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心不全の新たな治療戦略:次の10年を見据えて【心不全診療Up to Date 2】第6回

心不全の新たな治療戦略:次の10年を見据えてKey PointsHFpEF治療は「SGLT2阻害薬+MRAを基盤」とする新パラダイムが確立され、治療戦略は“症候改善のみ”から“イベント抑制”の時代へ心臓指向性AAVベクター(AB-1002)を用いた遺伝子治療が安全性と有効性のシグナルを示し、心不全治療に新しい地平を拓きつつあるIL-6を標的とした抗炎症療法や、CCMなどのデバイス治療が、GDMT抵抗性の心不全患者に対する新たな選択肢として開発が進むはじめに本連載では1年間にわたり、心不全診療の最新トピックスを取り上げてきた。最終回となる本稿では、現在臨床試験段階にある新規治療や将来有望な治療戦略について考えていきたい。HFrEF治療ではβ遮断薬、RAS阻害薬/ARNI、MRA、SGLT2阻害薬の「4本柱」が確立し、HFrEF患者の予後は著しく改善した。一方、高齢化の進展とともに増加する左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)、そしてGDMT(guideline-directed medical therapy)に抵抗性を示す患者に対しては、さらなる治療選択肢が求められている。本稿では、(1)HFpEF治療の新展開、(2)遺伝子治療、(3)抗炎症療法、(4)デバイス治療の4領域について、最新のエビデンスと今後の展望を述べる。HFpEF治療の新展開:フィネレノンの登場第4回で述べたように、HFpEF治療においてSGLT2阻害薬が不動の地位を確立した。これに加え、2025年7月、米国・FDAは非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(nsMRA)であるフィネレノン(商品名:ケレンディア)を、左室駆出率(LVEF)≧40%の心不全患者に対する適応で承認した。本邦でも、2025年12月22日、慢性心不全への適応追加が承認された。この承認の根拠となったFINEARTS-HF試験では、HFpEF/HFmrEF患者6,001例(左室駆出率(LVEF)≧40%、NYHA II~IV度)を対象に、標準治療へのフィネレノン上乗せ効果が検証された1)。中央値2.7年の追跡期間において、主要評価項目である心血管死および心不全イベント総数(初発および再発の心不全入院、緊急心不全受診)の複合は、フィネレノン群でプラセボ群と比較して16%有意に減少した。また、フィネレノンは従来のステロイド性MRA(商品名:スピロノラクトン、エプレレノン)と比較してMRへの選択性が高く、性ホルモン関連の副作用(女性化乳房など)が少ないことが特徴である2)。なお、本試験ではプラセボと比較して高カリウム血症の頻度は増加したが、従来のステロイド性MRAと比較して高カリウム血症リスクが低い可能性が示唆されてきた点や、忍容性の観点から実臨床での使いやすさが期待される薬剤と位置付けられる。フィネレノンの登場により、HFpEF/HFmrEFにおいても「SGLT2阻害薬+MRAを基盤とした治療」が現実的な標準治療戦略となりつつある。とくにCKDや糖尿病を併存する症例では、心不全イベント抑制とともに心腎双方のアウトカム改善を期待できる点で臨床的意義は大きい。第4回で述べた「SGLT2阻害薬を基盤とし、表現型に応じた治療を追加する」というHFpEF治療の新パラダイムにおいて、フィネレノンが加わることで、「SGLT2阻害薬+MRAを基盤とした治療」へと進化したといえる。なお、ステロイド性MRAのHFpEF患者に対する有効性は、TOPCAT試験の結果を受け※、SPIRRIT試験(NCT02901184)、SPIRIT-HF試験(NCT04727073)にて改めて検証中である。今後、nsMRAとステロイド性MRAの位置付けや使い分けが、HFpEF/HFmrEF領域における重要な論点となるだろう。※TOPCAT試験にて、HFpEFに対するMRAの有効性が検証されたが、結果は、心血管死、蘇生できた心停止、心不全入院の主要複合エンドポイントの有意な低下は認めなかったが…続きはこちら副次エンドポイントの1つである心不全入院については有意な低下を認めた(HR:0.83、95%信頼区間[CI]:0.69~0.99、p=0.043)。心不全入院は、本試験の主要複合エンドポイントの中で最も高頻度に発生したイベントでもあり、心不全入院率低下、それによるQOL改善効果については有用性が期待できる結果であったといえる。また、本試験は事後解析でHFpEFに対するMRAの有効性に関する興味深いデータが多く報告されていることでも有名な試験である。その1つとして、本試験は、12ヵ月以内の心不全(各施設の診断)の入院歴(第1層)、またはこれを満たさない場合、60日以内のナトリウム利尿ペプチド上昇(BNP≧100pg/mLあるいはNT-proBNP≧360pg/mL)(第2層)をエントリー条件とした試験であるが、その第2層でエントリーされたサブグループにおいては、主要エンドポイントの低下が認められた4)。また、本試験は米国、カナダ、アルゼンチン、ブラジルというグループと、ロシア、グルジアというグループの間に心不全の重症度や試験開始後の収縮期血圧4)、イベント発生に大きな差があっただけでなく、前者のグループでは1次エンドポイントに有意差が認められた5)。さらには、スピロノラクトンを内服していれば血中に認めるはずの代謝産物が、ロシアの症例では認めない症例の割合が30%とかなり多かったという報告があり(米国やカナダの症例では3%のみ)、ロシアの症例ではアドヒアランスがかなり悪かった(スピロノラクトン群であるにもかかわらずスピロノラクトンがしっかり内服されていなかった)可能性も指摘されている6)。心不全に対する遺伝子治療の進歩心不全に対する遺伝子治療は、これまでSERCA2a(筋小胞体Ca2+-ATPase)を標的としたCUPID試験シリーズが先駆的に行われてきた。CUPID第I/II相試験では、AAV1ベクターを用いたSERCA2a遺伝子の冠動脈内投与が安全に実施され、予備的な有効性シグナルが観察された7-9)。しかし、続く第IIb相試験(CUPID2)では主要評価項目を達成できなかった。その原因として、AAV1ベクターの心臓向性(cardiotropism)の限界、投与量の不足、既存の中和抗体の影響などが指摘されている。2025年、Nature Medicine誌に新たな遺伝子治療AB-1002のfirst-in-human第I相試験結果が報告され、心不全遺伝子治療に再び期待が高まっている10)。AB-1002は、心臓向性を強化したキメラAAVベクター(AAV2i8)を用いて、恒常活性型プロテインホスファターゼ1阻害因子(I-1c)を心筋細胞に導入する治療法である。心不全患者では、プロテインホスファターゼ1(PP1)の活性が亢進し、ホスホランバン(phospholamban:PLN)の脱リン酸化が進行してSERCA2a活性が低下する。I-1cはPLNの脱リン酸化を抑制することでSERCA2a活性を回復させ、カルシウムサイクリングを正常化する。すなわち、CUPID試験がSERCA2aの「発現量増加」を目指したのに対し、AB-1002は「活性回復」という異なるアプローチを採用している。本試験では、非虚血性心筋症によるNYHA III度心不全患者11例(LVEF 15~35%)を対象に、冠動脈内投与によるAB-1002の単回投与が実施された10)。低用量群と高用量群の2コホートで検討され、12ヵ月の追跡が行われた。主要評価項目である安全性について、治療に起因する重篤な有害事象は認められず、1例の死亡(治療との関連なしと判定)を除き、有害事象は軽度から中等度であった。高用量群で一過性の肝酵素上昇が観察されたが、自然軽快している。有効性評価では、両群でNYHAクラスの改善、LVEFの改善、peak VO2や6分間歩行距離の改善傾向が観察された。もちろん、長期有効性、安全性、費用対効果といった課題は残されている。しかしAB-1002は、「心不全を遺伝子レベルで修飾する時代」が現実味を帯びてきたことを示す重要な一歩であり、現在進行中の第II相GenePHIT試験(NCT05598333)を含め、今後の大規模試験の結果が強く待たれる。(表1)AAVベクターを用いた心不全遺伝子治療の臨床開発の歩み画像を拡大する炎症を標的とした新規治療心不全の病態生理において炎症が重要な役割を果たすことは古くから知られていたが、初期の抗炎症療法は期待された結果を示せなかった。TNF-α阻害薬を用いたATTACH試験およびRENEWAL試験は、いずれも有効性を示すことができず、むしろ高用量群では有害事象の増加が観察された11-13)。これらの失敗は、心不全における炎症制御の複雑さを示すとともに、より選択的な標的の必要性を浮き彫りにした。近年、インターロイキン(IL)シグナルを標的とした治療戦略に注目が集まっている。IL-1βに対するモノクローナル抗体カナキヌマブ(商品名:イラリス)を用いたCANTOS試験では、心筋梗塞の既往歴がある高感度C反応性蛋白(hsCRP)値2mg/L以上の患者において主要心血管イベントの有意な減少が示され、さらに心不全入院リスクの低下も観察された14)。この結果を受けて、心不全患者を対象としたIL-1阻害薬anakinra(国内未承認)の複数の第II相試験が実施され、運動耐容能や炎症マーカーの改善が報告されている15)。TNF-α阻害薬が失敗に終わった一方で、IL-1βやIL-6が注目されている背景には、これらのサイトカインが動脈硬化・心不全リモデリングにおける慢性炎症ネットワークの”ハブ”として機能しているという病態理解の進展がある。すなわち、全体の炎症反応を無差別に抑え込むのではなく、病態の中核となるシグナルを選択的に制御する方向に戦略がシフトしているといえる。さらに、IL-6を直接標的とした大規模臨床試験が複数進行中である。IL-6リガンド阻害薬ziltivekimabは、動脈硬化性心血管疾患の既往を有するCKD患者(hsCRP≧2mg/L)を対象としたZEUS試験(NCT05021835)、HFpEF/HFmrEF患者(hsCRP≧2mg/L)を対象としたHERMES試験(NCT05636176)、急性心筋梗塞入院患者を対象としたARTEMIS試験(NCT06118281)などで検証中である。2025年に発表されたACC Scientific Statementは、心血管疾患における炎症の役割を包括的にまとめ、今後の抗炎症療法の方向性を示している16)。IL-6阻害薬の心不全に対する大規模試験結果は2026年後半から2027年にかけて報告される見込みであり、心不全治療における炎症制御の意義が明らかになることが期待される。デバイス治療の新たな展開:心臓収縮力調節療法心臓収縮力調節(Cardiac Contractility Modulation:CCM)療法は、心臓の絶対不応期に非興奮性電気刺激を与えることで心筋収縮力を増強する植込み型デバイス治療である。心臓再同期療法(CRT)の適応とならないQRS幅正常(<130ms)の症候性心不全患者に対する新たな治療選択肢として注目されている17)。CCM療法の作用機序は、非興奮性電気刺激により細胞内カルシウムハンドリングが改善され、心筋収縮力が増強されることに加え、心不全で異常発現している複数の遺伝子発現を正常化することにあるとされる18)。興味深いことに、このカルシウムハンドリングの改善という点で、前述の遺伝子治療AB-1002と共通する機序を有している。FIX-HF-5C試験およびFIX-HF-5C2試験の結果から、CCM療法はLVEF 25~45%の症候性心不全患者において、運動耐容能(peak VO2)とQOL(Minnesota Living with Heart Failure Questionnaire)を有意に改善することが示されている19)。また現在、HFpEF/HFmrEF患者(LVEF 40~70%)を対象としたAIM HIGHer試験(NCT05064709)が進行中であり、GDMT抵抗性のHFpEF/HFmrEF患者に対するCCM療法の有効性が検証されている。第4回で述べたように、HFpEF/HFmrEFにおいても収縮障害が潜在している可能性があり、CCM療法による収縮力増強が有効であるかどうか結果が楽しみである20,21)。また、HFrEF患者を対象としたCCM療法とICDを組み合わせたCCM-Dシステムの第III相INTEGRA-D試験(NCT05855135)も2025年に組み入れを完了しており、心不全症状の軽減と突然死予防の両立を目指した新たなデバイス戦略として期待されている。おわりに:次の10年に向けて1年間の連載を通じて、心不全診療が近年急速に進歩していることをお伝えしてきた。HFrEFに対する「4本柱」の確立、HFpEFに対するSGLT2阻害薬とフィネレノンの登場、インクレチン製剤による肥満合併HFpEFへの新たなアプローチ、そして特定の心筋症に対する分子標的治療(例:マバカムテン、ブトリシラン、アコラミディス)など、治療選択肢は着実に広がっている。今後の10年を展望すると、本稿で紹介した遺伝子治療や抗炎症療法といった病態修飾治療の実用化、精密医療(Precision Medicine)の進展、そしてデバイス治療のさらなる進化が期待される。とくに、心不全の表現型(phenotype)に基づいた個別化治療戦略の確立は、治療反応性を最大化し、非反応者を最小化するために不可欠である。画像を拡大する心不全治療は今も進化の途上にあり、その最前線はこれからも更新され続けるだろう。本連載が、その変化を少しでも臨床現場につなぐ一助となっていたなら望外の喜びである。最後に、本連載を1年間ご愛読いただいた先生方に心より感謝申し上げる。心不全診療は依然として多くの課題を抱えているが、エビデンスに基づいた最適な治療を患者一人ひとりに提供することで、予後改善とQOL向上を実現できると確信している。読者の先生方とともに、今後も心不全診療のさらなる発展に貢献していきたい。 1) Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2024;391:1475-1485. 2) Agarwal R, et al. Eur Heart J. 2021;42:152-161. 3) Pitt B, et al. N Engl J Med. 2014;370:1383-1392. 4) Shah AM, et al. Circulation. 2015;132:402-414. 5) Rossignol P, et al. Circulation. 2015;131:7-10. 6) de Denus S, et al. N Engl J Med. 2017;376:1690-1692. 7) Hajjar RJ, et al. J Card Fail. 2008.;14:355-367. 8) Jessup M, et al. Circulation. 2011;124:304-313. 9) Zsebo K, et al. Circ Res. 2014;114:101-108. 10) Henry TD, et al. Nat Med. 2025;31:3845-3852. 11) Chung ES, et al. Circulation. 2003;107:3133-3140. 12) Mann DL, et al. Circulation. 2004;109:1594-1602. 13) Lincoff AM, et al. JAMA. 2003;289:853-863. 14) Ridker PM, et al. N Engl J Med. 2017;377:1119-1131. 15) Hartrampf N, et al. Science. 2020;368:980-987. 16) Mensah GA, et al. J Am Coll Cardiol. 2025;S0735-1097:07555-2. 17) Pipilas DC, et al. J Soc Cardiovasc Angiogr Interv. 2023;2(6Part B):101176. 18) Butter C, et al. J Am Coll Cardiol. 2008;51:1784-1789. 19) Abraham WT, et al. JACC Heart Fail. 2018;6:874-883. 20) Talha KM, et al. J Card Fail. 2022 Dec;28:1717-1726. 21) Tschope C, et al. ESC Heart Fail. 2020;7:3531-3535.

