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統合失調症患者への抗精神病薬追加投与、うまくいくポイントは

 統合失調症に対する抗精神病薬の治療効果を妨げる要因として脂質代謝と酸化還元レギュレーションが関係する可能性が示唆されている。ノルウェー・Diakonhjemmet病院のH Bentsen氏らは、急性エピソード統合失調症患者に、抗精神病薬を追加投与する場合、ω-3脂肪酸とビタミンE+Cの両剤を追加することが安全であるという研究結果を報告した。どちらか単剤の追加からはベネフィットは得られず、血中多価不飽和脂肪酸(PUFA)値が低い患者では精神病性症状が誘発されることが示された。Translational Psychiatry誌オンライン版2013年12月17日号の掲載報告。 研究グループは、抗精神病薬にω-3脂肪酸おまたはビタミンE+C(あるいはその両方)を追加投与した場合の臨床効果について調べた。検討に当たっては、ベースライン時のPUFA値が低値の患者では、追加投与でより多くのベネフィットが得られると仮定した。 試験は、多施設共同の無作為化二重盲検プラセボ対照2×2要因配置にて、ノルウェーの精神医療施設に入院した統合失調症または関連する精神疾患を有する18~39歳の連続患者を対象に行われた。被験者には、抗精神病薬とは別に1日2回2剤ずつ、実薬またはプラセボの、EPAカプセル(2g/日)とビタミンE(364mg/日)+ビタミンC(1,000mg/日)が16週間にわたって与えられた。追加投与する薬剤により被験者は、EPAとビタミン剤いずれもプラセボ(グループ1)、EPAは実薬(グループ2)、ビタミン剤は実薬(グループ3)、両剤とも実薬(グループ4)に分類された。主要評価項目は、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の総スコアとサブスケールスコアで、線形混合モデルにより分析した。 主な結果は以下のとおり。・被験者数は99例であった。そのうち97例が、ベースライン時の血中PUFA値が測定されていた。・EPAとビタミン剤が単剤追加投与されたグループ2とグループ3は、脱落者の割合が高かった。一方、両剤を追加投与したグループ4の脱落率は、両剤プラセボのグループ1と変わらなかった。・ベースライン時PUFAが低値の患者では、EPAのみ追加した場合に、PANSS総スコア(Cohen's d=0.29、p=0.03)、精神病性症状(d=0.40、p=0.003)、とくに被害妄想(d=0.48、p=0.0004)が悪化した。・また同じくPUFA低値の患者においてビタミン剤のみ追加した場合では、精神病性症状(d=0.37、p=0.005)、とくに被害妄想(d=0.47、p=0.0005)の悪化がみられた。・一方、ビタミン剤とEPAの両剤を追加した場合は、精神疾患への有害な影響の中和がみられた(相互作用のd=0.31、p=0.02)。・ベースライン時PUFAが高値の患者では、試験薬の有意な影響がPANSS尺度ではみられなかった。関連医療ニュース 日本の統合失調症入院患者は低栄養状態:新潟大学 うつ病補助療法に有効なのは?「EPA vs DHA」 統合失調症患者の脳組織喪失に関わる脂肪酸、薬剤間でも違いが

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Vol. 2 No. 1 これからの血管内治療(EVT)、そして薬物療法

中村 正人 氏東邦大学医療センター大橋病院循環器内科はじめに冠動脈インターベンションの歴史はデバイスの開発と経験の蓄積の反映であるが、末梢血管の血管内治療(endovascular treatment: EVT)も同じ道を歩んでいる。対象となる血管が異なるため、冠動脈とは解剖学的、生理学的な血管特性は異なるが、問題点を解決するための戦略の模索は極めて類似している。本稿では、末梢血管に対するインターベンションの現況を総括しながら、今後登場してくるnew deviceや末梢閉塞性動脈硬化症に対する薬物療法について展望する。EVTの現況EVTの成績は治療部位によって大きく異なり、大動脈―腸骨動脈領域、大腿動脈領域、膝下血管病変の3区域に分割される。個々の領域における治療方針の指標としてはTASCIIが汎用されている。1.大動脈―大腿動脈 この領域の長期成績は良好である。TASCⅡにおけるC、Dは外科治療が優先される病変形態であるが、外科治療との比較検討試験で2次開存率は外科手術と同様の成績が得られることが示されている1)。解剖学的外科的バイパス術は侵襲性が高いこともあり、経験のある施設では腹部大動脈瘤の合併例、総大腿動脈まで連続する閉塞病変などを除き、複雑病変であってもEVTが優先されている(図1、2)。従って、完全閉塞性病変をいかに合併症なく初期成功を得るかが治療の鍵であり、いったん初期成績が得られると長期成績はある程度担保される。図1 腸骨動脈閉塞による重症虚血肢画像を拡大するDistal bypass術により救肢を得た透析例が数年後、膝部の難治性潰瘍で来院。腸骨動脈から大腿動脈に及ぶ完全閉塞を認めた(a)。ガイドワイヤーは静脈bypass graftにクロスし(b)、腸骨動脈はステント留置、総大腿動脈はバルーンによる拡張術を行った。Distal bypass graftの開存(黒矢印)と大腿深動脈の血流(白矢印)が確認された(c)図2 腸骨動脈閉塞による重症虚血肢(つづき)画像を拡大する2.大腿動脈領域 下肢の閉塞性動脈硬化症の中で最も治療対象となる頻度が高い領域である。このため、関心も高く、各種デバイスが考案されている。大腿動脈は運動によって複雑な影響を受けるため、EVTの成績は不良であると考えられてきた。しかし、ナイチノールステントが登場し、EVTの成績は大きく改善し適応は拡大した。EVTの成績を左右する最も強い因子は病変長であり、バルーンによる拡張術とステントの治療の比較検討試験の成績を鑑み、病変長によって治療戦略は大別することができる。(1)5cm未満の病変に対する治療ではバルーンによる拡張術とステント治療では開存性に差はなく、バルーンによる拡張を基本とし、不成功例にベイルアウトでステントを留置する。(2)病変長が5cm以上になると病変長が長いほどバルーンの成績は不良となるが、ステントを用いた拡張術では病変長によらず一定の成績が得られる。このためステントの治療を優先させる。(3)ステントによる治療も15cm以上になると成績が不良となりEVTの成績は外科的バイパス術に比し満足できるものではない2)。開存性に影響する他の因子には糖尿病、女性、透析例、distal run off、重症虚血肢、血管径などが挙げられる。また、ステント留置後の再狭窄パターンが2次開存率に影響することが報告されている3)。3.膝下動脈 この領域は、長期開存性が得難いため跛行肢は適応とはならない。現状、重症虚血肢のみが適応となる。本邦では、糖尿病、透析例が経年的に増加してきており、高齢化と相まって重症虚血肢の頻度は増加している。重症虚血肢の血管病変は複数の領域にわたり、完全閉塞病変、長区域の病変が複数併存する。本邦におけるOLIVE Registryでも浅大腿動脈(SFA)単独病変による重症虚血肢症は17%にとどまり、膝下レベルの血管病変が関与していた(本誌p.24図3を参照)4)。この領域はバルーンによる拡張術が基本であり、本邦では他のデバイスは承認されていない。治療戦略で考慮すべきポイントを示す。(1)in flowの血流改善を優先させる。(2)潰瘍部位支配血管すなわちangiosomeの概念に合わせて血流改善を図る。(3)末梢の血流改善を創傷部への血流像(blush score)、または皮膚灌流圧などで評価する。従来、straight lineの確保がEVTのエンドポイントであったが、さらに末梢below the ankleの治療が必要な症例が散見されるようになっている(図4)。創傷治癒とEVT後の血管開存性には解離があることが報告されているが5)、治癒を得るためには複数回の治療を要するのが現状である。この観点からもnew deviceが有用と期待されている。治癒後はフットケアなど再発予防管理が主体となる。図4 足背動脈の血行再建を行った後に切断を行った、重症虚血肢の高齢男性画像を拡大する画像を拡大する新たな展開薬剤溶出性ステントやdrug coated balloon(DCB)の展開に注目が集まっており、すでに承認されたものや承認に向け進行中のデバイスが目白押しである。いずれのデバイスも現在の問題点を解決または改善するためのものであり、治療戦略、適応を大きく変える可能性を秘めている。1.stent 従来のステントの問題点をクリアするため、柔軟性に富みステント断裂リスクが低いステントが開発されている。代表はLIFE STENTである。ステントはヘリカル構造であり、RESILIENT試験の3年後の成績を見ると、再血行再建回避率は75.5%と従来のステントに比し良好であった6)。リムス系の薬剤を用いた薬剤溶出性ステントの成績は通常のベアステントと差異を認めなかったが、パクリタキセル溶出ステントはベアメタルステントよりも有意に良好であることが示されている7)。Zilver PTXの比較検討試験における病変長は平均7cm程度に限られていたが、実臨床のレジストリーでも再血行再建回避率は84.3%と比較検討試験と遜色ない成績が示されている8)。Zilver PTXは昨年に承認を得、市販後調査が進行中である。内腔がヘパリンコートされているePTFEによるカバードステントVIABAHNは柔軟性が向上し、蛇行領域をステントで横断が可能である。このため、関節区域や長区域の病変に有効と期待されている9)。これらのステントの成績により、大腿動脈領域治療の適応は大きく変化すると予想される。膝下の血管に対しては、薬剤溶出性ステントの有効性が報告されている10)。開存性の改善により、創傷治癒期間の短縮、再治療の必要性の減少が期待される。2.debulking device 各種デバイスが考案されている。本邦で使用できるものはないが、石灰化、ステント再狭窄、血栓性病変に対する治療成績を改善し、non stenting zoneにおける治療手段になり得るものと考えられている。3.drug coated balloon(DCB) パクリタキセルをコーティングしたバルーンであり、数種類が海外では販売されている。ステント再狭窄のみでなく、新規病変に対しバルーン拡張後に、またステント留置の前拡張に用いられる可能性がある。膝下の血管病変は血管径が小さく長区域の病変でステント治療に不向きである上に開存性が低いためDCBに大きな期待が寄せられている。このデバイスも開存性を向上させるデバイスである。成績次第ではEVTの主流になり得ると推測されている。4.re-entry device このデバイスは治療戦略を変える可能性を秘めている。現在、完全閉塞病変に対してはbi-directional approachが多用されているが、順行性アプローチのみで手技が完結できる可能性が高くなる。薬物療法の今後の展開薬物療法は心血管イベント防止のための全身管理と跛行に対する薬物療法に分類されるが、全身管理における治療が不十分であると指摘されている。また、至適な服薬治療が重要ポイントとなっている。1.治療が不十分である 本疾患の生命予後は不良であり、5年の死亡率は15~30%に及ぶと報告され、その75%は心血管死である。このことは全身管理の重要性を示唆している。しかし、2008年と2011年に、有効性が期待できるスタチン、抗血小板薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)の投薬が、虚血性心疾患の症例に比し末梢動脈閉塞性症の症例では有意に低率であると米国から相次いで報告された11, 12)。この報告によると、虚血性心疾患を合併しているとわかっている末梢閉塞性動脈硬化症ではスタチンの無投薬率が42.5%であったのに対し、虚血の合併が不明の末梢閉塞性動脈硬化症では81.7%が無投薬であった12)。本邦においても同様の傾向と推察される。本疾患の無症候例も症候を有する症例と同様に生命予後が不良であるため、喫煙を含めた全身管理の重要性についての啓発が必要である。2.いかに管理すべきか? PADを対照に薬物療法による予後改善を検討した研究は少なくサブ解析が主体であるが、スタチンは26%、アスピリンは13%、クロピドグレルは28%、ACE阻害薬は33%リスクを軽減すると報告されている13)。さらに、これら有効性の高い薬剤を併用するとリスクがさらに低減されることも示されている12)。冠動脈プラークの退縮試験の成績は末梢閉塞性動脈硬化症を合併すると退縮率が不良であるが、厳格にLDLを70mg/dL以下に管理すると退縮が得られると報告されており14)、PADでは厳格な脂質管理が望ましい。 抗血小板薬に関しては、最近のメタ解析の結果によると、アスピリンは偽薬に比しPAD症例で有効性が認められなかった15)。一方、CAPRIE試験のサブ解析では、PAD症例に対しクロピドグレルはアスピリンに比しリスク軽減効果が高いことが示されている16)。今後、新たなチエノピリジン系薬剤も登場してくるが、これら新たな抗血小板薬のPADにおける有効性は明らかでなく、今後の検討課題である。また、本邦で実施されたJELIS試験のサブ解析では、PADにおけるn-3系脂肪酸の有効性が示されている17)。 このように、サブ解析では多くの薬剤が心血管事故防止における有効性が示唆されているが、単独試験で有効性が実証されたものはない。さらには、本邦における有効性の検証が必要になってこよう。3.再狭窄防止の薬物療法 シロスタゾールが大腿動脈領域における従来のステント留置例の治療成績を改善する。New deviceにおける有用性などが今後検証されていくことであろう。おわりにNew deviceでEVTの適応は大きく変わり、EVTの役割は今後ますます大きくなっていくものと推測される。一方、リスク因子に関しては、目標値のみでなくリスクの質的な管理が求められることになっていくであろう。文献1)Kashyap VS et al. The management of severe aortoiliac occlusive disease Endovascular therapy rivals open reconstruction. J Vasc Surg 2008; 48: 1451-1457.2)Soga Y et al. Utility of new classification based on clinical and lesional factors after self-expandable nitinol stenting in the superficial femoral artery. J Vasc Surg 2011; 54: 1058-1066.3)Tosaka A et al. Classification and clinical impact of restenosis after femoropopliteal stenting. J Am Coll Cardiol 2012; 59: 16-23.4)Iida O et al. Endovascular Treatment for Infrainguinal Vessels in Patients with Critical Limb Ischemia: OLIVE Registry, a Prospective, Multicenter Study in Japan with 12-month Followup. Circulation Cardiovasc Interv 2013, in press.5)Romiti M et al. Mata-analysis of infrapopliteal angioplasty for chronic critical limb ischemia. J Vasc Surg 2008; 47: 975-981.6)Laird JR et al. Nitinol stent implantation vs balloon angioplasty for lesions in the superficial femoral and proximal popliteal arteries of patients with claudication: Three-year follow-up from RESILIENT randomized trial. J Endvasc Ther 2012; 19: 1-9.7)Dake MD et al. Paclitaxel-eluting stents show superiority to balloon angioplasty and bare metal stents in femoropopliteal disease. Twelve-month Zilver PTX Randomized study results. Circ Cardiovasc Interv 2011; 4: 495-504.8)Dake MD et al. Nitinol stents with polymer-free paclitaxel coating for lesions in the superficial femoral and popliteal arteries above the knee; Twelve month safety and effectiveness results from the Zilver PTX single-arm clinical study. J Endvasc Therapy 2011; 18: 613-623.9)Bosiers M et al. Randomized comparison of evelolimus-eluting versus bare-metal stents in patients with critical limb ischemia and infrapopliteal arterial occlusive disease. J Vasc Surg 2012; 55: 390-398.10)Saxon RR et al. Randomized, multicenter study comparing expanded polytetrafluoroethylene covered endoprosthesis placement with percutaneous transluminal angioplasty in the treatment of superficial femoral artery occlusive disease. J Vasc Interv Radiol 2008; 19: 823-832.11)Welten GMJM et al. Long-term prognosis of patients with peripheral artery disease. A comparison in patients with coronary artert disease. JACC 2008; 51: 1588-1596.12)Pande RL et al. Secondary prevention and mortality in peripheral artery disease: national health and nutrition exsamination study, 1999 to 2004. Circulation 2011; 124: 17-23.13)Sigvant B et al. Asymptomatic peripheral arterial disease; is pharmacological prevention of cardiovascular risk cost-effective? European J of cardiovasc prevent & rehabilitation 2011; 18: 254-261.14)Hussein AA et al. Peripheral arterial disease and progression atherosclerosis. J Am Coll Cardiol 2011; 57: 1220-1225.15)Berger JS et al. Aspirin for the prevention of cardiovascular events in patients with peripheral artery disease. A mata-analysis of randomized trials. JAMA 2009; 301: 1909-1919.16)CAPRIE Steering Committee. A randomized, blinded, trial of clopidogrel versus aspirin in patients at risk of ischemic events(CAPRIE). Lancet 1996; 348: 1329-1339.17)Ishikawa Y et al. Preventive effects of eicosapentaenoic acid on coronary artery disease in patients with peripheral artery disease-subanalysis of the JELIS trial-. Circ J 2010; 74: 1451-1457.

