日本発エビデンス|page:43

統合失調症の薬理学的マネジメント~日本の専門医のコンセンサス

 従来の統合失調症ガイドラインは、臨床的に重要な問題を解決するための方法を必ずしも提供しているわけではない。慶應義塾大学の櫻井 準氏らは、精神科専門医を対象に、統合失調症の治療オプションに関する調査を行った。Pharmacopsychiatry誌オンライン版2021年1月12日号の報告。  日本臨床精神神経薬理学会の認定精神科医141人を対象に、統合失調症治療における19の臨床状況について、9段階で治療オプションの評価を行った(同意しない「1」~同意する「9」)。  主な結果は以下のとおり。

日本におけるCOVID-19第2波によるうつ病リスク

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによる社会的混乱は今も続いており、これが国民の社会的抑制につながっている。北里大学の深瀬 裕子氏らは、COVID-19によるメンタルヘルス関連のリスク因子を明らかにし、具体的な対処方法について検討を行った。BMC Psychiatry誌2021年1月12日号の報告。  日本でCOVID-19の第2波が起こっていた2020年7月に、Webベースの調査を実施した。人口統計、こころとからだの質問票(PHQ-9)、怒りの状態、怒りのコントロール、コーピング尺度(Brief COPE)を測定した。設定変数によるPHQ-9スコアの多変量ロジスティック回帰分析を行った。

統合失調症治療の有効性、安全性に対する抗精神病薬の用量依存作用

 統合失調症の薬理学的治療の中心は、抗精神病薬である。慶應義塾大学の吉田 和生氏らは、統合失調症の薬物療法を最適化するために、抗精神病薬の有効性、安全性、死亡率との関連を明らかにするため関連文献のレビューを行った。Behavioural Brain Research誌オンライン版2021年1月5日号の報告。  統合失調症患者における抗精神病薬の用量と有効性、有害事象、死亡率との関連を調査した文献をレビューした。  主な結果は以下のとおり。

日本人高齢者の趣味の種類や数と認知症リスクとの関係

 認知症予防は、超高齢化社会を迎える現代社会において重要な問題である。これまでの研究では、趣味(とくにガーデニング、旅行、スポーツ)を有する高齢者では、認知症リスクが低いことが示唆されている。しかし、趣味の種類や数の違いが認知症予防に影響を及ぼすかは、よくわかっていない。千葉大学のLing Ling氏らは、趣味の種類および数と認知症発症との関連を調査した。日本公衆衛生雑誌2020年号の報告。  2010~16年に日本老年学的評価研究(JAGES)が実施したプロスペクティブコホート研究より、年齢、性別が明らかな65歳以上の要介護認定を受けていない高齢者5万6,624人を調査した。

うつ病増強療法の中止が治療転帰にもたらす影響~メタ解析

 慶應義塾大学のHideo Kato氏らは、うつ病の治療において増強療法のために追加した薬剤を継続すべきか、また継続する場合の期間について明らかにするため、メタ解析を実施した。Pharmacopsychiatry誌オンライン版2020年12月23日号の報告。  うつ病患者を対象に増強療法で追加した薬剤を中止した場合の影響を調査した二重盲検ランダム化比較試験を特定し、メタ解析を実施した。すべての原因による試験中止率、再発率、増強療法継続群と中止群における有害事象を比較した。

新型コロナ感染拡大、Go Toトラベルが影響か

 西浦 博氏(京都大学環境衛生学 教授)が率いる研究チームは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行中の旅行者向けキャンペーン(Go Toトラベル)実施による疫学的影響について、キャンペーン実施前後の旅行・観光関連の症例発生率を比較し検証を行った。その結果、Go Toトラベル開始後の1日当たりのCOVID-19発生率は、2020年6月22日~7月21日までの期間と比較して約3倍、7月15~19日の開始直前期間との比較では約1.5倍にまで増加していたことを明らかにした。また、観光目的で感染した人は、6月22日~7月21日の期間との比較では約8倍、7月15~19日との比較では2〜3倍も増加していた。研究者らは「日本での第2波は、8月中旬までに減少し始めたが、Go Toトラベル開始初期の7月22日~26日の間に旅行関連のCOVID-19症例が増加した可能性がある」としている。Journal of Clinical Medicine誌オンライン版2021年2月号掲載の報告。

新型コロナ流行で糖尿病重症化予防ケアの実施数が減少

 メディカル・データ・ビジョン株式会社(以下、MDV)は自社が保有する大規模診療データベースを用い、宮脇 敦士氏(東京大学大学院医学系研究科・公衆衛生学 助教)の研究チーム、中村 正樹氏(MDV)、二宮 英樹氏(慶應義塾大学医学部医療政策管理学教室/株式会社データック 代表取締役兼CEO)、および杉山 雄大氏(国立国際医療研究センター研究所糖尿病情報センター 室長)らと共同で、昨年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行時の糖尿病重症化予防ケア(透析予防、フットケアなど)の実施数について調査を行った。その結果、外来で糖尿病患者が定期測定するHbA1cの1週間あたりの検査数などが減少していたことを明らかにした。この研究論文はJournal of General Internal Medicine誌2021年1月19日号に掲載された。

日本人双極性障害患者とうつ病患者の認知機能の比較

 国立精神・神経医療研究センターの松尾 淳子氏らは、双極性障害(BD)患者における病期別の認知機能を調査し、うつ病患者や健康対照者の認知機能との比較を行った。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2020年12月27日号の報告。  BD患者139例(寛解期:55例、非寛解期:84例)、うつ病患者311例(寛解期:88例、非寛解期:223例)、健康対照者386例を対象に、ウェクスラー成人知能検査(Wechsler Adult Intelligence Scale-RevisedまたはWAIS-III)を実施した。対象は、日本人の非高齢者で通常推定病前知能指数(IQ)が90超であり、年齢、性別、病前IQは、グループ間で一致していた。

日本における認知症への呼称変更による家族の感情変化への影響

 認知症に対する差別やスティグマを減らすことは、国際的な問題である。日本では、2004年に「痴呆」から神経認知障害に近い「認知症」へ呼称変更を行った。筑波大学の山中 克夫氏らは、認知症患者の家族の観点から、現在の用語がうまく機能しているかを横断的に調査し、感情に影響を及ぼす因子(認知症患者の周囲の人の気持ち、家族や患者の属性)を見つけるため、検討を行った。Brain and Behavior誌オンライン版2020年12月21日号の報告。  3つの病院を受診した認知症患者に同行するその家族155人を対象に、認知症の呼称と患者の周囲の人の気持ちについて調査を行った。認知症の呼称に対する不快感の程度を分析した。探索的因子分析より抽出した感情の構成概念と属性との関係を分析するため、構造方程式モデリングを用いた。

日本のがん遺伝子パネル検査、初回評価の結果は?/Int J Clin Oncol

 日本では2019年6月にがん遺伝子パネル検査が保険収載され、専門家で構成されるmolecular tumor board(エキスパートパネル)を備えた施設が検査実施施設として当局より指定されている。その実績に関する評価の結果が報告された。エキスパートパネルの標準化は、臨床現場でのがんゲノム医療の実装に重要な課題である。国立がん研究センター中央病院の角南 久仁子氏らは、中核病院でのエキスパートパネルの実績について初期評価を行い、臨床的意義付けの標準化についてさらに調査が必要であることを示した。International Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2021年1月1日号掲載の報告。

双極I型うつ病に対するルラシドンの長期治療

 日本人を含む多民族の双極性うつ病の短期治療に対する抗精神病薬ルラシドンの有効性が示唆されている。CNS薬理研究所の石郷岡 純氏らは、双極性うつ病患者に対するルラシドンの長期治療に対する有効性および安全性を評価するため、28週間のオープンラベル試験での検討を行った。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2020年12月8日号の報告。  ルラシドン(20~60mg/日、80~120mg/日)およびプラセボの6週間二重盲検比較試験を終了した患者を28週間の延長試験の対象とした。延長試験では、ルラシドン20~120mg/日のフレキシブルドーズで投与した。安全性については、有害事象、バイタルサイン、体重、心電図、臨床検査、自殺傾向、錐体外路症状の延長試験時のベースラインからエンドポイントまでの変化を評価した。有効性については、Montgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)およびほかの指標で評価した。

