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腎機能障害を伴う急性心不全患者へのrolofylline、治療薬としての将来性示されず

急性心不全患者では頻繁に有害転帰と関連する腎機能の低下がみられる。それら腎機能低下にはこれまでの実験・臨床研究から、アデノシンを介した対抗制御反応が関与する可能性が示唆されている。そこで米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校/サンフランシスコ退役軍人医療センターのBarry M. Massie氏ら研究グループは、アデノシンA1受容体拮抗薬rolofylline投与が、急性心不全患者の呼吸困難を改善し、腎機能を悪化させるリスクを減少し、より良好な臨床経過をもたらすとの仮説を検証する多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化試験「PROTECT」を行った。NEJM誌2010年10月7日号掲載より。腎機能障害を伴う急性心不全患者2,000例超を無作為化研究グループは、発症後24時間以内の、腎機能障害を伴う急性心不全の入院患者2,033例を、1日30mgのrolofylline静注を最大3日間投与する群とプラセボを投与する群に、2対1の割合で無作為に割り付け追跡した。主要エンドポイントは、治療成功、治療失敗、あるいは患者の臨床症状に変化なしとした。定義は、生存、心不全の状態、腎機能の変化に基づき行われた。副次エンドポイントは、治療後の持続性腎機能障害の発現、心血管または腎臓が原因の60日死亡率および再入院率とした。プラセボとの比較で有益性示されず結果、プラセボと比較して、rolofyllineの主要エンドポイントに関する有益性は示されなかった(オッズ比:0.92、95%信頼区間:0.78~1.09、P=0.35)。副次エンドポイントの持続性腎機能障害の発現は、rolofylline群で15.0%、プラセボ群は13.7%(P=0.44)だった。また、60日死亡・再入院率については両群で同等だった(rolofylline群30.7%、プラセボ群31.9%、P=0.86)。全体の有害事象の発生率は両群で同等だった。rolofylline群でのみ、てんかん発作がみられたが、これはアデノシンA1受容体拮抗薬の有害作用として知られる。これらの結果から研究グループは、「rolofylline投与が、主要臨床複合エンドポイントに良好な影響を与えることは認められず、腎機能や60日転帰も改善しなかった」と述べ、「腎機能障害を伴う急性心不全患者への治療薬としての将来性は示されなかった」と結論づけている。(朝田哲明:医療ライター)

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一般市民による心肺蘇生、胸骨圧迫CPRなら退院時生存率が従来法の1.6倍

心臓が原因で院外心停止を起こした人に対し、その場に居合わせた医療専門家ではない一般市民による心肺蘇生法(CPR)は、胸骨圧迫のみのCPRが、従来のCPRよりも退院時生存率が1.6倍高いことが明らかにされた。米国アリゾナ州保健局のBentley J. Bobrow氏らが、5年にわたり、院外心停止をした18歳以上5,000人超を対象に行った前向き観察コホート研究の結果、明らかにしたもので、JAMA誌2010年10月6日号で発表した。一般市民によるCPR、従来法666人、胸骨圧迫のみ849人研究グループは、2005年1月1日~2009年12月31日にかけて、アリゾナ州で心臓が原因で院外心停止した18歳以上、5,272人について調査を行った。そのうち、医療従事者によるCPRを受けた人、心停止が医療施設内だった人を除く4,415人について追跡した。被験者のうち、その場に居合わせた人によるCPRを受けなかったのは、2,900人だった。一方、一般市民により、従来CPRを受けたのは666人、胸骨圧迫のみCPR(compression-only CPR;COCPR)を受けたのは849人だった。5年間でCOCPR実施は急増、生存率も3.7%から9.8%に主要評価項目とした退院時生存率は、CPRを受けなかった群は5.2%(95%信頼区間:4.4~6.0)、従来CPRを受けた群は7.8%(同:5.8~9.8)だったのに対し、COCPRを受けた群は13.3%(同:11.0~15.6)で最も高率だった。退院時生存に関する、従来CPR群の非CPR群に対する補正後オッズ比は0.99(同:0.69~1.43)だったのに対し、COCPR群の非CPR群に対する補正後オッズ比は、1.59(同:1.18~2.13)であり、同従来CPR群に対する補正後オッズ比は、1.60(同:1.08~2.35)だった。また、院外心停止の際の居合わせた人によるCPR実施率は、2005年から2009年にかけて、28.2%から39.9%に増加していた(p

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重度外傷性脳損傷・非循環血液量減少性ショックに、高張食塩水投与は有意ではない

院外での緊急医療場面で、重度外傷性脳損傷で循環血液量減少性ショックの認められない人に対し、高張食塩水を投与しても、生理食塩水を投与した場合と比べ、6ヵ月後の神経学的アウトカムは同等であることが報告された。米国ハーバービュー医療センター救急医療部門のEileen M. Bulger氏らが、外傷性脳損傷を受けた15歳以上1,000人超について、プラセボ対照二重盲検試験を行って明らかにしたもので、JAMA誌2010年10月6日号で発表した。被験者を3群に分け、高張食塩水/デキストラン、高張食塩水のみ、生理食塩水を投与研究グループは2006年5月~2009年5月にかけて、114ヵ所の北米緊急医療サービス機関を通じ、外傷性脳損傷を被った15歳以上で、循環血液量減少性ショックが認められない、グラスゴー・コーマ・スケール(GCS)8以下の患者を対象とした。試験適格患者は2,122人で、3群に無作為化された。一群には7.5%食塩水と6%デキストラン(高張食塩水/デキストラン群)を、別の群には7.5%食塩水(高張食塩水群)を、もう一つの群には0.9%生理食塩水を、それぞれ250mLボーラス投与し追跡した。主要評価項目は、6ヵ月後の神経学的アウトカムが、エクステンデッド・グラスゴー・アウトカム・スケール(GOSE)で4以下か否かとされた。被験者のうち、6ヵ月追跡された1,331人の中のアウトカムデータが得られた1,087人について、分析を行った。6ヵ月後のGOSEスコア、生存率、障害評価スコア、いずれも3群間に有意差なしその結果、6ヵ月後のGOSEスコアが4以下だった人の割合は、高張食塩水/デキストラン群では53.7%、生理食塩水群では51.5%と、両群間に有意差はなかった(両群差:2.2%、95%信頼区間:-4.5~9.0)。また高張食塩液群の同割合は54.3%で、こちらも生理食塩水群との間に有意差はなかった(両群格差:2.9%、同:-4.0~9.7)(3群格差に関するp=0.67)。GOSEスコアや、障害評価スコア(Disability Rating Score)の分布についても、各群で有意差はみられなかった。28日生存率も、高張食塩水/デキストラン群が74.3%、高張食塩水群が75.7%、生理食塩水群が75.1%と、有意差はなかった(p=0.88)。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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グルコサミンとコンドロイチンは単独・併用でも関節痛への効果はない

