ワクチン接種者でCOVID-19が重症化しにくいのはなぜか

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/08/28

 

 周知のように、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン(以下、新型コロナワクチン)を接種することで、感染リスクがなくなるわけではないが感染後の重症化リスクは低下する。しかし、それはなぜなのか。その理由の解明につながる研究結果を、米コロラド大学コロラド公衆衛生大学院のAlison Abraham氏らが、「The Lancet Microbe」に8月7日発表した。この研究によると、COVID-19罹患者のうち、ワクチン接種を受けていた人では未接種の人に比べて、炎症マーカーの値が低かったことが示されたという。

 サイトカインとケモカインは、感染症やワクチン接種に対する応答において重要な役割を果たしている。サイトカインは主に免疫細胞から分泌されるタンパク質で、細胞間の情報伝達を行う。一方、ケモカインはサイトカインの一種で、細胞遊走を活性化する働きを持つ。Abraham氏らは、2020年6月29日から2021年9月30日の間に新型コロナウイルスに感染した882人(女性57%)の血液サンプルを用いて、新型コロナワクチン接種と、21種類のサイトカインおよびケモカインの濃度とその経時的な変化との関連性を検討した。対象者は、回復期患者血漿療法のCOVID-19重症化に対する効果を検討する目的で実施された試験への参加者で、78%(688人)が新型コロナワクチン未接種、6%(55人)は一部(1回)接種済み、139人(16%)は接種完了者だった。

 対象者の年齢や性別、BMI、基礎疾患などで調整して解析した結果、感染後1〜8日(スクリーニング時)では、ワクチン接種完了者では未接種者に比べて、IL(インターロイキン)-2RA、IL-7、IL-8、IL-15、IL-29、INF(インターフェロン)-γ誘導性サイトカイン(IP-10)、MCP(単球走化性促進因子)-1、TNF(腫瘍壊死因子)-αの濃度の幾何平均が有意に低いことが明らかになった。また、回復期患者血漿療法後90日目では、ワクチン接種完了者では未接種者よりも、IL-7、IL-8、VEGF(血管内皮増殖因子)-Aの濃度の幾何平均がそれぞれ、26%、20%、17%低かった。これに対して、ワクチンの一部接種者では未接種者に比べて、スクリーニング時にIP-10とMCP-1の濃度の幾何平均が有意に低かったが、回復期患者血漿療法後90日目になると、いずれのサイトカイン・ケモカイン濃度の幾何平均についても、未接種者との間に有意差は認められなかった。

 研究グループは、「これらの結果は、新型コロナワクチンが、COVID-19重症化の引き金となる炎症反応を短期的にも長期的にも減少させる効果を持つことを示唆している」と述べている。その上で、「この知見は、ワクチンを接種した人でCOVID-19の重症化リスクや死亡リスクが低下し、後遺症の発症率も低下する理由の少なくとも一部を説明するものだ」と付け加えている。

 今回の研究には関与していない、米ジョンズ・ホプキンス健康安全保障センターのAmesh Adalja氏は、「オミクロン株が蔓延していた頃のワクチン接種の主な目的は、感染症予防よりも重症化予防だった。今回の研究結果は、重症化予防のメカニズムの一端を解明するものだ」と指摘している。

 研究グループは、今回の研究で得られた知見により、COVID-19のより良い治療法を探る研究に弾みがつく可能性があるとの見方を示している。論文の上席著者である、米ジョンズ・ホプキンス大学医学部病理学・内科学・疫学分野のAaron Tobian氏は、「新型コロナワクチンが、この疾患の悪化や長期的影響、死亡を予防するメカニズムの解明は、体の過剰な炎症反応を抑えるための方法の開発につながり、それが患者に対するより良い治療に役立つ」と述べている。

[2023年8月8日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら