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ますます循環器の後追いのStroke Neurology?(解説:後藤信哉氏)

 急性心筋梗塞に対する血栓溶解療法には、一時期大きな期待が集まった。血栓溶解の成功率を上げるための抗凝固薬、抗血小板療法についても一時的に注目が集まった時期がある。血小板凝集を阻害するGPIIb/IIIa阻害薬には血小板血栓不安定化効果があるとされた。筆者も、血流下の血小板血栓がGPIIb/IIIa阻害薬により不安定化することを実験的に示し、2004年のJACCに論文を発表している(Goto S, et al. J Am Coll Cardiol. 2004;44:316-323.)。 血栓溶解療法の効果を期待できる形成早期の血栓であれば、フィブリン血栓は線溶薬により溶解し、血小板血栓はGPIIb/IIIa阻害薬にて不安定化するとの仮説は立てやすい。本研究は、GPIIb/IIIa阻害薬による血小板血栓不安定化効果を、臨床試験により仮説検証した研究である。GPIIb/IIIa阻害薬の追加により神経学的予後がよくなるということは再灌流が早期にできたことを反映している可能性が高い。 前世紀に循環器内科が心筋梗塞治療として行った血栓溶解療法および各種抗血栓療法を現時点ではStroke Neurologyにて再現している。血栓溶解療法、抗血栓療法は不可避的に重篤な出血リスクを増大させる。血管造影検査にて診断を正確化すると同時に、閉塞血管を対象としたカテーテル治療を行うPCIは循環器領域では血栓溶解療法と各種抗血栓療法の積み上げを吹き飛ばしてしまった。Stroke NeurologyでもPCIが次世代の治療の中心になる可能性は高いと思う。ますます循環器の後追いをしているのがStroke Neurologyの現状であることを示す論文であった。

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主治医は大病院です! さぁ困った!【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第8回

主治医は大病院です! さぁ困った!Point多疾患併存では多職種連携、専門医とプライマリ・ケア医(かかりつけ医)の連携が重要。予後予測や再入院予測ツールをうまく使って患者の状態の概要を把握しよう。患者の身体機能や価値観や嗜好を聞き取り、治療やケアの方針決定に役立てよう。患者側の能力と治療による負荷のバランスから手掛かりを探ろう。症例84歳男性が某大学病院救急外来に失神したと来院した。少し離れて別居している息子が付き添いで一緒に来院した。かかりつけ医は大学病院だという。心筋梗塞でステント留置後、心房細動、慢性心不全で循環器内科にかかり、COPDで呼吸器内科に、陳旧性多発ラクナ梗塞と認知症で脳神経内科に、変形性膝関節症と腰部脊柱管狭窄症で整形外科に、大腸がん(手術適応はなく経過観察)で消化器外科にかかり、なんと5科にまたがり通院中であった。ここ1年で心不全の増悪で3回入院している。内服処方は抗凝固薬・抗血小板薬含め合計15剤もあり、失神を起こしやすい薬剤も数種類含んでいた。すべての薬剤を俯瞰的にみてくれる「かかりつけ医」は不在の状況であった。貧血を認めるものの以前とは大きく変化はなかった。頭部CTで軽度の左慢性硬膜下血腫を認め、脳神経外科にコンサルトするも、血腫の大きさや全身状態から入院や手術の適応はないとのこと。ダメ元で他科のDr.と相談するも「それはうちでの入院の適応じゃないですねぇ」と予想どおりのお返事。本人は以前の入院時に体幹抑制された経験から入院したくないとの希望だが、息子は憔悴した様子で「家は段差も多くて、年々歩き方もぎこちなくなり、また転倒しそうなので、何とか入院させてほしいのですが…」と入院を希望し、苛立ち始めている。主科が決まらず方針は絶賛迷走中。救急で担当した研修医、上級医は途方に暮れていた。おさえておきたい基本のアプローチマルモってなんだ!?主治医が大病院であるときに起きやすい問題にはどんなものがあるだろうか。慢性疾患で在宅ケア・緩和ケアへの移行を考慮する事例。慢性疾患が複数あり(多疾患併存)、各科に担当医がいて(ポリドクター)方針がまとまらない事例。ポリドクターのために起こるポリファーマシー(たとえば別の担当医の薬剤に対する副作用に薬剤が処方されるなど)。老年医学のアプローチが必要だが介入できていない事例。主治医が多忙ゆえに多職種連携がうまく機能していない事例。上記に加え心理・社会・家族問題が絡み合う複雑・困難な事例などだ。ここでは、主に多疾患併存とそこから起きる問題を論ずる。皆さんは多疾患併存という言葉があることはご存じだろうか? 筆者自身それについて学生時代に講義を受けた記憶はなく、最初「マルチモビディティ」と聞いたらなんか強そうだなというイメージをもった。マルサなら国税局査察部、マルボウなら暴力団の事案を取り扱う警視庁組織犯罪対策部、マルモはマルチモビディティ(多疾患併存:multimorbidity)のこと。歴史をひもとくと、おおよそ2003年ごろから急激に出版物でみられるようになった。多疾患併存の定義は、長期にわたり2つ以上の慢性疾患が併存している状態である1)。「疾患とその合併症のことでしょう?」と誤解されがちだ。たとえば、糖尿病が悪化して、末梢神経障害や網膜症、腎障害を合併した事例の場合は中心に糖尿病、そのほかは治療コントロール不良で発症した合併症という関係だから、多併存疾患とは異なる。多疾患併存の場合、罹患期間の長短あれども慢性疾患が併存している状態を指す。言葉は知らなくても、多疾患併存の患者は皆さんの外来にもよく来るはずだ。日本では外来患者に多疾患併存患者が占める割合は52.3%にのぼり、ポリファーマシーとの強い相関を認める2)。併存疾患が2つの多疾患併存患者は全く慢性疾患のない患者と比較しER受診は1.28倍、併存疾患が4つ以上で2.55倍になり、また入院も多疾患併存患者全体では2.58倍高くなる3)。多疾患併存患者の医療コストは、概して倍以上に膨れ上がっており、今後多疾患併存患者への対応は医療経済における大きな課題だ。家庭医をかかりつけ医にするメリット多疾患併存患者は俯瞰的・総合的にみてくれるかかりつけ医の存在が大きい。家庭医の定義ともいえるACCCAは保たれているだろうか(表1)。今後高齢化社会が進み、大病院志向の患者が途方に暮れる機会も増えてくるだろう。表1 家庭医をもつメリットと大病院を主治医にもつデメリット画像を拡大する多疾患併存患者で困難な症例では、家庭医をかかりつけ医にもつのが一番よい。疾患の性格上、大病院にかからざるを得ない場合は、予後に最も影響を与え中心となる慢性疾患の担当医に主治医の役割を果たしてもらうか、多疾患併存患者対応が得意な医師(場合によっては別の病院や診療所の医師でもよい)にかかりつけ医となってもらうことがお勧めだ。責任の所在がわからないと、患者や家族はたらい回しにされたと感じ不快に思うだろう。現代の医原病ともいえる。マルモ(Multi-morbidity)のアプローチ法多疾患併存患者のアプローチ法は、Up to dateやNICE guideline、米国老年学会でそれぞれ紹介されているが、筆者はアリアドネの原則をお勧めする4)(図1)。ギリシア神話の逸話(テセウスを迷宮から脱出させるのにアリアドネが糸で手助けした)より、そのように名付けられた由緒正しい(?)アプローチ法だ。日本ではさしづめ、蜘蛛の糸アプローチもしくは、芥川アプローチとでもいえようか(いや全然違うし、ネーミングに絶望感が漂っている泣)。図1 アリアドネの原則画像を拡大するまず、このアプローチのポイントは、実現可能な治療目標を、患者、医師、多職種間で共有していくことだ。多疾患併存の患者のケアに乗り出すきっかけは、併存する疾患、もしくはそれらの治療薬の相互作用が生じてしまったときだ。実現可能な治療目標を考えるときに、まず患者の心身状態や治療の相互作用を評価するところから始まる。その評価には、性格などの心理的問題、住環境や社会的サポートのレベル、孤独などの社会的環境、患者自身の疾患への理解も影響する。次に、患者の嗜好を考慮に入れたうえで、患者の健康問題への治療介入の優先順位を付ける。多疾患併存の患者では、各科担当医がそれぞれの疾患に対し治療方針を立てるが、それらが競合することはしばしばある。治療の優先順位付けには、患者の予後のみならず、患者の価値観、嗜好も考慮に入れねば、治療目標を患者、医療者の双方が納得して共有することはできない。そして、優先順位を付けた治療介入を患者に最適化したマネジメントまで高める。この段階では介入によって予測される利益が有害事象より勝っているかに注目する。こうして評価、問題の優先順位付け、マネジメントを実行し、必ずフォローアップする。また、新たな状況の変化(たとえば、新たな病気への罹患や周囲の環境の変化)によって、再度評価からアプローチが必要になる。多疾患併存患者へのアプローチは流動的に千変万化するんだ。女心と秋の空、そして多併存疾患患者は状況が変わりやすい。ここまでアプローチの原則について解説してきたが、思い起こせば何十年も前から出来上がった多疾患併存患者の複雑な事例だ。救急外来での一期一会で解決できるようなことはめったにない。しかし、少しでも問題を解きほぐす手助けなら救急外来でもできるはずだ。そのために重要なポイントを学んでおこう。落ちてはいけない・落ちたくないPitfalls「既往症も内服薬もたくさんあったので難治性の便秘かと思って経過観察にしたら、大腸がんでした」多疾患併存患者が救急外来に今までになかった症状で来院すると、併存疾患や内服薬の影響ではないかと思考がとらわれやすい。多疾患併存患者では一般外来において診断エラーが1.83倍起こりやすいとの報告がある5)。とくに、高齢患者には多疾患併存患者の割合が多く、悪性腫瘍の見逃しは避けたいところだ。Point多疾患併存患者は診断エラーが起こりやすい!「多疾患併存患者の状態や治療の評価って、忙しい救急外来で何をしたらよいのでしょう?」多疾患併存患者の状態評価を、多忙な救急外来でどのようにしていけばよいのか? 前述のとおり、多疾患併存患者は高齢者に多いので、高齢者総合評価(comprehensive geriatric assessment:CGA)は全体像の評価に有効だろう。しかし、忙しい救急外来で初診患者にくまなく行うことは難しい。ここではより簡略化したstart up CGAを紹介する(表2)。評価可能なものからやってみて、必要があれば外来主治医や入院担当医に引き継いで評価してもらおう。表2 start up CGA画像を拡大するPoint救急外来では多疾患併存患者の包括的評価はstart up CGAで簡潔に行うべし「多疾患併存患者の評価には心理・社会的問題も大事らしいけど、どのように評価すれば…?」多疾患併存患者の状態には心理・社会的問題も大きな影響を及ぼす。多疾患併存患者に精神疾患を合併すると救急外来への頻回受診が大きく増加すると報告されている6)。また、ホームレスの多疾患併存の患者の割合は一般人口の60代に相当し、救急外来受診率も一般人口と比べて60倍近くあると報告されている7)。救急外来で心理的問題を評価するにはMAPSO問診やPHQ-4が使いやすいだろう。また、社会的問題の把握にはsocial vital signs(HEALTH+P)がもれなく把握できて有用だよ8,9)(表3)。表3 social vital signs(HEALTH+P)(https://drive.google.com/file/d/1MZJRnd8ruUpE4kNjNO6ZmOOQ_50s_Yee/view)より改変画像を拡大するPoint多疾患併存患者の心理・社会的問題の評価にはMAPSO問診、PHQ-4やHEALTH+Pを使うべし多疾患併存患者の治療目標には予後予測が大事って聞くけど、どうすればいい?それぞれの慢性疾患が下降期(たとえば、急性増悪による入退院を繰り返す状態)でなければ、10年間の予測死亡率を算出する有用なツールがある。ePrognosisというサイト内でSuemoto indexが計算できる10)。サイトで患者の診療セッティングと、居住地で米国以外を選択すると入力画面が表示される。それぞれの項目を選択すると算出してくれる。一方、慢性疾患下降期で急性増悪を繰り返す場合、再入院を予測するツールとしてLACE indexがある11)。表4に算出方法を示す。A-scoreの重症か否かの判断は救急外来からの入院かどうかでする。4点以下が低リスク、5〜9点が中等度のリスク、10点以上が高リスクと判断する。表4 LACE index画像を拡大する終末期では予後に最も影響する疾患の予後予測ツールを用いるのがよい。一方で、複数臓器の障害ではPalliative Prognostic Scoreで30日死亡率をある程度予測可能だ12)。いずれの予測ツールも、ある程度イメージをつけるためと割り切って利用する。そこから、主治医や多職種で話し合い、在宅医療へ移行したり、advance care planningにつなげたりすればよいのだ。Point疾患ステージに合う予後予測ツールで状況を把握してよりきめ細やかなケアにつなげよう「前回救急受診した患者がまた来院しました。どうやら受診科、内服薬が多かったため、いくつかを勝手にやめていたようです」多疾患併存患者では治療負担(treatment burden)の増大が、自分の能力(capability)の許容量を越えてしまい病状が悪化することがある。かぜのときに毎食前に漢方薬を飲むだけでも飲み忘れてしまう筆者からすれば、毎食後に10剤近く間違えずに内服できる人はマジリスペクトです。内服薬だけでお腹いっぱいになってご飯が食べられない人、よくみるよねぇ。多疾患併存患者かつ内科病棟入院患者の約4割が薬剤関連の問題が原因で入院し、とくに薬剤の副作用やアドヒアランスの問題がきっかけだった13)。また、救急外来から入院した多疾患併存患者の約半数に治療上の対立を認めた(たとえば抗凝固薬を内服した患者に消化管出血を認めたなど)14)。お薬手帳にところせましと並べられた大量の薬剤名の記載をみると、カルテへの記録も面倒くさくなる。しかし、とくに多疾患併存患者では丁寧にチェックしないと足元をすくわれる。「くすりもリスク」、整理できる薬剤は主治医や処方医に依頼して減らすことで、患者の内服アドヒアランスも向上し有害事象も減って患者も医療者もハッピーになること請け合いだ。また、患者の能力に見合わない過度な生活習慣の指導がなされていることがある。多疾患併存患者にはガイドラインどおりにすべての生活指導を行うと、それがかえって治療負担となり逆にアドヒアランスが悪くなることがある。想像してみても、生活するために毎日朝から晩まで仕事をしながら、毎食後に血糖を測定しながら、毎日8,000歩を歩いて、週3で有酸素運動、食事は塩分制限…となると、患者も医療者もアンハッピーになる。優先順位に従い実現可能な生活習慣から指導するようにしよう。患者の生活を守るために生活指導をするのであって、生活指導して患者の生活が台なしになったのならとても笑えないのだ。Point内服アドヒアランスや薬剤有害事象に目を光らせ、治療対立が起きないように注意しよう「有害事象があったから薬剤中止ね。え? 薬が一包化されてる!?」薬剤有害事象が起きたので、その薬剤中止を患者に説明し主治医にも報告、まではよかったが、詰めが甘〜い! キャラメルマキアートの上の部分くらい甘〜い!! あなたがもし一包化されたものから色と印字を手がかりに目的の薬剤のみ取り出すことができるなら、海賊王にだってなれるはず!? 独居や老老介護で、周囲のサポートが得られない場合には絶望しかない。「〇〇えもん、たすけて〜」、「大丈夫だよ、□□太くん。多職種連携〜」。そう、こんなときのための多職種連携。ケアマネジャーやソーシャルワーカーから薬剤師や看護師、ヘルパーに連絡を取り、これ以上の薬剤有害事象を防ごう。とくに大病院の主治医で、訪問診療をした経験がない場合、どんなに想像力をたくましくしても、自宅で患者がどんな生活して、どんなことで困っているのかは診察室からは計り知れないものだ。実際に、自宅で患者と会っているケアマネジャーやヘルパー、訪問看護師の声に耳を傾けよう。ちなみに、多疾患併存患者に多職種連携とテレメディスンとを組み合わせることで救急外来で一泊入院するのと比較して22%コスト削減できたという15)。安い、早い、うまい! 多職種連携って本当に素晴らしいですね!Point多職種との連携を密にして、重要な指示をチームでもれなく伝えて不要な受診を防ごうワンポイントレッスン患者の対応能力と治療負担のバランス患者の対応能力(capability)と治療負担(treatment burden)のバランスに注目するとアプローチしやすい。どのようなバランスかを図2、表5に示す。図2 患者の対応能力と治療負担のバランス画像を拡大する表5 患者の対応能力と治療負担患者の対応能力を上げて、治療負担を減らす方向に働きかけることで崩れかけたバランスをもち直すことができる。どの要素が負担になっているのか、もしくは対応能力が足りないのかを把握することで、複雑な事例のなかでレバレッジポイントを見出し問題解決の糸口がつかめる。何事もバランスが大事だ。遊びも勉強も大事。お金も大事だが、学際的な仕事をすることも大事。給料が安いなんて文句言わないで、勉強できる環境で仕事ができることをありがたいと思おう、ネ、〇〇センセ!?勉強するための推奨文献 Farmer C, et al. BMJ. 2016;354:i4843. Muth C, et al. BMC Med. 2014;12:223. Muth C, et al. J Intern Med. 2019;285:272-288. Boyd C, et al. J Am Geriatr Soc. 2019;67:665-673. Mercer S, et al., eds. ABC of Multimorbidity. John Wiley& Sons. 2014. 佐藤健太 著. 慢性臓器障害の診かた、考えかた 中外医学社. 2021. 参考 1) NICE guideline 2016 2) Aoki T, et al. Sci Rep. 2018;8:3806. 3) Soley-Bori M, et al. Br J Gen Pract. 2020;71:e39-e46. 4) Muth C, et al. BMC Med. 2014;12:223. 5) Aoki T, Watanuki S. BMJ Open. 2020;10:e039040. 6) Gaulin M, et al. CMAJ. 2019;191:E724-E732. 7) Bowen M, et al. Br J Gen Pract. 2019;69:e515-e525. 8) Mizumoto J, et al. J Gen Fam Med. 2019;20:164-165. 9) Terui T, et al. J Gen Fam Med. 2020;21:92-93. 10) Suemoto CK, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2017;72:410-416. 11) Wang H, et al. BMC Cardiovasc Disord, 14:97, 2014 12) Maltoni M, et al. J Pain Symptom Manage. 1999;17:240-247. 13) Lea M, et al. PLoS One. 2019;14:e0220071. 14) Markun S, et al. PLoS One. 2014;9:e110309. 15) Pariser P, et al. Ann Fam Med. 2019;17:S57-S62. 執筆

