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CRAFITYスコア2点の肝細胞がん1次治療、レンバチニブvs.免疫療法/日本臨床腫瘍学会

 CRAFITYスコア2点(AFP≧100ng/mLかつCRP≧1mg/dL)の肝細胞がん(HCC)患者に対する1次治療として、レンバチニブによる治療は免疫療法と比較して無増悪生存期間(PFS)が有意に良好で、同スコアが肝細胞がん1次治療のレジメン選択におけるバイオマーカーとして有用である可能性が示唆された。京都大学の上野 真行氏が後ろ向きコホート研究の結果を第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)で発表した。 これまでに同氏らが実施した、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法不応の予測マーカーを評価した多機関共同後ろ向き研究結果1)において、CRAFITYスコアが最も予測に適した因子であることが明らかになっていた。・対象:2018年3月~2023年12月に、日本国内の11施設において進行HCCに対しレンバチニブまたは免疫療法を1次治療として開始した789例のうち、ベースラインのCRAFITYスコア2点の患者・評価項目:[主要評価項目]PFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効割合(ORR)、病勢コントロール率(DCR)、安全性 主な結果は以下のとおり。・1次治療開始時にCRAFITYスコア2点を有していた患者は92例(11.7%)で、レンバチニブによる治療を受けた患者が50例、免疫療法を受けた患者が42例(アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法が40例、デュルバルマブ+トレメリムマブ併用療法が2例)であった。・ベースラインの患者特性について、年齢中央値はレンバチニブ群73.5歳vs.免疫療法群74.5歳、男性が78%vs.81%、ECOG PS 0/1が94%vs.93%、ウイルス性肝炎(病因)が34%vs.38%、Child-Pugh分類Aが60%vs.69%、BCLC病期分類B/Cが96%vs.95%、ALBIスコアが-1.98 vs.-2.02で両群に統計学的な有意差は認められなかった。・PFS中央値はレンバチニブ群6.0ヵ月vs.免疫療法群2.3ヵ月であり、レンバチニブ群で有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.52、95%信頼区間[CI]:0.30~0.88、p=0.014)。・OS中央値はレンバチニブ群9.8ヵ月vs.免疫療法群5.5ヵ月であり、レンバチニブ群で良好な傾向がみられたが、統計学的な有意差は認められなかった(HR:0.68、95%CI:0.42~1.11、p=0.123)。・ORRはレンバチニブ群20.0%vs.免疫療法群11.9%(p=0.398)で統計学的有意差は認められなかった一方、DCRは62.0%vs.28.6%とレンバチニブ群で有意に良好であった。・Grade3/4の治療関連有害事象(TRAE)はレンバチニブ群46.0%vs.免疫療法群23.8%で発生し、レンバチニブ群で有意に多く認められた(p=0.031)。 上野氏は今後、より大きなコホートでバリデーション研究を行う予定として講演を締めくくった。

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プロテインS異常、血栓症と関連/JAMA

 遺伝性のPROS1機能欠損はまれであるが、一般集団ではこれまで考えられていたよりも静脈血栓塞栓症(VTE)の強いリスク因子であることが示された。また、PROS1コーディング変異よりも後天的環境的要因や他の遺伝的要因のほうが血漿プロテインS欠乏を引き起こす可能性が高く、血漿プロテインS低値はVTEと関連していたという。米国・The Broad Institute of MIT and HarvardのSharjeel A. Chaudhry氏らが、縦断的集団コホートを用いた横断研究の結果を報告した。血栓性疾患における臨床的意思決定は、これまでプロテインS低下に伴う静脈・動脈血栓症のリスクの大きさが明らかになっていなかったことで妨げられていた。JAMA誌オンライン版2025年3月3日号掲載の報告。UK BiobankとNIH All of Usバイオリポジトリの約63万例のデータを解析 研究グループは、UK Biobank(42万6,436例)、および米国国立衛生研究所All of Usバイオリポジトリ(20万4,006例)のデータを用いた。大規模なマルチオミクスデータセットは、プロテインS欠乏症の疫学と臨床的影響に関する疑問を解消する可能性がある。 UK Biobankは、2006~10年に参加者を登録し(最終追跡調査日2020年5月19日)、全エクソームシーケンスが行われた。一部(4万4,431例)は、ハイスループット血漿プロテオミクスによりプロテインS濃度を測定した。All of Usは2017年に登録が開始され(現在も継続中)、参加者は生殖細胞系列の全ゲノムシークエンスを受けた。両コホートには、人口統計学、臨床検査値、臨床アウトカムに関する個人レベルのデータが含まれている。 PROS1のまれな生殖細胞系遺伝子変異の有無と、遺伝子変異がタンパク質の活性を阻害する確率のin silico予測である機能的影響スコア(FIS)で分類し、血漿中プロテインS濃度の低下およびPROS1変異に関連する血栓症のリスクをFirthロジスティック回帰および線形回帰モデルを用いて評価した。PROS1変異がVTEリスクと関連 UK Biobankのコホートは、登録時の年齢中央値が58.3歳(四分位範囲:50.5~63.7)、女性が54.3%、ほとんど(95.6%)が欧州系人で、1万8,011例がVTEを発症していた。 このコホートでは、最高リスクのPROS1変異(FIS 1.0:ナンセンス変異、フレームシフト変異およびスプライス部位変異)のヘテロ接合体はまれであるが(補正後保有率は英国0.0091%、米国0.0178%)、VTEリスクは著しく高かった(オッズ比[OR]:14.01、95%信頼区間[CI]:6.98~27.14、p=9.09×10-11)。 血漿プロテオミクス解析(4万4,431例)では、これら変異保有者の総プロテインS濃度は正常値の48.0%(p=0.02 vs.非保有者)であることが示された。一方、軽微なミスセンス変異体(FIS≧0.7)は一般的にみられ(補正後保有率:英国0.22%、米国0.20%)、血漿プロテインS濃度のわずかな低下と関連しており、VTEリスクの点推定値は小さかった(OR:1.977、95%CI:1.552~2.483、p=1.95×10-7)。 All of Usコホートにおいても、両FISカットオフでのPROS1変異とVTEの関連は独立して検証され、同様のエフェクトサイズであった。 PROS1コーディング変異体の存在と、3つの動脈血栓症(心筋梗塞、末梢動脈疾患、非心原性虚血性脳卒中)との間には関連性は検出されなかった。 PROS1変異の有無と血漿中プロテインS濃度低値との相関性は低く、プロテインS欠乏はPROS1変異体の有無に関係なくVTEおよび末梢動脈疾患と有意に関連していた。 Kaplan-Meier生存分析において、PROS1の生殖細胞系列機能喪失変異によるVTEリスクの上昇が認められ、生涯にわたって持続すると考えられた(p=0.0005、log-rank検定)。

