442.
アンビス運営のホスピス型住宅で起きていたと報道された診療報酬の不正請求について特別調査委員会が報告書を公表こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末はいろいろなことがありました。石破 茂首相が突然、退陣表明をしました。各紙報道を読む限り、どうやら参院選大敗の責任をとったのではなく、自民党内の権力闘争に敗れた結果ということのようです。自民党は相変わらず国民の生活そっちのけで、旧態依然とした党内抗争を続けています。そのこと自体が参院選の敗北含めた国民離れを招いていることに気付いていないのでしょうか。謎です。ロサンゼルス・ドジャースの山本 由伸投手が、ノーヒット・ノーランを最後のワンアウトで逃したのも残念な結果でした。なぜ山本投手はあそこでカットボールを投げたのでしょう(この日結構投げていたので狙われた可能性も) 。素人考えですが、スプリットを低めに落としておけば楽に三振を取れたような気もします。こちらも謎です。さて、2025年8月8日、アンビスホールディングス(東京都中央区、代表取締役CEO柴原 慶一)は、同社子会社運営のホスピス型住宅で診療報酬の不正請求があったとの報道に関し、特別調査委員会の報告書を公表しました。報告書は「通知に係る法的認識の不十分さや記録の不整備」により、診療報酬請求の要件を満たしていなかった事案があったとする一方で、「多額の診療報酬を受けるために架空の事実をねつ造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない」と結論付けました。この報告書によって、「不正請求はなかった」と一件落着したように見えますが、なかなかどうして、その後も不正行為の存在を報じる報道もあり、問題の収束にはまだ時間がかかりそうです。「医心館」併設の訪問看護ステーションで不正に診療報酬を請求していた疑いがあると共同通信が報道アンビスホールディングスの子会社のアンビス(東京都中央区)は、末期がん患者や難病患者向けのホスピス型住宅「医心館」を全国で運営しています。同社は名古屋大学出身の医師、柴原 慶一氏が2013年に設立。末期がんや難病の人を最期まで看取る施設が少ないことから急成長し、8月末日現在、全国で約130ヵ所を展開するまでになっています。ホスピス型住宅は、施設のカテゴリーとしては「住宅型有料老人ホーム」に位置付けられます。住宅型とは、施設内のスタッフではなく、外部(といっても、併設の訪問看護ステーション、訪問介護事業所を使うケースが大半ですが)スタッフによって看護・介護を提供します。今年3月、共同通信がこの「医心館」において併設する訪問看護ステーションで不正に診療報酬を請求した疑いがある、と報じたことをきっかけに、医心館のケア内容に注目が集まることになりました。訪問看護だけでなく訪問介護についても不正があったようだとの続報も「【独自】ホスピス最大手で不正か 全国120ヵ所『医心館』」と題された3月23日付の共同通信の記事は次のように書いています。「『医心館』のうち複数のホームで、併設の訪問看護ステーションが入居者への訪問について実際とは異なる記録を作り、不正に診療報酬を請求していたとみられることが23日、内部文書や複数の元社員の証言で分かった。元社員らは、必要ないのに訪問して過剰に報酬を請求する行為も常態化していたと指摘している」。さらに、「末期がんなどの患者への訪問看護では、必要があれば1日3回まで診療報酬を請求でき、複数人での訪問には加算が付く。訪問時間は原則、30分以上と定められている。関東のそれぞれ別の地域で働いていた複数の看護師によると、医心館では併設のステーションの看護師らが入居者の居室を巡回。いずれも『必要性に関係なく全員、最初から1日3回訪問と決まっていた』と証言した。『実際には大半が数分間の訪問だったが『30分』と記録していた』『1人で訪問した場合でも複数人での訪問として、報酬を請求していた』などと口をそろえた」と具体的な請求方法について元職員の証言をベースに報じました。さらに共同通信は4月27日、「医心館、訪問介護でも不正請求か ホスピス最大手、会社ぐるみ疑い」と題するニュースを発信、「『医心館』を巡り、訪問介護でも不正・過剰な介護報酬を請求していたとみられることが27日、複数の現・元社員の証言で分かった。共同通信が入手した社内のオンライン会議の動画では、会社ぐるみで不正を行っていた疑いも判明した」と報じ、「医心館では看護・介護とも入居者への訪問予定表が1日ごとに作成される。『予定表通りに実施した』として記録を作り、報酬を請求していたが、実際には予定通り訪問しないことが多かった」などという元職員の証言を紹介しています。