グルコサミン、コンドロイチンのサプリメントを単独または併用服用しても、股関節痛や膝関節痛を和らげることはなく、関節腔狭小化への影響もないことが、スイスのベルン大学社会・予防医療研究所のSimon Wandel氏らが行ったネットワーク・メタ解析の結果、明らかにされた。Wandel氏は、「保健衛生を担う当局および健康保健事業者は、これらの製剤コストをカバーすべきではない。そしてまだ投与を受けていない患者への新たな処方を阻止しなければならない」と提言している。BMJ誌2010年10月2日号(オンライン版2010年9月16日号)掲載より。プラセボとの比較で、グルコサミン、コンドロイチン単独・併用の関節痛への効果を判定Wandel氏らは、関節痛とX線診断で股関節炎や膝関節炎の病勢進行が認められた症例に対し、グルコサミン、コンドロイチンを単独または併用の効果を判定することを目的に、ネットワーク・メタ解析を行った。Cochrane、Medline、Embaseなどの電子データベースを検索、および専門家へのヒアリング、関連ウェブサイトから適格試験を選定し、試験内直接比較を、異なるタイムポイントの統合を可能とするベイズモデルを使って、他の試験の間接エビデンスと結びつけた。主要アウトカムは疼痛強度とし、副次アウトカムは関節腔狭小化とした。製剤とプラセボとの臨床的に意義ある差異を示す最小値は、10cmビジュアル・アナログ・スケールで-0.9cmと事前特定された。疼痛強度、関節腔狭小化とも臨床的意義ある差異は認められず解析には、10試験・3,803例が含まれた。結果、10cmビジュアル・アナログ・スケールで、プラセボと比較して、疼痛強度の差異は、グルコサミン群は-0.4cm(95%信頼区間:-0.7~-0.1 cm)、コンドロイチン群は-0.3cm(同:-0.7~0.0 cm)、併用群は-0.5cm(同:-0.9~0.0 cm)だった。95%信頼区間値が、臨床的意義ある差異を示す最小値(-0.9)を越えたものはなかった。企業から資金提供を受けて行われた試験結果に比べて、独立して行われた試験では、より小さい効果量が示されていた(相互作用のP=0.02)。また副次アウトカムの関節腔狭小化の差異も、95%信頼区間値が0値に重なり合うほどわずかだった。(武藤まき:医療ライター)

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医師の学ぶ意欲、パフォーマンス向上を刺激するのはどんな評価か?

臨床パフォーマンスの評価は重要だが、難しいテーマとされる。これまでは、評価はいわずもがなで標準化しにくい、徒弟制度モデルのような主観的な判断に基づいていた。しかし近年は、コンピテンスやパフォーマンスを評価する新しいシステムによる卒後教育が構築され、ワーク・プレイス・アセスメントも、その一つとされる。では、日々の臨床パフォーマンスを評価するのに用いられるワーク・プレイス・アセスメントが、卒後教育やパフォーマンスにどれほど影響しているのか。イギリス・ペニンシュラ医科歯科大学/プリマス大学のAlice Miller氏らがエビデンスを得るため、システマティックレビューを行った。BMJ誌2010年10月2日号(オンライン版2010年9月24日号)掲載より。ワーク・プレイス・アセスメントの効果を検討した研究をシステマティックレビュー主要なデータソースは、雑誌データベース(Ovid、Medline、Embase、CINAHL、PsycINFO、ERIC)を用い行われた。また、エビデンス・レビューは、Bandolier、Cochrane Library、DARE、HTA Database、NHS EEDおよびHealth Information Resourcesのウェブサイトを活用し行われた。関連研究の参照リストとレビュー記事の文献も当たり、ワーク・プレイス・アセスメントの教育的効果、または医師のパフォーマンスに与えた効果の評価を試みた研究のいずれもが対象に含まれた。対象集団が非メディカルまたは医学生よって行われた研究は除外され、論評記事、解説、レターも同様に除外された。最終的に、実際の臨床経験ではなく模擬患者やモデル利用の研究も除外基準に含まれた。結果、16件の研究が選定された。15件は、非比較の記述・観察研究で、残りは無作為化試験だった。研究の質は混合された。マルチソース・フィードバックがパフォーマンス改善に結びつく8件の研究が、マルチソース・フィードバック(多面的評価)を検討しており、大半の医師が、マルチソース・フィードバックは教育的価値はあるが、実践を変えるほどのエビデンスはないと感じていた。ただし一部のジュニアドクターおよび外科医に、マルチソース・フィードバックに応じて変化することを喜んで受け入れる意思を示す者がいた。家庭医は、より変化に意欲的である可能性が示された。パフォーマンスへの変化が起きやすかったのは、フィードバックが正確で信頼できるものだったり、また自分たちの強みあるいは弱点を特定するのに役立つ指導がもたらされるものである時にみられた。4件の研究は、ミニ臨床評価エクササイズを検討したもので、1件の研究は、技術手順を直接観察したものであり、3件の研究は、手順を多面的に評価したものだった。そして4件とも、ワーク・プレイス・アセスメント・ツールの教育的影響をポジティブに報告していたが、これらのツールによりパフォーマンスが改善されたかを観察したものはなかった。Miller氏は、「パフォーマンス評価の手法としてワーク・プレイス・アセスメントの重要性が強調はされていても、医師の教育やパフォーマンスに与える影響を調査している論文はほとんどない」と述べたうえで、「今回のレビューで、マルチソース・フィードバックは、フィードバックの詳細、内容、促進を促す内容が盛り込まれているかで、パフォーマンス改善に重大な効果があることが明らかになった。それ以外のワーク・プレイス・アセスメント・ツール(ミニ臨床評価エクササイズなど)は、教育に与える影響があることを主観的に報告はしていたが、パフォーマンス改善に結びつくエビデンスは認められなかった」と結論している。(武藤まき:医療ライター)

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新規抗がん剤cabazitaxel、進行性前立腺がん患者の全生存率を延長

ドセタキセル(商品名:タキソテール)ベースの治療後も病勢が進行した、転移性ホルモン治療抵抗性前立腺がん患者に対し、cabazitaxel+プレドニゾン併用療法が、ミトキサントロン(商品名:ノバントロン)+プレドニゾン併用療法に比べ、有意に全生存率を改善したことが、オープンラベル無作為化第III相試験「TROPIC」の結果、報告された。イギリス・王立マースデンNHSトラストがん研究所のJohann Sebastian de Bono氏らによる。cabazitaxelは、ドセタキセル治療後も病勢が進行した症例で抗腫瘍活性が認められた、タキサン系の新規開発薬である。Lancet誌2010年10月2日号掲載より。経口プレドニゾン+cabazitaxel群または+ミトキサントロン群に無作為化試験は、ドセタキセル治療後も病勢が進行した転移性ホルモン治療抵抗性前立腺がん患者における、cabazitaxel+プレドニゾン併用療法とミトキサントロン+プレドニゾン併用療法との、有効性および安全性を比較検討することを目的に行われた。26ヵ国146施設から登録された被験者755例は全員、経口プレドニゾン10mg/日を投与されるとともに、無作為に3週ごとに、cabazitaxel 25 mg/m2を静注(1時間かけて)投与される群(378例)かミトキサントロン12mg/m2を静注(15~30分かけて)投与される群(377例)に割り付けられた。無作為割付はコンピュータで行われ、患者と治療者は割り付け治療をマスキングされなかったが、解析を行った試験チームに対してはデータがマスキングされた。主要エンドポイントは全生存率、副次エンドポイントは無増悪生存期間と安全性で、intention-to-treat解析にて検討が行われた。cabazitaxel群の死亡リスク、ミトキサントロン群に比べ30%低下解析データ受付が締め切られた2009年9月25日時点で、生存期間の中央値は、cabazitaxel群が15.1ヵ月(95%信頼区間:14.1~16.3)、ミトキサントロン群が12.7ヵ月(同:11.6~13.7)で、cabazitaxel群の死亡リスクはミトキサントロン群に比べ30%低下した(ハザード比:0.70、95%信頼区間:0.59~0.83、p<0.0001)。無増悪生存期間の中央値は、cabazitaxel群が2.8ヵ月(同:2.4~3.0)、ミトキサントロン群が1.4ヵ月(同:1.4~1.7)だった(ミトキサントロン群のcabazitaxel群に対するハザード比:0.74、0.64~0.86、p<0.0001)。最も一般的にみられたグレード3以上の有意な臨床有害事象は、好中球減少[cabazitaxel群303例(82%)vsミトキサントロン群215例(58%)]、下痢[同:23例(6%)vs1例(1%)]で、発熱性好中球減少はcabazitaxel群では28例(8%)、ミトキサントロン群では5例(1%未満)だった。試験グループは、「cabazitaxel+プレドニゾン併用療法は、ドセタキセル治療後も病勢が進行した転移性ホルモン治療抵抗性前立腺がん患者に対し、臨床的に有力な抗腫瘍活性を有し全生存率を改善した」と結論している。