日本人就労者における不眠症治療経過と作業機能障害との関係

 睡眠障害、とくに不眠症に対する薬物治療の治療段階が、日本人就労者の日中の仕事に及ぼす影響について、産業医科大学の大河原 眞氏らが、検討を行った。PLOS ONE誌2020年12月10日号の報告。  対象は、日本の企業15社において2015年に実施した作業機能障害のアンケート調査の回答者3万6,375人。公的健康保険のレセプトデータベースより抽出した回答者の医療データとアンケート結果を一緒に分析した。作業機能障害の測定には、作業機能障害スケール(WFun)を用いた。不眠症の治療状況は、過去16ヵ月の健康保険レセプトデータより抽出した、疾患や処方薬のデータを用いて把握した。治療中および治療期間外における重度の作業機能障害のオッズ比を推定するため、ロジスティック回帰分析を用いた。

日本人成人ADHD患者に対するグアンファシン徐放製剤の有効性と安全性

 塩野義製薬の納谷 憲幸氏らは、日本人成人の注意欠如多動症(ADHD)患者に対するグアンファシン徐放製剤(GXR)の有効性と安全性を評価した第III相二重盲検プラセボ対照ランダム化試験の事後分析を行い、ADHDサブタイプ(混合型、不注意優勢型)、年齢(31歳以上、30歳以下)、性別、体重別(50kg以上、50kg未満)のGXRの有効性および安全性について、検討を行った。Neuropsychopharmacology Reports誌オンライン版2020年12月10日号の報告。  有効性の主要エンドポイントは、成人用ADHD評価尺度ADHD-RS-IV with adult prompts日本語版合計スコアのベースラインから10週目までの変化とした。

双極性障害患者における寝室の夜間光曝露と肥満との関係

 肥満や過体重は、双極性障害患者で非常に多く認められており、身体的な問題だけでなく精神疾患の発症リスクにも影響を及ぼす。藤田医科大学の江崎 悠一氏らは、双極性障害患者における寝室の夜間光曝露と肥満との関係を明らかにするため、横断的研究を行った。Physiology & Behavior誌オンライン版2020年12月8日号の報告。  対象は、双極性障害患者200例。就寝時から起床時までの寝室の光度は、携帯型光度計を用いて7夜連続で測定した。自己申告による身長と体重のデータよりBMIを測定し、BMI25kg/m2以上を肥満と定義した。

がんに存在する異常なmRNAの全長構造を同定/国立がん研究センター

 東京大学大学院新領域創成科学研究科の関 真秀特任助教と鈴木 穣教授らのグループは、国立がん研究センター先端医療開発センター免疫療法開発分野・中面哲也分野長らとの共同研究により、ナノポアシークエンサーで肺がんに存在する異常なmRNAの網羅的な同定をして、異常なmRNAから生じるペプチドが免疫細胞に認識されることを示した。  従来のシークエンサーは、RNAをばらばらに短くしてから配列を読み取っていたため、mRNAの全長配列を読み取ることはできなかった。それに対して、長い配列を読み取れるナノポアシークエンサーは、mRNAの全長配列を読み取ることができる。

