1型糖尿病の患者において、同種多能性幹細胞由来の完全分化型膵島細胞療法薬zimislecel(VX-880)は、生理的膵島機能の回復をもたらし、血糖コントロールを改善し、治療関連有害事象やインスリン投与量管理の負担などのインスリン補充療法の短所を解消する可能性があることが、カナダ・トロント大学のTrevor W. Reichman氏らVX-880-101 FORWARD Study Groupが実施した「VX-880-101 FORWARD試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年6月20日号に掲載された。
第I/II相試験の予定外の中間解析結果
VX-880-101 FORWARD試験は、1型糖尿病患者におけるzimislecelの安全性と有効性の評価を目的とする、北米と欧州の施設が参加した進行中の第I/II/III相試験であり、今回は事前に予定されていなかった第I/II相部分の中間解析の結果が報告された(Vertex Pharmaceuticalsの助成を受けた)。
年齢18~65歳の1型糖尿病で、低血糖を自覚しにくく(低血糖の発症を感知する能力が低下している)、過去1年間に少なくとも2回の重症低血糖イベントを経験し、5年以上インスリン依存状態にある患者を対象とした。
パートAでは、zimislecelの半量(0.4×10
9細胞)を門脈へ単回投与し、必要な場合は初回投与から2年以内に残りの半量を単回投与することとした。パートBとパートCでは、zimislecelの全量(0.8×10
9細胞)を単回投与した。全例に、グルココルチコイドを含まない免疫抑制療法を行った。
パートAの主要エンドポイントは安全性であった。パートCの主要エンドポイントは、zimislecel投与後90~365日に重症低血糖イベントの発生がなく、180~365日における複数回の受診時にHbA1c値が7%未満であること、またはHbA1c値がベースラインから1%ポイント以上低下していることとした。
被験薬関連の重篤な有害事象はない
少なくとも12ヵ月の追跡期間を終了した14例(平均糖尿病罹患期間22.8年[範囲:7.8~47.4]、平均総インスリン投与量/日39.3単位[範囲:19.8~52.0])を解析の対象とした。2例がzimislecelの半量投与を受け(パートA)、12例(平均年齢42.7歳、女性4例)は全量投与を受けた(パートB:4例、パートC:8例)。パートAの1例は、初回投与後9ヵ月の時点で2回目の半量投与を受け、その約3ヵ月後に同意を撤回した(有害事象が原因ではない)。
C-ペプチドは、ベースラインでは14例全例が検出不能であったが、zimislecel投与後は全例で検出されたことから、移植細胞の生着と膵島機能の回復が証明された。
有害事象の重症度はほとんどが軽度または中等度であった。頻度の高い有害事象は、下痢(11例[79%])、頭痛(10例[71%])、悪心(9例[64%])、新型コロナウイルス感染症(7例[50%])、口腔内潰瘍形成(7例[50%])、好中球数減少(6例[43%])、皮疹(6例[43%])であった。
試験の中止に至った有害事象は認めなかった。経過観察のために入院期間の延長に至った重篤な有害事象として好中球数減少が3例に発現し、重篤な急性腎障害が2例にみられた。担当医によってzimislecel関連またはその可能性が高いと判定された重篤な有害事象はなかった。
2例が死亡した。1例(パートB)は、手術に伴う頭蓋底損傷に起因する重篤なクリプトコッカス髄膜炎が原因で、担当医により免疫抑制薬関連死と判定された。もう1例(パートA)は、既存の神経認知障害の進行に起因するアジテーションを伴う重度認知症が原因であった。この症例には、試験登録前の交通事故による重度の外傷性脳損傷の既往歴があり、この事故は重症低血糖イベントが原因だった。
全量単回投与の全例でHbA1c値<7%、10例でインスリン非依存
パートB/Cの12例では、重症低血糖イベントは発現せず、365日目の受診時にすべての患者でHbA1c値が7%未満であった。ベースラインから365日目までに、HbA1c値は平均1.81%ポイント低下した。
持続血糖測定器(CGM)を用いて、血糖値が目標範囲(70~180mg/dL)内にある時間の割合を評価したところ、ベースラインで70%を超える患者はなく、平均値は49.5%(範囲:19.0~66.2)であった。これに対し、150日目には全例が70%以上を達成し、その後の追跡期間を通じて全例でこの良好な血糖コントロールの状態が持続した。365日時の血糖値が目標範囲内にある時間の割合の平均値は93.3%(範囲:79.5~96.9)だった。
外因性インスリンの使用は、追跡期間中に12例全例で減量または中止されていた。ベースラインから365日目までに、インスリン使用量の平均値は92%低下した。150日目までに10例(83%)がインスリン非依存を達成し、この10例は365日の時点で外因性インスリンを使用していなかった。
著者は、「この結果は、多様な患者集団を対象とする、より大規模で長期にわたる試験においてzimislecelのさらなる検討を進めることを支持する」「これらの知見は、多能性幹細胞から膵島を作製し、1型糖尿病の治療に使用することは実質的に可能であるとのエビデンスを提供するものである」としている。
(医学ライター 菅野 守)