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1.

DES留置後1年以上の心房細動、NOAC単剤vs.NOAC+クロピドグレル併用/NEJM

 1年以上前に薬剤溶出ステント(DES)の留置を受けた心房細動患者において、非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)単剤療法はNOAC+クロピドグレルの併用療法と比較し、全臨床的有害事象(NACE)に関して非劣性であることが認められた。韓国・Yonsei University College of MedicineのSeung-Jun Lee氏らが、同国32施設で実施した研究者主導の無作為化非盲検非劣性試験「Appropriate Duration of Antiplatelet and Thrombotic Strategy after 12 Months in Patients with Atrial Fibrillation Treated with Drug-Eluting Stents trial:ADAPT AF-DES試験」の結果を報告した。ガイドラインの推奨にもかかわらず、DES留置後の心房細動患者におけるNOAC単剤療法の使用に関するエビデンスは依然として限られていた。NEJM誌オンライン版2025年11月8日号掲載の報告。第2または第3世代DES留置後1年以上の高リスク心房細動患者が対象 研究グループは、心房細動と診断され、登録の1年以上前に第2世代または第3世代のDESを留置するPCIを受け、CHA2DS2-VAScスコアが2以上の19~85歳の患者を、NOAC単剤療法群またはNOAC+クロピドグレル併用療法群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 NOACは担当医師の選択としたが、試験ではアピキサバンまたはリバーロキサバンのみを使用した。 主要エンドポイントは、無作為化後12ヵ月時点における全死因死亡、心筋梗塞、ステント血栓症、脳卒中、全身性塞栓症または大出血もしくは臨床的に重要な非大出血の複合であるNACEで、非劣性マージンは主要エンドポイント発現率の群間差の片側97.6%信頼区間(CI)の上限が3.0%とし、ITT解析を行った。なお、非劣性が認められた場合、主要エンドポイントにおけるNOAC単剤療法の優越性を第1種過誤率4.8%(両側)として検定することが事前に規定された。12ヵ月時のNACE発現率、単剤群9.6%vs.併用群17.2% 2020年4月~2024年5月に計1,283例がスクリーニングされ、このうち960例が無作為化された(単剤療法群482例、併用療法群478例)。平均年齢は71.1歳、女性が21.4%であった。 主要エンドポイントのイベントは単剤療法群で46例(Kaplan-Meier推定値9.6%)、併用療法群で82例(17.2%)に発現し、絶対群間差は-7.6%(95.2%CI:-11.9~-3.3、非劣性のp<0.001)、ハザード比(HR)は0.54(95.2%CI:-0.37~0.77、優越性のp<0.001)であった。 大出血もしくは臨床的に重要な非大出血は、単剤療法群で25例(5.2%)、併用療法群で63例(13.2%)に発現した(HR:0.38、95%CI:0.24~0.60)。大出血の発現率はそれぞれ2.3%および6.1%(HR:0.37、95%CI:0.18~0.74)、臨床的に重要な非大出血の発現率は2.9%および7.1%(0.40、0.21~0.74)であった。

2.

VTE後の抗凝固療法、90日以上継続で再発リスク大幅低下/BMJ

 米国・ハーバード大学医学大学院のKueiyu Joshua Lin氏らの研究チームは、誘因のない静脈血栓塞栓症(VTE)の患者では、90日以上の初期抗凝固療法終了後に経口抗凝固療法(OAC)を継続すると、抗凝固療法を中止した場合と比較して、VTE再発のリスクが低下し、大出血のリスクは上昇するが、OAC継続群で良好な純臨床的ベネフィット(net clinical benefit:VTE再発と大出血の複合アウトカム)を認め、これらはVTE発症から少なくとも3年にわたりOACを使用している患者でも持続的に観察されることを示した。研究の成果は、BMJ誌2025年11月12日号で発表された。2つの大規模データベースを用いた標的試験エミュレーション 研究チームは、米国の2つの大規模な健康保険データベースであるOptum Clinformatics Data Mart(Optum CDM)とメディケア(うち出来高払い分)を用いて標的試験エミュレーション(target trial emulation)を行った(米国国立老化研究所などの助成を受けた)。 VTEを有する18歳以上(Optum CDM)または65歳以上(メディケア)の成人で、可逆的な誘発因子のないVTEによる初回入院後30日以内にOAC(ワルファリン、直接作用型OAC)を開始し、90日以上治療を継続した患者を対象とした。 傾向スコア1対1マッチング法を用いて、治療継続群と治療中止群(30日以内に再処方がない集団)を比較した。 有効性の主要アウトカムはVTE再発による入院、安全性の主要アウトカムは大出血とした。副次アウトカムは純臨床的ベネフィット(VTE再発と大出血の複合)および死亡率であった。OACによる治療期間(90~179日、180~359日、360~719日、720~1,079日、1,080日以上)で層別化して解析した。全死因死亡率も低下 傾向スコアでマッチさせたOACによる治療継続と治療中止の組み合わせ3万554組を試験コホート(平均年齢73.9歳、女性57.0%)とした。 90日以上の初期抗凝固療法終了後に、治療を中止した患者と比較してOACによる治療を継続した患者は、VTE再発の発生率が著明に低く(補正後ハザード比[aHR]:0.19[95%信頼区間[CI]:0.13~0.29]、補正後率差/1,000人年:-25.50[95%CI:-39.38~-11.63])、大出血の発生率が高かった(1.75[1.52~2.02]、4.78[1.95~7.61])。 また、治療継続群は、全死因死亡率が低く(aHR:0.74[95%CI:0.69~0.79]、補正後率差/1,000人年:-14.31[95%CI:-22.02~-6.59])、純臨床的ベネフィットが著しく優れた(0.39[0.36~0.42]、-21.01[-32.31~-9.71])。 VTE再発の発生率は、アピキサバン、リバーロキサバン、ワルファリンで同程度であったが、OAC継続による出血リスクの絶対的な増加は、ワルファリンに比べ直接作用型OACで小さかった。投与期間が最長の集団で、大出血の相対リスク消失 治療継続群におけるVTE再発の発生率の減少は、OACによる治療期間の長さにかかわらず一貫して認めた(各治療期間のaHR、90~179日:0.22[95%CI:0.16~0.32]、180~359日:0.17[0.13~0.23]、360~719日:0.15[0.11~0.20]、720~1,079日:0.18[0.07~0.49]、1,080日以上:0.13[0.04~0.41])。 また、治療継続群における大出血の発生率の上昇も治療期間を通じてみられたが、OAC使用期間が最長の集団では治療中止群との差がなくなった(各治療期間のaHR、90~179日:2.38[95%CI:1.88~3.02]、180~359日:1.92[1.56~2.37]、360~719日:1.85[1.34~2.57]、720~1,079日:2.04[0.96~4.36]、1,080日以上:1.00[0.40~2.48])。 治療継続群の良好な純臨床的ベネフィットは、治療期間の長さにかかわらず一貫して認め(各治療期間のaHR、90~179日:0.50[95%CI:0.43~0.57]、180~359日:0.37[0.32~0.41]、360~719日:0.38[0.32~0.45]、720~1,079日:0.36[0.26~0.50]、1,080日以上:0.27[0.17~0.43])、OACの種類による差はみられなかった。 著者は、「本研究で得られた優れた純臨床的ベネフィットは、初期抗凝固療法終了後、最長で少なくとも3年間のOAC継続投与を支持する知見である」「これらの結果は、OAC継続投与の平均的な効果を反映するものであり、誘因のないVTE患者ごとに、個別化を要する治療継続の意思決定を行ううえで有益な情報をもたらすと考えられる」としている。

3.

非小細胞肺がん、アミバンタマブ・ラゼルチニブ併用における予防的抗凝固療法に関する合同ステートメント/日本臨床腫瘍学会ほか

 日本臨床腫瘍学会、日本腫瘍循環器学会、日本循環器学会、日本肺癌学会、日本癌治療学会、日本血栓止血学会、日本静脈学会は2025年12月8日、非小細胞肺がん(NSCLC)のアミバンタマブ・ラゼルチニブ併用療法における予防的抗凝固療法の適正使用に関する合同ステートメントを発表した。 EGFR遺伝子変異陽性の切除不能進行・再発NSCLCに対する新たな治療戦略として二重特異性モノクローナル抗体であるアミバンタマブと第3世代EGFR-TKIラゼルチニブの併用療法が臨床導入された。アミバンタマブ・ラゼルチニブ併用療法では、静脈血栓塞栓症(VTE)の発症が高頻度であることが国内外の臨床試験により報告されている。このためVTE発症予防を目的として、併用療法開始後4ヵ月間にわたる直接経口抗凝固薬アピキサバンの投与が2025年3月27日付で厚生労働省保険局医療課により承認された。 しかし、本邦における診療ガイドラインでは外来化学療法時の抗がん薬によるVTE発症の予防目的で施行される抗凝固療法において推奨する抗凝固薬に関する記載がなく、同時にアミバンタマブ・ラゼルチニブ併用療法治療中のNSCLC患者に対するアピキサバンの臨床的経験は限られているのが現状である。そこで、今回承認された新たながん治療法を安全かつ適正に導入するために、患者の安全性を最優先に考慮する必要があることから本ステートメントが発出された。ステートメント 「EGFR変異陽性の進行・再発NSCLCに対してアミバンタマブ・ラゼルチニブ併用療法を施行する患者において、静脈血栓塞栓症予防を目的としてアピキサバン2.5mgを1日2回、4ヵ月間投与する。活動性悪性腫瘍症例に対しアピキサバンによる予防的抗凝固療法を施行するにあたり日本人では血中濃度が高くなることが知られているが、アピキサバン2.5mg1日2回投与の出血リスクについては安全性が確認されていない。そこで出血(ISTH基準の大出血*)などの重篤な合併症を生じるリスクを理解した上で、使用薬の特性、投与方法、薬剤相互作用を考慮した慎重な対応が必要である。そして、これらの治療は抗凝固療法に精通した腫瘍循環器医(循環器医)等と連携の取れる体制の下で実施されることが望ましい。」*:ISTH基準の大出血:実質的な障害をもたらす出血(脳出血、消化管出血、関節内出血など)、失明に至る眼内出血、2単位以上の輸血を要する出血