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5~24歳の肥満者数、この30年で3倍に/Lancet

 1990~2021年にかけて世界のあらゆる地域で過体重と肥満が大幅に増加しており、増加を抑制するための現行の対策が小児期・青年期の世代で失敗していることが、オーストラリア・Murdoch Children 's Research InstituteのJessica A. Kerr氏ら世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD)2021 Adolescent BMI Collaboratorsの解析で明らかとなった。結果を踏まえて著者は、「2021年以降も、小児期・青年期の過体重の有病率は高いままで、将来的に肥満集団はさらに増加すると予測される。世界のすべての地域、すべての人口集団で増加が続き、2022~30年に大きな変化が起こると予測されるため、この公衆衛生上の危機に対処するため早急な行動が必要である」と述べている。Lancet誌2025年3月8日号掲載の報告。1990~2021年の180の国と地域5~24歳のデータを解析 研究グループは、GBD 2021の確立された方法論を用い、1990~2021年の小児期・青年期における過体重と肥満の推移をモデル化し、2050年までの予測を行った。モデルの主要データには、180の国と地域から収集された1,321件の測定データが含まれた。 これらのデータを用い、1990~2021年における204の国と地域での過体重と肥満の年齢標準化有病率を、性別、年齢層別、国・地域別に推定した。年齢層は、学童期(5~14歳、通常学校に通い児童保健サービスを受ける)と学生期(15~24歳、徐々に学校を離れ、成人向けサービスを受ける)に分けた。 1990~2021年の推定有病率は時空間ガウス過程回帰モデルを用いて、2022~50年の予測有病率は現在の傾向が継続すると仮定した一般化アンサンブルモデリング法を用いてそれぞれ算出し、1990~2050年の各年齢、性別、地域の人口集団について、肥満の割合と過体重の割合の対数比から肥満の過体重に対する優位性を推定した。2050年までに世界的に過体重と肥満の有病率が増加 1990~2021年にかけて、小児期・青年期における過体重と肥満の合計有病率は2倍、肥満のみの有病率は3倍となった。2021年までに、肥満者数は5~14歳で9,310万人(95%不確実性区間[UI]:8,960万~9,660万)、15~24歳で8,060万人(7,820万~8,330万)と推定された。 2021年の過体重および肥満の有病率は、GBD super-regionの中で北アフリカ・中東(アラブ首長国連邦、クウェートなど)で最も高く、1990~2021年にかけて増加率が最も高かったのは東南アジア・東アジア・オセアニア(台湾、モルディブ、中国など)であった。 2021年までに、両年齢層の女性は、オーストララシア(オーストラリアなど)および北米の高所得地域(カナダなど)の多くの国で肥満優位状態であり、北アフリカ・中東(アラブ首長国連邦やカタールなど)およびオセアニア(クック諸島やサモアなど)の多くの国でも、男女ともに肥満優位状態に移行していた。 2022~50年にかけて、過体重(肥満ではない)の有病率は世界的に安定すると予測されたが、世界人口に対する肥満人口の絶対割合の増加は1990~2021年の間より大きくなり、2022~30年にかけて大幅に増加し、この増加は2031~50年の間も続くと予測された。 2050年までに、肥満有病率は北アフリカ・中東(アラブ首長国連邦、クウェートなど)で最も高くなると予測され、肥満の増加は依然として東南アジア・東アジア・オセアニア(東ティモール、北朝鮮など)に加え、南アジア(ネパール、バングラデシュなど)でも増加すると予想された。 15~24歳と比較して5~14歳のほうが、ほとんどの地域(中南米・カリブ海地域および高所得地域を除く)で2050年までに過体重より肥満の有病率が高くなると予測された。 世界的には、2050年までに5~14歳のうち15.6%(95%UI:12.7~17.2、1億8,600万人[1億4,100万~2億2,100万])、15~24歳のうち14.2%(11.4~15.7、1億7,500万人[1億3,600万~2億300万])が肥満になると予測された。 また、2050年までに、5~14歳の男性では、肥満(16.5%[95%UI:13.3~18.3])が過体重(12.9%[12.2~13.6])を上回り、5~24歳の女性および15~24歳の男性では過体重が肥満を上回ると予測された。 地域別では、北アフリカ・中東および熱帯中南米の5~24歳の男女、東アジア、サハラ以南のアフリカ中央部と南部、中南米の中央部の5~14歳の男性、オーストララシアの5~14歳の女性、オーストララシア、北米の高所得地域、サハラ以南のアフリカ南部の15~24歳の女性、北米の高所得地域の15~24歳の男性で、2041~50年までに肥満優位状態に移行すると予測された。

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病院の6割超が赤字、2026年度改定に向け合同声明を公表/日医ほか

 診療報酬は公定価格であるため、昨今の急激な物価や人件費の高騰を価格転嫁することができず、病院は深刻な経営難に陥っている。そこで、日本病院会などの6病院団体は、2024年6月の診療報酬改定後の病院の経営状況に関して緊急調査を実施し、その結果を3月12日の日本医師会との合同記者会見で報告した。 主な結果は以下のとおり。・調査は6病院団体の会員が対象で、1,816病院から回答を得た(回答率:30.8%)。・2024年の診療報酬改定後、病床利用率は上昇傾向にあるものの、医業利益率と経常利益率は悪化傾向が認められた。 ・医業利益の赤字病院割合は69.0%まで増加、経常利益の赤字病院割合は61.2%まで増加した。・2023年と2024年の比較では、給与費とその他の経費が増加しており、その他の経費ではすべての費目(委託費、診療材料費、水道光熱費など)が増加していた。改定後の医業収益の増加率(1.9%)よりも、医薬品費以外のすべてのその他の経費の増加率が上回っていた。・2023年度の福祉医療機構のデータの債務償還年数の分析では、半数の病院が破綻懸念先と判断される30年を超えていた。  日本医療法人協会副会長の太田 圭洋氏は、これらの結果より「全国の病院経営は危機的状況に陥っていることから、地域の病院医療を維持していくため、また医療者の適切な処遇改善を進めていくために、物価・賃金の上昇に適切に対応した診療報酬の仕組みが必要」とまとめた。 なお、日本医師会と6病院団体は同日に合同で声明を発表し、(1)「高齢化の伸びの範囲内に抑制する」という社会保障予算の目安対応の廃止、(2)診療報酬などについて、賃金・物価の上昇に応じて適切に対応する新たな仕組みの導入を求めた。

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標準治療+アニフロルマブが全身性エリテマトーデス患者の臓器障害の進行を抑制

 全身性エリテマトーデス(SLE)は、炎症を通じて肺、腎臓、心臓、肝臓、その他の重要な臓器にさまざまな障害を起こす疾患であり、臓器障害が不可逆的となることもある。しかし、新たな研究で、標準治療へのSLE治療薬アニフロルマブ(商品名サフネロー)の追加が、中等症から重症の活動性SLE患者での臓器障害の発症予防や進行抑制に寄与する可能性のあることが示された。サフネローを製造販売するアストラゼネカ社の資金提供を受けてトロント大学(カナダ)医学部のZahi Touma氏らが実施したこの研究は、「Annals of the Rheumatic Diseases」に2月1日掲載された。 SLEの標準治療は、ステロイド薬、抗マラリア薬、免疫抑制薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などを組み合わせて炎症を抑制するのが一般的である。しかし、このような標準治療でSLEによる臓器障害を防ぐことは難しく、場合によっては障害を悪化させる可能性もあると研究グループは指摘する。 アニフロルマブは、炎症亢進に重要な役割を果たす1型インターフェロン(IFN-1)受容体を標的とするモノクローナル抗体であり、2021年に米食品医薬品局(FDA)によりSLE治療薬として承認された。今回の研究では、標準治療にアニフロルマブを追加することで、標準治療単独の場合と比べて中等症から重症の活動性SLE患者での臓器障害発生を抑制できるのかが検討された。対象者は、標準治療(糖質コルチコイド、抗マラリア薬、免疫抑制薬)に加え、アニフロルマブ300mgの4週間ごとの静脈内投与を受けたTULIP試験参加者354人(アニフロルマブ群)と、トロント大学ループスクリニックで標準治療のみを受けた外部コホート561人(対照群)とした。 主要評価項目は、ベースラインから208週目までのSLE蓄積障害指数(Systemic Lupus International Collaborating Clinics/American College of Rheumatology Damage Index;SDI)の変化量、副次評価項目は、最初にSDIが上昇するまでの期間であった。SDIは0〜46点で算出され、スコアが高いほど臓器障害が進行していることを意味する。なお、過去の研究では、SDIの1点の上昇は死亡リスクの34%の上昇と関連付けられているという。 その結果、ベースラインから208週目までのSDIの平均変化量はアニフロルマブ群で対照群に比べて0.416点有意に低いことが明らかになった(P<0.001)。また、208週目までにSDIが上昇するリスクは、アニフロルマブ群で対照群よりも59.9%低いことも示された(ハザード比0.401、P=0.005)。 こうした結果を受けてTouma氏は、「アニフロルマブと標準治療の併用は、4年間にわたって標準治療のみを行う場合と比較して、臓器障害の蓄積を抑制し、臓器障害の進行までの時間を延ばすのに効果的である」と結論付けている。