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CA125濃度上昇を指標とした再発卵巣がんへの早期治療介入にベネフィット認められず

CA125濃度上昇を指標とした再発卵巣がんへの早期治療介入に、生存期間延長の効果は認められなかったことが、イギリス・マウントバーノンがんセンターのGordon J S Rustin氏らMRC OV05/EORTC 55955共同研究グループによる無作為化対照試験の結果、報告された。卵巣がんでは再発症状が認められる数ヵ月前に、CA125濃度の上昇がよくみられることから、研究グループは、これを指標とした早期治療介入が、再発症状の発現を基点に治療を開始することよりも有益であることを立証することを目的に試験を行った。Lancet誌2010年10月2日号掲載より。CA125濃度が標準値2倍超時点で被験者を早期治療群か治療遅延群に無作為化試験には、プラチナ製剤ベースのファーストライン治療後に完全寛解が認められ、CA125濃度が標準値だった女性1,442例が登録された。登録後、3ヵ月ごとに臨床検査とCA125測定が行われ、測定値が被験者および試験研究者にはマスキングされる一方、コーディングセンターでモニタリングされ、CA125濃度が標準値の2倍超となった場合、被験者は早期に化学療法を受ける群か症状発現まで遅延し化学療法を受ける群かに1対1の割合で無作為に割り付けられた。患者と試験協力施設には、早期に化学療法を受ける場合は知らせがあり、CA125濃度2倍超上昇が認められてから28日以内に治療が開始された。なお被験者は全員、標準治療を受けた。主要エンドポイントは全生存率で、intention-to-treat解析にて検討が行われた。治療を遅延した群の方が生存期間長期に無作為化されたのは529例(早期治療群265例、治療遅延群264例)、無作為化後の追跡期間中央値は56.9ヵ月(IQR:37.4~81.8)だった。その間の死亡は370例で、内訳は早期治療群186例、治療遅延群184例で、全生存率について両群間に差異があることは立証されなかった(ハザード比:0.98、95%信頼区間:0.80~1.20、P=0.85)。無作為化後の生存期間の中央値は、早期治療群が25.7ヵ月(95%信頼区間:23.0~27.9)、治療遅延群は27.1ヵ月(同:22.8~30.9)だった。

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中等度リスク神経芽腫、低用量化学療法でも高い生存率達成

小児がんのうち脳腫瘍に次いで頻度の高い神経芽腫について、中等度リスク患児への化学療法の期間を短縮かつ用量を減量しても、非常に高い生存率が達成されたことが、オーストラリアPrincess Margaret Hospital for ChildrenのDavid L. Baker氏ら小児がん研究グループにより報告された。中等度リスク神経芽腫への大量化学療法の生存率は、良好であることが示されているが、より期間を短縮かつ用量を減じた場合の転帰については明らかになっていなかった。NEJM誌2010年9月30日号より。腫瘍の生物学的特徴に基づき治療サイクルを割り付けBaker氏らは、腫瘍の生物学的特徴に基づき治療を割り付ける手法を用いて、治療継続期間および薬剤投与量を減じた場合でも、3年推定全生存率90%以上を維持できるかどうかを検証する前向き第3相非無作為化試験を行った。試験対象は、新たに中等度リスク神経芽腫と診断された、MYCN増幅のない患児が適格とされた。具体的にはステージ3または4の乳児(年齢<365日)、腫瘍の組織病理学的特徴が良好なステージ3の小児(年齢≧365日)、およびステージ4SでDNA指標二倍体または組織病理学的な特徴が良好でない乳児が含まれた。被験者は、組織病理学的な特徴が良好で染色体二倍状態の患者は4サイクルの化学療法群に、不完全奏効または病理学的特徴が良好でない患者は8サイクルの化学療法群に割り付けられ追跡された。より厳正なリスク層別化で、さらなる低用量化が期待される本研究に登録された適格患児は、1997~2005年の間で合計479例(ステージ3:270例、ステージ4:178例、ステージ4S:31例)だった。また、腫瘍の生物学的特徴が良好だったのは323例、141例は良好ではなかった。遺伝子倍数の関係性は、転帰の有意な予測因子だったが、組織病理学的特徴は転帰の有意な予測因子ではなかった。疾患進行は伴わない重度有害事象の発生は、10例(2.1%)で認められた。内訳は、2次性白血病3例、感染症による死亡3例、手術時合併症による死亡4例だった。全体の3年推定全生存率(±SE)は、96±1%であった。生物学的特徴が良好であった患児では98±1%、同特徴が良好ではなかった患児では93±2%だった。これらから研究グループは、中等度リスク神経芽腫の患児に対し、以前の試験での処方プランと比較して、腫瘍の生物学的特徴に基づき投与期間・量をかなり短く減量した化学療法群で、高率な生存率が達成されたと述べ、「本結果は、より厳正なリスク層別化が、さらなる低用量化学療法を支持することを提示するものである」と結論している。(朝田哲明:医療ライター)

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ハイリスク神経芽腫、標準療法への免疫療法追加が転帰を有意に改善

15歳未満の小児がん死亡の12%を占める神経芽腫は、標準治療が10年以上前に確立されているが、患児の半数以上を占めるハイリスク神経芽腫は、大量化学療法・集学的治療を行っても、再発から転帰へと至り長期生存に乏しい。そうしたハイリスク神経芽腫患児に対し、新たに開発されたch14.18の免疫療法を追加することで、転帰が有意に改善されたことが、カリフォルニア大学のAlice L.Yu氏らの研究グループにより報告された。NEJM誌2010年9月30日号掲載より。標準治療に免疫療法を追加ch14.18は、腫瘍細胞表面に発現するジシアロガングリオシドGD2を標的とするモノクローナル抗体で、これまでの前臨床・予備的臨床データから、神経芽腫に対する活性があること、特に顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)あるいはインターロイキン(IL)-2との併用で活性が高まることが示されている。Yu氏らは、大量化学療法・集学的治療後のハイリスク神経芽腫患児に対し、標準治療(isotretinoin療法)に加えて、新たに開発されたch14.18とGM-CSF、インターロイキン-2の治療を追加することで、転帰が改善するかどうかを評価する試験を行った。適格患者226例を、標準治療(isotretinoin療法6サイクル)または免疫療法(isotretinoin療法6サイクル+ch14.18に加えてGM-CSFまたはインターロイキン-2の併用を交互に5サイクル)を受ける群に1対1の比率で無作為に割り付け、両群のイベントなし生存率と全生存率をintention-to-treat解析にて比較した。2年後のイベントなし生存率、全生存率とも有意に改善免疫療法群では、グレード3、4、5の疼痛が合計52%の患者に認められ、23%の患者に毛細血管漏出症候群が、25%に過敏反応が認められた。有効性に基づく試験早期中止の基準は、予想されたイベント数の61%が観察された時点で満たされ、追跡期間中央値は、2.1年だった。2年時点での、イベントなし生存率(66±5%対46±5%、P=0.01)、全生存率(86±4%対75±5%、中間解析未補正のP=0.02)とも、免疫療法が標準治療より優れていた。これらの試験結果から研究グループは、ハイリスク神経芽腫患児に対する、ch14.18とGM-CSF、インターロイキン-2を併用した免疫療法は、標準治療と比較してアウトカムの有意な改善と関連していたと結論づけた。(朝田哲明:医療ライター)

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来春の花粉飛散量は今年より5倍の見込み!?