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巣状分節性糸球体硬化症、新規の選択的TRPC6阻害薬が有望/Lancet

 巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)では、一過性受容体電位カチオンチャネルサブファミリーCメンバー6(TRPC6)の過剰な活性が、腎糸球体のポドサイトの減少と進行性腎障害を引き起こす可能性が示唆されている。米国・ミシガン大学のHoward Trachtman氏らは、FSGSの治療薬として、新規の1日1回経口投与の選択的TRPC6阻害薬BI 764198の安全性と有効性を評価する探索的試験を行い、蛋白尿の低下が認められ、忍容性は良好であったことを報告した。Lancet誌オンライン版2026年1月27日号掲載の報告。BI 764198(3用量)の安全性と有効性をプラセボと比較、第II相試験 研究グループは、第II相の多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化試験により、BI 764198(20mg、40mg、80mg、1日1回)の安全性と有効性をプラセボと比較し評価した。投与期間は12週間。 対象は、18~75歳の生検で原発性FSGSが確認された患者(続発性である臨床的エビデンスがないことに基づく)または疾患を引き起こすTRPC6変異を伴うFSGS患者。安定した保存療法と免疫抑制療法を受けており、スクリーニング時の尿蛋白/クレアチニン比(UPCR)は1.0g/g以上、推算糸球体濾過量(eGFR)は30mL/分/1.73m2以上であった。 被験者は中央ブロック法にて1対1対1対1の割合で無作為に割り付けられ、コルチコステロイドの使用により層別化された。 主要エンドポイントは、12週時点の蛋白尿反応(24時間UPCRがベースラインから25%以上低下)とした。そのほかの重要なアウトカムとして、安全性と忍容性を評価した。12週時点の蛋白尿低下、BI 764198群35%、プラセボ群7% 試験は2022年3月10日~2024年9月3日に10ヵ国31施設で行われ、139例がスクリーニングされ、67例がBI 764198(20mg、40mg、80mg用量)群またはプラセボ群に無作為化された。うち5例は誤って無作為化され治療を受けなかった。 62例が治療を受けた(BI 764198群48例[20mg群18例、40mg群15例、80mg群15例]、プラセボ群14例)。うち2例(BI 764198 40mg群と80mg群の各1例)がベースラインまたはベースライン後のUPCRが欠測値であり、Full Analysis Set(FAS)には含まれなかった。 被験者(62例)は、37例(60%)が男性、25例(40%)が女性で、平均年齢は40.7歳(SD 12.6)。多くを白人が占めた(39/62例、63%)。 12週時点の蛋白尿反応は、BI 764198 20mg群8/18例(44%)、40mg群2/14例(14%)、80mg群6/14例(43%)で観察され(全用量統合群16/46例[35%])、プラセボ群は1/14例(7%)であった。対プラセボ群のオッズ比は、BI 764198 20mg群10.0(95%信頼区間[CI]:1.6~118.1)、40mg群1.5(95%CI:0.2~19.5)、80mg群6.0(95%CI:0.9~73.6)であり、全用量統合群4.9(95%CI:1.0~48.8)であった。 全体では56例(90%)が試験期間および治療期間を完遂した。 BI 764198の忍容性は良好で、治療群間で有害事象の発現頻度に意味のある差は認められなかった。治療中に発現した有害事象は、44/62例(71%)で報告され、発現頻度はプラセボ群(10/14例[71%])とBI 764198群(34/48例[71%])で同等であった。

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GLP-1受容体作動薬は大腸がんリスクを低下させる?

 オゼンピックやウゴービなどのGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬は、減量や糖尿病の管理だけでなく、大腸がんの予防にも役立つ可能性のあることが、新たな研究で示唆された。GLP-1受容体作動薬の使用者では、アスピリン使用者と比べて大腸がんを発症するリスクが26%低かったという。米テキサス大学サンアントニオ校血液腫瘍内科のColton Jones氏らによるこの研究結果は、米国臨床腫瘍学会消化器がんシンポジウム(ASCO GI 2026、1月8〜10日、米サンフランシスコ)で発表された。 Jones氏は、「これまでアスピリンの大腸がん予防効果について研究されてきたが、効果は限定的であり、また、出血リスクが使用の妨げになる。糖尿病や肥満の治療で広く使われているGLP-1受容体作動薬は、代謝管理とがん予防の両面で、より安全な選択肢になる可能性がある」と述べている。 米国では、2025年には約15万人が大腸がんと診断され、5万人以上が死亡したと推定されている。GLP-1受容体作動薬は、インスリンや血糖値の調節を助け、食欲を抑え、消化を遅らせるホルモンであるGLP-1の作用を模倣する薬剤である。代表的な薬剤には、オゼンピックやウゴービなどのセマグルチド、マンジャロやゼップバウンドなどのチルゼパチドがある。 今回の研究では、商業医療データベースTriNetXから、GLP-1受容体作動薬の使用者と、アスピリン使用者を傾向スコアマッチング後に14万828人ずつ(計28万1,656人、平均年齢58歳、女性69%)抽出し、大腸がんの発症を比較した。各薬剤の初回処方日を起点に、その6カ月後から追跡を開始した。追跡期間中央値は、GLP-1受容体作動薬群で2,153日、アスピリン群で1,743日であった。 その結果、GLP-1受容体作動薬群ではアスピリン群と比較して、大腸がんリスクが26%低いことが明らかになった(リスク比0.741、95%信頼区間0.612〜0.896)。絶対リスク差から算出した治療必要数(NNT)は2,198であった。この結果は、追跡開始後12カ月および36カ月を対象とした感度解析においても、また、年齢層、BMI、糖代謝などで層別化したサブグループ解析においても、概ね一貫していた。GLP-1受容体作動薬を個別に解析すると、セマグルチドのみが有意な効果を示した。副作用については、GLP-1受容体作動薬使用者の方が、腎障害、胃潰瘍、消化管出血といった重篤な副作用は少なかった一方で、下痢や腹痛はより多く発生していた。 この研究をレビューした米クリーブランド・クリニックTaussig Cancer CenterのJoel Saltzman氏は、「GLP-1受容体作動薬は、体重減少以上の恩恵をもたらす可能性がある。これらの結果は、がん予防戦略においても重要な役割を果たす可能性を示している。アスピリンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、スタチンの大腸がん予防効果は長年研究されてきたが、今回のリアルワールドデータは、GLP-1受容体作動薬がこの分野で有望な役割を担う可能性を示唆している」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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PPI長期使用は本当に胃がんリスクを高めるのか/BMJ

 2023年に発表された3つのメタ解析では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用により胃がんのリスクが約2倍に増加することが示されているが、解析の対象となった文献にはいくつかの方法論的な限界(因果の逆転[プロトパシック バイアス]、症例分類法の違い[方法論的異質性]、Helicobacter pylori[H. pylori]菌感染などの交絡因子の調整不能など)があるため、この結論は不確実とされる。スウェーデン・カロリンスカ研究所のOnyinyechi Duru氏らは、これらの限界を考慮したうえで、無作為化試験の実施は現実的でないためさまざまなバイアスの防止策を講じた観察研究「NordGETS研究」を行い、PPIの長期使用は胃腺がんのリスク増加とは関連しない可能性があることを示した。研究の成果は、BMJ誌2026年1月21日号に掲載された。北欧5ヵ国の人口ベースの症例対照研究 NordGETS研究は、1994~2020年に、北欧5ヵ国(デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン)の各国で前向きに収集されたレジストリデータを用いた人口ベースの症例対照研究(Swedish Research Councilなどの助成を受けた)。 噴門部を除く胃腺がん患者1例に対し、背景因子をマッチさせた対照を10例ずつ5ヵ国の全人口から無作為に抽出した。胃噴門部の腺がんは、PPIの適応症である胃食道逆流症による交絡を回避するために除外した。 曝露は長期(1年超)のPPIの使用とし、診断日(症例)と登録日(対照)の前の12ヵ月間のアウトカムは解析から除外した。PPI使用に関する知見の妥当性と特異性を評価するために、ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA)の長期(1年超)使用の解析も行った。 主要アウトカムは、胃(非噴門部)腺がんであった。マッチング変数の調整とともに、多変量ロジスティック回帰分析により、国、H. pylori菌治療、消化性潰瘍、喫煙関連疾患、アルコール関連疾患、肥満または2型糖尿病、メトホルミン・非ステロイド性抗炎症薬・スタチンによる薬物療法を調整したオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を算出した。H2RAの長期使用も関連がない 胃(非噴門部)腺がん群に1万7,232例(年齢中央値74歳[四分位範囲:65~81]、女性42.4%)および対照群に17万2,297例(74歳[65~81]、42.4%)を登録した。PPIの長期使用は、胃(非噴門部)腺がん群で1,766例(10.2%)、対照群で1万6,312例(9.5%)であった。 最長で26年に及ぶ調査期間中に、PPIの長期使用は胃(非噴門部)腺がんの発症と関連しなかった(補正後OR:1.01、95%CI:0.96~1.07)。粗オッズ比は上昇していたが(1.16、1.10~1.23)、交絡因子(とくにH. pylori菌関連の変量)で調整すると関連性は消失した。 また、H2RAの長期使用も、胃(非噴門部)腺がんのリスク上昇とは関連がなかった(補正後OR:1.03、95%CI:0.86~1.23)。長期使用の利益と不利益を慎重に検討すべき 偽陽性をもたらすエラーの発生源として、(1)胃腺がん診断直前のPPI使用の包含、(2)PPIの短期使用、(3)噴門部腺がん、(4)H. pylori菌関連の変数の調整不足を特定した。 著者は、「本研究の結果は、PPIの長期使用が胃腺がんのリスク増加と関連するとの仮説を支持しない」「バイアスの防止に用いたさまざまな手順のすべてが、潜在的な誤った関連性の発生を防ぐために不可欠であった」「これらの知見は、胃食道逆流症などの適応症の治療でPPIの長期使用を要する患者に安心感をもたらすが、クロストリジウム・ディフィシル関連下痢や骨粗鬆症、ビタミン・電解質吸収不良などの重篤な病態のリスク増加の可能性が指摘されているため、長期使用の利益と不利益を慎重に検討し、PPI継続の必要性を定期的に再評価する必要があると考えられる」としている。

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喘息への活用に期待、『アレルゲン免疫療法の手引き2025』

