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EGFR陽性NSCLC、アミバンタマブ+ラゼルチニブが新たな1次治療の選択肢に/J&J

 Johnson & Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)は、2025年3月27日にアミバンタマブ(商品名:ライブリバント)とラゼルチニブ(同:ラズクルーズ)の併用療法について、「EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」の適応で、厚生労働省より承認を取得し、2025年5月21日にラゼルチニブを販売開始した。ラゼルチニブの販売開始により、EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療で、アミバンタマブ+ラゼルチニブが使用可能となった。そこで、2025年5月22日にメディアセミナーが開催され、アミバンタマブ+ラゼルチニブが1次治療で使用可能となったことの意義や、使用上の注意点などを林 秀敏氏(近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門 主任教授)が解説した。EGFRとMETを標的とし、EGFR-TKIのアンメットニーズを満たす可能性 『肺癌診療ガイドライン2024』では、EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの1次治療として第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)のオシメルチニブ単剤を強く推奨している(推奨の強さ:1、エビデンスの強さ:A)1)。 しかし、第3世代EGFR-TKIによる治療でも耐性が生じてしまうことも報告されている。耐性機序としては、TP53遺伝子変異、EGFR遺伝子変異(C797S変異)、MET遺伝子増幅などがある。MET経路はEGFR経路とクロストークすることが知られており、EGFR-TKIによってEGFR経路を阻害してもMET経路が活性化してしまうことで、がん細胞は増殖・生存すると考えられている。 そこで開発されたのが、EGFRとMETを標的とする二重特異性抗体アミバンタマブである。アミバンタマブは、EGFRおよびMETに結合することで、それらへのリガンド結合を阻害し、MET経路の活性化を抑制することが期待される。また、免疫細胞上に存在するFcγ受容体を介して抗体依存性細胞傷害活性を惹起することによっても、抗腫瘍活性を示すことが考えられている。オシメルチニブ単剤と比較してPFSとOSを改善 未治療のEGFR遺伝子変異(exon19delまたはL858R)陽性の進行・転移NSCLC患者を対象として、アミバンタマブ+ラゼルチニブ、ラゼルチニブ単剤とオシメルチニブ単剤を比較した国際共同第III相無作為化比較試験「MARIPOSA試験」2)において、アミバンタマブ+ラゼルチニブ群は、オシメルチニブ単剤群と比較して無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)が有意に改善したことが報告されている。本試験の結果を基に、EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発NSCLCの1次治療として、アミバンタマブ+ラゼルチニブの製造販売が承認された。PFSおよびOSの結果は以下のとおり(アミバンタマブ+ラゼルチニブ群vs.オシメルチニブ単剤群)。<PFS(主要評価項目)>・PFS中央値23.72ヵ月vs.16.59ヵ月(ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.58~0.85、p=0.0002)・2年PFS率48%vs.34%<OS(重要な副次評価項目)>・OS中央値未到達vs.36.73ヵ月(HR:0.75、95%CI:0.61~0.92、p=0.0048)・死亡が認められた割合40.3%vs.50.6%注意すべき副作用とその対処法 アミバンタマブ+ラゼルチニブの使用において注意すべき副作用として、皮膚障害、静脈血栓塞栓症、インフュージョンリアクションなどがある。これらについて、林氏は「発現頻度が高く、注意が必要となるが、十分にマネジメント可能である」と述べる。そこで、林氏はこれらの対処法を紹介した。 皮膚障害については、非常に発現が多いこともあり、医師による患者教育が重要となると林氏は指摘する。実際には、皮膚の保湿をしっかりと行い、皮疹が発現したときにはすぐに外用薬を使用するように指導するほか、低刺激の洗浄剤を用いて体をきれいに保つことを指導するという。洗浄剤について、林氏は「子供用のシャンプーの使用をおすすめすることもある」と述べ、低刺激のものを選ぶことの重要性を強調した。 静脈血栓塞栓症は、MARIPOSA試験のアミバンタマブ+ラゼルチニブ群の37%に発現したことが報告されており、留意が必要な有害事象である。これについては、予防的抗凝固薬の投与により発現が抑えられることがわかってきており、今回の承認にあたって添付文書に「治療開始4ヵ月間は、アピキサバン1回2.5mgを1日2回経口投与すること」と記載されている。 インフュージョンリアクションは初回投与時(1サイクル目の1日目)に発現することが多く、対策としては、とくに最初の2回目の投与まではデキサメタゾンを用いると林氏は述べた。EGFR-TKI耐性後のアミバンタマブ+化学療法も使用可能に オシメルチニブ単剤療法で病勢進行が認められたEGFR遺伝子変異(exon19delまたはL858R)陽性NSCLC患者を対象とした国際共同第III相無作為化比較試験「MARIPOSA-2試験」3)の結果から、EGFR-TKIによる治療後に病勢進行が認められたNSCLC患者に対し、カルボプラチンおよびペメトレキセドとの併用においてアミバンタマブが使用可能となったことも2025年5月19日に発表されている。MARIPOSA-2試験において、アミバンタマブ+化学療法群は化学療法群と比較して、主要評価項目のPFSが有意に延長し(HR:0.48、95%CI:0.36~0.64、p<0.001)、PFS中央値はアミバンタマブ+化学療法群6.28ヵ月、化学療法群4.17ヵ月であった。 以上から、EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者の1次治療および2次治療でアミバンタマブが使用可能となった。これを受け、林氏は「EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者の生存期間の改善のために、アミバンタマブが今後幅広く使用されることが期待される」と締めくくった。

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第243回 循環器救急に迫る崩壊危機:若手離れと医師不足、救命の現場が揺らぐ/CVIT