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栄養補助食品は産後のうつ病予防に有用か

産後の抑うつ症状を予防するとされる代表的な栄養補助食品として、ω-3脂肪酸、鉄、葉酸、s-アデノシル -L-メチオニン、コバラミン、ピリドキシン、リボフラビン、ビタミンD、カルシウムなどが挙げられる。オーストラリア・Flinders Medical CentreのBrendan J Miller氏らは、産前・産後における抑うつ症状の予防に有益な栄養補助食品を探索するため、Cochrane Pregnancy and Childbirth Group's Trials Registerから抽出した2件の無作為化対照試験のデータをレビューした。その結果、セレニウム、DHAあるいはEPAに関する産後抑うつ予防におけるベネフィットは示されず、現時点において、推奨されるエビデンスのある栄養補助食品はないと報告した。Cochrane Database Systematic Reviewsオンライン版2013年10月24日号の掲載報告。 2013年4月30日時点のCochrane Pregnancy and Childbirth Group's Trials Registerを用い、妊娠中の女性または出産後6週以内の女性で、試験開始時に抑うつ症状なし、または抗うつ薬を服用していない者を対象とした無作為化対照試験を検索した。栄養補助食品の単独使用、またはその他の治療と併用して介入した場合の成績を、その他の予防治療、プラセボ、標準的なケアと比較した。主な結果は以下のとおり。・2件の無作為化対照試験が抽出された。【試験1の概要】・酵母由来セレニウム錠100µgとプラセボを、妊娠初期3ヵ月から出産まで経口投与した際の有用性を検討した比較試験。・179人が登録され、セレニウム群とプラセボ群にそれぞれ83人が無作為化された。アウトカムデータが得られたのは85人にとどまった。 ・セレニウム群では61人が試験を完了し、44人でエジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)による評価が得られた。プラセボ群では64人が試験を完了し、41人でEPDSによる評価が得られた。・セレニウム群ではEPDSスコアに影響がみられたが、統計学的に有意ではなかった(p=0.07)。・産後8週間以内の自己報告EPDSにおける平均差(MD)は、-1.90(95%信頼区間[CI]:-3.92~0.12)であった。・脱落例が多かったこと、EPDSを完了しなかった者が多数であったため、大きなバイアスが確認された。・副次アウトカムに関する報告はなかった。 【試験2の概要】・EPA、DHA、プラセボの比較試験。・産後抑うつのリスクにさらされている126人を、EPA群42人、DHA群42人、プラセボ群42人の3群に無作為化した。・EPA群の3人、DHA群の4人、プラセボ群の1人は追跡不能であった。登録時に大うつ病性障害、双極性障害、薬物乱用または依存、自殺企図または統合失調症を有する女性は除外された。ただし、介入中止例(EPA群5人、DHA群4人、プラセボ群7人)は、追跡可能であったためintention-to-treat解析に含めた。・服用期間(栄養補助食品またはプラセボ)は、妊娠12~20週から最後の評価時である出産後6~8週までであった。主要アウトカムは、5回目(出産後6~8週)の受診時におけるベックうつ病評価尺度(BDI)スコアであった。・産後抑うつの予防について、EPA-リッチ魚油サプリメント(MD:0.70、95%CI:-1.78~3.18)、DHA-リッチ魚油サプリメント(同:0.90、-1.33~3.13)のベネフィットは認められなかった。・産後抑うつへの影響について、EPAとDHAの間で差はみられなかった(同:-0.20、-2.61~2.21)。・副次アウトカムは「出産後6~8週時における大うつ病障害の発症」、「抗うつ薬を開始した女性の人数」、「分娩時における母親の出血」、または「新生児特定集中治療室(NICU)への入室」としたが、いずれにおいてもベネフィットはみられず、有意な影響も認められなかった。【結論】・セレニウム、DHAあるいはEPAが産後抑うつを防ぐというエビデンスは不十分である。・現時点において、産後抑うつの予防に推奨されるエビデンスのある栄養補助食品はない。関連医療ニュース 1日1杯のワインがうつ病を予防 日本人のうつ病予防に期待?葉酸の摂取量を増やすべき 日本語版・産後うつ病予測尺度「PDPI-R-J」を開発

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Vol. 1 No. 3 超高齢者の心房細動管理

小田倉 弘典 氏土橋内科医院1. はじめに本章で扱う「超高齢者」についての学会や行政上の明確な定義は現時点でない。老年医学の成書などを参考にすると「85歳以上または90歳以上から超高齢者と呼ぶ」ことが妥当であると思われる。2. 超高齢者の心房細動管理をする上で、まず押さえるべきこと筆者は、循環器専門医からプライマリーケア医に転身して8年になる。プライマリーケアの現場では、病院の循環器外来では決して遭うことのできないさまざまな高齢者を診ることが多い。患者の症状は全身の多岐にわたり、高齢者の場合、自覚・他覚とも症状の発現には個人差があり多様性が大きい。さらに高齢者では、複数の健康問題を併せ持ちそれらが複雑に関係しあっていることが多い。「心房細動は心臓だけを見ていてもダメ」とはよくいわれる言葉であるが、高齢者こそ、このような多様性と複雑性を踏まえた上での包括的な視点が求められる。では具体的にどのような視点を持てばよいのか?高齢者の多様性を理解する場合、「自立高齢者」「虚弱高齢者」「要介護高齢者」の3つに分けると、理解しやすい1)。自立高齢者とは、何らかの疾患を持っているが、壮年期とほぼ同様の生活を行える人たちを指す。虚弱高齢者(frail elderly)とは、要介護の状態ではないが、心身機能の低下や疾患のために日常生活の一部に介助を必要とする高齢者である。要介護高齢者とは、寝たきり・介護を要する認知症などのため、日常生活の一部に介護を必要とする高齢者を指す。自立高齢者においては、壮年者と同様に、予後とQOLの改善という視点から心房細動の適切な管理を行うべきである。しかし超高齢者の場合、虚弱高齢者または要介護高齢者がほとんどであり、むしろ生活機能やQOLの維持の視点を優先すべき例が多いであろう。しかしながら、実際には自立高齢者から虚弱高齢者への移行は緩徐に進行することが多く、その区別をつけることは困難な場合も多い。両者の錯綜する部分を明らかにし、高齢者の持つ複雑性を“見える化”する上で役に立つのが、高齢者総合的機能評価(compre-hensive geriatric assessment : CGA)2)である。CGAにはさまざまなものがあるが、当院では簡便さから日本老年医学会によるCGA7(本誌p20表1を参照)を用いてスクリーニングを行っている。このとき、高齢者に立ちはだかる代表的な問題であるgeriatric giant(老年医学の巨人)、すなわち転倒、うつ、物忘れ、尿失禁、移動困難などについて注意深く評価するようにしている。特に心房細動の場合は服薬管理が重要であり、うつや物忘れの評価は必須である。また転倒リスクの評価は抗凝固薬投与の意思決定や管理においても有用な情報となる。超高齢者においては、このように全身を包括的に評価し、構造的に把握することが、心房細動管理を成功に導く第一歩である。3. 超高齢者の心房細動の診断超高齢者は、自覚症状に乏しく心房細動に気づかないことも多い。毎月受診しているにもかかわらず、ずっと前から心房細動だったことに気づかず、脳塞栓症を発症してしまったケースを経験している医師も少なくないと思われる。最近発表された欧州心臓学会の心房細動管理ガイドライン3)では、「65歳以上の患者における時々の脈拍触診と、脈不整の場合それに続く心電図記録は、初回脳卒中に先立って心房細動を同定するので重要(推奨度Ⅰ/エビデンスレベルB)」であると強調されている。抗凝固療法も抗不整脈処方も、まず診断することから始まる。脈は3秒で測定可能である。「3秒で救える命がある」と考え、厭わずに脈を取ることを、まずお勧めしたい。4. 超高齢者の抗凝固療法抗凝固療法の意思決定は、以下の式(表)が成り立つ場合になされると考えられる。表 抗凝固療法における意思決定1)リスク/ベネフィットまずX、Yを知るにはクリニカルエビデンスを紐解く必要がある。抗凝固療法においては、塞栓予防のベネフィットが大きい場合ほど出血リスクも大きいというジレンマがあり、高齢者においては特に顕著である。また超高齢者を対象とした研究は大変少ない。デンマークの大規模コホート研究では、CHADS2スコアの各因子の中で、75歳以上が他の因子より著明に大きいことが示された(本誌p23図1を参照)4)。この研究は欧州心臓学会のガイドラインにも反映され、同学会で推奨しているCHA2DS2-VAScスコアでは75歳以上を2点と、他より重い危険因子として評価している。また75歳以上の973人(平均81歳)を対象としたBAFTA研究5)では、アスピリン群の年間塞栓率3.8%に比べ、ワルファリンが1.8%と有意に減少しており、出血率は同等で塞栓率を下回った。一方で人工弁、心筋梗塞後などの高齢者4,202人を対象とした研究6)では、80歳を超えた人のワルファリン投与による血栓塞栓症発症率は、60歳未満の2.7倍であったのに対し、出血率は2.9倍だった。スウェーデンの大規模研究7)では、抗凝固薬服用患者において出血率は年齢とともに増加したが、血栓塞栓率は変化がなかった。また80歳以上でCHADS2スコア1点以上の人を対象にしたワルファリンの出血リスクと忍容性の検討8)では、80歳未満の人に比べ、2.8倍の大出血を認め、CHADS2スコア3点以上の人でより高率であった。最近、80歳以上の非弁膜症性心房細動の人のみを対象とした前向きコホート研究9)が報告されたが、それによると平均年齢83~84歳、CHADS2スコア2.2~2.6点という高リスクな集団において、PT-INR2.0~3.0を目標としたワルファリン治療群は、非治療群に比べ塞栓症、死亡率ともに有意に減少し、大出血の出現に有意差はなかった。このように、高齢者では出血率が懸念される一方、抗凝固薬の有効性を示す報告もあり、判断に迷うところである。ひとつの判断材料として、出血を規定する因子がある。80歳以上の退院後の心房細動患者323人を29か月追跡した研究10)によると、出血を増加させる因子として、(1)抗凝固薬に対する不十分な教育(オッズ比8.8)(2)7種類以上の併用薬(オッズ比6.1)(3)INR3.0を超えた管理(オッズ比1.08)が挙げられた。ワルファリン服用下で頭蓋内出血を起こした症例と、各因子をマッチさせた対照とを比較した研究11)では、平均年齢75~78歳の心房細動例でINRを2.0~3.0にコントロールした群に比べ、3.5~3.9の値を示した群は頭蓋内出血が4.6倍であったが、2.0未満で管理した群では同等のリスクであった。さらにEPICA研究12)では、80歳以上のワルファリン患者(平均84歳、最高102歳)において、大出血率は1.87/100人年と、従来の報告よりかなり低いことが示された。この研究は、抗凝固療法専門クリニックに通院し、ワルファリンのtime to therapeutic range(TTR)が平均62%と良好な症例を対象としていることが注目される。ただし85歳以上の人は、それ以外に比べ1.3倍出血が多いことも指摘されている。HAS-BLEDスコア(本誌p24表3を参照)は、抗凝固療法下での大出血の予測スコアとして近年注目されており13)、同スコアが3点以上から出血が顕著に増加することが知られている。このようにINRを2.0~3.0に厳格に管理すること、出血リスクを適切に把握することがリスク/ベネフィットを考える上でポイントとなる。2)負担(Burden)超高齢者においては、上記のような抗凝固薬のリスクとベネフィット以外のγの要素、すなわち抗凝固薬を服薬する上で生じる各種の負担(=burden)を十分考慮する必要がある。(1)ワルファリンに対する感受性 高齢者ほどワルファリンの抗凝固作用に対する感受性が高いことはよく知られている。ワルファリン導入期における大出血を比べた研究8)では、80歳以上の例では、80歳未満に比べはるかに高い大出血率を認めている(本誌p25図2を参照)。また、高齢者ではワルファリン投与量の変更に伴うINRの変動が大きく、若年者に比べワルファリンの至適用量は少ないことが多い。前述のスウェーデンにおける大規模研究7)では、50歳代のワルファリン至適用量は5.6mg/日であったのに対し、80歳代は3.4mg/日、90歳代は3mg/日であった。(2)併用薬剤 ワルファリンは、各種併用薬剤の影響を大きく受けることが知られているが、その傾向は高齢者において特に顕著である。抗菌薬14)、抗血小板薬15)をワルファリンと併用した高齢者での出血リスク増加の報告もある。(3)転倒リスク 高齢者の転倒リスクは高く、転倒に伴う急性硬膜下血腫などへの懸念から、抗凝固薬投与を控える医師も多いかもしれない。しかし抗凝固療法中の高齢者における転倒と出血リスクの関係について述べた総説16)によると、転倒例と非転倒例で比較しても出血イベントに差がなかったとするコホート研究17)などの結果から、高齢者における転倒リスクはワルファリン開始の禁忌とはならないとしている。また最近の観察研究18)でも、転倒の高リスクを有する人は、低リスク例と比較して特に大出血が多くないことが報告された。エビデンスレベルはいずれも高くはないが、懸念されるほどのリスクはない可能性が示唆される。(4)服薬アドヒアランス ときに、INRが毎回のように目標域を逸脱する例を経験する。INRの変動を規定する因子として遺伝的要因、併用薬剤、食物などが挙げられるが、最も大きく影響するのは服薬アドヒアランスである。高齢者でINR変動の大きい人を診たら、まず服薬管理状況を詳しく問診すべきである。ワルファリン管理に影響する未知の因子を検討した報告19)では、認知機能低下、うつ気分、不適切な健康リテラシーが、ワルファリンによる出血リスクを増加させた。 はじめに述べたように、超高齢者では特にアドヒアランスを維持するにあたって、認知機能低下およびうつの有無と程度をしっかり把握する必要がある。その結果からアドヒアランスの低下が懸念される場合には、家族や他の医療スタッフなどと連携を密に取り、飲み忘れや過剰服薬をできる限り避けるような体制づくりをすべきである。また、認知機能低下のない場合の飲み忘れに関しては、抗凝固薬に対する重要性の認識が低いことが考えられる。服薬開始時に、抗凝固薬の必要性と不適切な服薬の危険性について、患者、家族、医療者間で共通認識をしっかり作っておくことが第一である。3)新規抗凝固薬新規抗凝固薬は、超高齢者に対する経験の蓄積がほとんどないため大規模試験のデータに頼らなければならない。RE-LY試験20)では平均年齢は63~64歳であり、75歳を超えるとダビガトランの塞栓症リスクはワルファリンと同等にもかかわらず、大出血リスクはむしろ増加傾向を認めた21)。一方、リバーロキサバンに関するROCKET-AF試験22)は、CHADS2スコア2点以上であるため、年齢の中央値は73歳であり、1/4が78歳以上であった。ただし超高齢者対象のサブ解析は明らかにされていない。4)まとめと推奨これまで見たように、80歳以上を対象にしたエビデンスは散見されるが85歳以上に関する情報は非常に少なく、一定のエビデンス、コンセンサスはない。筆者は開業後8年間、原則として虚弱高齢者にも抗凝固療法を施行し、85歳以上の方にも13例に新規導入と維持療法を行ってきたが、大出血は1例も経験していない。こうした経験や前述の知見を総合し、超高齢者における抗凝固療法に関しての私見をまとめておく。■自立高齢者では、壮年者と同じように抗凝固療法を適応する■虚弱高齢者でもなるべく抗凝固療法を考えるが、以下の点を考慮する現時点ではワルファリンを用いるINRの変動状況、服薬アドヒアランスを適切に把握し、INRの厳格な管理を心がける併用薬剤は可能な限り少なくする導入初期に、家族を交えた患者教育を行い、服薬の意義を十分理解してもらう導入初期は、通院を頻回にし、きめ細かいINR管理を行う転倒リスクも患者さんごとに、適切に把握するHAS-BLEDスコア3点以上の例は特に出血に注意し、場合により抗凝固療法は控える5. 超高齢者のリズムコントロールとレートコントロール超高齢者においては、発作性心房細動の症状が強く、直流除細動やカテーテルアブレーションを考慮する場合はほとんどない。また発作予防のための長期抗不整脈薬投与は、永続性心房細動が多い、薬物の催不整脈作用に対する感受性が強い、などの理由で勧められていない23)。したがって超高齢者においては、心拍数調節治療、いわゆるレートコントロールを第一に考えてよいと思われる。レートコントロールの目標については、近年RACEII試験24,25)において目標心拍数を110/分未満にした緩徐コントロール群と、80/分未満にした厳格コントロール群とで予後やQOLに差がないことが示され注目されている。同試験の対象は80歳以下であるが、薬剤の併用や高用量投与を避ける点から考えると、超高齢者にも適応して問題ないと思われる。レートコントロールに用いる薬剤としてはβ遮断薬、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬のどちらも有効である。β遮断薬は、半減期が長い、COPD患者には慎重投与が必要である、などの理由から、超高齢者には半減期の短いベラパミルが使用されることが多い。使用に際しては、潜在化していた洞不全症候群、心不全が症候性になる可能性があるため、投与初期のホルター心電図等による心拍数確認や心不全徴候に十分注意する。6. 超高齢者の心房細動有病率米国の一般人口における有病率については、4つの疫学調査をまとめた報告26)によると、80歳以上では約10%とされており、85歳以上の人では男9.1%、女11.1%と報告されている27)。日本においては、日本循環器学会の2003年の健康診断症例による研究28)によると、80歳以上の有病率は男4.4%、女2.2%であった。また、2012年に報告された最新の久山町研究29)では、2007年時80歳以上の有病率は6.1%であった。今後高齢化に伴い、超高齢者の有病率は増加するものと思われる。7. おわりにこれまで見てきたように、超高齢者の心房細動管理に関してはエビデンスが非常に少なく、特に抗凝固療法においてはリスク、ベネフィットともに大きいというジレンマがある。一方、そうしたリスク、ベネフィット以外にさまざまな「負担」を加味し、包括的に状態を評価し意思決定につなげていく必要に迫られる。このような状況では、その意思決定に特有の「不確実性」がつきまとうことは避けられないことである。その際、「正しい意思決定」をすることよりももっと大切なことは、患者さん、家族、医療者間で、問題点、目標、それぞれの役割を明確にし、それを共有し合うこと。いわゆる信頼関係に基づいた共通基盤を構築すること1)であると考える。そしてそれこそが超高齢者医療の最終目標であると考える。文献1)井上真智子. 高齢者ケアにおける家庭医の役割. 新・総合診療医学(家庭医療学編) . 藤沼康樹編, カイ書林, 東京, 2012.2)鳥羽研二ら. 高齢者総合的機能評価簡易版CGA7の開発. 日本老年医学会雑誌2010; 41: 124.3)Camm J et al. 2012 focused update of the ESC Guidelines for the management of atrial fibrillation.An update of the 2010 ESC Guidelines for the management of atrial fibrillation Developed withthe special contribution of the European Heart Rhythm Association. Eur Heart J 2012; doi: 10.1093/eurheartj/ehs253.4)Olesen JB et al. Validation of risk stratification schemes for predicting stroke and thromboembolism in patients with atrial fibrillation: nationwide cohort study. BMJ 2011; 342: d124. doi: 10.1136/bmj.d124.5)Mant JW et al. Protocol for Birmingham Atrial Fibrillation Treatment of the Aged study(BAFTA): a randomised controlled trial of warfarin versus aspirin for stroke prevention in the management of atrial fibrillation in an elderly primary care population [ISRCTN89345269]. BMC Cardiovasc Disord 2003; 3: 9.6)Torn M et al. Risks of oral anticoagulant therapy with increasing age. Arch Intern Med 2005; 165(13): 1527-1532.7)Wieloch M et al. Anticoagulation control in Sweden: reports of time in therapeutic range, major bleeding, and thrombo-embolic complications from the national quality registry AuriculA. Eur Heart J 2011; 32(18): 2282-2289.8)Hylek EM et al. 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Vol. 1 No. 2 糖尿病と心血管イベントの関係

横井 宏佳 氏小倉記念病院循環器内科はじめに糖尿病患者の心血管イベント(CV)予防とは、最終的には心筋梗塞、脳梗塞、下肢閉塞性動脈硬化症といったアテローム性動脈硬化症(ATS)の発症をいかに予防するか、ということになる。そのためには、糖尿病患者の動脈硬化の発生機序を理解して治療戦略を立てることが必要となる。糖尿病において見られるアテローム血栓性動脈硬化症の促進には慢性的高血糖、食後高血糖、脂質異常症、インスリン抵抗性を含むいくつかの代謝異常が関連しており、通常状態や血管再生の状態でのCVを起こすような脆弱性を与える。また、代謝異常に加えて、糖尿病は内皮細胞・平滑筋細胞・血小板といった複数の細胞の配列を変える。糖尿病が関連するATSのいくつかの特徴の記述があるにもかかわらず、ATS形成過程の始まりと進行の確定的なメカニズムはわからないままであるが、実臨床における治療戦略としてはATSに関わる複数の因子に対して薬物治療を行うことが必要になる。インスリン抵抗性脂質代謝異常、高血圧、肥満、インスリン抵抗性はすべて、メタボリックシンドロームのカギとなる特徴であり、引き続いて2型糖尿病に進行する危険性の高い患者の最初の測定可能な代謝異常でもある。インスリン抵抗性は、インスリンの作用に対する体の組織の感度が低下することであり、これは筋肉や脂肪でのグルコース処理や肝臓でのグルコース産出でのインスリン抑制に影響する。結果的に、より高濃度のインスリンが、末梢でのグルコース処理を刺激したり、2型糖尿病患者では糖尿病でない患者よりも肝臓でのグルコース産出を抑制したりするのに必要である。生物学的なレベルでは、インスリン抵抗性は凝固、炎症促進状態、内皮細胞機能障害、その他の病態の促進に関連している。インスリン抵抗性の患者では、内皮細胞依存性血管拡張は減少しており、機能障害の重症度はインスリン抵抗性の程度と相互に関係している。インスリン抵抗性状態での内皮細胞依存性血管拡張異常は、一酸化窒素(NO)の産生を減少させる細胞内シグナルの変化によって説明できる。つまり、インスリン抵抗性は、遊離脂肪酸値の上昇と関連しており、それがNO合成酵素の活性を減少させ、インスリン抵抗性状態においてNOの産生を減らす。臨床的には、インスリン抵抗性はCVリスクを増加させることに関連している。当院の2006年の急性心筋梗塞患者連続137例の検討では、本邦のメタボリックシンドロームの診断基準を満たす患者は49%を占めており、久山町研究の男性29%、女性21%よりも高率であった。この傾向は1990年前半に行われた米国の全国国民栄養調査の成績と同様であった。また、当院で施行した糖尿病と診断されていない患者への糖負荷試験と冠動脈CTの臨床研究でも、インスリン抵抗性と冠動脈CT上の不安定プラークの存在(代償性拡大、低CT値、限局性石灰化)との間に有意な相関を認めた。インスリン抵抗性を改善する薬物にはビグアナイド薬(BIG)とチアゾリジン薬(TZD)が存在するが、ATSの進展抑制の観点からはTZDがより効果的である。TZD(PPARγアゴニスト)は、血中インスリン濃度を高めることなく血糖を低下させる効果を有し、インスリン抵抗性改善作用はBIGよりも強力である。また、糖代謝のみならず、BIGにはないTG低下、HDL増加といった脂質改善作用、内皮機能改善による血圧降下作用、アディポネクチンを直接増加させる作用を有し、抗動脈硬化作用が期待される。さらに、造影剤使用時の乳酸アシドーシスのリスクはなく、PCIを施行する患者には安心して使用できる利点がある。このほかに、血管壁やマクロファージに直接作用して抗炎症、抗増殖、プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1( PAI-1)減少作用を有することが知られている。この血管壁に対する直接作用はATS進展抑制作用が期待され、CVイベント抑制に繋がる可能性が示唆される。実際、臨床のエビデンスとしては、PROactive試験のサブ解析における心筋梗塞既往患者2,445例を抽出した検討で、ピオグリタゾン内服患者が非内服患者に比較して、心筋梗塞、急性冠症候群(ACS)などの不安定プラーク破裂により生じる心血管イベントは有意に低率であることが示されている。またPERISCOPE試験では、糖尿病を有する狭心症患者におけるIVUSを用いた検討において、SU剤に比較してピオグリタゾンは18か月間の冠動脈プラークの進行を抑制し、退縮の方向に転換させたことが明らかとなり、CV抑制の病態機序が明らかとなった。また、ロシグリタゾンではLDL上昇作用によりCVイベントを増加させるが、ピオグリタゾンのメタ解析ではCVイベントを有意に抑制することが報告されている。ピオグリタゾンは、腎臓におけるNa吸収促進による循環血液量の増大による浮腫、体重増加、心不全の悪化、骨折、膀胱癌などの副作用が指摘されているが、CVイベント発症時の致死率を考えるとrisk/benefitのバランスからは、高リスク糖尿病患者には血糖管理とは別に少なくとも15mgは投与することが望ましいと思われる。内皮細胞機能障害糖尿病血管疾患は内皮細胞機能障害によって特徴づけられ、それは、高血糖、遊離脂肪酸産生の増加、内皮細胞由来のNOの生物学的利用率の減少、終末糖化産物(AGE)の形成、リポ蛋白質の変化、そして前述のインスリン抵抗性と関係する生物学的異常である。内皮細胞由来のNOの生物学的利用率の減少は、後に内皮細胞依存性の血管拡張障害を伴うが、検出可能なATS形成が進行するよりもずっと前に糖尿病患者において観察される。NOは潜在的な血管拡張因子であり、内皮細胞が介在して制御する血管弛緩のメカニズムのカギとなる物質である。加えて、NOは血小板の活性を抑え、白血球が内皮細胞と接着したり血管壁に移動したりするのを減少することによって炎症を制限し、血管平滑筋細胞の増殖と移動を減らす。結果として、正常な場合、血管壁におけるNO代謝は、ATS形成阻害という保護効果を持つ。AGEの形成は、グルコースについているアミノ基の酸化の結果である。増大するAGE生成物によって誘発される追加の過程は、内皮下細胞の増殖、マトリックス発現、サイトカイン放出、マクロファージ活性化、接着分子の発現を含んでいる。慢性的高血糖、食後高血糖による酸化ストレスが、糖尿病合併症の病因として重要な役割を果たしているのだろうと推測されている。高血糖は、グルコース代謝を通して直接的にも、AGEの形成とAGE受容体の結合という間接的な形でも、ミトコンドリア中の活性酸素種の産生を誘発する。臨床的には内皮細胞機能障害がATSの進行を助長するのみならず、冠動脈プラーク破裂の外的要因である冠スパスムも助長することになる。急性心筋梗塞患者の20%は冠動脈に有意狭窄はなく、薬物負荷試験で冠スパスムが誘発される。高血圧患者に対して施行されたVALUE試験では、スパスムを予防できるカルシウム拮抗薬(CCB)が有意にアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)よりも心筋梗塞の発症を予防すること、またBPLTTCのメタ解析では、NO産生を促すACE阻害薬がARBよりも冠動脈疾患の発生が少ないことなどが明らかにされ、これらの結果は、心筋梗塞の発生に内皮細胞機能障害によるスパスムが関与していることを示唆している。従って糖尿病患者においては内皮細胞機能障害を念頭に、特にスパスムの多いわが国においては、降圧薬としてはHOPE試験でエビデンスのあるRA系阻害薬に追加してCCBの投与を考慮すべきではないかと思われる。また、グルコーススパイクが内皮細胞のアポトーシスを促進させることが知られている。自験例の検討でも、食後高血糖がPCI施行後のCVイベント発症を増加させることが判明しており、STOP-NIDDM試験、MeRIA-7試験のエビデンスと合わせて、内皮機能障害改善のためにα-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)の投与も考慮すべきであると思われる。血栓形成促進性状態糖尿病患者が凝固性亢進状態にあるという知見は、血栓形成イベントのリスク増加と凝固系検査値の異常が基となっている。ACS患者の血管内視鏡による検討では、プラーク潰瘍および冠内血栓は、糖尿病患者においてそうでない患者よりも頻繁に見られることが明らかにされている。同様に、血栓の発生率は、糖尿病患者から取った粥腫切除標本の方が、そうでない患者から取ったそれよりも高いこともわかった。糖尿病患者では、ずり応力(シェアストレス)に対して、血小板の作用と凝集が亢進し、血小板を刺激する。加えて、血小板表面上の糖タンパク質GP-Ib受容体やGPⅡb/Ⅲaの発現が増加するといわれている。その上、抗凝集作用を持つNOやプロスタサイクリンの内皮細胞からの産生が減少するのに加え、フィブリノゲン、組織因子、von Willebrand因子、血小板因子4、因子Ⅶなどの凝血原の値が増加し、プロテインC、抗トロンビンⅢなどの内因性抗凝血物質の濃度が低下することが報告されている。さらにPAI-1が内在性組織のプラスミノーゲンアクチベーター仲介性線溶を障害する。つまり、糖尿病は、内因性血小板作用亢進、血小板作用の内在性阻害機構の抑制、内在性線溶の障害による血液凝固の亢進によって特徴づけられる。臨床的には、CVイベント予防のために高リスク糖尿病患者へのアスピリン単剤投与がADAのガイドラインでも推奨されている。クロピドグレルの併用は、出血のリスクとのバランスの中で症例個々に検討していく必要があると思われる。GPⅡb/Ⅲa受容体拮抗薬は、糖尿病患者のPCIの予後を改善することが報告されているが、本邦では未承認である。炎症状態炎症は、急性CVイベントだけでなくATS形成の開始と進行にも関係がある。糖尿病を含むいくつかのCVリスクファクターは炎症状態の引き金となるだろう。白血球は一般的には炎症の主要なメディエーターと考えられているが、近年では、炎症における血小板がカギとなる役割を果たすことが報告されている。この病態と関連する代謝障害が血管炎症の引き金となるということはもっともなことだが、その逆もまた正しいのかもしれない。従って、C反応性タンパク質(CRP)が進行する2型糖尿病のリスクを非依存的に予測するものとして示されてきた。糖尿病や明らかな糖尿病が見られない状態でのインスリン抵抗性状態において上昇する炎症パラメーターには、高感度C反応性タンパク質(hsCRP)、インターロイキン6(IL-6)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、循環性(可溶性)CD40リガンド(sCD40L)がある。さらに内皮細胞(E)-セレクチン、血管細胞接着分子1(VCAM-1)、細胞内接着分子1(ICAM-1)などの接着分子の発現が増加することもわかっている。血管炎症作用亢進状態での形態学的な基質は、ACS患者の粥腫切除標本の分析から得たものである。糖尿病患者の組織は、非糖尿病患者の組織と比較して、脂質優位の粥腫がより大部分を占めており、より明らかなマクロファージ浸潤が見られる。特に糖尿病患者においては、冠血管のATS形成過程を促進することでAGE受容体(RAGE)が炎症過程や内皮細胞作用に重要な役割を果たすかもしれない。近年では、ATS形成が見られる患者における炎症促進のカギとなるサイトカインであるCRPが、内皮細胞でのRAGE発現をアップレギュレートすることが報告されている。これらの知見は、炎症、内皮細胞機能障害、ATS形成における糖尿病の機構的な関連を強化している。臨床的にCVイベントの発生に炎症が関与しており、その介入治療としてスタチンが効果的であることがJUPITER試験より明らかとなった。CARDS試験ではストロングスタチンが糖尿病患者のCVイベント抑制に効果的であることが報告されたが、この効果はLDL低下作用とCRP低下作用の強力な群でより顕著であった。2010年、ADAでは糖尿病患者のLDL管理目標値は1次予防で100mg/dL、2次予防で70mg/dLとより厳格な脂質管理を求めているが、脂質改善のみならず、抗炎症効果を期待したものでもあると思われる。プラーク不安定性と血管修復障害ATS形成の促進に加えて、糖尿病ではプラーク不安定性も起きる。糖尿病患者での粥状動脈硬化症病変は、非糖尿病患者に比して、血管平滑筋細胞が少ないことが示されている。コラーゲン源として血管平滑筋細胞は粥腫を強化し、それを壊れにくくする。加えて、糖尿病の内皮細胞は、血管平滑筋細胞によるコラーゲンの新たな合成を減少させる過剰量のサイトカインを産生する。そして最後に、糖尿病はコラーゲンの分解につながるマトリックスのメタロプロテイナーゼの産生を高め、プラークの線維性キャップの機械的安定性を減少させる。つまり、糖尿病はATS病変の形成、プラーク不安定性、臨床的イベントによって血管平滑筋細胞の機能を変える。糖尿病患者では非糖尿病患者より、壊れやすい脂質優位のプラークの量が多いことが報告されてきた。その上、糖尿病患者では、血管修復に重要な制御因子であると考えられているヒト内皮前駆細胞の増殖、接着、血管構造への取り込みが障害されていることが近年の知見で示唆されている。前述の機能障害に加えて、年齢と性をマッチさせ調整した対照群と比較して、培養液中の糖尿病患者から取った内皮前駆細胞の数が減っていることがわかり、その減少は逆にHbA1c値と関係していた。別の調査では、末梢動脈疾患を持つ糖尿病患者では、内皮前駆細胞値が特に低いことが報告されており、この株化細胞の枯渇が、末梢血管の糖尿病合併症の病変形成に関わっているのではないかと推測されている。ピオグリタゾンは糖尿病患者の内皮前駆細胞を増加させることが知られている。まとめ以上のごとく、糖尿病患者のCVイベント予防のためにはHbA1cの管理に加えて、ATS発症に影響を及ぼす多様な因子に対して集学的アプローチが重要となる。Steno-2試験では糖尿病患者に対して血糖のみならず、脂質、高血圧管理を同時に厳格に行うことでCVイベントを抑制した。血糖管理に加えて、スタチン、アスピリン、RA系阻害薬、CCB、TZD、α-GIによる血管管理がCVイベント抑制に効果的であると思われる。また、今後EPA製剤による脂肪酸バランスの是正、DPP-4やGLP-1などのインクレチン製剤による心血管保護も、糖尿病患者のCVイベント抑制に寄与することが期待される。今後は、糖尿病患者ごとにCVイベントリスクを評価し、薬物介入のベネフィットとリスクとコストのバランスを考慮して最適な薬物治療を検討していくことが重要になると思われる。このような観点から、今後登場する各種合剤は、この治療戦略を実行する上で患者服薬コンプライアンスを高め、助けになると思われる。

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病院側の指示に従わず狭心症発作で死亡した症例をめぐって、医師の責任が問われたケース

