術前の呼吸理学療法教育で肺合併症が半減/BMJ

提供元:ケアネット

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公開日:2018/02/07

 

 待機的上腹部手術患者では、術直後の呼吸訓練に関する理学療法の講習を術前に受けることで、院内肺炎を含む術後の呼吸器合併症がほぼ半減することが、オーストラリア・メルボルン大学のIanthe Boden氏らの検討(LIPPSMAck-POP試験)で示された。研究の成果は、BMJ誌2018年1月24日号に掲載された。呼吸器合併症は、上腹部手術後の最も重篤かつ不良な転帰であり、死亡率や医療費も増加させる。これらの合併症は、術前の理学療法教育や呼吸訓練の指示のみで予防可能なことを示唆する試験がいくつかあるが、このエビデンスには、方法論上の欠点や一般化可能性が乏しいといった限界があるとされていた。

術前の呼吸理学療法教育の有用性を、プラセボ対照無作為化試験で評価
 研究グループは、術前に行う単回の理学療法講習による、上腹部手術後の肺合併症の低減効果を評価するプラグマティックな多施設共同プラセボ対照無作為化試験を実施した(タスマニア大学などの助成による)。

 対象は、6週間以内に待機的上腹部開腹手術を受ける18歳以上の患者であった。被験者は、情報冊子を配布される群(対照群)、または、情報冊子に加え術前に30分間の理学療法教育と呼吸訓練講習を受ける群(介入群)にランダムに割り付けられ、12ヵ月のフォローアップが行われた。

 理学療法教育は、術後肺合併症とその予防に重点が置かれた。予防は、早期離床ケアおよび術後の意識回復直後から開始する自己管理型呼吸訓練として行われた。術後は、全例に標準化された早期離床ケアが施行され、新たな呼吸理学療法は行われなかった。

 主要評価項目は、Melbourne group scoreで評価した術後在院14日以内の術後肺合併症の発現とした。副次評価項目は、院内肺炎、在院日数、集中治療室の使用などであった。

術後肺合併症の補正HRは0.48、NNTは7
 2013年6月~2015年8月にオーストラリアおよびニュージーランドで、3つの3次機能病院にある多職種連携の入院前診療施設において441例が登録され、介入群に222例、対照群に219例が割り付けられた。432例(介入群:218例、対照群:214例)が試験を完遂した。

 ベースラインの年齢中央値は、介入群が63.4歳(IQR:51.5~71.9)、対照群は67.5歳(IQR:56.3~75.3)であり、男性の割合は両群とも61%であった。手術部位は、大腸が介入群50%、対照群47%、肝胆道/上部消化管がそれぞれ22%、28%、腎/泌尿器/その他は28%、24%であった。

 432例中85例(20%)が術後肺合併症と診断された。術後在院14日以内の術後肺合併症の発症率は、介入群が12%(27/218例)と、対照群の27%(58/214例)に比べ有意に低かった(補正前の絶対リスク低減率:15%、95%信頼区間[CI]:7~22%、p<0.001)。ベースラインの年齢、呼吸器併存疾患、手術手技で補正後のハザード比(HR)は0.48(95%CI:0.30~0.75、p=0.001)であり、介入群の術後肺合併症のリスクは対照群に比べほぼ半減した。1件の術後肺合併症を回避するための治療必要数(NNT)は7(95%CI:5~14)だった。

 また、院内肺炎の発症率は、介入群が対照群に比べ半減した(8% vs.20%、補正後HR:0.45、95%CI:0.26~0.78、p=0.005)。在院日数や集中治療室在室日数のほか、6週時の再入院、術後の離床までの期間、患者報告による6週時の合併症(創感染、疲労、悪心・嘔吐・消化器症状)などには、両群間に差を認めなかった。

 著者は、「これらの結果は、待機的上腹部手術を受ける世界中の多くの患者にそのまま適用可能である」としている。

(医学ライター 菅野 守)