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チルゼパチドのHFpEFを有する肥満患者への有効性/NEJM

 駆出率が保たれた心不全(HFpEF)を有する肥満の患者において、チルゼパチドはプラセボと比較し、心血管死または心不全増悪の複合リスクを低減し、健康状態を改善することが示された。米国・ベイラー大学医療センターのMilton Packer氏らが、9ヵ国129施設で実施した無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「SUMMIT試験」の結果を報告した。肥満は、HFpEFのリスクを高める。チルゼパチドは、体重減少をもたらすが、心血管アウトカムへの有効性に関するデータは不足していた。NEJM誌オンライン版2024年11月16日号掲載の報告。チルゼパチド群vs.プラセボ群、52週間投与 研究グループは、40歳以上でBMI値≧30、左室駆出率(LVEF)≧50%の慢性心不全患者(NYHA心機能分類クラスII~IV)を、チルゼパチド群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、通常の治療に加えて少なくとも52週間、週1回皮下投与した。投与量は、2.5mg/週から開始し、4週ごとに2.5mg/週ずつ、20週後に15.0mg/週となるまで増量した。 主要エンドポイントは2つあり、当初は(1)全死因死亡または心不全増悪イベント(試験期間全体について評価)と、52週時のカンザスシティ心筋症質問票の臨床サマリースコア(KCCQ-CSS:0~100、高スコアほど生活の質が高い)および6分間歩行距離のベースラインからの変化量を組み合わせた階層的複合エンドポイント、および(2)52週時点での6分間歩行距離の変化量であった。しかし、2023年8月に発表されたSTEP-HFpEF試験の結果を受け、米国食品医薬品局(FDA)との協議も踏まえて修正され、心血管死または心不全増悪イベント(time-to-first-event解析で評価)の複合と52週時のKCCQ-CSSの変化量とされた。主要複合アウトカム発生のHRは0.62 2021年4月20日~2023年6月30日の間に計731例が無作為に割り付けられた(チルゼパチド群364例、プラセボ群367例)。追跡期間中央値は104週間であった。 心血管死または心不全増悪イベントの発生は、チルゼパチド群で36例(9.9%)、プラセボ群で56例(15.3%)に認められた(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.41~0.95、p=0.026)。心不全増悪イベントはそれぞれ29例(8.0%)、52例(14.2%)であったが(HR:0.54、95%CI:0.34~0.85)、心血管死はそれぞれ8例(2.2%)、5例(1.4%)(1.58、0.52~4.83)であった。 52週時のKCCQ-CSSの変化量(最小二乗平均値±SE)は、チルゼパチド群で19.5±1.2であったのに対し、プラセボ群は12.7±1.3であった(群間差中央値:6.9、95%CI:3.3~10.6、p<0.001)。 治験薬投与の中止に至った有害事象は、チルゼパチド群で23例(6.3%)、プラセボ群で5例(1.4%)に認められた。胃腸症状による投与中止はチルゼパチド群でのみ15例(4.1%)が報告された。

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MI後のスピロノラクトンの日常的使用は有益か?/NEJM

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた心筋梗塞(MI)患者において、スピロノラクトンはプラセボと比較し、心血管死または心不全の新規発症/増悪の複合イベント、あるいは心血管死、MI、脳卒中、心不全の新規発症/増悪の複合イベントの発生を低減しなかった。カナダ・マクマスター大学のSanjit S. Jolly氏らCLEAR investigatorsが、14ヵ国の104施設で実施した無作為化比較試験「CLEAR試験」の結果を報告した。ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は、うっ血性心不全を伴うMI患者の死亡率を低下させることが示されているが、MI後のスピロノラクトンの日常的な使用が有益であるかどうかは不明であった。NEJM誌オンライン版2024年11月17日号掲載の報告。スピロノラクトンvs.プラセボ投与を比較 研究グループは、PCIを受けたST上昇型MIまたは1つ以上のリスク因子(左室駆出率[LVEF]≦45%、糖尿病、多枝病変、MIの既往または60歳以上)を有する非ST上昇型MI患者を、2×2要因デザインによりスピロノラクトン+コルヒチン、コルヒチン+プラセボ、スピロノラクトン+プラセボ、またはプラセボのみを投与する群に1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 コルヒチン群とプラセボ群を比較した結果は別途報告されている。本論ではスピロノラクトン群とプラセボ群の比較について報告された。 主要アウトカムは2つで、(1)心血管死および心不全の新規発症または増悪の複合と、(2)MI、脳卒中、心不全の新規発症または増悪および心血管死の複合であった。2つの主要アウトカムについて有意差なし 2018年2月1日~2022年11月8日に、7,062例が無作為化され、3,537例がスピロノラクトン、3,525例がプラセボの投与を受けた。今回の解析時点で、45例(0.6%)の生命転帰が不明であった。 追跡期間中央値3.0年において、1つ目の主要アウトカムである心血管死および心不全の新規発症または増悪の複合イベントは、スピロノラクトン群で183件(100患者年当たり1.7件)、プラセボ群で220件(100患者年当たり2.1件)が報告された。非心血管死の競合リスクを補正したハザード比は0.91(95%信頼区間[CI]:0.69~1.21、p=0.51)であった。 2つ目の主要アウトカムの複合イベントの発生率は、スピロノラクトン群で7.9%(280/3,537例)、プラセボ群で8.3%(294/3,525例)が報告され、競合リスク補正後ハザード比は0.96(95%CI:0.81~1.13、p=0.60)であった。 重篤な有害事象は、スピロノラクトン群で255例(7.2%)、プラセボ群で241例(6.8%)に報告された。

