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診療科別2025年上半期注目論文5選(消化器内科編~肝胆膵領域)

Immune-mediated adverse events and overall survival with tremelimumab plus durvalumab and durvalumab monotherapy in unresectable hepatocellular carcinoma: HIMALAYA phase 3 randomized clinical trialLau G, et al. Hepatology. 2025 May 16. [Epub ahead of print]<HIMALAYA試験>:肝細胞がんSTRIDE療法、imAEが治療効果の指標となる可能性近年注目される肝細胞がんの複合免疫療法について、HIMALAYA試験ではSTRIDE療法が生存期間を有意に延長することを示しました。本研究では、STRIDE群で免疫介在性有害事象(imAE)を経験した患者に良好な生存が認められ、imAEが治療効果の指標となる可能性が示唆されました。Phase 3 Trial of Semaglutide in Metabolic Dysfunction-Associated SteatohepatitisSanyal AJ, et al. N Engl J Med. 2025;392:2089-2099.<ESSENCE試験>:MASHへのセマグルチド、肝組織の改善と顕著な体重減少示す世界が注目する第III相試験において、800例のMASH患者を対象にセマグルチドが肝組織の改善と顕著な体重減少を両立させる効果を初めて明確に示しました。セマグルチドは糖尿病や肥満症の患者に広く使用されており、本結果は将来的なMASHへの保険適用取得に向けて大きく前進する意義深い成果です。Multi-zonal liver organoids from human pluripotent stem cellsReza HA, et al. Nature. 2025;641:1258-1267.<iPS細胞から「ミニ肝臓」作製>:3層構造の再現に成功ヒトのiPS細胞から、本物と同様の3層構造を持つ約0.5mmの「ミニ肝臓」を作り出すことに成功しました。肝臓の異なる機能を担う層(Zone)の再現に成功し、重度肝不全ラットへの移植で生存率が改善されました。iPS細胞からミニ臓器を作る技術は、肝臓病の解析や治療法開発への応用が期待されています。The impact of neoadjuvant therapy in patients with left-sided resectable pancreatic cancer: an international multicenter studyE. Rangelova, et al. Ann Oncol. 2025;36:529-542.<切除可能な左側膵がんに対する術前化学療法>:術前化学療法は有意に生存期間を改善左側切除可能膵がんにおいて、術前化学療法は初回手術単独より生存期間を有意に延長し、とくに腫瘍径が大きい例やCA19-9高値例で効果が顕著であり、今後の前向き試験が期待されます。Phase 3 Trial of Cabozantinib to Treat Advanced Neuroendocrine TumorsChan JA, et al. N Engl J Med. 2025;392:653-665.<CABINET試験>:進行性神経内分泌腫瘍に対するカボザンチニブ、PFSを有意に延長カボザンチニブは進行性膵外・膵神経内分泌腫瘍(NET)に対し、プラセボと比べて有意に無増悪生存期間(PFS)を延長し、客観的奏効も一部で認められました。安全性についても、既知の範囲で管理可能と考えられました。

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TN乳がん術前ペムブロリズマブ併用化学療法、ddAC vs.AC

 高リスクの早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対し、ペムブロリズマブ+化学療法による術前補助療法およびペムブロリズマブ単独による術後補助療法は、病理学的完全奏効(pCR)および無イベント生存期間(EFS)を有意に改善することがKEYNOTE-522試験で示された。しかし、同試験では術前化学療法のレジメンとしてdose-denseAC(ddAC)療法は使用されていなかった。カルボプラチン+パクリタキセルとペムブロリズマブにddAC療法を併用した術前補助療法の有効性と安全性を評価する目的で、ブラジル・Hospital do Cancer de LondrinaのVitor Teixeira Liutti氏らはメタ解析を実施。結果をBreast Cancer Research and Treatment誌オンライン版2025年6月13日号で報告した。 本解析では、AC療法(3週ごと)との比較の有無にかかわらず、TNBCを対象にカルボプラチン+パクリタキセルおよびペムブロリズマブとddAC併用術前補助療法を評価した研究を、システマティックレビューにより特定した。両レジメンを比較した研究にはランダム効果モデル、ddAC療法のエンドポイントの評価には単群比例メタアナリシスの手法を用いて、統計解析が実施された。 主な結果は以下のとおり。・535例(ddAC群329例、AC群206例)を対象とした4件の観察研究が、本解析の包含基準を満たした。うち3件は両レジメンの比較を行い、1件はddAC併用療法のみの評価であった。・病理学的完全奏効(pCR)率に有意差は認められなかった(ddAC群66.1%vs.AC群61.6%、リスク比[RR]:1.10、95%信頼区間[CI]:0.94~1.28、p=0.25)。・一方、Grade3以上の有害事象の発現率は、ddAC群で有意に高かった(43.7%vs.29.7%、RR:1.65、95%CI:1.15~2.37、p=0.007)。・用量調整や治療遅延の発生率には、両レジメン間で有意差は認められなかった。・ddAC併用療法を評価した研究の統合解析では、全体的なpCR率は63%で、治療遅延の発生率は40%であった。今回対象となった研究でddAC併用療法を受けた患者の生存データは報告されていない。 著者らは、「ddAC療法を含む術前のペムブロリズマブ併用化学療法は、KEYNOTE-522試験で報告されたpCR率と同等の結果を示した。AC療法との比較において、pCR率に有意差は認められなかったものの、ddAC療法では有害事象の発現率が高いことが明らかとなった」とまとめている。

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手術不能胃がんに対する2次治療:抗HER2抗体薬物複合体vs.ラムシルマブ+パクリタキセル併用療法(解説:上村直実氏)

 日本における胃がんはピロリ菌感染率の低下および除菌治療の普及と共に、患者数および死亡者数が著明に低下しているが、世界的には依然として予後不良な疾患とされており、手術不能胃がんに対する薬物療法の開発が急務となっている。手術不能または転移を有する胃がんに対する化学療法に関しては、HER2遺伝子の有無により決定されている。全体の20%弱を占めるHER2陽性胃がんに対しては、従来の化学療法に抗HER2抗体のトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)を追加した3剤併用療法が標準的1次治療として推奨されている。1次治療が奏効しないもしくは効果不十分な症例に対する2次治療としては、現在、ヒト型抗VEGFR-2モノクローナル抗体ラムシルマブとパクリタキセルの併用療法が標準治療とされているが、最近、トポイソメラーゼI阻害薬を搭載した抗HER2抗体薬物複合体であるトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の有用性を示す研究結果が相次いで報告されている。 今回、トラスツズマブ治療歴があり、再検査でHER2陽性が再確認された切除不能胃がんまたは食道胃接合部がん患者を対象として、上述のT-DXdとラムシルマブ+パクリタキセルを直接比較した国際共同第III相試験の結果が2025年5月のNEJM誌に掲載された。結果としては、全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)ともに、T-DXd群(中央値:14.7ヵ月、6.7ヵ月)がラムシルマブ+パクリタキセル群(同:11.4ヵ月、5.6ヵ月)に比べて有意な延長を示した。なお、両群で多くの有害事象が認められたが、既知の重大なリスクであるT-DXd投与に伴う間質性肺疾患または肺臓炎は致命的になった症例はなかった。 著者らは、T-DXdはHER2陽性胃がんおよび食道胃接合部がんにおける2次治療として新たな標準治療となる可能性が示され、今後は1次治療への応用やバイオマーカーを活用した個別化医療の推進、さらには治療抵抗性克服を目指した新規治療戦略の開発が期待される、と総括している。しかしながら、患者にとってT-DXd群のOSが15ヵ月に満たない結果は満足できるものではなく、さらなる有用性を有するレジメンが必要であると思われた。 さらに、胃がんと食道胃接合部がんの両者には病態の違いがあるために、進行速度や薬剤に対する感受性が異なる可能性が指摘されているが、今回の研究においても両者のOSとPFSの比較に乖離を認めている。すなわち、サブ解析において食道胃接合部がん症例ではT-DXd群とラムシルマブ+パクリタキセル両群のOSやPFSに明らかな有意差を認めているが、胃がん症例では両治療群のOSやPFSに統計学的有意差を認めていない。今後、胃がんの多発国であり化学療法に関しても世界をリードする日本から、食道胃接合部がんと胃がんの化学療法に対する感受性の違いを加味した研究報告が期待される。

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既治療進行胃がんに対するCLDN18.2特異的CAR-T細胞療法(satri-cel)と医師選択治療との比較:第II相試験(解説:上村直実氏)

 切除不能な進行胃がんおよび食道胃接合部がん(以下、胃がん)に対する化学療法のレジメはHER2陽性(20%以下)とHER2陰性(約80%)に区別されている。HER2陰性の進行胃がんに対する標準的1次治療はフルオロピリミジンとプラチナベースの化学療法であるFOLFOXやCAPOXなどが推奨されてきたが、全生存期間(OS)の中央値が12ヵ月未満であり、無増悪生存期間(PFS)の中央値は約6ヵ月程度と満足できる成績ではなかった。最近になって、標準化学療法にドセタキセルを上乗せしたFLOT療法(3剤併用化学療法)さらに免疫チェックポイント阻害薬(ICI)や抗claudin-18.2(CLDN18.2)抗体のゾルベツキシマブ(商品名:ビロイ)を組み合わせた新しい併用療法の有効性が報告されている。しかしながら、これらのレジメを用いた国際的共同試験におけるOSの中央値は12~18ヵ月程度にとどまっているのが現状である。 今回、既治療のCLDN18.2陽性進行胃がん症例を対象として自家CLDN18.2特異的キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法(satri-cel)の有効性と安全性の評価を目的とする非盲検無作為化実薬対照比較第II相試験の結果が2025年6月のLancet誌に掲載された。CAR-T細胞療法は、患者自身の免疫細胞であるT細胞に遺伝子導入して作成されたCAR-T細胞を患者に再び投与する治療法であり、日本でも2019年から悪性リンパ腫再発後の治療が保険適用となっているが、固形がんに対するCAR-T細胞療法に関するランダム化比較試験は本研究が世界初の報告である。 少なくとも2回の前治療が奏効せず、腫瘍組織がCLDN18.2陽性であった症例を対象として、CAR-T群と担当医が選択した標準治療群を比較した結果、主要評価項目のPFS中央値(3.25ヵ月vs.1.77ヵ月)およびOS中央値(7.92ヵ月vs.5.49ヵ月)は共にCAR-T群が有意に延長した。一方、安全性に関しては、CAR-T群はGrade3以上の有害事象が99%にみられ、血球減少、消化器症状、頻脈、肝障害、電解質異常、蛋白尿、皮疹、腹痛、体重減少など広範な臓器にわたり30〜90%の頻度で出現していたが、「サイトカイン放出症候群」の重篤化により死亡した症例は皆無であった。 種々の治療法によっても手術不能胃がん患者の生存率の飛躍的向上が認められていない現状では、新たな治療法であるCAR-T細胞療法に期待したいところである。しかしながら、報告された第II相試験の結果からは臨床現場における有効性と安全性を担保できるものとはいえず、今後予定されている精緻な研究デザインによる第III相試験の結果を待つ必要があると思われた。

