35以上かつ1つ以上の肥満関連合併症(2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、睡眠時無呼吸、変形性関節症)を併発し、初回手術として、またはスリーブ状胃切除術後の再手術として、SADI-SまたはRYGBが予定されている患者であった。スリーブ状胃切除術以外の減量手術歴、炎症性腸疾患、1型糖尿病、未治療のヘリコバクター・ピロリ感染を有するなどの患者は除外した。 被験者を、SADI-Sを受ける群またはRYGBを受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、2年時点での超過体重減少率(%EWL)とした。%EWLは、([2年後受診時の体重-ベースライン体重]/[ベースライン体重-理想体重])×100の式で算出し、理想体重は各参加者のBMI値が25となる体重と定義した。%EWLが有意に良好、優越性を確認 381例を登録し、190例をSADI-S群、191例をRYGB群に割り付けた。全体の平均年齢は44.4(SD 10.64)歳(範囲:20~65)、265例(70%)が女性で、平均BMI値は46.2(SD 6.4)であった。ベースラインで119例(31%)が2型糖尿病、168例(44%)が高血圧、132例(35%)が脂質異常症、262例(69%)が閉塞性睡眠時無呼吸症候群を有しており、79例(21%)がスリーブ状胃切除術を受けていた。 ITT集団における2年時の平均%EWLは、RYGB群が-68.09(SD 28.70)%であったのに対し、SADI-S群は-76.00(26.65)%と有意に良好であり(平均群間差:-6.71%[95%信頼区間[CI]:-12.64~-0.80]、p=0.026)、SADI-S群の優越性の仮説が確証された。 per-protocol解析でも同様の結果が得られ、%EWLはSADI-S群で有意に優れた(平均%EWL:SADI-S群-76.55[SD 25.95]%vs.RYGB群-67.74[28.48]%、平均群間差:-7.39[95%CI:-13.25~-1.54]、p=0.014)。安全性プロファイルも良好 手術関連の早期(≦30日)合併症は、SADI-S群で10例(6%)、RYGB群で3例(2%)に発現し(p=0.042)、それぞれ4例および3例で早期の再手術を要した。また、手術関連の後期(>30日)合併症は、それぞれ18例(10%)および3例(2%)で発現した(p=0.0009)。平均入院期間は4.8日および2.8日(p<0.001)、30日以内の再入院は3例(2%)および5例(3%)(p=0.49)に発生した。 すべての手術患者を含む安全性評価集団における手術手技に関連した重篤な有害事象の発現件数は、SADI-S群で40件(吻合部縫合不全3件、重症下痢8件など)、RYGB群で35件(ヘルニア5件、重症腹痛5件[2件で診断に腹腔鏡検査を要した]など)であった。 著者は、「両群間で重篤な有害事象や合併症の発現に大きな差はなく、綿密なフォローアップを行えば栄養学的な追加リスクは生じない」「SADI-Sは、初回手術として、およびスリーブ状胃切除術後の再手術の選択肢として考慮することができ、とくにスリーブ状胃切除術を受けた経験がなく、2型糖尿病を有する患者において、より大きな体重減少と良好な代謝転帰をもたらすと考えられる」としている。

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