 アレルギー性鼻炎は、スギやヒノキを原因とする季節性アレルギー性鼻炎と、ダニなどが原因の通年性アレルギー性鼻炎に大別される。本邦では2014年頃からアレルゲン免疫療法(以下、AIT)の手軽な手法である舌下免疫療法(以下、SLIT)が臨床導入されたが、近年のエビデンス蓄積により、ダニアレルゲンによって症状が出現しているアトピー型喘息へのダニSLITの有効性が示されているという。2025年6月には日本アレルギー学会より『アレルゲン免疫療法の手引き2025』が発刊され、最新の知見に基づき、治療の意義や位置付けが刷新されたことから、今回、本書の作成委員長を務めた永田 真氏(埼玉医科大学呼吸器内科 教授/埼玉医科大学病院アレルギーセンター センター長)にAITの基礎と推奨される患者像などについて話を聞いた。アレルゲン免疫療法の意義  以前に日本では“減感作療法”とも呼ばれたAITは、「アレルギー疾患の病因アレルゲンを投与していくことにより、アレルゲンに曝露された場合に引き起こされる関連症状を緩和する治療」と定義付けられ、アレルギー疾患の根本的な体質改善を期待できる唯一の治療法である。本邦オリジナルの手法である皮下免疫療法(SCIT)は諸外国と比べ格段に普及が遅れていた。しかし2014年に舌下免疫療法(SLIT)が承認され、スギ花粉症を中心にその普及が始まった。 『アレルゲン免疫療法の手引き』の2022年版*からの主な改訂ポイントについて、永田氏は「『喘息予防・管理ガイドライン 2024』および『鼻アレルギー診療ガイドライン 2024年版』との整合性を図り、最新の臨床知見を反映した。とくにこれまでの理念を覆す免疫病態や、またAITの新規の効果が近年明らかになってきたため、新たに判明した作用をブラッシュアップしている。たとえば、ダニSLITが喘息患者の呼吸機能を改善させ長期的に維持させ得ることや、重症患者(喘息併存)への生物学的製剤(抗IgE抗体オマリズマブや抗IL-4受容体α鎖抗体デュピルマブなど)との併用効果に関するエビデンスなどを盛り込んだ。さらに、現段階での適応拡大はないが、アトピー性皮膚炎に対しても部分的に効果があることも報告されている。さらに、スギアレルゲンによる治療がヒノキアレルギーに対しても一定の効果を示す可能性が指摘されている」など、治療標的の広がりについても言及した。また、医療経済的な観点として、AITによる医療費抑制効果が確認されていることにも触れた。*2013年に「スギ」「ダニ」別の指針として発刊されていた前身の出版物を統合・刷新したもの AITの機序についてはいわゆる脱感作現象の寄与は極めて限られ、したがって“減感作療法”という呼称は科学的に誤っている。実際には生体にとって有益な免疫応答を能動的に誘導することの寄与が大きいと判明している。同氏は喘息患者において、「AITが気道上皮細胞のインターフェロン産生能力を高め、ウイルス感染に対する抵抗性を増強する作用が報告されている。これは、感染を契機とした増悪を抑制する効果を意味する」と、その免疫学的メリットを強調した。小児期からの介入と喘息発症予防 AITの適応は、IgE依存性アレルギーであることが正確に診断されたダニアレルギーまたはスギ花粉症患者で、とくに重要なことは全身的・包括的な効果を期待して行われる点である。施行にあたっては、「アレルゲン免疫療法に精通した医師」が条件であり、とくにSCITは効果が高いものの、アナフィラキシーあるいは喘息増悪(発作)などに対する迅速な対応が可能な施設においてのみ実施される。 AITの普及状況について、「成人のスギ花粉症治療でのSLITの応用が活発な一方、通年性鼻炎や喘息に影響をもたらすダニアレルギーへの介入は欧米に比べ依然として不十分」と同氏は指摘した。とくに小児においては、小児喘息の多くが難治化のリスクを抱える中、AITの追加が予後改善に寄与することが確認され、『小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023』にも5歳以上に対するダニ免疫療法の重要性が示されている。「小児期からの介入は、将来的な喘息の新規発症を予防し、すでに発症済みの小児喘息の改善も期待することができる」と同氏はコメントした。 アレルギー性鼻炎の鑑別疾患としては、非アレルギー性・非感染性の鼻粘膜過敏症(血管運動性鼻炎や好酸球増多性鼻炎、また鼻かぜ[急性鼻炎]など)が挙げられる。このほかの注意点として、同氏は「海外では喘息でダニSLITが適応となる一方で、日本の場合には“適応がない”点は留意したいが、日本人の約8割の喘息患者はアレルギー性鼻炎も併発している」と喘息患者は治療対象となる場合が多い点を指摘した。<処方医が診療時に注意するべきポイント>・リスク管理:アナフィラキシーリスク評価と迅速な対応ができること・禁忌/慎重投与:「自己免疫疾患の合併や既往、または濃厚な家族歴を有する」「%FEV1(1秒量)が70%未満、または不安定な喘息患者」「全身性ステロイド薬の連用や抗がん剤の使用」に関する状況確認・SLITに関する歯科連携: 腔内の傷や炎症、抜歯などの予定は吸収率や局所反応に影響するため、休薬を含めた指導を実施・環境整備:ダニアレルギーの場合、ダニの繁殖を防ぐため、床のフローリング化やこまめな清掃など、また喘息ではとくに完全禁煙を指導治療中断後の再開は?ほかのアレルゲンへの適応は? AITの治療期間について、世界保健機関(WHO)は3~5年を推奨しているが、さらなる長期継続も許容される。患者が中断してしまった場合やいったん中止後に再発した場合の再開基準について、永田氏は次のような見解(私見)を述べた。「スギSLITの場合、投与開始から3年が経過していれば、免疫寛容の誘導が進んでいる時期。一時的に中断しても2年は効果が持続すると判明しているが、中止後の再発に伴う再開に際しては『改めて最低3年』を目標に仕切り直すことを推奨する。」 なお、ほかのアレルゲンへのAITの展開については、ハチ毒でのSCIT、食物アレルゲンでの経口免疫療法、一部の薬剤(NSAIDs、抗酸菌薬など)に対する脱感作療法が存在する。ピーナッツなどの食物アレルギーに対する経口・経皮免疫療法は研究が進んでいるが、現時点で本邦での承認予定はない。そのため、最新の手引きではこれらについての詳細な解説は見送られている。

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逆流性食道炎へのボノプラザン、5年間の安全性は?(VISION研究)

 逆流性食道炎は再発や再燃を繰り返しやすく、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)やプロトンポンプ阻害薬(PPI)による維持療法が長期に及ぶことがある。P-CABのボノプラザンは、PPIより強力かつ持続的な酸分泌抑制を示すが、長期使用による高ガストリン血症を介した胃粘膜の変化や、腫瘍性変化のリスクが懸念されていた。 CareNet.comでは、P-CABとPPIの安全性に関するシステマティックレビューおよびメタ解析結果を報告した論文(Jang Y, et al. J Gastroenterol Hepatol. 2026;41:28-40.)について、記事「P-CABとPPI、ガストリン値への影響の違いは?」を公開している。本論文では、P-CAB群はPPI群と比較して血清ガストリン値が高かったものの、有害事象プロファイルはPPI群と同様であることが示唆された。しかし、メタ解析に含まれた研究は観察期間が短く、本邦で実施されたボノプラザンとランソプラゾールの比較試験「VISION研究」は含まれていない。 そこで本稿では、逆流性食道炎患者を対象に、5年間の維持療法としてボノプラザンとランソプラゾールを比較した国内第IV相試験「VISION研究」について紹介する。本試験では、維持療法を実施した5年間において、ボノプラザン群とランソプラゾール群のいずれでも、腺窩上皮細胞の腫瘍性/異形成性変化が1例も認められず、逆流性食道炎の累積再発率はボノプラザン群で低かった。本試験の結果は、上村 直実氏(国立国際医療研究センター国府台病院 名誉院長/東京医科大学内視鏡センター 客員教授)らによって、Clinical Gastroenterology and Hepatology誌2025年4月号で報告された。【VISION研究の概要】・試験デザイン:国内多施設共同非盲検無作為化並行群間比較第IV相試験・対象:Helicobacter pylori(H. pylori)陰性で、ロサンゼルス分類A~Dの逆流性食道炎患者(H. pylori除菌歴のある患者は除外)・試験群(ボノプラザン群):ボノプラザン(20mg、1日1回)を最大8週間→ボノプラザン(10mgまたは20mg、1日1回)を最大260週間 139例対照群(ランソプラゾール群):ランソプラゾール(30mg、1日1回)を最大8週間→ランソプラゾール(15mgまたは30mg、1日1回)を最大260週間 69例・評価項目:[主要評価項目]胃粘膜病理組織学的検査で臨床的に問題となる症例の割合(腺窩上皮細胞の腫瘍性/異形成性変化など)[副次評価項目]内視鏡所見での逆流性食道炎再発割合、治療期終了時における逆流性食道炎の治癒割合、安全性[その他の評価項目]血清ガストリン値、血清クロモグラニンA値など 主な結果は以下のとおり。・本試験において、最大8週間の治療期から最大260週間の維持療法期へ移行したのは、ボノプラザン群135例、ランソプラゾール群67例であった。・維持療法期へ移行した患者の平均年齢は、ボノプラザン群60.4歳、ランソプラゾール群61.5歳であった。男性の割合はそれぞれ71.9%、61.2%であり、治療開始時の血清ガストリン値(平均値)はそれぞれ130.2pg/mL、155.4pg/mLで、血清クロモグラニンA値の中央値は両群ともに0ng/mLであった。・260週時における血清ガストリン値の中央値は、ボノプラザン群625pg/mL、ランソプラゾール群200pg/mL、血清クロモグラニンA値の中央値はそれぞれ250ng/mL、100ng/mLであり、ボノプラザン群が高かった(p<0.0001)。血清ガストリン値と血清クロモグラニンA値は、両群で投与期間を通じて安定して推移し、4~260週時のいずれの測定時点においてもボノプラザン群が高値であった(p<0.001)。・260週時点までに、腺窩上皮細胞の腫瘍性/異形成性変化が認められた症例は、ボノプラザン群、ランソプラゾール群のいずれも0例であった。260週時点の病理組織学的所見の発現割合の詳細は以下のとおり(ボノプラザン群vs.ランソプラゾール群)。 腺窩上皮細胞の腫瘍性/異形成性変化:0%vs.0% 壁細胞隆起/過形成:97.1%vs.86.5%(p=0.01) 腺窩上皮細胞過形成:14.7%vs.1.9%(p=0.01) G細胞過形成:85.3%vs.76.9%(p=0.29) ECL細胞過形成:4.9%vs.7.7%(p=0.49)・維持療法期に胃底腺ポリープ(260週時の発現割合:ボノプラザン群72.1%、ランソプラゾール群84.9%)および胃過形成性ポリープ(同:23.1%、11.3%)の発現が増加したが、いずれも両群に有意な差はみられなかった。・神経内分泌腫瘍は、いずれの群にも認められなかった。・有害事象の発現割合は、ボノプラザン群93.3%(126/135例)、ランソプラゾール群95.5%(64/67例)であり、治療関連有害事象は、それぞれ45.9%(62/135例)、53.7%(36/67例)に発現した。204週時までに、ボノプラザン群で腺窩上皮型腺腫が1例、ランソプラゾール群で胃底腺型胃腺腫が1例認められた。・260週時点までの逆流性食道炎の累積再発率は、ボノプラザン群10.8%、ランソプラゾール群38.0%であった(p=0.001、log-rank検定)。 本結果について、本論文の筆頭著者である上村氏にコメントを求めたところ、以下の回答が得られた。【上村氏のコメント】日本人の胃酸分泌はH. pylori感染率の低下とともに増えてきた 日本人の胃酸分泌はH. pyloriの感染率の低下に伴い次第に増加してきた。すなわち50年前の1970年代には陽性者が80%以上であり、加齢とともに胃酸分泌が低下していた。その後、感染率が低下するとともに、高齢になっても胃粘膜の老化現象を認めず胃酸分泌の低下を認めないH. pylori未感染者が多数を占めるようになり、2020年代の30歳未満の感染率は5%台まで低下し、除菌治療の影響も加わって高酸分泌を呈する高齢者も多くなり、逆流性食道炎を含む胃食道逆流症(GERD)の患者が増加している。胃酸分泌の増加と酸関連疾患の変化とともに新たな胃酸分泌抑制薬が開発された 1980年に登場したヒスタミン受容体拮抗薬(H2ブロッカー)により外科的治療が必要であった胃潰瘍や十二指腸潰瘍に対して、H2ブロッカーを用いた内科的な治療が主体となった。さらに強力な胃酸分泌抑制が必要となった1990年にPPIが登場して、難治性潰瘍やGERDの治療および低用量アスピリン(LDA)や非ステロイド消炎鎮痛薬(NSAID)による潰瘍の予防に大きな役割を果たしている。2000年に保険適用となったH. pylori除菌治療により消化性潰瘍の再発がほぼ消失して、コントロールが必要な主な酸関連疾患は逆流性食道炎・GERDとなってきた。2015年には、PPIよりさらに強力な酸分泌抑制薬のボノプラザン(VPZ)が日本において開発されて、PPIから置き変わりつつあるのが現状である。VISION研究はボノプラザン長期投与の安全性を検証する試験 H2ブロッカーが出現した当初から酸分泌抑制に対するフィードバックとして出現する高ガストリン血症によるEnterochromaffin-like(ECL)細胞の過形成に続く神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine cell neoplasm:NEN[カルチノイド])の発生が危惧されていた。しかし、より強力な酸分泌抑制を有するPPIの長期投与による高ガストリン血症が、胃カルチノイドの発生リスクを著明に上昇させる明確なエビデンスも得られていない。 筆者らが本研究を企画したのは、VPZの承認を目的とした臨床治験の結果において、血清ガストリン値がPPIに比べてもさらなる高値を示し、3,000pg/mL以上の高値を示す症例が存在したことから、一般診療現場における長期投与が胃内微小環境に与える影響、とくに腫瘍性変化のリスクを危惧したためである。 VPZを含むP-CABとPPIの安全性に関するYewon Jang氏らによるメタ解析には、日本の臨床治験3試験と米国の1試験を含む11の研究結果が解析されているが、CareNet.comの記事に指摘されているように、観察期間が1年以下と短く、腫瘍の発生や組織学的変化のリスクを評価するには短期間にすぎるものである。さらに一般臨床の現場では数年間使用されることもあり、長期間の胃酸分泌抑制に伴う副事象の解明が必要と考えて5年間の経過観察とした次第である。 VISION研究では、VPZ群とPPI群に無作為に分類して、5年間毎年、生検を含む内視鏡検査により胃内微小環境の変化を観察した結果、内視鏡的に胃底腺ポリープや過形成ポリープの新たな発生や数の増加を認めた。一方、PPIに比べてVPZは有意な高ガストリン血症および高クロモグラニンA血症を呈したものの、カルチノイドなどの組織学的腫瘍性変化を認めなかった。内分泌腫瘍の腫瘍マーカーとして知られている血清クロモグラニンA値が高値を示した点から、ECL細胞が胃底腺粘膜全体に増加している可能性も推測され、カルチノイドの発生には5年よりさらに長期間の慎重な観察が必要と思われた。 VISION研究の結果から、著明な肝機能異常や骨折および重篤な腸管感染症のリスクはPPIと同様の安全性を示すことが確認された。しかし、本研究はH. pylori陽性や除菌後を除く陰性の逆流性食道炎患者としている点は非常に重要であり、一般の診療現場では、本試験の結果をそのまま充当できないH. pylori現感染者や除菌後の患者に対する診療では胃がんやカルチノイドのリスクにも注意することが必要である。

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第279回 救急搬送677万人のうち高齢者が6割超、救急需要は構造的増加/消防庁

