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心房細動と動脈硬化、MRIで異なる脳血管病変示す/ESC2025

 心房細動(AF)とアテローム性動脈硬化症(以下、動脈硬化)は、一般集団と比較して脳血管病変の発生率を高める。今回、AF患者は動脈硬化患者と比較して、非ラクナ型脳梗塞、多発脳梗塞、重度の脳室周囲白質病変の発生頻度が高いことが明らかになった。本研究結果はカナダ・マクマスター大学のTina Stegmann氏らが8月29日~9月1日にスペイン・マドリードで開催されたEuropean Society of Cardiology 2025(ESC2025、欧州心臓病学会)の心房細動のセッションで発表し、European Heart Journal誌オンライン版2025年8月29日号に同時掲載された。 本研究は、AF患者と動脈硬化患者の脳MRIによる血管性脳病変の有病率と分布を比較するため、スイスの心房細動コホート研究(Swiss-AF、AF患者を対象)とCOMPASS MIND研究(COMPASS MRIサブ解析、AFのない動脈硬化患者を対象)を実施。ベースライン時点の臨床データと標準化された脳MRIを使用して、ラクナ梗塞と非ラクナ型脳梗塞、脳室周囲および白質高信号(WMH)、微小出血(CMB)の発生率をグループ間で比較した。 主な結果は以下のとおり。・調査対象は3,508例(AF群:1,748例、動脈硬化群:1,760例)であった。・平均年齢±SDはAF群73±8歳、動脈硬化群71±6歳、女性比率はそれぞれ28%と23%であった。・AF群の90%は抗凝固療法が行われ、動脈硬化群の93%は抗血小板療法が行われていた。・AF群は動脈硬化群と比較し、非ラクナ型脳梗塞の発生率が高く(22%vs.10%、p<0.001)、一方で動脈硬化群ではラクナ梗塞の発生率が高かった(21%vs.26%、p=0.001)。・AF患者では脳室周囲白質病変の重症度が高く(49%vs.37%、p<0.001)、CMBは、動脈硬化群でより多く認められた(22%vs.29%、p<0.001)。・多変量解析では、AF群は動脈硬化群と比較して、非ラクナ型脳梗塞のオッズ比(OR)が高く(OR:2.28、95%信頼区間[CI]:1.86~2.81、p<0.001)、ラクナ梗塞では低かった(OR:0.66、95%CI:0.56~0.79、p<0.001)。また、重度の脳室周囲白質病変はOR1.42と高かった(95%CI:1.22~1.67、p<0.001)。 研究者らは「これらの知見は、心血管疾患患者での血管性脳病変の発症における疾患特異的なメカニズムを裏付けている」としている。

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第278回 いよいよ本格化するOTC類似薬の保険外し議論、日本医師会の主張と現場医師の意向に微妙なズレ?(後編)

「調査対象に偏りが見受けられるため、調査結果については詳細な分析が必要」と日本医師会こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。いろいろあった夏の甲子園(全国高校野球選手権大会)も終わり、野球はNPBとMLBのポストシーズン進出争いにその焦点が移ってきました。気になるのはMLBのロサンゼルス・ドジャースの夏に入ってからの失速ぶりです。この週末のサンディエゴ・パドレスとの3連戦では1勝2敗と負け越し、結果、パドレスにナショナル・リーグ西地区首位に並ばれました(現地8月24日現在、25日には再び首位に)。投手陣、とくにリリーフ陣の弱さがポストシーズンに向けて最大の弱点になっています。大谷 翔平選手で視聴率を稼いできたNHKも気が気でないでしょう。開幕時はワールドシリーズ出場間違いなしと言われたスター軍団のあと1ヵ月余りの戦いぶりと、ダルビッシュ 有投手擁するパドレスのさらなる追い上げに注目したいと思います。さて、今回も前回に引き続き、三党合意(自民・公明・維新)で決まったOTC類似薬の保険外しについて書いてみたいと思います。前回は、日本医師会が8月6日の記者会見で、OTC類似薬の保険外しの動きに対し強い反対の意向を改めて表明、その理由として「経済的負担の増加」と「自己判断・自己責任での服用に伴う臨床的なリスク」を挙げたこと、その一方で、今年7月、日本経済新聞社と日経メディカル Onlineが共同で医師に対して行った調査では「OTC類似薬の保険外しに医師の賛成6割」という意外な結果が出たことについて書きました。日本医師会は、記者会見でこの結果に対し、「調査対象に偏りが見受けられるため、調査結果については詳細な分析が必要」と苦言を呈したのですが、そんなに”偏った”調査だったのでしょうか。もう少しその内容を見てみましょう。「保険適用から外してもよい」と考える薬効群分類は「総合感冒薬」「湿布薬」「ビタミン剤」など日経メディカル Onlineは7月30日付けで「医師7,864人に聞いたOTC類似薬の保険適用除外への賛否」という記事を配信しました。対象は日経メディカル Onlineの医師会員で総回答者数は7,864人、調査期間は参議院選挙前の2025年7月1~6日です。同記事によれば、調査に回答した医師の過半数である62%が「OTC類似薬の保険適用除外」に対し賛成(「賛成」20%、「どちらかと言えば賛成」42%の合計)でした。なお、回答した医師の内訳は、病院勤務医70.1%、診療所勤務医15.2%、病院経営者1.5%、診療所開業医10.8%、研究者・行政職1.1%、その他2.4%です。病院勤務医が7割と最も多く、診療所開業医が実際の割合(病院長含め開業医の割合は医師全体の約2割程度)よりも若干低かったのですが、大きな「偏り」というほどのものではないでしょう。立場別での賛否では、病院勤務医が「賛成」の率が最も高く(69%)、次いで診療所勤務医(54%)、病院経営者(51%)の順でした。診療所開業医は「賛成」36%、「反対」が63%でした。「反対」が多いとはいえ約4割が保険適用除外に「賛成」とは、ある意味意外な結果でした。OTC類似薬のうち、「保険適用から外してもよい」と考える薬効群分類について聞いた質問では、「総合感冒薬」(51%)、「外用消炎鎮痛薬(湿布薬)」(41%)、「ビタミン剤」(37%)、「外用保湿薬(ヘパリン類似物質など)」(31%)が上位を占めました。保険適用から除外してよいと考える理由については、「増え続ける国民医療費を抑制するため」52%、「医薬品目的で受診する人を減らすため」31%、「OTC薬と効果に大きな違いがないため」27%、「多忙な診療業務の負担を軽減するため」16%という結果でした。つまり、勤務医を中心に現場の医師たちの実に半数が、増え続ける医療費をなんとかせねばと考えており、さらに、医師の働き方改革や医師偏在によって多忙を極める医師たちの一定数が、OTC類似薬の保険適用除外は医薬品目的で受診する人を減らし、診療業務を効率化するためにプラスになると考えているわけです。日本医師会の主張と現場の医師の意向のズレは、「軽症でも患者を手放さず、初診料・再診料を柱に診療報酬を確保する」ことを第一義とする(診療所開業医中心の)日医と、「本当に診療が必要な患者だけを効率的に診たい」現場医師との間にある、”診療方針のズレ”といえるかもしれません。OTCよりも危険な処方薬ですらきちんと説明が行われず、ポリファーマシーによる健康被害も起こっている日本医師会は「自己判断・自己責任での服用に伴う臨床的なリスク」を反対の理由に挙げ、「OTC類似薬の保険適用除外は、重複投与や相互作用の問題等、診療に大きな支障を来たす懸念がある」とその危険性を指摘していますが、現実問題として重複投与や相互作用を常に気にしながら処方箋を書いている医師はどれくらいいるのでしょうか。以前(第270回 「骨太の方針2025」の注目ポイント[後編])にも書いたことですが、そもそも現状、処方箋を発行する医師は薬の説明をほぼ薬局薬剤師に丸投げし、その薬局薬剤師も印刷された薬剤情報提供書を右から左へ受け流しているだけ、というところが少なくありません(私や家族の経験からも)。OTCよりも危険な処方薬ですらきちんと説明が行われず、ポリファーマシーによる健康被害も起こっている状況はそのままに、「OTC類似薬の保険適用除外は、診療に大きな支障を来たす懸念がある」とはやや言い過ぎではないでしょうか。「経済的負担の増加」は税制などの制度変更とマイナ保険証を活用したDXで改善できるのでは?OTC類似薬の保険適用除外のもう一つの問題と言われる患者の「経済的負担の増加」ですが、こちらは税制などの制度変更とマイナ保険証を活用したDXで改善できるのではないでしょうか。今年5月の三党協議の場で、使用額が大きいOTC類似薬の上位6品目と湿布薬1品目について、通常の使用日数で患者負担額がどれくらい違うかについての厚生労働省の試算が示されています。それによれば、「ヘパリン類似物質クリーム」で市販薬はOTC類似薬の5.4倍、その他の薬でも1.1〜3.4倍という結果でした。日本医師会の江澤 和彦常任理事は8月6日の記者会見でOTC類似薬を保険適用外にすることで、患者の自己負担額で比較すると30倍以上になると指摘、「経済的な問題で国民の医療アクセスが絶たれる」と懸念を示しています。しかし、患者負担の面からみれば増加ですが、国の医療費負担の面からは削減になるわけで、セルフメディケーション税制(特定市販薬を年1万2,000円超購入した場合、超過分を8万8,000円まで控除できる制度)の限度額や対象薬剤を拡充したり、医療費控除との併用を認めるような改革を行ったりすれば、患者の経済的負担増はいくらでも軽減できると思います。セルフメディケーション税制は現行の医療費控除の「特例」のため、重複控除を避ける必要があるため「選択適用」となっていますが、それこそ今の時代に合っていない制度と言えるでしょう。なお、セルフメディケーション税制については2026年12月に制度の期限を迎えるものの、国は制度の恒久化と対象薬剤(インフルエンザ検査を追加など)の拡大を検討しています。3党合意と骨太の方針でOTC類似薬の保険適用除外が決まっているのですから、それに合わせて同制度の抜本的な見直しを期待したいところです。セルフメディケーション推進で職能の重要性が増すと考えられる薬剤師、しかし日本薬剤師会はOTC類似薬の保険適用除外になぜか「反対」また、薬局等でOTCを購入しているのが患者本人なのか、家族など第三者用なのか、というチェック等もマイナンバーカードを活用し、お薬手帳の情報などと紐付けることで、より効率的に行うことができるのではないでしょうか。さらに、セルフメディケーション税制に基づく所得控除の申告もe-Tax(国税電子申告・納税システム)で簡単にできるようにすれば、OTCの活用は今まで以上に進むはずです。要はそうした制度・仕組みをつくろう、セルフメディケーションを推進しようという意欲や熱意が国や各ステークホルダーにあるかどうかだと思います。その意味では、診療と処方権を絶対に手放したくない日本医師会はさておいて、セルフメディケーション推進でその職能の重要性が増すと考えられる薬剤師を束ねる日本薬剤師会が、OTC類似薬の保険適用除外に対して「今までの仕組みを壊すことになる」(岩月 進・日本薬剤師会会長)などとして「反対」の立場を表明(2025年2月段階)しているのがまったく解せません。薬剤師は自分たちの職能を高めたり、仕事を増やしたりすることが嫌いなのでしょうか。AIやロボットに仕事を奪われてもいいのでしょうか。OTC類似薬の保険適用除外は、2025年末までの予算編成過程を通じて具体的な検討を進め、早期に実現可能なものは2026年度から実行される予定です。そうした動きを阻止するべく日本医師会、日本薬剤師会など守旧派勢力が今後、どんなアクション起こすかが注目されます。

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夢の中でも熱血指導【Dr. 中島の 新・徒然草】(594)

