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自殺リスクに相反する影響を及ぼすコーヒーとエナジードリンク

 コーヒー、紅茶、エナジードリンクなどに含まれるカフェインは、世界で最も多く消費されている精神活性物質であり、世界人口の約80%は毎日摂取している。近年の研究では、カフェイン摂取後に生じる可能性のあるメンタルヘルスのアウトカムへの影響に関して、より複雑な関係性が示唆されている。シンガポール国立大学のChen Ee Low氏らは、カフェイン摂取が自殺企図、自殺念慮、自傷行為リスクに及ぼす影響を調査するため、初のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Nutrients誌2025年6月2日号の報告。 PRISMAに準拠し、カフェイン摂取が自殺企図、自殺念慮、自傷行為リスクに及ぼす影響を評価したすべての研究を、PubMed、Embase、Cochrane、PsycINFOよりシステマティックに検索した。主要解析には、ランダム効果メタ解析およびメタ回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・17件の研究をメタ解析に含めた。・1ヵ月当たり60杯以上のコーヒー摂取は、自殺企図リスク低下と関連していることが示唆された。・対照的に、1ヵ月当たりたった1杯のエナジードリンク摂取で、自殺企図および自殺念慮リスクの有意な増加が認められた。・メタ回帰分析では、カフェイン摂取量と自殺傾向との間に強い関連性が示唆された。・システマティックレビューでは、男性および薬物使用がカフェイン摂取量を有意に増加させることが示された。 著者らは「コーヒー摂取は、自殺念慮および自殺企図リスク低下と関連していたが、エナジードリンクは、いずれの有害リスク増加とも関連していた。この関連性の根底にある心理社会的要因や原因を明らかにするためにも、さらなる研究が不可欠である。カフェイン摂取とメンタルヘルスとの関連を理解することは、公衆衛生戦略を策定するうえで、非常に重要である」と結論付けている。

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認知症患者の介護者は認知症関連因子の保有率が高い傾向

 認知症患者の介護者(以下、認知症介護者)は、健康的ではない脳の老化に関連するライフスタイル因子を持っている傾向が強く、そのため自身の認知症リスクも高まる可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。米アルツハイマー病協会のPublic Health Center of Excellence on Dementia Risk Reduction(認知症リスク低減のための公衆衛生卓越センター)および米ミネソタ大学を拠点とするPublic Health Center of Excellence on Dementia Caregiving(認知症の介護に関する公衆衛生卓越センター)によるこの研究は、「Risk Factors For Cognitive Decline Among Dementia Caregivers(認知症介護者における認知機能低下のリスク因子)」のタイトルで6月12日に公表された。 この研究では、連邦公衆衛生機関が2021年から2022年にかけて米国の47州から収集した介護者の健康に関するデータを分析し、認知症介護者が一般人口と比べて、修正可能な認知症のリスク因子をより多く持っているのかが検討された。修正可能な認知症のリスク因子とは、糖尿病、肥満、運動不足、喫煙、睡眠不足、高血圧の6つである。 その結果、認知症介護者は、一般人口と比べて修正可能な認知症の6つのリスク因子のうち5つについて該当すると報告する傾向の強いことが明らかになった。具体的には、介護者で個々の因子が該当する割合は一般人口と比べて、喫煙で30%、高血圧で27%、睡眠不足で21%、糖尿病で12%、肥満で8%高かった。運動不足についてのみ、介護者での該当者の割合は一般人口よりも9%少なかったが、これは、介護の身体的負担が大きいためと考えられた。 該当するリスク因子の数が1つ以上の人の割合は、認知症介護者で59.1%、一般人口で56.1%、複数の人の割合は24.3%と21.3%であり、いずれも認知症介護者の方が一般人口よりもわずかに高かった。この傾向は45歳未満の認知症介護者で特に顕著であり、同年代の一般人口と比べて、該当するリスク因子の数が1つ以上の人の割合は13%、複数の人の割合は40%高かった。また、これらの人では同年代の人と比べて、喫煙率が86%、高血圧の割合が46%、睡眠時間が6時間未満である割合が29%高かった。 これらの結果について、米アルツハイマー病協会の健康政策のシニアバイスプレジデントを務めるMatthew Baumgart氏は、「これは、認知症介護者の脆弱性を明示する結果だ。認知症介護者は、家族や友人の介護に忙しく、自身の健康を顧みないことが多い。この分析結果は、公衆衛生分野にとって認知症介護者の健康問題に対処する戦略の策定を促す警鐘となるはずだ」とニュースリリースの中で述べている。 ミネソタ大学公衆衛生学部健康的な老化とイノベーションセンター所長のJoseph Gaugler氏は、「人口全体と比較して認知症介護者において保有率が高い認知症のリスク因子を特定することで、公衆衛生政策立案者は資源の配分と介入の適切な優先順位付けと調整を行うことができる」と述べている。

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NHKドラマ「心の傷を癒すということ」【その1】だから「地震ごっこ」をするんだ!-子どものPTSD