<先週の動き> 1.救急搬送677万人のうち高齢者が6割超、救急需要は構造的増加/消防庁 2.2026改定の「短冊」提示、かかりつけ医評価は小幅修正 要件は拡大/厚労省 3.マイナ保険証の利用率レセプトベースで49.5%に/厚労省 4.出生数急減、少子化の加速で自治体の7割が「地域社会の維持に影響」/厚労省 5.東大教授が収賄容疑で逮捕、国際卓越研究大の認定 相次ぐ不祥事でガバナンス焦点/東大 6.77日連続勤務の果てに若手医師自殺、病院側を提訴/千葉県 1.救急搬送677万人のうち高齢者が6割超、救急需要は構造的増加/消防庁総務省消防庁は1月20日に「令和7年版救急・救助の現況」を発表した。これによると、2024年の救急車出動件数は772万件、救急搬送人員は677万人と、いずれも3年連続で過去最多を更新した。119番通報から現場到着までの平均時間は全国で9.8分と前年より0.2分短縮したが、通報から医療機関へ引き継ぐまでの時間は平均44.6分で、コロナ禍前の2019年と比べると約5分長い水準が続いている。需要増に対して受け入れ調整や搬送がボトルネックとなり、救急体制の逼迫が慢性化している実態が浮き彫りとなった。救急搬送者の63.3%は65歳以上で、とくに75歳以上が全体の約半数を占めた。内訳では75~84歳が24.9%、85歳以上が24.8%とほぼ同水準で、高齢者救急が構造的に増加している。その一方で、乳幼児の搬送は大幅に減少しており、救急需要の中心が明確に高齢者へ移行していることがわかる。傷病程度別では「軽症(外来診療)」が減少する一方、「中等症(入院)」や「重症」は増加しており、単なる軽症要請だけでなく、医療的介入を要する症例が増えている点も特徴的。事故種別では「急病」が最多で、転倒などの一般負傷や転院搬送も増加した。東京都では救急出動が約93万件に達し、救急要請の約2割が不要不急とされる。不要不急の要請の増加は、現場到着や搬送調整の遅延を招き、真に緊急性の高い患者の救命に影響しかねない。かかりつけ医や開業医にとっては、高齢患者の増悪予防、転倒・脱水・感染症流行期の早期対応、救急要請の判断基準の共有が一層重要となる。また、電話相談「#7119」や救急受診ガイドの周知、夜間・休日の受療行動の整理を通じ、救急の適正利用を地域で支える役割が求められている。救急需要が構造的に増え続ける中、外来・在宅での1次対応力が救急医療の持続性を左右する局面に入ったといえる。 参考 1) 令和7年版 救急・救助の現況(消防庁) 2) 救急搬送者数が3年連続で過去最多更新 24年は677万人 総務省消防庁(CB news) 3) 救急車の到着9.8分 出動件数は最多更新(MEDIFAX) 2.2026改定の「短冊」提示、かかりつけ医評価は小幅修正 要件は拡大/厚労省厚生労働省は、1月23日に開いた中央社会保険医療協議会(中医協)総会で2026年度診療報酬改定に向けた「個別改定項目」(いわゆる「短冊」)を示した。2026年度診療報酬改定の個別改定項目では、かかりつけ医・開業医に関わる外来医療の評価は「小幅修正」にとどまり、制度的な位置付けの明確化は先送りされた。2025年度に開始した「かかりつけ医機能報告制度」と診療報酬を直接ひも付ける見直しは行われず、機能強化加算の点数も据え置かれた。支払い側や財務省が求めていた機能に応じた初・再診料の差別化は反映されず、支払側からはメリハリ不足との指摘もある。その一方で、開業医の日常診療に直結する運用面での変更は多い。機能強化加算では、災害時の診療継続を想定した業務継続計画(BCP)の策定が新たな要件として追加され、外来・在宅データ提出加算の提出を促す記載が盛り込まれた。さらに、外来医師過多区域で新規開業し、保険医療機関指定期間が3年とされた医療機関は、機能強化加算を算定できない仕組みが導入され、都市部での開業戦略に影響を与える。生活習慣病管理料では、事務負担軽減策として療養計画書への患者署名が不要となる方針が示された。一方で、包括評価である管理料(I)については、少なくとも6ヵ月に1回以上の血液検査実施が要件化され、検査実施の管理がより厳格化される。糖尿病診療では、眼科・歯科との連携を評価する新たな加算が設けられ、地域連携の実績が収益に結び付く構造が強まる。また、在宅自己注射指導管理料については、糖尿病以外の薬剤でも併算定が可能となり、慢性疾患を多く抱える患者への対応の幅が広がる。特定疾患療養管理料では、胃・十二指腸潰瘍患者に禁忌とされる非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を投与している場合、算定不可とする案が示され、処方内容と管理料算定の整合性が改めて問われる。病診連携では、特定機能病院からの「逆紹介」を受けた患者の初診を評価する新加算が創設され、診療所や200床未満病院が患者を受け入れるインセンティブが強化された。連携強化診療情報提供料も対象が拡大される一方、算定頻度は「月1回」から「3ヵ月に1回」へと整理される。物価・賃上げ対応として初・再診料は引き上げられるが、病院への配分が相対的に厚く、診療所ではベースアップ評価料の活用による職員賃上げの実行力が経営上の鍵となる。今回の改定は大きな制度転換こそ見送られたものの、かかりつけ医には「体制整備」「データ提出」「地域連携」を前提とした診療の質と説明責任が一層求められる内容といえる。 参考 1) 中央社会保険医療協議会 総会(厚労省) 2) かかりつけ医の報酬、26年度改定は小幅 メリハリ欠く(日経新聞) 3) 生活習慣病管理料の療養計画書は患者署名を不要とする方針(日経メディカル) 4) 厚労省が個別改定項目を提示 機能強化加算とかかりつけ医機能報告制度のひも付けは行わず(同) 3.マイナ保険証の利用率レセプトベースで49.5%に/厚労省厚生労働省は、2025年11月のマイナ保険証利用率が49.5%だったと公表した。厚労省はこれまで用いてきた「オンライン資格確認件数ベース」ではなく、レセプト件数ベースで初めて算出。レセプト件数ベースは、実際に診療を受けた患者数に近い指標であり、利用実態をより正確に反映するとされている。利用率は前月から2.22ポイント、前年同月比では約30ポイント上昇しており、制度移行後も着実に浸透が進んでいることが示された。参考値として示されたオンライン資格確認件数ベースでは、25年12月時点で47.7%だった。マイナ保険証を通じて取得された情報の閲覧利用件数は、25年11月分で診療情報が約6,094万件、薬剤情報が約2,296万件、特定健診等情報が約3,062万件に上った。これらは患者の同意を前提に医療機関や薬局が活用した実績であり、外来診療や薬物療法における情報連携が一定程度機能していることを示す。その一方で、薬剤情報や健診情報の閲覧件数は前月から減少しており、必ずしも「取得した情報を十分に使い切れていない」現場の実態もうかがえる。デジタル庁によると、マイナ保険証の利用登録件数は9,000万件を超え、マイナンバーカード保有者の約9割、総人口比でも約73%に達しているなど登録は広がる一方、実際の利用はまだ途上といえる。国は今後、薬剤重複投与の防止や高額療養費の窓口負担軽減といったメリットの周知を強化する方針。医療現場では、スマートフォン対応マイナ保険証に対応した施設が約8.4万に拡大しているものの、患者側のスマホ登録は約500万件にとどまる。かかりつけ医・開業医にとっては、利用率が「5割」に近づいた今、単なる資格確認手段としてではなく、薬剤・健診情報を診療にどう活かすかが問われる段階に入った。今後の評価制度やDX加算の在り方を見据え、現場での活用度が差別化要因になりつつある。 参考 1) マイナ保険証利用率49.48%、昨年11月 レセプト件数ベースで初めて公表 厚労省(CB news) 2) マイナ保険証、利用登録9,000万件超え 年内「9割超え」目指す(Impress Watch) 4.出生数急減、少子化の加速で自治体の7割が「地域社会の維持に影響」/厚労省厚生労働省は1月23日に2025年11月分の「人口動態統計速報」を公表した。これによると、2025年1~11月の出生数は64万5,255人と前年同期比で2.5%減少した。外国人を含む数値で、日本人のみの通年出生数は、過去最少だった2024年の約68万人をさらに下回る見通し。1899年の統計開始以降初めて2024年は70万人を割り込み、少子化は加速局面に入ったといえる。未婚・晩婚化の進行や子育て費用の負担感が主因とされ、婚姻数は2025年1~11月で1.1%増加したものの、出生数の回復には結び付いていない。こうした少子化を背景に、人口減少が地域社会に及ぼす影響も深刻化している。日本経済新聞社が実施した全国首長調査では、自治体の約7割が「人口減少が地域社会の維持に影響している」と回答した。2~3年後の人口動向については、8割超の自治体が「人口減が進む」と見通し、2割は「想定以上のスピード」と答えた。とくに四国、中国、東北など地方部で危機感が強い。影響が最も大きい分野は「地域コミュニティー」で、祭りや住民活動の維持が困難とする自治体は7割超に上る。公共交通網への影響も顕著で、全国の7割以上が「すでに影響が出ている」と回答し、担い手不足と財政制約が限界に近付いている。人口減対策としては「子育て支援」を挙げる自治体が最多で、医療費無償化や保育・給食の無償化が効果的施策として重視されている。少子化の進行は将来の医療需要や地域医療体制にも影響が及ぶ可能性があり、医療政策と地域政策を横断した対応が求められている。 参考 1) 人口動態統計速報(令和7年11月分)(厚労省) 2) 25年1~11月出生数64万5千人(共同通信) 3) 25年出生数、通年で最少の可能性 24年の約68万人を下回る見通し(産経新聞) 4) 自治体の7割、急速な人口減で地域社会の維持「困難」 全国首長調査(日経新聞) 5.東大教授が収賄容疑で逮捕、国際卓越研究大の認定 相次ぐ不祥事でガバナンス焦点/東大警視庁は2026年1月24日、東京大学大学院医学系研究科の教授(皮膚科学、62歳)を収賄容疑で逮捕した。報道によれば、民間団体との共同研究で便宜を図った見返りとして、共同研究先の一般社団法人から高級クラブや性風俗店を含む接待(約30回、計約180万円相当)を受けた疑いがある。国立大学法人の教職員は刑法上「みなし公務員」に当たり、金銭に限らず接待などの利益供与も収賄の対象となり得る。認否は明らかにされていない。共同研究は、同大学側に設置された社会連携講座で、大麻草由来成分の1つであるカンナビジオール(CBD)の皮膚疾患への有効性などを検討する目的だったとされる。運営費は民間側が負担する枠組みで、研究内容の選定や実施方針に影響し得る立場の研究者が接待を受けた点は、臨床研究の中立性・利益相反管理への不信を招きやすい。また、同講座を巡っては2025年にトラブルが表面化し、同大学が検証や制度見直しに動いた経緯が報じられている。研究資金の受入れや対外契約を伴う「社会連携講座」は医療系でも増えている一方、ガバナンスの脆弱性が露呈すれば、研究者個人のみならず大学・医局・附属病院全体の信頼や共同研究の継続性に波及する。同大学は国の「国際卓越研究大学」認定を巡り継続審査となっており、不祥事が続く中で、研究資金・外部連携の管理体制やコンプライアンス強化の実効性が問われる局面を一段と厳しくする。 参考 1) 東大大学院教授収賄疑い 法人側 接待の場で教授に研究の要望か(NHK) 2) 東京大学でまたも汚職事件 10兆円ファンドの支援、組織改革が左右(日経新聞) 3) 東大大学院教授を収賄容疑で逮捕 風俗店などで180万円分の接待か(朝日新聞) 4) 銀座のクラブに吉原のソープ 収賄容疑の東大大学院教授が受けた接待(同) 5) 国際卓越研究大に東京科学大と京大 「本命視」の東大、なぜ継続審査(同) 6.77日連続勤務の果てに若手医師自殺、病院側を提訴/千葉県千葉県松戸市の市立病院に勤務していた男性医師が2023年に自殺したのは、病院側が労働環境の管理を怠り、過重な長時間労働を強いたことが原因だとして、遺族が病院を運営する松戸市を相手取り、約1億8,900万円の損害賠償を求めて山形地裁に提訴した。男性医師は2021年に大学を卒業後、臨床研修を経て2023年4月に同病院へ勤務を開始した。訴状などによると、勤務開始直後から業務負担は極めて重く、2023年4月の時間外労働は約150時間、5月は約198時間に達した。4月3日からは77日間連続で勤務し、休日は一切なかったとされる。入院患者の診療に加え、専門外来や救急当番にも従事し、労働時間はいわゆる「過労死ライン」とされる月100時間を大きく超える状態が続いていた。6月中旬には適応障害を発症し休職したが、7月初旬に職場復帰した後も業務量は軽減されず、同月26日に自殺した。遺族は、長時間労働と連続勤務が強い心理的負荷となり、精神障害の発症となり自殺に至ったと主張。病院側には業務量調整や健康管理を行う「安全配慮義務」があったにもかかわらず、これを怠ったとしている。報道によれば、この事案については労災認定されたとされる。病院側は「係争中のためコメントは差し控える」としている。 参考 1) 医師「過労自殺」と病院側を提訴 両親、1億8,900万円賠償求め(共同通信) 2) 松戸市の病院勤務医が77日連続勤務後に自殺 山形市の遺族が市を提訴し1億9,000万円求める(山形放送)