五百九十四の段 夢の中でも熱血指導一瞬涼しくなったと思ったら再び猛暑が……外来の患者さんたちとも、熱中症談義をすることが多くなりました。とくに高齢者は、脱水になっても喉が渇かないからでしょうか。気付いたら発熱して動けなくなっていたというパターンをよく聞きます。ある高齢女性は、喉が渇いていなくても水分を摂るよう心掛けているのだとか。しかも、水、お茶、炭酸水、スポーツドリンクなどのボトルを並べておいて、順に飲んでいるそうです。確かに、同じものばかり飲んでいたら飽きてしまいますよね。さて、今回は先日見た夢について語りたいと思います。夢の中でも私は病院で働いていました。何やら研修医レクチャーがあって、そこで指導しているのです。ワイワイ、ガヤガヤとあまり話を聴いてもらえないので、声を張り上げなくてはなりません。 中島 「今日はコッツン外傷の話をするぞー!」 研修医A 「コッツン外傷って何ですか?」 中島 「ちょっと頭を打ったけど、心配だから診てほしいって人だ」 研修医B 「救急外来に来ます、そういう患者さん!」 2、3人は私の話を聴いてくれています。 中島 「何を見て何を判断するか。3つあるから順番に言ってみろ」 研修医C 「わかりませーん」 中島 「まずは頭部CTを撮影するか否かだろ」 一見大したことなさそうに見えても、患者さんが吐いたりボーッとしていたりしたら、頭部CTを撮影したほうがいいですね。 中島 「次は何だ。順不同でいいから言ってくれ!」 研修医A 「うーん、難しいです」 中島 「入院させるか、帰すかだ」 研修医B、C 「ワイワイ、ガヤガヤ」 夢の中とはいえ、もはや誰も耳を貸してくれません。でも、入院か帰宅かというのは必ず決めなくてはならないので、慎重な判断が必要。患者さんを自宅に帰した後で急変した、などということがあったら最悪です。私自身は高齢者、抗血栓療法中、飲酒後、脳神経外科手術の既往など、リスクがある人は入院の上、一晩の経過観察をお勧めしています。そういった明らかなリスクがなくても、付き添いの家族が入院を懇願する、一人暮らし、何だか嫌な予感がする、といった些細な理由も無下に扱ってはなりません。 中島 「3つある中の最後、何を判断する?」 研修医B 「わーかりーませーん!」 中島 「頭の医者を呼ぶか否か、だろ。しっかりしてくれよ」 大阪医療センターでは脳当直というのがあって、脳神経外科医か脳神経内科医のどちらかが、必ず院内に待機しています。なので、脳外科医を自宅から呼び出すとか、他院に転送するとかいう必要はありません。でも、午前3時にコッツン外傷で脳当直を叩き起こすのは、研修医にとってハードルが高いことでしょう。ただ、私が研修医にいつも言っているのは「こんなことで呼ぶなよ!」と怒鳴られるほうが、「何でオレに連絡しなかったんだ!」と怒られるよりも100倍マシだということです。後者の場合は、すでにトラブルが起こってしまっているわけですから。ということで、夢の中でも研修医指導してしまったというお話です。考えてみれば、平成半ば頃は当直体制もあまりしっかりしておらず、トラブルが頻発していました。でも、令和の今ではCT撮影もスムーズ、脳当直も爽やか対応で入院・帰宅の判断をしてくれるし、研修医にとってははるかに働きやすくなったことと思います。そうそう、働き方改革で当直明けにすぐに研修医が帰れるのも大きな変化ですね。とはいえ、いつも何かしら困ったことが起こるのが人の世の常。新たなトラブルについては、また改めてお話しする機会を持ちたいと思います。最後に1句 夜が更けて 残暑の中で 診療す

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「高齢者の安全な薬物療法GL」が10年ぶり改訂、実臨床でどう生かす?

 高齢者の薬物療法に関するエビデンスは乏しく、薬物動態と薬力学の加齢変化のため標準的な治療法が最適ではないこともある。こうした背景を踏まえ、高齢者の薬物療法の安全性を高めることを目的に作成された『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』が2025年7月に10年ぶりに改訂された。今回、ガイドライン作成委員会のメンバーである小島 太郎氏(国際医療福祉大学医学部 老年病学)に、改訂のポイントや実臨床での活用法について話を聞いた。11領域のリストを改訂 前版である2015年版では、高齢者の処方適正化を目的に「特に慎重な投与を要する薬物」「開始を考慮するべき薬物」のリストが掲載され、大きな反響を呼んだ。2025年版では対象領域を、1.精神疾患(BPSD、不眠、うつ)、2.神経疾患(認知症、パーキンソン病)、3.呼吸器疾患(肺炎、COPD)、4.循環器疾患(冠動脈疾患、不整脈、心不全)、5.高血圧、6.腎疾患、7.消化器疾患(GERD、便秘)、8.糖尿病、9.泌尿器疾患(前立腺肥大症、過活動膀胱)、10.骨粗鬆症、11.薬剤師の役割 に絞った。評価は2014~23年発表の論文のレビューに基づくが、最新のエビデンスやガイドラインの内容も反映している。新薬の発売が少なかった関節リウマチと漢方薬、研究数が少なかった在宅医療と介護施設の医療は削除となった。 小島氏は「当初はリストの改訂のみを行う予定で2020年1月にキックオフしたが、新型コロナウイルス感染症の対応で作業の中断を余儀なくされ、期間が空いたことからガイドラインそのものの改訂に至った。その間にも多くの薬剤が発売され、高齢者にはとくに慎重に使わなければならない薬剤も増えた。また、薬の使い方だけではなく、この10年間でポリファーマシー対策(処方の見直し)の重要性がより高まった。ポリファーマシーという言葉は広く知れ渡ったが、実践が難しいという声があったので、本ガイドラインでは処方の見直しの方法も示したいと考えた」と改訂の背景を説明した。「特に慎重な投与を要する薬物」にGLP-1薬が追加【削除】・心房細動:抗血小板薬・血栓症:複数の抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の併用療法・すべてのH2受容体拮抗薬【追加】・糖尿病:GLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬・正常腎機能~中等度腎機能障害の心房細動:ワルファリン 小島氏は、「抗血小板薬は、心房細動には直接経口抗凝固薬(DOAC)などの新しい薬剤が広く使われるようになったため削除となり、複数の抗血栓薬の併用療法は抗凝固療法単剤で置き換えられるようになったため必要最小限の使用となっており削除。またH2受容体拮抗薬は認知機能低下が懸念されていたものの報告数は少なく、海外のガイドラインでも見直されたことから削除となった。ワルファリンはDOACの有効性や安全性が高いことから、またGLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬は低体重やサルコペニア、フレイルを悪化させる恐れがあることから、高齢者における第一選択としては使わないほうがよいと評価して新たにリストに加えた」と意図を話した。 なお、「特に慎重な投与を要する薬物」をすでに処方している場合は、2015年版と同様に、推奨される使用法の範囲内かどうかを確認し、範囲内かつ有効である場合のみ慎重に継続し、それ以外の場合は基本的に減量・中止または代替薬の検討が推奨されている。新規処方を考慮する際は、非薬物療法による対応で困難・効果不十分で代替薬がないことを確認したうえで、有効性・安全性や禁忌などを考慮し、患者への説明と同意を得てから開始することが求められている。「開始を考慮するべき薬物」にβ3受容体作動薬が追加【削除】・関節リウマチ:DMARDs・心不全:ACE阻害薬、ARB【追加】・COPD:吸入LAMA、吸入LABA・過活動膀胱:β3受容体作動薬・前立腺肥大症:PDE5阻害薬 「開始を考慮するべき薬物」とは、特定の疾患があった場合に積極的に処方を検討すべき薬剤を指す。小島氏は「DMARDsは、今回の改訂では関節リウマチ自体を評価しなかったことから削除となった。非常に有用な薬剤なので、DMARDsを削除してしまったことは今後の改訂を進めるうえでの課題だと思っている」と率直に感想を語った。そのうえで、「ACE阻害薬とARBに関しては、現在では心不全治療薬としてアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬が登場し、それらを差し置いて考慮しなくてもよいと評価して削除した。過活動膀胱治療薬のβ3受容体作動薬は、海外では心疾患を増大させるという報告があるが、国内では報告が少なく、安全性も高いため追加となった。同様にLAMAとLABA、PDE5阻害薬もそれぞれ安全かつ有用と評価した」と語った。漠然とした症状がある場合はポリファーマシーを疑う 高齢者は複数の医療機関を利用していることが多く、個別の医療機関での処方数は少なくても、結果的にポリファーマシーとなることがある。高齢者は若年者に比べて薬物有害事象のリスクが高いため、処方の見直しが非常に重要である。そこで2025年版では、厚生労働省より2018年に発表された「高齢者の医薬品適正使用の指針」に基づき、高齢者の処方見直しのプロセスが盛り込まれた。・病状だけでなく、認知機能、日常生活活動(ADL)、栄養状態、生活環境、内服薬などを高齢者総合機能評価(CGA)なども利用して総合的に評価し、ポリファーマシーに関連する問題点を把握する。・ポリファーマシーに関連する問題点があった場合や他の医療者から報告があった場合は、多職種で協働して薬物療法の変更や継続を検討し、経過観察を行う。新たな問題点が出現した場合は再度の最適化を検討する。 小島氏らの報告1,2)では、5剤以上の服用で転倒リスクが有意に増大し、6剤以上の服用で薬物有害事象のリスクが有意に増大することが示されている。そこで、小島氏は「処方の見直しを行う場合は10剤以上の患者を優先しているが、5剤以上服用している場合はポリファーマシーの可能性がある。ふらつく、眠れない、便秘があるなどの漠然とした症状がある場合にポリファーマシーの状態になっていないか考えてほしい」と呼びかけた。本ガイドラインの実臨床での生かし方 最後に小島氏は、「高齢者診療では、薬や病気だけではなくADLや認知機能の低下も考慮する必要があるため、処方の見直しを医師単独で行うのは難しい。多職種で協働して実施することが望ましく、チームの共通認識を作る際にこのガイドラインをぜひ活用してほしい。巻末には老年薬学会で昨年作成された日本版抗コリン薬リスクスケールも掲載している。抗コリン作用を有する158薬剤が3段階でリスク分類されているため、こちらも日常診療での判断に役立つはず」とまとめた。

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画期的AI活用法!【Dr. 中島の 新・徒然草】(593)

五百九十三の段 画期的AI活用法!8月7日の立秋を境に、厳しい暑さが少し和らいできました。まもなく迎える終戦記念日は、戦後80年の節目でもあります。太平洋戦争をアメリカ側から見れば、真珠湾への奇襲攻撃を行った日本を正義の鉄槌で無条件降伏させ、占領後に民主国家へと生まれ変わらせた……そんな「美しい物語」ではないでしょうか。しかし、日本には日本の正義があったはず。敗者になったがために戦勝国に言われ放題なのは、やはり複雑な思いがあります。とはいえ、これはあくまでも私の感じていることであり、他の人に自分の考えを押しつけるつもりは毛頭ありません。ただ一つ心掛けたいのは、あの戦争で命を落とした先祖に恥じない生き方をしなくては、ということです。さて、本題の「画期的AI活用法」に移ります。私は以前からChatGPTを利用してきましたが、最近になって臨床現場での非常に有効な使い方を見つけました。それは、薬剤処方のチェックです。高齢患者に10種類前後の薬を処方することは珍しくありません。いわゆるポリファーマシーですね。しかし多剤併用には大きく2つの課題があります。1つは薬物相互作用による副作用リスク。たとえば10種類の薬なら、2剤間の組み合わせは10C2=45通りにものぼります。もう1つは、副作用が疑われた際に原因薬を特定する難しさ。外来の限られた診察時間内でこれを突き止めるのは、きわめて困難です。ここでAIの出番!たとえば、ある80代男性(架空症例)に以下の薬を処方していたとします。アムロジピン、ワルファリン、アトルバスタチン、メコバラミン、ソリフェナシン、ゾルピデム、プレガバリン、レボドパ・ベンセラジド、ブロモクリプチン、ミコナゾールChatGPTに「この中でリスクの高い薬剤の組み合わせは?」と尋ねると瞬時に以下の回答が返ってきました(簡略化しています)。高リスクワルファリン+ミコナゾール(重篤な出血リスク)中リスクゾルピデム+プレガバリン(転倒・せん妄・呼吸抑制)、ゾルピデム+レボドパ・ベンセラジド/ブロモクリプチン(認知機能悪化・転倒)、ソリフェナシン+パーキンソン薬(便秘・尿閉・せん妄)実際、私はワルファリン+ミコナゾールで口腔内出血や血尿を来した症例を経験したことがあります。次に「この患者さんの言動が急におかしくなって薬剤有害事象を疑った場合の被疑薬をリスクで順位付けしてください」と尋ねると、これまた即座に以下の結果が返ってきました。1位:ゾルピデム(せん妄・幻覚・記憶障害)2位:プレガバリン(めまい・傾眠・意識変容)3位:レボドパ・ベンセラジド/ブロモクリプチン(幻覚・妄想・衝動制御障害)4位:ソリフェナシン(せん妄・記憶障害)5位:ワルファリン+ミコナゾール(脳出血による意識変容)これらの副作用は私も実際に経験したことがあり、いずれも薬剤中止によって改善しました。プレガバリンやソリフェナシンの中枢神経症状は意外に思われるかもしれませんが、私はそれぞれ複数症例で見たことがあります。なので決して珍しいものではありません。また、このように被疑薬の候補が多い場合でも、症状出現と薬剤開始の時期を照らし合わせることによって、絞り込むことが可能かと思います。このような形でAIを使う時に注意すべきは、薬剤名を商品名でなく一般名で入力すること。商品名で試してみると、似た名称のまったく異なる薬が他国にあるためか、しばしば見当外れの答えが返ってきたからです。ということで、ポリファーマシーが避けられない現代、AIは非常に心強い味方ですね。読者の皆さまも、どうぞご活用ください。最後に一句 盆来たる AI我らの 戦友ぞ