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災害避難で車中泊は危険なのか?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第11回

災害避難で車中泊は危険なのか?大規模災害の後、体育館が避難所として運営され、多くの避難者が生活していますが、避難所ではなく自家用車の中で生活している避難者も多くいるようです。避難所管理医師として、車中泊をする避難者の健康管理を行政から依頼されました。どのようなケアをすればいいでしょうか?車中泊する人は多い大規模災害時、避難所の収容限界や感染対策、プライバシーの問題から「車中泊」を選ぶ避難者は少なくありません。車中泊であれば、他人の物音に悩まされることもなく、周囲に気を使わずに夜中でもパソコンやスマートフォンを操作できます。実際、2016年の熊本地震では、避難者の6~7割が一時的に車中泊を経験しました1)。一方、震災関連死した被災者の約3割が車中泊経験者でした2)。こうした経緯から、車中泊は「避けるべきリスク」として語られがちです。しかし、指定避難所が満員である場合や、家族・ペットの事情などを考慮すると、多くの被災者にとって「積極的に選ばれる避難手段」となっているのが現実です。車中泊は血栓症のリスクなのか?医療者が注目すべきは、この避難様式が深部静脈血栓症(DVT)や肺血栓塞栓症(PTE)のリスク因子となる点です3~5)。熊本地震後の調査では、車中泊経験者のDVT発症率は約10%に達し、心肺停止に至る重症PTEの症例も報告されています6)。このような事実から、「車中泊は極力避けるべき」と主張する支援者もおられます。しかし近年の研究では、問題の本質は「車中泊」そのものではなく、その過ごし方と環境にあることが示されています。とくに以下の要因がリスクを高めるといわれています。長時間の下肢屈曲保持(座席での就寝など)トイレ不足による水分制限 → 脱水・血液濃縮下肢運動不足 → 筋ポンプ機能の低下高齢、肥満、静脈瘤、悪性腫瘍、妊産婦、血栓症などの家族歴経口避妊薬や睡眠薬などの服薬歴寒冷環境や強いストレスによる交感神経の緊張車中泊中の血栓症の予防はどうするか?これらのリスクを有する避難者に対しては、車内でも可能な非薬物的予防が有効であり、避難所を預かる医師として、以下のような適切なアドバイスが必要です。足を伸ばせる姿勢を確保する弾性ストッキングや保温具を活用し、下肢を冷やさない1~2時間ごとの足関節運動や体位変換を行う簡易トイレを活用してトイレの不安を減らし、水分を十分に摂取するハイリスク群に対しては、薬物療法としてDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)の予防的投与も一案です。しかし、腎機能障害時の出血リスクが高まり、とくに災害時は脱水環境になりやすいため、慎重な判断が求められます。現実的には薬物よりも、まずは非薬物的な予防と環境整備を優先すべきでしょう。災害時の車中泊を一律に「危険」と断じるのではなく、適切な介入と支援を行うことで、DVTやPTEは予防することができます。われわれ医療者は、やみくもにリスクばかり強調するのではなく、避難行動の多様性を尊重しながら、あらゆる状況で被災者の健康を守れる体制を事前に整えておく必要があります。 1) 熊本県. 平成28年熊本地震における車中泊の状況について. 2023年10月15日 2) 日本経済新聞. 熊本地震1年 関連死の犠牲者、3割が車中泊を経験. 2017年4月16日 3) 日本循環器学会/日本高血圧学会/日本心臓病学会合同ガイドライン. 2014年版 災害時循環器疾患の予防・管理に関するガイドライン 4) Sato K, et al. Risk Factors and Prevalence of Deep Vein Thrombosis After the 2016 Kumamoto Earthquakes. Circ J. 2019;83:1342-1348. 5) Sueta D, et al. Venous Thromboembolism Caused by Spending a Night in a Vehicle After an Earthquake (Night in a Vehicle After the 2016 Kumamoto Earthquake). Can J Cardiol. 2018;34:813.e9-813.e10. 6) 坂本 憲治ほか. 熊本地震後に発生した静脈血栓塞栓症と対策プロジェクト. 日本血栓止血学会誌. 2022;33:648-654.

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75歳以上における抗凝固薬と出血性脳卒中の関連~日本の後ろ向きコホート

 高齢者における抗凝固薬使用と出血性脳卒中発症の関連を集団ベースで検討した研究は少ない。今回、東京都健康長寿医療センター研究所の光武 誠吾氏らが、傾向スコアマッチング後ろ向きコホート研究で検討した結果、抗凝固薬を処方された患者で出血性脳卒中による入院発生率が高く、ワルファリン処方患者のほうが直接経口抗凝固薬(DOAC)処方患者より発生率が高いことが示唆された。Aging Clinical and Experimental Research誌2025年11月13日号に掲載。 本研究は、北海道のレセプトデータを用いた後ろ向きコホート研究で、2016年4月~2017年3月(ベースライン期間)に治療された75歳以上の高齢者を対象とした。曝露変数はベースライン期間中の抗凝固薬処方、アウトカム変数は2017年4月~2020年3月の出血性脳卒中による入院であった。共変量(年齢、性別、自己負担率、併存疾患、年次健康診断、要介護認定)を調整した1対1マッチングにより、抗凝固薬処方群と非処方群の入院発生率を比較した。 主な結果は以下のとおり。・71万7,097例中、6万6,916例(9.3%)が抗凝固薬を処方されていた。・傾向スコアマッチング後、抗凝固薬処方群(383.2/100万人月)が非処方群(252.2/100万人月)より出血性脳卒中による入院発生率が高かった(ハザード比[HR]:1.64、95%信頼区間[CI]:1.39~1.93)。・1種類の抗凝固薬を処方された患者(6万1,556例)において、マッチング後、ワルファリン処方群がDOAC処方群より出血性脳卒中による入院発生率が有意に高かった(HR:1.67、95%CI:1.39~2.01)。 著者らは「本研究の結果は、高齢者への抗凝固薬、とくにワルファリンの処方において、出血性脳卒中リスクを最小限にすべく慎重な検討が必要であることを強調している」とまとめている。

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アブレーション後のAF患者、長期DOAC投与は必要か/NEJM

 1年以上前に心房細動に対するカテーテルアブレーションが成功している脳卒中リスク因子を有する患者において、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)リバーロキサバンの投与は抗血小板薬アスピリンと比較して、3年後の時点での脳卒中、全身性塞栓症、新規潜因性塞栓性脳卒中の複合アウトカムの発生率を低減せず、大出血の頻度は同程度だが、小出血および臨床的に重要な非大出血の発生率が高いことが示された。カナダ・McGill UniversityのAtul Verma氏らOCEAN Investigatorsが国際的な臨床試験「OCEAN試験」の結果を報告した。NEJM誌オンライン版2025年11月8日号掲載の報告。6ヵ国の前向き無作為化試験 OCEAN試験は6ヵ国56施設で実施した研究者主導型の前向き非盲検(アウトカム評価者盲検)無作為化試験であり、2016年3月~2022年7月に参加者の無作為化を行った(Bayerなどの助成を受けた)。 試験登録の1年以上前に、非弁膜症性心房細動に対するカテーテルアブレーションに成功し、CHA2DS2-VAScスコア(0~9点、高スコアほど脳卒中のリスクが高い)が1点以上(女性および血管疾患がリスク因子の患者では2点以上)の患者1,284例(平均年齢66.3[SD 7.3]歳、女性28.6%、平均CHA2DS2-VAScスコア2.2[SD 1.1]点、同スコア3点以上の患者の割合31.9%)を対象とした。 これらの参加者を、アスピリン(施設の所在地域の入手可能状況に応じて70~120mg/日)群643例、またはリバーロキサバン(15mg/日)群641例に無作為に割り付け、3年間追跡した。 有効性の主要アウトカムは、脳卒中、全身性塞栓症、新規潜因性塞栓性脳卒中(MRI上で大きさが15mm以上の新規梗塞が1つ以上と定義)の複合とした。主要アウトカムの構成要素にも差はない 主要アウトカムのイベントは、リバーロキサバン群で5例(0.8%、0.31件/100人年)、アスピリン群で9例(1.4%、0.66件/100人年)に発生し、両群間に有意な差を認めなかった(相対リスク:0.56、95%信頼区間[CI]:0.19~1.65、3年時の絶対リスク群間差:-0.6%ポイント、95%CI:-1.8~0.5、p=0.28)。 副次アウトカムである脳卒中(リバーロキサバン群0.8%vs.アスピリン群1.1%、相対リスク:0.72、95%CI:0.23~2.25)、全身性塞栓症(0%vs.0%)、新規潜因性塞栓性脳卒中(0%vs.0.3%、0)の発生率は両群間に差がなかった。また、15mm未満の新規脳梗塞の頻度にも差はみられなかった(3.9%vs.4.4%、0.89、0.51~1.55)。主要複合安全性アウトカムも同程度 3年の時点で致死的出血および大出血の複合(主要複合安全性アウトカム)は、リバーロキサバン群で10例(1.6%)、アスピリン群で4例(0.6%)に発現した(ハザード比[HR]:2.51、95%CI:0.79~7.95)。致死的出血の報告はなく、大出血がそれぞれ10例(1.6%)および4例(0.6%)にみられた(2.51、0.79~7.95)。 一方、臨床的に重要な非大出血(リバーロキサバン群5.5%vs.アスピリン群1.6%、HR:3.51、95%CI:1.75~7.03)および小出血(11.5%vs.3.1%、3.71、2.29~6.01)は、リバーロキサバン群で高頻度であった。 著者は、「脳卒中および新規潜因性塞栓性脳卒中の発生率は、両群とも予想を大きく下回った。全体の96%の患者では、3年後のMRIで新規脳梗塞を認めなかった」「心房細動アブレーションが成功し、脳卒中リスク因子を有する患者では、脳卒中の発生はまれであり、抗凝固療法継続の有益性はみられなかった」「本試験の参加者と同程度の脳卒中リスクを有するアブレーション成功後の心房細動患者では、アスピリンまたは抗凝固療法のいずれかを継続することが妥当と考えられるが、患者は抗凝固療法には臨床的に重要な出血リスクの増加が伴うことを認識すべきだろう」としている。

7.