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日本人の妊娠関連VTEの臨床的特徴と転帰が明らかに

 妊娠中の女性は静脈血栓塞栓症(VTE)リスクが高く、これは妊産婦死亡の重要な原因の 1 つである。妊婦ではVTEの発症リスク因子として有名なVirchowの3徴(血流うっ滞、血管内皮障害、血液凝固能の亢進)を来たしやすく、妊婦でのVTE発生率は同年齢の非妊娠女性の6〜7倍に相当するとも報告されている1)。そこで今回、京都大学の馬場 大輔氏らが日本人の妊婦のVTEの実態を調査し、妊娠関連VTEの重要な臨床的特徴と結果を明らかにした。 馬場氏らは、メディカル・データ・ビジョンのデータベースを用いて、2008年4月~2023年9月までにVTEで入院した可能性のある妊婦1万5,470例を特定。さらに、抗凝固療法が実施されていない患者や画像診断検査が施行されていない患者などを除外し、最終的に妊婦でVTEと確定診断され抗凝固療法を含めた介入が行われた410例の臨床転帰(6ヵ月時のVTE再発、6ヵ月時の出血イベント、院内全死因死亡)などを評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の平均年齢は33歳、平均BMIは23.8kg/m2であった。・対象患者の既往歴は、糖尿病19例(4.6%)、出血の既往17例(4.1%)、先天性凝固異常17例(4.1%)、消化性潰瘍13例(3.2%)、高血圧症10例(2.4%)、脂質異常症7例(1.7%)などであった。・410例中110例(26.8%)は、肺塞栓症(PE)であり、300例(73.2%)は深部静脈血栓症(DVT)のみであった。・VTE発症時の妊娠週数の中央値は31週であった。・VTEの発生率は二峰性分布を示し、126例(30.7%)が妊娠初期(0~妊娠13週)にVTEを発症し、236例(57.6%)が妊娠後期(妊娠28週以降)にVTEを発症し、PEは妊娠後期に多くみられた。・抗凝固療法に関しては、374例(91.2%)には未分画ヘパリンが、18例(4.4%)には低分子量ヘパリン(LMWH、ダルテパリン:2例、エノキサパリン:16例)が投与された。・急性期治療について、血栓溶解療法は2例(0.5%)、下大静脈フィルター留置は17例(4.1%)が受けた。人工呼吸器管理は8例(2.0%)、ECMOは5例(1.2%)に使用された。・ 6ヵ月の追跡期間中、17例(4.1%)でVTEの再発が認められ、3例(0.7%)で頭蓋内出血および消化管出血を含む出血が発生した。・入院中に4例(1.0%)が死亡し、そのうち3例には帝王切開などの外科手術の既往があった。 本研究の限界として、データベースが急性期病院のデータに限定されているため、他の医療機関で治療された患者データが含まれていないこと、詳細な臨床データ(バイタルサイン、PE重症度、検査結果など)が不足していること、PEの過小診断の可能性、入院中のVTE再発を除外したことにより急性期の再発が過小評価されている可能性が挙げられている。 最後に、研究者らは「今回の検討にて、循環器系および産科の医師にとって参考となる妊娠関連のVTEの実態が明らかになった。また、その治療において、LMWHが欧米のガイドラインで推奨されているにもかかわらず、国内ではVTEに対するLMWHの使用が保険適用外であるため、未分画ヘパリンが大半に選択されている実情も明らかになった。この問題は今後対処されるべき」と結んでいる。