今回のキーワード再演遊び(ポストトラウマティック・プレイ)身体感覚のフラッシュバック退行(解離)まね遊びふり遊びごっこ遊び子供が、地震や交通事故に遭ったり、テレビで見たりした時、その出来事を遊びにしてしまうことがあります。それが、「地震ごっこ」「飛行機事故ごっこ」「心臓マッサージごっこ」です。なぜそんなことをしてしまうのでしょうか?今回は、子供のPTSD(心的外傷後ストレス症)をテーマに、NHKドラマ「心の傷を癒すということ」を取り上げます。そのなかの被災した子供のエピソードを通して、トラウマ体験のごっこ遊びについて解説します。そして、子供の演じる心理の発達に注目し、トラウマ体験のごっこ遊びをする心理メカニズムを一緒に考えてみましょう。なお、このドラマは、以下のNHKオンデマンドで配信されています。NHKドラマ「心の傷を癒すということ」子供のPTSDの特徴とは?時は、阪神淡路大震災の直後。精神科医の安(あん)先生は、避難所になっている小学校で診療を続けます。そのシーンを通して、子供のPTSDの特徴を大きく3つ挙げてみましょう。(1)トラウマ体験をごっこ遊びで再現する―再演遊び安先生は、避難所のまとめ役でもある校長先生から「安先生、ちょっと頼みますわ」と呼ばれます。行ってみると、避難所生活を続けている男の子2人が、段ボールで作った机の上に、ペットボトルや入れ物などを並べ、「震度3…震度5…震度7…」と言いながら、その段ボールを揺らします。すると、建物が崩れるように、ペットボトルや入れ物が大きな音を立てて倒れるのです。1つ目の特徴は、トラウマ体験をごっこ遊びで再現する、再演遊び(ポストトラウマティック・プレイ)です。これが、いわゆる「地震ごっこ」です。この現象は、大人ではみられず、子供に特徴的です。(2)トラウマ体験を体の感覚で思い出す-フラッシュバック安先生は、地震ごっこをした男の子を気にかけます。一緒に荷物を運んでいる時、その子は「今、揺れとぅ?」「なんかな、ずっと揺れとぅ気がすんねん」と漏らします。2つ目の特徴は、トラウマ体験を体の感覚で思い出す、身体感覚のフラッシュバックです。その出来事がまた起こっているように生々しく感じてしまいます。この症状は、大人でも見られますが、子供に多いです。大人の場合は、たとえば、ある女性患者が安先生に「今でもその声が聞こえてるんです。助けて、誰か助けてって」と訴えたように、聴覚のフラッシュバックが多いです。(3)トラウマ体験で赤ちゃん返りをする―解離このドラマでは描かれていませんでしたが、とくに幼児は幼ければ幼いほど、たとえば、指しゃぶりをしたり、幼い話し方をするなど、赤ちゃんのように振る舞うことがあります。3つ目の特徴は、トラウマ体験で赤ちゃん返りをする、退行(解離)です。この現象は、まれに大人でも見られますが、子供に多いです。また、トラウマレベルではなく、たとえば弟や妹が生まれた時に自分が構ってもらえないようなストレスでも見られます。なお、大人のPTSDの詳細については、関連記事1をご覧ください。何で地震ごっこをするの?-子供の演じる心理の発達地震ごっこを見た校長先生は「くだらん遊び考えやがって」「おまえら! どんな神経しとんねん!」「ここにはな、地震で悲しい思いをした人ばっかり集まっとんねんぞ!」と怒り出します。すると、安先生は「地震のショックがあまりにも大きくて、子供たちも受け止めきれてへんのです。こうやって地震ごっこをすることで、何とか気持ちの整理をつけようとしてるんやと思います」と校長先生に説明します。地震ごっこ(再演遊び)は、不謹慎だという大人の視点に対して、子供が自らトラウマを乗り越えるためにやっているという治療的な視点です。確かに、そう考えれば実際に治療がうまくいくわけなのですが、なぜそうなのでしょうか? つまり、なぜ子供は地震ごっこを自然とするのでしょうか? また、トラウマを乗り越えるためにやるのだとしたら、逆になぜ大人はやらないのでしょうか?この謎を解くために、ここで、発達心理学の視点から、子供が演じる心理をどう発達させるのかに注目してみましょう。大きく三つの段階に分けられます。(1)目の前の人の動きをそのまま演じる―まね遊び赤ちゃんは、生後6ヵ月を過ぎると、「バンザイ」「バイバイ」「オツムテンテン」などの親の動きをまねするようになります。そして、これを遊びとして楽しむようになります。1つ目は、まね遊びです。これは、目の前の人の動きをそのまま演じていると言い換えられます。この時、赤ちゃんの脳内では、相手の動きのインプットと自分の動きのアウトプットを「鏡」(ミラー)のように映し出して同調させる神経ネットワーク(ミラーニューロン)が発達します。さらに、相手の動作と同時に相手の表情(気持ち)も脳内に「鏡」(ミラー)のように映し出し同調させて、まねと共感する能力がともに発達していきます。このように、まねをすることはミラーリングと呼ばれています。この詳細については、関連記事2をご覧ください。(2)目の前にいない人の動きを演じる―ふり遊び幼児は、1歳後半から積み木を電話に見立てて親が電話をしているしぐさをしたり、葉っぱを皿に見立てて何かを食べるふりをしたりするようになります。そして、これを遊びとして楽しむようになります。2つ目は、ふり遊びです。これは、目の前にないものを小道具で見立てて、目の前にいない人を演じていると言い換えられます。この時、幼児は、ものや状況をジェスチャーという記号(象徴)に置き換えて、目の前にそれがなくてもそのジェスチャーによって認識する能力が発達していきます。これは、象徴機能と呼ばれています。この詳細については、関連記事3をご覧ください。(3)周りの人とのかけ合いによって演じる―ごっこ遊び子供は、3歳になると、親やお友達と一緒に、おままごと、買い物ごっこ、お医者さんごっこをするようになります。4歳以降、自分がつくったストーリーで、オリジナルのキャラクターを演じて遊ぶようになります。とくに男の子は、いわゆるチャンバラ(斬り合い)、撃ち合い、プロレスなどの戦いごっこもするようになります。3つ目は、ごっこ遊びです。これは、周りの人とのかけ合い(相互作用)によって演じていると言い換えられます。この時、子供は、相手には相手の心があるとわかるようになり、周りと助け合ってうまくやっていく能力が発達していきます。これは、心の理論(社会脳)と呼ばれています。この詳細については、関連記事4をご覧ください。以上より、子供が地震ごっこをする理由は、ごっこ遊び(現実世界のコミュニケーションの再現)のレパートリーの1つとして、地震に対して助け合うためのコミュニケーションの練習をしようとしているからと言えます。この点で、じつは大人も「地震ごっこ」をしています。それが避難訓練です。逆に言えば、地震ごっこは、子供なりの「避難訓練」であると言えるでしょう。■関連記事アメリカン・スナイパー【なぜトラウマは「ある」の?どうすれば良いの?】アンパンマン【その顔はおっぱい?】伝記「ヘレン・ケラー」(前編)【何が奇跡なの? だから子どもは言葉を覚えていく!(象徴機能)】映画「アバター」【私たちの心はどうやって生まれたの?(進化心理学)】

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うつ病の認知機能に対するセロトニン5-HT1A受容体パーシャルアゴニストの影響

 統合失調症に対するセロトニン5-HT1A受容体パーシャルアゴニスト(5-HT1A-PA)補助療法は、注意力/処理速度の改善と関連していることが報告されている。また、5-HT1A受容体は、気分障害の病態生理においても重要な役割を果たしていることが示唆されている。さらに、5-HT1A受容体への刺激が抗うつ効果を増強することを示す説得力のあるエビデンスも報告されている。国立精神・神経医療研究センターの山田 理沙氏らは、気分障害患者の認知機能改善に対する5-HT1A-PA補助療法の有効性を評価するため、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューを実施した。Neuropsychopharmacology Reports誌2025年6月号の報告。 1987〜2024年1月に公表された研究をPubMed、Cochrane Library、Web of Scienceデータベースより検索した。選択基準は、RCT、ヒトを対象、精神疾患(統合失調症/統合失調感情障害を除く)患者を対象、認知機能への影響を評価、英語論文とした。 主な結果は以下のとおり。・スクリーニングした80件の研究のうち、3件が選択基準を満たした。・血管性うつ病対象が2件、うつ病対象が1件。・うつ病において、buspironeとメラトニンの併用療法は、buspirone単独またはプラセボと比較し、主観的な認知機能の改善に有効であった。・血管性うつ病における実行機能および言語流暢性の改善に対し、エスシタロプラムとタンドスピロン併用療法は、エスシタロプラム単独よりも有効であった。 著者らは「気分障害患者の認知機能に対して潜在的により強力な効果の可能性を検討するためにも、新規5-HT1A-PAを用いたさらなる研究が求められる」としている。

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週1回のカプセル剤が統合失調症の服薬スケジュールを簡略化