経口抗凝固薬の重大な副作用、脾破裂に至る脾臓出血が追加/厚労省

 2025年11月26日、厚生労働省より添付文書の改訂指示が発出され、経口抗凝固薬5成分の「重大な副作用」の項に「脾破裂に至る脾臓出血」が追加された。 対象製品は以下のとおり。アピキサバン(商品名:エリキュース錠)エドキサバントシル酸塩水和物(同:リクシアナ錠)ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(同:プラザキサカプセル)リバーロキサバン(同:イグザレルト錠)ワルファリンカリウム(同:ワーファリン錠ほか) 今回の改訂は、経口抗凝固薬の脾破裂リスクについて、国内外症例、WHO個別症例安全性報告グローバルデータベース(VigiBase)を用いた不均衡分析結果を評価し、専門委員の意見も聴取した上で判断されたものである。抗凝固薬の中和剤や免疫チェックポイント阻害薬などにも改訂指示 また、直接作用型第Xa因子阻害薬の中和薬アンデキサネット アルファ(同:オンデキサ静注用)にも改訂指示が発出され、「重要な基本的注意」の項に「シミュレーション結果に基づき、本剤投与終了4時間後の時点で、直接作用型第Xa因子阻害剤又は低分子ヘパリンによる本来の抗凝固作用が期待できる」の一文が追加された。これは、承認取得者より提出された薬物動態/薬力学モデルを用いたシミュレーションの結果を評価し、専門委員の意見も聴取した結果、本シミュレーション結果に基づく情報提供は臨床上有用と判断されたためである。 このほか、抗PD-L1ヒト化モノクローナル抗体のアテゾリズマブ(同:テセントリク点滴静注)では「重大な副作用」が新設され、「溶血性貧血」が追加。ニューキノロン系抗菌薬のトスフロキサシン(同:オゼックス錠ほか)では、本剤を成分とする結晶尿が現れ、とくに小児で急性腎障害や尿路結石を来すことが多く報告されていることから、「重大な副作用」に「尿路結石」が追加された。また、エンドセリン受容体拮抗薬ボセンタン水和物(同:トラクリアほか)では、「警告」と「用法及び用量に関連する注意」の項において、「自己免疫性肝炎」が追加。ゴーシェ病治療薬イミグルセラーゼ(同:セレザイム静注用)には、「重要な基本的注意」の項に「Infusion reaction」が、「重大な副作用」の項に「Infusion reaction」と「高血圧」が追加された。

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意外な所に潜む血栓症のリスク/日本血液学会

 2025年10月10~12日に第87回日本血液学会学術集会が兵庫県にて開催された。10月12日、井上 克枝氏(山梨大学 臨床検査医学)、野上 恵嗣氏(奈良県立医科大学 小児科)を座長に、シンポジウム6「意外な所に潜む血栓症のリスク」が行われた。Nan Wang氏(米国・Columbia University Irving Medical Center)、Hanny Al-Samkari氏(米国・The Peggy S. Blitz Endowed Chair in Hematology/Oncology, Massachusetts General Hospital/Harvard Medical School)、長尾 梓氏(関西医科大学附属病院 血液腫瘍内科)、成田 朋子氏(名古屋市立大学大学院医学研究科 血液・腫瘍内科学)。JAK2V617Fクローン性造血とアテローム血栓症との関連 JAK2V617F(Jak2VF)クローン性造血は、アテローム血栓性の心血管疾患(CVD)との関連が指摘されている。Wang氏は、本シンポジウムにおいて、Jak2VFクローン性造血が動脈血栓症に及ぼす影響とそのメカニズムを評価した研究結果を報告した。 まず、3つのコホート研究を用いたメタ解析により、Jak2VFとCVD、血小板数、補正平均血小板容積との関連が確認された。また、マウスモデルでは20%または1.5%のJak2VFクローン性造血が動脈血栓症を促進し、血小板活性化を増加させることが示された。 Jak2VFクローン性造血は、前血小板形成および放出を促進し、血栓形成促進性の網状血小板数を増加させると考えられている。Gp1ba-Creを介して血小板におけるJak2VFを発現させたモデル(VFGp1ba)は、血小板数が増加した一方、白血球数には影響が見られなかった。このことから、VFGp1baは、血小板活性化と動脈血栓症を促進する可能性が示唆された。 また、Jak2VFクローン性造血では、変異型血小板と野生型(WT)血小板のいずれもが活性化しており、両者の間にクロストークが存在することが示唆された。Jak2VF血小板では、COX-1およびCOX-2が2~3倍に増加し、cPLA2の活性化とトロンボキサンA2産生の増加が認められた。一方、WT血小板は、活性化Jak2VF血小板由来の培養液に曝されるとさらに活性化し、この反応はトロンボキサン受容体拮抗薬により抑制された。さらに、低用量アスピリンは、VFGp1baマウスおよびJak2VFクローン性造血マウスで頸動脈血栓症を改善したが、WT対照マウスでは改善が見られなかった。 これらの結果を踏まえてWang氏は「Jak2VFクローン性造血によるアテローム性動脈硬化症の進行メカニズムにおいて、網状血小板の増加とトロンボキサンを介したクロストークが重要な役割を果たしており、アスピリンの潜在的な効果が期待される」と結論づけた。ITPにおける血栓症リスクとその管理 続いて、Al-Samkari氏が免疫性血小板減少症(ITP)における血栓症の重要なトピックスを紹介した。 ITPは、血小板破壊の増加と血小板産生の低下により生じる後天性自己免疫疾患である。さまざまな仮説に基づくメカニズムから、ITPは静脈血栓症および動脈血栓症のリスクを上昇させる可能性が指摘されている。実際、ITP患者の静脈血栓塞栓症のリスクは、一般集団の10~30倍と推定されている。また、トロンボポエチン受容体作動薬などの特定のITP治療薬は、血栓塞栓症リスクを上昇させる一方、脾臓チロシンキナーゼ阻害薬などの他の治療薬はリスクを低下させるとされている。 ITPにおける血栓症のリスク因子は、一般的な血栓症リスク因子に加え、年齢、脾臓摘出、複数回のITPの治療歴、免疫グロブリン静脈(IVIG)療法などが挙げられる。脾臓摘出後の生涯静脈血栓症リスクは3〜5倍に増加し、その発症率は7〜12%と報告されている。IVIG治療患者における血栓症リスクは約1%であり、血栓イベントの60%以上が注入後24時間以内に発生すると報告されている。とくに、45歳以上の患者や血栓イベントの既往歴を有する患者では、リスクがより高いと考えられる。 ITPにおける血栓症の治療について、Al-Samkari氏は次のように述べた。「出血がない場合であっても、血小板数が5万/μLを超える患者では抗凝固療法または抗血小板療法が通常適応となる。また、血小板数が3万/μL以上の場合には、年齢やその他のリスク因子を考慮しつつ、治療用量の抗凝固療法と抗血小板薬2剤併用療法を選択する必要がある」。日本人血友病患者のCVD管理のポイント 先天性血友病患者が胸痛を呈し、心エコー検査でST上昇が認められる場合には、緊急冠動脈インターベンションが必要となる。このような症例は、血友病患者の高齢化に伴い今後増加する可能性がある。 先天性血友病は、第VIII因子(血友病A)または第IX因子(血友病B)の欠乏によって引き起こされるX連鎖性出血性疾患であり、その重症度は重症(活性1%未満)、中等症(1~5%)、軽症(5~40%)に分類される。2024年度の日本における血液凝固異常症全国調査によると、血友病Aは5,956例、血友病Bは1,345例であると報告されている。血友病患者は関節内出血などの深部出血を呈し、血友病性関節症の発症やQOL低下につながる可能性があることから、予防的な因子補充療法は依然として治療の基本である。 近年、血友病治療は目覚ましい進歩を遂げており、半減期を延長した凝固因子濃縮製剤、第VIII因子模倣二重特異性抗体、抗凝固経路を標的としたリバランス療法、そして海外でも利用可能となった遺伝子治療など、新たな治療選択肢が登場している。一方、日本では高齢の血友病患者が比較的少なかったことから、CVDなどの血栓性合併症はまれで、その管理のための確立したガイドラインや十分なデータが存在しなかった。しかし、非因子療法の普及や包括的ケアシステムの拡充に伴い、血友病患者の長期予後は改善しつつある。2024年の全国調査では、日本の血友病Aおよび血友病B患者の平均年齢は約40.2歳であり、患者集団の高齢化が進んでいることが明らかにされた。 2019年以降に40歳以上であった血友病患者599例をフォローアップしたADVANCEコホート研究では、5年間で17例の死亡が観察され、死亡時の平均年齢は62.4歳(中央値:58.0歳)であったことが報告されている。70〜90代まで生存した患者も報告されており、血友病患者の寿命が延長していることも示されている。日本人男性の平均寿命(約81歳)との差は依然としてあるものの、日本人血友病患者の平均寿命が延びていることを明確に示す結果となった。 重要なポイントとして、長尾氏は「日本人は欧米人よりも出血傾向が高いと考えられるため、日本人患者に合わせた個別化かつバランスの取れたCVD管理戦略が不可欠である」と指摘した。さらに「血友病患者のCVD管理のための、日本人特有のエビデンスに基づく臨床ガイドラインを早急に策定する必要がある」と述べ、講演を締めくくった。多発性骨髄腫における血栓症リスク がん患者は健康な人と比較して血栓イベントの発生リスクが4~7倍高いことが報告されている。多発性骨髄腫はその中でも血栓イベントの発生率が高い疾患の1つであり、患者の約10%において臨床経過中に血栓イベントが生じるとされている。 血栓イベントのリスク因子は多岐にわたり、患者関連因子、疾患関連因子、治療関連因子の3つに大別される。たとえば治療関連リスクとしては、レナリドミドなどの免疫調節薬とデキサメタゾンの併用が挙げられる。 多発性骨髄腫患者における血栓イベントの発生は、治療に影響を及ぼし、アウトカム不良につながるため、適切な予防と評価が重要となる。成田氏は「診断時および定期的な血栓症のスクリーニングが有益であり、免疫調節薬を併用療法で使用する場合には、血栓症の予防およびモニタリングがとくに重要となる」と指摘した。 現在、日本における多発性骨髄腫患者の血栓症に関する調査が進行中であり、その結果が待ち望まれている。