循環器最終判決平成16年10月25日 千葉地方裁判所 判決概要動悸と失神発作で発症した64歳女性。冠動脈造影検査で異型狭心症と診断され、入院中はニトログリセリン(商品名:ミリスロール)の持続点滴でコントロールし、退院後はアムロジピン(同:ノルバスク)、ニコランジル(同:シグマート)、ジルチアゼム(同:ヘルベッサー)、ニトログリセリン(同:ミリステープ、ミオコールスプレー)などを処方されていた。発症から5ヵ月後、再び動悸と気絶感が出現して、安静加療目的で入院となった。担当医師はミリスロール®の点滴を勧めたが、前回投与時に頭痛がみられたこと、点滴に伴う行動の制限や入院長期化につながることを嫌がる患者は、「またあの点滴ですか」と拒否的な態度を示した。仕方なくミリスロール®の点滴を見合わせていたが、患者が看護師の制止を聞かずトイレ歩行をしたところ、再び強い狭心症発作が出現し、さまざまな救命措置にもかかわらず約2時間後に死亡確認となった。詳細な経過患者情報64歳女性経過平成11(1999)年2月10日起床時に動悸が出現し、排尿後に意識を消失したため、当該総合病院を受診。胸部X線、心電図上は異常なし。3月17日~3月24日失神発作の精査目的で入院、異型狭心症と診断。3月24日~3月27日別病院に紹介入院となって冠動脈造影検査を受け、冠攣縮性狭心症と診断された。6月2日早朝、動悸とともに失神発作を起こし、当該病院に入院。ミリスロール®の持続点滴と、内服薬ノルバスク®1錠、シグマート®3錠にて症状は改善。6月9日失神や胸痛などの胸部症状は消失したため、ミリスロール®の点滴からミリステープ®2枚に変更。入院当初は頭痛を訴えていたが、ミリステープ®に変更してから頭痛は消失。6月22日状態は安定し退院。退院処方:ノルバスク®1錠、ミリステープ®2枚、チクロピジン(同:パナルジン)1錠、シグマート®3錠、ロキサチジン(同:アルタット)1カプセル。7月2日起床時に動悸が出現、ミオコールスプレー®により症状は改善。7月5日起床時に動悸が出現、ミオコールスプレー®により症状は改善。7月7日起床時立ち上がった途端に動悸、気絶感が出現したとの申告を受け、ノルバスク®を中止しヘルベッサー®を処方。7月12日05:30起床してトイレに行った際に動悸、気絶感が出現。トイレに腰掛けてミオコールスプレー®を使用した直後に数分間の意識消失がみられた。06:50救急車で搬送入院。安静度「ベッド上安静」、排泄「尿・便器」使用、酸素吸入(1分間当たり1L)、ミリステープ®2枚(朝、夕)、心電図モニター使用、胸痛時ミオコールスプレー®を2回まで使用と指示。09:30入室直後に尿意を訴えた。担当看護師は医師の指示通り尿器の使用を勧めたが、患者は尿器では出ないのでトイレに行くことに固執したため、看護師長を呼び、ベッドを個室トイレの側まで動かし、トイレで排尿させた。排尿後に呼吸苦がみられたので、酸素吸入を開始し、ミリステープ®を貼用したところ2~3分で落ちついてきた。担当看護師は定時のシグマート®、ヘルベッサー®を内服させ、今後は尿器を使用することを促した。担当医師も訪室して安静にすべきことを説明し、ミリスロール®の点滴を勧めたが、患者は「またあの点滴ですか」と拒否的な態度を示したため、やむを得ずミリスロール®の点滴をしないことにした。その後、胸部症状は消失。15:00見舞いにきた家族が「点滴していなかったんだね」といったところ、患者は「軽かったのかな」と答えたとのこと(病院側はその事実を確認していない)。18:30尿意がありトイレでの排尿を希望。担当看護師は尿器の使用を勧めたが、トイレへ行きたいと強く希望したため、看護師は医師に確認するといって病室を離れた(このとき担当医師とは連絡取れず)。18:43トイレで倒れている患者を看護師が発見。ただちにミオコールスプレー®を1回噴霧したが、「胸苦しい、苦しい」と状態は改善せず。18:50ミオコールスプレー®を再度噴霧したが状態は変わらず、四肢冷感、冷汗が認められ、駆けつけた医師の指示でニトログリセリン(同:ニトロペン)1錠を舌下するが、心拍数は60台に低下、血圧測定不能、意識低下、自発呼吸も消失した。19:00乳酸リンゲル液(同:ラクテック)にて血管確保、心拍数30~40台。19:10イソプレナリン(同:プロタノール)1A、アドレナリン(同:ボスミン)1Aを静注するとともに、心臓マッサージを開始し、心拍数はいったん60台へと回復。19:33気管内挿管に続き、心肺蘇生を続行するが効果なし。20:22死亡確認。死因は致死性の狭心症発作と診断した。死亡後、担当医師は「点滴(ミリスロール®)をすべきでした。しなかったのは当方のミスです」と述べたと患者側は主張するが、その真偽は不明。当事者の主張1. 担当医師が硝酸薬の点滴をしなかった点に過失があるか患者側(原告)の主張平成11年から発作が頻発し、入院に至るまでの経緯や入院時の症状から判断して、ミリスロール®など硝酸薬の点滴をすべきであった。これに対し担当医師は、患者に対してミリスロール®の点滴の必要性を伝えたが拒絶されたと主張するが、診療録などにはそのような記載はない。過去の入院では数日間にわたってミリスロール®の点滴治療を受け、その結果一応の回復を得て退院したため、担当医師からミリスロール®の必要性、投与しない場合の危険性などを十分聞いていれば、ミリスロール®点滴に同意したはずである。病院側(被告)の主張動悸、失神は狭心症発作の再発であり、入院安静が必要であること、2回目入院時に行ったミリスロール®の点滴が再度必要であることを説明したが、患者は「またあの点滴ですか」といい、行動が不自由になること、頭痛がすることなどを理由に点滴を拒絶したため、安静指示と内服薬などの投与によって様子をみることにした。つまり、ミリスロール®の点滴が必要であるにもかかわらず、患者の拒絶により点滴をすることができなかったのであり、診療録上も「希望によりミリスロール®点滴をしなかった」ことが明記されている。医師は、患者に対する治療につき最適と判断する内容を患者に示す義務はあるが、この義務は患者の自己決定権に優越するものではないし、患者の意向を無視して専断的な治療をすることは許されない。2. 硝酸薬点滴を行った場合の発作の回避可能性患者側(原告)の主張入院時にミリスロール®の点滴をしていれば発作を防げた可能性は大きく、死亡との間には濃厚な因果関係がある。さらに死亡後担当医師は、「点滴をすべきでした。しなかったのは当方のミスです」と述べ、ミリスロール®の点滴をしなかったことが死亡原因であることを認めていた。病院側(被告)の主張7月12日9:30、ミリステープ®を貼用し、シグマート®、ヘルベッサー®を内服し、午後には症状が消失して容態が安定していたため、ミリスロール®の点滴をしなかったことだけが発作の原因とはいえない。3. 患者が安静指示に違反したのか患者側(原告)の主張看護師や患者に対する担当医師の安静指示があいまいかつ不徹底であり、結果としてトイレでの排尿を許す状況とした。担当医師が「ベッド上安静」を指示したと主張するが、入院経過用紙によれば「ベッド上安静」が明確に指示されていない。当日午後2:00の段階では、「トイレは夕方までの様子で決めるとのこと」と看護師が記載しているが、夕方までに決められて伝えられた形跡はない。18:30にも「Drに安静度カクニンのためTELつながらず」との記載があり、看護師は夕方になってもトイレについて明確な指示を受けていない。病院側(被告)の主張入院時指示には、安静度は「ベッド上安静」、排泄は「尿・便器」と明記している。これはベッド上で仰臥(あおむけ)または側臥(横向き)でいなければならず、排泄もベッド上で尿・便器をあててしなければならないという意味であり、トイレでの排尿を許したことはない。「トイレは夕方までの様子で決めるとのこと」という記載の意味は、トイレについての指示がいまだ無かったのではなく、明日の夕方までの様子をみて、それ以降トイレに立って良いかどうかを決めるという意味である。当日9:30尿意を訴えたため、医師から指示を受けていた看護師は尿器の使用を勧めたが、看護師の説得にもかかわらず尿器では出ないと言い張り、トイレに行くと譲らなかったので、やむを得ず看護師長を呼び、二人がかりでベッドを個室内のトイレ脇まで運び、トイレで排尿させたという経緯がある。そして、今回倒れる直前、看護師は患者から「トイレに行きたい」といわれたが、尿器で排泄するように説得した。それでも患者はあくまでトイレに行きたいと言い張ったため、担当医師に確認してくるから待つようにと伝えナースステーションへ行ったものの、担当医師に電話がつながらず、すぐに病室に戻ると同室内のトイレで倒れていたのである。4. 発作に対する医師の処置は不適切であったか患者側(原告)の主張狭心症の発作時には、速効性硝酸薬の舌下を行うべきものとされてはいるが、硝酸薬を用いると血圧が低下するので、昇圧剤を投与して血圧を確保してから速効性硝酸薬などにより症状の改善を図るべきであった。被告医師は、ミオコールスプレー®を2回使用して、その副作用で血圧低下に伴う血流量の減少を招いたにもかかわらず、さらに昇圧剤を投与したり、血圧を確保することなくニトロペン®を舌下させた点に過失がある。その結果、狭心症の悪化・心停止を招来し、患者を死に至らしめた。病院側(被告)の主張異型狭心症においては、冠攣縮発作が長引くと心室細動や高度房室ブロックなどの致死性不整脈が出現しやすくなるので、発作時は速やかにニトログリセリンを服用させるべきである。ニトログリセリンの副作用として血圧の低下を招くことがあるが、狭心症発作が寛解すれば血圧が回復することになるから、まず第一にニトログリセリンを投与(合計0.9mg)したことに問題はなく、発作を寛解させるべくニトロペン®1錠を舌下させた判断にも誤りはない。本件においては、致死的な狭心症発作が起きていたのであり、脈拍低下、血圧測定不能、自発呼吸なしなどの重篤な状態に陥ったのは狭心症発作によるものであって、ニトロペン®1錠を舌下したことが心停止の原因となったのではない。裁判所の判断1. 担当医師が硝酸薬の点滴をしなかった点に過失があるか鑑定A患者は狭心症発作が頻発および増悪したために入院したものであり、不安定狭心症の治療を目的としている。狭心症予防薬としてカルシウム拮抗薬の内服と硝酸薬貼付がすでに施行されており、この状態で不安定化した狭心症の治療としては、硝酸薬あるいはこれと同様の効果が期待される薬剤の持続静注が必要と考える。また、過去の入院で硝酸薬の点滴静注が有効であったことから、硝酸薬は、本件患者に対し比較的安心して使用できる薬剤と思われる。さらに、心電図モニターならびに患者の状態を常時監視できる医療状況が望ましく、狭心症発作が安定するまでの期間は、冠動脈疾患管理病棟(CCU)あるいは集中治療室(ICU)での管理が適当と考えられ、本件患者の入院初期の治療としてミリスロール®などの硝酸薬点滴を行わなかったのは不適切であった。不安定狭心症患者は急性心筋梗塞に移行する可能性が高いため、この病態を患者に十分説明し、硝酸薬点滴を使用すべきであったと考える。以前も同薬剤の使用により、本件患者の狭心症発作をコントロールしており、軽度の副作用は認められたものの、比較的安全に使用した経緯がある。患者が硝酸薬点滴を好まないケースもあるが、病状の説明、とりわけ急性心筋梗塞に進展した場合のデメリットを説明した後に施行すべきものであると考えられ、仮に本件患者がミリスロール®などの点滴に拒否的であった場合でも、その必要性を十分説明して、本件患者の初期治療として、ミリスロール®などの硝酸薬あるいは同等の効果が期待できる薬剤の点滴を行うべきであった。鑑定B狭心症の場合、硝酸薬は重要な治療薬である。また、冠動脈攣縮性狭心症においては、カルシウム拮抗薬も重要な治療薬である。本症例ではミリステープ®とカルシウム拮抗薬が投与されており、ミリスロール®などの硝酸薬点滴を行わなかったことだけをもって不適切な治療と判断することは難しい。仮に本件患者がミリスロール®などの点滴に拒否的であった場合についても、ミリスロール®などの点滴を行わなければならない状態であったかどうかについては判断が難しい。また、基本的に患者の了承のもとに治療を行うわけであるから、了承を得られない限りはその治療を行うことはできないのであって、拒否する場合において点滴を強制的に行うことが妥当であるかどうかは疑問である。鑑定C本症例は、失神発作をくり返していることからハイリスク群に該当する。発作の回数が頻回である活動期の場合は、硝酸薬、カルシウム拮抗薬、ニコランジルなどの持続点滴を行うことが望ましいとされており、実際に前回の入院の際には発作が安定化するまで硝酸薬の持続点滴が行われている。本件では、十分な量の抗狭心症薬が投与されており、慢性期の発作予防の治療としては適切であったといえるが、ハイリスク群に対する活動期の治療としては、硝酸薬点滴を行わなかった点は不適切であったといえる。発作の活動期における治療の基本は、冠拡張薬の持続点滴であり、純粋医学的には本件の場合、必要性を十分に説明して行うべきであり、仮に本件患者がミリスロール®などの点滴に拒否的であった場合であっても、その必要性を十分説明して、ミリスロール®などの硝酸薬点滴を行うべき状態であったといえる。ただし、必要性を十分に説明したにもかかわらず、患者側が点滴を拒否したのであれば、医師側には非は認められないこととなるが、どの程度の必要性をもって説明したかが問題となろう。裁判所の見解不安定狭心症は急性心筋梗塞や突然死に移行しやすく、早期に確実な治療が必要である。本件では前回の入院時にミリスロール®の点滴を行って症状が軽快しているという治療実績があり、入院時の病状は前回よりけっして軽くないから、硝酸薬点滴を必要とする状態であったといえる。もっとも担当医師の立場では、治療方法に関する患者の自己決定権を最大限尊重すべきであるから、医師が治療行為に関する説明義務を尽くしたにもかかわらず、患者が当該治療を受けることを拒絶した場合には、当該治療行為をとらなかったことにつき、医師に過失があると認めることはできない。そうすると、本件入院時にミリスロール®など硝酸薬点滴をしなかったことについて、被告医師に過失がないといえるのは、硝酸薬点滴の必要性などについて十分な説明義務を果たしたにもかかわらず、患者が拒否した場合に限られる。担当医師が入院時にミリスロール®点滴を行わなかったのは、必要性を十分に説明したにもかかわらず、「またあの点滴ですか」と点滴を嫌がる態度を示し、ミリスロール®の副作用により頭痛がすること、点滴をすることによって行動の自由が制限されること、点滴をすることによって入院が長くなることの3点を嫌がって、点滴を拒絶したと供述する。そして、入院診療録の「退院時総括」には「本人の希望もあり、ミリスロール®DIV(点滴)せずに安静で様子をみていた」との記載があるので、担当医師はミリスロール®の点滴静注を提案したものの、患者はミリスロール®の点滴を希望しなかったことがわかる。ところが、医師や看護師が患者の状態などをその都度記録する「入院経過用紙」には、入院時におけるミリスロール®の点滴に関するやりとりの記載はなく、担当医師から行われたミリスロール®点滴の説明やそれに対する患者の態度について具体的な内容はわからない。それよりも、午後3:00頃見舞にきた家族が、「点滴していなかったんだね」といったことに対し、「軽かったのかな」と答えたという家族の証言から、患者は自分の病状についてやや楽観的な見方をしていたことがわかり、担当医師からミリスロール®点滴の必要性について十分な説明をされたものとは思われない。担当医師は患者の印象について、「医療に対する協力、その他治療に難渋した」、「潔癖な方です。頑固な方です」と述べているように、十分な意思の疎通が図れていなかった。そのため、入院時にミリスロール®の点滴に患者が拒否的な態度を示した場合に、担当医師があえて患者を説得して、ミリスロール®の点滴を勧めようとしなかったことは十分考えられる状況であった。そして、当時の患者が不安定狭心症のハイリスク群に該当し、硝酸薬点滴をしないと危険な状況にあることを医師から説明されていれば、点滴を拒絶する理由になるとは通常考え難いので、十分に説明したという担当医師の供述は信用できない。つまり、自己の病状についてきわめて関心を抱いていた患者であるので、医師から十分な説明を受けていれば、医師の提案する治療を受け入れていたであろうと推測される。したがって、担当医師は当時の病状ならびにミリスロール®点滴の必要性について十分に説明したとは認められず、説明義務が果たされていたとはいえない。2. 硝酸薬点滴を行った場合の発作の回避可能性鑑定A不安定狭心症の治療としてミリスロール®の効果は約80%と報告されている。不安定狭心症の病態によりその効果に差はあるが、硝酸薬などの薬剤が不安定狭心症を完全に安定化させるわけではない。また、急激な冠動脈血栓形成に対しては硝酸薬の効果は低いと考える。そうするとミリスロール®点滴を実施することで発作を回避できたとは限らないが、回避できる可能性は約70%と考える。鑑定B冠動脈攣縮性狭心症の場合、ミリスロール®などの硝酸薬の点滴が冠動脈の攣縮を軽減させる可能性がある。本件発作が冠動脈攣縮性狭心症発作であった可能性は十分考えられることではあるが、最終的な本件発作の原因がほかにあるとすれば、ミリスロール®点滴を行っても回避は難しい。したがって、回避可能性について判断することはできない。鑑定C一般論からすると、持続点滴の方が経口や経皮的投与よりも有効であることは論をまたないが、持続点滴そのものの有効性自体は100%ではないため、持続点滴をしていればどの程度発作が抑えられたかについては、判断しようがない。また、本件では十分な量の冠拡張薬が投与されていたにもかかわらず、結果的に重篤な狭心症発作が起こっており、発作の活動性がかなり高く発作自体が薬剤抵抗性であったと捉えることもでき、持続点滴をしていたとしても発作が起こった可能性も否定できない。以上のように、持続点滴によって発作が抑えられた可能性と持続点滴によっても発作が抑えられなかった可能性のどちらの可能性が高いかについては、仮定の多い話で答えようがない。裁判所の見解冠動脈攣縮性狭心症の発作に対してはミリスロール®の点滴が有効である点において、各鑑定は一致していることに加え、回避可能性をむしろ肯定していると評価できること、そもそも不作為の過失における回避可能性の判断にあたっては、100%回避が可能であったことの立証を要求するものではないのであって、前回入院時にミリスロール®の点滴治療が奏効していることも併せ考慮すると、今回もミリスロール®の点滴を行っていれば発作を回避できたと考えられる。3. 患者に対する安静指示について担当医師の指示した安静度は「ベッド上安静」、排泄は「尿・便器」使用であることは明らかであり、この点において被告医師に過失は認められない。4. 発作に対する処置について鑑定Aニトログリセリン舌下投与を低血圧時に行うと、さらに血圧が低下することが予想される。しかし、狭心症発作寛解のためのニトログリセリン舌下投与に際し、禁忌となるのは重篤な低血圧と心原性ショックであり、本件発作時はこれに該当しない。さらに本件発作時は、静脈ラインが確保されていないと思われ、点滴のための留置針を穿刺する必要がある。この処置により心筋虚血の時間が延長することになるため、即座にニトログリセリンを舌下させることは適切と考える。鑑定Bニトロペン®そのものの投与は血圧が低いことだけをもって禁忌とすることはできない。本件発作時の状況下でニトロペン®舌下に先立ち、昇圧剤の点滴投与を行うかどうかの判断は難しい。しかし、まず輸液ルートを確保し、酸素吸入の開始が望ましい処置といえ、必ずしも適切とはいえない部分がある。鑑定C冠攣縮性狭心症の発作時の処置としては、血圧の程度いかんにかかわらず、まずは攣縮により閉塞した冠動脈を拡張させることが重要であるため、ニトロペン®をまず投与したこと自体は問題がない。しかしながら、昇圧剤の投与時期、呼吸循環状態の維持、ボスミン®投与の方法に問題があり、急変後の処置全般について注意義務違反が認められる。裁判所の見解ニトログリセリンの舌下については、各鑑定の結果からみて問題はない。なお、鑑定の結果によれば、発作の誘因は発作の直前のトイレ歩行ないし排尿である。担当医師からベッド上安静、尿便器使用の指示がなされ、担当看護師からも尿器の使用を勧められたにもかかわらずトイレでの排尿を希望し、さらに看護師から医師に確認するので待っているように指示されたにもかかわらず、その指示に反して無断でベッドから降りて、トイレでの排尿を敢行したものであり、さらに拒否的な態度が被告医師の治療方法の選択を誤らせた面がないとはいえないことを考慮すると、患者自身の責任割合は5割と考えられる。原告(患者)側合計5,532万円の請求に対し、2,204万円の判決考察拒否的な態度の患者についていくら説明しても医師のアドバイスに従わない患者さん、病院内の規則を無視して身勝手に振る舞う患者さん、さらに、まるで自分が主治医になったかのごとく「あの薬はだめだ、この薬がよい」などと要求する患者さんなどは、普段の臨床でも少なからず遭遇することがあります。本件もまさにそのような症例だと思います。冠動脈造影などから異型狭心症と診断され、投薬治療を行っていましたが、再び動悸や失神発作に襲われて入院治療が開始されました。前回入院時には、内服薬や貼布剤、噴霧剤などに加えてミリスロール®の持続点滴により症状改善がみられていたので、今回もミリスロール®の点滴を開始しようと提案しました。ところが患者からは、「またあの点滴ですか」「あの薬を使うと頭痛がする」「点滴につながれると行動が制限される」「点滴が始まると入院が長くなる」というクレームがきて、点滴は嫌だと言い出しました。このような場合、どのような治療方針とするのが適切でしょうか。多くの医師は、「そこまでいうのなら、点滴はしないで様子を見ましょう」と判断すると思います。たとえミリスロール®の点滴を行わなくても、それ以外のカルシウム拮抗薬や硝酸薬によってもある程度の効果は期待できると思われるからです。それでもなおミリスロール®の点滴を強行して、ひどい頭痛に悩まされたような場合には、首尾よく狭心症の発作が沈静化しても別な意味でのクレームに発展しかねません。そして、ミリスロール®の点滴なしでいったんは症状が改善したのですから、病院側の主張通り適切な治療方針であったと思います。そして、再度の発作を予防するために、患者にはベッド上の安静(トイレもベッド上)を命じましたが、「どうしてもトイレに行きたい」と患者は譲らず、勝手に離床して、致命的な発作へとつながってしまいました。このような症例を「医療ミス」と判断し、病院側へ2,200万円にも上る賠償金の支払いを命じる裁判官の考え方には、臨床医として到底納得することができません。もし、大事なミリスロール®の点滴を医師の方が失念していたとか、看護師へ安静の指示を出すのを忘れて患者が歩行してしまったということであれば、医師の過失は免れないと思います。ところが、患者の異型狭心症をコントロールしようとさまざまな治療方針を考えて、適切な指示を出したにもかかわらず、患者は拒否しました。「もっと詳しく説明していればミリスロール®の点滴を拒否するはずはなかったであろう」というような判断は、結果を知ったあとのあまりにも一方的な考え方ではないでしょうか。患者の言い分、医師の言い分極論するならば、このような拒否的態度を示す患者の同意を求めるためには、「あなたはミリスロール®の点滴を嫌がりますが、もしミリスロール®の点滴をしないと命に関わるかもしれませんよ、それでもいいのですか」とまで説明しなければなりません。そして、理屈からいうと「命に関わることになってもいいから、ミリスロール®の点滴はしないでくれ」と患者が考えない限り、医師の責任は免れないことになります。しかし、このような説明はとても非現実的であり、患者を脅しながら治療に誘導することになりかねません。本件でもミリスロール®の点滴を強行していれば、確かに狭心症の発作が出現せず無事退院できたかもしれませんが、患者側に残る感情は、「医師に脅かされてひどい頭痛のする点滴を打たれたうえに、病室で身動きができない状態を長く強要された」という思いでしょう。そして、鑑定書でも示されたように、本件はたとえミリスロール®を点滴しても本当に助かったかどうかは不明としかいえず、死亡という最悪の結果の原因は「異型狭心症」という病気にあることは間違いありません。ところが裁判官の立場は、明らかに患者性善説、医師性悪説に傾いていると思われます。なぜなら、「退院時総括」の記述「本人の希望もあり、ミリスロール®DIV(点滴)せずに安静で様子をみていた」というきわめて重大な記述を無視していることその理由として、「入院経過用紙」には入院時におけるミリスロール®の点滴に関するやりとりの記載がないことを挙げている裁判になってから提出された家族からの申告:当日午後3:00頃見舞にきた家族が、「点滴していなかったんだね」といったことに対し、「軽かったのかな」と患者が答えたという陳述書を全面的に採用し、患者側には病態の重大性、ミリスロール®の必要性が伝わっていなかったと断定つまり、診療録にはっきりと記載された「患者の希望でミリスロール®を点滴しなかった」という事実をことさら軽視し、紛争になってから提出された患者側のいい分(本当にこのような会話があったのかは確かめられない)を全面的に信頼して、医師の説明がまずかったから患者が点滴を拒否したと言わんばかりに、医師の説明義務違反と結論づけました。さらにもう一つの問題は、本件で百歩譲って医師の説明義務違反を認めるとしても、十分な説明によって死亡が避けられたかどうかは「判断できない」という鑑定書がありながら、それをも裁判官は無視しているという点です。従来までは、説明が足りず不幸な結果になった症例には、300万円程度の賠償金を認めることが多いのですが、本件では(患者側の責任は5割としながらも)説明義務違反=死亡に直結、と判断し、総額2,200万円にも及ぶ高額な判決金額となりました。本症例からの教訓これまで述べてきたように、今回の裁判例はとうてい医療ミスとはいえない症例であるにもかかわらず、患者側の立場に偏り過ぎた裁判官が無理なこじつけを行って、死亡した責任を病院に押し付けたようなものだと思います。ぜひとも上級審では常識的な司法の判断を期待したいところですが、その一方で、医師側にも教訓となることがいくつか含まれていると思います。まず第一に、医師や看護師のアドバイスを聞き入れない患者の場合には、さまざまな意味でトラブルに発展する可能性があるので、できるだけ詳しく患者の言動を診療録に記載することが重要です(本件のような最低限の記載では裁判官が取り上げないこともあります)。具体的には、患者の理解力にもよりますが、医師側が提案した治療計画を拒否する患者には、代替可能な選択肢とそのデメリットを提示したうえで、はっきりと診療録に記載することです。本件でも、患者がミリスロール®の点滴を拒否したところで、(退院時総括ではなく)その日の診療録にそのことを記載しておけば、(今回のような不可解な裁判官にあたったとしても)医療ミスと判断する余地がなくなります。第二に、その真偽はともかく、死亡後に担当医師から、「(ミリスロール®)点滴をすべきでした。しなかったのは当方のミスです」という発言があったと患者側が主張した点です。前述したように、診療録に残されていない会話内容として、裁判官は患者側の言い分をそのまま採用することはあっても、記録に残っていない医師側の言い分はよほどのことがない限り取り上げないため、とくに本件のように急死に至った症例では、「○○○をしておけばよかった」という趣旨の発言はするべきではないと思います。おそらく非常にまじめな担当医師で、自らが関わった患者の死亡に際し、前向きな考え方から「こうしておけばよかったのに」という思いが自然に出てしまったのでしょう。ところが、これを聞いた患者側は、「そうとわかっているのなら、なぜミリスロール®を点滴しなかったのか」となり、いくら「実は患者さんに聞いてもらえなかったのです」と弁解しても、「そんなはずはない」となってしまいます。そして、第三に、担当医師の供述に対する裁判官への心証は、かなり重要な意味を持ちます。判決文には、「担当医師は当公判廷において、患者が『またあの点滴ですか』といったことは強烈に覚えている旨供述するものの、患者に対しミリスロール®点滴の必要性についてどのように説明を行ったかについては、必ずしも判然としない供述をしている」と記載されました。つまり、患者に行った説明内容についてあやふやな印象を与える証言をしてしまったために、そもそもきちんとした説明をしなかったのだろう、と裁判官が思い込んでしまったということです。医事紛争へ発展するような症例は、医療事故発生から数年が経過していますので、事故当時患者に口頭で説明した内容まで細かく覚えていることは少ないと思います。そして、がんの告知や手術術式の説明のように、ある一定の緊張感のもとに行われ承諾書という書面に残るようなインフォームドコンセントに対し、本件のように(おそらく)ベッドサイドで簡単にすませる治療説明の場合には、曖昧な記憶になることもあるでしょう。しかし、ある程度の経験を積めば自ずと説明内容も均一化してくるものと思いますので、紛争へと発展した場合には十分な注意を払いながら、明確な意思に基づく主張を心がけるべきではないかと思います。循環器