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炎症性関節炎患者に対するメンタルヘルスケアには課題あり

 乾癬性関節炎や関節リウマチなどの炎症性関節炎患者は、うつ病や不安障害などの気分障害のリスクが大幅に高いにもかかわらず、こうしたメンタルヘルス上の懸念に対する医師の対応は十分ではないことが、新たな研究により明らかになった。ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)のMary De Vera氏らによるこの研究結果は、「Arthritis Research & Therapy」に1月21日掲載された。 この研究でDe Vera氏らは、ブリティッシュコロンビア州の行政保険データ(2000年1月2日〜2018年3月31日)を用いて、うつ病と不安障害のいずれかまたは両方を発症した炎症性関節炎(強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、関節リウマチ)患者に対する最小限の適切な薬物療法や心理療法の実施について評価した。最小限の適切な薬物療法は「84日分以上の抗うつ薬の処方」、最小限の適切な心理療法は「4回以上のカウンセリング/心理療法サービスの実施」と定義された。 うつ病を発症した炎症性関節炎患者6,951人(平均年齢54.8±18.3歳、女性65.5%)と不安障害を発症した炎症性関節炎患者3,701人(平均年齢52.9±16.8歳、女性74.3%)が特定された。炎症性関節炎のない患者を対照群とし、炎症性関節炎患者と年齢、性別、うつ病または不安障害の発症日(±5年)を基準に1対1の割合でマッチングさせた。 分析の結果、うつ病に対する最小限の適切な薬物療法と心理療法を受けた患者の割合は、炎症性関節炎患者群で50.5%と19.6%、対照群で48.0%と19.7%であった。炎症性関節炎患者がうつ病に対する最小限の適切な薬物療法と心理療法を受ける調整オッズ比(aOR)は、それぞれ1.09(95%信頼区間1.02〜1.17)と0.99(同0.90〜1.08)であり、薬物療法に関してのみ統計学的に有意であった。 一方、不安障害に対する最小限の適切な薬物療法と心理療法を受けた患者の割合は、炎症性関節炎患者群で46.9%と20.2%、対照群で44.1%と19.0%であった。炎症性関節炎患者が不安障害に対する最小限の適切な薬物療法と心理療法を受けるaORは、それぞれ1.10(95%信頼区間1.00〜1.21)と1.07(同0.94〜1.21)であり、薬物療法に関しては対照群に比べてやや高い傾向が認められたが、心理療法については対照群との間に有意な差は認められなかった。 De Vera氏は、「メンタルヘルスはあまり注目されないことが多く、メンタルヘルスの問題に対する治療が不十分であることが十分に立証されているため、これらの結果は必ずしも驚きではなかった。しかし、炎症性関節炎患者と炎症性関節炎を持たない患者との間に、うつ病と不安障害に対する最小限の適切な治療に関して有意な差がなかったことには、多少驚かされた。なぜなら、炎症性関節炎患者は医療機関を受診することも多いため、うつ病や不安障害に対する治療を受ける機会も多いはずだと考えていたからだ」と話す。その上で同氏は、「炎症性関節炎と精神疾患は複雑な関係にあり、特に、炎症は根本原因として重要な役割を果たしていることを考えると、このギャップは解決すべきだ」と述べている。

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第2回 鳥インフルエンザ:米国で高まる懸念、政府の対応は?

米政府が鳥インフルエンザ(H5型)に対応するワクチン開発のため、製薬企業大手のモデルナに5億9,000万ドルを支援する計画を見直し、停止する方向で調整を進めていることがBloombergなどの報道により明らかになりました1)。この影響でモデルナの株価は一時的に6.6%下落したと報道されています。米国で警戒が強まる鳥インフルエンザの現状米国疾病予防管理センター(CDC)の報告によると、2025年2月末時点で米国内の家禽(飼育された鳥)感染は51の地域に及び、過去1年間で約1億6千万羽以上の鳥が影響を受け、過去最大規模となっています2)。野鳥や家禽に加えて、乳牛にも感染が広がっており、2025年3月3日時点で米国17州の乳牛978頭に影響が確認されました。また、CDCによれば、家禽や乳牛といった動物と密接に接触する農業従事者や畜産業従事者の間でヒト感染例が報告されています。過去約1年間で動物への曝露後に検査を受けた約840人中64例の感染が確認され、一般的なインフルエンザ監視体制でも6件のヒト感染が報告されています。ヒトからヒトへの感染は現在のところ確認されておらず、ヒトへの感染リスクは低いと評価されていますが、すでに哺乳類には感染が拡大しており、感染の広がり次第では状況が急速に変化する可能性があります。求められる国際協力と将来への懸念こうした状況を背景に、鳥インフルエンザの新たなパンデミックのリスクが高まっているとして、以前のバイデン政権下ではワクチン供給体制の強化が進められてきました。その一環として行われたのがモデルナへの支援でした。政権交代によりワクチン供給支援が縮小される懸念があるとして、政権交代間近にモデルナの臨床試験に対する支援が発表されていたのです3)。しかし今回、その支援を停止するという報道が出されました。専門家からは、鳥インフルエンザのヒト感染が増加するリスクが高まっているとして、依然としてワクチン製造体制や監視体制の強化を求める声があがっている中、それとは逆行するようなニュースです。もちろんバイデン政権下の政策見直しということ自体は、総じて妥当なプロセスであるとも考えられます。ただし、COVID-19のパンデミックで米国のワクチン開発が世界をリードする形で大きく貢献してきたように、鳥インフルエンザ対策でも米国の果たすべき役割は少なくないと思われます。そんな中、米政府の今回の支援停止の判断は、それとは逆行するような動きです。実際、モデルナは別の資金源を見つけられなければ、臨床試験は暗礁に乗り上げる可能性も生まれています。このような動きが続けば、パンデミックへの準備には困難が生じる可能性があります。日本も含め、世界的な対策強化の重要性が一層明確となる一方、以前からCOVID-19のmRNAワクチンを強く批判してきた米国保健福祉省の新リーダーのもと、米国がどのような方向を進むのかに今後も注視していくべきでしょう。COVID-19で学んできたことが生かされず、再度の混乱が生まれるような事態は避けなければなりません。参考文献・参考サイト1)Muller M, et al. Trump Team Weighs Pulling Funds for Moderna Bird Flu Vaccine. Bloomberg. 2025 Feb 27.日本語版:モデルナの鳥インフルワクチン開発への支援、米保健当局が停止を検討2)CDC. H5 Bird Flu: Current Situation. 2025 Mar 6.3)Smith G. Moderna Gets $590 Million from US to Study Bird Flu Vaccine. Bloomberg. 2025 Jan 18.日本語版:モデルナに米政府が追加支援-ヒトへの鳥インフル感染防ぐ研究開発

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避妊法による脳卒中や心筋梗塞のリスクをどのように回避することができるのか?(解説:三浦伸一郎氏)

 避妊法の条件は、確実であり、方法が簡便で長期間使用できること、経費が少なくて済み、副作用が少ないことなどが挙げられる。経口避妊薬には、ホルモン剤としてプロゲスチンとエストロゲンの混合型とプロゲスチン単独のものがある。ホルモン避妊法による深部静脈血栓症や肺塞栓症の発生率は、エストロゲン投与量が増加すると上昇することが知られている。エストロゲンやプロゲステロンの投与では、フィブリノゲンなどの凝固因子が増加し、凝固抑制因子が減少することにより凝固系が亢進する。 最近、ホルモン避妊法による虚血性脳卒中や心筋梗塞のリスクに関する前向きコホート研究の結果が報告された1)。これまで、ホルモン避妊法が心血管疾患リスクに悪影響を与えるとの報告はあったが、このコホート研究では、避妊法の違いによりリスクが異なっていることが検証され、従来の複合経口避妊薬やプロゲスチン単剤避妊法ではリスクが高かった。一方、レボノルゲストレル放出子宮内避妊具は、リスク増加と関連しておらず、今後の安全な避妊法として期待されるものであった。 現在、日本では、ホルモン避妊法が多く使用されている。しかし避妊教育が少なく、避妊のリスクとベネフィットを理解できる機会を増やし、多くの選択肢を知ってもらう必要がある。このYonisらの研究は、レボノルゲストレル放出子宮内避妊具という新たな選択肢をもたらした。安全な方法をより普及させる必要があるとともに、ホルモン避妊法についての再教育も必要と思われる。

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あの男が帰ってきた!【Dr. 中島の 新・徒然草】(571)

