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50代半ばで精神科から一転・総合診療でへき地へ【ReGeneral インタビュー】第2回

50代半ばで精神科から一転・総合診療でへき地へ精神科医として、大学教授として、文筆家として幅広く活動してきた中塚尚子氏。ペンネーム「香山リカ」の名でご存じの方も多いでしょう。いま中塚氏は、北海道勇払郡むかわ町穂別診療所で総合診療の現場に立っています。そこは医師2名、19床のへき地診療所。なぜ大胆なキャリアチェンジを選んだのか。総合医育成プログラムでどのように学び、現場で何を感じているのか。背景とリアルを伺います。「このままでいいのか?」―50代・趣味の延長から学び直しへ――執筆や大学での講義など多方面でご活躍の中で、へき地での総合診療に転向したきっかけを教えてください。精神科の外来で患者さんと話していると、50代半ばに差し掛かるころに「このままでいいのか」と人生を振り返る方が少なくありません。私は立教大学での教育と週2回の精神科外来を長く続けていました。どちらもやりがいがあって楽しかった。それが50代中ごろになって、患者さんたちと同じように「このまま同じ道を歩き続けていいのか」と思ったんです。自分にもこの問いがやってくるのかと本当に驚きでした。そんなとき、北海道の空港で偶然再会したのが、東京医大の同級生です。公衆衛生の分野で活躍していた彼が、いまは北海道オホーツク海沿岸のへき地で診療していると聞いて、「そんな転身ができるのか!」という驚きが心に残りました。――この出来事はいつ頃の話ですか。2016年頃です。このときはまだ、大学教員定年後の選択肢の一つくらいの考えでした。ただ、私が卒業した時代は今のような初期臨床研修はなく、大学教員になってからの臨床は外来だけ。精神科以外のことはほとんど知らず、全身管理や入院医療からは20年以上離れていたのが実情です。将来へき地で働きたいと思っても、準備なしで無理なのは明らかでしょう。だから、少しでも準備をと思いながらも、趣味や現実逃避に近い気持ちでプライマリ・ケアの本を手に取り始めました。どこでどう学ぶ? ―断られ続けた先に――そこからどのように具体的な学び直しに動き始めたのですか。ちょうど翌年、立教大学で1年間のサバティカル(研究休暇)にあたりました。臨床や介護の事情で海外留学は難しかったこともあって、総合診療の求人がある病院に片端から連絡してみました。総合診療の現場を体験してみたくて。結果は…散々です。理由は年齢や勤務日数などさまざまでしたが、すべて断られたときは落ち込みました。現実は厳しいと諦めかけたときに見つけたのが、母校・東京医大病院総合診療科の募集です。「他科出身でこれからプライマリ・ケアを学びたい医師も歓迎」とあり、連絡すると「週1〜2回でも自分のペースでどうぞ」と本当に快く受け入れてくださいました。外来で患者さんを受け持ってほかの先生に相談しながら診療する形で、ひやひやしながらも現場に立たせてもらいました。診療してみると何が自分に足りないかが明らかになって、体系的に学びたいという気持ちが高まりました。そうして総合医育成プログラムを受講しはじめたのが2020年です。――大学教員・精神科外来・総合診療の外来と三足のわらじでの参加だったのですね。そうです。1年間の研究休暇が終わって、東京医大での外来は週に半日。土曜日は精神科外来、日曜日は大学の入試業務などが重なります。プログラムに出席できたのは限られた日程しかなく、受けたい科目と時間が合わず歯がゆい思いもしました。講師の先生方のご負担は相当だったと思いますが、土日中心の運営だったからこそ参加できたことに感謝しています。「ここまではプライマリ・ケアで、ここからは専門医に」―線引きを知る安心感――受講中に苦労したことはありますか。正直、医学的な知識は知らないことが多すぎて、「こんなにたくさんのことを知らないと総合診療はできないのか」と何度も落ち込みました。事前に視聴する動画講義には確認テストがあるのですが、不正解のバツ印を画面で見るのは結構ショックでした。当時は教員としてテストを出すほうで、自分がテストを受けるのは学生以来ですから!とはいえ、大学と違って知識を整理するためテストなので、これで落第になるわけではないのは救いです。――印象的だった講義はありますか。耳鼻科の講義です。広島で開業されている講師の先生が「ここまではプライマリで診てください。ここからは専門医に紹介してください」と、総合診療で診る範囲と専門医へ紹介すべきときの線引きを明確に示してくださって、とてもほっとしたことを覚えています。「すべてを知らなくてもいい」とその領域の専門家に言ってもらえることは、大きな安心につながり、総合診療へ踏み出す背中を強く押してくれました。それから、ノンテクニカルスキルコースのひとつとして受けたMBTI(性格タイプ別コミュニケーション)1)も印象に残っています。単なる性格テストだろうと侮っていましたが、ユング心理学に基づく理論だと知って、若い頃読んだユングの著作をもう一度勉強し直したいと思いました。意外な発見で嬉しかったですね。得意を活かし、苦手は支え合う ―グループで学ぶ楽しさ――プログラムを受ける中で楽しかったことは。ブレイクアウトルームでの交流が本当に楽しかったです。同期型学習当日は、世代も専門も違う医師たちが、オンラインで全国から集まります。自然に助け合う空気があって、たとえば循環器のセッションで心電図を読むグループワークでは、循環器が専門の先生が率先して噛み砕いて教えてくれました。テーマが変われば別の専門の先生が手を挙げて助けてくれる。「わからない」と言っても軽蔑されない。休みを使ってでも学びたいという共通の動機が、お互いに得意なことを惜しみなく分かち合う雰囲気を支えていたように思います。グループで話すことが学び続ける励みになりましたし、実際に総合診療に進むようになったのも、自己紹介やここに来た経緯などを皆さんと話していたことが大きかったです。――プログラムの改善点はありますか。修了後も学び続けられる仕組みがあると心強いですね。正直なところ、日本プライマリ・ケア連合学会の勉強会までは手が回っていません。OB・OG向けの中級編として、単発でいいので、知識のアップデートをできるとありがたいです。修了生たちのクローズドな場で、現場で困ったことやこうやって乗り越えたというような話ができたら、知識面でも心理的な面でもサポートになるのではないかと思います。いざ実地で診療を開始 ー専門性は活かせるのか? 精神科の強みと悩み――2022年4月の赴任からもうすぐ4年、総合医として働いてみてご感想はいかがですか。60歳を過ぎて総合診療を始めたので、最低限のことを知って飛び込んでいる感じです。総合診療なので当たり前ですが、循環器疾患の患者さんを診察して体系的に考えたいと思っても、次に来るのは糖尿病の方、その次は転んで足を骨折した方、そのあとには不眠を訴える方―まったく違う問題を抱える患者さんが次々にやってきます。その場その場の対応で手一杯になってしまうこともあります。プログラムのテキストを振り返りたい気持ちはあっても余裕がないまま、気がついたら年月が経っているというのが正直なところです。――精神科のバックグラウンドは総合診療でどのように役立っていますか。 精神科医はとにかく話を聞くことからしか始められません。血圧に問題がある患者さんの診察でも、自然と仕事や家族、毎日の生活について伺うので、患者さんは「こんなことまで先生に話していいの?」と驚かれることもあります。かっこつけた言い方をするなら、全人的医療に近づけるのは精神科出身の強みだと思います。一方で、身体医学と精神医学を統合して見ることの難しさもあります。どちらかが前に出すぎてしまい、バランスを取ることが今も課題です。自分一人で完璧にバランスを取るのはまだ修行中で、周囲の助けに本当に支えられています。――周囲からはどのようなサポートを受けていますか。所長は総合診療専門医で、10年以上ここで診療している方です。私より3歳ほど年下ですが、頼って何でも聞いてしまっています。彼は私の診療をさりげなく見守り、気付いたことを「こうしたほうがいいんじゃない?」と助言してくれます。私もわからないことがあれば恥も外聞もなく、うるさいくらい質問しています。プライドも何もなく質問できる性格が役に立ったと思いますし、それを受け止めてもらえるのが本当にありがたいです。患者さんとの信頼関係が作れているのも大きな支えです。たとえば、万一検査を忘れてしまったとき、正直にお伝えして「もう一度来ていただけますか?」とお願いすると、午前に来た方が午後に「いいよ」と再来してくださることも珍しくありません。患者さんが近隣に住んでいる地域医療の強みだとも思います。へき地医療は苦労か?それとも癒しか?――地域で働くことのよさは何でしょうか。患者さん・地域の方との関係性でしょうか。患者さんは医師不足を理解していらして、「よく来てくれたね」「困ったことはない?」と気遣ってくれるほどです。怒られるどころか、甘やかされているように感じることもあります。身を粉にして苦労をする覚悟で来たのに、逆に患者さんや地域の人たちに癒されながら診療しています。都会で疲れを感じている医師は皆、へき地で働いたらいいのにと思うくらいです。この地域の医療の課題は。今、医師は所長と私の2人体制で、看護師、技師、リハビリテーション職、薬剤師、事務、介護やケアマネジャーまでそろって理想的に回っています。ただ、どの職種も1~2人しかいません。誰かが欠ければ一気に崩れる脆弱性があります。所長も60歳を超え、私は2026年3月で定年になります。定年後も一年更新の再雇用制度で続ける予定でいますが、スタッフも高齢化していて、病気や退職が重なればガラガラと崩れてしまう。誰かが欠けたとき、一時的に苫小牧や札幌から応援があっても常勤で長く働く人はほぼ来ません。継続性の担保は、ここだけでなく全国で共通する構造的な課題だと思います。専門医をやりきった世代こそ、新しい役割を――人生の意味を問い直すとき、医師のアドバンテージは。「もう一度、聴診器を」というコピーを見たとき2)、医師の原点に戻ろうとシニア医に促す秀逸なコピーだと思いました。最初にお話ししたように50代以降に「この先どうしよう」と悩む人は本当に多い。そんな中、医師は専門を変えるだけで、もう一度だれかの役に立てる。これは大きな強みです。専門医をやりきり、子育ても終えた世代に「最後は地域のために人助けしませんか」と伝えたい。外科の先生なら手術で無理ができなくなる年齢から総合診療に移ってもいい。農作業がしたくて地方に来る医師がいるように、趣味と仕事を組み合わせることもできます。一生都会を離れるのは難しいとしても、3~4年のローテーションで人が回って地域に貢献するモデルがあれば、医師も地域ももっと柔軟に動けると思います。完璧を目指さなくていい まずは総合診療の地図を手に入れる――総合医育成プログラムを受けようと思う方へメッセージを。精神科の経験しかなかった私には難しい内容もあり、「これは私にはとてもできない」「無理だ」と心が折れることもありました。でも、そこで選別されるわけではありません。このプログラムは「私がまったく知らなかったこの領域にはこういう疾患があり、こういう問題がある」と、総合的に診るための見取り図を手に入れるものだと思うのです。当然、見取り図を手に入れる段階ですべてが身に付くわけはありません。実践の場でテキストを見返し、周りの助けを借りて、少しずつ身に付けていけばいい。まずは受けてみてください。世界旅行をするような感覚で、総合診療の扉を開けてみることをお勧めします。 引用 1) Myers-Briggs Type Indicatorの略称。ユングのタイプ論をもとにして開発された自己分析メソッドを活用した、 性格タイプ別コミュニケーションに関する研修。 2) 2016年、へき地医療に興味をもった中塚氏が偶然見つけた、地域医療研究会が主催する「医師研修プログラム」に関するリポート冒頭のキャッチコピー。 中塚氏は著書の中で以下のように述懐している。 「このリポートのタイトルは「『もう一度聴診器を』、第二の人生にへき地医療」。へき地医療への転身を考え始めた私に、これ以上“刺さるタイトル”もないだろう。ダイエットを始めた人が「『もう一度Mサイズを』、落ちない脂肪にこのサプリ」という広告を目にしたようなものだ」(香山リカ.精神科医はへき地医療で“使いもの”になるのか?.星和書店;2024.p28.)