 週1回のみの服用で胃の中から徐々に薬を放出する新しいタイプのカプセル剤によって、統合失調症患者の服薬スケジュールを大幅に簡略化できる可能性が新たな研究で明らかになった。この新たに開発された長時間作用型経口リスペリドンは、患者の体内のリスペリドン濃度を一定に保ち、毎日服用する従来の治療と同程度の症状コントロールをもたらすことが臨床試験で示されたという。製薬企業のLyndra Therapeutics社の資金提供を受けて米マサチューセッツ工科大学(MIT)機械工学准教授のGiovanni Traverso氏らが実施したこの研究の詳細は、「The Lancet Psychiatry」7月号に掲載された。 Traverso氏は、「われわれは、1日1回飲む必要があった薬を、週1回飲むだけで済むように作り変えた。この技術はさまざまな薬剤に応用可能だ」とMITのニュースリリースの中で述べている。 今回報告された最終段階の臨床試験の結果は、Traverso氏の研究室が10年以上かけて取り組んできた研究の成果だ。試験で使用されたカプセル剤は、マルチビタミンほどの大きさである。飲み込むと、胃の中でカプセル剤の6本のアームが星形に広がって胃の出口を通過できない大きさになり、そのまま胃の中で漂いながらアームから約1週間かけて徐々に薬を放出する。アームは溶解性で、最終的には分離して消化管を通過して排出される。Traverso氏の研究室は2016年、この星形の薬剤送達デバイスの開発について報告している。 試験では、米国内の5施設の統合失調症または統合失調感情障害を有する患者83人(平均年齢49.3歳、男性75%)を対象に、2種類の用量の長時間作用型経口リスペリドン「LYN-005」の有用性を検証した。リスペリドンは統合失調症の治療薬として広く使用されており、Traverso氏らによると、多くの患者が即放性のリスペリドンを1日1回服用しているという。試験参加者は、試験開始1週目は即放性リスペリドン(2mgまたは6mg)を1日1回服用する導入期間を経た後、LYN-005を週1回、計5回服用した。初回のLYN-005投与週のみ、半用量の即放性リスペリドンも併用した。試験を完遂したのは47人だった。 44人を対象に薬物動態を解析した結果、LYN-005の全用量において活性成分の持続放出が確認された。LYN-005と即放性リスペリドンの血中濃度指標における幾何平均比は、1週目の最小血中濃度(Cmin)で1.02、5週目では、Cminで1.04、最大血中濃度(Cmax)で0.84、平均血中濃度(Cavg)で1.03であり、いずれも事前に設定した薬物動体評価の基準を満たした。副作用に関しては、一部の患者に短期的な軽度の胃酸逆流や便秘が見られたが、全体的には少なく、重篤な治療関連有害事象の発生は1件だった。 こうした結果を受けてTraverso氏は、「この臨床試験では、カプセル剤が予測された薬物血中濃度を達成したことと、多くの統合失調症患者で症状をコントロールできることが確認された」としている。また、論文の筆頭著者である米ニューヨーク医科大学精神医学・行動科学臨床教授のLeslie Citrome氏は、「慢性疾患を抱える人の治療を阻む最大の問題の一つが、薬が継続的に服用されないことだ。それによって症状が悪化し、統合失調症の場合、再発や入院につながる可能性がある。薬を週に1回だけ経口摂取するという選択肢は、注射製剤よりも経口薬を好む多くの患者にとって服薬アドヒアランスの維持を助ける重要な選択肢になる」とニュースリリースの中でコメントしている。 Traverso氏らは、米食品医薬品局(FDA)に対するこのリスペリドンの投与アプローチの承認申請に先立ち、より大規模な第3相臨床試験の実施を予定している。また、避妊薬など他の薬剤の投与にもこのデバイスを用いる初期段階の臨床試験も開始予定としている。

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第18回 もしかして、あの人も?高齢者の「セルフネグレクト」という見過ごされがちな問題

「最近、身なりに構わなくなった」「家がゴミで溢れている」「必要な治療を受けていないようだ」――。あなたのまわりの高齢者に、そんな心配な様子はないでしょうか。もしかしたらそれは、単なる老化や性格の問題だと思われているかもしれません。あるいは、認知症のある頑固な高齢者だという形でのみ認識され、問題が放っておかれてしまっているかもしれません。しかし本当は、「セルフネグレクト」という、支援が必要な状態のサインではないでしょうか。医学雑誌The New England Journal of Medicine誌に掲載された論文1)は、このセルフネグレクトを「臨床的、社会的、倫理的ジレンマ」と位置づけ、その複雑さと向き合うための新たな視点を提案しています。この記事では、その内容を紐解きながら、私たちにとって身近なこの問題について考えていきます。そもそもセルフネグレクトとは?セルフネグレクトとは、自分自身の健康や安全を守るために必要な行動をとれなくなってしまう状態を指します。これは、他者から危害を加えられたり、他者の意図で十分なケアが与えられなかったりする「虐待」とは異なります。しかし、本人の意思が密接に関わるため、問題はより複雑になります。言うまでもなく「自分のことは自分で決める」という自己決定権は、自己の尊厳を保つ上で不可欠なものです。たとえ周りから見て「危ない」「不健康だ」と思われる選択であっても、本人の自由な意思であれば尊重されるべきかもしれません。しかし、認知症などの理由で判断力が低下している場合はどうでしょうか。本人は(一人暮らしが)「大丈夫」と言っていても、実際には薬の飲み忘れが原因で何度も救急搬送されたり、お金の管理ができずに家賃を滞納してしまったりするケースは少なくありません。このような状況で、私たちはどのように本人の意思を尊重し、どう介入すべきでしょうか。実は、高齢者医療や介護の専門家でさえ、この判断に頭を悩ませることがあります。支援の必要性を判断する「3つの物差し」この問題に対し、先にご紹介した論文では、支援の必要性のレベルを判断するための一つの「物差し」として、状況を3つの段階に分けて考えることを提案しています。これは、いつ、どのような対応を始めるべきかを考えるうえで、とても参考になります。レベル1:心配(潜在的リスク)これは、自分自身のケアが十分にできておらず、手助けしてくれる人もいないものの、今すぐ大きな危険があるわけではない状態です。たとえば、「最近、お風呂に入っていない日が増えたかな」「食事の用意が億劫そうだ」といった初期のサインがこれにあたります。この段階では、まず本人の様子を注意深く見守り、どこにつまずいているのか、どうすればリスクを減らせるかを家族内で話し合うことが大切です。レベル2:危険(差し迫ったリスク)この段階では、自分自身のケアができていないことに加え、重大な危険につながる可能性のある行動が見られます。たとえば、火の不始末がある、危険性がありながら車の運転をやめていない、といった状況です。このような場合には、医療機関で認知機能や判断能力の専門的な評価を行い、本人や他者に危害が及ぶ可能性が高いと判断されれば、行政の専門機関(米国では成人保護サービス[APS])に報告することを検討すべきです。レベル3:問題発生(確定したセルフネグレクト)この段階は、セルフネグレクトが原因で、実際に医学的・社会的な「害」が発生してしまっている状態です。薬を飲まなかったことで心不全が悪化して入院したり、請求書の支払いができずに家を追い出されそうになったりしているケースです。このような場合は、本人の安全を守ることが最優先であり、速やかに専門機関に報告し、介入を求める必要があります。この分類は、周囲から見て「心配だけど、どこまで口を出すべきなのか…」と悩む際の、大雑把な判断基準を与えてくれるものです。私たちにできることこのセルフネグレクトという問題は、高齢化が急速に進む日本にとっても、決して他人事ではありません。ご紹介した論文では、米国の高齢者の10%が認知症、さらに20%以上がその前段階である軽度認知障害(MCI)を抱えていると指摘していて、今後セルフネグレクトのリスクを抱える人が確実に増加すると予測しています。これは日本の未来の姿とも重なります。日本では、米国のAPSに相当する相談窓口として、各市町村に設置されている「地域包括支援センター」があります。ここは、高齢者の健康、福祉、医療など、さまざまな相談に対応してくれる専門機関です。もし、あなたの周りに心配な高齢者がいたら、まずは孤立させないことが第一歩です。そして、段階に応じて、地域包括支援センターなどにも相談する必要があるでしょう。「行政に相談すると、本人の意思を無視して無理やり施設に入れられてしまうのでは」などと心配する方もいるかもしれません。しかし、専門機関の役割は人を罰することではなく、「できる限り本人の自律性を尊重しながら、安全性を高める手助けをすること」です。具体的には、ヘルパーの訪問時間を少しずつ増やしたり、食事の宅配サービスを手配したりと、本人が受け入れやすい最小限の介入から始めてくれる場合が多いでしょう。セルフネグレクトは、本人の尊厳と安全性がぶつかり合う、非常に繊細な問題です。しかし、それを「個人の問題」として放置してしまえば、最悪の場合、孤独死のような悲しい結末につながりかねません。異変に気づいた際に、適切な「物差し」を持ち、専門機関へつなぐこと。それが、超高齢社会に生きる私たちに求められる役割なのではないでしょうか。参考文献・参考サイト1)Lees Haggerty K, et al. Self-Neglect in Older People - A Clinical, Social, and Ethical Dilemma. N Engl J Med. 2025;393:4-6.

