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第21回 高齢者糖尿病の感染症対策、どのタイミングで何をする?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第21回 高齢者糖尿病の感染症対策、どのタイミングで何をする?Q1 COVID-19流行による受診機会減少、運動不足解消への具体的な対応策は?COVID-19流行に不安を感じ、受診を控える患者さんは少なくありません。適切な通院間隔は個々の症例によって異なるため、一概には言えませんが、通院間隔が短いほうが血糖コントロールが良好となる傾向があります。糖尿病診療において血糖測定(およびHbA1c測定)は重要な要素であるため、自己血糖測定を行っていない場合にオンラインや電話診療のみで加療をするのは困難です。したがって、血糖コントロールが良好な状態が維持できていれば通院間隔を延長する(最大3ヵ月)、もともと不良であったり、悪化傾向がみられる場合には通院間隔を短縮するといった柔軟な対応が必要です。患者さんの背景にもよりますが、HbA1c 6%台であれば3ヵ月ごと(インスリン使用者は除く)、7%台であれば2ヵ月ごと、8%台であれば1ヵ月ごとなどの目安を患者さんに提示し、受診の必要性を理解していただくことも効果的です。COVID-19流行に伴い外出機会や活動量が低下した高齢糖尿病患者さんも多く経験します。高齢者は活動量が低下すると容易に筋力が低下しますので、活動量の維持は重要です。1人あるいは同居者とのウォーキングで感染リスクが高まることはまずないと考えますので、可能な方には、人込みを避けたウォーキングを推奨しています。また、室内でできる運動としてラジオ体操や当センター研究所 社会参加と地域保健チームで開発された「本日の8ミッション」などを提示しています。「本日の8ミッション」は、つま先あげや、ももあげ、スクワットなどからなり、チェックシートがホームページよりダウンロードできます。また、座位行動時間に注目した指導も有効です。ADA(米国糖尿病学会)によるStandards of medical care in diabetes 2020では座位行動時間の短縮が推奨されています。30分以上座り続けないことで血糖値が改善するといわれており1)、自宅にいても30分に1回は立ち上がるよう患者さんに指導しています。Q2 誤嚥性肺炎の効果的な予防法について教えてください高齢者肺炎の多くを占めると考えられているのが誤嚥性肺炎です。糖尿病患者は脳梗塞による嚥下障害や高血糖による免疫能低下を介し、誤嚥性肺炎のリスクが高いと考えられます。誤嚥性肺炎は、睡眠中などに口腔内の細菌が唾液とともに下気道に流入する不顕性誤嚥により生じると考えられており、口腔内を清潔に保つことが重要です。コロナ禍の現在でも歯磨き習慣の確認や口腔内のセルフチェックを促すことは重要です。嚥下機能が低下している場合には、嚥下機能の回復を目指したリハビリ(通院が困難な場合は在宅でも可能)や嚥下状態に合わせた適切な食形態への変更が必要です。鎮静薬や睡眠薬、抗コリン薬などの口腔内乾燥をきたす薬剤は嚥下障害をきたしやすいため、適切な使用がなされているか評価する必要があります。また、肺炎一般の予防として肺炎球菌やインフルエンザワクチンの接種も有効です。肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチンとも肺炎による入院減少が示されており、両者の併用により、さらに入院頻度が減少することが示されています2)。なお、経鼻胃管や胃瘻造設による誤嚥性肺炎の予防効果は示されていません。Q3 尿路感染症の効果的な予防法・無症候性細菌尿への対応は?糖尿病は尿路感染症のリスクであることが知られており、そのリスクは血糖コントロール不良(HbA1c 8.5%以上)により高くなります3)。また、糖尿病患者では男女とも無症候性細菌尿の頻度が高いことも知られていますが4)、一部の例外(妊婦、好中球減少、泌尿器処置前)を除き、無症候性細菌尿に対するスクリーニングや治療は推奨されません5)。ただし、SGLT-2阻害薬の使用は尿路感染症のリスクとなる可能性があるため、現時点で明確なエビデンスがあるわけではありませんが、使用開始前に評価し、無症候性細菌尿が認められれば、使用を慎重に検討する必要があると考えます。閉経後女性140名を対象とした無作為比較試験では、1.5L以上の飲水により単純性膀胱炎の発症を50%低下することが示されています6)。膀胱炎を繰り返す場合には神経因性膀胱を念頭とした残尿測定やエコーによる尿路閉塞の有無を確認する必要があります。再発性尿路感染症予防におけるクランベリージュースの有効性を検討した研究では、50歳以上の女性においてその有効性が示されていますが7)、否定的な意見もあり8)注意を要します。Q4 歯周病に対する評価や歯科との連携について高齢糖尿病患者では歯周病の罹患率が高く、血糖コントロールが不良であると歯周病が悪化しやすいことが知られています。歯周病が重症化すると血糖コントロールが悪化します。逆に治療により歯周病による炎症が改善すると血糖コントロールも改善することが報告されています9)。歯周病による歯牙の喪失は嚥下障害のリスクとなるほか、オーラルフレイルを介し、身体的フレイルおよびサルコペニアのリスクとなる可能性があるため、歯周病の評価・治療は重要です。高齢糖尿病患者で歯牙の喪失または歯周病があると健康関連のQOL低下は1.25倍おこりやすく、過去12ヵ月間歯科治療を受けていないと1.34倍QOL低下をきたしやすいという米国の70,363人の調査結果も出ています10)。歯科との連携に際し、日本糖尿病協会が発行している「糖尿病連携手帳」を利用することが多いです。「糖尿病連携手帳」にはHbA1cなどの検査結果を記載するページとともに眼科・歯科の検査結果を記載するページもあり、受診時に患者さんに持参していただくことで情報の共有が可能です。もともとの状態や血糖コントロール状況にもよりますが、一般に3~6ヵ月間隔での評価が推奨されています。1)American Diabetes Association. Diabetes Care. 2020 Jan;43:S48-S65.2)Kuo CS, et al.Medicine (Baltimore). 2016 Jun;95:e4064.3)McGovern AP, et al.Lancet Diabetes Endocrinol. 2016 Apr;4:303-4.4)Renko M, et al.Diabetes Care. 2011 Jan;34:230-55)JAID/JSC 感染症治療ガイドライン2015-尿路感染症・男性性器感染症-,日本化学療法学会雑誌 Vol. 64, p1-3,2016年1月.6)Hooton TM, et al.JAMA Intern Med. 2018 Nov 1;178:1509-1515.7)Takahashi S, et al.J Infect Chemother 2013 Feb;19:112-7.8)Nicolle LE. JAMA. 2016 Nov 8;316:1873-1874.9)Munenaga Y, et al.Diabetes Res Clin Pract. 2013 Apr;100:53-60.10)Huang DL, et al.J Am Geriatr Soc. 2013 Oct;61:1782-8.