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左心耳閉鎖手技(LAAO)の行く末を占う(OPTION試験)(解説:香坂俊氏)

 このOPTION試験は、心房細動(AF)アブレーションを受け、かつCHA2DS2-VAScが高い患者を対象に、「その後もふつうに抗凝固薬を飲み続けるか」「左心耳閉鎖手技(LAAO)に切り替えるか」を1:1で比較した国際RCTとなります。1,600例を組み入れ、LAAO群はWATCHMANで閉鎖した後所定期間だけ抗血栓を行い、その後半年ほどで中止し、対照群はDOACを含む標準的な内服抗凝固薬を続けるという設計で行われました。結果として、主要安全エンドポイント(手技に直接関係しない大出血+臨床的に問題となる非大出血)は36ヵ月でLAAO 8.5%vs.OAC 18.1%でLAAO群に少なく(p<0.001)、主要有効性エンドポイント(全死亡・脳卒中・全身性塞栓の複合)は5.3%vs.5.8%で非劣性となりました。 アブレーション後にLAAOまで一緒にやってしまう発想は現実的です。ただ、自分が考える問題点は大きく2つあります。第一に、本試験のOAC群の出血率が実臨床のDOAC単剤よりやや高めで、近年のリアルワールドで見られる年間1%以下の大出血とは開きがあります。※OPTION試験の主要安全エンドポイントは「手技に関係しない大出血+臨床的に問題となる非大出血(CRNM)」で、36ヵ月でLAAO 8.5%vs.OAC 18.1%。一方、同試験での「大出血(手技関連も含めて)」という副次安全エンドポイントは3.9%vs.5.0%/36ヵ月で、これは年間に直すとおおむね1.3%/年vs.1.7%/年程度。 第二に、LAAOにはperidevice leak(閉じ残り)という固有の弱点が残ります。最近の報告でも、WATCHMANでも20〜30%、一部シリーズでは30〜40%近くで遅発性のリークが見つかり、このリークがあると脳梗塞・全身塞栓が増えるという相関がはっきりしてきています(このことはOPTION試験に関するNEJMのCorrespondenceでも強調されています)。OPTIONでは36ヵ月までで有効性はOACと同等でしたが、リークが増えてくるのはそれ以降となる可能性があり、すると「閉じたはずの左心耳からまた血栓が…」ということが起こりえます。また、第一の問題点と逆で、DOACのような「単純化された介入(ワルファリンと比較して)」に対して、LAAOのような「より複雑な介入」はRCTよりもリアルワールドでの成績が悪くなる傾向にある、というところも気掛かりな点となります。 この領域では今回のOPTION試験のほかに、PRAGUE-17(Osmancik P, et al. J Am Coll Cardiol. 2020;75:3122-3135.)という高出血リスクのAFでLAAOとOACを直接ぶつけた試験があります(4年フォローで非劣性)。このPRAGUE-17とOPTIONで少しずつ「どういう患者群にLAAO?」というところは埋まってきていますが、オーソドックスなコメントとなりますが、より大規模・長期の試験結果を待つ必要があるかと感じます(2026年以降、CHAMPION-AF試験など本当に大きな規模のRCTの結果が公表されてくる予定です。Rationale and design of a randomized study comparing the Watchman FLX device to DOACs in patients with atrial fibrillation - ScienceDirect)。それまでは、LAAOの実施に当たっては、(1)リークのリスク、(2)DOAC最適投与と比べたときの安全性、(3)高齢化・心不全合併などリアルな患者群でのpreference、というところがカギとなるでしょう。

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治療法、どこまでの説明が必要?【医療訴訟の争点】第16回

症例患者の罹患する疾患に対して複数の治療法が存在するも、患者の状態から選択が困難と考えざるを得ない治療法が存在することもある。そのような治療法についても医師は説明義務を負うのか。本稿では、医師が“選択は困難”と考えた治療法の説明義務が争点となった東京地裁令和4年12月9日判決を紹介する。<登場人物>患者女性(87歳)原告患者の子(次男)被告基幹病院、脳神経内科担当医、脳神経内科部長事案の概要は以下の通りである。平成24年2月29日午前10時頃コンビニエンスストアの駐車場で倒れているところを発見午前10時45分頃被告病院に救急搬送。救急医の診察時、(1)失語の状態で発語はまったく見られない、(2)痛み刺激に対し、左上下肢は動くが、右上下肢に動きは見られない、(3)左共同偏視(両目が左を向いて固定された状態)、(4)右バビンスキー反射(足の裏をこすると足の親指が上を向いてしまう状態)陽性の所見。救急医は脳神経内科にコンサルト。神経内科医(被告医師)が診療を担当し、(1)右注視麻痺、(2)右顔面筋力低下、(3)右上下肢動きなし、(4)失語の状態にある旨の所見を確認した。頭部CTで出血所見はなく、脳梗塞と診断された。被告医師は、患者が87歳と高齢であり、広範な脳のダメージが示唆され重症例であることから、アルテプラーゼによる静注血栓溶解(rt-PA)療法の施行は困難と判断した。また、血液検査の結果、クレアチニンは0.95mg/dL(基準値0.47mg/dLないし0.79mg/dL)、血中尿素窒素は17mg/dL(基準値8mg/dLないし22mg/dL)であり、腎機能障害が認められたことから、腎障害や高齢者における致死的副作用の報告が多いエダラボンの適応ではないと判断した。被告医師は、患者の長男に対し、患者の病状説明を行い、診断は脳梗塞と考えること、治療は、抗凝固療薬の点滴によるが、出血の危険性が高いと判断されれば使用しないこと等を説明した。なお、長男から、被告医師に対し、rt-PA療法やエダラボン投与に関する質問やこれらの治療の要望はなかった。MRI検査にて深部白質にDWI高信号が認められるとの所見であったことから、被告医師は、本件患者はアテローム血栓性脳梗塞である可能性が高いと判断し、アルガトロバンの投与による抗凝固療法を行うことを決定した。4月25日本件患者は要介護5の認定5月7日リハビリテーション病院へ転院令和元年12月23日老衰により死亡実際の裁判結果本件では、(1)rt-PA療法に係る問診・診断義務違反および説明義務違反、(2)エダラボンの投与に係る診断義務違反、説明義務違反および治療義務違反が争点となったが、裁判所は以下の判断をし、原告の請求をいずれも棄却した。(1)rt-PA療法に係る問診・診断義務違反及び説明義務違反について原告は、本件患者にはrt-PA療法の適応があったことから、被告医師はその実施に向けて、未発症時刻の確認、NIHSSによる重症度評価及び頭部CTの画像診断といった問診・診断を行い、原告らに対し同療法について説明する義務を負っていた旨を主張した。これに対し、裁判所は以下の点を指摘し、「未発症時刻の確認、NIHSSによる重症度評価及び頭部CTの画像診断を行うまでもなく、本件患者に対しrt-PA療法を実施しないとした被告医師の判断は、医学的合理性に基づくものというべきであり、医師の裁量を逸脱するものとは認められない」とした。本件患者が、当時87歳であり、本件当時の「rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法適正治療指針(2005年10月)」において慎重投与とされる基準(75歳)を大きく上回っていたこと。被告医師が本件患者を診察した際の状態は、右注視麻痺、右顔面筋力低下、右上下肢動きなし、失語の状態にあるというものであり、NIHSSによる評価はともかく、前頭葉、頭頂葉並びに側頭葉に関連し得る広い範囲に及ぶ脳のダメージが示唆され、脳梗塞の中でも重症と評価できるものであったこと。治療指針のチェックリストの1項目でも慎重投与とされる基準に該当すれば、適応の可否を慎重に判断することとされ、とくに高齢、重症例では治療成功率は低く、症候性頭蓋内出血の危険性も高くなると考えられるとされていること。その上で、原告らがrt-PA療法の実施可能性等について強い関心を有し、これを被告医師に伝えていたとは認められないことを指摘し、「被告医師が、本件患者やその家族に対しrt-PA療法について説明すべき義務を負うとは認められない」と結論付けた。(2)エダラボンの投与に係る診断義務違反、説明義務違反及び治療義務違反について原告は、本件患者に対しエダラボンを投与することが可能であり、被告医師は、本件患者の腎機能の評価を行ってエダラボンを投与し、原告らに対しエダラボンについて説明する注意義務を負っていた旨を主張した。これに対し、裁判所は、以下の点を指摘し、「87歳という高齢で、高度に近い中等度の腎機能障害が認められた本件患者に対しエダラボンを投与しないとした被告医師の判断は、医学的合理性に基づくものというべきであり、医師の裁量を逸脱するものとは認められない」とした。本件当時87歳、体重は48kgであり、血液検査の結果、クレアチニンの値は0.95mg/dLであるなど、高度に近い中等度の腎機能障害を来していたといえること。エダラボンは、腎機能障害、高齢者には慎重投与とされていること。とくに80歳以上の高齢者においては、致命的な経過をたどる例が多く報告され、製薬会社が緊急安全情報を発していること。その上で、原告らがエダラボンの投与について強い関心を有し、これを被告医師に伝えていたとは認められないことを指摘し、「被告医師が、本件患者やその家族に対しエダラボンについて説明すべき義務を負うとは認められない」と結論付けた。注意ポイント解説本件は、高齢脳梗塞患者における急性期治療の選択と説明義務の範囲が争われた事案であり、裁判所は、当時の診療指針や添付文書に示された「慎重投与」基準を踏まえ、rt-PA療法やエダラボン投与といった積極的治療は、副作用リスクが高いとされる高齢・重症例では、医学的裁量に基づく非実施が正当とされ得るとして、医師の判断を尊重する判断をした。また、説明義務の発生についても、患者や家族らがその治療法に強い関心を示し、それを医師に伝えていたわけではないことを指摘し、医師が「適応がないと判断した治療」については説明義務が生じないとした。これは、説明義務の範囲があくまで医療水準に照らした「実施を検討すべき治療」に限られることを示すものといえる。もっとも、本件は、いずれの治療を選択するにしても直ちにその適応を判断しなければならないものであったため、時間をかけた検査の要否や、治療法の採否につき、医師の裁量が認められたとの要素があると考えられる。患者の状態・症状等から「慎重投与」の基準をわずかに逸脱するにとどまっていたり、副作用リスクが高いとの報告がされていなかったりすれば、医師の裁量は狭まることとなり、ほかにありうる治療法としてrt-PA療法やエダラボン投与につき、説明をする義務があったとされる可能性がある点に留意する必要がある。また、今回問題となったrt-PA療法は、本件当時(平成24年=2012年)は、75歳以上は慎重投与とされていたが、その後、慎重投与は80歳以上となるなど、年齢の点は緩和されるなど変化が生じている。同様に、エダラボンの投与についても、本件当時よりも報告例の集積がされた結果、投与に対する考え方にも変更がありうるところである。このため、本判決の判断が現在も同様に当てはまるとは限らず、いずれにしても診療時の医学的知見を踏まえ、患者の状態を考慮した上での判断となることに留意が必要である。医療者の視点今回の裁判所の判断は、臨床現場における医師の判断プロセスを尊重したものであり、実臨床の感覚に近いものと言えます。本件の87歳というご高齢の患者さんのように、複数のリスクを抱えている方への治療方針の決定は、常に難しい判断を迫られます。とくに脳梗塞急性期のrt-PA療法は、有効性が期待される一方で、重篤な出血のリスクを伴います。当時のガイドラインで75歳以上が慎重投与とされていた中、87歳で、かつ臨床症状から重症と判断される患者さんに対して、治療の利益よりも不利益が上回る可能性を重くみて治療を実施しない、という判断は、多くの医師が同様の結論に至る可能性のある、医学的合理性に基づいたものと考えられます。エダラボン投与に関しても、腎機能障害や高齢者への慎重投与が求められており、医師の判断は妥当なものであったと判断されたのでしょう。一方で、裁判所が「家族が強い関心を示していなかったため、説明義務はなかった」と判断した点については、実臨床では注意が必要です。訴訟上の義務は発生しないとしても、患者さんやご家族との信頼関係を築く上では、たとえリスクが高く実施が難しいと判断した治療法であっても、そのような選択肢が存在すること、そしてなぜそれを選ばないのかを丁寧に説明することが望ましいからです。後から「なぜあの治療法の説明をしてくれなかったのか」という不信感につながることを避けるためにも、積極的な情報提供が重要になる場面は少なくありません。医療技術やガイドラインは日々更新されるため、常に最新の情報を収集し続ける姿勢が不可欠です。その上で、個々の患者さんの状況に応じた最善の選択肢を、ご本人やご家族と共に考えていく丁寧な対話こそが、訴訟リスクを低減し、より良い医療を実現する鍵となるでしょう。Take home message治療選択においては、ガイドラインや添付文書において慎重投与とされているケースについて、その選択をしない医師の裁量的判断が尊重される場合もあるため、これらの記載内容を常にアップデートしておく必要がある。医師の裁量に基づく非実施が医学的合理性を有する治療法については、患者や家族らがその治療法に強い関心を示してない場合には、説明義務違反はないとされることもある。