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妊娠中のアセトアミノフェン、神経発達症と関連なし

 アセトアミノフェンは、妊娠中の解熱・鎮痛の第1選択薬であり、非ステロイド性抗炎症薬やオピオイドより安全性が高いとされる一方で、近年自閉スペクトラム症(ASD)などの神経発達症への影響が議論され、注目を集めた。そこで、イタリア・University of ChietiのFrancesco D'Antonio氏らは、妊娠中のアセトアミノフェン使用と児のASD、注意欠如・多動症(ADHD)、知的障害(ID)リスクの関連を検討するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、妊婦のアセトアミノフェン使用とこれらの神経発達症のリスクとの間に関連はみられなかった。本研究結果は、The Lancet Obstetrics, Gynaecology, & Women's Health誌オンライン版2026年1月16日号に掲載された。 研究グループは、MEDLINE、Embase、ClinicalTrials.gov、Cochrane Libraryを用いて、2025年9月30日までに発表されたコホート研究を検索した。対象の研究は、妊娠中のアセトアミノフェン使用と小児アウトカム(ASD/ADHD/ID)を評価し、調整済み推定値が示されているものとした。本研究の主要解析では、きょうだい比較を用いた研究に限定して、妊娠中のアセトアミノフェン使用とASD、ADHD、IDの関連を評価した。また、バイアスリスクが低い研究や追跡期間が5年以上の研究についても解析した。 主な結果は以下のとおり。・システマティックレビューには43件の文献が抽出され、そのうち17件がメタ解析の対象となった。・きょうだい間比較を用いた研究において、妊娠中のアセトアミノフェン使用は、児のASD、ADHD、IDのいずれとも関連がみられなかった。オッズ比(OR)、95%信頼区間(CI)、p値、I2値は以下のとおり。 ASD:0.98、0.93~1.03、p=0.45、I2=0% ADHD:0.95、0.86~1.05、p=0.31、I2=18% ID:0.93、0.69~1.24、p=0.63、I2=48%・バイアスリスクが低い研究のみに限定した解析でも、児のASD、ADHD、IDのいずれとも関連はみられなかった。OR、95%CI、p値、I2値は以下のとおり。 ASD:1.03、0.86~1.23、p=0.78、I2=75% ADHD:0.97、0.89~1.05、p=0.49、I2=10% ID:1.11、0.92~1.34、p=0.28、I2=57%・調整済み推定値を報告したすべての研究を含めた解析や、5年以上の追跡期間を有する研究に限定した解析においても、一貫して関連はみられなかった。 本研究結果について、著者らは「現在のエビデンスでは、用法・用量どおりにアセトアミノフェンを使用した妊婦の児において、ASD、ADHD、IDが臨床的に重要な程度で増加することは示されなかった。これらの知見は、妊娠中のアセトアミノフェンの安全な使用に関する現在の推奨を支持するものである」とまとめている。

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NSAIDsによるVTEリスク上昇は本当?~アセトアミノフェンと比較

 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、静脈血栓塞栓症(VTE)発症リスクを上昇させる可能性が指摘されている。しかし、VTE発症リスクの上昇は、NSAIDsが必要となる患者背景による影響を受けている可能性も考えられている。そこで、松尾 裕一郎氏(東京大学)らの研究グループは、日本のレセプトデータベースを用いた研究において、NSAIDsとアセトアミノフェンのVTE発症リスクを比較した。その結果、新規にNSAIDsを処方された患者は、アセトアミノフェンを処方された患者と比較して、VTE発症リスクが有意に低かった。一方で、NSAIDsを処方された患者は、NSAIDsを処方されていない患者と比較するとVTEリスクが高かった。著者らは、アセトアミノフェンがVTE発症リスクを上昇させないと仮定すると、NSAIDsがVTE発症リスクを上昇させるわけではないことが示唆されたとしている。本研究結果は、Journal of Internal Medicine誌オンライン版2026年1月3日号で報告された。 研究グループは、JMDCのレセプトデータベースを用いて、NSAIDsまたはアセトアミノフェンが2013年4月~2022年2月の期間に新規処方された18~65歳の患者を特定した。処方日前365日以内にいずれかの薬剤の処方歴がある患者、抗凝固薬の処方歴がある患者、VTEの既往がある患者などが除外された。主要評価項目は、処方から60日以内のVTE(肺塞栓症または下肢深部静脈血栓症)の発症とした。傾向スコアオーバーラップ重み付け法により背景因子を調整し、群間比較を行った。また、NSAIDs非処方患者を対照とした解析、COX-2阻害薬と非選択的NSAIDs/COX-1阻害薬の比較も実施した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は、NSAIDs処方群428万2,421例、アセトアミノフェン処方群272万8,202例であった。・追跡期間中にVTEを発症したのは全体で1,504例(0.022%)であった。・傾向スコアオーバーラップ重み付け法により背景因子を調整後、NSAIDs処方群はアセトアミノフェン処方群と比較して、VTE発症リスクが有意に低かった(調整ハザード比[aHR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.62~0.80)。・60日以内のVTE発症率の調整群間差は-0.006%(95%CI:-0.010~-0.003、p<0.001)であった。・NSAIDs処方群はNSAIDs非処方群と比較して、VTE発症リスクが有意に高かった(aHR:3.18、95%CI:2.85~3.55)。・COX-2阻害薬と非選択的NSAIDs/COX-1阻害薬の比較では、VTE発症リスクに有意差はみられなかった(aHR:1.01、95%CI:0.85~1.19)。 本研究結果を踏まえて、著者らは「VTE発症リスクへの懸念からNSAIDsを避けてアセトアミノフェンを選択することは、必ずしも合理的ではない可能性がある」と述べている。

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『がん患者におけるせん妄ガイドライン』改訂、抗精神病薬+ベンゾジアゼピン系薬など現場で多い処方を新規CQに 

 2025年9月、『がん患者におけるせん妄ガイドライン 2025年版』(日本サイコオンコロジー学会/日本がんサポーティブケア学会編、金原出版)が刊行された。2019年の初版から改訂を重ね、今回で第3版となる。日本サイコオンコロジー学会 ガイドライン策定委員会 せん妄小委員会委員長を務めた松田 能宣氏(国立病院機構近畿中央呼吸器センター心療内科/支持・緩和療法チーム)に改訂のポイントを聞いた。――「がん患者におけるせん妄」には、その他の臨床状況におけるせん妄とは異なる特徴がある。がん治療にはオピオイド、ステロイドなどの薬剤が多用されるが、それらが直接因子となったせん妄が多くみられる。さらに、近年では免疫チェックポイント阻害薬に代表されるがん免疫療法の普及に伴い、この副作用としてせん妄を発症する患者も増えている。また高カルシウム血症や脳転移など、がんに伴う身体的問題を背景としてせん妄を発症することもある。進行がん患者におけるせん妄は、その原因が複合的であることが多い。さらに、終末期におけるせん妄では身体的要因の改善が困難であり、治療目標をせん妄の回復からせん妄による苦痛の緩和に変更し、それに合わせてケアを組み立てていく必要もある。総論に7つの個別テーマを新設 2025年版は前版と比較して約40ページ増となった。総論では、「関連する病態についてより詳しく説明できるとよいのでは」という委員会の議論を経て、7つのテーマを追加した。 総論に追加したテーマは以下のようになっている。1.アルコール離脱せん妄(評価のためのスコア、薬物治療)2.術後せん妄(周術期神経認知障害、超高齢・がん外科治療の文脈も含む)3.低活動型せん妄(頻度・症状・鑑別・マネジメント)4.身体拘束に関する考え方(実態・葛藤・多職種アプローチ・法的倫理的視点)5.認知症に重畳するせん妄(頻度・リスク因子・評価・対応)6.せん妄とがん疼痛の合併(終末期、可逆的などで分岐する対応アルゴリズムなど)7.在宅におけるせん妄診療(介護者負担、投与経路制限、在宅継続の可否、在宅アルゴリズムなど) 「アルコール離脱せん妄」はがん患者に限ったものではないが、アルコールが関連するがん、たとえば頭頸部がんとの関連が深いため、別個に取り上げた。通常、せん妄治療にベンゾジアゼピン系薬を単剤で使うことはほぼないが、アルコール離脱せん妄の場合は適応となるなど、治療の独自性も高い。「術後せん妄」は、通常のがん患者におけるせん妄とはまた状況が異なり、頻度も高いため、改めて扱うこととした。 せん妄は「過活動型せん妄」「低活動型せん妄」「活動水準混合型」の3つに分類される。中でも低活動型せん妄は見逃しやすく、がん患者での頻度が高いために取り上げた。「身体拘束」は、これまで過活動型の患者に対し、安全性確保のために拘束するケースがあった。しかし、近年はその有害性が報告されるようになっており、拘束を最小限にするための多職種によるアプローチをまとめた。 高齢化社会の進行の中で「認知症」とせん妄を併発する患者が増えている。なかなか鑑別が難しいが、評価や対応についてまとめた。また、「せん妄とがん疼痛の合併」も非常に多いパターンで、中等度以上の痛みを伴うがん患者の3分の1以上がせん妄を合併している、との報告もある。ここには厚労省科研費里見班による報告があったので、そちらの治療アルゴリズムを掲載している。前版までは病院におけるせん妄治療が中心だったが、在宅医療におけるせん妄も増加していることを受け、介護者の存在や薬剤の制限など、在宅医療独自の状況を踏まえて項目を作成した。CQでは予防と併用療法の項目を追加 CQは4つ新設し、前版の12から15となった。増えたCQは以下のとおりとなっている。CQ3:ラメルテオン単独投与による予防は推奨されるか?CQ4:オレキシン受容体拮抗薬単独投与による予防は推奨されるか?いずれも「単独で投与しないことを提案する」(推奨の強さ:2、エビデンスの確実性:D) 予防目的の薬物治療として、新規睡眠薬(ラメルテオン/オレキシン拮抗薬)を明示的に扱うようになったのが大きな変更点となる。いずれも現時点では予防に有効とのエビデンスは確立しておらず、「単独で投与しないことを提案する」との記載となった。予防には非薬物的介入が第1選択という点は前版から変わらないが、実臨床においてはせん妄予防よりも睡眠リズムをつくることを目的に新規睡眠薬を投与する医師が一定数いると予想され、こうした処方までを一概に否定するものではない。高リスク群など一部の集団においては「個々の患者の状況やリスクを適切に評価し、予防的投与の妥当性を判断することが必要」との点も明記した。CQ11:症状軽減を目的に、抗精神病薬+ベンゾジアゼピン系薬の併用投与は推奨されるか?「併用で投与することを提案する」(推奨の強さ:2、エビデンスの確実性:C) このCQに関する文献は1件のみで、エビデンスとして質の高い研究ではあったものの、試験対象が「すでにハロペリドールを定時投与されている終末期の重症せん妄患者」に限定されていたことには注意が必要だ。よって、どんな症例でも併用投与を推奨するわけでなく、症例ごとの見極めが重要になる。また、試験の治療薬はロラゼパム注とハロペリドール注であったが、日本ではロラゼパム注が使われることは少なく、今後は日本で汎用されているベンゾジアゼピン系薬での検討や、重症例以外の検討が求められる。CQ12:症状軽減を目的に、抗精神病薬+抗ヒスタミン薬の併用投与は推奨されるか?「併用で投与しないことを提案する」(推奨の強さ:2、エビデンスの確実性:D) せん妄に認められる不穏の症状に対して、抗ヒスタミン薬や抗精神病薬を用いることがあるが、抗ヒスタミン薬はせん妄の原因ともなり得るなど安全性の懸念も残る。検討対象となった観察研究では、併用投与によるアウトカム改善は認められなかったため、「併用で投与しないことを提案する」との記載になった。 がん患者のせん妄は、臨床試験が組みにくく、エビデンスが蓄積されにくい分野だ。理由としては、患者ごとにせん妄の原因が異なっているため試験の組み入れ条件をそろえることが難しい、終末期患者が多く同意取得が困難、といった背景がある。一方、患者数は多く、医療者・患者/家族ともケアに悩むことが多い分野でもある。今後も限られたエビデンスを集め、ガイドラインのアップデートや外部評価に努めたい。患者自身や家族がケアに関わることも多いので、同じ学会で作成する『がん患者における 気持ちのつらさガイドライン』『がん医療における 患者・医療者間のコミュニケーションガイドライン』と一緒に、患者向けガイドの作成も進めている。

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月1回の注射で重症喘息患者の経口ステロイド薬が不要に?

