日本人は頻繁に入浴する習慣があるため、とくに高齢者では世界で最も溺死率が高い。入浴関連死の予防は公衆衛生上の喫緊の課題となっている。奈良県立医科大学の田井 義彬氏らは、1995~2020年の日本全国の入浴関連溺死約11万例について調査した。その結果、屋外の低気温が入浴関連死のリスクを高めるだけでなく、そのリスクが温暖な鹿児島県でとくに顕著であることが示された。本研究は、Environmental Health and Preventive Medicine誌2025年号に掲載された。
本研究では、日本の1995~2020年における浴槽内での偶発的な溺死および溺水に関する死亡診断書データ(ICD-10コードW65)を収集し、気象庁の気温データと照合した。日平均気温と入浴関連死リスクの関連性を調べるために、一般化加法混合モデル(GAMM)を用いて解析した。気温の変化に伴うリスクの変動を捉えるため、リスクが最も高い日と最も低い日の比率をピーク相対リスク(RR)と定義し、これを算出した。
主な結果は以下のとおり。
・全国で11万938例の入浴関連死が確認された。90.0%が住居、6.2%が商業・サービス施設であった。
・入浴関連死のリスクは、日平均気温が1.8℃で最も高くなった。日平均気温30.3℃の最低リスク時と比較して、RRは9.7(95%信頼区間[CI]:9.5~9.9)であった。
・とくに男性や65歳以上の高齢者で、死亡リスクが高い傾向が認められた。日平均気温が極端な低温時や高温時よりも、中間の気温範囲でリスクが高くなることが認められた。
・都道府県別にみると、鹿児島県で最もリスクが高く、ピークRRは19.6(95%CI:16.2~23.6)であった。一方、北海道が最低で、ピークRRは3.8(95%CI:3.4~4.3)であった。九州や四国など、冬場に温暖な地域のほうが、北海道や東北、北陸などの寒い地域よりも、概してリスクが高かった。この理由として、温暖な地域の住宅は断熱性が低く、冬場の屋内気温が低いことが原因である可能性が指摘された。
・都道府県別では、住宅断熱性の指標である複層ガラス窓の普及率が高いほど、ピークRRの低下と有意に関連していた。また、単身世帯の高齢者の割合が高いことも、高リスクと関連していた。
本研究により、入浴関連死には、気温だけでなく、地域ごとの住宅環境や社会的要因が関連していることが示された。著者らは、温暖な地域に住む高リスク者が寒さのリスクを軽視しがちであることから、予防の意識を高めることや、住宅の断熱性など冬季の居住環境の見直しを促すことが予防につながる可能性を示唆している。
(ケアネット 古賀 公子)