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5年間のビタミンD補給により自己免疫疾患のリスク低減/BMJ

 5年間のビタミンD補給により、オメガ3脂肪酸の追加の有無を問わず、自己免疫疾患の発生が22%減少し、オメガ3脂肪酸の補給では、ビタミンD追加の有無にかかわらず、統計学的有意差はないものの同疾患が15%減少することが、米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のJill Hahn氏らが行った「VITAL試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2022年1月26日号で報告された。米国のプラセボ対照無作為化試験 研究グループは、ビタミンDと海産動物由来の長鎖オメガ3脂肪酸は自己免疫疾患のリスクを低減するかを検証する目的で、2×2ファクトリアルデザインを用いた二重盲検プラセボ対照無作為化試験を行った(米国国立衛生研究所[NIH]の助成による)。 本試験には、2011年11月~2014年3月の期間に全米から2万5,871例(50歳以上の男性1万2,786例と55歳以上の女性1万3,085例)が登録され、2017年12月に5年間の介入が終了した。 参加者は、ビタミンD(コレカルシフェロール2,000 IU/日、1万2,927例)またはプラセボ(1万2,944例)、あるいはオメガ3脂肪酸(エイコサペンタエン酸460mgとドコサヘキサエン酸380mgを含む魚油カプセル1g/日、1万2,933例)またはプラセボ(1万2,938例)の補給を受ける群に無作為に割り付けられた。 追跡期間中央値は5.3年で、参加者はこの間に発生した新規の自己免疫疾患をすべて報告し、これらの疾患は医療記録の調査で確定された。 主要エンドポイントは、関節リウマチ、リウマチ性多発筋痛症、自己免疫性甲状腺疾患、乾癬を含むすべての自己免疫疾患の新規発生とされた。高度疑い例を加えると、オメガ3脂肪酸群でも有意にリスク低下 全体の平均年齢は67.1歳で、71%が非ヒスパニック系白人、20%が黒人で、9%はその他の人種/民族であった。4,555例(18%)が無作為化の前に1つ以上の自己免疫疾患を有していた。 ビタミンD群(ビタミンD+オメガ3脂肪酸とビタミンD単独)で123例、プラセボ群で155例が自己免疫疾患と確定され、ビタミンD群で自己免疫疾患のリスクが22%有意に低下した(補正後ハザード比[HR]:0.78、95%信頼区間[CI]:0.61~0.99、p=0.05)。 また、オメガ3脂肪酸群(ビタミンD+オメガ3脂肪酸とオメガ3脂肪酸単独)で130例、プラセボ群で148例が自己免疫疾患と確定され、オメガ3脂肪酸群でリスクが15%低下したが、両群間に有意な差は認められなかった(補正後HR:0.85、95%CI:0.67~1.08、p=0.19)。 自己免疫疾患の確定例に高度疑い例を加えた解析では、自己免疫疾患の発生はビタミンD群で210例、プラセボ群で247例(補正後HR:0.85、95%CI:0.70~1.02、p=0.09)と有意差はなかったのに対し、オメガ3脂肪酸群は208例と、プラセボ群の249例(0.82、0.68~0.99、p=0.04)に比べリスクが有意に低下した。 参照群(ビタミンDのプラセボ+オメガ3脂肪酸のプラセボ)の自己免疫疾患確定88例と比較して、ビタミンD+オメガ3脂肪酸群では63例(補正後HR:0.69、95%CI:0.49~0.96、p=0.03)、ビタミンD単独群では60例(0.68、0.48~0.94、p=0.02)と、いずれもリスクが有意に低下したが、オメガ3脂肪酸単独群では67例(0.74、0.54~1.03、p=0.07)であり、わずかに有意差には達しなかった。 著者は、「ビタミンDとオメガ3脂肪酸は栄養補助食品として忍容性が高く、毒性もなく、ほかに自己免疫疾患の発生を抑制する効果的な治療法はないため、本試験の臨床的重要性は高いと考えられる」としている。

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新鮮なネタとしての魚:うつを予防するのは本当か(解説:岡村毅氏)

 魚を食べるとうつにならないというのは本当かという研究である。正確には魚などに多く含まれるオメガ3脂肪酸を多くとるとうつにならないかという研究である。1)魚は健康に良いとされている。2)魚を食べている人は健康そうである。知り合いのAさんもBさんも、ジャンクフードは食べずに日本食を好み、運動をし、そして魚をよく食べている。3)そこで手近な100人くらいの人を調査した。魚を食べているかと、健康状態を聞いた。そしたら魚を食べている人は確かに健康だった。うつも少ない。4)魚はうつを予防する。 …典型的な間違いである。 頑張って魚を食べている人は、健康に気を使っているだろうし、所得も高そうだし、余裕もありそうだ。こうした要因が介在しているから見かけの関係が見えてしまったにすぎない(交絡といいます)。 本当に効果があるのか調べるには、ある地点から前向きにオメガ3脂肪酸を摂取する群、しない群に分けて、その後のうつの発症を調べればよい。その結果は、何とオメガ3脂肪酸群の方がややうつが多かった。 本研究はVITALスタディ(Vitamin D and Omega-3 Trial)という大規模研究の一環である。わかったことは、ビタミンDもオメガ3脂肪酸も、心の健康には何ら効果がなさそうだということであった。 こう書くと、魚なんて食べても意味ないのだ、明日からはカップラーメンと酒だ、と早とちりする人がいるので、強く止めておきたい。要するに自分を大切にしている人は、食生活に気を付けているので健康だということにすぎない。一方で食生活に気を付けても、病気になるときはなることも忘れてはならない。機械じゃないんだ、人間だもの、と言うしかない。 運動とか、魚とか、野菜は健康に良いことは事実だが、それ自体がうつや認知症を予防することはない。同時に、自分のことを大切にして、自堕落な生活はやめた方がよくて(もちろん、したければしてもよい)、魚や野菜をきちんと食べて運動をしましょう、という当たり前の事実があるのだ。 ここで終わっては面白くないのでもう一歩話を進めよう。 人々は「〇〇を食べると病気にならない」という話が大好きである。私の専門分野でいうと、特定の油が認知症予防に効くという一時流行った説を吹き込まれて、高カロリーの油をたくさん摂取している人がたまにいた。「太りますよ、むしろ血管病変を介して認知症になりかねないです」と外来ではやんわりお伝えしている。そもそも〇〇を食べれば病気にならないなどというものは存在しない。していればみんなもう食べているだろう。人間は集団的には合理的な動きをするのだから。 一方で、そういうばかげた話を、怒りをもって眺めている専門家も多いが、それはそれで大人げないとも思う。みんなネタとして捉えて、おしゃべりをしているだけなのである。個人的な見解だが、テレビを真面目に信じている人は10%もいないのではないか? ハイデガーという哲学者は、人々は本質を忘れ(死を忘れ)おしゃべりをして過ごすものだと言ったが、典型的などうでもいいおしゃべりは「食べ物健康談義」であろう。だって誰も傷つけないし、ほどほど盛り上がるし、「某ワクチンが危険だ」みたいな陰謀論のようにどぎつくないから友達をなくすこともないだろう。 問題は本当に信じているごく一部の人だけだ。テレビや週刊誌のビジネスの邪魔はしたくはないが、まともな情報は公共的な組織に提供してほしいものだ。たとえば、厚生労働省は『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』という事業できちんとした情報を提供している。 とても参考になるので一読を勧める。

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原因はSAD?毎年秋から体調を崩す患者さん【知って得する!?医療略語】第3回

第3回 原因はSAD?毎年秋から体調を崩す患者さん季節の変化で気持ちが落ち込むことがあるって本当ですか?コム太君、そうなんです。近年、知られるようになってきましたが、「季節性感情障害(SAD)」という疾患概念があります。とくに日照時間が減り、寒くなる秋~冬に多い印象です。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】SAD【日本語】季節性感情障害・季節性気分障害【英字】seasonal affective disorder【分野】精神神経【診療科】精神科・内科・心療内科【関連】冬季うつ病・夏季うつ病実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。本シリーズでは皆様のお役に立つかもしれない医療略語をご紹介します。今回は『SAD』です。「だるい」「眠れない」「気力が出ない」「気が滅入る」「不安で仕方ない」ことを主訴に内科を受診される患者さんは少なくありません。各種検査をしても異常がなく、症状を一元的に説明できない不定愁訴の患者さんの中には、詳しくお話を伺うと、実は毎年、秋頃から体調が悪くなり始めることが分かります。症状出現が早い人は、夏の終わり頃から症状を自覚し始めます。そして、年末年始をピークに、春に近づくにつれて、知らず知らずのうちに症状が軽快していることが少なくありません。そんな患者さんにはSADの可能性があります。ご本人も季節的な気分障害を認識していないことが多く、冬季を過ぎると症状が改善する可能性をお伝えすると、それだけで安心される方も少なくありません。このSADですが、Rosenthal氏らが、以下の4項目を満たす疾患と定義しています1)。(1)RDC診断基準による大感情障害を有する(2)少なくとも2年以上連続して秋冬に発症し、春夏に寛解するうつ状態(3)他の精神障害を有さない(4)明確な心理・社会的要因を有しない外来レベルだけではなく、救急受診患者数を季節で検証した研究でも、冬季に増加する傾向が報告されています2)。SADの原因は、日照時間の減少、日照時間減少によるビタミンD低下、セロトニンへの影響、気温の低下など、諸説あります。ただ、臨床現場において、SADの概念があることを明確に認識しておくことは、患者さんへの症状推移の予測や治療方針の決定、病状説明に役立つかもしれません。1)Wehr TA, et al. Am J Psychiatry. 1989;146:829-839.2)大槻 秀樹ほか. 日本救急医学会. 2009;20:763-771.