<先週の動き> 1.循環器救急に迫る崩壊危機:若手離れと医師不足、救命の現場が揺らぐ/CVIT 2.出産費用、2026年度にも自己負担無償化へ? 医療現場に広がる波紋/厚労省 3.市販薬のコンビニ販売解禁へ 薬機法改正、医療現場への影響は?/国会 4.DPC病院が25施設減の1,761施設、再編加速も課題山積/厚労省 5.赤穂市民病院の医療事故、被告の赤穂市と医師に8,900万円賠償命令/神戸地裁 6.薬剤師の指示見逃し脳出血死、病院が遺族に和解金1,000万円/愛知県 1.循環器救急に迫る崩壊危機:若手離れと医師不足、救命の現場が揺らぐ/CVIT日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)は、5月15日にプレスセミナーを開き、急性心筋梗塞の治療体制に深刻な危機が迫っていることを明らかにした。とくに若手医師の循環器救急離れが進む現状に警鐘を鳴らし、医師確保に向けた提言を公表した。背景には2024年4月に施行された医師の働き方改革がある。時間外労働の上限設定により医師の負担軽減は一定の効果を上げたが、業務量の多い循環器内科では過酷な勤務実態が「見える化」され、志望者が激減。過去10年間でほとんどの診療科が医師数を増やす中、循環器内科は外科以上の速さで減少している。CVITの調査では、所属医師の6割が週1回以上の自宅待機に従事し、夜間救急後の代償休息が得られていないケースが9割に上る。この労働環境が医師の健康や医療の質に悪影響を与えていると指摘されている。また、心筋梗塞の死亡率も地域差が大きく、搬送時間や受入体制によって最大3倍の格差が生じている。CVITは、急性心筋梗塞患者の早期治療が可能な施設を地図上で検索できる「ハートマップ」を公開し、発症から90分以内の治療開始が理想とされる中、地域住民の事前認知による搬送時間短縮を狙っている。CVITは、「経済的インセンティブの整備」・「タスクシフトの推進」・「勤務環境の改善」を3本柱とした改革を提案し、厚生労働省にも循環器医療を特例的に評価するよう働きかけている。とくに経済的インセンティブは「避けて通れない」とされ、医師の偏在是正政策の中で循環器救急を優先対象とする必要性も訴えられている。持続可能な循環器救急体制の構築には、制度的な支援と国民的理解が不可欠であり、引き続き政府や国民に働きかけていく必要がある。また、これに先立って、5月12日に日本循環器学会は、日本人の死因第2位が心疾患であるにもかかわらず、循環器内科医の数が他の診療科に比べて増加しておらず、とりわけ若手医師の減少と高齢化が進んでいることで、人手不足が深刻化していることについて国民に対して警鐘を鳴らしている。とくに地方では医師の確保が難しく、診療体制の維持が困難になっている。このため循環器学会は、タスクシフトや施設の集約化などの対策を進めているが、限界があるため、国民の理解と支援を求めている。 参考 1) 急性心筋梗塞、治療の遅れで死亡率上昇 地域医療の危機(日本心血管インターベンション治療学会) 2) 急性心筋梗塞、助かる未来へ 循環器救急の課題に迫る(同) 3) ハートマップ:全国インターベンション施設マップ(同) 4) 国民の皆様へ:『循環器医不足が深刻な状況です』(日本循環器学会) 2.出産費用、2026年度にも自己負担無償化へ? 医療現場に広がる波紋/厚労省厚生労働省は5月14日、出産費用の自己負担を2026年度にも無償化する方針を明らかにし、有識者検討会で大筋了承された。これを受け、今後は社会保障審議会で具体的な制度設計が進められる見通し。現在、正常分娩は公的医療保険の対象外で、出産育児一時金として50万円が支給されるのみだが、出産費用の平均は51.8万円(2024年度上半期)に達し、地域差も大きく、東京では平均60万円超となっており、この結果、約45%の家庭が一時金で費用を賄いきれず、自己負担が重くのしかかっている。無償化の方法として、正常分娩への保険適用と3割自己負担の撤廃案、一時金のさらなる増額案などが浮上している。しかし、保険適用には「標準的な出産費用」の定義の明確化や診療報酬設定の課題があり、自由価格設定が制限されれば経営への影響を懸念する産科施設の声も根強い。無痛分娩や個室料、お祝い膳といった付帯サービスの扱いや、妊婦健診の自己負担軽減も議論の対象だ。費用の透明化や、妊産婦が選択可能な情報整備の必要性も指摘されている。少子化対策として期待が寄せられる一方で、現役世代の社会保険料負担や、医療提供体制の持続可能性など課題は多く、丁寧な制度設計が求められている。 参考 1) 第10回「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」(厚労省) 2) 出産費用2026年度にも無償化、制度設計検討へ…厚労省案を有識者検討会が了承(読売新聞) 3) 分娩施設が少子化や物価高騰で窮地に…九州・山口・沖縄では3年間で46か所減、阿蘇など5地域でゼロ(同) 4) 出産費用、無償化へ 厚労省方針、26年度の保険適用は困難の見通し(朝日新聞) 5) 標準的な出産費用の無償化へ、26年度めどに制度設計 保険適用への懸念の声も 厚労省検討会(CB news) 6) 2026年度目途に「標準的な出産費用の自己負担」を無償化、産科医療機関等の経営実態等にも配慮を-出産関連検討会(Gem Med) 3.市販薬のコンビニ販売解禁へ 薬機法改正、医療現場への影響は?/国会医薬品医療機器法(薬機法)の改正法が5月14日に参議院本会議で成立した。この改正により、薬剤師や登録販売者が不在のコンビニエンスストアなどでも、オンラインによる服薬指導を条件として一般用医薬品(市販薬)の販売が可能となる。これにより、夜間・休日などに薬局へいけない際の市販薬購入が現実的となるが、一方で、オーバードーズ対策として、せき止めやかぜ薬など一部薬剤については若年層への販売を小容量化、1個に制限する措置が導入される。オンライン指導を担う薬剤師は、同一都道府県内の薬局に所属し、販売店舗の保管管理状況などを定期確認する義務も課される。また、後発医薬品の供給不安が続く現状を受け、出荷停止時の国への報告義務や供給責任者の設置、調剤業務の外部委託容認などが盛り込まれた。さらに、医薬品の安定供給体制強化として、国が事業者に対し増産を要請できる法的枠組みが整備される。加えて、「ドラッグ・ロス」問題への対応として、新薬の迅速承認制度や、スタートアップ支援を目的とした新たな基金の創設も明記された。とくに、がん領域などで有用性が合理的に予測される医薬品については、臨床試験の一部を省略し、早期承認が可能となる。改正法の施行は段階的に進められ、コンビニでの販売制度は2年以内、乱用対策は1年以内に開始される。医薬品アクセスの利便性向上と供給の安定、さらに薬剤師職能の拡張が期待される一方、安全性や乱用リスクとのバランスをどうとるかが今後の課題となる。 参考 1) コンビニで市販薬の購入可能に、改正薬機法が成立 ローソンなど歓迎(日経新聞) 2) コンビニで市販薬の購入が可能に 改正法が成立 乱用対策で若年者への販売制限設ける(産経新聞) 3) 市販薬がコンビニ購入可能に オーバードーズ対策で若者に購入制限も(毎日新聞) 4.DPC病院が25施設減の1,761施設、再編加速も課題山積/厚労省厚生労働省は5月15日に開催した中央社会保険医療協議会(中医協)で、2025年6月時点のDPC(診断群分類別包括評価)対象病院が、前年から25病院減少し1,761病院となる見込みであると報告した。算定病床数も約7,800床減の47万5,910床となり、制度導入以降で最も多かった2016年の49万5,227床から約2万床減ったことになる。減少の背景には、病院の再編や病棟の機能転換がある。とくに、2024年度診療報酬改定で新設された「地域包括医療病棟入院料」への移行が進み、急性期医療から回復期医療への再配置が加速。DPC対象基準未達による退出(4病院)に加え、地域包括ケアへの転換を理由とした退出が19病院に上った。一方、DPC制度内の各病院の診療実績や機能を評価する「機能評価係数II」は全体的に低下傾向にあり、制度内での格差が浮き彫りになっている。大学病院では、鹿児島大学病院が最も高い係数を維持し、標準病院群では宮崎県立延岡病院が引き続き上位に位置する。厚労省は、2025年度のDPC制度運用に際して、地域医療への貢献度や救急対応実績を重視する再評価を実施。激変緩和措置の終了や災害特例の対応も踏まえたが、DPCからの退出が相次ぐ現状は、地域医療構想に掲げた「機能分化・連携による病床再編」が一部進んだともいえる一方で、急性期医療の担い手の減少による地域偏在や機能の空白が懸念される。地域医療構想の達成目標の2025年を迎え、急性期から地域包括ケアへの移行は制度設計通りに進行しているが、医療ニーズに対応した病床配置が実現されているとは言い難い。厚労省による今後の実態把握と、質の高い急性期医療の維持に向けた制度的支援の在り方が問われる局面となっている。 参考 1) 中央社会保険医療協議会 総会[議事次第](厚労省) 2) 令和7年度におけるDPC/PDPSの現況について(同) 3) DPC対象病院数、前年比25病院減の1,761病院に(日経ヘルスケア) 4) DPC病院25減、6月以降1,761病院に 病棟の機能再編で退出相次ぐ(CB news) 5) 2025年度のDPC機能評価係数II内訳や救急補正係数の状況など公表、自院と他院を比較し「自院の取り組み」検証が重要-中医協総会(Gem Med) 5.赤穂市民病院の医療事故、被告の赤穂市と医師に8,900万円賠償命令/神戸地裁兵庫県赤穂市民病院で2020年に行われた腰の手術で、当時74歳の女性患者が誤って神経を切断され、両脚に重度のまひなどの後遺障害を負った問題で、神戸地裁姫路支部は2025年5月14日、被告である赤穂市と執刀した元脳神経外科医の松井 宏樹氏(47)に対し、約8,900万円の損害賠償を命じる判決を言い渡した。判決は、医師の技量不足自体は認めなかったが、「注意義務違反の程度は著しい」と断じた。手術では出血で視野が不明瞭な状態でドリルを使用し、馬尾神経を切断。松井医師は過去にも複数の医療事故に関与し、2020年に執刀を禁じられた後、2021年に同院を退職していた。病院側の事後対応にも問題があり、説明や謝罪が遅れたことも慰謝料算定の要因となった。原告側は「基本的な医療行為ができていなかったと裁判所が認めた」と評価し、他の被害者救済にもつながる判決とした。赤穂市は「真摯に受け止め、信頼回復に努める」とコメントしている。 参考 1) 手術ミスで両足に重度のまひ 赤穂市民病院側に8,900万円賠償命令 執刀医の注意義務違反「著しい」(神戸新聞) 2) 赤穂市民病院の医療事故 医師と市に賠償命じる判決(NHK) 3) 赤穂市民病院の手術ミス訴訟 市と執刀医に8,900万円支払い命令(毎日新聞) 4) ドリルで脊髄神経を切断、執刀医らに8,800万円の賠償命令…執刀医は半年強で医療事故8件起こす(読売新聞) 6.薬剤師の指示見逃し脳出血死、病院が遺族に和解金1,000万円/愛知県2023年に愛知県の岡崎市民病院で、70代の男性入院患者が抗凝固薬の過剰投与により脳出血を起こし、死亡する医療事故が発生した。患者は、脳梗塞予防のため抗凝固薬を服用していたが、腎機能障害があるため通常の半分量に減薬する必要があった。しかし、主治医が薬剤師らからの減量指示を見落とし、通常量を8日間にわたり投与した。その結果、男性は入院から約2週間後に脳出血を起こして死亡した。病院は当初から医師による情報確認の不足を認め、調査の結果、薬の過剰投与と死亡の因果関係を否定できないとして過失を認定。遺族に対して1,000万円の損害賠償を支払い、和解する方針を明らかにした。病院は会見で謝罪し、院内の情報共有体制の見直しや、医師と薬剤師間の連携強化など再発防止策を講じると表明した。 参考 1) 抗凝固薬を基準量の2倍投与、岡崎市民病院で医療ミス 患者死亡で1,000万円賠償へ(中日新聞) 2) 岡崎市民病院 “患者の死因に投薬ミス” 遺族と和解へ(NHK) 3) 投薬量誤り70代男性死亡 病院が1千万円の賠償支払いへ(朝日新聞) 4) 血液の抗凝固剤を過大投与後に70代男性患者が脳出血で死亡 薬を半分に減らすよう薬剤師などがWEBの情報共有で主治医に伝えるも確認せず 愛知・岡崎市民病院(TBS)

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第260回 高齢者心不全へのSGLT2阻害薬、実感した副作用対策の大変さ