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ASCO2025 レポート 肺がん

レポーター紹介ASCO Lung、Lung ASCOと呼ばれるほど、肺がんに関しては当たり年であった2024年のASCOとは異なり、2025年のASCOは肺がんのPlenary演題もないなど、やや小ぶりな前評判であった。ただ、実際に演題が発表されてみると、DeLLphi-304試験では小細胞肺がん(SCLC)の二次治療において初めて全生存期間(OS)を延長したタルラタマブの成績が報告され、肺がんのコミュニティとしてはPlenaryセッションでもよかったのではとの声も聞こえてきた。さらに日本では未承認であるが、進展型SCLC(ES-SCLC)の維持療法として、lurbinectedinが、無増悪生存期間(PFS)、OSともに延長を示したIMforte試験にも注目が集まった。IMforte試験の演者はスペインのLuis Paz-Ares先生で、くしくもPARAMOUNT試験において非小細胞肺がん(NSCLC)におけるペメトレキセドの維持療法をASCOで発表したのもPaz-Ares先生であり、印象的であった。これらの日常診療を変えうる発表に加え、将来につながる発表が、周術期領域、抗体医薬品の開発に関連して複数発表されている。周術期領域においては、EGFR遺伝子変異陽性肺がんに対してNeoADAURA試験の結果が、ALK遺伝子転座陽性肺がんに対してALNEO試験の結果が報告された。抗体医薬品の開発は引き続き盛んであり、抗体薬物複合体(ADC)、T-cell Engager(TCE)、さらにはCAR-T療法など、今後に期待が持たれる発表が、とくに中国から続いた。そんななか、新薬を使うのでも、手術をするのでもなく、免疫チェックポイント阻害薬の投与タイミングにより、治療効果に大きな違いをもたらした臨床試験の結果が中国から発表された。免疫チェックポイント阻害薬の奥の深さを感じるとともに、このようなタイムリーな研究成果が中国から報告されることに、新規薬剤の開発だけでなく、臨床試験の実施体制としても中国の成熟が感じられた。[目次]DeLLphi-304試験IMforte試験NeoADAURA試験ALNEO試験CheckMate 816試験HERTHENA-Lung02試験抗体医薬品の展開Time-of-Day試験最後にDeLLphi-304試験再発SCLCに対する治療選択肢の1つとして期待されているDLL3とCD3を標的としたTCEであるタルラタマブの有効性と安全性を評価した第III相試験がDeLLphi-304試験である。本試験は、プラチナ製剤ベースの初回化学療法を終了後、病勢進行を経験した再発SCLC患者を対象に、タルラタマブ(0.3mgで開始後、10mgを2週ごと投与)と化学療法(トポテカン、lurbinectedin、アムルビシン)を比較する国際共同多施設無作為化比較試験で、全体で509例が登録された。主要評価項目はOS、副次評価項目にはPFSや奏効割合(ORR)、安全性が設定された。主要評価項目であるOSにおいて、タルラタマブ群は化学療法群と比較して有意な生存期間延長を示し、OSの中央値はタルラタマブ群で13.6ヵ月、化学療法群で8.3ヵ月であり、ハザード比は0.60(95%CI:0.47~0.77)、p<0.001と統計学的に有意であった。PFSについても良好な傾向が認められ、中央値は4.2ヵ月と3.7ヵ月、ハザード比は0.71(95%CI:0.59~0.86)であった。ORRについても40%と17%とタルラタマブ群で良好であった。安全性の観点では、タルラタマブ群に特徴的なサイトカイン放出症候群(CRS)は56%にみられたが、大半はGrade1~2で管理可能であり、免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)などの神経学的有害事象も既知のプロファイルと一致した。治療関連死亡はなかった。今回のDeLLphi-304試験の成功により、20年以上にわたって進展のなかった再発SCLC治療において、新たな標準治療の登場が視野に入った意義深い試験結果である。DLL3はSCLCに特異的かつ高発現する治療標的として注目されており、新たなモダリティとしてTCEが治療の基軸になる状況が現実となった。今後、初回治療や限局型への展開、あるいは他がん腫への応用など、免疫系を活用した治療開発の広がりが期待される。IMforte試験ES-SCLCでは一次治療後の病勢進行率が高く課題とされてきた。lurbinectedinはアルキル化作用を持つ転写阻害剤であり、プラチナ製剤ベース化学療法後に病勢進行したSCLC患者において抗腫瘍活性が示されてきた。IMforte試験は、ES-SCLC患者において一次導入化学療法(アテゾリズマブ+カルボプラチン+エトポシド)後に病勢進行しなかった患者を対象として、アテゾリズマブによる維持療法にlurbinectedinを上乗せすることの意義を検証する国際共同多施設無作為化非盲検第III相試験である。患者はlurbinectedin(3.2mg/m2)とアテゾリズマブ(1,200mg)を3週ごとに併用投与する試験治療群、またはアテゾリズマブ(1,200mg)を3週ごとに単独投与する標準治療群に1:1の割合で無作為に割り付けられた。主要評価項目はIRF-PFS(独立画像判定によるPFS)およびOSとされた。試験治療群には242例、標準治療群には241例が登録された。試験治療群はIRF-PFSにおいて標準治療群に対して、PFS中央値5.4ヵ月と2.1ヵ月、ハザード比0.54(95%CI:0.43~0.67)、pNeoADAURA試験EGFR遺伝子変異陽性の切除可能なNSCLCに対する術前治療として、オシメルチニブ単剤または化学療法併用の有効性と安全性を検証する第III相試験がNeoADAURA試験である。本試験は、StageII~IIIB(N2)に相当する切除可能EGFR遺伝子変異陽性(Exon19delまたはL858R)NSCLCを対象に、術前オシメルチニブ単剤群、オシメルチニブ+化学療法併用群、化学療法単独群を比較する国際共同無作為化試験で、全体で358例が登録された。主要評価項目はmajor pathologic response(MPR)であり、副次評価項目には無イベント生存期間(event-free survival;EFS)、病理学的完全奏効割合(pCR)、ORR、手術実施率、R0切除率、安全性などが含まれた。MPRにおいては、化学療法群で2%であったのに対して、オシメルチニブ単剤、併用群では25%、26%であり、オシメルチニブ併用による統計学的な優越性が確認された。pCRにおいては、化学療法群が2%であったのに対して、併用群で4%、オシメルチニブ単剤群で9%という結果であった。R0切除率はいずれの群でも90%以上と高率であり、手術遅延や手術不能例も少なく、安全に根治切除に導ける治療であることが示唆された。まだイベント数が少ない状態ではあるがEFSについても報告され、化学療法群に対して、ハザード比は併用療法群で0.50、オシメルチニブ単剤群で0.73であった。術後治療としては全例にオシメルチニブによる補助療法が予定されており、長期予後の追跡が期待される。ADAURA試験で術後オシメルチニブの有効性が示されて以来、EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの治療パラダイムは大きく変化したが、本試験は術前段階からEGFR-TKIを導入することの意義を検討している。免疫チェックポイント阻害薬において病理学的奏効割合は高めだが画像上の奏効は50%程度にとどまっているという課題を有しており、画像上の高い奏効割合が期待できるEGFR-TKIの立ち位置については、今後さまざまな議論が展開されることになる。ALNEO試験ALNEO試験では、アレクチニブ600mgを1日2回術前に投与し、手術後も術後療法として継続することの有効性と安全性を検討する第II相試験である。主要評価項目はBICRによるMPRとされた。本試験にはイタリアの20施設が参加し、2021年5月から2024年7月にかけて患者が登録された。33例が登録され、全例が術前治療を完了し、28例が手術を受け、26例が術後療法を開始した。手術を受けなかった5例のうち、2例は患者の拒否、2例は臨床的判断、1例は臨床的進行のためであった。術後療法を受けなかった2例は、いずれもR0切除が得られなかったことがその理由であった。主要評価項目であるBICRによるMPRは42%(95%CI:28~58)であり、信頼区間の下限が事前に設定された閾値の20%を超えたことから、統計学的にも有意な結果であった。pCRは12%であった。副次評価項目として、ORRは67%であった。特筆すべきは、同時に報告されたNeoADAURA試験やこれまでのオシメルチニブによる術前治療において、pCRが0~10%未満にとどまっているのに対して、アレクチニブにおいては若干高めのMPRやpCRが報告されており、同じドライバー陽性肺がんにおいても標的や薬剤によって病理学的奏効に違いがあることが示唆されている点にある。今後、術前治療にドライバー遺伝子変異に伴うTKIを中心とした治療が導入されていくことが期待されているが、他の標的、他の薬剤による病理学的効果を含む効果についても注目したい。CheckMate 816試験すでに実臨床に導入されているCheckMate 816試験は、切除可能なStageIB(腫瘍径4cm以上)~IIIAのNSCLC患者(TNM分類第7版による)を対象とした第III相試験で、既知のEGFR遺伝子変異またはALK転座がない患者が登録された。患者はニボルマブ360mgと化学療法を3週間ごとに3サイクル併用するニボルマブ群、または化学療法単独を3週間ごとに3サイクル行う化学療法群に1:1の割合で割り付けられた。主要評価項目は、独立中央病理審査(BIPR)によるpCRおよびEFSで、OSは有意水準αも割り付けられた主要な副次評価項目として設定され、今回、最低5年間の追跡期間で最終解析が行われた。ニボルマブ群は化学療法群に対して、ハザード比0.72(95%CI:0.523~0.998)、p=0.0479と統計学的に有意なOSの改善を示し、5年OS割合も65%と55%であり、10%の上乗せを示した。ニボルマブと化学療法の併用は、肺がん特異的生存期間においても化学療法単独と比較して継続的な効果を示した。安全性プロファイルはこれまでの報告と一貫していた。CheckMate 816試験は、切除可能な固形がんにおいて、術前化学免疫療法のみ(3サイクル)が統計学的に有意なOSのベネフィットを示すことを検証した唯一の第III相試験であり、術前+術後化学免疫療法によるKEYNOTE-671試験に続いて、周術期免疫チェックポイント阻害薬においてOSの延長を示した重要な試験となった。術前のみ、術前+術後いずれの免疫チェックポイント阻害薬による補助療法においてもOSの延長が示された状況は肺がんにおいてのみであり、術前+術後の治療方法しか存在しない他のがん腫との明らかな違いが生じている。今後その違いに基づき、さらなる議論が展開されることは間違いないと考えられる。HERTHENA-Lung02試験HERTHENA-Lung02試験は、第3世代EGFR-TKI後に病勢進行した局所進行または転移を有するEGFR変異陽性NSCLC患者を対象とした国際共同多施設無作為化非盲検第III相試験である。患者は、HER3-DXd(5.6mg/kg、3週ごと)群または標準治療(シスプラチンまたはカルボプラチンを3週ごとに4サイクル投与後、ペメトレキセド維持療法実施)群に1:1の割合で割り付けられた。主要評価項目は、BICRによるPFSとされ、主要な副次評価項目はOS、それ以外の副次評価項目として安全性、頭蓋内PFS、HER3タンパク発現と有効性の関連性評価とされた。本試験には586例の患者が登録され、HER3-DXd群に293例、標準治療群に293例が割り付けられた。HER3-DXd群のPFS中央値は5.8ヵ月であったのに対し、標準治療群は5.4ヵ月であり、ハザード比は0.77(95%CI:0.63~0.94)、p=0.011で、統計学的に有意な結果であった。ただ、中央値での差異は0.4ヵ月にとどまっていた。さらに、今回OSの解析結果として、OSの中央値がHER3-DXd群、標準治療群それぞれで16.0ヵ月、15.9ヵ月、ハザード比0.98(95%CI:0.79~1.22)であり、OSについてはNegative trialであることが明らかになった。ポジティブな結果が多かった今年のASCOにおいて、期待されていたADCについてNegativeな結果が報告されたことのインパクトは大きかった。DXd(デルクステカン)ベースのADCとしては、昨年TROP2-ADCであるDato-DXdが、同様の肺がん二次治療において、全体集団でのOSでNegativeであったことが報告されている。Dato-DXdについてはTROP2の発現についてAIも用いたタンパク発現の評価方法TROP2 QCS-NMR(Normalized Membrane Ratio of TROP2 by Quantitative Continuous Scoring)が効果予測になりうることが報告されている。そのため、HER3-DXdにおいても、HER3の発現について今後同様の試みがされることに期待したい。抗体医薬品の展開BL-B01D1(iza-bren)は、EGFRとHER3の二重特異性ADCであり、新規のトポイソメラーゼI阻害薬(Ed-04)をペイロードとしている。EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対しては、63.2%のORRを示したことがすでに報告されている。今回は、上記以外のドライバー遺伝子変異を持つNSCLC患者83例が登録され、EGFR exon20挿入変異・Uncommon mutation(14例)、HER2変異(19例)、ALK/ROS1/RET融合(24例)、KRAS/BRAF/MET変異(26例)を有する患者が登録された。全患者のORRは46.2%、PFS中央値は7.0ヵ月であった。ORRはそれぞれ、EGFR exon20挿入変異・Uncommon mutation 69.2%、HER2変異52.9%、KRAS/BRAF/MET変異40%、KRAS G12C変異44.4%、ALK/ROS1/RET融合34.8%であった。ABBV-400(Telisotuzumab Adizutecan、Temab-A)はc-Met標的抗体(Telisotuzumab)とトポイソメラーゼIペイロードを組み合わせたものである。今回、プラチナベース化学療法およびTKIによる治療を受けた進行固形がん患者を対象とし、3ライン以上の治療歴のあるEGFR変異非扁平上皮NSCLCコホートのデータが報告された。その結果、ORRは63%であり、耐性変異の有無にかかわらず幅広い効果が確認された。ABBV-706は、高悪性度神経内分泌腫瘍(NENs)に発現しているSEZ6(Seizure-Related Homolog Protein 6)を標的としたTop1阻害薬をペイロードとしたADCである。NEN全体を対象としたコホートでは、ORRが36.9%、PFS中央値が7.62ヵ月であり、LCNECに限定した解析結果では、ORRが33.3%、PFS中央値が5.78ヵ月であることが報告された。低酸素応答性CEA CAR-T細胞療法の再発NSCLCに対する第I相試験についても報告された。ORRは47%、DCRは87%であり、一定の効果が示されたが、奏効期間(DoR)中央値は2ヵ月であり、この点についてはまだまだ改善の余地があることが示された。PRを達成した患者では、ベースライン血清CEAレベルが有意に高いなどのサブグループ解析も報告された。Time-of-Day試験Time-of-Day(ToD)試験は、進行NSCLC患者における化学免疫療法を、早めの時間(15:00より前)と遅い時間(15:00以降)で投与した場合の比較を行った無作為化第III相試験である。概日リズムは睡眠、疾患、治療に影響を与えることが知られており、前臨床試験では概日リズムと免疫細胞機能・分布の関連性、および免疫療法の有効性への影響が示唆されていた。また、20報以上の後ろ向き研究のメタ解析では、免疫チェックポイント阻害薬の投与が「遅い時間」よりも「早い時間」に行われた場合に効果の改善が示されている。StageIIIC~IV期のNSCLC患者210例が、標準化学療法と免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブまたはsintilimab)の初回4サイクルについて、早めの時間(15:00より前)または遅い時間(15:00以降開始)に無作為に割り付けられた。主要評価項目はBICRによるPFS、副次評価項目はOS、BICRによるORR、全血リンパ球サブセット解析であった。早い時間に投与した場合のPFS中央値は11.3ヵ月であったのに対し、遅い時間では5.7ヵ月であり、ハザード比は0.42(95%CI:0.31~0.58)、p<0.0001で、統計学的に有意に早い時間に投与することの優越性が示された。OSにおいても、中央値がNot reachedと16.4ヵ月、ハザード比は0.45(95%CI:0.30~0.68)、p<0.0001であり、明らかに早い時間の投与で延長することが示された。有害事象発現割合については、若干の違いは認めるものの大きな違いは認められなかった。循環T細胞の解析では、早い時間群でCD8+T細胞とCD4+T細胞の有意な増加が示された一方で、遅い時間群では減少傾向がみられ、今回の試験結果を裏打ちする情報として示された。高額の薬剤を用いて新たな治療方法が模索されるなかで、投与時間の調整のみで大きなPFS、OSの違いをもたらした結果が、中国で実施された臨床試験から得られたことを会場の参加者は驚きをもって受け止めた。今後おそらくいくつかの追試が実施されるとともに、最適な投与時間のカットオフ(15時が最適か)についても検討が進められる見込みである。最後に今年のASCOは、肺がんによるPlenary演題はなかったものの、Plenaryであってもおかしくないインパクトを有する演題は複数発表された。注目すべきは、抗体医薬品を中心とした新たな薬剤の発表が続いたことだけでなく、周術期や免疫チェックポイント阻害薬の投与タイミングなど、肺がんの治療開発が実に幅広い領域で展開していることである。引き続き目が離せない状態が続くと考えられる。