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オメガ3サプリメントにうつ病予防効果はあるのか?/JAMA

 米国の50歳以上のうつ病リスクを有する集団において、海洋由来オメガ3脂肪酸(オメガ3)サプリメントの長期投与によりプラセボと比較し、うつ病または抑うつ症状の新規発症や再発リスクがわずかではあるが統計学的に有意に増加した一方で、気分スコアには差がないという複雑な結果となった。米国・マサチューセッツ総合病院のOlivia I. Okereke氏らが「VITAL-DEP試験」の結果を報告した。 オメガ3サプリメントは、うつ病の治療に用いられているが、一般成人のうつ病予防効果は不明であった。著者は、「今回の知見は、一般成人においてうつ病予防にオメガ3サプリメントの使用は支持されないことを示している」と結論づけている。なお、本研究は、米国の成人(男性50歳以上、女性55歳以上)2万5,871人を対象に、ビタミンD3とオメガ3脂肪酸の心血管疾患およびがんの一次予防効果を評価する無作為化臨床試験「VITAL試験」の補助的な試験で、ビタミンD3の結果はすでに報告されている。JAMA誌2021年12月21日号掲載の報告。うつ病イベントのリスクと、長期の気分スコアの変化を評価 研究グループは、2011年11月~2014年3月の期間に、うつ病の新規発症リスクを有する(うつ病の既往歴がない)1万6,657例と、うつ病の再発リスクがある(うつ病の既往歴はあるが、過去2年間は治療を受けていない)1,696例を、2×2ファクトリアルデザインにより、オメガ3群(エイコサペンタエン酸465mg、ドコサヘキサエン酸375mgを含む魚油1g/日)、ビタミンD3群(2,000IU/日)、オメガ3+ビタミンD3群、またはプラセボ群に無作為に割り付け、2017年12月31日まで投与した。 主要評価項目は、うつ病イベント(うつ病または臨床的に重要な抑うつ症状)のリスク(初発例と再発例の合計)、ならびに気分スコアの変化とした。うつ病イベントは、うつ病の診断、治療(投薬またはカウンセリング)、または定期的なアンケートでの臨床的に重要な抑うつ症状存在(8項目の患者の健康に関する質問票[PHQ-8]抑うつ尺度スコア≧10)の新規自己申告とした。また、気分スコアの変化はPHQ-8を用いて年6回のアンケートで確認し(範囲0~24、スコアが高いほど症状が重度)、臨床的に意義のある最小変化量は0.5点とした。オメガ3群、うつ病イベントリスクがハザード比1.13と有意に高い 1万8,353例(平均年齢67.5[SD 7.1]歳、女性49.2%)が無作為化され(オメガ3群9,171例、プラセボ群9,182例)、90.3%が試験を完遂した(試験終了時の生存者の93.5%)。治療期間中央値は5.3年であった。 オメガ3とビタミンDの交互作用検定の結果、交互作用は認められなかった(交互作用のp=0.14)。うつ病イベントのリスクは、オメガ3群(651件、13.9/1,000人年)がプラセボ群(583件、12.3/1,000人年)より有意に高かった(ハザード比 [HR]:1.13、95%信頼区間[CI]:1.01~1.26、p=0.03)。PHQ-8スコア変化量の平均差は0.03点(95%CI:-0.01~0.07、p=0.19)で、長期的な気分スコアの変化においてはオメガ3群とプラセボ群で有意差は認められなかった。 重篤または主な有害事象の発現率は、オメガ3群vs.プラセボ群で主要心血管イベント2.7% vs.2.9%、全死因死亡3.3% vs.3.1%、自殺0.02% vs.0.01%、消化管出血2.6% vs.2.7%、あざになりやすい24.8% vs.25.1%、胃不快感/胃痛35.2% vs.35.1%であった。

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介護施設の入居者、乳製品増量で骨折、転倒が減少/BMJ

 高齢者介護施設の入居者では、乳製品を用いてカルシウムとタンパク質の摂取量を増量する栄養学的介入は、転倒や骨折のリスクの抑制に有効で、容易に利用できる方法であることが、オーストラリア・メルボルン大学のSandra Iuliano氏らの調査で示された。死亡率の改善は認められなかった。研究の成果は、BMJ誌2021年10月21日号で報告された。オーストラリアの介護施設のクラスター無作為化試験 本研究は、ビタミンDの摂取量は十分だが、カルシウムの平均摂取量が600mg/日で、タンパク質の摂取量が1g/kg体重/日未満の高齢者介護施設入居者における、乳製品による栄養学的介入の骨折予防効果と安全性の評価を目的とする2年間のクラスター無作為化対照比較試験であり、2013年12月~2016年8月の期間に参加施設と参加者の募集が行われた(Dairy Australiaなどの助成を受けた)。 この試験には、オーストラリアの主に歩行可能な高齢者が居住する60の認定介護施設が参加し、介入群に30施設、対照群に30施設が無作為に割り付けられた。参加者は、7,195例(平均年齢86.0[SD 8.2]歳、女性4,920例[68%])だった。 介入群では、牛乳(250mL)、ヨーグルト(100g)またはチーズ(20g)が増量され、これによりカルシウムの平均摂取量が562(SD 166)mg/日、タンパク質の平均摂取量が12(6)g/日増え、摂取量の合計はそれぞれ1,142(353)mg/日および69(15)g/日(1.1g/kg体重)となった。介入により、乳製品の摂取量が2.0サービングから3.5サービングに増加した。対照群は通常の食事を維持し、カルシウムの摂取量は700(247)mg/日、タンパク質の摂取量は58(14)g/日(0.9g/kg体重)だった。骨折が33%、転倒は11%のリスク低下 56施設(介入群27施設、対照群29施設)のデータが解析に含まれた。参加者は、介入群が3,301例、対照群は3,894例であった。追跡期間中のエネルギー摂取量は両群で差はなく、各群内で有意な変動はなかった。骨折が324件(大腿骨近位部骨折135件)、転倒が4,302件、死亡が1,974件発生した。 2年間で、介入群は対照群に比べ、骨折リスクが33%低下し(121件[3.7%]vs.203件[5.2%]、ハザード比[HR]:0.67、95%信頼区間[CI]:0.48~0.93、p=0.02)、大腿骨近位部骨折のリスクは46%減少した(42件[1.3%]vs.93件[2.4%]、0.54、0.35~0.83、p=0.005)。また、転倒のリスクは介入群で11%抑制された(1,879件[57%]vs.2,423件[62%]、0.89、0.78~0.98、p=0.04)。 5ヵ月の時点で、全骨折(p=0.002)および大腿骨近位部骨折(p=0.02)のリスクに有意な差がみられ、いずれも介入群で良好であった。また、3ヵ月の時点で、転倒(p=0.04)のリスクに有意差が認められ、介入群で優れた。1件を除き、骨折の原因はすべて転倒であった。 死亡には両群間に差はなかった(900件[27%]vs.1,074件[28%]、HR:1.01、95%CI:0.43~3.08)。予防治療を要した参加者の数は、全骨折が52件、大腿骨近位部骨折が82件、転倒は17件だった。 著者は、「この栄養学的介入は、入居者の好みに合わせて個別に行われ、既存の献立に通常の小売り用の牛乳、ヨーグルト、チーズを組み合わせた給食サービスを活用して行われたが、円滑な運用が可能であった。この介入は、高齢者介護施設における骨折予防のための公衆衛生対策として広く利用でき、より広範な地域社会でも使用できる可能性がある」としている。

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新型コロナへのイベルメクチン使用、中毒症状の報告が急増

 腸管糞線虫症または疥癬の経口治療薬のイベルメクチン(商品名:ストロメクトール)を新型コロナウイルス治療薬として使用することに対し、製薬メーカーや米国食品医薬品局(FDA)、欧州医薬品庁(EMA)などから、安全性と有効性を支持するデータはなく使用を推奨しない旨の声明が重ねて出されている。さらに、イベルメクチン服用後の中毒症状を訴えて医療機関を受診する人が急増しているとの報告が、NEJM誌オンライン版2021年10月20日号「CORRESPONDENCE」に掲載された。イベルメクチンの不適切使用は重篤な副作用を引き起こす可能性 この報告は米国・ポートランドのオレゴン健康科学大学のCourtney Temple氏らによるもの。米国では獣医によるイベルメクチン使用が増加しており、人に対する処方数もパンデミック前の24倍になっており、2021年8月の処方数は前月比4倍と急増している。 オレゴン州のOregon Poison Centerは、専門的な訓練を受けた看護師、薬剤師、医師が常駐する電話相談センターであり、オレゴン・アラスカ・グアム州において、一般市民への治療アドバイスや患者をケアする医療従事者への包括的な治療相談を行っている。同センターには、最近、COVID-19に関連したイベルメクチン暴露に関する問い合わせが増えている。 イベルメクチンに関する通報の全通報に対する割合は、2020年には月0.25件だったが、2021年1月~7月までは月0.86件に増加し、2021年8月にセンターは21件の通報を受けた(毒物曝露に関する全通報数は2020年と2021年で大きな差はなかった)。 8月のイベルメクチンに関する通報21例のうち11例が男性で、大半が60歳以上だった(年齢中央値64、範囲20~81)。約半数(11例)はCOVID-19の予防目的で、残り10例は治療目的でイベルメクチンを使用していた。3例は医師または獣医師から処方を受け、17例は獣医師用の製剤を購入して使用していた(残り1例の入手先は未確認)。 大半の人は初回の大量かつ単回の投与後2時間以内に症状が発現した。6例では、1日おきまたは週2回の服用を数日から数週間繰り返した後、症状が徐々に現れた。1例は治療または予防目的でビタミンDも併せて摂取していた。 動物用医薬品の使用者は、1.87%ペーストで6.8mg~125mg、1%溶液で20~50mgのイベルメクチンを使用していた。人用錠剤の使用者は、予防目的で1回21mgを週2回使用していた。 通報した21例中6例がイベルメクチン使用による中毒症状で入院したが、処方により入手した 3例を含め、6例全員が予防目的の使用だった。4例は集中治療室で治療を受けたが、死亡例はなかった。症状は、胃腸障害が4例、錯乱が3例、運動失調と脱力が2例、低血圧が2例、痙攣が1例だった。入院しなかった人の多くは、胃腸障害、めまい、錯乱、視覚症状、発疹などの症状を報告した。 著者らは、これらの症例は、錯乱、運動失調、痙攣、低血圧などの重篤なエピソードを含むイベルメクチンの潜在的な毒性作用と不適切な使用が増加していることを表しており、COVID-19の治療や予防を目的としてイベルメクチンを使用することを支持する十分な証拠はなく、不適切な使用や薬物相互作用の発生は、入院を必要とする重篤な副作用を引き起こす可能性がある、と警告している。

