急性上部消化管出血の内視鏡検査、最適な施行時期とは/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2020/04/14

 

 急性上部消化管出血を発症し、再出血または死亡のリスクが高い患者では、消化器科コンサルテーション後6時間以内の内視鏡検査は、6~24時間の検査と比較して、30日死亡率を抑制しないことが、中国・香港中文大学のJames Y.W. Lau氏らの検討で示された。研究の詳細は、NEJM誌2020年4月2日号に掲載された。International Consensus Groupのガイドラインでは、急性上部消化管出血患者には、受診後24時間以内に内視鏡検査を行うよう推奨されている。一方、24時間より短い時間枠内に施行される内視鏡検査の役割は、十分に明らかではないという。

緊急と早期施行で、30日死亡率を比較する無作為化試験

 研究グループは、再出血や死亡のリスクが高いと予測される急性上部消化管出血患者では、コンサルテーション後6時間以内の内視鏡検査は、6~24時間の検査に比べ、再出血を未然に防ぎ、転帰を改善するとの仮説を立て、これを検証する目的で無作為化試験を実施した(香港特別行政区食品衛生局保健医療基金の助成による)。

 対象は、上部消化管の急性の顕性出血(吐血、下血、これら双方)が認められ、Glasgow-Blatchfordスコア(0~23点、点数が高いほど、再出血または死亡のリスクが高い)が12点以上の患者であった。

 被験者は、消化器科コンサルテーション後6時間以内に内視鏡検査を受ける群(緊急内視鏡群)、または6~24時間に検査を受ける群(早期内視鏡群)に無作為に割り付けられた。

 主要エンドポイントは、無作為化から30日以内の全死因死亡とした。

30日死亡と再出血の双方が、緊急施行で多い傾向

 2012年7月~2018年10月の期間に516例が登録され、緊急内視鏡群に258例(平均年齢69.6±16.0歳、男性60.9%)、早期内視鏡群にも258例(71.4±14.9歳、65.1%)が割り付けられた。消化性潰瘍が出血源の患者は、緊急内視鏡群61.2%(158例)、早期内視鏡群61.6%(159例)で、食道胃静脈瘤が出血源の患者はそれぞれ9.7%(25例)および7.3%(19例)であった。

 救急診療部受診から消化器科コンサルテーションまでの平均時間は、緊急内視鏡群7.4±6.2時間、早期内視鏡群8.0±7.1時間であり、コンサルテーションから内視鏡検査施行までの平均時間は、それぞれ2.5±1.7時間および16.8±6.8時間であった。したがって、受診から内視鏡検査施行までの平均時間は、緊急内視鏡群9.9±6.1時間、早期内視鏡群24.7±9.0時間となった。

 30日死亡率は、緊急内視鏡群8.9%(23/258例)、早期内視鏡群6.6%(17/258例)であり、両群間に有意な差は認められなかった(ハザード比[HR]:1.35[95%信頼区間[CI]:0.72~2.54]、p=0.34、群間差2.3ポイント[95%CI:-2.3~6.9])。

 30日以内の再出血率は、緊急内視鏡群10.9%(28例)、早期内視鏡群7.8%(20例)であり、有意差はなかった(HR:1.46[95%CI:0.83~2.58]、群間差:3.1ポイント[95%CI:-1.9~8.1])。

 消化性潰瘍患者では、活動性出血または露出血管を伴う潰瘍は、緊急内視鏡群の66.4%(105/158例)と早期内視鏡群の47.8%(76/159例)で認められた。また、内視鏡的止血術は、緊急内視鏡群の60.1%(155例)と早期内視鏡群の48.4%(125例)で行われた。

 著者は、「緊急内視鏡群では、活動性出血や大きな出血斑を伴う潰瘍が多かったため、内視鏡治療の頻度が高かったが、これは再出血や死亡の抑制には結び付かなかった。一方、早期内視鏡群は1晩の酸分泌抑制薬治療を受けており、内視鏡検査までの期間が長く投薬期間が長いほど、活動性出血や大きな出血斑を伴う潰瘍が少なかった。内視鏡検査前の酸分泌抑制薬治療は、内視鏡治療を必要とする患者を減少させる可能性がある」としている。

(医学ライター 菅野 守)

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コメンテーター : 上村 直実( うえむら なおみ ) 氏

国立国際医療研究センター国府台病院 名誉院長

東京医科大学 消化器内視鏡学講座 兼任教授

J-CLEAR評議員