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治療フローが様変わり、「肝硬変診療ガイドライン2020」の変更点とは

 肝硬変の非代償期と聞けば誰しもが諦めていたものだが、時代遅れと言われぬよう、この感覚をアップデートさせねばならないようだー。2020年11月、『肝硬変診療ガイドライン2020(改定第3版)』が発刊された。第2版が発刊された2015年から5年もの間に肝硬変治療に関する知見が数多く報告され、治療法は目まぐるしく変化している。そのため、海外の最新治療ガイドライン(GL)と齟齬がないように、かつ日本の実地診療に即したフローとなるよう留意し、日本肝臓学会と日本消化器病学会が対等の立場で初めて合同作成した。今回、その作成委員長を務めた吉治 仁志氏(奈良県立医科大学消化器・代謝内科 教授)に非専門医もおさえておくべき変更点やGLの活用方法についてインタビューした。肝硬変症状、プライマリケアでも早期発見を 今回の改訂において、“実地医家(プライマリケア医)にも使いやすい”を基本に作成を進めたと話した吉治氏。同氏によると、肝硬変は肝臓専門医による診療だけではなく、実地医家による日々の診療からの気付きが重要だという。「これまで非代償期の患者は予後不良で治療も困難であった。しかし、肝硬変は非代償期からも可逆性である事が明らかとなると共に、この5~10年の間に新薬が次々と登場し肝硬変治療に対する概念が変わったことで、非代償期を含めた肝硬変を非専門医にも診察してもらう意味がある」と説明した。 今回のフローチャートの見やすさや検査項目の算出のしやすさは、そんな状況変化を反映させ刷新しており、肝硬変診断のフローチャートの身体所見に『黄疸』『掻痒感』が追加されたのもその一例である。同氏は「黄疸は進行例で発見されることが多く実地医家では診療が困難であったため、これまで所見として含まれていなかったが、現況を顧みて追加した」と補足した。一方、掻痒感については「多くの非専門医は肝臓疾患がもたらす痒みの認識が薄いように感じる。そのため、抗ヒスタミン薬などで経過観察され、その間に肝疾患が進行してしまう場合も散見される。冬場は乾燥によるかゆみを訴える患者も多いが、肝疾患によるかゆみは抗ヒスタミン薬が無効である例が多く、ほかの所見もあれば血液検査を行い肝臓疾患の有無について判別を行ってほしい」と訴えた。栄養療法を簡単に個別化できるフローチャートへ 肝硬変治療で重要となる栄養療法もフローチャートが明確になり非専門医でも利用しやすくなっているが、これには近年の肝硬変患者の成因変化が影響している。2008年の肝硬変成因別調査