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Vol. 1 No. 1 ACSの治療-2次予防を考えた長期治療

大倉 宏之 氏川崎医科大学循環器内科はじめに急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)の慢性期治療には、責任病変での再発防止と非責任病変の新規発症防止、すなわち2次予防が含まれる。責任病変の再発予防には、薬剤溶出ステント(DES)による再狭窄抑制と、適切な抗血小板療法によるステント血栓症の予防が重要である。一方、非責任病変の新規発症を防ぐには、抗血小板薬を含むさまざまな薬物による長期にわたる2次予防が必要である。ACSの予後:欧米と日本の違いACS患者の予後は不良である。欧米のデータでは、その20%は1年以内に再入院し、男性の18%、40歳以上の女性の23%が死亡するとの報告がある1)。また、心筋梗塞(AMI)後の患者は退院後1年以内にその8~10%がAMIを再発するとも報告されている2)。ただ、その再発率は保有するリスクによって異なる。Finnish studyでは、糖尿病例(年率7.8%)は非糖尿病例(年率3%)と比較して心筋梗塞再発が高率であることが示されている3)。ランダム化試験のデータでは、AMIの再発率は1~5%程度とおおむねレジストリーよりも低めである。AMIに対するDESと金属ステント(BMS)を比較したランダム化試験のメタ解析によると、AMI再発はDES留置例で3.1%、BMS留置例で3.3%であった4)。日本のデータでも非ACS症例と比較すると、ACS例の予後は不良であるが(図:本誌p21参照)5, 6)、ACS発症後のAMI再発率は、日本や韓国では1%以下と欧米と比較すると低率である7, 8)。もともとAMIの発症自体が少ないことに加えて、急性期に速やかに経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)による治療がなされていることと、その後も主治医によるきめ細やかな2次予防が行われていることがその理由かもしれない。至適薬物療法によるACSの2次予防欧米では、ACSの予後は経年的に改善していることが示されている。The Global Registry of Acute Coronary Events(GRACE)レジストリーに登録されたACS患者約4万例のデータ(図:本誌p21参照)において、入院中の死亡や心不全、6か月後のAMI新規発症が2000年から2005年にかけて有意に減少していることが示された9)。これは、エビデンスに基づいた薬物治療の浸透と、急性期のPCI施行率が高くなってきた結果である(図:本誌p22参照)。ACS後の2次予防を目指した薬物療法についてはガイドラインに詳細に述べられており10-15)、β遮断薬、ACE阻害薬(またはARB)、アルドステロン阻害薬、スタチン等の有用性が示されている。これらの薬物療法が、日本の臨床の現場にどの程度浸透しており、その結果、日本人のACS患者の予後が実際に改善しているのかどうかについては今後検証すべき課題である。ACS患者では、非責任病変の血管内超音波所見によって、ハイリスク病変を予測可能との報告がなされている16)。もともとイベント発生率の低い日本人でも、同様の予測が可能であるのかについても明らかにすべきである。抗血小板薬によるACSの2次予防薬物による2次予防のうちでも、特に重要な役割を果たしているのが抗血小板療法である。表に日本、米国、欧州の各ガイドライン10-15)に記載されている抗血栓療法の推奨をまとめた(Class I、Class IIaのみ記載)(表:本誌p23参照)。アスピリンが第1選択である点はすべてのガイドラインに共通である。欧州、米国のガイドラインでは、アスピリンに加えてクロピドグレル(または他のP2Y12阻害薬)を12か月間投与することが推奨されている。日本のガイドラインにはその期間は特定されていない11)。抗血小板薬2剤併用療法の至適期間抗血小板薬2剤併用療法(dual anti-platelet therapy: DAPT)の至適投与期間は、ステントの種類(BMSかDESか)と病型(安定狭心症かACSか)により異なる。一般に、DESの場合は12か月間以上のDAPTが推奨されているが20)、至適期間についてのエビデンスは十分ではない。j-Cypherレジストリーでは、ACS例において6か月以上DAPTを継続していた例と、DAPTを6か月時点で中止していた例との間には、その後2年間のイベント発生率に差を認めなかったことが示されている5)。日本では、患者背景や病変背景を考慮した至適な抗血小板薬療法が行われていることが反映されているのかもしれない。ACSの研究ではないが、韓国からはステント留置後12か月以上イベントのなかった2,701例を、DAPT群とアスピリン単剤群にランダム化した試験が報告されている18)。2年間の観察期間中、両群間に心筋梗塞+心臓死の頻度に差はなく、ステント血栓症にも差はなかった(図:本誌p24参照)。EXCELLENT試験は、CypherもしくはXience/Promusステント留置例1,443例のDAPT期間を、6か月間と12か月間にランダム化したものである19)。12か月後のTVF(target vessel failure)や死亡もしくは心筋梗塞の発生には両群間に差を認めなかったが、ステント血栓症はDAPT6か月間群で多い傾向にあった。ただし、6か月間群のステント血栓症発症例6例中5例は6か月以内の発生であり、DAPTの期間が影響した可能性は低い。Prolonging Dual Antiplatelet Treatment after Grading Stent-induced Intimal Hyperplasia study(PRODIGY)では、ステント留置例約2,000例を対象にランダム化し、DAPTの期間を6か月間と24か月間で比較したものである。2年間の追跡期間中に全死亡+心筋梗塞+脳血管障害+ステント血栓症の頻度は6か月間群と24か月間群は同等であったが(10.0% vs. 10.1%, p=0.91)、出血は6か月間群で少なかったとの結果であった(ESC2011で報告)。The Dual Antiplatelet Therapy(DAPT)study20)は、15,000例のDES留置例と5,400例のBMS留置例を登録し、DAPTの投与期間を12か月間と30か月間にランダム化して両者を比較する大規模臨床試験である。すでに患者登録は終了し、現在フォローアップが進行中である。本邦においても、Optimal Duration of DAPT Following Treatment with Endeavor in Real-world Japanese Patients: A Prospective Multicenter Registry (OPERA) studyやNobori Dual antiplatelet therapy as appropriate duration (NIPPON) studyが現在進行中である。これらの研究にはACSも含まれており、日本人独自のエビデンスが得られるものと期待される。抗血小板薬投与と出血性合併症抗血小板薬投与に関連した問題点には出血性合併症がある。ACSに出血性合併症を発生した場合には、その長期予後は不良である21)。DAPT継続にあたっては、そのベネフィットのみならず出血のリスクも考慮せねばならない。ACSにおいて、出血のリスクが特に問題となるのが心房細動合併例である。欧州心臓病学会の心房細動ガイドライン22)では、心房細動合併例に対するステント留置術後の抗血栓療法は表のごとく推奨されている(Class IIa)(表:本誌p25参照)。注目すべき点は、塞栓症のリスクを有する心房細動例では最後的には抗血小板薬は中止し、ワルファリンのみを一生継続することが推奨されている点である。日本でも、心房細動合併ACS例に対する至適抗血栓療法をいかにすべきかは重要な検討課題である。おわりにACSの予後改善には、急性期治療に加えて、抗血小板薬を中心とした長期にわたる2次予防が重要な役割を演じている。ただし、これら多くは欧米のデータに基づいたものであるため、今後、日本人における検証はぜひとも行われるべきである。文献1)Menzin J et al. 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Vol. 1 No. 1 ACSの治療-急性期のPCI/薬物療法