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オンデキサの周術期投与に関する提言、4団体が発出

 日本心臓血管麻酔学会、日本胸部外科学会、日本心臓血管外科学会、日本体外循環技術医学会の4学会は、直接作用型第Xa因子阻害薬の中和剤であるアンデキサネット アルファ(商品名:オンデキサ)が高度なヘパリン抵抗性を惹起する可能性について、医療現場への一層の周知が必要と判断し、「アンデキサネット アルファの周術期投与に関する提言」を6月30日に発出した。 ヘパリンを用いる心臓血管外科手術の術前または術中にアンデキサネット アルファを投与した後、著明なヘパリン抵抗性を呈し、手術遂行に重大な支障を来した症例が複数報告されている。これを受け、2023年9月に日本心臓血管麻酔学会が注意喚起を出していたが、その後も類似の症例が継続して報告されていた。 4学会からの提言は以下のとおり。【提言】1.アンデキサネット アルファの投与は、高度なヘパリン抵抗性を惹起する可能性がある。 直接作用型第Xa因子阻害薬(以下、Xa阻害薬)を内服中の患者に対してアンデキサネット アルファを投与した後、ヘパリン抵抗性によって人工心肺装置の使用が困難となった症例が多数報告されている。アンデキサネット アルファの投与は、結果として患者に必要な治療の実施を妨げる可能性がある。したがって、Xa阻害薬内服中の患者に対する緊急処置に際しては、本剤を安易に第一選択とせず、緊急手術を含む治療全体の方針を多角的かつ総合的に検討した上で、その適応を慎重に判断することを強く推奨する。2.アンデキサネット アルファの使用に際しては、多職種による協議を経て適応を決定することが望ましい。 使用の可否は単一の診療科のみで判断するのではなく、治療に関与する他の診療科医師、臨床工学技士、薬剤師など、多職種による協議を経た上で決定されるべきである。 3.アンデキサネット アルファを人工心肺中に投与することは避け、人工心肺離脱後の止血困難に対する投与判断も慎重な検討を要する。 人工心肺装置稼働中の投与は、装置の使用に著しい支障をきたす可能性があるため避けるべきである。また人工心肺離脱後の止血困難に対して本剤を一律に投与することは推奨されない。血算、凝固検査、血液粘弾性検査等の結果をもとにXa阻害薬以外の凝固障害の原因を除外し、さらに、再度人工心肺を導入する可能性がないことを確認した上で判断することが推奨される。4.アンデキサネット アルファによって惹起されるヘパリン抵抗性への対応法は確立されていない。 ヘパリンの追加投与のみでは活性化凝固時間(ACT)の延長を得られないことが多い。現時点では、アンチトロンビンの単独投与またはヘパリンとの併用、あるいはナファモスタットの投与が、ACT延長に一定の効果を示す可能性がある。5.本提言は、各医療機関内での共有と体制整備を通じて活用されるべきである。 アンデキサネット アルファの使用およびそれに伴うヘパリン抵抗性への対応法を、各医療機関の診療科・診療部門間で共有し、院内での運用体制をあらかじめ策定しておくことが推奨される アンデキサネット アルファは、アピキサバン、リバーロキサバン、エドキサバンなどのXa阻害薬を服用中の患者において、生命を脅かす出血または止血困難な出血が発現した際の抗凝固作用の中和を適応として、2022年5月より国内で販売が開始されている。

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心房細動を伴う脳梗塞のDOAC開始、早期vs.遅延~メタ解析/Lancet

 急性虚血性脳卒中と心房細動を有する患者において、直接経口抗凝固薬(DOAC)の遅延開始(5日以降)と比較して早期開始(4日以内)は、30日以内の再発性虚血性脳卒中、症候性脳内出血、分類不能の脳卒中の複合アウトカムのリスクを有意に低下させ、症候性脳内出血を増加させないことが、英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのHakim-Moulay Dehbi氏らが実施した「CATALYST研究」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年6月23日号に掲載された。DOAC開始の早期と遅延をメタ解析で比較 研究グループは、急性虚血性脳卒中発症後におけるDOACの早期開始と遅延開始の有効性の評価を目的に、無作為化対照比較試験の系統的レビューと、個別の患者データのメタ解析を行った(英国心臓財団などの助成を受けた)。 医学関連データベースを検索し、2025年3月16日までに発表された無作為化対照比較試験を選出した。対象は、事前登録を行い、無作為化され、臨床アウトカムを評価し、急性虚血性脳卒中と心房細動を有する患者を、承認を受けた用量のDOACの早期開始(4日以内)または遅延開始(5日以降)に割り付けた臨床試験であった。 主要アウトカムは、無作為化から30日以内の再発性虚血性脳卒中、症候性脳内出血、分類不能の脳卒中の複合とした。早期開始で再発が有意に少なく、症候性脳内出血は増加しない 4つの臨床試験(TIMING、ELAN、OPTIMAS、START)を同定した。データ共有に応じなかった参加者や、DOACの開始が4日以内または5日以降に割り付けられなかった参加者を除外したうえで、5,441例(平均年齢77.7[SD 10.0]歳、女性2,472例[45.4%]、NIHSSスコア中央値5点)をメタ解析に含めた。主要アウトカムのデータは5,429例から得た。 30日の時点における主要アウトカムの発生率は、遅延開始群が3.02%(83/2,746例)であったのに対し、早期開始群は2.12%(57/2,683例)と有意に低かった(オッズ比[OR]:0.70[95%信頼区間[CI]:0.50~0.98]、p=0.039)。絶対リスクの群間差は-0.0093(p=0.039)であった。また、1件の主要アウトカムを防止するための治療必要数は108(95%CI:55~2,500)だった。 30日時の再発性虚血性脳卒中は早期開始群で有意に少なく(1.68%[45/2,683例]vs.2.55%[70/2,746例]、OR:0.66[95%CI:0.45~0.96]、p=0.029)、症候性脳内出血は早期開始群で増加しなかった(0.37%[10/2,683例]vs.0.36%[10/2,746例]、1.02[0.43~2.46]、p=0.96)。また、早期開始群では頭蓋外の大出血の増加も認めなかった。90日後の主要アウトカムには差がない 一方、90日後の主要アウトカムの発生率は、早期開始群で低かったが、両群間に有意な差はなかった(3.10%[83/2,678例]vs.3.51%[96/2,738例]、OR:0.88[95%CI:0.65~1.19]、p=0.40)。 著者は、「これらの知見は、実臨床におけるDOACの早期の投与開始を支持するものである」「本研究のデータは、脳内出血への懸念から、脳卒中の重症度を問わず、抗凝固療法を最大で2週間遅らせるという一般的に行われている治療法を支持しない」「今後のCATALYSTサブグループ解析では、DOACの早期開始のリスクとベネフィットについて、さらに検討を進める予定である」としている。

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エイリアンハンド症候群【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第285回

エイリアンハンド症候群皆さんは、エイリアンハンド症候群という病名をご存じでしょうか。Panikkath R, et al. The alien hand syndrome. Proc (Bayl Univ Med Cent) . 2014 Jul;27(3):219-20.静かな夕方、テレビを見ていた77歳の女性に突然異変が起こりました。左手が意思に反して勝手に動き出し、顔や髪を撫で回すように動き続けたのです。まるで誰かに操られているかのような手の動きに、患者さんは恐怖を感じました。右手で左手を抑えようとしても、まったく制御することができません。この奇妙な現象は30分間も続きました。その後、左手の制御は戻りましたが、今度は左上肢の麻痺と脱力が現れ、歩行時には左足を引きずるような状態になっていました。この患者さんは慢性心房細動を患っており、脊椎手術のために抗凝固薬を一時的に中止していました。頭部MRIの結果、両側頭頂葉に急性梗塞が確認され、心原性脳塞栓症による「エイリアンハンド症候群」と診断されました。「エイリアンハンド症候群」は、手が意思に反して複雑で目的のある動きをする、まれな神経症状です。脳梁、頭頂皮質、運動前野、前帯状皮質の異常が原因とされ、通常は脳腫瘍や動脈瘤、神経外科手術後に見られますが、脳梗塞による発症はまれとされています。機能的MRIの研究では、正常な人では運動開始時に広範な神経ネットワークが活性化されるのに対し、エイリアンハンド症候群では対側の一次運動皮質のみが孤立して活性化されることがわかっています。頭頂皮質の損傷により、意図的な運動計画システムから解放された一次運動野が単独で活性化し、さらに固有受容感覚のフィードバックの喪失や左半側空間無視が組み合わさることで、患者の意識や意志なしに自発的な運動が開始されると考えられています。エイリアンハンド症候群に対する確立された治療法は現在のところありません。症状は数日から数年間続くことが報告されており、この症例のように30分間という短い持続時間は、まれだそうです。

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臨床区域麻酔科学書

区域麻酔の幅広い内容を取り上げ、日常臨床をサポート!超音波ガイド下区域麻酔を行うにあたり、各区域麻酔がどのような外科手術に適応となるのか、穿刺手技はどうしたら良いかなど、必要な解剖、適応、穿刺法、起こりうる合併症とその対策について解説。また神経生理や薬理、必要機器の基本的知識、抗凝固療法、および区域麻酔の応用として小児区域麻酔、無痛分娩、Awake craniotomy、心臓血管麻酔についても取り上げた。安全な区域麻酔の実臨床に必須の1冊。【特長】1)区域麻酔の幅広い内容を取り上げ、日常臨床をサポートする。2)手技の理解や実践に役立つアドバイス、注釈、コラムなどの補足情報が充実。3)最新のエビデンス、最近の傾向や注意点を的確にフォロー。4)紙面の二次元コードから端末機器で穿刺動画等を見ながら手技の実際を学べる。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する臨床区域麻酔科学書定価14,300円(税込)判型B5判(並製)頁数368頁発行2025年6月編集日本麻酔科医会連合出版部編集主幹廣田 和美(日本麻酔科医会連合理事/青森県立中央病院 院長)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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中硬膜動脈塞栓術で、慢性硬膜下血腫の再発リスクは軽減するか/JAMA

 慢性硬膜下血腫(CSDH)に対する開頭術後の再発リスクが高い患者において、標準的な薬物療法単独と比較して標準治療に中硬膜動脈(MMA)塞栓術を追加しても、6ヵ月後の再発率を改善せず、同側CSDH再発に対する再手術やCSDH関連の累積入院期間にも差はないことが、フランス・Pitie-Salpetriere HospitalのEimad Shotar氏らが実施した「EMPROTECT試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2025年6月5日号で報告された。フランスの無作為化試験 EMPROTECT試験は、フランスの12施設で実施した非盲検(エンドポイント評価は盲検下)無作為化試験であり、2020年7月~2023年3月に参加者を募集した(Programme Hospitalier de Recherche Clinique[PHRC]などの助成を受けた)。 年齢18歳以上、初発CSDHまたは再発CSDHで開頭術を受け、CSDHの再発リスクが高い患者を対象とした。被験者を、薬物療法に加え手術から7日以内に塞栓術(300~500μmエンボスフィア、Merit Medical製)を受ける群(介入群)、または標準的な薬物療法のみを受ける群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、6ヵ月の時点でのCSDH再発率とし、独立審査委員会が盲検下に評価した。6ヵ月後のCSDH再発率、介入群14.8%vs.対照群21.0% 342例(年齢中央値77歳[四分位範囲[IQR]:68~83]、男性274例[80.1%])を登録し、介入群に171例、対照群に171例を割り付けた。308例(90.1%)が試験を完了した。ベースラインで、237例(69.3%)が抗血小板薬または抗凝固薬の投与を受けていた。CSDHは、257例(75.1%)が片側性、85例(24.9%)が両側性だった。 6ヵ月後のCSDH再発率は、介入群が14.8%(24/162例、同側CSDH再発22例、死亡[神経学的原因または原因不明]2例)、対照群は21.0%(33/157例、32例、1例)と、両群間に有意な差を認めなかった(オッズ比:0.64[95%信頼区間[CI]:0.36~1.14]、補正後絶対群間差:-6%[95%CI:-14~2]、p=0.13)。塞栓術関連合併症の発現、重度1例、軽度3例 副次エンドポイントはいずれも両群間に有意差はなかった。同側CSDH再発に対する再手術は、介入群の7例(4.3%)、対照群の13例(8.3%)で行われた(p=0.14)。1ヵ月後および6ヵ月後の機能障害(修正Rankinスケールスコア≧4点)と死亡にも差はみられなかった。CSDH関連の直接または間接的な累積入院期間中央値は、介入群が10日、対照群は9日であった(p=0.12)。 また、介入群における塞栓術関連合併症は、重度が1例(0.6%[頸動脈カテーテル留置中に発生した頭蓋内中大脳動脈閉塞に対する機械的血栓回収術])、軽度が3例(1.8%[一過性神経脱落症候2例、軽度頭痛1例])に発現した。 著者は、「効果の大きさは、非接着性液体塞栓物質を用いたMMA塞栓術の有益性を示した試験など、最近の他の試験と一致しており、これらの知見を総合的に考慮することで、今後の研究や、CSDH管理におけるこの治療法の活用に役立つ可能性がある」としている。