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SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendationを改訂/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会(理事長:植木 浩二郎)は、2014年に策定された「SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation」を改訂し、2020年12月25日に第6版を公表した。 2017年9月以降より発売されているSGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬の配合薬の留意点、成人1型糖尿病患者におけるインスリン製剤との併用療法でのケトアシドーシスのリスクや注意点についてなどについて記載されている。学会では、これらの情報がさらに広く共有されることで、副作用や有害事象が可能な限り防止され、適正使用が推進されるように注意を促している。SGLT2阻害薬の適正使用に関する8つの Recommendation1)1型糖尿病患者の使用には一定のリスクが伴うことを十分に認識すべきであり、使用する場合は、十分に臨床経験を積んだ専門医の指導のもと、患者自身が適切かつ積極的にインスリン治療に取り組んでおり、それでも血糖コントロールが不十分な場合にのみ使用を検討すべきである。2)インスリンやSU薬などインスリン分泌促進薬と併用する場合には、低血糖に十分留意して、それらの用量を減じる(方法については下記参照)。患者にも低血糖に関する教育を十分行うこと。3)75歳以上の高齢者あるいは65歳から74歳で老年症候群(サルコペニア、認知機能低下、ADL低下など)のある場合には慎重に投与する。4)脱水防止について患者への説明も含めて十分に対策を講じること。利尿薬の併用の場合には特に脱水に注意する。5)発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する。また、手術が予定されている場合には、術前3日前から休薬し、食事が十分摂取できるようになってから再開する。6)全身倦怠・悪心嘔吐・腹痛などを伴う場合には、血糖値が正常に近くてもケトアシドーシス(euglycemic ketoacidosis:正常血糖ケトアシドーシス)の可能性があるので、血中ケトン体(即時にできない場合は尿ケトン体)を確認するとともに専門医にコンサルテーションすること。特に1型糖尿病患者では、インスリンポンプ使用者やインスリンの中止や過度の減量によりケトアシドーシスが増加していることに留意すべきである。7)本剤投与後、薬疹を疑わせる紅斑などの皮膚症状が認められた場合には速やかに投与を中止し、皮膚科にコンサルテーションすること。また、外陰部と会陰部の壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)を疑わせる症状にも注意を払うこと。さらに、必ず副作用報告を行うこと。8)尿路感染・性器感染については、適宜問診・検査を行って、発見に努めること。問診では質問紙の活用も推奨される。発見時には、泌尿器科、婦人科にコンサルテーションすること。そのほかの記載事項・副作用の事例と対策・重症低血糖・ケトアシドーシス・脱水・脳梗塞等・皮膚症状・尿路・性器感染症

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第20回 高齢者の肥満、食事・運動療法の方法と薬剤選択は?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第20回 高齢者の肥満、食事・運動療法の方法と薬剤選択は?Q1 肥満症を合併した高齢者糖尿病ではどのような食事・運動療法を行うべきですか?食事・運動療法を行うにはまず、膝関節疾患や心血管疾患の有無をチェックし、認知機能、身体機能(ADL、サルコペニア、フレイル・転倒)、心理状態、栄養、薬剤、社会・経済状況、骨密度などを総合的に評価します。80歳以上の肥満症では治療によって血管障害や死亡のリスクを減らせるというエビデンスに乏しくなります。しかしながら、減量によって疼痛が軽減され、QOLが改善されるということも報告されていますので、膝関節痛などがある場合は減量を勧めてもいいと思います。肥満症を合併した糖尿病患者ではレジスタンス運動を含めた運動療法と食事療法を併用することが大切です。肥満症の高齢者に食事療法と運動療法の両者を併用し、減量を行うと、食事療法単独または運動療法単独と比べて、身体機能とQOLが改善します。有酸素運動とレジスタンス運動の両者を併用した方がそれぞれ単独の運動よりも歩行速度などの身体能力の改善効果が認められます。