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進行肛門扁平上皮がん、標準治療vs. retifanlimab上乗せ/Lancet

 プラチナ製剤化学療法中に病勢進行した進行肛門管扁平上皮がん(SCAC)において、retifanlimabは抗腫瘍活性を示すことが報告されている。英国・Royal Marsden Hospital NHS Foundation TrustのSheela Rao氏らPOD1UM-303/InterAACT-2 study investigatorsは、本疾患の初回治療における、カルボプラチン+パクリタキセル療法へのretifanlimab上乗せを前向きに評価する、第III相の国際多施設共同二重盲検無作為化対照試験「POD1UM-303/InterAACT-2試験」を行い、臨床的ベネフィットが示され、安全性プロファイルは管理可能であったことを報告した。著者は、「結果は、retifanlimab+カルボプラチン+パクリタキセル併用療法が、進行SCAC患者に対する新たな標準治療と見なすべきであることを示すものであった」とまとめている。Lancet誌2025年6月14日号掲載の報告。日本を含む12ヵ国70施設で試験 POD1UM-303/InterAACT-2試験は、EU、オーストラリア、日本、英国、米国の12ヵ国70施設で行われた。対象者は、18歳以上、切除不能の局所再発または転移のあるSCACでECOG performance status が0または1、全身療法歴なし、HIVのコントロール良好(CD4陽性Tリンパ球数200/μL超、ウイルス量検出限界未満)な患者を適格とした。 被験者は、標準治療のカルボプラチン+パクリタキセルに加えてretifanlimab 500mgまたはプラセボを4週ごと静脈内投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けられ、最長1年間投与された。プラセボ群の被験者は、病勢進行が確認された場合にretifanlimab単独投与への切り替えが可能であった。 主要評価項目は、RECIST 1.1に基づく独立中央判定の無増悪生存期間(PFS、すなわち無作為化の日から最初に記録された病勢進行またはあらゆる原因による死亡の日まで)とした。有効性はITT集団で評価した。PFS中央値はretifanlimab群9.3ヵ月、プラセボ群7.4ヵ月、HRは0.63 2020年11月12日~2023年7月3日に、376例が適格性の評価を受け、308例がretifanlimab+カルボプラチン+パクリタキセル群(154例)またはプラセボ+カルボプラチン+パクリタキセル群(154例)に無作為化された。222/308例(72%)が女性で、86/308例(28%)が男性であった。 PFS中央値は、retifanlimab群9.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:7.5~11.3)、プラセボ群7.4ヵ月(7.1~7.7)であった(ハザード比[HR]:0.63[95%CI:0.47~0.84]、片側p=0.0006)。 重篤およびGrade3以上の有害事象は、retifanlimab+カルボプラチン+パクリタキセル群(47.4%および83.1%)がプラセボ+カルボプラチン+パクリタキセル群(38.8%および75.0%)より発現頻度が高かった。最も多かったGrade3以上の有害事象は、好中球減少症(それぞれ35.1%vs.29.6%)および貧血(19.5%vs.20.4%)であった。 致死的有害事象4例がretifanlimab+カルボプラチン+パクリタキセル群で発現したが、治療に関連したものは1例(汎血球減少症)のみであった。また、プラセボ+カルボプラチン+パクリタキセル群では致死的有害事象が1例発現したが、治療に関連していなかった。

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術後大腸がん患者への運動療法、DFSとOSを改善/NEJM

 前臨床研究および観察研究では、運動が大腸がんを含むがんのアウトカムを改善する可能性が示唆されている。カナダ・アルバータ大学のKerry S. Courneya氏らCHALLENGE Investigatorsは「CHALLENGE試験」において、大腸がんに対する術後補助化学療法終了から6ヵ月以内に開始した3年間の構造化された運動プログラムは、これを行わない場合と比較して、無病生存期間(DFS)を有意に改善し、全生存期間(OS)の有意な延長をもたらすことを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年6月1日号に掲載された。運動の有効性を評価する国際的な無作為化第III相試験 CHALLENGE試験は、カナダとオーストラリアを主とする55施設で実施した無作為化第III相試験であり、2009~24年に参加者を登録した(Canadian Cancer Societyなどの助成を受けた)。 StageIIIまたは高リスクのStageIIの大腸腺がんで、切除術を受け、過去2~6ヵ月の間に術後補助化学療法を完了し、中等度から高強度の身体活動の時間が週に150分相当未満の患者を対象とした。 被験者を、標準的なサーベイランスに加え身体活動と健康的な栄養摂取を奨励する健康教育資料の提供のみを受ける群、または健康教育資料+3年間の構造化運動プログラムを受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目はITT集団におけるDFSとし、無作為化の時点から大腸がんの再発(局所または遠隔)、新規の原発がん、2次がん、全死因死亡のいずれか最初に発現したイベントまでの期間と定義した。5年DFS率は80.3%vs.73.9%、8年OS率は90.3%vs.83.2% 889例を登録し、運動群に445例、健康教育群に444例を割り付けた。全体の年齢中央値は61歳(範囲19~84)、51%が女性で、90%の病変がStageIII、61%が術後補助化学療法としてFOLFOX(フルオロウラシル+ロイコボリン+オキサリプラチン)を受けていた。ベースラインで、患者報告による中等度から高強度の身体活動の代謝当量(MET)は週に11.5MET・時で、予測最大酸素摂取量は毎分体重1kg当たり30.7mLであり、6分間歩行距離は530mであった。 追跡期間中央値7.9年の時点で、DFSイベントは224例(運動群93例、健康教育群131例)で発現した。DFS中央値は、健康教育群に比べ運動群で有意に延長し(ハザード比[HR]:0.72[95%信頼区間[CI]:0.55~0.94]、p=0.02)、年間イベント発生率は運動群3.7%、健康教育群5.4%であった。また、5年DFS率は、運動群80.3%、健康教育群73.9%だった(群間差:6.4%ポイント[95%CI:0.6~12.2])。 DFSの結果は、健康教育群よりも運動群でOS中央値が長いことを裏付けるものであり(HR:0.63[95%CI:0.43~0.94])、年間死亡率は運動群1.4%、健康教育群2.3%であった。また、8年OS率は、運動群90.3%、健康教育群83.2%だった(群間差:7.1%ポイント[95%CI:1.8~12.3])運動介入による有害事象は10% 36-Item Short Form Survey(SF-36)の身体機能のサブスケールの評価では、ベースラインから6ヵ月(7.1 vs.1.3)、1年(6.8 vs.3.3)、1.5年(7.2 vs.2.4)、2年(6.1 vs.2.6)、3年(6.1 vs.3.0)のいずれの時点においても、健康教育群に比べ運動群で改善度が大きかった。 介入期間中の有害事象は、運動群の351例(82.0%)、健康教育群の352例(76.4%)で発現した。筋骨格系の有害事象は、運動群で79例(18.5%)、健康教育群で53例(11.5%)に発現し、運動群の79例中8例(10%)は運動による介入に関連すると判定された。Grade3以上の有害事象は、運動群で66例(15.4%)、健康教育群で42例(9.1%)に認めた。 著者は、「運動による無病生存期間の改善は、主に肝の遠隔再発(3.6%vs.6.5%)と新規原発がん(5.2%vs.9.7%)の発生が低率であったことに起因しており、運動はさまざまなメカニズムを介して大腸がんの微小転移を効果的に治療し、2次がんを予防する可能性が示唆される」「運動群では、ベースラインから週当たり約10MET・時の中等度から高強度の身体活動の増加という目標を達成し、この増分は約45~60分の速歩を週に3~4回、または約25~30分のジョギングを週に3~4回追加することに相当する」「本試験の結果は、構造化運動プログラムのがんの標準治療への組み込みを支持するものだが、知識だけでは患者の行動やアウトカムを変えることは困難であるため、意味のある運動の増加を達成するには医療システムによる行動支援プログラムへの投資が求められるだろう」としている。

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弘前大学医学部 腫瘍内科学講座【大学医局紹介~がん診療編】