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冠動脈疾患への抗血栓療法、アウトカムに性差はあるか/BMJ

 冠動脈疾患の女性患者は、心血管リスクが男性患者に比べて高いにもかかわらず、いわゆる抗血栓療法への反応の違いを理由に、薬物療法やインターベンションを受ける機会が男性患者より少ないという。ジェンダーに基づくアウトカムに関する無作為化試験のデータは十分でないため、心血管治療における男女間の格差が今後も広がる可能性が指摘されている。イタリア・University of Naples Federico IIのRaffaele Piccolo氏らは、冠動脈疾患に対する抗血栓療法において、全死因死亡や心筋梗塞の発生、大出血のリスクに性差はないことを示した。研究の成果は、BMJ誌2025年7月29日号で報告された。有効性と安全性の性差の存在をメタ解析で評価 研究グループは、冠動脈疾患を有する患者における抗血栓療法(抗血小板薬、抗凝固薬)の有効性と安全性に性差が存在するかを評価する目的で系統的レビューとメタ解析を行った(イタリア教育省の助成を受けた)。 2025年4月の時点で、医学関連データベースに登録された文献を検索した。冠動脈疾患患者において抗血栓療法の比較を行い、性別に基づくアウトカム(虚血イベント、大出血イベントなど)の記述がある無作為化対照比較試験を対象とした。 主要アウトカムは、全死因死亡、心筋梗塞、大出血(BARC基準のタイプ3または5)とした。抗血栓療法のレジメンを、高強度と低強度に分類(未分画ヘパリン±GP IIb/IIIa阻害薬vs.bivalirudin、抗凝固薬vs.プラセボ、静注P2Y12受容体阻害薬vs.クロピドグレル、長期DAPT vs.短期DAPTなど)して解析した。死亡、心筋梗塞に性別関連の異質性はない 1999~2025年に33件の試験に登録された27万4,433例を解析の対象とした。13万1,014例(52.4%)が高強度、11万9,189例(47.6%)が低強度の抗血栓療法に割り付けられた。7万2,601例が女性で、33試験の女性の比率中央値は25%(四分位範囲[IQR]:22~30.7)であった。全体の年齢中央値は64.5歳(IQR:62~67)だった。 22試験の参加者18万7,580例のうち6,018例が死亡した(高強度群3,064例、低強度群2,954例)。男性患者では、低強度群に比べ高強度群で全死因死亡のリスクがわずかに低かった(ハザード比[HR]:0.94[95%信頼区間[CI]:0.88~1.00]、p=0.05)が、女性患者ではこのような差はなかった(0.99[0.90~1.09]、p=0.90)。全体として、死亡の発生に関して性別に関連した異質性は認めなかった(交互作用のHR:1.06[95%CI:0.94~1.19]、pinteraction=0.33、I2=0.00%、pheterogeneity=0.76)。 心筋梗塞は、21試験の17万2,504例で7,558件発生した。男性患者では、低強度群に比べ高強度群で心筋梗塞のリスクが低く(HR:0.85[95%CI:0.80~0.90]、p<0.001)、女性患者でも有意に低かった(0.89[0.82~0.97]、p=0.01)。全体として、心筋梗塞の発生に関して性別に関連した異質性はみられなかった(交互作用のHR:1.05[95%CI:0.95~1.17]、pinteraction=0.36、I2=14.05%、pheterogeneity=0.28)。性別に依拠しない選択を 大出血は、28試験の24万4,179例で4,003件発現した(高強度群2,384件、低強度群1,619件)。男性患者では、低強度群に比べ高強度群で大出血のリスクが高く(HR:1.48[95%CI:1.37~1.60]、p<0.001)、女性患者でも有意に高かった(1.47[1.30~1.66]、p<0.001)。全体として、大出血のリスクに関して性別に関連した異質性はなかった(交互作用のHR:0.99[0.86~1.15]、pinteraction=0.93、I2=33.56%、pheterogeneity=0.05)。 著者は、「これらのデータは、虚血保護効果と出血リスクの程度は男女間でほぼ同じであると示唆している」「本研究の知見は、冠動脈疾患患者における抗血栓療法の選択は性別に依拠して行うべきではないとの考え方を裏付けるものである」「女性患者における抗血栓療法戦略の最適化に向けたさらなる研究の必要性が浮き彫りとなった」としている。

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心房細動による脳塞栓症に対するDOAC開始のタイミング(解説:内山真一郎氏)

 心房細動による脳塞栓症の再発予防に直接経口抗凝固薬を開始する適切なタイミングは確立されていなかった。本研究は、脳梗塞後の開始時期が4日以内と5日以後の効果を比較した4件の無作為化比較試験(TIMING、ELAN、OPTIMAS、START)のメタ解析である。1次評価項目は、30日以内の脳梗塞再発、症候性脳内出血、または分類不能の脳卒中であった。 結果は、4日以内に開始したほうが1次評価項目の複合エンドポイントが有意に少なく、脳梗塞の再発は少なく、脳内出血は増加しなかった。日本脳卒中学会の『脳卒中治療ガイドライン2021(改訂2025)』でも、「非弁膜症性心房細動を伴う急性期脳梗塞患者に、出血性梗塞のリスクを考慮して発症早期(例えば発症後4日以内)から直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)を投与することは妥当である(推奨度B、エビデンスレベル中)」となっており、このメタ解析により推奨度とエビデンスレベルは確実に上昇した。ちなみに、日本で行われた観察研究であるSAMURAI-AFとRELAXEDの統合解析から、DOACの開始時期はTIA、軽症、中等症、重症別に「1-2-3-4 day rule」が提唱されている。

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電話相談って困るんだけど…【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第9回

電話相談って困るんだけど…Point受診時期、受診可能な施設、搬送手段が明確になるような相談をしよう。相手の現状理解や、今後どう行動するかを確認する丁寧な対応を心がけよう。電話相談で診断をつけず、病態から予想されうる疾患の徴候を伝えて、再相談・受診の目安をわかりやすく伝えよう。症例その日の深夜帯は忙しく、立て続けに心筋梗塞やクモ膜下出血が搬送され、当直帯のスタッフは処置につきっきりだった。そんな時、2歳男児の母親から受診相談の電話がかかってきた。その日の午後に近医を受診し、嘔吐、下痢、腹痛で受診し胃腸炎と診断されたが、まだ、痛がっているので救急外来に受診したい旨の電話だった。母親によると前日に男児の4歳の姉も胃腸炎と診断され、姉は元気になったが、兄は痛がって寝つけないため心配だとの相談だった。当直医は処置に追われていることもあり、すでに診断されて内服薬もあるのだから大丈夫だろうと、やや早口で「胃腸炎でしたら、様子をみてもらえば大丈夫です」とだけ告げて電話を切った。翌日に小児科を受診し、腸重積と診断されそのまま入院となった。男児の両親から、「すぐに入院が必要な状態だったのに前日の電話対応はなんだ」と怒りのクレームを受けることになった。おさえておきたい基本のアプローチ昨今、電話救急医療相談(救急安心センター事業#7119)は全国的に広まりつつあり、日本国民の79%をカバーしている1)。一方で、多くの地域ではサービスが利用できず、またかかりつけ医に直接電話で相談する患者もいるだろう。夜中の電話相談は、なかなか難しいものだ。診察なしに、患者本人や家族からの情報だけで適切な判断を求められる、「これは何かの罠だろうか? あー、早く偉い人がAIとか進歩させて患者相談が全自動になって、この原稿もお役御免にならないかなー」と流れ星に願いをかけてみるも、もうしばらくは電話相談と付き合っていかなければならなさそうだ。そもそも、電話相談で大事なポイントは何だろうか? 相談相手が適切な受診行動をとることが最重要だ。(1)受診時期、(2)受診可能な施設、(3)搬送手段が相手に伝わるようにしよう。まず、受診時期については、病態の緊急度が相関する。今すぐに治療が必要な病態で、急いで救急外来を受診すべき状態か、今すぐの受診は必要ないが2、3日以降にかかりつけ医を受診して診察・治療が必要な状態か、かかりつけ医の次の予約外来の診察で間に合うのか、われわれの判断で患者の受診行動が大きく変わり、患者の転帰が変わることもある。前医の診断を鵜呑みにして判断すると、痛い目にあうのが電話相談の大きな落とし穴だ。実際に診察しないと、はっきりしたことは言えないとしっかり電話越しに伝える必要がある。夜中だと電話を受ける側も楽な疾患に飛びつきやすく、バイアスに陥りやすいものだ。受診可能な医療機関については、その地域ごとのルールを参照してほしい。とくに精神科、小児科、歯科については特別なルールがあることが多いだろう。かかりつけ医での対応なのか、対応する専用の施設があるのか、輪番病院での対応なのか。また、休日や夜間帯によっても、対応施設が変わるので、そこも考慮してほしい。搬送手段についても病態に応じたアドバイスが必要だ。酸素投与やルート確保も必要で救急車による搬送が考慮される病態、公共交通機関で受診が可能な病態、病態は緊急ではなくともADLの低下などで歩行不可能な高齢者で民間の介護タクシーなどの手段が必要な病態などが考えられる。病態に応じた搬送手段を提案しよう。上記を考慮に入れた電話相談のポイントを表に示す。表 電話相談のポイント画像を拡大する落ちてはいけない・落ちたくないPitfalls「電話対応で心配いらない旨を伝えたのですが、もう一度電話がかかってきて、別のスタッフにまた同じ相談をしていました賢明な読者は、普段の病状説明では紙に病名や対応を大きな文字でわかりやすく書き、ときに図示して工夫されていることだろう。一方、電話相談では音声でのコミュニケーションに限られる(今後オンライン診療やWeb会議システムで相談が置き換わるようであれば変わるかもしれないが)。普段は文字で書けば通じる言葉でも、音声だと一気に難易度アップ! まして、難聴の高齢者からの電話相談ではなおさらだ。ちゃんとこちらの伝えたい意図が伝わっているかを確認するうえで、現在の状態をどう理解したのか、これからどう行動するのかを相手から言ってもらって(復唱してもらって)、相談の終わりに確認しよう。これで不要な受診や電話が減って、平和な夜が過ごせること請け合いだ。Point電話相談は音声伝達であるため、相手の理解、どう行動するかを確認しよう話を聞いたら、前医で診断、処方があって外来でのフォロー予定も入っていたので、そのまま経過をみるように伝えました前医で診断を受け処方をされ外来でのフォローの予定が決まっていても、何か様子が変わったところがあったり、別の症状が出現したりで、心配になり電話をかけてきたのだろう。その心配な点を聞かずに、ただ経過を見なさいでは、相談者も納得がいかないだろう。相手の不安な点、ニーズを丁寧に聞き取ると、実は見逃してはいけない疾患が隠れていたなんてこともあるだろう(いや、これが結構あるんだよ。今回の症例でも腹痛がメインになる「胃腸炎」なんて誤診もいいところ!)。前医の診断をそもそも電話で聞いただけで信じてはいけない。診察なしに診断なんてできないと、明確に電話相談者に伝えるべきである。でもつっけんどんに冷たくあしらうのではダメ。共感的声色をもって対応しよう。落とし穴にはまらないよう、カスタマーセンターのスタッフになったつもりで聞いてみよう。日中、自分の病院にかかっている場合は、日中見逃されていた可能性もあり、ハイリスクと考えて受診してもらうほうが無難なんだよ。Point相手の不安に思う点を丁寧に聴取して、解消に努め、必要があれば再受診を促そう前医の診断は疑ってかかれ!不眠の訴えで電話があったので、翌日受診をお勧めしたのですが、自殺企図で救急搬送されました不眠の訴えの裏に、うつ病などの希死念慮を伴う精神疾患が存在することもある。緊急性のある精神疾患が隠れていないか確認して、場合によっては精神科救急への受診を勧めることも必要になる。また精神疾患があっても、生命を脅かすのは器質的疾患や外因によるものだから、精神疾患で片づけてしまってはいけない。Pointメンタルヘルスの電話相談にも緊急性のある疾患を考慮して適切に受診を促す電話で小児の母親から「嘔吐と下痢と腹痛があって周囲に流行もある」と聞いたので感染性胃腸炎と診断し、伝えましたあくまで電話相談では、現在の病態が受診すべきどうかを判断して、受診時期や施設、搬送手段についてアドバイスすることが求められる。限られた情報での診断は難しいし危険である。疑われる疾患やありうる疾患と徴候などを伝え、どうなったら再相談、受診したほうがよいのかを丁寧にアドバイスしよう。そのうえで、実際に診察しない電話だけでは診断はなかなかわからないものなので、適切なアドバイスができなくてすみませんと伝えよう。「どうせ電話でなんて診断がわかるわけがないんだから、心配ならきちんと受診しなさいよ!」なんて高圧的な態度で対応するのはダメチンだよ。また、高齢者や小児の家族からの相談は自分でうまく症状が伝えられないことが多く、訴えが聴取しにくい。高齢者では急にいつもと様子が違う状態になったならば、感染症などの背景疾患からせん妄になっていることも考えられるため、高齢者の受診の閾値は下げるべきだ。高齢者では、症状をマスクする解熱鎮痛薬、循環作動薬、抗凝固薬、抗血小板薬、抗がん薬やステロイドなどの免疫抑制薬を定期内服していることも多い。カルテなどの情報がなければ、内服の丁寧な聴取も病態判断に重要だ。また、小児では予備能が低く血行動態が破綻しやすいため、重症になるまでの時間が成人よりも急激であることが多い。症状が持続しているならば受診を勧めよう。親にとって、子供は自分の命に代えても大事な宝物なのだから。Point電話相談だけで診断はつけられない。予想される疾患や再相談や受診の目安を伝えようワンポイントレッスン電話相談の小ネタ〜これであなたも電話相談したくなる!?電話相談では、どんな相談が多い?スウェーデンの80歳以上の高齢者の電話医療相談の研究では、全体の17%が薬剤関連で、自分の入院に関連した情報(既往歴や内服などの情報照会)、尿路関連、腹痛といった相談が続く2)。薬剤関連が多いのは高齢者という特性が大きく関連しているだろうが、皆さんの実感とも近いだろうか。電話相談で不要な診察はどのくらい減らせる?デンマークの研究では、電話相談による介入で不適切な頻回受診が16%減らせるとの報告がある3)。また、英国の電話相談サービス“NHS111”にかかってきた救急外来受診相談にgeneral practitionerが介入することで、73%が救急外来受診以外の方針(1次医療機関や軽傷対応施設の受診:45.2%、経過観察など:27.8%)となったことが報告された4)。適切な電話相談で相当数の不要不急の診察が減らせそうだ。電話相談だけで済ませることになっても有害事象は起こっていない?電話相談を行っている地域と行っていない地域とで比較した報告によると、有害事象や死亡の転帰をたどった率はそれぞれ、0.001%、0.2〜0.5%だった3)。適切な電話相談が行われれば、相談者に有害な転帰をたどる可能性はきわめて低いといえる。 電話相談による医療コストは減らせる?これだけ不要な診察を減らして有害事象も起こさない電話相談なら、医療費削減にもよいのでないかと思うだろう。しかし、現在のところ英国の研究によれば、議論の余地があるところだ。救急医療コストの29%を減らしたとする一方、そのうちの75%は電話相談サービスの運営コストで相殺される。今後AIなどの発達によって相談サービスのコストが削減できると結果は変わってくるだろう。電話相談で患者の救急医療の満足度は変わる? 認識は変わる?電話相談によって大幅なコストダウンは見込めないが、患者満足度はどうだろうか?イギリスの電話相談サービス“NHS 111”のあるエリアとないエリアで比較して、救急外来を受診した患者の満足度や救急医療に対する認識に変化があるか調査したが、救急医療への満足度、認識に変化はないとの報告だった5)。こちらも相談サービスの質向上によって改善しうるだろう。勉強するための推奨文献 Ismail SA, et al. Br J Gen Pract. 2013;63:e813-820. Knowles E, et al. BMJ Open. 2016;6:e011846. 石川秀樹 ほか. 日本臨牀. 2016;74:p.303-313. 参考 1) 総務省消防庁HP. 救急安心センター事業(#7119)関連情報 2) Dahlgren K, et al. Scand J Prim Health Care. 2017;35:98-104. 3) Ismail SA, et al. Br J Gen Pract. 2013;63:e813-820. 4) Anderson A, Roland M. BMJ Open. 2015;5:e009444. 5) Knowles E, et al. BMJ Open. 2016;6:e011846. 執筆