レジスタンス運動は肥満症の人は一人で行うことが困難な場合が多いので、介護保険のデイケア、市町村の運動教室などを利用し、監視下で運動することがいいと思います。また、体重による負荷を軽減する運動としてはプール歩行やエアロバイクなどを勧める場合もあります。また、高齢者の肥満では運動療法を行わず、食事療法のみで減量すると骨格筋量や骨密度が減少するリスクがあります。一方、適切なエネルギー量を設定し、運動療法を併用することにより筋肉量、身体機能、および骨密度を低下させることなく減量が可能であるとされています。Look AHEAD研究では高齢糖尿病患者を対象に運動を中心とした生活習慣改善と体重減少を行った介入群では、対照群と比べて、歩行速度が速く、SPPBスコアで評価した身体能力が有意に高いという結果が得られています。介入群は歩行速度低下のリスクが16%減少しました1)。とくに、65歳以上の高齢糖尿病患者でSPPBスコアの改善効果がみられました。食事のエネルギー摂取量に関しては、肥満があるとエネルギー制限を行うことになりますが、過度の制限によるサルコペニア・フレイル・低栄養の悪化に注意する必要があります。肥満高齢者にレジスタンス運動にエネルギー制限を併用した群では運動のみの群に比し体重減少とともに除脂肪量の減少がみられたが、歩行能力や要介護状態は改善し、筋肉内脂肪の減少を認めたという報告があります2)。この結果は減量によって筋肉内の脂肪をとることが筋肉の質を改善することにつながることを示唆しています。「糖尿病診療ガイドライン2019」においては、高齢者では[身長(m)]2×22~25で得られた目標体重に身体活動の係数をかけて総エネルギー量を計算します。J-EDIT研究では目標体重当りのエネルギー量が約25kcal/kg体重以下と35kcal/kg体重以上の群で死亡リスクの上昇がみられ、過度のエネルギー摂取もよくないことが示唆されています3)。高齢者でも肥満があり、減量が必要な場合には目標体重は[身長(m)]2に低めの係数(22~23)をかけて目標体重を求め、目標体重当たり25~30 kcalの範囲でエネルギー量を設定することが望ましいと考えています。一般のサルコペニア・フレイルに対してはタンパク質の十分な摂取(1.0~1.5㎏/㎏体重)が推奨されています。肥満やサルコペニア肥満がある場合のタンパク質摂取に関しては、まだ十分なエビデンスがありませんが、タンパク質は十分に摂取した方がいいという報告があります。膝OAがある高齢糖尿病女性の縦断研究でも、タンパク質の摂取が1.0g/㎏体重以上を摂取した群の方が膝進展力低下や身体機能低下が少ないという結果が得られました(図1)4)。サルコペニア肥満がある高齢女性を低カロリーかつ正常タンパク質(0.8g/㎏体重)摂取群と低カロリーかつ高タンパク質(1.2g/㎏体重)摂取群に割り付けて3ヵ月間治療した結果、骨格筋量の指標は正常タンパク質群では減少したのに対し、高タンパク質摂取群では有意に増加していました5)。したがって、肥満症のある高齢糖尿病患者では、少なくとも1.0g/㎏のタンパク質をとることが望ましいと思われます。画像を拡大するQ2 肥満症を合併した高齢糖尿病、薬物療法は何に注意が必要ですか?個々の病態に合わせて薬物選択を行いますが、肥満があるので、インスリン抵抗性を改善する薬剤を主体に治療します。体重減少を目的にする場合にはメトホルミン(高用量)、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬が使用されます。メトホルミンはeGFR 30ml/min/1.73m2以上を確認して使用し、eGFR 60ml/min/1.73m2以上を確認できれば少なくとも1,500㎎/日以上の高用量で使用します。SGLT2阻害薬は、心血管疾患合併例で、血糖コントロール目標設定のためのカテゴリーI(認知機能正常でADL自立)で積極的に使用し、カテゴリーIIでは運動や飲水ができる場合に使用するのがいいと考えています。GLP-1受容体作動薬は消化器症状に注意して使用します。いずれの薬剤を使用する場合もレジスタンス運動を含む運動を併用し、サルコペニア肥満やフレイルを予防することが大切です。1)Houston DK, et al . J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018;73:1552-1559.2)Nicklas BJ, et al. Am J Clin Nutr. 2015;101:991-999.3)Omura T, et al. Geriatr Gerontol Int. 2020;20:59-65.4)Rahi B, et al. Eur J Nutr. 2016; 55:1729-1739. 5)Muscariello E, et al. Clin Interv Aging. 2016;11:133-140.