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患者はどう考えている?前立腺がんの治療選択/AZ

 新たな薬剤が登場し、個別化医療が進む前立腺がん。その治療選択を考えるうえで、共同意思決定(Shared Decision Making:SDM)の重要性が増している。 アストラゼネカは2024年10月、「いま知っておきたい!前立腺がん~西川 貴教さんと学ぶ、前立腺がんと向き合うための医師とのコミュニケーションのポイント~」と題したメディアセミナーを開催。上村 博司氏(横浜市立大学附属市民総合医療センター 泌尿器・腎移植科 診療教授)、前立腺がん体験者の武内 務氏(NPO法人 腺友倶楽部 理事長)、アーティストの西川 貴教氏らが登壇した。治療選択時の患者の思いとは セミナーでは、アストラゼネカが実施した前立腺がんの治療選択にかかわる患者アンケート調査の結果を基に、登壇者がディスカッションを行った。治療選択肢の提示数 「複数の治療選択肢の提示を希望する」患者と「実際に複数の治療選択肢を提示された」患者の割合はそれぞれ、患者全体で87%、72%、転移のある患者で65%、48%であった。上村氏は、「(選択肢が複数あっても)担当医が自身の治療方針に則って1つの治療だけを示すという状況は多いのではないか」と述べた。これに対し、西川氏は「できる対処や起こりうることをすべて知りたい患者は多いと思う」とコメントし、医師が行う治療と患者の気持ちとのギャップを埋めることのハードルの高さや必要性について考えを述べた。治療に対する要望を医師に伝えたか 要望を伝えなかった患者は患者全体で29%、転移のある患者で42%であった。要望を伝えなかった理由は「とくに要望はなかった」が最多である一方、要望があっても「自分の要望を伝えず任せたほうがいいと考えた」「どういったことを伝えたらいいかわからなかった」といった意見があった。武内氏は「医師を目の前にすると遠慮してしまう患者は多い」とコメントし、上村氏は「医師から要望がないか一言確認すれば、患者はさまざまな要望を伝えてくれる。まだその一言が足りていないのだと思う」と意見を述べた。個別化医療の認知度 がんゲノム医療と遺伝子検査について「聞いたことがあり、意味も知っている」患者の割合はそれぞれ、患者全体で7%、17%、転移のある患者で15%、25%であった。上村氏は、前立腺がんにおける遺伝子変異に基づく個別化医療の進展について触れつつ、現状、実際に検査を行うには保険上の制限が多く、患者への説明はしづらいと言う。前立腺がんにおけるBRCA1/2の変異は、生殖細胞系列変異だけでなく、体細胞変異も同等の頻度で発現しているが1,2)、検査の保険適用の可能性も考え、家族歴は把握しておく必要があることを述べた。医師とのコミュニケーションと治療満足度 治療に満足していた患者の割合は、コミュニケーションに満足していた患者(450例)で98%であった一方、コミュニケーションに不満があった患者(73例)では39%であった。自身が関わった別の研究3)でも、しっかり治療法を説明された患者は治療にも満足していたという結果が得られたという上村氏は、「治療選択肢をきちんと説明し、それに則って治療を決定することが、高い治療満足度につながる」と述べた。また、患者の要望を把握するためには、説明時の家族の同席や、要望や考えを事前に患者にメモしてもらうなどの工夫が勧められると語った。【アンケート調査の概要】調査対象:前立腺がんと診断されたことのある患者525例(転移のない患者473例、転移のある患者52例)調査期間:2024年2月28日~3月10日アンケートの詳細は下記前立腺がん患者調査レポートSDM実践のために 上村氏は、SDMを医師にも十分に浸透させる必要があることや、選択される治療法に地域・病院格差が生じる可能性を踏まえ、患者側からの積極的な治療関与も求められることを語った。これを受け、武内氏は「患者は医師に対抗してエビデンスの話をするのではなく、自分の環境や考えを遠慮せず伝えて、意見を擦り合わせて治療を決めることが重要であり、それがSDMだ」と考えを述べた。ディスカッションの中で「患者の情報を得ようとする能力や感度によって治療も変わってくるのではないか」とコメントしていた西川氏は、未病の段階も含めて、健康への意識や医療・治療の情報取得に能動的であるべきだと語った。

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鼻腔ぬぐい液検査でCOVID-19の重症度を予測できる?

 鼻腔ぬぐい液を用いた検査が、新型コロナウイルスに感染した人のその後の重症度を医師が予測する助けとなる可能性のあることが、新たな研究で示された。この研究結果を報告した、米エモリー大学ヒト免疫センター(Lowance Center for Human Immunology)およびエモリー・ワクチンセンターのEliver Ghosn氏らによると、軽度または中等度の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患者の70%以上で特定の抗体が作られており、これらの抗体が、症状の軽減や優れた免疫応答、回復の速さに関連していることが明らかになったという。この研究の詳細は、「Science Translational Medicine」11月6日号に掲載された。 これらの抗体は身体を攻撃する自己抗体で、一般に関節リウマチや炎症性腸疾患(IBD)、乾癬などの自己免疫疾患に関連しているという。論文の上席著者であるGhosn氏は、「自己抗体は一般に病的状態や予後不良と関連しており、より重篤な疾患であることを示す炎症の悪化原因となる」と説明している。COVID-19患者を対象とした先行研究では、血液中の自己抗体は、生命を脅かす状態の兆候であることが示されている。しかし、こうした研究は、実際の感染部位である鼻ではなく血液を調べたものであったとGhosn氏らは言う。 Ghosn氏らは、鼻腔内で局所的に生成される抗体をより正確に測定するために、FlowBEATと呼ばれる新しいバイオテクノロジーツールを開発した。FlowBEATは、標準的な鼻腔ぬぐい液を用いて数十種類のウイルス抗原や宿主抗原に対する全てのヒト抗体を高感度かつ効率的に同時測定できる。このツールを用いれば、鼻腔内の自己抗体も検出できるため、COVID-19の重症度を予測することも可能なのだという。 研究グループは、このツールを用いて、129人から収集した気道および血液サンプルを解析した。その結果、軽度から中等度のCOVID-19患者の70%以上で、感染後に鼻腔内のIFN-αに対するIgA1型自己抗体が誘導され、この抗体が新型コロナウイルスに対する免疫応答の強化、症状の軽減、回復の促進と関連していることが明らかになった。また、これらの自己抗体は、宿主のIFN-α産生のピーク後に生成され、回復とともに減少することが示され、IFN-αと抗IFN-α応答の間でバランスが調整されていることも示された。一方、血液中のIFN-αに対するIgG1型自己抗体は、症状悪化と強い全身炎症を伴う一部の患者で遅れて現れることが確認された。 これは、新型コロナウイルスに対する鼻腔内での免疫応答は、血液中の免疫応答とは異なっていることを示唆している。鼻腔内の自己抗体はウイルスに対して防御的に働くのに対して、血液中の自己抗体はCOVID-19を重症化させるのだ。Ghosn氏は、「われわれの研究結果の興味深い点は、鼻腔内の自己抗体の作用が、COVID-19では、通常とは逆だったことだ。鼻腔内の自己抗体は感染後すぐに現れ、患者の細胞によって産生される重要な炎症分子を標的としていた。また、おそらく過剰な炎症を防ぐために、これらの自己抗体は炎症分子を捉え、患者が回復すると消失した。このことは、身体がバランスを保つために、これらの自己抗体を利用していることを示唆している」とエモリー大学のニュースリリースの中で説明している。 論文の筆頭著者であるエモリー大学のBenjamin Babcock氏は、「現時点では、われわれは、感染が起こる前の感染リスクを調べるか、回復後に感染経過を分析するかのどちらかしかできない。もし、クリニックでリアルタイムに免疫応答をとらえることができたらどうなるかを想像してみてほしい。ジャスト・イン・タイムの検査によって、医師や患者は、より迅速でスマートな治療の決定に必要な情報をリアルタイムで得られるようになるかもしれない」と期待を示している。

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コロナ禍を経て高知県民の飲酒行動が変わった?

 お酒好きが多いことで知られる高知県から、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが終息した後も、人々が羽目を外して飲酒する頻度は減ったままであることを示唆するデータが報告された。同県での急性アルコール中毒による搬送件数を経時的に解析した結果、いまだ2019年の水準より有意に少ない値で推移しているという。高知大学医学部附属病院次世代医療創造センターの南まりな氏らの研究によるもので、詳細は「Environmental Health and Preventive Medicine」に10月8日掲載された。 COVID-19パンデミック中は、外出自粛、飲食店の時短営業などの影響を受け、高知県において急性アルコール中毒による救急搬送件数が有意に低下したことを、南氏らは既に報告している。その後、2023年5月にWHOが緊急事態の終息を宣言し、国内でも感染症法上の位置付けが5類となって、社会生活はほぼパンデミック前の状態に戻った。それによって、高知県民の飲酒行動が元に復した可能性があることから、南氏らは最新のデータを用いた検証を行った。 この研究は、高知県救急医療・広域災害情報システム「こうち医療ネット」のデータを用いて行われた。2019~2023年の救急搬送のデータから、解析に必要な情報がないもの、および急性アルコール中毒の記録が存在しない9歳以下と80歳以上を除外した10万7,013人を解析対象とした。このうち1,481人(1.4%)が、急性アルコール中毒による救急搬送だった。 救急搬送者数に占める急性アルコール中毒による搬送者の割合を経時的に見ると、パンデミック前の2019年は1.8%、パンデミック初期に当たる2020年は1.3%であり、その後、2021年と2022年は1.2%で、2023年は1.3%と推移していた。 2019年を基準として、年齢、性別、救急要請場所、消防管轄区域(高知市か高知市以外)、および重症度を調整し、救急搬送のオッズ比(OR)を算出すると、以下に示すように2020年以降はすべて有意に低値であり、2023年にわずかに上昇する傾向が認められた。2020年はOR0.79(95%信頼区間0.68~0.93)、2021年はOR0.74(同0.63~0.87)、2022年はOR0.72(0.61~0.84)、2023年はOR0.77(0.66~0.90)。 著者らは、「COVID-19パンデミックが終息し人々の生活パターンがある程度元に戻ったにもかかわらず、高知県での急性アルコール中毒による救急搬送は、若干増加しているとはいえ、いまだパンデミック以前のレベルに至っていない。この結果は、パンデミックを経て飲酒行動が変化したことを示唆している」と結論付けている。また、そのような変化が生じた背景として、特に急性アルコール中毒のハイリスク集団である若年世代の娯楽の多様化で、アルコール離れが生じた影響ではないかとの考察を加えている。

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双極症I型に対するアリピプラゾール月1回投与〜52週間ランダム化試験の事後分析

 人種間における双極症の診断・治療の不均衡を改善するためには、その要因に関する認識を高める必要がある。その1つは、早期治療介入である。双極症と診断された患者を早期に治療することで、気分エピソード再発までの期間を延長し、機能障害や病勢進行に伴うその他のアウトカム不良を軽減する可能性がある。米国・Otsuka Pharmaceutical Development & CommercializationのKarimah S. Bell Lynum氏らは、早期段階の双極症I型患者における長時間作用型注射剤アリピプラゾール月1回400mg(AOM400)の有効性および安全性を調査するため、52週間ランダム化試験の事後分析を行った。International Journal of Bipolar Disorders誌2024年10月27日号の報告。 双極症I型患者に対するAOM400とプラセボを比較した52週間の多施設共同二重盲検プラセボ対照ランダム化中止試験のデータを分析した。ベースライン時の年齢(18〜32歳:70例)または罹病期間(0.13〜4.6年:67例)が最低四分位に該当した患者を早期段階の双極症I型に分類した。主要エンドポイントは、ランダム化から気分エピソード再発までの期間とした。その他のエンドポイントには、気分エピソードの再発を有する患者の割合、ヤング躁病評価尺度(YMRS)、Montgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)の合計スコアのベースラインからの変化を含めた。 主な結果は以下のとおり。・AOM400による維持療法は、若年患者または罹病期間の短い患者において、プラセボと比較し、すべての気分エピソードの再発までの期間を有意に延長させた。【年齢最低四分位:18〜32歳】ハザード比(HR):2.46、95%信頼区間(CI):1.09〜5.55、p=0.0251【罹病期間最低四分位:0.13〜4.6年】HR:3.21、95%CI:1.35〜7.65、p=0.005・AOM400による気分エピソードの再発抑制は、主にYMRS合計スコア15以上または臨床的悪化の割合の低さに起因する可能性が示唆された。・年齢または罹病期間が早期段階の双極症I型患者におけるMADRS合計スコアのベースラインからの変化は、AOM400がプラセボと比較し、うつ病を悪化させなかったことを示唆している。・AOM400の安全性プロファイルは、以前の研究と一致していた。・AOM400単独療法で安定していた患者が元の研究には含まれているため、AOM400に治療反応を示した患者集団が多かった可能性があることには、注意が必要である。 著者らは「AOM400は、早期段階の双極症I型において、プラセボと比較し、すべての気分エピソードの再発までの期間を有意に延長することが確認された。これらの結果は、AOM400による維持療法の早期開始を裏付けるものである」と結論付けている。

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HR+HER2-早期乳がんの遠隔転移再発率の低下(解説:下村昭彦氏)

 早期乳がん治療についてはEarly Breast Cancer Trialists' Collaborative Group(EBCTCG)が多くのメタ解析を出版しており、日常臨床に活用されている。今回EBCTCGから早期乳がんの遠隔転移再発に関するプール解析が実施され、Lancet誌2024年10月12日号に掲載された。 本研究では、1990年から2009年までに151の臨床試験に登録された早期乳がん患者15万5,746例のデータが用いられた。遠隔再発については各試験の定義が用いられ、10年遠隔再発リスクについて検討された。年代を1990年から1999年と、2000年から2009年の各10年に分けて検討され、リンパ節転移陰性では、エストロゲン受容体(ER)陽性で10.1% vs.7.3%、ER陰性で18.3% vs.11.9%、リンパ節転移が1~3個では、それぞれ19.9% vs.14.7%、31.9% vs.22.1%、リンパ節転移が4~9個では、それぞれ39.6% vs.28.5%、47.8% vs.36.5%であった。治療について補正後、2000年代は1990年代と比較して、遠隔再発率がER陽性例で25%、ER陰性例で19%減少し、ER陽性例では5年を超えても同様の改善が認められた。 この結果は、約20年の間に遠隔再発リスクが著しく低下したことを示す。原因としては、1)低リスク(すなわちリンパ節転移陰性)の患者が多く臨床試験に登録されたこと、2)治療が大幅に進化していること、が挙げられる。私自身はこの年代に乳がんの治療を主体的に行ったことはないが、1990年代と2000年代では大きく治療が異なっている。この間に、ホルモン療法としては閉経後アロマターゼ阻害薬が標準治療となり、化学療法はCMFが主であった時代からアンスラサイクリン、さらにタキサンが標準治療として用いられるようになった。さらに、HER2陽性乳がんではトラスツズマブの有効性が証明され、標準治療となった。事実、図2では2000~04年と2005~09年を分けて解析しているが、ERステータスを問わず新しい年代のほうが再発リスクが低下している。 一方、臨床試験の世界ではこれ以降、高リスクの患者に対する治療のエスカレーションと、低リスクの患者に対するデエスカレーションがトレンドとなった。リスクを評価してその患者に最適な治療を届けるという日常診療の基本が、臨床試験で検証されるようになったと言ってもよい。10年後に、2010年代の再発リスクに関する研究が発表されるのが非常に楽しみである。

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修理代、たったの300円!【Dr. 中島の 新・徒然草】(557)

五百五十七の段 修理代、たったの300円!寒くなりましたね。ついにコートの必要な季節になってしまいました。外に出かけるときにはマフラーと手袋も欠かせません。さて先日のこと。親戚の叔父から、長年乗り続けている古い車についての話を聞かされました。最近になって「カタカタ」という異音がするようになったとのこと。叔父はすぐにディーラーに持ち込み、「音の感じから、どこかのネジが緩んでいるのではないか」と自分の考えを伝えました。しかし、ディーラーからは「どこも悪くない」と言われただけで、さらに「古い車なので買い替えを検討したほうがいい」と勧められたそうです。納得できなかった叔父は、ネットで調べてみました。すると、自宅から5キロほど離れた修理屋の評判が良いことを知り、そこに車を持ち込んだのです。修理屋のおやじさんに事情を説明した際も「音の感じからネジが緩んでいるのではないか」と自身の考えを伝えたのだとか。おやじさんは「なるほど」と頷くと、さっそく車の下に潜り込んで点検開始。そして、3ヵ所のネジが劣化して緩んでいることを突き止め、それらを新品に交換してくれました。その結果、異音は完全になくなり、叔父はようやく安心できたそうです。修理代として請求されたのはネジ代だけの300円。叔父はそれでは申し訳ないと、無理に3,000円を渡して帰ってきました。修理の合間、おやじさんが漏らした言葉が印象的だったそうです。「最近は何でもマニュアル頼りだよ。ディーラーですら、チェックリストしか見ていないんじゃないかな」とのこと。この話を聞いて、私は医療にも通じるものを感じました。たとえば脳卒中の患者さんを診るときに用いるNIHSS(National Institutes of Health Stroke Scale)は非常に有用な評価スケールです。この評価スケールは頭部外傷やめまいの診療にも活用されています。しかし、それだけでは見逃されることも多々あるのではないでしょうか。たとえば、後頭部を打った場合には、嗅覚障害の有無を確認することが重要だと私は思っています。解剖学的に、嗅神経が断裂しやすい方向に力が加わるためですね。私の体感では、20人に1人くらいは嗅覚障害が出るような印象があります。以前、ある頭部外傷の患者さんに「先生、いつになったら鼻のほうは治るの?」と言われて驚いたことがありました。この人は車の荷台から落ちて頭を打ったのですが、この質問をされたときには、もう事故から1ヵ月ほど経っていたからです。嗅覚障害について、自分がまったく注意を払っていなかったことに肝を冷やしました。また、BPPV(良性発作性頭位めまい症)を疑う患者さんの診療では、NIHSSで中枢性のめまいを否定するだけでは不十分です。やはり末梢性のめまいであることを裏付けるために、ディックス・ホールパイク法を用いて眼振やめまい感の有無を確認するべきではないでしょうか。確かに医療において、マニュアルやガイドラインが重要なのは言うまでもありません。でも、それだけで良しとせず、個々の患者さんの状態に合わせた丁寧な診察を心掛けたいものですね。最後に1句300円 冷えた硬貨が 冬告げる

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九州大学医学部 第一内科(血液・腫瘍・心血管・膠原病・感染症)【大学医局紹介~がん診療編】

加藤 光次 氏(准教授)山内 拓司 氏(助教)大村 洋文 氏(助教)近藤 萌 氏(大学院生)講座の基本情報医局独自の取り組み、医師の育成方針私たちが目指す医療は、目の前の患者さんを助けること、そして将来の患者さんを救うことであり、深い洞察を伴う臨床と研究を通じて、この2つの役割を果たすことができる“Physician Scientist”の育成に、医局として力を入れています。九州大学医学部第一内科は、5つの診療研究グループ(血液・腫瘍・心血管・膠原病・感染症)で構成され、各医師が専門領域に精通しつつ、人・全身を総合的に診る力を重視しています。当科では、全体回診を継続するなど、グループや臓器別診療の垣根を越え、全人的に診療できる総合内科医の臨床力を自ずと身に付けることができる土壌が育まれています。さらに、当科の専門であるがんや免疫の領域では、奇跡的とも言える最近の基礎研究から臨床開発への応用を容易に目の当たりにすることができます。このことは、第一内科ならではの特徴で、基礎研究や臨床開発における成果を、専門性を越えて異なる視点やアプローチから学ぶことが可能です。すぐ近くに、自らの視野を広げてくれる環境が整っています。さまざまなグループの垣根を越えた組織の活力は「自由」から生まれ、第一内科開講以来100年以上もの間、それを大切にしてきました。第一内科に息づく「自分のやりたいことがやれる自由度の高さ、そしてそれを支える歴史と伝統」を引き継ぎ、臨床力・研究力・人間力のバランスが取れた“Physician Scientist”を目指す若い皆さまに是非教室にご参加いただき、それぞれがもつ夢を実現して欲しいと思います。全体回診を行い、グループの垣根を越えて診療力を入れている治療/研究テーマ九州大学病院血液内科では、移植推進拠点病院として年間約50件の造血幹細胞移植を実施しています。また、難治性悪性リンパ腫や多発性骨髄腫に対する新規治療であるCAR-T細胞療法も、いち早く導入され、年間50件以上の実施件数を誇っています。研究面では、白血病や悪性リンパ腫を中心とした基礎研究に加え、臨床現場での疑問点を出発点とした研究や、基礎研究から臨床応用を目指すトランスレーショナルリサーチも推進しています。たとえば、白血病幹細胞に発現するTIM3を世界に先駆けて発見し、これをターゲットとした治療薬の開発を進めています。医学生/初期研修医へのメッセージ当科では、細胞治療に関する豊富な臨床経験を積むことができるほか、臨床と研究の距離感が近い環境が整っています。血液がんは一般的に予後が不良な疾患ですが、その治療法は日進月歩で進展しており、新たな治療法の開発に取り組むことができるのが大きな魅力です。血液がんと診断された患者さんは、多大なショックや不安を抱えていますが、少しでも安心できる未来を目指し、共に治療を進めていきましょう。カンファレンスの様子同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力私たち腫瘍グループは、がん治療の最前線で、多職種や複数の診療科と連携し、患者さん一人ひとりに最適な治療を届けることを目指しています。消化器がん、軟部肉腫、原発不明がんなど、幅広いがん種に対し、最新のエビデンスに基づく薬物療法を実践しています。時には合併症で悩むこともありますが、他のグループの先生方にいつでも気軽に相談できるので、心強いサポートを感じています。このように臓器の枠組みを越えた連携が、「全人的に診る」総合内科としての第一内科の強みであり魅力でもあります。患者さんに寄り添い、時に笑い合い、悩みながらも一緒に歩んでいく―それがやりがいであり、私が第一内科に入局した理由でもあります。さらに、研究設備も非常に充実しており、関連病院の先生方と協力しながら存分に研究を行うことも可能ですし、学位取得のチャンスも広がっています。また日本臨床腫瘍学会の認定研修施設として、「がん薬物療法専門医」の資格取得を目指すための高度な教育環境が整っています。臨床、研究、教育のいずれも充実したこの環境で、私たちと一緒に最先端のがん医療に取り組んでみませんか?これまでの経歴山口大学を卒業後、九州大学第一内科(心血管グループ)に入局し、内科専門医・循環器専門医を取得しました。現在は腫瘍循環器診療を行うとともに、がん治療と心血管疾患に関する基礎・臨床研究に力を入れています。同医局を選んだ理由当科は血液、腫瘍、循環器、膠原病、感染症など多様な診療グループがあり、各診療グループ間の垣根がないため、内科医としての知識を幅広く学べる環境が整っています。指導医の先生方は豊富な知識を持ち、患者さんに真摯に向き合っており、その姿勢に惹かれて入局を決意しました。所属する先生方のキャリアは多様で、各々のニーズに応じた働き方やスキル習得が可能です。私もがんと循環器領域の両方に興味を持ち、入局後にがん診療に従事した後、心血管グループに所属しています。現在学んでいること現在は大学院で、がん治療に関連する心血管障害の基礎研究を進めつつ、造血器腫瘍と心血管有害事象、腫瘍循環器リハビリテーションの臨床研究も行っています。がん治療は日々進歩し続けており、その中で患者さんに少しでも良い診療を提供できるよう研鑽を重ねています。九州大学医学部 第一内科(血液・腫瘍・心血管・膠原病・感染症)住所〒812-858 福岡県福岡市東区馬出3-1-1問い合わせ先ikyoku1intmed1@gmail.com医局ホームページ九州大学医学部 第一内科(血液・腫瘍・心血管・膠原病・感染症)専門医取得実績のある学会日本内科学会、日本血液学会、日本輸血・細胞治療学会、日本移植学会、日本臨床腫瘍学会、日本消化器病学会、日本消化器内視鏡学会、日本循環器学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本不整脈心電学会、日本アレルギー学会、日本リウマチ学会、日本感染症学会、日本臨床検査医学会、日本救急医学会、日本糖尿病学会 など研修プログラムの特徴(1)血液内科・腫瘍内科・心血管内科・膠原病内科・感染症内科と複数のグループが連携して診療にあたっており、充実したサポート体制のもとさまざまな分野の症例が経験できます。(2)治験や臨床試験をはじめ最先端の治療を実施しており、将来の治療開発に繋がる基礎研究にも精力的に取り組んでいます。希望があれば海外留学も支援します。(3)休日当番制を敷いて、ライフワークバランス実現に取り組んでいます。産休・育休から復帰した女性医師のキャリア支援にも力を入れています。詳細はこちら

