ドナーの低体温療法は移植腎の機能回復遅延に有用か/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2023/02/13

 

 腎移植患者(レシピエント)における移植腎の機能回復遅延のリスクは、脳死腎提供者(ドナー)への低体温療法によって低減することが示唆されており、この方法が機械灌流保存に劣らないことが示されれば、かなりの費用の削減とロジスティクスの合理化につながると考えられている。米国・オレゴン健康科学大学のDarren Malinoski氏らがこの仮説の検証を試みたが、ドナーに対する低体温療法は腎臓の機械灌流保存と比較して、移植腎の機能回復遅延の軽減に関して劣っており、低体温療法と機械灌流保存を併用しても、付加的な防御効果はみられないことが示された。研究の詳細は、NEJM誌2023年2月2日号に掲載された。

米国6施設の適応的無作為化試験

 本研究は、米国の6つの臓器提供施設が参加した実践的な適応的前向き無作為化試験であり、2017年8月~2020年5月の期間に実施された(Arnold Venturesの助成を受けた)。

 脳死腎ドナーが、低体温療法を受ける群(低体温療法群)、体外で腎臓の低温機械灌流保存を行う群(機械灌流保存群)、これら両方を行う群(併用療法群)に無作為に割り付けられた。

 主要アウトカムは、腎移植レシピエントにおける移植腎の機能回復遅延(移植後7日間における透析開始と定義)とされた。また、低体温療法の機械灌流保存に対する非劣性、これらの併用療法のいずれかの単独療法に対する優越性について評価を行った。副次アウトカムは、移植後1年の時点での移植腎生着率などであった。

併用療法群も、機械灌流保存群に比べて劣る

 登録された725例のドナーから1,349個の腎臓が移植された。低体温療法群が359個、機械灌流保存群が511個、併用療法群が479個であった。機械灌流保存群のレシピエント1例が2個の腎臓の移植を受けたため、511個の腎臓が510例に移植された。平均(±SD)冷虚血時間は、機械灌流保存群(19.3±8.3時間)や併用療法群(19.1±8.0時間)よりも、低体温療法群(16.7±8.3時間)で短かった。

 レシピエントにおける移植腎の機能回復遅延は、低体温療法群が109例(30%)、機械灌流保存群が99例(19%)、併用療法群は103例(22%)で発現した。移植腎機能回復遅延の、機械灌流保存群に対する低体温療法群の補正後リスク比は1.72(95%信頼区間[CI]:1.35~2.17)、併用療法群に対する低体温療法群の補正後リスク比は1.57(95%CI:1.26~1.96)、機械灌流保存群に対する併用療法群の補正後リスク比は1.09(95%CI:0.85~1.40)であった。

 移植後1年の時点における移植腎の生着率は3群で同程度だった。1年時の生着不全に関して、機械灌流保存群に対する低体温療法群のハザード比(HR)は0.74(95%CI:0.33~1.66)、併用療法群に対する低体温療法群のHRは0.91(0.40~2.06)、機械灌流保存群に対する併用療法群のHRは0.82(0.40~1.67)であった。

 10件の有害事象が報告され、ドナーの9例で循環不安定が、ドナーの1例で機械灌流の不良による臓器喪失が認められた。

 著者は、「今回の結果は、ドナーが低体温療法を受けている場合でも、機械灌流保存は単純冷却浸漬保存に比べ、機能回復遅延に対する防御効果が高いという追加的エビデンスをもたらす。また、機械灌流保存に割り付けられた腎臓の27%(269/989個)が、移植腎の問題またはロジスティクス上の制約により処置が行われなかったことは注目に値する」としている。

(医学ライター 菅野 守)