佐藤 温 氏(教授)斎藤 絢介 氏(助教)陳 豫 氏(助手)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴がんを抱える患者という「ひと」に目を向けた診療を行うことを大切にしています。医学知識の習得と、研究開発といった科学力はもちろん、患者の社会背景から生じる課題への対応力、そしてケアのための対話力といったさまざまな視点からの医療を統合して提供することを大切にしています。先進的医療の実践と同時に、がんを抱える患者の人生に深く関わり、さらには、小中高等学校におけるがん教育など、社会活動にも積極的に取り組んでいます。臨床開発から本質的医療の実践までの広範な領域を、こんな小さな医局がこの広大な地域で展開している、そんな一生懸命な姿勢が特徴です。地域のがん診療における医局の役割全診療科と連携して、全領域のがん症例に対する治療方針の検討のため、週2回のキャンサーボードを開催しています。また、がんゲノム医療拠点病院としての指定を受け、がんゲノム外来を通して全圏内からゲノムパネル検査を受け、毎週エキスパートパネルを開催しています。幅広い領域の医療者が集う多職種カンファレンスも定期開催しています。また、地域の病院に赴き、治療困難症例や希少がん症例などの相談を含めた診療を積極的に行っています。地域全体において腫瘍内科医がかなり不足する中、院内の横断的連携から、圏内医療施設でのがん医療連携までの幅広い領域で中心的役割を担っています。今後医局をどのように発展させていきたいか家族みたいな医局です。仕事は楽しく、患者を含めたひとには謙虚に、そして学問には貪欲に、をモットーにして、わたしも含めた教室員全員の総力で日々の診療・教育・研究に向き合っています。正直なところ、仲間を増やすことが最重要課題です。各診療科からも切望されている需要過多の医局です。活躍の場は、医療現場に留まらず一般社会にも広げていきたいと思います。生命が満ち溢れるこの地だからこそ、医療の本質を見極めることができ、それを臨床で展開することができる医局です。医師の育成方針地域全体での医師不足の状況の中、専門性を備えた専門医師不足はかなり切実な問題です。専門性を高めるのみでは地域医療貢献にはまったく不十分です。予防医療からゲノム医療そして終末期医療までの幅広い臨床過程を患者/家族の視点からコーディネートして、がん医療のリーダーとして活躍できる、次世代の医療人材を育成します。研修はOn-the-Job Trainingが中心となりますが、がん医療におけるprofessional playerとしてだけではなく、total coordinatorとしての両能力を遺憾なく発揮できるよう個別に丁寧な指導をします。医局でのがん診療のやりがいと魅力弘前市は青森県第3の人口を有する地方都市であり、地理的には津軽平野の中央に位置します。春は桜、夏はねぷた祭り、秋はリンゴ、冬は雪まつりと四季折々を堪能できることが魅力です。青森県は農業、漁業といった第1次産業に従事される方々が多いのも特徴です。一方、少子高齢化、人口減少が最も進んでいる県の1つでもあり、紹介されるがん患者さんの多くが高齢者であることも事実です。交通手段は、鉄道網の整備が悪いため、自家用車移動が中心となる地方都市ならではの生活環境を有しています。さらに、自然環境の影響も大きく、冬期は雪のため交通手段が閉ざされてしまうことさえもあります。ただし、一見問題の多い地域としてだけに見られがちですが、この少子高齢化と人口減少は、日本全体の問題であり、単に青森県が先進県であるだけです。この地域での学びと経験は、今後の日本の高齢社会を考えるうえにおいて1つの強みになります。困難な問題ではありますが、最も重要な課題に立ち向かう魅力は大きいです。医学生/初期研修医へのメッセージ医師として最先端医療に関わり続けることはとても魅力的です。教室では、臨床試験に積極的に参加しています。でも、地方に根付いた医療を経験し、患者一人ひとりの生き方や生活環境に触れ、十分な会話を通して、その人らしいがん治療を行うことができることが当科の強みだと思います。一緒にがん医療をしましょう。同医局を選んだ理由出身は中国河南省です。腫瘍内科を志した動機は、抗がん剤治療を受けながらがんと戦った母親の苦しみを深く痛感し、そしてがんで家族を失うという辛い経験をしたことから萌え出ました。あの時から、がんで闘病している人の苦しみを和らげる医者になることを決断しました。弘前大学を卒業して、長男が生まれました。初期研修を終え、腫瘍内科に入局後長女が生まれ、子供は2人となりました。子育ても家事も苦労の連続でしたが、家族や両親のおかげもあって臨床一筋に取り組むことができ、無事がん薬物療法専門医を取得し、腫瘍内科医として充実した日々を送っています。現在学んでいること教室のスタッフ、病棟/外来の看護師、薬剤師、さらに心理士、栄養士、理学療法士等々たいへん多くのメディカルスタッフらと真摯にかつとても楽しく仕事に取り組んでいます。がん化学療法はもちろん緩和医療を含め、さまざまな有害事象から合併症まで、内科全般的な診療が行えることが日々勉強になっています。「答えは患者にある」の教えをもとに、初心を忘れず謙虚な姿勢で多くのことを学び、人の苦しみを和らげる医者になるため日々精進しています。弘前大学大学院医学研究科 腫瘍内科学講座住所〒036-8562 青森県弘前市在府町5問い合わせ先shuyo@hirosaki-u.ac.jp医局ホームページ弘前大学大学院医学研究科 腫瘍内科学講座専門医取得実績のある学会日本内科学会日本臨床腫瘍学会日本肉腫学会日本消化器病学会日本消化器内視鏡学会日本がん治療認定医機構研修プログラムの特徴(1)弘前大学医学部附属病院内科専門研修プログラム 腫瘍内科重点コース地域医療を含めた幅広い研修を通じて、標準的かつ全人的な内科領域全般にわたる医療の実践に必要な知識と技能とを修得する。詳細はこちら(トップページ/医科後期研修 専門研修)(2)東北広域次世代がんプロ養成プラン 地域がん医療 次世代リーダー育成コース地域がん医療のリーダーとなり、次世代の医療人の育成ができる人材を育成する。詳細はこちら(東北広域次世代がんプロ養成プラン・弘前大学)

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腫瘍内細菌叢が肺がんの予後を左右する

 細菌は外的因子としてがんの発生に寄与するが、近年、腫瘍の中にも細菌(腫瘍内細菌叢)が存在していることが報告されている。今回、肺がん組織内の腫瘍細菌叢の量が、肺がん患者の予後と有意に関連するという研究結果が報告された。研究は、千葉大学大学院医学研究院分子腫瘍学(金田篤志教授)および呼吸器病態外科学(鈴木秀海教授)において、越智敬大氏、藤木亮次氏らを中心に進められ、詳細は「Cancer Science」に4月11日掲載された。 近年、がんの予後と腫瘍内細菌叢の関係が注目されている。その中でも、肺がんに関する研究は、喀痰や気管支肺胞洗浄液に含まれる腫瘍外部の細菌に焦点を当てたものがほとんどであり、腫瘍内細菌叢とその予後への影響について検討したものは限られている。そのような背景を踏まえ著者らは、腫瘍内細菌叢が肺がん患者の予後に与える影響を評価するために、単施設のコホート研究を実施した。 本研究では、最も一般的な肺がんの2つの組織型、肺腺がん(LUAD)と肺扁平上皮がん(LUSC)が解析された。肺がんの腫瘍サンプルは、千葉大学医学部付属病院で2016年1月~2023年12月の間に手術を受けた507人(LUAD 369人、LUSC 138人)より採取された。再発手術と術前化学療法を行った症例は除外した。腫瘍内細菌叢のゲノムDNA(bgDNA)の定量はqPCR法により行い、bgDNAが大量に検出された症例については、蛍光in situ ハイブリダイゼーション法(FISH)により、腫瘍組織内の局在が確認された。 腫瘍サンプルのqPCRの結果、391サンプル(77.1%)で、定量範囲下限以上のbgDNAが検出された。LUADおよびLUSCサンプルを用いたFISH解析により、組織中に細菌が存在することが示されたが、LUSCにおいては、細菌は間質に多く存在していた。 次に性別、病期(I~III)、組織型(LUAD、LUSC)などの患者特性ごとに、細菌叢のbgDNAのコピー数を調べた。その結果、他の患者特性では有意な差は認められなかったが、組織型では、LUSCと比較しLUADで有意に細菌叢のbgDNAのコピー数が多いことが分かった(P=1×10-7)。 定量化された391の検体は、bgDNAの定量値に基づき、細菌叢高容量群、低容量群、超低容量群の3群に分類し、全生存率(OS)と無再発生存率(RFS)との相関が検証された。その結果、LUADでは、細菌叢の量はOSやRFSのいずれとも有意に相関していなかった。しかしLUSCでは、Cox比例ハザードモデルを用いた単変量および多変量解析の結果、OSおよびRFSと有意に関連し、病期とは独立した予後因子として特定された。 本研究について金田教授は、「腫瘍内細菌叢は組織型に差異はあるものの、多くの肺がん組織で認められた。この細菌叢の量は、予後の悪い肺扁平上皮がんを層別化する上で有用なマーカーとなる可能性がある」と述べており、鈴木教授は、「これら細菌の肺がん発症や進展への寄与については今後さらなる研究が必要である」と付け加えた。