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DOACによる消化管出血での死亡率~20研究のメタ解析

 抗凝固薬による消化管出血は、発生頻度や死亡リスクの高さから、その評価が重要となる。しかし、重篤な消化管出血後の転帰(死亡を含む)は、現段階で十分に特徴付けられておらず、重症度が過小評価されている可能性がある。今回、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のNicholas L.J. Chornenki氏らは、直接経口抗凝固薬(DOAC)関連の重篤な消化管出血が30日全死亡率の有意な上昇と関連していることを明らかにした。Thrombosis Research誌2025年5月24日号掲載の報告。 研究者らは、静脈血栓塞栓症または心房細動と診断されDOACを処方された成人を対象とした大規模ランダム化比較試験とコホート研究について、データベース(MEDLINE、EMBASE、Cochrane CENTRAL)で検索し、消化管出血の発生件数に対する死亡件数で測定した消化管出血後の30日全死亡率を主要評価項目とした。また、対象研究のバイアスリスクをmodified QUIPS(Quality In Prognosis Studies)で評価し、逆分散法を用いて要約推定値を算出した。 主な結果は以下のとおり。・7,824件の研究から646件をレビューし、20件が解析に含まれた。・解析対象は、全20研究においてDOAC治療後に重篤な消化管出血を来した3,987例であった。・30日全死亡率の統合推定値は8.4%(95%信頼区間[CI]:4.9~12.5、I2=83%)であった。・サブグループ解析では、以下の結果が示された。◯前向き研究(9研究) 主な消化管出血:675例、30日全死亡率:10.3%(95%CI:6.5~14.7、I2=24%)◯後ろ向き研究(11研究) 同:3,312例、同:7.3%(95%CI:2.2~14.4、I2=90%)◯バイアスリスクが高いと判断された研究(9研究) 同:387例、同:12.9%(95%CI:6.3~21.1、I2=44%)◯バイアスリスクが低いと判断された研究(10研究) 同:3,562例、同:6.1%(95%CI:2.9~10.1、I2=89%)※1件の研究はバイアスリスクが不明であった。 なお研究者らは、「本集団における死亡原因と寄与因子について、さらなる研究を行うことで高リスク患者を特定し、リスクを軽減できる戦略を策定していく必要がある」としている。

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EGFR陽性NSCLC、アミバンタマブ+ラゼルチニブが新たな1次治療の選択肢に/J&J

 Johnson & Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)は、2025年3月27日にアミバンタマブ(商品名:ライブリバント)とラゼルチニブ(同:ラズクルーズ)の併用療法について、「EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」の適応で、厚生労働省より承認を取得し、2025年5月21日にラゼルチニブを販売開始した。ラゼルチニブの販売開始により、EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療で、アミバンタマブ+ラゼルチニブが使用可能となった。そこで、2025年5月22日にメディアセミナーが開催され、アミバンタマブ+ラゼルチニブが1次治療で使用可能となったことの意義や、使用上の注意点などを林 秀敏氏(近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門 主任教授)が解説した。EGFRとMETを標的とし、EGFR-TKIのアンメットニーズを満たす可能性 『肺癌診療ガイドライン2024』では、EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの1次治療として第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)のオシメルチニブ単剤を強く推奨している(推奨の強さ:1、エビデンスの強さ:A)1)。 しかし、第3世代EGFR-TKIによる治療でも耐性が生じてしまうことも報告されている。耐性機序としては、TP53遺伝子変異、EGFR遺伝子変異(C797S変異)、MET遺伝子増幅などがある。MET経路はEGFR経路とクロストークすることが知られており、EGFR-TKIによってEGFR経路を阻害してもMET経路が活性化してしまうことで、がん細胞は増殖・生存すると考えられている。 そこで開発されたのが、EGFRとMETを標的とする二重特異性抗体アミバンタマブである。アミバンタマブは、EGFRおよびMETに結合することで、それらへのリガンド結合を阻害し、MET経路の活性化を抑制することが期待される。また、免疫細胞上に存在するFcγ受容体を介して抗体依存性細胞傷害活性を惹起することによっても、抗腫瘍活性を示すことが考えられている。オシメルチニブ単剤と比較してPFSとOSを改善 未治療のEGFR遺伝子変異(exon19delまたはL858R)陽性の進行・転移NSCLC患者を対象として、アミバンタマブ+ラゼルチニブ、ラゼルチニブ単剤とオシメルチニブ単剤を比較した国際共同第III相無作為化比較試験「MARIPOSA試験」2)において、アミバンタマブ+ラゼルチニブ群は、オシメルチニブ単剤群と比較して無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)が有意に改善したことが報告されている。本試験の結果を基に、EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発NSCLCの1次治療として、アミバンタマブ+ラゼルチニブの製造販売が承認された。PFSおよびOSの結果は以下のとおり(アミバンタマブ+ラゼルチニブ群vs.オシメルチニブ単剤群)。<PFS(主要評価項目)>・PFS中央値23.72ヵ月vs.16.59ヵ月(ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.58~0.85、p=0.0002)・2年PFS率48%vs.34%<OS(重要な副次評価項目)>・OS中央値未到達vs.36.73ヵ月(HR:0.75、95%CI:0.61~0.92、p=0.0048)・死亡が認められた割合40.3%vs.50.6%注意すべき副作用とその対処法 アミバンタマブ+ラゼルチニブの使用において注意すべき副作用として、皮膚障害、静脈血栓塞栓症、インフュージョンリアクションなどがある。これらについて、林氏は「発現頻度が高く、注意が必要となるが、十分にマネジメント可能である」と述べる。そこで、林氏はこれらの対処法を紹介した。 皮膚障害については、非常に発現が多いこともあり、医師による患者教育が重要となると林氏は指摘する。実際には、皮膚の保湿をしっかりと行い、皮疹が発現したときにはすぐに外用薬を使用するように指導するほか、低刺激の洗浄剤を用いて体をきれいに保つことを指導するという。洗浄剤について、林氏は「子供用のシャンプーの使用をおすすめすることもある」と述べ、低刺激のものを選ぶことの重要性を強調した。 静脈血栓塞栓症は、MARIPOSA試験のアミバンタマブ+ラゼルチニブ群の37%に発現したことが報告されており、留意が必要な有害事象である。これについては、予防的抗凝固薬の投与により発現が抑えられることがわかってきており、今回の承認にあたって添付文書に「治療開始4ヵ月間は、アピキサバン1回2.5mgを1日2回経口投与すること」と記載されている。 インフュージョンリアクションは初回投与時(1サイクル目の1日目)に発現することが多く、対策としては、とくに最初の2回目の投与まではデキサメタゾンを用いると林氏は述べた。EGFR-TKI耐性後のアミバンタマブ+化学療法も使用可能に オシメルチニブ単剤療法で病勢進行が認められたEGFR遺伝子変異(exon19delまたはL858R)陽性NSCLC患者を対象とした国際共同第III相無作為化比較試験「MARIPOSA-2試験」3)の結果から、EGFR-TKIによる治療後に病勢進行が認められたNSCLC患者に対し、カルボプラチンおよびペメトレキセドとの併用においてアミバンタマブが使用可能となったことも2025年5月19日に発表されている。MARIPOSA-2試験において、アミバンタマブ+化学療法群は化学療法群と比較して、主要評価項目のPFSが有意に延長し(HR:0.48、95%CI:0.36~0.64、p<0.001)、PFS中央値はアミバンタマブ+化学療法群6.28ヵ月、化学療法群4.17ヵ月であった。 以上から、EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者の1次治療および2次治療でアミバンタマブが使用可能となった。これを受け、林氏は「EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者の生存期間の改善のために、アミバンタマブが今後幅広く使用されることが期待される」と締めくくった。

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第243回 循環器救急に迫る崩壊危機:若手離れと医師不足、救命の現場が揺らぐ/CVIT