「心不全パンデミック」。最近よく耳にするようになった言葉だ。超高齢化に向かって突き進む日本で、今後、心不全患者が増加し、それに対応する医療者や病床も不足してくるという未来予測を、ある種の感染症の爆発的増加になぞらえた造語である。私自身がこの造語を最初に聞いたのがいつだったかは明確に記憶していないが、もちろんこの未来予測は確実に現実のモノになっていくだろうとは思っていた。もっともこれは実感を伴ったものではなく、ある種の社会現象の1つ、もっと極論を言えば“他人事”として捉えていた。しかし、これが私自身の身近にも降ってきた。私ではなく、先日米寿を迎えた父親に、である。慢性心不全で薬物療法開始ことのきっかけは4月上旬の週半ば、母親から「お父さんの右脚の腫れが気になるので(筆者が)今度来る時、医者の予約を入れて診て貰いたい。歩くのがひどそうだ」とのLINEメッセージが届いたことだった。正直、嫌な予感がした。ちょうど1年前、父親がアテローム血栓性脳梗塞で救急搬送されたことは以前の本連載でも触れたとおり。その時の精密検査で心房細動があることもわかり、抗凝固薬の服用も開始した。父親のかかりつけ医の近傍で薬局を営む薬剤師の親族にも連絡を取った。すると「うーん、心臓じゃないか?」との意見。私も同感だった。私自身はこの翌週、父親を花見に連れて行くため帰省するつもりだったが、心臓に問題があるならば、ゆるりと構えていてはいけない。父親のかかりつけ医のクリニックはネット上で診察予約ができるので、念のため空きを確認したところ、母親のLINEメッセージを受け取った翌日の午前に父親の主治医の診察枠に空きはあった。すぐに母親に連絡を取り、「最短で明日、かかりつけ医に行けるか?」と確認。可能だということなので、すぐに予約を入れた。翌日昼前、母親からの報告の連絡を待っていると、一足先に薬剤師の親族より「慢性心不全の診断」というLINEメッセージが着信した。ついに来てしまったか。これにより父親の服用薬には新たにSGLT2阻害薬のエンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)が追加されることになった。この処方を聞いて率直に言葉に表すならば「ガーン」の一言。もちろんエンパグリフロジンをはじめとするSGLT2阻害薬が、2型糖尿病の有無にかかわらず心不全イベントを抑制するエビデンスを得ていることは知っている。しかし、その主作用の結果として頻尿になる。父親は脳梗塞を発症する前からすでに歩行がスローになり、シルバーカーを使いながら休み休み歩いていた。健常成人で徒歩10分のところでも30分ほどかかっていた。もしかしたら、もうこの時点で心不全の影響があったのかもしれない。この状態に母親が付き合うのは大変なため、脳梗塞発症前から軽量車椅子の導入を考えていたが、脳梗塞に伴う入院で一時的にADLがかなり低下したことにより、車椅子導入は現実となった。自宅内や自宅周辺は自力歩行するが、余暇や通院のための外出時は車椅子を使う。88歳の父親はやせ型だが、87歳の細腕の母親が車椅子で連れ歩くのはかなり大変である。市街地への外出時は電車・バスで移動するが、いずれも車両の入り口にはステップがあるため、乗降時は自力歩行せねばならない。母親と2人での外出時は、母親が父親を片手で介助し、もう片方の手で折り畳んだ車椅子を持ちながらの乗降となる。軽量と言っても車椅子は8kg弱ある。そんなこんなで私が頻繁に帰省するようになったが、ここに頻尿に対応したトイレ探しが加わることになった。また、SGLT2阻害薬では、その作用機序ゆえに頻度は低いものの脱水の危険性があるが、父親は積極的に水分を取りたがる気質でもない。頻尿の弊害いやはや大変なことになったと思った。そして診断が下った当日、さっそく母親はこの薬による頻尿の“洗礼”を受けることになった。かかりつけ医の受診後、親戚の薬局に処方箋を持って行き、薬を受け取った父親はさっそく1錠服用して、しばらく休んでから母親とともに帰途についたという。服用後の最初のトイレは、健常成人で徒歩12分ほどのかかりつけ医療機関の最寄り駅だったという。まあ、これは想定内だろう。そこから自宅最寄りの駅方向の電車に乗ったのだが、自宅最寄りから一つ前の駅の到着時に電車内のトイレに再び向かった。しかし、なかなか出てこなかったという。慌てた母親がトイレに向かい、どうにか父親を捕まえ、車椅子を持って無事最寄り駅で降車はできた。だが、必死だった母親は自分のバッグを電車内に置き忘れてしまい、自宅に戻って一旦父親に留守を任せた後、バッグを拾得していた駅まで往復2時間かけて取りに行く羽目になった。その後、母親からの報告では朝1回の服用で午前7時から午後1時までに計7回もトイレに行くことがわかった。なかなかである。この翌週に私は帰省したが、ぱっと見の父親にはまったく変化を感じない。まあ、当然と言えば当然である。もっとも実家で様子を見ている限り、約1時間に1回の頻度でトイレに行くことだけはわかった。問題はどうやって花見に連れて行くかだ。入念な下調べ、なんとか花見は実現私が介助できる前提ならば、多少実家から離れた桜の名所に連れて行きたい。父親が車椅子を使うようになってから初めて外出する場所の場合は、あらかじめ地図とGoogleストリートビューなどでルートや道路の傾斜状況などを調べている。こうすれば大きな想定外の事態は避けられる。ただ、花見ではやや事情が異なってくる。というのも桜の名所では花見客を見込んだ屋台や仮設トイレの設置などが行われることが多いからだ。こうした場所は曜日・時間によっても混雑度は異なる。最終的に地元に約2週間滞在し、合計4ヵ所のお花見スポットに連れて行ったが、うち3ヵ所は下見まですることになった。下見時は抜かりなくトイレの場所をチェックし、ブルーシートを広げる場所も桜の花も見えてトイレも近い、さらには屋台などにも近い場所を選定した。当然ながら、現地までの公共交通経路上にあるトイレの位置なども把握する必要がある。驚いたのは、花見の名所に設置された仮設トイレの中には、仮設多目的トイレがあるところもあった。時代の変化とはこういうところにも表れるのかと感心した。もっともこれだけでも想定外のことは起こり得る可能性がある。そのため念には念を入れ、災害用の使い捨て携帯トイレも持参した。父親は軽度認知障害もあるが、それゆえに排泄の失敗をまだ本人は自覚できるので、そのような事態になれば相当落ち込むはず。排泄トラブルは何としても避けなければならなかった。さらに連れて行く時は、時間の融通が利きやすいフリーランスの特権を生かして、混雑しにくい平日昼間ばかりを選んだ。花見に行くたびに父親は「ああ、満開だ」と大喜び。一応、こちらは4ヵ所の満開時期もすべて調べて、日ごとにどこが最適かも計算して連れて行った。父親からは「まさかお前にここまでしてもらえるとは思わなかった」と微妙な誉め言葉をかけられた。私はかなり信用がなかったらしい(笑)。花見場所で車椅子を押しながら、高校時代は陸上で国体にまで出場した父親もここまで弱るのだと何とも言えない気持ちになる。そしてこの姿は自分の未来でもある、とふと思う。治療薬の選択肢が広がることは福音だ。もっともその選択肢に伴う副作用などさまざまなデメリットは甘受せねばならない。改めて医療におけるメリットとデメリットのバランスは難しいものだとも実感している。いずれにせよ、わが家の心不全パンデミックはまだ序章に過ぎない。

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国内DOAC研究が色濃く反映!肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症ガイドライン改訂/日本循環器学会

 『2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症ガイドライン』が3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会の会期中に発刊され、本学術集会プログラム「ガイドラインに学ぶ2」において田村 雄一氏(国際医療福祉大学医学部 循環器内科学 教授/国際医療福祉大学三田病院 肺高血圧症センター)が改訂点を解説した。本稿では肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症の項について触れる。DOACの国内エビデンスの功績、ガイドラインへ反映 静脈血栓塞栓症(VTE)と肺高血圧症(PH)の治療には、直接経口抗凝固薬(DOAC)の使用や急性期から慢性期疾患へ移行していくことに留意しながら患者評価を行う点が共通している。そのため、今回よりVTEの慢性期疾患への移行についての注意喚起のために、「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン」「肺高血圧症治療ガイドライン」「慢性肺動脈血栓塞栓症に対するballoon pulmonary angioplastyの適応と実施法に関するステートメント」の3つが統合された。 肺血栓塞栓症(PTE)・深部静脈血栓症(DVT)のガイドライン改訂は2018年3月以来の7年ぶりで、当時は抗凝固療法におけるDOACのエビデンスが不足していたが、この7年の歳月を経て、DOACを用いたVTEの治療は飛躍的に進歩。DOAC単独での外来治療、誘因のないVTEや担がん患者の管理、長期治療などの国内の結果が明らかになり、改訂に大きく反映された。田村氏は、「本ガイドラインは、循環器専門医のみならず、呼吸器科、膠原病内科など多彩な診療科の協力の基に作成された。本領域は日本からのエビデンスが多いため、本邦独自の診断・治療アルゴリズムと推奨を検討した」とコメントした。VTE予後予測、PESIスコアや誘因因子評価を推奨 四肢の深筋膜より深部を走行する深部静脈に生じた血栓症を示すDVTと深部静脈血栓が遊離し肺動脈へ流入することで発症するPTEを、一連の疾患群と捉えてVTEと総称する。これらの予後に関しては推奨表2「VTEの予後に関する推奨とエビデンスレベル」(p.20)に示され、とくに急性期PTEでは治療方針の検討のために、近年普及している肺塞栓症重症度指数(PESI)ならびにsPESIを用いた患者層別化が推奨された(推奨クラスIIa、エビデンスレベルB)。また、国内の観察研究JAVA(Japan VTE Treatment Registry)やCOMMAND VTE Registryに基づくVTE再発予後についてもガイドライン内に示されている(p.21-22)。前者の研究によると、ワルファリン治療中のVTE再発率は2.8例/100患者・年であったが、治療終了後には8.1例/100患者・年に増加したという。そして、後者の研究からは、VTE診断後1年時点での再発率は、一過性の誘因のある患者群では4.6%、誘因のない患者群では3.1%、活動性のがんの患者群では11.8%であることが明らかになった。PTE診断と治療、判断に悩む中リスク群を拾えるように 急性PTEの診断については、「低血圧やショックがみられる場合には早期にヘパリン投与を考慮する、検査前臨床的確率を推定する際にWellsスコアあるいはジュネーブスコアを用いる、ルールアウトにはDダイマー測定を行う、最終的な確定診断にゴールドスタンダードの造影CT検査/緊急時の心エコー評価、ECMO導入後診断は肺動脈造影も考慮する(p.32)」と述べた。重症度別治療戦略については、前ガイドラインで曖昧であった2つの指標を挙げ、「右心機能不全では(1)右室/左室比が0.9 or 1.0以上、(2)右室自由壁運動低下、(3)三尖弁逆流血流速上昇を、心臓バイオマーカーについてはトロポニンI/TやBNP/NT-proBNPの評価を明確化したことで、判断が難しい中リスク群における血栓溶解療法と抗凝固療法との切り分けができるフローを作成した(p.36)」と解説。治療開始後の血栓溶解療法に関する推奨においては、「循環動態の悪化徴候がみられた場合には、血栓溶解療法を考慮する」点が追記(p.39)されたことにも触れた。 PTEの治療については、DOAC3剤の大規模臨床試験によるエビデンスが多数そろったことでDOACによるVTE治療は推奨クラスI、エビデンスレベルAが示され(p.40)、「低リスク群で“入院理由がない、家族や社会的サポートがある、医療機関の受診が容易である”といった条件がそろえば、DOACによる外来治療も可能となったことも非常に大きな改訂点」と説明した。DVT治療、中枢型と末梢型でアプローチに違い DVTにおいてもPTE同様に検査前臨床的確率の推定や下肢静脈超音波検査/造影CT検査を実施するが、今回の改訂ポイントは「中枢性・末梢性で治療アプローチが異なる点を明確に定義した」ことだと同氏は説明。「中枢性DVTの場合は初期(0~7日)または維持治療期(8日~3ヵ月)に関しては、PTE同様にワルファリンとDOACの使用とともに、すべての中枢性DVTに対して、抗凝固薬の禁忌や継続困難な出血がない場合には少なくとも3ヵ月の抗凝固療法を行うことが推奨されている(いずれも推奨クラスI、エビデンスレベルA、p.47)。一方で、末梢型DVTにおいては、「画一的な抗凝固療法を推奨するものではなく、症候性で治療を行う場合には3ヵ月までの治療を原則とし、無症候性でも活動性がん合併の患者においてはリスクベネフィットを考慮しながらの抗凝固療法が推奨される(推奨クラスIIb、エビデンスレベルB)」と説明した。カテ治療、血栓溶解薬併用と非併用に大別 急性PTEに対するカテーテル治療は、末梢でのコントロールが難渋する例、国内でのデバイスラグなども考慮したうえで、血栓溶解薬併用と非併用に大別している。非併用について、「全身血栓溶解療法が禁忌、無効あるいは抗凝固療法禁忌の高リスクPTEに対し、熟練した術者、専門施設にて血栓溶解薬非併用カテーテル治療を行うことを考慮する。また、抗凝固療法により病態が悪化し、全身血栓溶解療法が禁忌の中リスク急性PTEに対し、熟練した術者、専門施設にて血栓溶解薬非併用カテーテル治療を行うことを考慮する(いずれも推奨クラスIIa、エビデンスレベルC)」と示されている。 このほか、冒頭で触れた慢性疾患への移行については「慢性期疾患患者が急性期VTEを発症することもあるが、PTEが血栓後症候群(PTS)へ、DVTがPTS(血栓後症候群)へ移行するリスクを念頭に治療を行い、発症3~6ヵ月後の評価の必要性を提示していること(推奨表3、p.22)が示された。またCOVID-19での血栓症として、中等症I以下では画一的な抗凝固療法は推奨しない(推奨表1:推奨クラスIII[No benefit]、エビデンスレベルB)ことについて触れた。 最後に同氏は「誘因のないVTEや持続性の誘因によるVTEに対する抗凝固療法の長期投与の際に、未承認ではあるが長期的なリスクベネフィットを考慮したDOACの減量投与などを、今後の課題として検討していきたい」とコメントした。(ケアネット 土井 舞子)そのほかのJCS2025記事はこちら