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第124回 自己負担増か?「高額療養費制度」の見直し 

高額療養費制度が変わって10年…皆さんが診療している患者さんで「高額療養費制度」を導入されている方は多いと思います。抗がん剤などはその最たるものでしょう。この制度、ご存じのように収入が少ない世帯だと自己負担額が安く、収入が多い世帯だと自己負担額が高くなる仕組みです。平均的なサラリーマンで上限が月8~10万円※1、所得が多いドクターの皆さんは、25~28万円※2くらいになります。40代を超えてきて、「病気した」「入院した」という知り合いの医師が増えてきたのですが、耳にするのは自己負担額が高いという嘆きの声です※3。※1)8万100円+追加自己負担分、4回目からは多数該当が適用され3万5,700円減る。※2)25万2,600円+追加自己負担分、4回目からは多数該当が適用され11万2,500円減る。※3)健康組合や共済組合において、1ヵ月間の医療費の自己負担限度額を決め、限度額を超過した費用を払い戻す付加給付制度がある職場なら月2万円くらいで済むこともある。現在の上限額は、たとえば70歳未満だと5区分に分かれています。医師の平均年収は1,500万円くらいなので、おおむね最上位層に入ります。この層の自己負担額のベース上限額が25万円2,600円というヤバイ水準になったのが2015年です。「とはいえそんなに高額になることはないっしょ」と思っていたら、最近登場する薬剤の高いこと。アベノミクス以降、日本はデフレを脱却し、賃金と物価を増加させています。厚生労働省は、11月21日に開かれた社会保障審議会の医療保険部会において、自己負担額の上限額の引き上げが必要と言及しました1)。来た。ついに来た。本当に平等な自己負担になるのか?まだ具体案は示されていませんが、全体の上限額を7~16%上げて、その後所得に応じた区分をさらに細分化するというのが想定案です。所得の多い医師は、表の3.8%のところに入っていると思いますが、これ以上負担増はカンベンしてほしいところです。なんせ前回の改正で、この層は10万円も増えたんですよ。画像を拡大する表. 70歳未満における医療保険区分と自己負担上限額(筆者作成)「年間薬価300万円の認知症治療薬が、高齢者では月8,000円で済むこともある」というのがSNSで話題になりました。実は今回、11月21日の医療保険部会でもそのことに触れられています。確かに現在、高齢者や非課税世帯が高額な薬価の最高水準の医療を受けられるのに、社会に出たばかりの若者や子育て世代が高額な自己負担のために治療を辞退せざるを得ないという構図もあります。「高所得者は多く負担してもらうが少なく給付を出す」というのは公的医療保険の不平等です。高齢者の自己負担3割や安易な受診を抑制するといった、本来の医療政策でクリアされるべきで、セーフティネットになっている高額療養費制度を今以上にキツくしてほしくないですね。参考文献・参考サイト1)厚生労働省:第186回社会保障審議会医療保険部会【資料2】医療保険制度改革について(2024年11月21日)

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砂糖の摂取量とうつ病や不安症リスクとの関連〜メタ解析

 世界中で砂糖の消費量が急激に増加しており、併せてうつ病や不安症などの精神疾患の有病率も増加の一途をたどっている。これまでの研究では、さまざまな食事の要因がメンタルヘルスに及ぼす影響について調査されてきたが、砂糖の摂取量がうつ病や不安症リスクに及ぼす具体的な影響については、不明なままである。中国・成都中医薬大学のJiaHui Xiong氏らは、砂糖の摂取量とうつ病や不安症リスクとの関連を包括的に評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Frontiers in Nutrition誌2024年10月16日号の報告。 食事中の砂糖の総摂取量とうつ病、不安症リスクとの関連を調査した研究をPubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Science、China National Knowledge Network (CNKI)、WangFangより、システマティックに検索した。選択基準を満たした研究は、システマティックレビューに含め、品質評価したのち、データ抽出を行った。メタ解析には、Stata 18.0 ソフトウェアを用いた。 主な結果は以下のとおり。・40研究、121万2,107例をメタ解析に含めた。・砂糖の摂取量は、うつ病リスクを21%増加(オッズ比[OR]:1.21、95%信頼区間[CI]:1.14〜1.27)させることが示唆されたが、不安症リスクとの全体的な関連性には、統計学的に有意な結果が得られなかった(OR:1.11、95%CI:0.93〜1.28)。・異質性が高いにも関わらず(I2=99.7%)、結果は統計学的に有意であった(p<0.000)。・サブグループ解析では、砂糖の摂取とうつ病リスクとの関連は、さまざまな研究デザイン(横断研究、コホート研究、ケースコントロール研究)、サンプルサイズ(5,000例未満、5,000〜1万例、1万例超)にわたり、一貫していた。・女性は、男性よりもうつ病リスクが高かった(OR:1.19、95%CI:1.04〜1.35)。・さまざまな測定法の中でも、食物摂取頻度調査(FFQ)は、最も有意な効果を示した(OR:1.32、95%CI:1.08〜1.67、I2=99.7%、p<0.000)。・測定ツールのサブグループ解析では、砂糖の摂取とうつ病リスクとの間に有意な相関が、こころとからだの質問票(PHQ-9)、うつ病自己評価尺度(CES-D)で示唆された。【PHQ-9】OR:1.29、95%CI:1.17〜1.42、I2=86.5%、p<0.000【CES-D】OR:1.28、95%CI:1.14〜1.44、I2=71.3%、p<0.000・高品質の横断研究およびコホート研究では、砂糖の摂取とうつ病リスクとの間に有意な関連が認められ、ほとんどの結果はロバストであった。・砂糖の摂取と不安症リスクの全体的な分析では、有意な影響がみられなかったが、とくにサンプルサイズが5,000例未満の研究(OR:1.14、95%CI:0.89〜1.46)および食物摂取頻度調査票(FFQ)を用いた研究(OR:1.31、95%CI:0.90〜1.89)といった一部のサブグループにおいて有意に近づいていた。 著者らは「食事中の砂糖の総摂取量は、一般集団におけるうつ病リスク増加と有意に関連していたが、不安症リスクとの関連は有意ではなかった。これらの関連性についての信頼性を確保するためには、さらに質の高い研究が求められる。本研究により、食事中の砂糖摂取量がメンタルヘルスに及ぼす影響、サブグループ分析によって潜在的な高リスク群に対するうつ病や不安症の予防に関する新たな知見が得られた」と結論付けている。