株式会社ウェザーニューズは5日、2011年の花粉シーズンにおける全国および、各12 エリアの“スギ・ヒノキ花粉”傾向を発表した。発表によれば、2011年の花粉飛散量は、全国的に2010年よりも多く、全国平均では2010年の約5倍の飛散量となる見込みだという。過去の2005年にスギ花粉の大量飛散となったが、2011年はその時と同等かそれ以上に飛散する可能性があるとのこと。また、スギ花粉症患者の多くがヒノキ花粉にも反応することが知られていて、ヒノキ花粉の飛散数は、スギ花粉の飛散数と傾向が似ているため、2011年はヒノキ花粉の飛散量も多くなると予想される。2月以降は徐々に花粉飛散数が増えるので、早めに事前対策をしっかりと進めておくと良さそうだとのこと。詳細はプレスリリースへ http://weathernews.com/ja/nc/press/2010/101005.html

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iPadを活用したセルフ患者アンケートシステム『セルフQ』発売

株式会社グッドサイクルシステムは6日、iPadを活用したセルフ患者アンケートシステム『セルフQ』を発売した。『セルフQ』は、医療機関や薬局においての問診やアンケートなどをiPad等のモバイルタッチ端末を使って患者自身に登録行ってもらい、入力内容を電子薬歴等に自動登録することができるようになっている。標準では小児、女性、男性、高齢者、再来の5種類のアンケートを搭載し、質問数や内容は自由に編集できる。また、連携システムは、テキストデータによる受け渡しとなり、システムに合わせてキー項目のカスタマイズも可能である。セルフQ端末は、iPad、iPhone3GS、iPhone4に対応済。管理PCの対応OSは、Windows XP Professional SP3、Windows Vista Business SP2、Windows 7 Professional、Windows Server 2003R2、Windows Sever 2008となっている。販売開始は、11月15日を予定しているとのこと。詳細はプレスリリースへhttp://goodcycle.net/modules/announce/index.php?page=article&storyid=36

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ニンテンドーDSを使って、宮大病院が情報・アンケートサービス開始へ

株式会社プラメドと株式会社インテージは4日、任天堂株式会社の技術協力を得て、医療機関で初となる出先でのニンテンドーDS(以下DS)の新たな利用シーン創造を目的とするニンテンドーゾーンを活用した、病院来院者向けコンテンツ配信・アンケートサービス「宮大病院でDS」を開発したと発表した。2010年11月1日より宮崎大学医学部附属病院・新外来棟の患者待合スペースにおいて提供開始する。同サービスにより病院内のガイドや、プラメドが制作した「病院の言葉を分かりやすく」「お薬、何をのんできましたか?」などの来院者に向けた情報サービスを提供するとともにアンケートをDSで実施し、その集計・分析データをリアルタイムにフィードバックすることにより、病院側はサービス向上に活用できるという。さらに来院者は、DSソフトの体験版ダウンロードや、ニンテンドーWi-Fiコネクション、ニンテンドーDSiショップへの接続によるDSiウェアのダウンロード購入などのサービスを楽しむことが可能となる。また、サービス開始後の2010年11月以降には、宮崎大学医学部附属病院の職員・医学生が制作したオリジナルGIFアニメーションにより患者・来院者に向けたわかりやすい医療・健康情報を提供する予定だという。詳細はプレスリリースへ(PDF)http://www.plamed.co.jp/press/20101004.pdf

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米国医学生の職業意識とストレスとの関連

米国メイヨークリニック大学校のLiselotte N. Dyrbye氏らが、米国医学生を対象に、職業意識とストレス(バーンアウト)について調査した結果、バーンアウト学生には、そうでない学生に比べ、専門家としてふさわしくない行為を行っていたり、社会貢献という意識が低い傾向にあることが明らかになったという。JAMA誌2010年9月15日号掲載より。回答者の約53%がバーンアウト研究グループは、2009年春に、米国内7校の医学部学生、4,400人を対象に横断的調査を行い、うち2,682人(61%)から回答を得た。調査には、マスラック・バーンアウト尺度(MBI)、PRIME–MDうつ質問表、SF-8生活の質(QOL)質問表と、専門家としての行為、産業界との適切な関係に関する理解度、医師としての社会的責任などに関する質問が含まれていた。その結果、MBIの全項目に回答した2,566人のうち、52.8%にあたる1,354人に、バーンアウトが認められた。彼らが学究上のごまかしや不正といった行為(10%未満)は、専門家らしからぬ患者ケア行為(43%未満)に比べ多くはなかった。産業界との適切な関係に関して理解を有していたのは14%に過ぎなかった。専門家としてふさわしくない行為、バーンアウト学生では1.76倍専門家としてふさわしくない行為を一つ以上報告した割合は、バーンアウトが認められた学生は35.0%と、そうでない学生の21.9%に比べ有意に高かった(オッズ比:1.89、95%信頼区間:1.59~2.24)。適切な医療を受けられない人たちに対し、医療を提供したいとした学生の割合は、バーンアウトが認められなかった学生では85.0%だったのに対し、認められた学生では79.3%と、有意に低率だった(オッズ比:0.68、同:0.55~0.83)。多変量解析で補正を行った後、バーンアウトは、専門家としてふさわしくない行為を一つ以上報告すること(オッズ比:1.76)、医師の社会的責任について社会貢献するとの視点が一つ以上少ないこと(オッズ比:1.65)と、それぞれ独立して関連する予測因子であることが明らかになったという。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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ハイリスク非ST部上昇急性冠症候群患者への未分画ヘパリン低用量投与の安全性:FUTURA/OASIS-8

フォンダパリヌクス(商品名:アリクストラ)治療を受け、72時間以内に経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けるハイリスク非ST部上昇型急性冠症候群(ACS)患者に対し、未分画ヘパリンを低用量投与しても、標準用量の場合と比べ、出血や穿刺部合併症リスクは減少しないことが、「FUTURA/OASIS-8」試験の結果、報告された。JAMA誌2010年9月22/29日号(オンライン版2010年8月31日号)で発表された。未分画ヘパリン投与、低用量群50U/kg vs 標準用量群85U/kgFUTURA(Fondaparinux Trial With Unfractionated Heprin During Revascularization in Acute Coronary Syndromes)/OASIS-8試験は、2009年2月~2010年3月にかけて、18ヵ国、179の医療機関を通じ、2,026人を対象に行われた。被験者は、フォンダパリヌクス投与を受けた、ハイリスク非ST部上昇型ACS患者で、72時間以内にPCIを受けた。被験者は無作為に二群に分けられ、一方の群には未分画低用量ヘパリン50U/kgを、GP IIb/IIIa受容体阻害薬投与の有無は問わずに投与した。もう一方の群には、未分画標準用量ヘパリン85U/kg(または60U/kgとGP IIb/IIIa受容体阻害薬)を投与し、ACT(活性化凝固時間)により補正を行った。主要アウトカムは、PCI後48時間の重大出血と小出血、血管穿刺部の主な合併症の統合イベントだった。副次アウトカムには、PCI後48時間の重大出血、死亡、心筋梗塞、30日以内の目標血管の血管再生術の統合イベントなどを含んだ。PCI後48時間までの出血や穿刺部合併症発生率に両群で有意差なし結果、主要アウトカムの発生率は低用量群が4.7%、標準用量群が5.8%で、両群に有意差は認められなかった(p=0.27)。出血に関して、重大出血には有意差は認められなかったものの、小出血は、標準用量群1.7%に対し、低用量群0.7%と低率だった(オッズ比:0.40、95%信頼区間:0.16~0.97、p=0.04)。また副次アウトカムの発生は、低用量群5.8%、標準用量群3.9%だった(オッズ比:1.51、同:1.00~2.28、p=0.05)。死亡・心筋梗塞・30日以内の目標血管の血管再生術の統合イベント発生も、低用量群4.5%、標準用量群2.9%であった(p=0.06)。カテーテル性血栓の発生は、両群とも低率だった(低用量群0.5%、標準用量群0.1%、p=0.15)。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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講師 斎藤充先生「骨粗鬆症治療「50%の壁」を打破する「骨質マーカー」」

