サイト内検索|page:1

検索結果 合計:148件 表示位置:1 - 20

1.

喀血の原因は、喉に住んでいたアイツ【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第309回

喀血の原因は、喉に住んでいたアイツ喀血の原因といえば、結核、肺アスペルギルス症、肺がん、気管支拡張症あたりが定番です。呼吸器内科医なら、喀血と聞いた瞬間に頭の中で鑑別がズラッと並びます。ところが今回の異物論文は、その鑑別リストに絶対載っていない犯人を連れてきました。Abd Alkareem AA, et al. Nasopharyngeal hirudiniasis, a rare cause of masked hemoptysis in an older patient: A case report. J Int Med Res. 2026 Jun;54(6):3000605261453283.患者は、高血圧以外は元気な62歳の男性。タバコは吸いません。2週間前から血を吐くようになり、喉の違和感も続いていました。発熱も、嗄声も、息切れもなし。地元の病院では原因がわからず、専門医に紹介されてきました。高齢男性で2週間も喀血が続けば、たとえ非喫煙者でも、普通は肺がんや結核、心血管系の病気を疑って精査に入ります。実際この論文でも、最初はそうした方向で考えられていました。ところが、診察医が喉を覗いた瞬間、事態は一変します。え? 喉の奥で、何かが動いている。しかも、見えたと思ったらスッと引っ込む。落ち着け…、落ち着けオレ…! そう思ったに違いありません。鼻咽腔内視鏡を入れてみると、上咽頭の壁に、何かがくっついて、もぞもぞ動いていました。もう、嫌な予感しかしません。口蓋垂を持ち上げて視野を確保し、鉗子でそいつをつかんで引っ張り出す。エエイッ!なんと、出てきたのは、体長およそ3cmの、 生きたヒルでした。いやああああ!!! またこのタイプの論文かよおおお!!!!なぜ、ヒルで喀血したのでしょうか。実はヒルの唾液には、ヒルジンという強力な抗凝固物質と、局所麻酔成分が含まれています。だから噛みついても痛くないし、いったん吸血を始めると血が止まりにくくなります。つまり出血の正体はヒルがせっせと分泌していた天然の抗凝固薬だったわけです。実際、ヒルを取り除いた瞬間、出血はピタッと止まりました。患者さんにあらためて話を聞くと、3週間ほど前に、処理していない池の水を飲んでいたとのこと。水と一緒に幼いヒルを飲み込み、上咽頭に定着してしまったようです。2次感染予防に抗菌薬を1週間処方し、2週間後の再診でも再発はありませんでした。よかったよかった。

2.

夜間の熱波で喘息リスクが上昇

 猛暑は喘息増悪の引き金となる可能性があり、特に夜間の熱波は喘息増悪リスクの上昇と関連することが、新たな研究で示唆された。米ボルティモアの病院データを解析したところ、熱波の発生後には喘息関連で救急外来(ED)を受診する患者が増加することが明らかになったという。米ジョンズ・ホプキンス大学地球惑星科学教授のBenjamin Zaitchik氏らによるこの研究の詳細は、「GeoHealth」に5月6日掲載された。 研究では、猛暑が夜間まで続いた場合に喘息増悪リスクが特に高まることが明らかになったという。Zaitchik氏は、「夜間に屋外が暑いと、エアコンのないタウンハウス(長屋)の2階の寝室は息が詰まるほど蒸し暑くなる。これは生死に関わる問題だといえる。なぜなら、人によっては致死性の喘息増悪を経験する可能性があるだけでなく、生活の質(QOL)や幸福感、子どもが子ども時代を楽しむ力にも影響を及ぼすからだ」とニュースリリースの中で述べている。 研究グループは今回、2016~2022年の夏季にボルティモアで発生した成人819件、小児695件の喘息増悪によるED受診を対象に、患者の居住地ごとに、土地利用や都市構造を基に推定した高解像度の日中・夜間気温データを割り当てた。熱波の定義は研究により異なるため、本解析では、11種類の既存の熱波指標を用いた。これらの指標における熱波の判定には、ボルティモア空港で取得された1991~2020年の30年間の気温データの統計分布が基準として用いられた。その上で、これらのデータを基に、暑さと喘息増悪との関連を解析した。 その結果、地域レベルの気温データを用いた解析では、夜間の最低気温がその地域として異常に高い場合に、喘息関連のED受診との強い関連が認められた。小児患者の場合、夜間の熱波後に喘息増悪のリスクが28~38%上昇し、成人患者でも26~40%の上昇が見られた。また、小児患者では地域差が見られ、特に社会的に脆弱な地域ではリスク上昇が顕著だった。一方、空港の気象観測データを用いた熱波指標では、夜間よりも昼間の極端な暑さとの関連が示されたが、ボルティモア市の猛暑警報(コードレッド)に用いられている指標では有意な関連は認められなかった。 研究グループによると、連夜にわたって暑さに長時間さらされ続けると、喘息症状が増悪する可能性があるという。論文の上席著者であるジョンズ・ホプキンス大学医学部の喘息プレシジョンメディシンセンター長のMeredith McCormack氏は、「喘息の増悪や喘息発作は、咳や胸の圧迫感、息切れなどの症状の増加から始まることがある。EDを受診する前に、吸入薬の使用回数を増やすなどの方法を試す患者もいるだろう。そのため、ED受診を要するほど症状が悪化するまで、数日間のタイムラグが生じる可能性がある」とニュースリリースの中で述べている。 また、McCormack氏によると、夜間の暑さは身体が休息し回復する機会を奪うため、喘息患者に大きな負担を与えるという。さらに、身体の防御機能の一部は夜間に低下する。例えば、気管支拡張作用を持つアドレナリンの血中濃度は周期的に午前3時前後に自然に低下するため、この時間帯には喘息症状を抑える働きが弱まる。 研究グループは、今回の研究の結果を踏まえ、日中の気温予測に基づいた猛暑警報システムでは、本来の効果が発揮されていない可能性があるとの見方を示している。また、現在は、地域の気象局観測所で測定された単一の気温データが市全体の代表値として用いられているが、都市部では地域ごとに気温を測定する方が住民の助けになる可能性があるとも指摘している。論文の筆頭著者であるBianca Corpuz氏は、「暑さへの曝露量は地域によって大きく異なり、その違いは健康にも影響する。地域単位で気温を測定すると、広域の気象データでは捉えきれない傾向が見えてくる。各都市が脆弱な地域社会をしっかりと守るためには、こうした地域レベルの情報が極めて重要になる」と述べている。

3.

広域抗菌薬が投与された肺炎患者の予後は?/感染症学会・化学療法学会

 市中肺炎(CAP)では、緑膿菌などを想定した広域抗菌薬が経験的に使用されることがある。実際に、本邦の研究において全CAP患者の27.4%に抗緑膿菌薬が投与されており、そのうち97.3%が潜在的に不必要な投与であったことが報告されている1)。また、β-ラクタム系薬が投与された耐性菌リスクの低いCAP患者において、β-ラクタム系薬の抗緑膿菌作用の有無別に臨床転帰を後ろ向きに検討した結果、抗緑膿菌作用のあるβ-ラクタム系薬を用いた群は、30日死亡率が有意に高かったことも報告されている2)。 そこで、市中発症肺炎(CAPおよび医療・介護関連肺炎[NHCAP])に対する広域抗菌薬投与の有益性を検討することを目的として、多施設共同後ろ向き観察研究が実施された。その結果、喀痰培養が提出された市中発症肺炎患者の30.9%に抗緑膿菌作用を有する広域抗菌薬が投与されており、広域抗菌薬を使用した群で入院死亡および入院肺炎死亡のオッズが有意に高かった。2026年5月22~24日に開催された第100回日本感染症学会総会・学術講演会/第74回日本化学療法学会総会 合同学会において、岩永 直樹氏(長崎大学病院 呼吸器内科)が本結果を報告した。 本研究は、2017~19年に長崎大学病院を含む関連7施設で実施された多施設共同後ろ向き観察研究である。解析対象は、CAPまたはNHCAPとして治療された市中発症肺炎患者1,907例中、喀痰培養検査が実施された1,542例とした。対象患者を広域抗菌薬群と狭域抗菌薬群に分類し、患者背景、死亡、入院期間、治療期間などを比較した。また、広域抗菌薬群におけるde-escalation実施の有無別にみたサブグループ解析も行った。なお、広域抗菌薬は「グラム陽性菌からグラム陰性菌(緑膿菌を含む)までカバーする抗菌薬」と定義した。 主な結果は以下のとおり。・喀痰培養が提出された1,542例のうち、広域抗菌薬が投与されたのは476例(30.9%)であった。・初期治療薬の割合は、広域抗菌薬群でタゾバクタム・ピペラシリン(68%)が最も多かった。次いでレボフロキサシン(16%)、カルバペネム系抗菌薬(10%)が使用されていた。狭域抗菌薬群では、スルバクタム・アンピシリン(63%)が最も多く、次いでセフトリアキソン(22%)が使用されていた。・広域抗菌薬が投与されやすい患者背景として、単変量解析では男性、NHCAP、PS不良、長期療養病床からの入院、ステロイドまたは免疫抑制薬の使用、90日以内の血管内治療歴、90日以内の入院歴、A-DROP高値が挙げられた。・同様に単変量解析において、併存疾患として間質性肺炎、気管支拡張症、非結核性抗酸菌症、血液がん、臓器移植歴などを有する患者で、広域抗菌薬が投与されやすい傾向がみられた。・多変量解析では、男性、長期療養病床からの入院、A-DROP 3点以上、間質性肺炎、気管支拡張症、非結核性抗酸菌症、血液がんが広域抗菌薬投与と有意に関連する因子として抽出された。・傾向スコアを用いた逆確率重み付け法による解析において、入院死亡のオッズが広域抗菌薬群で有意に高かった(調整オッズ比[aOR]:1.30、95%信頼区間[CI]:1.00~1.69、p=0.0473)。広域抗菌薬群は入院肺炎死亡のオッズも有意に高かった(同:1.65、1.11~2.03、p=0.0076)。・入院生存例のみを対象としたサブグループ解析では、入院期間および抗菌薬治療期間が広域抗菌薬群で有意に長かった(いずれもp<0.0001)。・広域抗菌薬群476例のうち、de-escalationが実施されたのは116例(24.4%)、実施されなかったのは360例(75.6%)であった。de-escalation実施の有無で患者背景を比較したところ、有意差のある項目はなかった。・de-escalationの有無で予後を比較すると、傾向スコアを用いた逆確率重み付け法による解析において、入院肺炎死亡のオッズがde-escalation実施群で有意に低かった(aOR:0.54、95%CI:0.33~0.89、p=0.0138)。 de-escalation実施群で入院肺炎死亡のオッズが有意に低下していたことについて、岩永氏は「de-escalationを実施した患者は、臨床経過が良いという主治医の判断のもとでde-escalationを実施していると考えられ、そのことが結果に反映されている可能性がある」と考察した。

4.