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mavacamtenの長期使用で中隔縮小療法を回避/AHA2024

 症候性閉塞性肥大型心筋症(HCM)患者を対象としたVALOR-HCM試験において、mavacamtenにより中隔縮小療法(septal reduction therapy:SRT)の短期的な必要性を低下させ、左室流出路(LVOT)圧較差などの改善をもたらすことが報告されていた。今回、米国・クリーブランドクリニックのMilind Y Desai氏らが治療終了時128週までのmavacamtenの長期的な効果を検討し、11月16~18日に米国・シカゴで開催されたAmerican Heart Association’s Scientific Sessions(AHA2024、米国心臓学会)のFeatured Scienceで発表、Circulation誌オンライン版2024年11月18日号に同時掲載された。 今回の結果によると、症候性閉塞性HCM患者の約90%において、128週時点でSRTを実施せずにmavacamtenを長期継続していた。 本研究は米国の19施設で行われた多施設共同プラセボ対照ランダム化二重盲検試験で、SRTを紹介された症候性閉塞性HCM患者を対象とした。最初にmavacamtenにランダム化されたグループは128週間にわたってmavacamtenを継続、プラセボを投与されたグループは16週目から128週目までmavacamtenを継続した(112週間の曝露)。用量漸増は、心エコー図によるLVOT勾配と左室駆出率(LVEF)の測定結果を基に行った。主要評価項目は、128週目にSRTに進む患者またはガイドラインの適格性を維持している患者の割合であった。 主な結果は以下のとおり。・128週目に、全対象者108例中17例(15.7%)が複合エンドポイントを達成した(7例がSRTを受け、1例がSRT適格、9例がSRT状態評価不能)。・128週までに87例(80.5%)がNYHAクラスI以上の改善を示し、52例(48.1%)がクラスII以上の改善を示した。また、安静時およびバルサルバ手技によるLVOT圧較差がそれぞれ38.2mmHgおよび59.4mmHgと持続的に低下した。・95例(88%)が上市されているmavacamtenに切り替えられた。・15例(13.8%、100患者年あたり5.41例)はLVEFが50%未満(LVEF≦30%が2例、死亡が1例)で、このうち12例(80%)が治療を継続した。・新たに心房細動を発症した患者は11例(10.2%、100患者年あたり4.55例)であった。

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果物が大腸がんリスクを抑える~メンデルランダム化解析

 食物摂取とがん発症リスクに関する研究は多くあるが、観察研究は交絡因子の影響を受けやすく、因果関係の解釈が難しい場合がある。遺伝的変異を環境要因の代理変数として使用し、交絡バイアスを最小限に抑えるメンデルランダム化(MR)アプローチによって食事摂取と大腸がんリスクとの関連を評価した研究が発表された。韓国・ソウル大学のTung Hoang氏らによる本研究は、BMC Cancer誌2024年9月17日号に掲載された。 本研究では、UKバイオバンクの大規模データを活用し、赤肉、加工肉、家禽、魚、牛乳、チーズ、果物、野菜、コーヒー、紅茶、アルコールといった食品の消費に関連する遺伝的変異を特定した。具体的には9,300万以上の遺伝的変異から399の変異を選び出し、これをもとに食事摂取量に関連する遺伝的リスクスコアを構築した。MR解析では、この遺伝的リスクスコアを利用して、食品摂取と大腸がんリスクとの因果関係を推定した。また、観察解析としてCox比例ハザードモデルを用い、実際の食品摂取量と大腸がんリスクとの関連も評価した。 主な結果は以下のとおり。・MR解析の結果、遺伝的に予測される果物の摂取量が増加すると、大腸がんリスクが21%減少することが示された(ハザード比[HR]:0.79、95%信頼区間[CI]:0.66~0.95)。野菜の摂取についても、大腸がんリスクと弱い逆相関が認められた(HR:0.85、95%CI:0.71~1.02)。・一方、観察解析では、果物と野菜の摂取量増加に対する大腸がんリスク低減の効果は有意ではなく、果物の摂取量1日当たり100g増加のHRは0.99(95%CI:0.98~1.01)、同じく野菜のHRは0.99(95%CI:0.98~1.00)であった。 研究者らは「これらの結果から、果物の摂取増加が大腸がんリスクの低減と因果的に関連している可能性が支持され、大腸がん1次予防として果物の摂取が有効な戦略となることが示唆された。加工肉、赤肉、アルコールの摂取に関する遺伝的予測では、これらの食品が大腸がんリスクを増加させるとの結果は得られなかった。また、観察解析でも同様に、これらの食品摂取と大腸がんリスクとの有意な関連性は確認されなかった。さらに、コーヒーや紅茶、乳製品などの摂取についても有意な関連は認められなかった」とした。

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多発性骨髄腫の治療継続、医師と患者の認識にギャップ/J&J

 Johnson & Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)は、 2024年11月15日、2024年6月に実施した多発性骨髄腫患者と多発性骨髄腫を診療する医師を対象とする調査の結果を発表した。 調査の結果、半数の患者が、「通院などの身体的負担、治療費による負担、治療が続くことへの精神的な負担などから、治療を途中で休みたいと思ったことがある」と回答した。しかし実際には、患者全体の8割は治療を継続していた。医師の調査でも症状が軽快しても、約7割の患者は治療を継続している実態が示された。 前向きに治療を継続する上で必要なこととして、患者も医師も「主治医から、治療や副作用、治療期間に関する説明が十分にあること」、「主治医に治療や副作用、治療期間に関する不安や疑問などを相談できること」、「患者本人が、病気や治療、医療費制度に関する情報を得ること」を上位3つにあげ、主治医・患者間での対話や患者本人の情報入手が必要であると考えていることが示された。  どのような状況があれば治療を継続しやすくなると思うかとの問いに対し、約5割の医師が「身近で世話をする人(家族など)に、患者が治療や治療期間、副作用などに関する不安や疑問を相談できること」、「身近で世話をする人が病気や治療、医療費制度について情報を入手すること」が必要と回答した。

