新型コロナEG.5.1、伝播力と免疫回避能が増強/東大医科研

提供元:ケアネット

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公開日:2023/09/18

 

 現在、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株は、アジアや欧州、北米を中心に、オミクロン株EG.5系統(エリス)の感染が急増し、主流となっている。XBB系統(XBB.1.9.2)の子孫株であるEG.5系統は、世界保健機関(WHO)により、XBB.1.5、XBB.1.16と共に注目すべき変異株(VOI)に分類されている。東京大学医科学研究所の佐藤 佳氏らの研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan(G2P-Japan)」は、EG.5系統のEG.5.1のウイルス学的特徴を解析したところ、XBB.1.5に比べて1.2倍高い伝播力を示し、XBBの中和抗体に対して1.4倍高い抵抗性を示したことを明らかにした。本結果はThe Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2023年9月11日号に掲載された。

 本研究では、オミクロン株EG.5.1のウイルス学的特性を、流行動態、感染性、免疫抵抗性などの観点から検証した。変異株間の流行拡大能力の比較の指標として、実効再生産数を用いた。実効再生産数とは、特定の状況下において1人の感染者が生み出す2次感染者数の平均。また、ウイルスの感染性を評価するために、レンチウイルスベースの疑似ウイルスを製作して用いた。ウイルスの中和抗体回避能を調べるために、新型コロナワクチンを2回接種し2週間以上経過してXBBに感染した人の血清(XBB BTI血清)を用いた。

 主な結果は以下のとおり。

・中国、韓国、米国、日本、シンガポール、カナダのウイルスゲノム疫学調査情報を基に、ヒト集団内におけるオミクロン株の実効再生産数を推定した。その結果、各国のデータで共通して、EG.5.1の実効再生産数は、XBB.1.5に比べて1.2倍程度高かった。
・一方で、ウイルスの培養細胞における感染性を評価したところ、EG.5.1はXBB.1.5/1.9.2より有意に低い感染価を示した。※XBB.1.5とXBB.1.9.2のスパイクタンパク質は同一。
・EG.5.1がXBB系統のブレークスルー感染によって誘導される中和抗体の抗ウイルス効果を回避するかどうかを調べるために、XBB BTI血清を用いて中和アッセイを行った。EG.5.1に対するXBB BTI血清の50%中和力価(NT50)は、親株のXBB.1.5/1.9.2に対するものより有意に(1.4倍)低く、免疫回避しやすいことが示された。
・XBB.1.5/1.9.2、XBB.1.16、XBB.1.5/1.9.2+Q52Hに対するXBB BTI血清のNT50値は同等であった。しかし、XBB.1.5/1.9.2+F456Lに対するNT50値は、親株のXBB.1.5/1.9.2よりも有意に(1.9倍)低かった。このことから、EG.5.1のスパイクタンパク質に存在するF456L変異は免疫回避につながる重要な変異であることが示唆された。

 研究チームは本結果に関するリリースにて、EG.5.1の流行拡大を回避するために有効な感染対策を講じることが肝要だと述べている。

(ケアネット 古賀 公子)