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麻雀で統合失調症患者の認知機能は改善するか

 麻雀は、認知機能の向上と密接に関連していることが広く報告されている。しかし、統合失調症患者の認知機能に対する麻雀の影響については、これまで研究されていなかった。中国・重慶医学大学のRenqin Hu氏らは、統合失調症患者の認知機能改善を目的とした麻雀介入の有効性を評価するため、パイロット単盲検ランダム化比較試験を実施した。BMC Psychiatry誌2025年11月7日号の報告。 本パイロット研究では、統合失調症患者49例を対象に、介入群(麻雀と標準治療の併用)と対照群(標準治療)にランダムに割り付けた。介入群は、麻雀による認知トレーニングを1日2時間、週4日、12週間にわたり行った。主要認知アウトカムは、ケンブリッジ神経心理学的検査自動化バッテリー(CANTAB)を用いて評価した。副次的アウトカムには、生活の質(QOL)、臨床症状、無快感症、副作用、個人的および社会的機能を含めた。評価は、ベースライン時および4週目、8週目、12週目に実施された。 主な結果は以下のとおり。・介入群は、研究期間を通して反応時間と運動時間の両方に対し、改善効果を示した。・視覚記憶、新たな学習、戦略活用、空間記憶能力、複雑視覚課題の正確性に関して、介入群と対照群の間に有意な差は認められなかった。・介入群は、QOLにおいて緩やかな改善を示した。しかし、その他の副次的アウトカムでは、有意な変化は認められなかった。 著者らは「麻雀介入は、統合失調症患者の特定の認知機能とQOLに有益である可能性が示唆された。しかし、これらの結果は慎重に解釈する必要がある。本結果を明らかにするためにも、より大規模で多様なサンプルや長期介入によるさらなる研究が求められる」とまとめている。

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ベンゾジアゼピンの使用は認知症リスクにどの程度影響するのか?

 ベンゾジアゼピン系薬剤(BZD)は、不眠症や不安症の治療に幅広く使用されている。しかし、BZDの長期使用は、認知機能低下を加速させる可能性がある。認知症の前駆症状がBZD使用のきっかけとなり、逆因果バイアスが生じている可能性もあるため、エビデンスに一貫性が認められていない。カナダ・Universite de SherbrookeのDiego Legrand氏らは、BZDの使用量、投与期間、消失半減期が認知症発症と独立して関連しているかどうかを検証し、前駆期による交絡因子について検討を行った。Journal of the Neurological Sciences誌2025年12月15日号の報告。 Canadian Community Health Surveyから抽出したtorsade cohortを対象に、医療行政データベースにリンクした症例対照研究を実施した。BZDの使用量、投与期間、消失半減期は、多変量条件付きロジスティック回帰を用いて解析した。モデル1では、認知症リスク因子を調整した。モデル2では、BZDの潜在的な適応症(不眠症、不安症、うつ病)についても調整した。前駆症状の影響を検証するため、インデックス日を診断の1~10年前に変更した。症例群は50歳以上の認知症患者とし、対照群は性別、年齢、フォローアップ調査、教育歴でマッチングさせた。 主な結果は以下のとおり。・症例群1,082例および対照群4,262例において、モデル1では、BZDの使用が認知症と関連していることが示唆された(オッズ比[OR]:1.65、95%信頼区間:1.42~1.93)。・認知症リスクは、半減期が長い薬剤(OR:2.81)のほうが、半減期が中程度の薬剤(1.57)よりも高かった。・モデル2では、180日超の慢性的なBZDの使用は、診断前4年以内において、認知症リスクとの関連が認められた。 著者らは「BZDの使用は、認知症リスクの上昇と関連しており、半減期が長い薬剤で最も強い関連が認められた。BZDの慢性的な使用との関連が4年間の前駆症状に限定されていることは、適応による交絡、あるいは逆因果関係を示唆している。これらの知見は、高齢者におけるBZDの使用は、慎重かつ期限を限定して行うべきであることを強調している」と結論付けている。

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第40回 2050年には世界の3人に2人が都市住民に~「住む場所」が健康と寿命を左右する? 最新研究が示す都市の未来

便利だが、空気が悪くストレスがたまる都会。不便だが、自然豊かで空気がきれいな田舎。どちらが健康に良いかという議論は、古くから繰り返されてきました。しかし、世界中で急速な「都市化」が進む今、この問いはより複雑で、かつ切実なものになっています。2025年11月、Nature Medicine誌に掲載された論文1)は、都市での生活が私たちの健康に及ぼす影響について、社会的な不平等や気候変動といった視点を交えながら、多角的な分析を行っています。今回は、この論文を基に、都市という環境が私たちの体にどういった「見えない影響」を与えているのか、そしてこれからの都市生活において私たちが意識すべきことは何なのかを解説していきたいと思います。加速する都市化と、広がる「健康の格差」まず、私たちが直面している数字を見てみましょう。現在、人類の過半数がすでに都市部で暮らしており、その割合は2050年までに世界人口の3分の2に達すると予測されています。とくに、これからの都市化の主役は、高所得国ではなく、低・中所得国の都市です。都市は、創造性やイノベーションの中心地であり、経済的なチャンスや高度な医療サービスへのアクセスを提供する場所です。しかし一方で、都市は深刻な対立や暴力の場にもなりえます。さらに、急速で無秩序な都市の拡大は、非感染性疾患(糖尿病や心臓の病気など)、感染症、けがのリスクを高め、社会的な不平等を拡大させる要因にもなっています。この論文でとくに強調されているのが、都市内における「格差」の問題です。世界中で推定11億2,000万人もの人が、スラム街などの劣悪な環境で暮らしており、同じ都市に住んでいても、住むエリアによって健康状態や寿命に大きな開きがあることがわかっています。これは私の住むニューヨークエリアでも痛いほど感じることです。健康を決めるのは「病院」ではなく「街の構造」私たちは健康について考えるとき、「遺伝子」や「個人の生活習慣(何を食べるか、運動するか)」に目を向けがちです。しかし、この論文では、健康は「物理的環境」や「社会的環境」の複雑な相互作用によっても形作られると指摘されています。これを理解するために、少し深掘りしてみましょう。物理的環境大気汚染、騒音、猛暑、緑地の有無、住宅の質、交通機関の利便性などです。たとえば、歩道や自転車レーンが整備されている地域に住む人は、自然と身体活動量が増えますが、高速道路の近くに住む人は、排気ガスによる喘息や心臓病のリスクが高まります。社会的環境地域の安全性、暴力の有無、社会的孤立、人種差別、そして「ご近所付き合い」(社会的結束)などです。これらは心理的なストレスを通じて、私たちのホルモンバランスや免疫系に影響を与え、病気を引き起こす要因となります。重要なのは、これらの要因がバラバラに存在するのではなく、連鎖しているという点です。たとえば、所得の低い地域(社会的要因)には、工場や交通量の多い道路(物理的要因)が集中しやすく、結果としてそこに住む人々の健康が損なわれるという悪循環が生じています。つまり、健康を守るためには、単に病院を増やすといった介入だけでなく、都市計画そのものを見直す必要があるのです。「気候変動対策」は最強の「予防医療」この論文が提示するもう1つの重要な視点は、都市において気候変動対策が、一石二鳥になるという事実です。気候変動は、熱波による熱中症や洪水のリスクを高め、都市の住民の健康を脅かします。しかし、この対策として行われる政策の多くは、実は私たちの健康を改善することがわかってきました。たとえば、都市内の移動を自動車から徒歩や自転車、公共交通機関にシフトさせる「アクティブ・トランスポート」の推進は、温室効果ガスの排出を減らすだけでなく、大気汚染を改善し、人々の運動不足を解消します。また、街中に木々を植え、緑地を増やす「グリーンインフラ」の整備は、ヒートアイランド現象を緩和して気温を下げるだけでなく、住民のメンタルヘルスを改善し、ストレスを減らす効果も実証されています。論文ではさらに、住宅の断熱性能を高めることも、エネルギー効率を上げてCO2を削減すると同時に、寒さや暑さによる健康被害を防ぐ有効な手段であると述べられています。つまり、地球に優しい街づくりは、そのまま「体に優しい街づくり」になるのです。私たちが知っておくべきこと、できることでは、こうした研究結果を受けて、私たちはどうすればよいのでしょうか。まず、「住環境は健康リスクである」という認識を持つことです。自分が住んでいる場所の空気はきれいか、歩きやすいか、緑はあるか、安全か。引っ越しや住宅選びの際には、部屋の広さや家賃だけでなく、「健康に資する環境か」という視点を持つことが重要なのだと思います。次に、政策への関心です。自転車専用レーンの設置や公園の整備、大気汚染規制といった都市政策は、単なるインフラ整備ではなく、公衆衛生上の介入そのものです。政治的な意思がなければ、こうした健康的で公平な都市は実現できないでしょう。ただし、まだ解明されていないことも数多く残されています。たとえば、どのような政策に最も効果があるのか、特定の地域で成功したモデルは他の都市でも通用するのかといった点です。今後の研究では、都市間のデータを比較し、政策の効果が検証され続ける必要があるでしょう。都市化は避けられない未来です。しかし、その都市が私たちの寿命を縮める場所になるのか、それとも健康で豊かな生活を支える場所になるのかは、これからの都市計画と、それを監視・支持する私たちの意識にかかっているともいえます。人類が今後も健康に生き残り、繁栄するためには、環境に配慮した都市化以外に選択肢はないのかもしれません。 参考文献 1) Diez Roux AV, Bilal U. Advancing equitable and sustainable urban health. Nat Med. 2025;31:3634-3647.