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アスピリンがよい?それともクロピドグレル?(解説:後藤信哉氏)

 筆者は1986年に循環器内科に入ったので、PCI後に5%の症例が血管解離などにより完全閉塞する時代、解離をステントで解決したが数週後に血栓閉塞する時代、薬剤溶出ステントにより1~2年後でも血栓性閉塞する時代を経験してきた。とくに、ステント開発後、ステント血栓症予防のためにワルファリン、抗血小板薬、線溶薬などを手当たり次第に試した時代を経験している。チクロピジンとアスピリンの併用により、ステント血栓症をほぼ克服できたインパクトは大きかった。チクロピジンの後継薬であるクロピドグレルは、急性冠症候群の1年以内の血栓イベントを低減した。アスピリンとクロピドグレルの併用療法は、PCI後の抗血小板療法の標準治療となった。 抗血小板併用療法により重篤な出血イベントリスクが増える。それでも1剤を減らして単剤にするのは難しい。単剤にした瞬間、血栓イベントが起これば自分の責任のように感じてしまう。やめる薬をアスピリンにするか、クロピドグレルにするかも難しい。クロピドグレルが特許期間内であれば、メーカーは必死でクロピドグレルを残す努力をしたと思う。資本主義の世の中なので、資金のあるほうが広報の力は圧倒的に強い。学術雑誌であってもfairな比較は期待できなかった。 クロピドグレルは特許切れしても広く使用され、真の意味で優れた薬剤であること(メーカーの広報がなくても医師が使用するとの意味)が示された。本研究ではPCI後標準期間の抗血小板併用療法施行後、アスピリンまたはクロピドグレルに割り振った。クロピドグレルの認可承認試験は、アスピリンとの比較における有効性・安全性を検証したCAPRIE試験であった。今回はPCI後、16ヵ月ほどDAPTが施行された後にランダム化した。冠動脈疾患の慢性期の単一抗血小板薬としてクロピドグレルによる死亡、心筋梗塞、脳梗塞がアスピリンよりも少ないことが示された。 筆者は特許中の薬剤を応援することがない。資本主義における、資本力による広報のトリックを完全に見破れる自信もない。しかし、特許切れして、なお有効性・安全性を示す薬は本物と思う。アスピリンは安価で優れた薬であった。筆者はアスピリンについて一冊の本を書いたほどである(後藤 信哉編. 臨床現場におけるアスピリン使用の実際. 南江堂;2006.)。しかし、クロピドグレルも数十年かけて優れた薬であることを示した。今度はクロピドグレルの本を書きたいほどである。

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TIA後の脳卒中リスクは長期間持続する(解説:内山真一郎氏)

 本研究は、38件の研究に登録された17万1,068例のTIAまたは軽症脳梗塞(大多数はTIA)のメタ解析である。脳卒中の再発リスクは最初の1年で5.9%、5年で12.5%、10年で19.8%であり、2年後からは毎年1.8%再発していた。われわれの行ったTIA registry.org研究でも、発症後2年後から5年後まで累積再発曲線は減衰することなく直線的に推移し、ブレーキがかかっていなかった(Amarenco P, et al. N Engl J Med. 2018;378:2182-2190.、本論文の引用文献14)。 このメタ解析やわれわれの研究結果は、現行のガイドラインによる長期の再発予防対策が不十分であることを示唆している。抗血栓療法のアドヒアランスを維持するとともに、脳卒中の危険因子の管理が十分であったかも見直す必要がある。さらに、高血圧、糖尿病、脂質異常、喫煙、心房細動のような伝統的危険因子以外の残余リスクがないかにも目を光らす必要がある(Uchiyama S, et al. Eur Stroke J. 2024 Nov 21. [Epub ahead of print])。

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TIA/軽症脳卒中後の脳卒中リスク、10年後でも顕著に増大/JAMA

 一過性脳虚血発作(TIA)または軽症脳卒中を発症した患者は、その後10年間で脳卒中リスクが徐々に高くなり、欧州に比べ北米やアジアでリスクが高く、非選択的患者集団と比較してTIA患者で低いことが、カナダ・カルガリー大学のFaizan Khan氏らWriting Committee for the PERSIST Collaboratorsが実施した「PERSIST共同研究」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年3月26日号で報告された。コホート研究のメタ解析 研究グループは、TIAまたは軽症脳卒中発症後10年の脳卒中発生率の評価を目的に、系統的レビューとメタ解析を行った(カナダ保健研究機構[CIHR]などの助成を受けた)。 医学関連データベースを用いて、2024年6月26日の時点で公表されている文献を検索した。TIAまたは軽症脳卒中を発症した患者を1年以上追跡し、この間の脳卒中リスクを報告した前向きまたは後ろ向きコホート研究を対象とした。 主要アウトカムは脳卒中の発症とした。累積発生率:1年5.9%、5年12.5%、10年19.8% 38件(欧州22件、日本を含むアジア7件、北米5件、オーストラリア1件、複数国3件)の研究に参加した17万1,068例(年齢中央値69歳[四分位範囲:65~71]、男性患者の割合中央値57%[52~60]、退院時に抗血栓薬を処方された患者の割合中央値95%[89~98])を解析の対象に含めた。38件のうち、17件がTIAまたは軽症脳卒中、20件がTIAのみ、1件が軽症脳卒中のみを対象とした研究であった。 TIAまたは軽症脳卒中後の100人年当たりの脳卒中発生率は、1年目の5.94件(95%信頼区間[CI]:5.18~6.76、38研究、I2=97%)から、2~5年目は年平均1.80件(1.58~2.04、25研究、90%)、6~10年目は年平均1.72件(1.31~2.18、12研究、84%)に減少した。 脳卒中のリスクは経時的に上昇し続け、累積発生率は1年以内が5.9%、5年以内が12.5%、10年以内は19.8%であった。長期的な脳卒中予防対策の改善が求められる 脳卒中発生率は、欧州と比較して北米(率比[RR]:1.43[95%CI:1.36~1.50])およびアジア(1.62[1.52~1.73])の研究で高く、2007年より前に参加者を募集した研究に比べ2007年以降に募集した研究で高かった(1.42[1.23~1.64])。 一方、非選択的患者集団と比較して、TIA患者(RR:0.68[95%CI:0.65~0.71])および初発のインデックスイベント(0.45[0.42~0.49])に焦点を当てた研究で、脳卒中発生率が低かった。 著者は、「多くの2次予防クリニックでは、最初の90日しか患者のモニタリングを行っておらず、長期的な予防ケアはプライマリケア医や内科医に移行していることが多いことを考慮すると、今回の結果は、最初の高リスク期以降における継続的な注意深いモニタリングとリスク低減戦略が重要であることを示している」「これらの知見は、この患者集団における長期的な脳卒中予防対策の改善の必要性を強調するものである」としている。

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「血痰は喀血」、繰り返す喀血は軽症でも精査を~喀血診療指針