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日本人アルツハイマー病の早期発見に有効な血漿バイオマーカー

 血漿バイオマーカーは、アルツハイマー病(AD)の診断において、アミロイドPETや脳脊髄液(CSF)バイオマーカーに代わる有望な選択肢となる可能性がある。慶應義塾大学の窪田 真人氏らは、ADの診断および病期分類における複数の血漿バイオマーカーの有用性について、日本人コホートを用いた横断研究により評価した。Alzheimer's Research & Therapy誌2025年6月7日号の報告。 評価対象とした血漿バイオマーカーは、Aβ42/40、リン酸化タウ(p-tau181/p-tau217)、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、ニューロフィラメント軽鎖(NfL)であり、それぞれ単独または併用により評価した。Aβ42/40の測定にはHISCLプラットフォーム、その他のバイオマーカーの測定にはSimoaプラットフォームを用いた。参加対象者は、アミロイドPET画像および神経心理学的検査に基づき、健康対照群、AD群(AD発症前段階、軽度認知障害[MCI]、軽度認知症)、非AD群に分類した。ROC解析により、AβPETの状態、センチロイド値(CL)と認知スコア、ADの各ステージにおけるバイオマーカーの比較を予測した。 主な結果は以下のとおり。・対象は、健康対照群69例、AD発症前段階群13例、MCI群38例、軽度認知症群44例、非AD群79例。・AβPETの状態を予測するAUCは、Aβ42/40で0.937、p-tau217で0.926、p-tau217/Aβ42で0.946であり、DeLong検定の結果、これら3つの指標の間に有意な差は認められなかった(各々、p>0.05)。・認知機能正常群のAUCは、Aβ42/40で0.968、p-tau217で0.958、p-tau217/Aβ42で0.979であり、認知機能障害群のAUCは、Aβ42/40で0.919、p-tau217で0.893、p-tau217/Aβ42で0.923であった。・健康対照群およびAD群におけるCLとの相関は、Aβ42/40で−0.74、p-tau217で0.81、p-tau217/Aβ42で0.83であった。・健康対照群およびAD群において、Aβ42/40レベルは2峰性の分布を示し(カットオフ値:0.096)、PET陽性閾値32.9CLに対して19.3CLで高値から低値への変化が認められた。・p-tau217は、疾患進行とともに直線的な増加が認められた。・すべてのバイオマーカーは、論理記憶スコアとの強い相関が示された。 著者らは「血漿バイオマーカーであるAβ42/40とp-tau217、とくにこれらの比であるp-tau217/Aβ42は、AD診断におけるアミロイドPETの代替手法として大きな可能性を秘めていることが示唆された。HISCLプラットフォームベースの血漿Aβ42/40は、アミロイドPET画像診断よりも、より早期にAβ沈着を検出可能であり、早期診断マーカーとして有用であると考えられる」と結論付けている。

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『認知症になる人・ならない人』著者が語る「最も驚かれた予防策」とは?

 CareNet.comの人気連載「NYから木曜日」「使い分け★英単語」をはじめ、多くのメディアで活躍する米国・マウントサイナイ医科大学 老年医学科の山田 悠史氏。山田氏が6月に出版した書籍『認知症になる人 ならない人 全米トップ病院の医師が教える真実』(講談社)は、エビデンスが確立されている認知症予防法や避けるべき生活習慣を、一般向けにわかりやすく紹介した1冊だ。エビデンスで示す“認知症の本当のリスク因子” 本書は、1. 認知症になる人の生活習慣2. 実は認知症予防に効果がないこと3. 認知症にならない人の暮らし方4. 認知症になったときの対応という章立てになっている。 1章の「認知症になる人の生活習慣」としては、・1日中座りっぱなし・タバコを吸う・塩分を摂り過ぎる・目や耳の老化による不調を放置するといった項目が並ぶ。 著者の山田氏は「本書で紹介した内容は、Lancet誌の認知症委員会が4年ごとにアップデートしている、認知症予防に関する情報を基にしています。長期にわたるエビデンスが確立している内容が中心なので、医療者の方にとって目新しいものは少ないかもしれません」と語る。 一方で、「部屋の換気をしない(と認知症リスクが上がる)」という項目は、読者からの反響が最も大きく、新鮮に受け止められたようです」と語る。ガスコンロを使ったときに発生するPM2.5や二酸化窒素などの微粒子、消臭スプレーや漂白剤などの使用によって屋内の空気に不純物が増える。多くの人は1日の4分の3程度を屋内で過ごすと言われており、通気性の悪い室内環境が脳血管疾患や生活習慣病を介して認知症と関係する可能性が示唆されている。そのため、こまめに換気をして屋内の空気を新鮮に保つことが重要になるという。 また、「1日に缶ビールを2本以上飲む」という項目も反響があったという。「お酒を飲み過ぎると、健康状態や認知症リスクに影響しそうだ、という意識はあっても、具体的な数値に落とし込んだことでインパクトがあったようです」(山田氏)。過去の研究によると、週に168g以上のアルコールを摂取する人はそうでない人に比べて認知症のリスクが約18%高くなるという。このアルコール量を換算すると、1日当たり350mLの缶ビール2本以上となる。「意識していなければすぐ超えてしまう量なので、お酒好きの方には知っておいてほしい。患者さんへの節酒のアドバイスの際にも取り入れてみては」(山田氏)。 ほかにも、「超加工食品」を食べ過ぎないことも、簡便かつ効果的な予防策として紹介されている。米国在住の山田氏は「米国では超加工食品が社会のすみずみまで浸透しており、すべてを避けるのは難しい。私自身もまずは目に付くソーセージやハム、ベーコンをなるべく避けるようにしている」と語る。「認知症予防にエビデンスがないこと」も紹介 本書では、認知症リスクを高める習慣と同時に、認知症予防にとって意味のないことも紹介している。ここでは、「プロバイオティクス」「オメガ3脂肪酸」「イチョウの葉エキス」などの具体例を挙げつつ、現時点では有意差を示す報告がないことを紹介している。また、健康食品などの宣伝文句に「エビデンスをすり替えた」ものがある点についても解説する。ほかにも「脳トレ」や「高価な自由診療の認知症検査」などについて、現時点での研究報告に沿ってエビデンスが低いことを紹介している。 「結局、認知症予防のために特定のサプリを大量に摂ったり、◯◯食だけを守ったりするよりは、野菜や果物、魚、全粒穀物などをバランス良く取り入れ、超加工食品や過剰な糖分・脂肪分を控える習慣をできる範囲で継続していくことの大切さが、エビデンスベースでも裏付けられているのです」(山田氏)。 本書の終盤では、「認知症になったあとの対応」にも触れている。家族のために認知症の段階を把握する指標、本当に入院が必要になるケース、介護のために必要となる費用の目安などが紹介される。ここでは、米国の「Hospital at Home」(HAH)の取り組みにも触れている。これは入院診療チームを自宅に派遣し、患者を自宅で“入院相当”の管理下で診るという仕組みだという。「日本ではまだ医療保険や介護保険制度上の制約が多く、実現は難しい点も多いものの、せん妄や生活機能低下を避けるためには自宅が望ましいケースも多い。今後の在宅医療を設計する上で参考になる点があると思う」(山田氏)。一般向けの内容だが、医療者にとっても自身のため、親のため、患者説明用の資料としてなど、さまざまな面で参考となる1冊となりそうだ。書籍紹介『認知症になる人 ならない人 全米トップ病院の医師が教える真実』

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日本の実臨床におけるフレマネズマブの2年間にわたる有効性と忍容性

 獨協医科大学の鈴木 紫布氏らは、日本の実臨床におけるフレマネズマブの2年間にわたる長期的な有効性と忍容性を明らかにするため、レトロスペクティブ観察単施設コホート研究を実施した。Neurological Research and Practice誌2025年6月3日号の報告。 対象は、フレマネズマブ治療を行った反復性片頭痛(EM)または慢性片頭痛(CM)患者165例。主要エンドポイントは、ベースラインから1〜24ヵ月までの1ヵ月当たりの片頭痛日数(MMD)の変化量とした。副次的エンドポイントは、片頭痛評価尺度(MIDAS)スコアの変化量、有害事象、治療反応率、治療反応予測因子、治療継続率。 主な結果は以下のとおり。・コホート全体におけるベースラインからのMMDスコアの変化量は、3ヵ月で−7.2±4.7日、6ヵ月で−8.1±6.3日、12ヵ月で−8.4±5.1日、24ヵ月で−9.6±6.0日であった(p<0.001)。・50%以上の治療反応率は、3ヵ月で57.0%、6ヵ月で63.6%、12ヵ月で63.5%、24ヵ月で69.0%。・全体、EM群、CM群のいずれにおいても、MIDASスコアの有意な低下が認められた。・月1回投与群と四半期ごとの投与群との間に、有効性の有意な差は認められなかった。・有害事象は13.3%の患者で発現(主に注射部位反応)、副作用のために治療を中止した患者は2.4%であった。・治療反応不十分患者、早期治療反応患者、超遅発的治療反応患者との間で、精神疾患合併、薬物乱用性頭痛、脈動性頭痛などの臨床背景の違いが認められた。・治療継続率は12ヵ月で73.5%、18ヵ月で65.4%、24ヵ月で58.0%であり、四半期ごとの投与群のほうが月1回投与群よりも治療継続率が高かった(p<0.001)。 著者らは「日本の実臨床において、フレマネズマブは、長期的な片頭痛予防に有効であり、忍容性も良好である」と結論付けている。

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自転車に乗ることは認知症リスク低下と関連

 移動手段として定期的に自転車に乗ることは、あらゆる原因による認知症(以下、認知症)リスクの低下と関連することが新たな研究で明らかになった。自転車の利用は、記憶に関わる脳領域である海馬の体積が有意に大きいこととも関連していたという。華中科技大学(中国)同済医学院のLiangkai Chen氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に6月9日掲載された。 Chen氏らは、2006年3月13日から2010年10月1日までの間に収集されたUKバイオバンクのデータを用いて、移動手段と認知症リスクや脳構造との関連を検討した。対象者の総計は47万9,723人で、平均年齢は56.5歳、女性が54.4%を占めていた。参加者の移動手段は、「通勤・通学を除き、過去4週間において最もよく利用した移動手段は何ですか」という質問により調査されていた。その回答に基づき、1)車や公共交通機関などの非活動的移動手段を利用、2)徒歩、3)徒歩と非活動的な移動手段を併用、4)自転車単独および自転車と他の移動手段を併用、の4群に分類された。主要評価項目は、認知症の発症(若年性認知症と遅発性認知症を含む)、副次評価項目は、アルツハイマー病などの認知症のサブタイプや、MRIで評価された脳構造などであった。 中央値13.1年の追跡期間中に8,845人(1.8%)が認知症を発症しており、このうち3,956人(0.8%)がアルツハイマー病だった。解析の結果、自転車単独および自転車と他の移動手段を併用していた群では非活動的移動手段を利用していた群と比べて認知症リスクが19%(調整ハザード比0.81、95%信頼区間0.73〜0.91)、アルツハイマー病リスクが22%(同0.78、0.66〜0.92)、有意に低下していた。一方、徒歩で移動していた群ではアルツハイマー病リスクがわずかに上昇していた(同1.14、1.01〜1.29)。 研究グループは、「この結果は、活動的な移動手段、特に自転車の利用の促進が中高年の認知症リスクの低下につながる可能性があることを示唆している。認知機能の維持のために利用しやすく持続も容易な習慣を奨励することで、公衆衛生に大きなベネフィットがもたらされる可能性がある」と述べている。 ただし、自転車利用と認知症リスクの関連には、遺伝的素因(APOE ε4)保有の有無が影響することも示された。具体的には、自転車単独および自転車と他の移動手段を併用していた群の中でAPOE ε4を持たない人では認知症リスクが26%、遅発性認知症リスクが25%有意に低下していたが、APOE ε4を持つ人では、リスク低下は統計的に有意ではなかった。 さらに、脳のMRIスキャンデータが利用可能だった4万4,801人を対象に、移動手段と脳構造との関連を調べた結果、自転車の利用は海馬の体積が大きいことと関連していることが明らかになった。このほか、興味深いことに、車の運転は公共交通機関の利用と比べて、認知症に対してある程度の予防効果があることも示唆された。 本研究をレビューした米ノースウェル・ヘルス老年医療サービス部長のLiron Sinvani氏は、「自転車に乗ることは中等度から高強度の運動であり、バランス感覚も必要だ。ウォーキングよりも複雑な脳機能を必要とするため、認知症リスクの低減効果が高いと考えられる」と述べている。同氏はさらに、「単に、運動を習慣化すればいいわけではなく、どう生活するかを考えることが大切だ。つまり、どこかへ出かける際には車ではなく自転車を使うというように、活動的な移動手段をライフスタイルの一部として取り入れることが非常に重要になる」と述べている。 ただしこの研究は観察研究であり、自転車の利用と健康的な脳の老化の因果関係が明らかにされたわけではない。それでもSinvani氏は、「認知症のリスクを減らすための方法について患者や家族、友人から尋ねられるたびに、私は、『外に出て何かをするべきだ』と伝えている。身体活動だけでなく、バランス感覚を維持し、脳のさまざまな部分を活性化させることが大切だ」と話している。

471.

精神科医療現場の突然死に関連する要因と予防戦略

 精神科入院患者の予期しない死亡には、さまざまな要因が関連している。シンガポール・Buangkok Green Medical ParkのJing Ling Tay氏らは、精神科入院患者の突然死に対する影響因子/リスク因子および予防戦略を評価するため、スコーピングレビューを実施した。Archives of Psychiatric Nursing誌2025年6月号の報告。 本研究は、スコーピングレビューのためのPRISMA拡張版およびPRISMA 2020声明に基づき行われた。関連するキーワードを用いて、2023年12月18日までに公表された研究を6つのデータベースより検索した。精神科医療現場における入院患者の突然死の原因、影響因子、リスク因子、予防戦略を検討した英語論文を対象に含めた。 主な結果は以下のとおり。・27件の研究を対象に含めた。・精神科医療現場における突然死の要因を調査した研究が27件(100%)、対策を検討した研究が16件(59.3%)であった。・突然死の原因として4つが挙げられた。 ●医学的状態 ●拘束 ●窒息 ●緊張病または極度の興奮・主に症例報告などの一部の研究において抗精神病薬使用による死亡が報告されているものの、ケースコントロール研究のような質の高い研究においてこの関連性は否定された。・上記4つに抗精神病薬使用を含めた5つの原因に対応する予防戦略として、以下が挙げられた。 ●医学的評価と治療(とくに心血管疾患および関連リスク因子)、医師との連携、スタッフ研修、人員配置(医師の増員) ●カウンセリング、迅速な鎮静、徹底した観察下の最終手段としての拘束といったより良い代替手段の活用 ●窒息に関するリスク評価、トレーニング ●緊張病に対する迅速な治療 ●抗精神病薬治療レジメンの簡素化 著者らは、「議論の的である本テーマの検証には、さらに質の高い研究が求められる」とし、「この重要なテーマをエビデンスベースで理解することは、精神医学における救命につながるであろう」とまとめている。

472.