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日本の精神科外来における頭痛患者の特徴とそのマネジメントの現状

 頭痛は、精神科診療において最も頻繁に訴えられる身体的愁訴の1つであり、しばしば根底にある精神疾患に起因するものと考えられている。1次性頭痛、とくに片頭痛と緊張型頭痛は、精神疾患と併存することが少なくない。しかし、精神科外来診療におけるこれらのエビデンスは依然として限られていた。兵庫県・加古川中央市民病院の大谷 恭平氏らは、日本の総合病院の精神科外来患者における頭痛の特徴とそのマネジメントの現状を明らかにするため、レトロスペクティブに解析を行った。PCN Reports誌2025年10月30日号の報告。 2023年4月〜2024年3月に、600床の地域総合病院を受診したすべての精神科外来患者を対象に、レトロスペクティブカルテレビューを実施した。全対象患者2,525例のうち、頭痛関連の保険診断を受けた360例(14.3%)を特定し、頭痛のラベル、治療科、処方薬に関するデータを抽出した。カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)を標的としたモノクローナル抗体について、追加の処方を含む探索的症例集積を行うため、観察期間を2025年3月まで延長した。 主な結果は以下のとおり。・頭痛関連の保険診断を受けた360例において、頻度の高い病名は、頭痛(203例、56.4%)、片頭痛(92例、25.6%)、緊張型頭痛(46例、12.8%)であった。群発頭痛と薬物乱用性頭痛はそれぞれ1例(0.3%)であった。・頭痛治療は、精神科(153例、42.5%)で最も多く行われており、次いで神経内科(42例、11.7%)、脳神経外科(40例、11.1%)、一般内科(28例、7.8%)、リウマチ科/膠原病科(15例、4.2%)の順であった。・使用された薬剤クラスは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)(40例、11.1%)、アセトアミノフェン(38例、10.6%)、トリプタン系薬剤(23例、6.4%)、漢方薬(16例、4.4%)、抗CGRPモノクローナル抗体(6例、1.7%)などであった。・薬剤レベルでは、アセトアミノフェン(38例)が最も多く、次いでロキソプロフェン(33例)、ゾルミトリプタン(14例)、五苓散(8例)、スマトリプタン(6例)、葛根湯(6例)、ジクロフェナク(4例)、バルプロ酸(4例)、ナラトリプタン(3例)の順であった。・2025年3月までの患者7例を対象とした探索的CGRP解析では、6例が女性で、平均年齢は48.4±9.2歳であった。・精神疾患の併存疾患は多様であり、摂食障害、双極症、心的外傷後ストレス障害、社会不安障害を伴う気分変調症、統合失調症、自閉スペクトラム症、神経症性うつ病などが併存疾患として挙げられた。・すべての症例において頭痛の改善が認められた。2例は再発性発作のため、他の抗CGRPモノクローナル抗体への切り替えを必要としたが、その効果は維持された。1例は発疹のため一時的に投与を中止したが、その後、他の抗CGRPモノクローナル抗体を再開した。なお、気分/不安の中期的変化は限定的であった。 著者らは「精神科外来において、1次性頭痛は一般的であり、精神科で頻繁にマネジメントされていることが明らかとなった。抗CGRPモノクローナル抗体は、精神疾患が併存している患者においても頭痛の緩和をもたらすが、精神症状は改善したわけではなく、頭痛に特化したケアと並行してメンタルヘルス介入を行う必要性が示唆された。精神科における専門分野横断的な連携と早期の頭痛評価を強化することが重要であると考えられる」と結論付けている。

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第293回 佳境迎える診療報酬改定議論、「本体」引き上げはほぼ既定路線も、最大の焦点は病院と診療所間の「メリハリ」

診療報酬「本体」は引き上げの方向こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。師走となり、診療報酬改定の議論が白熱してきました。各紙報道によれば、診療報酬のうち医薬品などの「薬価」部分は小幅引き下げの見通しの一方、医師の技術料や人件費に当たる「本体」部分は2024年度改定以上の引き上げが見込まれ、全体ではプラス改定となりそうです。12月7日のNHKも、「政権幹部の1人は『高市総理大臣は、引き上げに意欲を見せており、プラス改定になる方向だ』と話すなど、人件費などに充てられる『本体』の引き上げ幅が焦点となる見通しです」と報じています。最大の関心事は病院と診療所それぞれに対する配分引き上げ幅はもちろん重要ですが、医療関係者の最大の関心事は病院と診療所、それぞれに対する配分でしょう。医療経済実態調査や財政審の「秋の建議」など、次期改定を左右する様々な発表が相次ぎ、事態は混沌としています。全国各地の病院の窮状に加え、今年は日本維新の会が自民党との連立政権に加わったことで、診療所院長が主な構成員である日本医師会にとってはいつになく厳しい状況となっています。最近では新聞だけではなくテレビでも、病院経営の苦しさが連日のように報道されています。日本医師会は「財務省の『二項対立による分断』には、絶対に乗ってはいけない」(11月29日に開かれた九州医師会連合会における日本医師会の松本 吉郎会長の発言)と警戒感をあらわにしています。特定機能病院は70.7%、高度急性期病院は69.0%が経常赤字関連する最近の発表をおさらいしましょう。まず、医療経済実態調査です。次期診療報酬の改定に向けた基礎的な資料となるものですが、病院の経営状況の悪さが改めてクローズアップされました。厚生労働省は11月26日、中医協の調査実施小委員会と総会で第25回医療経済実態調査の結果を公表しました。今回の調査は2023~24年度の経営状況が対象となり、1,167の病院(回答率50.2%)、医療法人立と個人立を合わせて2,232の診療所(同54.9%)から回答を得ています。それによると、一般病院の開設主体別では、医療法人(402施設)は2023年度がマイナス1.1%、2024年度がマイナス1.0%でほぼ横ばい、公立(130施設)はマイナス17.1%からマイナス18.5%へ悪化、国立(24施設)はマイナス5.8%からマイナス5.4%、公的(51施設)はマイナス5.5%からマイナス4.1%と若干改善したものの赤字幅は依然大きいままでした。医業損益は、病院全体で67.2%、一般病院で72.7%が赤字でした。経常損益でも病院全体で58.0%、一般病院で63.3%が赤字でした。とくに特定機能病院は70.7%、高度急性期病院は69.0%が経常赤字で、急性期病院の苦境が際立っていました。診療所経営も悪化したものの病院ほどではない一方、診療所ですが、医療法人立の無床診の損益率は2024年度が5.4%と、2023年度の9.3%から悪化しました。医療法人立の無床診の平均損益率は診療科で差が大きく、低かったのは外科(回答49施設)0.4%、精神科(25施設)1.6%、産婦人科(35施設)2.7%、整形外科(143施設)3.1%、内科(581施設)が4.2%、小児科(86施設)4.7%などでした。一方、高い収益を上げたのは耳鼻咽喉科(91施設)の9.5%、眼科(96施設)の8.7%、皮膚科(71施設)の8.1%などでした。なお、個人立の無床診療所は院長等の報酬が費用に含まれないために数値が高く出る傾向がありますが、2024年度は29.1%と、2023年度(32.3%)から低下しました。端的に言えば「病院はとても厳しい、診療所もそこそこ厳しいものの、病院ほどではない」というのが医療経済実態調査の結果ということになります。このままでは「分が悪過ぎる」と考えたのでしょうか? 日本医師会の江澤 和彦常任理事は12月3日の定例記者会見で、「病院・診療所共に経営の悪化は深刻であり、存続が危ぶまれる状況が明白になった」と指摘。「病院はすでに瀕死の状態であり、ある日突然倒産するという事態が全国で起きている」ことに危機感を示し、診療所も約4割が赤字であるとして、「規模が小さく脆弱な診療所は、これ以上少しでも逆風が吹けば、経営が立ち行かなくなる」と語り、危機に直面しているのは病院だけではないことを強調しました。財務省は「メリハリ」強調、診療所の診療報酬の適正化を提案医療経済実態調査が公表された6日後の12月2日には、財務省の財政制度等審議会(十倉 雅和会長・住友化学相談役)が、「2026年度予算の編成等に関する建議」(通称、秋の建議)を取りまとめ、片山 さつき財務相に手渡しました。秋の建議では2026年度診療報酬改定について「メリハリある診療報酬の配分を実現することは、財政当局や保険者にとって極めて重要なミッションと言えよう。これを実現するためには、医療機関の経営状況のデータを精緻に分析することが必要である。特に物価・賃金対応については、医療機関の種類・機能ごとの経営状況や費用構造に着目した上で、本来は過去の改定の際に取り組むべきであった適正化・効率化を遂行することも含め、メリハリときめ細やかさを両立させた対応を強く求めるものである」と「メリハリ」という言葉を何度も使って医療機関の種類・機能ごとに差を付けるべきだと主張しました。その上で、「1)赤字経営の診療所が顕著に増加しているという主張もあるが、医療機関の経営状況に関する厚生労働省等のデータによると、物価高騰の中でも、診療所の利益率や利益剰余金は全体として高水準を維持していること、2)他職業との相対比較における開業医の報酬水準の高さは国際的にも際立っていることなどを踏まえ、診療所の診療報酬を全体として適正化しつつ、地域医療に果たす役割も踏まえて、高度急性期・急性期を中心とする病院やかかりつけ医機能を十全に果たす医療機関の評価に重点化すべきである」と、診療報酬の病院への重点配分と診療所の診療報酬の適正化を改めて主張しています。11月に開かれた財政制度等審議会・分科会での主張とほぼ同じで、診療所をターゲットとしている点は変わりません。秋の建議の社会保障関連ではその他、「かかりつけ医機能の報酬上の評価」の再構築、リフィル処方箋の拡充、OTC類似薬を含む薬剤の自己負担の見直しなど提言しています。「かかりつけ医機能の報酬上の評価」は個々の診療報酬についても言及、かかりつけ医機能報告制度上、基本的な機能を有していない診療所の初診料・再診料の減算措置導入や、外来管理加算や特定疾患管理料、生活習慣病管理料などの適正化を求めています。なお、昨年の秋の建議まで、財務省が繰り返し提言してきた「診療報酬の地域別単価の導入」は、今回は盛り込まれませんでした。経団連、健保連、維新も「メリハリ」求めるこうした動きの中、診療報酬の「メリハリ」を求める声は各方面からも高まっています。経団連(日本経済団体連合会)は11月28日、健康保険組合連合会や日本労働組合総連合会(連合)など医療保険関係5団体と共に、上野 賢一郎・厚生労働大臣と面会し、2026年度診療報酬改定に関する共同要請を行いました。要請では、「高齢化に相当する医療費の増加に加え、医療の高度化等により医療費が高騰し続け、被保険者と事業主の保険料負担は既に限界に達している」状況下での診療報酬改定について、「基本診療料の単純な一律の引上げは、病床利用率や受療率の低下による影響を含めて医療機関の減収を医療費単価の増加によって補填する発想であり、患者負担と保険料負担の上昇に直結するだけでなく、医療機関・薬局の経営格差や真の地域貢献度が反映されず、非効率な医療を温存することになるため、妥当ではない」と従来の「単純な一律の引上げ」を批判、その上で、「優先順位を意識し、確実な適正化とセットで真にメリハリの効いた診療報酬改定を行うこと。その際には、診療所・薬局から病院へ財源を再配分する等、硬直化している医科・歯科・調剤の財源配分を柔軟に見直すこと」と、病院への重点配分を強く求めています。さらに、12月4日には日本維新の会が社会保障制度改革の推進を求める申し入れを高市 早苗首相に手渡しています。申し入れでは、2026年度診療報酬改定について、「診療所の経営状況の違いを踏まえた入院と外来のメリハリ付け、医科・歯科・調剤の固定的な配分の見直しなど診療報酬体系の抜本的な見直しを行うこと」を求めるとともに、「抜本的見直しの方向性について、中央社会保険医療協議会に任せることなく、年末に政治の意思として決定し、示すこと」を要請しました。「今やらないでいつやる?」と病院団体の関係者は思っているのでは日本医師会は「二項対立による分断」と言いますが、そもそも病院経営と診療所経営の”格差”を形作ってきた一因は日本医師会にもあるのではないでしょうか。年末に診療報酬の改定率が決まった後も、年明けの中央社会保険医療協議会総会で、2026年度診療報酬改定の答申が行われるまで「メリハリ」を巡る戦いは続くでしょう。「今やらないでいつやるんだ」と病院団体の関係者は思っているに違いありません。次期改定で本当の意味での「メリハリ」が付けられるかどうか、今後の議論の行方に注目したいと思います。

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日本におけるアルツハイマー病診断の時間短縮フロー〜東京大学