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乾癬治療の生物学的製剤、重篤感染症リスクの違いは?

 乾癬治療の生物学的製剤と重篤感染症リスクについて、生物学的製剤を選択する際に有用な研究報告が、フランス医薬品・保健製品安全庁(ANSM)のLaetitia Penso氏らによる中等症~重症の乾癬患者を対象としたコホート研究で示された。 エタネルセプト新規使用者を比較対照とした重篤感染症リスクは、インフリキシマブ、アダリムマブでは高い一方、ウステキヌマブでは低かった。またIL-17およびIL-23阻害薬やアプレミラストでは重篤感染症リスクの増大は認められなかったものの、非ステロイド性抗炎症薬や全身性コルチコステロイドとの併用によって増大したという。著者らは、「さらなる観察研究で、最新の薬剤に関する結果を確認する必要がある」と述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2021年7月21日号掲載の報告。 研究グループは、フランス国民の約99%をカバーする国民健康データシステム(National Health Data System)のデータを用いて、エタネルセプトを比較対照薬として、乾癬治療に使用される生物学的製剤およびアプレミラストの重篤感染症のリスクを評価するコホート研究を行った。 2008年1月1日~2019年5月31日にデータベースに登録された、2年以内に2つ以上の局所ビタミンD誘導体の処方を受けた成人乾癬患者を適格と定義し、試験対象集団には、生物学的製剤またはアプレミラストの新規使用者(すなわち前年に生物学的製剤またはアプレミラストの処方がなかった)を包含した。HIV感染症やがん、移植、または重篤感染症の既往者は除外した。フォローアップ終了は2020年1月31日であった。 主要エンドポイントは重篤感染症の発生で、傾向スコア加重Cox比例ハザード回帰モデルを用いたtime-to-event解析で、加重ハザード比(wHR)と95%信頼区間(CI)を算出して評価した。 主な結果は以下のとおり。・生物学的製剤の新規使用者計4万4,239例が特定された。平均年齢は48.4(SD 13.8)歳、男性が2万2,866例(51.7%)、追跡期間中央値は12ヵ月(四分位範囲:7~24)だった。・計2万9,618例(66.9%)が初回に腫瘍壊死因子阻害薬を、6,658例(15.0%)がIL-12/23阻害薬を、4,093(9.3%)がIL-17阻害薬を、526例(1.2%)がIL-23阻害薬を、そして3,344例(7.6%)がアプレミラストの処方を受けた。・重篤感染症の発生は計1,656件で、全体の粗発生率は1,000人年当たり25.0(95%CI:23.8~26.2)だった。・最も頻度の高い重篤感染症は消化管感染症であった(645例・38.9%)。・時間依存共変数を調整後、重篤感染症のリスクはエタネルセプトの新規使用者と比べて、アダリムマブ(wHR:1.22、95%CI:1.07~1.38)またはインフリキシマブ(1.79、1.49~2.16)の新規使用者では増大した。・同様の評価で、ウステキヌマブの新規使用者では低下した(wHR:0.79、95%CI:0.67~0.94)。・同様の検討で、IL-17およびIL-23阻害薬グセルクマブまたはアプレミラストの新規使用者では、増大は認めらなかった。・重篤感染症リスクは、非ステロイド性抗炎症薬または全身性コルチコステロイドの併用で増大することが認められた。

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第24回 高齢糖尿病患者のサルコペニア、介入タイミングと方法は?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第24回 高齢糖尿病患者のサルコペニア、介入タイミングと方法は?Q1 評価法と介入の判断、目標設定の考え方について教えてください2019年にアジアのワーキンググループにおいて、サルコペニアの診断基準の変更がありました1)。これによると、一般の診療所におけるサルコペニアの簡単なスクリーニングと評価法が示されています。すなわち、下腿周囲長が短いもの、SARC-Fと呼ばれる簡単な10点満点の質問で4点以上のもの、あるいはその両者をあわせたSARC-Calfと呼ばれるスコアが高値のものは評価の対象となります。評価としては握力または5回椅子立ち上がりテストを行い、前者では男性<28kg、女性<18kg、後者では12秒以上かかるものはサルコペニアの可能性ありとして介入をはじめてよいとされています。本来サルコペニアの確定診断には筋量測定が必要ですが、これにはDXA法やバイオインピーダンス法といった特殊な装置が必要であり一般診療所では行いにくいこと、さらに身体機能として示されてきた歩行速度も実地では実施が困難であるため、より簡便な握力と椅子立ち上がりで評価できるようになりました。なお、近年筋量より筋力のほうが予後をよく反映するとする報告がみられています。これらの指標(下腿周囲長、握力、椅子立ち上がり)の維持・向上を目標とするわけですが、筋量の増加は効果が認めにくい一方で、筋力や身体機能の改善はその後の機能予後の改善やフレイルの予防に重要です。さらに、トレーニングの内容にもよりますが、握力よりも下肢筋力や下肢運動機能のほうが効果が出やすいようです2)。したがって、クリニックにおいては、椅子立ち上がりテストを定期的に行って、時間の短縮を確認することが治療効果の評価に有効ではないかと思います。改善が認められたら努力を賞賛し、さらに0.5~1秒短い目標時間を設定する、とすればモチベーションも維持できるのではないかと思います。Q2 食事療法・タンパク質量の設定について、具体的な考え方は?日本人の食事摂取基準(2020年版)では、フレイルおよびサルコペニアの発症予防を目的とした場合、65 歳以上では少なくとも1.0g/kg体重/日以上のタンパク質を摂取することを推奨していますので3)、1日およそ60g以上, 1食当たり20g以上となります。低栄養が疑われるものではさらに多くの摂取が推奨されます。魚、鶏ささみ肉、牛赤身肉など油脂が少ない肉は100g当たり約20gのタンパク質を含みますが、バラ肉などの油脂が多い肉や加工肉では含量が少なくなるため注意が必要です(表)。画像を拡大するタンパク質を十分摂取するには、まず3食食べ欠食しないこと、それぞれにタンパク質を含む主菜をとることが重要です。主食を増やさず油脂の多い肉を避けるよう指導すれば体重はさほど増加しないと考えられますし、多少の増加は許容しています。肉がとりにくい人は、大豆製品や乳製品を利用しますが、20gのタンパク質を豆腐からとるには300g(1丁)が必要であり、やはり肉、魚の摂取を勧めたいところです。また単品料理よりもグラタン、クリームシチュー、ピカタなどにすることで乳製品や卵のタンパク質を追加したり、みそ汁に豆腐や油揚げを入れるなどの工夫も有効ですが、脂質や塩分の増加には注意します。麺類をとる時などは、卵、ツナ缶、納豆などをトッピングしたり、冷奴など一品追加するようにします。ビタミンDもタンパク質合成に重要ですが、きのこ類の他、イワシ、サンマ、サケなどの魚類に豊富に含まれるため、魚を1日1食とるように勧めます。腎機能低下例にもタンパク質摂取を勧めるべきかには議論があります。慢性腎臓病(CKD)ではタンパク制限が末期腎不全への進行を防止するとするエビデンスがある一方、サルコペニアを合併した高齢者では死亡リスクが高いが高齢CKDではタンパク制限が死亡率上昇につながることも報告されています。したがって、2019年に日本腎臓学会が公表した「サルコペニア・フレイルを合併した 保存期 CKD の食事療法の提言」では、末期腎不全への進行予防を重視するか、死亡リスクを重視するかで摂取量を柔軟に設定することとしています5)。すなわち死亡リスクが高いと考えられる例、サルコペニアが重度と考えられる例ではタンパク質の摂取制限を緩めることを考えますが、それでもCKD4-5期ではタンパク0.8g/kg体重/日を上限とするとしています。Q3 運動療法・筋肉量を増やすための指導法についてサルコペニアの予防・治療にはレジスタンス運動を含む運動が重要です。強度については、高齢者においては、低強度であっても反復して行うことによって筋力や筋量の向上が期待できるという報告があります6)。実際に高齢者が定期的にジム通いして高強度の運動を継続することは難しく、自宅で自重や簡単な器具(ゴムチューブ)などを用いた運動が適当であり、継続もしやすいと考えられます。たとえば中腰のスクワットや座位でのももあげ、つまさきあげ、かかとあげだけなどでも効果が期待できます。そのうえで、本人が「楽」と感じるレベルから「ややきつい」レベルにあげていくとよいでしょう。歩行などの有酸素運動やバランス運動、柔軟性運動を組み合わせた多要素の運動も勧められますが(図)、バランス運動の施行時には転倒に注意が必要です。また当然ながら十分なタンパク質摂取をあわせて指導することが重要です。画像を拡大する運動には継続も必要ですが、意欲を保つのは容易ではありません。運動を開始、継続してもらうには具体的な目標を設定することと、毎日記録をつけてもらうことが大切です。歩数計をもたせて目標を設定し記録してもらいます。また、たとえばいくつかの運動の画を書いた簡単なカードを作成して渡し(Webにもいろいろヒントがあります)、行ったらマルをつけて提出してもらいます。それに対し必ずコメントをし(がんばりました、もう一息など)新しい記録紙を渡して、少し高い目標を患者さんと一緒に設定します。昔ラジオ体操のカードにはんこを押してもらった、あの感覚です。どうしても意欲が乏しいときは、場合によってはご家族も巻き込んで一緒に運動するようお願いしています。また、前述のようにたびたび椅子立ち上がりや握力などの検査を行い、結果をフィードバックして効果を実感してもらうことがモチベーション維持に大切であると考えます。Q4 サルコペニア傾向ないしやせ型の高齢糖尿病患者さんにSGLT2阻害薬を使ってよいでしょうか?最近日本人2型糖尿病患者へのSGLT2阻害薬の投与の体組成への影響の違いを検討した研究の65~74歳のサブ解析において、SGLT2阻害薬はメトホルミンと比較して筋量や筋力の低下をきたさなかったと報告されましたが7)、BMI≧22、平均BMI 27とやや肥満で筋量や筋力も保たれているものを対象としており、75歳以上の患者ややせた患者の筋量や筋力への影響は明らかではありません。日本糖尿病学会が策定・公表している「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」でも、75歳以上の高齢者あるいは65歳から74歳でサルコペニアなどの老年症候群のある場合の投与は注意して慎重に行う、とされており8)、やはりこれらの患者ではなるべく使用を避け、使用する場合はタンパク質摂取と運動が十分に行われていることを確認することが重要です。さらに定期的に体重、筋力や運動機能をフォローし、明らかな低下がみられた時には中止を検討すべきと考えられます。1)Chen LK, et al, J Am Med Dir Assoc 2020 ;21: 300-307.2)Makizako H et al, J. Clin. Med. 2020, 9, 1386.3)厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版) 」4)文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂) 」5)日本腎臓学会「サルコペニア・フレイルを合併した 保存期 CKD の食事療法の提言」6)山田実. 日老医誌 2019;56:217-226.7)Koshizaka M, et al, Diabetes Ther 2021; 12: 183-196.8)日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation」2020