 本邦初となる喀血診療に関する指針「喀血診療指針」が、2024年11月に日本呼吸器内視鏡学会の学会誌「気管支学」に全文掲載された。そこで、喀血ガイドライン作成ワーキンググループ座長の丹羽 崇氏(神奈川県立循環器呼吸器病センター 呼吸器内科 医長 兼 喀血・肺循環・気管支鏡治療センター長)に、本指針の作成の背景やポイントなどを聞いた。喀血を体系的にまとめた指針は世界初 「喀血診療の現場では、長年にわたって公式な診療指針が存在せず、個々の医師が経験と知識を基に対応していたことに、大きなジレンマを感じていた」と丹羽氏は述べる。自身でカテーテル治療や内視鏡治療を行うなかで、より体系的な診療指針の必要性を実感していたところ、日本呼吸器内視鏡学会の大崎 能伸理事長(当時)より「ガイドラインを作ってみないか」と声をかけられたことから、喀血ガイドライン作成ワーキンググループが立ち上がり、作成が始まったとのことである。 「喀血という症候に焦点を当てて体系的にまとめているものは、本指針が世界で初めてである」と強調する。本指針は、日本IVR学会の協力のもとで作成されており、放射線科、呼吸器外科、呼吸器内科、救急集中治療の専門医が集まり、集学的に作成されたことから、非常に大作となっている。 なお「ガイドライン」ではなく「指針」となっている点について、「エビデンスが不足している領域が多く、Mindsのガイドライン作成方法に則った作成が困難であったことから、エキスパートオピニオンとして指針という形で作成した」と述べた。軽症喀血を「ティシューで処理可能」とするなど、わかりやすい表現に 本指針では、「血痰」や「小喀血」と表現されるものも「喀血」としている。これについては、「血痰」という表現は日本独自のものであり国際的には用いられていないこと、本指針を英文誌にも掲載して国際的なスタンダードを作成していきたい意向があることなどから、すべて「喀血」として統一したとのことである。 「本指針は専門医だけでなく、非専門医や看護師、救急相談センターの方々にも使っていただくことを想定して作成した」と丹羽氏は語る。そのため、喀血の重症度の表現を軽症喀血であれば「大さじ1杯」「ティシューで処理可能」など、わかりやすい表現としている。このような表現を用いることで「患者にわかりやすく説明可能となり、患者からの話を重症度に結びつけることができるほか、トリアージの場面などにも活用できるのではないか」と述べた。重症度の定義は以下のとおり。<重症喀血>200mL以上(コップ1杯)、または酸素飽和度90%以下<中等症喀血>15mL/日以上200mL/日未満、またはティシューで処理できない量<軽症喀血>15mL/日未満(大さじ1杯)、ティシューで処理可能 本指針では、重症度分類に入院適応と気管支動脈塞栓術(BAE)の適応をリンクさせていることも特徴である。中等症喀血であれば入院は相対適応、BAEも相対適応となっており、軽症喀血では入院については外来レベルとしているが、BAEは慎重適応とし、軽症喀血でもBAEを否定していない。肺非結核性抗酸菌症が増加 喀血というと、結核の印象を持たれる方もいるのではないだろうか。しかし、現在は肺非結核性抗酸菌症(NTM症)が増加している。喀血の原因疾患としては、肺NTM症、肺アスペルギルス症、気管支拡張症が多く、喫煙者にも多いという。本指針では、これらの疾患の概要や治療方法などと共に、喀血との関係についても記載しているため、ぜひ一読されたい。喀血患者は開業医のもとに眠っている 「喀血患者は開業医の先生方のところに多く眠っている」と丹羽氏は語る。「喀血をみたら、原因を精査していただきたい。胸部X線検査ではわからないような微細な変化で喀血を繰り返している人も多いため、喀血を繰り返す場合は、軽症であっても経過観察ではなく精査・加療の対象になると考えてほしい。軽症であってもQOLにも影響し、患者は外出が億劫になったり、お風呂に入るのを控えたりする場合もある」。 また、喀血が原因で抗血小板薬や抗凝固薬などの服用を中断しているケースも散見されるという。これについて「喀血が原因で本来必要な薬剤の服用をやめてしまわないように、BAEなども考慮してほしい。そのため、本指針では軽症喀血であってもBAEを適応なしとせず、慎重適応としている」と述べた。「開業医の先生方にこそ読んでいただきたい」 本指針は、日本呼吸器内視鏡学会の学会誌「気管支学」にフリーアクセスで全文掲載されているほか、2025年4月に書籍として発刊される予定である。書籍版には、重症度分類と治療方針に関する早見表も掲載予定とのことだ。丹羽氏は、本指針の活用法について「喀血患者は開業医の先生方のもとを訪れることが多いため、ぜひ、開業医の先生方にこそ読んでいただきたい。また、喀血患者の紹介を受ける呼吸器科の先生方にも読んでほしい。喀血の原因疾患についても詳しく記載しており、患者への説明にも役立てられると考えている。喀血治療にはカテーテル治療や内視鏡治療のオプションがあるといった気付きを得たり、手術適応の判断に活用したりするなど、本指針を1施設に1冊おいて喀血診療に役立てていただきたい」と話した。

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EGFR陽性NSCLC、アミバンタマブ+ラゼルチニブがOS改善(MARIPOSA)/ELCC2025

 EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療として、EGFRおよびMETを標的とする二重特異性抗体アミバンタマブと第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬ラゼルチニブの併用療法は、国際共同第III相無作為化比較試験「MARIPOSA試験」において、オシメルチニブ単剤と比較して無増悪生存期間(PFS)を改善したことがすでに報告されている1)。また、世界肺がん学会(WCLC2024)で報告されたアップデート解析では、アミバンタマブ+ラゼルチニブが全生存期間(OS)を改善する傾向(ハザード比[HR]:0.77、95%信頼区間[CI]:0.61~0.96、名目上のp値=0.019)にあったことが示され、OSの最終解析結果の報告が待たれていた。欧州肺がん学会(ELCC2025)において、OSの最終解析結果が国立台湾大学のJames Chih-Hsin Yang氏により発表され、アミバンタマブ+ラゼルチニブが有意にOSを改善したことが示された。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験・対象:未治療のEGFR遺伝子変異(exon19delまたはL858R)陽性の進行・転移NSCLC患者・試験群1(ami+laz群):アミバンタマブ(体重に応じ1,050mgまたは1,400mg、最初の1サイクル目は週1回、2サイクル目以降は隔週)+ラゼルチニブ(240mg、1日1回) 429例・試験群2(laz群)ラゼルチニブ(240mg、1日1回) 216例・対照群(osi群):オシメルチニブ(80mg、1日1回) 429例・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定に基づくPFS[主要な副次評価項目]OS[副次評価項目]奏効率(ORR)、頭蓋内PFS、症状進行までの期間(TTSP)など 今回はami+laz群とosi群の比較結果が報告された。主な結果は以下のとおり。・治療中止はami+laz群62%(260/421例)、osi群72%(310/428例)に認められ、病勢進行による治療中止はそれぞれ33%(140/421例)、55%(234/428例)であった。・OS最終解析(追跡期間中央値37.8ヵ月)時点におけるOS中央値はami+laz群が未到達、osi群が36.7ヵ月であり、ami+laz群が有意に改善した(HR:0.75、95%CI:0.61~0.92、p<0.005)。3年OS率はそれぞれ60%、51%であり、42ヵ月OS率はそれぞれ56%、44%であった。・OSのサブグループ解析では、ほとんどのサブグループでami+laz群が優位であった。65歳以上の集団のみosi群が優位な傾向にあった(HR:1.11、95%CI:0.84~1.48)。・頭蓋内PFS中央値はami+laz群が25.4ヵ月、osi群が22.2ヵ月であった(HR:0.79、95%CI:0.61~1.02、p=0.07)。3年頭蓋内PFS率はそれぞれ36%、18%であった。・頭蓋内ORRはami+laz群が78%、osi群が77%であり、頭蓋内奏効期間中央値はそれぞれ35.7ヵ月、29.6ヵ月であった。・TTSP中央値はami+laz群が43.6ヵ月、osi群が29.3ヵ月であり、ami+laz群が改善した(HR:0.69、95%CI:0.57~0.83、p<0.001)。・病勢進行後に2次治療を受けた患者の割合はami+laz群が74%、osi群が76%であり、2次治療の内訳は化学療法ベースの治療がそれぞれ56%、67%で、チロシンキナーゼ阻害薬ベースの治療がそれぞれ39%、28%であった。・割り付け治療継続期間中央値はami+laz群が27.0ヵ月、osi群が22.4ヵ月であった。・安全性プロファイルは主解析時と一貫しており、主解析時から5%以上増加した有害事象はなかった。有害事象の多くは治療開始から4ヵ月以内に発現した。・ベースライン時に抗凝固薬を使用していたのは5%であり、ami+laz群では40%に静脈血栓塞栓症が発現した(osi群は11%)。 なお、本試験の結果に基づき、Johnson & Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)は2025年3月27日に、アミバンタマブとラゼルチニブの併用療法について「EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」を適応として、厚生労働省より承認を取得したことを発表している。

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非弁膜症性心房細動に対するDOAC3剤、1日の服薬回数は治療効果に影響せず?

 非弁膜症性心房細動(NVAF)に対する第Xa因子(FXa)阻害薬の治療効果において、3剤間で安全性プロファイルが異なる可能性が示唆されており、まだ不明点は多い。そこで諏訪 道博氏(北摂総合病院循環器内科臨床検査科 部長)らがリバーロキサバン(商品名:イグザレルト)、アピキサバン(同:エリキュース)、エドキサバン(同:リクシアナ)の3剤の有効性と安全性を評価する目的で、薬物血漿濃度(plasma concentration:PC)と凝固活性をモニタリングして相関関係を調査した。その結果、1日1回投与のリバーロキサバンやエドキサバンの薬物PCはピークとトラフ間で大きく変動したが、凝固活性マーカーのフィブリンモノマー複合体(FMC)は、1日2回投与のアピキサバンと同様に、ピーク/トラフ間で日内変動することなく正常範囲内に維持された。本研究では3剤の時間経過での薬物PCのピークの変動も調査したが、リバーロキサバンについては経時的に蓄積する傾向がみられた。Pharmaceuticals誌2024年10月25日号掲載の報告。 この結果より研究者らは「用法が1日1回と1日2回では、ピークの血中濃度は異なる傾向にあるが、凝固能を示すFMCはピークとトラフのいずれにおいても抑制された。血栓症の既往があり二次予防目的で本剤を使用する場合、2回投与のほうがトラフは維持されるため血栓症が発生しにくいと考えられているが、DOACに関して言えば、変わらないと判断できる」としている。なお、用量の違い(標準用量と低用量)では差異は見られなかった。 本研究は多施設共同観察研究で、NVAFで直接経口抗凝固薬(DOAC[リバーロキサバン:72例、アピキサバン:71例、エドキサバン:125例])を服用している外来患者268例を対象に、薬物PCと凝固活性マーカー(フィブリノーゲン[FIB]とFMC)のピーク(服薬3時間後[服薬開始後1ヵ月後:peak 1、3~4ヵ月後:peak 2、6~12ヵ月後:peak 3の3回測定])とトラフ(服薬直前[1ヵ月後、3~4ヵ月後の2回測定])をモニタリングした。投与量は各薬剤の用量調整基準に基づいて調整された。主要評価項目は投薬開始から12ヵ月までの出血および血栓症の発生とDOACの血中濃度、副次評価項目は投薬開始から12ヵ月までの凝固活性マーカーの測定値であった。 主な結果は以下のとおり。・本研究(摂津DOAC Registry)では、出血イベントが発生した8例(リバーロキサバン3例、アピキサバン2例、エドキサバン3例)のうち、2例(リバーロキサバンとエドキサバン各1例)では薬物PCのピークは出血イベント予測のカットオフ値を下回り、出血が薬剤由来ではない可能性が示唆された。・薬物PCはピークからトラフまで大きく変動したが、凝固活性を反映するFMC値は、薬物PCの変動に関係なく正常範囲(<6.1μg/mL)内に留まっていた。・各薬剤の抗凝固作用は薬物PC、投与量、投与回数に関係なく、1日中持続することが示された。・さらに薬物PCのピークの経時的変化において、peak1~3における薬物PC上昇患者数を評価したところ、リバーロキサバン(50.9%)、アピキサバン(37.5%)、エドキサバン(31.7%)と差異が見られ、時間経過での薬物PC上昇率はエドキサバンで低かった。・経時的に薬物PCの上昇がみられた患者のうち、peak3で薬物PCがわれわれの先の試験において設定された出血予知のカットオフ値を超えた患者数は、リバーロキサバン(44.8%)、アピキサバン(22.2%)、エドキサバン(12.5%)とエドキサバンで最も低頻度で、リバーロキサバンはエドキサバンより蓄積傾向が高く、出血事象発現の可能性が高率であると予想された。 なお、本研究内容の一部は2025年3月28日~30日に横浜で開催される第89回日本循環器学会学術集会でも発表が予定されている。