統合失調症における中枢コリン作動系の変化

 統合失調症では、コリン作動系のさまざまな変化がみられることが報告されているが、これらのエビデンスのシステマティックレビューおよびサマライズは行われていなかった。カナダ・オタワ大学のZacharie Saint-Georges氏らは、統合失調症およびまたは統合失調感情障害における中枢コリン作動系に関するイメージング研究および剖検研究についてのシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Molecular Psychiatry誌2025年7月号の報告。 統合失調症およびまたは統合失調感情障害患者と対照集団を比較した横断的ケースコントロール研究をEmbase、Medlineより検索した。バイアスリスクの評価には、ケースコントロール研究の品質評価のためのNIH/NHLBIツールを用いた。本研究は、PRISMA2020ガイドラインに準拠し実施した。 主な結果は以下のとおり。・スクリーニング対象研究3,259件のうち、適格基準を満たした61件の研究をシステマティックレビューに含めた(イメージング研究:8件、剖検研究:53件)。・これらの研究の約74%において、統合失調症およびまたは統合失調感情障害における中枢コリン作動系の変化が報告されていた。・統合失調症におけるムスカリン性受容体またはニコチン性受容体レベルのいずれかの減少が最も多く報告されていた。・3件のメタ解析を実施し、線条体(g=−0.809、3件、108例)、海馬(g=−0.872、4件、84例)、前頭帯状皮質(g=−0.438、4件、295例)におけるM1/M4ムスカリン性受容体の減少が示唆された。・イメージング研究の6件で臨床症状の重症度と関連が報告されており、認知機能障害との関連が4件で報告されていた。 著者らは「イメージング研究および剖検研究の両方で、統合失調症患者におけるムスカリン受容体およびニコチン受容体の広範な低下が明らかとなった。メタ解析では、線条体、海馬、前頭帯状皮質におけるM1/M4ムスカリン受容体の低下による大〜中程度の影響が認められた」と結論付けている。

473.

双極性うつ病に対する抗うつ薬使用と躁転リスク

 双極性うつ病治療における抗うつ薬の使用は、気分極性の転換を引き起こす可能性が懸念され、依然として議論の的となっている。中国・首都医科大学のLei Feng氏らは、双極性うつ病患者に対する抗うつ薬使用と軽躁/躁転リスクとの関連を検証するため、リアルワールドにおける多国籍観察研究を実施した。Health Data Science誌2025年6月3日号の報告。 2013年1月〜2017年12月の4つの電子医療記録データベース(IQVIA Disease Analyzer Germany、IQVIA Disease Analyzer France、IQVIA US Hospital Charge Data Master、北京安定医院)と1つの行政請求データベース(IQVIA US Open Claims)より得られた双極性うつ病患者の治療パターンに関するデータを収集し、分析した。抗うつ薬を投与された患者(AD群)と投与されなかった患者(非AD群)における双極性うつ病の初回診断日から730日後の軽躁/躁転リスクの発生率を比較し、ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・対象は、5つのデータベースより抽出された12万2,843例。・双極性うつ病に対し抗うつ薬を投与された患者の割合は60.6%。・双極性うつ病の初回診断日における平均年齢の範囲は37.50±15.72〜52.10±16.22歳。・傾向スコアマッチングにより潜在的交絡因子で調整した後、AD群の躁転リスクは、非AD群と比較し、有意な差は認められなかった(HR:1.04、95%CI:0.96〜1.13、p=0.989)。・また、躁病治療薬の投与の有無に関わらず、差は認められなかった(HR:0.69、95%CI:0.38〜1.25、p=0.535)。 著者らは「双極性うつ病のマネジメントにおいて、抗うつ薬が実臨床で広く使用されていたが、抗うつ薬使用は、躁転リスクと関連していなかった。そのため、抗うつ薬は双極性うつ病の治療選択肢の1つとして考えられる」と結論付けている。

474.

日本人うつ病におけるブレクスピプラゾールの費用対効果

 うつ病患者の約半数は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)で十分な治療反応が得られていない。このような患者では、ブレクスピプラゾール補助療法が治療候補となりうる。大塚製薬のYilong Zhang氏らは、日本におけるSSRI/SNRI治療抵抗性うつ病患者に対するブレクスピプラゾール補助療法の費用対効果を検証した。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2025年5月27日号の報告。 日本の公的医療保険制度の観点から、SSRI/SNRI治療抵抗性うつ病患者を対象に、SSRI/SNRIの補助療法としてブレクスピプラゾールまたはプラセボを併用した際の費用対効果を分析した。追加の解析では、ブレクスピプラゾール投与開始時期を、8週目(早期追加)および14週目(後期追加)に追加した場合の比較も行った。ブレクスピプラゾールの臨床試験に参加した患者コホートより、合計67週間にわたりフォローアップ調査を行った。 主な結果は以下のとおり。・ブレクスピプラゾールの早期追加群は、プラセボ群または後期追加群と比較し、費用対効果が良好であった(支払い意思額[WTP]閾値:500万円/QALY)。・ブレクスピプラゾールの早期追加群は、プラセボ群と比較し、増分費用15万5,762円、0.037QALYの延長が認められ、増分費用対効果比(ICER)は430万円/QALYであった。・ブレクスピプラゾールの早期追加群は、後期追加群と比較し、総費用3,663円、0.008QALYの延長が認められ、ICERは46万円/QALY相当であった。・本研究の限界として、モデリングの対象範囲が試験期間に限定されていたため、ブレクスピプラゾールの長期的なベネフィットが考慮されていない点、早期追加群と後期追加群との比較におけるQALYの増加に関する不確実性が挙げられる。 著者らは「SSRI/SNRI治療抵抗性のうつ病患者に対するブレクスピプラゾールは、とくに早期実施した場合、費用対効果の高い補助療法であることが確認された」と結論付けている。

475.

国を滅ぼしかねない(?)ベンゾジアゼピン系、その減らし方(解説:岡村毅氏)

 ビリー・アイリッシュにXannyという曲があるが、これはベンゾジアゼピン系抗不安薬(米国での商品名はXanaxなど)の怖さを歌っている。プリンスやジュース・ワールドといった世界的アーティストの命をも奪ってしまったオピオイドの蔓延は、米国人の平均寿命さえも低下させており、トランプ現象を生み出したともいわれている。オピオイドほどではないにせよ、同時に使用されることも多いベンゾジアゼピン系の蔓延もまた米国の薬物依存の深刻さを表していると言えよう。古くからあるが、いまだに最先端の話題である。 本論文は、睡眠薬として使われているベンゾジアゼピン系薬剤をやめるためのさまざまな方法の効果を比較し、メタ解析したものだ。要するに「ベンゾジアゼピン系薬剤の処方はなるべく避けるべきなのに処方されている。じゃあ、やめるための方法の優劣をここらでまとめておこうじゃないか」ということだ。詳しくない人には、「なんでダメなものを処方するのだ?」という疑問があると思うので説明しよう。 まず、ベンゾジアゼピン系薬剤とはかつては俗にマイナートランキライザーと呼ばれ、睡眠薬の定番であった。ただ、ベンゾジアゼピン系は薬効が複数あり、ややこしいのだ。薬効は、(1)眠らせる(2)不安をとる(3)痙攣を止める(4)筋弛緩を起こす、という複数の効果を持つ。このうち(1)が強いものが睡眠薬として使われる。(2)の不安をとるものとしてはエチゾラム(商品名:デパスなど)が代表的であり、(3)の痙攣を止めるものとしてはジアゼパム(商品名:セルシンなど)が代表的である。ただし(4)が起きてしまうので、肩こりや腰痛にも効いてしまう。過剰に投与すると、あるいは高齢者では、昼間に薬効が残ってふらつくこともある。夜間にトイレに行き、階段から落ちるなんてことも起きる。ややこしいうえに危ないのである。 さらに耐性が生じるので、基本的にはだんだん効かなくなる。効かなくなると増やすしかない。そうするとやはりふらついたり、日中もぼんやりしたりする。 また闇で売られている、いわゆるレイプドラッグといわれるものは、だいたいベンゾジアゼピン系である。処方する側としては、恐ろしや、である。 現代では新たに処方されることはあまりないし、1剤にとどめるべきである。ベンゾジアゼピン系を2剤出していたら、よほどの理由があるか、ダメな医者かのどちらかである。 じゃあ何で処方するのだ、と思うかもしれないが、2つの理由がある。 第1の理由は、患者さんにとっては良い薬と認識されていることがある。切れ味がよいのである。長年ベンゾジアゼピン系てんこ盛りでよく寝ている(と自覚している)患者さんに、「危ないので減薬しましょう」などと言っても、「なんだ、全然眠れなくなったぞ。四の五の言わずにさっさと出せよ!」などとすごまれる、なんてことも起きる。 第2の理由は、かつては精神科の敷居が高く、不眠症程度では専門家が関与することがなかった。精神科にはベンゾジアゼピン系の依存症になってしまった人も来るので、精神科医は自分から処方することは実はあまりない。怖さを知っているからだ。ただ、忙しいかかりつけ医が、「よく効くなあ、患者さんも喜んでいるし」と綿々と処方していることも多かった。 というわけで、今ではさすがに新たに処方されることはあまりないが、ずっとのんでいる人や高齢者に対して、どうやって減らすかというのは臨床的には大問題である。 本論文の結果であるが、徐々に減らす、医師に対する教育、医師と患者双方への教育、認知行動療法、マインドフルネスは残念ながら効果はなさそうである。患者さんへの教育、薬剤師主導の減薬(薬局でパンフレットを見せるなど)、処方検討会議(医師と薬剤師など)は低いながら効果があるようだ。 注意しないといけないのは、この論文が扱っているのは「睡眠薬としての」ベンゾジアゼピン系だということだ。現代では、睡眠薬の第1選択はもはやレンボレキサントなどのオレキシン受容体拮抗薬に移っている。睡眠薬の世界では、もう勝負あった感がある。 ただし問題は抗不安薬としての使用である。生きづらさへの短絡的な解決になっているような場合はなかなかやめられず、依存症になっている事例も多い。このようなケースは単なる睡眠薬のように一筋縄ではいかないことは最後に強調しておこう。