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第23回 高齢糖尿病患者の骨折リスク、骨粗鬆症にどう対応する?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第23回 高齢糖尿病患者の骨折リスク、骨粗鬆症にどう対応する?Q1 糖尿病患者で骨折リスクが高くなる要因は?糖尿病患者では、糖尿病のない人と比べて骨折のリスクが高くなります。インスリン作用不足や糖化最終産物の蓄積による骨質の低下や、バランス感覚の悪化や視力低下による易転倒性などが要因として考えられています。血糖コントロール不良で推移している人は骨粗鬆症を併発しやすくなります。HbA1c値が7.5~8.0%以上のコントロール不良の糖尿病患者では、HbA1c値が7.5%未満のコントロール良好群と比較して骨折のリスクが1.6倍上昇していました。インスリン使用者では1.8倍上昇していたと報告されています1)。HbA1c 値が7.5%以上のコントロール不良の状態で、腎症や網膜症などの合併症を有し、さらにインスリン治療を必要とする糖尿病患者では骨折リスクが上昇すると考えられ、骨粗鬆症の検査を行うことが推奨されます。Q2 どのように骨折リスクを判定しますか?自分でできる骨折リスクの判定方法として、FRAX®(fracture risk assessment tool)があります(表)。この評価法は、2008年2月にWHO(世界保健機関)が発表しました。インターネットでアクセスし、指定された質問項目に答えると自動的に算出されます。今後10年以内に骨粗鬆症による主要骨折を起こす可能性が15%以上の場合には、リスク大と判断し薬物治療の開始が推奨されます。この評価法は40~90歳の方を対象としていますが、75歳以上の方は、年齢のみで高リスクと判断されてしまうため、参考程度とします。なお、罹病期間が5~10年の2型糖尿病患者では、実際の骨粗鬆症性骨折の発生はFRAX®値の1.2倍、10年以上の罹病期間を有する場合には1.5倍を呈していました。大腿骨近位部骨折の発症は5年未満でも1.4倍、10年以上では2.1倍と報告されています2)。罹病期間の長い2型糖尿病患者は、FRAX®で算出された骨折リスクよりもさらに骨折しやすいと考えられます。画像を拡大するQ3 どのように骨粗鬆症を診断しますか?骨粗鬆症の診断には骨密度検査が必須であり、さらに測定部位と方法が重要です。通常は大腿骨近位部(頚部または全体)と腰椎(L2-L4)の骨密度をDXA法(dual-energy X-ray absorptiometry)で測定して判断します。しかし、DXA装置を有する医療機関は限られており、手軽に計測できない場合も多いです。そのため、手を用いたMD(microdensitometry)法や、踵で測定する定量的超音波測定法、小型のDXA装置で橈骨のみ測定する検査などが利用されています。ただしこれらはあくまでもスクリーニング検査であり、実際の体幹部DXAでの診断と乖離を認める場合も少なくありません。リスクを要する患者さんに対しまずは簡易的な検査を行い、異常を指摘された場合にさらなる精査としてDXAを施行することが望ましいでしょう。治療効果の判定は、6ヵ月~1年に一度、体幹部DXAによる骨密度測定を施行します。機種により若干の誤差が生じるため、同一の装置・機種で追跡し、同一部位による判定が望ましいです。高齢糖尿病患者では動脈硬化による腹部大動脈の石灰化や椎体の変形等が椎体骨密度に反映されてしまい、実際より高い骨密度の計測値を示すことがあるため、DXAを施行すると同時に椎体のX線撮像を行うことも重要です。無症状の新規椎体骨折、いわゆる「いつのまにか骨折」の出現がないか確認することも必要です。Q4 どのように骨粗鬆症の薬物療法の開始を判断し、治療薬を選択しますか? 糖尿病患者において骨折予防のための薬物治療を開始する場合は、原発性骨粗鬆症に対する薬物治療開始基準(図)を参考にします。骨折の既往が無くても、1)大腿骨近位部骨折の家族歴を有すること、2)FRAX®での10年以内の骨折(主要骨折)確率が15%以上であることの2項目を満たす時には薬物治療開始が推奨されます。これに加え、「糖尿病の罹病期間が長く、HbA1c 値が7.5%以上のコントロール不良の状態を呈し、インスリン治療を必要とする場合」は薬物治療の開始を考慮して良いと考えます。画像を拡大するポリファーマシーの患者さんに骨粗鬆症治療薬を追加する場合には、慎重に検討する必要があります。ADLが低下し寝たきり状態の方や、認知症の合併により服薬管理が困難な方は、原則として新規導入を見合わせています。ただし、ADLが良好ならば、年齢に関係なく、転倒や骨折のリスクが高い場合は積極的に骨粗鬆症治療を行うべきと考えます。1年に一度のビスホスホネート注射製剤や、6ヵ月に一度の抗RANKL(receptor activator of nuclear factor κB ligand)抗体製剤などの導入は、ポリファーマシー対策にもなります。なお、ビスホスホネート製剤や抗RANKL抗体製剤等は、腎機能低下例や透析施行例では使用できない場合があるため、薬剤開始前に腎機能評価を行います。高齢者糖尿病の腎機能評価は、筋肉量の影響を受けにくい血清シスタチンC値を参考にします。シスタチンC値>1.5 mg/Lを呈する場合は、ビスホスホネート製剤の新規導入は原則禁忌と考えています。その場合には選択的エストロゲン受容体調節薬(SERMs:Selective Estrogen Receptor Modulators)等の使用を検討します。活性型ビタミンD3製剤は、転倒予防効果が期待できる上、比較的管理しやすいため広く使用されています。既存骨折を認めずADLの良好な方であれば良い適応と考えられますが、腎機能の低下した患者さんでは用量の調整が必要です。尿中Ca/Cr比>0.3の場合には減量を考慮します。スポット尿で簡単に計測できるため、6ヵ月に一度程度確認することを推奨しています。ビスホスホネート製剤の長期臨床投与成績を示した報告では、6~9年程度継続しても安全性には問題がないとされています3, 4)。しかし、ビスホスホネート製剤による骨密度増加効果は、腰椎では長期に持続するものの、大腿骨近位部では3~5年でプラトーに達すると言われています。そのため、まずは5年くらい経過観察し、加療中に大腿骨近位部骨折や椎体骨折などを来たした時や、骨量の増加が期待できない時は抗RANKL抗体製剤などへの変更を考えるのが良いでしょう。一方、アメリカのガイドラインでは、既存の骨折がなく大腿骨近位部の骨密度が骨粗鬆症領域を脱した場合には、ビスホスホネート製剤を休薬して経過観察し、2~3年毎に再評価するよう提示しています5)。骨吸収抑制薬のビスホスホネート製剤や抗RANKL抗体製剤などは、長期使用によって顎骨壊死や非定型骨折のリスクが増加することが指摘されています。ただし骨粗鬆症に対する経口ビスホスホネート治療に関連する顎骨壊死の発生率は1年間で人口10万人当たり0.2人程度とも言われます。しかも口腔衛生管理を適切に行うことで発症を予防できます。抜歯やインプラントなど顎骨に直接影響を及ぼす処置をする場合には、処置前後2~3ヵ月休薬して様子を見ます。非定型骨折は、ビスホスホネート製剤の使用にてその発症の相対リスクが上昇するといわれています。しかし、非定型骨折の頻度は、大腿骨近位部骨折の1%程度にとどまり、その絶対リスクはビスホスホネート製剤投与に伴う大腿骨近位部骨折およびその他の骨折リスクの減少と比較して、非常に小さいとも報告されています6)。薬物使用による骨折発症予防のベネフィットと、有害事象発症のリスクのバランスを考えながら、個々の患者さんにとって適正な治療方針を選択すべきと考えます。1)Schneider AL, et al. Diabetes Care 2013; 36: 1153-1158.2)Leslie WD, et al. J Bone Miner Res 2018; 33: 1923-1930.3)Eriksen EF, et al. Bone 2014; 58: 126-135.4)Black DM, et al. J Bone Miner Res 2015; 30: 934-944.5)Alder RA, et al. J Bone Miner Res 2016; 31: 16-35.6)Black DM, et al. N Eng J Med 2020; 383: 743-753.