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第19回 高齢者の肥満、特有の問題と予後への影響は【高齢者糖尿病診療のコツ】

第19回 高齢者の肥満、特有の問題と予後への影響はQ1 高齢者の肥満、若年者とはちがう特徴とは?最近、高齢糖尿病患者でも肥満症が増えています。我が国の65歳以上の高齢糖尿病患者でBMI 25㎏/m2以上の頻度は2000年から2012年で28.4%から33.0%に増加したという報告もあります1)。こうした高齢者の肥満症の増加は1)加齢に伴う身体活動量の低下2)基礎代謝量の低下3)高齢者の食習慣の欧米化などが関係しているのでないかと思われます。高齢者の肥満症にはいくつかの特徴があります。加齢とともに内臓脂肪は増加し、除脂肪量(骨格筋量)が低下するという体組成の変化が起こり、BMI高値を伴わない腹部肥満、いわゆる隠れ肥満やメタボリックシンドロームが増加します。また、高齢者のBMIは体脂肪量を正確に反映しないことがあります。身長が低下することで、BMIは見かけ上増加することもあります。したがって、高齢者の肥満症の評価にはBMIだけでなく、ウエスト周囲長も測ることが大切です。ウエスト周囲長やウエスト・ヒップ比の高値の方がBMIよりも死亡のリスクの指標となることも知られています。また、高齢期の肥満症では死亡や心血管疾患のリスクが逆に減少するというobesity paradoxがみられる場合があります。これは、BMI低値の方が悪性疾患、サルコペニア、慢性感染症などの併存疾患によるリスクが増加することで、BMI高値におけるリスクが相対的に小さくなることが原因として考えられます。加齢とともに、肥満とサルコペニアが合併したサルコペニア肥満が増えます2)。サルコペニア肥満は糖尿病やメタボリックシンドロームの発症リスクも高いので、高齢者糖尿病でも注意すべきです。サルコペニア肥満では筋肉内の脂肪蓄積によるインスリン抵抗性、炎症、ビタミンD低下などが骨格筋量や筋力の減少をもたらし、身体機能低下をきたすと考えられ考えられています。サルコペニア肥満は、単なる肥満症と比べ、フレイル、ADL低下、転倒、骨粗鬆症、認知機能低下、および死亡をきたしやすいことが特徴です3)。サルコペニア肥満の定義は定まっていませんが、肥満の方は体脂肪%、ウエスト周囲長などで定義しています。われわれの調査では高齢糖尿病患者におけるDXA法による四肢骨格筋量と体脂肪量で定義したサルコペニア肥満の頻度は16.7%という結果でした2)。Q2 高齢者の肥満は身体機能や認知機能、死亡にどのような影響を及ぼしますか?高齢者のBMI 30kg/m2以上の肥満や腹部肥満は、ADL低下、歩行困難、フレイル、易転倒性などの身体機能低下と関連しています。Study of Osteoporosis Fracturesにおける高齢糖尿病患者でも家事や2~3ブロックの歩行が約2~2.5倍障害されると報告されています4)。また、高齢糖尿病患者がフレイルをきたしやすいことも腹部肥満によって一部説明できると報告されています5)。BMI 25kg/m2以上の肥満がある糖尿病患者では複数回の転倒を約3.5倍起こしやすくなります6)。とくにインスリン治療と過体重が重なると、何度も転倒しやすいとされています。中年期の肥満は認知症発症リスクになりますが、高齢期の肥満は認知症発症リスクに抑制的に働くことが知られています。しかしながら、高齢者の肥満患者の体重変化と認知症発症とはJカーブの関連が見られ、体重減少と体重増加の両者がリスクとなっています(図1)。画像を拡大する高齢糖尿病患者でも、BMI低値、体重減少(10%以上)と体重増加(10%以上)が認知症発症の危険因子であると報告されています7)。高齢糖尿病患者ではそれ自体が認知症発症のリスクですが、認知症発症のリスクとなる4つの肥満の中で、体重減少を伴った高齢者の肥満、メタボリックシンドローム(腹部肥満)、サルコペニア肥満に注意する必要があります(図2)。画像を拡大する一方、12の論文のメタ解析により、生活習慣の改善による意図的な体重減少は記憶力と注意力・遂行機能を改善することが明らかになっています8)。 Look Ahead研究では高齢者を含む2型糖尿病患者でもエネルギー制限と運動療法による介入によって、過体重の患者で認知機能の改善が見られています9)。糖尿病初期の肥満症患者を対象にリラグルチド1.8㎎/日を4ヵ月間投与した介入群と対照群で認知機能の変化を検討したRCTでは、両群とも7%の体重減少が得られたが、リラグルチド投与群では短期記憶と記憶複合スコアの有意な増加を認めたと報告されています10)。減量自体の効果よりも、GLP-1の脳のブドウ糖代謝の改善、可溶性AβによるIRS-1のセリンのリン酸化阻害によるインスリン情報伝達障害の改善などによる認知機能の改善効果の可能性もあります。いずれにせよ、高齢者の肥満症の患者では体重減少が意図的か否かに注意する必要があります。高齢糖尿病患者における肥満症と心血管疾患の発症や死亡に関しては、一致した結果が得られていません。肥満症合併の高齢糖尿病患者を対象に生活習慣改善と体重減少の介入を行ったLook AHAED研究では心血管疾患発症の減少は見られなかったと報告されています11)。我が国のJDCS研究とJ-EDIT研究の糖尿病患者のプール解析では、BMI 18.5未満の群で死亡リスクが上昇し、BMI 25㎏/m2以上の群では死亡リスクは増加していませんでした12)。とくに75歳以上ではBMI18.5未満の群の死亡リスクが8.1倍と75歳未満と比べてさらに高くなり、最も死亡リスクが低いBMIは25前後となりました。すなわち、低栄養による死亡リスクの方が増加し、肥満による死亡リスクが相対的に低下したと考えられます。1)Miyazawa I, et al. Endocr J. 2018;65:527-536.2)荒木 厚、周赫英、森聖二郎:日本老年医学会雑誌.2012;49:210-213.3)Batsis JA, et al. J Am Geriatr Soc. 2013;61:974-980.4)Gregg EW, et al. Diabetes Care. 2002; 25: 61-67.5)Volpato S, et al. J Gerontol A BiolSci Med Sci.2005; 60: 1539-1545.6)García-Esquinas E, et al. J Am Med Dir Assoc. 2015;16:748-754.7)Nam GE, et al. Diabetes Care. 2019;42:1217-1224.8)Siervo M, et al. Obes Rev. 2011;12:968-983.9)Espeland MA, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2014;69:1101-1108.10)Vadini F, et al. Int J Obes (Lond). 2020 Jun;44:1254-1263.11)Wing RR, et al. N Engl J Med. 2013;369:145-154.12)Tanaka S, et al. J Clin Endocrinol Metab. 99: E2692-2696, 2014.