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血流感染症の抗菌薬治療、7日間vs.14日間/NEJM

 血流感染症の入院患者への抗菌薬治療について、7日間投与は14日間投与に対して非劣性であることが示された。カナダ・トロント大学のNick Daneman氏らBALANCE Investigatorsが、7ヵ国の74施設で実施した医師主導の無作為化非盲検比較試験「BALANCE試験」の結果を報告した。血流感染症は、罹患率と死亡率が高く、早期の適切な抗菌薬治療が重要であるが、治療期間については明確になっていなかった。NEJM誌オンライン版2024年11月20日号掲載の報告。重度の免疫抑制患者等を除く患者を対象、主要アウトカムは90日全死因死亡 研究グループは、血流感染症を発症した入院患者(集中治療室[ICU]の患者を含む)を抗菌薬の短期(7日間)治療群または長期(14日間)治療群に1対1の割合で無作為に割り付け、治療チームの裁量(抗菌薬の選択、投与量、投与経路)により治療を行った。 重度の免疫抑制状態にある(好中球減少症、固形臓器または造血幹細胞移植後の免疫抑制治療を受けている)患者、人工心臓弁または血管内グラフトを有する患者、長期治療を要する感染症(心内膜炎、骨髄炎、化膿性関節炎、未排膿の膿瘍、未除去の人工物関連感染)、血液培養で一般的な汚染菌(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌など)が陽性、黄色ブドウ球菌またはS. lugdunensis菌血症、真菌血症などの患者は除外した。 主要アウトカムは血流感染症診断から90日以内の全死因死亡で、非劣性マージンは4%ポイントとした。診断後90日以内の全死因死亡率は7日群14.5%、14日群16.1% 2014年10月17日~2023年5月5日に、適格基準を満たした1万3,597例のうち3,608例が無作為化された(7日群1,814例、14日群1,794例)。登録時、1,986例(55.0%)はICUの患者であった。 血流感染症の発症は、市中感染75.4%、病棟内感染13.4%、ICU内感染11.2%であり、感染源は尿路42.2%、腹腔内または肝胆道系18.8%、肺13.0%、血管カテーテル6.3%、皮膚または軟部組織5.2%であった。 血流感染症診断後90日以内の全死因死亡は、7日群で261例(14.5%)、14日群で286例(16.1%)が報告された。群間差は-1.6%ポイント(95.7%信頼区間[CI]:-4.0~0.8)であり、7日群の14日群に対する非劣性が検証された。 7日群の23.1%、14日群の10.7%でプロトコール不順守(割り付けられた日数より2日超短縮または延長して抗菌薬が投与された)が認められたが、プロトコール順守患者のみを対象とした解析(per-protocol解析)においても主要アウトカムの非劣性が示された(群間差:-2.0%ポイント、95%CI:-4.5~0.6)。 これらの結果は、副次アウトカムや事前に規定されたサブグループ解析においても一貫していた。

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高リスク2型DM患者の降圧目標、120mmHg未満vs.140mmHg未満/NEJM

 心血管リスクを有する収縮期血圧(SBP)が高値の2型糖尿病患者において、目標SBPを120mmHg未満とする厳格治療は、140mmHg未満とする標準治療と比較して、主要心血管イベント(MACE)のリスクが低下したことが示された。中国・Shanghai Institute of Endocrine and Metabolic DiseasesのYufang Bi氏らBPROAD Research Groupが、中国の145施設で実施した無作為化非盲検評価者盲検比較試験「Blood Pressure Control Target in Diabetes:BPROAD試験」の結果を報告した。2型糖尿病患者におけるSBP管理の有効な目標値ははっきりとしていない。NEJM誌オンライン版2024年11月16日号掲載の報告。主要アウトカムは、非致死的脳卒中・心筋梗塞、心不全入院/治療、心血管死の複合 研究グループは、50歳以上の2型糖尿病患者で、SBP高値(降圧薬服用患者130~180mmHg、非服用患者140mmHg以上)および心血管疾患リスクが高い患者を、目標SBPを120mmHg未満とする厳格治療群または140mmHg未満とする標準治療群に無作為に割り付け、最長5年間治療を行った。 主要アウトカムは、MACE(非致死的脳卒中、非致死的心筋梗塞、心不全による入院または治療、または心血管死の複合)とし、欠測の場合は多重代入法を用いて補完し解析した。 2019年2月~2021年12月に、1万2,821例が登録された(厳格治療群6,414例、標準治療群6,407例)。患者背景は、5,803例(45.3%)が女性で、平均(±SD)年齢は63.8±7.5歳であった。MACEの発生頻度は100人年当たり1.65 vs.2.09 平均SBPは、厳格治療群および標準治療群でそれぞれベースラインでの140.0mmHg、140.4mmHgから、1年後は121.6mmHgおよび133.2mmHgに低下した。 追跡期間中央値4.2年において、MACEは厳格治療群で393例(100人年当たり1.65件)、標準治療群で492例(同2.09件)に認められた(ハザード比:0.79、95%信頼区間:0.69~0.90、p<0.001)。 重篤な有害事象の発現率は、厳格治療群36.5%、標準治療群36.3%であり、両群で同等であった。しかし、症候性低血圧および高カリウム血症の発現率は、厳格治療群と標準治療群でそれぞれ0.1% vs.0.1%未満、2.8% vs.2.0%であり、厳格治療群で高頻度に認められた。

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局所進行子宮頸がんに対するペムブロリズマブ+同時化学放射線療法が承認/MSD

 MSDは、2024年11月21日、抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)が、局所進行子宮頸に対する同時化学放射線療法(CCRT)との併用について、国内製造販売承認事項一部変更の承認取得を発表した。 今回の承認は、未治療の国際産婦人科連合(FIGO)2014進行期分類のIB2~IIB期またはIII~IVA期の局所進行子宮頸がん患者1,060例(日本人90例を含む)を対象とした国際共同第III相試験KEYNOTE-A18試験のデータに基づいたもの。 同試験において、ペムブロリズマブとCCRT(シスプラチン同時併用下での外部照射、およびその後の小線源治療)との併用療法は、プラセボとCCRTとの併用療法と比較して、主要評価項目である全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)を有意に延長した(OS HR:0.67、95%CI:0.50~0.90、p=0.0040、PFS HR:0.70、95%CI:0.55~0.89、p=0.0020)。 安全性については、安全性解析対象例528例中512例(97.0%)(日本人41例中41例を含む)に副作用が認められた。主な副作用(20%以上)は、貧血317例(60.0%)、悪心304例(57.6%)、下痢268例(50.8%)、白血球数減少173例(32.8%)、好中球数減少156例(29.5%)、嘔吐135例(25.6%)、白血球減少症125例(23.7%)、血小板数減少116例(22.0%)、好中球減少症114例(21.6%)および甲状腺機能低下症112例(21.2%)であった。

