性的禁欲だけで、高所得層のHIV感染を予防できるか

提供元:ケアネット

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公開日:2007/08/17

 

2005年にはAIDS関連の原因により毎日7,600人以上が死亡し、世界のHIV感染者数は約3,860万人に達している。新規感染率は1990年代末にピークを迎えたとの見方がある一方で、新たな感染拡大が懸念されるなか、これまでの治療偏重への反省から、最近では予防に関する研究が活発化している。

 「性的禁欲のみによる予防プログラム」とは、HIV感染予防の手段として性的禁欲教育のみを実施し、コンドームの使用など、より安全な性交の奨励は行わない予防戦略。Kristen Underhill氏ら、オックスフォード大学Evidence-based Interventionセンターの研究グループは、高所得層は貧困などHIV感染の構造的なリスク因子に接する機会が少ないため、性的禁欲のみによる予防プログラムの効果を示すには最適の対象との仮説に基づいて体系的なレビューを行った。BMJ誌7月26日付オンライン版、8月4日付本誌掲載の報告から。

HIV感染予防プログラムの無作為化/準無作為化試験をレビュー


30のデータベースから、2007月2月までの文献を言語および地理的な制限なしに検索した。選択基準は、高所得国における性的禁欲のみによる予防プログラムに関する無作為化あるいは準無作為化対照比較試験とした。

また、プログラムの目的はHIV感染予防あるいは妊娠とHIV感染の予防であり、生物学的アウトカム(HIV、性感染症、妊娠)あるいは行動学的アウトカム(避妊手段をとらない性交の頻度など)の評価を行う試験を対象とした。

対照としての通常ケアには、「介入なし」「コンドームを使用したより安全な性交の奨励」「より安全な性交と初回性交時期の先送りの奨励」などが含まれた。

禁欲の奨励だけではHIV感染予防には無効だが、アメリカの若者に限定的


年齢制限を設けずに世界中の既報、未報の文献を渉猟したにもかかわらず、選択基準を満たした13試験はいずれもアメリカの青少年および若年成人を対象としたものであった。1万5,940人が登録され、すべての評価項目は自己申告によった。

予防プログラムは、避妊手段をとらない性交、パートナー数、コンドームの使用、初回性交年齢には影響を及ぼさなかった。予防プログラムにより短期的および長期的な有害作用(性感染症の増加など)が見られた試験、および短期的に性交頻度が低下した試験が1つずつ認められたが、いずれの影響も全体としては相殺された。

Underhill氏は、「高所得層においては、性的禁欲のみによる予防プログラムはHIV感染リスクを低下も上昇もさせない」と結論し、「本研究から得られるエビデンスは、『HIV感染の予防を目的とした性的禁欲のみによる予防プログラムは無効だが、この知見を一般化できるのはアメリカの若者に限定される』というものだ」と指摘している。

(菅野 守:医学ライター)