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ASCO2025 レポート 消化器がん

レポーター紹介2025年5月30日~6月3日に、米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)が米国・シカゴで開催され、後の実臨床を変えうる注目演題が複数報告された。高知大学の佐竹 悠良氏が消化器がん領域における重要演題をピックアップし、結果を解説する。胃がんMATTERHORN試験:周術期FLOTにおけるデュルバルマブ追加の意義(LBA5)切除可能II~IVA期の胃がん・食道胃接合部腺がんを対象に、欧米における標準治療である周術期FLOT(フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン、ドセタキセル)療法に対する抗PD-L1抗体であるデュルバルマブ追加(D-FLOT療法)の有用性を検証したMATTERHORN試験。D-FLOT療法により病理学的完全奏効の改善がすでにESMO2023で報告され(19%vs.7%、オッズ比:3.08、p<0.00001)、主要評価項目である無イベント生存期間(EFS)における統計学的優越性もプレスリリースされていたが、今回学会にて正式に報告され、同時にNEJM誌でpublishされた。患者は術前・術後に2サイクルずつFLOT療法+プラセボもしくはD-FLOT療法を受け、その後プラセボもしくはデュルバルマブを10サイクル(術後補助化学療法として1年間)受けた。主要評価項目のEFS中央値はD-FLOT群未到達vs.プラセボ群32.8ヵ月であり、統計学的優越性を示した(ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.58~0.86、p<0.001)。24ヵ月EFS率はD-FLOT群67%vs.プラセボ群59%であった(観察期間中央値:D-FLOT群31.6ヵ月vs.プラセボ群31.4ヵ月)。副次評価項目である全生存期間(OS)においても改善傾向(HR:0.78、95%CI:0.62~0.97、p=0.025)がみられたが、現時点では統計学的有意差には至っていない(観察期間中央値:D-FLOT群34.6ヵ月vs.プラセボ群34.6ヵ月)。免疫介在性有害事象はGrade3/4をD-FLOT群7%vs.プラセボ群4%に認めた。胃がん周術期治療における免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、KEYNOTE-585試験およびATTRACTION-5試験において有意な結果を示すことができなかったが、本試験において主要評価項目であるEFSでの有意な改善を認め、今後の標準治療となることが見込まれる。一方、本邦では周術期FLOT療法の経験は十分とは言えず、大型3/4型胃がんに対する術前FLOT療法およびDOS(ドセタキセル+オキサリプラチン+S-1)療法を検討する第II相試験であるJCOG2204が進行中であり、結果が期待される。DESTINY-Gastric04試験:HER2陽性胃がんの2次治療におけるT-DXdの有効性を確立(LBA4002)HER2陽性(IHC3+またはIHC2+/ISH+)の進行・再発胃がんまたは食道胃接合部腺がんに対し、抗HER2抗体薬物複合体(ADC)であるトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、6.4mg/kgを3週ごと)が、現在の標準2次治療であるラムシルマブ+パクリタキセル併用(RAM+PTX)療法と比較してOSを有意に延長することが国立がん研究センター東病院の設楽 紘平氏から報告され、こちらも同時にNEJM誌でpublishされた。本試験は前治療のトラスツズマブ不応後の生検によるHER2陽性例が対象であり、1,088例に腫瘍組織検体スクリーニングが実施され、450例(41%)は組織スクリーニングで脱落し、最終的に494例が1:1に割り付けされた。前治療としてICIの投与歴がある患者は両群ともに15%程度であり、後治療として抗HER2治療を受けた割合はT-DXd群3.2%vs.RAM+PTX療法群25.8%であった。主要評価項目のOS中央値は、T-DXd群14.7ヵ月vs.RAM+PTX療法群11.4ヵ月であり、統計学的優越性を示した(HR:0.70、p=0.0044)。副次評価項目の無増悪生存期間(PFS)および奏効率(ORR)においてもT-DXd群で有意に改善を示した(PFS中央値:6.7ヵ月vs.5.6ヵ月、HR:0.74、p=0.0074、ORR:44.3%vs.9.1%、p=0.0006)。Grade3以上の薬剤関連有害事象の割合も両群で同等であった(T-DXd群50.0%vs.RAM+PTX療法群54.1%)。ただし、間質性肺疾患はT-DXd群で13.9%(Grade3は1例のみ、0.4%)と、重篤例は多くないものの注意が必要である。今後、HER2陽性かつCPS陽性の進行・再発胃がんに対しては、KEYNOTE-811試験の結果から初回治療よりペムブロリズマブ併用が見込まれるが、本試験のサブグループ解析においては前治療ICI投与の有無にかかわらず、一貫してT-DXdによる生存改善傾向を認めており、HER2陽性胃がんにおける2次治療としてT-DXdが今後の標準治療の位置付けとされた。一方、本結果は試験組み入れ時のHER2再確認(再生検)により結果が導かれているが、40%前後は前治療不応時にHER2 lossが生じている可能性が示唆された。大腸がんATOMIC試験:StageIII dMMR大腸がん術後補助療法におけるアテゾリズマブ追加の意義(LBA1)StageIIIのdMMR結腸がんに対する術後補助療法として、mFOLFOX6化学療法にPD-L1阻害薬であるアテゾリズマブを追加することで、無病生存期間(DFS)を有意に延長することが国際第III相試験ATOMIC試験により示された。試験治療群は術後補助化学療法としてmFOLFOX6+アテゾリズマブ併用療法を6ヵ月受けた後にアテゾリズマブ単剤を6ヵ月(計12ヵ月)投与され、対照群はmFOLFOX6療法を6ヵ月投与された。主要評価項目である3年DFS率はアテゾリズマブ併用群86.4%vs.対照群76.6%(HR:0.50、95%CI:0.34~0.72、p<0.0001)であり、統計学的有意差を認めた。Grade3/4の治療関連有害事象(TRAE)は併用群72.3%vs.対照群59.2%とアテゾリズマブ併用群でやや多く、免疫関連有害事象として高血糖や甲状腺機能低下、大腸炎に伴う下痢や皮膚炎を認めたが、重篤なものは少なかった。本試験により、StageIIIのdMMR結腸がんにおいて術後免疫療法導入が長期予後を改善することが明らかとなり、補助療法の新たな標準となる可能性を示した。現在、本邦を含め切除可能なStage IIIまたはT4N0のdMMR/MSI‑High陽性結腸がん患者に対する周術期dostarlimabの有効性を検証する第III相試験であるAZUR-2試験が進行中である。同薬剤はすでに直腸がん領域で良好な有効性が確認されており、新しい治療ストラテジー確立が期待される。BREAKWATER試験:BRAF V600E変異陽性大腸がんに対する1次治療としてのEC+mFOLFOX6併用療法(#3500)進行・未治療のBRAF V600E変異陽性大腸がん患者を対象に、BRAF阻害薬エンコラフェニブ(E)+抗EGFR抗体セツキシマブ(C)に化学療法(mFOLFOX6)を加えた3剤併用療法(EC+mFOLFOX6)の標準治療(FOLFOX/FOLFOXIRI/CAPOX±BEV)に対するORRおよびOS(初回中間解析)における良好な結果は、一足先にASCO-GI 2025で発表されていたが、今回主要評価項目の1つであるPFSの結果が報告され、PFS、ORR、OSにおける改善が明らかとなり、同時にNEJM誌でpublishされた。主要評価項目であるPFS中央値はEC+mFOLFOX6群12.8ヵ月vs.標準治療群7.1ヵ月であり、統計学的優越性を示した(HR:0.53、95%CI:0.407~0.677、p<0.0001)。OS中央値(2回目の中間解析)はEC+mFOLFOX6群30.3ヵ月vs.標準治療群15.1ヵ月(HR:0.49、p<0.0001)だった。もう1つの主要評価項目であるORRの追加報告もあり、EC+mFOLFOX6群65.7%vs.EC群45.6%vs.標準治療群37.4%と良好であった。TRAE(Grade3/4)はEC+mFOLFOX6群76.3%vs.EC群15.7%vs.標準治療群58.5%であり、関節痛(29%)、皮疹(29%)に注意が必要である。本試験により、BRAF V600E変異大腸がんの1次治療として、EC+mFOLFOX6が新たな標準と位置付けられた。また、EC療法はmFOLFOX6療法などの抗がん剤治療が適応とならないフレイル症例に対する治療選択肢となる可能性が示唆された。AGITG DYNAMIC-III試験:術後ctDNA陽性は高リスク再発マーカー(#3503)術後StageIII結腸がん患者を対象に、circulating tumor DNA(ctDNA)の有無による再発リスクを評価した第II/III相試験であるDYNAMIC-III試験において、ctDNA陽性が強力な再発予測因子であることが示された。StageIII結腸がん患者を対象に術後4週時点でctDNAを評価し、ctDNA結果に基づいたマネジメント群(ctDNA-informed群、ctDNA陰性例ではde-escalation、ctDNA陽性はescalation[より強力な術後補助療法]を実施)と標準マネジメント群(主治医選択によるマネジメント、ctDNA結果は盲検)に無作為化して割り付けされた。全体で1,002例が登録され、それぞれctDNA-informed群502例vs.標準マネジメント群500例に割り付けられ、ctDNA陽性は各群129例(27%)vs.130例(27%)であった。ctDNA陽性例のうち、ctDNA-informed escalation群では3ヵ月以上のFOLFOXIRI実施が50%、6ヵ月のオキサリプラチンダブレット(FOLFOX/CAPOX)が44%に実施され、一方の標準マネジメント群では3ヵ月FOLFOX/CAPOXが45%、6ヵ月FOLFOX/CAPOXが41%に術後補助療法として実施された。3年無再発生存期間はctDNA-informed escalation群48%vs.標準マネジメント群52%であり、ctDNA結果に基づいた術後補助化学療法強化による再発抑制改善は認めなかった(HR:1.11、p=0.57)。後解析としてFOLFOXIRIとFOLFOX/CAPOXの無再発生存比較がなされたが、差を認めず(HR:1.09、p=0.662)、ctDNAクリアランス割合も同等であった(60%vs.62%)。術後補助化学療法終了時点におけるctDNAクリアランスの有無(HR:11.1)および術後ctDNA測定時のctDNA量が再発と相関することが示唆された(p<0.001)。既報と同様に、術後ctDNA検査のバイオマーカーとしての有用性および術後ctDNA量と再発リスクとの相関やctDNA陽性例に対する術後補助化学療法によるctDNAクリアランスの重要性が報告された。一方で、 ctDNA陽性例に対してはオキサリプラチン併用レジメンからFOLFOXIRIへの治療強化では不十分である可能性も示唆され、今後さらなる治療開発の必要性が示唆された。本邦における臨床実装が待たれる。NCCTG N0147後方解析:ctDNAによるMRD評価が術後再発リスクを鋭敏に予測(#3504)術後StageIII結腸がんに対する術後補助FOLFOX±セツキシマブを検証した第III相試験であるNCCTG N0147試験におけるctDNAの後解析により、ctDNA評価は再発リスクを高精度に層別化できることが明らかとなった。術後補助療法開始前10週以内に血漿ctDNAをGuardant Reveal/Guardant360で測定(中央値42日)。 ctDNAは20.4%で検出可能であり、より進行例(T/Nステージ)やBRAF変異例、閉塞例や穿孔例などの術後再発高リスク例において検出されることが示唆された。ctDNA陽性例は陰性例に比し、DFS、OSともに大きく劣っていた(DFS-HR:3.74、p<0.0001、OS-HR:3.17、p<0.001)。一般的に術後予後良好とされているdMMR症例においても、ctDNA陽性例はpMMR例と比較してもDFSおよびOSが不良であった(DFS-HR:1.54、p=0.0114、OS-HR:1.77、p=0.0026)。術後病理評価による再発リスクとctDNA検出の有無による層別化ならびにctDNA検出量とDFSの相関性も示唆された。既報と同様に、術後ctDNA MRD評価の有用性が再確認され、早期の再発予測や治療強度決定に活用できる可能性を示した。TRIPLETE試験:初回治療でのmFOLFOXIRI+パニツムマブがOSを有意に延長(#3512)切除不能なRAS/BRAF野生型転移を有する大腸がん(mCRC)初回治療において、mFOLFOX+パニツムマブに対しmFOLFOXIRI+パニツムマブは、主要評価項目のORRおよびPFSは改善を認めないことがすでに報告されていた。一方、本邦で実施されたJACCRO CC-13(DEEPER試験)においては、RAS/BRAF野生型かつ左側原発例においてmFOLFOXIRI+セツキシマブ療法のmFOLFOXIRI+BEVに対する治療成績改善が示唆されていた。今回TRIPLETE試験におけるOSが報告され、mFOLFOXIRI+パニツムマブによる有意な生存期間延長が報告された(観察期間中央値:60.2ヵ月)。OS中央値はmFOLFOXIRI+パニツムマブ群41.1ヵ月vs.mFOLFOX6+パニツムマブ群33.3ヵ月であり、有意に改善を認めた(HR:0.79、95%CI:0.63~0.99、p=0.049)。一方で、アップデートされたORRやPFS、奏効期間(DoR)、早期腫瘍縮小(ETS)およびR0切除割合は群間差を認めなかった。PPS(病勢進行後生存)はmFOLFOXIRI群で有意に延長(HR:0.73、p=0.012)しており、OS延長の主因と考えられた。トリプレット+抗EGFR抗体はDEEPER試験と同様にTRIPLETE試験でも、標準治療に対する良好な生存延長効果が示唆され、RAS/BRAF野生型mCRCの治療戦略においてトリプレット療法を選択肢の1つとして再評価する根拠と考えられる。ただし、PFSやORRに差がなかったことから、有効性の本質はPPSの改善に依存している可能性があり、治療強度と毒性のバランスに配慮した個別化治療が求められる。胆道がんGAIN試験:胆道がんに対する周術期GC療法の有効性が示唆(#4008)切除可能局所進行胆道がんに対して、本邦ではASCOT試験により切除後のS-1補助化学療法が標準治療とされているが、今回ドイツより術前・術後にゲムシタビン+シスプラチン(GC)を用いた周術期治療が、標準治療(手術+術後補助療法)と比較してOSおよびEFS、R0切除率を大きく改善する可能性が報告された。ドイツの21施設による第III相試験であり、登録数不足により68例の登録時点で早期終了となった。NEO群(周術期GC群)は術前GC 3サイクル後に切除がなされ、その後3サイクルの術後補助GC療法がプロトコール治療として規定されており、標準治療群は切除後に術後補助化学療法24週(主治医選択)が規定されていた。早期中止のためNEO群(32例)、標準治療群(30例)での報告。NEO群の術前GC療法平均投与コース数は2.8サイクルだが、術後補助療法の平均投与コース数は1.4サイクルであった。一方の標準治療群における術後補助療法はカペシタビン20%、ゲムシタビン3.3%、GC療法3.3%であった。OS中央値はNEO群(周術期GC群)27.8ヵ月vs.標準治療群14.6ヵ月と周術期GC療法による良好な結果が示唆された(HR:0.463、95%CI:0.222~0.964、p=0.0395)。 EFS(HR:0.351、p=0.0047)や R0切除率(NEO群83.3%vs.標準治療群40.0%)も大きな差を認めた。本試験は登録数の制限から統計的限界があるものの、術前GC療法が切除率や生存期間の向上に寄与しうる可能性を示した点で意義深く、今後の大規模前向き試験の展開が強く期待される。一方で現在、本邦では進行・再発胆道がんに対してGC+S-1(GCS)療法とGC+ICI併用療法の治療効果を検討するKHBO2201-YOTSUBA試験が進行中であり、周術期治療への応用が期待される。膵がんPANOVA-3試験:切除不能局所進行膵がんにおける腫瘍治療電場(TTFields)の有効性と安全性(LBA4005)切除不能局所進行膵腺がん(LA-PAC)に対する新たな治療戦略として、腫瘍治療電場(Tumor Treating Fields:TTFields)の有効性が注目を集めた。PANOVA-3試験は、TTFieldsをGEM+nab-PTX(GnP)に追加することで、標準治療単独(GnP)と比較し全生存期間(OS)を有意に延長することを示した初の第III相試験である。本試験は本邦を含む20ヵ国198施設、571例を対象に1対1に割り付けて実施。主要評価項目であるOS中央値はTTFields群16.2ヵ月vs.GnP群14.2ヵ月であり、優越性を示した(HR:0.82、95%CI:0.68~0.99、p=0.039)。副次評価項目では、無痛生存期間(HR:0.74)、遠隔転移PFS(HR:0.74)、QOLにおいてもTTFields群が有意に良好な結果を示した。安全性に関しては、TTFields群で局所の皮膚関連有害事象が多くみられたが、主にGrade1/2で管理可能であり、有害事象でTTFieldsが中止となったのは8.4%であった。TTFieldsは非侵襲的かつ局所的な電場療法であり、がん細胞の分裂阻害効果や抗腫瘍免疫増強効果が報告されている。膠芽腫や悪性胸膜中皮腫・非小細胞肺がんに続く膵がんへの応用が今回初めて本格的に示され、遠隔転移制御効果も示唆された。今後の膵がん治療における集学的治療の一環として、TTFieldsの位置付けが期待される。

