日本発エビデンス|page:45

双極性障害とうつ病患者の白質異常と認知機能との関係

 近年、うつ病患者と双極性障害患者の白質線維の整合性(white matter integrity)を比較した拡散テンソル画像(DTI)の研究数が増加している。しかし、両疾患の白質異常の違いを調査した研究はあまりない。広島大学の増田 慶一氏らは、白質異常と認知機能との関係を調査するため、全脳トラクトグラフィーを用いて、健常対照者と寛解期うつ病患者および双極性障害患者の白質線維の整合性を包括的に評価した。Brain and Behavior誌オンライン版2020年10月3日号の報告。

安定期双極性障害患者の再発率に対する継続的な薬物治療の影響~メタ解析

 藤田医科大学の岸 太郎氏らは、双極性障害患者に対し抗精神病薬や気分安定薬を中止した場合と継続した場合の再発率を比較するため、二重盲検ランダム化プラセボ対照試験のランダム効果モデルメタ解析を実施した。Psychological Medicine誌オンライン版2020年10月13日号の報告。  2020年5月22日までに報告された研究を、言語制限なしで、Embase、PubMed、CENTRALデータベースよりシステマティックに検索した。独立した研究者が研究を評価し、データを抽出した。リスク比(RR)と有用性または有害性の治療必要数(NNTB/NNTH)を算出した。主要アウトカムは、6ヵ月時点での気分エピソードの再発率とした。副次的アウトカムは、抑うつエピソードおよび躁状態/軽躁状態/混合性エピソードの再発率、6ヵ月時点でのすべての原因による中止とした。また、これらのアウトカムの評価は、1、3、9、12、18、24ヵ月目に行われた。

ER+HER-早期乳がんの長期予後予測、治療前18F-FDG PET/CTのSUVmaxが有用/日本癌治療学会

 乳がんで最も頻度の高いER陽性HER陰性早期乳がんは、10年以上の長期にわたって再発を来すことが知られており、近年は遺伝子検査などによる予後予測が行われている。今回、東京女子医科大学の塚田 弘子氏らによる研究で、治療前18F-FDG PET/CT (以下、PET/CT)での原発巣SUVmax値(maximum standardized uptake values)およびリンパ節転移個数が長期無再発生存期間(RFS)の予測因子であり、原発巣SUVmax値は長期全生存期間(OS)の単独予測因子であることが示唆された。第58回日本癌治療学会学術集会(10月22~24日)で報告された。  PET/CTは乳がん診療において2~5年程度の短期予後予測には有用との報告があるが、10年以上のRFSやOSとの相関は示されていない。本研究は、2007年1月~2010年5月に東京女子医科大学病院で治療が開始された原発性乳がんのうちcStage II以下かつER陽性HER陰性浸潤性乳管がん340例を対象とし、患者/腫瘍背景、治療前PET/CTのFDG集積がRFSおよびOSに与える影響をCox回帰比例ハザードモデルで評価した。

日本のAMLの遺伝子プロファイリング/日本血液学会

 包括的遺伝子解析プロファイル検査FoundationOne Heme(F1H)を用い、急性骨髄性白血病(AML)における癌関連ゲノム変化の頻度と特徴の評価を目的とした多施設共同研究HM-SCREEN-Japan 01研究の中間解析の結果が、国立がん研究センター東病院の宮本 憲一氏により発表された。  解析対象は標準治療不適の新規診断AML35例、再発/難治AML患者56例、主要評価項目はF1Hを用いたAMLの遺伝子異常の頻度である。

双極性障害患者のラピッドサイクラーと寛解に関連する臨床的特徴

 ラピッドサイクラー(RC)では、双極性障害(BD)の重症度リスクが高まるが、1年後に寛解状態を達成した(one-year euthymia:OYE)患者の予後は良好となる。関西医科大学の加藤 正樹氏らは、精神科クリニックにおけるBDの多施設治療研究(MUSUBI)において、大規模サンプル(2,609例)におけるラピッドサイクラーおよび1年後に寛解状態を達成した患者にある患者の臨床的背景、処方特性について調査を行った。Journal of Psychiatric Research誌オンライン版2020年9月30日号の報告。  MUSUBIは、外来クリニック176施設にアンケートを配布し、BD連続症例のカルテをレトロスペクティブに調査した横断的研究である。患者背景、現在のエピソード、臨床的特徴、処方状況に関するデータをアンケートで収集した。OYEの定義は、12ヵ月以上の正常状態とした。