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乳児ドナー心の手術台上での再灌流・移植に成功/NEJM

 米国・デューク大学のJohn A. Kucera氏らは、小児の心停止ドナー(DCD)の心臓を体外(on table、手術台上)で再灌流しレシピエントへの移植に成功した症例について報告した。DCDと再灌流をドナーの体内で行うnormothermic regional perfusion(NRP)法を組み合わせる方法は、ドナー数を最大30%増加させる可能性があるが、倫理的観点(脳循環温存に関する仮説など)からこの技術の導入は米国および他国でも限られており、DCD心臓の体外蘇生を容易にする方法が求められていた。NEJM誌2025年7月17日号掲載の報告。ドナーは生後1ヵ月、レシピエントは生後3ヵ月の乳児 ドナーは、生後1ヵ月(体重4.2kg、身長53cm)で、自宅にて心停止状態で発見され、救急隊到着までの25分間、心肺蘇生(CPR)を受けていなかった。到着後、アドレナリン投与により自発循環が一時的に回復したが、救急外来到着後に再度心停止を起こし、再度アドレナリンにより蘇生された。これ以前には健康に問題はなかったとされている。経胸壁心エコーでは両心室機能は正常、小さな卵円孔開存以外に解剖学的には正常であった。 レシピエントは、生後3ヵ月(体重3.9kg、身長48cm)の乳児で、ウイルス性心筋炎による拡張型心筋症と診断されていた。生後1ヵ月時に心原性ショックを呈し、静脈-動脈体外式膜型人工肺(VA-ECMO)、バルーン心房中隔裂切開術、動脈管開存のデバイス閉鎖術を受けていた。移植前には、壊死性腸炎、脳室上衣下胚芽層出血、低酸素性虚血性脳症の既往があり、搬送前には潜在性発作がみられた。 ドナーとレシピエントはABO血液型が適合し、共にサイトメガロウイルスIgG陽性およびEBウイルスIgG陽性であった。心摘出後の手術台上での再灌流で心移植に成功 手術室では、ドナーの生命維持治療の中止前に、ヘパリン投与を行うとともに、後方手術台で蘇生回路(小児用人工肺、遠心ポンプ、心臓から排出された血液を回収して再循環させるリザーバー)を準備した。 生命維持治療を中止し、心臓死宣言後に5分間の観察期間をおいたうえで、心臓を摘出し、蘇生回路に接続して動脈カニューレから37℃の血液を10mL/kg注入した。心臓はすぐに洞調律で拍動を開始し、冠動脈の灌流も良好で、心機能は正常と評価された。観察期間終了から心臓摘出まで3分38秒、摘出から再灌流まで1分32秒、蘇生時間は合計5分39秒であった。移植に適格と判断し、del Nido心筋保護液を注入して再度心停止を誘導し、冷却保存した。移植までの冷却保存時間は約2時間19分、冷虚血時間は合計2時間43分であった。 その後、移植手術は合併症なく終了した。レシピエントは、術後1日目の心エコーでは弁機能および両心室機能ともに異常は認められなかった。術後6日目に昇圧薬から離脱、術後7日目に抜管し、術後28日目には集中治療室(ICU)から退室、術後2ヵ月後には経口摂取が安定した状態で退院した。 有害事象は、術後2日目の経腸栄養開始後の腹部膨満(投与中止)、6日目の発熱(血液培養陰性、抗菌薬投与開始)、7日目および30日目の目標経管栄養速度での嘔吐、32日目および40日目の嘔吐であった。 本報告時点(術後3ヵ月)において、最新の心エコー検査でも正常な心機能が維持されており、移植片機能不全や急性細胞性または抗体介在性拒絶反応のいずれも認められていない。

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ますます循環器の後追いのStroke Neurology?(解説:後藤信哉氏)

 急性心筋梗塞に対する血栓溶解療法には、一時期大きな期待が集まった。血栓溶解の成功率を上げるための抗凝固薬、抗血小板療法についても一時的に注目が集まった時期がある。血小板凝集を阻害するGPIIb/IIIa阻害薬には血小板血栓不安定化効果があるとされた。筆者も、血流下の血小板血栓がGPIIb/IIIa阻害薬により不安定化することを実験的に示し、2004年のJACCに論文を発表している(Goto S, et al. J Am Coll Cardiol. 2004;44:316-323.)。 血栓溶解療法の効果を期待できる形成早期の血栓であれば、フィブリン血栓は線溶薬により溶解し、血小板血栓はGPIIb/IIIa阻害薬にて不安定化するとの仮説は立てやすい。本研究は、GPIIb/IIIa阻害薬による血小板血栓不安定化効果を、臨床試験により仮説検証した研究である。GPIIb/IIIa阻害薬の追加により神経学的予後がよくなるということは再灌流が早期にできたことを反映している可能性が高い。 前世紀に循環器内科が心筋梗塞治療として行った血栓溶解療法および各種抗血栓療法を現時点ではStroke Neurologyにて再現している。血栓溶解療法、抗血栓療法は不可避的に重篤な出血リスクを増大させる。血管造影検査にて診断を正確化すると同時に、閉塞血管を対象としたカテーテル治療を行うPCIは循環器領域では血栓溶解療法と各種抗血栓療法の積み上げを吹き飛ばしてしまった。Stroke NeurologyでもPCIが次世代の治療の中心になる可能性は高いと思う。ますます循環器の後追いをしているのがStroke Neurologyの現状であることを示す論文であった。

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主治医は大病院です! さぁ困った!【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第8回

