冠動脈疾患(CAD)のリスク因子のみ有する患者、心筋梗塞(MI)既往の患者、あるいはMI非既往・CAD既往の患者いずれにおいても、βブロッカーの投与は、心血管複合イベント(心血管死亡・非致死性MI・非致死性脳卒中)の有意な抑制を認めなかった。米国・ニューヨーク医科大学のSripal Bangalore氏らによる観察研究の結果で、これまで上記のような患者に対するベネフィットは明らかではなかった。JAMA誌2012年10月3日号の掲載報告より。
3つのコホート対象に追跡期間中央値44ヵ月間の観察研究
研究グループは、Reduction of Atherothrombosis for Continued Health(REACH)レジストリの患者を3つのコホートに分けて長期観察研究を行った。それぞれ、MI既往コホート(1万4,043例)、CAD既往だがMI非既往コホート(1万2,012例)、CADリスク因子のみを有するコホート(1万8,653例)だった。
主要解析は傾向スコアマッチングを用いて行い、最終フォローアップデータが収集されたのは2009年4月だった。
主要アウトカムは、心血管死亡・非致死性MI・非致死性脳卒中の複合イベントで、副次アウトカムは、主要アウトカム+アテローム血栓性イベントまたは血管再生処置のための入院だった。
患者合計4万4,708例のうち、2万1,860例が傾向スコアマッチング分析に組み込まれた。追跡期間中央値は44ヵ月(四分位範囲:35~45ヵ月)だった。
標準治療とされるMI後コホートも、心血管複合イベントの有意な抑制認められず
結果、βブロッカーはMI後の治療の標準とされるが、検討したMI既往コホートでは、βブロッカー使用群と非使用群の有意差(検討した全アウトカムについて)は認められなかった[使用群489例(16.93%)対非使用群532例(18.60%)、ハザード比(HR):0.90、95%信頼区間(CI):0.79~1.03、p=0.14]。
CAD既往・MI非既往コホートでは、主要アウトカムのイベント発生は、βブロッカー使用群391例(12.94%)、非使用群405例(13.55%)で有意差は認められなかった(HR:0.92、95%CI;0.79~1.08、p=0.31)。副次アウトカムの発生は、使用群のほうがより高率だった[1,101例(30.59%)対1,002例(27.84%)、OR:1.14、95%CI:1.03~1.27、p=0.01]。入院となった重症アウトカムの発生も使用群が高率だった[870例(24.17%)対773例(21.48%)、OR:1.17、95%CI:1.04~1.30、p=0.01]。
CADリスク因子のみコホートでは、主要アウトカムのイベント発生は、βブロッカー使用群で高率だった[467例(14.22%)対403例(12.11%)、HR:1.18、95%CI:1.02~1.36、p=0.02]。副次的アウトカムについても使用群で高率だった[870例(22.01%)対797例(20.17%)、OR:1.12、95%CI:1.00~1.24、p=0.04]。MIの重症転帰[89例(2.82%)対68例(2.00%)、HR:1.36、95%CI:0.97~1.90、p=0.08]、脳卒中[210例(6.55%)対168例(5.12%)、HR:1.22、95%CI:0.99~1.52、p=0.06]についてはイベント発生が低率だった。また、MI既往が≦1年の人では、βブロッカー使用群の副次アウトカムの発生が低かった(OR:0.77、95%CI:0.64~0.92)。
(朝田哲明:医療ライター)