476.

抗精神病薬による統合失調症患者の死亡リスクを比較

 抗精神病薬は、統合失調症の主要な治療薬であるが、過剰な死亡リスクと関連している。しかし、各抗精神病薬やレジメンに関連する死亡リスクの違いは、明らかになっていない。香港大学のCatherine Zhiqian Fang氏らは、抗精神病薬単剤治療または抗精神病薬レジメンに関連する死亡リスクを比較するため、集団ベースのコホート研究を実施した。European Neuropsychopharmacology誌2025年7月号掲載の報告。 時変共変量として、抗精神病薬曝露を用いたCox回帰分析を実施し、すべての原因による死亡、自然死、不自然な死亡のリスクを調査した。対照治療として、抗精神病薬単剤治療ではペルフェナジン、抗精神病薬レジメンでは第1世代抗精神病薬(FGA)による治療を用いた。 主な内容は以下のとおり。・全体的なコホートには、4万1,695例が含まれた。・抗精神病薬単剤治療では、ペルフェナジンと比較し、クロザピンは死亡リスクが最も低かった。【すべての原因による死亡リスク】調整済みハザード比(aHR):0.41、95%信頼区間(CI):0.33〜0.52【自然死リスク】aHR:0.52、95%CI:0.40〜0.69【不自然な死亡リスク】aHR:0.16、95%CI:0.09〜0.27・パリペリドンとリスペリドンの2つの長時間作用型注射剤(LAI)では、パリペリドンLAIの死亡リスクがより低かった。【すべての原因による死亡リスク】aHR:0.51、95%CI:0.36〜0.72【自然死リスク】aHR:0.55、95%CI:0.37〜0.83・オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、アリピプラゾール、amisulprideは、ベルフェナジンと比較し、死亡リスクが低かった。・抗精神病薬レジメン分析では、クロザピンまたはLAI抗精神病薬を含む多剤併用レジメンは、FGA経口単剤療法と比較し、死亡リスクの低下が認められた。・FGA-LAI単剤療法、各抗精神病薬の多剤併用療法、クロザピンを含まない経口抗精神病薬の多剤併用療法は、すべての原因による死亡リスクおよび自然死リスクの上昇との関連が認められた。・インシデントコホート(1万3,283例)においても、おおむね一貫した結果が認められた。 著者らは「各抗精神病薬およびレジメンにより、死亡リスクは異なっている。クロザピンおよびLAI抗精神病薬が超過死亡リスクの軽減において重要な役割を果たしていることが確認された。本研究結果は、統合失調症患者の精神的および身体的アウトカムを最適化するために、クロザピンおよびLAI抗精神病薬への早期アクセスを確保することの重要性を示唆している」としている。

477.

カロリー制限食は抑うつ気分を高める?

 カロリー計算は単に気が滅入る作業であるだけでなく、実際にうつ病のリスクを高める可能性があるようだ。新たな研究で、カロリー制限食を実践している人では、特定の食事法を実践していない人と比べて抑うつ症状のスコアが高かったことが示された。トロント大学(カナダ)精神医学准教授のVenkat Bhat氏らによるこの研究の詳細は、「BMJ Nutrition Prevention & Health」に6月3日掲載された。 Bhat氏らは今回、2007年から2018年にかけての米国国民健康栄養調査(NHANES)に参加した2万8,525人の健康状態を追跡した。参加者は抑うつ症状を評価する質問票であるPatient Health Questionnaire-9(PHQ-9)に回答していたほか、実践している食事療法の有無についても調査が行われていた。 調査の結果、参加者の7.79%が抑うつ症状のあることを報告していた。参加者を食事パターンに基づき分類したところ、実践している特定の食事法はないと回答した参加者が全体の87.23%を占めていた。残る8.10%はカロリー制限食、2.90%が特定の栄養素の制限を伴う食事(以下、栄養制限食)、1.77%が健康問題の管理を目的とした食事を実践していた。 食事パターンと抑うつ症状の関係について分析した結果、カロリー制限食を実践している人では、特定の食事法を実践していない人と比べてPHQ-9スコアが0.29点高かった。特に、過体重の人では、カロリー制限食はPHQ-9スコアの0.46点の上昇、栄養制限食は同スコアの0.61点の上昇と関連していた。また、何らかの食事法を実践している男性では実践していない男性に比べて身体症状のスコアが高く、さらに、栄養制限食を実践している男性では、食事法を実践していない女性と比べて認知・情動症状スコアが0.40点高いことも示された。 Bhat氏らは、「カロリー制限食が抑うつ症状スコアの上昇と関連することを示した本研究結果は、これまでに報告されている対照研究の結果とは大きく異なっている」と述べている。そして、「このような(結果の)不一致は、先行研究の多くがランダム化比較試験であり、参加者が栄養バランスの取れた、綿密に計画された食事を遵守していたために生じた可能性がある」と付け加えている。 実生活では、カロリー制限食はしばしば栄養不足やストレスを引き起こし、それが抑うつ症状を悪化させることは少なくないとBhat氏らは指摘する。また、このような食事法を実践している人は、減量の失敗や体重のリバウンドを経験することで抑うつ状態に陥る可能性もあるという。さらに同氏らは、グルコースや脂肪酸は脳の健康に不可欠であるが、「炭水化物(グルコース)や脂肪(オメガ3脂肪酸)が少ない食事は理論上、脳の機能を低下させ、認知・感情症状を悪化させる可能性がある。特に、より多くの栄養を必要とする男性ではその傾向が強まるかもしれない」と述べている。 英国のNNEdPro食品・栄養・健康グローバル研究所のチーフサイエンティスト兼エグゼクティブ・ディレクターであるSumantra Ray氏は、この新たな研究によって、「食事パターンとメンタルヘルスの関連を示すエビデンスの蓄積がさらに進んだ。また、認知機能に有益と考えられているオメガ3脂肪酸やビタミンB12といった栄養素が少ない食事制限が抑うつ症状を誘発する可能性についての重要な示唆も得られた」とコメントしている。  ただしRay氏は、この研究で認められた抑うつ症状への影響は比較的小さかった点を指摘し、「今後、食事摂取を正確に把握し、偶然の影響や交絡因子の影響を最小限に抑えた、適切にデザインされたさらなる研究により、この重要な分野の理解を深める必要がある」とニュースリリースの中で述べている。

478.