頻回増悪を示すCOPD、astegolimabが好酸球数によらず増悪を抑制か(ALIENTO・ARNASA併合解析)/ATS2026

 既存の維持療法によっても増悪リスクが残存する慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者が存在し、新たな治療選択肢が求められている。IL-33受容体であるST2を標的とするモノクローナル抗体astegolimabは、頻回増悪歴を有するCOPD患者を対象として、開発が進められている。本剤について、海外第IIb相試験「ALIENTO試験」および国際共同第III相試験「ARNASA試験」が実施されており、米国胸部学会国際会議(ATS2026 International Conference)において、2試験の併合解析結果をJadwiga A. Wedzicha氏(英国・インペリアル・カレッジ・ロンドン)が報告した。併合解析の結果、astegolimab 2週ごと投与は、ベースライン時の血中好酸球数にかかわらず、主要評価項目の中等度または重度のCOPD増悪の年間発現率をプラセボと比較して低下させ、忍容性も良好であることが示された。本解析結果は、American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine誌オンライン版2026年5月18日号に同時掲載された1)。 なお、ALIENTO試験およびARNASA試験の結果は、Lancet誌オンライン版2026年5月18日号に掲載された2)。astegolimab 2週ごと投与は、ALIENTO試験において主要評価項目を達成したが、ARNASA試験では主要評価項目を達成しなかった。 ALIENTOは海外第IIb相試験、ARNASAは国際共同第III相試験であり、いずれも頻回増悪歴を有するCOPD患者を対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照試験である。対象は、12ヵ月間に中等度または重度のCOPD増悪を2回以上経験し、modified Medical Research Council(mMRC)グレード2以上で、最適化された維持療法を受けている患者とした。ベースライン時の血中好酸球数、慢性気管支炎の有無、喫煙歴を問わず組み入れられた。対象患者は、astegolimab 476mgを2週ごとに投与する群(Q2W群)、4週ごとに投与する群(Q4W群)、プラセボを投与する群(プラセボ群)に1:1:1の割合で割り付けられ、52週間の治療を受けた。主要評価項目は、52週時点までの中等度または重度のCOPD増悪の年間発現率とした。副次評価項目は、St. George’s Respiratory Questionnaire(SGRQ)-C合計スコアの変化、重度のCOPD増悪の年間発現率、中等度または重度増悪の初回発現までの期間、気管支拡張薬投与後1秒量(FEV1)の変化、E-RS:COPD合計スコアなどとした。なお、今回の併合解析は事前規定されたものである。 主な結果は以下のとおり。・併合解析のmodified ITT集団は、Q2W群892例、Q4W群896例、プラセボ群888例であった。患者背景は各群でおおむねバランスがとれていた。平均年齢はそれぞれ66.76歳、67.10歳、67.14歳、男性の割合は60.3%、60.2%、60.4%であった。・血中好酸球数の平均値は、Q2W群183.5/μL、Q4W群187.6/μL、プラセボ群176.5/μLであった。血中好酸球数300/μL以上の患者は、それぞれ13.9%、13.1%、11.4%であった。・52週時点までの中等度または重度のCOPD増悪の年間発現率は、Q2W群1.04、Q4W群1.07、プラセボ群1.22であった。プラセボ群に対するレート比は、Q2W群0.85(95%信頼区間[CI]:0.76~0.96、p=0.0077)、Q4W群0.88(95%CI:0.78~0.99、p=0.0265)であった。・事前規定されたサブグループ解析において、ベースライン時の血中好酸球数、喫煙歴などのほとんどのサブグループで、Q2W群の中等度または重度のCOPD増悪の減少が一貫して認められた。プラセボ群と比較したレート比は、血中好酸球数150/μL未満では0.82、150/μL以上では0.88、300/μL未満では0.87、300/μL以上では0.73であった。・重度のCOPD増悪の年間発現率は、Q2W群0.15、プラセボ群0.22で、プラセボ群に対するレート比は0.68であった(95%CI:0.52~0.87、名目上のp=0.0028)。・52週時点でSGRQ-C合計スコアがベースラインから4点以上改善した患者の割合は、Q2W群がプラセボ群より高かった(オッズ比:1.35、95%CI:1.11~1.64、名目上のp=0.0029)。・SGRQ-C総スコアのベースラインからの変化量、気管支拡張薬投与後FEV1の変化量、E-RS:COPD総スコアの変化量については、明確な群間差は示されなかった。・安全性評価集団における100人年当たりの有害事象発現率は、Q2W群365、Q4W群403、プラセボ群408であった。重篤な有害事象はそれぞれ100人年あたり39、41、48であった。 本併合解析について、Wedzicha氏は「astegolimab 2週ごと投与は、頻回増悪歴を有するCOPD患者において良好なリスク・ベネフィットプロファイルを示した」とまとめた。

5.

喘鳴をみたら喘息?【喘息・COPDのここが知りたい!】第1回

皆さま、こんにちは。神奈川県川崎市にあります日本鋼管病院という地域の総合病院で呼吸器内科医として働いています田中 希宇人(たなか きゅうと)と申します。ネット上では「キュート先生」の名前で医療情報発信を行っています。川崎南部地域は肺がん・COPD・喘息など、呼吸器疾患の患者さんが多く、呼吸器の症状で困っている方を10年以上診療してきています。喘息・COPDのガイドラインはしっかり策定されておりますが、すべての患者さんがガイドラインに当てはまるわけではありません。本連載では、それらのガイドラインの隙間を埋めるような実臨床で役立つ内容、悩む状況などについて一緒に考えていきたいと思います。ぜひご意見やご感想もお寄せいただけますと幸いです。喘鳴をみたら喘息?はじめに:その喘鳴をどう診ますか?日常診療において、患者さんが「ゼーゼーする」「ヒューヒューいう」と訴えて来院された際、真っ先に頭に浮かぶのは「喘息」ではないでしょうか。実際に喘息は非常に頻度の高い疾患であり、その症状の1つに「喘鳴(ぜんめい)」があります。喘鳴とは、気道が狭くなることで「ゼーゼー」や「ヒューヒュー」といった異常な呼吸音が連続的に発生する状態を指します。この音は、狭くなった気道を空気が無理に通過する際に生じる振動によるものです。喘鳴は、聴診器を使わなくても聞こえることもあります。息を吸う時に聞かれる「吸気性喘鳴」と吐く時に聞かれる「呼気性喘鳴」があります。音が聞こえるタイミングや、気道のどの部分が狭くなっているかで病気を推測できる場合があります。しかし「All that wheezes is not asthma(喘鳴がすべて喘息とは限らない)」1,2)という言葉があります。ガイドラインには「喘息の治療法」については詳しく書いてありますが、「この喘鳴が本当に喘息なのか」という診断や鑑別プロセスについては、多くを語ってくれません。ましてや、目の前の患者さんが「喘息なのか」については教えてくれません。本連載では、ガイドラインの行間に隠れた、実臨床での「診療のコツ」をお伝えしていきたいと考えています。第1回は多くの先生方が最も迷いやすく、かつ見逃してはならない「喘鳴の鑑別」について深掘りしていきます。喘鳴の「音」を解剖する:stridorとwheeze聴診器を当てて何か「音がする」だけで満足してはいけません。その異常な音が「いつ」「どこで」聞こえるかが、診断の最大のヒントになります。外来診療では長い時間がとれないため、患者の頸部で聴診します。深呼吸で、呼気は勢いよく最後の最後まで吐ききってもらいます。典型的な喘息の喘鳴は、呼気終末に聴取されます。喘鳴が聞かれる場合に、まず重要なのは音が吸気時(息を吸うとき)に強いのか、呼気時(吐くとき)に強いのかという点です。呼気性喘鳴(wheeze)主に末梢気道が狭窄しているサインです。喘息やCOPDの典型的な音です。吸気性喘鳴(stridor)主に上気道・中枢気道の閉塞を示唆します。喉頭浮腫、声帯機能不全、異物、気管腫瘍などが疑われます。もし吸気時に強い「ヒュー」という音が聞こえたなら、それは喘息の増悪ではなく「上気道の緊急事態」かもしれません。この見極め一つで対応が劇的に変わります。次に、聞かれる音がmonophonic(単音性)なのか、polyphonic(多音性)かということがわかると、さらに病気が絞られます。monophonic聴診してどこの部位で聞いても同じ高さの「ピー」という音が聞こえる状態。これは、特定の太い気道が1点で狭まっている、腫瘍や異物などの病態の可能性を考えます。polyphonic胸のあちこちで異なる高さの音が混ざって聞こえる状態。これは喘息のように、肺全体であちこちの気道が狭くなっている病態を示します。喘息と間違えやすい3つの病態咳・息切れ・喘鳴などの症状があると「喘息」が疑われ、呼吸器外来を受診することが多いです。そこで気を付けなければいけない、喘息と間違えやすい代表的な3つの疾患を紹介しましょう。(1)心不全最も頻度が高く、かつ命にかかわるのが心不全です。左心不全による肺水腫で気管支粘膜が浮腫を起こすと、喘息そっくりの喘鳴が聴取されます。見分けるポイントがいくつかあります。喘息の喘鳴は「夜間・早朝」に強く認められますが、心不全は「横になる時(臥位)」に症状が悪化します。また、心不全徴候であるIII音の聴取、下腿浮腫や頸静脈怒張の有無、X線で心拡大やバタフライシャドウ、採血でBNP高値などをあわせて確認します。喘息の既往がある高齢者が「最近ゼーゼーがひどい」と受診した場合、じつは心不全がベースにあるケースは珍しくありません。喘息とうっ血性心不全が合併していることがあり、私も気管支拡張薬、ステロイド、利尿薬、降圧薬を同時に投与したことがあります。(2)声帯機能不全(VCD)喘息と考えて吸入ステロイドや気管支拡張薬など各種吸入薬を使ってもまったく症状が改善しない「難治性喘息」の中に紛れ込んでいるのが、声帯機能不全(Vocal Cord Dysfunction:VCD)です。本来、息を吸うときに開くはずの声帯が上手に開かない病態です。VCDによる喘鳴が最も強く聞こえるのは「胸」ではなく「首」です。また、喘息増悪(発作)時にはSpO2が低下することが多いですが、VCDでは正常に保たれていることが多いのも特徴です。「吸入薬が効かない」と訴える方や、心理的ストレスを抱える方では、VCDの可能性を考え耳鼻科医に診察してもらうことも重要です。(3)中枢気道病変(腫瘍・異物)ときどき呼吸器外来で診るのが、肺がんや気管支結核、あるいは高齢者の誤嚥による異物などが原因の喘鳴です。肺がん・気管支がんなどの悪性腫瘍、異物などによる物理的閉塞による喘鳴は「片側だけ」「ある特定の部位だけ」で聞こえます。喘鳴は全肺野で聞かれるはず、という思い込みを捨て、左右の胸の音を丁寧に聞き比べるとわかることがあります。また、喘息増悪で聞かれる喘鳴は、比較的急な経過で聴取されますが、悪性腫瘍が原因の場合には徐々に症状が強くなることが特徴です。喫煙歴のある高齢者の喘鳴で安易に「喘息やCOPDが原因」と決めつけるのは危険です。X線やCTでの精査を躊躇してはいけません。喘鳴を正しく見極めるためのコツ喘鳴が聴取される患者さんで喘息か他疾患の病態かで迷ったとき、実際の医療現場で行っているいくつかのコツを紹介しましょう。(1)SABA(短時間作用性β2刺激薬)に対する反応をみるまず比較的簡単にできるのが、喘息増悪に準じてメプチンなどのSABAをネブライザーで吸入させ、その場で喘鳴が消失あるいは軽減するかを確認することです。これは、非常に有用な診断的治療になります。喘息であれば反応が良いはずですが、心不全や腫瘍による気道の物理的狭窄では反応が乏しいことがわかります。(2)「いつもの喘鳴」との違いを聞いてみる喘息増悪を繰り返す患者さんが一番自分の状態をわかっています。しかし、喘息患者さんでも別の病気を合併することがあります。「今回の症状は、今までの喘息発作と同じ感じですか?」という一言が、別の病気を見つけるカギになることがあります。患者さんが感じる「今回はなんか違う、息が吸い込みにくい感じがする」といった症状には注意が必要です。(3)喘鳴の起こり方を探る喘息の増悪は何かをきっかけに発作的に起こりますが、COPDや心不全の増悪は、動いたときの息切れが先行し、徐々に症状が悪化することが多いです。そのようなきっかけ、安静時の喘鳴なのか労作時の喘鳴なのか、など喘鳴の起こり方を探ってみましょう。おわりに:診断の「質」が治療の「質」を決める喘息治療の進歩により、多くの患者さんが発作を経験せずに平穏に過ごせるようになりました。喘息死も私が研修医だった20年前に比べるとだいぶ減りました。しかし、その一方で咳・息切れ・喘鳴のような症状がある場合に、「とりあえず喘息として吸入薬を出す」ことが、本来見つけるべき他の疾患を見逃すリスクを生んでいる側面もあります。「喘鳴=喘息」という思考をいったんやめて、聴診器から聞こえる音の正体を疑ってみる姿勢が第一歩です。正しい診断が下されれば、正しい治療につながります。そこで既存のガイドラインがさらに活きてくるものと考えています。 1) Jackson C. BMQ. 1865;16:86 2) Kaminsky DA. Chest. 2015;147:284-286.

6.