<先週の動き> 1.循環器救急に迫る崩壊危機:若手離れと医師不足、救命の現場が揺らぐ/CVIT 2.出産費用、2026年度にも自己負担無償化へ? 医療現場に広がる波紋/厚労省 3.市販薬のコンビニ販売解禁へ 薬機法改正、医療現場への影響は?/国会 4.DPC病院が25施設減の1,761施設、再編加速も課題山積/厚労省 5.赤穂市民病院の医療事故、被告の赤穂市と医師に8,900万円賠償命令/神戸地裁 6.薬剤師の指示見逃し脳出血死、病院が遺族に和解金1,000万円/愛知県 1.循環器救急に迫る崩壊危機:若手離れと医師不足、救命の現場が揺らぐ/CVIT日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)は、5月15日にプレスセミナーを開き、急性心筋梗塞の治療体制に深刻な危機が迫っていることを明らかにした。とくに若手医師の循環器救急離れが進む現状に警鐘を鳴らし、医師確保に向けた提言を公表した。背景には2024年4月に施行された医師の働き方改革がある。時間外労働の上限設定により医師の負担軽減は一定の効果を上げたが、業務量の多い循環器内科では過酷な勤務実態が「見える化」され、志望者が激減。過去10年間でほとんどの診療科が医師数を増やす中、循環器内科は外科以上の速さで減少している。CVITの調査では、所属医師の6割が週1回以上の自宅待機に従事し、夜間救急後の代償休息が得られていないケースが9割に上る。この労働環境が医師の健康や医療の質に悪影響を与えていると指摘されている。また、心筋梗塞の死亡率も地域差が大きく、搬送時間や受入体制によって最大3倍の格差が生じている。CVITは、急性心筋梗塞患者の早期治療が可能な施設を地図上で検索できる「ハートマップ」を公開し、発症から90分以内の治療開始が理想とされる中、地域住民の事前認知による搬送時間短縮を狙っている。CVITは、「経済的インセンティブの整備」・「タスクシフトの推進」・「勤務環境の改善」を3本柱とした改革を提案し、厚生労働省にも循環器医療を特例的に評価するよう働きかけている。とくに経済的インセンティブは「避けて通れない」とされ、医師の偏在是正政策の中で循環器救急を優先対象とする必要性も訴えられている。持続可能な循環器救急体制の構築には、制度的な支援と国民的理解が不可欠であり、引き続き政府や国民に働きかけていく必要がある。また、これに先立って、5月12日に日本循環器学会は、日本人の死因第2位が心疾患であるにもかかわらず、循環器内科医の数が他の診療科に比べて増加しておらず、とりわけ若手医師の減少と高齢化が進んでいることで、人手不足が深刻化していることについて国民に対して警鐘を鳴らしている。とくに地方では医師の確保が難しく、診療体制の維持が困難になっている。このため循環器学会は、タスクシフトや施設の集約化などの対策を進めているが、限界があるため、国民の理解と支援を求めている。 参考 1) 急性心筋梗塞、治療の遅れで死亡率上昇 地域医療の危機(日本心血管インターベンション治療学会) 2) 急性心筋梗塞、助かる未来へ 循環器救急の課題に迫る(同) 3) ハートマップ:全国インターベンション施設マップ(同) 4) 国民の皆様へ:『循環器医不足が深刻な状況です』(日本循環器学会) 2.出産費用、2026年度にも自己負担無償化へ? 医療現場に広がる波紋/厚労省厚生労働省は5月14日、出産費用の自己負担を2026年度にも無償化する方針を明らかにし、有識者検討会で大筋了承された。これを受け、今後は社会保障審議会で具体的な制度設計が進められる見通し。現在、正常分娩は公的医療保険の対象外で、出産育児一時金として50万円が支給されるのみだが、出産費用の平均は51.8万円(2024年度上半期)に達し、地域差も大きく、東京では平均60万円超となっており、この結果、約45%の家庭が一時金で費用を賄いきれず、自己負担が重くのしかかっている。無償化の方法として、正常分娩への保険適用と3割自己負担の撤廃案、一時金のさらなる増額案などが浮上している。しかし、保険適用には「標準的な出産費用」の定義の明確化や診療報酬設定の課題があり、自由価格設定が制限されれば経営への影響を懸念する産科施設の声も根強い。無痛分娩や個室料、お祝い膳といった付帯サービスの扱いや、妊婦健診の自己負担軽減も議論の対象だ。費用の透明化や、妊産婦が選択可能な情報整備の必要性も指摘されている。少子化対策として期待が寄せられる一方で、現役世代の社会保険料負担や、医療提供体制の持続可能性など課題は多く、丁寧な制度設計が求められている。 参考 1) 第10回「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」(厚労省) 2) 出産費用2026年度にも無償化、制度設計検討へ…厚労省案を有識者検討会が了承(読売新聞) 3) 分娩施設が少子化や物価高騰で窮地に…九州・山口・沖縄では3年間で46か所減、阿蘇など5地域でゼロ(同) 4) 出産費用、無償化へ 厚労省方針、26年度の保険適用は困難の見通し(朝日新聞) 5) 標準的な出産費用の無償化へ、26年度めどに制度設計 保険適用への懸念の声も 厚労省検討会(CB news) 6) 2026年度目途に「標準的な出産費用の自己負担」を無償化、産科医療機関等の経営実態等にも配慮を-出産関連検討会(Gem Med) 3.市販薬のコンビニ販売解禁へ 薬機法改正、医療現場への影響は?/国会医薬品医療機器法(薬機法)の改正法が5月14日に参議院本会議で成立した。この改正により、薬剤師や登録販売者が不在のコンビニエンスストアなどでも、オンラインによる服薬指導を条件として一般用医薬品(市販薬)の販売が可能となる。これにより、夜間・休日などに薬局へいけない際の市販薬購入が現実的となるが、一方で、オーバードーズ対策として、せき止めやかぜ薬など一部薬剤については若年層への販売を小容量化、1個に制限する措置が導入される。オンライン指導を担う薬剤師は、同一都道府県内の薬局に所属し、販売店舗の保管管理状況などを定期確認する義務も課される。また、後発医薬品の供給不安が続く現状を受け、出荷停止時の国への報告義務や供給責任者の設置、調剤業務の外部委託容認などが盛り込まれた。さらに、医薬品の安定供給体制強化として、国が事業者に対し増産を要請できる法的枠組みが整備される。加えて、「ドラッグ・ロス」問題への対応として、新薬の迅速承認制度や、スタートアップ支援を目的とした新たな基金の創設も明記された。とくに、がん領域などで有用性が合理的に予測される医薬品については、臨床試験の一部を省略し、早期承認が可能となる。改正法の施行は段階的に進められ、コンビニでの販売制度は2年以内、乱用対策は1年以内に開始される。医薬品アクセスの利便性向上と供給の安定、さらに薬剤師職能の拡張が期待される一方、安全性や乱用リスクとのバランスをどうとるかが今後の課題となる。 参考 1) コンビニで市販薬の購入可能に、改正薬機法が成立 ローソンなど歓迎(日経新聞) 2) コンビニで市販薬の購入が可能に 改正法が成立 乱用対策で若年者への販売制限設ける(産経新聞) 3) 市販薬がコンビニ購入可能に オーバードーズ対策で若者に購入制限も(毎日新聞) 4.DPC病院が25施設減の1,761施設、再編加速も課題山積/厚労省厚生労働省は5月15日に開催した中央社会保険医療協議会(中医協)で、2025年6月時点のDPC(診断群分類別包括評価)対象病院が、前年から25病院減少し1,761病院となる見込みであると報告した。算定病床数も約7,800床減の47万5,910床となり、制度導入以降で最も多かった2016年の49万5,227床から約2万床減ったことになる。減少の背景には、病院の再編や病棟の機能転換がある。とくに、2024年度診療報酬改定で新設された「地域包括医療病棟入院料」への移行が進み、急性期医療から回復期医療への再配置が加速。DPC対象基準未達による退出(4病院)に加え、地域包括ケアへの転換を理由とした退出が19病院に上った。一方、DPC制度内の各病院の診療実績や機能を評価する「機能評価係数II」は全体的に低下傾向にあり、制度内での格差が浮き彫りになっている。大学病院では、鹿児島大学病院が最も高い係数を維持し、標準病院群では宮崎県立延岡病院が引き続き上位に位置する。厚労省は、2025年度のDPC制度運用に際して、地域医療への貢献度や救急対応実績を重視する再評価を実施。激変緩和措置の終了や災害特例の対応も踏まえたが、DPCからの退出が相次ぐ現状は、地域医療構想に掲げた「機能分化・連携による病床再編」が一部進んだともいえる一方で、急性期医療の担い手の減少による地域偏在や機能の空白が懸念される。地域医療構想の達成目標の2025年を迎え、急性期から地域包括ケアへの移行は制度設計通りに進行しているが、医療ニーズに対応した病床配置が実現されているとは言い難い。厚労省による今後の実態把握と、質の高い急性期医療の維持に向けた制度的支援の在り方が問われる局面となっている。 参考 1) 中央社会保険医療協議会 総会[議事次第](厚労省) 2) 令和7年度におけるDPC/PDPSの現況について(同) 3) DPC対象病院数、前年比25病院減の1,761病院に(日経ヘルスケア) 4) DPC病院25減、6月以降1,761病院に 病棟の機能再編で退出相次ぐ(CB news) 5) 2025年度のDPC機能評価係数II内訳や救急補正係数の状況など公表、自院と他院を比較し「自院の取り組み」検証が重要-中医協総会(Gem Med) 5.赤穂市民病院の医療事故、被告の赤穂市と医師に8,900万円賠償命令/神戸地裁兵庫県赤穂市民病院で2020年に行われた腰の手術で、当時74歳の女性患者が誤って神経を切断され、両脚に重度のまひなどの後遺障害を負った問題で、神戸地裁姫路支部は2025年5月14日、被告である赤穂市と執刀した元脳神経外科医の松井 宏樹氏(47)に対し、約8,900万円の損害賠償を命じる判決を言い渡した。判決は、医師の技量不足自体は認めなかったが、「注意義務違反の程度は著しい」と断じた。手術では出血で視野が不明瞭な状態でドリルを使用し、馬尾神経を切断。松井医師は過去にも複数の医療事故に関与し、2020年に執刀を禁じられた後、2021年に同院を退職していた。病院側の事後対応にも問題があり、説明や謝罪が遅れたことも慰謝料算定の要因となった。原告側は「基本的な医療行為ができていなかったと裁判所が認めた」と評価し、他の被害者救済にもつながる判決とした。赤穂市は「真摯に受け止め、信頼回復に努める」とコメントしている。 参考 1) 手術ミスで両足に重度のまひ 赤穂市民病院側に8,900万円賠償命令 執刀医の注意義務違反「著しい」(神戸新聞) 2) 赤穂市民病院の医療事故 医師と市に賠償命じる判決(NHK) 3) 赤穂市民病院の手術ミス訴訟 市と執刀医に8,900万円支払い命令(毎日新聞) 4) ドリルで脊髄神経を切断、執刀医らに8,800万円の賠償命令…執刀医は半年強で医療事故8件起こす(読売新聞) 6.薬剤師の指示見逃し脳出血死、病院が遺族に和解金1,000万円/愛知県2023年に愛知県の岡崎市民病院で、70代の男性入院患者が抗凝固薬の過剰投与により脳出血を起こし、死亡する医療事故が発生した。患者は、脳梗塞予防のため抗凝固薬を服用していたが、腎機能障害があるため通常の半分量に減薬する必要があった。しかし、主治医が薬剤師らからの減量指示を見落とし、通常量を8日間にわたり投与した。その結果、男性は入院から約2週間後に脳出血を起こして死亡した。病院は当初から医師による情報確認の不足を認め、調査の結果、薬の過剰投与と死亡の因果関係を否定できないとして過失を認定。遺族に対して1,000万円の損害賠償を支払い、和解する方針を明らかにした。病院は会見で謝罪し、院内の情報共有体制の見直しや、医師と薬剤師間の連携強化など再発防止策を講じると表明した。 参考 1) 抗凝固薬を基準量の2倍投与、岡崎市民病院で医療ミス 患者死亡で1,000万円賠償へ(中日新聞) 2) 岡崎市民病院 “患者の死因に投薬ミス” 遺族と和解へ(NHK) 3) 投薬量誤り70代男性死亡 病院が1千万円の賠償支払いへ(朝日新聞) 4) 血液の抗凝固剤を過大投与後に70代男性患者が脳出血で死亡 薬を半分に減らすよう薬剤師などがWEBの情報共有で主治医に伝えるも確認せず 愛知・岡崎市民病院(TBS)

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第260回 高齢者心不全へのSGLT2阻害薬、実感した副作用対策の大変さ