主治医は大病院です! さぁ困った!Point多疾患併存では多職種連携、専門医とプライマリ・ケア医(かかりつけ医)の連携が重要。予後予測や再入院予測ツールをうまく使って患者の状態の概要を把握しよう。患者の身体機能や価値観や嗜好を聞き取り、治療やケアの方針決定に役立てよう。患者側の能力と治療による負荷のバランスから手掛かりを探ろう。症例84歳男性が某大学病院救急外来に失神したと来院した。少し離れて別居している息子が付き添いで一緒に来院した。かかりつけ医は大学病院だという。心筋梗塞でステント留置後、心房細動、慢性心不全で循環器内科にかかり、COPDで呼吸器内科に、陳旧性多発ラクナ梗塞と認知症で脳神経内科に、変形性膝関節症と腰部脊柱管狭窄症で整形外科に、大腸がん(手術適応はなく経過観察)で消化器外科にかかり、なんと5科にまたがり通院中であった。ここ1年で心不全の増悪で3回入院している。内服処方は抗凝固薬・抗血小板薬含め合計15剤もあり、失神を起こしやすい薬剤も数種類含んでいた。すべての薬剤を俯瞰的にみてくれる「かかりつけ医」は不在の状況であった。貧血を認めるものの以前とは大きく変化はなかった。頭部CTで軽度の左慢性硬膜下血腫を認め、脳神経外科にコンサルトするも、血腫の大きさや全身状態から入院や手術の適応はないとのこと。ダメ元で他科のDr.と相談するも「それはうちでの入院の適応じゃないですねぇ」と予想どおりのお返事。本人は以前の入院時に体幹抑制された経験から入院したくないとの希望だが、息子は憔悴した様子で「家は段差も多くて、年々歩き方もぎこちなくなり、また転倒しそうなので、何とか入院させてほしいのですが…」と入院を希望し、苛立ち始めている。主科が決まらず方針は絶賛迷走中。救急で担当した研修医、上級医は途方に暮れていた。おさえておきたい基本のアプローチマルモってなんだ!?主治医が大病院であるときに起きやすい問題にはどんなものがあるだろうか。慢性疾患で在宅ケア・緩和ケアへの移行を考慮する事例。慢性疾患が複数あり(多疾患併存)、各科に担当医がいて(ポリドクター)方針がまとまらない事例。ポリドクターのために起こるポリファーマシー(たとえば別の担当医の薬剤に対する副作用に薬剤が処方されるなど)。老年医学のアプローチが必要だが介入できていない事例。主治医が多忙ゆえに多職種連携がうまく機能していない事例。上記に加え心理・社会・家族問題が絡み合う複雑・困難な事例などだ。ここでは、主に多疾患併存とそこから起きる問題を論ずる。皆さんは多疾患併存という言葉があることはご存じだろうか? 筆者自身それについて学生時代に講義を受けた記憶はなく、最初「マルチモビディティ」と聞いたらなんか強そうだなというイメージをもった。マルサなら国税局査察部、マルボウなら暴力団の事案を取り扱う警視庁組織犯罪対策部、マルモはマルチモビディティ(多疾患併存:multimorbidity)のこと。歴史をひもとくと、おおよそ2003年ごろから急激に出版物でみられるようになった。多疾患併存の定義は、長期にわたり2つ以上の慢性疾患が併存している状態である1)。「疾患とその合併症のことでしょう?」と誤解されがちだ。たとえば、糖尿病が悪化して、末梢神経障害や網膜症、腎障害を合併した事例の場合は中心に糖尿病、そのほかは治療コントロール不良で発症した合併症という関係だから、多併存疾患とは異なる。多疾患併存の場合、罹患期間の長短あれども慢性疾患が併存している状態を指す。言葉は知らなくても、多疾患併存の患者は皆さんの外来にもよく来るはずだ。日本では外来患者に多疾患併存患者が占める割合は52.3%にのぼり、ポリファーマシーとの強い相関を認める2)。併存疾患が2つの多疾患併存患者は全く慢性疾患のない患者と比較しER受診は1.28倍、併存疾患が4つ以上で2.55倍になり、また入院も多疾患併存患者全体では2.58倍高くなる3)。多疾患併存患者の医療コストは、概して倍以上に膨れ上がっており、今後多疾患併存患者への対応は医療経済における大きな課題だ。家庭医をかかりつけ医にするメリット多疾患併存患者は俯瞰的・総合的にみてくれるかかりつけ医の存在が大きい。家庭医の定義ともいえるACCCAは保たれているだろうか(表1)。今後高齢化社会が進み、大病院志向の患者が途方に暮れる機会も増えてくるだろう。表1 家庭医をもつメリットと大病院を主治医にもつデメリット画像を拡大する多疾患併存患者で困難な症例では、家庭医をかかりつけ医にもつのが一番よい。疾患の性格上、大病院にかからざるを得ない場合は、予後に最も影響を与え中心となる慢性疾患の担当医に主治医の役割を果たしてもらうか、多疾患併存患者対応が得意な医師(場合によっては別の病院や診療所の医師でもよい)にかかりつけ医となってもらうことがお勧めだ。責任の所在がわからないと、患者や家族はたらい回しにされたと感じ不快に思うだろう。現代の医原病ともいえる。マルモ(Multi-morbidity)のアプローチ法多疾患併存患者のアプローチ法は、Up to dateやNICE guideline、米国老年学会でそれぞれ紹介されているが、筆者はアリアドネの原則をお勧めする4)(図1)。ギリシア神話の逸話(テセウスを迷宮から脱出させるのにアリアドネが糸で手助けした)より、そのように名付けられた由緒正しい(?)アプローチ法だ。日本ではさしづめ、蜘蛛の糸アプローチもしくは、芥川アプローチとでもいえようか(いや全然違うし、ネーミングに絶望感が漂っている泣)。図1 アリアドネの原則画像を拡大するまず、このアプローチのポイントは、実現可能な治療目標を、患者、医師、多職種間で共有していくことだ。多疾患併存の患者のケアに乗り出すきっかけは、併存する疾患、もしくはそれらの治療薬の相互作用が生じてしまったときだ。実現可能な治療目標を考えるときに、まず患者の心身状態や治療の相互作用を評価するところから始まる。その評価には、性格などの心理的問題、住環境や社会的サポートのレベル、孤独などの社会的環境、患者自身の疾患への理解も影響する。次に、患者の嗜好を考慮に入れたうえで、患者の健康問題への治療介入の優先順位を付ける。多疾患併存の患者では、各科担当医がそれぞれの疾患に対し治療方針を立てるが、それらが競合することはしばしばある。治療の優先順位付けには、患者の予後のみならず、患者の価値観、嗜好も考慮に入れねば、治療目標を患者、医療者の双方が納得して共有することはできない。そして、優先順位を付けた治療介入を患者に最適化したマネジメントまで高める。この段階では介入によって予測される利益が有害事象より勝っているかに注目する。こうして評価、問題の優先順位付け、マネジメントを実行し、必ずフォローアップする。また、新たな状況の変化(たとえば、新たな病気への罹患や周囲の環境の変化)によって、再度評価からアプローチが必要になる。多疾患併存患者へのアプローチは流動的に千変万化するんだ。女心と秋の空、そして多併存疾患患者は状況が変わりやすい。ここまでアプローチの原則について解説してきたが、思い起こせば何十年も前から出来上がった多疾患併存患者の複雑な事例だ。救急外来での一期一会で解決できるようなことはめったにない。しかし、少しでも問題を解きほぐす手助けなら救急外来でもできるはずだ。そのために重要なポイントを学んでおこう。落ちてはいけない・落ちたくないPitfalls「既往症も内服薬もたくさんあったので難治性の便秘かと思って経過観察にしたら、大腸がんでした」多疾患併存患者が救急外来に今までになかった症状で来院すると、併存疾患や内服薬の影響ではないかと思考がとらわれやすい。多疾患併存患者では一般外来において診断エラーが1.83倍起こりやすいとの報告がある5)。とくに、高齢患者には多疾患併存患者の割合が多く、悪性腫瘍の見逃しは避けたいところだ。Point多疾患併存患者は診断エラーが起こりやすい!「多疾患併存患者の状態や治療の評価って、忙しい救急外来で何をしたらよいのでしょう?」多疾患併存患者の状態評価を、多忙な救急外来でどのようにしていけばよいのか? 前述のとおり、多疾患併存患者は高齢者に多いので、高齢者総合評価(comprehensive geriatric assessment:CGA)は全体像の評価に有効だろう。しかし、忙しい救急外来で初診患者にくまなく行うことは難しい。ここではより簡略化したstart up CGAを紹介する(表2)。評価可能なものからやってみて、必要があれば外来主治医や入院担当医に引き継いで評価してもらおう。表2 start up CGA画像を拡大するPoint救急外来では多疾患併存患者の包括的評価はstart up CGAで簡潔に行うべし「多疾患併存患者の評価には心理・社会的問題も大事らしいけど、どのように評価すれば…?」多疾患併存患者の状態には心理・社会的問題も大きな影響を及ぼす。多疾患併存患者に精神疾患を合併すると救急外来への頻回受診が大きく増加すると報告されている6)。また、ホームレスの多疾患併存の患者の割合は一般人口の60代に相当し、救急外来受診率も一般人口と比べて60倍近くあると報告されている7)。救急外来で心理的問題を評価するにはMAPSO問診やPHQ-4が使いやすいだろう。また、社会的問題の把握にはsocial vital signs(HEALTH+P)がもれなく把握できて有用だよ8,9)(表3)。表3 social vital signs(HEALTH+P)(https://drive.google.com/file/d/1MZJRnd8ruUpE4kNjNO6ZmOOQ_50s_Yee/view)より改変画像を拡大するPoint多疾患併存患者の心理・社会的問題の評価にはMAPSO問診、PHQ-4やHEALTH+Pを使うべし多疾患併存患者の治療目標には予後予測が大事って聞くけど、どうすればいい?それぞれの慢性疾患が下降期(たとえば、急性増悪による入退院を繰り返す状態)でなければ、10年間の予測死亡率を算出する有用なツールがある。ePrognosisというサイト内でSuemoto indexが計算できる10)。サイトで患者の診療セッティングと、居住地で米国以外を選択すると入力画面が表示される。それぞれの項目を選択すると算出してくれる。一方、慢性疾患下降期で急性増悪を繰り返す場合、再入院を予測するツールとしてLACE indexがある11)。表4に算出方法を示す。A-scoreの重症か否かの判断は救急外来からの入院かどうかでする。4点以下が低リスク、5〜9点が中等度のリスク、10点以上が高リスクと判断する。表4 LACE index画像を拡大する終末期では予後に最も影響する疾患の予後予測ツールを用いるのがよい。一方で、複数臓器の障害ではPalliative Prognostic Scoreで30日死亡率をある程度予測可能だ12)。いずれの予測ツールも、ある程度イメージをつけるためと割り切って利用する。そこから、主治医や多職種で話し合い、在宅医療へ移行したり、advance care planningにつなげたりすればよいのだ。Point疾患ステージに合う予後予測ツールで状況を把握してよりきめ細やかなケアにつなげよう「前回救急受診した患者がまた来院しました。どうやら受診科、内服薬が多かったため、いくつかを勝手にやめていたようです」多疾患併存患者では治療負担(treatment burden)の増大が、自分の能力(capability)の許容量を越えてしまい病状が悪化することがある。かぜのときに毎食前に漢方薬を飲むだけでも飲み忘れてしまう筆者からすれば、毎食後に10剤近く間違えずに内服できる人はマジリスペクトです。内服薬だけでお腹いっぱいになってご飯が食べられない人、よくみるよねぇ。多疾患併存患者かつ内科病棟入院患者の約4割が薬剤関連の問題が原因で入院し、とくに薬剤の副作用やアドヒアランスの問題がきっかけだった13)。また、救急外来から入院した多疾患併存患者の約半数に治療上の対立を認めた(たとえば抗凝固薬を内服した患者に消化管出血を認めたなど)14)。お薬手帳にところせましと並べられた大量の薬剤名の記載をみると、カルテへの記録も面倒くさくなる。しかし、とくに多疾患併存患者では丁寧にチェックしないと足元をすくわれる。「くすりもリスク」、整理できる薬剤は主治医や処方医に依頼して減らすことで、患者の内服アドヒアランスも向上し有害事象も減って患者も医療者もハッピーになること請け合いだ。また、患者の能力に見合わない過度な生活習慣の指導がなされていることがある。多疾患併存患者にはガイドラインどおりにすべての生活指導を行うと、それがかえって治療負担となり逆にアドヒアランスが悪くなることがある。想像してみても、生活するために毎日朝から晩まで仕事をしながら、毎食後に血糖を測定しながら、毎日8,000歩を歩いて、週3で有酸素運動、食事は塩分制限…となると、患者も医療者もアンハッピーになる。優先順位に従い実現可能な生活習慣から指導するようにしよう。患者の生活を守るために生活指導をするのであって、生活指導して患者の生活が台なしになったのならとても笑えないのだ。Point内服アドヒアランスや薬剤有害事象に目を光らせ、治療対立が起きないように注意しよう「有害事象があったから薬剤中止ね。え? 薬が一包化されてる!?」薬剤有害事象が起きたので、その薬剤中止を患者に説明し主治医にも報告、まではよかったが、詰めが甘〜い! キャラメルマキアートの上の部分くらい甘〜い!! あなたがもし一包化されたものから色と印字を手がかりに目的の薬剤のみ取り出すことができるなら、海賊王にだってなれるはず!? 独居や老老介護で、周囲のサポートが得られない場合には絶望しかない。「〇〇えもん、たすけて〜」、「大丈夫だよ、□□太くん。多職種連携〜」。そう、こんなときのための多職種連携。ケアマネジャーやソーシャルワーカーから薬剤師や看護師、ヘルパーに連絡を取り、これ以上の薬剤有害事象を防ごう。とくに大病院の主治医で、訪問診療をした経験がない場合、どんなに想像力をたくましくしても、自宅で患者がどんな生活して、どんなことで困っているのかは診察室からは計り知れないものだ。実際に、自宅で患者と会っているケアマネジャーやヘルパー、訪問看護師の声に耳を傾けよう。ちなみに、多疾患併存患者に多職種連携とテレメディスンとを組み合わせることで救急外来で一泊入院するのと比較して22%コスト削減できたという15)。安い、早い、うまい! 多職種連携って本当に素晴らしいですね!Point多職種との連携を密にして、重要な指示をチームでもれなく伝えて不要な受診を防ごうワンポイントレッスン患者の対応能力と治療負担のバランス患者の対応能力(capability)と治療負担(treatment burden)のバランスに注目するとアプローチしやすい。どのようなバランスかを図2、表5に示す。図2 患者の対応能力と治療負担のバランス画像を拡大する表5 患者の対応能力と治療負担患者の対応能力を上げて、治療負担を減らす方向に働きかけることで崩れかけたバランスをもち直すことができる。どの要素が負担になっているのか、もしくは対応能力が足りないのかを把握することで、複雑な事例のなかでレバレッジポイントを見出し問題解決の糸口がつかめる。何事もバランスが大事だ。遊びも勉強も大事。お金も大事だが、学際的な仕事をすることも大事。給料が安いなんて文句言わないで、勉強できる環境で仕事ができることをありがたいと思おう、ネ、〇〇センセ!?勉強するための推奨文献 Farmer C, et al. BMJ. 2016;354:i4843. Muth C, et al. BMC Med. 2014;12:223. Muth C, et al. J Intern Med. 2019;285:272-288. Boyd C, et al. J Am Geriatr Soc. 2019;67:665-673. Mercer S, et al., eds. ABC of Multimorbidity. John Wiley& Sons. 2014. 佐藤健太 著. 慢性臓器障害の診かた、考えかた 中外医学社. 2021. 参考 1) NICE guideline 2016 2) Aoki T, et al. Sci Rep. 2018;8:3806. 3) Soley-Bori M, et al. Br J Gen Pract. 2020;71:e39-e46. 4) Muth C, et al. BMC Med. 2014;12:223. 5) Aoki T, Watanuki S. BMJ Open. 2020;10:e039040. 6) Gaulin M, et al. CMAJ. 2019;191:E724-E732. 7) Bowen M, et al. Br J Gen Pract. 2019;69:e515-e525. 8) Mizumoto J, et al. J Gen Fam Med. 2019;20:164-165. 9) Terui T, et al. J Gen Fam Med. 2020;21:92-93. 10) Suemoto CK, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2017;72:410-416. 11) Wang H, et al. BMC Cardiovasc Disord, 14:97, 2014 12) Maltoni M, et al. J Pain Symptom Manage. 1999;17:240-247. 13) Lea M, et al. PLoS One. 2019;14:e0220071. 14) Markun S, et al. PLoS One. 2014;9:e110309. 15) Pariser P, et al. Ann Fam Med. 2019;17:S57-S62. 執筆

