高強度かつ長時間の運動負荷が右室機能に及ぼす影響、運動誘発性の心筋トロポニンT(TnT)値の上昇と将来的な右室機能障害との関連は明らかになっていない。そこで、スイス・チューリッヒ大学のMichael Johannes Schindler氏らの研究グループは、市民マラソンランナーを対象とした10年間の縦断的コホート研究(Pro-MagIC研究)を実施した。その結果、フルマラソン直後には一過性の右室機能低下とTnT値の上昇が認められたものの、これらは数日で回復し、10年後の右室機能低下とは関連しないことが示された。本研究結果は、JAMA Cardiology誌オンライン版2025年12月10日号で報告された。
本研究は、2009年のミュンヘンマラソンに参加した男性市民ランナーを対象とした「Be-MaGIC研究」の参加者277人のうち、10年後に再評価が可能であった152人を対象とした。評価は、2009年のレース前(ベースライン)、レース直後、レース1日後、3日後、および10年後の計5時点で行った。主要評価項目は、2009年のマラソン直後のTnT値のベースラインからの変化と10年後の右室駆出率(RVEF)のベースラインからの変化との関連とした。左室駆出率(LVEF)、拡張能指標(E/e'など)、バイオマーカー(TnT、NT-proBNP)なども評価した。
主な結果は以下のとおり。
・ベースライン時における対象の平均年齢は43歳であった。2009年のミュンヘンマラソン参加前のフルマラソン完走数中央値は3回(四分位範囲:1~7)、参加後のフルマラソン完走数中央値は5回(同:2~9)であった。
・RVEFは、レース前(中央値:52.4%)と比較して、レース直後(同:47.6%)およびレース1日後(同:50.7%)で有意に低かった(それぞれp<0.001、p=0.001)。しかし、レース3日後には有意差はみられなくなった(同:51.3%、p=0.18)。
・10年後におけるRVEF中央値は51.9%であり、レース前と比較して有意な変化は認められなかった(p=0.15)。
・LVEFは、レース前(中央値:59.6%)と比較して、10年後(同:57.6%)でわずかに低かった(p<0.001)。
・左室充満圧の指標である側壁E/e'は、レース前(中央値:5.1)と比較して10年後(同:5.4)で高かった(p<0.001)。
・TnT値は、レース前(中央値:3ng/L)と比較して、レース直後(同:33.7ng/L)およびレース1日後(同:9ng/L)で有意に高かった(それぞれp<0.001、p=0.001)。しかし、レース3日後(同:3.5ng/L)、10年後(同:7.0ng/L)には有意差はみられなかった。
・2009年のマラソン直後に認められた運動誘発性のTnT値のベースラインからの変化と、10年後のRVEFおよびLVEFのベースラインからの変化との間に有意な関連は認められなかった(RVEF:r=-0.10、p=0.35、LVEF:r=-0.09、p=0.35)。
著者らは、「マラソンによるTnT値の上昇や右室機能低下は一過性の変化であり、大多数の市民ランナーにおいて、右室機能の長期的な悪化をもたらすことはないことが示唆された。LVEFや拡張能指標に統計学的に有意な変化がみられたが、正常範囲内にとどまるものであった」と結論付けている。
(ケアネット 佐藤 亮)