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NVAFによる脳卒中リスクを低減、Amulet左心耳閉鎖システム発売/アボット

 非弁膜症性心房細動(NVAF)患者に行われる経皮的左心耳閉鎖術(LAAC)に有効なデバイス「Amulet(アミュレット)左心耳閉鎖システム」が2025年3月11日にアボットジャパンより発売された。 本システムは独自の2層構造によって、さまざまな形状・サイズの左心耳に対応できる特徴を持っていることから、既存製品では閉塞が困難とされていた左心耳に対しても、閉塞術を行うことが可能となる。また、左心耳の入口部を密閉することで術後のリークを防ぐことも可能となる。 既存デバイス(WATCHMAN)を対象とした海外のAmulet IDE試験結果によると、有意に高い左心耳閉鎖率が示され1)、術後3年時の抗凝固薬中止率も96.2%と有意に高い傾向が示された2)。 なお、日本循環器学会は2024年10月17日に「Amulet左心耳閉鎖システム使用指針」を公開しており、使用する際の概要や患者除外基準、心腔内エコー(ICE)を使用したAmulet左心耳閉鎖システムの使用に関してなどが記載されている。

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抗凝固薬―長期投与は減量でよい?(解説:後藤信哉氏)

 深部静脈血栓症の症例への予防的抗凝固薬の投与期間は確定されていない。さじ加減を重視する日本の臨床家として「長期投与するなら減量で!」と考える医師は多いと思う。一般に血栓症の再発リスクは時間とともに低減するから、減量して長期投与することは正しそうに思う。 それでもランダム化比較試験にて自分の直感を検証したいと考える欧米人が、本研究を施行した。欧米のDOACはアピキサバンとリバーロキサバンが標準なのでアピキサバン (2.5mg twice daily) と リバーロキサバン(10mg once daily)を比較した。静脈血栓症の発症から1~2年経過すれば血栓イベントリスクは十分に低下している。減量しても静脈血栓症の再発リスクは増えなかった(ハザード比[HR]:1.32、95%信頼区間[CI]:0.67~2.60)。重篤な出血リスクは減少した(HR:0.61、95%CI:0.48~0.79)。仮説検証試験として結論が出たわけではないが、医師の直感的判断を支持する試験結果であった。

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第254回 肥満症治療薬の販売が絶好調!おかげで販売元は豊満に?

海外企業の多くは12月末が決算である。このため5月以降に佳境を迎える日本と違い、すでに主要企業の決算はほぼ出そろっている。医療に関係する企業で言うならば、やはり一番大きいのが製薬業界である。2023年実績で世界ランキング20位までの製薬企業のうち、日本企業ゆえにまだ決算が発表されていない武田薬品、大塚ホールディングスと非上場のためまだ発表されていない独・ベーリンガー・インゲルハイム以外の17社はすでに決算を発表済みだ。これら各社の決算結果では当然、各社の主要製品の売上高も公表されている。この各社発表の医療用医薬品の売上高をランキング化すると、改めて近年の傾向が見えてくる。そのトップ10を見ていきたい。なお、売上高はドル換算だが、各薬剤を円換算に表示すると、やや読みづらいと思うので、100億ドル=約1兆5,000億円を軸に各読者が概算で捉えていただければと思う。売上高トップ5、2024年で変わったことまず、2024年の売上高トップの医薬品は抗PD-1モノクローナル抗体のペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)の294億8,200万ドルである。近年、免疫チェックポイント阻害薬ががん治療の主流を占める中で、2023年からこの薬が世界売上高トップにつけている。第2位が抗凝固薬のアピキサバン(同:エリキュース)の206億9,900万ドル(併売するブリストル・マイヤーズスクイブとファイザーの合算)。以下順に第3位がGLP-1受容体作動薬のセマグルチドの注射薬(同:オゼンピック)の176億4,200万ドル、第4位が抗IL-4/13受容体モノクローナル抗体のデュピルマブ(同:デュピクセント)の139億4,700万ドル、第5位が抗HIV薬のビクテグラビルナトリウム・エムトリシタビン・テノホビル アラフェナミドフマル酸塩の配合剤(同:ビクタルビ)の134億2,300万ドル。このトップ5は2023年とほぼ順位は同じなのだが1点だけ異なる点がある。2023年は第3位に抗TNFαモノクローナル抗体のアダリムマブ(同:ヒュミラ)がランクインしていた。同薬は免疫疾患に広く使われ、ペムブロリズマブが同年にトップになるまで、医療用医薬品売上高の王座だった。で、2024年にはどうなったのかというと、売上高89億9,300万ドルでトップ10圏外の第11位までランクダウンした。それもこれも2023年に特許が失効し、バイオ医薬品版ジェネリックのバイオシミラーが登場し始めたからである。ちなみに特許失効前の2022年の売上高は212億3,700万ドル。実に過去2年間で57.7%の減収である。製薬業界ではこの特許失効時期を境に該当製品の売上が急減することを「パテントクリフ」、日本語で直訳すると「特許の崖」と評するが、まさにその状況である。もっともこれでもアダリムマブはまだましなほうである。というのも、低分子の経口薬ならば、特許失効後半年程度で売上高の6割がジェネリック医薬品に置き換わるからである。ご存じのように低分子の経口薬と違い、培養が必要なバイオ医薬品では完全に同一条件で製造ができないため、バイオシミラーは先発のバイオ医薬品の同一成分ではなく同等・同質の成分。この結果、経口薬のジェネリック医薬品に比較的寛容な欧米の医師でも処方には慎重になりがちだ。6~10位にもある変化がさて第6位以降はどうだろう。第6位が抗IL-23p19モノクローナル抗体のリサンキズマブ(同:スキリージ)の117億1,800万ドル、第7位が抗CD38モノクローナル抗体のダラツムマブ(同:ダラザレックス)の116億7,000万ドル、第8位が持続性GIP/GLP-1受容体作動薬のチルゼパチド(同:マンジャロ)の115億4,000万ドル、第9位が抗IL-12/23p40モノクローナル抗体のウステキヌマブ(同:ステラーラ)の103億6,100万ドル、第10位が抗PD-1モノクローナル抗体のニボルマブ(同:オプジーボ)の93億400万ドル(ブリストル・マイヤーズスクイブ分のみの売上高)だった。第6~10位を2023年と比べると、トップ5と同じくある医薬品がトップ10外にランクダウンしている。それは一般人にとってはもはや喉元過ぎた熱さと言えるかもしれない、ファイザーの新型コロナウイルス感染症ワクチンのコミナティである。2023年には112億2,000万ドルの売上高だったが、2024年は53億5,300万ドルで52.3%の減収となった。もっとも新型コロナに限らず、感染症ワクチンはある種季節もの的な側面はあるため、取り立てて驚くような話でもない。一方、アダリムマブとコミナティのランクダウンに代わって2024年に新たにトップ10入りしたのが第6位のリサンキズマブと第8位のチルゼパチドである。前者はアダリムマブの製造販売元のアッヴィが戦略上、アダリムマブの後継品の1つに位置付けている医薬品である。現状、両薬で共通する適応症は乾癬と炎症性腸疾患だが、今後、新規患者では企業側自体がリサンキズマブに注力する可能性が高いため、アダリムマブの後退に代わって、より伸長していく可能性が高いだろう。そして第8位のチルゼパチドは前年比2.24倍という驚異的な売上伸長で初めてトップ10入りした。もともとは2型糖尿病治療薬として発売(同:マンジャロ)され、2025年4月11日に肥満症治療薬(同:ゼップバウンド)として発売が決定している。ちなみに第3位のセマグルチドも商品名としてのオゼンピックは2型糖尿病が適応だが、同一成分で肥満症を適応とするウゴービがある。ただ、以前の本連載でも触れたが、オゼンピック、マンジャロとも純粋に2型糖尿病治療薬として使われているとは言い難く、実際にはいわゆるダイエット目的の自由診療で相当程度使われ、今回の両製品の公式売上高もその分が相当含まれていると思われる。そして公式の肥満症治療薬としての2024年の製品売上高は、ウゴービが85億3,300万ドル、ゼップバウンドが49億2,600万ドルだった。それぞれ2023年比で1.86倍、24.6倍も売上高が伸長している。この調子だとウゴービ、ゼップバウンドともに2025年もかなりの売上伸長となりそうだ。ウゴービの場合は今回の集計では第12位で、2025年売上高はトップ10にGLP-1受容体作動薬関連が4製品もランクインする事態が現実味を帯びている。もちろんこれが適応症に沿って医学的に正しく使われているのならば何も問題はないが、そうではないことを否定できる人は誰もいないはずだ。もはや世界的に“なんだかなあ?”と言いたくなるような状況なのである。

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ランダム化試験より個別最適化医療の論理が必要?(解説:後藤信哉氏)

 心房細動の脳梗塞予防には抗凝固薬が広く使用されるようになった。しかし、脳内出血の既往のある症例に抗凝固薬を使用するのは躊躇する。本研究は過去に頭蓋内出血の既往のある症例を対象として、心房細動症例における抗凝固薬介入の有効性と安全性の検証を目指した。319例をDOAC群と抗凝固薬なし群に割り付けて中央値1.4年観察したところ、DOAC群の虚血性脳卒中は0.83(95%信頼区間[CI]:0.14~2.57)/100人年、抗凝固薬なし群では8.60(同:5.43~12.80)/100人年と差がついた。 しかし、頭蓋内出血イベントはDOAC群が5.00(95%CI:2.68~8.39)/人年、抗凝固薬なし群では0.82(同:0.14~2.53)/人年であった。 ランダム化比較試験としては事前に設定した有効性、安全性エンドポイントに対する仮説検証が目標となるが、臨床家は結果に基づいて実臨床における治療選択を考える。「頭蓋内出血の既往のある心房細動」でもDOACで虚血性脳卒中リスクを低減できるが、頭蓋内出血リスクは増える。未来に虚血性脳卒中リスクの高い個別症例を選別してDOACをのませる、などの個別最適化医療への方向転換が必要である。