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~プライマリ・ケアの疑問~ Dr.前野のスペシャリストにQ!【糖尿病・内分泌疾患編】

第1回 【糖尿病】初療時のコツ第2回 【糖尿病】生活指導から薬物療法に切り替えるタイミングは?第3回 【糖尿病】糖尿病患者の血圧・脂質の管理目標と治療のゴール第4回 【糖尿病】内科で使うべき糖尿病薬のファーストチョイス第5回 【糖尿病】新規糖尿病薬の使い方第6回 【糖尿病】高齢者の治療目標第7回 【糖尿病】慢性合併症の管理第8回 【糖尿病】外来でのインスリン導入第9回 【糖尿病】一歩進んだ外来食事指導第10回 【内分泌疾患】内分泌疾患を見つけるコツ第11回 【内分泌疾患】甲状腺機能亢進症・低下症第12回 【内分泌疾患】内分泌性高血圧第13回 【内分泌疾患】内科医も知っておくべき内分泌緊急症第14回 【内分泌疾患】見落としやすい内分泌疾患 糖尿病、内分泌疾患に関する内科臨床医の疑問をスペシャリストとの対話で解決します!糖尿病については、心血管リスクを考慮した薬剤選択、非専門医が使うべきファーストチョイスなど10テーマをピックアップ。内分泌疾患については、甲状腺機能の異常などの頻繁に見る疾患だけでなく、コモンな症状に隠れている内分泌疾患をジェネラリストが見つけ治療するためのTIPSを解説します。ここでしか聞けない簡潔明解な対談で、スペシャリストの思考回路とテクニックを盗んでください!第1回 【糖尿病】初療時のコツ初回のテーマは、糖尿病の初療時に必ず確認すべき項目。初療のキモは2型糖尿病以外の疾患の除外、そして治療方針を決定するためのアセスメントです。HbA1cだけでなく、いくつかの項目を確認することでその後の治療がグッと効果的なものになります。ポイントを短時間で押さえていきましょう。第2回 【糖尿病】生活指導から薬物療法に切り替えるタイミングは?食事や運動の指導では血糖コントロールがつかず、薬物療法に移行するのは医者の敗北というのは過去の話。薬剤が進歩した現在は、早めに薬物療法を開始するほうがよいケースも多いのです。HbA1cと治療期間の目安を提示し、薬物療法に切り替えるタイミングを言い切ります。第3回 【糖尿病】糖尿病患者の血圧・脂質の管理目標と治療のゴール今回は、血圧と脂質の目標値をズバリ言い切ります。血圧、脂質をはじめとした5項目をしっかりとコントロールすれば、糖尿病であっても健常人とさほど変わらない生命予後が期待できることがわかっています。2つの目標値を確実に押えて、診療をブラッシュアップしてください。第4回 【糖尿病】内科で使うべき糖尿病薬のファーストチョイス糖尿病治療薬は数多く、ガイドラインには”患者背景に合わせて選択する”と記述されていますが、実際に何を選べばいいか困惑しませんか? 今回は、プライマリケアで必要十分なファーストチョイスの1剤、セカンドチョイスの2剤をスペシャリストが伝授します。第5回 【糖尿病】新規糖尿病薬の使い方SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬は、心血管疾患等の合併がある糖尿病患者において、重要な位置付けの薬剤になっています。それぞれの薬剤の使用が推奨される患者像や、使用に際する注意点をコンパクトに解説。この2つの薬剤を押さえて糖尿病治療の常識をアップデートしてください。第6回 【糖尿病】高齢者の治療目標高齢者の治療では、低血糖を防ぐことが何より重要。患者の予後とQOLを考慮した目標値を、ガイドラインから、そしてスペシャリストが使う超シンプルな方法の2点から伝授します。SU薬などの低血糖を生じやすい薬剤を使わざるを得ない場合の注意点や、認知症がある場合の治療のポイント、在宅で有用な薬剤など、高齢者の糖尿病治療の悩みを一気に解決します。第7回 【糖尿病】慢性合併症の管理糖尿病の慢性合併症は、細小血管障害と、大血管障害に分けると、進展予防のためにコントロールすべき項目がわかりやすくなります。必要な検査の間隔と測定項目をパパっと解説します。とくに糖尿病性腎症の病期ごとの検査間隔は必ず押さえたいポイント。プライマリケアでできるタンパク制限やサルコペニア傾向の高齢者に対する指導も必見です。第8回 【糖尿病】外来でのインスリン導入いま、インスリンは早期に開始し、やめることもできる治療選択肢の1つです。ですが、これまでのイメージから、医師も患者も抵抗を感じることがあるかもしれません。今回は、外来で最も使いやすいBOTの取り入れ方、インスリン適応の判断と投与量、そして患者がインスリン治療に抵抗を示す場合の説明、専門医に紹介すべきタイミングといった、プライマリケアで導入する際に必要な知識をコンパクトに解説します。第9回 【糖尿病】一歩進んだ外来食事指導外来での食事指導では、食品交換表を使った難しい指導が上手くいかないことは先生方も実感するところではないでしょうか。今回は短い時間でできる、一歩踏み込んだ食事指導のトピックを紹介します。「3つの”あ”に注意」、「20ダイエットの勧め」、「会席料理に倣った食べる順番」など、簡単で続けられる見込みのある指導方法を身に付けましょう。第10回 【内分泌疾患】内分泌疾患を見つけるコツ40歳以上の約20%には甲状腺疾患があると知っていますか?内分泌疾患は実はコモンディジーズ。とはいえ、すべての患者で内分泌疾患を疑うのは効率的ではありません。今回は発熱や倦怠感といったありふれた症候から内分泌疾患を鑑別に挙げるためのポイントと、必要な検査項目を解説します。費用の観点からスクリーニング・精査と段階を分けて優先すべき検査項目を整理した情報は必見です。第11回 【内分泌疾患】甲状腺機能亢進症・低下症甲状腺機能亢進症といえばまずバセドウ病が想起されますが、診断には亜急性や無痛性の甲状腺炎との鑑別が必要。内科でパッと実施できる信頼性の高い検査をズバリ伝授します。専門医も行っている方法かつプライマリケアでできる、無顆粒球症のフォローアップは必見です。第12回 【内分泌疾患】内分泌性高血圧初診で高血圧患者を診るときは全例でPAC/PRAを測定してください!これは高血圧患者の5~10%といわれる原発性アルドステロン症を発見するための鍵になる検査。診断の目安となる値、そして外来で測定する際に頭を悩ませる体位についても専門医がクリアカットに解答します。そのほかに知っておくべきクッシング症候群と褐色細胞腫についてもコンパクトに解説します。第13回 【内分泌疾患】内科医も知っておくべき内分泌緊急症今回は生命に関わる内分泌緊急症4つ-甲状腺クリーゼ、副腎不全、高カルシウム血症クリーゼ、粘液水腫性昏睡を取り上げます。それぞれの疾患を疑うべき患者の特徴・対応・フォローをコンパクトに10分で解説。中でも、臨床的に副腎不全を疑うポイントは該当する患者も多いので必ず押さえたいところ。甲状腺クリーゼの初期対応も必ずチェックしてください!第14回 【内分泌疾患】見落としやすい内分泌疾患繰り返す尿管結石やピロリ菌陰性の潰瘍は、内分泌疾患を疑う所見だと知っていましたか? 見落としやすい内分泌疾患TOP5、高カルシウム血症・低カルシウム血症・中枢性尿崩症・SIADH・先端巨大症を確実に発見するために、それぞれを疑うサインと検査項目を解説します。