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第37回 ありふれた転倒が引き起こす「見逃せない頭部外傷」【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)転倒は「ありふれた外傷」ではない! 2)初診時のCT所見が正常でも油断は禁物!3)慢性硬膜下血腫は予後良好とは限らない!【症例】80歳男性。施設職員が部屋を訪れると、ベッド上で普段と様子が異なる状態を発見した。しばらく様子をみていたが、症状が改善しないため、職員の付き添いのもと車椅子で外来を受診した。●受診時のバイタルサイン意識E4V4M5/GCS血圧142/90mmHg脈拍78回/分(整)呼吸18回/分SpO296%(RA)体温36.6℃瞳孔3.5/3mm +/+頭部外傷の現状救急外来では外傷患者を診療する機会が多いですが、その多くは激しい交通事故ではなく、高齢者の自己転倒です。自宅や路上でつまずいて転倒し、体動困難のため受診し、精査の結果、大腿骨近位部骨折と診断される症例は非常に多いと思います。そして、それ以上に多いのが頭部外傷です。外傷症例の約3分の1が頭部外傷であり、とくに75歳以上の高齢者ではその頻度が非常に高いのが現状です1)。高齢者が平地で転倒し、頭部を打撲して救急外来を受診するケースは日常的に見られます。その多くは軽症頭部外傷(Glasgow Coma Scale [GCS]14~15)です。頭部外傷の診療では、Canadian CT Head Rule(CCHR)などを参考に頭部CT検査の必要性を判断することが一般的です。しかし、CCHRはもともと「意識障害、意識消失、健忘を認める症例」を対象としており、それに満たない症例では個別の判断が求められます。わが国ではCT機器が広く普及し、また初療を担当する医師が研修医や非専門医であることも多いため、頭部CT検査が比較的多くオーダーされているのが現状です。もちろん、検査の必要性を常に考慮することは重要ですが、患者自身が画像検査を希望する場合も少なくありません。そのため、「不要だから撮らない」と突き放すよりも、検査の意義や限界を丁寧に説明し、納得のうえで方針を決定することが望ましいといえます。中等症以上の頭部外傷(GCS≦13)*ではCT検査後に入院管理となることが多いですが、軽症頭部外傷の場合には帰宅となるケースが多いでしょう。その際、今後起こり得る合併症として慢性硬膜下血腫(CSDH)の可能性を説明することが多いと思いますが、どのような点を意識して説明しているでしょうか。具体的な数値とともに整理しておきましょう。*わが国では頭部外傷のうちGCS14~15点を軽症頭部外傷と定義しますが、海外では13~15点を軽症と分類しています。軽症頭部外傷後の頭蓋内出血リスクとその経過軽症頭部外傷患者で頭部CT検査を行い、とくに異常所見が認められなかった場合、その後に頭蓋内出血を新たに認めることは、どの程度あるのでしょうか。慢性硬膜下血腫は、頭部外傷後数週間を経て発症するものと定義されていますが、それより早期に頭蓋内出血を生じる場合があります。外傷直後のCT検査で異常を認めないにもかかわらず、数時間から数日後に新たに出血を呈する病態を「遅発性頭蓋内出血」と呼びます。この遅発性出血の発生率はおおむね0.3%程度であり、発症までの期間は3~5日が一般的な数字です。抗血栓薬服用の有無で発生率に有意差はなく、これらの結果からルーティンの入院や再CT検査は不要とされています2)。一方、初診時に急性硬膜下血腫(ASDH)を認めた患者(平均71.4歳、男性56.7%)では、慢性硬膜下血腫への移行率は約5.5%と報告されています。抗凝固薬の使用や、初回入院時に穿頭ドレナージを受けたか否かは有意な関連を示しませんでした3)。さらに、慢性硬膜下血腫に対して穿頭ドレナージを施行した症例を対象とした解析では、急性硬膜下血腫の約12~13%が慢性硬膜下血腫へ移行していたと報告されています4)。また、慢性硬膜下血腫症例のうち、画像上で急性硬膜下血腫を先行していたものは37%に過ぎず、残り63%は急性期出血を伴わず発生しているとの報告もあります5)。すなわち、初診時の頭部CTで異常を認めない場合、早期に出血を生じることは極めてまれです。しかし、その後に慢性硬膜下血腫へと移行するか否かは、初期血腫量や抗血栓薬使用、基礎疾患などの要因により異なり、経過を丁寧に追わなければ判断が難しいといえるでしょう。慢性硬膜下血腫の実像慢性硬膜下血腫と聞くと、高齢者が頭部外傷後に意識変容や歩行障害を認め来院し、穿頭ドレナージ術を行い帰宅。比較的予後が良い疾患に感じるかもしれませんが、本当にそうでしょうか?わが国の慢性硬膜下血腫の現状をお伝えしておきましょう。平均年齢は76歳、男性が68%と多くを占めます。70歳以上が78%を占め、とくに80歳代が37%と最多です。90%以上が穿頭ドレナージを受け、開頭術を要したのは1.5%でした6)。意識障害は54%に認められ、加齢とともに頻度が増加します。高齢者の意識障害の原因として脳卒中などを含めた神経救急の割合は20%程度ですが、急性経過の意識障害では慢性硬膜下血腫も重要な鑑別疾患の1つです。高齢化が進むわが国においては、「なんとなく普段と違う」といった訴えであっても、慢性硬膜下血腫を念頭に置く必要があります。もちろん、症状を説明しうる他の原因がある場合には過度に懸念する必要はありませんが、外傷歴がない、あるいは確認できないからといって安易に否定してはいけません。退院時に予後良好(mRS**0~2)であったのは全体の72%にとどまり、すなわち約3割は介助を要する状態です。けっして「予後良好」とは言えず、年齢とともに悪化傾向を示します。自宅退院率は70歳未満では90%以上ですが、80歳代では約30%に低下します6)。**modified Rankin Scale(mRS):脳卒中などの後遺症による日常生活動作の自立度を0~6の7段階で評価するスケールです。0は「症状なし」、6は「死亡」を意味します。1~2は軽度の後遺症で自立生活が可能、3~5は介助を要する段階を示します。最後に「頭部外傷の経過観察は丁寧に」慢性硬膜下血腫は、けっして「軽い病気」ではありません。高齢化の進行とともに、その発症頻度は今後さらに増加していくと考えられます。高齢者は筋力や視力の低下に加え、基礎疾患や多剤内服を抱えていることが多く、転倒リスクが常に存在します。転倒後の対応はもちろん重要ですが、そもそも転倒を防ぐための予防的な取り組みこそが最も効果的です。医療現場では、頭部CT検査の撮影閾値がやや低くなることは止むを得ませんが、受傷機転を丁寧に確認し、CT検査で異常を認めなくても「時間を味方につけた対応」を意識することが大切です。小さな転倒が大きな転帰を左右することがあります。だからこそ、「ありふれた外傷」を軽視せず、経過を丁寧に見守る姿勢が求められます。 1) Shibahashi K, et al. World Neurosurg. 2021;150:e570-e576. 2) Chenoweth JA, et al. JAMA Surg. 2018;153:570-575. 3) Wasfie T, et al. Am Surg. 2022;88:372-375. 4) Liebert A, et al. Neurosurg Rev. 2024;47:247. 5) Edlmann E, et al. J Neurotrauma. 2021;38:2580-2589. 6) Toi H, et al. J Neurosurg. 2018;128:222-228.