「心不全パンデミック」。最近よく耳にするようになった言葉だ。超高齢化に向かって突き進む日本で、今後、心不全患者が増加し、それに対応する医療者や病床も不足してくるという未来予測を、ある種の感染症の爆発的増加になぞらえた造語である。私自身がこの造語を最初に聞いたのがいつだったかは明確に記憶していないが、もちろんこの未来予測は確実に現実のモノになっていくだろうとは思っていた。もっともこれは実感を伴ったものではなく、ある種の社会現象の1つ、もっと極論を言えば“他人事”として捉えていた。しかし、これが私自身の身近にも降ってきた。私ではなく、先日米寿を迎えた父親に、である。慢性心不全で薬物療法開始ことのきっかけは4月上旬の週半ば、母親から「お父さんの右脚の腫れが気になるので(筆者が)今度来る時、医者の予約を入れて診て貰いたい。歩くのがひどそうだ」とのLINEメッセージが届いたことだった。正直、嫌な予感がした。ちょうど1年前、父親がアテローム血栓性脳梗塞で救急搬送されたことは以前の本連載でも触れたとおり。その時の精密検査で心房細動があることもわかり、抗凝固薬の服用も開始した。父親のかかりつけ医の近傍で薬局を営む薬剤師の親族にも連絡を取った。すると「うーん、心臓じゃないか?」との意見。私も同感だった。私自身はこの翌週、父親を花見に連れて行くため帰省するつもりだったが、心臓に問題があるならば、ゆるりと構えていてはいけない。父親のかかりつけ医のクリニックはネット上で診察予約ができるので、念のため空きを確認したところ、母親のLINEメッセージを受け取った翌日の午前に父親の主治医の診察枠に空きはあった。すぐに母親に連絡を取り、「最短で明日、かかりつけ医に行けるか?」と確認。可能だということなので、すぐに予約を入れた。翌日昼前、母親からの報告の連絡を待っていると、一足先に薬剤師の親族より「慢性心不全の診断」というLINEメッセージが着信した。ついに来てしまったか。これにより父親の服用薬には新たにSGLT2阻害薬のエンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)が追加されることになった。この処方を聞いて率直に言葉に表すならば「ガーン」の一言。もちろんエンパグリフロジンをはじめとするSGLT2阻害薬が、2型糖尿病の有無にかかわらず心不全イベントを抑制するエビデンスを得ていることは知っている。しかし、その主作用の結果として頻尿になる。父親は脳梗塞を発症する前からすでに歩行がスローになり、シルバーカーを使いながら休み休み歩いていた。健常成人で徒歩10分のところでも30分ほどかかっていた。もしかしたら、もうこの時点で心不全の影響があったのかもしれない。この状態に母親が付き合うのは大変なため、脳梗塞発症前から軽量車椅子の導入を考えていたが、脳梗塞に伴う入院で一時的にADLがかなり低下したことにより、車椅子導入は現実となった。自宅内や自宅周辺は自力歩行するが、余暇や通院のための外出時は車椅子を使う。88歳の父親はやせ型だが、87歳の細腕の母親が車椅子で連れ歩くのはかなり大変である。市街地への外出時は電車・バスで移動するが、いずれも車両の入り口にはステップがあるため、乗降時は自力歩行せねばならない。母親と2人での外出時は、母親が父親を片手で介助し、もう片方の手で折り畳んだ車椅子を持ちながらの乗降となる。軽量と言っても車椅子は8kg弱ある。そんなこんなで私が頻繁に帰省するようになったが、ここに頻尿に対応したトイレ探しが加わることになった。また、SGLT2阻害薬では、その作用機序ゆえに頻度は低いものの脱水の危険性があるが、父親は積極的に水分を取りたがる気質でもない。頻尿の弊害いやはや大変なことになったと思った。そして診断が下った当日、さっそく母親はこの薬による頻尿の“洗礼”を受けることになった。かかりつけ医の受診後、親戚の薬局に処方箋を持って行き、薬を受け取った父親はさっそく1錠服用して、しばらく休んでから母親とともに帰途についたという。服用後の最初のトイレは、健常成人で徒歩12分ほどのかかりつけ医療機関の最寄り駅だったという。まあ、これは想定内だろう。そこから自宅最寄りの駅方向の電車に乗ったのだが、自宅最寄りから一つ前の駅の到着時に電車内のトイレに再び向かった。しかし、なかなか出てこなかったという。慌てた母親がトイレに向かい、どうにか父親を捕まえ、車椅子を持って無事最寄り駅で降車はできた。だが、必死だった母親は自分のバッグを電車内に置き忘れてしまい、自宅に戻って一旦父親に留守を任せた後、バッグを拾得していた駅まで往復2時間かけて取りに行く羽目になった。その後、母親からの報告では朝1回の服用で午前7時から午後1時までに計7回もトイレに行くことがわかった。なかなかである。この翌週に私は帰省したが、ぱっと見の父親にはまったく変化を感じない。まあ、当然と言えば当然である。もっとも実家で様子を見ている限り、約1時間に1回の頻度でトイレに行くことだけはわかった。問題はどうやって花見に連れて行くかだ。入念な下調べ、なんとか花見は実現私が介助できる前提ならば、多少実家から離れた桜の名所に連れて行きたい。父親が車椅子を使うようになってから初めて外出する場所の場合は、あらかじめ地図とGoogleストリートビューなどでルートや道路の傾斜状況などを調べている。こうすれば大きな想定外の事態は避けられる。ただ、花見ではやや事情が異なってくる。というのも桜の名所では花見客を見込んだ屋台や仮設トイレの設置などが行われることが多いからだ。こうした場所は曜日・時間によっても混雑度は異なる。最終的に地元に約2週間滞在し、合計4ヵ所のお花見スポットに連れて行ったが、うち3ヵ所は下見まですることになった。下見時は抜かりなくトイレの場所をチェックし、ブルーシートを広げる場所も桜の花も見えてトイレも近い、さらには屋台などにも近い場所を選定した。当然ながら、現地までの公共交通経路上にあるトイレの位置なども把握する必要がある。驚いたのは、花見の名所に設置された仮設トイレの中には、仮設多目的トイレがあるところもあった。時代の変化とはこういうところにも表れるのかと感心した。もっともこれだけでも想定外のことは起こり得る可能性がある。そのため念には念を入れ、災害用の使い捨て携帯トイレも持参した。父親は軽度認知障害もあるが、それゆえに排泄の失敗をまだ本人は自覚できるので、そのような事態になれば相当落ち込むはず。排泄トラブルは何としても避けなければならなかった。さらに連れて行く時は、時間の融通が利きやすいフリーランスの特権を生かして、混雑しにくい平日昼間ばかりを選んだ。花見に行くたびに父親は「ああ、満開だ」と大喜び。一応、こちらは4ヵ所の満開時期もすべて調べて、日ごとにどこが最適かも計算して連れて行った。父親からは「まさかお前にここまでしてもらえるとは思わなかった」と微妙な誉め言葉をかけられた。私はかなり信用がなかったらしい(笑)。花見場所で車椅子を押しながら、高校時代は陸上で国体にまで出場した父親もここまで弱るのだと何とも言えない気持ちになる。そしてこの姿は自分の未来でもある、とふと思う。治療薬の選択肢が広がることは福音だ。もっともその選択肢に伴う副作用などさまざまなデメリットは甘受せねばならない。改めて医療におけるメリットとデメリットのバランスは難しいものだとも実感している。いずれにせよ、わが家の心不全パンデミックはまだ序章に過ぎない。

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国内DOAC研究が色濃く反映!肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症ガイドライン改訂/日本循環器学会

 『2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症ガイドライン』が3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会の会期中に発刊され、本学術集会プログラム「ガイドラインに学ぶ2」において田村 雄一氏(国際医療福祉大学医学部 循環器内科学 教授/国際医療福祉大学三田病院 肺高血圧症センター)が改訂点を解説した。本稿では肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症の項について触れる。DOACの国内エビデンスの功績、ガイドラインへ反映 静脈血栓塞栓症(VTE)と肺高血圧症(PH)の治療には、直接経口抗凝固薬(DOAC)の使用や急性期から慢性期疾患へ移行していくことに留意しながら患者評価を行う点が共通している。そのため、今回よりVTEの慢性期疾患への移行についての注意喚起のために、「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン」「肺高血圧症治療ガイドライン」「慢性肺動脈血栓塞栓症に対するballoon pulmonary angioplastyの適応と実施法に関するステートメント」の3つが統合された。 肺血栓塞栓症(PTE)・深部静脈血栓症(DVT)のガイドライン改訂は2018年3月以来の7年ぶりで、当時は抗凝固療法におけるDOACのエビデンスが不足していたが、この7年の歳月を経て、DOACを用いたVTEの治療は飛躍的に進歩。DOAC単独での外来治療、誘因のないVTEや担がん患者の管理、長期治療などの国内の結果が明らかになり、改訂に大きく反映された。田村氏は、「本ガイドラインは、循環器専門医のみならず、呼吸器科、膠原病内科など多彩な診療科の協力の基に作成された。本領域は日本からのエビデンスが多いため、本邦独自の診断・治療アルゴリズムと推奨を検討した」とコメントした。VTE予後予測、PESIスコアや誘因因子評価を推奨 四肢の深筋膜より深部を走行する深部静脈に生じた血栓症を示すDVTと深部静脈血栓が遊離し肺動脈へ流入することで発症するPTEを、一連の疾患群と捉えてVTEと総称する。これらの予後に関しては推奨表2「VTEの予後に関する推奨とエビデンスレベル」(p.20)に示され、とくに急性期PTEでは治療方針の検討のために、近年普及している肺塞栓症重症度指数(PESI)ならびにsPESIを用いた患者層別化が推奨された(推奨クラスIIa、エビデンスレベルB)。また、国内の観察研究JAVA(Japan VTE Treatment Registry)やCOMMAND VTE Registryに基づくVTE再発予後についてもガイドライン内に示されている(p.21-22)。前者の研究によると、ワルファリン治療中のVTE再発率は2.8例/100患者・年であったが、治療終了後には8.1例/100患者・年に増加したという。そして、後者の研究からは、VTE診断後1年時点での再発率は、一過性の誘因のある患者群では4.6%、誘因のない患者群では3.1%、活動性のがんの患者群では11.8%であることが明らかになった。PTE診断と治療、判断に悩む中リスク群を拾えるように 急性PTEの診断については、「低血圧やショックがみられる場合には早期にヘパリン投与を考慮する、検査前臨床的確率を推定する際にWellsスコアあるいはジュネーブスコアを用いる、ルールアウトにはDダイマー測定を行う、最終的な確定診断にゴールドスタンダードの造影CT検査/緊急時の心エコー評価、ECMO導入後診断は肺動脈造影も考慮する(p.32)」と述べた。重症度別治療戦略については、前ガイドラインで曖昧であった2つの指標を挙げ、「右心機能不全では(1)右室/左室比が0.9 or 1.0以上、(2)右室自由壁運動低下、(3)三尖弁逆流血流速上昇を、心臓バイオマーカーについてはトロポニンI/TやBNP/NT-proBNPの評価を明確化したことで、判断が難しい中リスク群における血栓溶解療法と抗凝固療法との切り分けができるフローを作成した(p.36)」と解説。治療開始後の血栓溶解療法に関する推奨においては、「循環動態の悪化徴候がみられた場合には、血栓溶解療法を考慮する」点が追記(p.39)されたことにも触れた。 PTEの治療については、DOAC3剤の大規模臨床試験によるエビデンスが多数そろったことでDOACによるVTE治療は推奨クラスI、エビデンスレベルAが示され(p.40)、「低リスク群で“入院理由がない、家族や社会的サポートがある、医療機関の受診が容易である”といった条件がそろえば、DOACによる外来治療も可能となったことも非常に大きな改訂点」と説明した。DVT治療、中枢型と末梢型でアプローチに違い DVTにおいてもPTE同様に検査前臨床的確率の推定や下肢静脈超音波検査/造影CT検査を実施するが、今回の改訂ポイントは「中枢性・末梢性で治療アプローチが異なる点を明確に定義した」ことだと同氏は説明。「中枢性DVTの場合は初期(0~7日)または維持治療期(8日~3ヵ月)に関しては、PTE同様にワルファリンとDOACの使用とともに、すべての中枢性DVTに対して、抗凝固薬の禁忌や継続困難な出血がない場合には少なくとも3ヵ月の抗凝固療法を行うことが推奨されている(いずれも推奨クラスI、エビデンスレベルA、p.47)。一方で、末梢型DVTにおいては、「画一的な抗凝固療法を推奨するものではなく、症候性で治療を行う場合には3ヵ月までの治療を原則とし、無症候性でも活動性がん合併の患者においてはリスクベネフィットを考慮しながらの抗凝固療法が推奨される(推奨クラスIIb、エビデンスレベルB)」と説明した。カテ治療、血栓溶解薬併用と非併用に大別 急性PTEに対するカテーテル治療は、末梢でのコントロールが難渋する例、国内でのデバイスラグなども考慮したうえで、血栓溶解薬併用と非併用に大別している。非併用について、「全身血栓溶解療法が禁忌、無効あるいは抗凝固療法禁忌の高リスクPTEに対し、熟練した術者、専門施設にて血栓溶解薬非併用カテーテル治療を行うことを考慮する。また、抗凝固療法により病態が悪化し、全身血栓溶解療法が禁忌の中リスク急性PTEに対し、熟練した術者、専門施設にて血栓溶解薬非併用カテーテル治療を行うことを考慮する(いずれも推奨クラスIIa、エビデンスレベルC)」と示されている。 このほか、冒頭で触れた慢性疾患への移行については「慢性期疾患患者が急性期VTEを発症することもあるが、PTEが血栓後症候群(PTS)へ、DVTがPTS(血栓後症候群)へ移行するリスクを念頭に治療を行い、発症3~6ヵ月後の評価の必要性を提示していること(推奨表3、p.22)が示された。またCOVID-19での血栓症として、中等症I以下では画一的な抗凝固療法は推奨しない(推奨表1:推奨クラスIII[No benefit]、エビデンスレベルB)ことについて触れた。 最後に同氏は「誘因のないVTEや持続性の誘因によるVTEに対する抗凝固療法の長期投与の際に、未承認ではあるが長期的なリスクベネフィットを考慮したDOACの減量投与などを、今後の課題として検討していきたい」とコメントした。(ケアネット 土井 舞子)そのほかのJCS2025記事はこちら