未治療・再発肺MAC症、吸入アミカシン上乗せの有用性は?(ARISE)

 肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)のうち、Mycobacterium avium complex(MAC)を原因菌とするものが肺MAC症である。肺MAC症に対し、国際的なガイドラインではマクロライド系抗菌薬、エタンブトール、リファンピシンによる3剤併用療法が推奨されている1)。また、本邦の指針である『成人肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解―2023年改訂―』でも、空洞がなく重度の気管支拡張所見がない場合は、マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシンまたはアジスロマイシン)、エタンブトール、リファンピシンの併用が標準治療とされている2)。ただし、この3剤併用療法には忍容性や治療成功率に課題も存在する。 そのような背景から、肺MAC症に対する新規治療薬としてアミカシンリポソーム吸入懸濁液(ALIS、商品名:アリケイス)が承認されているが、適応は「多剤併用療法による前治療において効果不十分な患者」に限定されている。そこで、米国・National Jewish HealthのCharles L. Daley氏らは、未治療または再発の非空洞性肺MAC症患者を対象に、アジスロマイシン+エタンブトールへALISを上乗せする治療の有用性を検討する国際共同第III相試験「ARISE試験」を実施した。その結果、ALIS併用群は対照群と比較して、6ヵ月時点および治療終了1ヵ月後の7ヵ月時点における排菌陰性化率が数値的に高く、より早期に排菌陰性化を達成することが示唆された。本研究結果は、Annals of the American Thoracic Society誌オンライン版2026年1月23日号で報告された。試験デザイン:国際共同無作為化二重盲検第III相試験対象:未治療または再発の非空洞性肺MAC症の成人患者99例試験群(ALIS群):アジスロマイシン(250mg/日)+エタンブトール(15mg/kg/日)+ALIS(590mg/日)を6ヵ月 48例対照群:アジスロマイシン(250mg/日)+エタンブトール(15mg/kg/日)+吸入プラセボを6ヵ月 51例評価項目:[主要評価項目]患者報告アウトカム(PRO)ツールの妥当性検証[副次評価項目]排菌陰性化率、安全性など 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢中央値は69歳で、女性の割合は77.8%、白人の割合は80.8%であった。・6ヵ月時点の排菌陰性化率(5ヵ月・6ヵ月時点の連続で陰性)は、ALIS群80.6%、対照群63.9%であった(群間差16.7%、95%信頼区間[CI]:-1.4~34.9、p=0.0712)。・治療終了1ヵ月後の7ヵ月時点における排菌陰性化率(6ヵ月・7ヵ月時点の連続で陰性)は、ALIS群78.8%、対照群47.1%であり、ALIS群が高かった(群間差31.7%、95%CI:12.9~50.5、p=0.0010)。・排菌陰性化達成までの期間中央値は、ALIS群1.0ヵ月に対し、対照群では2.0ヵ月であった。・排菌陰性化を達成した患者のうち、7ヵ月時点までに再発が確認された割合は、ALIS群12.8%(5例)に対し、対照群では50.0%(20例)と対照群が高かった。・PRO評価(QOL-B RDスコア)において、ALIS群では7ヵ月時点まで継続的な改善傾向がみられた一方、対照群では3ヵ月以降に改善が頭打ちとなり、その後低下した。・安全性について、有害事象はALIS群91.7%、対照群80.4%に発現した。ALIS群で多くみられた有害事象は、発声障害(41.7%)、下痢(27.1%)、咳嗽(27.1%)などであり、新たな安全性シグナルは認められなかった。 本研究結果について、著者らは「本試験は6ヵ月間という短期間の検討であり、ガイドライン推奨の治療期間を反映していないものの、早期介入における吸入アミカシンの有用性を示す重要なデータである」と述べている。現在、同様の集団を対象とした12ヵ月間の長期投与による検証試験「ENCORE試験」が進行中である。

7.

気管支拡張症へのbrensocatib、日本人サブグループ解析結果(ASPEN)

 非嚢胞性線維症性気管支拡張症は、慢性的な咳嗽や膿性痰を伴い、増悪を繰り返すことで肺機能低下やQOL低下を招く進行性の炎症性呼吸器疾患である。炎症には好中球エラスターゼなどの好中球セリンプロテアーゼが深く関与しており、その活性化を担うのがジペプチジルペプチダーゼ1(DPP-1)とされている。そこで、DPP-1阻害薬brensocatibが開発され、非嚢胞性線維症性気管支拡張症患者を対象とした国際共同第III相試験「ASPEN試験」において、増悪を抑制することが示された。本試験の結果から、米国食品医薬品局(FDA)は2025年8月に非嚢胞性線維症気管支拡張症を適応症として、brensocatibを承認した(本邦では承認申請中)。 ASPEN試験は日本人87例が含まれる試験である。そこで、森本 耕三氏(公益財団法人結核予防会 複十字病院 呼吸器センター)らは本試験の日本人サブグループ解析を実施し、Respiratory Investigation誌2026年3月号で結果を報告した。本解析において、brensocatibは日本人においても増悪を抑制し、良好な安全性を示すことが示唆された。・試験デザイン:国際共同第III相二重盲検無作為化比較試験・対象:過去12ヵ月に2回以上の増悪歴(12~17歳は1回でも可)を有する非嚢胞性線維症性気管支拡張症患者・試験群1(brensocatib 10mg群):brensocatib(10mg、1日1回)を52週間 583例(日本人30例)・試験群2(brensocatib 25mg群):brensocatib(25mg、1日1回)を52週間 575例(日本人28例)・対照群(プラセボ群):プラセボ(1日1回)を52週間 563例(日本人29例)・評価項目:[主要評価項目]増悪の年間発現率[主要な副次評価項目]初回増悪までの期間、52週時点の無増悪割合、52週時点の1秒量(FEV1)のベースラインからの変化、重度増悪の年間発現率、QOL-B呼吸器症状ドメイン 日本人サブグループにおける主な結果は以下のとおり。・日本人87例の平均年齢は66.4歳で、女性の割合は56.3%であった。いずれの群もマクロライド系抗菌薬を使用している患者が多かった(brensocatib 10mg群80.0%、brensocatib 25mg群75.0%、プラセボ群79.3%)。・日本人サブグループは全体集団と比較して、男性の割合、75歳以上の割合、マクロライド長期投与を受けている割合、過去1年に増悪が3回以上あった患者の割合、気管支拡張薬吸入後の%FEV1値が高い傾向にあった。・主要評価項目である増悪の年間発現率(回/年)は、プラセボ群が1.20であったのに対し、brensocatib 10mg群0.45(率比:0.37、95%信頼区間[CI]:0.16~0.87)、25mg群0.39(率比:0.32、95%CI:0.14~0.75)であり、いずれの用量でもプラセボ群と比較して改善した。・初回増悪までの期間の中央値は、プラセボ群が40.1週であったのに対し、brensocatib 10mg群および25mg群ではいずれも未到達であった。プラセボ群と比較したハザード比は、それぞれ0.46(95%CI:0.19~1.12)、0.48(95%CI:0.20~1.17)であった。・52週時点の無増悪割合は、プラセボ群が47.6%であったのに対し、brensocatib 10mg群72.9%(オッズ比[OR]:3.10、95%CI:0.99~9.69)、25mg群71.2%(OR:2.77、95%CI:0.89~8.67)であった。・52週時点のFEV1のベースラインからの最小二乗平均変化量は、プラセボ群が-107mLであったのに対し、brensocatib 10mg群-59mL、25mg群-9mLであった。プラセボ群との群間差は、それぞれ47mL(95%CI:-20~115)、97mL(95%CI:32~162)であった。・重度増悪の年間発現率(回/年)は、プラセボ群が0.33であったのに対し、brensocatib 10mg群0.04(率比:0.11、95%CI:0.01~1.04)、25mg群0.10(率比:0.30、95%CI:0.06~1.62)であった。・52週時点のQOL-B呼吸器症状ドメインのベースラインからの最小二乗平均変化量は、プラセボ群が-2.38であったのに対し、brensocatib 10mg群3.26、25mg群5.01であった。プラセボ群との群間差は、それぞれ5.64(95%CI:-0.88~12.15)、7.39(95%CI:0.73~14.06)であった。・有害事象の発現割合は各群で同様であった(プラセボ群89.7%、brensocatib 10mg群90.0%、25mg群85.7%)。注目すべき有害事象の角化症はbrensocatib 25mg群の4例(14.3%)のみに認められ、すべて軽度であった。 以上の結果について、著者らは「ASPEN試験に登録された日本人患者において、現在の気管支拡張症管理にbrensocatibを追加した際の有効性および安全性は、全体集団で報告された結果と同様であった。brensocatib 10mgおよび25mgはいずれも、増悪抑制、呼吸機能低下抑制、患者報告アウトカム改善において、プラセボと比較して数値上の有用性を示した」とまとめた。

8.

診療科別2025年下半期注目論文5選(呼吸器内科編)

Effectiveness of high-dose influenza vaccine against hospitalisations in older adults (FLUNITY-HD): an individual-level pooled analysisJohansen ND, et al. Lancet. 2025 Nov 22;406:2425-2434.<FLUNITY-HD試験>:高齢者のインフルエンザ・肺炎入院予防、高用量ワクチンが標準用量に勝る事前に規定された統合解析において、高用量不活化インフルエンザワクチン(HD-IIV)は標準用量インフルエンザワクチン(SD-IIV)と比較して、インフルエンザまたは肺炎による入院に対し優れた予防効果を示し、また、副次評価項目である心肺疾患による入院、検査確定インフルエンザ入院、全原因入院の発生率も減少させました。HD-IIVは、本邦でも2026年10月より75歳以上を対象に定期接種化が決まっています。Inhaler-Related Greenhouse Gas Emissions in the US: A Serial Cross-Sectional AnalysisFeldman WB, et al. JAMA. 2025;334:1638-1649.<吸入器と環境問題>:米国における吸入器関連の温室効果ガス排出量本研究は、米国における過去10年間の吸入器関連の温室効果ガス排出量を分析したもので、とくに噴射剤(HFC)を含む加圧式定量噴霧吸入器(pMDI)が排出量の98%を占めることを明らかにしました。その社会的コストは57億ドル(1ドル150円換算で約8,550億円)と試算されています。これはもはや医療者個人だけの問題ではなく、政策レベルでの対応が求められる公衆衛生上の課題です。患者さんの吸入デバイス選択においては、吸気力や手技などを最優先すべきですが、環境負荷の少ないドライパウダー吸入器(DPI)やソフトミスト吸入器(SMI)への切り替えが可能かどうかを常に念頭に置く必要があります。Systemic Corticosteroids, Mortality, and Infections in Pneumonia and Acute Respiratory Distress Syndrome : A Systematic Review and Meta-analysisSoumare A, et al. Ann Intern Med. 2025 Dec 2. [Epub ahead of print]<重症肺炎・ARDSへのステロイド>:死亡率低下と感染リスクへの影響市中肺炎におけるステロイド投与に関する長年の論争に1つの決着を与える重要なメタ解析です。非COVIDの重症肺炎やARDSにおいて「低用量・短期間(プレドニン換算3mg/kg/日以下、15日以内)」かつ「早期導入」であれば、死亡率を有意に低下させ、かつ懸念される院内感染のリスクを増やさないという結果でした。集中治療領域において、適切なプロトコル下でのステロイド投与を支持する強固なエビデンスと言えます。Hypertonic Saline or Carbocisteine in BronchiectasisBradley JM, et al. N Engl J Med. 2025;393:1565-1577.<CLEAR試験>:気管支拡張症の増悪予防、高張食塩水とカルボシステインに効果なし気管支拡張症の増悪予防に対し、高張食塩水やカルボシステイン(ムコダインなど)は海外を中心に広く使用されていますが、そのエビデンスは限定的でした。本研究は、英国の大規模な2×2要因RCTで、結果は標準治療への上乗せ効果として、高張食塩水もカルボシステインも52週間の増悪回数を有意に減らさないというものでした(p=0.12、p=0.81)。健康関連QOL(QoL-B、SGRQ、EQ-5D-5L)も改善をしませんでした。本邦ではカルボシステインの使用頻度が高い状況があります。日常診療で気管支拡張症に対して、ルーチンに処方する意義を再考しても良いのかもしれません。Overall Survival with Amivantamab-Lazertinib in EGFR-Mutated Advanced NSCLCYang JC, et al. N Engl J Med. 2025;393:1681-1693.<MARIPOSA試験>:EGFR変異陽性NSCLCの1次治療におけるアミバンタマブ+ラゼルチニブの全生存期間MARIPOSA試験の最終OS解析結果です。現在の標準治療であるオシメルチニブ単剤に対し、アミバンタマブ・ラゼルチニブ併用がHR:0.75(p=0.005)と有意なOS延長を示したことは、EGFR変異陽性肺がん治療における大きなマイルストーンです。3年生存率60%という数字は驚異的ですが、一方でGrade3以上の有害事象が80%(オシメルチニブ群は52%)と高率である点には十分な注意が必要です。とくに皮膚障害や静脈血栓塞栓症(VTE)の管理が実臨床での導入の鍵となります。高い有効性と忍容性のバランスを患者ごとにどう判断するかが、われわれ臨床医に問われています。

9.

鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎、テゼペルマブの日本人データ(WAYPOINT)/日本アレルギー学会

 鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(CRSwNP)に対し、生物学的製剤の適応拡大が進んでいるが、生物学的製剤使用患者の約40%は全身性ステロイド薬を用いていたという報告があるなど、依然としてコントロール不十分な患者が存在する。そこで、抗TSLP抗体薬のテゼペルマブのCRSwNPに対する有用性が検討され、国際共同第III相試験「WAYPOINT試験」において、テゼペルマブは鼻茸スコア(NPS)と鼻閉重症度スコア(NCS)を有意に改善したことが、NEJM誌ですでに報告されている1)。本試験の結果を受け、テゼペルマブは米国およびEUにおいて2025年10月にCRSwNPに対する適応追加承認を取得した。 そこで、WAYPOINT試験の日本人集団の解析結果について、櫻井 大樹氏(山梨大学大学院総合研究部医学域 耳鼻咽喉科・頭頸部外科講座)が第74回日本アレルギー学会学術大会(10月24~26日)で発表した。本解析の結果、日本人集団においてもテゼペルマブの有効性・安全性は全体集団と一貫していたことが示された。試験デザイン:国際共同第III相無作為化二重盲検比較試験対象:既存治療でコントロール不十分(NPS 5以上、各鼻腔のスコア2以上)の18歳以上のCRSwNP患者408例(日本人33例)試験群(テゼペルマブ群):テゼペルマブ210mgを4週に1回皮下投与+鼻噴霧用ステロイド薬※ 203例(日本人17例)対照群(プラセボ群):プラセボ+鼻噴霧用ステロイド薬※ 205例(日本人16例)評価項目:[共主要評価項目]投与52週時のNPSのベースラインからの変化量、投与52週時のNCSのベースラインからの変化量[副次評価項目]鼻茸に対する手術決定/全身性ステロイド薬投与までの期間、嗅覚障害重症度スコア、22項目の副鼻腔に関する評価質問票(SNOT-22)合計スコア、LMKスコア(副鼻腔混濁度の指標)、全症状スコア(TSS)、喘息合併患者における気管支拡張薬投与前の1秒量(FEV1)など※:日本人集団では併用を必須としない 日本人集団における主な結果は以下のとおり。・日本人集団の患者背景は、性別を除いて両群間でバランスがとれていた。日本人集団は65歳以上の割合が多い(テゼペルマブ群23.5%、プラセボ群25.0%)、BMI(kg/m2)が低い(25.8、25.4)、手術歴ありの割合が少ない(52.9%、56.3%)、総IgE(IU/mL)が高い(260.8、362.6)、アレルギー性鼻炎の合併が多い(29.4%、37.5%)などの特徴があった。・ベースライン時のNPS(平均値±標準偏差)は、テゼペルマブ群6.2±1.0、プラセボ群6.5±1.3であった。同様に、NCSはそれぞれ2.5±0.6、2.5±0.5であった。・NPSの改善は初回評価時点(投与4週時)から認められ、投与52週時のNPSのベースラインからの変化量(平均値)は、テゼペルマブ群-2.30(全体集団:-2.46)、プラセボ群-1.24(同:-0.38)であった(群間差[最小二乗平均値]:-1.063、95%信頼区間[CI]:-2.315~0.190)。・投与52週時のNCSのベースラインからの変化量(平均値)は、テゼペルマブ群-1.63(全体集団:-1.74)、プラセボ群-1.08(同:-0.70)であった(群間差[最小二乗平均値]:-0.548、95%CI:-1.097~0.002)。・日本人集団においても、テゼペルマブ群はプラセボ群と比較して、嗅覚障害重症度スコア、SNOT-22合計スコア、LMKスコア、TSSが改善していた。各スコアの投与52週時のベースラインからの変化量の群間差(95%CI)は以下のとおり。 嗅覚障害重症度スコア:-0.652(-1.176~-0.128) SNOT-22合計スコア:-20.300(-36.152~-4.448) LMKスコア:-5.524(-7.444~-3.604) TSS:-3.512(-7.040~0.015)・日本人集団では、テゼペルマブ群で手術決定/全身性ステロイド薬投与に至った患者は0例であった(プラセボ群は2例)。・投与52週時の喘息合併患者の気管支拡張薬投与前のFEV1のベースライン時からの変化量(平均値±標準偏差)は、テゼペルマブ群369±544mL、プラセボ群-57±197mLであった。同様に、6項目の喘息コントロール質問票(ACQ-6)スコアの変化量は、それぞれ-0.94±1.415、-0.46±1.172であった。・有害事象はテゼペルマブ群58.8%、プラセボ群68.8%に発現した。両群とも投与中止に至った有害事象や死亡に至った有害事象は認められなかった。 本結果について、櫻井氏は「WAYPOINT試験で得られた日本人集団の結果は、日本人CRSwNP患者におけるテゼペルマブの良好なベネフィット・リスクプロファイルを支持するものであった」とまとめた。

10.

気管支拡張症への高張食塩水とカルボシステイン、肺増悪を改善せず/NEJM

 気管支拡張症の患者に対する高張食塩水およびカルボシステインはいずれも、52週間にわたる肺増悪の平均発生率を有意に低下させなかった。英国・Queen's University BelfastのJudy M. Bradley氏らCLEAR Investigator Teamが、同国20病院で行った非盲検無作為化2×2要因試験の結果で示された。粘液活性薬は作用機序によってさまざまであり、去痰薬(例:高張食塩水)、粘液調整薬(例:カルボシステイン)、粘液溶解薬(例:N-アセチルシステイン)、粘膜潤滑薬(例:サーファクタント)などがある。気管支拡張症ガイドラインでは、粘液活性薬の有効性に関して一貫性がなく、その使用は地域によって異なり、安全性と有効性を評価するための大規模な試験が必要とされていた。NEJM誌オンライン版2025年9月28日号掲載の報告。高張食塩水群vs.非高張食塩水群、カルボシステイン群vs.非カルボシステイン群で比較 試験には、非嚢胞性線維症気管支拡張症で頻回の肺疾患増悪(過去1年間に2回以上[COVID-19パンデミック以降は1回以上])と日常的な喀痰産生を有する18歳以上の成人患者を登録した。無作為化時点で喫煙者および無作為化前30日間に粘液活性薬による治療を受けた患者は除外した。 すべての被験者は標準治療を受け、さらに(1)高張食塩水群、(2)併用群(高張食塩水とカルボシステイン)、(3)カルボシステイン群の3つの粘液活性薬群のいずれか、もしくは標準治療のみを受ける群へ均等に無作為化された。 比較は、高張食塩水群vs.非高張食塩水群、およびカルボシステイン群vs.非カルボシステイン群で行った。 主要アウトカムは、52週間における肺増悪回数。重要な副次アウトカムは、疾患特異的な健康関連QOL評価スコア(QoL-Bなど)、次の増悪までの期間および安全性であった。肺増悪の平均回数、使用群に有意な効果は認められず 2018年6月27日~2023年9月28日に、合計288例が無作為化された。ベースラインの各群の被験者特性は類似していた。高張食塩水とカルボシステインの交互作用のエビデンスは認められなかった(p=0.60)。 52週間における確定肺増悪の平均回数は、高張食塩水群0.76回(95%信頼区間[CI]:0.58~0.95)vs.非高張食塩水群0.98回(0.78~1.19)であり(補正後平均群間差:-0.25、95%CI:-0.57~0.07、p=0.12)、カルボシステイン群0.86回(95%CI:0.66~1.06)vs.非カルボシステイン群0.90回(0.70~1.09)であった(補正後平均群間差:-0.04、95%CI:-0.36~0.28、p=0.81)。 副次アウトカムおよび有害事象(重篤な有害事象を含む)は、比較グループ間で類似していた。

11.

喘息合併の鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎、デュピルマブvs.オマリズマブ(EVEREST)/ERS2025

 鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎と喘息は、病態の中心に2型炎症が存在することが多く、両者の合併も多い。また、合併例は重症例が多く全身性ステロイド薬による治療が必要となる場合もある。そこで、喘息を合併する鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎患者を対象に、デュピルマブとオマリズマブ(本邦で鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎への適応を有するのはデュピルマブのみ)を比較する海外第IV相無作為化二重盲検比較試験「EVEREST試験」が実施された。その結果、デュピルマブがオマリズマブと比較して鼻茸スコア(NPS)や嗅覚障害などを改善した。欧州呼吸器学会(ERS Congress 2025)において、Enrico Marco Heffler氏(イタリア・IRCCS Humanitas Research Hospital)が本試験の結果を報告した。なお、本結果はLancet Respiratory Medicine誌オンライン版2025年9月27日号に同時掲載された1)。試験デザイン:海外第IV相無作為化二重盲検比較試験対象:低~高用量のICSを用いてもコントロール不良(喘息コントロール質問票[ACQ]スコア1.5以上)の喘息を有し、NPS 5以上の両側性鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎患者360例試験群:デュピルマブ300mgを2週に1回皮下投与(181例)対照群:オマリズマブを試験実施国の承認用量で投与(179例)投与方法:4週間のrun-in期間にモメタゾンフランカルボン酸エステル点鼻液を毎日噴霧し、2群に無作為に割り付けた。無作為化後は割り付けられた治療を24週間実施した。24週間の治療期間中もモメタゾンフランカルボン酸エステル点鼻液を毎日噴霧し、全身性ステロイド薬の使用や手術による救済治療も可能とした。評価項目:[主要評価項目]投与24週時のNPS、ペンシルベニア大学嗅覚識別検査(UPSIT)スコアのベースラインからの変化量[副次評価項目]投与24週時の嗅覚障害重症度スコア、鼻閉重症度スコアなど 主な結果は以下のとおり。・患者背景は両群間でバランスがとれており、全体集団の鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の罹病期間(平均値)は13.3年、手術歴を有する割合は79.4%であった。ベースライン時のICSの用量は低用量が35%、中/高用量が65%であった。非ステロイド性抗炎症薬過敏喘息の病歴を有する割合は40%であった。・主要評価項目である投与24週時のNPSのベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、デュピルマブ群-2.65、オマリズマブ群-1.05であり、デュピルマブ群が有意に改善した(群間差:-1.60、95%信頼区間[CI]:-1.96~-1.25、p<0.0001)。・もう1つの主要評価項目である投与24週時のUPSITスコアのベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、デュピルマブ群12.7、オマリズマブ群4.7であり、デュピルマブ群が有意に改善した(群間差:8.0、95%CI:6.3~9.7、p<0.0001)。なお、デュピルマブ群のUPSITスコア(平均値)は無嗅覚の閾値である18を超えて改善した。・投与24週時の嗅覚障害重症度スコアのベースラインからの変化量、鼻閉重症度スコアのベースラインからの変化量もデュピルマブ群が有意に改善した(いずれもp<0.0001)。・投与24週時の気管支拡張薬投与前の1秒量(FEV1)のベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、デュピルマブ群0.29L、オマリズマブ群0.14Lであった(群間差:0.15L、95%CI:0.05~0.26、名目上のp=0.003)。・投与24週時のACQ-7スコアのベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、デュピルマブ群-1.92、オマリズマブ群-1.44であった(群間差:-0.48、95%CI:-0.65~-0.31、名目上のp<0.0001)。・安全性に関して、両群に差はみられなかった。 本試験結果について、Heffler氏は「本試験は呼吸器領域で初の生物学的製剤の直接比較試験である。本試験において、事前に規定した階層的検定のすべての評価項目で、デュピルマブがオマリズマブと比較して改善を示した。この結果は、2型炎症を伴う呼吸器疾患を併存する患者におけるデュピルマブの有効性を支持するものである」とまとめた。

12.