睡眠中の脳にカフェインはどう作用するのか

 朝のコーヒーは活力をもたらしてくれるが、夜にコーヒーを飲んで眠りにくくなったことはないだろうか。新たな研究で、カフェインは睡眠中の脳の電気的信号の複雑性を増大させ、「臨界状態」に近付けることが示された。臨界状態とは秩序と無秩序の境目にある状態で、脳が外からの刺激に最も敏感に反応し、最も適応力が高く、情報処理の効率も最大になると考えられている。モントリオール大学(カナダ)のPhilipp Tholke氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Communications Biology」に4月30日掲載された。 Tholke氏らは40人の健康な成人を対象に、脳波計(EEG)と人工知能(AI)を用いて、睡眠中の脳に対するカフェインの影響を分析した。試験参加者は、就寝前にカフェイン200mg(コーヒー1〜2杯に相当)を含んだカプセルまたはプラセボを摂取した。 その結果、カフェインは脳の電気的信号の複雑性を増大させ、それにより神経活動はより多様で柔軟になることが示された。また、カフェイン摂取により脳活動のパターンは臨界状態に近付き、脳の電気的リズムにも顕著な変化が見られた。具体的には、精神的な集中や覚醒状態に関係するベータ波は増大する一方で、回復に導く深い睡眠に関係するシータ波やアルファ波などのより遅い脳波は抑制されることが明らかになった。こうした変化は、特に、記憶の定着と認知機能の回復に重要なノンレム睡眠中に顕著であった。 さらに、こうしたカフェインの影響は、レム睡眠中の20〜27歳の若年層において、41~58歳の中年層よりも顕著に現れた。この違いは、眠気を引き起こす脳内の神経伝達物質であるアデノシン受容体の変化に起因する可能性があるという。共著者の1人であるカナディアン・スリープ・アンド・サーカディアン・ネットワーク会長のJulie Carrier氏は、カフェインはアデノシン受容体を阻害することで覚醒状態を保つが、若年層はこれらの受容体を多く持っているため、カフェインの刺激作用がより強く現れる可能性があると指摘している。同氏は、「アデノシン受容体は加齢に伴い自然に減少するため、それらを阻害して脳の複雑性を改善するカフェインの作用も弱まる。これが中年層でカフェインの影響が減弱する一因かもしれない」と話している。 Carrier氏は、就寝前のカフェイン摂取により就寝中に脳が臨界状態に近付くことが示された点について、「この状態は日中に集中力を高めるには有用だが、夜間の休息を妨げる可能性がある。脳はリラックスできないため、十分な回復は望めないだろう」と言う。一方、論文の上席著者であるモントリオール大学心理学教授および同大学認知・計算論的神経科学研究所所長のKarim Jerbi氏は、「本研究結果は、睡眠中であってもカフェインの影響下では脳がより活性化し、回復力が低下した状態にあることを示唆している。脳のリズミカルな活動の変化は、カフェインが脳の記憶の処理や夜間の回復効率に影響を与える可能性を説明するのに役立つかもしれない」と述べている。 研究グループは、カフェインが脳の健康に与える長期的な影響についてより深く理解し、年齢層ごとに個別化された推奨を導き出すために、さらなる研究が必要であるとしている。

479.

非定型うつ病に対する薬理学的治療の比較〜ネットワークメタ解析

 非定型うつ病は、気分反応性、過眠、鉛様の麻痺を含む非常に一般的なサブタイプであり、メランコリックうつ病との異なる治療アプローチが求められる。イタリア・University School of Medicine of Naples Federico IIのMichele Fornaro氏らは、これまで実施されていなかった非定型うつ病に対する薬理学的治療についてのネットワークメタ解析を実施した。European Neuropsychopharmacolojy誌2025年7月号の報告。 PubMed/Central、ClinicalTrials.gov、Embase、Psycinfo、Scopus、WebofScienceより、PRISMAに準拠したシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。共通主要アウトカムは、抑うつ症状の変化(標準化平均差:SMD)、治療反応、すべての原因による治療中止(許容性:リスク比[RR])。忍容性は副次的アウトカムとした。バイアスリスクおよびglobal/local inconsistenciesを測定し、エビデンスに対する信頼性評価によりネットワークメタ解析(CINeMA)を行った。 主な結果は以下のとおり。・抽出された2,214件のうち、適格なRCT21件を含め、20件をネットワークメタ解析に含めた。・有効性については(16件、903例、12種の治療)、phenelzineのみがプラセボよりも有効であった(SMD:−1.13、95%信頼区間[CI]:−2.14〜−0.49)。・phenelzine、moclobemide、isocarboxazid、イミプラミン、セレギリン、セルトラリン、fluoxetineは、ノルトリプチリンよりも優れていた(SMD:−4.54[95%CI:−8.02〜−1.07]〜−3.08[95%CI:−5.42〜−0.75])。・治療反応については(13件、1,442例、7種の治療)、phenelzine(RR:2.58、95%CI:2.02〜3.31)、セルトラリン(RR:2.25、95%CI:1.01〜4.99)、moclobemide(RR:2.16、95%CI:1.12〜4.19)、fluoxetine(RR:1.89、95%CI:1.30〜2.76)、イミプラミン(RR:1.76、95%CI:1.35〜2.28)は、プラセボよりも優れ、phenelzine(RR:1.56、95%CI:1.25〜1.96)はイミプラミンよりも優れていた。・許容性については、プラセボと比較し、有意な治療の差は認められなかった。・分析力の喪失による可能性が高く、CINeMA全体の評価が低い/非常に低いため、高リスクバイアスおよびITTの試験を除外した場合には、感度分析の結果に対し、プラセボよりも優れる介入はないと考えられる。 著者らは「非定型うつ病に対してphenelzineは、他の薬剤よりも優れている可能性がある。また、いくつかの薬剤はプラセボよりも有効であり、ノルトリプチリンは他の薬剤よりも悪化のリスクが高かった。これらの結果を明らかにするためにも、より高品質の研究が求められる」と結論付けている。

480.

脳全体のアミロイドβとタウタンパク質の蓄積量は性別によって異なる

 女性や父親にアルツハイマー病(AD)歴がある人の方が、脳全体のアミロイドβ(Aβ)とタウタンパク質の蓄積量の間に強い関連が認められるという研究結果が、「Neurology」5月13日号に掲載された。 マギル大学(カナダ)のValentin Ourry氏らは、患者自身の性別やADを発症した親の性別がAβとタウタンパク質の蓄積に影響を与えるかどうかを検討するため、カナダで実施されたPresymptomatic Evaluation of Experimental or Novel Treatments for ADコホート研究から対象者243人のデータを分析した。 ベースライン時、すべての対象者の認知機能は正常であった。242人の対象者から長期的な認知機能データが得られた(追跡期間6.72±2.38年)。対象者のうち71人が軽度認知機能障害を発症した。解析の結果、女性の方がタウタンパク質の蓄積量が多く(標準化β=0.13±0.3)、脳全体のAβ蓄積量とタウタンパク質蓄積量の関連は男性より女性の方が強かった(同0.79±0.1)。脳全体のAβ蓄積量とタウタンパク質蓄積量の関連は、父親がADを発症している対象者の方が、母親がADを発症している対象者よりも強かった(同0.65±0.1)。女性において、Aβと関連のある海馬の萎縮は経時的に減少した(同0.24±0.1)。 著者らは、「女性の方が、そして驚いたことに、父親がADを発症している人の方が、Aβと関連のあるタウタンパク質が側頭葉内側部の外に広がりやすいと考えられる。このように女性ではタウ病変が形成されやすいにもかかわらず、Aβと海馬の萎縮の関連が低下した。これは何らかの脳のレジリエンスが働いているか、または女性で起こる萎縮の促進要因としてAβがそれほど重要ではないことを示唆している可能性がある」と述べている。

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