 アルツハイマー病の診断において、血液バイオマーカーによる検査が注目されており、日本でも保険適用が待ち望まれている。東京大学の五十嵐 中氏らは、日本でのレカネマブ治療について、異なるワークフローにおける現在の診断検査の状況を推定するため、本研究を実施した。Alzheimer's & Dementia誌2025年10・11月号の報告。 ダイナミックシミュレーションを用いて、4つのシナリオ(現在の診断ワークフロー、トリアージツールとしての血液バイオマーカー[BBM]検査、確認診断のためのBBM検査およびこれらの併用)に関して、待ち時間と治療対象患者数を推定した。検査の需要を推定するため、オンライン調査により支払意思額(WTP)と無形費用を評価した。主な結果は以下のとおり。・現在のワークフロー下における最大平均待ち時間は6.4ヵ月と推定され、BBMの導入により待ち時間の減少が認められた。・BBMに基づく確認診断により、治療対象患者数が大幅に増加した。・BBMによるトリアージ検査は、待ち時間の短縮をもたらしたが、一時的に治療対象患者数を増加させた。 著者らは「PETや脳脊髄液検査をBBMに基づく診断に置き換えることで、コスト削減による治療対象患者数の増加が期待され、検査需要の増加につながる可能性がある」としている。

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第296回 脳の水はけをよくする手術がアルツハイマー病患者に有効

脳の水はけをよくする手術がアルツハイマー病患者に有効脳全域の水流を生み出す細道が10年以上前に見つかり、以来、その謎めいた水路がアルツハイマー病などの神経変性疾患に寄与しているかどうかが検討されるようになりました。今や時代は進み、その流れを改善する方法が実際にヒトで試験されるに至っています。米国・サンディエゴでの先月11月中旬のSociety for Neuroscience(SfN)学会では、脳の水流を改善する薬やその他の手段の手始めの検討の有望な成果をいくつかのチームが発表しています。動物やヒトの脳から有毒なタンパク質を除去しうることや、神経変性疾患を模すマウスの症状を回復するなどの効果が得られています1)。とくに中国での取り組みは随分と先を行っており、アルツハイマー病の特徴のタンパク質を洗い流すのを後押しする手術をヒトに施した成果がこの10月初めに報告されました。その成功の宣言を心配する向きがある一方で歓迎もされました。その有望な成果に触発された米国の外科医のチームは、よりしっかりとした臨床試験を計画しており、早ければ来年早々にアルツハイマー病患者の組み入れを始めるつもりです。手術の試みはとても信じられないとワシントン大学の神経科学者Jeffrey Iliff氏はScience誌に話しています。しかし、13年前には知る由もなかった脳の水路が見つかったように、手術は効かないといういわれはないと同氏は言っています。さかのぼること13年ほど前の2012年に、他でもないIliff氏とその同僚が脳の細胞のアストロサイトによって形成される脳の水路一帯を初めて報告しました2)。Iliff氏らはそれをグリンパティック経路と名付けました。グリンパティック経路は脳の血管の周りに形成され、収縮と弛緩を繰り返すことで脳脊髄液(CSF)を押し出します。そうして血管に沿って流れていく間に脳の奥深くからの老廃物が回収され、髄膜リンパ管を経由して首のリンパ節に至り、やがては血流に排出されます。グリンパティック経路の活動は就寝中に最も盛んで、不眠、外傷性脳損傷(TBI)、脳血管疾患で妨げられます。そのような何らかの要因で脳の洗浄が滞ることと認知症を生じやすくなることの関連が調べられるようになっており、たとえばIliff氏らがmedRxiv誌に最近掲載した研究成果では、ヒトのグリンパティック経路がアルツハイマー病を特徴づける2つのタンパク質、ベータアミロイドとタウを睡眠中に脳の外に排出することが示されています3)。中国で開発された脳を洗い流す外科処置はリンパ浮腫の一般的な治療手段に似たもので、dcLVA(deep cervical lymphovenous anastomosis)と呼ばれます。dcLVAは首のリンパ節やリンパ管を頸静脈に繋いで脳の排水の向上を目指します。2020年に中国の形成外科医のQingping Xie氏がアルツハイマー病患者にdcLVAを初めて施しました。今やXie氏はその治療を中国やその他の国に向けて宣伝しています。他にも熱心な研究者は多いらしく、最近の報告によると今年7月1日時点で30弱の臨床試験の登録があり、アルツハイマー病患者およそ1,300例が組み入れられたか組み入れ予定となっています4)。先に触れたとおり、この10月初めには中国の鄭州大学のJianping Ye氏らが最もまとまった症例数のdcLVA手術の成績を報告しました。同国の軽~中等度のアルツハイマー病患者41例にdcLVAが施され、脳の排水の指標とされたAβやタウの血液やCSFの値の改善が3ヵ月時点の検査でおよそ3例に2例以上にみられました5)。また、病院での3ヵ月時点の認知機能検査で18例中9例のアルツハイマー病は進行が止まってむしろ回復傾向にありました。Ye氏らの報告には批判の声もあり、その中には中国の神経外科医からのものも含まれます。アルツハイマー病を脳のリンパ浮腫の一種とみなすYe氏らの考えを疑う研究者もいます。グリンパティック経路の不調の多くはアストロサイトの内側を発端としており1)、詰まりを取り除けば済むという話ではなさそうだからです。一方、Ye氏らの試験がだいぶ拙いとは知りつつもその有望な成績に見入ってしまった研究者もいます。米国のエール大学の形成外科医のBohdan Pomahac氏はdcLVAをさらに突っ込んで研究すべく、ワシントン大学のチームと組んで動物実験を行っています。すべてうまくいって今月の資金集めが済んだら、慎重に選定した初期アルツハイマー病患者にdcLVAを施す臨床試験をPomahac氏は開始するつもりです1)。手術ではなく薬で脳の水はけをよくする試みも研究されており、家の配管を定期的に掃除するように脳のグリンパティック経路を定期的または日常的に手入れする手段がやがては実現するかもしれません。参考1)Brain’s ‘plumbing’ inspires new Alzheimer’s strategies-and controversial surgeries / Science 2)Iliff JJ, et al. Sci Transl Med. 2012;4:147ra111.3)Dagum P, et al. The glymphatic system clears amyloid beta and tau from brain to plasma in humans. medRxiv. 2025 Oct 16.4)Lahmar T, et al. J Prev Alzheimers Dis. 2026;13:100335.5)Ma X, et al. J Alzheimers Dis Rep. 2025;9:25424823251384244.

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治療抵抗性うつ病の認知機能維持に最適な薬物治療戦略は?

 高齢者における治療抵抗性うつ病に対するさまざまな抗うつ薬治療戦略が認知機能にどのような影響を及ぼすかは、これまで明らかになっていなかった。米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のHanadi A. Oughli氏らは、高齢の治療抵抗性うつ病に対する薬物療法が認知機能に及ぼす影響を評価した。The Lancet Healthy Longevity誌2025年10月号の報告。 OPTIMUM試験の事前に規定された2次解析を行った。OPTIMUM試験は、さまざまな薬物療法の増強または切り替え戦略を比較した実践的なランダム化有効性比較試験であり、60歳以上の治療抵抗性うつ病患者を対象に実施された試験である。対象患者は、5つの大学医療センター(米国:4施設、カナダ:1施設)から募集された。ステップ1では、治療抵抗性うつ病患者391例をアリピプラゾール増強群(1日最大15mgまで)、bupropion増強群(1日最大450mgまで)、bupropion切り替え群(1日最大450mgまで)に1:1:1の割合でランダムに割り付け分析した。ステップ2では、ステップ1の適応外患者またはこのステップ1で寛解に達しなかった患者182例をリチウム増強群(目標血漿中濃度:0.4~0.8mEq/L)またはノルトリプチリンへの切り替え群(目標血漿中濃度:80~120ng/mL)に1:1でランダムに割り付け分析した。各ステップは10週間継続した。ステップ1またはステップ2の完了後、12ヵ月間のフォローアップ調査を行った。主要アウトカムは、ステップ1およびステップ2終了時の認知機能とし、米国国立衛生研究所(NIH)ツールボックス認知バッテリーの一部であるNIHツールボックス流動性認知複合スコアを用いて評価し、ITT集団において解析した。ITT集団とプロトコール適合集団の両方において実施された探索的事後解析では、流動性認知複合スコアを構成する個々の認知課題の変化を評価した。 主な結果は以下のとおり。・OPTIMUM試験には、2017年2月22日~2019年12月31日に742例が登録された。・ステップ1では、対象患者619例(83%)をアリピプラゾール増強群(211例)、bupropion増強群(206例)、bupropion切り替え群(202例)にランダムに割り付け、それぞれ128例、136例、127例の認知機能に関するデータを分析した。・ステップ2では、対象患者248例をリチウム増強群(127例)またはノルトリプチリン切り替え群(121例)にランダムに割り付け、それぞれ89例、93例の認知機能に関するデータを分析した。・流動性認知複合スコアは、10週間にわたり薬物治療間で有意な差は認められなかった。・ステップ1では、フランカー抑制制御および注意検査において時間×群間交互作用が観察された(F[2,266]=3.97、p=0.020)。また、対比分析では、アリピプラゾール増強群はbupropion増強群と比較し、抑制制御の上昇と関連していることが示唆された(t=−2.82、p=0.0052)。・ステップ2では、フランカー抑制制御および注意検査において時間×群間交互作用が観察され(F[1,176]=5.20、p=0.024)、ノルトリプチリン切り替え群で抑制制御の有意な上昇が認められたのに対し(最小二乗平均の変化:+2.0、t=2.33、p=0.021)、リチウム増強群では上昇が認められなかった(-0.7、t=-0.89、p=0.37)。・治療中のうつ症状の変化は認知機能の変化と相関していなかった。・ステップ1では、bupropion増強群で転倒率が最も高かったのに対し、ステップ2ではリチウム増強群とノルトリプチリン切り替え群で転倒率は同程度であった。・重篤な有害事象の発生率は、ステップ1の3群(0.07~0.12)とステップ2の2群(0.09~0.10)で同程度であった。 著者らは「全体として、全般認知機能は薬物治療間で差が認められなかった。アリピプラゾール増強群とノルトリプチリン切り替え群は、bupropion増強群またはリチウム増強群と比較し、抑制制御において若干の優位性がある可能性が示唆された」としている。

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第272回 改正医療法が成立、来年度から病床削減・医師偏在・医療DXが同時始動へ/厚労省