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心房細動患者における脳梗塞リスクを示すバイオマーカーを同定

 抗凝固療法を受けている心房細動(AF)患者においても、既知の脳梗塞リスクのバイオマーカーは脳梗塞リスクと正の関連を示し、そのうち2種類のバイオマーカーがAF患者の脳卒中発症の予測精度を改善する可能性があるとする2報の研究結果が、「Journal of Thrombosis and Haemostasis」に8月6日掲載された。 米バーモント大学のSamuel A.P. Short氏らは、抗凝固療法を受けているAF患者におけるバイオマーカーと脳梗塞リスクの関連を検討するために、登録時に45歳以上であった黒人および白人の成人3万239人を対象とし、前向きコホート研究を実施した。ベースライン時に、対象者の9種類のバイオマーカーが測定された。解析の結果、ワルファリンを内服していたAF患者713人のうち67人(9%)が、12年間の追跡期間中に初発の脳梗塞を発症していた。交絡因子を調整した後も、標準偏差1単位の上昇ごとに、N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)、血液凝固第VIII因子、D-ダイマー、成長分化因子-15(GDF-15)は、いずれも新規脳卒中発症と正の関連を示した。ハザード比は、NT-proBNPで1.49(95%信頼区間1.11〜2.02)、GDF-15で1.28(同0.92〜1.77)であった。ただし、D-ダイマーとGDF-15の関連は、統計学的に有意とはならなかった。 2件目の研究で、Short氏らは、以前一般集団で脳卒中リスクと関連が報告されていたバイオマーカーが、AF患者でも同様に脳卒中リスクと関連するか、さらにCHA2DS2-VAScスコアによる予測を改善できるかを検討した。13年間の追跡期間中に、AF患者2,411人のうち163人(7%)が初発の脳梗塞を発症していた。解析の結果、NT-proBNP、GDF-15、シスタチンC、インターロイキン6(IL-6)、リポ蛋白(a)の高値は、それぞれ独立して脳卒中リスクの上昇と関連していた。CHA2DS2-VAScモデルの適合度と予測能は、これらのバイオマーカーを加えることで大きく改善した。NT-proBNPとGDF-15の2種類のみを追加したモデルが、最も適合性・予測能に優れていた。 Short氏は、「今回示されたモデルにより、医師は抗凝固療法の対象となる患者をより適切に選択できるようになり、救命や医療費削減につながる可能性がある」と述べている。

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アブレーション後は抗凝固薬をやめてよい?(解説:後藤信哉氏)

 筆者は自ら長年非弁膜症性心房細動を患っているので、この論文は他人事ではない。心房細動だからといって、みんなが抗凝固薬を使う必要はない。現在の抗凝固薬では年間に3%程度の症例に重篤な出血イベントが起こることが、DOAC開発のランダム化比較試験にて示されている。長期間に抗凝固薬を使用すれば重篤な出血イベントリスクは身近な問題となる。筆者は20年程度、抗不整脈薬にて自らの心房細動をコントロールしてきた。しかし、いよいよ薬剤の調節が難しくなったのでアブレーションを受けた。アブレーション後に内膜が焼灼されるので、内膜の回復までは抗凝固薬が必要と考えた。心房細動のリスクがなくなった場合に抗凝固薬をやめられることが明確に示されればアブレーション治療の価値は大きく増加する。本研究の症例数は840例と多くないが、必須であった薬剤が不要になることを示せば患者さんにとっても医療経済的にも価値が大きい。 術後に不整脈が起こらない症例に限れば、抗凝固薬の中止により血栓イベントなどが増加しないことを示した本研究の価値は大きい。抗凝固薬をやめれば出血リスクが減少する。出血が減れば、出血により抗凝固薬を比較的にやめることによるリバウンドも減る。この研究成果は心房細動の症例にとっては価値が大きいと思う。

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がんと心房細動、合併メカニズムと臨床転帰/日本腫瘍循環器学会

 がん患者では心房細動(AF)が高率に発症する。がん患者の生命予後が改善していく中、その病態解明と適切な管理は喫緊の課題となっている。第8回日本腫瘍循環器学会学術集会では、がん患者におけるAFの発症メカニズムおよび活動性がん合併AF患者の管理について最新の大規模臨床研究の知見も含め紹介された。がん患者におけるAFの発症メカニズム 東京科学大学の笹野 哲郎氏はがん患者におけるAF発症について、がん治療およびがん自体との関連を紹介した。 肺がんや食道がんに対する心臓近傍への手術や放射線照射では、術後炎症や心筋の線維化がAF発症と関連している。AF発症が高率な薬剤としてドキソルビシンなどのアントラサイクリン系薬剤やイブルチニブなどのBTK阻害薬が代表的である。これらの抗がん剤は心筋細胞の脱落や線維化など構造的な変化と電気生理的な変化によってAFを発症する。 また、腫瘍細胞の直接浸潤は催不整脈性を有し、AF発症の原因となる。これには腫瘍によるギャップ結合チャネルの低下や心房の線維化によるAF誘発の可能性が示唆されている。しかし、発症メカニズムについては未解明な部分も多い。大規模レジストリで明らかになったAF患者へのがん合併の影響 東邦大学大学院医学研究科の池田 隆徳氏は、全国的に実施された高齢者の心房細動のANAFIE(All Nippon AF in Elderly)レジストリのサブスタディとして、活動性がんの合併がAF患者の血栓塞栓症や出血性イベントおよび死亡に与える影響を発表した。 ANAFIEレジストリに登録された3万例を超える高齢患者のうち11%に活動性がんの合併が確認された。非がん群と比較してがん群ではCHADS2スコアおよびHAS-BLEDスコアが高く、ハイリスク例が多かった。経口抗凝固薬(OAC)の投与実態を見ると、がん群においてDOACの使用率が高いことが明らかになった。 臨床転帰を見ると、がん群と非がん群における有効性イベント(脳卒中、全身性塞栓症)の発現率は同程度であったが、安全性イベント(大出血、頭蓋内出血、全死亡、ネットクリニカルアウトカム)はがん群で高率であった。OACの投与は非がん群、がん群ともに7割がDOACであった。DOACとワルファリンの臨床イベントを比較すると、非がん群ではDOACのワルファリンに対し優位性が認められた。一方、がん群ではDOACのワルファリンに対する優位性は認められなかった。

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左心耳閉鎖術?(解説:後藤信哉氏)

 心房細動の症例は、長期間の観察期間内の脳卒中リスクが高い。心房細動による血流うっ滞が血栓形成に寄与している可能性はある。血流うっ滞による血栓形成は、うっ滞が最も重症になる心耳から始まる可能性がある。そこで左心耳を閉じてしまえば心房細動の脳梗塞予防が可能かもしれないとの仮説につながる。 カテーテルアブレーションを受ければ左房の内膜側に損傷ができるので血栓イベントリスクが上昇する。一時的に抗凝固薬を使用するのは血栓イベント予防に有効と考えられる。左心耳閉鎖が有効であるためには、アブレーションにより傷ついた内膜からの血栓が左心耳にて成長している必要がある。本研究では重篤な出血イベント発現リスクを仮説検証のエンドポイントにしている。全身の凝固機能が低下する抗凝固薬使用時には出血イベントリスクが増加する現実に、本研究でも抗凝固療法群の重篤な出血イベント発現リスクは18.1%と左心耳閉鎖群の8.5%よりも高かった。この結果は予想通りである。 問題の血栓イベントリスクは、36ヵ月の総死亡・脳卒中・全身塞栓症にて定義された。有効性エンドポイント発現率は5.3%と5.8%で両群間に差がなかった。抗凝固薬を使用すると重篤な出血イベントリスクは増える。しかし、現実世界では多くの症例が抗凝固介入を受けている。総死亡・脳卒中・全身塞栓症にて定義される血栓イベントリスクは、抗凝固薬使用時の重篤な出血イベントリスクよりもはるかに低い。左心耳閉塞が血栓イベントリスクに及ぼす効果は未知である。心房細動に対する過剰な抗凝固薬投与の反省の時代が来るかもしれない。

