全身CTによる早期診断が、多発性外傷患者の生存を改善

提供元:ケアネット

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公開日:2009/05/14

 



外傷の初期治療への全身CTの導入によって、多発性外傷患者の生存の可能性が増大することが、Ludwig-Maximilians大学のStefan Huber-Wagner氏らドイツ外傷学会の多発性外傷ワーキンググループが実施したレトロスペクティブな解析で明らかとなった。外傷の初期診療に全身CTを導入する施設が増えているが、重傷例の予後に及ぼす効果を示唆するエビデンスはないという。Lancet誌2009年4月25日号(オンライン版2009年3月24日号)掲載の報告。

全身CT群と非全身CT群で、TRISS、RISCによるSMRを比較




研究グループは、蘇生治療中に全身CTによる検査を受けた鈍的外傷患者と、全身CT検査を受けなかった患者の生存率を比較するレトロスペクティブな多施設共同試験を行った。

ドイツ外傷学会の外傷レジストリーに登録されたデータを用い、生理学的指標と解剖学的指標を総合した外傷の重症度スコア(TRISS)および解剖学的な重症度の修正分類(RISC)に基づいて標準化死亡率比(SMR、予測死亡率に対する実際の死亡率の比、値が小さいほど生存に寄与)を算出した。

全身CTでSMRが有意に改善、有意な独立の予測因子




4,621例が解析の対象となり、そのうち全身CT群は1,494例(32%)、非全身CT群(CT非施行例あるいは局所CT施行例)は3,127例(68%)であった。平均年齢は42.6(SD 20.7)歳であり、3,364例(73%)が男性、平均外傷重症度スコア(ISS)は29.7(SD 13.0)であった。

TRISSに基づくSMRは、非全身CT群の1.023に対し全身CT群は0.745と有意に優れた(p<0.001)。RISCに基づくSMRも、非全身CT群の1.034に対し全身CT群は0.865と有意差を認めた(p=0.017)。

RISCに基づく死亡率の相対低下率が13%であったのに対し、TRISSに基づく場合は25%と高値を示した。施設間差や発症年で補正して多変量解析を行ったところ、全身CTの施行は有意な生存に関する独立の予測因子であった(p≦0.002)。1例の生存を得るのに要する全身CTの施行数は、TRISSに基づく場合は17スキャン、RISCに基づくと32スキャンであった。

著者は、「外傷の初期治療への全身CTの導入によって、多発性外傷患者の生存の可能性が増大する」と結論し、「全身CTは、多発性外傷患者の蘇生治療初期の診断法として推奨される」としている。

(菅野守:医学ライター)