ベンゾジアゼピン依存症自己申告アンケート日本語版を用いた睡眠薬使用障害の現状調査

 ベンゾジアゼピン(BZD)受容体作動薬は、不眠症治療において頻繁に用いられるが、長期使用は推奨されていない。適切な薬物療法を行うためには、BZD依存に関する現状や背景を明らかにする必要がある。東京女子医科大学の山本 舞氏らは、BZD依存症自己申告アンケート日本語版(Bendep-SRQ-J)を開発し、BZD使用障害に関する研究を実施した。Neuropsychopharmacology Reports誌オンライン版2020年12月1日号の報告。  開発元の許可を得てBendep-SRQ-Jを作成した。対象は、2012~13年にBZD治療を行った入院および外来患者。Bendep-SRQ-Jスコア、睡眠障害、身体的併存疾患、向精神薬、ライフスタイルに関するデータを収集した。症状重症度に関連する因子を特定するため、ロジスティック分析を行った。

日本人男性における周産期うつ病有病率~メタ解析

 周産期うつ病は、女性のみならず男性においても発症する精神疾患である。父親の周産期うつ病の有病率に関するこれまでの国際的なメタ解析では、異文化または社会経済的環境が父親のうつ病に影響を及ぼす可能性があることを示唆している。しかし、これらのデータが、日本人男性においても当てはまるかどうかは明らかでなく、日本人男性を対象とした報告は少ない。獨協医科大学の徳満 敬大氏らは、日本人男性における周産期うつ病の有病率を推定するため、検討を行った。Annals of General Psychiatry誌2020年11月18日号の報告。

母の子宮頸がん細胞が子に移行、国立がん研究センターが発表/NEJM

 国立がん研究センター中央病院の荒川 歩氏らは、小児の肺がん2例について、腫瘍組織と正常組織のペアサンプルを用いたルーチン次世代シークエンスで偶然にも、肺がん発症は子宮頸がんの母子移行が原因であることを特定したと発表した。移行したがん細胞の存在は同種の免疫応答によって示され、1例目(生後23ヵ月・男児)では病変の自然退縮が、2例目(6歳・男児)では腫瘍の成長速度が遅いことがみられたという。また、1例目は、免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブを投与することで、残存するがん細胞の消失に結び付いたことも報告された。腫瘍組織と正常組織のペアサンプルを用いたルーチン次世代シークエンスは、わが国の進行がん患者を対象とした前向き遺伝子プロファイリング試験「TOP-GEAR」の一環として行われた解析で、114のがん関連遺伝子の変異を検出することを目的とする。1例目の患児に対するニボルマブ(3mg/kg体重を2週ごと)投与は、再発または難治固形がんを有する日本人患児を対象としたニボルマブの第I相試験で行われたものであった。症例の詳細は、NEJM誌2021年1月7日号で報告されている。

日本人うつ病就労者における職場での主観的事例の性差

 日本におけるうつ病患者数は、増加を続けている。うつ病による経済的影響には、アブセンティズム(欠勤や遅刻、早退など)とプレゼンティズム(心身の問題によるパフォーマンスの低下)の両方を介した生産性の低下がある。また、うつ病の有病率、発症経緯、自覚症状には、男女間で差があるといわれている。大阪市立大学の仁木 晃大氏らは、日本人うつ病就労者が、職場における問題をどのように認識しているかを調査し、うつ病の初期段階における職場での主観的な機能レベルの性差について検討を行った。Occupational Medicine誌オンライン版2020年11月28日号の報告。

統合失調症の新たな治療標的としてのPPARαの可能性

 統合失調症の病態生理は、いまだによくわかっていない。理化学研究所の和田 唯奈氏らは、統合失調症患者における核内受容体の一つであるペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)/レチノイドX受容体(RXR)の役割について分析を行った。EBioMedicine誌2020年11月19日号の報告。  日本人統合失調症患者1,200例のDNAサンプルを用いて、分子反転プローブ(MIP)ベースのターゲット次世代シークエンシング(NGS)により、PPAR/RXR遺伝子のスクリーニングを行った。その結果について、日本のコホートデータ(ToMMo)やgnomADの全ゲノムシークエンスデータベースとの比較を行った。PPAR/RXR遺伝子の機能低下と統合失調症との関係を明らかにするため、Ppara KOマウスとフェノフィブラートを投与したマウスを用いて、行動学的、組織学的およびRNA-seq解析により評価を行った。