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冠動脈バイパス術後の新規AF発症、術後30日以後はリスク低い?/JAMA

 ドイツ・LMU University HospitalのFlorian E. M. Herrmann氏らは、同病院およびイエナ大学病院の心臓外科センターで研究者主導の前向き観察研究を実施し、植込み型心臓モニター(ICM)による1年間のモニタリングの結果、冠動脈バイパス術(CABG)後1年以内の新規心房細動(AF)の累積発生率は既報より高かったものの、術後30日以降はAF負担がきわめて低いことを明らかにした。CABG後のAF新規発生率や負担は不明であるが、米国のガイドラインでは非無作為化臨床試験に基づきCABG後新たにAFを発症した患者に対し60日間の経口抗凝固療法がクラス2a(中程度の強さ)で推奨されている。著者は「術後30日以降のきわめて低いAF負担は、現行ガイドラインの推奨に疑問を呈するものである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年10月9日号掲載の報告。AF既往歴のない初回単独CABG施行患者198例を登録 研究グループは、初回単独CABGで、3枝冠動脈疾患または左主幹病変に対し2本以上のバイパスグラフトを施行する、AFならびにその他の不整脈の既往がない術前左室駆出率が35%以上の成人(18歳超)を対象に、術中(皮膚閉鎖後)にICMを埋設し、持続モニタリングを開始した。 主要アウトカムは、持続モニタリングで検出されたCABG後1年以内の新規AF累積発生率。副次アウトカムは、1年間におけるAF累積持続時間、AF負担(AF累積持続時間/総モニタリング時間)、臨床アウトカムなどであった。 2019年11月~2023年11月に1,217例がスクリーニングされ、適格患者198例(男性173例[87.4%]、女性25例[12.6%]、平均年齢66歳[SD 9])が登録された。術後1ヵ月以降はAF負担中央値0、累積持続時間0分 198例中1例はモニタリング開始前に死亡し、197例(99.5%)で遠隔データ収集が開始され、192例(97.0%)が1年間の持続モニタリングを完了した。 198例中95例がCABG後1年以内に新規AFを発症し、累積発生率は48%(95%信頼区間:41~55)であった。 一方、副次アウトカムである1年間のAF負担中央値は0.07%(四分位範囲:0.02~0.23)、AF累積持続時間は370分であった。AF負担中央値は、術後1~7日目で3.65%(0.95~9.09)、8~30日目0.04%(0~1.21)、31~365日目0%(0~0.0003)であり、AF累積持続時間はそれぞれ368分、13分、0分であった。 退院後、3例で24時間を超えるAF発作が認められた。

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脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕

近年の知見を反映し52項目を改訂!2022年1月から2023年12月までの2年間に発表された論文のうち「レベル1のエビデンス」「レベル3以下だったエビデンスがレベル2となっていて、かつ、とくに重要と考えられるもの」を採用する方針で、該当する項目(140項目中52項目)を改訂しました。主な改訂点「改訂のポイント」を新設担当班長・副班長がまとめた「改訂のポイント」を各章の冒頭に新設しました。前版から改訂した箇所や改訂の経緯などについて把握する際に、ぜひご活用ください。近年の知見をタイムリーに・広範囲に反映各疾患の治療選択肢として登場したGLP-1受容体作動薬や抗アミロイド抗体治療薬に対する知見、諸々の背景を持つ患者さんへのDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)や抗血小板薬による治療の知見、日進月歩ともいえるMT(経動脈的血行再建療法)の臨床研究成果など、近年の知見を反映した改訂を行いました。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕定価8,800円(税込)判型A4判頁数352頁発行2025年8月編集日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会ご購入はこちらご購入はこちら

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定義変更や心肺合併症患者の分類に注意、肺高血圧症診療ガイドライン改訂/日本心臓病学会

 『2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症ガイドライン』が2025年3月に改訂された。本ガイドラインが扱う静脈血栓塞栓症(VTE)と肺高血圧症(PH)の診断・治療は、肺循環障害という点だけではなく、直接経口抗凝固薬(DOAC)の使用や急性期から慢性期疾患へ移行していくことに留意しながら患者評価を行う点で共通の課題をもつ。そのため、今回より「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン」「肺高血圧症治療ガイドライン」「慢性肺動脈血栓塞栓症に対するballoon pulmonary angioplastyの適応と実施法に関するステートメント」の3つが統合され、VTEの慢性期疾患への移行についての注意喚起も、狙いの1つとなっている。 本稿では本ガイドライン第5~13章に記されているPHの改訂点について、本ガイドライン作成委員長を務めた田村 雄一氏(国際医療福祉大学医学部 循環器内科学 教授/国際医療福祉大学三田病院 肺高血圧症センター)が第73回日本心臓病学会学術集会(9月19~21日開催)で講演した内容をお届けする(VTEの改訂点はこちらの記事を参照)。PHの定義が変わった 本ガイドラインは、PHにおける改訂目的の1つを「どの施設でも適切な診断・初期治療が行えること」とし、診断基準の変更と第7回肺高血圧症ワールドシンポジウム(WSPH)で提案された概念を世界で初めてガイドラインに取り入れた点を改訂の目玉として作成された。田村氏は「これまで議論されてきた診断基準は、WSPHならびに日本の研究を踏まえ、PHの定義をRHC検査により測定した安静仰臥位の平均肺動脈圧(mPAP)>20mmHg(推奨クラスI、p.68)とした」と説明。しかし、治療の側面からはこの定義の解釈に注意が必要で、「肺動脈性肺高血圧症(PAH)を対象とした臨床試験はmPAP≧25を対象に行われていることから、21~24mmHgではPH治療薬のエビデンスが乏しい状況にある。そして、PHの第4群に該当する慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の場合、慢性血栓塞栓性疾患(CTED)の概念でこの21~24mmHgというボーダーラインも治療されるケースがあるため、CTEPHとPAHでの解釈の違いにも注意してほしい」とコメントした。 次に「肺血管抵抗(PVR)を2.0以上」としたことも世界と足並みを揃えた点だが、この解釈についても「体格の小さい日本人は心拍出量が欧米人よりも少ないため、PVR 2.0をたまたま超えてしまうケースもある。ボーダーライン患者の場合、背景に病気の有無を確認することが重要」と、同氏は本指標の判断に対して注意喚起した。また、WSPHでも議論された「肺動脈楔入圧(PAWP)の引き下げについては、現状は変更せず15mmHgの基準を維持、13~15mmHgに該当する患者については心疾患合併を考慮してほしい」と説明した。臨床的分類、第3群に変化 臨床的分類はバルセロナ分類2024を引き継ぐかたちになっている。とくに注目すべきは、第3群において機能別(閉塞性、拘束性など)で表記されていたものが、ほかの群と同様に「慢性閉塞性肺疾患(COPD)に伴うPH」「間質性肺疾患(ILD)に伴うPH」のように疾患と紐付けることでそれぞれのエビデンスが変わる点を明確化した。このほか、第1群にCa拮抗薬長期反応例、第2群に特定心筋症(肥大型心筋症または心アミロイドーシス)が追加されたことにも留意したい。初期対応/鑑別アルゴリズムを明確に 日本において、PHの症状発現から診断までに費やされる平均期間は18.0ヵ月と報告されている(PAHは20.2ヵ月、CTEPHは12.2ヵ月)。加えて、就学・就業率は罹病期間が長期化するにつれて経時的に減少することが明らかになっている1)。このような現状において、プライマリ・ケアや地域中核病院、専門医が共に患者をフォローアップしていくためには、PHの初期対応アルゴリズム(図14、p.80)と鑑別アルゴリズム(図15、p.81)の活用が大きなポイントとなる。同氏は「初期対応アルゴリズムでは医療機関や専門医の役割を明確化した。心疾患や肺疾患の評価を行うなかで医師らが相互にコンサルトすることで、CTEPHを見逃さないだけではなく、第2群や第3群の要素の評価を目指す。PHセンターへ早期に紹介すべき患者像も明確化できるようにしている」とし、「鑑別アルゴリズムについては、急性血管反応試験を実施する対象を規定したほか、PAWP 13~15mmHgやHFpEFリスクを有する患者は純粋な1群と判断しかねるため、心肺疾患をもつPAHの特徴を明記し、2群などとの鑑別を念頭に置いてもらえるようなフローを作成した」と改訂の狙いを説明した。新規PH患者も高齢化、治療前の合併症評価を 典型的なPAH患者というと若年者女性を想像するが、近年では新規診断患者の高齢化がみられ、心肺疾患合併例が増加傾向にあるという。この心肺疾患合併の有無は治療選択時の重要なポイントとなることから、まずは心肺疾患合併PAHを示唆する特徴を捉え、単なるPHではなく第3群の要素も併せ持っているか否かを判断し(図17、p.90)、その後、治療アルゴリズム(図18、p.92)に基づいた治療介入を行う。 この流れについて、「心肺疾患合併がある場合に併用療法を行ってしまうと肺水腫のような合併症リスクを伴うため、それらを回避するための手立てとして、まずは単剤での開始を考慮してほしい。決して併用療法を否定するものではない」と説明した。またPAWPが高めのPAHの分類や治療時の注意点として、「PAWPが12~18mmHgの患者は境界域として解釈に注意すべきゾーンであるため、PAWPだけで分類評価をするのではなく、病歴や画像所見、負荷試験結果などを複合的に評価してほしい」ともコメントした。 さらに、診断時/フォローアップ時のリスク層別化については、国内レジストリデータに基づいたJCSリスク層別化指標(表30、p.83)が作成されており、これにのっとり薬物治療を進めていく。低リスク・中リスクの場合にはエンドセリン受容体拮抗薬(アンブリセンタンあるいはマシテンタン)+PDE5阻害薬タダラフィルの2剤併用療法を行い(推奨クラスI)、高リスクの場合は静注/皮下注投与によるプロスタグランジン製剤(エポプロステノール、トレプロスチニル)+エンドセリン受容体拮抗薬+PDE5阻害薬の3剤併用療法を行う(推奨クラスI、エビデンスレベルB)。薬物療法開始後の注意点としては「初回治療開始後は3~4ヵ月以内に評価」「薬剤変更・追加後は6ヵ月以内に再評価」「中リスク以上の場合はカテーテル検査実施」が明記された。 なお、ガイドライン発刊後の2025年8月にアクチビンシグナル阻害薬ソタテルセプトが日本でも発売され、第1群の治療強化という位置付けで本ガイドラインにおいても推奨されている(推奨クラスIIa、エビデンスレベルB)。 このほか、CTEPHの治療について、心臓外科医らとの丁寧な協議を進めた結果、従来は手術適応の有無が最初に評価されていたが、本ガイドラインでは完全血行再建を目指すなかで肺動脈内膜摘除術(PEA)、バルーン肺動脈形成術(BPA)、あるいはハイブリッドという選択肢のなかで最適な方法を多職種チーム(MDT)で選択して治療を進めていくことが重視される。 最後に同氏は「ガイドラインの終盤には専門施設が満たすべき要素や患者指導に役立つ内容も記載しているので、ぜひご覧いただきたい」と締めくくった。