慢性咳嗽のカギ「咳過敏症」、改訂ガイドラインで注目/杏林

 8週間以上咳嗽が持続する慢性咳嗽は、推定患者数が250〜300万例とされる。慢性咳嗽は生活へ悪影響を及ぼし、患者のQOLを低下させるが、医師への相談割合は44%にとどまっているという報告もある。そこで、杏林製薬は慢性咳嗽の啓発を目的に、2025年8月29日にプレスセミナーを開催した。松本 久子氏(近畿大学医学部 呼吸器・アレルギー内科学教室 主任教授)と丸毛 聡氏(公益財団法人田附興風会 医学研究所北野病院 呼吸器内科 主任部長)が登壇し、慢性咳嗽における「咳過敏症」の重要性や2025年4月に改訂された『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2025』に基づく治療方針などを解説した。慢性咳嗽により労働生産性が約3割低下 松本氏は「知ってますか? 『長引く咳』と『咳過敏症』」と題し、慢性咳嗽のQOLへの影響や病態、咳過敏症の臨床像やメカニズムなどについて解説した。 慢性咳嗽はQOLを大きく低下させる。心理的側面では「咳をすると周囲の目線が気になる」「咳をすることが恥ずかしい」「会話や電話ができない」などの悪影響が生じる。また、食事への影響が生じたり、とくに女性では尿失禁が起こったりする場合もある。症状が強い場合には、咳失神や肋骨骨折にもつながる。このように、慢性咳嗽患者は日常生活においてさまざまな困りごとを抱えており、労働生産性の損失率は約30%にのぼるという報告がなされている。 慢性咳嗽の原因はさまざまであり、主な疾患として、喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆流症(GERD)、副鼻腔気管支症候群などが挙げられる。そこで問題となるのが、これらの疾患は画像検査や呼吸機能検査、血液検査で特異的な所見がみられないことが多いという点である。そのため、慢性咳嗽の診断・治療では、咳の出やすいタイミングや随伴する症状などを問診で明らかにし、原因疾患に対する治療を行いながら経過を観察していくこととなる。しかし、これらの疾患に対する治療を行っても、約2割が難治性慢性咳嗽となっているのが現状である。難治性慢性咳嗽の背景にある咳過敏症 松本氏は、「難治性慢性咳嗽の背景にあるのが咳過敏症症候群である」と指摘する。咳過敏症症候群は「低レベルの温度刺激、機械的・化学的刺激を契機に生じる難治性の咳を呈する臨床症候群」と定義され1)、煙や香水などの香り、会話や笑うことなどのわずかな刺激により咳が出て止まらなくなる状態である。 2023年に公開された英国胸部学会の最新のガイドライン「成人慢性咳嗽に関するClinical Statement」2)では、慢性咳嗽の「treatable traits(治療可能な特性)」として12項目が示され、このなかの1つに「咳過敏症」が示されている。これについて、松本氏は「慢性咳嗽という大きな括りのなかには、さまざまな原因疾患があり、加えて咳過敏症もあるという考えである。難治化した慢性咳嗽患者は咳過敏症を有していると考えることもできる」と述べ、咳過敏症に対する対応の重要性を強調した。改訂ガイドラインでtreatable traitsを明記 続いて、丸毛氏が「長引く咳に関する診療の進め方-最新の診療ガイドラインをふまえて-」と題して講演した。そのなかで、『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2025』の咳嗽パートの改訂のポイントから、「慢性咳嗽のtreatable traits」「咳過敏症の重要性」「難治性慢性咳嗽についての詳説」の3項目を取り上げ、解説した。 容易に原因の特定ができない狭義の成人遷延性・慢性咳嗽の対応として、本ガイドラインでは、喀痰がある場合は「副鼻腔気管支症候群」への治療的診断を行い、喀痰がない、あるいは少量の場合は「咳喘息」「アトピー咳嗽/喉頭アレルギー(慢性)」「GERD」「感染後咳嗽」に対する診断的治療を行って、咳嗽の改善を評価することが示されている。ここまでは前版と同様であるが、前版では原因疾患への対応で改善がみられない場合の治療法は示されていなかった。しかし、改訂ガイドラインでは、その先の対応として「treatable traitsの検索」「P2X3受容体拮抗薬の使用の検討」が示された。 treatable traitsの概念は、患者の病態のなかで、「明確に評価・測定できる」「臨床的に意義があり、予後や生活に影響する」「有効な介入手段が存在する」という条件を満たすものである。treatable traitsは患者によって単一の場合もあれば、複数の場合もある。また、複数の場合は個々のtraitsが占める割合も患者によって異なる。 従来の診療は、喘息であれば吸入ステロイド薬、COPDであれば気管支拡張薬など、診断名に応じて標準治療を一括適用するという考えであった。しかし、treatable traitsを考慮した治療では、同じ診断名でも個々の病態の構成要素は異なるため、それらをしっかりと見極めて治療を行う。これは「プレシジョン・メディシンに近い考え方である」と丸毛氏は述べる。 改訂ガイドラインでは、英国胸部学会の最新のガイドライン「成人慢性咳嗽に関するClinical Statement」2)で示されたtreatable traitsが採用されており、「GERD」「喘息などの呼吸器系基礎疾患」「睡眠時無呼吸症候群」「肥満」「ACE阻害薬の服用」など、12項目が示されている。そのなかの1つに「咳過敏症」がある。これについて、丸毛氏は「慢性咳嗽の難治化の要因となる咳過敏症がtreatable traitsとして示されたのは非常に重要なことである。改訂ガイドラインは、非専門医の先生方にも個別化医療を実践しやすく作成されているため、ぜひ活用いただきたい」と述べ、ガイドラインの普及による咳嗽診療レベルの向上への期待を語った。選択的P2X3受容体拮抗薬「ゲーファピキサント」の登場 咳過敏症に対する初の分子標的薬が、選択的P2X3受容体拮抗薬ゲーファピキサント(商品名:リフヌア)である。咳のメカニズムの1つとして、P2X3受容体の関与がある。炎症や刺激により気道上皮細胞などから放出されたATPが、感覚神経に存在するP2X3受容体を刺激することで咳過敏性が亢進する。ゲーファピキサントはこれを抑制することで、咳嗽を改善させる。ゲーファピキサントは難治性の慢性咳嗽を改善するほか、日常生活や睡眠の質の改善も報告されている。 ゲーファピキサントは発売から3年以上が経過し、使用経験も積み重ねられている。改訂ガイドラインでも、フローチャートに難治性咳嗽の選択肢として掲載された。これについて、丸毛氏は「咳嗽は非専門医の先生方が多く診られているため、咳嗽の診療に慣れた先生であれば、非専門医であっても選択肢として提示可能であると判断され、ガイドラインにも記載されている」と説明した。 ゲーファピキサントには代表的な有害事象として、味覚に関連する有害事象があり、マネジメントが重要となる。そこで、味覚に関連する有害事象への対応について松本氏に聞いたところ「亜鉛が欠乏すると味覚障害が強くなりやすいため、亜鉛欠乏に注意することが必要である。また、後ろ向き研究ではあるが、麦門冬湯を併用していると味覚障害が軽かったというデータもあるため、麦門冬湯の併用も選択肢の1つになるのではないか」との回答が得られた。

13.

気管支拡張症に対する初めての有効な治療に注目(解説:田中希宇人氏 /山口佳寿博氏)

 本研究は気管支拡張症に対する初の有効な薬物療法に関する重要な知見と考える。現在、気管支拡張症に承認された治療薬が存在せず、去痰剤や反復する感染に対する抗菌薬投与、抗炎症作用を期待したマクロライド系抗菌薬の長期少量投与などが経験的に用いられている。しかもこれらの治療法に関してはエビデンスは限定的で、耐性菌やQT延長などの副作用も懸念される。brensocatibはカテプシンC(DPP-1)を抑えることで好中球の炎症酵素活性を阻害するというまったく新しい機序によって気管支拡張症そのものの病態に直接作用し、増悪頻度を減らしうる治療薬と捉えられる。 brensocatibは頻回に増悪を繰り返す中等症~重症の気管支拡張症に対する新たな治療選択肢として期待される。とくに、従来の非結核性抗酸菌症を合併しているなどの理由で長期マクロライド療法が使えない症例や、マクロライドで効果不十分な場合に有用と考えられる。本研究では約35%が緑膿菌陽性、29%が前年に複数回の増悪歴を持つなど比較的重症例が含まれており、こうした複雑かつ重症症例で有効性が証明されたことから、今後は増悪リスクが高い症例に対する治療となりうる。逆に軽症で増悪の少ない気管支拡張症に関しては、重症で増悪回数の多い症例と同等のメリットがあるかどうかは不明である。また、結核を含めた抗酸菌感染症の合併例は除外されているので、そのような実臨床で頭を悩ます症例に関しても治療効果は不透明である。 本研究の試験期間中における死亡者は限られており、brensocatibが生存や死亡を改善するかは現時点では不明である。筆者らも呼吸機能低下を遅らせることで罹患や死亡を改善させるのでは、と間接的に述べるにとどまっている。 長期の安全性に関しても現時点では不安要素が残る。brensocatibはカテプシンC(DPP-1)を抑えることによって好中球の活性化を阻害する薬剤であり、長期投与することで理論上は感染防御能の低下など免疫への影響も懸念される。本研究は52週間といった比較的限られた期間での評価であり、慢性疾患である気管支拡張症に対しては、さらに数年単位の長期服用時の安全性データの蓄積と検討が望まれる。 brensocatibは気管支拡張症治療に対する新たな選択肢であることは間違いないが、実臨床でとくに効果の高い症例を選ぶためにはさらに慎重な検討が必要である。既存治療とどう組み合わされるべきか、どのような症例に最も有益か、長期のメリット・デメリットは何か、知見を集積することが重要と考える。

14.

診療科別2025年上半期注目論文5選(呼吸器内科編)