 重症喘息があり、発作予防のために毎日、経口コルチコステロイド薬(以下、経口ステロイド薬)を使用している人は少なくない。しかし、経口ステロイド薬には重い副作用を伴うことがある。 こうした中、英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)呼吸器免疫学臨床教授のDavid Jackson氏らが、治療へのテゼペルマブの追加が重症喘息患者の症状と経口ステロイド薬の必要性にもたらす効果を調べる第3b相臨床試験を実施。その結果、この抗体薬により対象患者の90%で毎日の経口ステロイド薬の使用量を減らすことができ、約半数で経口ステロイド薬の使用を完全に中止することができたことが示された。テゼペルマブは、免疫系の一部を標的とするよう設計された抗体薬で、肺の炎症を軽減する働きがある。製薬企業のAstraZeneca社とAmgen社の資金提供を受けて実施されたこの臨床試験の結果は、英国胸部疾患学会(BTS)冬季学術集会(BTS Winter Meeting 2025、11月26~28日、英ロンドン)で発表されるとともに、「Lancet Respiratory Medicine」に11月26日掲載された。 喘息患者を支援する非営利団体Asthma + Lung UKのリサーチ・ディレクターで、この臨床試験には関与していないSamantha Walker氏は、「これは将来の喘息治療に向けた極めて有望な進展であり、重症喘息患者の人生を大きく変える可能性がある」と話している。 重症の喘息は消耗性で、命に関わることもある。患者は多くの場合、症状を抑えるために毎日経口ステロイド薬を使用するが、この薬は骨粗鬆症や糖尿病、感染症の発症リスクを高める可能性があることが知られている。  今回の臨床試験には、11カ国の68の臨床施設で登録された298人(女性69.1%)の重症喘息患者が参加した。患者は4週間に1回、210mgのテゼペルマブの注射を最長で52週間にわたって受けた。また、喘息の症状や服薬に関する質問票に回答した。主要評価項目は、喘息コントロールを悪化させることなく経口ステロイド薬の処方用量を1日5mg以下に削減できた参加者の割合、および経口ステロイド薬を中止した参加者の割合とし、試験開始から28週目と52週目(試験終了時)に評価した。ベースラインにおける経口ステロイド薬の平均維持用量は1日10.8mgであった。 その結果、喘息コントロールを悪化させることなく経口ステロイド薬の処方用量を5mg/日以下に削減できた参加者の割合は、28週目で88.9%(265人)、52週目で89.9%(268人)であった。また、経口ステロイド薬の使用を中止できた参加者の割合は、28週目で32.2%(96人)、52週目で50.3%(150人)であった。さらに、52週間にわたる試験期間中、患者の約3分の2(66.9%)では喘息発作が発生しなかったことも確認された。 論文の筆頭著者であるJackson氏は、今回の臨床試験の結果について、「重症度が最も高いタイプの喘息の患者にとって重要な前進だ」とKCLのニュースリリースの中で述べている。同氏は、「テゼペルマブはアレルギー関連症状を抑えることや、慢性副鼻腔炎の改善をもたらすことも明らかにされている。したがって、この臨床試験の結果は、特に上気道症状と下気道症状の両方がある重症喘息患者にとって有望な結果である」と付け加えている。  なお、テゼペルマブは、喘息治療に導入された最初の抗体薬ではない。研究グループによると、昨年実施されたKCLの別の試験では、すでに承認されている別の抗体薬のベンラリズマブでも同様の有効性が報告されているという。

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化学療法中のワクチン接種【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第6回

化学療法中のがん患者は、化学療法の影響や原疾患により免疫力が低下しているため、感染症に罹患しやすく重症化しやすい傾向があります。国内のガイドラインやASCOガイドラインおいても、がん患者の治療やケアにおいて適切なワクチン接種がもたらす良い影響が述べられています。今回は固形がん化学療法中の患者を想定した、5つの主なワクチンの特徴や効果、推奨される接種時期についてお話しします。1)インフルエンザワクチン背景がん患者がインフルエンザに罹患した場合、死亡のリスクが高いことが複数の研究から報告されています。とくに肺がんや血液腫瘍患者はより重症化するリスクが高いことが知られています。インフルエンザワクチンは、A型(H3N2・H1N1)とB型の3株を含む混合ワクチンであり、世界的流行株とWHO推奨株に基づき毎年選定されるため、毎年の接種が推奨されます。健康な人における有効性は70~90%程度とされていますが、流行株との一致度により変動します。予防効果と安全性複数の研究から、血清学的な反応は健康な人と比較して劣る可能性はあるものの、予防医学的な意義は明らかであることがメタアナリシスにより示されています。近年、高用量インフルエンザワクチン(商品名:エフルエルダ筋注)が承認され、米国では65歳以上のがん患者に高用量ワクチン接種が推奨されています。化学療法中のインフルエンザワクチン投与に関してとくに重篤な有害事象が増加するという報告はありません。注意点リツキシマブやオファツムマブ、オビヌツズマブなどの治療後は、少なくとも半年間はワクチン効果が期待できない可能性があります。また、免疫抑制薬を服用中の患者でも効果が低い場合があります。接種時期インフルエンザワクチンは10~12月までの接種が推奨されています。化学療法の開始前(少なくとも2週間前)に接種するのが理想ですが、治療中に流行期を迎える場合は接種時期を調整する必要があります。化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期(nadir)を避けて接種することが望ましいです。2)肺炎球菌ワクチン背景日本の成人市中肺炎では、肺炎球菌が最も頻度の高い起炎菌です。65歳以上や糖尿病・心不全などの基礎疾患を有する場合には、重症感染症を起こしうるため、肺炎球菌ワクチン接種が推奨されています。国内データでは、侵襲性肺炎球菌感染症の死亡率は約19%と高く、患者の約7割は65歳以上です。また、固形がん患者や脾摘患者が肺炎球菌感染症に罹患した場合、非がん患者と比較して死亡のリスクが高いことが報告されています。予防効果と安全性肺炎球菌ワクチンによる抗体価の上昇は、化学療法中であっても健康な人と同等であると報告されています。化学療法中の肺炎球菌ワクチン投与に関してとくに重篤な有害事象が増加するという報告はありません。ワクチンの特徴ポリサッカライドワクチン(ニューモバックス[PPSV23]:定期接種)と結合型ワクチン(キャップバックス[PCV21]、プレベナー20[PCV20]、バクニュバンス[PCV15])の2種類があります。免疫力をつける力(免疫原性)はPCV21/20/15のほうがPPSV23より高いです。日本ワクチン学会・日本感染症学会・日本呼吸器学会では、がん患者へのPCV20の1回接種もしくはPCV15とPPSV23の連続接種を推奨しています。画像を拡大する接種時期肺炎球菌感染症は1年を通して発生するため、季節を問わず接種が可能です。化学療法開始前(少なくとも2週間前)に接種、もしくは化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期(nadir)を避けて接種することが望ましいです。3)帯状疱疹ワクチン背景水痘帯状疱疹ウイルス(ヘルペスウイルス3型)初感染は水痘として発症し、感染後に後根神経節に不活性状態で長期間潜伏します。その後、加齢・疲労・病気などで免疫が弱まるとウイルスが再活性化し、帯状疱疹として発症します。症状は片側に帯状に広がる発疹と刺すような痛みが典型的で、約10%の症例で帯状疱疹後神経痛が発生し、QOLを低下させる原因になります。免疫不全のない患者と比較して、固形がん患者は約5倍、血液がん患者は約10倍帯状疱疹の頻度が高いことが報告されています。画像を拡大する安全性化学療法中の帯状疱疹ワクチン投与に関してとくに重篤な有害事象が増加するという報告はありません。生ワクチンは、免疫低下患者(がん薬物療法中やステロイド使用中)には接種不可です。接種時期化学療法の開始前(少なくとも2週間前)に接種します。化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期(nadir)を避けて接種することが望ましいです。4)新型コロナ(COVID-19)ワクチン背景がん患者はCOVID-19に罹患すると重症化しやすいため、ワクチン接種の利益は大きいです。そのため、基本的には接種を検討すべきとされています。ただし、がんの種類や治療内容、免疫状態により、効果や副反応が異なる可能性があります。治療のタイミングにより接種時期を調整したほうがよい場合もあります。副反応が治療の有害事象と区別しにくい場合があるため注意が必要となります。総じて、患者ごとの状況に応じて主治医と相談して判断することが重要と考えられます。予防効果と安全性ワクチンを接種したがん患者約3万例を対象とした観察研究が報告されており、がん患者であってもCOVID-19ワクチンを2回接種することで感染リスクが低下することが示されています。一方でワクチンの感染リスク低下効果は58%(非がん患者:90%以上)であり、がん患者ではワクチンの効果が減弱する可能性が示唆されています。とくにワクチン接種前6ヵ月以内に化学療法を受けた場合はワクチンの効果が低いことが報告されています。定期的な追加接種が推奨され、感染時は早期の受診と抗ウイルス薬治療が重要となります。接種時期基本的に最新の推奨スケジュールに従った接種が推奨され、明確な最適時期はまだ不明ですが化学療法の開始前に接種して、化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期を避けて接種することが望ましいです。抗CD20抗体(リツキシマブやオビヌツズマブなど)治療後半年以内はワクチンの効果が乏しいことが示されています。注意事項ワクチン接種により、接種側の腋窩・鎖骨上窩・頸部リンパ節の腫大が報告されており、PETでも集積を認めることがあり、転移との鑑別が必要になる場合があります。画像検査の際にはワクチン接種歴と部位の情報を得ておくことが望ましいです。5)RSウイルスワクチン背景高齢者、慢性の基礎疾患(喘息、COPD、心疾患、がんなど)、免疫機能が低下している人は、RSウイルス感染症の重症化リスクが高く、肺炎、入院、死亡などの重篤な転帰につながる可能性があります。また、RSウイルス感染症は、喘息、COPD、心疾患などの基礎疾患の増悪の原因となることもあり、日本では約6万3,000例の入院と約4,500例の院内死亡が推定されています。米国での大規模データ研究では、がん患者がRSウイルス感染症に罹患した場合、非がん患者と比較して死亡のリスクが2倍以上高いことが報告されています。画像を拡大する接種時期化学療法の開始前(少なくとも2週間前)に接種します。化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期(nadir)を避けて接種することが望ましいです。1)Kamboj M, et al. JCO Oncol Pract. 2024;20:889-892. 2)日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会. 新型コロナウイルス感染症とがん診療について(医療従事者向け)Q&A:2021.3)国立がん研究センター:がん情報サービス4)日本乳癌学会. 乳癌診療ガイドライン2022年版. 金原出版:2022.5)アレックスビー筋注用添付文書6)アブリスボ筋注用添付文書講師紹介

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ショック状態に対する治療をしない場合は責任を負う?【医療訴訟の争点】第17回