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国内WATCHMANの左心耳閉鎖術の現状(J-LAAO)/日本心臓病学会

 2019年9月より経皮的左心耳閉鎖デバイスWATCHMANが保険適用となり、それと同時に本邦の患者を対象としたJ-LAAOレジストリがスタートした。それから6年が経ち、これまでに7,690例が登録されてきた。その間にデバイスも進化を遂げ、今では3代目となるWATCHMAN FLX Proが主流となり、初期と比べより安全に左心耳閉鎖が実施できるようになってきている。第73回日本心臓病学会学術集会(9月19~21日開催)のシンポジウム「循環器内科が考える塞栓症予防-左心耳閉鎖、PFO閉鎖、抗凝固療法-」では、草野 研吾氏(国立循環器病研究センター 心臓血管内科部長)が「我が国の左心耳閉鎖術の現状-J-LAAOレジストリからの報告-」と題し、2025年3月までに登録された日本人におけるWATCHMAN最新モデルを含めた安全性・有効性を報告した。 J-LAAOレジストリは、全7学会(日本循環器学会、日本心エコー図学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本心臓血管外科学会、日本心臓病学会、日本脳卒中学会、日本不整脈心電学会)共同の非弁膜症性心房細動(NVAF)患者を対象とした経皮的左心耳閉鎖システムによる塞栓予防の有効性・安全性を調査した多施設レジストリ研究である。今回、脳梗塞スコア(CHADS2またはCHA2DS2-VASc)に基づく脳卒中および全身性塞栓症のリスクが高い患者、抗凝固療法が推奨される患者で、とくに出血リスクスコア(HAS-BLED)が3点以上の出血リスクが高い患者を選択基準とし、本レジストリ登録者のうち7,036例の急性期の手技情報、有害事象、術後の抗凝固療法などが解析された。留置後の薬物療法としては、海外試験のレジメンにならい、留置~45日はワルファリン+アスピリン、45日~6ヵ月は抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)、その後はアスピリン単剤療法を推奨している。 主な結果は以下のとおり。 ※いずれの結果も各デバイスでフォローアップ期間が異なる点には注意・平均年齢は78.0歳(FLX Pro群:79.0歳)であった。・各スコアの中央値は、CHADS2が3点、CHA2DS2-VAScが5点、HAS-BLEDが3点であった。・アブレーション治療歴は約1/3にみられ、心房細動の種類としては発作性が2,780例(39.5%)、持続性が4,252例(60.4%)であった。・モヤモヤエコー(smoke like echo)は1,971例(28.0%)にみられた。・最終留置デバイスモデルは約11.3%で40mm、全体の2/3で31mmを超えるデバイスが選択されていた。・手術情報について、手術成功例は97.9%、手術時間は平均52.0分(G2.5:60.0分、FLX:51.0分、FLX Pro:47.0分)で、透視時間も短縮傾向、造影剤投与量も減少傾向であった。・心嚢液リスクはデバイスの形状変化に伴い減少し、G2.5は23例(3.1%)、FLXは40例(0.9%)、FLX Proは9例(0.6%)で認められた。・術45日後の左心耳有効閉鎖率(complete sealもしくは残留血流の最大幅が5mm以下の症例)はG2.5で99.7%、FLXで98.3%、FLX Proで98.3%に認められた。・術45日後の残留血液はG2.5で27%、FLXで13%、FLX Proで9.4%に認められた。・有害事象について、術直後のデバイスごとの心タンポナーデと心嚢液貯留の発生率(G2.5、FLX、FLX Proの順)は、心タンポナーデで0.7%vs.0.2vs.0.1%、心嚢液貯留で1.7%vs.1.0%vs.1.1%であった。・このほかの有害事象は、以下のような結果であった。◯デバイス血栓3.2%(G2.5:36例[4.8%]、FLX:170例[3.7%]、FLX Pro:19例[1.3%])◯うっ血性心不全4.5%(73例[9.7%]、226例[4.9%]、21例[1.4%])◯脳卒中2.5%(36例[4.8%]、131例[2.8%]、11例[0.7%])・死亡者数は全体で415例(5.8%)、G2.5では92例(12.2%)、FLXでは298例(6.5%)、FLX Proでは25例(1.7%)であった。・デバイス移動は全11例(0.16%)、機器の外科的摘出は全9例(0.13%)、経皮的デバイス抜去は全3例(0.04%)であった。 本結果について草野氏は「患者背景をみると、日本人は米国人と比べて発作性心房細動症例の割合が少なく、左心耳入口部が比較的大きい。その点が選択デバイスの大きさに反映されていた。残留血液量も減少傾向にあり、心タンポナーデの発生率の少なさからも安全に手技が行われていたことがうかがえる」とコメントした。外科的摘出の原因として、デバイス血栓・脱落、左房血栓などがみられた点については、「1年以上経過後に発生していることに留意が必要」とし、加えて「FLXでは手術当日にデバイス血栓を生じている症例が複数例あった。一方で、留置後2年後にも生じているケースも散見される。デバイス血栓を発症した患者はシリアスな病態には至っていないものの、これらの結果を踏まえて継続的なフォローアップを行ってほしい」と強調した。なお、いずれの結果を見るうえで、FLX Proは発売からフォローアップまでの期間が短いことには注意が必要である。国内ガイドラインでの推奨は… 日本での左心耳閉鎖術に関する推奨は、『2021年JCS/JHRSガイドラインフォーカスアップデート版不整脈非薬物治療』1)において、「NVAFに対する血栓塞栓症の予防が必要とされ、かつ長期的な抗凝固療法の代替が検討される症例に左心耳閉鎖術を考慮してもよい(推奨クラスIIB、エビデンスレベルB)」となっていた。しかし、2024年にフォーカスアップデート版として公開された『2024年JCS/JHRSガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療』では、症例数の乏しさから左心耳閉鎖術に関する項目に変更は示されず“長期的な抗凝固療法が必要ではあるが、出血リスクが高く抗凝固療法が適切ではない患者においては、左心耳閉鎖デバイスを用いた経皮的左心耳閉鎖術や胸腔鏡下左心耳閉鎖術を症例に応じて考慮してもよい”(p.59)にとどまっている。これについて草野氏は「J-LAAOを経年的に見ても、植込み対象での出血2次予防の割合が減少し、塞栓予防目的の植込みが増加している。今後は海外ガイドラインに準じて、脳梗塞高リスク例への広がりが期待される」と述べた。 最後に国内の状況について、同氏は「米国と日本では左心耳閉鎖術の実施件数に10倍もの差があり、欧米に比べると国内での実施件数は少ない。またレジストリでは、少数ながら脱落が外科手術に至った例があり、安全を心がけた植込み術も重要である」と締めくくった。

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アスピリンでも安易な追加は良くない:抗凝固薬服用中の慢性冠動脈疾患の場合(解説:後藤信哉氏)

 慢性冠動脈疾患一般は、アスピリンによる心血管イベントリスクの低減が期待できる患者集団である。しかし、慢性冠動脈疾患でもさまざまな理由により抗凝固療法を受ける症例がいる。抗凝固薬の使用により出血イベントリスクが増加したところにアスピリンを追加すると、出血イベントリスクがさらに増加すると想定される。本研究では、抗凝固薬を服用している慢性冠動脈疾患を対象としてアスピリンとプラセボのランダム化比較試験を施行した。 慢性冠動脈疾患一般ではアスピリンによる心血管死亡リスクの低減が期待される。しかし、抗凝固薬を服用している慢性冠動脈疾患にアスピリンを追加すると、心血管死亡、心筋梗塞、脳梗塞、全身塞栓症、冠動脈再灌流療法、下肢虚血などは増加した。重篤な出血イベントリスクと出血死亡率も増加している。慢性冠動脈疾患でも抗凝固薬を服用している症例には安易にアスピリンを追加すべきでないことを示唆する結果であった。 心筋梗塞などの心血管イベントは血栓イベントなので抗血栓薬を使うべきとの方向性から、抗凝固薬などを使用している出血リスクの高い症例では安易な抗血栓薬の追加は避ける方向に世の中が動いている。

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