石井 秀樹 氏名古屋大学大学院医学系研究科循環器内科学はじめに急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)に対する急性期の治療として血栓溶解療法と経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)の出現、それらの技術向上は、患者の予後改善に大きく寄与している。東京都CCUネットワーク(http://www.ccunet-tokyo.jp/)の統計では、急性心筋梗塞の死亡率は1982年には20.4%であったものが、2010年にはわずか6.0%にまで低下している(図:本誌p15参照)。安静が治療の主体であった冠動脈の再疎通療法以前の院内死亡率が3割強であったことを考えると、治療法の変遷と治療成績には極めて密接な関連があることがわかる。わが国では、医療保険制度をはじめとし、交通網や救急搬送システムなどの点で欧米とは異なることから、ACS、特に急性心筋梗塞(acute myocardial infarction:AMI)の治療法としてPCIを第1選択とする施設が多い。10年ほど前のデータではあるが、欧米のデータベースのよる統計ではAMIに対するprimary PCI施行率は5.5~49.6%であったが、わが国では日本の施行率は75~94%と高率であり、さらに年間施行件数の少ない施設においてもPCIを選択することが多いという特徴がある1)。これは欧米では広大な医療圏内の中にPCIを行える施設が限られているため、AMI患者には血栓溶解療法が行われることが多いが、わが国ではかなりの地域でPCIを行うことができる施設に収容可能であることにも起因する。そして、このことはわが国のACS患者の予後改善に対して大きな貢献をしている要因と考えられている。これまでの知見で、ST上昇型のAMI(STEMI)に対するPCIの有効性は確立している。しかしながら、現在でも非ST上昇型AMIや不安定狭心症では、早期のPCIを含む侵略的戦術がよいのか、保存的加療を経てから症例を選んで冠動脈造影などの処置を行うのがよいのか、一定の見解は得られていない。わが国ではそのような症例に対してもSTEMI症例同様に侵略的戦術にシフトしていると考えられている。PCIなどによる再灌流は非常に有用な手段であるが、再灌流自体が再灌流障害という新たな心筋障害を生じさせることも知られており、薬物の併用などが検討されるべきである。急性心筋梗塞に対する再灌流療法ACS、特にAMIの治療において、冠血流の途絶を早期に開通、すなわち再灌流を得ることが重要なことである。このことにより、梗塞心筋の縮小効果や、左室リモデリングを抑制し、結果として長期的な予後改善効果が得られる。再灌流の手段としては、PCIが確実な方法であるが、PCIを行う施設まで搬送時間がかかる場合またはPCIまでに時間がかかると判断される場合には、血栓溶解療法単独あるいは血栓溶解療法とPCIのハイブリッド治療法であるfacilitated PCIを選択肢とするべきであるとされる2)。現在ACSに対して行うPCIは、血栓吸引のみあるいはバルーン単独での治療で終了することは少なく、ステントによる治療がほとんどの場合に行われており、PCI後の急性閉塞の低減や、再狭窄率の減少など心血管イベントの低減に貢献している。その際に考慮すべき問題として、ACSに対してbare metal stent(BMS)を使用するか、drug eluting stent(DES)を使用するのかという問題がある。ACSに対しても、安定狭心症症例同様に、本邦ならず世界的に見てもDESの使用が増加している。一時、ACSに対するDES使用は、血栓閉塞のリスクが高まるのではないかと論議されたものの、近年はDES留置も安全であるとする報告が相次いでいる3)。確かにDESは再血行再建術などに対してはBMSよりも有用であることは間違いない。しかしながら、DESが内皮障害やspasm発生に関与していることを示唆する報告があり4, 5)、spasmが多いと考えられる日本人の使用に対しては、今後も有効性と副作用の十分な検討を行うべきである。また筆者は、DES留置後の長期の予後改善が未だ不明であり、2剤併用抗血小板療法(dual anti-platelet therapy:DAPT)をいつまで行うかがまだ確立されていないことや、ACSという緊急の対応が必要ななかで出血の素因があるのかどうかを判断したり、近いうちに手術が必要なのかどうかなど確認することが困難な状況のなかで、DESを安易に使用すべきではないと考えている。加えて、近い将来に吸収性ステントや薬剤溶出性バルーンなどが日常診療において使用可能になりそうな状況において、特に年齢が若い症例に対しては、急性閉塞などには十分な注意を払いながら、バルーン単独でのPCIも考慮するべきとも考えている。再灌流療法と再灌流障害再灌流療法により、梗塞心筋の縮小効果や、左室リモデリングを抑制し、結果として長期的な予後改善効果が得られる。しかしその一方で、再灌流自体が新たな心筋障害を生じさせる。これを再灌流障害といい、PCIなどによる再灌流療法のメリットを減弱させてしまうものである。最近の知見では、1.no-reflow phenomenon:no-reflow現象(血管内皮などの障害による血管性障害)→TIMI flow grade、TIMI frame countなどによる造影所見からの判断、myocardial blush grade(造影剤による心筋染影度)、心電図によるS Tresolution(ST上昇の改善の程度)などで判断可能2.reperfusion arrhythmia:再灌流性不整脈→心電図によるモニターで判断可能3.lethal reperfusion injury:致死的心筋障害(不可逆的な細胞障害)→核医学検査法などによりにより評価可能4.Myocardial stunning:心筋スタンニング(虚血解除後に生存心筋で認められる機能低下で気絶心筋ともいわれる)→核医学検査法などにより評価可能6)に分類される。再灌流障害の発生を抑えるため、PCIの際に工夫することや、薬物を追加で使用することが重要と考えられる。特に虚血プレコンディショニング、ポストコンディショニングのメカニズムを応用することが近年注目されている(図)。虚血プレコンディショニングとは、本格的な虚血に先行して起きる短時間の虚血が心筋ダメージを軽減することであり、臨床の場でも、梗塞前に狭心症がある患者ではそれがなかった患者と比較して予後が良いことが知られている7)。また、ポストコンディショニングとは、心筋梗塞症例に対して、冠動脈再灌流直後に虚血と再灌流を短時間・複数回繰り返すことで、梗塞範囲の縮小効果など再灌流障害による心筋ダメージが軽減する現象のことをいう8)。図 プレコンディショニングとポストコンディショニングの概念画像を拡大する再灌流障害に対する戦略1.段階的再灌流 一気に再灌流するのではなく、虚血と再灌流を複数回繰り返すことで細胞内Ca2+ overloadを予防し、再灌流障害が低減する。臨床試験で良好な結果が認められているが、数十秒から数分間での冠動脈内におけるバルーンのinflation、deflationが必要で、血栓吸引療法が行われた場合にはこの機序による心筋保護は難しい可能性がある。2.血栓吸引カテーテル、末梢保護デバイス ACSの発症のほとんどに血栓が関与している。血栓のある冠動脈病変をバルーンで拡張した場合、破砕された血栓が微小循環において塞栓を生じ、再灌流障害の原因になることがある。そのため、バルーン拡張の前にあらかじめ血栓を吸引する方法や、末梢で血栓やデブリスをtrapする方法が開発された。 早い時期に発表されたEMERALD研究では、末梢保護デバイスの有用性が示されなかったが、2008年発表のわが国から報告されたVAMPIRE trialでは、TVAC™による血栓吸引をSTEMI患者に対して行うことにより、行わない群と比較して、brush gradeの有意な改善と8か月後のMACEの有意な低下を示した9)。また、TAPAS研究でも血栓吸引カテーテルがmyocardial blush gradeの有意な改善が示された。 わが国では血栓吸引療法は他国と比較しても汎用されている手技と考えられ、以下に示すような薬物の追加療法を行うことで、より質の高い再灌流が得られるものと考えられる。3.再灌流障害に対する薬物による追加的保護療法 再灌流障害に対して、さまざまな薬剤がこれまで試みられてきた10)。アデノシンはプレコンディショニング作用を持つ薬物として海外から多くの報告がなされている。また、ポストコンディショニング作用を持つ薬物もさまざまある(表)。 近年、わが国からも再灌流障害の予防、慢性期の左室リモデリング抑制と予後改善を目的とし、さまざまな検討がなされている。そのなかでもニコランジルとカルペリチドは本邦で開発、臨床の場で幅広く使用され、それらを使用した研究成果報告はわが国からの報告が極めて多い。以下一部を紹介する。表 RISK pathwayの活性化とmPTP開口阻害(文献6, 10より)画像を拡大するa.ニコランジル ニコランジルは、低血糖治療薬であるジアゾキサイドなどのK-ATPチャネル開口薬とは異なる、NOドナーである点が大きな特徴である。K-ATPチャネルは先に述べた虚血プレコンディショニングに関与しており、K-ATPチャネル開口薬であるニコランジルが薬理学的プレコンディショニングを生じるということがIONA試験などで証明されてきた。 AMIにおける再灌流障害に関する研究として、コントラストエコーによるno reflow現象の抑制効果や、左室梗塞部位における壁運動改善効果が1999年に発表され11)、その後もACSをはじめとした虚血性心疾患に対するニコランジルの有用性が数多く発表された。我われは、STEMI患者に対してPCIによる再灌流を行う直前にニコランジルを静注で約30分かけて12mg投与することにより、PCI後の微小循環障害予防、慢性期の左室リモデリング抑制と心不全発症予防などの効果があることを報告した12)。その後、J-WIND-KATP研究(ニコランジル0.067mg/kgボーラス投与後、24時間1.67μg/kg/min静注)13)では、ニコランジルの有効性は示されなかったものの、用量や投与法などのさらなる検討が必要であると考えられる。また、現在は、ニコランジルは急性心不全の適応が認められ、用量もより高用量の使用が可能となっている。 また、冠動脈内注(冠動脈注は緩やかな投与が重要!)による冠微小血管抵抗指数改善作用も報告されており14)、slow flow等の改善などに対しても臨床的に幅広く使用されている。筆者の見解であるが、ACSまた待機的な症例に対してもニコランジルはPCI前から投与しておくことがコツであり、再灌流障害やslow flowを発症しないためには、予防的な投与が極めて重要であると考えている。 最近のニコランジルのトピックとして、2011年のAHAで、岐阜大学より造影剤腎症の予防効果が発表され、世界的にも注目を集めた15)。b.カルペリチド(ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド:hANP) カルペリチドは血管拡張作用、利尿作用があり、急性心不全に対する治療薬として広く使用されているが、レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系の抑制効果、交感神経系の拮抗作用、そして虚血プレコンディショニング、ポストコンディショニング効果と同様の作用をすると考えられているreperfusion injury salvage kinase(RISK)を活性化させる作用もあることが報告されている。この効果により、再灌流障害や左室リモデリングが抑制され、急性心筋梗塞に対して有効であるとする報告が数多く報告されている。J-WIND-ANP(AMI患者にカルペリチド0.025μg/kg/minで3日間投与)13)では、AMI患者の梗塞サイズがプラセボ投与群に比べ、14.7%の有意な減少と、慢性期の左室駆出率で、プラセボ群と比較して5.1%の有意な増加が見られ、長期にわたって心臓死・心不全による再入院も、有意に減少させることが報告されている。また、カルペリチドにも造影剤腎症予防効果の報告もある16)。c.その他 スタチンの中には、ポストコンディショニング様の作用があることがわかっている。海外のARMYDA-ACS研究では、PCI前のアトルバスタチンの投与により心筋障害が予防できることがわかっていた。本邦からは弘前大学より、AMI患者に対するdirect PCIの直前にプラバスタチンを投与することで再灌流障害が予防されたとする大変興味深い結果が報告されている17)。 また、本邦で開発され、脳梗塞治療薬として使用されているフリーラジカルスカベンジャーであるエダラボンが、direct PCIに伴う再灌流障害を抑制したとする報告がある18)。4.ACS患者に対する抗血小板療法の重要性 ACSの急性期では、血小板活性・凝固能の亢進と線溶能低下が起こっているため、血栓が非常に形成されやすい状況である。血小板が活性化すると膜表面の糖蛋白が発現し、血小板からADP、トロンボキサンA2などの生理活性化物質が放出され、血栓形成がさらに強まる。本邦では使用できないが、GP IIb/III阻害薬はその流れのなかで効果を示す薬剤である。 急性期ではアスピリン162-200mgの咀嚼投与が行われているが、PCIでステント治療となる場合には治療直前からチエノピリジンの投与が推奨される。特にクロピドグレルの場合には初期にローディングとして300mgの投与、以降75mgの投与が必要である2)。韓国からのデータではあるが、DESを用いたPCIを施行したSTEMI患者の検討では、抗血小板薬3剤(アスピリン+クロピドグレル+シロスタゾール)の投与が、2剤群(アスピリン+クロピドグレル)と比較して、8か月における主要心血管イベントを有意に低下させた(図:本誌p19参照)19)。ACSによる入院30日以内の消化管出血があると予後が悪化することも知られているが20)、わが国においても、出血に注意をしながら抗血小板剤の3剤投与も検討されてもよいかもしれない。おわりに日本ではSTEMIをはじめとするACS症例に広くPCIが行われている。特にSTEMI症例に対しては、ガイドラインでdoor-to-balloon timeは90分以内にすることが求められているが、わが国全体でもかなりの割合でそれがクリアされているものと考えられる。ACS治療が海外と比較して、日本で良好な成績を上げているのもそれが大きく起因していることは間違いない。また、多くの施設が24時間体制で緊急カテーテル・PCIに対応し、夜間や休日でも質の高いPCIを常に心がけており、循環器医療に携わるわが国の医師・パラメディカル・関係者の意識が高いことも寄与しているものと考えられる。さらに、薬物の使用においても、急性期には症例ごとにきめ細かな対応がなされ、慢性期にはエビデンスが構築された薬剤が高い比率で投与されているものと考えられる。これらのことはACSに限ったことでなく、わが国の医療レベルが非常に高い要因とも考えられる(図:本誌p19参照)21)。最近ACS症例に対しては、PCIや薬剤のみでなくremote ischemic conditioningや、再生医療に関する話題も豊富である。わが国からACS患者の予後改善に関する新たなエビデンスが構築されることが期待される。文献1)Ui S, Chino M, Isshiki T. Rates of primary percutaneous coronary intervention worldwide; Circ J 2005; 698(1): 95-1002)日本循環器学会ほか. 急性心筋梗塞(ST上昇型)の診療に関するガイドライン(2006-2007年度合同研究班報告). Circ J 2008; 72(supplIV): 1347-14643)Mauri L, Silbaugh TS, Garg P, et al. Drug-eluting or bare-metal stents for acute myocardial infarction. N Engl J Med 2008; 359 (13): 1330-13424)Yoshida T, Kobayashi Y, Nakayama T, et al. Stent deformity caused by coronary artery spasm. Circ J 2006; 70(6): 800-8015)Lerman A, Eeckhout E. Coronary endothelial dysfunction following sirolimus-eluting stent placement: should we worry about it? Eur Heart J 2006; 27(2): 125-1266)Yellon DM, Hausenloy DJ. Myocardial reperfusion injury. N Engl J Med 2007; 357 (11): 1121-11357)Ishihara M, Sato H, Tateishi H, et al. Implications of prodromal angina pectoris in anterior wall acute myocardial infarction. Acute angiographic findings and long-term prognosis. J Am Coll Cardiol 1997; 30(4): 970-9758)Yang XM, Proctor JB, Cui L, et al. Multiple, brief coronary occlusions during early reperfusion protect rabbit hearts by targeting cell signaling pathways. J Am Coll Cardiol 2004; 44(5): 1103-11109)Ikari Y, Sakurada M, Kozuma K, et al. VAMPIRE Investigators. Upfront thrombus aspiration in primary coronary intervention for patients with ST-segment elevation acute myocardial infarction: report of the VAMPIRE (VAcuuM asPIration thrombus Removal) trial. JACC Cardiovasc Interv 2008; 1(4): 424-43110)Ishii H, Amano T, Matsubara et al. Pharmacological intervention for prevention of left ventricular remodeling and improving prognosis in myocardial infarction. Circulation 2008: 118(25): 2710-271811)Ito H, Taniyama Y, Iwakura K, et al. Hori M, Higashino Y, Fujii K, Minamino T. Intravenous nicorandil can preserve microvascular integrity and myocardial viability in patients with reperfused anterior wall myocardial infarction. J Am Coll Cardiol 1999; 33(3): 654-66012)Ishii H, Ichimiya S, Kanashiro M, et al. Impact of a single intravenous administration of nicorandil before reperfusion in patients with ST-segment elevation myocardial infarction. Circulation 2005; 112(9): 1284-128813)Kitakaze M, Asakura M, Kim J, et al. the J-WIND investigators. Human atrial natriuretic peptide and nicorandil as adjuncts to reperfusion treatment for acute myocardial infarction (J-WIND): two randomized trials. Lancet 2007; 370(9597): 1483-149314)Ito N, Nanto S, Doi Y, et al. High index of microcirculatory resistance level after successful primary percutaneous coronary intervention can be improved by intracoronary administration of nicorandil. Circ J 2010; 74(5): 909-91515)2011 AHA Daily news, Monday, p.6 http://www.nxtbook.com/tristar/aha/day3 2011/index.php#/616)Morikawa S, Sone T, Tsuboi H, et al. Renal protective effects and the prevention of contrast-induced nephropathy by atrial natriuretic peptide. J Am Coll Cardiol 2009; 53(12): 1040-104617)Higuma T, MatsunagaT, Maeda N, et al. Early statin treatment before coronary intervention protects against reperfusion injury and reduces infarct size in patients with acute myocardial infarction. Circulation 2005; 112: II-569 Abstract.18)Tsujita K, Shimomura H, Kaikita K, et al. Long-term efficacy of edaravone in patients with acute myocardial infarction. Circ J 2006; 70(7): 832-83719)Chen KY, Rha SW, Li YJ, et al. Korea Acute Myocardial Infarction Registry Investigators. Triple versus dual antiplatelet therapy in patients with acute ST-segment elevation myocardial infarction undergoing primary percutaneous coronary intervention. Circulation 2009; 119(25): 3207-321420)Nikolsky E, Stone GW, Kirtane AJ, et al. Gastrointestinal bleeding in patients with acute coronary syndromes: incidence, predictors, and clinical implications: analysis from the ACUITY(Acute Catheterization and Urgent Intervention Triage Strategy)trial. J Am Coll Cardiol 2010; 54(14): 1293-130221)Bhatt DL, Eagle KA, Ohman EM, et al. REACH Registry Investigators. Comparative determinants of 4-year cardiovascular event rates in stable outpatients at risk of or with atherothrombosis. JAMA 2010; 304(12): 1350-1357