新型コロナ後遺症、4ヵ月後も続く例や遅発性の脱毛例も/国際医療研究センター

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を巡っては、回復後もなお続くさまざまな症状が報告され、後遺症に着目した研究が進んでいる。今回、国立国際医療研究センターがCOVID-19回復者を追跡調査したところ、発症から120日超の時点でも依然続く呼吸苦や倦怠感、咳などを訴えたり、数ヵ月後になって脱毛を経験したりした人がいたことがわかった。研究グループは、COVID-19回復者の一部で見られる持続症状および遅発性症状に関するリスク因子の特定には、さらなる研究が必要だとしている。この研究をまとめた論文は、Open Forum Infectious Diseases誌2020年10月21日号に掲載された。  本研究では、センターにCOVID-19で入院し、2020年2~6月に退院した人に対し、7月30日~8月13日に電話による聞き取り調査を実施。回復後の持続症状および遅発性症状の有無、自覚症状やその期間について尋ねた。

新型コロナウイルス、マスクによる拡散・吸い込み抑制効果を実証―東京大

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、飛沫やエアロゾルが感染経路であり、感染拡大を防ぐためのマスク着用は、もはや日常生活に必須となっている(ただし乳児などを除く)。しかし、浮遊するウイルスに対するマスクの防御効果は不明である。今回、東京大学の河岡 義裕氏ら研究グループが実際にSARS-CoV-2を用いてマネキンに装着したマスクを通過するウイルス量を調べたところ、SARS-CoV-2の空間中への拡散および吸い込みの双方を抑える効果が確認された。一方、医療従事者が頻用するN95マスクについては、高い防御性能を示したものの、マスク単体ではウイルスの吸い込みを完全には防げないこともわかった。本研究についての論文は、mSphere誌オンライン版2020年10月21日号に掲載された。

日本の若年性認知症の年間発症率とそのサブタイプ

 若年性認知症の発症率を調査することは、困難であるといわれている。東京都健康長寿医療センター研究所の枝広 あや子氏らは、認知症疾患医療センターの年次報告データを用いて、日本における若年性認知症の発症率について調査を行った。Geriatrics & Gerontology International誌オンライン版2020年9月28日号の報告。  認知症疾患医療センターは、日本の全国的な保健プログラムの一環として設立された認知症専門医療サービスで、2018年時点で全国に440施設存在する。これらの施設の年次報告データを用いて、2018年4月1日~2019年3月31日に新たに若年性認知症または遅発性認知症と診断された患者数、精神障害の診断と統計マニュアル第5版(DSM-5)による診断構成比を算出した。

新型コロナ流行時に喘息入院が減少、生活様式の変化が奏功か

 COVID-19を巡っては、呼吸器系疾患を有する人で重症化しやすいことがこれまでの研究で明らかになっており、COVID-19流行当初、喘息の入院患者数が増加する可能性が危惧されていた。ところが実際は、国内におけるCOVID-19流行期間の喘息入院患者数が例年よりも大きく減少していたことがわかった。東京大学の宮脇 敦士氏らの研究チームが、メディカル・データ・ビジョンの保有する大規模診療データベースを用い、同社の中村 正樹氏、慶應義塾大学のニ宮 英樹氏との共同研究から明らかにした。研究をまとめた論文は、2020年10月13日付(日本時間)でThe Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practice誌オンライン版に掲載された。

統合失調症と気分障害の入院患者における代謝障害の相違点

 生活習慣病と密接に関連している心血管疾患は、精神疾患患者の主な死因の1つである。統合失調症と気分障害では、症状や治療薬が異なり、代謝障害にも違いがあると考えられる。国立国際医療研究センター 国府台病院の鵜重 順康氏らは、日本における統合失調症患者と気分障害患者の生活習慣病の違いについて調査を行った。Annals of General Psychiatry誌2020年9月22日号の報告。  本研究は、2015~17年に実施した横断的研究である。対象は、国立国際医療研究センター 国府台病院 精神科の日本人入院患者189例(統合失調症群:144例、気分障害群:45例)。対象患者の身体疾患、グルコースと脂質の代謝状態、推算糸球体濾過量(eGFR)、脳MRIを調査した。統合失調症群と気分障害群のデータを比較するため、共分散分析またはロジスティック回帰分析を用いた。対象患者と標準対照者の数値を比較するため、厚生労働省「国民健康・栄養調査報告2015」のデータを基準値として使用した。