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オンラインで受けるバーチャルヨガは腰痛軽減に効果的

 腰痛に関する臨床ガイドラインでは、鎮痛薬を使用する前に理学療法やヨガを試すことが推奨されているが、痛みがひどくてヨガスタジオに通うのが困難な場合もある。こうした中、オンラインでバーチャルヨガを受けても痛みの緩和に有効な可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。米クリーブランド・クリニック、ウェルネス・予防医学のRobert Saper氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に11月1日掲載された。 この研究では、中等度の慢性腰痛を抱える18〜64歳の成人140人(平均年齢47.8歳、女性80.7%)を対象に、ライブ配信で実施されるバーチャルヨガ(以下、バーチャルヨガ)クラスへの参加が、慢性腰痛の強度や腰に関連する機能、睡眠の質、鎮痛薬の使用にもたらす効果を検討した。対象者は、バーチャルヨガに参加する群(バーチャルヨガ群、71人)と、同クラスの受講待機群(対照群、69人)にランダムに割り付けられた。バーチャルヨガ群は、腰痛患者を治療するために特別に設計された1回60分のバーチャルヨガプログラムを、インストラクターの指導下で週に1回、12週間受けた。対象者の腰痛の強度は腰痛強度尺度(0〜11点で評価、高スコアほど痛みが強い)で、腰に関連する機能については修正版Roland Morris Disability Questionnaire(RMDQ、23点満点でスコアが高いほど機能が低下している)で評価した。 その結果、バーチャルヨガ群では対照群に比べて、12週間後には腰痛強度の平均スコアが大幅に低下し(−1.5点、95%信頼区間−2.2〜−0.7、P<0.001)、また、腰に関連する機能についても大きく改善したことが明らかになった(RMDQスコアの平均変化量−2.8点、同−4.3〜−1.3、P<0.001)。こうした改善効果は24週間後も維持されていた(腰痛強度の平均スコア−2.3点、同−3.1〜−1.6、P<0.001、RMDQスコア−4.6点、同−6.1〜−3.1、P<0.001)。さらに、バーチャルヨガ群では、12週間後の時点で過去1週間の鎮痛薬の使用量が対照群よりも21.4%少なく、睡眠の質も有意に改善していることが確認された。 論文の筆頭著者である、クリーブランド・クリニックのHallie Tankha氏は、「この研究は、バーチャルヨガが慢性腰痛の軽減に効果のある安全な治療法となり得ることを示している」と同クリニックのニュースリリースの中で述べている。同氏は、「腰痛に対する従来の治療法は、効果が不十分なことが多かった。ヨガは腰痛の管理における包括的なアプローチとなり得る。われわれは今後、この安全で効果的な治療法へのアクセスを増やすよう努めるべきだ」と付言している。

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低温持続灌流はドナー心臓の虚血時間を安全に延長できる(解説:小野稔氏)

 低温浸漬保存(SCS)は脳死ドナーから提供された心臓を保存するゴールドスタンダードであるが、保存時間が4時間を超えると虚血、嫌気性代謝に続く臓器障害を来たし、移植後の合併症や死亡に至る場合がある。肝臓移植においてはXVIVO(XVIVO AB, Sweden)による低温灌流保存(HOPE: hypothermic oxygenated machine perfusion)についての12のメタアナリシスやシステマティックレビューがあり、その安全性と有効性が証明されている。 心臓移植におけるXVIVO装置を用いたHOPEの安全性と有効性を証明するために、欧州8ヵ国の15の心臓移植センターにおいて、多国多施設無作為化オープンラベル試験が実施された。対象は18歳以上の成人心臓移植患者で、いずれかの臓器移植の既往、先天性心疾患、腎不全、脱感作中、LVAD以外の循環補助中の場合には除外された。ドナーについては18~70歳が対象で、心停止後ドナーや再開胸が必要な場合には除外とした。心保存について従来のSCSとHOPEに1:1で割り付けられた。SCS群では各施設のプロトコルで心停止を誘導してアイススラッシュ保存を行った。HOPE群では、300~500mLの血液、抗生剤とインスリンが添加されたXVIVO Heart Solutionで満たされたXVIVO灌流装置を使用した。心臓摘出後に上行大動脈にカニューレを挿入して装置に接続し、大動脈圧20mmHgで8度を維持して灌流(毎分100~200mLに相当)した。 2020年11月から2023年5月までに1,050例がスクリーニングされ、HOPE群には101例、SCS群には103例が割り付けられた。レシピエント(56歳vs.58歳)、ドナー(48歳vs.50歳)共に両群間で背景因子、原疾患、循環補助の状態に差はなかった。ドナー心保存時間はHOPE群のほうが長かった(240分vs.215分)。主要評価項目(心臓関連死、中~高度の左室のグラフト不全、右室のグラフト不全、Grade 2R以上の細胞性拒絶反応を含む複合エンドポイント)はHOPE群19例(19%)、SCS群31例(30%)に見られ、HOPE群のリスク軽減率は44%となったがp値は0.059であった。副次評価項目である移植後グラフト不全単独では、SCS群28%に対してHOPE群11%と有意に少なかった。心臓関連主要有害事象についてはHOPE群18%で、SCS群32%に対して有意に少なかった。心臓関連死については両群間で差は見られなかった。 主要評価項目では有意差はなかったが、HOPE群に見られた44%のリスク軽減は臨床的には意義がある。とくに移植後グラフト不全がHOPE群に有意に少ないことは、遠方からのドナー心の搬送や複雑な手技が必要な心臓移植において、虚血時間等の問題解決につながる可能性がある。

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“しなくてもいいこと”を言う【もったいない患者対応】第18回

“しなくてもいいこと”を言う患者さんに対して指示を出す際に、「〇〇してください」だけでなく、「〇〇しなくてもいいですよ」という指示が必要なケースがあります。軽度外傷の消毒、抗菌薬たとえば、縫合処置のいらないような切り傷や擦り傷など、軽度の外傷で来院した患者さんには、「以前はこういった傷にはイソジン(ヨード液)のような消毒液で消毒していたんですが、いまは消毒が傷の治りを悪くすることがわかっているのでやらないんですよ」といった説明をしておくのが望ましいと考えています。というのも、「傷は消毒しなければならないものだ」と考えている患者さんは多いので、消毒をせず水道水による洗浄だけで対処し、のちに創部感染を起こしたりすると、「消毒してもらえなかったからではないか」と医師に対して不信感を抱くおそれがあるからです。ほかにも、「こうした小さな傷であれば抗生物質(抗菌薬)は不要です。傷が膿んだりしたときには抗生物質を処方しますが、いまの時点では必要ないんですよ」といった説明が必要なのも、同じ理由です。患者さんによっては、過去の経験から「怪我には抗生物質が必要だ」と思い込んでいる方が多いからです。消毒と同様に、創部感染などの合併症を起こした際に問題になるため、あらかじめ説明すべきです。風邪に対する抗菌薬抗菌薬でいえば、風邪も同じです。もし風邪の患者さんから「抗生物質をもらえませんか?」と言われたら、前述のとおり「風邪はほとんどがウイルス感染なので、抗生物質は効かないんですよ。吐き気や下痢、アレルギーなどの副作用のデメリットのほうが大きいので、いまの時点では使用しないほうがいいでしょう」といった説明を返すことができますが、なかにはこうした質問をわざわざせず、心の中で、「抗生物質がもらえると思っていたのにもらえなかった」という不満を抱える患者さんもいるかもしれません。すると、のちに悪化して肺炎などを起こしてから、「あのとき、抗生物質を処方してもらえなかったからこんなことになったのだ」と誤解されるリスクがあるのです。医師が説明する必要がないと思ったことでも、一般的に知られておらず、かつ患者さんが誤解しがちなポイントは、先回りして伝えておくことが大切です。“すべきこと”に比べると“しなくてもいいこと”は、きちんと意識していないと抜け落ちてしまいがちです。十分に注意しましょう。

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