植物由来VLPワクチン、インフル予防に有効な可能性/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2020/10/26

 

 開発中の植物由来4価ウイルス様粒子(QVLP)インフルエンザワクチンは、インフルエンザウイルスに起因する呼吸器疾患およびインフルエンザ様疾患を、実質的に予防する可能性があり忍容性も良好であることが、カナダ・MedicagoのBrian J. Ward氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年10月13日号に掲載された。季節性インフルエンザは、予防策として孵化鶏卵由来のワクチンなどが使用されているが、依然として公衆衛生上の大きな脅威となっている。植物をベースとするワクチン製造法は、生産性の向上や製造過程の迅速化など、現在のワクチンの限界のいくつかを解決する可能性があるという。

18~64歳と、65歳以上が対象の2つの無作為化試験

 研究グループは、植物から製造された遺伝子組み換えQVLPインフルエンザワクチンに関して、2017~2018年(18-64試験)と2018~2019年(65-plus試験)のインフルエンザ流行期に、北半球においてこれら2つの多施設共同無作為化臨床試験を行った(Medicagoの助成による)。

 18-64試験には、アジア、欧州、北米の73施設が、65-plus試験には同地域の104施設が参加した。18-64試験は、スクリーニング時にBMI<40、年齢18~64歳で、健康状態が良好な集団を、65-plus試験は、スクリーニング時にBMI≦35、年齢65歳以上で、リハビリテーション施設や介護施設に入居しておらず、急性期または進行中の医学的な問題のない集団を対象とした。

 18-64試験の参加者は、QVLPワクチン(ウイルス株当たり30μgのヘマグルチニン)またはプラセボを接種する群に、65-plus試験の参加者は、QVLPワクチン(ウイルス株当たり30μgのヘマグルチニン)または4価不活化ワクチン(QIV、ウイルス株当たり15μgのヘマグルチニン)を接種する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。

 主要アウトカムは、18-64試験では、抗原性でマッチさせたインフルエンザウイルス株に起因する呼吸器疾患(検査で確定)の予防におけるワクチンの絶対効果(absolute vaccine efficacy)とし、達成率70%以上(95%信頼区間[CI]下限値が40%超)を目標とした。65-plus試験の主要アウトカムは、インフルエンザウイルス株に起因するインフルエンザ様疾患(検査で確定)の予防におけるワクチンの相対効果(relative vaccine efficacy)とし、非劣性(95%CI下限値が-20%超)の検証を行った。主解析はper-protocol集団で行い、安全性は治療を受けたすべての参加者で評価した。

潜在的な利点がどの程度実現されるかは、承認後の研究で

 18-64試験では、2017年8月30日~2018年1月15日の期間に1万160例が、QVLP群(5,077例)またはプラセボ群(5,083例)に割り付けられた。実際に治療を受けた1万136例の平均年齢は44.6(SD 13.7)歳であった。per-protocol集団は、QVLP群が4,814例、プラセボ群は4,812例だった。

 抗原性でマッチさせたウイルス株に起因する呼吸器疾患の予防におけるQVLPワクチンの絶対効果は35.1%(95%CI:17.9~48.7)であり、70%以上という目標は達成されなかった。事後解析では、インフルエンザウイルスの感染力は19週間持続したが、QVLPワクチンの有効性は最長180日間持続しており、3つの期間(14~60日、61~120日、121~180日)で効果の差は認められなかった。

 重篤な有害事象は、QVLP群が5,064例中55例(1.1%)で、プラセボ群は5,072例中51例(1.0%)で認められた。また、試験治療下で発現した重度の治療関連有害事象は、それぞれ4例(0.1%)および6例(0.1%)でみられた。

 一方、65-plus試験では、2018年9月18日~2019年2月22日の期間に1万2,794例が、QVLP群(6,396例)またはQIV群(6,398例)に割り付けられた。実際に治療を受けた1万2,738例の平均年齢は72.2(SD 5.7)歳であった。per-protocol集団は、QVLP群が5,996例、QIV群は6,026例だった。

 すべてのウイルス株に起因するインフルエンザ様疾患の予防におけるQVLPワクチンの相対効果は8.8%(95%CI:-16.7~28.7)であり、主要非劣性エンドポイントを満たした。75歳以上では、全体と比較して、相対効果が良好な傾向がみられ、インフルエンザ様疾患で38.3%(-5.2~63.9、p=0.102)、呼吸器疾患は33.4%(-3.3~57.1、p=0.241)であった。

 重篤な有害事象は、QVLP群が6,352例中263例(4.1%)で、QIV群は6,366例中266例(4.2%)でみられた。このうち治療関連と判定されたのはそれぞれ1例(<0.1%)および2例(<0.1%)であった。試験治療下で発現した重度の治療関連有害事象は、1例(<0.1%)および3例(<0.1%)であった。

 著者は、「これら2つの効果に関する重要な試験のデータは有望であるが、植物由来のウイルス様粒子ワクチンの潜在的な利点がどの程度実現されるかは、ヒトでの使用が承認された後に、何度かの流行期を経て広く使用されて初めて明らかになるだろう」としている。

(医学ライター 菅野 守)

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