Addition of Macrolide Antibiotics for Hospital Treatment of Community-Acquired PneumoniaWei J, et al. J Infect Dis. 2025;231:e713-e722.<リアルワールドでの市中肺炎におけるマクロライド追加の有効性>:βラクタム薬にマクロライドを追加しても死亡率を改善せず英国のリアルワールドデータを用いた研究で、市中肺炎におけるβラクタム薬へのマクロライド系抗菌薬の追加は30日死亡率や入院期間に改善をもたらさないことが示されました。ACCESS試験後、マクロライド系抗菌薬追加を支持する声が高まる中、このデータはルーチンでの使用を支持しません。重症例への追加は国際ガイドラインで支持されていますが、すべての入院症例に併用が必要かについては議論が続くでしょう。Dupilumab for chronic obstructive pulmonary disease with type 2 inflammation: a pooled analysis of two phase 3, randomised, double-blind, placebo-controlled trialsBhatt SP, et al. Lancet Respir Med. 2025;13:234-243.<BOREAS・NOTUS試験統合解析>:デュピルマブは2型炎症を伴うCOPDの増悪を抑制COPD治療におけるIL-4/13受容体阻害薬デュピルマブの効果についての統合解析です。BOREAS試験とNOTUS試験の結果から、血中好酸球数が300/μL以上のCOPD患者に対し、デュピルマブがプラセボよりも有意に増悪を抑制することが示されました。「2型炎症」が関与するCOPDに対する新たな治療選択肢として期待されています。GOLDガイドライン2025でもデュピルマブが推奨に含まれました。Tarlatamab in Small-Cell Lung Cancer after Platinum-Based ChemotherapyMountzios G, et al. N Engl J Med. 2025 Jun 2. [Epub ahead of print]<DeLLphi-304試験>:タルラタマブ、進展型小細胞肺がんの2次治療に新標準を確立小細胞肺がん(SCLC)の治療における朗報です。プラチナ製剤抵抗性のSCLC患者に対する2次治療として、DLL3を標的とするBiTE免疫療法薬タルラタマブが標準化学療法より全生存期間(OS)を有意に延長しました(中央値13.6ヵ月vs.8.3ヵ月)。有効性が高く、Grade3以上の有害事象の頻度も低い(54%vs.80%)ため、今後はSCLC2次治療における標準治療となる可能性があります。Phase 3 Trial of the DPP-1 Inhibitor Brensocatib in BronchiectasisChalmers JD, et al. N Engl J Med. 2025;392:1569-1581.<ASPEN試験>:第III相試験でbrensocatibは気管支拡張の増悪を抑制本研究では、気管支拡張症患者において、brensocatib(ブレンソカチブ、10mgまたは25mg)の1日1回投与は、プラセボよりも肺増悪の年間発生率を低下させ、25mg用量のbrensocatibではプラセボよりもFEV1の低下が少なくなりました。これまで治療薬が存在しなかった気管支拡張症における待望の薬剤となります。世界初の気管支拡張症治療薬として、米国、日本で今後承認が期待されています。Nerandomilast in Patients with Idiopathic Pulmonary FibrosisRicheldi L, et al. N Engl J Med. 2025;392:2193-2202.<FIBRONEER-IPF試験>:nerandomilastが第III相試験でFVCの低下を抑制特発性肺線維症(IPF)に対する新規治療薬nerandomilast(ネランドミラスト)の第III相試験の結果です。本薬は、既存の抗線維化薬(ニンテダニブやピルフェニドン)を服用している患者も対象としており、その併用下でも努力肺活量(FVC)の低下を有意に抑制することが示されました。ただし、nerandomilast 9mg群においては、ピルフェニドン群で効果が落ちており、nerandomilastとの薬物相互作用が原因と考えられました。IPFの治療選択肢が増えることは、患者にとって大きな福音と考えられます。

15.

COPD初の生物学的製剤デュピルマブへの期待/サノフィ

 サノフィは、2025年3月27日にデュピルマブ(商品名:デュピクセント)について、製造販売承認事項一部変更承認を取得し、「慢性閉塞性肺疾患(既存治療で効果不十分な患者に限る)」の適応が追加となった。この適応追加により、デュピルマブは慢性閉塞性肺疾患(COPD)に適応を有する初の生物学的製剤となった。 COPD治療の中心は、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)や長時間作用性β2刺激薬(LABA)といった気管支拡張薬である。LAMA+LABAで効果不十分かつ血中好酸球数高値の患者や、喘息病態を合併する患者には、吸入ステロイド薬(ICS)を追加した3剤併用療法(トリプル療法)が用いられることもあるが、それでも症状の残存や増悪を繰り返す患者が存在し、新たな治療選択肢が求められていた。 そこで、サノフィは2025年5月29日にデュピルマブのCOPD適応追加に関するプレスセミナーを開催し、COPD患者が直面する課題や、デュピルマブがCOPDの治療選択肢として追加されたことの意義や期待を紹介した。中等症以上の約9割が日常生活に負担 サノフィは、COPD患者の日常生活における身体的および精神的な負担についての理解を深めることを目的として、吸入薬による治療を行っている40~80代のCOPD患者200例を対象に「日常生活における身体的・精神的負担に関する意識実態調査」を実施した(調査実施:エム・シー・アイ)。本調査結果をサノフィの石田 稚人氏(免疫領域メディカル統括部 呼吸器領域部長)が紹介した。 日常生活における身体的負担に関する調査項目では、COPDにより何らかの身体的負担を感じている患者の割合が、中等症以上では93.1%、軽症では70.7%にのぼった。最も多く挙げられたものは階段の上り下りであったが、中等症以上では歩行や掃除、買い物、入浴といった基本的な日常動作にまで影響が及んでいた。 精神的負担に関する調査項目では、精神的負担を感じている患者の割合が、中等症以上では87.9%、軽症でも60.0%であり、こちらも多くの患者が負担を有していることが明らかとなった。負担を感じるようになったきっかけとしては、「できていた動作がしんどくなってきた」が最も多く、「医師から良くならない病気だと言われた」が続いた。この2つで過半数を占める結果となった。また、精神的負担への対応方法として「考えないようにする」などの回避的な対応をする傾向もみられた。 症状の認識に関する調査項目では、何らかの症状悪化(増悪)経験がある患者の割合が、中等症以上では74.1%、軽症では61.3%であった。増悪については、約8割が主治医にその状況を伝えていた。しかし、「伝えたが、治療は変わらなかった」と回答した割合が、中等症以上では46.5%、軽症では39.1%にのぼった。なお、本調査では具体的な治療薬については調べていないため、すでにLAMA+LABA+ICSによる治療を行っているなど、治療の強化ができない患者も含まれている可能性があることには留意が必要である。 本調査結果について、石田氏は「COPD患者は大きな身体的、精神的負担を抱えながらも適切な支援を受けられていない実態があることが示された。とくに精神的負担への対応が不十分であり、相談できる環境の整備が急務である。増悪への患者の認識が不足していることも示され、患者教育の強化が必要であることも明らかとなった。そのため、これらの課題に対して実施できることを考えていく必要がある」とまとめた。COPDの診断率は低く、死亡者数は増加傾向に 続いて、室 繁郎氏(奈良県立医科大学呼吸器内科学講座 教授)が、COPDの社会的・臨床的課題、デュピルマブの有用性と期待について解説した。 COPDの推定患者数は530万例とされるが、実際に治療を受けている患者数は36.2万例にとどまっているという報告がある。これについて、室氏は「見逃されているうちに進行し、重症化してから初めてCOPDと診断される場合があり、これは社会的な問題として捉えられている」と述べる。COPDによる死亡者数についても、2020年以降は徐々に増加する傾向にあり、2023年のCOPDによる死亡者数は1万6,941例、死亡率は10万例当たり14.0例と報告されている。 以上の背景から、国民の健康増進の総合的な推進を図るための基本方針である「健康日本21(第3次)」において、COPDは重要な生活習慣病の1つとして位置付けられ、2032年までにCOPDによる死亡率を減少させるという目標が設定されている。そこで、日本呼吸器学会では「木洩れ陽2032(COPD Mortality Reduction By 2032)」というプロジェクトを展開している。本プロジェクトは、COPDの認知を向上させることや、COPDを見逃さずに早期発見し、適切に治療介入することで、COPDによる死亡率を減少させることを目的としている。トリプル療法でも約半数が効果不十分 喘息病態非合併例では、LAMA+LABAによる治療でも頻回の増悪がみられ、かつ末梢血好酸球増多がみられる場合は、LAMA+LABA+ICSのトリプル療法が用いられる。また、喘息病態合併例では、ICS+LABAやICS+LAMAによる治療でも症状が悪化したり増悪がみられたりする場合は、LAMA+LABA+ICSのトリプル療法が用いられる。しかし、トリプル療法を行っても効果不十分な患者が存在し、その割合は51%にのぼるという調査結果も存在する。トリプル療法に加えて、マクロライド系抗菌薬やテオフィリン製剤、喀痰調整薬の追加が検討されることもあるが、十分な効果が見込めるとは限らず、これらの患者にはアンメットニーズが存在していた。そこで登場したのがデュピルマブである。2型炎症を有するCOPDの増悪抑制、呼吸機能改善 近年、COPDにおける2型炎症が注目されている。2型炎症は、主に2型ヘルパーT細胞や2型自然リンパ球が産生するIL-4、IL-5、IL-13などの2型サイトカインが関与するアレルギー性の炎症である。COPD患者のなかには、2型炎症を伴う患者や、喘息病態を合併する患者、アレルギー性鼻炎を合併する患者が、一定数存在すると報告されている。 デュピルマブは、2型炎症に関与するIL-4、IL-13受容体に対する抗体製剤であり、血中好酸球数高値(300/μL超)でLAMA+LABA+ICSで効果不十分なCOPD患者を対象とした国際共同第III相無作為化比較試験「BOREAS試験」1)において有用性が検証され、COPDに対する適応が追加となった。 BOREAS試験では、主要評価項目の中等度または重度のCOPD増悪イベントの年間発現率が、プラセボ群では1.113回/年であったのに対し、デュピルマブ群では0.788であり、デュピルマブ群が有意に改善した(リスク比:0.708、95%信頼区間:0.583~0.861、p=0.0005)。 重要な副次評価項目の気管支拡張薬投与前の1秒量(FEV1)の変化量は、12週時においてそれぞれ75mL、155mLであり、デュピルマブ群が有意に改善した(p=0.0002)。この改善は52週時においても保たれていた。なお、155mLという値について、室氏は「治療開始前の1割強の改善に当たる」と意義の大きさを指摘した。 また、COPD患者のQOLの指標であるSGRQ総スコアの変化量(52週時)は、それぞれ-6.463、-9.710であり、デュピルマブ群が有意に改善した(p=0.0026)。なお、臨床的に意義のある変化量とされる4以上の改善を示した割合は、それぞれ43.4%、51.2%であり、こちらもデュピルマブが有意に高率であった(p=0.0171)。 安全性に関しては、プラセボ群と大きな差はみられず、新たな懸念は認められなかった。 以上を踏まえて、室氏は「COPDは、過去10年間新薬が登場していなかった領域であり、最新の治療であるトリプル療法でもコントロール不十分の患者が多数存在していた。このような患者に対して、デュピルマブの有効性が示されており、リアルワールドでもベネフィットを届けていきたい」とデュピルマブへの期待を示して講演を締めくくった。

16.