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再発高リスクのVTE患者、DOACは減量可能か?/Lancet

 再発リスクが高く長期の抗凝固療法が必要な静脈血栓塞栓症(VTE)患者において、直接経口抗凝固薬(DOAC)の減量投与は全量投与に対して、非劣性基準を満たさなかった。しかしながら両投与群ともVTEの再発率は低く、減量投与群のほうが臨床的に重要な出血が大幅に減少し、減量投与は治療選択肢として支持可能なことが示されたという。フランス・Centre Hospitalier Universitaire BrestのFrancis Couturaud氏らRENOVE Investigatorsが、多施設共同無作為化非盲検エンドポイント盲検化非劣性試験「RENOVE試験」の結果を報告した。再発リスクが高くDOACの長期投与が適応のVTE患者において、その最適な投与量は明らかになっていなかった。結果を踏まえて著者は、「さらなる試験を行い、抗凝固薬の減量投与をすべきではないサブグループを特定する必要があるだろう」と述べている。Lancet誌2025年3月1日号掲載の報告。減量投与群vs.全量投与群、症候性VTEの再発を評価 RENOVE試験は、フランスの47病院で行われた。急性症候性VTE(肺塞栓症または近位深部静脈血栓症)を呈し、長期の抗凝固薬療法が適応で連続6~24ヵ月の抗凝固薬全量投与を受けた18歳以上の外来患者を適格とした。適格患者は、初発の特発性VTE、再発VTE、持続性リスク因子の存在、その他の再発リスクが高いと考えられる臨床的状態のいずれかに分類された。 被験者は、双方向ウェブ応答システムを用いた中央無作為化法により、減量投与群(アピキサバン2.5mgを1日2回またはリバーロキサバン10mgを1日1回)または全量投与群(アピキサバン5mgを1日2回またはリバーロキサバン20mgを1日1回)に、無作為に1対1の割合で割り付けられた。コンピュータ乱数生成ジェネレーターを用いたシーケンス生成法でブロックサイズの差異のバランスを取り、無作為化では試験施設、DOACの種類、抗血小板薬による層別化を行った。試験担当医師および被験者は治療割り付けを盲検化されなかった。VTEの再発、臨床的に重要な出血、全死因死亡は治療割り付けを盲検化された独立委員会によって判定された。 主要アウトカムは、治療期間中に判定された症候性VTEの再発(致死的または非致死的な肺塞栓症もしくは孤立性の近位深部静脈血栓症などを含む)であった(非劣性マージンは、ハザード比[HR]の95%信頼区間[CI]の上限が1.7、検出力90%に設定)。重要な副次アウトカムは、治療期間中に判定された重大な出血(国際血栓止血学会[ISTH]の基準に従い定義)または臨床的に重要な非重大出血、および治療期間中に判定されたVTEの再発、重大な出血または臨床的に重要な非重大出血の複合とした。主要アウトカムと最初の2つの副次アウトカムは、階層的に評価した。VTEの5年累積発生率は減量投与群2.2%、全量投与群1.8%で非劣性は認められず 2017年11月2日~2022年7月6日に2,768例が登録され、減量投与群(1,383例)または全量投与群(1,385例)に無作為化された。970例(35.0%)が女性、1,797例(65.0%)が男性で、1例(<0.1%)は性別が報告されていなかった。追跡期間中央値は37.1ヵ月(四分位範囲[IQR]:24.0~48.3)。 症候性VTEの再発は、減量投与群で19/1,383例(5年累積発生率2.2%[95%CI:1.1~3.3])、全量投与群で15/1,385例(1.8%[0.8~2.7])に報告された(補正後HR:1.32[95%CI:0.67~2.60]、絶対群間差:0.40%[95%CI:-1.05~1.85]、非劣性のp=0.23)。 重大または臨床的に重要な出血は、減量投与群で96/1,383例(5年累積発生率9.9%[95%CI:7.7~12.1])、全量投与群で154/1,385例(15.2%[12.8~17.6])に報告された(補正後HR:0.61[95%CI:0.48~0.79])。 有害事象の発現は、減量投与群で1,136/1,383例(82.1%)、全量投与群で1,150/1,385例(83.0%)に報告された。Grade3~5の重篤な有害事象の発現はそれぞれ374/1,383例(27.0%)、420/1,385例(30.3%)であった。試験期間中の死亡はそれぞれ35/1,383例(5年累積死亡率4.3%[95%CI:2.6~6.0])、54/1,385例(6.1%[4.3~8.0])であった。

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脳出血既往AFに対する脳梗塞予防、DOACは有用か?/Lancet

 直接経口抗凝固薬(DOAC)は、心房細動を伴う脳内出血生存者の虚血性脳卒中予防に有効ではあるが、その有益性の一部は脳内出血再発の大幅なリスク増加により相殺されることが示された。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのRoland Veltkamp氏らPRESTIGE-AF Consortiumが、欧州6ヵ国75施設で実施された第III相無作為化非盲検評価者盲検比較試験「PRESTIGE-AF試験」の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「これら脆弱な患者集団における脳卒中予防を最適化するには、さらなるエビデンスと無作為化データのメタ解析が必要である。特定の患者に対しては、より安全な薬物療法または機械的代替療法の評価も求められる」と述べている。DOACは、心房細動患者において血栓塞栓症の発症頻度を低下させるが、脳内出血生存者に対するベネフィットとリスクは不明であった。Lancet誌オンライン版2025年2月26日号掲載の報告。脳内出血発症後14日~1年のAF患者をDOAC群と抗凝固薬非投与群に無作為化 研究グループは、脳内出血発症後14日~12ヵ月(当初は6ヵ月)以内で、心房細動を有し、抗凝固療法の適応があり、修正Rankinスケール(mRS)スコアが4以下の18歳以上の患者を、脳内出血の部位と性別によって層別化し、DOAC群または抗凝固薬非投与群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 血管奇形または外傷に起因する脳内出血、左心耳閉鎖デバイスによる治療予定または既治療患者などは除外した。 DOAC群では、各地の試験担当医師の判断によりアピキサバン、ダビガトラン、エドキサバンまたはリバーロキサバンが投与された。抗凝固薬非投与群では、試験担当医師の判断で抗血小板薬(例:アスピリン100mg 1日1回)を投与または非投与した。 主要エンドポイントは2つで、初回虚血性脳卒中と脳内出血の初回再発とし、ITT集団で優越性と非劣性に関する階層的検定を実施した。脳内出血に関する非劣性マージンは、ハザード比(HR)の90%信頼区間上限が1.735未満とした。安全性についても、ITT集団を対象に解析した。DOAC群で虚血性脳卒中リスクは減少、脳内出血再発リスクは増大 2019年5月31日~2023年11月30日に319例が登録され、DOAC群(158例)および抗凝固薬非投与群(161例)に無作為に割り付けられた。患者背景は、年齢中央値が79歳(四分位範囲[IQR]:73~83)で、女性113例(35%)、男性206例(65%)であった。 追跡期間中央値1.4年(IQR:0.7~2.3)において、初回虚血性脳卒中の発症頻度は、DOAC群が抗凝固薬非投与群より低かった(HR:0.05、95%CI:0.01~0.36、log-rank検定p<0.0001)。すべての虚血性脳卒中イベントの発症頻度(100患者年当たり)は、DOAC群で0.83(95%CI:0.14~2.57)に対し、抗凝固薬非投与群では8.60(5.43~12.80)であった。 脳内出血の初回再発については、DOAC群は事前に規定された非劣性マージン(<1.735)を満たさなかった(HR:10.89、90%CI:1.95~60.72、p=0.96)。すべての脳内出血の発症頻度(100患者年当たり)は、DOAC群5.00(95%CI:2.68~8.39)に対し、抗凝固薬非投与群は0.82(95%CI:0.14~2.53)であった。 重篤な有害事象は、DOAC群で158例中70例(44%)、抗凝固薬非投与群で161例中89例(55%)に発現した。DOAC群では16例(10%)、抗凝固薬非投与群では21例(13%)が死亡した。

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出血リスクを比較、NOACs vs.アスピリン~9試験のメタ解析

 新規経口抗凝固薬(NOAC)とアスピリンは広く用いられているが、出血リスクの比較に関するデータは限られている。そこで、カナダ・マクマスター大学のMichael Ke Wang氏らの研究グループは、NOACとアスピリンを比較した無作為化比較試験(RCT)について、システマティックレビューおよびメタ解析を実施し、出血リスクを評価した。その結果、アピキサバンとダビガトランはアスピリンと比較して出血リスクを上昇させなかったが、リバーロキサバンは上昇させる可能性が示唆された。本研究結果は、Annals of Internal Medicine誌オンライン版2025年2月11日号に掲載された。 研究グループは、MEDLINE、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、ClinicalTrials.govより、2024年6月までに登録された研究のうち、NOACとアスピリンを比較したRCTを検索した。その結果、9つのRCTが抽出された。これらの研究のメタ解析を行い、大出血、頭蓋内出血のリスクを比較した。 主な結果は以下のとおり。・抽出された9つのRCTの内訳は、アピキサバンとアスピリンの比較が5試験、ダビガトランとアスピリンの比較が2試験、リバーロキサバンとアスピリンの比較が2試験であった。・対象患者は2万6,224例で、平均年齢は67歳、男性は58%、平均追跡期間は20ヵ月であった。・アスピリンの用量は、8つのRCTで81~100mg/日であった(アピキサバンとアスピリンを比較した1つのRCTで81~324mg/日)。・大出血、頭蓋内出血について、いずれのNOACもアスピリンと比べて有意なリスク上昇はみられなかったが、リバーロキサバンではリスクが高い傾向にあった。各NOACのアスピリンに対するリスク差および95%信頼区間は以下のとおり。【大出血】 アピキサバン:0.0%ポイント、-1.3~2.6 ダビガトラン:0.5%ポイント、-2.1~19.6 リバーロキサバン:0.9%ポイント、-0.1~3.7【頭蓋内出血】 アピキサバン:-0.2%ポイント、-0.6~1.4 ダビガトラン:0.0%ポイント、-1.1~24.5 リバーロキサバン:0.3%ポイント、-0.1~79.7 本研究結果について著者らは、信頼区間の幅が広いという限界が存在することを指摘しつつ「今回のシステマティックレビューおよびメタ解析では、アピキサバンとダビガトランは大出血の発現率がアスピリンと同程度であったが、リバーロキサバンはアスピリンより高い傾向にあった」と結論を述べている。

