2762.
3月25日現在、世界199ヵ国で感染者41万4,179人、死者1万8,440人にまで達している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。日本でも政府による全世界への渡航自粛要請、東京オリンピックの延期などその影響は甚大だ。中国湖北省・武漢市を出発点に、当初は中国を中心としたローカルな感染症と思われていたが、世界で深刻な状況にあるイタリアは、3月25日時点での感染者数が6万9,176人、死者は6,820人で致死率はなんと9.9%(WHO:Situation Report)。今回の震源地だった中国で同時点の死者数が3,287人、致死率が4.0%であることと比較して、異常なまでの高さである。この原因の一つとみられているのが、65歳以上の高齢者人口比率の高さ。2018年時点での先進7ヵ国の高齢化率トップ3は日本が28.1%、イタリアが23.3%、ドイツが21.7%である。3月25日時点の致死率を見ると、日本が3.6%、ドイツが0.5%であり、イタリアの状況を高齢化率のみで説明するのはやや無理がある。各種報道では、欧州連合内で最も高い親世代との同居率、医療費削減策に伴う病院の統廃合や医師の給与カットによる医療リソース不足、はたまたあいさつ代わりにハグやキスをする文化などさまざまな原因が指摘されているものの、イタリアの未曽有の状況の背景説明として決定打にはなっていない。もっとも高齢化進展と医療資源の適正化策推進という点で共通する日本にとって、イタリアの事態は将来的に対岸の火事ではなくなる可能性もある。そして今、イタリアで問題になっているのが重症患者向けの人工呼吸器の不足。その結果、人工呼吸器を装着すべき患者を選択するトリアージも始まっているとされる(REUTERS:イタリア最悪の医療危機、現場に「患者選別」の重圧)。この陰で起きているのが人工呼吸器確保を巡る争奪戦だ。このさや当てをロイターが報じている(REUTER: Germany, Italy rush to buy life-saving ventilators as manufacturers warn of shortages)。記事によれば、ドイツが1万台、イタリアが5,000台の人工呼吸器を公的に調達しようとしているという。全世界での人工呼吸器の年間生産台数は分からないが、記事中で登場するスイス大手のHamilton Medicalが年間1万5,000台、また、先ごろ従来の約25倍の月間1万台の増産体制を敷いた旭化成の米子会社ZOLL Medical Corp.がおおよそ年間5,000台弱ということを考えれば、ドイツ・イタリア併せて1万5,000台を公的に調達しようとしていることが、いかに異常な事態かは分かる。増産体制の障害となりつつあるのが、多様化した製造部品のサプライチェーンである。現に別の報道ではこのHamilton Medicalの人工呼吸器用のホースを製造するルーマニアで、一時、このホースが重要な医療機器として出荷ストップをかけられたという。感染拡大阻止を意図した各国の国境封鎖なども、今後この状況を悪化させる可能性もある。ボーダーレス時代が招いたと言われるCOVID-19のパンデミックだが、その対策で各国のエゴがむき出しになるという何とも皮肉な状況である。