日本整形外科学会認定専門医、日本骨粗鬆症学会評議員など多数の学会所属、役員・評議員を務める。骨質研究会世話人。日本における骨粗鬆症関連研究では多くの研究奨励賞受賞、主にコラーゲンと骨質関連の基礎研究および臨床研究を得意とする関節外科医。高齢化の波で患者は増加、治療は「50%の壁」に阻まれている骨粗鬆症の患者さんは現在約1,100万人いるといわれています。60歳以上では約半数の方に症状が見受けられます。私は外来で400人くらいの患者さんを診ていますが、その他、郊外型の病院でも約400人の患者さんを受け持っています。しかし、約1,100万人のうち15%ほどの患者さんしか治療されておらず、残りの約85%は骨折しやすい状況にあるのにもかかわらず治療されていません。医師の骨粗鬆症に対する認識不足と、高齢者の急増も相まって、治療が追いついていないのが現状です。高齢者は骨粗鬆症がきっかけで寝たきりになる確率が高く、同時に死亡の危険性が高まるため治療すべき疾患であり、高齢者医療の大きな問題の一つになっています。骨粗鬆症による骨折を起こされた方は、骨折のない方に比べて、死亡のリスクは8倍も上昇します。これまで、骨粗鬆症の治療にあたっては、骨密度を高める薬剤の処方のみで、他にこれといった治療が施されていませんでした。しかし、骨密度が改善したにもかかわらず新たに骨折を起こしてしまう方が少なくありません。これが「治療効果の50%の壁」です。人間にいろいろなタイプの人がいるように、骨粗鬆症にもいろいろなタイプがあり、その人に合う治療を考えなくてはいけません。そのような理解を踏まえて、私たちの研究により骨の強さは、骨密度すなわちカルシウムの量の問題だけで説明できないことがわかってきたのです。私たちはここから骨の量や密度だけではなく、「骨の質」が重要ということを発見しました。私は、整形外科の長年の診療経験の中で、手術で骨を触りすべての患者さんは個々に違う骨を持っていることを実感しました。人間の体の中で、骨だけを治療しても何の解決にもつながらないのです。臨床医は、現場で患者さんを直接診察し、治療して疑問点を基礎研究に展開し、その原因を突き止めることができます。骨粗鬆症は3つのタイプに区別される骨の強さは骨密度だけではないということは、整形外科医には一般的に知られていましたが、今まで骨の質、またその質を具体的に評価するものさしがありませんでした。私は、整形外科医として、骨や血管・軟骨・腱といった組織を支えるコラーゲンの研究をしていました。コラーゲンに分子レベルで過剰な老化産物が蓄積している患者さんは、骨にカルシウムが蓄積されていても、骨や血管がもろく、骨折や動脈硬化を同時に発症することを見出しました。そこで、遺伝子の研究と並び蛋白質の老化について世界初となる分析装置を独自に開発・研究し、骨の質を評価するマーカー「骨質マーカー」を作り上げました。骨質マーカーはコラーゲンの老化産物そのものを測定、患者さんの全身のコラーゲンの老化状態を判別します。コラーゲンは、鉄筋コンクリートの鉄筋、骨密度はコンクリートに相当するため、錆びの程度を骨質マーカーで評価することで患者さんの体質に合ったテーラーメイド治療ができます。骨質マーカーで判別できる骨粗鬆症の患者さんの3つのタイプI、「骨質劣化型」……骨密度が高く骨質が悪いII、「低骨密度型」……骨密度が低く骨質が良いIII、「低骨密度+骨質劣化型」……骨密度・骨質ともに低い「骨密度が高く骨質の良い人」に比べて、Iのタイプでは1.5倍、IIでは3.6倍、IIIのタイプは7.2倍も骨折の危険性が高くなることが判明しています。糖尿病、高血圧、動脈硬化、腎機能障害、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの患者さんは、全身性のコラーゲンに過剰老化が生じるため、骨のコラーゲンの錆びにより、骨密度が高くても骨質劣化型骨粗鬆症と診断できます。骨密度を高める薬剤以外に、骨質を改善するエストロゲン受容体モジュレーター(SERMs)や、各種ビタミン類(ビタミンB群、葉酸、ビタミンK・D)の併用も、骨密度と骨質を同時に改善できます。SERMsとの併用は一般的には行われないため、保険適応のあるビタミン剤を併用するのがよいでしょう。骨質の良悪は、血液・尿検査で、血中のホモシステインという悪玉アミノ酸の測定、コラーゲンの老化産物(ペントシジン)の測定による2つの評価が有効です。「骨質マーカー」は、誰も研究していなかった分野から生まれた私には中学・高校とサッカーのインターハイ・国体の選手として活躍した経験があります。そのため、自然とスポーツ医学を勉強したいと考えるようになりました。当時、慈恵医大はスポーツ医学に関して他大学より一歩リードしていたという理由から入学を決断しました。しかし、スポーツ医学を学ぶ前に運動器疾患の基礎となる整形外科を学ばなくてはいけませんでした。整形外科医として学んでいる間に、世間は高齢化と共ともに骨粗鬆症患者が急増、手術執刀で様々なタイプの骨を観察することにより、骨の強さは量や密度ではなく、質が重要であると実感しました。同時に、何が原因で骨質が悪くなり骨折するのかと疑問が湧いてきたのです。そこで、手術治療で患者さんの骨を触り、元々骨がもろい人、堅い人もいる骨の体質に注目しました。病態の解明のため患者さんの骨にどんな違いがあるのかと漠然と考えていました。そんな時、コラーゲンの研究を多く手がけた教授から、昔行っていたコラーゲンの研究を引き継ぐようにいわれましたが、ゲノム・遺伝子研究が全盛の時代、コラーゲンと蛋白質の研究にはまったく興味を持てませんでした。師に従い研究を始めましたが、コラーゲンの研究は楽ではなかったので、独自に分析装置を開発しました。この分析装置の開発がきっかけとなり今日の骨質低下の機序の解明からバイオマーカーの発見に至ったわけです。世界中の研究者は、手間のかかるコラーゲンの研究には手を出さずキットさえあればできる遺伝子解析に没頭していた当時からすると、私としては、まさか15年後にこんな発見に繋がるとは夢にも思いませんでした。私は、臨床医として患者さんの治療、日々実験を続けるうちに、コラーゲンの老化が進行しやすい患者さんは、骨密度が高くても骨折や動脈硬化を同時に発症することに気づきました。そして,コラーゲンの過剰老化こそ、骨質低下の本体であることを突き止めました。長年の無駄に思える実験や臨床経験は、今思えば何一つ無駄ではありませんでした。「無駄こそ大事な引き出し」で、今では世界のライバル達から、どのような質問をされても誰にも負けない豊富な引き出しのおかげで返答し戦うことができます。私は、この臨床を行いながら行う基礎研究という日本独自のスタイルは、世界と戦うためにも良いシステムだと思っています。臨床研究の発表、研究が世界で認知されるためには誰も注目していなかった骨質とコラーゲンの密接な関係と体全体の老化が、世間で話題になり始めたころ、この臨床研究の分野で分子レベルから患者さんの臨床データまで持っていたのは私だけでした。その圧倒的な引き出しの数は世界のどのチームにも負けませんでした。そして、世界中の研究者たちが、ポストゲノムの時代に突入し、ようやく蛋白質の研究に目を向け出したころ、我々のデータの正当性が次々と世界から追認され、妥当性が証明されました。せっかくのデータを埋もれさせないために、私はその成果を世界の研究者に知ってもらう手立てとして、必死に英文の研究論文を執筆していきました。ある欧米の教授に「世界と戦うためには、同じサッカー場に入らなくてはいけない。そのために日々、スパイクを磨き、技術を磨け。今、君はそのすべてを備えた。自信を持ってフィールドに入ってきなさい。Trust your Brain !!」と。海外留学の経験のない私でも、英語論文を発表することで、世界はよい仕事には正しい評価をしてくれるのだと思いました。今では、骨研究の名だたる英文雑誌から総説執筆の依頼を受けるなど、オピニオンリーダーになることができました。十数年、地道に頑張ってきたことが報われた、と感じています。最先端のことも大切ですが、地道に継続することが大事でしょう。現在、研究で発見した基礎的、臨床的事実は、診療ガイドラインに盛り込まれるようになり、臨床に役立つ基礎研究ができたと自負しています。今後の骨粗鬆症の治療において、骨質マーカーの測定が一般的になり、適切な治療をされてない患者さんがいなくなることを祈ります。臨床研究は目の前にあるもの、標準は世界へ地道で長い研究生活でしたが、数年前まで研究はあまり楽しいとは思えませんでした。世間に認知されるために様々な臨床的事実を把握し、基礎研究で解明できないかを自分で考えてきました。私の研究はすべてを自分たちで行っています。町工場ともいえるような時間と手間が他の研究チームと比べて数倍かかり、決して楽ではありません。データを取り、積み重ねていくことで、知られていた理論を提唱づけることができ、社会的にも認知されるわけです。しかし、これは臨床医だからできることですね。海外留学をして論文を書き、華々しくこれから活躍したいという方もおられると思います。しかし、長くは続かず消えていく方も多く見てきました。また、先端医療など新しいことに飛びつきたくなる時が必ずありますが、そうではない研究課題でも、どこかに宝は隠れているものです。私の場合、研究が進むにつれ、知識という引き出しが多くなり、いつの間にか、どんな質問、疑問にも答えられるようになっている自分に気が付くことができました。どんな研究でも地道に頑張っていれば、必ず花が開き患者さんのためになるでしょう。いくら有名な先生のもとで研究室の一つの歯車の一つとして動いて立派な論文を作成したとしても、その後の自分自身のアイデアで研究が立案できるか、それを世界というフィールドにもっていけるかが大切なのです。良いアイデアを持ち研究を続けていくことができるのかにかかっています。情熱を注げるもの、テーマに出会えた時、患者さんの治療に生かすことができるのなら医師として研究者として幸せだと思います。そして、世間で認知され、国内からそれは世界へと道が続いていきます。あなたの目の前には研究すべきテーマ、やらなければいけないことがあるかもしれません。それが面白いと思えば、人に伝えることも容易になり、プレゼンもきっとうまくなります。自分の分野が明確化し、その分野での自分の地位を築くことにつながるでしょう。質問と回答を公開中!

