僧帽弁クリップ術やアブレーションによる心房中隔欠損が問題に、その対策とは/日本心臓病学会

提供元:ケアネット

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公開日:2025/09/26

 

 第73回日本心臓病学会学術集会が9月19~21日に高知にて開催された。シンポジウム「循環器内科が考える塞栓症予防-左心耳閉鎖、PFO閉鎖、抗凝固療法-」において、赤木 禎治氏(心臓病センター榊原病院 循環器内科)が、「医原性心房中隔欠損の現状と治療」と題し、心血管インターベンション治療の普及に伴い増加傾向にある心房中隔裂開の対策や課題などについて報告した。

医原性心房中隔欠損、臨床上で問題となる要因とは

 経カテーテル僧帽弁形成、左心耳閉鎖やアブレーションなどの心血管インターベンション治療中に心房中隔を損傷し、中隔が裂けて発生する心房中隔欠損(ASD)を医原性心房中隔欠損(iASD)と呼ぶ。カテーテル操作に起因する中隔裂開として発生するが、術者の技量に関係なく一定の頻度で発生し、一部の患者では急激な血行動態の破綻を招くという。

 このiASDが生じる要因として、「右房圧の亢進した状況(肺高血圧症、右心機能不全)」「重度三尖弁逆流(TR)の存在」「欠損孔と下大静脈(IVC)の流入血流との位置関係」などが挙げられ、これらの発生直後に低酸素血症や循環動態の破綻、遠隔期に病態悪化を来すことで、奇異性脳塞栓リスクが高まる。赤木氏は「急激な血行動態の悪化で、右→左シャントでチアノーゼが起こったり、左→右シャントで全身の血圧が急激に下がったりすることで、危機的な状況を招く」と説明した。

発生数が増加する背景

 近年、iASDの発生件数が増加している背景には、大きなカテーテルを用いる経心房中隔手術、とくにMitraClipデバイスの導入が大きく関わっているという。もともと重症TRがある場合、iASDの穴が小さくてもそこからTRの血流が左心房に吹き込み、急激に酸素飽和度が低下することがある。MitraClipを行う症例ではTRを合併していることも多いため、これが大きな懸念事項となり得る。また、同氏は2022年に岡山大学の髙谷 陽一氏がまとめた国内の経皮的僧帽弁接合不全修復術(MitraClipによるMTEER、以下MTEER)後のiASDに関するデータ1)を示し、「約3,000例を実施した時点で29例、約1%のiASDが当時報告された。この手技の最大の問題点はMTEERにより僧帽弁が修復できる施設であっても、心房中隔閉鎖手技の認定を受けていない施設の場合、発生したiASDを閉じることができないことであった。MTEER実施施設で中隔が裂けた場合に、誰がどう対応するのかという問題も生じている。報告された29例中1例において、MTEERは成功したもののiASDの閉鎖ができず、最終的に心不全で死亡した。この報告は日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)でも非常に大きな問題として取り上げられた」と指摘した。現在、MTEERの実施施設は200件近くにのぼるが、ASDの治療ができる施設は半数程度に限られている。

 iASDの大きさについては、「大体10mm前後でiASDと判断しているが、実際には3mmや4mmといった報告もあり、本当にいつどこで起こるかわからない」とし、発生のタイミングについても「国内状況を調べると、MTEER直後の急激な酸素飽和度の低下のほか、遠隔期に酸素飽和度の低下が見られ、閉鎖が必要になる症例があることが明らかになってきている」とも強調した。榊原病院の森川 喬生氏がまとめた海外データ2)によると、MTEERの5%程度に右→左シャントを伴う症例が発生しており、同氏は「国内でも同程度の可能性はある」と話した。

 さらにiASDはアブレーションでも報告が挙げられており、約630例に行ったアブレーション施行6ヵ月後の経胸壁心エコーで、iASDが4%に遺残していた3)。現時点で奇異性塞栓症リスクまでを考慮した治療ガイドラインは確立されていないが、アブレーションによるiASDで塞栓リスクがあるか否かについては検討課題であるという。

現時点でできる対応方法や今後の取組

 このような問題を解決するために、アボットのAmplatzer Septal Occluderの医原性心房中隔欠損(iASD)閉塞術に対する適応拡大がPMDAにより承認され、CVITは2025年7月23日付で適正使用指針をホームページに公開している。そして、同学会はASD閉鎖術が行われていなかった施設でもiASDを閉鎖できるようなプログラムを用意し、学会ホームページへ「iASD閉鎖術に関する施設・術者申請に関するお知らせ」を掲載している(9月3日更新)。同氏は「このプログラムでは、既にASDもしくは卵円孔開存(PFO)の閉鎖ができる医師を最初にトレーニングし、その後、CVIT認定医もしくは専門医でこの教育プログラムを受けた医師がiASDを閉鎖できるよう進めている」と説明し、あわせてiASDのレジストリ登録についての協力も呼びかけた。

(ケアネット 土井 舞子)