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エパデール、スイッチOTC医薬品の製造販売承認を取得

 持田製薬は昨年12月28日、医療用医薬品として製造販売している高脂血症・閉塞性動脈硬化症治療剤「エパデール」(一般名:イコサペント酸エチル、EPA)について、同日付でスイッチOTC医薬品として製造販売承認を取得したと発表した。 今回承認されたスイッチOTC医薬品は、1包にイコサペント酸エチル600mgを含有し、健康診断等で指摘された、境界領域の中性脂肪値を改善させる内服薬である。同社が製造を行い、大正製薬株式会社が「エパデールT」、日水製薬が「エパアルテ」の製品名で販売する。 「エパデール」は、持田製薬が世界で初めて医療用医薬品として開発した高純度EPA製剤で、1990年に販売開始した。詳細はプレスリリースへ(PDF)http://www.mochida.co.jp/news/2012/pdf/1228.pdf

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EPA/DHAはADHD様行動を改善する可能性あり?

 ノルウェー・オスロ大学のKine S Dervola氏らが行ったラット試験の結果、ADHDに対し、ω3(n-3系)多価不飽和脂肪酸(PUFA)のサプリメントを投与することにより、挙動や神経伝達物質代謝について、性特異的な変化をもたらすことが示された。先行研究において、n-3系PUFAサプリメントがADHD様行動を減じる可能性が示唆されていた。Behavioral and Brain Functions誌オンライン版2012年12月10日号の掲載報告。 本研究の目的は、ADHD動物モデルにおけるn-3系PUFA投与の影響を調べることであった。高血圧自然発症ラット(SHR)を用いて、n-3系PUFA(EPAとDHA)強化飼料(n-6系 対 n-3系の割合1:2.7)を妊娠期間中、およびその産児に死亡するまで投与し続けた。SHRコントロール群とWistar Kyoto(WKY)ラットのコントロール群には、対照飼料(n-6系 対 n-3系の割合7:1)が与えられた。産児は生後25~50日の間、強化-依存的な注意力、衝動性、多動性および自発運動について検査を受けた。その後、55~60日時点で処分し、モノアミン、アミノ酸神経伝達物質に関して、高速液体クロマトグラフィーにて解析した。 主な結果は以下のとおり。・n-3系PUFA給餌により、オスのSHRでは強化-依存的な注意力の改善が認められたが、メスではみられなかった。・同一ラットでの新線条体の解析において、オスのSHRでは、ドパミンとセロトニン代謝率の有意な上昇が示されたが、メスのSHRでは、セロトニン分解代謝が上昇したことを除き、変化はみられなかった。・対照的に、オスとメスの両方のSHRで示されたのが、非強化の自発運動の低下と、グリシン値およびグルタミン代謝の性非依存的変化であった。・n-3系PUFAはADHDラットモデルにおいて、強化刺激行動において性特異的な変化をもたらし、非強化関連行動において性非依存的な変化をもたらすことが示された。それらは、シナプス前部線条体モノアミンとアミノ酸伝達シグナルとそれぞれ関連があった。・以上のことから、n-3系PUFAの摂取は、ADHD様行動(男性では強化誘発メカニズム、男女ともでは強化無反応メカニズム)をある程度改善する可能性が示された。関連医療ニュース ・うつ病予防に「脂肪酸」摂取が有効? ・統合失調症患者の脳組織喪失に関わる脂肪酸、薬剤間でも違いが ・抗てんかん薬の処方、小児神経科医はどう使っている?

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うつ病補助療法に有効なのは?「EPA vs DHA」

 近年、うつ病に対するn-3系多価不飽和脂肪酸(n-3系脂肪酸)の影響に関するさまざまな報告が行われている。しかし、n-3系脂肪酸の中でもEPA(イコサペント酸エチル)またはDHA(ドコサヘキサエン酸エチル)がどのような影響を及ぼすかは不明なままである。イランのMozaffari-Khosravi氏らは、軽度から中等度のうつ病患者に対する補助薬物療法としてn-3系脂肪酸の投与が有用であるかを検討するため、EPAとDHAの有用性を比較する単施設ランダム化プラセボ対照並行群間比較試験を実施した。Eur Neuropsychopharmacol誌オンライン版2012年8月18日号の報告。 対象は軽度から中等度のうつ病外来患者81例。EPA群(1g/日)、DHA群(1g/日)、プラセボ群(ヤシ油)の3群に無作為に割り付け、12週間継続投与を行った。解析対象は、少なくとも1回以上、ランダム化後の観察が実施された患者とした(解析対象者数:62例、女性比:61.3%、平均年齢:35.1±1.2歳)。主要評価項目はHDRS(17項目のハミルトンうつ病評価尺度)最終スコアとし、intention-to-treat分析を行った。ベースライン時における各群のHDRSスコアに有意な差は認められなかった。主な結果は以下のとおり。・EPA群は、DHD群またはプラセボ群と比較して、HDRS最終スコアの有意な低下が認められた(それぞれp

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寄稿 線維筋痛症の基本

廿日市記念病院リハビリテーション科戸田克広痛みは原因の観点から神経障害性疼痛(神経障害痛)と侵害受容性疼痛(侵害受容痛)およびその合併に分類され、世界標準の医学では心因性疼痛単独は存在しないという考えが主流である。通常、日本医学ではこれに心因性疼痛が加わる。線維筋痛症(Fibromyalgia、以下FM)およびその不全型は日本医学の心因性疼痛の大部分を占めるが、世界標準の医学では神経障害痛の中の中枢性神経障害痛に含まれる。医学的に説明のつかない症状や痛みを世界の慢性痛やリウマチの業界はFMやその不全型と診断、治療し、精神科の業界は身体表現性障害(身体化障害、疼痛性障害)と診断、治療している。FMの原因は不明であるが、脳の機能障害が原因という説が定説になっている。器質的な異常があるのかもしれないが、現時点の医学レベルでは明確な器質的異常は判明していない。脳の機能障害が原因で生じる中枢性過敏症候群という疾患群があり、うつ病、不安障害、慢性疲労症候群、FM、むずむず脚症候群、緊張型頭痛などがそれに含まれる。先進国においてはFMの有病率は約2%であるが、その不全型を含めると少なくとも20%の有病率になる。FMおよび不全型の診断基準は「「正しい線維筋痛症の知識」の普及を目指して! - まず知ろう診療のポイント -」に記載されている1)。医学的に説明のつかない痛みを訴える場合には、FMあるいはその不全型を疑うことが望ましい。FMもその不全型も治療は同一であるため、これらを区別する意義は臨床的にはほとんどない。薬物治療のみならず、禁煙、有酸素運動、患者教育、認知行動療法などが有効である。ただし、認知行動療法は具体的に何をすればよいかわからない部分が多く、それを行うことができる人間が少ないため、実施している施設は少ない。人工甘味料アスパルテームによりFMを発症した症例が報告されたため、その摂取中止が望ましい1)。当初は必ず一つの薬のみを上限量まで漸増し、有効か無効かを判定する必要がある。副作用のために増量不能となった場合や、満足できる鎮痛効果が得られた場合には、上限量を使用する必要はない。つまり、上限量を使用せずして無効と判断することや、不十分な鎮痛効果にもかかわらず上限量を使用しないことは適切ではない(副作用のために増量不能の場合を除く)。一つの薬の最適量が決まれば、患者さんが満足できる鎮痛効果が得られない限り、同様の方法により次の薬を追加する。これは国際疼痛学会が神経障害痛に一般論として推奨している薬物治療の方法である。2、3種類の薬を同時に投与することは望ましくない。どの薬が有効か不明になり、同じ薬を漫然と投与することになりやすいからである。世界標準のFMでは有効性の証拠の強い順に薬物を使用することが推奨されているが、その方法は臨床的にはあまり有用ではない。投薬の優先順位を決定する際には有効性の証拠の強さのみならず、実際に使用した経験も考慮する必要がある。さらに論文上の副作用、実際に経験した副作用、薬価も考慮する必要がある。FMは治癒することが少ない上に、FMにより死亡することも少ないため、30年以上の内服が必要になることがしばしばあるからである。FMの薬物治療においては適用外処方は不可避であるが、保険請求上の病名も考慮する必要がある。さらに、日本独特の風習である添付文書上の自動車運転禁止の問題も考慮する必要がある。抗痙攣薬、抗不安薬、睡眠薬、ほとんどの抗うつ薬を内服中には添付文書上自動車の運転は禁止されているが、それを遵守すると、少なくない患者さんの生活が破綻するばかりではなく、日本経済そのものが破綻する。以上の要因を総合して、薬物治療の優先順位を決めている1)。これにより医師の経験量によらず、ほぼ一定の治療効果を得ることができる。ただし、それには明確なエビデンスはないため、各医師が適宜変更していただきたい。副作用が少ないことを優先する場合や自動車の運転が必須の患者さんの場合には、眠気などの副作用が少ない薬を優先投与する必要がある。すなわち、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(ノイロトロピン) 、メコバラミンと葉酸の併用、イコサペント酸エチル、ラフチジン、デキストロメトルファンを優先使用している。痛みが強い場合には、有効性の証拠が強い薬、すなわちアミトリプチリン、プレガバリン、ミルナシプラン、デュロキセチンを優先使用している。抗不安薬は常用量依存を引き起こしやすいため、鎮痛目的や睡眠目的には使用せず、パニック発作の抑制目的にのみ使用し、かつ3ヵ月以内に中止すべきである。FMにアルプラゾラムが有効と抄録に書かれた論文2)があるが、本文中では有効性に関して偽薬と差がないという記載があるため、注意が必要である。ステロイドはFMには有害無益であり、ステロイドが有効な疾患が合併しない限り使用してはならない。昨年、日本の診療ガイドラインが報告された。筋緊張亢進型、腱付着部炎型、うつ型、およびその合併に分類する方法および各タイプ別に優先使用する薬は世界標準のFMとは異なっており、私が個人的に決めた優先順位と同様に明確なエビデンスに基づいていない。たとえば、腱付着部炎型にサラゾスルファピリジンやプレドニンが有効と記載されているが、それはFMに有効なのではなく、腱付着部炎を引き起こすFMとは異なる疾患に有効なのである。糖尿病型FMにインシュリンが有効という理論と同様である。薬を何種類併用してよいかという問題があるが、誰も正解を知らない。私は睡眠薬を除いて原則的に6種類まで併用している。1年以上投薬すると、中止しても痛みが悪化しないことがある。そのため、1年以上使用している薬は中止して、その効果が持続しているかどうかを確かめることが望ましい。引用文献1) CareNetホームページ カンファレンス Q&A:戸田克広先生「「正しい線維筋痛症の知識」の普及を目指して! - まず知ろう診療のポイント-」2)Russell IJ et al: Treatment of primary fibrositis/fibromyalgia syndrome with ibuprofen and alprazolam. A double-blind, placebo-controlled study. Arthritis Rheum. 1991;34:552-560.

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戸田克広先生「「正しい線維筋痛症の知識」の普及を目指して! - まず知ろう診療のポイント-」