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日本人の妊娠関連VTEの臨床的特徴と転帰が明らかに

 妊娠中の女性は静脈血栓塞栓症(VTE)リスクが高く、これは妊産婦死亡の重要な原因の 1 つである。妊婦ではVTEの発症リスク因子として有名なVirchowの3徴(血流うっ滞、血管内皮障害、血液凝固能の亢進)を来たしやすく、妊婦でのVTE発生率は同年齢の非妊娠女性の6〜7倍に相当するとも報告されている1)。そこで今回、京都大学の馬場 大輔氏らが日本人の妊婦のVTEの実態を調査し、妊娠関連VTEの重要な臨床的特徴と結果を明らかにした。 馬場氏らは、メディカル・データ・ビジョンのデータベースを用いて、2008年4月~2023年9月までにVTEで入院した可能性のある妊婦1万5,470例を特定。さらに、抗凝固療法が実施されていない患者や画像診断検査が施行されていない患者などを除外し、最終的に妊婦でVTEと確定診断され抗凝固療法を含めた介入が行われた410例の臨床転帰(6ヵ月時のVTE再発、6ヵ月時の出血イベント、院内全死因死亡)などを評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の平均年齢は33歳、平均BMIは23.8kg/m2であった。・対象患者の既往歴は、糖尿病19例(4.6%)、出血の既往17例(4.1%)、先天性凝固異常17例(4.1%)、消化性潰瘍13例(3.2%)、高血圧症10例(2.4%)、脂質異常症7例(1.7%)などであった。・410例中110例(26.8%)は、肺塞栓症(PE)であり、300例(73.2%)は深部静脈血栓症(DVT)のみであった。・VTE発症時の妊娠週数の中央値は31週であった。・VTEの発生率は二峰性分布を示し、126例(30.7%)が妊娠初期(0~妊娠13週)にVTEを発症し、236例(57.6%)が妊娠後期(妊娠28週以降)にVTEを発症し、PEは妊娠後期に多くみられた。・抗凝固療法に関しては、374例(91.2%)には未分画ヘパリンが、18例(4.4%)には低分子量ヘパリン(LMWH、ダルテパリン:2例、エノキサパリン:16例)が投与された。・急性期治療について、血栓溶解療法は2例(0.5%)、下大静脈フィルター留置は17例(4.1%)が受けた。人工呼吸器管理は8例(2.0%)、ECMOは5例(1.2%)に使用された。・ 6ヵ月の追跡期間中、17例(4.1%)でVTEの再発が認められ、3例(0.7%)で頭蓋内出血および消化管出血を含む出血が発生した。・入院中に4例(1.0%)が死亡し、そのうち3例には帝王切開などの外科手術の既往があった。 本研究の限界として、データベースが急性期病院のデータに限定されているため、他の医療機関で治療された患者データが含まれていないこと、詳細な臨床データ(バイタルサイン、PE重症度、検査結果など)が不足していること、PEの過小診断の可能性、入院中のVTE再発を除外したことにより急性期の再発が過小評価されている可能性が挙げられている。 最後に、研究者らは「今回の検討にて、循環器系および産科の医師にとって参考となる妊娠関連のVTEの実態が明らかになった。また、その治療において、LMWHが欧米のガイドラインで推奨されているにもかかわらず、国内ではVTEに対するLMWHの使用が保険適用外であるため、未分画ヘパリンが大半に選択されている実情も明らかになった。この問題は今後対処されるべき」と結んでいる。

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オンデキサの周術期投与に関する提言、4団体が発出

 日本心臓血管麻酔学会、日本胸部外科学会、日本心臓血管外科学会、日本体外循環技術医学会の4学会は、直接作用型第Xa因子阻害薬の中和剤であるアンデキサネット アルファ(商品名:オンデキサ)が高度なヘパリン抵抗性を惹起する可能性について、医療現場への一層の周知が必要と判断し、「アンデキサネット アルファの周術期投与に関する提言」を6月30日に発出した。 ヘパリンを用いる心臓血管外科手術の術前または術中にアンデキサネット アルファを投与した後、著明なヘパリン抵抗性を呈し、手術遂行に重大な支障を来した症例が複数報告されている。これを受け、2023年9月に日本心臓血管麻酔学会が注意喚起を出していたが、その後も類似の症例が継続して報告されていた。 4学会からの提言は以下のとおり。【提言】1.アンデキサネット アルファの投与は、高度なヘパリン抵抗性を惹起する可能性がある。 直接作用型第Xa因子阻害薬(以下、Xa阻害薬)を内服中の患者に対してアンデキサネット アルファを投与した後、ヘパリン抵抗性によって人工心肺装置の使用が困難となった症例が多数報告されている。アンデキサネット アルファの投与は、結果として患者に必要な治療の実施を妨げる可能性がある。したがって、Xa阻害薬内服中の患者に対する緊急処置に際しては、本剤を安易に第一選択とせず、緊急手術を含む治療全体の方針を多角的かつ総合的に検討した上で、その適応を慎重に判断することを強く推奨する。2.アンデキサネット アルファの使用に際しては、多職種による協議を経て適応を決定することが望ましい。 使用の可否は単一の診療科のみで判断するのではなく、治療に関与する他の診療科医師、臨床工学技士、薬剤師など、多職種による協議を経た上で決定されるべきである。 3.アンデキサネット アルファを人工心肺中に投与することは避け、人工心肺離脱後の止血困難に対する投与判断も慎重な検討を要する。 人工心肺装置稼働中の投与は、装置の使用に著しい支障をきたす可能性があるため避けるべきである。また人工心肺離脱後の止血困難に対して本剤を一律に投与することは推奨されない。血算、凝固検査、血液粘弾性検査等の結果をもとにXa阻害薬以外の凝固障害の原因を除外し、さらに、再度人工心肺を導入する可能性がないことを確認した上で判断することが推奨される。4.アンデキサネット アルファによって惹起されるヘパリン抵抗性への対応法は確立されていない。 ヘパリンの追加投与のみでは活性化凝固時間(ACT)の延長を得られないことが多い。現時点では、アンチトロンビンの単独投与またはヘパリンとの併用、あるいはナファモスタットの投与が、ACT延長に一定の効果を示す可能性がある。5.本提言は、各医療機関内での共有と体制整備を通じて活用されるべきである。 アンデキサネット アルファの使用およびそれに伴うヘパリン抵抗性への対応法を、各医療機関の診療科・診療部門間で共有し、院内での運用体制をあらかじめ策定しておくことが推奨される アンデキサネット アルファは、アピキサバン、リバーロキサバン、エドキサバンなどのXa阻害薬を服用中の患者において、生命を脅かす出血または止血困難な出血が発現した際の抗凝固作用の中和を適応として、2022年5月より国内で販売が開始されている。

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心房細動を伴う脳梗塞のDOAC開始、早期vs.遅延~メタ解析/Lancet

 急性虚血性脳卒中と心房細動を有する患者において、直接経口抗凝固薬(DOAC)の遅延開始(5日以降)と比較して早期開始(4日以内)は、30日以内の再発性虚血性脳卒中、症候性脳内出血、分類不能の脳卒中の複合アウトカムのリスクを有意に低下させ、症候性脳内出血を増加させないことが、英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのHakim-Moulay Dehbi氏らが実施した「CATALYST研究」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年6月23日号に掲載された。DOAC開始の早期と遅延をメタ解析で比較 研究グループは、急性虚血性脳卒中発症後におけるDOACの早期開始と遅延開始の有効性の評価を目的に、無作為化対照比較試験の系統的レビューと、個別の患者データのメタ解析を行った(英国心臓財団などの助成を受けた)。 医学関連データベースを検索し、2025年3月16日までに発表された無作為化対照比較試験を選出した。対象は、事前登録を行い、無作為化され、臨床アウトカムを評価し、急性虚血性脳卒中と心房細動を有する患者を、承認を受けた用量のDOACの早期開始(4日以内)または遅延開始(5日以降)に割り付けた臨床試験であった。 主要アウトカムは、無作為化から30日以内の再発性虚血性脳卒中、症候性脳内出血、分類不能の脳卒中の複合とした。早期開始で再発が有意に少なく、症候性脳内出血は増加しない 4つの臨床試験(TIMING、ELAN、OPTIMAS、START)を同定した。データ共有に応じなかった参加者や、DOACの開始が4日以内または5日以降に割り付けられなかった参加者を除外したうえで、5,441例(平均年齢77.7[SD 10.0]歳、女性2,472例[45.4%]、NIHSSスコア中央値5点)をメタ解析に含めた。主要アウトカムのデータは5,429例から得た。 30日の時点における主要アウトカムの発生率は、遅延開始群が3.02%(83/2,746例)であったのに対し、早期開始群は2.12%(57/2,683例)と有意に低かった(オッズ比[OR]:0.70[95%信頼区間[CI]:0.50~0.98]、p=0.039)。絶対リスクの群間差は-0.0093(p=0.039)であった。また、1件の主要アウトカムを防止するための治療必要数は108(95%CI:55~2,500)だった。 30日時の再発性虚血性脳卒中は早期開始群で有意に少なく(1.68%[45/2,683例]vs.2.55%[70/2,746例]、OR:0.66[95%CI:0.45~0.96]、p=0.029)、症候性脳内出血は早期開始群で増加しなかった(0.37%[10/2,683例]vs.0.36%[10/2,746例]、1.02[0.43~2.46]、p=0.96)。また、早期開始群では頭蓋外の大出血の増加も認めなかった。90日後の主要アウトカムには差がない 一方、90日後の主要アウトカムの発生率は、早期開始群で低かったが、両群間に有意な差はなかった(3.10%[83/2,678例]vs.3.51%[96/2,738例]、OR:0.88[95%CI:0.65~1.19]、p=0.40)。 著者は、「これらの知見は、実臨床におけるDOACの早期の投与開始を支持するものである」「本研究のデータは、脳内出血への懸念から、脳卒中の重症度を問わず、抗凝固療法を最大で2週間遅らせるという一般的に行われている治療法を支持しない」「今後のCATALYSTサブグループ解析では、DOACの早期開始のリスクとベネフィットについて、さらに検討を進める予定である」としている。

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エイリアンハンド症候群【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第285回

エイリアンハンド症候群皆さんは、エイリアンハンド症候群という病名をご存じでしょうか。Panikkath R, et al. The alien hand syndrome. Proc (Bayl Univ Med Cent) . 2014 Jul;27(3):219-20.静かな夕方、テレビを見ていた77歳の女性に突然異変が起こりました。左手が意思に反して勝手に動き出し、顔や髪を撫で回すように動き続けたのです。まるで誰かに操られているかのような手の動きに、患者さんは恐怖を感じました。右手で左手を抑えようとしても、まったく制御することができません。この奇妙な現象は30分間も続きました。その後、左手の制御は戻りましたが、今度は左上肢の麻痺と脱力が現れ、歩行時には左足を引きずるような状態になっていました。この患者さんは慢性心房細動を患っており、脊椎手術のために抗凝固薬を一時的に中止していました。頭部MRIの結果、両側頭頂葉に急性梗塞が確認され、心原性脳塞栓症による「エイリアンハンド症候群」と診断されました。「エイリアンハンド症候群」は、手が意思に反して複雑で目的のある動きをする、まれな神経症状です。脳梁、頭頂皮質、運動前野、前帯状皮質の異常が原因とされ、通常は脳腫瘍や動脈瘤、神経外科手術後に見られますが、脳梗塞による発症はまれとされています。機能的MRIの研究では、正常な人では運動開始時に広範な神経ネットワークが活性化されるのに対し、エイリアンハンド症候群では対側の一次運動皮質のみが孤立して活性化されることがわかっています。頭頂皮質の損傷により、意図的な運動計画システムから解放された一次運動野が単独で活性化し、さらに固有受容感覚のフィードバックの喪失や左半側空間無視が組み合わさることで、患者の意識や意志なしに自発的な運動が開始されると考えられています。エイリアンハンド症候群に対する確立された治療法は現在のところありません。症状は数日から数年間続くことが報告されており、この症例のように30分間という短い持続時間は、まれだそうです。