咳嗽・喀痰の診療ガイドライン改訂、新規治療薬の位置付けは?/日本呼吸器学会

 咳嗽・喀痰の診療ガイドラインが2019年版以来、約6年ぶりに全面改訂された。2025年4月に発刊された『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025』1)では、9つのクリニカル・クエスチョン(CQ)が設定され、初めてMindsに準拠したシステマティックレビューが実施された。今回設定された咳嗽・喀痰の診療ガイドラインのCQには、難治性慢性咳嗽に対する新規治療薬ゲーファピキサントを含むP2X3受容体拮抗薬に関するCQも含まれている。また、『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025』は、治療可能な特性を個々の患者ごとに見出して治療介入するという考え方である「treatable traits」がふんだんに盛り込まれていることも特徴である。第65回日本呼吸器学会学術講演会において、『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025』に関するセッションが開催され、咳嗽セクションのポイントについては新実 彰男氏(大阪府済生会茨木病院/名古屋市立大学)が、喀痰セクションのポイントについては金子 猛氏(横浜市立大学大学院)が解説した。咳嗽・喀痰の診療ガイドラインで喘息3病型を「喘息性咳嗽」に統一 咳嗽の治療薬について、『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025』では「咳嗽治療薬の分類」の表(p.38、表2)が追加され、末梢性鎮咳薬としてP2X3受容体拮抗薬が一番上に記載された。また、中枢性と末梢性をまたぐ形で、ニューロモデュレーター(オピオイド、ガバペンチン、プレガバリン、アミトリプチリンが含まれるが、保険適用はモルヒネのみ)が記載された。さらに、今回の咳嗽・喀痰の診療ガイドラインからは疾患特異的治療薬に関する表も追加された(p.38、表3)。咳喘息について、前版では気管支拡張薬を用いることが記載されていたが、改訂版の疾患特異的治療薬に関する表では、β2刺激薬とロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)が記載された。なお、抗コリン薬が含まれていない理由について、新実氏は「抗コリン薬は急性ウイルス感染や感染後の咳症状などに効果があるというエビデンスもあり、咳喘息に特異的ではないためここには記載していない」と述べた。 咳症状の観点による喘息の3病型として、典型的喘息、咳優位型喘息、咳喘息という分類がなされてきた。しかし、この3病型には共通点や連続性が存在し、基本的な治療方針も変わらないことから、1つにまとめ「喘息性咳嗽」という名称を用いることとなった。ただし、狭義の慢性咳嗽には典型的喘息、咳優位型喘息を含まないという歴史的背景があり、咳だけを呈する喘息患者の存在が非専門医に認識されるためには「咳喘息」という名称が有用であるため、フローチャートでの記載や診断基準は残している。 咳喘息の診断基準について、今回の咳嗽・喀痰の診療ガイドライン改訂では3週間未満の急性咳嗽では安易な診断により過剰治療にならないように注意することや、β2刺激薬は咳喘息でも無効の場合があるため留意すべきことが記されている。後者について新実氏は「β2刺激薬に効果がみられない場合は咳喘息を否定するという考えが見受けられるため、注意喚起として記載している」と指摘した。 喘息性咳嗽について、前版では軽症例には中用量の吸入ステロイド薬(ICS)単剤で治療することが記載されていたが、喘息治療においてはICS/長時間作用性β2刺激薬(LABA)が基本となるため、『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025』でも中用量ICS/LABAを基本とすることが記載された。ただし、ICS+長時間作用性抗コリン薬(LAMA)やICS+LTRA、中用量ICS単剤も選択可能であることが記載された。また、本ガイドラインの特徴であるtreatable traitsを考慮しながら治療を行うことも明記されている。 胃食道逆流症(GERD)については、GERDを疑うポイントとしてFSSG(Fスケール)スコア7点以上、HARQ(ハル気道逆流質問票)スコア13点以上が追加された。また、治療についてはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)とアルギン酸が追加されたほか、treatable traitsへの対応を十分に行わないと改善しにくいことも記載されている。咳嗽・喀痰の診療ガイドラインでのゲーファピキサントの位置付けは 難治性慢性咳嗽は、治療抵抗性慢性咳嗽(Refractory Chronic Cough:RCC)、原因不明慢性咳嗽(Unexplained Chronic Cough:UCC)からなることが記されている。本邦では、RCC/UCCに適応のある唯一の治療薬が、選択的P2X3受容体拮抗薬のゲーファピキサントである。咳嗽・喀痰の診療ガイドラインでは、RCC/UCCに対するP2X3受容体拮抗薬に関するCQが設定され、システマティックレビューの結果、ゲーファピキサントはLCQ(レスター咳質問票)合計スコア、咳VASスコア、24時間咳嗽頻度を低下させることが示された。ガイドライン作成委員の投票の結果、使用を弱く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])こととなった。 慢性咳嗽のtreatable traitsとして、気道疾患、GERD、慢性鼻副鼻腔炎などの12項目が挙げられている。このなかの1つとして、咳過敏症も記載されている。慢性咳嗽患者の多くはtreatable traitsとしての咳過敏症も有しており、このことを見過ごして行われる原因疾患のみの治療は、しばしば不成功に終わることが強調されている。新実氏は「原因疾患に対する治療をしたうえで、P2X3受容体拮抗薬により咳過敏症を抑えることで咳嗽をコントロールできる患者も実際にいるため、理にかなっているのではないかと考えている」と述べた。喀痰診療に関するガイドラインとして世界唯一 前版のガイドラインは、世界初の喀痰診療に関するガイドラインとして作成されたが、6年ぶりの改訂となる『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025』も世界唯一のガイドラインであると金子氏は述べる。 喀痰に関するエビデンスは少なく、前版の作成時には、とくに国内のデータが不足していた。そこで、咳嗽・喀痰の診療ガイドライン改訂に向けてエビデンス創出のために多施設共同研究を3研究実施し(1:血痰と喀血の原因疾患、2:膿性痰の色調と臨床背景、3:急性気管支炎に対する抗菌薬使用実態)、血痰と喀血の原因疾患に関する研究の成果が英語論文として2件報告されたことから、それらのデータが追加された。 血痰と喀血の原因疾患として、前版では英国のプライマリケアのデータが引用されていた。このデータは海外データかつプライマリケアのデータということで、本邦の呼吸器専門施設で遭遇する疾患とは異なる可能性が考えられていた。そこで、国内において呼吸器専門施設での原因を検討するとともに、プライマリケアでの原因も調査した。 本邦での調査の結果、プライマリケアでの血痰と喀血の原因疾患の上位4疾患は急性気管支炎(39%)、急性上気道感染(15%)、気管支拡張症(13%)、COPD(7.8%)であり2)、英国のプライマリケアのデータ(1位:急性上気道感染[35%]、2位:急性下気道感染[29%]、3位:気管支喘息[10%]、4位:COPD[8%])と上位2疾患は急性気道感染という点、4位がCOPDという点で類似していた。 一方、本邦の呼吸器専門施設での血痰と喀血の原因疾患の上位3疾患は、気管支拡張症(18%)、原発性肺がん(17%)、非結核性抗酸菌(NTM)症(16%)であり、プライマリケアでの原因疾患とは異なっていた。また「呼吸器専門施設では年齢によって、原因疾患が大きく異なることも重要である」と金子氏は指摘する。たとえば、20代では細菌性肺炎が多く、30代では上・下気道感染、気管支拡張症が約半数を占め、40~60代では肺がんが多くなっていた。70代以降では肺がんは1位にはならず、70代はNTM症、80代では気管支拡張症、90代では細菌性肺炎が最も多かった3)。また、80代以降では結核が上位にあがって来ることも注意が必要であると金子氏は指摘した。近年注目される中枢気道の粘液栓 最近のトピックとして、閉塞性肺疾患における気道粘液栓が取り上げられている。米国の重症喘息を対象としたコホート研究「Severe Asthma Research program」において、中枢気道の粘液栓が多発していることが2018年に報告され、その後COPDでも同様な病態があることも示されたことから注目を集めている。粘液栓形成の程度は粘液栓スコアとして評価され、著明な気流閉塞、増悪頻度の増加、重症化や予後不良などと関連していることも報告されており、バイオマーカーとして期待されている。ただし、課題も存在すると金子氏は指摘する。「評価にはMDCT(multidetector row CT)を用いて、一つひとつの気管支をみていく必要があり、現場に普及させるのは困難である。そのため、現在はAIを用いて粘液スコアを評価するなど、さまざまな試みがなされている」と、課題や今後の期待を述べた。『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025』のCQまとめ 『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025』におけるCQは以下のとおり。詳細はガイドラインを参照されたい。【CQ一覧】<咳嗽>CQ1:ICSを慢性咳嗽患者に使用すべきか慢性咳嗽患者に対してICSを使用しないことを弱く推奨する(エビデンスの確実性:D[非常に弱い])CQ2:プロトンポンプ阻害薬(PPI)をGERDによる咳嗽患者に推奨するかGERDによる咳嗽患者にPPIを弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])CQ3-1:抗コリン薬は感染後咳嗽に有効か感染後咳嗽に吸入抗コリン薬を勧めるだけの根拠が明確ではない(推奨度決定不能)(エビデンスの確実性:D[非常に弱い])CQ3-2:抗コリン薬は喘息による咳嗽に有効か喘息による咳嗽に吸入抗コリン薬を弱く推奨する(エビデンスの確実性:D[非常に弱い])CQ4:P2X3受容体拮抗薬はRefractory Chronic Cough/Unexplained Chronic Coughに有効かP2X3受容体拮抗薬はRefractory Chronic Cough/Unexplained Chronic Coughに有効であり、使用を弱く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])<喀痰>CQ5:COPDの安定期治療において喀痰調整薬は推奨されるかCOPDの安定期治療において喀痰調整薬の投与を弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])CQ6:COPDの安定期治療においてマクロライド少量長期投与は有効かCOPDの安定期治療においてマクロライド少量長期投与することを弱く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])CQ7:喘息の安定期治療においてマクロライド少量長期療法は推奨されるか喘息の安定期治療においてマクロライド少量長期療法の推奨度決定不能である(エビデンスの確実性:C[弱い])CQ8:気管支拡張症(BE)に対してマクロライド少量長期療法は推奨されるかBEに対してマクロライド少量長期療法を強く推奨する(エビデンスの確実性:A[強い])

17.

好酸球数高値COPD、メポリズマブで中等度/重度の増悪低減/NEJM

 インターロイキン-5(IL-5)は好酸球性炎症において中心的な役割を担うサイトカインであり、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の20~40%に好酸球性炎症を認める。メポリズマブはIL-5を標的とするヒト化モノクローナル抗体である。米国・ピッツバーグ大学のFrank C. Sciurba氏らMATINEE Study Investigatorsは、「MATINEE試験」において、好酸球数が高値のCOPD患者では、3剤併用吸入療法による基礎治療にプラセボを併用した場合と比較してメポリズマブの追加は、中等度または重度の増悪の年間発生率を有意に低下させ、増悪発生までの期間が長く、有害事象の発現率は同程度であることを示した。研究の成果は、NEJM誌2025年5月1日号に掲載された。25ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 MATINEE試験は、血中好酸球数が高値で、増悪リスクのあるCOPD患者における3剤吸入療法へのメポリズマブ追加の有効性と安全性の評価を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2019年10月~2023年8月に25ヵ国344施設で患者を募集した(新型コロナウイルス感染症のため2020年3月23日~6月9日まで募集を中断)(GSKの助成を受けた)。 スクリーニング時に年齢40歳以上で、少なくとも1年前にCOPDの診断を受け、増悪の既往歴を有し、3剤吸入療法(吸入ステロイド薬、長時間作用型β2刺激薬、長時間作用型抗コリン薬)を3ヵ月以上受け、血中好酸球数≧300/μLの患者804例(平均[±SD]年齢66.2[±8.0]歳、女性31%)を修正ITT集団として登録した。 被験者を、4週ごとにメポリズマブ(100mg)を皮下投与する群(403例)、またはプラセボ群(401例)に無作為に割り付け、52~104週間投与した。 主要エンドポイントは、中等度または重度の増悪の年間発生率であった。治療への反応性には差がない 重度増悪の既往歴はメポリズマブ群で22%、プラセボ群で19%の患者に認めた。全体の25%の患者が過去または現在、心疾患の診断を受けており、72%が心血管疾患のリスク因子を有していた。平均曝露期間は両群とも約15ヵ月だった。 中等度または重度の増悪の年間発生率は、プラセボ群が1.01件/年であったのに対し、メポリズマブ群は0.80件/年と有意に低かった(率比:0.79[95%信頼区間[CI]:0.66~0.94]、p=0.01)。 また、副次エンドポイントである中等度または重度の増悪の初回発生までの期間中央値(Kaplan-Meier法)は、プラセボ群の321日と比較して、メポリズマブ群は419日であり有意に長かった(ハザード比:0.77[95%CI:0.64~0.93]、p=0.009)。 治療への反応性(QOLの指標としてのCOPDアセスメントテスト[CAT:0~40点、高スコアほど健康状態が不良であることを示す]のスコアが、ベースラインから52週目までに2点以上低下した場合)を認めた患者の割合は、メポリズマブ群が41%、プラセボ群は46%であり(オッズ比:0.81[95%CI:0.60~1.09])、両群間に有意な差はなかったため、階層的検定に基づきこれ以降の副次エンドポイントの評価に関して統計学的検定を行わなかった。MACEは両群とも3例に発現 投与期間中およびその後に発現した有害事象の割合は、メポリズマブ群で75%、プラセボ群で77%であった。投与期間中に発生した重篤な有害事象・死亡の割合はそれぞれの群で25%および28%であり、投与期間中およびその後の死亡の割合は両群とも11%(3例)だった。投与期間中およびその後に発生した主要有害心血管イベント(MACE:心血管死、非致死性の心筋梗塞・脳卒中、致死性または非致死性の心筋梗塞・脳卒中)は、両群とも11%(3例)に認めた。 著者は、「これらの知見は、ガイドラインに基づく維持療法のみを受けている患者に対して、メポリズマブ治療は付加的な有益性をもたらすことを示している」「先行研究と本試験の結果を統合すると、選択されたCOPD患者における2型炎症を標的とする個別化治療の妥当性が支持される」「増悪関連のエンドポイントはメポリズマブ群で良好であったが、CAT、St. George's Respiratory Questionnaire(SGRQ)、Evaluating Respiratory Symptoms in COPD(E-RS-COPD)、気管支拡張薬投与前のFEV1検査で評価した治療反応性は両群間に実質的な差を認めなかったことから、これらの原因を解明するための調査を要する」としている。

18.

