新型コロナBA.2.86「ピロラ」、きわめて高い免疫回避能/東大医科研

2023年9月時点、新型コロナウイルスの変異株は、オミクロン株XBB系統のEG.5.1が世界的に優勢となっている。それと並行して、XBB系統とは異なり、BA.2の子孫株のBA.2.86(通称:ピロラ)が8月中旬に世界の複数の地域で検出され、9月下旬時点で、主に南アフリカにおいて拡大し、英国やヨーロッパでも広がりつつある。BA.2.86は、BA.2と比較して、スパイクタンパク質に30ヵ所以上の変異が認められる。世界保健機構(WHO)は、BA.2.86を「監視下の変異株(VUM)」に指定した。東京大学医科学研究所の佐藤 佳氏らの研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan(G2P-Japan)」は、BA.2.86の流行拡大のリスク、ワクチンやモノクローナル抗体薬の効果を検証し、その結果がThe Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2023年9月18日号に掲載された。
本研究では、デンマークにおける2023年9月4日までのウイルスゲノム疫学調査情報が用いられた。同国ではEG.5.1を含む複数のXBB亜型が共存し、BA.2.86も複数検出されている。本疫学データを基に、ヒト集団内におけるBA.2.86の実効再生産数を推定した。実効再生産数は、特定の状況下において、1人の感染者が生み出す2次感染者数の平均で、本研究では変異株間の流行拡大能力の比較の指標として用いた。
未感染のワクチン接種者におけるウイルスの中和抗体回避能を評価するために、新型コロナワクチンを接種した人の血清(起源株対応1価ワクチン×3回/起源株対応1価ワクチン×4回/BA.1対応2価ワクチン追加接種/BA.4-5対応2価ワクチン追加接種)を用いて中和アッセイを行った。同じく、ブレークスルー感染者におけるウイルスの中和抗体回避能を評価するために、ワクチンを2回接種し2週間以上経過してXBBに感染した人の血清(XBBブレークスルー感染血清)を用いた。また、4種のモノクローナル抗体薬(ベブテロビマブ、ソトロビマブ、シルガビマブ、チキサゲビマブ)の効果を検証した。
主な結果は以下のとおり。
・BA.2.86の有効再生産数は、XBB.1.5よりも1.29倍高かった(95%ベイズ信頼区間[BCI]:1.17~1.47)。なお、利用可能なBA.2.86配列の数が少ないため、この推定にはかなりの不確実性があった。
・BA.2.86の有効再生産数がEG.5.1の有効再生産数を上回る推定事後確率は0.901であり、今後BA.2.86が流行株の1つになる可能性が示された。
・BA.2.86は、起源株、BA.1対応2価、BA.4-5対応2価のいずれのワクチン接種によって誘導される中和抗体に対してもきわめて強い抵抗性を示し、ワクチンの効果はほとんど認められなかった。抵抗性の強さはEG.5.1と同程度だった。
・XBBブレークスルー感染血清を用いた中和アッセイでは、BA.2.86に対する50%中和力価は、EG.5.1に対するものよりも有意に(1.6倍)低かった。
・BA.2.86の祖先株であるBA.2に対して中和活性が認められる4種類の抗体薬(ベブテロビマブ、ソトロビマブ、シルガビマブ、チキサゲビマブ)は、BA.2.86に対していずれも中和活性が認められなかった。
BA.2.86はこれまでの変異株の中で最も中和抗体に対する抵抗性を高めた変異株の1つであることが明らかになった。研究グループは本結果について、今後全世界に拡大していくことが懸念されており、さらに現状の抗体薬による感染防御の有効性も低いことが予想されるため、有効な感染対策を講じることが肝要だと述べている。
(ケアネット 古賀 公子)
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