1985年新潟大学医学部卒業。現在、廿日市記念病院リハビリテーション科勤務。2001年1月~2004年2月までアメリカ国立衛生研究所に勤務した際、線維筋痛症に出会い、日本の現状を知る。帰国後、線維筋痛症を中心とした中枢性過敏症候群などの治療にあたっている。日本線維筋痛症学会評議員。著書に『線維筋痛症がわかる本』(主婦の友社)。線維筋痛症の現状先進国の線維筋痛症(fibromyalgia : FM)の有病率はわずか2%だが、グレーゾーンを含めると約20%になる。そのため、患者数が多いと予想される。また、先進国や少なくない非先進国ではFMは常識だが、日本ではまだよく知られていない。この疾患特有の愁訴を訴える患者さんを、プライマリ・ケア医や勤務医が診察する機会が多いと予測される。今回、FMの標準的な診療について、正しく理解していただくために診療のサマリーと診療スライドを公開させていただく。よりよい治療成績を求めることが臨床医の努めと考えているので、是非実践していただきたい。線維筋痛症の疫学・病態画像を拡大する腰痛症や肩こりから慢性局所痛症(chronic regional pain: CRP)や慢性広範痛症(chronic widespread pain: CWP)を経由してFMは発症するが、それまで通常10~20年かかる(図1)。FMの有病率は先進国では約2%、FMを含むCWPの有病率は約10%、CRPの有病率はCWPのそれの1-2倍である*1。FMの原因は不明だが、中枢神経の過敏状態(中枢性過敏)が原因であるという説が定説である*1。中枢性過敏によって起こった中枢性過敏症候群(central sensitivity syndrome)にはうつ病、不安障害、慢性疲労症候群、むずむず脚症候群などが含まれるが、FMはその代表的疾患である(図2)。画像を拡大する女性がFM患者の約8割を占める。未就学児にも発生するが、絶対数としては30歳代~60歳代が多数を占める。線維筋痛症の症状全身痛、しびれ、疲労感、感覚異常(過敏や鈍麻)、睡眠障害、記憶力や認知機能の障害などいわゆる不定愁訴を呈する。中枢性過敏症候群に含まれる疾患の合併が多い。痛みや感覚異常の分布は神経分布とは一致せず、痛みやしびれの範囲は移動する。天候が悪化する前や月経前後に症状がしばしば悪化する。症状の程度はCRP<CWP<FMとなる(図1)。線維筋痛症の検査・診断(2012年1月30日に内容を更新)画像を拡大する圧痛以外の他覚所見は通常存在せず、理学検査、血液検査、画像検査も通常正常である。従来はアメリカリウマチ学会(ACR)による1990年の分類基準(図3)が実質的に唯一の診断基準となっていたが、2010年(図4)*2と2011年*3に予備的診断基準が報告された。ACRが認めた2010年の基準は臨床基準であり、医師が問診する必要がある。ACRが現時点では認めていない2011年の基準は研究基準であり、医師の問診なしで患者の回答のみでも許容されるが、患者の自己診断に用いてはならない。2011年の基準は2010年の基準とほぼ同じであるが、「身体症状」が過去6カ月の頭痛、下腹部の痛みや痙攣、抑うつの3つになった。共に「痛みを説明できる他の疾患が存在しない」という条件がある*2、*3。1990年の分類基準は廃止ではなく、使用可能である*2、*3。CRPやCWPにFMと同じ治療を行う限り、FMの臨床基準には存在意義がほとんどない。どの診断基準がどのくらいの頻度で、どのように使用されるのかは現時点では不明である。画像を拡大する1990年の分類基準によると、身体5カ所、つまり、左半身、右半身、腰を含まない上半身、腰を含む下半身、体幹部(頚椎、前胸部、胸椎、腰部)に3カ月以上痛みがあり、18カ所の圧痛点を約4kgで圧迫して11カ所以上で患者が「痛い」といえば他にいかなる疾患が存在しても自動的にFMと診断される*1(図3)。つまり、圧痛以外の理学検査、血液検査、画像検査の結果は、診断基準にも除外基準にもならない。通常、身体5カ所に3カ月以上痛みがあれば広義のCWPと、CWPの基準を満たさないが腰痛症のみや肩こりのみより痛みの範囲が広い場合にはCRPと診断される。FMとは異なり他の疾患で症状が説明できる場合には、通常CRPやCWPとは診断されない。~~ ここまで2012年1月30日に内容を更新~~従来の基準を使う限り、FMには鑑別疾患は存在しないが、合併する疾患を見つけることは重要である。従来、身体表現性障害(疼痛性障害、身体化障害)、心因性疼痛、仮面うつ病と診断されたかなりの患者はCRP、CWP、FMに該当する。線維筋痛症の治療(2012年7月24日に内容を更新)画像を拡大する世界ではCWPに対して通常FMと同じ治療が行われており、CRPやCWPにFMと同じ治療を行うとFM以上の治療成績を得ることができる*1。FMの治療は肩こり、慢性腰痛症、慢性掻痒症、FM以外の慢性痛にもしばしば有効である。他の疾患を合併している場合、一方のみの治療をまず行うのか、両方の治療を同時に行うのかの判断は重要である。FMの治療の基本は薬物治療と非薬物治療の組み合わせである。非薬物治療には認知行動療法、有酸素運動、減量、禁煙(受動喫煙の回避を含む)、人工甘味料アスパルテームの摂取中止*4が含まれる(図5)。鍼の有効性の根拠は弱く高額であるため、週1回合計5回行っても一時的な効果のみであれば、中止するか一時的な効果しかないことを了解して継続すべきである。薬物治療の基本は一つずつ薬の効果を確認することである。一つの薬を少量から上限量まで漸増する必要がある。効果と副作用の両面から最適量を決定し、それでも不十分な鎮痛効果しか得られなければ次の薬を追加する。上限量を1-2週間投与しても無効であれば漸減中止すべきで、上限量を使用せず無効と判断してはならない。メタ解析や系統的総説により有効性が示された薬はアミトリプチリン〔トリプタノール〕、ミルナシプラン〔トレドミン〕、プレガバリン〔リリカ〕、デュロキセチン〔サインバルタ〕である*1、4。二重盲検法により有効性が示された薬はガバペンチン〔ガバペン〕、デキストロメトルファン〔メジコン〕、トラマドールとアセトアミノフェンの合剤〔トラムセット配合錠〕などである*1、4。ノルトリプチリン〔ノリトレン〕は体内で多くがアミトリプチリンに代謝され、有効性のエビデンスは低いが実際に使用すると有効例が多い。ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液〔ノイロトロピン〕、ラフチジン〔プロテカジン〕は対照群のない研究での有効性しか示されていないが、有効例が多く副作用が少ない。抗不安薬はFMに有効という証拠がないばかりか常用量依存を引き起こしやすいため、鎮痛目的や睡眠目的で使用すべきではない*1、4。また、ステロイドが有効な疾患を合併しない限りステロイドはFMには有害無益である*1。非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は通常無効であるが、個々の患者では有効なことがある。個々の薬物の有効性のレベルは文献*1、4を参照していただきたい。論文上の効果や副作用、私自身が経験した効果や副作用、費用の点を総合的に考慮した私の個人的な優先順位は〔ノイロトロピン〕、アミトリプチリン、デキストロメトルファン、ノリトレン、メコバラミンと葉酸の併用、イコサペント酸エチル、ラフチジン、ミルナシプラン、ガバペンチン、デュロキセチン、プレガバリンである。これには科学的根拠はないが、薬物治療が単純になる。不都合があれば各医師が優先順位を変更すればよい。日本のガイドラインにも科学的根拠がないことはガイドラインに記載されている*5。筋付着部炎型にステロイドやサラゾスフファピリジン〔アザルフィジン〕が推奨されているが、それらはFMに有効なのではなくFMとは別の疾患に有効なのである。肺炎型FMに抗生物質を推奨することと同じである。線維筋痛症の治療成績画像を拡大する2007年4月の時点で3カ月以上私が治療を行った34人のFM患者のうち薬物を中止できた人は5人(15%)、痛みが7割以上改善した人が4人(12%)、痛みが1割以上7割未満改善した人が17人(50%)、不変・悪化の人が8人(24%)であった*1。CRPやCWPにFMとまったく同じ治療を行えば、有意差はないがFMよりはよい治療成績であった*1(図6)。※〔 〕内の名称は商品名です文献*1 戸田克広: 線維筋痛症がわかる本. 主婦の友社, 東京, 2010.*2 Wolfe F, Clauw DJ, Fitzcharles MA et al: The American College of Rheumatology preliminary diagnostic criteria for fibromyalgia and measurement of symptom severity. Arthritis Care Res (Hoboken) 62: 600-610, 2010. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20461783*3 Wolfe F, Clauw DJ, Fitzcharles MA et al: Fibromyalgia Criteria and Severity Scales for Clinical and Epidemiological Studies: A Modification of the ACR Preliminary Diagnostic Criteria for Fibromyalgia. J Rheumatol 38: 1113-1122, 2011. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21285161*4 戸田克広: エビデンスに基づく薬物治療(海外の事例を含む). 日本線維筋痛症学会編, 線維筋痛症診療ガイドライン2011. 日本医事新報, 東京, 2011; 93-105.*5 西岡久寿樹: 治療総論. 日本線維筋痛症学会編, 線維筋痛症診療ガイドライン2011. 日本医事新報, 東京, 2011; 82-92.質問と回答を公開中!

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エパデールが末梢動脈疾患患者の冠動脈イベントを抑制する ―JELIS試験のサブ解析結果より

持田製薬株式会社は5日、高脂血症、閉塞性動脈硬化症治療剤「エパデール」(一般名:イコサペント酸エチル、EPA)の高脂血症患者を対象とした大規模臨床試験「JELIS」において、エパデールが末梢動脈疾患を有する患者の冠動脈イベントを有意に抑制するとの結果が得られたと発表した。解析結果は日本循環器学会の機関誌『Circulation Journal』7月号に掲載されるとのこと。JELISのコントロール群(エパデール非投与群)について末梢動脈疾患の有無による冠動脈イベントの発症率を調べた結果、末梢動脈疾患を有していないグループでは7.2人/千人・年、試験登録時に末梢動脈疾患を合併しているグループでは38.6人/千人・年、また試験期間に末梢動脈疾患を新たに発症したグループでは55.2人/千人・年であった。末梢動脈疾患を合併しているグループの冠動脈イベント発症リスクは、末梢動脈疾患を有していないグループに比べて1.97倍高く、また新たに末梢動脈疾患を発症したグループでは2.88倍高いことが示されたという。また、末梢動脈疾患を有していたグループ(合併+新規発症)をエパデール投与群と非投与群とに分けて解析した結果、冠動脈イベント発症はエパデール投与群では17.3人/千人・年、エパデール非投与群では42.9人/千人・年となり、エパデール投与により冠動脈イベントの発症が56%有意に抑制されることもわかったという。詳細はプレスリリースへhttp://www.mochida.co.jp/news/2010/0705.html

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ticagrelorは、急性冠症候群の予後をクロピドグレルに比べ有意に改善:PLATO試験

新たな経口P2Y12受容体阻害薬であるticagrelorは、侵襲的治療が適用とされる急性冠症候群(ACS)患者の抗血小板療法において、クロピドグレル(商品名:プラビックス)に比べ有意に予後を改善することが、米国Brigham and Women’s病院TIMI study groupのChristopher P Cannon氏らが実施したplatelet inhibition and patient outcomes(PLATO)試験で示された。クロピドグレルの抗血小板作用には個人差がみられ、不可逆的であるため、ACS患者における至適な用量や投与のタイミングについては議論がある。ticagrelorはクロピドグレルと同じP2Y12受容体阻害薬であるが、その作用は可逆的で、より強力かつ長期に持続するという。Lancet誌2010年1月23日号(オンライン版2010年1月14日号)掲載の報告。約13,000例を対象とした二重盲検ダブルダミー無作為化試験PLATO試験の研究グループは、入院後できるだけ早期に治療を開始する必要があるため侵襲的治療が計画されたACS患者を対象に、ticagrelorとクロピドグレルの予後改善効果および出血リスクを比較する二重盲検ダブルダミー無作為化試験を実施した。ST上昇あるいは非上昇ACSで入院中の患者18,624例が登録され、そのうち侵襲的治療が計画された13,408(72.0%)例が、ticagrelorとプラセボを投与する群(負荷用量180mg投与後、90mg×2回/日を投与)あるいはクロピドグレルとプラセボを投与する群(負荷用量あるいは維持用量として300~600mgを投与後、75mg/日を投与)に無作為に割り付けられ、6~12ヵ月の治療が行われた。全例にアスピリンが投与された。主要評価項目は、心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合エンドポイントとし、intention-to-treat解析を実施した。1,000例当たり年間11例の死亡、13例の心筋梗塞、6例のステント血栓症を防止ticagrelor群に6,732例が、クロピドグレル群には6,676例が割り付けられた。治療開始後360日における複合エンドポイントのイベント発生率は、ticagrelor群が9.0%とクロピドグレル群の10.7%に比べ有意に低かった(ハザード比:0.84、p=0.0025)。大出血の発生率は、ticagrelor群が11.5%、クロピドグレル群は11.6%と両群間に差を認めなかった(ハザード比:0.99、p=0.8803)。GUSTO(Global Use of Strategies To Open occluded coronary arteries)の出血基準に基づく重篤な出血についても、それぞれ2.9%、3.2%と同等であった(ハザード比:0.91、p=0.3785)。著者は、「薬物療法開始時に侵襲的治療が計画されているACS患者に対する抗血小板療法としては、ticagrelorがより有用な選択肢と考えられる」と結論している。これらの知見に基づいて推算すると、ticagrelorはクロピドグレルに比べ大出血や輸血の頻度を上昇させずに、年間にACS患者1,000例当たり11例の死亡を回避し、13例の心筋梗塞および6例のステント血栓症を防止するという。また、今回の結果は、「血小板P2Y12受容体の阻害を増強すれば、大出血を増加させずに死亡率を低減させることが可能との考え方を支持するもの」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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「エパデール」が糖代謝異常症例において冠動脈イベントを抑制する JELIS試験解析結果が『Atherosclerosis』に掲載

持田製薬株式会社は26日、高脂血症、閉塞性動脈硬化症治療剤である「エパデール」(一般名:イコサペント酸エチル、EPA)の高脂血症患者を対象とした大規模臨床試験「JELIS」において、エパデールが糖代謝異常を有する患者の冠動脈イベントを有意に抑制するとの結果が得られたと発表した。解析結果は、欧州動脈硬化学会の機関誌『Atherosclerosis』(アテロスクレローシス)に掲載されている。糖代謝異常の有無による冠動脈イベントの発症は、エパデール非投与群において、血糖正常グループ7,057例中185例(2.6%)、糖代謝異常グループ2,262例中139例(6.1%)であり、糖代謝異常グループは血糖正常グループに比べ、1.7倍の冠動脈イベント発症リスクを示したという。また、糖代謝異常グループにおける冠動脈イベントの発症は、エパデール投与群2,303例中109例(4.7%)であり、対照群2,262例中139例(6.1%)に比べ、エパデールは冠動脈イベントの発症を有意に22%抑制したとのこと。詳細はプレスリリースへhttp://www.mochida.co.jp/news/2009/1026.html

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サケ白子の蛋白分解物「プロタミン分解ペプチド」による口中内カンジダ菌の減少を確認

ロート製薬株式会社は20日、近年増加傾向にあり、QOLの低下をもたらす「ドライマウス(口腔乾燥)」について研究を行い、サケ白子の蛋白分解物「プロタミン分解ペプチド」が『口中内カンジダ菌』を減少させることを人での臨床試験において確認したと発表した。『口中内カンジダ菌』は、ドライマウス(口腔乾燥)により増加することが多く、増加すると口中環境を悪化させ、痛みや炎症といった症状を引き起こす場合があることがわかっている。従来、この“カンジダ菌の増加”は重篤な場合以外は見過ごされていて、新たなアプローチが求められていたという。サケ白子の蛋白分解物である「プロタミン分解ペプチド」は食経験が豊富な素材で、手軽に用いることができ、ドライマウス対策の幅を広げる有用な素材であると考えているとのこと。なお、今回の成果は第20回日本老年歯科医学会(2009年6月、横浜)にて発表したとのこと。 詳細はプレスリリースへhttp://www.rohto.co.jp/comp/news/?n=r091020

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血栓溶解療法後の早期PCIはST上昇型心筋梗塞患者の虚血性合併症予防に有効

経皮的冠動脈形成術(PCI)を施行できない病院に搬送されたST上昇型心筋梗塞患者はしばしば、初回PCIをタイムリーに受けることができないまま、血栓溶解療法を受けることになる。そうした患者の最適な治療についてカナダ・トロント大学South Lake Regional Health CentreのWarren J. Cantor氏らが検討を行った。NEJM誌2009年6月25日号より。ST上昇型心筋梗塞患者を標準治療群とルーチン早期PCI群に無作為に割り付けCantor氏らThe Trial of Routine Angioplasty and Stenting after Fibrinolysis to Enhance Reperfusion in Acute Myocardial Infarction(TRANSFER-AMI)に参加する研究グループは、PCIを施行できない病院で血栓溶解療法を受けたST上昇型のハイリスク心筋梗塞患者1,059例を、標準治療群(必要があれば緊急PCIのために他院に搬送するが、通常は血管造影)と、血栓溶解後6時間以内に他院に転送しPCIを実施する群に、無作為に割り付け追跡した。なお全患者にアスピリン、tenecteplase、ヘパリンまたはエノキサパリン(商品名:クレキサン)が投与され、抗血小板薬クロピドグレル(商品名:プラビックス)の併用が推奨された。主要エンドポイントは30日以内の、死亡・再梗塞・再虚血・うっ血性心不全の発症または増悪・心原性ショックの複合とした。ルーチン早期PCI群の虚血性合併症の発生率が有意に低下標準治療群の患者の心臓カテーテル療法実施割合は、無作為化後中央値32.5時間で88.7%だった。一方、ルーチン早期PCI群の患者については、中央値2.8時間後98.5%の実施割合だった。30日後の主要エンドポイント発生は、ルーチン早期PCI群の11.0%に対し、標準治療群では17.2%で発生した(相対リスク:0.64、95%信頼区間:0.47~0.87、P=0.004)。重大出血の出現率については両群間で有意差はなかった。これらから研究グループは、「ST上昇型心筋梗塞のハイリスク患者で、血栓溶解療法後6時間以内に、ルーチン早期PCIを他院に転送され受けた群は、標準治療を受けた群と比べて、虚血性合併症の発生率が有意に低下した」と結論した。(朝田哲明:医療ライター)

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エパデールが冠動脈イベントの再発を抑制する ―JELIS試験の解析結果より

持田製薬株式会社は6月30日、高脂血症、閉塞性動脈硬化症治療剤である「エパデール」(一般名:イコサペント酸エチル、EPA)の高脂血症患者を対象とした大規模臨床試験「JELIS」において、登録時点で心筋梗塞等の冠動脈疾患の既往のある症例(二次予防症例)を対象としたサブ解析で、エパデールが冠動脈イベントの再発を有意に抑制するとの結果が得られたと発表した。解析結果から、冠動脈疾患の既往のある症例(二次予防症例)の再発は、エパデール投与群1,823例中158例(8.7%)、対照群1,841例中197例(10.7%)であり、エパデールは冠動脈イベントの再発を有意に23%抑制し、特に心筋梗塞の既往歴を持つグループにおいては、エパデールは冠動脈イベントの再発を有意に27%抑制したという。なお、今回の解析結果は、日本循環器学会の機関誌『Circulation Journal』(サーキュレーション・ジャーナル)に掲載されている。詳細はプレスリリースへhttp://www.mochida.co.jp/news/2009/0630_1.html

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高脂血症治療剤「エパデール」のスイッチOTC薬 販売契約締結

日水製薬株式会社は29日、持田製薬株式会社および日本水産株式会社との間で、持田製薬が医療用医薬品として製造販売している高脂血症・閉塞性動脈硬化症治療剤「エパデール」( 一般名: イコサペント酸エチル、以下EPA) のスイッチOTC薬について、同社が販売を行う契約を締結したと発表した。持田製薬が製造販売承認を取得した後に、同社はスイッチOTC薬の供給を受け販売を行う。エパデールは、持田製薬が日本水産から高純度EPA原体の供給を受け、世界で初めて医療用医薬品として開発した高純度EPA製剤で、高脂血症と、閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛及び冷感の改善を適応とし、1990年に販売開始した。詳細はプレスリリースへ(PDF)http://www.nissui-pharm.co.jp/information/pdf/20090629.pdf

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