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アスピリンがよい?それともクロピドグレル?(解説:後藤信哉氏)

 筆者は1986年に循環器内科に入ったので、PCI後に5%の症例が血管解離などにより完全閉塞する時代、解離をステントで解決したが数週後に血栓閉塞する時代、薬剤溶出ステントにより1~2年後でも血栓性閉塞する時代を経験してきた。とくに、ステント開発後、ステント血栓症予防のためにワルファリン、抗血小板薬、線溶薬などを手当たり次第に試した時代を経験している。チクロピジンとアスピリンの併用により、ステント血栓症をほぼ克服できたインパクトは大きかった。チクロピジンの後継薬であるクロピドグレルは、急性冠症候群の1年以内の血栓イベントを低減した。アスピリンとクロピドグレルの併用療法は、PCI後の抗血小板療法の標準治療となった。 抗血小板併用療法により重篤な出血イベントリスクが増える。それでも1剤を減らして単剤にするのは難しい。単剤にした瞬間、血栓イベントが起これば自分の責任のように感じてしまう。やめる薬をアスピリンにするか、クロピドグレルにするかも難しい。クロピドグレルが特許期間内であれば、メーカーは必死でクロピドグレルを残す努力をしたと思う。資本主義の世の中なので、資金のあるほうが広報の力は圧倒的に強い。学術雑誌であってもfairな比較は期待できなかった。 クロピドグレルは特許切れしても広く使用され、真の意味で優れた薬剤であること(メーカーの広報がなくても医師が使用するとの意味)が示された。本研究ではPCI後標準期間の抗血小板併用療法施行後、アスピリンまたはクロピドグレルに割り振った。クロピドグレルの認可承認試験は、アスピリンとの比較における有効性・安全性を検証したCAPRIE試験であった。今回はPCI後、16ヵ月ほどDAPTが施行された後にランダム化した。冠動脈疾患の慢性期の単一抗血小板薬としてクロピドグレルによる死亡、心筋梗塞、脳梗塞がアスピリンよりも少ないことが示された。 筆者は特許中の薬剤を応援することがない。資本主義における、資本力による広報のトリックを完全に見破れる自信もない。しかし、特許切れして、なお有効性・安全性を示す薬は本物と思う。アスピリンは安価で優れた薬であった。筆者はアスピリンについて一冊の本を書いたほどである(後藤 信哉編. 臨床現場におけるアスピリン使用の実際. 南江堂;2006.)。しかし、クロピドグレルも数十年かけて優れた薬であることを示した。今度はクロピドグレルの本を書きたいほどである。

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TIA後の脳卒中リスクは長期間持続する(解説:内山真一郎氏)

 本研究は、38件の研究に登録された17万1,068例のTIAまたは軽症脳梗塞(大多数はTIA)のメタ解析である。脳卒中の再発リスクは最初の1年で5.9%、5年で12.5%、10年で19.8%であり、2年後からは毎年1.8%再発していた。われわれの行ったTIA registry.org研究でも、発症後2年後から5年後まで累積再発曲線は減衰することなく直線的に推移し、ブレーキがかかっていなかった(Amarenco P, et al. N Engl J Med. 2018;378:2182-2190.、本論文の引用文献14)。 このメタ解析やわれわれの研究結果は、現行のガイドラインによる長期の再発予防対策が不十分であることを示唆している。抗血栓療法のアドヒアランスを維持するとともに、脳卒中の危険因子の管理が十分であったかも見直す必要がある。さらに、高血圧、糖尿病、脂質異常、喫煙、心房細動のような伝統的危険因子以外の残余リスクがないかにも目を光らす必要がある(Uchiyama S, et al. Eur Stroke J. 2024 Nov 21. [Epub ahead of print])。

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TIA/軽症脳卒中後の脳卒中リスク、10年後でも顕著に増大/JAMA

 一過性脳虚血発作(TIA)または軽症脳卒中を発症した患者は、その後10年間で脳卒中リスクが徐々に高くなり、欧州に比べ北米やアジアでリスクが高く、非選択的患者集団と比較してTIA患者で低いことが、カナダ・カルガリー大学のFaizan Khan氏らWriting Committee for the PERSIST Collaboratorsが実施した「PERSIST共同研究」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年3月26日号で報告された。コホート研究のメタ解析 研究グループは、TIAまたは軽症脳卒中発症後10年の脳卒中発生率の評価を目的に、系統的レビューとメタ解析を行った(カナダ保健研究機構[CIHR]などの助成を受けた)。 医学関連データベースを用いて、2024年6月26日の時点で公表されている文献を検索した。TIAまたは軽症脳卒中を発症した患者を1年以上追跡し、この間の脳卒中リスクを報告した前向きまたは後ろ向きコホート研究を対象とした。 主要アウトカムは脳卒中の発症とした。累積発生率:1年5.9%、5年12.5%、10年19.8% 38件(欧州22件、日本を含むアジア7件、北米5件、オーストラリア1件、複数国3件)の研究に参加した17万1,068例(年齢中央値69歳[四分位範囲:65~71]、男性患者の割合中央値57%[52~60]、退院時に抗血栓薬を処方された患者の割合中央値95%[89~98])を解析の対象に含めた。38件のうち、17件がTIAまたは軽症脳卒中、20件がTIAのみ、1件が軽症脳卒中のみを対象とした研究であった。 TIAまたは軽症脳卒中後の100人年当たりの脳卒中発生率は、1年目の5.94件(95%信頼区間[CI]:5.18~6.76、38研究、I2=97%)から、2~5年目は年平均1.80件(1.58~2.04、25研究、90%)、6~10年目は年平均1.72件(1.31~2.18、12研究、84%)に減少した。 脳卒中のリスクは経時的に上昇し続け、累積発生率は1年以内が5.9%、5年以内が12.5%、10年以内は19.8%であった。長期的な脳卒中予防対策の改善が求められる 脳卒中発生率は、欧州と比較して北米(率比[RR]:1.43[95%CI:1.36~1.50])およびアジア(1.62[1.52~1.73])の研究で高く、2007年より前に参加者を募集した研究に比べ2007年以降に募集した研究で高かった(1.42[1.23~1.64])。 一方、非選択的患者集団と比較して、TIA患者(RR:0.68[95%CI:0.65~0.71])および初発のインデックスイベント(0.45[0.42~0.49])に焦点を当てた研究で、脳卒中発生率が低かった。 著者は、「多くの2次予防クリニックでは、最初の90日しか患者のモニタリングを行っておらず、長期的な予防ケアはプライマリケア医や内科医に移行していることが多いことを考慮すると、今回の結果は、最初の高リスク期以降における継続的な注意深いモニタリングとリスク低減戦略が重要であることを示している」「これらの知見は、この患者集団における長期的な脳卒中予防対策の改善の必要性を強調するものである」としている。

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「血痰は喀血」、繰り返す喀血は軽症でも精査を~喀血診療指針

 本邦初となる喀血診療に関する指針「喀血診療指針」が、2024年11月に日本呼吸器内視鏡学会の学会誌「気管支学」に全文掲載された。そこで、喀血ガイドライン作成ワーキンググループ座長の丹羽 崇氏(神奈川県立循環器呼吸器病センター 呼吸器内科 医長 兼 喀血・肺循環・気管支鏡治療センター長)に、本指針の作成の背景やポイントなどを聞いた。喀血を体系的にまとめた指針は世界初 「喀血診療の現場では、長年にわたって公式な診療指針が存在せず、個々の医師が経験と知識を基に対応していたことに、大きなジレンマを感じていた」と丹羽氏は述べる。自身でカテーテル治療や内視鏡治療を行うなかで、より体系的な診療指針の必要性を実感していたところ、日本呼吸器内視鏡学会の大崎 能伸理事長(当時)より「ガイドラインを作ってみないか」と声をかけられたことから、喀血ガイドライン作成ワーキンググループが立ち上がり、作成が始まったとのことである。 「喀血という症候に焦点を当てて体系的にまとめているものは、本指針が世界で初めてである」と強調する。本指針は、日本IVR学会の協力のもとで作成されており、放射線科、呼吸器外科、呼吸器内科、救急集中治療の専門医が集まり、集学的に作成されたことから、非常に大作となっている。 なお「ガイドライン」ではなく「指針」となっている点について、「エビデンスが不足している領域が多く、Mindsのガイドライン作成方法に則った作成が困難であったことから、エキスパートオピニオンとして指針という形で作成した」と述べた。軽症喀血を「ティシューで処理可能」とするなど、わかりやすい表現に 本指針では、「血痰」や「小喀血」と表現されるものも「喀血」としている。これについては、「血痰」という表現は日本独自のものであり国際的には用いられていないこと、本指針を英文誌にも掲載して国際的なスタンダードを作成していきたい意向があることなどから、すべて「喀血」として統一したとのことである。 「本指針は専門医だけでなく、非専門医や看護師、救急相談センターの方々にも使っていただくことを想定して作成した」と丹羽氏は語る。そのため、喀血の重症度の表現を軽症喀血であれば「大さじ1杯」「ティシューで処理可能」など、わかりやすい表現としている。このような表現を用いることで「患者にわかりやすく説明可能となり、患者からの話を重症度に結びつけることができるほか、トリアージの場面などにも活用できるのではないか」と述べた。重症度の定義は以下のとおり。<重症喀血>200mL以上(コップ1杯)、または酸素飽和度90%以下<中等症喀血>15mL/日以上200mL/日未満、またはティシューで処理できない量<軽症喀血>15mL/日未満(大さじ1杯)、ティシューで処理可能 本指針では、重症度分類に入院適応と気管支動脈塞栓術(BAE)の適応をリンクさせていることも特徴である。中等症喀血であれば入院は相対適応、BAEも相対適応となっており、軽症喀血では入院については外来レベルとしているが、BAEは慎重適応とし、軽症喀血でもBAEを否定していない。肺非結核性抗酸菌症が増加 喀血というと、結核の印象を持たれる方もいるのではないだろうか。しかし、現在は肺非結核性抗酸菌症(NTM症)が増加している。喀血の原因疾患としては、肺NTM症、肺アスペルギルス症、気管支拡張症が多く、喫煙者にも多いという。本指針では、これらの疾患の概要や治療方法などと共に、喀血との関係についても記載しているため、ぜひ一読されたい。喀血患者は開業医のもとに眠っている 「喀血患者は開業医の先生方のところに多く眠っている」と丹羽氏は語る。「喀血をみたら、原因を精査していただきたい。胸部X線検査ではわからないような微細な変化で喀血を繰り返している人も多いため、喀血を繰り返す場合は、軽症であっても経過観察ではなく精査・加療の対象になると考えてほしい。軽症であってもQOLにも影響し、患者は外出が億劫になったり、お風呂に入るのを控えたりする場合もある」。 また、喀血が原因で抗血小板薬や抗凝固薬などの服用を中断しているケースも散見されるという。これについて「喀血が原因で本来必要な薬剤の服用をやめてしまわないように、BAEなども考慮してほしい。そのため、本指針では軽症喀血であってもBAEを適応なしとせず、慎重適応としている」と述べた。「開業医の先生方にこそ読んでいただきたい」 本指針は、日本呼吸器内視鏡学会の学会誌「気管支学」にフリーアクセスで全文掲載されているほか、2025年4月に書籍として発刊される予定である。書籍版には、重症度分類と治療方針に関する早見表も掲載予定とのことだ。丹羽氏は、本指針の活用法について「喀血患者は開業医の先生方のもとを訪れることが多いため、ぜひ、開業医の先生方にこそ読んでいただきたい。また、喀血患者の紹介を受ける呼吸器科の先生方にも読んでほしい。喀血の原因疾患についても詳しく記載しており、患者への説明にも役立てられると考えている。喀血治療にはカテーテル治療や内視鏡治療のオプションがあるといった気付きを得たり、手術適応の判断に活用したりするなど、本指針を1施設に1冊おいて喀血診療に役立てていただきたい」と話した。

