これまでの研究では、身体活動とアルツハイマー病リスクとの逆相関関係が示唆されている。多くの研究において身体活動の健康効果が報告されているが、高齢期における身体活動の具体的な効果は依然として不明であり、高齢者では激しい身体活動が困難な場合も少なくない。さらに、身体活動の評価方法には、実施時期やその種類など、ばらつきも大きい。米国・Touro UniversityのAmy Sakazaki氏らは、高齢期における身体活動の効果および高齢者にとっての最低限の身体活動レベルを明らかにするため、既存の文献を評価するシステマティックレビューを実施した。Journal of Osteopathic Medicine誌オンライン版2025年7月16日号の報告。
PRISMAプロトコールに従ってMEDLINE、CINAHLデータベースを用いてシステマティックレビューを実施した。最終評価は2023年7月。対象研究は、英語のプロスペクティブコホート研究または介入研究で、ベースライン時に認知症、アルツハイマー病または認知機能低下を呈していないコホートを対象に身体活動を測定した研究とした。レトロスペクティブコホート研究、横断研究、ケースレポートおよび包括基準を満たさない研究は除外した。バイアスリスクは、ROBINS-Eツールを用いて、7つのバイアス領域で評価した。
主な結果は以下のとおり。
・スクリーニングした2,322件の研究のうち17件が包括基準を満たした。これには、前回のシステマティックレビューに含まれていなかった6件の研究が新たに含まれた。
・北米(米国、カナダ)、欧州(デンマーク、フィンランド、イタリア、スウェーデン、英国)より20万6,463人の参加者が対象となった。
・本研究では、スクリーニング中の重複研究を効果的に削減することができ、前回レビューでは3,580件だったのに対し、92件の重複であった。
・エビデンスの質についてのバイアスリスク評価は、低リスクが13件、やや懸念ありが4件であった。
・中年期の身体活動を評価した研究は4件(平均年齢:49歳、平均フォローアップ期間:29.2年)、高齢期の身体活動を評価した研究は11件(平均年齢:75.9歳、平均フォローアップ期間:5.9年)、成人期の身体活動を詳細に規定せず評価した研究は2件。
・統計学的に有意な結果が得られた研究の件数は、中年期の研究で4件中2件(50%)、高齢期の研究で11件中8件(75%)、時期を特定していない研究で2件中2件(100%)であった(各々、p<0.05)。
・高齢期におけるアルツハイマー病の予防には、最低でも週3回以上、1回15分以上の身体活動が必要であることが示唆された。
・潜在的な生物学的メカニズムについても議論された。
著者らは「本結果は、身体活動がアルツハイマー病発症リスクを有意に予防することを示す既存のエビデンスを裏付けるものであり、高齢期における身体活動の必要量は、現行ガイドラインの推奨よりも少ない可能性が示唆された。家庭内活動を含め、検証されたあらゆる身体活動がアルツハイマー病の発症予防につながる可能性があり、より多様な身体活動が高齢期に適している可能性がある。とくに職業、家庭/交通、年齢層別の身体活動のメリットおよび最適な身体活動の閾値を明らかにするために、より標準化された詳細な研究が求められる」としている。
(鷹野 敦夫)