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新たな慢性血栓症、VITT様血栓性モノクローナル免疫グロブリン血症の特徴/NEJM

 ワクチン起因性免疫性血小板減少症/血栓症(またはワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症、VITT)は、血小板第4因子(PF4)を標的とする抗体と関連し、ヘパリン非依存性であり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するアデノウイルスベクターワクチンまたはアデノウイルス感染によって誘発される急性の血栓症を特徴とする。オーストラリア・Flinders UniversityのJing Jing Wang氏らの研究チームは、VITT様抗体と関連する慢性的な血栓形成促進性の病態を呈する患者5例(新規症例4例、インデックス症例1例)について解析し、新たな疾患概念として「VITT様血栓性モノクローナル免疫グロブリン血症(VITT-like monoclonal gammopathy of thrombotic significance:VITT-like MGTS)」を提唱するとともに、本症の治療では抗凝固療法だけでなく他の治療戦略が必要であることを示した。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2025年2月12日号に短報として掲載された。本研究は、カナダ保健研究機構(CIHR)などの助成を受けた。従来のVITTとは異なる病態の血栓症の病因か 対象となった5例すべてが慢性の抗凝固療法不応性血栓症を呈し、間欠性の血小板減少症を伴っていた。これらの患者はM蛋白の濃度が低く(中央値0.14g/dL)、各患者でM蛋白がVITT様抗体であることが確認された。 また、PF4上の抗体のクローン型プロファイルと結合エピトープは、ワクチン接種やウイルス感染後に発症する急性疾患で観察されるものとは異なっており、これは別個の免疫病因を反映した特徴であった。さらに、VITT様抗体は、一般的なヘパリン起因性血小板減少症(HIT)の抗体とは異なり、ヘパリン非依存性に血小板を活性化することが示された。 VITT様MGTSという新たな疾患概念は、このような従来のVITTとは異なる病態を示す慢性的な抗PF4抗体による血栓症の病因として、ほとんどの抗PF4障害、および明確な原因のない異常や再発性の血栓症を説明可能であることが示唆された。抗PF4抗体、M蛋白が新たな治療標的となる可能性 新規の4例の中には、VITT様の特性を有する血小板活性化抗PF4抗体が検出されたため、MGTSを疑い、ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬イブルチニブによる治療を行ったところ、血栓症が抑制された症例を認めた。 また、従来の抗凝固療法を含むさまざまな治療を行っても、血栓症と血小板減少症が再発したため、MGTSを疑ってボルテゾミブ+シクロホスファミド+ダラツムマブ療法を施行したところ、血小板数が正常化し、M蛋白および抗PF4抗体が検出されなくなり、血栓症が改善した症例もみられた。 著者は、「慢性血栓症患者の診断に抗PF4抗体およびM蛋白の検査を追加することで、VITT様MGTSの早期発見が可能になると考えられる」「既存のVITT治療に加え、経静脈的免疫グロブリン療法(IVIG)やイブルチニブ、ボルテゾミブ+ダラツムマブなどを適用することで、より効果的な治療戦略を構築できるだろう」「これらの知見は、他の自己免疫性血小板減少症や血栓症における新たな治療標的としての抗PF4抗体およびM蛋白の役割を研究する基盤となる」としている。

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妊娠糖尿病とメトホルミン―「非劣性試験で有意差なし」の解釈は難しい(解説:住谷哲氏)

 妊娠糖尿病患者が食事療法のみで血糖管理が困難になれば、インスリンを投与するのがゴールドスタンダードである。わが国では妊娠糖尿病に対するメトホルミン投与は禁忌であるが、米国での妊娠糖尿病患者の69%はメトホルミンまたはグリブリド(グリベンクラミドと同じ)が投与され1)、英国では薬物療法が必要となった妊娠糖尿病患者の59%にメトホルミンが投与されているとのデータがある2)。さらに英国のNICEガイドラインではメトホルミンが妊娠糖尿病に対する第一選択薬に推奨されている3)。 妊娠糖尿病に対するメトホルミンの有効性を検討した試験にMiG試験がある4)。同試験の主要評価項目は新生児複合アウトカムであり、メトホルミン群は必要であればインスリンが追加投与されている。Discussionに“a methodologic limitation”として記載されているが、試験デザインはインスリンのメトホルミンに対する優越性を検証する優越性試験であった。しかし、事後解析として実施された非劣性デザインを用いた解析において、メトホルミンのインスリンに対する非劣性が証明された。ちなみに同論文の付属論説では明確にnon-inferiority trialとしている。 本試験はMiG試験とは異なり、メトホルミン投与で血糖が管理できなかった際にインスリンではなくグリブリドを投与する群と、最初からインスリンを投与する群との比較である。また主要評価項目は、LGA(large for gestational age)の発生率である。さらに試験デザインはインスリン群に対するメトホルミン群の非劣性を検証する非劣性試験である。結果は絶対リスク差4.0%(95%信頼区間[CI]:-1.7~9.8、p=0.09)であり、95%CIの上限が設定した非劣性マージンの8%を超えており、結論は「非劣性が証明されなかった」となった。 「非劣性が証明されなかった」試験の正しい解釈は、有効性に関して介入群は対照群と比較して「優越 superior」でも「同等 equivalent」でも「劣性 inferior」でもなく、統計学的に「判定不能」である。つまり本試験の結果からは、群間差について統計学的には何も言えないことになる。 近年、非劣性試験は多用される傾向にある。糖尿病領域でもほとんどのCVOTは非劣性試験であり、循環器領域でのワルファリンに対するDOACの有用性を検討した試験も同様である5)。冒頭に述べたように、妊娠糖尿病患者にメトホルミンの使用ができないわが国ではリスクとベネフィットを天秤に掛ける必要はないが、メトホルミンへの追加薬剤としてはインスリンが無難だろう。

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心房細動、abelacimab月1回投与で出血イベント改善/NEJM

 脳卒中リスクが中~高の心房細動患者の抗凝固療法において、リバーロキサバンと比較してabelacimab(不活性型の第XI因子に結合してその活性化を阻害する完全ヒトモノクローナル抗体)の月1回投与は、遊離型第XI因子濃度を著明に低下させ、出血イベントを大幅に少なくすることが、米国・ハーバード大学医学大学院のChristian T. Ruff氏らAZALEA-TIMI 71 Investigatorsが実施した「AZALEA-TIMI 71試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年1月22日号で報告された。7ヵ国の無作為化実薬対照比較第IIb相試験 AZALEA-TIMI 71試験は、心房細動患者の抗凝固療法におけるabelacimabの安全性と忍容性の評価を目的とする無作為化実薬対照比較第IIb相試験であり、2021年3~12月に7ヵ国の95施設で患者を登録した(Anthos Therapeuticsの助成を受けた)。 年齢55歳以上、心房細動または心房粗動の既往歴があり、抗凝固療法が計画され、CHA2DS2-VAScスコアが4点以上、またはCHA2DS2-VAScスコアが3点以上で抗血小板薬の併用が計画されているか推定クレアチニンクリアランスが50mL/分以下の患者を対象とした。 これらの患者を、盲検下にabelacimab 150mgまたは90mgを月1回皮下投与する群、または非盲検下にリバーロキサバン20mgを1日1回経口投与する群に、1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、大出血または臨床的に重要な非大出血とした。出血イベントが予想以上に減少、試験は早期中止に 1,287例(年齢中央値74歳、女性44%)を登録し、abelacimab 150mg群に430例、同90mg群に427例、リバーロキサバン群に430例を割り付けた。CHA2DS2-VAScスコア中央値は5点で、ベースラインで患者の92%が60日以上の抗凝固薬の投与を受けており、66%が直接経口抗凝固薬(DOAC)であった。 abelacimabの月1回の皮下投与により、遊離型第XI因子の値はベースラインと比較して持続的に低下し、3ヵ月後の遊離型第XI因子の減少の中央値は、150mg群で99%(四分位範囲:98~99)、90mg群で97%(51~99)であった。 abelacimabによる出血イベントの減少が予想を超えていたため、独立データモニタリング委員会の勧告に基づき試験は早期中止となった。 大出血または臨床的に重要な非大出血の発生率は、abelacimab 150mg群が3.22件/100人年、同90mg群が2.64件/100人年であったのに比べ、リバーロキサバン群は8.38件/100人年と高い値を示した。リバーロキサバン群に対するabelacimab 150mg群のハザード比(HR)は0.38(95%信頼区間[CI]:0.24~0.60、p<0.001)、リバーロキサバン群に対する同90mg群のHRは0.31(0.19~0.51、p<0.001)であった。有害事象の頻度は同程度 副次エンドポイントである大出血(リバーロキサバン群に対するabelacimab 150mg群のHR:0.33[95%CI:0.16~0.66]、リバーロキサバン群に対する同90mg群のHR:0.26[0.12~0.57])および大出血、臨床的に重要な非大出血、小出血の複合(0.68[0.51~0.91]、0.46[0.33~0.64])についても、リバーロキサバン群に比べ2つのabelacimab群で良好であった。また、大出血のうち消化管大出血(0.11[0.03~0.48]、0.11[0.03~0.49])はabelacimab群で顕著に少なかったが、頭蓋内大出血やその他の大出血にはこのような差はなかった。 全有害事象、重篤な有害事象、試験薬の投与中止に至った有害事象の発現率は、3群で同程度であった。abelacimab群における注射部位反応は、150mg群で2.8%、90mg群で1.6%に認めた。抗薬物抗体を発現した患者はいなかった。 著者は、「本試験は症例数が少ないため、abelacimabの臨床的有効性を評価することはできず、より大規模な試験が必要である。現在、利用可能な抗凝固療法を使用できない高リスク心房細動患者を対象に、脳梗塞および全身性塞栓症の予防におけるabelacimabの有効性をプラセボと比較する第III相試験(LILAC-TIMI 76試験)が進行中である」としている。

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