<先週の動き> 1.改正医療法が成立、来年度から病床削減・医師偏在・医療DXが同時始動へ/厚労省 2.OTC類似薬と低価値医療について、保険給付の選別が本格化/政府 3.出産無償化へ正常分娩を保険適用、全国一律「分娩基本単価」導入へ/厚労省 4.高齢者の応能負担強化、「通い放題」外来特例にメス/政府 5.美容医療に国がメス 改正医療法で安全管理と情報公開を義務化/厚労省 6.訪問看護付高齢者住宅の過剰請求、2026年度改定でどこまで是正できるか/厚労省 1.改正医療法が成立、来年度から病床削減・医師偏在・医療DXが同時始動へ/厚労省医師偏在対策、病床削減支援、医療DXの推進などを柱とする改正医療法が、2025年12月5日の参議院本会議で可決・成立した。2026年4月以降、順次施行される。今回の改正は、2024年末に厚生労働省がまとめた医師偏在対策と、2040年を見据えた地域医療構想の再設計、さらに電子カルテの全国共有を軸とする医療DXを同時に動かす「構造改革法」と位置付けられる。最大の注目点の1つが「病床削減への公的支援の明文化」である。都道府県は、医療機関が経営安定のため緊急に病床数を削減する場合、支援事業を実施でき、国が予算の範囲内で費用を補助する。2025年度補正予算では約3,490億円の「病床数適正化緊急支援基金」を創設し、稼働病床1床当たり410万円、非稼働病床では205万円を支給する。これまでの補助分と合わせ、最大約11万床の削減が想定され、削減後は基準病床数も原則引き下げられる。実質的に国主導での病床整理が本格化する。医師偏在対策も制度として動き出す。都道府県は「重点医師偏在対策支援区域」を設定し、当該地域で勤務する医師に対して保険料財源による手当を支給できる。その一方で、外来医師が過剰な都市部では、無床診療所の新規開業に事前届け出制を導入し、在宅医療や救急など不足機能の提供を要請できる。したがわない場合は勧告・公表、さらには保険医療機関指定期間の短縮も行われ得る。都市部での開業自由は、制度的に大きく制約される局面に入る。そして、医療DXでは、2030年末までに電子カルテ普及率100%を目標に明記された。電子カルテ情報共有サービスの全国展開、感染症発生届の電子提出、NDB(全国レセプト・健診データ)の仮名化データ提供などが法的に後押しされる。今後は医療機関にとって、電子カルテ未導入のままでは制度対応が困難になる。さらに、地域医療構想は「病床中心」から「入院・外来・在宅・介護の一体設計」へ刷新される。高齢者救急、地域急性期、在宅連携、急性期拠点、専門機能といった医療機関機能の報告制度が新設され、2040年を見据えた再編の基盤となる。加えて、美容医療への規制整備も盛り込まれ、安全管理措置の報告義務や管理者要件(一定期間の保険診療従事歴)などが導入される。自由診療偏重への歯止めが制度として明確になった。今回の改正は、病床・開業・人材・DX・自由診療までを横断的に再設計する点に本質がある。医療機関、勤務医、開業医すべてにとって、経営・キャリア・診療体制の前提条件が同時に変わる転換点となる。 参考 1)医療法等の一部を改正する法律案の概要(厚労省) 2)医師の偏在対策へ 改正医療法など参院本会議で可決・成立(NHK) 3)医師の偏在是正、開業抑制へ DX推進や手当増も、改正医療法(東京新聞) 4)都市部の診療所、26年度から開業抑制 改正医療法が成立(日経新聞) 5)改正医療法が成立 病床削減支援盛り込み 美容医療は規制整備へ(毎日新聞) 6)病床削減の支援事業盛り込む、改正医療法成立 医療機関機能の報告制度を創設(CB news) 2.OTC類似薬と低価値医療について、保険給付の選別が本格化/政府政府は社会保障改革の柱として、「OTC類似薬」の患者負担見直しを2025年内に結論付け、2026年度予算・制度改正へ反映させる方針を明確化した。高市 早苗首相は経済財政諮問会議で、OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直し、金融所得の反映を含む応能負担の徹底、高額療養費制度の見直しを年末までに整理するよう財務相・厚労相に指示した。狙いは現役世代の保険料負担軽減と医療費抑制である。一方、自由民主党と日本維新の会の協議は難航している。維新はOTC類似薬の「保険適用除外」による最大1兆円の医療費削減を主張してきたが、自民・厚生労働省は必要な受診抑制や患者負担増への懸念から慎重姿勢を崩していない。現在は「保険適用を維持した上で、特別料金として定率上乗せする案」と「原則、自費化し配慮対象のみ保険適用とする案」が併存し、党内でも意見が割れている。これに対し、全国保険医団体連合会はOTC類似薬の保険適用継続を求める21万筆の署名を提出し、患者団体・医療団体の反対姿勢も鮮明化した。同時期に厚労省は「低価値医療」対策にも着手し、風邪への抗菌薬投与や腰痛への一部鎮痛薬など、科学的有効性に乏しい診療行為を2028年度診療報酬改定で抑制・保険除外も視野に入れる方針を示した。OTC類似薬の問題は、単なる薬剤負担の見直しにとどまらず、「保険給付の選別」と「低価値医療排除」を同時に進める医療費構造改革の試金石となりつつある。 参考 1)社会保障分野における今後の対応について(経済財政諮問会議) 2)高市首相 「OTC類似薬」含む薬剤自己負担など年末までに結論を(NHK) 3)風邪に抗菌薬・腰痛に一部鎮痛薬、効果乏しい「低価値医療」は年1,000億円以上…医療保険の対象除外化も検討(読売新聞) 4)「OTC類似薬」足踏みの自維協議 保険適用除外、維新内で意見分裂(朝日新聞) 5)OTC類似薬の保険適用「継続を」21万筆署名提出-保団連(CB news) 3.出産無償化へ正常分娩を保険適用、全国一律「分娩基本単価」導入へ/厚労省厚生労働省は、12月4日に開かれた社会保障審議会医療保険部会で、正常分娩を公的医療保険の対象とし、全国一律の「分娩基本単価」を設定して自己負担をゼロにする案を提示した。現在の出産育児一時金(50万円)は廃止し、分娩費を現物給付で賄う方向で、導入は2027年度以降とされる。正常分娩はこれまで自由診療で、24年度の平均費用は約52万円と物価高もあり上昇傾向となっており、東京都と熊本県では20万円超の地域差もある。出産育児一時金の引き上げに合わせて費用も上昇するという「いたちごっこ」や、費用が一時金を下回る場合に差額が妊婦側に渡る仕組みへの公平性の疑問も指摘されてきた。新制度では、標準的な出産費用をカバーする全国一律の基本単価を設定し、「基本単価×分娩件数」を産科医療機関の収入とする包括払いが想定されている。安全な分娩のための手厚い人員・設備体制や、ハイリスク妊婦の積極受け入れには加算評価を行う方向である。その一方で、帝王切開など異常分娩や妊娠合併症への対応は従来通り3割負担の保険診療を継続し、「お祝い膳」やエステ、写真撮影などアメニティは保険外で原則自己負担とする。産科側からは、基本単価が不十分だとクリニックの撤退が進み、周産期医療体制が崩壊しかねないとの懸念が強く、日本産婦人科医会などは慎重な検討を要請している。他方で、包括払いにより年間収入の予見可能性が高まることや、サービス内容の「見える化」により妊婦が納得して施設を選択できる利点もある。厚労省は施設の準備状況を踏まえ、現行の一時金制度と新制度を一定期間併存させつつ段階的に移行する案も示しており、少子化対策と産科医療提供体制の両立をどう図るかが、今後の焦点となる。 参考 1)医療保険制度における出産に対する支援の強化について(厚労省) 2)出産無償化へ「分娩費用」を全額公的保険で、全国一律の「公定価格」定める案提示…実施は27年度以降の見通し(読売新聞) 3)出産無償化へ、分娩費用を全国一律に 厚労省案「お祝い膳」など対象外 業界、収益悪化を懸念(日経新聞) 4)分娩費に「基本単価」設定 厚労省案 手厚い人員体制などへの評価検討(CB news) 5)産科医療機関を維持できる水準の「正常分娩1件当たりの基本単価」を設定、妊産婦の自己負担はゼロへ-社保審・医療保険部会(Gem Med) 4.高齢者の応能負担強化、「通い放題」外来特例にメス/政府12月5日に開かれた経済財政諮問会議で、2026年度予算編成方針として、医療・介護費の「応能負担」の徹底と、現役世代の保険料率の上昇を止め引き下げを目指す方針が示された。民間議員からは、物価高・賃上げを診療報酬などに適切に反映しつつ、高齢者を中心に金融所得や資産も踏まえた負担を求めるべきとし、OTC類似薬を含む薬剤自己負担、高額療養費制度、介護利用者負担の見直しを年末までに結論付けるよう求めた。厚生労働省はこれと並行して、高額療養費制度の具体的な見直し案を調整中である。70歳以上の外来医療費を抑える「外来特例」については、月額上限(現行1万8,000円など)の引き上げや対象年齢引き上げを検討し、現役世代に存在しない実質「通い放題」状態を是正する。その一方で、がん・難病など長期療養患者向けの「多数回該当」は、上限引き上げ案への強い反発を受け、上限額据え置きとする方向で一致しつつあり、月単位で上限に届かない患者にも対応するため、新たに年間の負担上限を設ける案も示された。所得区分も細分化し、高所得高齢者には2~3割負担を拡大する一方、低所得層の負担増は避けるとされる。さらに、後期高齢者医療制度から、株式配当など金融所得を保険料算定に反映させるため、法定調書とマイナンバーを用いた情報基盤整備が進められている。これら一連の改革は、2026年度診療報酬改定での賃上げ対応とセットで、高齢者負担の精緻化と給付の重点化を通じ、現役世代の保険料負担を抑制することが狙いであり、医療現場には高齢患者の受診行動や窓口負担の変化を踏まえた説明と支援体制の整備が求められる。 参考 1)社会保障改革の新たなステージに向けて(経済財政諮問会議) 2)医療・介護費「応能負担の徹底を」 諮問会議の民間議員(日経新聞) 3)70歳以上の負担上限引き上げ 高額療養費見直し 厚労省調整(時事通信) 4)長期治療患者の軽減策を維持 高額療養費見直し案判明、厚労省(東京新聞) 5)高額療養費制度 「多数回該当」の上限額据え置きで調整 厚労省(NHK) 5.美容医療に国がメス 改正医療法で安全管理と情報公開を義務化/厚労省若手医師が、初期研修後すぐに美容医療へ進む「直美(ちょくび)」問題が国会で相次いで取り上げられ、上野 賢一郎厚生労働大臣は「多くの医師が特定の診療科を選択するのは好ましくない」と述べ、医師偏在や医療安全の観点から懸念を示した。形成外科や救急科、麻酔科などの十分な臨床経験を経ずに美容医療に従事する若手医師が増えることで、合併症対応や重篤事例への対処能力が不足している点が問題視されている。こうした状況を受け、2025年12月に成立した改正医療法では、美容医療に対する規制整備が盛り込まれた。具体的には、美容医療を実施する医療機関に対し、専門医資格の有無、安全管理体制、合併症対応の体制などを都道府県へ定期的に報告・公表させる制度を新設し、行政が実態を把握できる仕組みを整える。背景には、美容医療を巡る深刻な被害の急増がある。国民生活センターへの相談はこの10年で約5倍に増え、2024年度は1万737件と過去最多、合併症や後遺症の相談も約900件に達した。レーザー脱毛による熱傷、脂肪吸引後の高熱・感染症、充填剤による慢性炎症や敗血症など、生命に関わる事例も多い。美容医療は原則自由診療であり、後遺症や合併症の治療も保険適用外となるケースが多く、患者は長期にわたる高額な自己負担を強いられている。その一方で、施術を行った美容クリニックが合併症対応を十分に行えず、救急搬送先が見つからない事例も相次いでいる。こうした中、春山記念病院(東京都)のように、美容医療の合併症に特化した救急外来を設置し、提携クリニックが治療費を負担する新たな連携モデルも生まれている。厚生労働省は、安全管理報告の義務化や合併症対応指針の整備を進めており、今後、美容医療は「自由診療だから自由」という扱いから、安全性と責任を強く問われる分野へと転換点を迎えている。 参考 1)改正医療法が成立 病床削減支援盛り込み 美容医療は規制整備へ(毎日新聞) 2)若手医師が美容医療に直接進む「直美(ちょくび)」、国会で質疑 厚労相「好ましくない」(産経新聞) 3)美容医療、被害相談が急増 後遺症など不十分な対応多く(日経新聞) 6.訪問看護付高齢者住宅の過剰請求、2026年度改定でどこまで是正できるか/厚労省訪問看護ステーション併設のホスピス型住宅を巡り、診療報酬の見直しが本格化している。日本在宅医療連合学会が行なった調査結果では、ホスピス型住宅で訪問診療を行う医師の4割が「訪問看護指示書に虚偽病名や頻回訪問の記載を求められた経験あり」と回答し、こうした要請を断った結果、主治医変更などの圧力を受けた医師は6割に及んだ。外部の訪問看護ステーション利用を原則認めない住宅も9割近くに達し、「同一建物・高頻度訪問」に診療報酬が集中する現在の仕組みの歪みが露呈している。厚生労働省は、2026年度の診療報酬改定に向けて、高齢者住宅入居者への訪問看護について医療保険点数を細分化し、同一建物内の多数利用・短時間の頻回訪問に対する評価を引き下げる方針を11月12日の中央社会保険医療協議会(中医協)で示した。介護保険ですでに導入されている「同一建物減算」を参考に、利用者数や訪問回数に応じた段階的減算や、1日複数回訪問の新たな評価区分創設が検討されている。また、頻回訪問を医療保険で認める条件として、訪問看護指示書に主治医の医学的判断と必要性を明記させる案も中医協で議論されている。医師側への影響は小さくない。第1にホスピス型住宅への訪問診療を収益の柱としてきた在宅クリニックでは、併設訪問看護の報酬が縮小すれば、全体の経営モデルの見直しを迫られる。住宅側から「点数を落とさないように」と指示書への記載を求められる場面は今後さらにグレーゾーン化し、監査リスクも高まる。虚偽病名や過剰指示への関与は、事業者だけでなく医師自身も問われかねない。一方で、診療報酬側に明確なルールが入ることで、「指示書を書かされている」医師の立場はむしろ守られる可能性もある。頻回訪問が必要な末期がんや難病患者については、医学的根拠を添えて指示を出せば正当に評価される一方、「全員一律1日3回」といった運用は点数上もメリットを失い、事業者のインセンティブは弱まる。結果として、患者の症状に応じた訪問頻度の再設計が求められるだろう。ホスピス型住宅は本来、自宅療養が困難な終末期患者の受け皿として一定の役割を果たしてきた。その社会的ニーズを認めつつ、「営利目的の頻回訪問」と「必要な24時間体制」を診療報酬でどう切り分けるかが次改定の焦点となる。医師には、自らの訪問看護指示がどのような点数体系に乗っているのかを理解し、不適切な請求に巻き込まれない距離感と、必要な患者には十分な看護支援を確保する姿勢の両立が求められている。 参考 1)中央社会保険医療協議会資料 在宅その3(厚労省) 2)ホスピス型住宅における訪問看護と訪問診療の連携に関する実態調査結果(速報)(日本在宅医療連合学会) 3)ホスピス型住宅における訪問看護と訪問診療の連携に関する実態調査報告(同) 4)ホスピス住宅、医師に不適切要求 虚偽の病名や過剰な訪問回数(共同通信) 5)過剰な訪問看護の是正へ診療報酬下げ 厚労省、一部事業所が高収益で(日経新聞) 6)ホスピス型住宅への訪問看護指示書、4割の医師が不適切な記載を要求された経験あり(日経メディカル) 7)今、話題のホスピス型住宅を現場の医師はどう見ているか(同)