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講師 斎藤充先生の答え

ビスフォスフォネートの耐性獲得についてこの度は突然の御質問、恐縮です。骨塩定量でYAMの80%ぎりぎりで、現状はまだ椎体骨折の所見もなく、ただ、家族歴で円背のひどい母を持つ、60歳前後の女性に対してのビスフォスフォネート投与の是非についてご教授頂ければと存じます。現在は家族歴をそれ程重視する事無く、YAMと圧迫骨折像が全ての様にされていますが、種々の患者さんを診ていると、やはり背中の曲がった母を持つ女性は徐々に円背が出現するように感じています。その様な患者さんの場合、ビスフォスフォネートを処方して円背の予防に努めるべきか(円背によるADL低下、逆流性食道炎、将来の誤嚥の増加など、円背も頚部骨折と同じ位大事な病態と思っております)、円背が出現してからの治療介入とすべきか、またはカルシウム製剤+Vit.K製剤でお茶を濁すか、悩ましく思っておりました。最近、ビスフォスフォネート製剤の耐性が数年で出る、とのデータもあり、余計に予防的介入は悩ましいところです。とりとめのない御質問で申し訳御座いません、よろしくお願い致します。家族歴は重要です.ビスフォスフォネート剤の耐性が数年で出るというのは,骨密度の上昇は数年で頭打ちになるということかと思いますが,骨折防止効果は,例えBMD上昇が頭打ちとなっても継続されます.投与中止により,時間依存性に骨リモデリングは亢進し,骨折リスクが上昇します.骨吸収マーカーの高値は,将来の骨密度低下,骨折リスク上昇の危険因子ですので,この患者さんの吸収マーカーの高値があれば,BP剤でも良いと思います.しかし,椎体骨折防止効果は,ラロキシフェンにもエビデンスがありますので,椎体骨折の防止をエンドポイントに考えるのであればラロキシフェンでも良いと思います. 透析患者にも当てはまるでしょうか腎性骨異栄養症を有する透析患者にも骨質マーカーの概念は当てはまるでしょうか。 当てはまります.CKD stageが上がるほど,酸化ストレスが上昇し,AGEs(Advanced glycation end products)の産生が亢進します.ホモシステインも上昇します.骨折リスクとリンクします.ストレス骨折と骨質マーカー骨質マーカー、はじめて知りました。素晴しい記事ありがとうございます。骨粗鬆症の治療といえば、ビスフォスフォネート系が有効と思っていたら、最近、逆に骨折がおきることもある(ストレス骨折?)とききました。骨質マーカーから、ビスフォスフォネートを投与したほうがメリット大の場合と、投与しない方がよい場合、といった判断はできるのでしょうか?この点は,十分なエビデンスはありませんが,我々の経験した症例では,治療開始時の骨質マーカーが高値でした.もともと骨質劣化が強い方は,BP剤による代謝抑制により,古いコラーゲンが蓄積が上乗せされて骨が脆弱になる可能性はロジカルにはあり得ると思います.健診で骨密度がひっかかった場合次にスクリーニングする場合、骨吸収マーカー、形成マーカー、ホモシステイン、ペントシジンは必須項目でしょうか?ホモシステイン、ペントシジンの基準値の目安はありますでしょうか?骨質改善で効果のある種々の薬のランク付けはどうなっていますか?よろしくお願いします。骨折リスクとしての値の目安ですが,ホモシステイン>15(高ホモシステイン血症などの病名でしか保険適応ありません).血中ペントシジン>0.05(腎機能低下の病名でしか保険適応がありません)です.骨質劣化(骨コラーゲンのAGEs悪玉架橋ペントシジン増加型)には,抗酸化作用,ホモシステイン低下作用のあるラロキシフェンなどが良い適応です.また,PTH製剤テリパラチドは,骨量,骨質を同時に改善する薬剤です.これらは,2010年のOsteoporosis Internationalに2つの論文で報告してます.慢性腎不全での骨質マーカーについて血液透析患者での骨粗鬆症はよく知られた事実で骨密度については多くの報告があります。しかし、骨質マーカーについて余りなく先生の言われるトータルでの骨評価をしたく考えています。ホモシステインやペントシジンの濃度測定のみで評価できるのでしょうか。また、全く別の話題として副甲状腺ホルモンのない環境下(副甲状腺摘出後)での骨生成に関して(骨生検では明らかにされている)その機序を考える上で何かsuggestionがあればご教授下さい。当てはまります.CKD stageが上がるほど,酸化ストレスが上昇し,AGEs(Advanced glycation end products)の産生が亢進します.ホモシステインも上昇します.骨折リスクとリンクすることは良くご存知かと思います.腎不全症例(2PTH),CKD stage2~4までのヒト骨生検の結果では,腎機能低下の程度に依存して,骨質劣化(酵素依存性の善玉架橋の低下,AGEs架橋の過形成)が生じていました.(論文revise中)PTHの高低に関わらず骨コラーゲン中のAGEs架橋の過形成は共通した所見です.これは,代謝回転に関係なく,生まれたばかりのコラーゲンでも,高酸化ストレス,高カルボニルストレス環境にさらされて,あっという間にAGEs化が起こると考えられます.骨の評価したが、治療で薬が多すぎ骨代謝に興味もっていますが、マーカーや薬が臨床で使えるようになって、逆にこまっています。3つの型に分けるのはいいとしても、骨粗鬆の薬物が多すぎで3-5種類ものませなければいけない場合があり、骨折予防として大量の薬が必要なのか、疑問です。ターゲットをしぼった治療はできないでしょうか。骨折が予知される患者群、効果が確信できる群は明確にわかるのでしょうか。 ビスフォスフォネートであれ,ラロキシフェンであれ,ひとまず1年投与すれば,骨折防止効果は,単剤でも50%発現します.めんどうであれば,これらのみの投与を先ず行って頂ければ良いと思います.その後,患者さん毎に,骨密度が増えても新規骨折をおこすなど,多様な患者集団に対応することを考えていくのが良いと個人的には思っています.英語論文の作成ノウハウについて世界に通じる成果を挙げていらっしゃるのに、海外留学のご経験がないことに驚きました。私も海外留学の経験はなく、英語も苦手です。しかし上を目指す以上は英語論文を書く必要があり困っています。先生も最初はご苦労されたと思いますが、その中で得たノウハウというかTipsのようなものがあれば是非参考にさせて欲しいです。会話の英語と,論文英語は異なります.英語論文を読んでいると同じような言い回しがたくさん出ているのに気が付かれると思います.自分で2-3本英文を書くと,そのパターンが見えてきます.そうなると,しめたもので,相手の質問の内容さえ聞き取れれば,英語論文で出てくるような言い回しで,答えていけます.海外の研究者は例えたどたどしい英語でも,そんなことは気にしません.ヒアリングを鍛えることが大事です.慈恵大での研修について慈恵に在学中の学生です。スポーツ・ウェルネスクリニックに興味があり、そこで整形外科医としてやっていきたいと考えているところです。差し支えなければ、斎藤先生が感じる、慈恵の整形外科の良いところ悪いところ、これから改善していかないといけないと思ってらっしゃることを教えていただけないでしょうか?話すと長くなるので,いつでも,私のラボに訪ねてきて下さい,いつでもお話します.超きさくですので,遠慮無くどうぞ.私なりに考える慈恵整形のあるべき姿を,先生のようなパッションのある若手と造り上げたいと思っていますので,おいで下さい,勧誘ではありません.整形外科に限らず全科に共通して言えることですので,語り合いましょう.学外からの選択実習について記事と関係ない質問で申し訳ないのですが、慈恵さんのホームページに「夏休みなどを利用して、選択実習期間外で数日間の実習や一日だけの見学を行うのも大歓迎」とあります。具体的にどのような実習を行えるのでしょうか?またはこれまでどのような実習を行ってきたのでしょうか?数日という短い期間でどのようなことを経験できのか大変興味があります。宜しくお願いします。外来,病棟,手術の助手など,実地の病院臨床に短期間でも濃密に経験してもらいます.またスポーツ整形外科を希望されるかたは,スポーツウェルネスクリニックを中心に回ることもできます.ご本人の希望を重視して,決めることにしています.超アットホームですので,是非,ホームページにある医局長,鈴木先生,もしくは私に連絡下さい.詳しく説明します.1日の見学の学生さんもいますし,数日の方も多くいらっしゃいます.AGEs蓄積による骨質低下に関してはじめまして。AGEsの生成抑制(抗糖化)に関心がある外科医師です。先生は以前、ためしてガッテンやたけしの家庭の医学で、ペントシジンによるコラーゲンの悪玉架橋をご紹介になられました。ペントシジンの測定は血液を用いて行われていると存じますが、蛍光性を有する物質ですので、皮膚のAGEsを紫外線励起によって測定するAGE Readerという機器で皮膚AGEsを測定した場合にも、その値が高値を呈する場合は「骨質劣化」のリスクが高いと考えてよろしいでしょうか?よろしくご教授下さい。すでに整形外科手術症例,150名から,皮膚,骨,靭帯,血液,尿を手術時に同時に採取し,ペントシジン測定とSkin AGEsリーダーによる測定を行い,生体内の相関性を学会報告し,論文作成しています.詳しいデータはお話できませんが,先生のおっしゃる通りと思います. 総括多くのご質問を頂きありがとうございます.これまで,長い研究生活で質問を無数に受けてきました.質問は私を育ててくれました.「私のプレゼンでは,これも伝えられていなかったのか...」と反省し,次回のプレゼンには改善するようにしています.このため私の講演などは,同じスライドをいつもだらだら話すことはしません.講師 斎藤充先生「骨粗鬆症治療「50%の壁」を打破する「骨質マーカー」」