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既治療のEGFR陽性進行NSCLC、sacituzumab tirumotecanがORR改善/BMJ

 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬および化学療法後に病勢進行が認められた、EGFR遺伝子変異陽性局所進行または転移のある非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、sacituzumab tirumotecan(sac-TMT)はドセタキセルと比較して、奏効率(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)に関して統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善をもたらし、安全性プロファイルは管理可能なものであることが、中国・中山大学がんセンターのWenfeng Fang氏らが行った第II相の多施設共同非盲検無作為化対照試験の結果で示された。sac-TMTは、栄養膜細胞表面抗原2(TROP2)を標的とする新規開発中の抗体薬物複合体。既存の抗TROP2抗体薬物複合体は、遺伝子変異の有無を問わないNSCLCで研究が行われてきたが、生存ベネフィットは示されていなかった。BMJ誌2025年6月5日号掲載の報告。主要評価項目は、BIRC評価に基づくORR 試験は2023年9月1日~2024年12月31日に、中国の48施設で行われた。対象者は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬およびプラチナ製剤ベースの化学療法後に病勢進行が認められた、EGFR遺伝子変異陽性局所進行または転移のある成人(18~75歳)NSCLC患者であった。 研究グループは被験者を、sac-TMT(5mg/kg)を4週間サイクルの1日目と15日目に投与する群、またはドセタキセル(75mg/m2)を3週間サイクルの1日目に投与する群に2対1の割合で無作為に割り付けた。 ドセタキセル群の患者は、病勢進行時にsac-TMT治療への切り替えが許容されていた。 主要評価項目は、盲検下独立評価委員会(BIRC)の評価に基づくORRであった。副次評価項目は、試験担当医師の評価に基づくORR、BIRCまたは試験担当医師の評価に基づく病勢コントロール率(DCR)、無増悪生存期間(PFS)、奏効までの期間(TTR)、奏効期間(DOR)、およびOS、安全性などであった。sac-TMT群でORRが有意に改善、PFS、OSも改善 137例がsac-TMT(91例)群またはドセタキセル(46例)群に無作為化された。 EGFR変異のサブタイプを除けば、両群のベースライン特性はバランスが取れていた。137例の年齢中央値は56歳、男性が44%、98%がStageIVで20%が脳転移を有していた。37%が3ライン以上の前治療を受けており、93%が第III世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬の投与を受けていた(58%が初回治療による)。 データカットオフ時点(2024年12月31日)で、割り付け治療を継続していたのはsac-TMT群で25%(23/91例)、ドセタキセル群で4%(2/46例)であった。治療薬投与中止の最も多い理由は病勢進行(sac-TMT群76%、ドセタキセル群91%)であった。ドセタキセル群44例においてsac-TMTへの切り替えを行った患者は16例(36%)であった。 追跡期間中央値12.2ヵ月において、BIRC評価に基づくORRは、sac-TMT群45%(41/91例)、ドセタキセル群16%(7/45例)であり、群間差は29%(95%信頼区間[CI]:15~43、片側のp<0.001)であった。 PFS中央値は、BIRC評価(6.9ヵ月vs.2.8ヵ月、ハザード比[HR]:0.30[95%CI:0.20~0.46]、片側のp<0.001)および試験担当医師の評価(7.9ヵ月vs.2.8ヵ月、0.23[0.15~0.36]、片側のp<0.001)いずれにおいても、sac-TMT群でドセタキセル群より有意に延長したことが示された。 12ヵ月OS率は、sac-TMT群73%、ドセタキセル群54%であった(HR:0.49、95%CI:0.27~0.88、片側のp=0.007)。RPSFTM(rank-preserving structural failure time model)を用いて治療薬の切り替えについて補正後、sac-TMT群のOS中央値は未到達、ドセタキセル群は9.3ヵ月で、sac-TMT群では死亡リスクが64%抑制されたことが示された(HR:0.36、95%CI:0.20~0.66)。 Grade3以上の治療関連有害事象は、sac-TMT群でドセタキセル群より発現頻度が少なく(56%vs.72%)、新たな安全性に関する懸念は認められなかった。

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NSCLCへの周術期ニボルマブ追加、OS中間解析(CheckMate 77T)/ASCO2025

 切除可能非小細胞肺がん(NSCLC)におけるニボルマブを用いる周術期サンドイッチ療法(術前:ニボルマブ+化学療法、術後:ニボルマブ)は、国際共同第III相無作為化比較試験「CheckMate 77T試験」において、術前補助療法として化学療法を用いる治療と比べて無イベント生存期間(EFS)を改善したことが報告されている1)。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において、Mariano Provencio氏(スペイン・Hospital Universitario Puerta de Hierro)が、本試験のEFSのアップデート解析および全生存期間(OS)の第1回中間解析の結果を報告した。試験デザイン:国際共同無作為化二重盲検第III相試験対象:切除可能なStageIIA(>4cm)~IIIB(N2)のNSCLC患者(AJCC第8版)試験群(ニボルマブ群):ニボルマブ(360mg、3週ごと)+プラチナ製剤を含む化学療法(3週ごと)を4サイクル→手術→ニボルマブ(480mg、4週ごと)を最長1年 229例対照群(プラセボ群):プラセボ+プラチナ製剤を含む化学療法(3週ごと)を4サイクル→手術→プラセボを最長1年 232例評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)に基づくEFS[副次評価項目]BICRに基づく病理学的完全奏効(pCR)、OS、安全性など 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値41.0ヵ月時点(データベースロック日:2024年12月16日)におけるEFS中央値は、ニボルマブ群46.6ヵ月、プラセボ群16.9ヵ月であった(ハザード比[HR]:0.61、95%信頼区間[CI]:0.46~0.80)。30ヵ月EFS率は、それぞれ61%、43%であった。・循環腫瘍DNA(ctDNA)クリアランスは、ニボルマブ群66%(50/76例)、プラセボ群38%(24/64例)に認められ、そのうちpCRが達成された患者の割合は、それぞれ50%(25/50例)、12%(3/24例)であった。・治療群にかかわらず、ctDNAクリアランスとpCRの両方を達成した患者集団は、EFSが良好であった。・KRAS、KEAP1、STK11遺伝子のいずれかに変異がみられた集団におけるEFSは、ニボルマブ群28.9ヵ月、プラセボ群10.5ヵ月であった(HR:0.63、95%CI:0.32~1.23)。KRAS、KEAP1、STK11遺伝子のいずれにも変異がみられない集団では、それぞれ未到達、17.0ヵ月であった(同:0.65、0.39~1.10)。以上から、いずれの集団でもニボルマブ群が良好な傾向にあった。・OS中央値は、ニボルマブ群とプラセボ群はいずれも未到達であったが、ニボルマブ群が良好な傾向にあった(HR:0.85、95%CI:0.58~1.25)。30ヵ月OS率は、それぞれ78%、72%であった。・肺がん特異的生存期間中央値もニボルマブ群とプラセボ群はいずれも未到達であったが、ニボルマブ群が良好な傾向にあった(HR:0.60、95%CI:0.40~0.89)。30ヵ月肺がん特異的生存率は、それぞれ87%、75%であった。 本結果について、Provencio氏は「切除可能NSCLCにおいて、ニボルマブを用いる周術期治療は有用な治療選択肢の1つであることが支持された」とまとめた。

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看護師主導の早期緩和ケアが、がん患者のQOLを改善【論文から学ぶ看護の新常識】第19回

看護師主導の早期緩和ケアが、がん患者のQOLを改善早期緩和ケアとして行われた看護師主導の強化支持療法に、がん患者のQOLを改善させる効果があることが示された。Yun Y. Choi氏らの研究で、International Journal of Nursing Studies誌オンライン版2025年5月1日号に掲載された。進行がん患者に対する早期一次緩和ケアアプローチとしての看護師主導強化支持療法の効果:ランダム化比較試験研究チームは、進行がん患者に対する早期一次緩和ケアとして、看護師主導による強化支持療法の効果を評価することを目的に、ランダム化比較試験を実施した。緩和的化学療法を開始する進行がん患者258例を、トレーニングを受けた看護師による強化支持療法(各化学療法サイクル前の症状管理および対処能力向上のカウンセリング)を行う介入群と、症状のモニタリングのみを行う対照群に、1:1の比率で無作為に割り付けた。主要評価項目は、3ヵ月時点での生活の質(EORTC QLQ-C30)、症状(ESAS)、対処行動(Brief COPE)。副次評価項目は、6ヵ月時点での生活の質、症状、対処行動に加えて、3ヵ月および6ヵ月時点のがんへの対処に関する自己効力感(CBI 3.0-K)、がん患者と家族介護者の抑うつ状態(HADS-D)を評価した。データは線形混合モデルを用いて分析した。介入群では、以下の項目において統計的に有意な効果が認められた。生活の質(QOL):3ヵ月時点での役割機能ドメイン(1.01±2.34 vs.−8.37±2.07、p=0.003、95%信頼区間[CI]:−15.57~−3.18、調整済みp=0.044)。対処行動:3ヵ月時点での積極的対処(0.27±0.16 vs.−0.34±0.14、p=0.006、95%CI:−1.04~−0.18、調整済みp=0.044)およびセルフディストラクション(0.22±0.17 vs.−0.42±0.15、p=0.004、95%CI:−1.08~−0.20、調整済みp=0.044)。がんへの対処に関する自己効力感:3ヵ月時点での活動性と自立性の維持(1.45±0.47 vs.−0.31±0.42、p=0.006、95%CI:−2.99~−0.52、調整済みp=0.044)。一方、患者の症状や抑うつ、または家族介護者の抑うつの軽減には、有意な効果は認められなかった(調整済みp>0.05)。早期の一次緩和ケアとしての看護師主導による強化支持療法は、進行がん患者の生活の質における役割機能ドメイン、コーピング方法の活用、および活動性と自立性を維持する自己効力感の向上に有効であることが示された。本研究で検証された看護師主導の強化支持療法は、進行がん患者のQOLにおける役割機能ドメイン(仕事や家事、趣味など、その人本来の「役割」がどのくらい妨げられているかを評価する項目)、積極的なコーピング戦略の活用、および活動と自立の維持に関する自己効力感を統計的に有意に改善しました。看護師が中心となって行う早期からの一次緩和ケアが、これらの項目に有効であった点は特筆すべきです。なぜなら、看護の本質は端的にいって対象者の主観的な幸せに貢献すること(People-Centered Care)だからです。役割を果たせることや、問題に自ら対処できること、そして自分ならできると思える自己効力感は、患者本人が幸せだと感じられる生活を支える上で、非常に重要だと考えます。一方で、症状の軽減や、患者や介護者の抑うつの軽減においては、直接的な効果が認められませんでした。しかし、本研究は、困難な臨床環境に直面する進行がん患者のQOL向上に対し、実用的かつ効果的な看護師主導の早期一次緩和ケアの可能性を、ランダム化比較試験(RCT)という質の高い研究手法により力強く示しました。そしてその結論は、トレーニングを受けた看護師によって提供される早期からの一次緩和ケアを、日常的ながん看護実践に組み込むべきであるという、今後のがん看護におけるきわめて重要な提言になると考えられます。論文はこちらChoi YY, et al. Int J Nurs Stud. 2025 May 1. [Epub ahead of print]

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EGFR陽性NSCLC、術前オシメルチニブの有用性は?(NeoADAURA)/ASCO2025