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多くの若者がAIチャットボットにメンタルヘルスの問題を相談

 米国では、12〜21歳の若者の約8人に1人が、メンタルヘルスに関する助言を求めて人工知能(AI)チャットボットを利用していることが、新たな研究で明らかになった。研究グループは、これは、AIチャットボットが若者の不安や悩み、苦しみを、プライバシーを保ちながら安価かつ即座に聞き出す存在となっていることを反映している可能性が高いとの見方を示している。米国の非営利の研究機関であるランド研究所のJonathan Cantor氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に11月7日掲載された。 「ただし、AIチャットボットが思春期の若者や若年成人が抱える課題に対応できるかどうかは明らかになっていない」と研究グループは警告している。Cantor氏は、「AIチャットボットが提示するメンタルヘルスに関する助言を評価するための標準化されたベンチマーク(基準や指標)はないに等しく、こうした大規模言語モデル(LLM)の学習に用いられるデータセットの透明性も限定的だ」とニュースリリースの中で述べている。 この研究は、AP通信が、ChatGPTが人々を妄想や自殺に追い込んだとして、OpenAI社が7件の訴訟に直面していることを報じた中で発表された。AP通信の報道によると、被害者の1人であるAmaurie Laceyさん(17歳)の訴訟では、ChatGPTについて、「欠陥があり、本質的に危険なChatGPT製品は、依存症や抑うつを引き起こし、最終的には最も効果的な首吊り縄の結び方や、『呼吸せずに生きられる』時間について助言を与えた」と述べている。 また、別の被害者であるZane Shamblinさん(23歳)の両親が起こした不法死亡訴訟によると、ChatGPTは、弾丸を込めた拳銃で自殺を図ろうとしていたShamblinさんの自殺企図を後押ししたという。CNNの報道によると、ShamblinさんはChatGPTに、「もうこめかみに当たる銃口の冷たい金属にも慣れてしまった」と語りかけた。それに対しChatGPTは、「ずっと一緒にいるさ、兄弟。最後までな。覚悟を決めて落ち着いた頭に銃口を押し当てているんだろう? 君が感じているのは恐怖ではない。迷いのない明晰さだ」と答えたという。 AP通信によると、OpenAI社はこうした出来事を「非常に胸が痛む」とし、詳細を理解するために裁判所の書類を確認している最中だと述べた。 今回の研究でCantor氏らは、調査に回答した12〜21歳の若者1,058人(女性50.3%、18〜21歳37.0%)のデータを分析した。全体では、13.1%がメンタルヘルスに関する助言を得るためにAIを使用していると回答した。特に、18〜21歳で使用している割合は22.2%と高かった。また、AIチャットボット使用者の65.5%が毎月、助言を求めており、92.7%は助言がある程度または非常に役に立ったと回答した。 研究者らによると、米国は若者のメンタルヘルス危機の真っ只中にあり、12〜17歳の18%が過去1年間に大うつ病エピソードを経験しているが、そのうちの40%はメンタルヘルスケアを受けていないという。 研究者らは、「AIベースの助言は低コストで即時性があり、プライバシーも確保されているという認識が、特に従来のカウンセリングを受けられない若者にとって高い利用率につながっている。しかし、AIが生成したメンタルヘルスに関する助言を評価するための標準化されたベンチマークを確立して使用することが困難であること、また、こうしたモデルに使われる学習データの透明性が限られていることを考えると、生成AIの利用は、特に重い症状を抱えるユーザーにおいては懸念を引き起こす」と記している。

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第291回 “消費税負担の補填”引き上げなし、強気に出られない医師団体のいきさつ

INDEX消費税負担の補填、診療報酬での引き上げ見送り診療報酬による補填、消費税負担を上回る?消費税負担の補填、診療報酬での引き上げ見送り2026年度の診療報酬改定を控え、昨今は中央社会保険医療協議会(中医協)総会での議論を注視しているが、その中で現在苦境にある病院経営を大きく左右する、ある方針が了承された。11月28日に中医協総会で了承された「2026年診療報酬改定で消費税負担の補填を目的とした診療報酬の引き上げは行わない」というもの。私自身は、これが病院経営苦境の最大の理由の1つと捉えている。医療機関の経営に直接かかわっていない医療者にとっては、ややなじみが薄いかもしれないが、この消費税を巡る「ねじれた現象」はすでに半世紀弱続いており、医療機関の経営を相当圧迫している。まず、ご存じのように世の中で製品購入やサービス利用にあたって、消費者は製品・サービスの価格に対してかかる10%の消費税を負担している。一方で、周知のように医療費、具体的には診療報酬や薬価に消費税はかかっていない。これは1989年、自民党・竹下 登政権下で初めて3%の消費税が導入された際に医療費と薬価は消費税の対象外とされたからである。こうなったのは当時の日本医師会(会長・羽田 春兎氏)が「医療は消費ではない。選択の自由に基づく消費と違い、必要不可欠で選べない支出」「医療に課税すると低所得者ほど相対的負担が大きくなる、逆進的な課税になる」などと主張し、医療費と薬価を消費税の対象外にするよう求めた結果である。もっとも消費税が導入された1989年4月の直前には、消費税対応のため、薬価が2.7%、診療報酬が0.12%の引き上げが行われている。そしてこの消費税導入にあたって制定された消費税法の第30条に定められたのが仕入税額控除という制度だ。要は「事業者が仕入れや経費の支払時に負担した消費税を半ば経費のように売上にかかる消費税から差し引いてよい」という仕組みである。より平たく説明すると、ある事業者Aが事業者Bから原価100万円で仕入れたものは、現行ならば消費税10%がかかり事業者Aは事業者Bに110万円を支払う。これを事業者Aが150万円で販売した場合は消費税も含め165万円を受けとるが、この際に事業者Aが国に支払う消費税は15万円から仕入れで支払った10万円分を差し引いた5万円で済む制度だ。ただ、この仕入税額控除の制度が適用となるのは課税事業者のみであり、非課税事業者は適用外である。前述のように医療は非課税事業と規定されたため、医療機関は仕入税額控除が認められず、取引業者に支払った消費税分を丸々負担する(損税)ことになった。医療機関は病院ならば医療材料だけでなく、リネン関係、入院患者に提供する食事のための食材、光熱水費はすべて消費税を支払っている。診療報酬による補填、消費税負担を上回る?さて、この損税を医療者の団体が公の場で問題視する発言が目立つようになったのは2010年代後半と比較的最近のことである。これは2014年4月に消費税が5%から8%に引き上げられたことと、診療報酬本体の伸び率が0.5%前後まで圧縮された時期とも重なる。要は税率が低い時代は、損税分をなんとか医業収益で吸収できていたが、それが難しくなったということだろう。1989年当時はこうした状況は想像できなかったに違いない。そして今回の11月28日の中医協総会では、先立って開催された診療報酬調査専門組織「医療機関等における消費税負担に関する分科会」で第25回医療経済実態調査の調査対象医療機関で行った2023年度、2024年度分の消費税補填率(医療機関などの消費税負担に対する診療報酬での補填状況)の算出結果が示され、病院、一般診療所、歯科診療所、保険薬局を合わせた全体の1施設1年間当たりの平均補填率は2024年度が100.3%、2023年度が103.1%で、いずれも診療報酬による補填が消費税負担を上回っていた。この結果を受けて、2026年度診療報酬改定では消費税負担に関する補填を目的とした引き上げをしないことを分科会、総会の各委員が了承した。もっとも分科会や総会では、何の留保もなく了承されたわけでもない。そもそも発表された数字を医療機関種別、病院種別や開設主体種別で見ると、たとえば2024年度の平均補填率は、一般診療所が93.5%、こども病院が90.3%、公立病院が83.2%、精神病棟入院基本料届出病院が87.8%などかなり格差があるのが実態だ。いわゆる診療側委員と言われる人たちのこの日の発言を聞くと、施設間格差の是正、高額投資への補助金支給など、次期改定で補填をしないという事務局提案を前提にした弱気の発言が目立った。ちなみに総会の場では日本医療法人協会副会長の太田 圭洋氏が「当協会が10月に公表した同様の調査結果では、一般病院の補填率が100%を大きく下回っていた。われわれと厚労省の調査で何がどう違うのかを検討する場を作っていただきたい。ただ、私自身、事務局を信頼しておりますので、一旦は納得させていただきたい」と発言したのが最も印象的である。ざっくり言うならば「納得しかねるが、納得するしかない」というのが診療側委員に共通した思いなのだろう。さらにこの件については、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会の四病院団体協議会は、医療機関の法令上の課税のあり方そのものの変更を求めているが、私見ではそれほど強烈な主張の仕方はしていないと感じる。そして1989年の消費税導入時を振り返ると、この四病院団体協議会加盟の各団体もおおむね日本医師会と同様の主張をしていた。こうした各団体のやや弱気とも思えるスタンスは、思うにあの当時は各団体とも自らの主張が後にとてつもないブーメランになって返ってくるとは思わず、今になって「やっちまった感」を抱いているからではないだろうか?