五百七十一の段 あの男が帰ってきた!徐々に日が長くなってきました。気持ちのいい季節が来たと思っていたら鼻がグズグズ……また花粉の季節になってしまったのですね。これまでは寒くて外に出れませんでしたが、これからは花粉のせいで引きこもることになりそうです。ところで。ついにあの男が帰ってきました!そう、ショーンKです。かつて一世を風靡したあの低く落ち着いた声、流暢な英語、そして渋いルックス。ショーンKは、自称ニューヨーク生まれの日米ハーフで、11歳のときに日本に帰国。日本語の習得に苦労しながらも勉強に励み、ついにはハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得したとのこと。その経歴を引っ提げて、ラジオパーソナリティとしてキャリアをスタートさせ、やがてテレビに進出。英語講師、経済評論家、コンサルタントとして、八面六臂の大活躍を見せました。さらには、中央官庁での講演を依頼されるまでに!まさに完璧なキャリアでした。ところが2016年、そんな彼の華やかな経歴は『週刊文春』によって粉々に砕かれたのです。ハーバード・ビジネス・スクールのMBAはおろか、そもそもニューヨーク生まれですらなく、実は熊本県生まれの純日本人でした。それでも、あの落ち着いた低音ボイスと堂々とした態度から、多くの人がショーンKの経歴を信じ込んでいたのです。このスキャンダルが発覚した直後、ショーンKは涙ながらに謝罪し、メディアの前から完全に姿を消しました。それから9年、ショーンKは完全に過去の人となったかに思われていたのですが……再びわれわれの前に登場してくれました。なんと千葉県君津市の商工会議所で講演を行うというニュースが飛び込んできたのです。そのニュースは瞬く間に広まり、講演のチケットは即完売。まさに「みんな大好き、ショーンK!」というわけです。「今度はどんなキャラで登場するのだろう?」と期待しながら、彼の公式サイトを覗いてみました。そこにあったのは、以前のプロフィールから「事実無根」の部分を抜いただけの、相変わらずハッタリの利いたもの。開き直って何か自虐ネタでも披露してくれたら面白かったのに。それにしても、彼の英語力はやはりすごいものがあります。かつて英語講師に扮していただけあって、YouTubeには彼のレッスン動画が公開されています。その内容がまた、日本人の苦手な部分に気を配った「痒いところに手の届く」ものです。とくに興味を引いたのは「こう尋ねられたらこう切り抜けよう」とか「この場面はこうやって突破しよう」といった教え方。まるで彼自身の人生を象徴するような表現です。それにしても、どうやったらあれほど流暢な英語を身に付けられるのでしょうか。彼が「こうすればネイティブを装うことができる」といったノウハウを披露するだけで、十分にビジネスとして成立しそうです。YouTubeで公開されている彼の英語教材は非常に完成度が高く、最後のほうには思わず「上手い!」と笑ってしまうギャグも披露されていました。実際、彼の英語を聴いたアメリカ人がYouTubeのコメントで「細かい修正をいくつか加えれば、ニューヨーク生まれと言っても通用するレベルだ!」と絶賛しています。整形疑惑や学歴詐称はともかく、語学力だけは誤魔化せないわけですから感心せざるを得ません。さて、9年間の沈黙を経て再登場したショーンK。今度はどんなパフォーマンスをわれわれに見せてくれるのか。期待せずにはいられませんね。最後に1句春霞 ショーンKが 復活だ!

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Nature著者に聞く!ミトコンドリアを介したがんの免疫逃避機構【Oncologyインタビュー】第48回

出演:岡山大学学術研究院医歯薬学域 腫瘍微小環境学分野 教授  冨樫 庸介氏「がん細胞の異常なミトコンドリアがT細胞に伝播し、抗腫瘍免疫応答を低下させる」という驚きの研究結果が、2025年1月にNature誌で報告された。本研究を主導した岡山大学の冨樫 庸介氏が、本研究の背景や結果を解説。研究の裏話や、研究を志す若手医師へのメッセージなどもお話しいただいた。参考Ikeda H, et al. Nature. 2025;638:225-236.岡山大学ほか. がん細胞が自らの異常なミトコンドリアで免疫系を乗っ取り、生き残りをはかっている

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3月13日 世界腎臓デー【今日は何の日?】

【3月13日 世界腎臓デー】〔由来〕腎臓病の早期発見と治療の重要性を啓発する取り組みとして、国際腎臓学会などにより2006年から、3月第2木曜日を「世界腎臓デー」と定め、毎年、世界各地で腎臓病に関する啓発に向けてイベントが開催されている。関連コンテンツとことん極める!腎盂腎炎急速進行性糸球体腎炎【希少疾病ライブラリ】CKDステージ3への尿酸降下薬、尿酸値6未満達成でCKD進展抑制かCKDへのエンパグリフロジン、中止後も心腎保護効果が持続/NEJM低所得者、腎機能低下・透析開始リスクが1.7倍に/京都大学

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ドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」(その1)【当たり前すぎて気づかなかった!?(学校教育の良さと危うさ)】Part 1

今回のキーワード規律協調性忍耐力同調圧力ダブルバインドモラルハラスメント相互監視スケープゴート海外の人から見ると、日本の電車がいつも時間どおりに来ること、日本人が礼儀正しく穏やかであること、責任感が強く残業してまで仕事を終えようとすることなど、私たちが当たり前と思うことがどうやらすごいことと思われているようです。そして、そのメンタリティを育んだのは日本の小学校ではないかと指摘され始めています。今回は、ドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」を取り上げます。2021年のコロナ禍、東京のとある公立小学校を1年間密着取材しています。ジャケットに書かれている“The making of a Japanese”(日本人のつくり方)というサブタイトルからわかるように、「外国から見た日本の小学校とは」という視点で、私たちが当たり前に思っていた学校の日常から、学校の内情、生徒と先生の喜怒哀楽にまで迫ってます。日本人ならではの規律、協調性、忍耐力を育む学校の取り組みを明らかにして、生徒たちの成長をドラマチックに捉えており、日本の教育の良さが伝わり、海外の教育関係者から注目されています。と同時に、日本の教育関係者から見ると、そのあり方は何やら時代遅れになってきているのではないかという危うさも、監督が意図してなのか、さりげなくもひしひしと伝わってきます。それではまず、この映画のいくつかのシーンを通して、日本の学校教育の良さと危うさをそれぞれ整理しましょう。なお、この映画はドキュメンタリーであり、実在する人物が登場しますが、この記事で教師個人を批判する意図はまったくありません。あくまでその教師たちすら巻き込む文化としての日本の学校教育の危うさを指摘しています。また、この映画の短編バージョンは、以下のThe New York Timesの公式チャンネルから視聴できます。Instruments of a Beating Heart【Youtube】日本の学校教育の良さとは?日本の学校教育は、単に勉強だけでなく、生活指導を通して社会性を高めることにも重きを置いていると説明されます。それでは、具体的にどんな良さがあるのでしょうか? 実際に撮影されたシーンを通して、大きく3つ挙げてみましょう。(1)ルールを守る―規律生徒は、校則という細かいルールに従って、学校生活を送っています。たとえば、当然ながら「廊下は歩く」という張り紙があります。授業が始まる時と終わる時は、私たちにとっては当たり前の「起立、気をつけ、礼」の儀式が毎回行われます。1年生の教室で、発言したい時は、腕をピンと真っすぐにして手を挙げ、大きな声で元気に「はい」と言うようにと発言のルールを細かく指導されます。とくにコロナ禍のさなかであったこともあり、生徒たちは、全員マスクをしています。ソーシャルディスタンスを守るため、廊下に並ぶときは、床に張られた足跡のシールの上に足を合わせて並びます。1つ目の良さは、ルールを守る、規律です。このおかげで、私たちは、大人になってもルールに忠実であろうとする規範意識がとても強いです。たとえば、外国の観光客から、町にごみが落ちていなくて清潔だとびっくりされます。並ぶ時は、当たり前のようにきれいな列を作ります。犯罪率は、世界トップレベルで低いです。実際に、財布を落とした場合、外国ではまず見つかりませんが、日本では警察に届けられていることが多いという話はよく聞きます。(2)周りに合わせる―協調性学校では、給食当番が決まっており、自分が当番の時は白衣を着て、当番のメンバーで連携して食事を取り分けます。その際にぶつかってお盆を落とした生徒は、先生から「周りをよく見てね」と指導されていました。掃除もみんなで手分けして行います。ほうきを掃く時は、「ほうきは膝下まで」と指導されていました。このように、クラスメートと協力する場面が多いことから、必然的に仲間意識が強くなります。クラスメート同士で、持ち物がなくなった生徒や、悲しんでいる生徒がいたら、すぐに気遣っていました。2つ目の良さは、周りに合わせる、協調性です。このおかげで、私たちは、集団で周りとうまくやっていこうとする謙虚な気持ちがとても強いです。たとえば、接客は、礼儀正しく丁寧です。「おもてなし」の精神から、お店やホテルなどでは、サービスが行き届いています。電車が時刻どおりに動いているだけで世界的にはすごいことなのに、3分遅れただけでお詫びのアナウンスが流れます。(3)努力する―忍耐力ある生徒は、縄跳びの二重飛びができませんでしたが、根気強く練習を続けて、最後にはできるようになり、運動会の晴れ舞台で披露します。ある1年生の女子は、音楽会でシンバル演奏に選ばれたのですが、練習に来なかったためにうまく演奏できず、先生に怒られます。しかし、周りの支えもあって、やがて自分から練習して演奏会を見事やりきります。3つ目の良さは、努力する、忍耐力です。このおかげで、私たちは個人や集団で何かを達成することへの思い入れがとても強いです。たとえば、PISA(国際学習到達度調査)の成績は毎回トップレベルの成績です。世界的にも、日本人は責任感が強く、自分の仕事は頑張って成し遂げようとします。そして、災害が起きても、忍耐強く冷静でパニックになりません。次のページへ >>

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ドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」(その1)【当たり前すぎて気づかなかった!?(学校教育の良さと危うさ)】Part 2

日本の学校教育の危うさとは?日本の学校教育の良さは、ルールを守る規律、周りに合わせる協調性、努力する忍耐力であることがわかりました。一方で、その危うさは何でしょうか?実際に撮影されたシーンを通して、大きく3つ挙げてみましょう。(1)周りと同じことをやらせすぎる―同調圧力この映画のなかで、たびたび生徒たちの靴箱のワンカットが映し出されます。上靴に履き替えるという海外の人にとっては珍しい文化をわかりやすく捉えています。あるシーンでは、その靴箱の前で高学年の生徒3人が、「〇〇さん花丸、△△さんは三角」と言って靴の揃え方をチェックしていました。靴のかかとの部分が靴箱のふちに揃っているか、向きが真っすぐかどうかで判定し、記入用紙に点数化しています。さらに、その靴箱の写真まで撮っていました。おそらく、あとでそれぞれの教室のモニターに映し出し、ダメ出しをするのでしょうか? それともクラス別のランキングでもするのでしょうか。別のワンシーンでは、生徒たちは、教室に入る時、いったんドアの手前で足を揃えて入っていました。これも、指導されているようです。また、ある1年生の男子が廊下をふざけて飛び跳ねるように歩いていると、通りがかった先生が「普通に歩いて!」と注意していました。確かに、規律を厳しくすることは規範意識を高めるためには良いことのように思われます。武道と同じように、靴をきれいに靴箱に入れること、教室の前でいった足を揃えること、廊下を姿勢良く歩くことなどの行動は、1つのルーチンとして癖にすることで心が落ち着きます。しかし、これらはどれもそれぞれの生徒にお勧めすべきことではありますが、生徒全員に強いることに合理的な理由がありません。なぜなら、そうしないと周りに迷惑をかける(権利を侵害する)わけではなく、そうすることが大人になって社会生活を送るうえで必要でもないからです。簡単に言えば、やりたい人だけが選んでやればいいだけの話です。それなのに、やりたいわけではない人を巻き込んでいます。さらに、授業中のワンシーンで、ある先生が生徒に「(できるからって)先に進んだりしたらいけないんだ」と言っていました。また、別の先生は、ある生徒に成績表を渡すのですが、すべての項目で高い評価だったので先取り学習をしていると察して、「(すでに答えがわかってても)一つひとつ丁寧にやってね」と先生は伝えています。つまり、勉強ができるからといって、授業中に先に進むことは禁止されているのです。いくら丁寧にやれと言われても、答えはもうわかってしまっているので、授業が退屈でしかありません。逆に、できない生徒は先生がある程度フォローしてくれますが、できたことにして授業は進みます。つまり、できない生徒にとってはわからないので、授業が苦痛でしかありません。つまり、どっちにしても、無理やり足並みを揃えさせられているのです。1つ目の危うさは、周りと同じことをやらせすぎる、同調圧力です。これによって、周りに合わせなければならない、みんなと同じでなければならないという意識が強くなり、自分はこうしたいという「自分らしさ」(アイデンティティ)が育まれにくくなります。そもそも自分らしさは、選ぶ自由があり、多様性があってこそ豊かになります。逆に、同調圧力のなかで選ぶ自由も多様性もなく、自分らしさは削がれていきます。皮肉にも、映画の中では、先生たちはたびたび「自分らしさ」という言葉を口にして、その大切さを強調していました。そのわりに彼らは「普通に(しろ)」という言葉を使って真逆のことを強いており、その矛盾に気付いていないのでした。先生たちの意味する「自分らしさ」とは、生徒が望んだ多様なものではなく、あくまで先生たちが望む限定されたものなのでした。それでは、どうすれば良かったのでしょうか? たとえば、靴箱の取り組みや教室の前で足を揃える取り組みは、あくまでお勧めとして個人的に褒めることにとどめて、全員に強要しないことです。先ほどの飛び跳ねるように歩く生徒は、確かにちょっと危なっかしいかもしれませんが、「普通に」という言葉は、「みんなと同じように」という意味合いになるので使わないようにして、代わりに「ぶつからないように気をつけて」と具体的に言うべきでしょう。むしろ、飛び跳ねるように歩くことは、ユーモアの素質があるという自分らしさと言えます。なお、同調圧力(同調性)の心理の詳細については、関連記事1をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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ドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」(その1)【当たり前すぎて気づかなかった!?(学校教育の良さと危うさ)】Part 3