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EGFR陽性NSCLC、アミバンタマブ+ラゼルチニブがOS改善(MARIPOSA)/ELCC2025

 EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療として、EGFRおよびMETを標的とする二重特異性抗体アミバンタマブと第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬ラゼルチニブの併用療法は、国際共同第III相無作為化比較試験「MARIPOSA試験」において、オシメルチニブ単剤と比較して無増悪生存期間(PFS)を改善したことがすでに報告されている1)。また、世界肺がん学会(WCLC2024)で報告されたアップデート解析では、アミバンタマブ+ラゼルチニブが全生存期間(OS)を改善する傾向(ハザード比[HR]:0.77、95%信頼区間[CI]:0.61~0.96、名目上のp値=0.019)にあったことが示され、OSの最終解析結果の報告が待たれていた。欧州肺がん学会(ELCC2025)において、OSの最終解析結果が国立台湾大学のJames Chih-Hsin Yang氏により発表され、アミバンタマブ+ラゼルチニブが有意にOSを改善したことが示された。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験・対象:未治療のEGFR遺伝子変異(exon19delまたはL858R)陽性の進行・転移NSCLC患者・試験群1(ami+laz群):アミバンタマブ(体重に応じ1,050mgまたは1,400mg、最初の1サイクル目は週1回、2サイクル目以降は隔週)+ラゼルチニブ(240mg、1日1回) 429例・試験群2(laz群)ラゼルチニブ(240mg、1日1回) 216例・対照群(osi群):オシメルチニブ(80mg、1日1回) 429例・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定に基づくPFS[主要な副次評価項目]OS[副次評価項目]奏効率(ORR)、頭蓋内PFS、症状進行までの期間(TTSP)など 今回はami+laz群とosi群の比較結果が報告された。主な結果は以下のとおり。・治療中止はami+laz群62%(260/421例)、osi群72%(310/428例)に認められ、病勢進行による治療中止はそれぞれ33%(140/421例)、55%(234/428例)であった。・OS最終解析(追跡期間中央値37.8ヵ月)時点におけるOS中央値はami+laz群が未到達、osi群が36.7ヵ月であり、ami+laz群が有意に改善した(HR:0.75、95%CI:0.61~0.92、p<0.005)。3年OS率はそれぞれ60%、51%であり、42ヵ月OS率はそれぞれ56%、44%であった。・OSのサブグループ解析では、ほとんどのサブグループでami+laz群が優位であった。65歳以上の集団のみosi群が優位な傾向にあった(HR:1.11、95%CI:0.84~1.48)。・頭蓋内PFS中央値はami+laz群が25.4ヵ月、osi群が22.2ヵ月であった(HR:0.79、95%CI:0.61~1.02、p=0.07)。3年頭蓋内PFS率はそれぞれ36%、18%であった。・頭蓋内ORRはami+laz群が78%、osi群が77%であり、頭蓋内奏効期間中央値はそれぞれ35.7ヵ月、29.6ヵ月であった。・TTSP中央値はami+laz群が43.6ヵ月、osi群が29.3ヵ月であり、ami+laz群が改善した(HR:0.69、95%CI:0.57~0.83、p<0.001)。・病勢進行後に2次治療を受けた患者の割合はami+laz群が74%、osi群が76%であり、2次治療の内訳は化学療法ベースの治療がそれぞれ56%、67%で、チロシンキナーゼ阻害薬ベースの治療がそれぞれ39%、28%であった。・割り付け治療継続期間中央値はami+laz群が27.0ヵ月、osi群が22.4ヵ月であった。・安全性プロファイルは主解析時と一貫しており、主解析時から5%以上増加した有害事象はなかった。有害事象の多くは治療開始から4ヵ月以内に発現した。・ベースライン時に抗凝固薬を使用していたのは5%であり、ami+laz群では40%に静脈血栓塞栓症が発現した(osi群は11%)。 なお、本試験の結果に基づき、Johnson & Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)は2025年3月27日に、アミバンタマブとラゼルチニブの併用療法について「EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」を適応として、厚生労働省より承認を取得したことを発表している。

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非弁膜症性心房細動に対するDOAC3剤、1日の服薬回数は治療効果に影響せず?

 非弁膜症性心房細動(NVAF)に対する第Xa因子(FXa)阻害薬の治療効果において、3剤間で安全性プロファイルが異なる可能性が示唆されており、まだ不明点は多い。そこで諏訪 道博氏(北摂総合病院循環器内科臨床検査科 部長)らがリバーロキサバン(商品名:イグザレルト)、アピキサバン(同:エリキュース)、エドキサバン(同:リクシアナ)の3剤の有効性と安全性を評価する目的で、薬物血漿濃度(plasma concentration:PC)と凝固活性をモニタリングして相関関係を調査した。その結果、1日1回投与のリバーロキサバンやエドキサバンの薬物PCはピークとトラフ間で大きく変動したが、凝固活性マーカーのフィブリンモノマー複合体(FMC)は、1日2回投与のアピキサバンと同様に、ピーク/トラフ間で日内変動することなく正常範囲内に維持された。本研究では3剤の時間経過での薬物PCのピークの変動も調査したが、リバーロキサバンについては経時的に蓄積する傾向がみられた。Pharmaceuticals誌2024年10月25日号掲載の報告。 この結果より研究者らは「用法が1日1回と1日2回では、ピークの血中濃度は異なる傾向にあるが、凝固能を示すFMCはピークとトラフのいずれにおいても抑制された。血栓症の既往があり二次予防目的で本剤を使用する場合、2回投与のほうがトラフは維持されるため血栓症が発生しにくいと考えられているが、DOACに関して言えば、変わらないと判断できる」としている。なお、用量の違い(標準用量と低用量)では差異は見られなかった。 本研究は多施設共同観察研究で、NVAFで直接経口抗凝固薬(DOAC[リバーロキサバン:72例、アピキサバン:71例、エドキサバン:125例])を服用している外来患者268例を対象に、薬物PCと凝固活性マーカー(フィブリノーゲン[FIB]とFMC)のピーク(服薬3時間後[服薬開始後1ヵ月後:peak 1、3~4ヵ月後:peak 2、6~12ヵ月後:peak 3の3回測定])とトラフ(服薬直前[1ヵ月後、3~4ヵ月後の2回測定])をモニタリングした。投与量は各薬剤の用量調整基準に基づいて調整された。主要評価項目は投薬開始から12ヵ月までの出血および血栓症の発生とDOACの血中濃度、副次評価項目は投薬開始から12ヵ月までの凝固活性マーカーの測定値であった。 主な結果は以下のとおり。・本研究(摂津DOAC Registry)では、出血イベントが発生した8例(リバーロキサバン3例、アピキサバン2例、エドキサバン3例)のうち、2例(リバーロキサバンとエドキサバン各1例)では薬物PCのピークは出血イベント予測のカットオフ値を下回り、出血が薬剤由来ではない可能性が示唆された。・薬物PCはピークからトラフまで大きく変動したが、凝固活性を反映するFMC値は、薬物PCの変動に関係なく正常範囲(<6.1μg/mL)内に留まっていた。・各薬剤の抗凝固作用は薬物PC、投与量、投与回数に関係なく、1日中持続することが示された。・さらに薬物PCのピークの経時的変化において、peak1~3における薬物PC上昇患者数を評価したところ、リバーロキサバン(50.9%)、アピキサバン(37.5%)、エドキサバン(31.7%)と差異が見られ、時間経過での薬物PC上昇率はエドキサバンで低かった。・経時的に薬物PCの上昇がみられた患者のうち、peak3で薬物PCがわれわれの先の試験において設定された出血予知のカットオフ値を超えた患者数は、リバーロキサバン(44.8%)、アピキサバン(22.2%)、エドキサバン(12.5%)とエドキサバンで最も低頻度で、リバーロキサバンはエドキサバンより蓄積傾向が高く、出血事象発現の可能性が高率であると予想された。 なお、本研究内容の一部は2025年3月28日~30日に横浜で開催される第89回日本循環器学会学術集会でも発表が予定されている。

20.

NVAFによる脳卒中リスクを低減、Amulet左心耳閉鎖システム発売/アボット

 非弁膜症性心房細動(NVAF)患者に行われる経皮的左心耳閉鎖術(LAAC)に有効なデバイス「Amulet(アミュレット)左心耳閉鎖システム」が2025年3月11日にアボットジャパンより発売された。 本システムは独自の2層構造によって、さまざまな形状・サイズの左心耳に対応できる特徴を持っていることから、既存製品では閉塞が困難とされていた左心耳に対しても、閉塞術を行うことが可能となる。また、左心耳の入口部を密閉することで術後のリークを防ぐことも可能となる。 既存デバイス(WATCHMAN)を対象とした海外のAmulet IDE試験結果によると、有意に高い左心耳閉鎖率が示され1)、術後3年時の抗凝固薬中止率も96.2%と有意に高い傾向が示された2)。 なお、日本循環器学会は2024年10月17日に「Amulet左心耳閉鎖システム使用指針」を公開しており、使用する際の概要や患者除外基準、心腔内エコー(ICE)を使用したAmulet左心耳閉鎖システムの使用に関してなどが記載されている。

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