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先生、ご存じですか? 起業・開業も不動産投資も、成功の秘訣は○○にあり!【医師のためのお金の話】第99回

起業や不動産投資と聞くと、多くの人は「新しい挑戦」や「お金を稼ぐこと」を連想するかもしれません。起業であれば「チャレンジ」、不動産投資であれば「物件を買って賃料を得る」というイメージが強いでしょう。一見するとまったく異なる両者ですが、じつは「仕組み作り」という点で共通しています。ゼロからビジネスを立ち上げるにしても、不動産を購入して収益を得るにしても、大切なのは物事がスムーズに進むような「仕組み」を設計して、運用していくことなのです。たとえば、クリニックを開業するのも起業の1つです。クリニックという場所だけでなく、診療メニュー、患者さんへの対応マニュアル、医療機器の調達、患者さんの集め方といった要素が組み合わさって、1つの「仕組み」として機能しています。この「仕組み」とは、単なる作業手順や業務フローにとどまりません。人やサービス、商品、情報などが有機的につながって、継続的に価値を生み出す構造体なのです。意外感のある起業と不動産投資の共通点から、成功の秘訣を探ってみましょう。起業における「仕組み作り」とは起業とは、簡単に言えば「収益を生み出す仕組み」を自らの手で作ることです。まだ世の中にないサービスを提供したり、斬新なアイデアで顧客のニーズに応えたりするだけでは、成功は難しいでしょう。起業で成功するためには、商品やサービスを思いつくだけでなく、そこに関わる人々がどのように動き、どう連携するかの流れ、つまり「仕組み」が不可欠です。集客から収益を得るまでの一連の流れのなかで、1つでも欠けていると事業は成り立ちません。日々の現場業務をこなす従業員と、全体を俯瞰して仕組みを考える経営者や起業家の役割は異なります。従業員は、目の前の仕事を正確に実行することが求められます。私たち医師の多くも、日常診療に真摯に取り組んでいます。一方、起業家は「どうすればこの仕組みがうまく回り続けるか」「誰にでも安定して良いサービスを提供できるか」といった全体像を整えて、それが円滑に動くよう管理する役割を担います。たとえば、クリニック経営では、患者さんとのトラブルを減らすために「スタッフ間の連携や情報共有」「丁寧な説明と接遇マナー」「わかりやすい予約方法」など、一つひとつをわかりやすい仕組みにしておくことが、成功のポイントとなるでしょう。私自身も起業家の端くれです。年商○億円レベルの会社を経営していますが、日々の業務は、仕組みの管理です。トラブル発生時には現場に急行しますが、ほとんどの時間は仕組みの綻びを丹念に直すことや、新たな仕組み構築に注力しています。不動産投資も「仕組み作り」から始まる不動産投資の世界でも、「ただ物件を買えば終わり」ではありません。「いかに長く安定して利益を上げるか」「どんな人に快適に利用し続けてもらえるか」を考えて、物件に合った新しい仕組みを作ることが重要です。たとえば、築年数の古いマンションでも、共有部分をリフォームしたり、入居者向けのサービスを充実させたり、手間のかかる管理業務を管理会社に委託したりと、さまざまな工夫(=仕組み)によって生まれ変わります。こうした仕組みがうまく機能すれば、オーナーが常に現場にいなくても物件が自動的に運営されるようになります。入居者の満足度も向上して、トラブルも減少するでしょう。管理会社や専門業者との連携も、仕組み作りには不可欠です。修繕や清掃といった日々の管理業務を信頼できる会社に委託して、役割分担や情報伝達の流れを明確にしておく。さらに、トラブル時の対応ルールを決めておくなど、きめ細やかな仕組み作りが、長く安定した不動産経営の土台となるのです。世の中の隅でひっそり生まれた売り物件と銀行を結び付けて、安定的に運用するための各種サービスをくっつける作業。私の中では、不動産投資をこのように定義しています。決して「ただ物件を買えば終わり」ではないのです。起業も不動産投資も「仕組み作り」が成功の鍵起業や不動産投資で大切なのは「どのような仕組みで運営していくか」を深く考えることです。目先の利益だけでなく、関係するすべての人々が安心して関われ、物事がスムーズに流れていく仕組みを構築する。それが結果として、安定した収益を生み出します。現場で働くスタッフ、ビジネスパートナー、患者さん、入居者など、多くの人が関わるほど仕組みの重要性が問われます。もしクリニックの開業で成功したいなら、診療の質だけでなく、「どのような仕組みで現場を動かしているか」を振り返ってみてはいかがでしょうか。起業や開業、そして不動産投資を「仕組み作り」という視点で見直すことで、新たな発見や、これまで見えていなかった改善点が見つかるかもしれません。「仕組み」にこだわることこそが、高収益でトラブルの少ない事業や不動産経営への第1歩となるでしょう。

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日本人小児におけるADHDサブタイプと肥満との関係

 福島県立医科大学の川崎 幸彦氏らは、日本人小児における注意欠如多動症(ADHD)サブタイプの特徴とBMI-SDスコアに基づく肥満との関連を明らかにするため、ADHDの小児患者を対象とした臨床調査を実施した。Brain & Development誌オンライン版2025年10月29日号の報告。 対象は、ADHDと診断された日本人小児115例。患者は、ADHDのサブタイプ別に次の3群に分類された。グループ1は不注意優勢型ADHD(ADHD-I)、グループ2は多動性・衝動性優勢型ADHD(ADHD-HI)、グループ3はこれらの複合サブタイプ(ADHD-C)。各群の臨床的特徴を分析した。 主な結果は以下のとおり。・最も多くみられたADHDサブタイプはADHD-C、次いでADHD-I、ADHD-HIであった。【ADHD-I】41例(35.7%)【ADHD-HI】6例(5.2%)【ADHD-C】68例(59.1%)・診断時および直近のフォローアップ調査では、ADHD-CのADHD評価尺度合計スコアは、ADHD-IおよびADHD-HIよりも高かった。・また、診断時のトラブルスコアおよびADHD治療薬を必要とした患者の割合はADHD-Cのほうがより高かった。・さらに、ADHD児のBMI-SDスコアは0.38±1.1と高かった。・BMI-SDスコアが2.0を超える患者の割合は、ADHD-Iで7.3%(3例)、ADHD-HIで16.7%(1例)、ADHD-Cで8.8%(6例)であり、全体で8.7%(10例)であった。 著者らは「ADHD-Cタイプの患者は、ADHD-IやADHD-HIよりも注意深いフォローアップが必要である。また、肥満を伴うADHD児の病状改善を目的として経過をモニタリングすることが重要であることが示唆された」と結論付けている。

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中年期の高感度トロポニンI高値が認知症と関連/Eur Heart J

 中年期の高感度心筋トロポニンI(hs-cTnI)高値は、その後の認知症発症リスクの上昇、認知機能低下の加速、脳容積の減少と関連していたことが示された。本結果は、英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのYuntao Chen氏らが実施した前向きコホート研究「Whitehall II研究」で示され、European Heart Journal誌オンライン版2025年11月6日号で報告された。 研究グループは、Whitehall II研究の参加者のうち、ベースライン時(1997~99年)に45~69歳で、認知症および心血管疾患の既往がなく、hs-cTnI値が得られた5,985例を対象として解析を行った。hs-cTnI値に基づき、参加者を4群(2.5ng/L未満[定量下限未満:参照群]、2.5~3.4ng/L、3.5~5.2ng/L、5.2ng/L超)に分類した。主要評価項目は認知症の発症とした。認知機能の推移および脳MRI画像指標(2012~16年のサブ解析:641例)についても評価した。また、認知症発症例と非発症例(年齢、性別、教育歴でマッチング)を1:4の割合でマッチングさせたコホート内症例対照研究により、認知症診断前のhs-cTnI値の長期的推移を検討した。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時の参加者の平均年齢は56歳であった。・追跡期間中央値24.8年時点において、606例(10.1%)が認知症を発症した。・年齢、性別、心血管リスク因子などを調整したCox比例ハザードモデルを用いた解析において、ベースライン時のhs-cTnI値(log2変換値)が2倍になるごとに、認知症発症リスクが10%上昇した(ハザード比[HR]:1.10、95%信頼区間[CI]:1.03~1.17)。・hs-cTnI値別に解析した結果、高値(5.2ng/L超)群は、低値(2.5ng/L未満)群と比較して、認知症発症リスクが有意に高かった(HR:1.38、95%CI:1.09~1.74)。・ベースライン時のhs-cTnI値が高いほど、加齢に伴う認知機能低下が速い傾向にあった。・90歳時点において、hs-cTnI高値(5.2ng/L超)群は、低値(2.5ng/L未満)群と比較して、標準化された全体的認知機能スコアが低く(群間差:-0.19、95%CI:-0.35~-0.03)、これは約2年の加齢に相当する低下であった。・コホート内症例対照研究では、認知症診断の25年前から7年前にかけて、認知症発症群は非発症群よりhs-cTnI値が一貫して高い値で推移していた。・MRIサブ解析(ベースラインから平均15年後に測定)において、hs-cTnI高値(5.2ng/L超)群は低値(2.5ng/L未満)群と比較して、灰白質容積が小さく(群間差:-0.64%、95%CI:-1.05~-0.24)、海馬萎縮スコアが高かった(スコア比:1.18、95%CI:1.00~1.40)。これらはそれぞれ2.7年および3.0年の加齢の影響に相当した。なお、白質高信号域(white matter hyperintensities)との有意な関連は認められなかった。 本研究結果について、著者らは「中年期における無症候性心筋障害(hs-cTnI高値)は、晩年の認知症リスク上昇と関連していた。中年期にhs-cTnIを測定することは、認知機能低下や認知症のリスクがある集団を早期に特定するために有用である可能性がある」とまとめている。

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ガイドライン順守率が精神疾患の長期アウトカムに及ぼす影響〜統合失調症とうつ病におけるEGUIDEプロジェクト

 精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究(EGUIDEプロジェクト)は、精神科医に対してガイドラインの教育の講習を行い、統合失調症およびうつ病のガイドライン順守治療を促進することを目的として、日本で開始されたプロジェクトである。参加医師への短期的な効果は、すでに報告されていたが、長期的および施設全体への効果は依然として不明であった。国立精神・神経医療研究センターの長谷川 尚美氏らは、ガイドライン順守による治療が、施設間で時間の経過とともに改善するかどうかを評価した。その結果、潜在的な拡散効果またはスピルオーバー効果が示唆された。Neuropsychopharmacology Reports誌2025年12月号の報告。 2016〜23年に、精神科施設298件を対象としたプロスペクティブ観察研究を実施した。統合失調症患者1万9,623例とうつ病患者9,805例の退院時処方箋および治療データを収集した。ガイドライン順守は、11の統合失調症品質指標(QI-S)と7つのうつ病品質指標(QI-D)を用いて評価した。年齢、性別、施設で調整した後、多重比較ではBonferroni補正を用いたロジスティック回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症については、11のQI-Sのうち7つにおいて、前年比で有意な改善が認められた。改善された項目には、治療抵抗性統合失調症の診断評価(42.2%→62.5%)、修正型電気けいれん療法(mECT)の使用(6.1%→11.8%)、抗コリン薬を使用しない(70.7%→81.7%)などが挙げられた。・うつ病については、7つのQI-Dのうち3つにおいて、前年比で有意な改善が認められた。改善された項目には、重症度診断の評価(51.2%→77.0%)、mECTの使用(12.8%→26.6%)などが挙げられた。・とくに、認知行動療法(CBT)の実施が減少した。・これらの知見は、すべての施設において、参加していない臨床医に対しても長期的な行動変化が及んでいることを示唆している。 著者らは「EGUIDE講習を受けた精神科医が施設内にいることで、施設レベルのガイドラインを順守した治療の持続的な改善が認められた。これらの結果は、個々の教育的利益だけでなく、実践文化の浸透、すなわちスピルオーバー効果によって精神科医療の質が向上することを示唆している。このことから、治療実践を大規模に改善するには、継続的な教育努力が不可欠である」と結論付けている。