(2)言いなりにさせるーモラルハラスメント避難訓練のシーン。生徒たちが教室からいっせいに校庭に出ていきます。そんななか、ある先生がいきなり「行動が遅い! なんでそんなにゆっくりしてんだよ!」と声を張り上げます。この声のトーンは、一般の社会で昨今あまり聞かれることのない、恫喝のレベルでした。おそらくその先生は、生徒たちの気を引き締めるために必要だと判断したからでしょう。しかし、訓練であるため、パニックにならないために慎重さも必要です。もしかしたら、毎回の訓練でタイムを計っており、前回よりも速い記録を出して、教師としての評価を上げたいという意図があり、最初から用意されたセリフかもしれません。また、引き締めの意図があるなら、逆に生徒が急いで転びそうになったら、今度は「あわてるな!」と声を張り上げることが予測されます。つまり、どっちにしても、何をしても、生徒たちは怒られるのです。心理学では、これをダブルバインド(板挟み)と呼んでいます。6年生の卒業式の練習シーン。卒業証書の授与で生徒が呼ばれた時の返事の仕方の見本を見せようと、ある先生が「はい!」と大声で返事をします。その声はびっくりするくらい大声であったため、一部の生徒たちから笑いが起こります。その瞬間、その先生は「なんで笑った!? おかしい!? 私は気持ちを込めていった。気持ちを込めて何が悪いんだ!」と言って、語気を強めます。確かに言っていることはわかるのですが、生徒によってはあえてのお笑いのボケだと受け取られるので、笑いが起こるのは避けられません。彼はただナメられたくなかったからなのか、最初からこの流れを予定して怒ったふりをしていたのか、どちらにしても強い口調で言うのは不適切です。一般社会の職場で、それをやったらモラルハラスメントに当たります。しかし、子供が相手なら、指導という建前でやっても良いと考えているのでしょう。生徒からして見れば、笑いが起きる状況で笑っていいのか笑ってはいけないのか混乱します。これも、ダブルバインドの心理です。この先生は、「終わっちゃうんだな、一緒にすごした時間も」とつい涙を流してもいました。そして、「なんで泣いちゃうかって、好きだからです。おれは君たちが好きです」と言い出します。このシーンだけを切り取ると、「感動シーン」のように見えるわけですが、よくよく考えると、「好きだから」「相手のためだから」と理由をつけることで、たとえハラスメントであっても自分は許されると正当化しようとしています。実はこれは、典型的なモラルハラスメントの加害者の心理です。ちなみに、このシーンを見て、自分の子育てに重なった親御さんもいるでしょう。「愛しているから」「子供のためだから」という決めゼリフを使って、つい独りよがりになって、子供を言いなりにさせてしまう可能性には、私たちも意識する必要があります。また、この先生が言った「気持ちが大事」のほかに、別のシーンで別の先生たちは「殻を破れ」「気持ちが乗ってない」「強い心」などと抽象的な言葉を多用していることに気付きます。これらは、かつての「根性が足りない」「精神力を鍛えろ」の新しい言い回しでもあります。これらの言葉かけは、一見生徒たちの注意を引くわけですが、具体的な改善点を先生が指摘しているわけではない(実は指摘できない)ので、結局ダブルバインドと同じように、生徒たちはどうしていいかわからないまま先生の顔色をうかがうばかりになります。2つ目の危うさは、教師の言いなりにさせる、モラルハラスメントです。これによって、上の立場の人(権威)が望む答えを探す意識が高まり、自分からこうしたいという「自主性」(勤勉性)は育まれにくくなります。そもそも自主性は、自分が自由に行動を選び、その行動を温かく受け入れる環境があってこそ高まります。逆に、先生たちによるモラルハラスメントが横行する学校のなかでは受け身になり、自主性が削がれていきます。皮肉にも、映画の中では、先生たちはたびたび「自主性を育む」という言葉を口にして、その大切さを強調していました。そのわりに彼らは受け身にさせることばかりしており、その矛盾に気付いていないのでした。先生たちの意味する「自主性」とは、生徒が望む自由な行動ではなく、あくまで先生たちが喜ぶ行動を「自主的」にやることなのでした。それでは、どうすれば良かったのでしょうか? たとえば、避難訓練で声かけするとしたら、せめて「急いで」と冷静に言うことです。また、卒業式の練習でびっくりするくらいの大声で返事をした先生は「ちょっとおかしかったかな? でも、これぐらい元気よく返事をすることをお勧めするよ」と答えることです。なお、モラルハラスメントの心理の詳細については、関連記事2をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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ドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」(その1)【当たり前すぎて気づかなかった!?(学校教育の良さと危うさ)】Part 4

(3)吊し上げをする―スケープゴート1年生の生徒たちが音楽会の練習をするシーン。ある先生は生徒たちに「練習してる時に、心が揃い、音が揃うようになってきていると思います。練習に来ない人は、その心が揃うのを壊しています。台無しです」と練習の大切さを強調します。「台無し」という言葉に語気を強めており、何やら嫌な予感がします。すると、やはりです。先ほどにも登場した1年生の女子は、シンバル担当に選ばれていたのですが、なかなかうまくできていないようで、彼は心配します。彼からの「練習に来てね」という手紙が彼女の靴箱に添えてあるシーンが映し出されます。しかし、彼女は来ません。そして案の定、彼女はみんなで演奏の練習をするなかでミスを繰り返します。すると、彼は「タイミング違ったね」「そこ(のタイミング)あったっけ?」「あなた1人しか(シンバルは)いないんです。その責任があなたにあります」ときつい口調で問い詰めます。彼女は「楽譜忘れた…」と小声で答えるのですが、彼は「ちょっと待って、今楽譜ないとできないよって人いますか? 手を挙げてごらん」と他の生徒たちに聞きますが、誰も手を挙げません。そして彼は「なんでみんな楽譜なくてもできるんですか?」とあえて生徒たちにたずねます。すると、生徒たちが「練習しているから」といっせいに答えます。先生は「そうだよね。…一生懸命練習を続けてるんだよね。それをあなたはやってるんですか?」と言って迫ります。彼女が泣き出すと、いったん休憩させるかと思いきや、なんと彼は「オーディションに受かったらそれでおしまいなの? それがゴールなの?…泣いたら上手になるの?…どうしますか? 変わってもらいますか? どうしますか?」と畳みかけます。そして、この一連のやり取りをみんなが静かに見ています。そして、彼女は半ば無理やり練習の約束をさせられて、彼女がまだ泣いているのに、彼は非情にもそのまま演奏を再開するのです。もちろん、彼女は演奏どころではなく、他の生徒たちの楽器から奏でられる音の中に、彼女の泣き声が響いているのでした。彼女があまりにも気の毒で、私たちは胸が張り裂けそうな思いになります。と同時に、これは俳優たちが演技したフィクションではなく、実在する人物たちが実際にやり取りしたドキュメンタリーだったと我に返ると、この先生のやり方には疑問が沸いてきます。一般社会の職場で、上司が部下にこれをやったら明らかなモラルハラスメントで、一発アウトです。しかし、子供が相手なら、指導という建前でやっても良いと考えているのでしょう。さらに、巧妙なのは、その翌日くらいあと、再度のみんなでの練習の時、彼女は演奏するのですが、練習が終わった後、先生は彼女に駆け寄り、笑顔で「できたじゃん!あなたができるところはちゃんと音が鳴ってたよ」と今度は笑顔でベタ褒めするのです。彼女はその間に練習をしておらず、しかもこの時は楽譜を真横に置いていたのにです。彼の褒め叱りには、実は一貫性がないのでした。最初に叱ったのも、あとに褒めたのも最初から予定していたように見えてきます。予定していなかったとしたら、彼は単なる気分屋で、先ほどと同じくモラルハラスメントであり、それはそれで問題です。最も問題なのは、どっちにしても、結果的に彼女は見せしめのために利用されたということです。つまり、「練習しないとこうなるぞ」という他の生徒への裏メッセージです。また、別のワンシーンでは、1年生の教室で、先生がある生徒を教壇に立たせ、「姿勢係」の役割を与えていました。彼を教壇に立たせ、教室に座っている生徒を名指しで「姿勢がいいのは〇〇さんです」「姿勢がいいのは△△さんです」と無邪気な笑顔で言わせるのです。この取り組みは、姿勢を良くしようとする意識を高め、一見良いように思われます。しかし、今度は別のシーンで、同じく1年生の生徒たち数人が休み時間に教室から校庭で遊んでいる他の生徒たちを見下ろして、「あ、マスクしてない。」「よくないねー」「よくないねー」と言い合い、自主的に「マスク警察係」として審判を始めるのです。これは、生徒が生徒を監視する、相互監視です。仲間同士なのに監視役という権力を与える指導によって、仲間外れを見つける練習をさせてしまっていることがわかります。再び6年生の卒業式の練習のシーン。生徒たち全員が体育館のステージの階段状の足場に並ぶ時、混んでて身動きが取りづらく、きれいな整列にはなっていないようです。その時、ある先生が全員に向けて「きょろきょろしてる人、目立ちます」と注意します。これは、「保護者席から見て1人だけ違うとかっこ悪いよ」という否定的なニュアンスがあります。ここにも、先ほどの「普通に」と同じように「みんなと違う人=目立つ人=良くない」という仲間外れにする裏メッセージが読み取れます。先ほどの靴箱のシーンにしても、靴をきれいに入れていない生徒は、悪目立ちすることになります。つまり、これらの取り組みによって注意された生徒は、残りの生徒たちを引き締めて学校の規律を高めるための「生贄」と言えます。3つ目の危うさは、吊し上げをする、スケープゴートです。これによって、上の立場の人(権威)に従わない人や周り(主流秩序)と違うことをする人を差別する意識が高まり、見た目や考え方の違う人を排除しようとする「いじめ」(排他性)が育まれます。これまであれほど学校ではいじめ対策をしてきたのに、実は日本の教育文化そのものがいじめの温床であったという衝撃の事実です。皮肉にも、教員のための研修に招待された大学の教授が、「たとえば『ビー玉貯金』が有名です。クラス全員が忘れ物をしなかったら、大きなビー玉がもらえる。でも、もらえなかったら、『おまえのせいでこうなった』というふうになる。実はいじめの原因をつくるのは教員だった」「我々にも責任がある」と説明し、連帯責任の危うさを講義していました。確かに、集団として罰(正の弱化によるオペラント条件づけ)を与えるというあからさまな連帯責任はなくなりました。しかし、靴箱、演奏会の練習、「姿勢係」(相互監視)などのエピソードを見ると、集団としてご褒美(正の強化によるオペラント条件づけ)をもらえない可能性がある点で、これらは「ビー玉貯金」と同じように指示に従ってない人を悪目立ちさせ全員に対して責任を感じさせる新手の連帯責任と言えます。つまり先生たちは、すでに研修で危ういと指摘されている連帯責任を利用した取り組みを、相変わらずやり続けているという矛盾に気付いていないのでした。それでは、どうすれば良かったのでしょうか? たとえば、音楽会の先生は、いきなりみんなの前で叱責するのではなく、まずその女子を個別に呼んで気軽に話し合うことです。そして、楽譜を見れば間違えないなら、まずは楽譜を見て演奏するよう本人に合わせた指導をすることです。確かに、全員が楽譜を見ないで完璧な演奏をすることはすばらしいことです。しかし、いくらオーディションで選ばれた責任があるからといって、それをプロの大人ではない1年生の子供に強要するのは酷です。結果的には、彼女は褒められた気分の良さから、その後に自主的に練習をするようになり、演奏会の本番を見事まっとうして、「少女の成長物語」という美談になっていました。そして、この先生は優秀な教師と評価されるのでしょう。しかし、彼女のように頑張れる生徒、できる生徒ばかりではありません。もしも、もともと頑張れない生徒やもともとできない生徒にこんなやり方を繰り返していたら、どうなるでしょうか? 不登校のリスクが高まるのは明らかでしょう。また、「姿勢係」などの相互監視は即廃止です。靴箱のシーンでも触れたように、良い姿勢はお勧めすべきことではありますが、競わせるものでも取り締まられるものではないからです。この多様性の時代、インクルーシブ教育の時代、もしも脳性麻痺の生徒がいたらどうなるのでしょうか? 先生たちは明らかに時代遅れなことをやっています。卒業式の練習のシーンでは、せめて「真っすぐに向いているとすてきだよ」とポジティブに言うことです。ただ、スケープゴートのリスクを考えると、そもそも卒業式でステージの上に生徒全員を整列させることをはじめとして同調圧力を高める取り組み自体を止める時代に来ているでしょう。なお、スケープゴートの心理の詳細については、関連記事3をご覧ください。ここで、再度誤解がないようにしたいのは、これまで取り上げた教師たちの指導方法には改善点が多々ありますが、教師個人は批判されるべきとは思われません。なぜなら、実は生徒たちだけでなく教師たちもまた、この日本の危うい教育文化から抜け出せない学校という職場環境に身を置いているからです。それは、いったいどういうことでしょうか?(次回に続く)<< 前のページへ■関連記事告白【いじめ(同調)】Part 1美女と野獣【実はモラハラしていた!? なぜされるの?どうすれば?(従う心理)】泣かないと決めた日(続)【パワーハラスメント(差別)】