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臨床区域麻酔科学書

区域麻酔の幅広い内容を取り上げ、日常臨床をサポート!超音波ガイド下区域麻酔を行うにあたり、各区域麻酔がどのような外科手術に適応となるのか、穿刺手技はどうしたら良いかなど、必要な解剖、適応、穿刺法、起こりうる合併症とその対策について解説。また神経生理や薬理、必要機器の基本的知識、抗凝固療法、および区域麻酔の応用として小児区域麻酔、無痛分娩、Awake craniotomy、心臓血管麻酔についても取り上げた。安全な区域麻酔の実臨床に必須の1冊。【特長】1)区域麻酔の幅広い内容を取り上げ、日常臨床をサポートする。2)手技の理解や実践に役立つアドバイス、注釈、コラムなどの補足情報が充実。3)最新のエビデンス、最近の傾向や注意点を的確にフォロー。4)紙面の二次元コードから端末機器で穿刺動画等を見ながら手技の実際を学べる。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する臨床区域麻酔科学書定価14,300円(税込)判型B5判(並製)頁数368頁発行2025年6月編集日本麻酔科医会連合出版部編集主幹廣田 和美(日本麻酔科医会連合理事/青森県立中央病院 院長)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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中硬膜動脈塞栓術で、慢性硬膜下血腫の再発リスクは軽減するか/JAMA

 慢性硬膜下血腫(CSDH)に対する開頭術後の再発リスクが高い患者において、標準的な薬物療法単独と比較して標準治療に中硬膜動脈(MMA)塞栓術を追加しても、6ヵ月後の再発率を改善せず、同側CSDH再発に対する再手術やCSDH関連の累積入院期間にも差はないことが、フランス・Pitie-Salpetriere HospitalのEimad Shotar氏らが実施した「EMPROTECT試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2025年6月5日号で報告された。フランスの無作為化試験 EMPROTECT試験は、フランスの12施設で実施した非盲検(エンドポイント評価は盲検下)無作為化試験であり、2020年7月~2023年3月に参加者を募集した(Programme Hospitalier de Recherche Clinique[PHRC]などの助成を受けた)。 年齢18歳以上、初発CSDHまたは再発CSDHで開頭術を受け、CSDHの再発リスクが高い患者を対象とした。被験者を、薬物療法に加え手術から7日以内に塞栓術(300~500μmエンボスフィア、Merit Medical製)を受ける群(介入群)、または標準的な薬物療法のみを受ける群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、6ヵ月の時点でのCSDH再発率とし、独立審査委員会が盲検下に評価した。6ヵ月後のCSDH再発率、介入群14.8%vs.対照群21.0% 342例(年齢中央値77歳[四分位範囲[IQR]:68~83]、男性274例[80.1%])を登録し、介入群に171例、対照群に171例を割り付けた。308例(90.1%)が試験を完了した。ベースラインで、237例(69.3%)が抗血小板薬または抗凝固薬の投与を受けていた。CSDHは、257例(75.1%)が片側性、85例(24.9%)が両側性だった。 6ヵ月後のCSDH再発率は、介入群が14.8%(24/162例、同側CSDH再発22例、死亡[神経学的原因または原因不明]2例)、対照群は21.0%(33/157例、32例、1例)と、両群間に有意な差を認めなかった(オッズ比:0.64[95%信頼区間[CI]:0.36~1.14]、補正後絶対群間差:-6%[95%CI:-14~2]、p=0.13)。塞栓術関連合併症の発現、重度1例、軽度3例 副次エンドポイントはいずれも両群間に有意差はなかった。同側CSDH再発に対する再手術は、介入群の7例(4.3%)、対照群の13例(8.3%)で行われた(p=0.14)。1ヵ月後および6ヵ月後の機能障害(修正Rankinスケールスコア≧4点)と死亡にも差はみられなかった。CSDH関連の直接または間接的な累積入院期間中央値は、介入群が10日、対照群は9日であった(p=0.12)。 また、介入群における塞栓術関連合併症は、重度が1例(0.6%[頸動脈カテーテル留置中に発生した頭蓋内中大脳動脈閉塞に対する機械的血栓回収術])、軽度が3例(1.8%[一過性神経脱落症候2例、軽度頭痛1例])に発現した。 著者は、「効果の大きさは、非接着性液体塞栓物質を用いたMMA塞栓術の有益性を示した試験など、最近の他の試験と一致しており、これらの知見を総合的に考慮することで、今後の研究や、CSDH管理におけるこの治療法の活用に役立つ可能性がある」としている。

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DOACによる消化管出血での死亡率~20研究のメタ解析

 抗凝固薬による消化管出血は、発生頻度や死亡リスクの高さから、その評価が重要となる。しかし、重篤な消化管出血後の転帰(死亡を含む)は、現段階で十分に特徴付けられておらず、重症度が過小評価されている可能性がある。今回、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のNicholas L.J. Chornenki氏らは、直接経口抗凝固薬(DOAC)関連の重篤な消化管出血が30日全死亡率の有意な上昇と関連していることを明らかにした。Thrombosis Research誌2025年5月24日号掲載の報告。 研究者らは、静脈血栓塞栓症または心房細動と診断されDOACを処方された成人を対象とした大規模ランダム化比較試験とコホート研究について、データベース(MEDLINE、EMBASE、Cochrane CENTRAL)で検索し、消化管出血の発生件数に対する死亡件数で測定した消化管出血後の30日全死亡率を主要評価項目とした。また、対象研究のバイアスリスクをmodified QUIPS(Quality In Prognosis Studies)で評価し、逆分散法を用いて要約推定値を算出した。 主な結果は以下のとおり。・7,824件の研究から646件をレビューし、20件が解析に含まれた。・解析対象は、全20研究においてDOAC治療後に重篤な消化管出血を来した3,987例であった。・30日全死亡率の統合推定値は8.4%(95%信頼区間[CI]:4.9~12.5、I2=83%)であった。・サブグループ解析では、以下の結果が示された。◯前向き研究(9研究) 主な消化管出血:675例、30日全死亡率:10.3%(95%CI:6.5~14.7、I2=24%)◯後ろ向き研究(11研究) 同:3,312例、同:7.3%(95%CI:2.2~14.4、I2=90%)◯バイアスリスクが高いと判断された研究(9研究) 同:387例、同:12.9%(95%CI:6.3~21.1、I2=44%)◯バイアスリスクが低いと判断された研究(10研究) 同:3,562例、同:6.1%(95%CI:2.9~10.1、I2=89%)※1件の研究はバイアスリスクが不明であった。 なお研究者らは、「本集団における死亡原因と寄与因子について、さらなる研究を行うことで高リスク患者を特定し、リスクを軽減できる戦略を策定していく必要がある」としている。

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EGFR陽性NSCLC、アミバンタマブ+ラゼルチニブが新たな1次治療の選択肢に/J&J

 Johnson & Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)は、2025年3月27日にアミバンタマブ(商品名:ライブリバント)とラゼルチニブ(同:ラズクルーズ)の併用療法について、「EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」の適応で、厚生労働省より承認を取得し、2025年5月21日にラゼルチニブを販売開始した。ラゼルチニブの販売開始により、EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療で、アミバンタマブ+ラゼルチニブが使用可能となった。そこで、2025年5月22日にメディアセミナーが開催され、アミバンタマブ+ラゼルチニブが1次治療で使用可能となったことの意義や、使用上の注意点などを林 秀敏氏(近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門 主任教授)が解説した。EGFRとMETを標的とし、EGFR-TKIのアンメットニーズを満たす可能性 『肺癌診療ガイドライン2024』では、EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの1次治療として第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)のオシメルチニブ単剤を強く推奨している(推奨の強さ:1、エビデンスの強さ:A)1)。 しかし、第3世代EGFR-TKIによる治療でも耐性が生じてしまうことも報告されている。耐性機序としては、TP53遺伝子変異、EGFR遺伝子変異(C797S変異)、MET遺伝子増幅などがある。MET経路はEGFR経路とクロストークすることが知られており、EGFR-TKIによってEGFR経路を阻害してもMET経路が活性化してしまうことで、がん細胞は増殖・生存すると考えられている。 そこで開発されたのが、EGFRとMETを標的とする二重特異性抗体アミバンタマブである。アミバンタマブは、EGFRおよびMETに結合することで、それらへのリガンド結合を阻害し、MET経路の活性化を抑制することが期待される。また、免疫細胞上に存在するFcγ受容体を介して抗体依存性細胞傷害活性を惹起することによっても、抗腫瘍活性を示すことが考えられている。オシメルチニブ単剤と比較してPFSとOSを改善 未治療のEGFR遺伝子変異(exon19delまたはL858R)陽性の進行・転移NSCLC患者を対象として、アミバンタマブ+ラゼルチニブ、ラゼルチニブ単剤とオシメルチニブ単剤を比較した国際共同第III相無作為化比較試験「MARIPOSA試験」2)において、アミバンタマブ+ラゼルチニブ群は、オシメルチニブ単剤群と比較して無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)が有意に改善したことが報告されている。本試験の結果を基に、EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発NSCLCの1次治療として、アミバンタマブ+ラゼルチニブの製造販売が承認された。PFSおよびOSの結果は以下のとおり(アミバンタマブ+ラゼルチニブ群vs.オシメルチニブ単剤群)。<PFS(主要評価項目)>・PFS中央値23.72ヵ月vs.16.59ヵ月(ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.58~0.85、p=0.0002)・2年PFS率48%vs.34%<OS(重要な副次評価項目)>・OS中央値未到達vs.36.73ヵ月(HR:0.75、95%CI:0.61~0.92、p=0.0048)・死亡が認められた割合40.3%vs.50.6%注意すべき副作用とその対処法 アミバンタマブ+ラゼルチニブの使用において注意すべき副作用として、皮膚障害、静脈血栓塞栓症、インフュージョンリアクションなどがある。これらについて、林氏は「発現頻度が高く、注意が必要となるが、十分にマネジメント可能である」と述べる。そこで、林氏はこれらの対処法を紹介した。 皮膚障害については、非常に発現が多いこともあり、医師による患者教育が重要となると林氏は指摘する。実際には、皮膚の保湿をしっかりと行い、皮疹が発現したときにはすぐに外用薬を使用するように指導するほか、低刺激の洗浄剤を用いて体をきれいに保つことを指導するという。洗浄剤について、林氏は「子供用のシャンプーの使用をおすすめすることもある」と述べ、低刺激のものを選ぶことの重要性を強調した。 静脈血栓塞栓症は、MARIPOSA試験のアミバンタマブ+ラゼルチニブ群の37%に発現したことが報告されており、留意が必要な有害事象である。これについては、予防的抗凝固薬の投与により発現が抑えられることがわかってきており、今回の承認にあたって添付文書に「治療開始4ヵ月間は、アピキサバン1回2.5mgを1日2回経口投与すること」と記載されている。 インフュージョンリアクションは初回投与時(1サイクル目の1日目)に発現することが多く、対策としては、とくに最初の2回目の投与まではデキサメタゾンを用いると林氏は述べた。EGFR-TKI耐性後のアミバンタマブ+化学療法も使用可能に オシメルチニブ単剤療法で病勢進行が認められたEGFR遺伝子変異(exon19delまたはL858R)陽性NSCLC患者を対象とした国際共同第III相無作為化比較試験「MARIPOSA-2試験」3)の結果から、EGFR-TKIによる治療後に病勢進行が認められたNSCLC患者に対し、カルボプラチンおよびペメトレキセドとの併用においてアミバンタマブが使用可能となったことも2025年5月19日に発表されている。MARIPOSA-2試験において、アミバンタマブ+化学療法群は化学療法群と比較して、主要評価項目のPFSが有意に延長し(HR:0.48、95%CI:0.36~0.64、p<0.001)、PFS中央値はアミバンタマブ+化学療法群6.28ヵ月、化学療法群4.17ヵ月であった。 以上から、EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者の1次治療および2次治療でアミバンタマブが使用可能となった。これを受け、林氏は「EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者の生存期間の改善のために、アミバンタマブが今後幅広く使用されることが期待される」と締めくくった。

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第243回 循環器救急に迫る崩壊危機:若手離れと医師不足、救命の現場が揺らぐ/CVIT