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わが国の急性心不全患者の実態は?1万3千例の調査(JROADHF)/日本循環器学会

 急性心不全の入院患者における全国多施設共同後ろ向き観察研究のJROADHF(Japanese Registry Of Acute Decompensated Heart Failure)研究の結果が、第84回日本循環器学会学術集会(2020年7月27日~8月2日)で、井手 友美氏(九州大学医学研究院循環器病病態治療講座)より発表された。全体として、左室収縮能が保持された心不全(HFpEF)が多く、予後は依然として悪いことが示唆された。JROADHF研究で心不全の原因は虚血性疾患27%、弁膜疾患19% JROADHF研究の対象患者は、日本循環器学会が実施している循環器疾患診療実態調査(JROAD)からランダムに抽出した施設で、2013年1月1日~12月31日の1年間にJROAD-DPCに登録された16歳以上の急性心不全の入院患者で、1万3,238例が登録された。 JROADHF研究の主な結果は以下のとおり。・1万3,238例の平均年齢(±SD)は78.0(±12.5)歳、中央値は81.0歳で、男性の割合は52.8%であった。・入院時のBNP中央値は693pg/mLであった。・左室駆出分画(EF)による分類では、HFpEF(HF with preserved EF)が45%、HFmrEF(HF with mid-range EF)が18%、HFrEF(HF with reduced EF)が37%だった。男性(6,991例)ではHFrEF(46%)がHFpEF(35%)より多く、女性(6,247例)では逆にHFpEF(56%)がHFrEF(27%)より多かった。・心不全の原因別の割合は、虚血性疾患27%、弁膜疾患19%、不整脈17%、高血圧16%、心筋症12%であった。男性では虚血性疾患(34%)、心筋症(15%)が多く、女性では弁膜疾患(25%)、高血圧(18%)が多く、不整脈は男性(15%)、女性(19%)ともに多かった。・院内死亡は7.7%にみられ、死因は心血管死が77%、非心血管死が21%であった。心血管死では心不全が79%と多く、非心血管死では肺炎が43%と多かった。・退院後の観察患者1万1,120例における無イベント生存率の解析から、4年目の全死亡率が44.3%、1年時の心不全入院率は31.5%であった・長期的な死亡原因は、心血管死が48%、非心血管死が37%であった。心血管死では心不全(75%)、非心血管死では肺炎(31%)とがん(24%)が主な死因であった。 なお現在、心不全の発症や予後の正確な予測、治療の最適化のための前向き研究であるJROADHF-NEXT研究の登録が進んでいる。JROADHF-NEXT研究は、フレイルまたはサルコペニア、精神的および社会的因子を含んだ心不全データベースで、新たなバイオマーカー発見のためにバイオバンクを創設、またDPC情報と臨床情報を結び付けて検証するもので、2020年7月30日現在、101施設から2,678例が登録されているという。

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PPI服用や便秘がフレイルに影響

 フレイルと腹部症状の関連性はこれまで評価されていなかったー。今回、順天堂東京江東高齢者医療センターの浅岡 大介氏らは病院ベースの後ろ向き横断研究を実施し、フレイルの危険因子として、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用、サルコペニア、低亜鉛血症、FSSG質問表(Frequency Scale for the Symptoms of GERD)でのスコアの高さ、および便秘スコア(CSS:Constipation Scoring System)の高さが影響していることを明らかにした。Internal Medicine誌2020年6月15日号掲載の報告。 同氏らは、2017~19年までの期間、順天堂東京江東高齢者医療センターの消化器科で、65歳以上の外来通院患者313例をフレイル群と非フレイル群に分け、フレイルの危険因子を調査した。患者プロファイルとして、骨粗しょう症、サルコペニア、フレイル、栄養状態、上部消化管内視鏡検査の所見、および腹部症状の質問結果(FSSG、CSS)を診療記録から入手した。 おもな結果は以下のとおり。・対象者は、男性134例(42.8%)、女性179例(57.2%)、平均年齢±SDは75.7±6.0歳で、平均BMI±SDは22.8±3.6kg/m2だった。・そのうち71例(22.7%)でフレイルを認めた。・一変量解析では、高齢(p<0.001)、女性(p=0.010)、ヘリコバクターピロリ菌の除菌成功(p=0.049)、PPIの使用(p<0.001)、下剤の使用(p=0.008)、サルコペニア(p<0.001)、骨粗しょう症(p<0.001)、低亜鉛血症(p=0.002)、低アルブミン血症(p<0.001)、リンパ球数の低下(p=0.004)、CONUT(controlling nutritional status)スコアの高さ(p<0.001)、FSSGスコアの高さ(p=0.001)、CSSスコアの高さ(p<0.001)がフレイルと有意に関連していた。・また、多変量解析の結果でもフレイルと有意に関連していた。高齢[オッズ比(OR):1.16、95%信頼区間[CI]:1.08~1.24、p<0.001]、PPI使用(OR:2.42、95%CI:1.18~4.98、p=0.016)、サルコペニア(OR:7.35、95%CI:3.30~16.40、p<0.001)、低亜鉛血症(OR:0.96、95%CI:0.92~0.99、p=0.027)、高FSSGスコア(OR:1.08、95%CI:1.01~1.16、p=0.021)、高CSSスコア(OR:1.13、95%CI:1.03~1.23、p=0.007)。