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アルツハイマー病リスクに影響する食べ物とは?

 食習慣とアルツハイマー病との因果関係を評価するため、中国・The First Affiliated Hospital of Ningbo UniversityのYi Huang氏らは、2サンプルのメンデルランダム化(MR)解析を用いて、本研究を実施した。Food & Function誌2025年2月17日号の報告。 ゲノムワイド関連研究(GWAS)データと並行し、2サンプルのメンデルランダム化解析を用いて、17食品の食習慣とアルツハイマー病リスクとの因果関係を包括的に評価した。結果のロバストを保証するため、単変量MR解析および多変量MR解析の両方を使用した。すべての分析には、逆分散重み付け(IVW)法を用いた。感度分析には、最尤法、MR-RAPS法、MR-Egger法を用いた。 主な結果は以下のとおり。・単変量MR解析では、アルツハイマー病リスク上昇と有意な関連が認められた食品は、加工肉、鶏肉、牛肉であった。 【加工肉】オッズ比(OR):1.26、95%信頼区間(CI):1.01〜1.59、p=0.044 【鶏肉】OR:2.06、95%CI:1.18〜3.59、p=0.011 【牛肉】OR:1.79、95%CI:1.25〜2.57、p=0.002・感度分析では、加工肉、鶏肉、牛肉の摂取との関連は、各方法において一貫しており、正の相関を示すことが明らかとなった。・多変量MR解析では、うつ病を調整した後、加工肉、鶏肉、牛肉の摂取量と正の相関(有意または傾向)が確認された。 【加工肉摂取量】OR:1.376、95%CI:1.015〜1.864、p=0.040 【鶏肉摂取量】OR:2.174、95%CI:1.205〜3.922、p=0.010 【牛肉摂取量】OR:1.428、95%CI:0.866〜2.355、p=0.163 著者らは「加工肉、鶏肉、牛肉の摂取は、アルツハイマー病リスクと相関していることが明らかとなった」と結論付けている。

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25年度の「骨太の方針」に要望する3つの事項/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、定例の記者会見を3月5日に開催した。会見では、先般衆議院を通過した令和7(2025)年度の予算案について内容に言及するとともに、5月31日の「世界禁煙デー」での取り組みなどが説明された。全産業との差が広がる医療業の賃金格差は問題 はじめに松本氏が、「令和7年度予算案の衆議院通過を受けて」をテーマに、今回の予算内容や医療全般、医師会とのかかわり、今後さらに要望していくべき事項などを説明した。 今回の予算案には、医療提供体制の整備・強化に必要な予算として、「入院時食事療養費の1食当たり20円引上げ」、「周産期・救急医療体制などの充実」、「地域医療構想・医師偏在対策・かかりつけ医機能などの推進のための支援」などが盛り込まれたと評価し、「かかりつけ医機能の推進」についても、これまで議論した方向に進んでいるとの認識を示した。 また、診療報酬改定にも触れ、今年度は非改定年であるが、「令和6年の診療報酬改定でベースアップ評価料が新設されたものの、他の産業の賃上げに、まったく追い付いていないこと」、「2012年を100とした場合、2024年の全産業と医療業の賃金の伸びには5%以上の開きがあり、時間を追うごとにその差は開いている」と指摘し、「まずは補助金での迅速な対応が必要だが、令和8年度診療報酬改定の前に、期中改定も視野に入れて対応していく必要がある」と主張した。 次に「高額療養費制度」について、「本制度は、高額治療を要する際に経済的な不安に対処するために非常に重要な制度であり、維持するためにも見直しが必要なことに理解を示しつつも、患者さんに過度な負担を強いることがないよう、一貫して丁寧な制度設計を求めてきた」と述べ、日本医師会が従来から患者の自己負担の軽減を主張し続けてきたこと、限度額の引き上げで受診控えなどを招来しないように、丁寧な議論を重ねることを求めてきたことを改めて強調した。 おわりに松本氏は、「骨太の方針2025」にも言及し、その取りまとめに向けては、(1)「高齢化の伸びの範囲内に抑制する」社会保障予算の目安対応の廃止(財政フレームの見直しが必要など)、(2)診療報酬などについて、賃金・物価の上昇に応じて適切に対応する新たな仕組みの導入、(3)小児医療・周産期体制の強力な方策の検討という3つの対応が必要だと語った。すすめよう禁煙!コンテストで川柳募集中 続いて広報担当常任理事の黒瀨 巌氏(医療法人社団慶洋会グループ 理事長)が、5月31日の「世界禁煙デー」に開催されるイベントなどの説明を行った。 イベントの目的は、「毎年19万人が喫煙に関連する病気で亡くなっていると推定され、喫煙者本人だけでなく、周囲の人も副流煙で被害を受けている。とくに若年層では、電子たばこのような新型たばこについて、健康被害が少ないとの誤解から使用が増加傾向にある。そこで、新型たばこを含む喫煙による健康への影響や受動喫煙防止の必要性について啓発を行うもの」である。5月31日~6月6日を「禁煙週間」として、全国各地でライトアップや啓発活動が行われる。東京では、日本医師会と東京都医師会の主催で下記のイベントが開催される。【イベント概要】開催日:5月31日(土)「世界禁煙デー」場所:東京タワー メインデッキ1階(展望台)内容:「すすめよう禁煙!川柳コンテスト」の実施、中学生への新型たばこの害に関する勉強会、点灯式など開催。「すすめよう禁煙!川柳コンテスト」では、一般部門(高校生以上)とジュニア部門(中学生以下)に分かれ、入賞者には賞金や景品が贈呈される。募集締切は4月13日(日)まで。詳細は参考のリンクを参照のこと。