気管支拡張症、DPP-1阻害薬brensocatibが有用/NEJM

 気管支拡張症患者において、経口可逆的ジペプチジルペプチダーゼ1(DPP-1)阻害薬brensocatib 10mgまたは25mgの1日1回投与は、プラセボと比較して肺疾患増悪の発生率を低下させ、25mg群ではプラセボと比較して1秒量(FEV1)の低下が少ないことが、英国・ダンディー大学のJames D. Chalmers氏らASPEN Investigatorsが35ヵ国390施設で実施した第III相無作為化二重盲検比較試験「ASPEN試験」の結果で示された。気管支拡張症において好中球性炎症は増悪および病勢進行リスクの増大と関連しており、brensocatibは好中球性炎症の主要なメディエーターである好中球セリンプロテアーゼを標的としている。気管支拡張症成人患者を対象とした第II相試験では、brensocatib 10mgまたは25mgの1日1回24週間投与により、プラセボと比較して、初回増悪までの期間延長および増悪率の低下が示されていた。NEJM誌2025年4月24日号掲載の報告。肺疾患増悪発生率をbrensocatib 10mg群と25mg群、プラセボ群で比較 研究グループは、スクリーニング前12ヵ月間に少なくとも2回の増悪を呈しスクリーニング時のBMIが18.5以上の18~85歳(成人)、ならびにスクリーニング前12ヵ月間に少なくとも1回の増悪を呈しスクリーニング時の体重が30kg以上の12~17歳(青少年)の気管支拡張症患者を、brensocatib 10mg群、25mg群またはプラセボ群に、成人では1対1対1、青少年では2対2対1の割合で無作為に割り付け、1日1回投与した。 主要エンドポイントは52週間における年率換算した肺疾患増悪発生率(1年当たりのイベント数)であり、副次エンドポイントは階層的検定順序に基づいた、52週間における初回増悪までの期間、52週間無増悪の患者の割合、52週時の気管支拡張薬投与後のFEV1のベースラインからの変化量、重度肺疾患増悪の年率換算した発生率、およびQOLの変化(成人のみ)とした。brensocatib群で肺疾患増悪発生率が有意に低下 2020年11月~2023年3月に1,767例が無作為に割り付けられ、brensocatibまたはプラセボを投与された1,721例(成人1,680例、青少年41例)がITT集団となった(brensocatib 10mg群583例、25mg群575例、プラセボ群563例)。 年率換算した肺疾患増悪発生率は、brensocatib 10mg群1.02、25mg群1.04、プラセボ群1.29であり、プラセボ群に対する発生率比はbrensocatib 10mg群で0.79(95%信頼区間[CI]:0.68~0.92、補正後p=0.004)、25mg群で0.81(0.69~0.94、p=0.005)であった。 初回増悪までの期間のハザード比(HR)は、10mg群0.81(95%CI:0.70~0.95、補正後p=0.02)、25mg群0.83(0.70~0.97、p=0.04)であった。また、52週間無増悪の患者の割合は、brensocatib各群48.5%(10mg群283/583例、25mg群279/575例)に対しプラセボ群40.3%(227/563例)であり、HRは10mg群で1.20(95%CI:1.06~1.37、補正後p=0.02)、25mg群で1.18(1.04~1.34、p=0.04)であった。 52週時のFEV1のベースラインからの低下(平均値±標準誤差)は、brensocatib 10mg群50±9mL、25mg群24±10mL、プラセボ群62±9mLで、プラセボ群との最小二乗平均差は10mg群11mL(95%CI:-14~37、補正後p=0.38)、25mg群38mL(11~65、p=0.04)であった。 有害事象の発現率は、brensocatib群で過角化の発現率が高かったことを除き、両群で同様であった。

19.

喘息の検査には時間帯や季節が影響する

 喘息の診断に用いられる気道可逆性検査の精度は、実施する時間帯、季節により異なる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。研究グループは、定期的な喘息検査は午前中に行う方が信頼性の高い結果を得られる可能性があるとしている。英ロイヤル・パプワース病院NHS財団トラストのBen Knox-Brown氏らによるこの研究結果は、「Thorax」に3月11日掲載された。 典型的な喘息の検査は、2段階のプロセスで行われると研究グループは説明する。まず、患者はチューブを通してできるだけ深く息を吸い、次にできるだけ強く、速く息を吐くように指示される。患者の肺の中を出入りする息は、肺機能を測定する装置であるスパイロメーターにより測定される。次に、患者は即効性の気管支拡張薬を吸入してから、同じ呼吸テストを行う。2回目の結果が1回目よりも良好である場合、つまり気管支拡張薬反応性が認められた場合は、テスト前にすでに気道が狭くなっていたことを意味し、患者が喘息であることが示唆される。 今回の研究でKnox-Brown氏らは、2016年1月1日から2023年12月31日の間に喘息の検査を受けた18歳以上の患者1,620人(平均年齢53.2歳、女性62%)のデータを後ろ向きに解析し、検査が行われた時間帯や季節と喘息の診断との関連を検討した。 その結果、午前8時30分から検査を開始した場合、開始時間が1時間遅くなるごとに、気管支拡張薬反応性を示すオッズが8%ずつ低下することが示唆された(オッズ比0.92、95%信頼区間0.88〜0.97)。検査する時間帯を午前と午後に分けて解析した場合でも同様の傾向が見られ、午後の方が気管支拡張薬反応性を示すオッズが低かった(同0.68、0.54~0.85)。季節別に見ると、秋に検査を受けた場合には冬に受けた場合と比べて気管支拡張薬反応性を示すオッズが33%低かった(同0.67、0.48〜0.92)。 研究グループは、喘息薬の効果が午後よりも午前の方が高いことは知られていたが、これらの結果には驚かされたという。Knox-Brown氏は、「喘息発作のリスクが昼と夜で違うことから、肺機能検査に対する反応にも違いがあると予想していたが、その大きさには驚かされた」と話す。同氏は、「この結果は重要な意味を持つ可能性がある。午前中に検査を行えば、午後に行うよりも患者の薬に対する反応をより確実に知ることができる。これは喘息などの診断を確定する際に重要だ」と英ケンブリッジ大学のニュースリリースの中で述べている。 論文の上席著者である、ケンブリッジ大学のAkhilesh Jha氏は、「この違いの背景には、複数の要因が関与している可能性が高い」と指摘する。同氏は、「われわれの体には体内時計と呼ばれる自然なリズムが備わっている。例えば、1日を通して、体内のさまざまなホルモンのレベルは上下するし、免疫システムの働きも異なる。これらの要因の全てが、人々が肺機能検査にどう反応するかに影響を与える可能性がある」と話す。 Jha氏は、このような体内時計による影響のエビデンスは、医学の他の分野でも認められていると指摘する。同氏は、「例えば、ワクチン接種を午前に受けるか午後に受けるかによって反応が異なることが知られている。われわれの研究結果は、この考えをさらに裏付けるものだ。一般的に行われている喘息の検査結果を解釈する際には、検査実施の時間帯や時期を考慮する必要があるのかもしれない」と述べている。

20.

「血痰は喀血」、繰り返す喀血は軽症でも精査を~喀血診療指針

 本邦初となる喀血診療に関する指針「喀血診療指針」が、2024年11月に日本呼吸器内視鏡学会の学会誌「気管支学」に全文掲載された。そこで、喀血ガイドライン作成ワーキンググループ座長の丹羽 崇氏(神奈川県立循環器呼吸器病センター 呼吸器内科 医長 兼 喀血・肺循環・気管支鏡治療センター長)に、本指針の作成の背景やポイントなどを聞いた。喀血を体系的にまとめた指針は世界初 「喀血診療の現場では、長年にわたって公式な診療指針が存在せず、個々の医師が経験と知識を基に対応していたことに、大きなジレンマを感じていた」と丹羽氏は述べる。自身でカテーテル治療や内視鏡治療を行うなかで、より体系的な診療指針の必要性を実感していたところ、日本呼吸器内視鏡学会の大崎 能伸理事長(当時)より「ガイドラインを作ってみないか」と声をかけられたことから、喀血ガイドライン作成ワーキンググループが立ち上がり、作成が始まったとのことである。 「喀血という症候に焦点を当てて体系的にまとめているものは、本指針が世界で初めてである」と強調する。本指針は、日本IVR学会の協力のもとで作成されており、放射線科、呼吸器外科、呼吸器内科、救急集中治療の専門医が集まり、集学的に作成されたことから、非常に大作となっている。 なお「ガイドライン」ではなく「指針」となっている点について、「エビデンスが不足している領域が多く、Mindsのガイドライン作成方法に則った作成が困難であったことから、エキスパートオピニオンとして指針という形で作成した」と述べた。軽症喀血を「ティシューで処理可能」とするなど、わかりやすい表現に 本指針では、「血痰」や「小喀血」と表現されるものも「喀血」としている。これについては、「血痰」という表現は日本独自のものであり国際的には用いられていないこと、本指針を英文誌にも掲載して国際的なスタンダードを作成していきたい意向があることなどから、すべて「喀血」として統一したとのことである。 「本指針は専門医だけでなく、非専門医や看護師、救急相談センターの方々にも使っていただくことを想定して作成した」と丹羽氏は語る。そのため、喀血の重症度の表現を軽症喀血であれば「大さじ1杯」「ティシューで処理可能」など、わかりやすい表現としている。このような表現を用いることで「患者にわかりやすく説明可能となり、患者からの話を重症度に結びつけることができるほか、トリアージの場面などにも活用できるのではないか」と述べた。重症度の定義は以下のとおり。<重症喀血>200mL以上(コップ1杯)、または酸素飽和度90%以下<中等症喀血>15mL/日以上200mL/日未満、またはティシューで処理できない量<軽症喀血>15mL/日未満(大さじ1杯)、ティシューで処理可能 本指針では、重症度分類に入院適応と気管支動脈塞栓術(BAE)の適応をリンクさせていることも特徴である。中等症喀血であれば入院は相対適応、BAEも相対適応となっており、軽症喀血では入院については外来レベルとしているが、BAEは慎重適応とし、軽症喀血でもBAEを否定していない。肺非結核性抗酸菌症が増加 喀血というと、結核の印象を持たれる方もいるのではないだろうか。しかし、現在は肺非結核性抗酸菌症(NTM症)が増加している。喀血の原因疾患としては、肺NTM症、肺アスペルギルス症、気管支拡張症が多く、喫煙者にも多いという。本指針では、これらの疾患の概要や治療方法などと共に、喀血との関係についても記載しているため、ぜひ一読されたい。喀血患者は開業医のもとに眠っている 「喀血患者は開業医の先生方のところに多く眠っている」と丹羽氏は語る。「喀血をみたら、原因を精査していただきたい。胸部X線検査ではわからないような微細な変化で喀血を繰り返している人も多いため、喀血を繰り返す場合は、軽症であっても経過観察ではなく精査・加療の対象になると考えてほしい。軽症であってもQOLにも影響し、患者は外出が億劫になったり、お風呂に入るのを控えたりする場合もある」。 また、喀血が原因で抗血小板薬や抗凝固薬などの服用を中断しているケースも散見されるという。これについて「喀血が原因で本来必要な薬剤の服用をやめてしまわないように、BAEなども考慮してほしい。そのため、本指針では軽症喀血であってもBAEを適応なしとせず、慎重適応としている」と述べた。「開業医の先生方にこそ読んでいただきたい」 本指針は、日本呼吸器内視鏡学会の学会誌「気管支学」にフリーアクセスで全文掲載されているほか、2025年4月に書籍として発刊される予定である。書籍版には、重症度分類と治療方針に関する早見表も掲載予定とのことだ。丹羽氏は、本指針の活用法について「喀血患者は開業医の先生方のもとを訪れることが多いため、ぜひ、開業医の先生方にこそ読んでいただきたい。また、喀血患者の紹介を受ける呼吸器科の先生方にも読んでほしい。喀血の原因疾患についても詳しく記載しており、患者への説明にも役立てられると考えている。喀血治療にはカテーテル治療や内視鏡治療のオプションがあるといった気付きを得たり、手術適応の判断に活用したりするなど、本指針を1施設に1冊おいて喀血診療に役立てていただきたい」と話した。

検索結果 合計:148件 表示位置:1 - 20