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中等~重症COVID-19に高用量ビタミンD3単回投与は有益か?/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の入院患者において、高用量のビタミンD3単回投与はプラセボと比較し、在院日数を有意に減少させることはないことが示された。ブラジル・サンパウロ大学医学部のIgor H. Murai氏らが、ブラジル・サンパウロの2施設で実施した無作為化二重盲検比較試験の結果を報告した。COVID-19に対するビタミンD3補給の有効性はこれまで不明であったが、結果を受けて著者は、「中等症~重症COVID-19患者の治療として高用量ビタミンD3の使用は支持されないことが示された」と述べている。JAMA誌オンライン版2021年2月17日号掲載の報告。中等症~重症のCOVID-19入院患者でビタミンD3の有効性をプラセボと比較 研究グループは、2020年6月2日~8月27日の期間に中等症~重症COVID-19入院患者240例を登録し、ビタミンD3投与群(20万IU単回経口投与)(120例)またはプラセボ群(120例)に無作為に割り付け、2020年10月7日まで追跡した。 主要評価項目は在院日数(無作為化から退院までの期間と定義)、事前に設定した副次評価項目は在院死亡、集中治療室(ICU)への入室、人工呼吸器を必要とした患者の割合および人工呼吸器装着期間、血清25-ヒドロキシビタミンD値、総カルシウム濃度、クレアチニン、C反応性蛋白(CRP)などであった。両群で在院日数に有意差なし 無作為化された患者240例のうち、237例が主要解析に組み込まれた。解析対象患者の平均(±SD)年齢は56.2±14.4歳、女性が104例(43.9%)、ベースラインの平均(±SD)25-ヒドロキシビタミンD値は20.9±9.2ng/mLであった。 在院日数は中央値で、ビタミンD3群7.0日(四分位範囲[IQR]:4.0~10.0日)、プラセボ群7.0日(IQR:5.0~13.0日)で、両群間で差はなかった(log-rank検定p=0.59、退院の補正前ハザード比:1.07[95%信頼区間[CI]:0.82~1.39]、p=0.62)。 また、ビタミンD3群とプラセボ群との間で、在院死亡率(7.6% vs.5.1%、群間差:2.5%[95%CI:-4.1~9.2]、p=0.43)、ICU入室率(16.0% vs.21.2%、群間差:-5.2%[95%CI:-15.1~4.7]、p=0.30)、人工呼吸器装着率(7.6% vs.14.4%、群間差:-6.8%[95%CI:-15.1~1.2]、p=0.09)で有意差は確認されなかった。血清25-ヒドロキシビタミンD値は、ビタミンD3群においてプラセボ群より有意に増加した(44.4ng/mL vs.19.8ng/mL、群間差:24.1ng/mL[95%CI:19.5~28.7]、p<0.001)。 有害事象は確認されなかったが、介入と関連した嘔吐がみられた。

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冬はビタミンD不足【空手家心臓外科医、ドイツ武者修行の旅】第27回

「北ドイツの冬は寒いんじゃないの?」とよく聞かれますが、近年は温暖化の影響もあって、そこまで酷い寒さに悩まされることはありません。実はドイツは南にアルプス山脈があるため、どちらかと言うとむしろ南ドイツの方が寒くなりやすい傾向があるそうです。それよりも問題になるのは日照時間です。北ドイツは冬季の間、日照時間が極めて短くなります。冬至のときで大体昼が6時間くらいです。真っ暗なうちに家を出て、真っ暗になってから家に帰ります。ドイツの冬は日中も曇りが多いので、回診中に晴れ間が少しでもみえたら、一時中断して談話室にいってしばらく日光浴をしたりします。私自身は夜型インドア派ですので、さほど困るわけではありませんが、それでも季節がうつろい日照時間が少しずつでも伸びてくれると、多少なりともホッとする感じを受けます。夏も冬も極端に昼夜が長いヨーロッパ北部の気候ドイツに限らずヨーロッパ全体で言えることですが、この時期はどうしてもうつ傾向になっちゃう人がたくさん出てきます。そこで大抵の人はビタミンDのサプリメントを摂取することになります。実際にスーパーにいくと、それは沢山の製品が販売されていて、どれを買えばいいやら…。錠剤タイプや液体タイプ、週に1回飲むだけでいいタイプも販売されています。もちろん逆に夏は日照時間が長くなります。夜の11時ごろでもまだ空がほんのり明るかったりします。ちょうど夏の時期にイスラム教のラマダン(断食)が行われるのですが、たとえドイツであっても、ムスリムの同僚たちは日没まで飲まず食わずで働いています。そのため夕方くらいになると、低血糖でフラフラしています。呼びかけても返事が弱々しい感じです。日没と同時に一気にドカ食いして次の日に備えようとしている姿は本当に大変そうです。日照時間の激しい変化に対応するのは、生物的にも文化的にもいろいろと大変なのです。

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COVID-19に対する薬物治療の考え方 第7版を公開/日本感染症学会

 日本感染症学会(理事長:舘田 一博氏[東邦大学医学部教授])は、2月1日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬について指針として「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第7版」をまとめ、同会のホームページで公開した。 本指針は、COVID-19の流行から約1年が経過し、薬物治療に関する知見が集積しつつあり、これまでの知見に基づき国内での薬物治療に関する考え方を示すことを目的に作成されている。 現在わが国でCOVID-19に対して適応のある薬剤はレムデシビルである。デキサメタゾンは重症感染症に関しての適応がある。また、使用に際し指針では、「適応のある薬剤以外で、国内ですでに薬事承認されている薬剤をやむなく使用する場合には、各施設の薬剤適応外使用に関する指針に則り、必要な手続きを行う事とする。適応外使用にあたっては基本的にcompassionate useであることから、リスクと便益を熟慮して投与の判断を行う。また、治験・臨床研究の枠組みの中にて薬剤を使用する場合には、関連する法律・指針などに準じた手続きを行う。有害事象の有無をみるために採血などで評価を行う」と注意を喚起している。 抗ウイルス薬などの対象と開始のタイミングについては、「発症後数日はウイルス増殖が、そして発症後7日前後からは宿主免疫による炎症反応が主病態であると考えられ、発症早期には抗ウイルス薬、そして徐々に悪化のみられる発症7日前後以降の中等症・重症の病態では抗炎症薬の投与が重要となる」としている。 抗ウイルス薬などの選択について、本指針では、抗ウイルス薬、抗体治療、免疫調整薬・免疫抑制薬、その他として分類し、「機序、海外での臨床報告、日本での臨床報告、投与方法(用法・用量)、投与時の注意点」について詳述している。紹介されている治療薬剤〔抗ウイルス薬〕・レムデシビル(商品名:ベクルリー点滴静注液100mgなど)・ファビピラビル〔抗体治療〕・回復者血漿・高度免疫グロブリン製剤・モノクローナル抗体〔免疫調整薬・免疫抑制薬〕・デキサメタゾン・バリシチニブ・トシリズマブ・サリルマブ・シクレソニド〔COVID-19に対する他の抗ウイルス薬(今後知見が待たれる薬剤)〕インターフェロン、カモスタット、ナファモスタット、インターフェロンβ、イベルメクチン、フルボキサミン、コルヒチン、ビタミンD、亜鉛、ファモチジン、HCV治療薬(ソフォスブビル、ダクラタスビル)今回の主な改訂点・レムデシビルのRCTを表化して整理・レムデシビルの添付文書改訂のため肝機能・腎機能を「定期的に測定」に変更(抗体治療薬の項目追加)・バリシチニブ+レムデシビルのRCT結果を追加・トシリズマブのREMAP-CAP試験などの結果を追加・シクレソニドの使用非推奨を追加

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「ω-3多価不飽和脂肪酸、ビタミンD、筋力トレーニング運動による治療は効かない」ってほんと?(解説:島田俊夫氏)-1341