 切除可能非小細胞肺がん(NSCLC)において、術前補助療法が治療選択肢となっているが、EGFR遺伝子変異陽性例では病理学的奏効(MPR)がみられる割合が低いと報告されている。そこで、術前補助療法としてのオシメルチニブ±化学療法の有用性を検討する国際共同第III相試験「NeoADAURA試験」が実施されている。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において、Jamie E. Chaft氏(米国・メモリアルスローンケタリングがんセンター)が、本試験のMPRの最終解析結果と無イベント生存期間(EFS)の中間解析結果を報告した。本試験において、オシメルチニブ+化学療法、オシメルチニブ単剤は化学療法と比べてMPRを改善したことが示された。本結果はJournal of Clinical Oncology誌オンライン版2025年6月2日号に同時掲載された1)。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験・対象:EGFR遺伝子変異(exon19欠失変異またはL858R変異)陽性の切除可能なStageII~IIIB(AJCC第8版)のNSCLC患者・試験群1(オシメルチニブ+化学療法群):オシメルチニブ(80mg、1日1回、9週以上)+カルボプラチン(AUC5、3週ごと3サイクル)またはシスプラチン(75mg/m2、3週ごと3サイクル)+ペメトレキセド(500mg/m2、3週ごと3サイクル)→手術→医師選択治療 121例・試験群2(オシメルチニブ単剤群):オシメルチニブ(同上)→手術→医師選択治療 117例・対照群(化学療法群):カルボプラチンまたはシスプラチン+ペメトレキセド(いずれの薬剤も同上)→手術→医師選択治療 120例・評価項目:[主要評価項目]MPR[副次評価項目]EFS、病理学的完全奏効(pCR)、N因子のダウンステージング、安全性など 主な結果は以下のとおり。・全体として女性の割合が高く、オシメルチニブ+化学療法群60%、オシメルチニブ単剤群65%、化学療法群75%であった。EGFR遺伝子変異の内訳は、exon19欠失変異/L858R変異が、それぞれ50%/50%、/51%/49%、51%/49%であった。StageII/IIIの割合は、それぞれ49%/51%、50%/50%、51%/49%であり、N因子がN2の割合は、それぞれ39%、35%、34%であった。・手術施行割合は、オシメルチニブ+化学療法群92%、オシメルチニブ単剤群97%、化学療法群93%であり、R0切除は、それぞれ91%、95%、93%であった。いずれの群でも完全切除に至った患者の91%が、術後補助療法でオシメルチニブの投与を受けた。・主要評価項目のMPR割合は、オシメルチニブ+化学療法群26%、オシメルチニブ単剤群25%、化学療法群2%であり、化学療法群と比較してオシメルチニブ+化学療法群(オッズ比:19.8、95%信頼区間[CI]:4.6~85.3、p<0.0001)、オシメルチニブ単剤群(同:19.3、1.7~217.4、p<0.0001)が有意に良好であった。いずれのサブグループにおいても、オシメルチニブ使用群が良好な傾向にあった。・pCR割合は、オシメルチニブ+化学療法群4%、オシメルチニブ単剤群9%、化学療法群0%であった。・ベースライン時にN2であった患者集団において、ダウンステージングが認められた割合は、オシメルチニブ+化学療法群53%、オシメルチニブ単剤群53%、化学療法群21%であった。・12ヵ月EFS率は、オシメルチニブ+化学療法群93%、オシメルチニブ単剤群95%、化学療法群83%であり、化学療法群と比較してオシメルチニブ+化学療法群(ハザード比[HR]:0.50、99.8%CI:0.17~1.41、p=0.0382)、オシメルチニブ単剤群(HR:0.73、95%CI:0.40~1.35)が良好な傾向にあった。しかし、中間解析時の有意水準は0.002であり、統計学的に有意な差ではなかった。本解析時点の成熟度は15%であり、今後も解析が継続される。・術前補助療法において、Grade3以上の有害事象の発現割合は、オシメルチニブ+化学療法群36%、オシメルチニブ単剤群13%、化学療法群33%であった。治療中止に至った有害事象は、それぞれ9%、3%、5%に発現した。 本結果について、Chaft氏は「EGFR遺伝子変異陽性の切除可能なStageII~IIIBのNSCLC患者の治療戦略に、オシメルチニブ±化学療法を組み込むことを検討すべきであることが示された」とまとめた。

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術前療法でリンパ節転移陰転の乳がん、照射は省略できるか/NEJM

 乳がん治療では、病理学的に腋窩リンパ節転移陽性の患者における領域リンパ節照射の有益性が確立しているが、術前補助化学療法後に病理学的にリンパ節転移なし(ypN0)の患者でも有益かは不明だという。米国・AdventHealth Cancer InstituteのEleftherios P. Mamounas氏らは、無作為化第III相試験「NSABP B-51-Radiation Therapy Oncology Group 1304試験」において、術前補助化学療法後に腋窩リンパ節転移陰性となった患者では、術後補助療法として領域リンパ節照射を追加しても、浸潤性乳がんの再発または乳がん死のリスクは低下しないことを示した。研究の成果は、NEJM誌2025年6月5日号で報告された。7ヵ国の無作為化第III相試験 NSABP B-51-Radiation Therapy Oncology Group 1304試験は、日本を含む7ヵ国で実施され、2013年8月~2020年12月に参加者を登録した(米国国立衛生研究所[NIH]の助成を受けた)。 臨床病期T1~T3 N1 M0の切除可能な乳がんで、生検で病理学的に腋窩リンパ節転移陽性と確認され、標準的な術前補助化学療法(アントラサイクリン系またはタキサン系[あるいはこれら両方]をベースとするレジメン)を8週間以上受け、HER2陽性例は抗HER2療法も受けており、手術時に病理学的に腋窩リンパ節転移陰性(ypN0)であった患者を対象とした。 被験者を、領域リンパ節照射(総線量50 Gy、25分割)を受ける群、またはこれを受けない群に無作為に割り付けた。 主要評価項目は、浸潤性乳がんの再発または乳がん死のない期間(浸潤性乳がん無再発期間)であり、副次評価項目は、局所・領域リンパ節無再発期間、無遠隔再発期間、無病生存期間、全生存期間などとし、安全性の評価も行った。副次評価項目にも有意差はない 1,641例を登録し、照射群に820例、非照射群に821例を割り付けた。全体の年齢中央値は52歳(四分位範囲:44~60)で、40.3%が50歳未満であった。59.9%が臨床的T2腫瘍(腫瘍径2~5cm)、53.2%がホルモン受容体陽性、56.7%がHER2陽性で、79.0%がトリプルネガティブまたはHER2陽性のがんであった。78.2%で病理学的完全奏効(乳房とリンパ節)が得られ、57.7%が乳房の部分切除術、42.3%が全摘術を受け、55.4%でセンチネルリンパ節生検が行われた。 1,556例(照射群772例、非照射群784例)を主解析の対象とした。追跡期間中央値59.5ヵ月の時点で、主要評価項目のイベントは109件発生した(照射群50件[6.5%]、非照射群59件[7.5%])。領域リンパ節照射は、浸潤性乳がん無再発期間の有意な延長をもたらさなかった(ハザード比[HR]:0.88[95%信頼区間[CI]:0.60~1.28、p=0.51])。 また、主要評価項目のイベントのない生存率の点推定値は、照射群が92.7%、非照射群は91.8%であった。 照射群では、局所・領域リンパ節無再発期間(HR:0.57[95%CI:0.21~1.54])、無遠隔再発期間(1.00[0.67~1.51])、無病生存期間(1.06[0.79~1.44])、全生存期間(1.12[0.75~1.68])についても、改善効果はみられなかった。Grade3の放射線皮膚炎は5.7% プロトコールで規定された治療関連の死亡の報告はなく、予期せぬ有害事象は認めなかった。Grade4の有害事象は、照射群で0.5%、非照射群で0.1%に、Grade3はそれぞれ10.0%および6.5%に発現した。最も頻度の高いGrade3の有害事象は放射線皮膚炎で、照射群の5.7%、非照射群でも3.3%に発現した。 著者は、「本試験は、生検で腋窩リンパ節転移が確認された患者では、術前補助化学療法でypN0に達した場合に、領域リンパ節照射を行っても、5年後の腫瘍学的なアウトカムは改善しないことを示している」「これらの結果は、術前補助化学療法を受けた患者ではリンパ節の病理学的な反応に基づいて領域リンパ節照射の実施を決められるという治療戦略への転換を支持するものである」「長期的なアウトカムの評価のために追跡調査を継続中である」としている。

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秋田大学 臨床腫瘍学講座(腫瘍内科)【大学医局紹介~がん診療編】

柴田 浩行 氏(教授)福田 耕二 氏(講師)松本 朋大 氏(医員)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴2009年2月に秋田大学に臨床腫瘍学講座が開設されました。当初は化学療法部のマネージメントのみでしたが、腫瘍内科として病床を持って直接患者を診ることが私の願望で、翌年4月に待望の診療科を開設できました。まず2床からのスタートでしたが、2018年までには10床に増え、2025年6月に13床に増えました。入院患者は開設時の約5倍、年間のべ4,823人に達しました。外来患者も開設時の約3倍、年間のべ3,522人に達しています。高齢化日本一の秋田県では進行がん患者が増えています。これは近未来の日本の縮図です。日本の疾病構造はどんどん変化し、患者が集まらない診療科があるなかで、進行がん患者を担当する腫瘍内科医のニーズは年々高まっています。私の着任以前、秋田県ではがん薬物療法の専門医はゼロ、がん拠点病院すらも初年度には1つも指定されないという、まさに「がん薬物療法不毛の地」でした。今では県内のすべての二次医療圏に腫瘍内科医を派遣しています。2024年度は県内8病院で、のべ5,952人の患者の診療にあたりました。ウチは秋田県のがん医療の主力です。これまでに8名の仲間が秋田大学腫瘍内科の発展に貢献してくれました。現在の在籍者は7名と少数ではありますが、各人が重責を認識した精鋭揃いです。ここは密度の高い臨床経験を積める場だと自負しています。総回診だけでなく、私も指揮官先頭で毎日若手と病棟を回り、日々、臨床腫瘍学の新たな発見に遭遇し、自らの進歩も自覚しています。力を入れている治療・研究テーマ私は、消化器がんを中心に診療を行っております。また、原発不明がんや軟部肉腫といった希少がん、さらには同時多発がんなど、より高度な専門知識が求められる分野にも積極的に取り組んでいます。秋田県は全国6位の面積を持つ一方で、人口密度は全国で3番目に低く、医療へのアクセスが困難な地域です。臨床腫瘍学講座では、県内のがん治療の均てん化を重要なテーマとして掲げています。私は地域の中核病院でキャンサーボードやミニカンファレンスを通じて、治療方針の決定や副作用対策に関する助言を行うなど、地域医療の質の向上に努めています。医局の雰囲気・魅力当講座は、柴田教授を含めて7名の比較的小規模な医局であり、風通しの良い、働きやすい環境が整っています。各医師の研究活動や臨床での取り組みを把握しやすく、診療上の疑問点も気軽に相談・解決できるため、診療スキルを高める場として最適です。医局員の半数は、消化器内科や消化器外科から腫瘍内科に転向して専門医資格を取得しており、さまざまなキャリアパスを示すロールモデルとなっています。また、有給休暇の取得率向上にも積極的に取り組んでおり、ワークライフバランスを重視した働き方が可能です。医学生・初期研修医へのメッセージがん治療は、2019年にゲノム医療が導入されて以降、急速に専門性が求められる分野へと進化しています。高い専門知識と判断力が必要とされる一方で、社会的ニーズも増加しており、今後ますます重要性が高まる領域です。現在、日本では腫瘍内科医がまだまだ不足しています。この分野を専門にし、がん医療の未来を担う存在として活躍してみませんか?これまでの経歴私は医学部入学以前、別の大学でがんに関わる基礎研究に携わっていました。基礎研究を通じてがんの奥深さを知るとともに、基礎領域のみでなく、より臨床に近い立場で、実際の病態と関連させながら進めていくことが重要であると考えるようになり、秋田大学医学部に学士編入しました。医学部で過ごすうちに自然豊かな秋田の魅力に触れ、卒業後は秋田に残ることを決意しました。卒業後は、秋田県内の市中病院の初期研修で3次救急とcommon diseaseを学びました。その後、同院の内科専攻医として1年間一般内科と抗がん剤治療を学び、4年目で大学病院に赴任しました。同医局を選んだ理由秋田大学臨床腫瘍学講座は秋田県全県のがん診療を担っており、幅広い領域のがん治療を学ぶことができると考えました。また、基礎研究の領域においても、スパイスの一種であるクルクミンの抗がん作用を調べ、さらにクルクミンアナログを用いたがんを予防するカレーの開発という非常にユニークな研究を行っております。がん予防は今後の医療において重要な役割を果たすと考えられ、ぜひ研究に携わりたいと考えました。今後のキャリアプラン秋田県のがん診療に携わりながら、臨床で得られた知見を活かして基礎研究を行えればと思います。また、機会があればぜひ留学を経験し、学んだことを秋田で活かして仕事をしたいと考えています。秋田大学 臨床腫瘍学講座(腫瘍内科)住所〒010-8543 秋田県秋田市本道1-1-1問い合わせ先hiroyuki@med.akita-u.ac.jp医局ホームページ秋田大学大学院医学系研究科 医学専攻 腫瘍制御医学系 臨床腫瘍学講座専門医取得実績のある学会日本内科学会日本臨床腫瘍学会日本消化器病学会日本消化器内視鏡学会日本肉腫学会研修プログラムの特徴(1)初期研修から社会人大学院生(がんプロ)として学位取得も目指せる。(2)腫瘍内科領域の総合医(ジェネラル・オンコロジスト)を目指す。(3)ユニークなオリジナル研究を展開し、フィジシャン・サイエンティストを目指す。詳細はこちら秋田大学医学部附属病院がん薬物療法専門医取得プログラム