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再発高リスクのVTE患者、DOACは減量可能か?/Lancet

 再発リスクが高く長期の抗凝固療法が必要な静脈血栓塞栓症(VTE)患者において、直接経口抗凝固薬(DOAC)の減量投与は全量投与に対して、非劣性基準を満たさなかった。しかしながら両投与群ともVTEの再発率は低く、減量投与群のほうが臨床的に重要な出血が大幅に減少し、減量投与は治療選択肢として支持可能なことが示されたという。フランス・Centre Hospitalier Universitaire BrestのFrancis Couturaud氏らRENOVE Investigatorsが、多施設共同無作為化非盲検エンドポイント盲検化非劣性試験「RENOVE試験」の結果を報告した。再発リスクが高くDOACの長期投与が適応のVTE患者において、その最適な投与量は明らかになっていなかった。結果を踏まえて著者は、「さらなる試験を行い、抗凝固薬の減量投与をすべきではないサブグループを特定する必要があるだろう」と述べている。Lancet誌2025年3月1日号掲載の報告。減量投与群vs.全量投与群、症候性VTEの再発を評価 RENOVE試験は、フランスの47病院で行われた。急性症候性VTE(肺塞栓症または近位深部静脈血栓症)を呈し、長期の抗凝固薬療法が適応で連続6~24ヵ月の抗凝固薬全量投与を受けた18歳以上の外来患者を適格とした。適格患者は、初発の特発性VTE、再発VTE、持続性リスク因子の存在、その他の再発リスクが高いと考えられる臨床的状態のいずれかに分類された。 被験者は、双方向ウェブ応答システムを用いた中央無作為化法により、減量投与群(アピキサバン2.5mgを1日2回またはリバーロキサバン10mgを1日1回)または全量投与群(アピキサバン5mgを1日2回またはリバーロキサバン20mgを1日1回)に、無作為に1対1の割合で割り付けられた。コンピュータ乱数生成ジェネレーターを用いたシーケンス生成法でブロックサイズの差異のバランスを取り、無作為化では試験施設、DOACの種類、抗血小板薬による層別化を行った。試験担当医師および被験者は治療割り付けを盲検化されなかった。VTEの再発、臨床的に重要な出血、全死因死亡は治療割り付けを盲検化された独立委員会によって判定された。 主要アウトカムは、治療期間中に判定された症候性VTEの再発(致死的または非致死的な肺塞栓症もしくは孤立性の近位深部静脈血栓症などを含む)であった(非劣性マージンは、ハザード比[HR]の95%信頼区間[CI]の上限が1.7、検出力90%に設定)。重要な副次アウトカムは、治療期間中に判定された重大な出血(国際血栓止血学会[ISTH]の基準に従い定義)または臨床的に重要な非重大出血、および治療期間中に判定されたVTEの再発、重大な出血または臨床的に重要な非重大出血の複合とした。主要アウトカムと最初の2つの副次アウトカムは、階層的に評価した。VTEの5年累積発生率は減量投与群2.2%、全量投与群1.8%で非劣性は認められず 2017年11月2日~2022年7月6日に2,768例が登録され、減量投与群(1,383例)または全量投与群(1,385例)に無作為化された。970例(35.0%)が女性、1,797例(65.0%)が男性で、1例(<0.1%)は性別が報告されていなかった。追跡期間中央値は37.1ヵ月(四分位範囲[IQR]:24.0~48.3)。 症候性VTEの再発は、減量投与群で19/1,383例(5年累積発生率2.2%[95%CI:1.1~3.3])、全量投与群で15/1,385例(1.8%[0.8~2.7])に報告された(補正後HR:1.32[95%CI:0.67~2.60]、絶対群間差:0.40%[95%CI:-1.05~1.85]、非劣性のp=0.23)。 重大または臨床的に重要な出血は、減量投与群で96/1,383例(5年累積発生率9.9%[95%CI:7.7~12.1])、全量投与群で154/1,385例(15.2%[12.8~17.6])に報告された(補正後HR:0.61[95%CI:0.48~0.79])。 有害事象の発現は、減量投与群で1,136/1,383例(82.1%)、全量投与群で1,150/1,385例(83.0%)に報告された。Grade3~5の重篤な有害事象の発現はそれぞれ374/1,383例(27.0%)、420/1,385例(30.3%)であった。試験期間中の死亡はそれぞれ35/1,383例(5年累積死亡率4.3%[95%CI:2.6~6.0])、54/1,385例(6.1%[4.3~8.0])であった。

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切迫早産、オキシトシン受容体拮抗薬vs.プラセボ/Lancet

 妊娠30週0日~33週6日の切迫早産の治療として、子宮収縮抑制薬atosibanは新生児のアウトカム改善に関して、プラセボに対する優越性を示さなかった。オランダ・アムステルダム大学のLarissa I van der Windt氏らAPOSTEL 8 Study Groupが、国際多施設共同無作為化比較試験「APOSTEL 8試験」の結果を報告した。オキシトシン受容体拮抗薬のatosibanは、切迫早産の特異的な治療薬として欧州などで承認済みの子宮収縮抑制薬である。子宮収縮抑制薬は、国際ガイドラインで切迫早産の治療薬として推奨されており、出産を遅延することが示されているが、新生児アウトカムへのベネフィットは明らかにされていなかった。著者は、「子宮収縮抑制薬の主目的は新生児のアウトカム改善でなければならない。今回の結果は、妊娠30週0日~33週6日の切迫早産の治療薬としてatosibanを標準使用することに対して疑問を投じるものであった」と述べ、「われわれの試験結果は、国ごとの実践のばらつきを減らし、切迫早産の患者に対するエビデンスベースの治療提供に寄与するものになるだろう」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年3月3日号掲載の報告。妊娠30週0日~33週6日の切迫早産に投与、新生児の周産期死亡と6疾患を評価 APOSTEL 8試験は、オランダ、イングランド、アイルランドの26病院で行われ、妊娠30週0日~33週6日の切迫早産における子宮収縮抑制薬atosibanの新生児疾患および死亡の改善に関して、プラセボに対する優越性を評価した。 妊娠30週0日~33週6日の切迫早産を有する18歳以上の単胎または双胎妊娠の女性(インフォームド・コンセントに署名済み)を、atosiban群またはプラセボ群に無作為に1対1の割合で割り付けた(施設ごとに層別化)。 主要アウトカムは、周産期死亡(死産および出産後28日までの死亡と定義)および6つの重篤な新生児疾患(気管支肺異形成症[BPD]、グレード1超の脳室周囲白質軟化症[PVL]、グレード2超の脳室内出血[IVH]、Bell’sステージ1超の壊死性腸炎[NEC]、グレード2超またはレーザー治療を要する未熟児網膜症[ROP]、培養検査で確認された敗血症)の複合とし、ITT解析にて評価した。治療効果は相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)で推算した。主要アウトカムの相対リスク0.90 2017年12月4日~2023年7月24日に、計755例が無作為化され、752例がITT解析に組み入れられた(atosiban群375例、プラセボ群377例)。ベースライン特性は両群で類似しており、母体年齢中央値はatosiban群30.0歳、プラセボ群31.0歳、妊娠時BMI中央値は両群とも23.4、白人が両群ともに80%であり、妊娠中の喫煙者は両群とも12%、未経産婦は63%と65%、単胎妊娠が80%と85%などで、無作為化時の妊娠期間中央値は両群とも31.6週であった。ITT集団の新生児数はatosiban群449例、プラセボ群435例であった。 主要アウトカムは、atosiban群の新生児で37/449例(8%)、プラセボ群で40/435例(9%)に報告された(RR:0.90[95%CI:0.58~1.40])。 周産期死亡は、atosiban群3/449例(0.7%)、プラセボ群4/435例(0.9%)であった(RR:0.73[95%CI:0.16~3.23])が、全死亡例で試験薬との関連はおそらくないと見なされた。母体有害事象は両群で差異はなく、また母体の死亡の報告はなかった。

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