症例近年、高齢患者の急変時対応では、基礎疾患・予後を踏まえた治療方針の選択が重要となる。本稿では、ショック状態に陥った患者に対し救命処置を行わなかった医師の判断の適否が争われた、東京地裁令和7年2月27日判決を紹介する。<登場人物>患者76歳・男性(既往歴:間質性肺炎、双極性障害、糖尿病)原告患者の配偶者および子被告医療法人(内科・精神科を標榜する病院)事案の概要は以下の通りである。事案の概要を見る平成28年7月咳が続く・胸痛があると訴えて被告病院を受診。被告病院の紹介により国立病院を受診し、間質性肺炎と診断平成30年5月内服薬の処方中止後も咳が再燃しなくなったため、通院終了平成31年1月25日ここ数日食事が取れない、具合が悪いなどと訴えて、被告病院再受診。精査目的で入院。入院時のバイタル値は、体温36.8℃、脈拍93回/分、血圧149/90mmHg、SpO2 98%、呼吸は平静。腹部CT検査上は異常所見を認めなかった。細菌性の感染症疾患を疑い、抗菌薬の点滴投与と補液を開始。1月26日午前9時28分頃胸部CT検査。前日からこの日までの間に、両肺下葉に新たな浸潤影が出現。午前10時頃右肺の雑音や著明な痰がらみが見られ、白黄色痰が大量に吸引。午後3時頃肺雑音が両肺に生じ、再び白黄色痰が大量に吸引。37.6℃の発熱、呼吸がやや努力様、SpO2 76~80%に低下。酸素投与(2L/分)開始。午後4時40分頃酸素投与量が増量(7L/分)。両肺の雑音や発熱は続くも、痰がらみが消失して呼吸も平静、SpO2 96%。午後8時頃ジクロフェナクナトリウム(商品名:ボルタレン、解熱剤)の投与などもされ、体温は36.8℃に低下、肺の雑音も消失。1月28日午前2時熱(38℃)午前5時白黄色痰が大量に吸引担当医は、抗菌薬投与にかかわらず呼吸状態の悪化が続いていることから、細菌性の感染症ではなく、間質性肺炎の急性増悪であると判断し(ただし、細菌性の感染症を鑑別するための血液検査や細菌培養検査は行っていない)、抗菌薬の点滴投与を中止して、ステロイドミニパルス療法(ソル・メルコート500mg/日に生理食塩水100mL/日を付加したものを点滴投与)を開始。以後、発熱が断続的に見られたものの、肺の雑音は認められなくなり、呼吸は平静のままで経過。1月30日午前11時20分酸素投与量が7L/分から6L/分に減量。午後1時頃呼吸が促拍するようになる。午後3時SpO2 98%であるも、発熱(37.4℃)や少量の白色痰が見られる。血圧148/87午後5時30分SpO2 90%に低下、発熱(38.5℃)と肺雑音が見られ、黄色痰が大量に吸引される。血圧114/81。解熱のためジクロフェナクナトリウム投与。午後8時頃両肺の雑音や多量の黄色痰が見られ、SpO2 94%に低下し、努力様呼吸になって呼吸状態が急激に悪化。収縮期血圧が74/64に低下し、心拍数は120~130回/分に上昇。膝から下にチアノーゼが出現し、四肢が脱力した状態。担当医は、容体急変は間質性肺炎の急性増悪による(血圧低下についてはジクロフェナクナトリウムの影響もある)もので、ステロイドミニパルス療法が奏功しない限り救命困難と判断。ステロイドミニパルス療法と酸素投与(6L/分)のほかに治療は行わず、容体急変の原因を探るためのCT検査や血液検査などの検査も行わなかった。午後10時頃SpO2が上昇(午後9時時点で99%、午後10時時点で96%)、収縮期血圧も90台まで上昇(午後9時時点で90/23mmHg、午後10時時点で92/78)も、四肢の脱力、努力様呼吸や黄色痰が大量に吸引される状態が継続。1月31日午前0時下顎様呼吸、瞳孔拡大、血圧およびSpO2が測定不能。午前2時15分死亡2月2日午後3時他院において病理解剖。要旨は以下のとおり。(1)死因に関与した臓器を挙げるならば、肺または心臓と考えられる。(2)肺については、胸膜直下~隔壁の高度な線維化、線維化巣内の蜂巣構造、線維芽細胞巣(fibroblastic foci)を認め、隣接する領域の肺胞構造は保たれており、UIP(通常型間質性肺炎)パターンと考えられた。肺は、UIPパターンの間質性肺炎であるが、病理解剖時に採取した血液を用いた間質性肺炎マーカー検査の結果(KL-6値274U/mL〔基準値:500U/mL未満〕、SP-A値18.9ng/mL〔基準値:43.8ng/mL未満〕、SP-D値82.8ng/mL〔基準値:110ng/mL未満〕)からも活動性の低いものではなかったかと疑われ、これのみで死に至るものか疑問が残る。(3)心臓は、不安定プラークを疑う冠動脈病変を伴っており、心筋にも全周性の虚血性変化が見られたが、この変性像は区域性には見えず、アーチファクトの可能性もある。あえて推測すれば、剖検時に冠動脈に明らかな血栓形成はないが、肺うっ血水腫の存在と併せて、新鮮な心筋梗塞による心原性ショックは否定できない。(4)臓器別に病理組織学的検索を行った範囲では、直接死因を確定することは困難であり、臨床情報と併せて判断する必要がある。実際の裁判結果本件において、1月30日午後8時頃の急変・ショック状態(収縮期血圧は74mmHg、心拍数120〜130回/分、尿量減少、四肢チアノーゼ、努力様呼吸など)につき、担当医は、間質性肺炎急性増悪が原因であり救命は困難、輸液は肺水腫の悪化を招くとして、酸素投与以外の処置を行わず、ステロイドミニパルス療法のみにより経過を見る方針とした。これに対し、原告(患者の相続人ら)は、輸液負荷、昇圧薬、気管挿管、原因鑑別のための血液検査・画像検査などの救命処置をすべきであったと主張した。裁判所は、以下の点を指摘し、「1月30日午後8時の時点での本件患者の状態は、輸液剤や血管収縮薬の投与といった救命処置を行い、ショックの原因を把握した上で、それに対する治療を行うべきものであった」とした。ショックでは、血圧低下、心拍の異常(頻脈など)、呼吸の異常(頻呼吸)、皮膚の異常(末梢血管の収縮など)といった症状が見られ、一般的に、収縮期血圧90mmHg以下がショックの基準となる。午後8時時点において、本件患者は、血圧74/64と著しい低下、心拍数の120~130回/分への上昇、努力様呼吸、膝から下のチアノーゼの出現は、いずれもショックの症状というべきであり、とくに収縮期血圧については、ショックの基準値を大きく下回るので、本件患者はショックに陥って容体が急変したといえる。ショックは、迅速な原因の同定と治療介入がされなければ臓器不全を来し、死に至る症候群であるため、一般に、まずは、生命の危機的状況を避けるための救命処置を行う必要がある。本件患者に見られた1月30日の収縮期血圧の低下は、持続的に生じている上、膝から下にチアノーゼが生じ、末梢の循環不全を来すものであった。末梢の循環不全を来したショックについて、救命処置を行わずに血圧低下が持続すると、不可逆的な転帰を招く可能性があった。本件において被告病院は、「呼吸状態の悪化や血圧低下といった当時の本件患者の状態は、間質性肺炎の急性増悪や数時間前に投与したジクロフェナクナトリウムの影響によるものであって、救命不可能な状態に陥っており、輸液剤の投与などは肺水腫を招くなどかえって死期を早めるため、それらの投与を行うべきではなかった」と主張していた。これに対し、裁判所は、以下の点を指摘し、「被告病院の担当医には、1月30日午後8時頃、本件患者に対し、輸液剤や血管収縮薬の投与といった救命処置を行い、ショックの原因を把握した上で、それに対する処置・治療を行うべき注意義務があった」として、これらの処置を行わなかった注意義務違反(過失)があると判断した。血圧低下については、その数時間前に投与されたジクロフェナクナトリウムの影響はあったと認められるものの、呼吸状態の悪化など当時の本件患者の症状に照らし、ジクロフェナクナトリウムの影響だけで血圧低下の説明が付けられるかは疑問が残ること。血圧低下がジクロフェナクナトリウムによるものであったとしても、ショックに対する初期対応が不要となるものでもないこと。間質性肺炎の主症状の一つは乾性咳嗽(痰を伴わない乾いた咳)であり、典型的な間質性肺炎の急性増悪は痰を伴わない一方、黄色痰は感染症の可能性を示す所見であること。本件患者は、呼吸がやや努力様になった1月26日には白黄色痰が大量に吸引されており、1月30日午後5時30分や呼吸状態が急激に悪化した同日午後8時にも大量の黄色痰が見られているため、間質性肺炎の急性増悪とは必ずしも整合せず、細菌性肺炎などの感染症に罹患していたことを疑わせる所見があったこと。担当医は、本件患者に対して細菌培養検査などの感染症を除外鑑別するための検査を行っておらず、感染症の除外鑑別も積極的に行われていなかったため、当時の客観的な状態としては、感染症の罹患もなお疑うべきものであったこと。次に、裁判所は、本件患者の死後に行われた病理解剖の結果も踏まえてショックおよびショックに続く死亡の原因を検討し、以下のように、間質性肺炎急性増悪の可能性が相対的に高いものの、死亡原因は特定できないとした。「本件患者のショック(容体急変)ないしそれに続く死亡の原因は、間質性肺炎の急性増悪であった(少なくとも一定の寄与があった)可能性が相対的に高いものの、これと断ずることはできず、細菌性肺炎などの感染症による敗血症性ショックや心筋梗塞などによる心原性ショックが原因であった可能性も否定できず、その特定は困難であるといわざるを得ない」その上で、裁判所は考えられるそれぞれの原因につき、以下の点を指摘した上で「1月30日午後8時の段階で本件患者に対して救命処置が行われていたとしても、本件患者の上記死亡を回避できたとの高度の蓋然性があるということはできない」として、注意義務違反(過失)と本件患者の死亡との因果関係を否定し、被告の損害賠償責任を否定した。心筋梗塞などによる心原性ショックが原因である場合には、救命処置によって本件患者に生じた死亡を回避できた蓋然性があるが、そもそも、心原性ショックであった可能性も否定できない程度のものにとどまる。このため、この点をことさら強調するのは相当ではない。ショックなどの原因が敗血症性ショックであった場合でも、救命処置によって一定の効果があり、いったんは生命の危機的状況を脱し得た可能性はある。しかし、本件患者に生じた死亡を現実に回避するためには、感染症に対する治療として、血液培養検査などを行って同定した起炎菌に合う抗菌薬を投与する必要があり、これら一連の対応を執るのには相応の時間を要する。このため、本件患者にショックが生じてから死亡する約6時間のうちに、これら一連の対応を執って何らかの治療・救命効果が発揮されたということはできない。原因としての可能性が相対的に高い間質性肺炎の急性増悪については、「いったんは酸素化が安定しても、最終的には努力性呼吸から低酸素血症となり、死に至る」経過をたどることとなる。しかし、本件患者は、この努力様呼吸や下顎様呼吸が認められたのであるから、救命処置によってこれらの努力様呼吸などに至るのを回避できた現実的な可能性はなかった。注意ポイント解説本件は、ショック状態の患者に対する救命処置の要否が争点となった事案である。裁判所は、医師に輸液・昇圧薬などの救命処置を行う義務を認めつつ、その不履行と死亡との因果関係は否定し、結論として医療機関の損害賠償責任を否定した。すなわち、注意義務違反が成立しても、結果(死亡)との法的因果関係が認められない場合に責任が否定される典型例といえる。この点、注意義務違反がある場合に、義務違反と生じた結果との間の法的な因果関係があれば、損害賠償責任が肯定されることとなる。この法的因果関係については、「経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明すること」がなされた場合に認められる。本件は、考えられるショックおよびその後の死亡の原因のそれぞれについて、救命処置をとったことで死亡を回避できた「高度の蓋然性」が認められなかったために、法的因果関係がないものとされた。もっとも、「高度の蓋然性」が認められない場合であっても、「死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性」が認められる場合には、その可能性を侵害した損害が認められることとなる。そして、この「相当程度の可能性」については、比較的緩やかに肯定される傾向が否めない。このため、注意義務違反(過失)があるとされる場合において、「相当程度の可能性」すらも否定されて損害賠償責任が否定されるケースは少ない傾向にある。本件では、死亡の原因を特定しえないため、救命処置により「死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性」を証明のしようもないことから、相当程度の可能性も否定され、損害賠償責任が否定されたものである。なお、本件では、担当医が看取りを視野に入れた方針転換をしつつも、これを家族に説明していなかったという事情があり、裁判所は「遺族が強い不満を抱くことは理解できる」としている。このため、本件は医師が「治療方針転換をする際の説明の在り方」と「急変時の最小限の救命処置の必要性」を再確認させるものでもある。医療者の視点本判決において、裁判所は「ショック状態に対する輸液や昇圧薬の投与、原因精査を行うべき注意義務があった」とし、これを行わなかった医師の過失(注意義務違反)を認定しました。臨床現場の感覚としては、間質性肺炎の急性増悪が強く疑われる局面において、肺水腫を助長しうる輸液負荷や、全身状態が悪い中での負担の大きい検査を躊躇するのは、医学的には理解できる判断です。しかし、裁判所は当時の客観的なバイタルサイン(著しい血圧低下など)に基づき、まずは原因特定と標準的な救命処置を行うべきであったと判断しました。とくに本件で教訓とすべきは、担当医が「救命困難」と判断し、実質的に「看取り」の方針へ転換していたにもかかわらず、その説明と同意が家族となされていなかった点です。実臨床において、医学的に予後不良が明白であり、侵襲的な処置が患者の利益にならないと医師が確信する場合であっても、家族への十分な説明と合意(アドバンス・ケア・プランニングなど)のプロセスを経ずに標準治療を省略することは、法的責任を問われるリスクがあることを再認識する必要があります。Take home message高齢者・基礎疾患を抱える患者の急変時対応では、救命可能性が低い場合でも、診療録や家族への説明を含めた臨床判断のプロセスが重要である。とくに、救命処置をしない場合、家族への説明と同意の取付けは不可欠である。キーワード間質性肺炎、ショック、救命処置、看取り、法的因果関係、高度の蓋然性、相当程度の可能性

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フィネレノン、慢性心不全の適応追加/バイエル

 バイエル薬品は、非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬フィネレノン(商品名:ケレンディア)への慢性心不全の適応追加を2025年12月22日に取得したことを発表した。 本適応追加は、日本人を含むLVEF40%以上の心不全患者約6,000例を対象とした国際共同第III相臨床試験FINEARTS-HF1)に基づき承認された。同試験でフィネレノンは、主要評価項目である心血管死およびすべて(初回および再発)の心不全イベント(心不全による入院または緊急受診)の相対リスクを統計学的有意に16%減少させた(rate ratio:0.84[95%信頼区間:0.74~0.95、p=0.0072])。また、フィネレノンの忍容性は良好で、既知の安全性プロファイルと一貫していた。<適応追加後の「効能又は効果」「用法及び用量」>●効能又は効果・2型糖尿病を合併する慢性腎臓病 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。・慢性心不全 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。●用法・用量<2型糖尿病を合併する慢性腎臓病>通常、成人にはフィネレノンとして以下の用量を1日1回経口投与する。eGFRが60mL/min/1.73m2以上:20mgeGFRが60mL/min/1.73m2未満:10mgから投与を開始し、血清カリウム値、eGFRに応じて、投与開始から4週間後を目安に20mgへ増量する。<慢性心不全>通常、成人にはフィネレノンとして以下の用量を1日1回経口投与する。eGFRが60mL/min/1.73m2以上:20mgから投与を開始し、血清カリウム値、eGFRに応じて、投与開始から4週間後を目安に40mgへ増量する。eGFRが25mL/min/1.73m2以上60mL/min/1.73m2未満:10mgから投与を開始し、血清カリウム値、eGFRに応じて、投与開始から4週間後を目安に20mgへ増量する。

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全身型重症筋無力症と多発根神経炎患者の自己注射が容易に/アルジェニクス

 アルジェニクスジャパンは、2025年12月15日、全身型重症筋無力症(gMG)と慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)を適応疾患とする抗FcRn抗体フラグメント・ヒアルロン酸分解酵素配合製剤「ヒフデュラ配合皮下注シリンジ」を発売した。本製剤は、エフガルチギモド アルファ[遺伝子組換え]・ボルヒアルロニダーゼ アルファ[遺伝子組換え](商品名:ヒフデュラ)を含有したプレフィルドシリンジ製剤。 gMGは、IgG自己抗体が神経と筋肉の間の伝達を妨害することで、消耗性で生命を脅かす可能性のある筋力低下を引き起こすまれな慢性自己免疫疾患。全身の筋力低下、易疲労性が出現し、とくに眼瞼下垂、複視などの眼の症状を起こしやすい。重症化すると呼吸筋の麻痺を来し、呼吸困難になることもある。 CIDPは、四肢筋力低下と感覚障害を主な特徴とする免疫介在性脱髄性末梢神経障害。発症・病態機序は、まだ十分解明されていない。長期間にわたり再発と寛解を繰り返し、患者の運動機能や日常生活動作に支障を来し、QOLの低下や就業への影響などさまざまな負担をもたらす。 本剤では薬液があらかじめシリンジに充填されていることで、患者の利便性の向上や医療従事者および介護者の負担が軽減されることが期待されている。<製品概要>一般名:エフガルチギモド アルファ(遺伝子組換え)・ボルヒアルロニダーゼ アルファ(遺伝子組換え)製品名:ヒフデュラ配合皮下注シリンジ効能または効果:・全身型重症筋無力症(ステロイド剤またはステロイド剤以外の免疫抑制剤が十分に奏効しない場合に限る)・慢性炎症性脱髄性多発根神経炎用法および用量:〔全身型重症筋無力症〕 通常、成人には本剤1回5.0mL(エフガルチギモド アルファ(遺伝子組換え)として1,000mgおよびボルヒアルロニダーゼ アルファ(遺伝子組換え)として10,000単位)を1週間間隔で4回皮下投与する。これを1サイクルとして、投与を繰り返す。〔慢性炎症性脱髄性多発根神経炎〕 通常、成人には本剤1回5.0mL(エフガルチギモド アルファ(遺伝子組換え)として1,000mgおよびボルヒアルロニダーゼ アルファ(遺伝子組換え)として10,000単位)を週1回皮下投与する。製造販売承認取得日:2025年9月19日薬価収載日:2025年11月12日発売日:2025年12月15日薬価:66万5,026円(5.0mL 1筒)製造販売元:アルジェニクスジャパン株式会社