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抗精神病薬は静脈血栓塞栓症リスクを増大

抗精神病薬の中には静脈血栓塞栓症リスクを高めるものがあることが知られているが、新しいタイプの非定型抗精神病薬についてのリスクは明らかになっていない。イギリス・ハックネル医療センターのChris Parker氏らの研究グループが、大規模なプライマリ・ケア集団ベースで、抗精神病薬と静脈血栓塞栓症リスク増加との関連を評価するとともに、抗精神病薬の種類、効力、投与量との関連を調査した結果、リスク関連が認められ、リスク増加は、新規服薬者、非定型抗精神病薬服用者で特徴的だったと報告した。BMJ誌2010年9月25日(オンライン版2010年9月21日号)掲載より。2万5,532例を対象に症例対照研究を実施Parker氏らは、イギリスの「UK QResearch primary care database」を利用し、抗精神病薬と静脈血栓塞栓症との関連について、ネステッド・ケースコントロール研究を行った。対象となったのは、1996年1月1日~2007年7月1日に初発の静脈血栓塞栓症の記録があった患者(症例群)で、年齢、病歴、性、治療内容により1:4でマッチングを図った対照群とで検討した。症例群の適格症例は2万5,532例(深部静脈血栓症15,975例、肺動脈塞栓症9,557例)、対照群はスタディ母集団726万7,673例から8万9,491例が同定された。主要評価項目は、共存症(併用薬に伴う症状)補正後の、抗精神病薬の静脈血栓塞栓症に対するオッズ比とした。3ヵ月以内新規服薬者のリスクは約2倍に試験前24ヵ月以内に抗精神病薬を処方された人は、可能性があるリスク因子補正にもかかわらず、静脈血栓塞栓症のリスクが非服用者より32%高かった(オッズ比:1.32、95%信頼区間:1.23~1.42)。また、試験前3ヵ月に新たに処方された患者は、リスクが約2倍だった(同:1.97、1.66~2.33)。薬剤の種類別にみた結果は、非定型タイプのリスクが、従来タイプよりも、より大きかった。非定型タイプの補正オッズ比は1.73(95%信頼区間:1.37~2.17)、従来タイプは同1.28(1.18~1.38)だった。効力の違いでは、低いタイプの方が、強いタイプのものよりもリスクが大きい傾向が認められた。オッズ比は、低いタイプが1.99(1.52~2.62)、高いタイプが1.28(1.18~1.38)だった。1年以上治療を続けた患者1万例につき静脈血栓塞栓症の余剰症例数は全年齢を通して4例(95%信頼区間:3~5)、65歳以上で10例(7~13)と推定された。これらの結果から研究グループは、「抗精神病薬服用と静脈血栓塞栓症リスクとの関連が大規模なプライマリ・ケア集団で確認できた。また、リスク増加は『新規服薬者』『非定型抗精神病薬を処方された患者』で特徴づけられた」と結論している。

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身体能力測定で、死亡リスクの高い高齢者がわかる?