気分障害や不安症に対するベンゾジアゼピン使用を減少させるための認知行動療法

 精神疾患の治療に、しばしばベンゾジアゼピン(BZD)が用いられる。しかし、BZDは副作用や長期的な有効性に関するエビデンスが不足しているため、多くのガイドラインにおいて、使用制限が推奨されている。また、BZDは依存性や離脱症状の問題があり、減量が困難なこともある。一方、認知行動療法(CBT)は気分障害や不安症に対する有効性が実証されている。しかし、BZDの使用率が高い日本において、BZDの効果的な減量に対するCBTの効果に関するエビデンスは、これまでほとんどなかった。国立精神・神経医療研究センターの中嶋 愛一郎氏らは、日本の精神科におけるBZDの減量に対するCBTの影響について調査を行った。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2020年9月18日号の報告。

ストレスに対するSNS利用の影響~日本理学療法士協会の学生調査

 藍野大学の本田 寛人氏らは、理学療法を学んでいる日本の大学生におけるインターネット依存と心理的ストレスに対するスマートフォンを用いたソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の影響を調査した。Journal of Physical Therapy Science誌2020年9月号の報告。  2~4年生の理学療法を学ぶ学生247人(19~22歳)を対象に、単一大学横断的研究を実施した。毎日のスマートフォン利用時間、スマートフォンを用いたSNS利用時間、授業以外での自己学習時間に関する情報を、自己記入式アンケートにより収集した。

乳がん術前/術後化学療法時の頭皮冷却が毛髪回復を早める/日本乳癌学会

 乳がんの術前/術後化学療法時に脱毛抑制のためにPaxman Scalp Coolingシステムで頭皮冷却した後の毛髪回復状況を長期間、前向きに調査した結果から、化学療法時の頭皮冷却は脱毛を軽減するだけでなく、毛髪の回復を早め、さらに永久脱毛をほとんどなくす可能性が示唆された。国立病院機構四国がんセンターの大住 省三氏が第28回日本乳癌学会学術総会で発表した。  本研究の対象は、Paxman Scalp Coolingシステムによる術前/術後化学療法時の脱毛研究に参加し、頭皮冷却を1回以上受け、予定していた化学療法を完遂し、脱毛状況の評価が可能だった乳がん患者122例。最後の化学療法後1、4、7、10、13ヵ月時の頭髪状況について、客観的評価(5方向からの撮影写真を医師と看護師2名で評価)でのGrade(0:まったく脱毛なし、1:1~25%脱毛、2:26~50%脱毛、3:>50%脱毛)および主観的評価(患者にかつらまたは帽子の使用を質問)でのGrade(0:まったく使っていない、1:時々使用、2:ほとんど常に使用)で分類した。全例での評価のほか、頭皮冷却を全サイクルで完遂した患者79例(A群)と、途中で頭皮冷却を中止した43例(ほとんどは1サイクルで中止)(B群)の結果を比較した。

統合失調症とドパミン過感受性精神病に対する抗精神病薬補助療法~ROADS研究

 ドパミン過感受性精神病(DSP)は、抗精神病薬治療抵抗性統合失調症の発症に影響を及ぼす重要な因子である。千葉大学の新津 富央氏らは、統合失調症とDSPに対するブロナンセリン(BNS)とオランザピン(OLZ)による抗精神病薬補助療法の有効性および安全性について検討を行った。Asian Journal of Psychiatry誌オンライン版2020年8月31日号の報告。  本研究(ROADS研究)は、24週間の多施設ランダム化評価者盲検試験として実施した。統合失調症およびDSP患者を対象に、抗精神病薬治療の補助療法としてBNSとOLZを併用した際の有効性および安全性を検討した。

新型コロナウイルス、皮膚表面での生存期間はインフルの5倍

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を巡っては、空気中や物質表面上での生存期間がこれまでの研究で明らかになっているが、ヒトの皮膚表面における生存期間は不明であった。今回、京都府立医科大学の廣瀬 亮平氏ら研究チームが、法医解剖献体から採取した皮膚上におけるウイルスの安定性を検証したところ、SARS-CoV-2は皮膚表面上で9時間程度生存し、1.8時間程度で不活化されるインフルエンザウイルスに比べ大幅に生存時間が長いことがわかった。本研究をまとめた論文は、Clinical Infectious Diseases誌2020年10月3日号に掲載された。