 ω-3多価不飽和脂肪酸の中でもEPA、DHAが、心脳血管障害、がんの予防に効果があるか否かについては、議論の多いところである1)。しかしながら、ちまたではこれらのサプリメントへの嗜好が強くなっている。さらにビタミンDに関しても実臨床の中で、すでに骨粗鬆症の治療にあまねく使用されている2)。また、筋力トレーニングの運動プログラムは健康改善に寄与する3)との考えが生活の中に定着している。 このような状況の中で今回取り上げる2020年JAMA誌324巻18号に掲載されたBischoff-Ferrari HA等による論文は、有効と信じられている3つの因子を考慮した、二重盲検2×2×2要因無作為ランダム化比較試験デザインに基づく臨床研究論文である。研究対象者は、研究開始5年前から大病の既往のない70歳以上の、スイスとドイツからの健康成人2,157例であった。 介入はω-3脂肪酸投与、ビタミンD投与、筋力トレーニング運動プログラム実施のそれぞれの3因子の有/無を考慮した8グループ(コントロールを含む)で行われた。 標的アウトカムとして6項目が取り上げられた。3年間にわたる収縮期および拡張期血圧、運動能力(SPPB)、認知機能(MoCA)、非脊椎骨骨折および感染の発生頻度の6項目について評価された。2,157例(平均年齢74.9歳、女性が61.7%)中1,990例(88%)が研究を完遂した。観察期間の中央値は2.99年で、約3年にわたり、標的6アウトカムに関して個別または組み合わせ介入に対して、いずれのアームでも統計学的に有意な利便性を認めなかった。全体で25例の死亡が確認されたが、全アームにおいてもほぼ同様の結果であった。 大きな合併症のない70歳以上の成人中、ビタミンD、ω-3脂肪酸の補充療法、筋力トレーニング運動プログラムの実施グループでは、収縮期および拡張期血圧、非脊椎骨骨折、身体能力、感染率、認知機能の改善に統計学的有意差は認めなかった。これらの知見は、標的アウトカムに対する3つの介入の有効性を支持する結果と一致しなかった。 しかしながら、上記の結論を必ずしもうのみにすべきではない。 サプリメントを補充する類の研究では、対象者がビタミンD、ω-3脂肪酸欠乏、運動不足が背景にあるか否かで結果が大きく左右される。対象者がいわゆる高齢健常者である場合、欠乏状態は相対的に軽いと考えられる。このため、3つの要因のすべての組み合わせを考慮しても欠乏がわずかであれば研究対象として必ずしも適切ではなく、結果に差がないから有効でないと結論するのは早計である。 研究デザインを考えるときに、補充療法の効果を判定したければ欠乏確認済対象で研究するのが必要であり、今回の研究は3つの要因の臨床的利便性を否定するのに十分なデザインではない。本論文の結論は、欠乏の軽微な対象では効果が出にくいとのメッセージとして受け止めるべきではないか。

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COVID-19入院時、ビタミンD欠乏で死亡オッズ比3.9

 ビタミンD欠乏症と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の関連は、これまでもさまざまな報告があるが、依然として情報は不足している。今回、ベルギー・AZ Delta Medical LaboratoriesのDieter De Smet氏らが、入院時の血清ビタミンDレベルとCOVID-19の病期および肺炎の転帰との関連を調査した。その結果、COVID-19で入院した患者の59%がビタミンD欠乏症であり、COVID-19による死亡オッズ比は3.9であることが示された。American Journal of Clinical Pathology誌2020年11月25日号での報告。入院時のビタミンD欠乏症とCOVID-19起因肺炎による死亡率との関連 研究者らは、2020年3月1日~4月7日にAZ Delta General Hospitalに入院したSARS-CoV-2感染(PCR陽性)者186例を対象に、入院時の胸部コンピューター断層撮影(CT)と25(OH)D測定を組み合わせた後ろ向き観察試験を実施した。また、ビタミンD欠乏症(25(OH)D<20ng/mL)が交絡する併存疾患に関係なく生存率と相関するかどうかを調べるために、多変量回帰分析が実施された。 なお、CT結果による病期は、すりガラス状陰影(初期、病期1)、すりガラス状陰影内部に網状影を伴うcrazy-paving pattern(進行期、病期2)、浸潤影を呈するconsolidation(ピーク期、病期3)とした。COVID-19による肺炎の影響を受けた肺組織の割合は、CT重症度スコア(0~25)として表された。 入院時の血清ビタミンDレベルとCOVID-19の病期および肺炎の転帰との関連を調査した主な結果は以下のとおり。・PCRで確認されたSARS-CoV-2感染者186例が入院し、そのうち男性が109例(58.6%)、女性が77例(41.4%)、年齢中央値はそれぞれ68歳(四分位範囲[IQR]:53~79歳)および71歳(IQR:65〜74歳)だった。・入院時に測定された結果によると、186例中85例(46%)は病期3(ピーク期)、病期2(進行期)は30%、病期1(初期)は25%で、男女比に差は見られなかった。・186例中109例(59%)は、入院時にビタミンD欠乏症(25(OH)D<20ng/mL)であり、男性では67%、女性では47%だった。・男性患者では、CTによる病期が進むにつれて徐々に25(OH)Dの中央値が低くなり、ビタミンD欠乏率は、病期1の55%から病期2では67%、病期3では74%に増加した(p=0.0010)。一方、女性患者ではそのような病期依存の25(OH)D値変動は見られなかった。・入院時の25(OH)D値と死亡率の関連を調べた結果、COVID-19患者186例のうち、27例(15%)が死亡し、そのうち67%が男性だった。・死亡した患者は生存者と比べて、年齢(中央値:81歳vs.67歳、p<0.0001)、慢性肺疾患有病率(33% vs.12%、p=0.01)、冠動脈疾患有病率(82% vs.55%、p=0.02)、CT重症度スコア(15 vs.11、p=0.046)が高く、25(OH)D値(中央値:15.2 vs.18.9ng/mL、p=0.02)は低かった。・二変量ロジスティック回帰分析によると、死亡率は年齢の上昇(オッズ比[OR]:1.09、95%信頼区間[CI]:1.03~1.14)、CT重症度スコアの上昇(OR:1.12、95%CI:1.01~1.25)、慢性肺疾患の存在(OR:3.61、95%CI:1.18~11.09)、およびビタミンD欠乏症の存在(OR:3.87、95%CI:1.30~11.55)とは独立して関連しており、性別、糖尿病および冠動脈疾患の有病率、CTによる病期とは関連していなかった。 著者らは、「本研究は、慢性肺疾患、冠動脈疾患、糖尿病など、ビタミンDの影響を受ける併存疾患とは無関係に、入院時のビタミンD欠乏症とCOVID-19起因肺炎による死亡率との関連を示した。これは、とくにビタミンD欠乏症の患者を対象とする無作為化比較試験の必要性を強調し、SARS-CoV-2パンデミックの安全かつ安価で実施可能な軽減策として、世間一般にビタミンD欠乏の回避を呼びかけるものだ」と結論している。※本文中に誤りがあったため、一部訂正いたしました(2021年1月18日10時)。

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スタチン+降圧薬のポリピル、アスピリン併用で心血管イベント抑制/NEJM