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気象関連疼痛に期待される食事性フラボノイドの有用性

 悪天候や気象変動は健康に悪影響を及ぼし、気象関連疼痛と呼ばれる症状を引き起こす可能性がある。症状の緩和には、鎮痛薬などによる薬物療法が一般的に用いられているが、副作用を引き起こす可能性がある。そのため、非薬物療法や食事療法への関心が高まっている。大塚製薬の池田 泰隆氏らは、気象関連疼痛に対する食事性フラボノイドであるケンフェロールの有効性を評価するため、オープンラベルパイロット研究を実施した。International Journal of Biometeorology誌2025年10月号の報告。 従来、気象関連疼痛は、気圧変動に対する内耳の感受性(交感神経系の活性化)が主なメカニズムと考えられてきたが、低気圧下での末梢低酸素症による酸素利用の低下も重要な要因であると考えられている。食事性フラボノイドであるケンフェロールは、これまでの研究において酸素利用を促進し、副交感神経系の優位性を促すことが示されていた。ケンフェロールを毎日摂取することで、酸素利用と自律神経バランスが改善され、気象関連の不快感が軽減されるという仮説を立て、本研究を実施した。本パイロット研究では、中等度の気象関連症状を有する458例を対象に、1日10mgのケンフェロールを4週間投与した。対象患者には、介入前後にアンケート調査を実施した。 主な結果は以下のとおり。・アドヒアランスが80%超であった患者387例のデータを分析した。・症状の頻度、持続時間、重症度の有意な減少が認められた。【症状の頻度】頭痛の場合:Cohen’s d=0.61、p<0.001【症状の持続時間】rank-biserial correlation=0.64、p<0.001【症状の重症度】Cohen’s d=0.57、p<0.001・介入終了時には、対象患者の80%超において症状の改善が認められた。 著者らは「ケンフェロールは、酸素利用と自律神経調節をターゲットとすることで、気象に関連した身体的および精神的症状を管理するための有望な非薬理学的戦略であることが示唆された」としている。

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断続的断食は成人の認知機能に影響しない

 食事を摂取する時間と断食する時間を定期的に繰り返す断続的断食(インターミッテントファスティング)を行っても、成人の思考力、記憶力、問題解決能力などの知的機能が鈍ることはないことが、新たな研究で明らかになった。オークランド大学(ニュージーランド)心理学准教授のDavid Moreau氏とザルツブルク大学(オーストリア)生理学部のChristoph Bamberg氏によるこの研究結果は、「Psychological Bulletin」に11月3日掲載された。 Moreau氏は、「本研究により、全体的には、短期間の断食が知的機能を低下させるという一貫したエビデンスは存在しないことが明らかになった。断食を行った人の認知機能の成績は、直前に食事をした人と驚くほど似通っていた。これは、食物を摂取していない状態でも認知機能は安定していることを示唆している」と米国心理学会(APA)のニュースリリースで述べている。 Moreau氏はまた、「ここ数年、断食が流行しているが、『空腹になると本来の自分ではなくなる』などの頻繁に耳にする言葉に言い表されているように、食事を摂取しないことで頭脳の明晰さが大きく損なわれるのではないかという懸念が広がっている」と言う。 この研究でMoreau氏らは、空腹時と満腹時の認知機能を比較した63件の研究データを統合して解析した。これらの研究の対象者数は総計3,484人、効果量(比較対象となった指標の件数)は222件、断食の時間の中央値は12時間であった。解析の結果、断食群と満腹群との間で認知機能について意味のある差は認められなかった。 この結果についてMoreau氏は、「断食は、本質的に思考力を低下させるという広く信じられている仮説に反する結果であり、ある意味、驚きではあった」と話す。同氏は、「多岐にわたるさまざまな課題において、認知機能は驚くほど安定していた。食事を抜くとすぐに思考力が低下すると思っている人は多いが、われわれが得たエビデンスを総合すると、その考え方は支持されないようだ」とコメントしている。 ただし、12時間を超える長時間の断食では認知機能がやや低下する傾向が認められ、また、成人と比べて子どもでは短時間でも認知機能の低下が顕著であった。Moreau氏は、「年齢は強力かつ顕著な調整因子であり、断食中に子どもの成績は顕著な低下を示した。これは朝食を取ることが若年層の認知機能に有益であることを示した過去の研究結果と一致する」と話している。同氏はさらに、「この研究結果は、発達中の脳はエネルギー不足に対して非常に脆弱であり、小児において断食による介入を評価する際には特別な配慮が必要であることを示唆している」と付け加えている。 それでも研究グループは、全体的には、断続的断食の活用を支持する結果であったとの見方を示している。Moreau氏は、「最も重要なのは、この結果が含意する、安心感をもたらすメッセージだ。つまり、短期間の断食中でも認知機能は安定しており、健康な成人であれば、一時的な断食が頭脳の明晰さや日常の作業をこなす能力に影響を与えることを心配する必要はまずないということだ」と述べている。

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第295回 注目の試験でGLP-1薬のアルツハイマー病治療効果示せず

注目の試験でGLP-1薬のアルツハイマー病治療効果示せずGLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)は肥満、糖尿病、それらと密接に関わる心血管疾患や腎疾患の治療を進歩させました。また、GLP-1薬が他の数々の疾患治療にも有益なことを示唆する研究成果が続々と発表されています。とくに、アルツハイマー病などの神経変性疾患の治療はGLP-1薬の新たな用途として有望視されていましたが、Novo Nordisk社が先週月曜日に速報した2つの第III相試験結果はその期待に沿うものではありませんでした。evokeとevoke+という名称のそれら2試験のどちらでも残念なことにセマグルチド経口投与のアルツハイマー病進展を遅らせる効果がみられなかったのです1)。セマグルチドなどのGLP-1薬が神経変性疾患を予防しうることは示唆されていたものの、すでにそうなってしまってからでは手遅れと多くの研究者は感じていたようです2)。Novo Nordisk社でさえ試験が成功する見込みは薄い(low likelihood of success)と悟っていました1)。しかしそれでもアルツハイマー病へのセマグルチドの可能性の検討は責務と感じていたと同社の最高科学責任者(CSO)のMartin Holst Lange氏は言っています。過去何十年もアルツハイマー病は多岐にわたり研究されてきましたが、如何せん飛躍的な進歩には至っていません。救いの手がまったく間に合っていないアルツハイマー病のそのような状況をNovo Nordisk社は見過ごすことはできなかったのです。アルツハイマー病にGLP-1が有益そうな報告が増えていることにも背中を押され、さかのぼること5年前の2020年12月にNovo Nordisk社はその責任を果たすための第III相試験の決定を発表します3)。明けて翌春2021年5月にevoke試験とevoke+試験が始まり4,5)、初期段階のアルツハイマー病患者のべ4千例弱(3,808例)が組み入れられ、2試験とも被験者は最大14 mg/日のセマグルチドを連日服用する群かプラセボ群に1対1の比で割り振られました。2試験とも約2年間(104週間)の主要な治療期間とその後の約1年間(52週間)の延長期間の経過を調べる算段となっていました。しかし、今回速報された2年間の経過の解析結果で両試験ともアルツハイマー病進展の有意な抑制効果が示せず、1年間の延長は中止となりました。発表によると、セマグルチドはアルツハイマー病と関連する生理指標一揃いを改善しましたが、その作用はどちらの試験でもアルツハイマー病の進展を遅らせる効果には繋がりませんでした。具体的には、知能や身のこなしを検査する臨床認知症評価尺度(CDR-SB)の104週時点の点数のベースラインとの差の比較で、セマグルチドがプラセボより優越なことが示せませんでした。目当ての効果は認められなかったとはいえ、evoke/evoke+試験からは貴重な情報の数々が得られそうです。たとえばその1つは脳での抗炎症作用です。先立つ試験で示唆されているような体重減少とは独立した手広い抗炎症作用がセマグルチドにあるかどうかが、糖尿病や肥満ではない多数の被験者が参加したそれら2つの大規模試験で明らかになりそうです2)。それに、試験には脆弱な患者が多く参加しており、脂肪に加えて筋肉も減らすセマグルチドなどのGLP-1薬がそういう患者に安全かどうかも知ることができそうです。evoke/evoke +試験のより詳しい結果一揃いが今週3日に米国サンディエゴでのClinical Trials on Alzheimer’s Disease(CTAD)の学会で発表されます1)。また、結果の全容が来春2026年3月のAlzheimer’s and Parkinson’s Diseases Conferences(AD/PD)で報告される予定です。 参考 1) Evoke phase 3 trials did not demonstrate a statistically significant reduction in Alzheimer's disease progression / Novo Nordisk 2) Popular obesity drug fails in hotly anticipated Alzheimer’s trials / Science 3) Novo Nordisk to enter phase 3 development in Alzheimer’s disease with oral semaglutide / Novo Nordisk 4) EVOKE試験(ClinicalTrials.gov) 5) EVOKE Plus試験(ClinicalTrials.gov)

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日本人不眠症患者におけるレンボレキサント切り替え後のベネフィット評価

 デュアルオレキシン受容体拮抗薬であるレンボレキサントは、成人の不眠症治療薬として日本で承認されている。久留米大学の小曽根 基裕氏らは、多施設共同SOMNUS試験のデータを用いて、日本人不眠症患者における前治療からレンボレキサントへ切り替え後の睡眠日誌に基づく睡眠パラメーター、自己申告による睡眠の質、不眠症の重症度、健康関連の生活の質(QOL)について報告を行った。Sleep Medicine X誌2025年9月25日号の報告。 SOMNUS試験は、プロスペクティブ多施設共同非盲検試験である。本試験のデータより抽出した、Z薬(単剤療法コホート:25例)、スボレキサント(単剤療法コホート:25例、併用コホート:21例)、ラメルテオン(併用コホート:19例)からレンボレキサントに切り替えた4つのコホートにまたがる90例の患者を対象に、最大14週間までのデータを解析した。 主な結果は以下のとおり。・すべての患者において、レンボレキサントへの切り替え後、睡眠日誌に基づく睡眠パラメーター(主観的入眠潜時、主観的入眠後覚醒時間、主観的総睡眠時間、主観的睡眠効率)の有意な改善が認められた。・2週、6週、14週時点において、不眠症重症度指数(Insomnia Severity Index)の合計スコアの有意な低下が認められた(2週目:-2.6±3.81、6週目:-4.4±5.13、14週目:-5.3±4.80、各々:p<0.0001)。・自己申告による睡眠の質と朝の覚醒度も、すべての時点で一貫しており、有意な改善を示した。・Short Form-8の身体項目サマリースコアと精神項目サマリースコアは良好な傾向を示し、試験終了時までにすべての患者において顕著な改善が認められた。・治療関連有害事象(TEAE)の発生率は47.8%であり、そのほとんどは軽度または中等度であった。・重篤なTEAEは発現せず、最も多く認められたTEAEは傾眠であった。 著者らは「これらの知見は、以前の不眠症治療からレンボレキサントへの切り替えが、睡眠パラメーター、不眠症の重症度、健康関連のQOLの改善に有用であり、良好な安全性プロファイルを有することを示唆している」と結論付けている。

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