カピバセルチブ使用時の高血糖・糖尿病ケトアシドーシス発現についての注意喚起/日本糖尿病学会

提供元:ケアネット

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公開日:2025/04/18

 

 「内分泌療法後に増悪したPIK3CAAKT1またはPTEN遺伝子変異を有するホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がん」を適応症として2024年5月に発売された経口AKT阻害薬カピバセルチブについて、日本糖尿病学会では2025年4月15日、高血糖・糖尿病ケトアシドーシス(DKA)発現についての注意喚起1)を発出した。以下に抜粋するとともに、これを受けて同日発表された日本乳癌学会からの見解2)についても紹介する。

 インスリンシグナル伝達のマスターレギュレーターであるAKTを阻害するカピバセルチブにより、インスリン抵抗性が誘導され高血糖を発現するリスクが想定される。実際に臨床試験(CAPItello-291試験)3)では有害事象として16.9%に高血糖を認めており、わが国における市販直後調査(2024月5月22日~2024年11月21日)でも高血糖関連事象が33例報告され、そのうち1例がDKAにより死亡している(推定使用患者数約350例)。

 臨床成績を踏まえ、適正使用ガイド4)においては、投与開始後1ヵ月間は2週間ごと、その後も1ヵ月ごとの空腹時血糖値の測定、3ヵ月ごとのHbA1cの測定が推奨されていた。しかしながらとくに注意すべき点として、投与開始1日目から高血糖の発現の可能性があること(高血糖発現の中央値:15日、範囲:1~367日)、一部の症例でDKAを発症すること、また、国内市販後ではもともと非糖尿病者であったにもかかわらず、カピバセルチブ投与を開始後、DKAを発症し、大量のインスリン(100単位/時間)投与によっても血糖マネジメントが不十分で死亡に至った症例が報告されていることが挙げられる。

 CAPItello-291試験では、1型糖尿病またはインスリンの投与を必要とする2型糖尿病患者およびHbA1c 8.0%以上の患者は除外されていたことから、インスリン分泌が高度に低下した症例へのカピバセルチブ投与の際には、投与初日からのより綿密な血糖値などのモニタリング、食欲不振などの消化器症状を含めた問診および診察、ならびに原疾患治療にあたる医師と糖尿病を専門とする医師(不在の場合は担当内科医)の適切な連携が重要であると思われる。急激な血糖値上昇のリスクや大量のインスリン投与を要する可能性も想定し、診療にあたっていただきたい。

 日本糖尿病学会からの注意喚起発出を受け、日本乳癌学会からも補足事項として見解が発表された。補足事項では、上記下線部分の症例に加え、同様にDKAを発症した症例がもう1症例あるとし、これらの症例はそれぞれ再発病変に対する10次治療、8次治療としてカピバセルチブが投与されているとした。乳がん診療医においては、CAPItello-291試験の適応基準(主に2次治療から3次治療での使用)に沿った治療を行うよう注意喚起するとともに、以下の見解を示している。

・CAPItello-291試験の適応基準を守った場合でも高血糖やDKAが発生する可能性はあり、注意深い経過観察が必要であることには変わりないが、その場合の検査スケジュールは推奨されているものでよいと思われる。
・やむを得ずCAPItello-291試験の適応基準外の投与となった場合には、検査や診察を含め厳重な経過観察が必要。
・また、高血糖に関してGrade2以上の有害事象が発生した場合は、関係各科と緊密に連絡をとりながら厳重な経過観察が必要。

(ケアネット 遊佐 なつみ)