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慢性鼻副鼻腔炎の手術後の再発を防ぐ留置ステントへの期待/メドトロニック

 日本メドトロニックは、慢性副鼻腔炎手術後に使用するわが国初のステロイド溶出型生体吸収性副鼻腔用ステント「PROPEL」の発売によせ、都内でプレスセミナーを開催した。セミナーでは、慢性副鼻腔炎の疾患概要と診療の現状と課題などが講演された。副鼻腔炎手術後の再発予防への期待 「慢性副鼻腔炎の病態と最新治療-手術療法を中心に-」をテーマに、鴻 信義氏(東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科学講座 教授)が講演を行った。 はじめに鼻腔内の解剖を説明するとともに、副鼻腔炎について、誰もがなりうる疾患であり、急性副鼻腔炎で3ヵ月以上鼻閉、粘性・膿性鼻漏、頭重感、嗅覚障害、後鼻漏などの症状が持続した場合、慢性副鼻腔炎と診断される。患者はわが国には、100万~200万人と推定され、その中でも好酸球性副鼻腔炎患者は20万人と推定されている。慢性化すると鼻茸(ポリープ)がしばしば発生し、病態は悪化するが生命予後に大きく関係することもないので、病状に慣れてしまい、放置や受診控えなどの患者も多いという。その一方で、重症例での内視鏡下副鼻腔手術は年間6万例行われている。 鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎患者の疾患負荷として鼻閉、鼻漏、嗅覚障害などに関連し、食品などの危険察知の低下や仕事のパフォーマンスの低下、睡眠障害などが指摘され、QOLに大きな影響を及ぼす。 慢性副鼻腔炎には、黄色ブドウ球菌や肺炎球菌を原因とする非好酸球性副鼻腔炎と喘息患者に多く鼻茸を伴う好酸球性副鼻腔炎があり、後者は指定難病に指定され、寛解が難しいケースは眉間などに膿が貯まる病態とされている。 慢性副鼻腔炎の保存療法としては、・鼻処置・副鼻腔自然口開大処置・ネブライザー・上顎洞洗浄、鼻洗浄・薬物療法(抗菌薬、消炎酵素薬、気道粘液調整・溶解薬、抗アレルギー薬、ステロイド、漢方薬など)の4つの療法が行われ、効果がみられない場合に手術適応となる。 現在行われている内視鏡下副鼻腔手術(ESS)では、術後の患者の自覚症状やQOLは大きく改善されている一方で、術後1年にわたる加療継続、半数が数年で再発するなどの課題も指摘されている。そして、再発例では、再手術、ステロイド投与、分子標的薬投与などが行われる。とくにステロイド投与については、症状の改善に効果はあるものの投与薬剤や方法が統一化されていないことや骨粗鬆症や肝障害のリスクなどの課題も治療現場では危惧されている。また、現在使用されているスプレー式では、患部に確実に届かなかったり、長時間の作用がなかったりという課題も明らかになっている。 そこで、こうした課題の解決のために登場したステロイド溶出型生体吸収性副鼻腔用ステントであれば、30日間鼻腔内にステロイド成分を放出することで再発防止となり、良好な術後ケアができることが期待されている。すでに米国では10年以上使用されており、効果や安全性も確認されている。 最後に鴻氏は、「ステントの留置で術後の再燃リスクを大幅に低減する可能性があり、わが国の慢性副鼻腔炎の術後管理の在り方を変えることに期待している」と結び、講演を終えた。

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アトピー性皮膚炎患者に最適な入浴の頻度は?

 アトピー性皮膚炎患者にとって入浴は判断の難しい問題であり、毎日の入浴が症状の悪化を引き起こすのではないかと心配する人もいる。こうした中、新たなランダム化比較試験で、入浴の頻度が毎日でも週に1~2回でも、入浴がアトピー性皮膚炎の症状に与える影響に違いはないことが明らかになった。 この試験を実施した英ノッティンガム大学臨床試験ユニットのLucy Bradshaw氏は、「アトピー性皮膚炎の人でも自分に合った入浴頻度を選べることを意味するこの結果は、アトピー性皮膚炎の症状に苦しむ人にとって素晴らしい知らせだ」と述べている。この臨床試験の詳細は、「British Journal of Dermatology」に11月10日掲載された。 アトピー性皮膚炎は、皮膚の水分保持力の低下や外的刺激や病原体から体を守る力(バリア機能)の低下により、皮膚の乾燥、かゆみ、凹凸などが生じる疾患である。今回の試験では、438人のアトピー性皮膚炎患者(16歳未満108人)を対象に、入浴の頻度が症状に与える影響が検討された。入浴は、シャワーだけを浴びる場合とバスタブに身体を浸す場合の双方を含めた。対象者は、4週間にわたり、週に1〜2回入浴する群(220人)と毎日(週に6回以上)入浴する群(218人)にランダムに割り付けられた。主要評価項目は、週に1回、POEM(patient oriented eczema measure)を使って患者が報告したアトピー性皮膚炎の症状であった。 その結果、ベースライン、および1、2、3、4週目の平均POEMスコアは、毎日入浴した群でそれぞれ14.5点、11.7点、12.2点、11.7点、11.6点、週1〜2回入浴した群ではそれぞれ14.9点、12.1点、11.3点、10.5点、10.6点であった。両群間の4週間の平均POEMスコアの調整差は−0.4(95%信頼区間−1.3~0.4、P=0.30)であり、有意な差は認められなかった。 共著者の1人であり、自身もアトピー性皮膚炎に罹患しているノッティンガム大学Centre of Evidence Based Dermatology(CEBD)のAmanda Roberts氏は、「この研究結果には非常に安心した」と話す。同氏は、「日常生活の中にはアトピー性皮膚炎の症状に影響する可能性があるものがたくさんある。そのため、入浴やシャワーの頻度はそこに含まれないと知っておくのは、心配事が一つ減って喜ばしいことだ」と話している。 研究グループは次の研究で、アトピー性皮膚炎の再発の治療において、ステロイド薬をどのくらいの期間使用すべきかを調べる予定だという。Bradshaw氏は、「アトピー性皮膚炎患者と緊密に協力しながらこの研究を共同設計できたことは素晴らしい経験だった。われわれは、これまでの研究では十分に注目されてこなかった、アトピー性皮膚炎患者の生活にまつわる疑問に答えを見つけ始めたところだ」と述べている。

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日本の精神科外来における頭痛患者の特徴とそのマネジメントの現状

 頭痛は、精神科診療において最も頻繁に訴えられる身体的愁訴の1つであり、しばしば根底にある精神疾患に起因するものと考えられている。1次性頭痛、とくに片頭痛と緊張型頭痛は、精神疾患と併存することが少なくない。しかし、精神科外来診療におけるこれらのエビデンスは依然として限られていた。兵庫県・加古川中央市民病院の大谷 恭平氏らは、日本の総合病院の精神科外来患者における頭痛の特徴とそのマネジメントの現状を明らかにするため、レトロスペクティブに解析を行った。PCN Reports誌2025年10月30日号の報告。 2023年4月〜2024年3月に、600床の地域総合病院を受診したすべての精神科外来患者を対象に、レトロスペクティブカルテレビューを実施した。全対象患者2,525例のうち、頭痛関連の保険診断を受けた360例(14.3%)を特定し、頭痛のラベル、治療科、処方薬に関するデータを抽出した。カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)を標的としたモノクローナル抗体について、追加の処方を含む探索的症例集積を行うため、観察期間を2025年3月まで延長した。 主な結果は以下のとおり。・頭痛関連の保険診断を受けた360例において、頻度の高い病名は、頭痛(203例、56.4%)、片頭痛(92例、25.6%)、緊張型頭痛(46例、12.8%)であった。群発頭痛と薬物乱用性頭痛はそれぞれ1例(0.3%)であった。・頭痛治療は、精神科(153例、42.5%)で最も多く行われており、次いで神経内科(42例、11.7%)、脳神経外科(40例、11.1%)、一般内科(28例、7.8%)、リウマチ科/膠原病科(15例、4.2%)の順であった。・使用された薬剤クラスは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)(40例、11.1%)、アセトアミノフェン(38例、10.6%)、トリプタン系薬剤(23例、6.4%)、漢方薬(16例、4.4%)、抗CGRPモノクローナル抗体(6例、1.7%)などであった。・薬剤レベルでは、アセトアミノフェン(38例)が最も多く、次いでロキソプロフェン(33例)、ゾルミトリプタン(14例)、五苓散(8例)、スマトリプタン(6例)、葛根湯(6例)、ジクロフェナク(4例)、バルプロ酸(4例)、ナラトリプタン(3例)の順であった。・2025年3月までの患者7例を対象とした探索的CGRP解析では、6例が女性で、平均年齢は48.4±9.2歳であった。・精神疾患の併存疾患は多様であり、摂食障害、双極症、心的外傷後ストレス障害、社会不安障害を伴う気分変調症、統合失調症、自閉スペクトラム症、神経症性うつ病などが併存疾患として挙げられた。・すべての症例において頭痛の改善が認められた。2例は再発性発作のため、他の抗CGRPモノクローナル抗体への切り替えを必要としたが、その効果は維持された。1例は発疹のため一時的に投与を中止したが、その後、他の抗CGRPモノクローナル抗体を再開した。なお、気分/不安の中期的変化は限定的であった。 著者らは「精神科外来において、1次性頭痛は一般的であり、精神科で頻繁にマネジメントされていることが明らかとなった。抗CGRPモノクローナル抗体は、精神疾患が併存している患者においても頭痛の緩和をもたらすが、精神症状は改善したわけではなく、頭痛に特化したケアと並行してメンタルヘルス介入を行う必要性が示唆された。精神科における専門分野横断的な連携と早期の頭痛評価を強化することが重要であると考えられる」と結論付けている。

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成人期発症の再発型ネフローゼ症候群に対する抗CD20抗体の治療効果(解説:浦信行氏)

 成人におけるネフローゼ症候群の頻度は膜性腎症(MN)が多いが、微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)や巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)も少なくない。これらはステロイド療法に効果を示す一方で、頻回再発型ネフローゼ症候群(FRNS)やステロイド減量で再燃するステロイド依存性ネフローゼ症候群(SDNS)を呈することが多い。その結果、ステロイド使用期間が長期化し、骨脆弱性や感染症などの合併症を来しやすい。 CD20はB細胞の表面に存在するタンパク質で、B細胞の活性化や増殖に関与する細胞表面マーカーである。この病態に対する治療的アプローチとして、タイプI抗CD20モノクローナル抗体であるリツキシマブ(RTX)の治療効果が検討されるようになった。現在まで活動性ループス腎炎(LN)やMNで有効性が検討されている。活動性LNは全身性エリテマトーデス(SLE)の中でも重症病態の1つであり、LN患者の約20%が15年以内に末期腎不全に至る。しかし、LNの臨床試験においてその評価は無効・有効とする報告が相半ばする。MNに関してはシクロスポリンとの比較試験(MENTOR試験)が報告されており、RTXは有意に寛解率が高値であったが、それでも部分寛解も含めて60%にとどまる。 このたびは、成人におけるFRNSとSDNSを対象とした、わが国での多施設共同研究の結果がJAMA誌オンライン版として2025年11月5日号に掲載され、その概要が11月21日配信のジャーナル四天王に掲載された。RTX群36例と対照群36例の小規模試験で、投与のタイミングは1、2、25週の3回である。解析対象は66例にとどまり、組織診断では両群のMCNS+FSGSが各々93%と94%と多数を占めたが、49週での無再発率はRTX群で87.4%と良好な結果を示した。副作用は開始後30~120分の輸液反応が主体で、RTXによる直接の作用とは考え難いが、劇症肝炎や無顆粒球症などの重篤な副作用の報告があり、慎重な経過観察が望まれる。今後必要な検討はより多数例で長期の試験であるが、望ましい投与のタイミングや投与量の検討も治療効果を高めるため必須である。

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日本の外科医における筋骨格系障害の有病率

 わが国では外科医の業務に関連した筋骨格系障害(MSD)に対する認識は限定的である。今回、自治医科大学の笹沼 英紀氏らが日本の一般外科医におけるMSDの有病率、特徴、影響を調査した。その結果、日本の外科医におけるMSD有病率はきわめて高く、身体的・精神的健康に影響を及ぼしていることが示唆された。Surgical Today誌オンライン版2025年11月14日号に掲載。 本研究では、日本の大学病院ネットワークに所属する一般外科医136人を対象に電子アンケートを実施した。Nordic Musculoskeletal Questionnaireの修正版を用いて、人口統計学的特性、作業要因、MSD症状、心理的苦痛、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の使用状況とそれらの影響を評価した。 主な結果は以下のとおり。・慢性MSDは37.7%、急性MSDは51.9%に確認された。・これらの障害は、外科医の業務(30.0%)および日常生活(39.0%)に頻繁に影響を与え、休業(5.2%)や医療介入(28.6%)につながっていた。・両タイプのMSDはNSAID使用と心理的苦痛に有意に関連し、とくに頸部痛はNSAID使用と強く関連した。・週当たりの低侵襲手術実施件数は急性MSDと有意に関連したが、慢性MSDとは関連しなかった。 この結果から、著者らは「高いMSD有病率と、頸部痛とNSAID依存の強い関連は、この重要な労働力を守るために、外科診療における人間工学的介入と予防戦略の差し迫った必要性を強調している」と提言している。

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