レビー小体型認知症とアルツハイマー病を鑑別する新たな方法

 レビー小体型認知症(DLB)とアルツハイマー型認知症(AD)を鑑別するうえで、SPECTによる局所脳血流(rCBF)の評価が有用であり、指標としてCingulate Island Signスコア(CIScore)が用いられる。しかし、いくつかの症例ではADの偽陽性が報告されている。この問題を解決するため、福岡大学の本田 学氏らは、後頭葉と海馬傍回のrCBFを組み込んだ新たな鑑別診断法の開発を試みた。Japanese Journal of Radiology誌オンライン版2020年9月16日号の報告。  DLB患者27例とAD患者31例を対象に、Tc-99 m-ECD SPECTを実施した。両側上後頭回、中後頭回、下後頭回、楔部、扁桃体、海馬、海馬傍回の平均Zスコアを評価した。DLBの基準は次の(1)~(4)とし、それぞれの診断能力を比較した。(1)CIScoreが0.27未満、(2)平均Zスコア1超の後頭回が3つ以上、(3)平均Zスコア1超の海馬領域が1つ以下、(4)は(2)と(3)両方の組み合わせ。

進行がん患者のせん妄に対する抗精神病薬の安全性と有効性

 千里中央病院の前田 一石氏らは、緩和ケアを受けている進行がん患者のせん妄に対する抗精神病薬の安全性および有効性を明らかにするため、検討を行った。General Hospital Psychiatry誌オンライン版2020年9月14日号の報告。  本研究は、緩和ケアまたはサイコオンコロジーの入院患者で、抗精神病薬を投与されているせん妄を有する進行がん患者を、連続して登録したプロスペクティブ観察研究である。せん妄評価尺度98(DRS、範囲:0~39)の調整済み平均スコアを、一般化推定方程式を用いて、ベースライン時と3日目に収集した。また、7日間にわたる有害事象を評価した。

進行乳がんにおける内分泌療法+BVへの切り替え、患者報告アウトカムの結果(JBCRG-M04)/ESMO2020

 進行・再発乳がんに対する標準的化学療法は、病勢進行まで同レジメンを継続することだが、化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)や倦怠感などの用量依存的な影響が問題になる場合がある。今回、エストロゲン受容体(ER)陽性HER2陰性進行・再発乳がん患者に対して、1次化学療法のパクリタキセル(wPTX)+ベバシズマブ(BV)療法から、内分泌療法(ET)+BVの維持療法に切り替えた場合の患者報告アウトカム(PRO)について、化学療法継続と比較したところ、身体的健康状態(PWB)と倦怠感を有意に改善し、重度のCIPNを防いだことが示された。欧州臨床腫瘍学会(ESMO Virtual Congress 2020)で、福島県立医科大学の佐治 重衡氏が報告した。

双極性うつ病に対するルラシドンの有用性~他の非定型抗精神病薬との比較

 藤田医科大学の岸 太郎氏らは、双極性うつ病に対するルラシドン(LUR)の有効性および安全性を評価するため、システマティックレビュー、変量効果モデル、日本での第III相試験のネットワークメタ解析を実施し、オランザピン(OLZ)やクエチアピン徐放製剤(QUE-XR)との比較検討を行った。Neuropsychopharmacology Reports誌オンライン版2020年9月9日号の報告。  本研究には、双極性うつ病患者を対象とした日本での二重盲検ランダム化プラセボ対照第III相試験のデータを含めた。主要アウトカムは治療反応率、副次的アウトカムは寛解率、Montgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)合計スコアの改善、治療中止率、個々の有害事象発生率とした。

メタボ健診の保健指導に心血管リスク低減効果なし~見直しが必要(解説:桑島巖氏)-1295

特定健康診査とその結果に基づく特定保健指導は2008年(平成20年)から始まった全国規模の保健事業で、一般的にはメタボ健診と呼ばれているものである。メタボ健診では腹囲とBMIを測定するほか、血圧、HbA1c、LDLコレステロール値などを測定して、その結果により医師や保健師による指導を行うというシステムである。そもそもの発端は、1989年に米国のKaplanによって提唱された概念で、上半身肥満・糖代謝異常・高中性脂肪血症・高血圧の4つが重なると心筋梗塞に罹患しやすいことから、「死の四重奏(Deadly Quartet)」と呼ばれていたものである。日本でいうメタボリック(メタボ)では、それらの上流に内臓脂肪蓄積を置いているのが、米国の死の四重奏と異なり、わが国では内臓脂肪症候群と呼ぶ場合もある。そこで日本の特定健康診査では腹囲を測定することに重点を置いているのが特徴であり、医療機関では腹部CTも測定するところもある。