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「ICIの投与は早い時間が良い」をRCTで再現/ASCO2025

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の投与は、午前中などの早い時間が良いという報告が多数存在する。しかし、これらは後ろ向き解析やそれらのメタ解析に基づくものであり、無作為化比較試験により検討された報告はこれまでにない。そこで、Yongchang Zhang氏(中国・中南大学湘雅医学院)らの研究グループは、ICIの投与時間が非小細胞肺がん(NSCLC)患者の予後へ及ぼす影響を検討する無作為化比較試験「PACIFIC15試験」を実施した。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において本試験の結果が報告され、早い時間にICIを投与した群は無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)が良好であったことが示された。・試験デザイン:海外第III相無作為化比較試験・対象:ICI+化学療法を開始するドライバー遺伝子陰性のStageIIIC~IV NSCLC患者・試験群(早時間帯群):15時以前にICIの投与を開始 105例・対照群(遅時間帯群):15時1分以降にICIの投与を開始 105例・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)評価によるPFS[副次評価項目]OS、安全性など 主な結果は以下のとおり。・全体として男性の割合が高く、早時間帯群90.5%、遅時間帯群90.5%であった。PD-L1発現状況は、PD-L1 1%未満/1~49%/50%以上/不明が、それぞれ39.0%/29.5%/24.8%/6.7%、44.8%/27.5%/21.0%/6.7%であった。ICIの内訳は、sintilimab/ペムブロリズマブが、それぞれ77.1%/22.9%、78.1%/21.9%であった。・追跡期間中央値23.2ヵ月時点において、主要評価項目のBICR評価によるPFS中央値は、早時間帯群11.3ヵ月、遅時間帯群5.7ヵ月であり、早時間帯群が有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.42、95%信頼区間[CI]:0.31~0.58、p<0.0001)。PD-L1発現状況によらず、PFSは早時間帯群が良好な傾向にあった。・OS中央値は、早時間帯群未到達、遅時間帯群16.4ヵ月であり、早時間帯群が有意に良好であった(HR:0.45、95%CI:0.30~0.68、p<0.0001)。PD-L1発現状況によらず、OSも早時間帯群が良好な傾向にあった。・ICI投与開始後、早時間帯群はCD8陽性T細胞がベースライン時より増加したが、遅時間帯群は減少した。・活性化T細胞(CD38陽性HLA-DR陽性CD8陽性T細胞)の疲弊T細胞(TIM3陽性PD-1陽性CD8陽性T細胞)に対する比率(活性化/疲弊比)は、ICI投与後に上昇したが、上昇幅は早時間帯群が遅時刻帯群と比べて大きかった。 本結果について、Zhang氏は「早時間帯群と遅時間帯群を比較すると、末梢血中のCD8陽性T細胞の状態に違いが認められた。サーカディアンリズムが免疫療法に及ぼす潜在的影響を考慮すると、免疫療法に関する臨床研究では投与時刻を記録することや投与時間で層別化することが推奨されるだろう」とまとめた。

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術前化療後の乳房温存術、断端陽性で再発リスク3倍~日本人1,813例での研究

 術前化学療法後に乳房温存療法(乳房温存手術および放射線療法)を受けた乳がん患者において、切除断端陽性例では温存乳房内再発リスクが3.1倍であったことが、1,813例を対象にした日本の多施設共同後ろ向き研究で示された。大阪はびきの医療センターの石飛 真人氏らがBreast Cancer誌オンライン版2025年6月9日号で発表した。 本研究の対象は、新たにStageI~III乳がんと診断され、術前化学療法後に乳房温存療法を受けた1,813例で、切除断端の状態が温存乳房内再発に与える影響を評価した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値8.0年(範囲:0.1~17.0)において、8年温存乳房内無再発生存率は95.9%であった。切除断端陽性例(87.6%)は陰性例(96.2%)と比べて有意に低かった(p=0.010)。・多変量解析では、切除断端の状態が温存乳房内無再発生存率と有意に関連することが示された(ハザード比:3.1、95%信頼区間:1.3~7.2、p=0.0081)。 今回の結果は、術前化学療法を受けずに最初から手術を行った症例での結果と一致する結果であった。

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子宮頸がん治療の新たな選択肢:チソツマブ ベドチンの臨床的意義/ジェンマブ

 進行・再発子宮頸がん2次治療の新たな選択肢として、ファースト・イン・クラスの抗体薬物複合体(ADC)チソツマブ ベドチン(商品名:テブダック)が注目される。 2025年6月、ジェンマブのプレスセミナーにて、国立がん研究センター中央病院 腫瘍内科の米盛 勧氏が進行・再発子宮頸がんのアンメットニーズと治療戦略について講演した。進行期の子宮頸がんは予後不良 日本において新規に診断される子宮頸がん患者は年間約1万例、近年でも罹患数は微増している。子宮頸がんは早期では比較的予後良好である。5年生存率はI期で9割超、II期でも7割を超える。その一方、進行期では予後不良でStageIIIの5年生存率は5割強、遠隔転移のあるStgeIVBでは3割を切る。選択肢が少ない転移症例の治療 薬物療法が適応となる遠隔転移症例の1次治療には以前からプラチナ(シスプラチンまたはカルボプラチン)+パクリタキセルが用いられる。2014年にベバシズマブの上乗せによる生存成績の改善が認められ、2021年にはPD-1阻害薬ペムブロリズマブが選択肢に加わった。 一方、2次治療はキードラッグとしてイリノテカンが以前から用いられていた。当時の2次治療以降の奏効割合(ORR)は1〜2割、無増悪生存期間(PFS)中央値は2〜3ヵ月(イリノテカンは4.5ヵ月)、全生存期間(OS)中央値は6〜8ヵ月程度だった。その後、2022年に新たなPD-1阻害薬セミプリマブが登場し、12.0ヵ月のOSを示す。とはいえ、2次治療以降はまだ選択肢は少ない。 早期の診断が増えているものの、子宮頸がんはいまだに進行期での初診が多い。予後の悪さと、治療選択肢の少なさは、進行期子宮頸がん治療の大きな課題と言えるだろう。新たな治療選択肢チソツマブ ベドチンの登場 そのような中、本年(2025年)に2次治療の新たな選択肢としてチソツマブ ベドチンが登場した。チソツマブ ベドチンは抗組織因子(TF)を標的とするモノクローナル抗体チソツマブと抗がん剤MMAE(モノメチルアウリスタンE)のADCである。がん細胞表面に発現したTFに結合してMMAEを放出することで抗腫瘍効果を発揮する。 チソツマブ ベドチンの有用性は国際共同第III相innovaTV 301試験で検証されている。同試験では、再発または遠隔転移を有する子宮頸がん患者を対象にチソツマブ ベドチンと化学療法を比較している。その結果、チソツマブ ベドチンのOS中央値は11.5ヵ月と、9.5ヵ月の化学療法群に比べ有意に延長した(ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.54〜0.89、p=0.0038)。PFS中央値も4.2ヵ月と、化学療法群の2.9ヵ月に比べ有意に延長した(HR:0.67、95%CI:0.54〜0.82、p<0.0001)。ORRについても17.8%と、化学療法群の5.2%に比べ有意な腫瘍縮小を示した(p<0.0001)。注意すべき副作用とその管理 チソツマブ ベドチンはその薬理作用から、従来の薬剤とは異なる副作用プロファイルを示す。「特に注意すべき有害事象」として挙げられるのは眼障害(全Gradeで52.8%)、末梢神経障害(全Gradeで38.4%)、出血(42.0%)である。 眼障害の主なものは結膜炎、角膜炎、ドライアイなど。同剤の眼障害については、投与開始前の眼科医による診察の実施および眼科医との連携の下で使用するよう日本眼科学会も注意喚起している。 従来と異なる新たな作用機序の薬剤を選択できることは、治療戦略を組む中でとても重要なポイントだと米盛氏は述べる。チソツマブ ベドチンという新しい治療選択肢を有効に活用するには、施設内および施設を超えた連携が課題となるであろう。

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HER2+早期乳がん術前療法、de-escalation戦略3試験の統合解析結果/ASCO2025

 HER2陽性(HER2+)早期乳がんに対し、パクリタキセル+抗HER2抗体薬による12週の術前補助療法は有効性と忍容性に優れ、5年生存率も極めて良好であった。さらにStageI~IIの患者においては、ほかの臨床的・分子的因子を考慮したうえで、化学療法省略もしくは抗体薬物複合体(ADC)による治療を考慮できる可能性が示唆された。de-escalation戦略を検討したWest German Study Group(WSG)による3件の無作為化比較試験(ADAPT-HR-/HER2+試験、ADAPT-HR+/HER2+試験、TP-II試験)の統合解析結果を、ドイツ・ハンブルグ大学のMonika Karla Graeser氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)で発表した。<各試験の概要>■ADAPT-HR-/HER2+試験(134例)遠隔転移のないHR-/HER2+乳がん患者を対象に、12週間の術前補助療法としてトラスツズマブ+ペルツズマブ(T+P群)、トラスツズマブ+ペルツズマブ+パクリタキセル(T+P+pac群)に5:2の割合で無作為に割り付け■ADAPT-HR+/HER2+試験(375例)遠隔転移のないHR+/HER2+乳がん患者を対象に、12週間の術前補助療法としてトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1群)、T-DM1+内分泌療法(T-DM1+ET群)、T+ET群に1:1:1の割合で無作為に割り付け■TP-II試験(207例)遠隔転移のないHR+/HER2+乳がん患者を対象に、12週間の術前補助療法としてT+P+ET群、T+P+pac群に1:1の割合で無作為に割り付け 主要評価項目はいずれも病理学的完全奏効(pCR)で、生存成績は副次評価項目であった。 主な結果は以下のとおり。・3つの試験から計713例のデータが集められ、術前全身化学療法あり(sCTx群)149例、術前全身化学療法なし/ADC(sCTx-free/ADC群)564例であった。・ベースラインの患者特性は、>50歳がsCTx群59.7%vs.sCTx-free/ADC群52.7%、StageI が74.5%vs.76.6%、HR+が71.8%vs.84.3%、cT2~4が56.4%vs.55.1%、cN1~3が28.2%vs.32.1%、Grade3が55.7%vs.74.3%であった。・術後pCR達成症例がsCTx群66.4%vs.sCTx-free/ADC群31.4%、術後化学療法ありが47.1%vs.88.4%であった。・追跡期間中央値60.7ヵ月における生存成績は以下のとおり。[5年無浸潤疾患生存(iDFS)率]sCTx群96.4%vs.sCTx-free/ADC群88.2%(ハザード比[HR]:0.56、95%信頼区間[CI]:0.29~1.08、p=0. 083)[5年全生存(OS)率]97.8%vs.96.8%(HR:0.88、95%CI:0.36~2.11、p=0.775)・pCR達成状況別にみた生存成績は以下のとおり。[5年iDFS率]-pCR例:sCTx群97.8%vs.sCTx-free/ADC群93.7%(HR:0.76、95%CI:0.27~2.12、p=0.609)-non-pCR例:93.3%vs.85.5%(HR:0.77、95%CI:0.31~1.94、p=0.587)[5年OS率]-pCR例:98.9%vs.98.7%(HR:1.10、95%CI:0.28~4.32、p=0.895)-non-pCR例:95.5%vs.95.8%(HR:1.49、95%CI:0.44~5.03、p=0.523)・iDFSと関連する臨床的因子を検討した多変量解析の結果、sCTx群ではpCR([vs.non- pCR]HR:0.14、p=0.013)、sCTx-free/ADC群ではpCR([vs.non- pCR]HR:0.51、p=0.026)、cN1([vs.cN0]HR:2.31、p<0.001)と有意に関連していた。・sCTx-free/ADC群における、pCR後の5年iDFS率に対する術後化学療法実施の有意なベネフィットは確認されなかった(5年iDFS率:術後化学療法あり94.0%vs.なし93.2%、HR:1.25、95%CI:0.39~4.00、p=0.712)。 Graeser氏は、化学療法を省略した術前補助療法群において、pCR達成例で良好な生存成績が得られたことは、さらなるde-escalation戦略検討の基盤となるとし、術前補助療法としてのトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)を評価する現在進行中のADAPT-HER2-IV試験への期待を示した。

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