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フレイルの健診に有用なテキスト公開/国立長寿医療研究センター

 2020年6月、健康長寿教室テキスト第2版が国立長寿医療研究センターの老年学・社会科学研究センターのホームページ上に公開された。これは同施設のフレイル予防医学研究室(室長:佐竹 昭介氏)が手がけたもので、2014年に初版が発刊、6年ぶりの改訂となる。 健康長寿教室テキストは介護予防に役立てるためのパンフレットで、フレイル、サルコペニア、ロコモティブシンドローム(通称:ロコモ)に関する基本的概念に加え、実践編として「お口の体操」「運動」「フレイルや低栄養を予防するための食事の工夫やレシピ」などが掲載されている。このほかにも、最新の話題として、新型コロナなどによる外出制限時の対策にも応用できる内容が紹介されている。なお、健康長寿教室テキストは無料でダウンロードして使えるため、後期高齢者健康診査(いわゆるフレイルの健診)、スタッフ研修、敬老会の資料としても有用である。 健康長寿教室テキストの改訂にあたり荒井 秀典氏(国立長寿医療研究センター理事長)は、「当センターのみならず、国内外で明らかになった成果を取り入れ、お口の健康に関する内容を充実するとともに、よりわかりやすく健康的な食事のレシピや最新版の運動プログラムを含めた内容に一新した。高齢者では多くの病気を合併することが多いが、病気の適切な診断と治療を行うことはもとより、加齢とともに心身が衰えてくる『フレイル』の予防を行うことで、真の健康寿命の延伸をめざした全人的医療を行っている。病気の治療はどの医療機関でもできるが、本テキストに載っているようなフレイル予防を実践しているところはまだまだ少ないのが現状」とし、また、「新型コロナウイルス感染症の影響で外出を控えるようになり、地域での活動も制限され、『生活不活発』による身体機能の低下も懸念されている。本テキストをさまざまな現場で活用することにより、フレイルにならずにいつまでも元気で長生きしていただけることを祈念している」と述べている。<健康長寿教室テキスト目次>◆知識向上編第1章 健康寿命とフレイル第2章 フレイルに関連する状態◆実践編第3章 フレイルを予防するお口のお手入れ第4章 フレイルを予防する栄養第5章 フレイルを予防する運動第6章 フレイルを予防する生活第7章 老いと上手に付き合うために

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降圧治療と認知症や認知機能障害の発症の関連―システマティックレビュー、メタ解析(解説:石川讓治氏)-1245

 中年期の高血圧が晩年期の認知症の発症と関連していることがいくつかの観察研究において報告されてきた。しかし、降圧治療と認知症や認知機能障害の発症の関連を評価した過去の研究においては、降圧治療が認知症の発症を減少させる傾向は認められたものの、有意差には至っていなかった。本論文では14の無作為介入試験の結果を用いてメタ解析を行い、平均年齢69歳、女性42.2%、ベースラインの血圧154/83.3mmHgの対象者において、降圧治療によって、平均49.2ヵ月間の追跡期間で7%の認知症もしくは認知機能障害の相対的リスク減少、および平均4.1年の追跡期間の間で7%の認知機能低下の相対的リスク減少があり、これらが有意差をもって認められたことを報告した。以前の無作為介入試験の結果は副次エンドポイントであったため有意差には至っていなかったが、メタ解析によって統計学的なパワーを増加させることで有意差を獲得したものと思われる。 SPRINT-MIND試験においても、積極的な降圧治療が通常治療よりも深部白質病変を減少させることが報告されており、降圧治療が脳血管性の認知機能障害を抑制することは予想できる。しかし、認知機能障害を生じる病態はさまざまであり、脳血管性認知症、アルツハイマー型認知症、前頭側頭葉型認知症、レビー小体型認知症などの病態が複雑に重なり合って臨床像をなしているため、完全に分けて考えることは困難である。降圧治療が、アルツハイマー型のアミロイドβやレビー小体型認知症におけるαシヌクレインといった代謝性物質にどのような影響を与えているのかは不明な点が多い。 本研究における無作為介入試験の参加者はインフォームドコンセントのための難解な同意文書を理解しサインできる、登録時には比較的認知機能が良好に保たれていた患者である。このような認知機能が良好に保たれた高血圧患者においては、降圧治療が将来の認知症や認知機能障害の発症を抑制するものと思われる。しかし、高齢者の日常臨床においては認知機能障害が進行するにつれて、栄養障害、サルコペニア、カヘキシア、併存疾患の存在などとともに体重減少や生活の質の低下が認められ、自然経過で血圧が低下してくる患者が認められる。そして、このような患者は介入試験からは除外されている。その一方で、観察研究における超高齢者においては、血圧が低く治療されていた対象者においてより死亡率が高く認知機能障害の進行が認められたことも報告されている。 これらの結果から、認知機能障害が起こる前には積極的に降圧治療を行って認知機能障害を予防し、残念ながら認知機能が低下してしまった段階では徐々に降圧治療を緩和していく必要があるものと思われる。しかし、この降圧治療のターニングポイントに関する明らかな指針は少ない。日本高血圧学会の『高血圧治療ガイドライン2019』においては自力で外来通院困難としか記載されておらず、降圧治療のターニングポイントとなる認知機能のレベルも明らかにはなっていない。今後の課題であると思われる。

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