 心血管疾患がなく、中等度以上の心血管リスクを有する集団において、スタチンと3つの降圧薬の合剤であるポリピル(polypill)とアスピリンの併用療法はプラセボ+プラセボと比較して、心血管イベントの発生率が約3割低いことが、カナダ・マックマスター大学のSalim Yusuf氏らが行ったTIPS-3試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年11月13日号に掲載された。世界では毎年、心血管疾患による死亡が約1,800万件発生しており、その80%以上を低~中所得国が占めるという。血圧上昇とLDLコレステロール値上昇は、心血管疾患の最も重要な修正可能なリスク因子であり、降圧薬と脂質低下薬を組み合わせたポリピルが有益な可能性が示唆されている。一方、アスピリンは、心血管疾患患者に対する有用性が証明されているが、心血管疾患の1次予防における単独での役割、あるいはポリピルに含まれる1剤としての役割は明らかにされていない。ポリピル単独とアスピリン単独とポリピル+アスピリン併用を比較 本研究は、2×2×2ファクトリアルデザインの二重盲検プラセボ対照無作為化試験であり、9ヵ国(インド、バングラデシュ、フィリピン、マレーシア、インドネシア、コロンビア、カナダ、タンザニア、チュニジア)の86施設が参加し、2012年7月~2017年8月の期間に患者登録が行われた(Wellcome Trustなどの助成による)。 対象は、心血管疾患がなく、INTERHEARTリスクスコア(0~48点、点数が高いほど心血管リスクが高い)で中等度または高リスクの50歳以上の男性および55歳以上の女性であった。被験者は、ポリピル(シンバスタチン40mg、アテノロール100mg、ヒドロクロロチアジド25mg、ramipril 10mgを含有)またはプラセボを毎日、アスピリン75mgまたはプラセボを毎日、ビタミンDまたはプラセボを毎月投与する群に無作為に割り付けられた。 今回は、ポリピル単独とプラセボ、アスピリン単独とプラセボ、ポリピル+アスピリンとダブルプラセボの比較の結果が報告された。 ポリピル単独およびポリピル+アスピリンとそれぞれのプラセボとの比較における主要アウトカムは、主要心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、脳卒中、心停止への蘇生術、心不全、動脈血行再建)の複合とした。アスピリンとプラセボの比較における主要アウトカムは、心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合であった。ポリピル+アスピリン併用群の主要アウトカム:4.1% vs.5.8% 5,713例が無作為化の対象となり、平均フォローアップ期間は4.6年であった。参加者はインドが47.9%と最も多く、次いでフィリピンが29.3%であった。ベースラインの平均年齢は63.9歳、52.9%が女性で、高血圧/血圧上昇が83.8%、糖尿病/血糖値上昇が36.7%で認められ、平均収縮期血圧は144.5mmHg、平均心拍数は77.0拍/分、平均LDLコレステロール値は120.7mg/dL(3.1mmol/L)だった。 試験期間中、ポリピル単独とポリピル+アスピリン併用を合わせた群はプラセボ群と比較して、平均収縮期血圧が5.8mmHg低く、平均心拍数が4.6拍/分少なく、平均LDLコレステロール値が19.0mg/dL(0.50mmol/L)低かった。 ポリピル比較の主要アウトカムは、ポリピル群(2,861例)が126例(4.4%)、プラセボ群(2,852例)は157例(5.5%)で発生した(ハザード比[HR]:0.79、95%信頼区間[CI]:0.63~1.00)。また、アスピリン比較の主要アウトカムは、アスピリン群(2,860例)が116例(4.1%)、プラセボ群(2,853例)は134例(4.7%)で発生した(HR:0.86、95%CI:0.67~1.10)。 ポリピル+アスピリン比較の主要アウトカム(初発)は、ポリピル+アスピリン群(1,429例)が59例(4.1%)、ダブルプラセボ群(1,421例)は83例(5.8%)で発生した(HR:0.69、95%CI:0.50~0.97)。初発と再発を合わせた主要アウトカムは、ポリピル+アスピリン群が64例、ダブルプラセボ群は93例で発生した(HR:0.68、95%CI:0.48〜0.96)。 副作用により試験を中止した参加者数は、ポリピル+アスピリン群とダブルプラセボ群で同程度であった(筋肉症状:5例、7例、消化管出血:3例、1例、胃腸症[dyspepsia]:3例、3例、胃炎:19例、22例、消化性潰瘍:3例、3例)。また、低血圧およびめまいの発生率は、ポリピルを投与された群が、それぞれに対応するプラセボ群に比べて高かった。低血圧およびめまいにより試験薬を中止した参加者は、ポリピル+アスピリン群が45例、ダブルプラセボ群は22例だった。大出血は、ポリピル+アスピリン群が9例、ダブルプラセボ群は12例で報告された。 著者は、「併用群の心血管イベントに関する有益性は、LDLコレステロール値と血圧の適度な低下に、アスピリンによる有益性が加わった場合に予測されたものと一致していた」としている。

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70歳以上、ビタミンD・ω3・運動による疾患予防効果なし/JAMA

 併存疾患のない70歳以上の高齢者において、ビタミンD3、オメガ3脂肪酸、または筋力トレーニングの運動プログラムによる介入は、拡張期または収縮期血圧、非脊椎骨折、身体能力、感染症罹患率や認知機能の改善について、統計学的な有意差をもたらさなかったことが、スイス・チューリッヒ大学のHeike A. Bischoff-Ferrari氏らが行った無作為化試験「DO-HEALTH試験」の結果で示された。ビタミンD、オメガ3および運動の疾患予防効果は明らかになっていなかったが、著者は「今回の結果は、これら3つの介入が臨床アウトカムに効果的ではないことを支持するものである」とまとめている。JAMA誌2020年11月10日号掲載の報告。8群に分けて3年間介入、血圧、身体・認知機能、骨折、感染症などへの影響を評価 研究グループは、ビタミンD3、オメガ3、筋力トレーニングの運動プログラムについて、単独または複合的介入が、高齢者における6つの健康アウトカムを改善するかを検討した。70歳以上で登録前5年間に重大な健康イベントを有しておらず、十分な活動性があり認知機能が良好な高齢者2,157例を対象に、二重盲検プラセボ対照2×2×2要因無作為化試験を実施した(2012年12月~2014年11月に登録、最終フォローアップは2017年11月)。 被験者は無作為に、次の8群のうちの1つに割り付けられ3年間にわたり介入を受けた。2,000 IU/日のビタミンD3投与・1g/日のオメガ3投与・筋力トレーニングの運動プログラム実施群(264例)、ビタミンD3・オメガ3投与群(265例)、ビタミンD3投与・筋トレ実施群(275例)、ビタミンD3投与のみ群(272例)、オメガ3投与・筋トレ実施群(275例)、オメガ3投与のみ群(269例)、筋トレ実施のみ群(267例)、プラセボ群(270例)。 主要アウトカムは6つで、3年間にわたる収縮期・拡張期血圧(BP)の変化、Short Physical Performance Battery(SPPB)、Montreal Cognitive Assessment(MoCA)、非脊椎骨折および感染症罹患率(IR)であった。6つの主要エンドポイントを複合比較し、99%信頼区間(CI)を示し、p<0.01を統計学的有意差と定義した。いずれも有意な影響はみられず 無作為化を受けた2,157例(平均年齢74.9歳、女性61.7%)のうち、1,900例(88%)が試験を完了した。フォローアップ期間中央値は2.99年であった。 全体的に、3年間の個別の介入または複合介入について、6つの主要エンドポイントに対する統計学的に有意なベネフィットは認められなかった。 たとえば、収縮期BPの平均変化差は、ビタミンDあり群とビタミンDなし群の比較では-0.8(99%CI:-2.1~0.5)mmHgで有意差なし(p=0.13)、オメガ3あり群とオメガ3なし群の比較では-0.8(-2.1~0.5)mmHgで有意差なし(p=0.11)であった。拡張期BPの平均変化差は、オメガ3あり群とオメガ3なし群では-0.5(-1.2~0.2)mmHgで有意差なし(p=0.06)であり、また、オメガ3あり群とオメガ3なし群の感染症罹患率の絶対差は-0.13(-0.23~-0.03)、IR比は0.89(0.78~1.01)で有意差はなかった(p=0.02)。 SPPB、MoCA、非脊椎骨折のアウトカムへの影響は認められなかった。 全体で死亡は25例で、群間で差はなかった。

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第19回 高齢者の肥満、特有の問題と予後への影響は【高齢者糖尿病診療のコツ】