<先週の動き> 1.循環器救急に迫る崩壊危機:若手離れと医師不足、救命の現場が揺らぐ/CVIT 2.出産費用、2026年度にも自己負担無償化へ? 医療現場に広がる波紋/厚労省 3.市販薬のコンビニ販売解禁へ 薬機法改正、医療現場への影響は?/国会 4.DPC病院が25施設減の1,761施設、再編加速も課題山積/厚労省 5.赤穂市民病院の医療事故、被告の赤穂市と医師に8,900万円賠償命令/神戸地裁 6.薬剤師の指示見逃し脳出血死、病院が遺族に和解金1,000万円/愛知県 1.循環器救急に迫る崩壊危機:若手離れと医師不足、救命の現場が揺らぐ/CVIT日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)は、5月15日にプレスセミナーを開き、急性心筋梗塞の治療体制に深刻な危機が迫っていることを明らかにした。とくに若手医師の循環器救急離れが進む現状に警鐘を鳴らし、医師確保に向けた提言を公表した。背景には2024年4月に施行された医師の働き方改革がある。時間外労働の上限設定により医師の負担軽減は一定の効果を上げたが、業務量の多い循環器内科では過酷な勤務実態が「見える化」され、志望者が激減。過去10年間でほとんどの診療科が医師数を増やす中、循環器内科は外科以上の速さで減少している。CVITの調査では、所属医師の6割が週1回以上の自宅待機に従事し、夜間救急後の代償休息が得られていないケースが9割に上る。この労働環境が医師の健康や医療の質に悪影響を与えていると指摘されている。また、心筋梗塞の死亡率も地域差が大きく、搬送時間や受入体制によって最大3倍の格差が生じている。CVITは、急性心筋梗塞患者の早期治療が可能な施設を地図上で検索できる「ハートマップ」を公開し、発症から90分以内の治療開始が理想とされる中、地域住民の事前認知による搬送時間短縮を狙っている。CVITは、「経済的インセンティブの整備」・「タスクシフトの推進」・「勤務環境の改善」を3本柱とした改革を提案し、厚生労働省にも循環器医療を特例的に評価するよう働きかけている。とくに経済的インセンティブは「避けて通れない」とされ、医師の偏在是正政策の中で循環器救急を優先対象とする必要性も訴えられている。持続可能な循環器救急体制の構築には、制度的な支援と国民的理解が不可欠であり、引き続き政府や国民に働きかけていく必要がある。また、これに先立って、5月12日に日本循環器学会は、日本人の死因第2位が心疾患であるにもかかわらず、循環器内科医の数が他の診療科に比べて増加しておらず、とりわけ若手医師の減少と高齢化が進んでいることで、人手不足が深刻化していることについて国民に対して警鐘を鳴らしている。とくに地方では医師の確保が難しく、診療体制の維持が困難になっている。このため循環器学会は、タスクシフトや施設の集約化などの対策を進めているが、限界があるため、国民の理解と支援を求めている。 参考 1) 急性心筋梗塞、治療の遅れで死亡率上昇 地域医療の危機(日本心血管インターベンション治療学会) 2) 急性心筋梗塞、助かる未来へ 循環器救急の課題に迫る(同) 3) ハートマップ:全国インターベンション施設マップ(同) 4) 国民の皆様へ:『循環器医不足が深刻な状況です』(日本循環器学会) 2.出産費用、2026年度にも自己負担無償化へ? 医療現場に広がる波紋/厚労省厚生労働省は5月14日、出産費用の自己負担を2026年度にも無償化する方針を明らかにし、有識者検討会で大筋了承された。これを受け、今後は社会保障審議会で具体的な制度設計が進められる見通し。現在、正常分娩は公的医療保険の対象外で、出産育児一時金として50万円が支給されるのみだが、出産費用の平均は51.8万円(2024年度上半期)に達し、地域差も大きく、東京では平均60万円超となっており、この結果、約45%の家庭が一時金で費用を賄いきれず、自己負担が重くのしかかっている。無償化の方法として、正常分娩への保険適用と3割自己負担の撤廃案、一時金のさらなる増額案などが浮上している。しかし、保険適用には「標準的な出産費用」の定義の明確化や診療報酬設定の課題があり、自由価格設定が制限されれば経営への影響を懸念する産科施設の声も根強い。無痛分娩や個室料、お祝い膳といった付帯サービスの扱いや、妊婦健診の自己負担軽減も議論の対象だ。費用の透明化や、妊産婦が選択可能な情報整備の必要性も指摘されている。少子化対策として期待が寄せられる一方で、現役世代の社会保険料負担や、医療提供体制の持続可能性など課題は多く、丁寧な制度設計が求められている。 参考 1) 第10回「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」(厚労省) 2) 出産費用2026年度にも無償化、制度設計検討へ…厚労省案を有識者検討会が了承(読売新聞) 3) 分娩施設が少子化や物価高騰で窮地に…九州・山口・沖縄では3年間で46か所減、阿蘇など5地域でゼロ(同) 4) 出産費用、無償化へ 厚労省方針、26年度の保険適用は困難の見通し(朝日新聞) 5) 標準的な出産費用の無償化へ、26年度めどに制度設計 保険適用への懸念の声も 厚労省検討会(CB news) 6) 2026年度目途に「標準的な出産費用の自己負担」を無償化、産科医療機関等の経営実態等にも配慮を-出産関連検討会(Gem Med) 3.市販薬のコンビニ販売解禁へ 薬機法改正、医療現場への影響は?/国会医薬品医療機器法(薬機法)の改正法が5月14日に参議院本会議で成立した。この改正により、薬剤師や登録販売者が不在のコンビニエンスストアなどでも、オンラインによる服薬指導を条件として一般用医薬品(市販薬)の販売が可能となる。これにより、夜間・休日などに薬局へいけない際の市販薬購入が現実的となるが、一方で、オーバードーズ対策として、せき止めやかぜ薬など一部薬剤については若年層への販売を小容量化、1個に制限する措置が導入される。オンライン指導を担う薬剤師は、同一都道府県内の薬局に所属し、販売店舗の保管管理状況などを定期確認する義務も課される。また、後発医薬品の供給不安が続く現状を受け、出荷停止時の国への報告義務や供給責任者の設置、調剤業務の外部委託容認などが盛り込まれた。さらに、医薬品の安定供給体制強化として、国が事業者に対し増産を要請できる法的枠組みが整備される。加えて、「ドラッグ・ロス」問題への対応として、新薬の迅速承認制度や、スタートアップ支援を目的とした新たな基金の創設も明記された。とくに、がん領域などで有用性が合理的に予測される医薬品については、臨床試験の一部を省略し、早期承認が可能となる。改正法の施行は段階的に進められ、コンビニでの販売制度は2年以内、乱用対策は1年以内に開始される。医薬品アクセスの利便性向上と供給の安定、さらに薬剤師職能の拡張が期待される一方、安全性や乱用リスクとのバランスをどうとるかが今後の課題となる。 参考 1) コンビニで市販薬の購入可能に、改正薬機法が成立 ローソンなど歓迎(日経新聞) 2) コンビニで市販薬の購入が可能に 改正法が成立 乱用対策で若年者への販売制限設ける(産経新聞) 3) 市販薬がコンビニ購入可能に オーバードーズ対策で若者に購入制限も(毎日新聞) 4.DPC病院が25施設減の1,761施設、再編加速も課題山積/厚労省厚生労働省は5月15日に開催した中央社会保険医療協議会(中医協)で、2025年6月時点のDPC(診断群分類別包括評価)対象病院が、前年から25病院減少し1,761病院となる見込みであると報告した。算定病床数も約7,800床減の47万5,910床となり、制度導入以降で最も多かった2016年の49万5,227床から約2万床減ったことになる。減少の背景には、病院の再編や病棟の機能転換がある。とくに、2024年度診療報酬改定で新設された「地域包括医療病棟入院料」への移行が進み、急性期医療から回復期医療への再配置が加速。DPC対象基準未達による退出(4病院)に加え、地域包括ケアへの転換を理由とした退出が19病院に上った。一方、DPC制度内の各病院の診療実績や機能を評価する「機能評価係数II」は全体的に低下傾向にあり、制度内での格差が浮き彫りになっている。大学病院では、鹿児島大学病院が最も高い係数を維持し、標準病院群では宮崎県立延岡病院が引き続き上位に位置する。厚労省は、2025年度のDPC制度運用に際して、地域医療への貢献度や救急対応実績を重視する再評価を実施。激変緩和措置の終了や災害特例の対応も踏まえたが、DPCからの退出が相次ぐ現状は、地域医療構想に掲げた「機能分化・連携による病床再編」が一部進んだともいえる一方で、急性期医療の担い手の減少による地域偏在や機能の空白が懸念される。地域医療構想の達成目標の2025年を迎え、急性期から地域包括ケアへの移行は制度設計通りに進行しているが、医療ニーズに対応した病床配置が実現されているとは言い難い。厚労省による今後の実態把握と、質の高い急性期医療の維持に向けた制度的支援の在り方が問われる局面となっている。 参考 1) 中央社会保険医療協議会 総会[議事次第](厚労省) 2) 令和7年度におけるDPC/PDPSの現況について(同) 3) DPC対象病院数、前年比25病院減の1,761病院に(日経ヘルスケア) 4) DPC病院25減、6月以降1,761病院に 病棟の機能再編で退出相次ぐ(CB news) 5) 2025年度のDPC機能評価係数II内訳や救急補正係数の状況など公表、自院と他院を比較し「自院の取り組み」検証が重要-中医協総会(Gem Med) 5.赤穂市民病院の医療事故、被告の赤穂市と医師に8,900万円賠償命令/神戸地裁兵庫県赤穂市民病院で2020年に行われた腰の手術で、当時74歳の女性患者が誤って神経を切断され、両脚に重度のまひなどの後遺障害を負った問題で、神戸地裁姫路支部は2025年5月14日、被告である赤穂市と執刀した元脳神経外科医の松井 宏樹氏(47)に対し、約8,900万円の損害賠償を命じる判決を言い渡した。判決は、医師の技量不足自体は認めなかったが、「注意義務違反の程度は著しい」と断じた。手術では出血で視野が不明瞭な状態でドリルを使用し、馬尾神経を切断。松井医師は過去にも複数の医療事故に関与し、2020年に執刀を禁じられた後、2021年に同院を退職していた。病院側の事後対応にも問題があり、説明や謝罪が遅れたことも慰謝料算定の要因となった。原告側は「基本的な医療行為ができていなかったと裁判所が認めた」と評価し、他の被害者救済にもつながる判決とした。赤穂市は「真摯に受け止め、信頼回復に努める」とコメントしている。 参考 1) 手術ミスで両足に重度のまひ 赤穂市民病院側に8,900万円賠償命令 執刀医の注意義務違反「著しい」(神戸新聞) 2) 赤穂市民病院の医療事故 医師と市に賠償命じる判決(NHK) 3) 赤穂市民病院の手術ミス訴訟 市と執刀医に8,900万円支払い命令(毎日新聞) 4) ドリルで脊髄神経を切断、執刀医らに8,800万円の賠償命令…執刀医は半年強で医療事故8件起こす(読売新聞) 6.薬剤師の指示見逃し脳出血死、病院が遺族に和解金1,000万円/愛知県2023年に愛知県の岡崎市民病院で、70代の男性入院患者が抗凝固薬の過剰投与により脳出血を起こし、死亡する医療事故が発生した。患者は、脳梗塞予防のため抗凝固薬を服用していたが、腎機能障害があるため通常の半分量に減薬する必要があった。しかし、主治医が薬剤師らからの減量指示を見落とし、通常量を8日間にわたり投与した。その結果、男性は入院から約2週間後に脳出血を起こして死亡した。病院は当初から医師による情報確認の不足を認め、調査の結果、薬の過剰投与と死亡の因果関係を否定できないとして過失を認定。遺族に対して1,000万円の損害賠償を支払い、和解する方針を明らかにした。病院は会見で謝罪し、院内の情報共有体制の見直しや、医師と薬剤師間の連携強化など再発防止策を講じると表明した。 参考 1) 抗凝固薬を基準量の2倍投与、岡崎市民病院で医療ミス 患者死亡で1,000万円賠償へ(中日新聞) 2) 岡崎市民病院 “患者の死因に投薬ミス” 遺族と和解へ(NHK) 3) 投薬量誤り70代男性死亡 病院が1千万円の賠償支払いへ(朝日新聞) 4) 血液の抗凝固剤を過大投与後に70代男性患者が脳出血で死亡 薬を半分に減らすよう薬剤師などがWEBの情報共有で主治医に伝えるも確認せず 愛知・岡崎市民病院(TBS)

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