握力、歩行速度、座位からの起立、立位時間が、地域に住まう高齢者のあらゆる死亡要因の予測因子となり得るとの報告が、イギリス・ロンドン大学のRachel Cooper氏らによるメタ解析の結果、発表された。「そうした身体能力の客観的評価が、死亡リスクの高い高齢者を同定するのに役立つだろう」とまとめている。BMJ誌2010年9月25日号(オンライン版2010年9月9日号)より。握力、歩行速度、座位からの起立、立位時間と死亡率の関連を調査Cooper氏らは、公表・未公表を含む試験データを対象に、個人の身体機能(握力、歩行速度、座位からの起立、立位時間)の測定値と地域住民ベースでの死亡率との関連を評価する定量的システマティックレビューを行った。データ・ソースは、2009年5月までに公表されたEmbase(1980年以降)、Medline(1950年以降)で検索し、未発表結果は研究調査者から入手した。適格な観察研究とし選択したのは、全年齢層のコミュニティ居住者を対象とし、指定した身体能力測定(握力、歩行速度、座位からの起立、立位バランス)を一つ以上実行しており、死亡率との関連が検討されていたものとされた。得られた推定効果量は、研究間の不均一性を伴いつつランダム効果メタ解析モデルを用いてプールされた。身体能力は死亡率の予測因子となり得る不均一性は検出されたが、身体能力の4項目の計測結果と死亡率との関連には一貫したエビデンスが認められた。すなわち、測定結果があまりよくなかった人ほど、全死因死亡のリスクがより高かった。たとえば、握力の最も弱い四分位範囲群と最も強い四分位範囲群を比較した場合の、年齢・性・体格補正後の死亡ハザード比は、1.67(95%信頼区間:1.45~1.93)だった(14研究・被験者5万3,476人)。歩行速度が最も遅い四分位範囲群と最も速い四分位範囲群の同死亡ハザード比は、2.87(2.22~3.72)だった(5研究・被験者1万4,692人)。なお、歩行速度、座位からの起立、立位時間と死亡率の関連は、平均年齢70歳以上の高齢者でのみ確認された。握力と死亡率の関連についてはより若い集団でも認められた(5研究・平均年齢60歳未満)。

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外科治療にも地域格差:WHO調査

世界の手術室の数は地域によって大きな差があり、手術室の約2割に、外科治療の医療資源の指標であるパルス酸素濃度計が装備されていないことが、アメリカ・ハーバード大学公衆衛生大学院のLuke M Funk氏らが行ったWHOの調査で明らかとなった。外科治療を要する疾患は疾病負担の多くを占め、低く見積もっても世界全体の障害調整生存年(disability-adjusted life years)の11%が手術の対象となる疾患に帰せられるという。しかし、外科治療の供給を保証する医療資源は、特に低所得国で不十分なのが現状である。Lancet誌2010年9月25日号(オンライン版2010年7月1日号)掲載の報告。WHO加盟国の手術室数、選択された72ヵ国のパルス酸素濃度計数を推算研究グループは手術室の世界的な分布を推定し、必需の術中モニタリング装置であり手術室の医療資源の指標と考えられるパルス酸素濃度計の供給量を調査した。WHOの「safe surgery saves lives initiative」に参加する92ヵ国769施設のデータに基づき、世界7地域の病院ベッド数に対する手術室数の割合を算出した。世界21地域における10万人当たりの手術室数を、WHO加盟190ヵ国の病院ベッド数から推算した。パルス酸素濃度計の供給状況は、地理的、人口統計学的に多様なサンプルを確保するために72ヵ国を選択し、各国の麻酔医334名に調査票を送付して調べた。データのない国のパルス酸素濃度計の必要量は予測回帰モデルで推算した。格差是正には公衆衛生学的戦略および監視体制の改善が必要10万人当たりの推定手術室数は、アフリカのサハラ砂漠以南の西部地域の1.0(95%信頼区間:0.9~1.2)から東欧の25.1(同:20.9~30.1)まで大きな差がみられた。高所得地域全体の推定手術室数の平均が10万人当たり14以上であったのに対し、低所得地域(人口22億人)では2に満たなかった。54ヵ国172名の麻酔科医から得られたパルス酸素濃度計のデータからは、世界で7万7,700(95%信頼区間:6万3,195~9万5,533)の手術室[19.2%(同:15.2~23.9)]にパルス酸素濃度計が装備されていないと推定された。著者は、「十分な外科治療を受けられない20億人以上の人々が置かれている格差を是正するには、公衆衛生学的戦略および監視体制の改善が必要とされる」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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無症候性頸動脈狭窄症に対する即時的頸動脈内膜剥離術、長期的な予後改善効果が明らかに

無症候性頸動脈狭窄症に対する即時的な頸動脈内膜剥離術(CEA)の施行は、遅延的にCEAを行う場合に比べその後10年間の脳卒中リスクを有意に抑制することが、イギリスJohn Radcliffe病院のAlison Halliday氏らが行った無作為化試験で示された。CEAは頸動脈の狭窄を除去するものの、脳卒中や死亡のリスクを引き起こす可能性もある。一方、直近の脳卒中症状やその他の神経学的症状がみられない無症候性の頸動脈狭窄症に対するCEAは脳卒中の発症を数年にわたり抑制することが示されているが、長期的な予後を検討した試験はないという。Lancet誌2010年9月25日号掲載の報告。10年間に30ヵ国126施設から3,120例を登録ACST-1の研究グループは、無症候性の頸動脈狭窄症に対する即時的CEAの長期的な脳卒中予防効果を評価する二重盲検無作為化試験を実施した。1993~2003年までに30ヵ国126施設から無症候性頸動脈狭窄症患者3,120例が登録され、即時的にCEAを施行する群(施行までの期間中央値1ヵ月)あるいは遅延的に施行する群(93%が1年以内には施行されなかった)に無作為に割り付けられた。フォローアップは、患者が死亡するか、生存期間中央値が9年に達するまで継続された。主要評価項目は、周術期の死亡率/罹病率(30日以内の死亡、脳卒中の発症)および非周術期の脳卒中の発症率とした。脳卒中リスクが即時的施行群で46%低下CEA即時的施行群に1,560例、遅延的施行群にも1,560例が割り付けられた。1年後も無症候であった症例は、即時的施行群が89.7%、遅延的施行群は4.8%であり、5年後はそれぞれ92.1%、16.5%であった。全体の30日以内の周術期脳卒中/死亡リスクは3.0%(95%信頼区間:2.4~3.9%、CEA 1,979件中、非障害性脳卒中26例+障害性/致死的イベント34例)であり、両群間に差はみられなかった。周術期イベントおよび脳卒中以外の原因による死亡を除外すると、5年後の脳卒中リスクは即時的施行群が4.1%、遅延的施行群は10.0%、10年後はそれぞれ10.8%、16.9%であり、脳卒中発症率比は0.54(95%信頼区間:0.43~0.68、p<0.0001)と即時施行群で有意に低下した。障害性/致死的脳卒中は即時的施行群が62件、遅延的施行群は104件、非障害性脳卒中はそれぞれ37件、84件であった。周術期イベントと脳卒中を合わせると、5年後のリスクはそれぞれ6.9%、10.9%、10年後のリスクは13.4%、17.9%であった。試験期間を通じてほとんどの症例が抗血栓療法や降圧療法を受けており、薬物療法の施行状況は同等であった。脂質低下療法の有無にかかわらず、また75歳未満では男女ともに即時的施行群でリスクが有意に低下したが、75歳以上では有意差を認めなかった。著者は、「75歳以下の無症候性頸動脈狭窄症に対する即時的CEAは施行後10年間の脳卒中リスクを有意に抑制し、その半数は障害性あるいは致死的脳卒中リスクの低減であった」と結論し、「将来的なベネフィットはCEAが施行されなかった病変のリスク(薬物療法で治療可能)、今後の手術リスク(本試験のCEAとは異なる可能性あり)、平均余命が10年を超えるか否かに依存する」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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