第19回 高齢者の肥満、特有の問題と予後への影響はQ1 高齢者の肥満、若年者とはちがう特徴とは?最近、高齢糖尿病患者でも肥満症が増えています。我が国の65歳以上の高齢糖尿病患者でBMI 25㎏/m2以上の頻度は2000年から2012年で28.4%から33.0%に増加したという報告もあります1)。こうした高齢者の肥満症の増加は1)加齢に伴う身体活動量の低下2)基礎代謝量の低下3)高齢者の食習慣の欧米化などが関係しているのでないかと思われます。高齢者の肥満症にはいくつかの特徴があります。加齢とともに内臓脂肪は増加し、除脂肪量(骨格筋量)が低下するという体組成の変化が起こり、BMI高値を伴わない腹部肥満、いわゆる隠れ肥満やメタボリックシンドロームが増加します。また、高齢者のBMIは体脂肪量を正確に反映しないことがあります。身長が低下することで、BMIは見かけ上増加することもあります。したがって、高齢者の肥満症の評価にはBMIだけでなく、ウエスト周囲長も測ることが大切です。ウエスト周囲長やウエスト・ヒップ比の高値の方がBMIよりも死亡のリスクの指標となることも知られています。また、高齢期の肥満症では死亡や心血管疾患のリスクが逆に減少するというobesity paradoxがみられる場合があります。これは、BMI低値の方が悪性疾患、サルコペニア、慢性感染症などの併存疾患によるリスクが増加することで、BMI高値におけるリスクが相対的に小さくなることが原因として考えられます。加齢とともに、肥満とサルコペニアが合併したサルコペニア肥満が増えます2)。サルコペニア肥満は糖尿病やメタボリックシンドロームの発症リスクも高いので、高齢者糖尿病でも注意すべきです。サルコペニア肥満では筋肉内の脂肪蓄積によるインスリン抵抗性、炎症、ビタミンD低下などが骨格筋量や筋力の減少をもたらし、身体機能低下をきたすと考えられ考えられています。サルコペニア肥満は、単なる肥満症と比べ、フレイル、ADL低下、転倒、骨粗鬆症、認知機能低下、および死亡をきたしやすいことが特徴です3)。サルコペニア肥満の定義は定まっていませんが、肥満の方は体脂肪%、ウエスト周囲長などで定義しています。われわれの調査では高齢糖尿病患者におけるDXA法による四肢骨格筋量と体脂肪量で定義したサルコペニア肥満の頻度は16.7%という結果でした2)。Q2 高齢者の肥満は身体機能や認知機能、死亡にどのような影響を及ぼしますか?高齢者のBMI 30kg/m2以上の肥満や腹部肥満は、ADL低下、歩行困難、フレイル、易転倒性などの身体機能低下と関連しています。Study of Osteoporosis Fracturesにおける高齢糖尿病患者でも家事や2~3ブロックの歩行が約2~2.5倍障害されると報告されています4)。また、高齢糖尿病患者がフレイルをきたしやすいことも腹部肥満によって一部説明できると報告されています5)。BMI 25kg/m2以上の肥満がある糖尿病患者では複数回の転倒を約3.5倍起こしやすくなります6)。とくにインスリン治療と過体重が重なると、何度も転倒しやすいとされています。中年期の肥満は認知症発症リスクになりますが、高齢期の肥満は認知症発症リスクに抑制的に働くことが知られています。しかしながら、高齢者の肥満患者の体重変化と認知症発症とはJカーブの関連が見られ、体重減少と体重増加の両者がリスクとなっています(図1)。画像を拡大する高齢糖尿病患者でも、BMI低値、体重減少(10%以上)と体重増加(10%以上)が認知症発症の危険因子であると報告されています7)。高齢糖尿病患者ではそれ自体が認知症発症のリスクですが、認知症発症のリスクとなる4つの肥満の中で、体重減少を伴った高齢者の肥満、メタボリックシンドローム(腹部肥満)、サルコペニア肥満に注意する必要があります(図2)。画像を拡大する一方、12の論文のメタ解析により、生活習慣の改善による意図的な体重減少は記憶力と注意力・遂行機能を改善することが明らかになっています8)。 Look Ahead研究では高齢者を含む2型糖尿病患者でもエネルギー制限と運動療法による介入によって、過体重の患者で認知機能の改善が見られています9)。糖尿病初期の肥満症患者を対象にリラグルチド1.8㎎/日を4ヵ月間投与した介入群と対照群で認知機能の変化を検討したRCTでは、両群とも7%の体重減少が得られたが、リラグルチド投与群では短期記憶と記憶複合スコアの有意な増加を認めたと報告されています10)。減量自体の効果よりも、GLP-1の脳のブドウ糖代謝の改善、可溶性AβによるIRS-1のセリンのリン酸化阻害によるインスリン情報伝達障害の改善などによる認知機能の改善効果の可能性もあります。いずれにせよ、高齢者の肥満症の患者では体重減少が意図的か否かに注意する必要があります。高齢糖尿病患者における肥満症と心血管疾患の発症や死亡に関しては、一致した結果が得られていません。肥満症合併の高齢糖尿病患者を対象に生活習慣改善と体重減少の介入を行ったLook AHAED研究では心血管疾患発症の減少は見られなかったと報告されています11)。我が国のJDCS研究とJ-EDIT研究の糖尿病患者のプール解析では、BMI 18.5未満の群で死亡リスクが上昇し、BMI 25㎏/m2以上の群では死亡リスクは増加していませんでした12)。とくに75歳以上ではBMI18.5未満の群の死亡リスクが8.1倍と75歳未満と比べてさらに高くなり、最も死亡リスクが低いBMIは25前後となりました。すなわち、低栄養による死亡リスクの方が増加し、肥満による死亡リスクが相対的に低下したと考えられます。1)Miyazawa I, et al. Endocr J. 2018;65:527-536.2)荒木 厚、周赫英、森聖二郎:日本老年医学会雑誌.2012;49:210-213.3)Batsis JA, et al. J Am Geriatr Soc. 2013;61:974-980.4)Gregg EW, et al. Diabetes Care. 2002; 25: 61-67.5)Volpato S, et al. J Gerontol A BiolSci Med Sci.2005; 60: 1539-1545.6)García-Esquinas E, et al. J Am Med Dir Assoc. 2015;16:748-754.7)Nam GE, et al. Diabetes Care. 2019;42:1217-1224.8)Siervo M, et al. Obes Rev. 2011;12:968-983.9)Espeland MA, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2014;69:1101-1108.10)Vadini F, et al. Int J Obes (Lond). 2020 Jun;44:1254-1263.11)Wing RR, et al. N Engl J Med. 2013;369:145-154.12)Tanaka S, et al. J Clin Endocrinol Metab. 99: E2692-2696, 2014.

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高リスク喘息児、ビタミンD3補充は有益か/JAMA

 喘息を有するビタミンD値が低い小児において、ビタミンD3補充はプラセボと比較して重度の喘息増悪発生までの期間を有意に改善しないことが、米国・ピッツバーグ小児病院のErick Forno氏らによる無作為化二重盲検プラセボ対照試験「VDKA試験」の結果、示された。重度の喘息増悪は、重大な病的状態を引き起こし大幅なコスト増を招く。これまで、ビタミンD3補充が小児の重度の喘息増悪を低減するかは明らかになっていなかった。今回の結果を踏まえて著者は、「所見は、今回の試験対象患児集団については、重度の喘息増悪の予防療法としてのビタミンD3補充を支持しないものだった」とまとめている。JAMA誌2020年8月25日号掲載の報告。血中ビタミンD値30ng/mLの喘息児を対象にプラセボ対照無作為化試験 VDKA(Vitamin D to Prevent Severe Asthma Exacerbations)試験は、6~16歳で低用量吸入コルチコステロイドを服用し、血漿中25-ヒドロキシビタミンD値が30ng/mL未満の、高リスクの喘息患児を対象とした。 米国7医療センターで参加者を募り、48週間のビタミンD3(4,000 IU/日)またはプラセボを受ける群に無作為に割り付け追跡評価した。なお、フルチカゾンプロピオン酸の服用は、176μg/日(6~11歳)、または220μg/日(12~16歳)にて継続された。 主要アウトカムは、重度の喘息増悪発生までの期間であった。副次アウトカムは、ウイルス誘発性重度増悪発生までの期間、吸入コルチコステロイドの服用量が試験期間中に半減した参加者の割合、試験期間中のフルチカゾン累積服用量などであった。 参加者の登録は2016年2月に開始。参加者数は400例を目標としたが、早期に無益性が明らかになり試験は2019年3月に中止となった。フォローアップの終了は2019年9月であった。重度増悪の頻度、発生までの期間ともにプラセボと有意差なし 合計192例(平均年齢9.8歳、女児77例[40%])がビタミンD3群(96例)またはプラセボ群(96例)に無作為に割り付けられ、そのうち180例(93.8%)が試験を完遂した。 ビタミンD3群は36例(37.5%)、プラセボ群は33例(34.4%)が、1回以上の重度増悪を呈した。プラセボ群と比較してビタミンD3群の、重度増悪までの期間は有意に改善しなかった。増悪までの平均期間は、ビタミンD3群240日、プラセボ群253日であった(平均群間差:-13.1日[95%信頼区間[CI]:-42.6~16.4]、補正後ハザード比[HR]:1.13[95%CI:0.69~1.85]、p=0.63)。 同様に、ビタミンD3群はプラセボ群と比較して、ウイルス誘発性重度増悪発生までの期間、試験期間中に吸入コルチコステロイドの服用量が減じた参加者の割合、またはフルチカゾン累積服用量についても、有意な改善は認められなかった。 重篤な有害事象の発生も両群で類似していた(ビタミンD3群11例、プラセボ群9例)。

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うつを予防する方法(解説:岡村毅氏)-1278

 ビタミンDにうつ病を予防する効果はないという残念な結果であった。これを深掘りしてみよう。 まず、前提としてさまざまなビタミン、ミネラル、アミノ酸、脂肪酸等がうつ病を予防するのではないかという小さなエビデンスは集積されている。ビタミンDでも同様である。 ただし、たとえばビタミンDを摂っている健康な人は、運動もするし、友人も多いし、健康情報もよく知っているのでうつになりにくい可能性はあるだろう(これらを交絡因子という)。したがってうつ病の人と、そうでない人を比べるとビタミン摂取量に差がある可能性はある。 要するに「うつではない人はビタミンを摂っている」と「ビタミンを摂るとうつにならない」のとり違いの可能性である。 真実を知りたい。そこで、この研究のように、対象者をランダムにある地点で2つの同じようなグループに分けて、「その時点から」片方にはビタミンDを追加投与、片方には偽薬を与えるという研究をする。本研究は、なんと2万人近い50歳以上の人が対象になっている。もちろんうつ病だけを狙った研究ではなく、本研究はがんや心血管系の疾患を主な対象にしているのだが。 この結果を受けて、ビタミンDは関係ないのかというと、そうとも言い切れない。 これまでの研究で「ビタミンDは関係ある」という結果が出たのには理由がある。前述の「交絡」である。どんなものが考えられるだろうか? 以下は私の勝手な推測だが、ビタミンDを多く摂っている人は、1)健康に気を使っている【情報】、2)自分を大事にしている【自尊心】、3)(1人でカップラーメンを食べたりするのではなく)みんなで食卓を囲む機会が多い【ソーシャルネットワーク】、4)幼少期からきちんとしたご飯を食べる機会が多かったので習慣化している【安定した幼少期】、5)(野菜は高いので)経済的に困窮していない【経済】、といった可能性があるので、うつになりにくいのかもしれない。また、うつ病になると意欲が低下して食生活が乱れるので、ビタミンDも摂らなくなる、という逆の因果もあろう。 さて、臨床的には明らかに生活習慣が乱れていることが精神的不調の原因の人がいる。そういう人にはうつ病と診断して精神科治療を始める「前に」、まずはまともな生活をすることを指導する(獨協医科大学の井原先生のご著書で世間でもこのような考え方は広く知られるようになってきた)。毎日塩辛いものを食べまくっていて血圧が高い人には、まず適度の減塩を指導するのと同じである。 というわけで、本論文を読んで「ビタミンは関係ないのだ、明日からカップラーメンでいいや」というのは間違った解釈である。真実はとても地味だ。つまり、あえてサプリメントを摂ることはないが、健康に気を付けて、自分を大切にして、3食きちんと食べなさい、栄養バランスは考えて野菜も摂るのよ、夜は寝ろ、疲れたら休め、無理はするな、…帰省できなかった若者の皆さんに地元のおじさん(おばさん)みたいなアドバイスを送りたい。

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