「批判を受けるに値する」としつつも「多額の診療報酬を受けるために架空の事実をねつ造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない」と報告書こうした不正請求疑惑に対し、アンビスホールディングスは、3月27日に社外の弁護士や会計士で構成された特別調査委員会を設置、報道内容に関わる事実関係として、(1)1日3回の訪問看護を設定する必要性の有無、(2)短時間訪問の実態、(3)複数名での訪問看護を設定する必要性および複数名訪問看護の実態、(4)(1)~(3)の検討結果等を踏まえたアンビスによる診療報酬請求の当否、(5)類似事案の有無、について調査を進めてきました。8月8日に公表された調査の結果では、「本件通知(厚労省通知)に定める訪問看護時間に比して明らかに短時間であると認められる事例や、複数名訪問の同行者を欠いたと認められる事例が存した。また、勤怠記録と訪問看護記録の齟齬並びに確定時期の異常値に照らせば、訪問実態に疑義を呈さざるを得ない事例も存した」として、さまざまな記録の不備、営利優先の発想が認められること、訪問看護におけるルートの設定及び人員配置の問題性、法令遵守の意識の低さ、業務遂行を確保する組織体制が不十分であったこと、社内におけるコミュニケーションの不足など、さまざまな問題点を指摘、「批判を受けるに値する」としつつも「多額の診療報酬を受けるために架空の事実をねつ造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない」としました。厚労省通知に定める「訪問看護」の実態を欠く事案は診療報酬額で約5,300万円に相当調査の結果、明らかに短時間の訪問と見なされた訪問看護記録は6万5,227件で、そこから複数名の訪問看護を要すると判断される記録を除く9,990件は、通知に定める「訪問看護」の実態を欠く事案であると判定、診療報酬額で約5,300万円に相当するとしました。加えて、訪問看護記録上は複数名訪問となっていたが実態が認められなかったと判定したのは1,352件(約359万円)でした。この他、調査の過程で、本社コンプライアンス部の運営指導対策の一環として、タイムカードの写しが書き換えられていたことも判明しています。職員の勤怠記録と訪問看護記録の食い違いがあった訪問看護または訪問介護業務について、ほかの資料などからも、サービス提供の実態があったと確認できなかった事案が970件(約514万円)あったとしました。 特別調査委員会は、正確な記録を残していなかった、通知との適合性確認を十分行わないなど法令順守の意識が低かった、現場任せの運用で適切な訪問看護業務を遂行するための組織体制が整備されていなかった、などの点が訪問実態に疑義のある事案が発生した原因になったと分析。再発防止策として、正確な記録作成の徹底、適正な訪問ルートの作成とそれに見合った人員配置、内部統制の再構築などを提言しています。アンビスホールディングスは「影響額は僅少なもの」と発表調査報告書を受けた後、8月8日にアンビスホールディングスは「特別調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」を公表、「本件調査での影響額としては63 百万円あまり(調査対象期間売上総額の0.05%程度)と僅少なもの」と報告、この金額について「訪問看護記録を検証した場合に、看護実態を示す記載が不十分であると認定されたものであり、看護実態がないと認定されたものではございません」とするとともに、「訪問看護における医療行為が実態のあるものと特別調査委員会により判断されたものと認識」「看護実態について根拠資料の記載が不十分であると認定されたケースは、記録の登録ミス及び記載不足などによる形式的なエラーがその大部分を占めるものと認識」など、意図的な不正請求はなかった点を強調しています。そして、訪問看護の提供実態の根拠となる資料の記載が不十分であるとの指摘には、「調査報告書の指摘を真摯に受け止め、改善に努める」「組織構造の変更・人員配置の適正化で記録の不備が起きにくい体制を構築するとともに、少額ではあるものの誤謬が発生したことに対し、より一層ミスが起きにくい組織体制を実現するよう取り組んでいく」としました。気になった報告書の内容とアンビスの解釈のズレ特別調査委員会の報告書は、端的に言えば”上場企業にもかかわらず、運営体制はグダグダでひどすぎる”という内容でした。「批判を受けるに値する」という厳しい指摘もありました。しかし当のアンビスホールディングスは「訪問看護には実態があった。不正請求はなかったと判断された」と少々ズレた受け止め方をしています。加えて、業績に対する影響の話とはいえ「6,300万円は売上総額の0.05%程度で僅少」という捉え方にも違和感を覚えます。株主対策として「僅少」と言いたいのかもしれませんが、診療報酬には税金も入っており、単なる企業の売上とは意味合いが異なります。普通、医療機関が6,300万円も不正請求をしたら、保険医療機関取り消しとなるでしょう。ズレ、違和感は、マスコミの報道でも感じました。共同通信や全国紙の多くが「実態のない診療報酬の請求額が6,300万円あった」ことにフォーカスしていた一方で、「結果はシロ」「共同通信社に対する訴訟も求める声も高まっている」と、真逆ともとれる報道をするメディアもありました。一体、どちらの解釈が正しいのでしょうか?(この項続く)